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1. WO2020116291 - ホットスタンプ用被覆金型

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明 細 書

発明の名称 ホットスタンプ用被覆金型

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004  

先行技術文献

特許文献

0005  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0006  

課題を解決するための手段

0007  

発明の効果

0008  

図面の簡単な説明

0009  

発明を実施するための形態

0010   0011   0012   0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022  

実施例

0023   0024   0025   0026  

請求の範囲

1   2   3  

図面

1   2   3   4   5   6   7  

明 細 書

発明の名称 : ホットスタンプ用被覆金型

技術分野

[0001]
 本発明は、ホットスタンプ用の金型に適用される、硬質皮膜が被覆された被覆金型に関するものである。

背景技術

[0002]
 従来、鍛造、プレス加工といった塑性加工には、冷間ダイス鋼、熱間ダイス鋼、高速度鋼といった工具鋼に代表される鋼や、超硬合金等を母材とする金型が用いられている。このようなプレス加工用や鍛造用の金型を用いた塑性加工では、金型の作業面と被加工材とが摺動することにより、金型の作業面に摩耗やカジリなどの損耗が生じ易く、金型寿命の向上が望まれている。特に曲げ型や絞り型は高い成形圧がかかり、被加工材と金型との摺動によりカジリが生じやすくなる。ここでいうカジリとは、互いに摺動し合う部材のいずれかまたは両方の作業面において化学的に活性な表面が形成され、それが相手側に強く凝着して固着したり、それによっていずれかの面の構成物質が引きはがされ、相手側の面に移着したりする現象をさす。したがって、曲げ型や絞り型に用いる金型には特に高水準な強度および耐カジリ性が要求される。
[0003]
 金型の耐カジリ性を向上させる方法として、表面処理による窒化物や炭化物からなる硬質皮膜の形成が有効である。表面処理には溶融塩浸漬法(以下、TRD法という)や化学的蒸着法(以下、CVD法という)、物理的蒸着法(以下、PVD法という)などが使用される。TRD法やCVD法は、鋼を母材とする金型の焼入温度に近い温度での処理を行った後、焼戻し(一部はその前に再焼入)して使用されるが、高温処理に起因する金型の変形や寸法変化が問題となるケースがある。また、これらの処理は繰り返して使用されるが、TRD法やCVD法は金型母材の鋼材中の炭素を用いて膜を作るので、繰り返し処理を行うと金型の表面近傍の炭素が少なくなり、硬さの低下や膜との密着性の低下を招く可能性がある。一方、PVD法は、各種の被覆形成手段の中でも被覆温度が鋼の焼戻し温度より低温であるため、被覆による金型の軟化が少なく、金型の変形や寸法変化が生じ難い。金型の耐摩耗性を向上させるPVD皮膜としては、TiN、TiCN、TiAlNなどのTi系皮膜や、CrN、CrAlN、AlCrNなどのCr系皮膜、VCN、VCなどのV系皮膜等が従来実施されている。
[0004]
 上記の皮膜を適用した被覆金型については、従来様々な検討がなされている。例えば出願人は、特許文献1において、被加工材との摺動環境において耐摩耗性や耐カジリ性といった摺動特性を向上させることを目的に、AlCrSiの窒化物と、Vの窒化物とが交互に積層された硬質皮膜を被覆した被覆工具について提案している。また出願人は特許文献2において、金型の耐摩耗性や耐カジリ性を向上させることを目的に、皮膜の金属部分が原子比率でクロムが30%以上の窒化物または炭窒化物からなるa1層と、金属部分の原子比率でバナジウムが60%以上の窒化物または炭窒化物からなるa2層とが交互に積層したA層と、該A層の上層にあって金属部分の原子比率でバナジウムが60%以上との窒化物または炭窒化物からなるB層を含む、摺動特性に優れた被覆部材について提案している。

先行技術文献

特許文献

[0005]
特許文献1 : 特開2011-183545号公報
特許文献2 : 国際公開第2013/047548号

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0006]
 近年では自動車に対する環境性能と衝突安全性能の両立が強く求められており、車体に使用される鋼板として、引張強度1GPaを超えるような超高張力鋼板(以下、超ハイテン材とも記載する)の適用が増加している。超ハイテン材は高強度であるためプレス成形面圧が局所的に高まりやすく、金型への負荷が増大するため、前述の表面処理を施していても十分な寿命が得られない場合がある。また、超ハイテン材はスプリングバックが大きいため、プレス成形時の形状保持が難しくなる傾向にある。そのため、プレスで冷間成形できる引張強度には上限があった。そこで、このような超ハイテン材の成形には、被加工材を加熱してプレス成形と焼入れとを同時に行うホットスタンプ法を適用することが有効である。しかし被加工材が高強度である場合や、金型の作業面(金型と被加工材とが接触し、摺動する面)に形成される硬質皮膜の摺動性が低い場合、被加工材が局所的に付着することによってカジリが発生し、金型寿命の大幅な低下を引き起こす可能性がある。またホットスタンプ加工が進行すると金型の温度も上がっていき、被加工材表面の酸化が促進されやすく、生成酸化物との摺動により摩耗が進行しやすい環境となるため、さらなる耐摩耗性の向上が必要である。特許文献1、2に記載の発明は、皮膜の耐凝着性を高めることで初期段階に発生する突発的なカジリを抑制することができる優れた発明であるが、加工が進み金型が高温となった際の耐摩耗性については記載されておらず、さらなる検討の余地が残されている。特にV含有皮膜は、被加工材の付着を抑制することはできるが、Vの割合が大きい場合、高温化での加工にて皮膜の酸化が進行しすぎることにより、耐摩耗性が劣化する可能性も考えられる。
 本発明は上記課題に鑑み、ホットスタンプ用途において、耐カジリ性と、耐摩耗性との両方に優れる被覆金型を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

[0007]
 本発明者はホットスタンプの加工環境下における被覆金型の損耗形態を解析した。その結果、加工の初期段階において金型温度が低い状態では金型の作業面に形成される硬質皮膜と被加工材との耐カジリ性を重視し、加工の中期段階において金型温度が安定した状態では被加工材起因の生成酸化物に対する耐摩耗性を重視することで金型が長寿命となる傾向にあることを知見した。そして耐カジリ性と耐摩耗性の両方の特性を向上できる皮膜構成があることを見出し、本発明に想到した。
 すなわち本発明は、作業面に硬質皮膜を有する、ホットスタンプ用被覆金型であって、
 前記硬質皮膜は、半金属を含む金属部分の原子比率でクロムが30%以上の窒化物からなるa1層と、半金属を含む金属部分の原子比率でバナジウムが50%以上の窒化物からなるa2層とが交互に積層した交互積層部を有し、
 前記a1層およびa2層の厚さをそれぞれt a1およびt a2とし、
 前記交互積層部の基材側領域における隣り合うa1層とa2層との膜厚の比率t a2/t a1を膜厚比率Xb、前記交互積層部の最表面側領域における隣り合うa1層とa2層との膜厚の比率t a2/t a1を膜厚比率Xtとしたとき、
 Xt>Xbである、ホットスタンプ用被覆金型である。
 好ましくは、前記Xtが1.2以上であり、前記Xbが1.2未満である。
 好ましくは、前記硬質皮膜の総膜厚は、6μm以上である。

発明の効果

[0008]
 本発明によれば、ホットスタンプ用途において、耐カジリ性と、耐摩耗性との両方に優れる被覆金型を提供することができる。

図面の簡単な説明

[0009]
[図1] 本発明の基材側における交互積層部の一例を示す、試料No.1の断面写真である。
[図2] 本発明の最表層側における交互積層部の一例を示す、試料No.2の断面写真である。
[図3] 本発明の効果を説明するための、試料No.2の25℃における凝着性評価試験後の試料表面写真である。
[図4] 本発明の効果を説明するための、試料No.1の25℃における凝着性評価試験後の試料表面写真である。
[図5] 本発明の効果を説明するための、試料No.1の400℃における凝着性評価試験後の試料表面写真である。
[図6] ホットスタンプ用金型の温度変化例を示すグラフである。
[図7] 本発明例および比較例の耐摩耗性評価結果を示すグラフである。

発明を実施するための形態

[0010]
 以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は本実施形態に限定されない。
 本実施形態の被覆金型は、作業面に硬質皮膜を有する。この硬質皮膜は、半金属を含む金属部分の原子比率でクロムが30%以上の窒化物からなるa1層と、半金属を含む金属部分の原子比率でバナジウムが50%以上の窒化物からなるa2層とが交互に積層した交互積層部を有する。以下、クロムおよびバナジウムの原子比率とは、半金属を含む金属部分における原子比率である。
 本実施形態におけるa1層は、クロムが原子比率で30%以上の窒化物(以降、CrN系皮膜とも記載する)からなる。CrN系皮膜は耐熱性と耐摩耗性に優れ、高負荷環境における金型寿命の向上に寄与する。このCrN系皮膜は、クロムが30%以上であればa1層の効果を阻害しない範囲で、クロム以外の4、5、6族遷移金属の少なくとも一種を含んでもよい。もちろん、クロムが100%であっても良い。例えばCrN系皮膜は、CrN、CrTiN、CrVN、CrSiN、CrBN、CrSiBN、CrTiSiN、CrVSiN、AlCrN、AlTiCrN、AlVCrN、AlCrSiN、AlTiCrSiN、AlVCrSiNから選択することでホットスタンプ用金型における温度領域での耐摩耗性を向上させることが出来るため好ましい。なおa1層にバナジウムを含有する場合、含有量は50%未満であることが好ましい。より好ましくは、AlCrSiNを適用する。クロムの含有量が30%よりも低い場合、上述した耐熱性や耐摩耗性の向上効果が得られにくくなる傾向にある。クロム含有量の上限は特に限定せず、皮膜の種類や用途によって適宜変更することが可能である。例えばAlCrSiNを適用した場合、耐熱性や耐摩耗性の向上効果を得られやすくするために、クロムの含有量を原子比率で80%以下に設定してもよい。好ましくはAlCrSiNを適用する場合、AlxCrySizの組成式において、20≦x<70、30≦y<75、0<z<10となるように制御することで、脆弱な六方晶構造が主体となることを抑制して立方晶構造を主体とし、耐摩耗性や耐熱性を安定して向上させることができるため、好ましい。上記の結晶構造は例えばX線回折法により確認することができ、立方晶構造のピークが最大強度となっていれば、他の結晶構造を含んでいても立方晶構造が主体とみなすことができる。
[0011]
 本実施形態におけるa2層は、バナジウムが原子比率で50%以上の窒化物(以降、VN系皮膜とも記載する)からなる。このVN系皮膜は、ホットスタンプ加工の初期段階の環境において、適度に酸化して酸化層を形成し、被加工材成分を含む低融点の複酸化物を形成する。そのため被加工材からの凝着を防ぎ、加工初期段階における局所的なカジリや凝着摩耗を抑制することができる。バナジウムが50%未満の場合、カジリや凝着摩耗の抑制効果が十分に発揮できない可能性がある。なお本発明の効果を阻害しない範囲で、バナジウム以外の4、5、6族遷移金属の少なくとも一種を含んでも良い。好ましくは金属部分の原子比率でバナジウムが60%以上の窒化物であることが好ましく、バナジウムが70%以上であることがより好ましい。勿論、バナジウムが100%であってもよい。
[0012]
 本実施形態の硬質皮膜は、上述したa1層とa2層とが交互に積層した構造を有する。この構造を有することで、CrN系皮膜が有する耐摩耗性、耐熱性と、VN系皮膜が有する耐カジリ性、耐凝着性を、互いに阻害することなく効果的に発揮することができる。さらに本実施形態では、隣り合うa1層とa2層との膜厚の比率を膜厚比率X(a2/a1)としたとき、交互積層部の基材側領域(金型の母材側)における膜厚比率Xbと、最表層側における膜厚比率Xtとの関係がXt>Xbとなっていることが重要である(以降、a1層の膜厚をt a1、a2層の膜厚をt a2、a1層に対するa2層の膜厚の比率をt a2/t a1とも記載する。なお、t a2/t a1は膜厚比率Xである。)。図6にホットスタンプ加工における金型の温度変化例を示す。一定間隔でホットスタンプを行った場合、金型の温度は図6に示すように、加熱された被加工材との接触による昇温と、内部およびまたは外部からの水冷による降温とを繰り返しながら、加工が進むにつれて全体的な温度が上昇し、ある一定の加工段階で全体の温度上昇が止まるような挙動を示す。なお本明細書では全体的な温度上昇が進行している段階(図6のA領域)を初期段階、全体的な温度上昇が停止した以降の段階を中期段階(図6のB領域)としている。このような温度環境を考慮すると、ホットスタンプ用金型の皮膜には、加工の初期段階では良好な耐凝着性を発揮し、高温環境で摩耗が進行しやすい加工の中期段階では優れた耐摩耗性を発揮するような構成が長寿命化に適するといえる。本実施形態では、硬質皮膜の交互積層部の基材側の膜厚比率Xb(t a2/t a1)と最表面側の膜厚比率Xt(t a2/t a1)との関係をXt>Xbとすることで、加工の初期段階においては耐凝着性、耐カジリ性に優れるバナジウム含有膜であるa2層が主体となる層構成となり、表層側が摩耗した加工の中期段階以降には、耐摩耗性に優れるCrN系皮膜であるa1層の割合が初期段階よりも増加した層構成とすることができるため、ホットスタンプ用金型の寿命を大幅に向上させることが可能である。なお本実施形態における交互積層部の「基材側領域」とは、基材と交互積層部との界面、または交互積層部の直下(基材側)に形成される別の皮膜と交互積層部との界面から、厚み方向に交互積層部総厚の1/4の厚み領域を示す。また本実施形態における交互積層部の「最表面側領域」とは、交互積層部の最表面(基材と反対側)、または交互積層部の直上(表面側)に形成される別の皮膜と交互積層部との界面から、厚み方向に交互積層部総厚の1/4の厚み領域を示す。
[0013]
 本実施形態は膜厚比率X(t a2/t a1)を硬質皮膜の基材側に対し最表面側を増加させるために、a2層の厚みを表層に向かって増加させてもよく、a1層の厚みを表層側に向かって減少させてもよい。また厚みの変動も傾斜的、もしくは段階的としても効果を発揮することが可能であり、目的に応じて適宜選択すればよい。例えば段階的に変化させる場合は、一般的なPVD装置でも容易に作製可能であり、傾斜的に変化させる場合は、皮膜内部の応力分布が安定化し、層間での剥離が起こりにくくなる。ここで「傾斜的に変化」とは、a1層およびa2層の少なくとも一方が、1層ごとに変動することを示す。「段階的に変化」とは、a1層およびa2層において2層以上同じ厚みの層が含まれることを示す。なおt a2/t a1の下限は特に限定せず、目的に合わせて適宜設定することが可能である。例えば基材側にt a2/t a1が十分小さい皮膜(バナジウムによる耐凝着性の効果を減じた皮膜)を形成させ、あえてホットスタンプの中期段階以降で被加工材成分を凝着させることで、皮膜の損耗(寿命)を検知することが可能となり、損耗が基材にまで及ぶことを抑制することができる。このことにより、金型補修の手間を省くことができる。このt a2/t a1の下限は、例えば0.1と設定することができる。
[0014]
 ここで膜厚比率t a2/t a1を段階的に増加させる場合、例えば、基材側にt a2/t a1が1.2未満、好ましくは1.0以下の交互積層部(A部)と、最表層側となるA部上層に形成される、t a2/t a1が1.2以上、好ましくは1.4以上の交互積層部(B部)とを有すれば良い。このときA部の厚みは、総膜厚の60%以上であることが好ましい。これは耐摩耗性に優れるA部が厚いほど、高温加工時の寿命を長く伸ばせるためである。一方で総膜厚に対するA部の膜厚が厚すぎると、耐凝着性効果が低下する傾向にあるので、A部の上限は総膜厚の90%と設定することができる。またB部の厚みに関しては、総膜厚の40%未満に設定することが好ましい。これはB部が最も効果を発揮するのは加工の初期段階であるため、総膜厚に対してB部が厚すぎると、高温環境である加工の中期段階において耐摩耗性を確保する本発明の目的が達せられない可能性がある。また、B部の厚みは総膜厚の10%以上であることが好ましい。以上、t a2/t a1が異なる交互積層部を2つ有する実施例について説明したが、交互積層部の基材側における膜厚比率Xbと、最表層側における膜厚比率Xtとの関係がXt>Xbとなっていれば、本発明は上記の実施形態に限定されず、膜厚比率の異なる領域を3つ以上設けるなど、適宜変更することが可能である。交互積層部において膜厚比率の異なる領域が3つ以上存在する場合、基材側から最表層側にかけて、膜厚比率t a2/t a1が段階的に増加する傾向となるように構成することが好ましい。膜厚比率の異なる領域が3つ以上存在する例としては、基材側にt a2/t a1が0.8未満の交互積層部(A部)と、A部の表層側に形成される、t a2/t a1が0.8以上1.2未満のB部と、B部の表層側に形成される、t a2/t a1が1.2以上である(C部)とを有する被覆構造が適用できる。
[0015]
 また、加工の中期段階以降における耐摩耗性をより一層強化するために、上述の交互積層部の直下に、これとは別のCrN系皮膜を形成することが好ましい。この理由は前述したように、CrN系皮膜のみでは十分な耐凝着性効果を発揮できない懸念があるが、基材側であえて凝着させることで、皮膜の損耗を検知することが可能となり、損耗が基材にまで及ぶことを抑制することができるためである。なお、CrN系皮膜は前述のa1層と同成分を有する窒化物層が工業生産上合理的であるため好ましいが、a1層とは異なる成分を有する層でも良い。このCrN系皮膜は、所望の特性に合わせて単層または二層以上の複層(交互積層構造を含む)構造とすることができる。特にCrN系皮膜を交互積層構造とした場合、膜の破壊時にクラックが積層界面を経由するようになるため、クラックの進展経路が複雑になり、急速な進展が抑止される結果、膜の耐破壊性が向上させることできるため好ましい。ここで交互積層部直下のCrN系皮膜に、b1層とb2層との交互積層構造を選択した場合、b1層およびb2層は、CrN、CrTiN、CrVN、CrSiN、CrBN、CrSiBN、CrTiSiN、CrVSiN、AlCrN、AlTiCrN、AlVCrN、AlCrSiN、AlTiCrSiN、AlVCrSiNから選択することが可能である。好ましくはb1層をAlCrSiN、CrSiBNから選択し、b2層をCrSiBN、CrNから選択する。より好ましくはb1層にAlCrSiN、b2層にCrNを選択する。
[0016]
 交互積層部直下に形成されるCrN系皮膜の総厚は、0.5μm以上であることが好ましく、50μm以下であることが好ましい。より好ましいCrN系皮膜の厚みは40μm以下であり、さらに好ましいCrN系皮膜の厚みは30μm以下、20μm以下、10μm以下と設定することができる。またb1層とb2層との交互積層構造を選択した場合、b1層およびb2層の膜厚はそれぞれ0.002μm~0.1μmであることが好ましい。そして、この交互積層部直下に形成されるCrN系皮膜はa1層の1.2倍以上厚く形成することが好ましい。
[0017]
 さらに、加工の初期段階における金型と被加工材との馴染み性をより一層向上させ、突発的なカジリを抑制するために、交互積層部の直上に、これとは別のVN系皮膜(単層)を形成させることが好ましい。VN系皮膜もa2層と同成分を有する窒化物層が工業生産上合理的であるため好ましいが、これに限定されず、a2層と異なる成分を有する層でも良い。
交互積層部直上のVN系膜の厚みは0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましい。厚みの上限は特に限定しないが、膜厚が厚くなり過ぎると、成膜に時間がかかり生産性が悪くなるので、8μm以下であることが好ましい。また、使用環境によっては、皮膜全体の耐摩耗性が低下する場合があるため、より好ましい膜厚は5μm以下であり、さらに好ましくは3μm以下である。なお、この交互積層部直上のVN系皮膜はa2層の1.2倍以上の厚く形成することが好ましい。
[0018]
 本実施形態において、a1層の膜厚は0.002μm~0.1μmであることが好ましい。この範囲内に収めることで、a2層との交互積層により耐摩耗性と耐凝着性とを両立させることに効果的である。a1層の膜厚が薄すぎると、耐摩耗性向上効果を発揮し難くなる。一方でa1層の膜厚が厚すぎる場合、a1層が表面の大部分に露出することによって被加工材が凝着しやすくなる傾向にある。
[0019]
 本実施形態において、a2層の膜厚は0.002μm~0.08μmであることが好ましい。この範囲内に収めることで、a1層との交互積層により耐摩耗性と耐凝着性とを両立させることに効果的である。a2層の膜厚が薄すぎると、耐凝着性向上効果を発揮し難くなる。一方でa2層の膜厚が厚すぎる場合、a1層が表面の大部分で欠乏することによって皮膜が摩耗しやすくなる傾向にある。
[0020]
 本実施形態の交互積層部の総厚は、5μm~80μmであることが好ましい。より好ましくは10μm~50μmである。薄すぎるとホットスタンプの過酷な摩耗環境に耐えられず皮膜が早期に損耗する傾向にあり、厚すぎると金型の寸法公差を超え、成形面におけるクリアランスが不足し、過度の絞り加工となって成形負荷が増大する可能性があるためである。
[0021]
 本発明の金型に用いられる材料(母材、基材)は特段に定めるものではないが、冷間ダイス鋼、熱間ダイス鋼、高速度鋼といった工具鋼または超硬合金等を適宜使用することができる。金型は、窒化処理または浸炭処理等といった拡散を利用した表面硬化処理を予め適用したものでもよい。また、上述した本発明の硬質皮膜の効果を阻害しない範囲で、金型表面上に硬質皮膜とは別種の皮膜を形成させてもよい。
[0022]
 本発明に係る硬質皮膜の製造方法は、既存の成膜方法を使用することができるが、金型の焼き戻し温度より低温で被覆処理が可能となり、金型の寸法の変動を抑制することができる、アークイオンプレーティング法や、スパッタリング法などの物理蒸着法(PVD)を選択することが好ましい。またより平滑で摺動特性に優れる硬質皮膜を得るために、被覆途中や被覆後に硬質皮膜の表面を研磨してもよい。
実施例
[0023]
 (実施例1)
 まずホットスタンプ加工の初期段階を模擬し、耐凝着性評価を行った。
 基材は高速度鋼SKH51(21mm×17mm×2mm)の鏡面研磨、脱脂洗浄済みのものを準備し、準備した基材を複数のターゲットが取り囲む中心で基材が回転する構造のアークイオンプレーティング装置内に設置した。a1層用のターゲットにはAl 60Cr 37Si ターゲットを用い、a2層用のターゲットにはバナジウムターゲットを用いた。その後初期工程として、装置内にて基材を450℃で加熱脱ガスした後、Arガスを導入し、基材表面のプラズマクリーニング処理(Arイオンエッチング)を行った。
 続いて、プラズマクリーニング処理後の基材に窒素ガスを導入しながら被覆を行い、試料No.1、試料No.2を作製した。試料No.1、試料No.2ともにAlCrSiN(at%)とVNとの交互積層構造(以下、AlCrSiN/VNとも記載する。)からなる皮膜(交互積層部)を形成しており、試料No.1は、t a2/t a1が試料No.2よりも小さくなるように調整した。試料No.1の交互積層部の断面写真を図1に、試料No.2の交互積層部の断面写真を図2に示す。図1、図2において、符号1はAlCrSiN膜を、符号2はVN膜を示す。成膜後、試料No.1のAlCrSiN/VNの個々の膜厚を測定した結果、AlCrSiN:19nm、VN:15nm(t a2/t a1=0.79)であることを確認した。同様に試料No.2の交互積層部の個々の膜厚は、AlCrSiN:10nm、VN:15nm(t a2/t a1=1.5)であった。試料No.1および試料No.2の交互積層部の総膜厚はそれぞれ10.5μm、17.6μmであった。
[0024]
 作製した試料に対して、耐凝着性試験を行った。試験には、ボールオンディスク試験機(CSM Instruments社製Tribometer)を使用した。試験環境はホットスタンプの初期段階を想定した25℃の大気中と、参考として中期段階を想定して400℃の大気中の二種類とし、交互積層部にSUJ2製のベアリングボール(直径6mmの鏡面研磨された球、硬さ60HRC)を2Nの荷重で押し付けながら、無潤滑下にて試料を10cm/秒の速度で一定方向に100m連続摺動させた。試験後、試料の摺動部表面を観察した。結果、25℃の環境において、試料No.1は図4に示すように相手材の凝着(符号A)が多く見られたが、試料No.2に関して図3に示すように相手材の凝着は確認されなかった。これはバナジウムによる耐凝着性の効果がホットスタンプ初期を模擬した環境下ではVNの比較的少ない交互積層部(t a2/t a1=0.79)において限定的であったためと考えられる。一方で400℃の環境における凝着(符号A)は、図5に示すように、試料No.1の凝着量が大幅に低減されていることが確認できた。これはホットスタンプ中期を模擬した高温環境下ではVNの酸化が促進されるため、VNの比較的少ない交互積層部(t a2/t a1=0.79)であってもバナジウムによる耐凝着性の効果が発揮されるのに十分であったためと考えられる。
[0025]
(実施例2)
 続いて、ホットスタンプ加工の中期段階を模擬し、耐摩耗性評価を行った。評価対象の試料は実施例1の試料No.1と試料No.2に加えて、さらにAlCrSiN:19nm、VN:10nm(t a2/t a1=0.52)に調整し、交互積層部の総膜厚を19μmとし、その他の製造方法は試料No.1と同じである試料No.3と、比較例としてVを含有しない、AlCrSiNとCrNとの交互積層(AlCrSiN:23nm、CrN:26nmの交互積層、総厚4.1μm)である試料No.4を準備した。試験には、ボールオンディスク試験機(CSM Instruments社製Tribometer)を使用した。試験環境はホットスタンプの中期加工を想定して400℃の大気中とし、皮膜にマトリックスハイス製のピン(先端径6mmの鏡面研磨された半球、硬さ64HRC)を10Nの荷重で押し付けながら、摺動直径8.5mmで、無潤滑下にて試料を20cm/秒の速度で一定方向に連続摺動させた。摺動距離は1000mとした。試験後、摺動部の摺動円周上に形成された溝の体積を摩耗体積として求め、試験条件である試験荷重10N、摺動長1000mで除して、単位摺動長、単位荷重あたりの摩耗体積を比摩耗量として評価した。溝体積は、以下の方法で求めた。非接触表面形状測定機(Zygo社 Newview7300)にて試料No.1~4における各摺動部の溝深さを上記摺動円の内径側から外径側まで0.2mm間隔の同心円上で測定し、各同心円の溝深さの平均値と測定間隔を積和して、平均の溝断面積を求めた。溝断面積に摺動円周長を積算して溝体積とした。試料No.1~4の比摩耗量の結果を図7(比摩耗量の棒グラフ)に示す。
[0026]
図7の結果より、比摩耗量は試料No.3、試料No.1、試料No.2、試料No.4の順に小さく、特にNo.4の皮膜は摩耗量が試料No.1~3に比べて非常に大きいことを確認した。これは、No.4の皮膜の場合、そもそもバナジウムによる耐凝着性の効果が得られないことに起因して、VNの酸化が促進される高温環境下であっても、凝着摩耗が進行したことによる。また試料No.1~3のなかでは、t a2/t a1の値が小さいほど、ホットスタンプの加工の中期段階において耐摩耗性に優れることが確認できた。
 以上の結果より、t a2/t a1=0.79又は0.52の交互積層膜よりも上側に、t a2/t a1=1.5の交互積層膜を形成させる本発明例の皮膜構成は、ホットスタンプ加工の全加工段階において皮膜の耐摩耗性、耐凝着性を向上させることができ、金型寿命の向上に有効であることが確認できた。

請求の範囲

[請求項1]
 作業面に硬質皮膜を有する、ホットスタンプ用被覆金型であって、
 前記硬質皮膜は、半金属を含む金属部分の原子比率でクロムが30%以上の窒化物からなるa1層と、半金属を含む金属部分の原子比率でバナジウムが50%以上の窒化物からなるa2層とが交互に積層された交互積層部を有し、
 前記a1層およびa2層の厚さをそれぞれt a1およびt a2とし、
 前記交互積層部の基材側領域における隣り合うa1層とa2層との膜厚の比率t a2/t a1を膜厚比率Xb、前記交互積層部の最表面側領域における隣り合うa1層とa2層との膜厚の比率t a2/t a1を膜厚比率Xtとしたとき、
 Xt>Xbである、ホットスタンプ用被覆金型。
[請求項2]
 前記Xtが1.2以上であり、前記Xbが1.2未満である、請求項1に記載のホットスタンプ用被覆金型。
[請求項3]
 前記交互積層部の総膜厚は、6μm以上である、請求項1に記載のホットスタンプ用被覆金型。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]

[ 図 6]

[ 図 7]