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1. WO2020090974 - バイオセンサー

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明 細 書

発明の名称 バイオセンサー

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003  

先行技術文献

特許文献

0004  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0005  

課題を解決するための手段

0006   0007   0008   0009   0010   0011   0012   0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024  

発明の効果

0025  

図面の簡単な説明

0026  

発明を実施するための形態

0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064  

実施例

0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074  

産業上の利用可能性

0075  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10   11   12   13   14   15   16  

図面

1   2   3   4   5  

明 細 書

発明の名称 : バイオセンサー

技術分野

[0001]
 本発明は、抗体検出バイオセンサー、そのバイオセンサーの製造方法、及びそのバイオセンサーを用いた抗体の検出方法に関する。また、本発明は、抗原検出バイオセンサー、及びそのバイオセンサーを用いた抗原の検出方法に関する。

背景技術

[0002]
 現在、臨床診断において免疫測定法はますます重要な測定技術となってきている。個々の免疫測定法を採択するにあたっては、感度・特異性の向上のみならず、測定の迅速・簡便化も大きな要素となってきている。現在主流の免疫測定法においては、タンパク質バイオマーカーの検出にあたってはサンドイッチ法、低分子検出においては競合法が測定原理として用いられる。しかしそのどちらも、数回の反応と洗浄の後に主にラベルに用いた酵素活性を測定する酵素免疫測定法であることが多く、測定には手間と数時間の時間がかかる問題がある。これに比べ、サンプルと測定試薬を混ぜて反応させ、検出するホモジニアス免疫測定法は、簡便かつ迅速な測定が可能であることから、近年注目を集めている。
[0003]
 ホモジニアス免疫測定法については、最近、本発明者によってβグルクロニダーゼ(GUS)の変異体を利用した方法が報告されている(特許文献1)。GUSは4量体を形成することで活性を示すが、アミノ酸配列に変異(例えば、大腸菌GUSの516番目のメチオニン及び517番目のチロシンがそれぞれリジン及びグルタミン酸に置換される変異)があると単量体間の親和性が低下し、2量体は形成するが、通常の状態では4量体を形成しなくなる。上記測定法は、このようなGUSの性質を利用するもので、抗体のV H領域及びGUSの変異体を含む融合タンパク質と抗体のV L領域及びGUSの変異体を含む融合タンパク質の2種類の融合タンパク質を使用する。この測定法の原理は以下の通りである。試料中に抗原が存在しない場合、V H領域とV L領域の相互作用は弱いままなので、V H領域及びV L領域と連結するGUSの変異体の2量体もそのままでほとんど4量体にはならない。一方、試料中に抗原が存在する場合、V H領域とV L領域の相互作用が強化され、この相互作用により、V H領域及びV L領域と連結するGUSの変異体の2量体も結合し、4量体を形成し、活性を示すようになる。従って、GUSの活性を測定することにより、試料中に抗原量を測定することができる。

先行技術文献

特許文献

[0004]
特許文献1 : 国際公開第2017/130610号

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0005]
 特許文献1に記載の方法は高感度で抗原を検出できる方法であるが、臨床診断などの医療分野での利用においては、より高い感度の検出方法が求められる。本発明は、このような背景の下になされたものであり、高感度のホモジニアス免疫測定手段を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

[0006]
 本発明者は、4量体の形成を阻害する変異を導入したGUS変異体とHisタグとを含有する融合タンパク質及び脂質膜から構成される小胞からなるバイオセンサーであって、融合タンパク質が小胞の脂質膜を貫通し、Hisタグが小胞の外側、GUS変異体が小胞の内側になるように配置されるバイオセンサーを作製し、このバイオセンサーがHisタグと結合する抗体を高感度で検出できることを見出した。また、このバイオセンサーにおけるHisタグをSpyタグに置き換え、Spyタグと結合するSpyキャッチャーを介してSpyタグと抗体可変領域とを連結させると、その抗体可変領域と結合する抗原を高感度で検出できることも見出した。
[0007]
 本発明は、以上の知見に基づき、完成されたものである。
 即ち、本発明は、以下の〔1〕~〔16〕を提供するものである。
[0008]
〔1〕ペプチドに結合する抗体を検出するためのバイオセンサーであって、1)多量体の形成により活性化する酵素の変異体と膜貫通ドメインと前記ペプチドとを含有する融合タンパク質、及び2)脂質膜から構成される小胞を含み、A)前記酵素の変異体は単量体間の結合親和性を低下させる変異が導入された変異体であること、B)前記膜貫通ドメインは前記小胞の脂質膜を貫通すること、C)前記多量体の形成により活性化する酵素の変異体は前記小胞の内部に露出すること、及びD)前記ペプチドは前記小胞の外部に露出することを特徴とするバイオセンサー。
[0009]
〔2〕多量体の形成により活性化する酵素の変異体が、βグルクロニダーゼの変異体であることを特徴とする〔1〕に記載のバイオセンサー。
[0010]
〔3〕βグルクロニダーゼの変異体が、大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における51番目のフェニルアラニンがチロシンに置換され、64番目のアラニンがバリンに置換され、185番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換され、516番目のメチオニンがリジンに置換され、525番目のチロシンがフェニルアラニンに置換され、559番目のグリシンがセリンに置換され、567番目のリジンがアルギニンに置換され、585番目のグルタミンがヒスチジンに置換され、601番目のグリシンがアスパラギン酸に置換された変異体であることを特徴とする〔2〕に記載のバイオセンサー。
[0011]
〔4〕膜貫通ドメインが、上皮成長因子受容体の膜貫通ドメインであることを特徴とする〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載のバイオセンサー。
[0012]
〔5〕脂質膜が、リン脂質とコレステロールを含む脂質膜であることを特徴とする〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載のバイオセンサー。
[0013]
〔6〕ペプチドが、Hisタグ、Spyタグ、Snoopタグ、HAタグ、mycタグ、又はFLAGタグであることを特徴とする〔1〕乃至〔5〕のいずれに記載のバイオセンサー。
[0014]
〔7〕以下の工程(1)~(5)を含むことを特徴とする〔1〕乃至〔6〕のいずれかに記載のバイオセンサーの製造方法、
(1)多量体の形成により活性化する酵素の変異体と膜貫通ドメインとペプチドとを含有する融合タンパク質を発現するベクター、無細胞転写に必要な試薬、及び無細胞翻訳に必要な試薬を含む水溶液を調製する工程、
(2)工程(1)で調製した水溶液を、リン脂質及びコレステロールを含む油相に分散させ、W/Oエマルションを生成させる工程、
(3)工程(2)で生成させたW/Oエマルションを、水溶液上に重層し、遠心分離によって沈降させることによって、内部に前記ベクター及び前記試薬を含むリポソームを水溶液中に形成させる工程、
(4)工程(3)で形成させたリポソームを回収する工程、
(5)工程(4)で回収したリポソーム内で、転写及び翻訳反応を進行させる工程。
[0015]
〔8〕試料中の抗体を検出する方法であって、試料を〔1〕乃至〔6〕のいずれかに記載のバイオセンサーと接触させる工程、及び多量体の形成を酵素活性の変化により検出する工程を有することを特徴とする抗体の検出方法。
[0016]
〔9〕抗体可変領域に結合する抗原を検出するためのバイオセンサーであって、1)多量体の形成により活性化する酵素の変異体と膜貫通ドメインとペプチドとを含有する第一の融合タンパク質、2)前記抗体可変領域と前記ペプチドに親和性を示すタンパク質とを含有する第二の融合タンパク質、及び3)脂質膜から構成される小胞を含み、A)前記酵素の変異体は単量体間の結合親和性を低下させる変異が導入された変異体であること、B)前記膜貫通ドメインは前記小胞の脂質膜を貫通すること、C)前記多量体の形成により活性化する酵素の変異体は前記小胞の内部に露出すること、D)前記ペプチドは前記小胞の外部に露出すること、及びE)ペプチドに親和性を示す前記タンパク質は、前記小胞の外部に露出した前記ペプチドと結合することを特徴とするバイオセンサー。
[0017]
〔10〕多量体の形成により活性化する酵素の変異体が、βグルクロニダーゼの変異体であることを特徴とする〔9〕に記載のバイオセンサー。
[0018]
〔11〕βグルクロニダーゼの変異体が、大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における51番目のフェニルアラニンがチロシンに置換され、64番目のアラニンがバリンに置換され、185番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換され、516番目のメチオニンがリジンに置換され、525番目のチロシンがフェニルアラニンに置換され、559番目のグリシンがセリンに置換され、567番目のリジンがアルギニンに置換され、585番目のグルタミンがヒスチジンに置換され、601番目のグリシンがアスパラギン酸に置換された変異体であることを特徴とする〔10〕に記載のバイオセンサー。
[0019]
〔12〕膜貫通ドメインが、上皮成長因子受容体の膜貫通ドメインであることを特徴とする〔9〕乃至〔11〕のいずれかに記載のバイオセンサー。
[0020]
〔13〕脂質膜が、リン脂質とコレステロールを含む脂質膜であることを特徴とする〔9〕乃至〔12〕のいずれかに記載のバイオセンサー。
[0021]
〔14〕ペプチドがSpyタグ、Snoopタグ又はその誘導体であり、ペプチドに親和性を示すタンパク質がSpyキャッチャー、Snoopキャッチャー又はその誘導体であることを特徴とする〔9〕乃至〔13〕のいずれかに記載のバイオセンサー。
[0022]
〔15〕 抗体可変領域が、ラクダ属重鎖抗体由来VHHであることを特徴とする〔9〕乃至〔14〕のいずれかに記載のバイオセンサー。
[0023]
〔16〕試料中の抗原を検出する方法であって、試料を〔9〕乃至〔15〕のいずれかに記載のバイオセンサーと接触させる工程、及び多量体の形成を酵素活性の変化により検出する工程を有することを特徴とする抗原の検出方法。
[0024]
 本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2018-207624の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。

発明の効果

[0025]
 本発明は、新規なバイオセンサーを提供する。このバイオセンサーは、簡便かつ高感度で物質を検出することができるので、臨床診断などの医療分野での利用が期待される。

図面の簡単な説明

[0026]
[図1] 発現ベクター His 6-GUS_IV5_KYおよびHis 6-TM-GUS_IV5_KYの構造を示す図。
[図2] 酵素基質添加10分後のリポソームの透過画像(上段)及び蛍光画像(下段)。
[図3] 酵素基質添加1時間後のリポソームの透過画像(上段)及び蛍光画像(下段)。
[図4] 抗His抗体存在下で、GUS4量体が形成される機序を模式的に表した図。
[図5] 酵素基質添加5~10分後のリポソームの透過画像及び蛍光画像。左上はHis 6-GUS_IV5_KY及びHis 6-TM-GUS_IV5_KYベクターを発現させ、抗His抗体を加えた場合の画像であり、左下はHis 6-GUS_IV5_KY及びHis 6-TM-GUS_IV5_KYベクターを発現させ、抗His抗体を加えなかった場合の画像であり、右上はHis 6-GUS_IV5_KYベクターのみを発現させ、抗His抗体を加えた場合の画像であり、右下はHis 6-GUS_IV5_KYベクターのみを発現させ、抗His抗体を加えなかった場合の画像である。

発明を実施するための形態

[0027]
 以下、本発明を詳細に説明する。
(A)抗体検出バイオセンサー
 本発明の抗体検出バイオセンサーは、ペプチドに結合する抗体を検出するためのバイオセンサーであって、1)多量体の形成により活性化する酵素の変異体と膜貫通ドメインと前記ペプチドとを含有する融合タンパク質、及び2)脂質膜から構成される小胞を含み、A)前記酵素の変異体は単量体間の結合親和性を低下させる変異が導入された変異体であること、B)前記膜貫通ドメインは前記小胞の脂質膜を貫通すること、C)前記多量体の形成により活性化する酵素の変異体は前記小胞の内部に露出すること、及びD)前記ペプチドは前記小胞の外部に露出することを特徴とするバイオセンサーである。
[0028]
 本発明のバイオセンサーにより、試料中の抗体を検出する原理を以下に記載する。このバイオセンサーは、融合タンパク質及び小胞を含んでいる。融合タンパク質は小胞の脂質膜を貫通し、抗体と結合するペプチド部分は小胞の外部に露出し、酵素部分は小胞の内部に露出する。試料中に抗体が存在しない場合、酵素は、単量体間の結合親和性を低下させる変異が導入されているため、多量体を形成せず、活性化しない。このため、酵素基質が存在しても、蛍光物質などの反応生成物はほとんど生成しない。一方、試料中に抗体が存在する場合、小胞の外部に露出した二つのペプチドが抗体に引き寄せられ、これにより、ペプチドに連結する酵素部分が結合し、多量体を形成し、活性化する。活性化した酵素によって小胞内に反応生成物が生じるが、この反応生成物は小胞内で濃縮されるので、微量であっても容易に検出することができる。また、このような酵素の活性化は、小胞ごとに起きるので、抗体の量が非常に多い場合を除き、反応生成物を生成する小胞と反応生成物を生成しない小胞とが生じる。反応生成物を生成する小胞の数は、抗体の量に応じて多くなるので、抗体量を小胞の「数」として捉えることが可能になる。
[0029]
 「多量体の形成により活性化する酵素」とは、単量体が幾つか結合することによって初めて活性を示す、又は活性が向上する酵素を意味する。多量体を構成する単量体の数は特に限定されず、2量体、3量体、4量体、5量体、6量体などのいずれで活性化する酵素でもよい。多量体の形成により活性化する酵素は、活性を容易に検出又は測定できる酵素であることが好ましい。例えば、生成物又は基質を吸光度、蛍光強度、発光強度により検出又は測定できる酵素である。多量体の形成により活性化する酵素の具体例としては、レポーター酵素として一般的に使用されているもの、例えば、βグルクロニダーゼ(4量体で活性化)、βガラクトシダーゼ(4量体で活性化)、アルカリフォスファターゼ(2量体で活性化)、リンゴ酸脱水素酵素(2量体で活性化)などを挙げることができる。
[0030]
 単量体間の結合親和性を低下させる変異としては、単量体間の結合部位に導入されている変異を挙げることができる。多量体の形成により活性化する酵素の多くは、そのアミノ酸配列や単量体間の結合部位が明らかになっているので、当業者は、どのような変異を導入すれば単量体間の結合親和性を低下させることができるかを理解している。親和性の低下の程度は、単量体間の結合親和性の低下により、多量体が形成しにくくなり、それにより野生型酵素との活性の違いを認識できる程度であればよい。単量体間の結合親和性を低下させる変異が導入された変異体には、単量体間のすべての結合の親和性が低下したもののほか、単量体間の一部の結合の親和性のみが低下したものも含まれる。従って、後述するβグルクロニダーゼの変異体のように、2量体を形成するが、4量体を形成しにくいような変異体も、この単量体間の結合親和性を低下させる変異が導入された変異体に含まれる。
[0031]
 単量体間の結合親和性を低下させた変異体の具体例としては、大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における516番目のメチオニン及び/又は517番目のチロシンが他のアミノ酸に置換された変異体を挙げることができる。516番目のメチオニンと置換される他のアミノ酸としては、リジンを挙げることができ、517番目のチロシンと置換される他のアミノ酸としては、グルタミン酸を挙げることができる。
[0032]
 βグルクロニダーゼ変異体には、上述した単量体間の結合親和性を低下させる変異の他にも変異が導入されていてもよい。このような変異としては、熱安定性を向上させる変異を例示できる。どのような変異を導入すればβグルクロニダーゼの熱安定性が向上するかは多くの文献(例えば、Flores H. et al., J Mol Biol. 2002 Jan 18;315(3):325-37)に記載されているので、当業者であればそれらの文献に従って変異を特定することができる。βグルクロニダーゼの熱安定性を向上させる変異の具体例としては、大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における27番目のアスパラギンがチロシンに置換される変異、51番目のフェニルアラニンがチロシンに置換される変異、64番目のアラニンがバリンに置換される変異、185番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換される変異、349番目のイソロイシンがフェニルアラニンに置換される変異、369番目のアスパラギンがセリンに置換される変異、525番目のチロシンがフェニルアラニンに置換される変異、559番目のグリシンがセリンに置換される変異、567番目のリジンがアルギニンに置換される変異、582番目のフェニルアラニンがチロシンに置換される変異、585番目のグルタミンがヒスチジンに置換される変異、601番目のグリシンがアスパラギン酸に置換される変異(これらの変異は、Flores H. et al., J Mol Biol. 2002 Jan 18;315(3):325-37の変異体IV-5に含まれる変異である。)を挙げることができる。なお、上述したアミノ酸の変異の位置は、大腸菌由来のβグルクロニダーゼのアミノ酸配列における位置を示すので、他の生物由来のβグルクロニダーゼのアミノ酸配列では、上述した位置に該当するアミノ酸が存在しない場合もある。このような場合には、アミノ酸配列の同一性に基づいて、大腸菌由来のβグルクロニダーゼのアミノ酸配列と整列させ、それによってアミノ酸の変異の位置を特定する。大腸菌由来の野生型のβグルクロニダーゼのアミノ酸配列を配列番号1に示す。
[0033]
 好適なβグルクロニダーゼ変異体の具体例としては、大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における516番目のメチオニンがリジンに置換され、517番目のチロシンがグルタミン酸に置換された変異体(国際公開第2017/130610号に記載されている変異体)や大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における51番目のフェニルアラニンがチロシンに置換され、64番目のアラニンがバリンに置換され、185番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換され、516番目のメチオニンがリジンに置換され、525番目のチロシンがフェニルアラニンに置換され、559番目のグリシンがセリンに置換され、567番目のリジンがアルギニンに置換され、585番目のグルタミンがヒスチジンに置換され、601番目のグリシンがアスパラギン酸に置換された変異体を挙げることができる。
[0034]
 本発明における膜貫通ドメインは、融合タンパク質が小胞の脂質膜を貫通できるようにするものであればどのようなものでもよい。本発明における膜貫通ドメインとしては、天然の膜タンパク質の膜貫通ドメインの全部又は一部をそのまま使用することができるが、それらに変異を導入したものを使用してもよい。好適な膜貫通ドメインとしては、ヒト上皮成長因子受容体(EGFR)の膜貫通ドメインを挙げることができる。
[0035]
 本発明におけるペプチドは特定のものに限定されないが、アミノ酸残基数が多いと小胞の外部に露出し難くなるため、短いペプチドであることが好ましい。具体的には、ペプチドのアミノ酸残基数は、3~25が好ましく、5~20がより好ましい。また、ペプチドは、タンパク質タグ、例えば、Hisタグ、Spyタグ002(Keeble AH et al., Angew Chem Int Ed Engl. 2017 Dec 22;56(52):16521-16525)、Snoopタグ (Vegginiani F et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 113(5):1202-1207, 2016)、HAタグ、mycタグ、FLAGタグであることが好ましい。
[0036]
 融合タンパク質では、多量体の形成により活性化する酵素の変異体、膜貫通ドメイン、ペプチドの順に配置されるが、多量体の形成により活性化する酵素の変異体がN末端でペプチドがC末端でもよく、逆に、多量体の形成により活性化する酵素の変異体がC末端でペプチドがN末端でもよい。
[0037]
 融合タンパク質は、多量体の形成により活性化する酵素の変異体、膜貫通ドメイン、ペプチドの三者のみからなっていてもよいが、他のペプチドやタンパク質などを含んでいてもよい。また、融合タンパク質は、多量体の形成により活性化する酵素の変異体と膜貫通ドメインとの間及び/又は膜貫通ドメインとペプチドとの間に、リンカーを含んでいてもよい。リンカーは、多量体の形成により活性化する酵素の変異体、膜貫通ドメイン、ペプチドを正常に機能させることのできるものであればどのようなものでもよい。リンカーの長さは、使用する酵素、膜貫通ドメイン、ペプチドの種類により異なるが、通常は、10~60Åであり、好ましくは、30~40Åである。リンカーのアミノ酸の数は、前記した長さになるようなアミノ酸数であればよいが、通常は、5~50であり、好ましくは、15~20である。リンカーのアミノ酸配列は、融合タンパク質の作製の際に使用される一般的なリンカーのアミノ酸配列と同様のものでよい。具体的には、Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(G 4S)の繰り返し配列(繰り返し数は通常2~5)、Glu-Ala-Ala-Ala-Lys (EAAAK)の繰り返し配列、Asp-Asp-Ala-Lys-Lys (DDAKK)の繰り返し配列などを挙げることができる。
[0038]
 多量体の形成により活性化する酵素の変異体は、融合タンパク質中に一つ含まれればよいが、二つ含まれていてもよく、またそれ以上含まれていてもよい。前記酵素の変異体が二つ含まれる場合、これらはリンカーを介して隣接するように配置される。このとき使用されるリンカーは、上述したリンカーと同様のものでよい。
[0039]
 脂質膜から構成される小胞は、人工細胞などに使用されるリポソームと同様のものでよい。脂質膜の成分は、一般的なリポソームの膜の成分と同様のものでよく、例えば、リン脂質やコレステロールなどである。リン脂質としては、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)を挙げることができ、これらの中ではPOPCを使用するのが好ましい。小胞の大きさは、人工細胞などに使用されるリポソームと同程度の大きさでよい。小胞は、一般的なリポソームと同様の方法で作製することができる。
[0040]
 本発明のバイオセンサーは、融合タンパク質と小胞を含むが、これら以外のものを含んでいてもよい。例えば、多量体の形成により活性化する酵素がβグルクロニダーゼである場合、膜貫通ドメインを持たない融合タンパク質が小胞中に含まれていることが好ましい。これは、以下の理由からである。βグルクロニダーゼは4量体を形成することにより活性型になるが、抗体の存在により、二つの融合タンパク質が近接しても、融合タンパク質には通常1分子のβグルクロニダーゼ変異体しか含まれないので、形成されるのは2量体であり、4量体は形成されない。このとき、小胞内に膜貫通ドメインを持たない融合タンパク質が存在すれば、それらは、上記2量体に更に結合し、4量体を形成することができる。
[0041]
 本発明のバイオセンサーは、以下のような利点を有する。
1)ホモジニアス測定が可能であり、簡便かつ迅速に抗体を測定できる。
2)酵素反応は小胞内の狭い空間内で行われるので、反応生成物が希釈されず、抗体を高感度で測定することができる。
3)抗体の結合した小胞は蛍光などのシグナルを発し、抗体の結合しない小胞はシグナルを発しないので、シグナルを2値化することができ、測定誤差の影響を低減することができる。
[0042]
(B)バイオセンサーの製造方法
 本発明のバイオセンサーの製造方法は、上記抗体検出バイオセンサーの製造方法であって、下記の工程(1)~(5)を含むことを特徴とするものである。
[0043]
 工程(1)では、多量体の形成により活性化する酵素の変異体と膜貫通ドメインとペプチドとを含有する融合タンパク質を発現するベクター、無細胞転写に必要な試薬、及び無細胞翻訳に必要な試薬を含む水溶液を調製する。
[0044]
 上記融合タンパク質を発現するベクターとしては、融合タンパク質をコードする遺伝子を市販の発現ベクターに挿入したものを使用することができる。無細胞転写に必要な試薬としては、一般的な無細胞転写反応において使用される試薬を使用でき、例えば、リボヌクレオチド、RNAポリメラーゼ、転写補助因子などを挙げることができる。無細胞翻訳に必要な試薬としては、一般的な無細胞翻訳反応において使用される試薬を使用でき、例えば、アミノ酸、リボソーム、翻訳補助因子などを挙げることができる。無細胞転写に必要な試薬及び無細胞翻訳に必要な試薬は、市販されているので、市販品を使用してもよい。ベクター及び試薬の水溶液中の濃度は特に限定されず、一般的な無細胞転写反応及び無細胞翻訳反応における濃度と同様の濃度でよい。
[0045]
 工程(2)では、工程(1)で調製した水溶液を、リン脂質及びコレステロールを含む油相に分散させ、W/Oエマルションを生成させる。
[0046]
 油相に分散させる水溶液の量は、W/Oエマルションを生成させることができる量であれば特に限定されない。油相中のリン脂質及びコレステロールの濃度は特に限定されず、W/Oエマルションを生成させる一般的な方法における濃度と同様の濃度でよい。
[0047]
 工程(3)では、工程(2)で生成させたW/Oエマルションを、水溶液上に重層し、遠心分離によって沈降させることによって、内部に上記ベクター及び上記試薬を含むリポソームを水溶液中に形成させる。
[0048]
 水溶液は、W/Oエマルション(油相)に対して水相を形成できるものであればどのようなものでもよい。遠心分離の条件は特に限定されず、リポソームを形成させる一般的な方法における条件と同様の条件でよい。
[0049]
 工程(4)では、工程(3)で形成させたリポソームを回収する。リポソームを回収する方法は特に限定されず、例えば、チューブ内の上部に油相、下部に水相を形成させ、遠心分離を行った場合は、チューブの底部を穿孔し、リポソームを回収することができる。
[0050]
 工程(5)では、工程(4)で回収したリポソーム内で、転写及び翻訳反応を進行させる。
[0051]
(C)抗体の検出方法
 本発明の抗体の検出方法は、試料中の抗体を検出する方法であって、試料を上記の抗体検出バイオセンサーと接触させる工程、及び多量体の形成を酵素活性の変化により検出する工程を有することを特徴とするものである。
[0052]
 試料は、検出対象とする抗体が含まれる可能性があるものであればどのようなものでもよい。
[0053]
 試料とバイオセンサーの接触方法は特に限定されないが、通常は、溶液中に試料とバイオセンサーを共存させることにより行う。この接触工程における温度、時間、溶液のpH、使用するバイオセンサーの量などの条件は、バイオセンサーに含まれる酵素において一般的に使用されている条件でよい。例えば、酵素がβグルクロニダーゼの変異体を含む場合、この接触工程における温度は20~37℃ぐらいが好ましく、接触させている時間は10~60分ぐらいが好ましく、溶液のpHは6.8~7.5ぐらいが好ましく、溶液中のバイオセンサーの濃度は10~100 nMぐらいが好ましい。
[0054]
 多量体の形成は、バイオセンサー中に含まれる酵素変異体の活性の変化(上昇又は発現)により検出することができる。バイオセンサー中に含まれる酵素変異体の活性は、その酵素において一般的に使用される活性測定法によって測定できる。例えば、バイオセンサーに含まれる酵素変異体がβグルクロニダーゼの変異体である場合、発色基質又は蛍光基質を加え、その基質から生成する物質を定量することにより、活性を測定できる。βグルクロニダーゼの発色基質としてはX-Gluc、4-ニトロフェニルα-グルコピラノシド、4-ニトロフェニルβ-D-グルクロニドなどを挙げることができ、蛍光基質としては4-メチルウンベリフェニル-β-D-グルクロニド、フルオレセインジ-β-D-グルクロニド、フルオレセインジ-β-D-グルクロニド、ジメチルエステルなどを挙げることができる。これらの基質から生成する物質の定量は、特定の波長の吸光度、蛍光強度などを測定することにより行うことができる。例えば、基質が4-ニトロフェニルβ-D-グルクロニドであれば405 nm付近の吸光度の測定により生成物を定量でき、また、基質が4-メチルウンベリフェニル-β-D-グルクロニドであれば340 nmの蛍光で励起し、480 nm付近の蛍光強度の測定により生成物を定量できる。但し、基質がフルオレセインジ-β-D-グルクロニド、ジメチルエステルのように膜透過性であり、生産物の蛍光物質がフルオレセインのように水溶性であると、リポソーム外から基質を加えて反応させ、各リポソーム内の生産物の蛍光を個別に検出することができて好ましい。
[0055]
(D)抗原検出バイオセンサー
 本発明の抗原検出バイオセンサーは、上記の本発明の抗体検出バイオセンサーにおける小胞の外部に露出するペプチド部分に、抗体可変領域と前記ペプチドに親和性を示すタンパク質とを含有する融合タンパク質を結合させたものであり、より具体的には、抗体可変領域に結合する抗原を検出するためのバイオセンサーであって、1)多量体の形成により活性化する酵素の変異体と膜貫通ドメインとペプチドとを含有する第一の融合タンパク質、2)前記抗体可変領域と前記ペプチドに親和性を示すタンパク質とを含有する第二の融合タンパク質、及び3)脂質膜から構成される小胞を含み、A)前記酵素の変異体は単量体間の結合親和性を低下させる変異が導入された変異体であること、B)前記膜貫通ドメインは前記小胞の脂質膜を貫通すること、C)前記多量体の形成により活性化する酵素の変異体は前記小胞の内部に露出すること、D)前記ペプチドは前記小胞の外部に露出すること、及びE)ペプチドに親和性を示す前記タンパク質は、前記小胞の外部に露出した前記ペプチドと結合することを特徴とするバイオセンサーである。
[0056]
 本発明のバイオセンサーにより、試料中の抗原を検出する原理を以下に記載する。このバイオセンサーは、第一の融合タンパク質、第二の融合タンパク質、及び小胞を含んでいる。第一の融合タンパク質は小胞の脂質膜を貫通し、ペプチド部分は小胞の外部に露出し、酵素部分は小胞の内部に露出する。また、第二の融合タンパク質におけるペプチドに親和性を示すタンパク質部分は、第一の融合タンパク質におけるペプチド部分と結合するので、小胞は、抗体可変領域を外部に露出することになる。試料中に抗原が存在しない場合、酵素は、単量体間の結合親和性を低下させる変異が導入されているため、多量体を形成せず、活性化しない。このため、酵素基質が存在しても、蛍光物質などの反応生成物はほとんど生成しない。一方、試料中に抗原が存在する場合、小胞の外部に露出した二つの抗体可変領域が抗原に引き寄せられる。抗体可変領域は、小胞内部の酵素部分と間接的に連結しているので、二つの抗体可変領域が抗原に引き寄せられることにより、小胞内部の酵素部分が結合し、多量体を形成し、活性化する。活性化した酵素によって小胞内に反応生成物が生じるが、この反応生成物は小胞内で濃縮されるので、微量であっても容易に検出することができる。また、このような酵素の活性化は、小胞ごとに起きるので、抗原の量が非常に多い場合を除き、反応生成物を生成する小胞と反応生成物を生成しない小胞とが生じる。反応生成物を生成する小胞の数は、抗原の量に応じて多くなるので、抗原量を小胞の「数」として捉えることが可能になる。
[0057]
 多量体の形成により活性化する酵素の変異体、膜貫通ドメイン、ペプチド、及び小胞は、上記の本発明の抗体検出バイオセンサーと同様のものを使用することができる。
[0058]
 ペプチドに親和性を示すタンパク質は特に限定されず、ペプチドの種類に応じて適宜選択することができる。ペプチドとペプチドに親和性を示すタンパク質の組み合わせの例としては、SpyタグとSpyキャッチャーを挙げることができる。SpyタグとSpyキャッチャーを混合すると、これらはイソペプチド結合を形成する(Keeble AH et al., Angew Chem Int Ed Engl. 2017 Dec 22;56(52):16521-16525)。Spyタグの代わりに、Spyキャッチャーと結合可能なSpyタグの誘導体を使用することができ、また、Spyキャッチャーの代わりに、Spyタグと結合可能なSpyキャッチャーの誘導体を使用することもできる。また、これと直交性のあるSnoopタグとSnoopキャッチャーのペア(Vegginiani F et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 113(5):1202-1207, 2016)を、SpyタグとSpyキャッチャーの代わりに、あるいは同時に用いることもできる。SnoopタグとSnoopキャッチャーについても、SpyタグとSpyキャッチャーと同様に、SnoopタグとSnoopキャッチャーの代わりに、これらの誘導体を使用することができる。
[0059]
 抗体可変領域としては、通常の抗体(IgG)のV H領域やV L領域、一本鎖抗体scFvあるいはFab領域を使用することができるが、抗原結合により二量体を形成するVHH(ラクダ類由来のH鎖抗体)(Chang HJ et al., ACS Synth Biol. 2018 Jan 19;7(1):166-175、Sonneson GJ et al., Biochemistry. 2009 Jul 28;48(29):6693-5)を使用するのが好ましい。抗体可変領域は、検出対象とする抗原に応じて任意の抗体の可変領域を選択することができ、特定の抗体の可変領域に限定されない。具体的には、後述する検出対象とする抗原と特異的に結合する抗体の可変領域を使用することができる。
[0060]
 第二の融合タンパク質は、抗体可変領域及びペプチドに親和性を示すタンパク質のみからなっていてもよいが、他のペプチドやタンパク質などを含んでいてもよい。また、第二の融合タンパク質は、抗体可変領域及びペプチドに親和性を示すタンパク質膜との間にリンカーを含んでいてもよい。リンカーは、上記の抗体検出バイオセンサーにおける融合タンパク質中に含まれるリンカーと同様のものでよい。
[0061]
(E)抗原の検出方法
 本発明の抗原の検出方法は、試料中の抗原を検出する方法であって、試料を上記のバイオセンサーと接触させる工程、及び多量体の形成を酵素活性の変化により検出する工程を有することを特徴とするものである。
[0062]
 検出対象とする抗原は特に限定されず、低分子化合物(例えば、分子量が1000以下の化合物)を検出対象としてもよく、タンパク質などの高分子化合物を検出対象としてもよい。高分子のタンパク質の検出は、二つの一本鎖抗体やFab断片などを用いて,行うことができる。また、本発明の方法は、疾患の診断、食品の毒性検査、環境分析などに利用できるので、これらに関連する物質を検出対象とすることが好ましい。具体的には、イミダクロプリドなどのネオニコチノイド系農薬、ポリ塩化ビフェニル、ビスフェノールAなどの環境汚染物質、マイコトキシンなどの毒性物質、オステオカルシン(骨粗鬆症の診断に有効)、コルチコイド、エストラジオール、アルドステロン、リゾチーム(ニワトリ卵白リゾチームなど)などの生体物質、ジゴキシンなどの薬剤となどを挙げることができる。
[0063]
 試料は、検出対象とする抗原が含まれる可能性があるものであればどのようなものでもよく、例えば、ヒトからの採取物(血液、唾液、尿など)、汚染の可能性のある水や土壌、食品や食品の原料などを挙げることができる。
[0064]
 試料とバイオセンサーの接触方法、及び多量体の形成の検出方法は、上記の抗体検出バイオセンサーと同様に行うことができる。
実施例
[0065]
 以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
[0066]
(A)方法
(1)発現ベクターの構築
 ヒトEGFR膜貫通ドメイン(TM)をコードするcDNAを2つのプライマー(His_TM_Back:TGCACCATCATCATCATCATCATCATATCGCCACTGGGATG(配列番号2)、TM_Hind_Forward:CACCGCCACCAAGCTTCATGAAGAGGCCGATCCC(配列番号3))とテンプレートとしてpCO12-EGFR(Riken gene bank)を用いて常法に従いPCRにより増幅した。またHis 6(CACCATCATCATCATCAT)(配列番号4)をコードするDNAを、オーバーラップする二つのプライマー(His_NdeI_Back:AAGGAGATATACATATGCACCATCATCATCATCAT(配列番号5)およびHis_Hind_Forward:ACCGCCACCAAGCTTATGATGATGATGATGGTGCA(配列番号6))を用いたサーマルサイクリングにより構築した。His 6-TM融合配列は、His_NdeI_BackおよびTM_Hind_Forwardをプライマーとし、前のステップで得られたHis 6およびTM DNAをテンプレートとして用いたオーバーラップ伸長PCRによって構築した。
[0067]
 このようにして構築されたHis 6およびHis 6-TM遺伝子は、In-Fusion HDクローニングキット(Clontech、Takara-Bio)を用いてGUS_IV5_KY遺伝子をコードするNdeI / HindIII消化した直鎖状pET32ベクターに挿入され、2種類の発現ベクター His 6-GUS_IV5_KYおよびHis 6-TM-GUS_IV5_KYが得られた(図1)。なお、GUS_IV5_KY遺伝子は、N27Y、F51Y、A64V、D185N、I349F、N369S、M516K、Y525F、G559S、K567R、F582Y、Q585H、及びG601Dの13の変異を含む大腸菌GUSの変異体をコードする遺伝子である。
[0068]
(2)試験管内転写/翻訳反応
 His 6-GUS_IV5_KYおよびHis 6-TM-GUS_IV5_KYベクター(1:1)(合計0.1μg)、PUREfrex (登録商標、ジーンフロンティア)1.0(溶液I 10μL、溶液II 1μLおよび溶液III 1μL)、RNase阻害剤(和光純薬20 unit/μL x 1μL)、GSSG(3 mM)、及びスクロース(330 mM)に、Milli-Q水を加えて全容量を20μLにした。
[0069]
(3)W/Oエマルション
(3.1)1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC、日油)およびコレステロール(和光純薬)をクロロホルム(和光純薬)に,それぞれ100 mg/mLになるよう溶解した。
(3.2)最後の工程で得られたクロロホルム溶液に流動パラフィン(和光純薬)を添加することにより、POPCおよびコレステロールを最終濃度5 mg/mLになるよう希釈した。
(3.3)クロロホルムを除去するために80℃20分間加熱した。
(3.4)POPCとコレステロールを9:1の重量比で混合した。
(3.5)混合液を80℃で20分間加熱して残留クロロホルムを除去した。
(3.6)20μLの反応混合物をPOPC /コレステロール溶液400μLと30秒間ボルテックスして混合し、W/Oエマルションを得た。
[0070]
(4)リポソーム懸濁液の調製
(4.1)150μLの希釈緩衝液(100 mM HEPES pH 7.6、280 mMグルタミン酸カリウム、20 mM Mg(OAc) 2、NTP (3.75 mM ATP、2.5 mM GTP、1.35 mM CTP、1.35 mM UTP、20アミノ酸(各0.3 mMのTyrとCysを除く)、15 mMのクレアチンリン酸、330 mMのグルコース、3 mMのGSSG、20μg/mLウシ膵臓RNase (Sigma-Aldrich))をマイクロチューブに入れた。
(4.2)二相系を4℃で18,000 gで30分間遠心分離して、水相(希釈緩衝液)中に巨大単層リポソームを形成させた。
(4.3)18 G×1 1/2インチ針を備えたシリンジを用いてチューブの底部を穿孔することによって、水相(リポソーム懸濁液)を収集した。
[0071]
(5)酵素活性の検出
(5.1)リポソーム懸濁液を37℃で2~4時間インキュベートした。
(5.2)18,000gで30分間遠心分離し、上清を捨て、リポソームを再懸濁するために150μLの希釈緩衝液を添加した。
(5.3)リポソーム懸濁液に抗His抗体(0.1μM、抗His 6 Mab28-75, 和光純薬)および0.1 mg/mLフルオレセインジ-β-D-グルクロニド、ジメチルエステル(Marker Gene Technologies)を添加し、約10分間室温で反応させ倒立蛍光顕微鏡(オリンパスIX71、x10接眼レンズ、x60対物レンズ、Ex.460~480 nm、Em. 495~540 nm)下で観察した。
[0072]
(B)結果
 His 6-GUS_IV5_KYおよびHis 6-TM-GUS_IV5_KYベクターを発現させた場合、リポソームは抗His抗体存在下で蛍光を発したが(図2及び図3の左から3番目)、抗His抗体非存在下では蛍光を発しなかった(図2及び図3の左から2番目)。抗His抗体存在下でリポソームが蛍光を発したのは、抗His抗体とHis 6部分の相互作用により、二つのHis 6-TM-GUS_IV5_KY融合タンパク質が近接し、更にこれらに二つのHis 6-GUS_IV5_KY融合タンパク質が近接し、活性型の4量体GUSが形成されたためであると考えられる(図4)。リポソームが蛍光を発するためには、融合タンパク質のGUS_IV5_KY部分は、リポソームの内部に存在しなければならず、また、融合タンパク質のHis 6部分が抗His抗体と相互作用をするためには、この部分はリポソームの外部に存在しなければならない。従って、抗His抗体存在下でのみ蛍光が観察されたということは、融合タンパク質のGUS_IV5_KY部分はリポソーム内部に、His 6部分はリポソーム外部に存在していたことを示す。一方、ベクターを発現させない場合、リポソームの蛍光は観察されず(図2及び図3の左から1番目)、また、野生型GUSを含むベクターを発現させた場合、抗His抗体非存在下でもリポソームの蛍光は観察された(図2及び図3の左から4番目)。
[0073]
 融合タンパク質中の膜貫通ドメインの機能を調べるため、膜貫通ドメインをコードする配列を含まないHis 6-GUS_IV5_KYベクターのみを発現させ、リポソームが蛍光を発するかどうかを調べた。図5右上の画像が示すように、His 6-GUS_IV5_KYベクターのみを発現させた場合は、抗His抗体を加えても、蛍光は観察されなかった。
[0074]
 本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。

産業上の利用可能性

[0075]
 本発明は、バイオセンサーに関するものなので、このようなバイオセンサーを取り扱う産業分野に利用可能である。

請求の範囲

[請求項1]
 ペプチドに結合する抗体を検出するためのバイオセンサーであって、1)多量体の形成により活性化する酵素の変異体と膜貫通ドメインと前記ペプチドとを含有する融合タンパク質、及び2)脂質膜から構成される小胞を含み、A)前記酵素の変異体は単量体間の結合親和性を低下させる変異が導入された変異体であること、B)前記膜貫通ドメインは前記小胞の脂質膜を貫通すること、C)前記多量体の形成により活性化する酵素の変異体は前記小胞の内部に露出すること、及びD)前記ペプチドは前記小胞の外部に露出することを特徴とするバイオセンサー。
[請求項2]
 多量体の形成により活性化する酵素の変異体が、βグルクロニダーゼの変異体であることを特徴とする請求項1に記載のバイオセンサー。
[請求項3]
 βグルクロニダーゼの変異体が、大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における51番目のフェニルアラニンがチロシンに置換され、64番目のアラニンがバリンに置換され、185番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換され、516番目のメチオニンがリジンに置換され、525番目のチロシンがフェニルアラニンに置換され、559番目のグリシンがセリンに置換され、567番目のリジンがアルギニンに置換され、585番目のグルタミンがヒスチジンに置換され、601番目のグリシンがアスパラギン酸に置換された変異体であることを特徴とする請求項2に記載のバイオセンサー。
[請求項4]
 膜貫通ドメインが、上皮成長因子受容体の膜貫通ドメインであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のバイオセンサー。
[請求項5]
 脂質膜が、リン脂質とコレステロールを含む脂質膜であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のバイオセンサー。
[請求項6]
 ペプチドが、Hisタグ、Spyタグ、Snoopタグ、HAタグ、mycタグ、又はFLAGタグであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のバイオセンサー。
[請求項7]
 以下の工程(1)~(5)を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のバイオセンサーの製造方法、
(1)多量体の形成により活性化する酵素の変異体と膜貫通ドメインとペプチドとを含有する融合タンパク質を発現するベクター、無細胞転写に必要な試薬、及び無細胞翻訳に必要な試薬を含む水溶液を調製する工程、
(2)工程(1)で調製した水溶液を、リン脂質及びコレステロールを含む油相に分散させ、W/Oエマルションを生成させる工程、
(3)工程(2)で生成させたW/Oエマルションを、水溶液上に重層し、遠心分離によって沈降させることによって、内部に前記ベクター及び前記試薬を含むリポソームを水溶液中に形成させる工程、
(4)工程(3)で形成させたリポソームを回収する工程、
(5)工程(4)で回収したリポソーム内で、転写及び翻訳反応を進行させる工程。
[請求項8]
 試料中の抗体を検出する方法であって、試料を請求項1乃至6のいずれか一項に記載のバイオセンサーと接触させる工程、及び多量体の形成を酵素活性の変化により検出する工程を有することを特徴とする抗体の検出方法。
[請求項9]
 抗体可変領域に結合する抗原を検出するためのバイオセンサーであって、1)多量体の形成により活性化する酵素の変異体と膜貫通ドメインとペプチドとを含有する第一の融合タンパク質、2)前記抗体可変領域と前記ペプチドに親和性を示すタンパク質とを含有する第二の融合タンパク質、及び3)脂質膜から構成される小胞を含み、A)前記酵素の変異体は単量体間の結合親和性を低下させる変異が導入された変異体であること、B)前記膜貫通ドメインは前記小胞の脂質膜を貫通すること、C)前記多量体の形成により活性化する酵素の変異体は前記小胞の内部に露出すること、D)前記ペプチドは前記小胞の外部に露出すること、及びE)ペプチドに親和性を示す前記タンパク質は、前記小胞の外部に露出した前記ペプチドと結合することを特徴とするバイオセンサー。
[請求項10]
 多量体の形成により活性化する酵素の変異体が、βグルクロニダーゼの変異体であることを特徴とする請求項9に記載のバイオセンサー。
[請求項11]
 βグルクロニダーゼの変異体が、大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における51番目のフェニルアラニンがチロシンに置換され、64番目のアラニンがバリンに置換され、185番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換され、516番目のメチオニンがリジンに置換され、525番目のチロシンがフェニルアラニンに置換され、559番目のグリシンがセリンに置換され、567番目のリジンがアルギニンに置換され、585番目のグルタミンがヒスチジンに置換され、601番目のグリシンがアスパラギン酸に置換された変異体であることを特徴とする請求項10に記載のバイオセンサー。
[請求項12]
 膜貫通ドメインが、上皮成長因子受容体の膜貫通ドメインであることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか一項に記載のバイオセンサー。
[請求項13]
 脂質膜が、リン脂質とコレステロールを含む脂質膜であることを特徴とする請求項9乃至12のいずれか一項に記載のバイオセンサー。
[請求項14]
 ペプチドがSpyタグ、Snoopタグ又はその誘導体であり、ペプチドに親和性を示すタンパク質がSpyキャッチャー、Snoopキャッチャー又はその誘導体であることを特徴とする請求項9乃至13のいずれか一項に記載のバイオセンサー。
[請求項15]
 抗体可変領域が、ラクダ属重鎖抗体由来VHHであることを特徴とする請求項9乃至14のいずれか一項に記載のバイオセンサー。
[請求項16]
 試料中の抗原を検出する方法であって、試料を請求項9乃至15のいずれか一項に記載のバイオセンサーと接触させる工程、及び多量体の形成を酵素活性の変化により検出する工程を有することを特徴とする抗原の検出方法。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]