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1. WO2020195490 - 密閉型圧縮機および冷凍サイクル装置

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明 細 書

発明の名称 密閉型圧縮機および冷凍サイクル装置

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004  

発明の開示

0005   0006   0007  

図面の簡単な説明

0008  

発明を実施するための形態

0009   0010   0011   0012   0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065  

産業上の利用可能性

0066  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6  

図面

1   2   3   4   5   6  

明 細 書

発明の名称 : 密閉型圧縮機および冷凍サイクル装置

技術分野

[0001]
 本発明の実施形態は、密閉型圧縮機および冷凍サイクル装置に関する。

背景技術

[0002]
 室内を冷暖房する空気調和機、冷蔵庫、冷凍ショーケース及びヒートポンプ式給湯器等の冷凍サイクル装置には、密閉型圧縮機が組み込まれ、HFC系冷媒もしくはHC系やCO 2等の自然冷媒などの冷媒を循環させる。
[0003]
 密閉型圧縮機は、密閉容器と、当該密閉容器に収納される電動機部及びこの電動機部と回転軸を介して連結された圧縮機構部とを備えている。圧縮機構部には、シリンダが設けられている。シリンダ内には、ローラが配置され、ブレードの先端部がローラの周面に弾性的に当接される。ローラがシャフトを介して電動機部により駆動されて回転すると、ローラとブレードとが摺動する。これらの摺動部材は、互いに摺動されるため、それらの摺動面の耐摩耗性を向上することが求められている。
[0004]
 特許第5113902号公報には、圧縮機構部を備えた密閉型圧縮機が開示されている。圧縮機構部の摺動部材の少なくとも1つ、例えばブレードは、工具鋼で形成されている。ブレードの先端のローラとの摺動面には、クロムの単一層と、クロムとタングステンカーバイト合金層、タングステンを含有するアモルファス炭素層と、金属を含有せず、炭素と水素とを含むアモルファス炭素層とが工具鋼の基材表面からこの順序で積層されている。

発明の開示

[0005]
 しかしながら、前記公報に記載の密閉型圧縮機は、例えばローラとブレードの摺動において、片当たりを生じると、耐摩耗性を十分に確保できない可能性があった。
[0006]
 本発明は、圧縮機構部の相互に摺動する第1の部材と第2の部材、例えばブレードとローラ、の間の片当たり状態になる摺動環境においても、耐摩耗性を確保することが可能な密閉型圧縮機および当該圧縮機を備えた冷凍サイクル装置を提供する。
[0007]
 実施形態に係る密閉型圧縮機は、密閉容器内に冷媒を圧縮する圧縮機構部と冷凍機油を備えている。圧縮機構部は、相互に摺動する第1の部材と第2の部材とを備えている。第1の部材は、鉄系金属からなる基材の表面にダイヤモンドライクカーボン膜を有している。第2の部材は、マグネシウムを添加した鋳鉄から形成され、第1の部材との摺動面の炭化物析出量が面積率で5%以下であり、かつロックウエル硬さ(HRC)が40以上55以下である。

図面の簡単な説明

[0008]
[図1] 図1は、実施形態に係る冷凍サイクル装置を示す概略図である。
[図2] 図2は、図1の第2のシリンダ室の第2のローラおよびブレードを示す斜視図である。
[図3] 図3は、実施例1におけるローラとブレードとを摺動した時、ローラのブレードとの摺動面の炭化物析出量とブレードのダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)の摩耗量の関係を示す図である。
[図4] 図4は、実施例2におけるローラとブレードとを摺動した時、ローラのロックウエル硬さ(HRC)の変化とローラの摩耗量およびブレードのDLC膜の摩耗量との関係を示す図である。
[図5] 図5は、実施例3および比較例1,2において、ローラとブレードとを摺動した時のブレードの被覆膜の摩耗量の変化を示す図である。
[図6] 図6は、実施例5において、冷凍機油中の極圧添加剤の含有量とブレードのDLC膜の摩耗量との関係を示す図である。

発明を実施するための形態

[0009]
 以下、実施形態について図面を参照して説明する。
[0010]
 図1は、実施形態に係る冷凍サイクル装置1を示す概略図である。冷凍サイクル装置1は、密閉型圧縮機2と、凝縮器3と、膨張装置4と、蒸発器5とを備える。冷媒は、密閉型圧縮機2の吐出側から凝縮器3と、膨張装置4と、蒸発器5とアキュームレータ6を経由して密閉型圧縮機2の吸入側に循環される。
[0011]
 密閉型圧縮機2は、例えば縦形のロータリー型圧縮機であって、密閉容器10、圧縮機構部11および電動機部12を主要な構成要素として備えている。
[0012]
 密閉容器10は、円筒状の周壁10aを有するとともに、鉛直方向に沿うように起立されている。密閉容器10の上端には、吐出管10bが設けられている。吐出管10bは、凝縮器3に接続されている。さらに、密閉容器10の下部には、圧縮機構部11を潤滑する冷凍機油Iを蓄える油溜まり部10cが設けられている。
[0013]
 圧縮機構部11は、冷凍機油Iに浸かるように密閉容器10の下部に収容されている。圧縮機構部11は、ツイン型のシリンダ構造を有し、第1のシリンダ13、第2のシリンダ14、回転軸(シャフト)15、第1のローラ16、第2のローラ17、第1のブレード30aおよび第2のブレード30bを主要な構成要素として備えている。
[0014]
 第1のシリンダ13は、密閉容器10の周壁10aの内周面に固定されている。第2のシリンダ14は、第1のシリンダ13の下面に中間仕切り板18を介して固定されている。
[0015]
 第1の軸受20が第1のシリンダ13の上面に固定されている。第1の軸受20は、第1のシリンダ13の内径部を上方から覆うとともに、第1のシリンダ13の上方に向けて突出されている。第1のシリンダ13の内径部、中間仕切り板18および第1の軸受20で囲まれた空間は、第1のシリンダ室21を構成している。中間仕切り板18および第1の軸受20は、第1のシリンダ室21の閉鎖部材である。
[0016]
 第2の軸受22が第2のシリンダ14の下面に固定されている。第2の軸受22は、第2のシリンダ14の内径部を下方から覆うとともに、第2のシリンダ14の下方に向けて突出されている。第2のシリンダ14の内径部、中間仕切り板18および第2の軸受22で囲まれた空間は、第2のシリンダ室23を構成している。中間仕切り板18および第2の軸受22は、第2のシリンダ室23の閉鎖部材である。第1のシリンダ室21および第2のシリンダ室23は、密閉容器10の中心軸線O1に対し同軸状に位置されている。
[0017]
 図1に示すように、第1のシリンダ室21および第2のシリンダ室23は、吸込管25a,25bを介してアキュームレータ6に接続されている。アキュームレータ6で液相冷媒から分離された気相冷媒は、吸込管25a,25bを通って第1のシリンダ室21および第2のシリンダ室23に導かれる。
[0018]
 回転軸15は、密閉容器10の中心軸線O1の上に同軸状に位置され、第1のシリンダ室21、第2のシリンダ室23および中間仕切り板18を貫通している。回転軸15は、第1のジャーナル部27a、第2のジャーナル部27bおよび一対の偏心部28a,28bを有している。第1のジャーナル部27aは、第1の軸受20によって回転自在に支持されている。第2のジャーナル部27bは、第2の軸受22によって回転自在に支持されている。
[0019]
 さらに、回転軸15は第1のジャーナル部27aから同軸状に延長された連結部27cを有している。連結部27cには、電動機部12の回転子33が固着されている。
[0020]
 偏心部28a,28bは、第1のジャーナル部27aと第2のジャーナル部27bとの間に位置されている。偏心部28a,28bは、例えば180度の位相差を有するとともに、密閉容器10の中心軸線O1に対する偏心量が互いに同一となっている。一方の偏心部28aは、第1のシリンダ室21に収容されている。他方の偏心部28bは、第2のシリンダ室23に収容されている。
[0021]
 リング状の第1のローラ16は、一方の偏心部28aの外周面に嵌合されている。第1のローラ16は、回転軸15が回転した時に、第1のシリンダ室21内で偏心回転するとともに、第1のローラ16の外周面の一部が第1のシリンダ室21の内周面に油膜を介して摺動可能に線接触する。
[0022]
 リング状の第2のローラ17は、他方の偏心部28bの外周面に嵌合されている。第2のローラ17は、回転軸15が回転した時に、第2のシリンダ室23内で偏心回転するとともに、第2のローラ17の外周面の一部が第2のシリンダ室23の内周面に油膜を介して摺動可能に線接触する。
[0023]
 図2に示すように、第1のブレード30aが第1のシリンダ13に支持されている。第1のブレード30aの先端部は、第1のローラ16の外周面に摺動可能に押し付けられている。第1のブレード30aは、第1のローラ16と協働して第1のシリンダ室21を吸入領域と圧縮領域とに区画する。また、第1のブレード30aは第1のローラ16の偏心運動に追従して第1のシリンダ室21に突出したり、第1のシリンダ室21から退去したりする方向に移動する。このような第1のブレード30aの動作により、第1のシリンダ室21の吸入領域および圧縮領域の容積が変化し、吸込管25aから第1のシリンダ室21に吸い込まれた気相冷媒が圧縮される。
[0024]
 第2のブレード30bは、第2のシリンダ14に支持されている。第2のブレード30bの先端部は、第2のローラ17の外周面に摺動可能に押し付けられている。第2のブレード30bおよび第2のローラ17は、第1のブレード30aおよび第1のローラ16と同様に協働するため、第2のローラ14が第2のシリンダ室23内で偏心運動すると、第2のシリンダ室23の吸入領域および圧縮領域の容積が変化し、吸込管25bから第2のシリンダ室23に吸い込まれた気相冷媒が圧縮される。
[0025]
 第1のシリンダ室21および第2のシリンダ室23で圧縮された高温・高圧の気相冷媒は、図示しない吐出弁機構を介して密閉容器10の内部に吐出される。吐出された気相冷媒は、密閉容器10の内部を上昇する。
[0026]
 電動機部12は、図1に示すように圧縮機構部11と吐出管10bとの間に位置するように密閉容器10の軸方向に沿う中間部に収納されている。電動機部12は、いわゆるインナーロータ型のモータであって、回転子33および固定子34を備えている。
[0027]
 電動機部12の回転子33の上端には、気相冷媒に含まれる冷凍機油Iを密閉容器10の内部で分離する遠心式の油分離器35が組み込まれている。
[0028]
 次に、前述した密閉型圧縮機2の圧縮機構部11を構成する、相互に摺動する第1の部材(例えば、第1、第2のブレード30a,30b)および第2の部材(例えば、第1、第2のローラ16,17)、シャフト(回転軸15)並びに閉鎖部材の材料、物性について詳述する。
[0029]
 第1の部材(例えば、第1、第2のブレード30a,30b)は、鉄系金属の基材の表面にダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)を被覆した構造を有する。
[0030]
 鉄系金属は、炭素を含み、さらにCr,Ni,Mn,Si等の鉄以外の金属を含む鉄を主成分とする金属である。好ましい鉄系金属は、高速度工具鋼(SKH鋼)であり、具体的にはタングステン系のSKH2~SKH4など、またはモリブデン系のSKH50~SKH59などが挙げられる。また、鉄系金属はSKD11(合金鋼鋼材、ダイス鋼)を用いることもできる。
[0031]
 ダイヤモンドライクカーボン(DLC)は、例えば、水素フリーDLC、水素含有DLC、Si含有DLCを挙げることができる。
[0032]
 DLC膜は、基材の少なくとも第2の部材との摺動面に形成されていればよい。DLC膜は、1μm以上3μm以下の厚さを有することが好ましい。
[0033]
 DLC膜は、基材との密着性を高めるために、基材との間に下地層を介在することが好ましい。下地層は、基材の表面側からクロムの単一層からなる第1の層と、クロム-タングステンカーバイト合金層からなる第2の層と、タングステンおよびタングステンカーバイトの少なくとも一方を含有した金属含有アモルファス炭素層からなる第3の層とから構成されることが好ましい。第2の層は、クロムおよびタングステンカーバイトが濃度勾配を有し、クロムの含有率が第3の層側に比べて第1の層側で高くし、タングステンカーバイトの含有率が第1の層側より第3の層側で高くすることが好ましい。第3の層は、タングステンまたはタングステンカーバイトの濃度勾配を有し、タングステンまたはタングステンカーバイトの含有率がDLC膜側より第2の層側が高くすることが好ましい。
[0034]
 第2の部材(例えば、第1、第2のローラ16,17)は、マグネシウムを添加した鋳鉄から形成され、第1の部材との摺動面の炭化物析出量が面積率で5%以下である。また、第2の部材はロックウエル硬さ(HRC)が40以上55以下である。
[0035]
 マグネシウムの添加は、鋳鉄中の炭素を球状化する役目をなし、その添加量は0.02重量%以上0.1重量%以下にすることが好ましい。マグネシウム添加鋳鉄は、0.02重量%以上0.1重量%以下のマグネシウム、2.0重量%以上5.0重量%以下の炭素、および0.05重量%以下のリンを少なくとも含み、残部が鉄であることが好ましい。
[0036]
 第2の部材において、第1の部材との摺動面の炭化物析出量(面積率)とは、第1の部材との摺動面を100倍以上200倍以下で撮影した写真から(0.9~1.5mm)×(1.2~2.0mm)の面積の測定視野を規定し、当該視野に存在する炭化物析出量を面積率として求めた値を意味する。析出する炭化物は、例えばセメンタイトである。第2の部材の炭化物析出量が面積率で5%を超えると、第1の部材と第2の部材の摺動において、第1の部材のダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)の摩耗量が増加する虞がある。その上、第1の部材と第2の部材間の摺動面において軸方向の不均一な当たり(片当たり)が生じる虞がある。第2の部材において、第1の部材との摺動面の炭化物析出量は、面積率で2%以下であることが好ましい。
[0037]
 第2の部材のロックウエル硬さ(HRC)は、JIS G2245で規定される試験で求めることができる。第2の部材のロックウエル硬さ(HRC)を40以上55以下にすることによって、第1の部材のDLC膜との摺動において、馴染み摩耗が生じ易くなる。その結果、第2の部材の局部的な異常摩耗を防止でき、高い長期信頼性を実現できる。ロックウエル硬さ(HRC)を40未満にすると、第2部材の摺動面で摩耗が進行し易くなる。一方、ロックウエル硬さ(HRC)が55を超えると、第1の部材のDLC膜との摺動において、馴染み摩耗が生じ難くなるため、局部的に面圧が高くなって異常摩耗を生じる。より好ましい第2の部材のロックウエル硬さ(HRC)は、45以上50以下である。
[0038]
 第2の部材は、例えば、以下の熱処理を行うことにより、ロックウエル硬さ(HRC)40以上55以下の硬さを得ることができる。すなわち、880℃で1時間加熱保持した後に焼入れを行い、マルテンサイト組織とする。その後、250℃以上500℃以下の温度にて再加熱し、2時間保持する、焼き戻し処理を行い、マルテンサイトを焼き戻した組織とする。焼き戻し温度は、400℃以上500℃以下であることが好ましく、430℃以上470℃以下であることがより好ましい。また、焼入れ後にサブゼロ処理(深冷処理とも称される)を行うことも可能である。ここで、深冷処理は焼き入れ後に0℃以下の温度で冷やす処理である。
[0039]
 シャフトは、黒鉛が球状に晶出し、優れた潤滑性および高い剛性(高いヤング率)を有する球状黒鉛鋳鉄から作られることが好ましい。
[0040]
 閉鎖部材である中間仕切り板18、第1の軸受20及び第2の軸受22は、球状黒鉛鋳鉄に比べて黒鉛が微細な片状の形態で晶出する片状黒鉛鋳鉄から作られることが好ましい。
[0041]
 なお、第2の部材(例えば、ローラ)と相互に摺動する第1の部材(例えば、ブレード)、シャフト、閉鎖部材のいずれかの部材は、その摺動面に例えばリン酸マンガン、二硫化モリブデンのような固体潤滑剤を施してもよい。
[0042]
 圧縮機構部11を潤滑する冷凍機油Iは、例えばポリオールエステル油、ポリビニルエーテル油、ポリアルキレングリコール油、鉱物油を挙げることができる。このような冷凍機油は、極圧添加剤を含まないことが望ましく、極圧添加剤を含む場合でも、0.5重量%以下にすることが望ましい。極圧添加剤は、例えばトリクレジルホスフェートを用いることができる。冷凍機油に極圧添加剤を含む場合、その量は少ないほどよく、好ましくは0.3重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下である。
[0043]
 密閉型圧縮機で用いられる冷媒は、塩素を含まない冷媒が望ましく、例えばR448A,R449A,R449B,R407G,R407H,R449C,R456A,R516A,R460B,R463A,R744,HC系冷媒を挙げることができる。
[0044]
 以上説明した実施形態に係る密閉型圧縮機は、密閉容器内に冷媒を圧縮する圧縮機構部を備え、当該圧縮機構部は相互に摺動する第1の部材、例えばブレードと第2の部材、例えばローラとを備える。ブレードは、鉄系金属からなる基材の表面にダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)で被覆した構造を有する。ブレードのDLC膜と相互に摺動するローラは、マグネシウムを添加した鋳鉄から形成し、ブレードのDLC膜との摺動面の炭化物析出量を面積率で5%以下に規定する。これらの構成によって、ブレードのDLC膜の摩耗を抑え、ローラ自体が適度な馴染み摩耗を生じ、ブレードのDLC膜に対する面圧を低減できる。さらに、ローラのロックウエル硬さ(HRC)を40以上55以下に規定することによって、ブレードのDLC膜との摺動において、DLC膜の摩耗量とローラの馴染み摩耗量(DLC膜の摩耗量に比べて多い)との関係を適切な状態に維持できる。
[0045]
 従って、相互に摺動する第1、第2の部材、例えばブレードとローラにおいて、ブレードの基材表面の被覆膜をDLC膜に特定し、ローラをマグネシウムを添加した鋳鉄から形成し、ブレードのDLC膜との摺動面の炭化物析出量(面積率)およびHRCを特定の範囲に規定することにより、それらの部材間で起こる摩耗特性等を最適化し、ブレードのDLC膜とローラ間の片当たりに起因する異常摩耗を防止できる。その結果、密閉容器内の冷媒の圧縮を長期間に亘って高い安定、信頼性で実行できる密閉型圧縮機を提供できる。
[0046]
 また、圧縮機構部を潤滑する冷凍機油の極圧添加剤は摩耗を防止する働きがあるため、第1の部材(ブレード)のDLC膜と相互に摺動する第2の部材(ローラ)において、第2の部材の馴染み摩耗が阻害される。一つの実施形態において、冷凍機油は極圧添加剤を含まないか、または極圧添加剤を0.5重量%以下とすることによって、ローラの馴染み摩耗が発現されて、ブレードのDLC膜とローラとの摺動面における異常摩耗を防止できる。
[0047]
 冷媒に含まれる塩素は、極圧添加剤として働く、つまり摩耗を防止する働きを有するため、第1の部材(ブレード)のDLC膜と相互に摺動する第2の部材(ローラ)において、第2の部材の馴染み摩耗が阻害される。一つの実施形態において、塩素を含有しない冷媒を用いることによって、ローラの馴染み摩耗が発現されて、ブレードのDLC膜とローラとの摺動面における異常摩耗を防止できる。
[0048]
 一つの実施形態において、ロータリー型圧縮機の最も潤滑環境が厳しい摺動部品として、第1の部材をブレード、第2の部材をローラに適用することによって、長期信頼性の優れた圧縮機を提供できる。
[0049]
 一つの実施形態において、ローラと相互に摺動するシャフトおよびシリンダ室の閉鎖部材をさらに備え、ローラをマグネシウムを添加した鋳鉄から形成し、ブレードのDLC膜との摺動面の炭化物析出量(面積率)およびHRCを特定の範囲に規定することによって、DLC膜との摺動においてローラが適度な馴染み摩耗を生じ、面圧が低減される。また、ローラの内周面と摺動するシャフトをヤング率の高い球状黒鉛鋳鉄で形成することによって、シャフトの剛性(振れ回りの抑制)を高めて当該シャフトと係合するローラの傾きを抑制し、ブレードのDLC膜との片当たりを抑制できる。さらに、ローラの上下端面と摺動する閉鎖部材を球状黒鉛鋳鉄と比べて黒鉛が微細な状態で晶出して油保持性を高める片状黒鉛鋳鉄で形成することによって、閉鎖部材とローラとの摺接面での油膜切れを抑制し、閉鎖部材と摺接するローラ端面の摩耗を防止できる。これらの作用により、長期信頼性の優れた圧縮機を実現できる。
[0050]
 次に、本発明の実施例を詳細に説明する。
[0051]
 なお、以下の実施例に記載のローラの炭化物析出量(面積率)は、ブレードとの摺動面を150倍で撮影し、撮影写真から1.2mm×1.6mmの面積の測定視野を規定し、当該視野に存在する炭化物の析出量からを求めた。
(実施例1)
 ロックウエル硬さ(HRC)が63のSKH51からなる基材と、この基材の表面にCVD法により被覆した厚さ2μmのダイヤモンドラクカーボン膜(DLC膜)とからなる第1の部材、例えばブレードを作製した。
[0052]
 また、Mgが0.035重量%、Cが3.49重量%、Siが2.78重量%、Mnが0.45重量%、Pが0.016重量%、Sが0.007重量%および残部がFeからなる球状黒鉛鋳鉄からなり、ロックウエル硬さ(HRC)が45である第2の部材、例えばローラを作製した。このようなローラにおいて、球状黒鉛鋳鉄の成分であるP(リン)の配合量を調節することにより、ブレードとの摺動面の炭化物析出量を面積率で0~11%まで変化させた。
[0053]
 得られたブレードおよびローラをロータリー型圧縮機の圧縮機構部に組み込んだ。また、冷媒としてR410A、冷凍機油としてポリオールエステル油を用い、高圧縮比の条件で500時間運転し、ブレードのDLC膜の摩耗量を求めた。ここで、高圧縮比の具体的条件は、Pd(吐出圧力)/Ps(吸い込み圧力)=2.6MPa/0.12MPaである。その結果を図3に示す。
[0054]
 図3から明らかなように炭化物析出量を面積率で5%を超えるローラを用いた場合、ブレードとローラの摺動において、DLC膜の摩耗量が増加し、かつブレードとローラ間の摺動面において軸方向の不均一な当たり(片当たり)が見られた。
[0055]
 これに対し、炭化物析出量を面積率で5%以下のローラを用いた場合、ブレードとローラの摺動において、DLC膜の摩耗量の増加がなく、片当たりを顕著に防止できた。
(実施例2)
 実施例1と同様な鋳鉄からなり、ブレードとの摺動面の炭化物析出量が面積率で2%であり、加熱条件を調節することによりロックウエル硬さ(HRC)を30~65に変化させたローラを作製した。当該ローラを実施例1と同様なブレードと共にロータリー型圧縮機の圧縮機構部に組み込み、同様な運転条件でブレードのDLC膜の摩耗量およびローラの摩耗量を求めた。その結果を図4に示す。
[0056]
 図4から明らかなように硬さ(HRC)が40以上55以下の範囲のローラを用いることによって、ブレードとローラの摺動において、ブレードのDLC膜の摩耗量の増加およびローラの摩耗量の増加がなく、一定の状態に維持でき、片当たりを顕著に防止できることが分かる。
(実施例3)
 実施例1と同様な鋳鉄からなり、ブレードとの摺動面の炭化物析出量が面積率で2%であり、ロックウエル硬さ(HRC)が45のローラを作製した。
(比較例1)
 球状黒鉛鋳鉄(JIS G 5502:2001)からローラを作製した。
(比較例2)
 モニクロ鋳鉄、すなわち片状黒鉛鋳鉄[JIS G 5501:1995]にMo,NiおよびCrを添加した特殊合金鋳鉄、からローラを作製した。
[0057]
 得られた実施例3および比較例1,2のローラを実施例1と同様なブレードと共にロータリー型圧縮機の冷凍機部に組み込み、実施例1と同様な運転条件でブレードの基材表面に被覆されたDLC膜の摩耗量を求めた。その結果を図5に示す。なお、図5において摩耗限界値は、基材表面のDLC膜が摩耗して基材表面が露出する値である。
[0058]
 図5から明らかなように実施例3のローラとブレードのDLC膜との摺動の組合せにおいて、DLC膜の摩耗量が著しく低減され、摩耗限界値を十分に下回ることが分かる。
[0059]
 これに対し、比較例2のモニクロ鋳鉄からなるローラとブレードのDLC膜との摺動の組合せにおいて、図5に示すようにDLC膜の摩耗量が高く、摩耗限界値を超えることが分かる。
[0060]
 また、比較例1の球状黒鉛鋳鉄からなるローラとブレードのDLC膜との摺動の組合せにおいて、図5に示すようにDLC膜の摩耗量が極めて高く、摩耗限界値を大幅に超えていることが分かる。
(実施例4)
 ロックウエル硬さ(HRC)が63のSKH51からなる基材の表面にCVD法によりビッカース硬さ(Hv)2500、厚さ2.5μmのダイヤモンドラクカーボン膜(DLC膜)を被覆してブレードを作製した。
(比較例3)
 ロックウエル硬さ(HRC)が36のSUS440Cからなる基材の表面を窒化処理によりビッカース硬さ(Hv)1000、厚さ8μmの窒化物膜を形成してブレードを作製した。
(比較例4)
 ロックウエル硬さ(HRC)が63のSKH51からなる基材の表面にCVD法によりビッカース硬さ(Hv)1200、厚さ2μmのCrN膜を被覆してブレードを作製した。
[0061]
 得られた実施例4および比較例3,4のブレードと実施例3と同様なローラとを実施例1と同様にそれぞれロータリー型圧縮機の冷凍機部に組み込み、実施例1と同様な運転条件でブレード表面の被覆膜の耐摩耗性を評価した。
[0062]
 その結果、SKH51の基材表面にDLC膜を被覆した実施例4のブレードは、摺動面の炭化物析出量が面積率で2%、HRCが45のローラとの摺動において、DLC膜の摩耗量が小さく、高い耐摩耗性を示した。
[0063]
 これに対し、SUS440Cの基材を窒化処理して窒化物膜を形成した比較例3のブレード、およびSKH51の基材表面にCrN膜をコーティングした比較例4のブレードは、それぞれ実施例4と同様なローラとの摺動において、ブレードの窒化物膜、CrN膜が実施例4のDLC膜に比べて摩耗が大きくなることが判明した。
[0064]
 このような実施例3と比較例1,2とのブレードのDLC膜を基準とした相手材としての異なるローラ材料との対比、および実施例4と比較例3,4とのローラ材料(特定の炭化物析出量および特定のロックウエル硬さ(HRC)を有する)を基準とした相手材としてのブレード表面の異なる被覆膜との対比、の評価結果からブレード表面に被覆したDLC膜と、マグネシウム添加鋳鉄から形成され、摺動面の炭化物析出量が面積率で5%以下、ロックウエル硬さ(HRC)が40以上55以下のローラと、の組み合わせはDLC膜の摩耗とローラの馴染み摩耗を適正化でき、ブレードのDLC膜とローラ間の片当たりに起因する異常摩耗を防止できる効果を達成できる。
(実施例5)
 極圧添加剤であるトリクレジルホスフェートが0重量%、0.1重量%,0.3重量%,0.5重量%,0.6重量%,0.7重量%,0.8重量%,0.9重量%および1.0重量%含む冷凍機油であるポリオールエステル油を用い、実施例1と同様なブレードおよび実施例1と同様な鋳鉄からなり、ブレードとの摺動面の炭化物析出量が面積率で2%、かつHRCが45のローラをロータリー型圧縮機の圧縮機構部に組み込み、実施例1と同様な運転条件でブレードのDLC膜の摩耗量を求めた。その結果を図6に示す。
[0065]
 図6から明らかなように極圧添加剤であるトリクレジルホスフェートの含有量が0.5重量%以下のである冷凍機油であるポリオールエステル油を用いことによって、ブレードのDLC膜の摩耗を抑制できることが分かる。

産業上の利用可能性

[0066]
 本発明は、圧縮機構部の相互に摺動する第1の部材と第2の部材、例えばブレードとローラ、の間の片当たり状態になる摺動環境においても、耐摩耗性を確保することが可能な密閉型圧縮機を提供することができる。

請求の範囲

[請求項1]
 密閉容器内に冷媒を圧縮する圧縮機構部と冷凍機油とを備える密閉型圧縮機であって、
 前記圧縮機構部は、相互に摺動する第1の部材と第2の部材とを備え、
 前記第1の部材は、鉄系金属からなる基材の表面にダイヤモンドライクカーボン膜を有し、
 前記第2の部材は、マグネシウムを添加した鋳鉄から形成され、前記第1の部材との摺動面の炭化物析出量が面積率で5%以下であり、かつロックウエル硬さ(HRC)が40以上55以下である密閉型圧縮機。
[請求項2]
 前記冷凍機油は、極圧添加剤を含まないか、または0.5重量%以下の極圧添加剤を含む請求項1に記載の密閉型圧縮機。
[請求項3]
 前記冷媒は、塩素を含まない請求項1に記載の密閉型圧縮機。
[請求項4]
 前記圧縮機構部は、内径部にシリンダ室を形成するシリンダと、前記シリンダ室内に設けられたローラと、先端部が前記ローラの外周面に押し付けられ前記シリンダ室を吸入領域と圧縮領域とに区画するブレードと、前記シリンダ室を貫通し前記ローラを偏心回転させるシャフトと、前記シリンダ室を閉鎖する閉鎖部材とを備え、前記第1の部材が前記ブレードであり、前記第2の部材が前記ローラである請求項1に記載の密閉型圧縮機。
[請求項5]
 前記シャフトは、球状黒鉛鋳鉄で形成され、前記閉鎖部材は片状黒鉛鋳鉄で形成される請求項4に記載の密閉型圧縮機。
[請求項6]
 請求項1~5いずれか1項に記載の密閉型圧縮機と、放熱器と、膨張装置と、吸熱器とを備える冷凍サイクル装置。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]

[ 図 6]