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1. WO2020004425 - インフルエンザウイルスの培養方法

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明 細 書

発明の名称 インフルエンザウイルスの培養方法

技術分野

0001   0002  

背景技術

0003   0004   0005   0006   0007   0008  

先行技術文献

特許文献

0009  

非特許文献

0010  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0011  

課題を解決するための手段

0012   0013  

発明の効果

0014  

図面の簡単な説明

0015  

発明を実施するための形態

0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040  

実施例

0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073  

産業上の利用可能性

0074  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10  

図面

1   2   3   4  

明 細 書

発明の名称 : インフルエンザウイルスの培養方法

技術分野

[0001]
 本発明は、インフルエンザウイルスの培養方法に関する。具体的には、MDCK細胞を宿主細胞とするインフルエンザウイルスの培養方法に関し、より効率的にインフルエンザウイルスを培養する方法に関する。
[0002]
 本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願特願2018-121739号優先権を請求する。

背景技術

[0003]
 インフルエンザは毎年世界中で流行する感染症であり、インフルエンザウイルスにより引き起こされる。インフルエンザウイルスは、オルトミクソウイルス科に属し、脂質二重膜構造をもつエンベロープを有する。A型、B型およびC型の3属に分類され、各々インフルエンザA型ウイルス、インフルエンザB型ウイルス、インフルエンザC型ウイルスという。一般にインフルエンザウイルスは、A型またはB型をいう場合が多い。A型、B型およびC型の違いは、ウイルス粒子を構成するタンパク質のうち、M1タンパク質とNPタンパク質の抗原性の違いに基づく。また、同じA型やB型であっても、エンベロープの表面上の分子である赤血球凝集素(ヘマグルチニン:以下、「HA」)やノイラミニダーゼ(以下、「NA」)の抗原性の違いから、複数の亜型と株に分類される。
[0004]
 A型インフルエンザウイルスは、それらのHAおよびNAの抗原性に基づいて16種のHA(H1~H16)亜型および9種のNA(N1~N9)亜型に分類される。A型インフルエンザウイルスの3種のHA(H1、H2およびH3)亜型は特に重要な病原体である。A型インフルエンザウイルスのH1N1亜型およびH3N2亜型は季節的に広まり、ヒト感染を引き起こしている。インフルエンザワクチンは、上述した流行状況や幅広い年齢層に跨る接種対象者、抗原株として要求されるウイルスの種類の多さ等の理由より、大量のワクチン抗原を必要とするところに特殊性がある。すなわち、より効率的にインフルエンザワクチンを製造可能な方法が求められている。
[0005]
 インフルエンザワクチンの製造には、発育鶏卵を利用してインフルエンザウイルスを増殖させる方法や、培養細胞でインフルエンザウイルスを増殖させる方法などがある。培養細胞として、マディン-ダービーイヌ腎臓由来細胞(以下、「MDCK細胞」)やアフリカミドリザル腎臓由来細胞(以下、「Vero細胞」)等が挙げられる。
[0006]
 インフルエンザウイルスの増殖には、ウイルスのHAを開裂し活性化することが必要である。特許文献1には、宿主細胞を用いてインフルエンザウイルスを培養する際に、プロテアーゼを用いてインフルエンザウイルスを培養するのが好適であることが記載されている。また、ウイルスの活性化を増強する物質は、HAを開裂させるプロテアーゼであることが好ましいと記載されている。プロテアーゼとして、トリプシン、キモトリプシン、サーモリシン、プロナーゼ、サブチリシンA、エラスターゼ、ペプシン、パンクレアチン、カルボキシペプチダーゼ、およびフリン等が例示されている。非特許文献1には、エラスターゼ、キモトリプシン、サーモリシンによって、非特許文献2にはトリプシン、キモトリプシン、プラスミンによってインフルエンザウイルスが活性化されると記載されている。
[0007]
 非特許文献3には、宿主として種々のMDCK細胞を用いてインフルエンザウイルスを培養したときに、一部のMDCK細胞において、トリプシンがない場合でもインフルエンザウイルスが増殖したことが報告されている。しかしながら、トリプシンがない場合には、トリプシンを添加して培養したときに比べてウイルスのプラークが小さいことが報告されている。
[0008]
 非特許文献4には、トリプシン非要求性にインフルエンザウイルスが増殖するMDCK変異細胞株について報告がある。非特許文献5には、MDCK変異細胞株に発現しているプロテアーゼを解析したところ、TMPRSS(transmembrane protease/serine)サブファミリーに分類されるTMPRSS2が同定され、インフルエンザウイルスの一部はTMPRSS2によって開裂活性化されることが明らかとなったことが報告されている。

先行技術文献

特許文献

[0009]
特許文献1 : 特許3158157号公報

非特許文献

[0010]
非特許文献1 : Journal of General Virology 76 :625-633,1995
非特許文献2 : 歯科学報,106(2):75-80
非特許文献3 : PLOS ONE,September 2013,Volume 8,Issue9,e75014
非特許文献4 : Arch.Virol.143:1893-1909,1998
非特許文献5 : 第32回中四国ウイルス研究会抄録,2017年6月,演題番号7

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0011]
 本発明は、MDCK細胞を宿主とするインフルエンザウイルスの培養方法において、より効率的にインフルエンザウイルスを培養する方法を提供することを課題とする。具体的には、プロテアーゼを含まない培地条件下において、より効率的にインフルエンザウイルスを培養する方法を提供することを課題とする。

課題を解決するための手段

[0012]
 本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、インフルエンザウイルスの宿主細胞であるMDCK細胞が対数増殖期を超えた後、プロテアーゼを含まない培地条件下でMDCK細胞にインフルエンザウイルスを接種することによって、上記課題を達成しうることを見出した。
[0013]
 本発明は、すなわち以下よりなる。
1.MDCK細胞を宿主とするインフルエンザウイルスの培養方法において、プロテアーゼを含まない培地条件下で、MDCK細胞が対数増殖期を超えた後、インフルエンザウイルスを接種する、インフルエンザの培養方法。
2.MDCK細胞を宿主とするインフルエンザウイルスの培養方法において、プロテアーゼを含む培地条件下でインフルエンザウイルスを接種するよりも高いウイルス収量を示す、前項1に記載のインフルエンザウイルスの培養方法。
3.MDCK細胞を宿主とするインフルエンザウイルスの培養方法において、当該MDCK細胞の倍加時間が17時間を超えた後、プロテアーゼを含まない培地条件下でインフルエンザウイルスを接種することを特徴とする、インフルエンザウイルスの培養方法。
4.MDCK細胞を宿主とするインフルエンザウイルスの培養方法において、MDCK細胞の培養方法が三次元培養方法である、前項1~3のいずれかに記載のインフルエンザウイルスの培養方法。
5.前記三次元培養方法が、マイクロキャリアを用いた三次元培養方法である、前項4に記載のインフルエンザウイルスの培養方法。
6.プロテアーゼがトリプシンである、前項1~5のいずれかに記載のインフルエンザウイルスの培養方法。
7.MDCK細胞が、プロテアーゼ非依存性MDCK細胞である、前項1~6のいずれかに記載のインフルエンザウイルスの培養方法。
8.プロテアーゼ非依存性MDCK細胞が、受託番号NITE BP-02014にて特定されるクローニングしたMDCK細胞である、前項7に記載のインフルエンザウイルスの培養方法。
9.プロテアーゼを含まない培地条件下で、MDCK細胞が対数増殖期を超えた後、インフルエンザウイルスを接種するMDCK細胞であって、プロテアーゼを含む培地条件下でインフルエンザウイルスを接種するよりも、インフルエンザウイルス培養において高いウイルス収量を示すMDCK細胞。
10.プロテアーゼ非依存性MDCK細胞である、前項9に記載のMDCK細胞。

発明の効果

[0014]
 本発明の、プロテアーゼを含まない培地条件下でMDCK細胞にインフルエンザウイルスを接種するインフルエンザウイルスの培養方法によれば、プロテアーゼによるMDCK細胞の凝集や損傷を防ぎ、効率的にインフルエンザウイルスを培養することができる。MDCK細胞が対数増殖期を超えた後にインフルエンザウイルスを接種することで、更に効率的にインフルエンザウイルスを培養することができる。

図面の簡単な説明

[0015]
[図1] プロテアーゼの有無によるウイルスタンパク質量の違いを示す図である(実施例1-1、比較例1-1、実施例1-2)。
[図2] 2L培養液量でのインフルエンザウイルスの培養に関し、ウイルス接種後、培養1日目のMDCK細胞(ATCC CCL-34由来)の様子を示す図である。
[図3] 各種インフルエンザウイルス株のウイルスタンパク質量を示す図である(実施例1-3)。
[図4] 2L培養液量で、細胞培養5日目の対数増殖期を超えた時点の細胞株Aの様子を示す図である。(実施例2)

発明を実施するための形態

[0016]
 本発明は、MDCK細胞を宿主とするインフルエンザウイルスの培養方法に関する。具体的には、インフルエンザウイルスの培養方法において、MDCK細胞が対数増殖期を超えた後、プロテアーゼを含まない培地条件下でインフルエンザウイルスを接種することを特徴とする。さらには、当該MDCK細胞の倍加時間が17時間を超えた後、プロテアーゼを含まない培地条件下でインフルエンザウイルスを接種することを特徴とする、インフルエンザウイルスの培養方法に関する。
[0017]
 一般的に、インフルエンザウイルスの増殖には、インフルエンザウイルスのHAを開裂し活性化することが必要であることから、宿主細胞を用いてインフルエンザウイルスを培養する際には特許文献1に示されているようにプロテアーゼを用いてインフルエンザウイルスを培養するのが好適であるとされる。また、ウイルスの感染性を増強する物質は、HAを開裂させることにより、ウイルスと宿主細胞膜の融合をもたらすプロテアーゼが好ましいことが知られている。一方で、インフルエンザウイルス培養時において、培養液中にプロテアーゼが存在することにより、MDCK細胞への損傷や、細胞が細胞外マトリクスから剥離し、細胞凝集が起こりやすくなる。MDCK細胞の損傷や凝集が起こることで、インフルエンザウイルスが感染するMDCK細胞数が減少するという不利益があると本発明者らは考えた。そこで本発明者らは鋭意検討した結果、驚くべきことに、プロテアーゼを含まない培地条件下でMDCK細胞にインフルエンザウイルスを接種することでインフルエンザウイルスを効率的に増殖しうることを見出した。
[0018]
 本発明のインフルエンザウイルスの培養方法において、プロテアーゼを含まない培地とは、インフルエンザウイルスの培養のために従来添加していた任意のプロテアーゼを添加していない培地をいう。プロテアーゼを含まない培地は、例えば、インフルエンザウイルスをMDCK細胞に接種する前、または同時に使用することができる。プロテアーゼを含まない培地にてインフルエンザウイルスを増殖させることで、MDCK細胞の損傷や凝集が抑制され、インフルエンザウイルスの増殖に寄与する細胞数の増加が見込まれる。更に、製造において高額なプロテアーゼを必要としないため、大幅なコストダウンも期待される。培地に含まれないプロテアーゼの例として、トリプシン、キモトリプシン、プラスミン、サーモリシン、プロナーゼ、サブチリシンA、エラスターゼ、ペプシン、パンクレアチン、カルボキシペプチダーゼ、フリン、およびTMPRSS(transmembrane protease/serine)サブファミリーに分類されるプロテアーゼ等が挙げられる。培地に含まれないプロテアーゼとしては、MDCK細胞の損傷や凝集を起こすものであれば特に限定されないが、好ましくはトリプシン、キモトリプシン、プラスミン、エラスターゼ、サーモリシン、更に好ましくはトリプシンが挙げられる。本発明において培地に含まれないプロテアーゼは、各種プロテアーゼ活性を示すものであれば由来する生物は特に限定されず、また組み換え体でもよい。各種プロテアーゼの活性は当業者に通常知られているものを意味するが、例えばトリプシンは、リジンまたはアルギニンなどの塩基性残基のC末側でペプチド鎖を切断するエンドペプチダーゼとしての活性を有する。
[0019]
 本発明のインフルエンザウイルスの培養方法においてプロテアーゼを含まない培地条件とは、例えば宿主細胞をマイクロキャリアのような細胞外マトリクスを用いて培養した場合に、細胞がマイクロキャリアから剥離しない程度のプロテアーゼであって、添加には依らずに混入しているプロテアーゼが含まれていてもよい。例えば、細胞由来のプロテアーゼが混入している場合であっても、本発明のプロテアーゼを含まない培地条件下に包含される。細胞がマイクロキャリアから剥離しない状態とは、マイクロキャリアを用いて細胞を一定時間培養した際の培養液中の細胞浮遊率が20%以下、好ましくは15%以下の状態をいう。細胞浮遊率の計算方法は後述する。本発明においてプロテアーゼを含まない培地とは、培地成分がプロテアーゼ活性を示さない培地であってもよい。プロテアーゼ活性は当業者に公知の方法で測定することができ、例えば吸光度で測定することができる。
[0020]
 本発明のインフルエンザウイルスの培養方法において、プロテアーゼを含まない培地にて、宿主細胞であるMDCK細胞をマイクロキャリアのような細胞外マトリクスを用いて培養した場合に、マイクロキャリア上でのMDCK細胞密度が高い状態、すなわちMDCK細胞が対数増殖期を超えた状態が効率的に維持される。プロテアーゼを含む培地にてMDCK細胞を培養すると、プロテアーゼによってMDCK細胞がマイクロキャリアから剥離し、マイクロキャリア上でのMDCK細胞密度が高い状態を維持することが難しい。一方、プロテアーゼを含まない培地を用いることで、MDCK細胞の損傷や凝集が抑制されるため、マイクロキャリア上でのMDCK細胞密度が高い状態、すなわちMDCK細胞が対数増殖期を超えた状態が維持されやすくなる。その結果、長期間の効率的なウイルス増殖が可能となり、高収量のウイルスタンパク質を取得することができる。なお、MDCK細胞が対数増殖期を超えた状態は、マイクロキャリア上での細胞間接触が強く、剥離しにくいため、インフルエンザウイルス増殖に適した環境を形成しうると考えられる。更に、MDCK細胞が対数増殖期を超えた状態に達した時点は細胞周期の休止期に該当する可能性が高い。当該状態の細胞にウイルスを接種することで、インターフェロン(IFN)等のウイルス抵抗因子の産生速度が遅くなることで、ウイルス感染が起こりやすくなると推測される。
[0021]
 本発明のインフルエンザウイルスの培養方法において、プロテアーゼを含まない培地に用いられる好適な培地は、特に限定されないが、例えば動物由来の血清が添加されていない無血清培地が好ましい。無血清培地はいかなるものを用いてもよいが、例えばイーグルMEM培地(日水製薬株式会社)、Opti PRO SFM(ThermoFisher Scientific)、VP-SFM(Thermo Fisher Scientific)、EX-CELL MDCK(SAFC Biosciences)、UltraMDCK(Lonza)、ProVero 1(Lonza)、BalanCD MDCK(Irvine Scientific)等を用いることができる。
[0022]
 本発明のインフルエンザウイルスの培養方法において、インフルエンザウイルスは、MDCK細胞が対数増殖期を超えた後に接種するのが好ましい。MDCK細胞が対数増殖期を超えた後とは、MDCK細胞密度が高く、増殖速度が低下した状態、すなわちMDCK細胞がコンフルエントになった時点である。具体的には例えばMDCK細胞の倍加時間が17時間、更に好ましくは20時間を超えた後が好適である。細胞の倍加時間とは、細胞数が2倍に増えるために要する時間をいう。本発明においては細胞播種時からウイルス接種時までの時間における、細胞数が2倍に増えるために要した時間を指す。MDCK細胞が対数増殖期を超えることで倍加時間は長くなるが、当該時間は用いるMDCK細胞や培養方法によって異なる。本発明では、プロテアーゼを含まない培地条件下でインフルエンザウイルスの培養を行うため、細胞由来のプロテアーゼを利用してインフルエンザウイルスがMDCK細胞へ感染すると思われる。MDCK細胞が対数増殖期を超えた状態、例えばMDCK細胞の倍加時間が17時間を超えるような、高い密接状態で培養した細胞にインフルエンザウイルスを接種することにより、細胞由来のプロテアーゼがインフルエンザウイルスに作用しやすい環境を作り出すことが可能となる。
[0023]
 本発明においてインフルエンザウイルスは、スケールアップ前のMDCK細胞に接種してもよいし、スケールアップ後のMDCK細胞に接種してもよい。スケールアップ後の培養液量は、1~10000L、好ましくは5~5000Lである。本発明の方法によりスケールアップ後のMDCK細胞にインフルエンザウイルスを接種することで、大量のインフルエンザウイルスの取得が可能となるため、効率的なワクチン製造につながる。MDCK細胞の培養を行う容器は、目的の容量を満たす容器であれば特に限定されない。
[0024]
 本発明のインフルエンザウイルスの培養方法において、宿主細胞であるMDCK細胞にインフルエンザウイルスを接種した後、MDCK細胞をインキュベート、即ち一定時間、ある温度条件に維持するのが好適である。一定の温度条件下に置くことによりMDCK細胞が増殖するかしないかは問わない。インキュベートの条件はMDCK細胞を培養するのと同様の条件下で行うこともできるが、感染させたインフルエンザウイルスの至適条件下で行うのが好適である。インフルエンザウイルス培養の至適条件は、31~37℃、好ましくは32~36℃、更に好ましくは33~35℃である。
[0025]
 本発明のインフルエンザウイルスの培養方法に使用されるMDCK細胞は、プロテアーゼを含まない培地条件下でインフルエンザウイルスが増殖可能な細胞であればよく、特に限定はないが、ウイルス産生時におけるプロテアーゼ非依存性MDCK細胞であることが好ましい。ウイルス産生時におけるプロテアーゼ非依存性MDCK細胞とは、プロテアーゼを含まない培地条件下でインフルエンザウイルスが増殖可能なMDCK細胞をいう。当該細胞は、クローニングされた細胞でもよく、クローニングされていない細胞を含む細胞集団でもよい。本発明においてプロテアーゼとは、外来的に添加するものを対象とし、細胞が発現するものは対象としない。本発明の当該プロテアーゼ非依存性に係るプロテアーゼは、トリプシン、キモトリプシン、プラスミン、サーモリシン、プロナーゼ、サブチリシンA、エラスターゼ、ペプシン、パンクレアチン、カルボキシペプチダーゼ、フリン、およびTMPRSSサブファミリーに分類されるプロテアーゼより選択される1種または複数種のプロテアーゼが挙げられる。プロテアーゼとしては特に限定されないが、トリプシン、キモトリプシン、プラスミン、エラスターゼ、サーモリシンが好ましく、トリプシンが更に好ましい。係るプロテアーゼ非依存性MDCK細胞であれば、いかなるMDCK細胞であってもよい。
[0026]
 本発明のインフルエンザウイルスの培養方法は、特に培養槽を用いた三次元培養の際に効果を発揮しうる。更に、細胞の大量培養を目的としたスケールアップ条件下での培養の際にも効果を発揮しうる。当該培養法の場合、細胞への環境負荷が大きく、プロテアーゼによる細胞への損傷や凝集が激しい。一方、フラスコ等を用いた静置培養など、実験室レベルの規模の培養では、プロテアーゼによる損傷を受けにくいが、細胞の大量培養には向かない条件である。本発明のプロテアーゼを含まない培地条件下での培養の効果は、三次元培養条件や細胞の大量培養を目的としたスケールアップ条件の際に、特に好適に確認される。
[0027]
 MDCK細胞の三次元培養は、マイクロキャリアを用いて培養してもよいし、マイクロキャリアを用いない場合は浮遊化させたMDCK細胞の浮遊培養であってもよい。特にMDCK細胞が接着したマイクロキャリアを浮遊および撹拌しながら培養するのが好適である。マイクロキャリアの密度、撹拌数や溶存酸素濃度、培養温度等の培養条件は細胞が増殖可能なものであればよく、適宜調節することができる。本発明の培養方法においては、高速撹拌でも、細胞がマイクロキャリアに良好に接着し、効率よく増殖することが可能である。
[0028]
 本発明のインフルエンザウイルスの培養方法に使用されるマイクロキャリアの形状は球状や円盤状のものであってもよいし、多孔性であってもよい。球状のマイクロキャリアの大きさ(直径)は、例えば約0.01~1mm、好ましくは約0.05~0.5mm、より好ましくは約0.1~0.3mmである。マイクロキャリアは多孔性であってもよい。本発明で用いられる球状のマイクロキャリアとしては、例えば、Cytodex 1(商品名)、Cytodex 3(商品名)、Cytopore(商品名)(以上、GE Helthcare Life Science社製)などが挙げられる。円盤状のマイクロキャリアとしては、例えば、Cytoline 1(商品名)、Cytoline 2(商品名)(以上、GE Helthcare Life Science社製)などが挙げられる。多孔性のマイクロキャリアとしては、例えば、Cytopore(商品名)、Cytoline 1(商品名)、Cytoline 2(商品名)(以上、GE Helthcare Life Science社製)などが挙げられる。その他市販のマイクロキャリアとして、Biosilon(商品名)(NUNC社)、Hillex(商品名)(ソロヒル社)、Corning(R)マイクロキャリア(コーニング社)等が挙げられる。本発明で用いられるマイクロキャリアとしては、特に球状のデキストラン製マイクロキャリアが好ましい。球状のデキストラン製マイクロキャリアとしては、Cytodex 1(商品名)、Cytodex 3(商品名)およびCytopore(商品名)が好ましく、さらにCytodex 1(商品名)およびCytodex 3(商品名)が好ましく、特にCytodex 1(商品名)が好ましい。
[0029]
 本発明のインフルエンザウイルスの培養方法に使用されるMDCK細胞は、いかなるものを用いてもよく、細胞バンクから入手したMDCK細胞を用いてもよい。例えば、ATCC CCL-34にて特定されるMDCK細胞を用いることができる。更に、マイクロキャリアへの接着力が強いMDCK細胞を用いることが好適である。細胞のマイクロキャリアへの接着力は、マイクロキャリアを含む培養液中で細胞を培養した場合の細胞浮遊率で表すことができる。例えば、細胞浮遊率が20%以下、好ましくは15%以下、更に好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下を示すMDCK細胞を用いることを特徴とする。細胞浮遊率とは、マイクロキャリア存在下でMDCK細胞を一定時間培養した後の浮遊細胞密度を播種細胞密度で割った値であり、細胞浮遊率が低いほど、マイクロキャリアへの接着力が高いことを示す。本発明のMDCK細胞の細胞浮遊率は、培養時間が48時間以下、好ましくは24時間以下、好ましくは6時間以下、更に好ましくは1.5時間以下、特に好ましくは0.5時間以下経過した時点のものである。より具体的には、0.5時間経過した時点で細胞浮遊率が20%以下、または1.5時間経過した時点で細胞浮遊率が5%以下を示すMDCK細胞を用いることが好ましい。
[0030]
 本発明のインフルエンザウイルスの培養方法に使用されるMDCK細胞は、拡張倍率が4.5以上、好ましくは6.5以上、更に好ましくは8.5以上を示すMDCK細胞を用いるのが好適である。拡張倍率とは、細胞を一定時間培養した後の細胞密度を、播種した細胞密度で割った値であり、増殖のしやすさを表す指標となるものである。本発明のインフルエンザウイルスの培養方法に使用されるMDCK細胞の拡張倍率は、マイクロキャリアにより培養された際のものであり、培養時間が48時間以上、好ましくは60時間以上、更に好ましくは72時間以上、また、144時間以下、好ましくは120時間以下、更に好ましくは96時間以下経過した時点のものである。本発明のインフルエンザウイルスの培養方法に使用されるMDCK細胞は、低い播種密度であっても、速やかに細胞を増殖させることができる細胞が好適である。
[0031]
 上記条件を満たす本発明のインフルエンザウイルスの培養方法に使用されるMDCK細胞は、具体的には、国際寄託の受領番号NITE BP-02014で特定されるMDCK細胞(MDCK-F P69)が挙げられる。係る細胞は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(日本国 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に平成27年3月4日に受託番号NITE P-02014として国内寄託された後、平成28年2月15日に独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターにて、ブダペスト条約に基づく国際寄託に移管請求され、受託番号NITE BP-02014により受託されたものである。
[0032]
 本発明のインフルエンザウイルスの培養方法に使用されるMDCK細胞を、マイクロキャリアを用いて培養する場合の細胞の播種密度は、特に限定されるものではなく、適宜調節が可能である。本明細書における播種密度とは、細胞を播種する際の、培養表面積当たりの細胞数(細胞/cm )や培養体積当たりの細胞数(細胞/mL)を意味する。なお培地中の細胞の密度は、自体公知の手法により確認できるが、例えば、血球計算盤や自動セルカウンターなどを用いた測定方法により確認することができる。
[0033]
 本発明のインフルエンザウイルスの培養方法に使用されるMDCK細胞は、継代前の細胞を用いても、継代後の細胞を用いてもよい。MDCK細胞の継代は自体公知の手法により行うことができる。マイクロキャリアを用いた三次元培養を行う際は、細胞が増殖した結果、当該マイクロキャリア表面上に密集して接着している細胞を、新しいマイクロキャリア表面上へ移動させてもよい。
[0034]
 本発明の培養方法に使用されるインフルエンザウイルスであって、宿主細胞に接種するインフルエンザウイルスは、シードウイルスと呼ばれる。インフルエンザウイルスは、生体から分離された後、または、何らかの改変を加えられて作出された後、鶏卵や各種細胞を用いて継代されて増殖し、シードウイルスとなる。本発明において用いられるシードウイルスは、鶏卵や各種細胞のいずれで継代されたものであってもよく、特に限定されない。より好ましくは、MDCK細胞によって継代して増殖・馴化したシードウイルスを、本発明の培養方法において再度MDCK細胞に接種し、インフルエンザウイルスを増殖させることが好ましい。
[0035]
 本発明の培養方法で培養されるインフルエンザウイルスは、特に限定されるものではなく、例えば現在知られているすべての亜型、および将来単離、同定される亜型をも含む。A型インフルエンザウイルスの場合、それらのHA分子およびNA分子の抗原性に基づいて亜型(すなわち16種のHA(H1~H16)亜型および9種のNA(N1~N9)亜型)に分類され、HAの亜型とNAの亜型との組み合わせを含むインフルエンザウイルスが考えられる。B型インフルエンザウイルスの場合、ビクトリア系統と山形系統との組み合わせを含むインフルエンザウイルスが考えられる。
[0036]
 A型インフルエンザウイルスの各亜型は、RNAゲノムの変異性が高いため、新しい株が頻繁に生じている。2009年4月にメキシコでの流行が認知された後、世界的に流行したとされるインフルエンザは、新型インフルエンザ、ブタインフルエンザ、パンデミックインフルエンザA(H1N1)、swine flu、A/H1N1 pdmなどと呼ばれている。ブタの間で流行していたウイルスが、農場などでブタからヒトに直接感染し、その後ヒトの間で広まったとされる新型インフルエンザは、従前より存在していた季節性のAソ連型インフルエンザ(インフルエンザA型ウイルスH1N1亜型)や、A香港型インフルエンザ(インフルエンザA型ウイルスH3N2亜型)とは、区別される。またRNAゲノムの変異性が高いことから、インフルエンザA型ウイルスの同じ亜型の中でも、単離された時期や場所によって、ウイルス株が区別されている。
[0037]
 B型インフルエンザウイルスは、非可逆的な抗原変異が続いているが、A型インフルエンザウイルスにおける変異よりも比較的遅く、流行の周期は2年程度である。B型インフルエンザウイルスは1940年ニューヨークにおける中程度の規模のインフルエンザ流行中初めて分離されて以来、たびたび流行を繰り返し、それによる死亡率の上昇も記録されている。ヒトの間でのみ感染が確認されているが、亜型は存在せず、山形系統とビクトリア系統という2つの系統のみが存在する。
[0038]
 本発明で培養されるインフルエンザウイルスは、上述のような生体から分離されたインフルエンザウイルスの他、インフルエンザワクチンに適用可能なように、弱毒化、鶏卵増殖適合化、細胞培養増殖適合化、温度感受性表現形質化、粘膜投与適合化等の改変を加えて作出した組換えウイルスであっても良い。また、改変を加えるための手段として、インフルエンザウイルスの抗原部位やポリメラーゼ部位等の8本のRNA分節に変異を導入する方法やリバースジェネティクスにより増殖力の高い株のRNA分節と目的の抗原性を示すRNA分節を組み換える方法、低温継代によって弱毒ウイルスを作成する方法、ウイルス培養系への変異誘発剤を添加することによる方法等の様々な方法が挙げられる。
[0039]
 本発明の培養方法により増殖したインフルエンザウイルスは、インフルエンザワクチンの製造に用いることができる。インフルエンザウイルスをMDCK細胞から精製する工程については、自体公知の手法または今後開発されるいずれの手法を用いてもよい。
[0040]
 本発明の培養方法により、MDCK細胞を宿主としてインフルエンザウイルスを増殖させることで、高収量のウイルスタンパク質を取得することができる。高収量のウイルスタンパク質とは、ウイルス培養後の培養液におけるウイルスタンパク質量が、6.0μg/mL以上、好ましくは10μg/mL以上、更に好ましくは20μg/mL以上のことである。更に、鶏卵を宿主としてインフルエンザウイルスを増殖させるよりも、高収量のウイルスタンパク質を取得できる。なお、ウイルス培養後の培養液におけるウイルスタンパク質量は、培養するウイルス株によって大幅に変動する。
実施例
[0041]
 本発明の理解を助けるために、以下に実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明は本実施例に限定されるものでないことはいうまでもない。
[0042]
(実施例1-1)2L培養液量でのインフルエンザウイルスの培養
 本実施例では、2Lの培養液量にてプロテアーゼを含まない培地でインフルエンザウイルスを培養したときのインフルエンザウイルスのHA価およびウイルスタンパク質量を確認する。
[0043]
 本実施例において、インフルエンザウイルスの培養には宿主細胞としてMDCK細胞(ATCC CCL-34由来)を使用した。
[0044]
 2L培養液量にて、MDCK細胞を無血清培地で培養した。細胞は0.20×10 細胞/mLの播種密度で播種した。マイクロキャリアは、Cytodex 1(GE Helthcare Life Science)を、3.5g/Lの密度で用いた。培養条件として、温度37℃で撹拌しながら細胞を培養した。
[0045]
 MDCK細胞が対数増殖期を超えた時点で、インフルエンザウイルス(B/Mie/3/2015)をm.o.i=0.01にて接種した。インフルエンザウイルス接種時のMDCK細胞の倍加時間は17時間を超えていた。インフルエンザウイルス接種時の培養液量は2Lで、培地はプロテアーゼを含まないイーグルMEM培地(日水製薬)を用いた。
[0046]
 ウイルス接種後、pH7.0±0.2、温度34.0℃で撹拌しながら培養を行った。ウイルス接種後、培養4日目まで培養上清をサンプリングし、HA価およびウイルスタンパク質量を測定した。インフルエンザウイルスのHA価の確認は、国立感染症研究所著「インフルエンザ診断マニュアル(第3版、平成26年9月)」の「Part IV」に開示される方法に従って行った。ウイルスタンパク質量は、ウイルス培養上清から遠心により高分子を除去後、30%ショ糖クッション法により低分子の除去を行い、沈渣のタンパク質含量をModified Lowry法にて測定することにより算出した。ウイルス接種後、培養4日目のインフルエンザウイルスのHA価は1024だった。ウイルスタンパク質量の測定結果を図1に示した。
[0047]
 プロテアーゼを含まない培地でインフルエンザウイルスを培養することで、高収量のウイルスタンパク質量を得ることができた(図1)。
[0048]
(比較例1-1)
 比較例として、プロテアーゼを含む培地条件下でウイルス培養を行った。プロテアーゼとしてトリプシンを用い、トリプシンを含む培地を用いた点以外は実施例1-1と同様の条件下でインフルエンザウイルスを培養した。トリプシンは、TrypLE Select(Thermo Fisher社)を0.1倍の最終濃度で使用した。ウイルス接種後、培養4日目のインフルエンザウイルスのHA価は1024だった。ウイルスタンパク質量の測定結果を図1に示した。
[0049]
 プロテアーゼを含まない培地でインフルエンザウイルスを培養した場合に、トリプシンを含む培地で培養した場合と比べてインフルエンザウイルスのウイルスタンパク質量は高い収量であった(図1)。上述の条件にて、プロテアーゼを含まない培地またはトリプシンを含む培地において、2L培養液量にてMDCK細胞(ATCC CCL-34由来)を培養後、インフルエンザウイルス接種後1日目の細胞の様子を図2に示した。
[0050]
 トリプシンを含む培地を用いたウイルス培養では細胞がマイクロキャリアから剥離し、細胞凝集による細胞塊を形成するが、プロテアーゼを含まない培地を用いたウイルス培養ではこれが認められず、CPEが生じた細胞のみがマイクロキャリアから剥離していると考えられた。プロテアーゼを含まない培地を用いることにより、マイクロキャリアからの細胞剥離や細胞凝集を抑制することができ、インフルエンザウイルスが感染するMDCK細胞数の減少を抑制できうることが示された。
[0051]
(実施例1-2)5L培養液量でのインフルエンザウイルスの培養
 本実施例では、5L培養液量にてプロテアーゼを含まない培地でインフルエンザウイルスを培養したときのインフルエンザウイルスのHA価およびウイルスタンパク質量を確認する。
[0052]
 本実施例において、インフルエンザウイルスの培養には宿主細胞としてクローニングしたMDCK細胞(以下、「細胞株A」)を使用した。細胞株Aは、国際寄託の受託番号NITE BP-02014で特定されるMDCK細胞である。当該MDCK細胞は、MDCK細胞(ATCC CCL-34由来)を基にして、限界希釈法によりシングルセルクローニングを行なった後、選出されたものである。
[0053]
 細胞株Aを、無血清培地を用いて5L培養液量にて培養した。細胞は0.20×10 細胞/mLの播種密度で播種した。マイクロキャリアは、Cytodex 1(GE Helthcare Life Science)を、3.5g/Lの密度で用いた。培養条件としては、温度37℃で撹拌しながら細胞を培養した。
[0054]
 MDCK細胞の継代およびマイクロキャリアの移注後、細胞株Aが対数増殖期を超えた時点で、インフルエンザウイルス(B/Mie/3/2015)をm.o.i=0.01にて接種した。インフルエンザウイルス接種時のMDCK細胞の倍加時間は、17時間を超えていた。インフルエンザウイルス接種時の培地はプロテアーゼを含まないイーグルMEM培地(日水製薬)を使用した。
[0055]
 ウイルス接種後、pH7.0±0.2、温度34.0℃で撹拌しながらウイルス培養を行った。ウイルス接種後、培養4日目まで培養上清をサンプリングし、HA価およびウイルスタンパク質量を実施例1と同様に測定した。ウイルス接種後、培養4日目のインフルエンザウイルスのHA価は2048だった。ウイルスタンパク質量の測定結果を図1に示した。
[0056]
 プロテアーゼを含まない培地でインフルエンザウイルスを培養することで、培養4日目のウイルスタンパク質量は20μg/mL以上となり、高収量のウイルスタンパク質量を得ることができた。
[0057]
(実施例1-3)50L培養液量での各種インフルエンザウイルスの培養
 本実施例では、50L培養液量にてプロテアーゼを含まない培地でインフルエンザウイルスを培養したときのインフルエンザウイルスのHA価およびウイルスタンパク質量を確認する。
[0058]
 本実施例において、実施例1-2と同様にインフルエンザウイルスの培養には宿主細胞として細胞株Aを使用した。
[0059]
 細胞株Aを、50L培養液量にて、実施例1-2と同様に培養した。細胞株Aが対数増殖期を超えた時点で、各種インフルエンザウイルス(A/Yokohama/50/2015、A/Sapporo/38/2015、B/Hyogo/3210/2015、B/Mie/3/2015)をm.o.i=0.01にて接種した。インフルエンザウイルス接種時のMDCK細胞の倍加時間は17時間を超えていた。インフルエンザウイルス接種時の培地はプロテアーゼを含まないイーグルMEM培地(日水製薬)を使用した。
[0060]
 ウイルス接種後、pH7.0±0.2、温度34.0℃で撹拌しながらウイルス培養を行った。ウイルス接種後、培養4日目まで培養上清をサンプリングし、HA価およびウイルスタンパク質量を実施例1と同様に測定した。培養4日目のインフルエンザウイルスのHA価は、A/Yokohama/50/2015では128、A/Sapporo/38/2015では128、B/Hyogo/3210/2015では512、B/Mie/3/2015では1280だった。ウイルスタンパク質量の測定結果を図3に示した。
[0061]
 プロテアーゼを含まない培地で各種インフルエンザウイルスを培養することで、培養4日目のウイルスタンパク質量は20μg/mL以上となり、高収量のウイルスタンパク質量を得ることができた。
[0062]
(実施例2)対数増殖期を超えた細胞でのインフルエンザウイルスの培養
 本実施例では、MDCK細胞が対数増殖期を超えた後および対数増殖期を超える前に、インフルエンザウイルスを接種してプロテアーゼを含まない培地で培養したときの、インフルエンザウイルスのHA価およびウイルスタンパク質量を確認する。
[0063]
 本実施例において、実施例1-2と同様にインフルエンザウイルスの培養には宿主細胞として細胞株Aを使用した。
[0064]
 細胞株Aを、2L培養液量で、無血清培地を用いて培養した。細胞株Aが培養4日目の対数増殖期を超えた時点および培養2日目の対数増殖期を超える前の時点で、インフルエンザウイルス(A/Yokohama/50/2015)をm.o.i=0.01にて接種した。対数増殖期を超えた時点における、インフルエンザウイルス接種時のMDCK細胞の倍加時間は17時間を超えていたが、対数増殖期を超える前の時点では倍加時間は17時間を超えていなかった。インフルエンザウイルス接種時の培地はプロテアーゼを含まないイーグルMEM培地(日水製薬)を使用した。細胞培養4日目の対数増殖期を超えた時点での細胞の様子を図4に示した。単位面積当たりの細胞数が上限に達し、細胞間接着がより強固になっていると考えられた。
[0065]
 ウイルス接種後、pH7.0、温度34.0℃で撹拌しながらウイルス培養を行った。ウイルス接種後、培養4日目まで毎日培養上清をサンプリングし、ウイルスタンパク質量を実施例1と同様に測定した。ウイルス接種後、培養4日目のウイルスタンパク質量は、細胞培養4日目にウイルス接種した場合は22.9μg/mLであり、細胞培養2日目にウイルス接種した場合は10.4μg/mLであった。
[0066]
 細胞が対数増殖期を超えた後にインフルエンザウイルスを接種してプロテアーゼを含まない培地で培養することで、対数増殖期を超える前にウイルスを接種するよりも、インフルエンザウイルスタンパク質量は高い収量であった。
[0067]
(実施例3)細胞の三次元培養時のインフルエンザウイルスの培養
 本実施例では、マイクロキャリアを用いた三次元培養で細胞を培養し、プロテアーゼを含まない培地でインフルエンザウイルスを培養したときのインフルエンザウイルスのHA価およびウイルスタンパク質量を確認する。
[0068]
 本実施例において、実施例1-2と同様にインフルエンザウイルスの培養には宿主細胞として細胞株Aを使用した。
[0069]
 細胞株Aを、ガラススピナーフラスコを用い培養液量200mLにて培養した。細胞培養5日目の対数増殖期を超えた時点の細胞株Aに、インフルエンザウイルス(B/Mie/3/2015)をm.o.i=0.01にて接種した。インフルエンザウイルス接種時のMDCK細胞の倍加時間は17時間を超えていた。インフルエンザウイルス接種時の培地はプロテアーゼを含まないイーグルMEM培地(日水製薬)を使用した。
[0070]
 ウイルス接種後、pH7.0±0.2、温度34.0℃で撹拌しながらウイルス培養を行った。ウイルス接種後、培養4日目の培養上清をサンプリングし、HA価およびウイルスタンパク質量を実施例1と同様に測定した。培養4日目のインフルエンザウイルスのHA価は2048、ウイルスタンパク質量は45.85μg/mLであった。
[0071]
 (比較例3)
 比較例として、T225フラスコを用いた静置培養でMDCK細胞を培養し、対数増殖期を超えた時点の細胞株Aにプロテアーゼを含まない培地でインフルエンザウイルスを接種したときのインフルエンザウイルスのHA価およびウイルスタンパク質量を実施例1と同様に測定した。培養4日目のインフルエンザウイルスのHA価は256、ウイルスタンパク質量は2.12μg/mLであった。実施例3と比較例3における細胞数とウイルスタンパク質量の比較を表1に示した。本比較例において、実施例1-2と同様にインフルエンザウイルスの培養には宿主細胞として細胞株Aを使用した。
[0072]
[表1]


[0073]
 マイクロキャリアを用いた三次元培養で細胞株Aを培養したほうが、静置培養で細胞株Aを培養した場合に比べてインフルエンザウイルスのHA価およびウイルスタンパク質量は高い収量であった。また、インフルエンザウイルス接種時の細胞数でウイルスタンパク質量を割った値である、細胞1個あたりが産生するウイルスタンパク質量は、細胞を三次元培養することで5倍以上となった(表1)。

産業上の利用可能性

[0074]
 以上詳述したように、本発明のMDCK細胞が対数増殖期を超えた後プロテアーゼを含まない培地でインフルエンザウイルスを接種する培養方法によれば、効率的にインフルエンザウイルスを培養することができる。その結果、インフルエンザウイルスのウイルスタンパク質を高い収量で得ることができる。本発明は製造スケールでも応用可能であるため、効率的なワクチン製造を可能とすることができ、産業上優れている。

請求の範囲

[請求項1]
MDCK細胞を宿主とするインフルエンザウイルスの培養方法において、プロテアーゼを含まない培地条件下で、MDCK細胞が対数増殖期を超えた後、インフルエンザウイルスを接種する、インフルエンザウイルスの培養方法。
[請求項2]
MDCK細胞を宿主とするインフルエンザウイルスの培養方法において、プロテアーゼを含む培地条件下でインフルエンザウイルスを接種するよりも高いウイルス収量を示す、請求項1に記載のインフルエンザウイルスの培養方法。
[請求項3]
MDCK細胞を宿主とするインフルエンザウイルスの培養方法において、当該MDCK細胞の倍加時間が17時間を超えた後、プロテアーゼを含まない培地条件下でインフルエンザウイルスを接種する、インフルエンザウイルスの培養方法。
[請求項4]
MDCK細胞を宿主とするインフルエンザウイルスの培養方法において、MDCK細胞の培養方法が三次元培養方法である、請求項1~3のいずれかに記載のインフルエンザウイルスの培養方法。
[請求項5]
前記三次元培養方法が、マイクロキャリアを用いた三次元培養方法である、請求項4に記載のインフルエンザウイルスの培養方法。
[請求項6]
プロテアーゼがトリプシンである、請求項1~5のいずれかに記載のインフルエンザウイルスの培養方法。
[請求項7]
MDCK細胞が、プロテアーゼ非依存性MDCK細胞である、請求項1~6のいずれかに記載のインフルエンザウイルスの培養方法。
[請求項8]
プロテアーゼ非依存性MDCK細胞が、受託番号NITE BP-02014にて特定されるクローニングしたMDCK細胞である、請求項7に記載のインフルエンザウイルスの培養方法。
[請求項9]
プロテアーゼを含まない培地条件下で、MDCK細胞が対数増殖期を超えた後、インフルエンザウイルスを接種するMDCK細胞であって、プロテアーゼを含む培地条件下でインフルエンザウイルスを接種するよりも、インフルエンザウイルス培養において高いウイルス収量を示すMDCK細胞。
[請求項10]
プロテアーゼ非依存性MDCK細胞である、請求項9に記載のMDCK細胞。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]