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1. WO2020012843 - ポリエステル系繊維、それを用いたパイル布帛、及びそれらの製造方法

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明 細 書

発明の名称 ポリエステル系繊維、それを用いたパイル布帛、及びそれらの製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004  

先行技術文献

特許文献

0005  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0006   0007  

課題を解決するための手段

0008   0009   0010   0011   0012   0013   0014   0015  

発明の効果

0016  

図面の簡単な説明

0017  

発明を実施するための形態

0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046  

実施例

0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077  

符号の説明

0078  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10   11   12  

図面

1   2   3   4   5  

明 細 書

発明の名称 : ポリエステル系繊維、それを用いたパイル布帛、及びそれらの製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、パイル布帛の立毛表層部に対して優れた捲縮除去性を付与することができるポリエステル系繊維、それを用いたパイル布帛、及びそれらの製造方法に関する。

背景技術

[0002]
 天然毛皮に似せた人工毛皮としてのパイル布帛(立毛布帛とも称される)には、従来から風合いや光沢が獣毛によく似ているアクリル繊維及び/又はアクリル系繊維がパイル繊維として、幅広く使用されている。一方、アクリル繊維およびアクリル系繊維は、弾力性に乏しく、腰がないため、これらの繊維を用いたパイル布帛は、使用中のへたり回復性やボリューム感に乏しく、天然毛皮とは乖離があった。
[0003]
 そこで、ポリエステル系繊維をパイル繊維として使用することが提案されているが、ポリエステル系繊維を用いたパイル布帛は、へたり回復性やボリューム感に優れているものの、パイル布帛作製時のポリッシング処理の温度が低いと立毛表層部のパイル繊維の捲縮が十分に除去されず、パイル繊維同士のからまりでゴワゴワな触感となり、さらには毛割れが生じて、触感と外観共に天然毛皮とは乖離があった。一般的にポリエステル系繊維を用いたパイル布帛のポリッシングには200℃近い温度が必要と言われており、耐熱性の観点から、従来から使用されているアクリル繊維及びアクリル系繊維との併用が困難であった。
[0004]
 そこで、特許文献1では、繊維断面、繊度、繊維長、捲縮数、捲縮率及び捲縮堅牢度等を調整することでポリエステル系繊維の捲縮除去性を改善することが提案されている。特許文献2では、製糸工程において、1~7%の制限収縮条件下で160~230℃の熱処理を施した後に捲縮を付与することで、ポリエステル系繊維のポリッシング処理での捲縮除去性を改善することが提案されている。

先行技術文献

特許文献

[0005]
特許文献1 : 特開昭60-162857号公報
特許文献2 : 特開平5-140860号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0006]
 しかしながら、特許文献1及び2で提案されているポリエステル系繊維をパイル布帛に用いた場合、いずれの場合も、ポリッシングには170℃から200℃程度の温度が必要であり、捲縮除去性をさらに改善する必要があった。
[0007]
 本発明は、上述した従来の問題を解決するため、パイル布帛の立毛表層部に160℃以下の比較的低温のポリッシング処理に対する高い捲縮除去性を付与するとともに、パイル布帛に良好な外観、及びへたり回復性・ボリューム感を付与することができるポリエステル系繊維、それを用いたパイル布帛、及びそれらの製造方法を提供する。

課題を解決するための手段

[0008]
 本発明は、1以上の実施形態において、捲縮を有するポリエステル系繊維であって、前記ポリエステル系繊維を垂直に吊り下げ、4mg/dtexの荷重下で90℃以上120℃以下の温度で60秒間乾熱処理した場合、熱処理後の4mg/dtex荷重下のポリエステル系繊維の繊維長と、熱処理後の無荷重下のポリエステル系繊維の繊維長の差が3%未満であることを特徴とするポリエステル系繊維に関する。
[0009]
 本発明の1以上の実施形態において、前記ポリエステル系繊維を耐圧容器内に3kPa以上20kPa以下の圧力をかけながら純水と共に充填し、98℃で60分間湿熱処理をし、湿熱処理後のポリエステル系繊維を垂直に吊り下げ、4mg/dtexの荷重下で90℃以上120℃以下の温度で60秒間乾熱処理した場合、熱処理後の4mg/dtex荷重下のポリエステル系繊維の繊維長と、熱処理後の無荷重下のポリエステル系繊維の繊維長の差が3%未満であることが好ましい。
[0010]
 本発明の1以上の実施形態において、前記ポリエステル系繊維のヤング率が4GPa以上であることが好ましい。本発明の1以上の実施形態において、前記ポリエステル系繊維の単繊維繊度が10dtex以下であることが好ましい。本発明の1以上の実施形態において、前記ポリエステル系繊維の繊維断面は扁平形状であり、繊維断面の長辺の長さ/繊維断面の短辺の長さの比で表される扁平比が2以上8以下であることが好ましい。
[0011]
 本発明は、1以上の実施形態において、ポリエステル系樹脂又はポリエステル系樹脂組成物を溶融紡糸した後に延伸した延伸糸に対して捲縮を付与する捲縮付与工程を有し、捲縮付与工程の前、捲縮付与工程の後、又は捲縮付与工程の前後において、延伸糸に対して熱処理を行うことがないか;捲縮付与工程の前、捲縮付与工程の後、又は捲縮付与工程の前後において、延伸糸に対して25℃以上120℃以下の温度で熱処理を行うか;或いは、捲縮付与工程の前において、延伸糸に対して100℃以上200℃以下の温度で熱処理を行い、かつ、捲縮付与工程の後において、延伸糸に対して25℃以上140℃以下の温度で熱処理を行うことを特徴とするポリエステル系繊維の製造方法に関する。
[0012]
 本発明の1以上の実施形態において、捲縮付与工程の後に、捲縮が付与された延伸糸を25℃以上120℃以下の温度で熱処理することが好ましい。
[0013]
 本発明は、1以上の実施形態において、前記のポリエステル系繊維をパイル部全体の30重量%以上含有するパイル布帛に関する。
[0014]
 本発明の1以上の実施形態のパイル布帛は、長パイル部及び短パイル部を含み、長パイル部の平均パイル長と短パイル部の平均パイル長の差が2mm以上であってもよい。本発明の1以上の実施形態のパイル布帛は、長パイル部がアクリロニトリルを35重量%以上95重量%未満含有するアクリル系共重合体で構成されたアクリル系繊維を含んでもよい。
[0015]
 本発明は、1以上の実施形態において、前記のパイル布帛の製造方法であって、90℃以上160℃以下の温度でポリッシングを行うことを特徴とするパイル布帛の製造方法に関する。

発明の効果

[0016]
 本発明によれば、パイル布帛の立毛表層部に90℃以上160℃以下の比較的低温のポリッシング処理に対する高い捲縮除去性を付与しつつ、パイル布帛に良好な外観、及びへたり回復性・ボリューム感を付与することができるポリエステル系繊維、それを用いたパイル布帛を提供することができる。
 また本発明の製造方法によれば、パイル布帛の立毛表層部に90℃以上160℃以下の比較的低温のポリッシング処理に対する高い捲縮除去性を付与しつつ、パイル布帛に良好な外観、及びへたり回復性・ボリューム感を付与することができるポリエステル系繊維、及びそれを用いたパイル布帛を作製することができる。

図面の簡単な説明

[0017]
[図1] 図1は、繊維断面の模式図を示しており、(A)は円形の繊維断面の模式図であり、(B)は長方形の繊維断面の模式図であり、(C)は楕円形の繊維断面の模式図であり、(D)は扁平多葉形の繊維断面の模式図であり、(E)はくびれ扁平形の繊維断面の模式図である。
[図2] 図2は、本発明の1以上の実施形態に係るパイル布帛の製造工程の1例を示すフロー図である。
[図3] 図3は、パイル布帛におけるポリエステル系繊維(パイル繊維)の捲縮除去性の評価基準を説明する説明図である。
[図4] 図4は、パイル布帛のへたり回復性・ボリューム感の評価基準を説明する説明図である。
[図5] 図5は、パイル布帛の外観評価基準を説明する説明図である。

発明を実施するための形態

[0018]
 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、捲縮付与工程の前、捲縮付与工程の後、又は捲縮付与工程の前後において、延伸糸に対して熱処理を行うことがないか;捲縮付与工程の前、捲縮付与工程の後、又は捲縮付与工程の前後において、延伸糸に対して25℃以上120℃以下の温度で熱処理を行うか;或いは、捲縮付与工程の前において、延伸糸に対して100℃以上200℃以下の温度で熱処理を行い、かつ、捲縮付与工程の後において、延伸糸に対して25℃以上140℃以下の温度で熱処理を行うことで、得られた捲縮を有するポリエステル系繊維を垂直に吊り下げ、4mg/dtexの荷重下で90℃以上120℃以下の温度で60秒間乾熱処理した場合、熱処理後の4mg/dtex荷重下のポリエステル系繊維の繊維長と、熱処理後の無荷重下のポリエステル系繊維の繊維長の差が3%未満となり、該繊維(クリンプトウと称す場合がある。)を用いたパイル布帛は90℃以上160℃以下の温度でポリッシングを行うことで、パイル布帛の表層部の捲縮が程よく除去され、外観が良好であるとともに、へたり回復性・ボリューム感も良好なパイル布帛を実現できることを見出した。本発明の1以上の実施形態において、「ポリエステル系繊維を垂直に吊り下げ、4mg/dtexの荷重下で90℃以上120℃以下の温度で60秒間乾熱処理した場合、熱処理後の4mg/dtex荷重下のポリエステル系繊維の繊維長と、熱処理後の無荷重下のポリエステル系繊維の繊維長の差が3%未満である」とは、90℃以上120℃以下の温度範囲において、ポリエステル系繊維を垂直に吊り下げ、4mg/dtexの荷重下で60秒間乾熱処理した場合、熱処理後の4mg/dtex荷重下のポリエステル系繊維の繊維長と、熱処理後の無荷重下のポリエステル系繊維の繊維長の差が3%未満であることを意味する。すなわち、90℃未満の温度で60秒間乾熱処理した場合、熱処理後の4mg/dtex荷重下のポリエステル系繊維の繊維長と、熱処理後の無荷重下のポリエステル系繊維の繊維長の差が3%未満となる場合と、120℃を超える温度で60秒間乾熱処理した場合、熱処理後の4mg/dtex荷重下のポリエステル系繊維の繊維長と、熱処理後の無荷重下のポリエステル系繊維の繊維長の差が3%未満となる場合を除外する意味である。
[0019]
 本発明の1以上の実施形態において、ポリエステル系繊維を構成するポリエステル系樹脂は、特に限定されず、例えば、ポリアルキレンテレフタレート及び/又はポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルを用いることができる。上記ポリアルキレンテレフタレートとしては、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等が挙げられる。中でも、熱特性の観点からポリエチレンテレフタレートが好ましい。上記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルとしては、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレートを主体とし、他の共重合成分を含有する共重合ポリエステル等が挙げられる。中でも、熱特性の観点からポリエチレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルが好ましい。本発明において、「主体」とは、50モル%以上含有される成分のことを意味し、「ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステル」は、ポリアルキレンテレフタレートを50モル%以上含有する共重合ポリエステルをいう。好ましくは、「ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステル」は、ポリアルキレンテレフタレートを60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上含有する。
[0020]
 上記他の共重合成分としては、例えばイソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スべリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の多価カルボン酸及びそれらの誘導体、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチル等のスルホン酸塩を含むジカルボン酸及びそれらの誘導体、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、4-ヒドロキシ安息香酸、ε-カプロラクトン、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテル等が挙げられる。これらの他の共重合成分は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
[0021]
 上記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルの具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸及び5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルからなる群から選ばれる一種以上の化合物を共重合したポリエステル等が挙げられる。
[0022]
 上記ポリアルキレンテレフタレート及び上記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、又はポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルを共重合したポリエステル、ポリエチレンテレフタレートを主体とし、1,4-シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステル、ポリエチレンテレフタレートを主体とし、イソフタル酸を共重合したポリエステル、及びポリエチレンテレフタレートを主体とし、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルを共重合したポリエステル等を単独又は2種以上組み合わせて用いることが好ましい。
[0023]
 上記ポリエステル系樹脂の固有粘度(IV値)は、特に限定されないが、0.3以上1.2以下であることが好ましく、0.4以上1.0以下であることがより好ましい。固有粘度が0.3以上であると、得られる繊維の機械的強度が低下しない。また、固有粘度が1.2以下であると、分子量が増大しすぎず、溶融粘度が高くなり過ぎることがなく、溶融紡糸が容易となるうえ、繊度も均一になりやすい。
[0024]
 上記ポリエステル系繊維を構成するポリエステル系樹脂には、必要に応じて、例えば、艶消し剤、滑剤、抗酸化剤、着色顔料、安定剤、難燃剤、強化剤等の添加剤を添加してもよい。艶消し剤としては、例えば、二酸化チタン等が挙げられる。滑剤としては、例えば、シリカやアルミナ等の微粒子が挙げられる。
[0025]
 上記ポリエステル系繊維は、捲縮(クリンプとも称される)を有する。本発明の1以上の実施形態において、上記捲縮は、ギアクリンプ法やスタフィングボックス法等の公知の捲縮付与方法で付与された捲縮を言い、特に限定されるものではない。上記ポリエステル系繊維の捲縮数は特に限定されないが、例えば、嵩高性及びカード通過性の観点から、捲縮数は5ヶ/25mm以上18ヶ/25mm以下であることが好ましく、8ヶ/25mm以上14ヶ/25mm以下であることがより好ましい。本発明の1以上の実施形態において、捲縮数は、JIS L-1015に従い測定したものである。
[0026]
 本発明の1以上の実施形態において、捲縮を有するポリエステル系繊維の形態は、特に限定されないが、例えば、フィラメント状態、ステープル状態、及びフィラメントが集合したトウ状態等が挙げられる。
[0027]
 上記ポリエステル系繊維は、捲縮除去性に優れており、ポリエステル系繊維を垂直に吊り下げ、4mg/dtexの荷重下で90℃以上120℃以下の温度で60秒間乾熱処理した場合、熱処理後の4mg/dtex荷重下のポリエステル系繊維の繊維長と、熱処理後の無荷重下のポリエステル系繊維の繊維長の差が3%未満である。「4mg/dtexの荷重下の繊維長と、無荷重下の繊維長の差が3%未満である」ということは、捲縮が除去されていることを意味している。すなわち、上記ポリエステル系繊維は、捲縮除去温度が90℃以上120℃以下である。本発明の1以上の実施形態において、ポリエステル系繊維の捲縮除去温度は、ポリエステル系繊維を9000dtexの繊維束となるように束ね、該繊維束の両端を試料長が約200mmになるように切り揃え、対流型熱風乾燥機内に垂直に吊るし、該繊維束に1dtexあたり4mgの荷重をかけ(具体的には、該繊維束の下端に重り36gを吊り下げる。)、50℃から10℃刻みで所定の温度下で60秒熱処理を行い、各々の熱処理後に、4mg/dtexの荷重がかかっている状態の繊維束の長さA及び荷重を取り除いた後の無荷重の状態の繊維束の長さBを測定し、その差(すなわち、下記数式(1)で算出される長さの変化率)が3%未満となる温度の最低値を求めることを5回行い、その平均値を算出したものである。
 長さの変化率(%)=(A-B)/A×100   (1)
[0028]
 言い換えると、本発明の1以上の実施形態において、上記ポリエステル系繊維は、以下の数式(2)を満たす最低温度(捲縮除去温度)が90℃以上120℃以下である。
 (A-B)/A×100<3   (2)
 ただし、式(2)において、Aは上記ポリエステル系繊維の繊維束に、1dtexあたり4mgの荷重をかけた状態で所定の温度下で60秒乾熱処理を行った後に、1dtexあたり4mgの荷重がかかっている状態の繊維束の長さを示し、Bは同様の操作を行った後に、荷重を取り除いたときの繊維束の長さを示す。
[0029]
 本発明の1以上の実施形態において、前記ポリエステル系繊維を耐圧容器内に3kPa以上20kPa以下の圧力をかけながら純水と共に充填し、98℃で60分間熱水処理をし、熱水処理後のポリエステル系繊維を垂直に吊り下げ、4mg/dtexの荷重下で90℃以上120℃以下の温度で60秒間乾熱処理した場合、熱処理後の4mg/dtex荷重下のポリエステル系繊維の繊維長と、熱処理後の無荷重下のポリエステル系繊維の繊維長の差が3%未満であることが好ましい。すなわち、本発明の1以上の実施形態において、上記ポリエステル系繊維を耐圧容器内に3kPa以上20kPa以下の圧力をかけながら純水と共に充填し、98℃で60分間熱水処理をした後においても、熱水処理後のポリエステル系繊維は、上記式(2)を満たす温度(捲縮除去温度)が90℃以上120℃以下であることが好ましい。
[0030]
 本発明において、ポリエステル系繊維の捲縮除去温度が90℃以上120℃以下であることにより、該ポリエステル系繊維は、パイル布帛加工工程の一つであるポリッシング工程において、90℃以上160℃以下という比較的低い温度範囲下で程よく捲縮が除去され、具体的には、パイル布帛の立毛表層部の捲縮のみが除去されやすく、それゆえ、外観が良好であり、へたり回復性・ボリューム感に優れたパイル布帛を得ることができる。捲縮除去温度が120℃を超える場合には、90℃以上160℃以下の低温下のポリッシング処理では捲縮除去が不十分でパイル繊維の捲縮がほとんど除去されず外観と触感が劣悪なパイル布帛となる。一方で、捲縮除去温度が90℃より低い場合には、90℃以上160℃以下の低温下のポリッシング処理でパイル繊維の捲縮がほとんど完全に除去されてしまいへたり回復性・ボリューム感に欠けたパイル布帛となる。上記ポリエステル系繊維が熱水処理後においても、捲縮除去温度が90℃以上120℃以下であると、熱水条件下での染色等の工程を経ても、90℃以上160℃以下の低温下のポリッシング工程において程よく捲縮が除去され、具体的には、パイル布帛の立毛表層部の捲縮のみが除去されやすく、それゆえ、外観が良好であり、へたり回復性・ボリューム感に優れたパイル布帛を得ることができる。
[0031]
 上記ポリエステル系繊維は、特に限定されないが、例えば、単繊維繊度が10dtex以下であることが好ましく、より好ましくは5dtex以下である。単繊維繊度が10dtexを超える場合は、ポリッシング処理において熱の伝わりが不十分となりやすく、捲縮を程よく除去するにはポリッシングの回数を増加させることが求められる場合がある。また、ポリッシングの回数が増えることでソフトな風合いが損なわれる恐れがある。また、上記ポリエステル系繊維は、特に限定されないが、毛さばき性の観点から、例えば、単繊維繊度が1dtex以上であることが好ましい。
[0032]
 上記ポリエステル系繊維は、特に限定されないが、例えば、断面形状が円形であってもよく、扁平形状であってもよい。パイル布帛のへたり回復性を高める観点から、上記ポリエステル系繊維は、繊維断面の長辺の長さ(b)が繊維断面の短辺の長さ(a)より大きい扁平形状であることが好ましく、繊維断面の長辺の長さ(b)が繊維断面の短辺の長さ(a)の2倍以上であることがより好ましい。上記ポリエステル系繊維は、特に限定されないが、例えば、パイル布帛のボリューム感を高める観点から、繊維断面の長辺の長さ(b)が繊維断面の短辺の長さ(a)の8倍以下であることが好ましく、6倍以下であることがより好ましい。繊維断面の長辺とは、繊維断面の最大長さ、すなわち、繊維断面の外周の任意の二点を結んだ直線のうち、最大長となる直線である。繊維断面の短辺とは、繊維断面の最大幅、すなわち、繊維断面の長辺に対して垂直になるように繊維断面の外周の任意の二つの点を結んだ際、最大長となる二つの点を結ぶ直線である。なお、円形の場合は、繊維断面の長辺の長さ(b)が繊維断面の短辺の長さ(a)は同じとなる。
[0033]
 上記ポリエステル系繊維の断面形状は、特に限定されないが、具体的には、円形(図1A)、並びに、扁平形状、例えば長方形(図1B)、楕円形状(図1C)、扁平多葉形状(図1D)、くびれ扁平形状(図1E)等が挙げられる。
[0034]
 本発明の1以上の実施形態において、上記ポリエステル系繊維は、捲縮付与工程の前、捲縮付与工程の後、又は、捲縮付与工程の前後において、延伸糸に対して熱処理を行うことがないか;捲縮付与工程の前、捲縮付与工程の後、又は、捲縮付与工程の前後において、延伸糸に対して25℃以上120℃以下の温度で熱処理を行うか;或いは、捲縮付与工程の前に、延伸糸に対して100℃以上200℃以下の温度で熱処理を行い、かつ、捲縮付与工程の後に、延伸糸に対して25℃以上140℃以下の温度で熱処理を行うこと以外は、通常のポリエステル系繊維と同様の製造方法で作製することができる。
[0035]
 本発明の1以上の実施形態において、「捲縮付与工程の前」とは、ポリエステル系繊維の延伸工程の終了から捲縮を付与する工程の開始までの期間を指し、「捲縮付与工程の後」とは捲縮を付与する工程の終了から最終的な捲縮を有するポリエステル系繊維を得るまでの期間を指す。例えば、「捲縮付与工程の後に、延伸糸に対して100℃で熱処理を行う」とあれば、100℃の熱処理は、捲縮を付与する工程の終了から最終的な捲縮を有するポリエステル系繊維を得るまでの間に行われる。捲縮付与工程の前後には熱処理工程以外の工程、例えば、油剤塗布工程や定長カット工程、巻返し工程等を含んでもよい。
[0036]
 捲縮付与工程の前、捲縮付与工程の後、又は、捲縮付与工程の前後に、延伸糸に対して熱処理を行うことがないか、或いは、捲縮付与工程の前、捲縮付与工程の後、又は、捲縮付与工程の前後に、延伸糸に対して25℃以上120℃以下の温度で熱処理を行うことにより、捲縮付与工程の前や後にポリエステル系繊維の結晶化が促進されず、それゆえ、捲縮除去温度が90℃以上120℃以下のポリエステル系繊維を得ることができ、上述したとおり、該ポリエステル系繊維をパイル布帛に用いることで、該ポリエステル系繊維はパイル布帛加工工程の90℃以上160℃以下の低温下のポリッシング工程において程よく捲縮が除去され、具体的には、パイル布帛の立毛表層部の捲縮のみが除去されやすく、それゆえ、外観が良好であり、へたり回復性・ボリューム感に優れたパイル布帛を得ることができる。
[0037]
 本発明の1以上の実施形態において、ポリエステル系繊維の収縮率を低減する観点から、捲縮付与工程の前には熱処理を行わず、捲縮付与工程の後において、延伸糸に対して25℃以上120℃以下の温度で熱処理を行うことが好ましく、60℃以上110℃以下の温度で熱処理することがより好ましく、80℃以上110℃以下の温度で熱処理することがさらに好ましい。熱処理の時間は、特に限定されないが、例えば、10分以上50分以下であってもよい。具体的には、捲縮付与工程の後の熱処理は、60℃以上110℃以下の温度で10分以上50分以下行うことが好ましく、より好ましくは80℃以上110℃以下で20分以上40分以下行う。捲縮付与工程の後においてのみ延伸糸を熱処理する場合、熱処理の温度が120℃を超えると、ポリエステル系繊維に付与された捲縮が強固に固定されてしまい、ポリエステル系繊維の捲縮除去温度が120℃を超えることになってしまう。熱処理の時間が50分以下であると、生産性や生産工程性が良好になる。
[0038]
 本発明の1以上の実施形態において、捲縮付与工程の前後において、延伸糸を熱処理する場合は、捲縮付与工程の前において、延伸糸に対して100℃以上200℃以下の温度で熱処理を行い、かつ、捲縮付与工程の後において、延伸糸に対して25℃以上140℃以下の温度で熱処理を行ってもよい。この場合、捲縮付与工程の前において、延伸糸に対して好ましくは100℃以上170℃以下、より好ましくは100℃以上150℃以下の温度で熱処理を行う。また、捲縮付与工程の後においては、25℃以上130℃以下で熱処理することが好ましく、25℃以上120℃以下で熱処理することがより好ましい。熱処理の時間は、特に限定されないが、捲縮付与工程の前は、例えば、10秒以上5分以下であってもよく、20秒以上4分以下であってもよく、捲縮付与工程の後は、例えば、5分以上40分以下であってもよく、10分以上30分以下であってもよい。捲縮付与工程の前後において、延伸糸を上述した条件で熱処理することで、得られるポリエステル系繊維の捲縮除去温度が低下する。特に、捲縮付与工程の前後において、上述した条件で延伸糸を熱処理した場合、得られたポリエステル系繊維は、熱水処理後においても、捲縮除去温度が90℃以上120℃以下になりやすく、熱水条件下での染色等の工程を経ても、90℃以上160℃以下の低温下のポリッシング工程において程よく捲縮が除去され、具体的には、パイル布帛の立毛表層部の捲縮のみが除去されやすく、それゆえ、外観が良好であり、へたり回復性・ボリューム感に優れたパイル布帛を得ることができる。
[0039]
 捲縮付与工程の前及び/又は捲縮付与工程の後において行う、熱処理は、乾熱処理であってもよく、湿熱処理であってもよい。工程が簡便であることから、乾熱処理であることが好ましい。例えば、均熱風乾燥機やサクション式の乾燥機等を用いて乾熱処理を行うことができる。上記熱処理は、緩和状態で行ってもよく、緩和率は特に限定されないが、例えば20%以下にしてもよい。
[0040]
 上述した工程以外は、通常のポリエステル系繊維と同様の製造方法でポリエステル系繊維を作製することができる。例えば、ポリエステル系樹脂、又はポリエステル系樹脂及び添加剤をドライブレンドしたポリエステル系樹脂組成物を種々の一般的な混練機を用いて溶融混練してペレット化した後、溶融紡糸することにより作製することができる。溶融紡糸は、押出機、ギアポンプ、口金などの温度(紡糸温度)を250℃以上300℃以下とし、溶融紡糸し、紡出糸条を加熱筒に通過させた後、ポリエステル系樹脂のガラス転移点以下に冷却し、50m/分以上4500m/分以下の速度で引き取ることにより紡出糸条(未延伸糸)が得られる。紡出糸条(未延伸糸)の延伸は、熱延伸で行うことができる。熱延伸における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。
[0041]
 捲縮付与は、ギアクリンパーやスタフィングボックス式のクリンパー等の公知の捲縮付与装置で行うことができる。通常の捲縮付与時と同様に、予めポリエステル系繊維を軟化温度以上に加熱した状態で捲縮を付与することができる。予熱は、通常の捲縮付与時と同様に、湿熱、例えば85℃以上110℃以下のスチームで行うことができる。
[0042]
 本発明の1以上の実施形態において、ポリエステル系繊維のヤング率は4.0GPa以上であることが好ましく、5.0GPa以上であることがより好ましい。ヤング率が高い程繊維の剛性が高くなり、パイル布帛のボリューム感が良好になるからである。
[0043]
 本発明の1以上の実施形態において、パイル布帛は、パイル部に上記ポリエステル系繊維を含む。本発明において、パイル部とは、パイル布帛の基布(地組織とも称される。)部分を除く立毛部分をいう。へたり回復性・ボリューム感の観点から、上記ポリエステル系繊維をパイル部全体の30重量%以上含有することが好ましく、40重量%以上含有することがより好ましく、50重量%以上含有することがさらに好ましい。以下において、パイル部を構成する繊維をパイル繊維とも記す。
[0044]
 上記パイル布帛は、天然毛皮に近似した二層構造を実現する観点から、パイル長が異なる長パイル部及び短パイル部を含むことが好ましく、長パイル部の平均パイル長と短パイル部の平均パイル長の差が2mm以上であることが好ましく、5mm以上50mm以下であることがより好ましい。本発明において、平均パイル長とは、パイル布帛のパイル部を構成している繊維を毛並みが揃うように垂直に立たせ、各パイル部において、パイル部を構成している繊維の根元(パイル布帛表面の根元)からパイルの先端部までの長さの測定を10カ所について行ない、その平均値で表わしたものである。
[0045]
 上記パイル部は、上記ポリエステル系繊維に加えて他の繊維、例えば、アクリル系繊維、塩化ビニル系繊維等を含んでもよい。柔軟な風合いが得られる観点から、長パイル部は、アクリロニトリルを35重量%以上95重量%未満含有するアクリル系共重合体で構成されたアクリル系繊維を含むことが好ましい。上記ポリエステル系繊維と、アクリル系繊維を併用することで、極めて良好な風合いを有し、かつへたり回復性・ボリューム感が良好なパイル布帛を提供できる。上記アクリル系共重合体は、アクリロニトリルに加えて、アクリロニトリルと共重合可能な他のモノマーを5重量%超え65重量%以下含むことが好ましい。その他のモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン及びスルホン酸含有モノマーの金属塩類からなる群から選ばれる一種以上のモノマーを用いることが好ましく、塩化ビニル、塩化ビニリデン及びスチレンスルホン酸ナトリウムからなる群から選ばれる一種以上のモノマーを用いることがより好ましい。
[0046]
 上記パイル布帛は、90℃以上160℃以下の温度でポリッシングを行う以外は、通常のパイル布帛と同様の製造方法で作製することができる。例えば、パイル繊維で構成されたスライバーをスライバー編機にてパイル布帛(編み上がり生地と称す場合がある。)に編成し、90℃以上160℃以下の温度でプレポリッシング、プレシャーリングを行い、その後、90℃以上160℃以下の温度でポリッシングを行うことで捲縮を除去し、その後シャーリングを行う。ポリッシングは、異なる温度で複数回行ってもよい。また、ポリッシング処理の前に、パイル繊維の毛抜け抑制や巾出しのため、パイル布帛の裏面(立毛部の反対面)にバッキング樹脂をコーティングしてもよい。上記バッキング樹脂としては、アクリル酸エステル系接着剤、ポリウレタン系接着剤等を使用することができる。図2は、本発明の1以上の実施形態に係るパイル布帛の製造工程の1例を示すフロー図である。
実施例
[0047]
 以下、本発明の1以上の実施形態を、実施例及び比較例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[0048]
 まず、実施例及び比較例で用いた測定方法及び評価方法を説明する。
[0049]
 (捲縮数)
 JIS L-1015に従い測定した。
[0050]
 (ヤング率)
 JIS L-1013に従い測定した。
[0051]
 (捲縮除去温度)
 ポリエステル系繊維を9000dtexの繊維束となるように束ね、該繊維束の両端を試料長が約200mmになるように切り揃え、対流型熱風乾燥機内に垂直に吊るし、該繊維束に1dtexあたり4mgの荷重をかけ、具体的には、該繊維束の下端に重り36gを吊り下げ、50℃から10℃刻みで所定の温度下で60秒熱処理を行い、各々の熱処理後に、4mg/dtexの荷重がかかっている状態の繊維束の長さA及び荷重を取り除いた後の無荷重状態の繊維束の長さBを測定し、その差(すなわち、下記数式(1)で算出される長さの変化率)が3%未満となる温度の最低値を求めることを5回行い、その平均値を算出し、捲縮除去温度とした。
 長さの変化率(%)=(A-B)/A×100   (1)
[0052]
 (熱水処理後の捲縮除去温度)
 ポリエステル系繊維の繊維束を20g計量し、ガーゼでくるんだ後、200mLの純水と共に300mLのステンレス製の耐圧容器に入れた。ここに、熱水処理時に捲縮が除去されるのを防ぐため、捨て綿としてポリエステル系繊維を容器が完全に充填されるように詰め込んだ。この際の充填圧力は10kPaであった。その後、耐圧容器に蓋をして完全に密閉し、ポリエチレングリコールの浴中で98℃にて60分間加熱した。加熱終了後、容器を冷却して容器内のポリエステル系繊維を取り出し、遠心脱水で水分を除去して60℃に加温した乾燥機内で2時間乾燥した。このように湿熱処理したポリエステル系繊維束を用いて、熱水処理後のポリエステル系繊維の捲縮除去温度を上述した方法と同様の方法で測定した。
[0053]
 (捲縮除去性)
 パイル布帛におけるパイル部の捲縮除去性を下記の5段階の基準で官能評価した。また、図3に、下記各基準の参考写真を示した。具体的には、図3において、(a)は基準5、(b)は基準4、(c)は基準3、(d)は基準2、及び(e)は基準1の参考写真である。捲縮除去性の基準が3の場合、パイル布帛の立毛表層部のみの捲縮が除去されることになる。
5:パイル繊維の方向性が整っており、パイル繊維の根元から先端まですっきりと捲縮が除去されている。
4:パイル繊維の方向性が整っており、パイル繊維の中腹部まですっきりと捲縮が除去されている。
3:パイル繊維の方向性が整っており、パイル繊維の先端のみすっきりと捲縮が除去されている。
2:パイル繊維の方向性は整っているが、捲縮は全く除去されていない。
1:パイル繊維の方向性は整っておらず、捲縮は全く除去されていない。
[0054]
 (へたり回復性・ボリューム感)
 パイル布帛のへたり回復性・ボリューム感を下記の基準で評価した。図4に、それぞれの基準の参考写真を示した。具体的には、図4において、(a)はへたり回復性・ボリューム感が良好の場合の参考写真であり、(b)はへたり回復性・ボリューム感が不良の場合の参考写真である。
良好:二枚のパイル布帛の立毛部分を重ね合わせ、300Paの圧力をかけたときのパイル布帛の厚みが圧力をかける前のパイル布帛の厚みの約60%以上であり、へたり回復性・ボリューム感が十分である。
不良:二枚のパイル布帛の立毛部分を重ね合わせ、300Paの圧力をかけたときのパイル布帛の厚みが圧力をかける前のパイル布帛の厚みの約60%未満であり、へたり回復性・ボリューム感が不十分である。
[0055]
 (外観)
 パイル布帛を立毛部(パイル部)の表面から観察し、下記の基準で官能評価した。図5に、それぞれの基準の参考写真を示した。具体的には、図5において、(a)は外観が良好の場合の参考写真であり、(b)は外観が不良の場合の参考写真である。
良好:パイル繊維の収束がなく、パイル布帛の表面がフラットに見える。
不良:パイル繊維が収束しており、パイル布帛が割れて見える。
[0056]
 (実施例1)
 <ポリエステル系繊維の作製>
 固有粘度(IV値)が0.65のポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、通常の紡糸機により紡糸温度290℃で直径0.4mmの丸断面、穴数48個の紡糸口金を用いて、320m/分の速度で紡糸を行い、次いで80℃の熱ローラーで375%延伸し延伸糸を得た。なお、PETには、PET100重量部に対して艶消し剤として酸化チタンが0.3重量部添加されていた。その後、延伸糸を適当な繊度に合糸した後、スタフィングボックス式のクリンパーにて98℃の予熱を経て捲縮を付与し、110℃に設定された均熱風乾燥機中で緩和率が15%以下の緩和状態で30分間熱処理して単繊維繊度が3dtexの捲縮糸を得た。
 <パイル布帛の作製>
 上記で得られたPET捲縮糸を51mmにカットしてパイル布帛用原綿を得た。この原綿100%でスライバーを作製し、スライバー編み機にてパイル布帛を作製した。次いで、120℃でプレポリッシング処理とプレシャーリングを行い、パイル布帛の立毛部の長さを18mmに切りそろえた後、布帛裏面にアクリル酸エステル系接着剤でバックコーティングして巾出し処理を行った。次いで、160℃で3回、130℃で3回、及び100℃で3回ポリッシング処理を行った。その後、シャーリングによって立毛部の長さを20mmに切りそろえて目付約800g/m 2のパイル布帛を得た。
[0057]
 (実施例2)
 <ポリエステル系繊維の作製>
 捲縮付与後に、60℃に設定された均熱風乾燥機中で30分間熱処理した以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度が3dtexの捲縮糸を得た。
 <パイル布帛の作製>
 上記で得られたPET捲縮糸を用いた以外は、実施例1と同様にしてパイル布帛を作製した。
[0058]
 (実施例3)
 <ポリエステル系繊維の作製>
 捲縮付与後に、120℃に設定された均熱風乾燥機中で30分間熱処理した以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度が3dtexの捲縮糸を得た。
 <パイル布帛の作製>
 上記で得られたPET捲縮糸を用いた以外は、実施例1と同様にしてパイル布帛を作製した。
[0059]
 (実施例4)
 <ポリエステル系繊維の作製>
 捲縮付与後に、熱処理を行っていない以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度が3dtexの捲縮糸を得た。
 <パイル布帛の作製>
 上記で得られたPET捲縮糸を用いた以外は、実施例1と同様にしてパイル布帛を作製した。
[0060]
 (実施例5)
 <ポリエステル系繊維の作製>
 楕円断面((b+a)/2=0.46mm、b/a=5.5)、穴数72個の紡糸口金を用いた以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度が3dtexの捲縮糸を得た。
 <パイル布帛の作製>
 上記で得られたPET捲縮糸を用いた以外は、実施例1と同様にしてパイル布帛を作製した。
[0061]
 (実施例6)
 <ポリエステル系繊維の作製>
 扁平多葉断面(図1D、a=0.44mm、b2.07mm)、穴数200個の紡糸口金を用い、捲縮付与前に150℃に設定された均熱風乾燥機中で1分間、捲縮付与後に100℃に設定された均熱風乾燥機中で15分間熱処理を行った以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度が4.4dtexの捲縮糸を得た。
[0062]
 (実施例7)
 <ポリエステル系繊維の作製>
 捲縮付与前に170℃に設定された均熱風乾燥機中で1分間、捲縮付与後に100℃に設定された均熱風乾燥機中で15分間熱処理を行った以外は、実施例6と同様にして単繊維繊度が4.4dtexの捲縮糸を得た。
[0063]
 (比較例1)
 <ポリエステル系繊維の作製>
 捲縮付与後に、130℃に設定された均熱風乾燥機中で30分間熱処理した以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度が3dtexの捲縮糸を得た。
 <パイル布帛の作製>
 上記で得られたPET捲縮糸を用いた以外は、実施例1と同様にしてパイル布帛を作製した。
[0064]
 (比較例2)
 <ポリエステル系繊維の作製>
 捲縮付与後に、140℃に設定された均熱風乾燥機中で30分間熱処理した以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度が3dtexの捲縮糸を得た。
 <パイル布帛の作製>
 上記で得られたPET捲縮糸を用いた以外は、実施例1と同様にしてパイル布帛を作製した。
[0065]
 (比較例3)
 <ポリエステル系繊維の作製>
 捲縮付与後に、150℃に設定された均熱風乾燥機中で30分間熱処理した以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度が3dtexの捲縮糸を得た。
 <パイル布帛の作製>
 上記で得られたPET捲縮糸を用いた以外は、実施例1と同様にしてパイル布帛を作製した
[0066]
 (比較例4)
 <ポリエステル系繊維の作製>
 延伸糸を180℃に設定された均熱風乾燥機中で30分間熱処理し、その後、適当な繊度に合糸した後、スタフィングボックス式のクリンパーにて98℃の予熱を経て捲縮を付与し、捲縮付与後に熱処理を行っていない以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度が3dtexの捲縮糸を得た。
 <パイル布帛の作製>
 上記で得られたPET捲縮糸を用いた以外は、実施例1と同様にしてパイル布帛を作製した
[0067]
 実施例1~7、及び比較例1~4で得られたPET捲縮糸の捲縮率、乾熱収縮率及び捲縮除去温度を上述したとおりに測定した。実施例1~7、及び比較例1~4で得られたパイル布帛の捲縮除去性、外観及びへたり回復性・ボリューム感を上述したとおりに評価した。これらの結果を下記表1に示した。下記表1において、「-」は未測定を意味する。
[0068]
[表1]


[0069]
 上記表1のデータから分かるように、捲縮付与工程の前及び/又は後に、延伸糸に対して熱処理を行うことがないか、或いは、捲縮付与工程の後に延伸糸に対して25℃以上120℃以下の温度で熱処理を行った実施例1~5のPET捲縮糸は、捲縮除去温度が90℃以上120℃以下であり、該PET捲縮糸を用いたパイル布帛は、90℃以上160℃以下の処理でパイル布帛の立毛表層部のみの捲縮が除去され、外観が良好であるとともに、へたり回復性・ボリューム感も良好であった。
[0070]
 また、捲縮付与前に100℃以上200℃以下の温度で熱処理を行い、かつ、捲縮付与後に25℃以上140℃以下の温度で熱処理を行った実施例6及び7のPET捲縮糸は、捲縮除去温度が90℃以上120℃以下であり、該PET捲縮糸を用いたパイル布帛は、90℃以上160℃以下の処理でパイル布帛の立毛表層部のみの捲縮が除去され、外観が良好であるとともに、へたり回復性・ボリューム感も良好であった。
[0071]
 一方、捲縮付与工程の前には熱処理を行わず、捲縮付与工程の後において、延伸糸に対して120℃を超える温度で熱処理を行った比較例1~3のPET捲縮糸は、捲縮除去温度が120℃を超えており、該PET捲縮糸を用いたパイル布帛は、90℃以上160℃以下のポリッシング処理でパイル繊維の捲縮が全く除去されておらず、外観が悪かった。また、比較例4のPET捲縮糸は、捲縮除去温度が90℃未満であり、該PET捲縮糸を用いたパイル布帛は、90℃以上160℃以下でのポリッシング処理で、パイル繊維の根元から先端まですっきりと捲縮が除去されてしまい、へたり回復性・ボリューム感に劣っていた。
[0072]
 これらの結果から、実施例に記載のPET捲縮糸はいずれもパイル布帛に好適に用いられることが分かった。
[0073]
 中でも、捲縮付与後において25℃以上120℃以下の温度で熱処理を施した実施例1~3、5、及び、捲縮付与の前後において所定の温度で熱処理を施した実施例6~7のPET捲縮糸はヤング率が5GPa以上あり、さらに良好な繊維物性を有していた。
[0074]
 また、実施例3、4、6、7、及び比較例1得られたPET捲縮糸について熱水処理後の捲縮除去性を測定した。これらの結果を下記表2に示した。下記表2において、「-」は未測定を意味する。
[0075]
[表2]


[0076]
 表2に示されているように、実施例3、4、6、及び7のPET捲縮糸の捲縮除去温度は、熱水処理なしの場合はいずれも90℃以上120℃以下の範囲にあり、通常の状態においてパイル布帛に好適な捲縮特性を有していた。特に、捲縮付与の前後のいずれでも熱処理を行わなかった実施例4、捲縮付与の前後のいずれでも所定の温度で熱処理を行った実施例6及び7のPET捲縮糸は、熱水処理を行った後でも、捲縮除去温度は90℃以上120℃以下の範囲であった。実施例4、6、7のPET繊維は、通常の状態においてパイル布帛に好適な捲縮特性を有するだけでなく、湿熱処理後においてもパイル布帛に好適な捲縮特性を有することになり、該PET繊維は熱水条件下での染色等を行って場合でも、90℃以上160℃以下の処理でパイル布帛の立毛表層部のみの捲縮が除去され、外観が良好であるとともに、へたり回復性・ボリューム感も良好であるパイル布帛を得やすい。
[0077]
 なお、比較例1のPET捲縮糸は未処理状態、及び熱水処理後のいずれにおいても捲縮除去温度が120℃を超えており、この点においてパイル布帛に用いたときに実施例3,4、6、及び7のPET繊維と比較して劣っていると推測される。

符号の説明

[0078]
 a:繊維断面の短辺
 b:繊維断面の長辺

請求の範囲

[請求項1]
 捲縮を有するポリエステル系繊維であって、前記ポリエステル系繊維を垂直に吊り下げ、4mg/dtexの荷重下で90℃以上120℃以下の温度で60秒間乾熱処理した場合、熱処理後の4mg/dtex荷重下のポリエステル系繊維の繊維長と、熱処理後の無荷重下のポリエステル系繊維の繊維長の差が3%未満である、ことを特徴とするポリエステル系繊維。
[請求項2]
 前記ポリエステル系繊維を耐圧容器内に3kPa以上20kPa以下の圧力をかけながら純水と共に充填し、98℃で60分間熱水処理をし、熱水処理後のポリエステル系繊維を垂直に吊り下げ、4mg/dtexの荷重下で90℃以上120℃以下の温度で60秒間乾熱処理した場合、熱処理後の4mg/dtex荷重下のポリエステル系繊維の繊維長と、熱処理後の無荷重下のポリエステル系繊維の繊維長の差が3%未満である、請求項1に記載のポリエステル系繊維。
[請求項3]
 ヤング率が4GPa以上である、請求項1又は2に記載のポリエステル系繊維。
[請求項4]
 単繊維繊度が10dtex以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル系繊維。
[請求項5]
 繊維断面は扁平形状であり、繊維断面の長辺の長さが繊維断面の短辺の長さの2倍以上8倍以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリエステル系繊維。
[請求項6]
 ポリエステル系樹脂又はポリエステル系樹脂組成物を溶融紡糸した後に延伸した延伸糸に対して捲縮を付与する捲縮付与工程を有し、
 捲縮付与工程の前、捲縮付与工程の後、又は捲縮付与工程の前後において、延伸糸に対して熱処理を行うことがないか;
 捲縮付与工程の前、捲縮付与工程の後、又は捲縮付与工程の前後において、延伸糸に対して25℃以上120℃以下の温度で熱処理を行うか;或いは、
 捲縮付与工程の前において、延伸糸に対して100℃以上200℃以下の温度で熱処理を行い、かつ、捲縮付与工程の後において、延伸糸に対して25℃以上140℃以下の温度で熱処理を行う、ことを特徴とするポリエステル系繊維の製造方法。
[請求項7]
 捲縮付与工程の後に、捲縮が付与された延伸糸を25℃以上120℃以下の温度で熱処理する、請求項6に記載のポリエステル系繊維の製造方法。
[請求項8]
 捲縮付与工程の前において、延伸糸に対して100℃以上200℃以下の温度で熱処理を行い、かつ、捲縮付与工程の後において、延伸糸に対して25℃以上140℃以下の温度で熱処理を行う、請求項6に記載のポリエステル系繊維の製造方法。
[請求項9]
 請求項1~5のいずれか1項に記載のポリエステル系繊維をパイル部全体の30重量%以上含有する、パイル布帛。
[請求項10]
 長パイル部及び短パイル部を含み、長パイル部の平均パイル長と短パイル部の平均パイル長の差が2mm以上である、請求項9に記載のパイル布帛。
[請求項11]
 長パイル部がアクリロニトリルを35重量%以上95重量%未満含有するアクリル系共重合体で構成されたアクリル系繊維を含む、請求項9又は10に記載のパイル布帛。
[請求項12]
 請求項9~11のいずれか1項に記載のパイル布帛の製造方法であって、90℃以上160℃以下の温度でポリッシングを行うことを特徴とする、パイル布帛の製造方法。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]