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1. (WO2019059054) 硬質炭素系被膜の製造方法、及び被膜付き部材
Document

明 細 書

発明の名称 硬質炭素系被膜の製造方法、及び被膜付き部材

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004  

先行技術文献

特許文献

0005  

発明の概要

0006   0007   0008   0009   0010  

図面の簡単な説明

0011  

発明を実施するための形態

0012   0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081   0082   0083   0084   0085   0086   0087   0088   0089   0090   0091   0092   0093   0094   0095   0096   0097   0098   0099   0100   0101   0102   0103   0104   0105   0106   0107   0108   0109   0110   0111   0112   0113   0114   0115   0116   0117   0118   0119   0120   0121   0122   0123   0124   0125   0126   0127   0128   0129   0130   0131   0132   0133   0134   0135   0136   0137   0138   0139   0140  

符号の説明

0141  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10   11   12   13   14   15   16   17   18   19  

図面

1   2   3   4   5   6  

明 細 書

発明の名称 : 硬質炭素系被膜の製造方法、及び被膜付き部材

技術分野

[0001]
 本開示は、硬質炭素系被膜の製造方法、及び被膜付き部材に関する。
 本出願は、2017年9月25日付の日本国出願の特願2017-184240、2018年3月12日付の日本国出願の特願2018-044133に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。

背景技術

[0002]
 工具表面、摺動部品表面、耐腐食性部品表面、耐酸・耐アルカリ性部品表面、又は電極材料の表面などへの被膜材料として、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、カーボンナノチューブ(CNT)、又はフラーレン(C 60、C 70、C 74など)等を含む炭素材料の被膜が用いられている。
[0003]
 被膜の製造方法は、化学蒸着(Chemical Vapor Deposition:CVD)、物理蒸着(Physical Vapor Deposition:PVD)などの成膜方法が一般的に用いられる。
[0004]
 一方で、特許文献1のように、放電により工具表面のクラック、傷、又は摩耗部分を補修する技術が知られている。この原理は、放電のエネルギーにより、一方の電極である金属を一瞬に溶融し、もう一方に対向する基材(工具、又は部品)に引き込み成膜・堆積するものである。この方法は高融点金属などの被膜形成方法として知られていた。

先行技術文献

特許文献

[0005]
特許文献1 : 特開2010-132951号公報

発明の概要

[0006]
 本開示の硬質炭素系被膜の製造方法は、
 電源装置と炭素材料を含む放電電極とを有する成膜装置、及び被膜が形成される表面を有する基材を準備する工程Aと、
 前記成膜装置によって、前記放電電極と前記基材との間に繰り返し放電を発生させることで、前記表面に硬質炭素系被膜を形成する工程Bと、を備える。
[0007]
 本開示の被膜付き部材は、
 基材と、前記基材の少なくとも一部に形成される硬質炭素系被膜と、を備える被膜付き部材であって、
 前記硬質炭素系被膜のラマン分光法におけるピーク位置であるXと、そのピーク位置における半値幅であるWと、が以下の条件を満たす。
 38cm -1<W<500cm -1
 16×(X-1347.5)+39<W<16×(X-1335)+39
 X<1370cm -1
[0008]
 本開示の被膜付き部材は、
 基材と、前記基材の少なくとも一部に形成される硬質炭素系被膜と、を備える被膜付き部材であって、
 前記硬質炭素系被膜のラマン分光法におけるDバンドのピーク強度とGバンドのピーク強度との比であるD/Gと、前記Dバンドにおける半値幅であるWとが、
 W<50cm -1、かつD/G>10.5、又は
 W≦115cm -1、かつD/G<9.0、かつ80/(D/G) 0.5<W<180/(D/G) 0.5、又は
 115cm -1<W<500cm -1、かつD/G<2.8を満たす。
[0009]
 本開示の被膜付き部材は、
 基材と、前記基材の少なくとも一部に形成される硬質炭素系被膜と、を備える被膜付き部材であって、
 前記硬質炭素系被膜は、ラマン分光法におけるDバンドのピークとGバンドのピークを有する部位を含み、
 更に
  ラマン分光法におけるピーク位置が910±50cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が810±30cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が705±30cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が535±30cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が260±20cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が210±20cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が135±20cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が95±10cm -1の部位、及び
  ラマン分光法におけるピーク位置が2327±10cm -1の部位、の少なくとも一つを含む。
[0010]
 本開示の被膜付き部材は、
 基材と、前記基材の少なくとも一部に形成される硬質炭素系被膜と、を備える被膜付き部材であって、
 前記硬質炭素系被膜は、
  ラマン分光法におけるピーク位置が1335cm -1以上1349cm -1以下で、そのピーク位置における半値幅が30cm -1以上95cm -1以下の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が1349cm -1以上1370cm -1以下で、そのピーク位置における半値幅が95cm -1以上350cm -1以下の部位、及び
  ラマン分光法におけるピーク位置が1300cm -1以上1335cm -1以下で、そのピーク位置における半値幅が1cm -1以上29cm -1以下の部位の少なくとも一つを含む。

図面の簡単な説明

[0011]
[図1] 第一の成膜装置を用いた硬質炭素系被膜の製造方法を示す説明図である。
[図2] 第二の成膜装置を用いた硬質炭素系被膜の製造方法を示す説明図である。
[図3] 第三の成膜装置を用いた硬質炭素系被膜の製造方法を示す説明図である。
[図4] 基材上に硬質炭素系被膜が形成された被膜付き部材の断面模式図である。
[図5] 試験5の各サンプルのDバンドのピーク位置とそのピーク位置における半値幅との関係を示すグラフである。
[図6] 試験5の各サンプルのD/G比とDバンドにおける半値幅との関係を示すグラフである。

発明を実施するための形態

[0012]
[本開示が解決しようとする課題]
 従来の硬質炭素系被膜の成膜にはCVD、又はPVDなどを行う特別な設備が必要で、成膜にコストと時間がかかるため、より簡便な方法が望まれている。特許文献1の方法は、工具、又は部品の基材と同じ金属材料を放電によって成膜するものであり、炭素系材料(炭素が主流の材料)の被膜としては試みられていなかった。
[0013]
 硬質炭素系被膜の成膜を考えた場合、使用されるのは比較的柔らかい炭素電極である。ここでいう『柔らかい』とは、炭素の結合が弱く、物理的に低硬度という意味である。炭素電極は導電性の高いSP2結合、及びSP2様結合の多い電極、あるいはπ結合の多い電極である。そのため、基材に形成される被膜も、SP2結合、SP2様結合、又はπ結合の多い被膜となる。工具を始めとする多くの用途においては、被膜が硬質であることが重要な特性である。ここで、SP2様結合とは、ラマン分光法で得られたスペクトルにおいて、ピーク位置がSP2結合と同様で、ピーク位置の半値幅がSP2結合よりも大きい値を示す結合のことである。秩序だったSP2結合の半値幅は20cm -1未満と小さいが、結合の秩序が乱れてくると半値幅が大きくなる。SP2結合よりも半値幅が大きい結合であってもその物理特性はSP2結合に類似するため、本明細書ではSP2様結合と称する。
[0014]
 そこで、本開示は、硬質な炭素系被膜を簡便に形成できる硬質炭素系被膜の製造方法を提供することを目的の一つとする。また、本開示は、基材上に硬質炭素系被膜を形成した被膜付き部材を提供することを目的の一つとする。
[0015]
[本開示の効果]
 上記硬質炭素系被膜の製造方法によれば、硬質な被膜を簡便に形成することができる。
[0016]
 上記被膜付き部材は、従来よりも硬質な炭素系被膜を備える。
[0017]
[本開示の実施形態]
 本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
[0018]
 炭素原子の結合には、SP2結合、SP2様結合、π結合、SP3結合、又はSP3様結合などが存在する。ここで、SP2様結合とは、SP2結合に類似する物理特性を示す結合のことで、SP3様結合とは、SP3結合に類似する物理特性を示す結合のことである。これらの結合は、後段で述べるように、ラマン分光法で得られたスペクトルのピーク位置、あるいはピーク位置とそのピーク位置での半値幅(半値全幅)によって区別することができる。SP2結合、及びSP2様結合はグラファイトなどの比較的柔らかい炭素材料で認められる。また、π結合も比較的柔らかい炭素材料で認められる。一方、SP3結合、及びSP3様結合は、ダイヤモンドなどの硬質の炭素材料で認められる。また、平面結合のSP2結合、又はSP2様結合が曲面状に曲がることで、SP3結合、又はSP3様結合に近づいた結合も比較的硬質な炭素材料で認められる。SP2結合、又はSP2様結合が曲面状のように曲がっている結合としては、例えばカーボンナノチューブ、又はフラーレンのような微小の領域で結合のループを作っている結合が挙げられる。そのような炭素の結合はSP2結合のように平面的ではなく、SPx結合(2<x<3)あるいはSPx様結合(2<x<3)と言える。硬質炭素系被膜の炭素の結合がSP2結合から外れれば、硬質炭素系被膜のπ結合の割合も減少して硬質炭素系被膜が硬くなる。
[0019]
 上述したように、炭素系被膜における炭素原子のSP3結合、SP3様結合、SPx結合、及びSPx様結合の割合が多ければ、硬質な炭素系被膜となる。本願発明者らは、このような硬質炭素系被膜を簡便に効率良く形成できる方法を鋭意検討した。その結果、SP2結合、SP2様結合、及びπ結合の割合が多い高導電性の炭素電極を用いて繰り返しの放電を行うことで、SP3結合、SP3様結合、SPx結合、及びSPx様結合の少なくとも一つを含む硬質炭素系被膜を形成することに想到した。以下に、硬質炭素系被膜の製造方法、及び硬質炭素系被膜を有する被膜付き部材の詳細を説明する。
[0020]
(1)実施形態に係る硬質炭素系被膜の製造方法は、
 電源装置と炭素材料を含む放電電極とを有する成膜装置、及び被膜が形成される表面を有する基材を準備する工程Aと、
 前記成膜装置によって、前記放電電極と前記基材との間に繰り返し放電を発生させることで、前記表面に硬質炭素系被膜を形成する工程Bと、を備える。
[0021]
 上記硬質炭素系被膜の製造方法によれば、炭素材料を含む導電性の放電電極と基材との間で繰り返し放電を発生させるだけの簡便な操作で、基材の表面に硬質炭素系被膜を形成することができる。また、導電性の炭素材料としてはグラファイトなどの安価で容易に入手可能なものを利用できるため、その点においても硬質炭素系被膜の生産性に優れる。
[0022]
 ここで、硬質炭素系被膜とは、炭素を主成分とする硬質の被膜、又は炭素を副成分とする硬質の被膜である。炭素を主成分とする被膜とは、被膜に占める炭素の含有量が50原子%以上である被膜のことである。炭素を副成分とする被膜とは、被膜に占める炭素の含有量が10原子%超50原子%未満である被膜のことである。また、硬質の被膜とは、被膜に含まれる炭素がSP3結合、SP3様結合、SPx結合(2<x<3)、及びSPx様結合(2<x<3)の少なくとも一つを有している被膜のことである。
[0023]
 硬質の被膜は、例えば、後述する被覆付き部材の項目で規定するラマン分光法の測定結果を満たす被膜のことである。より具体的には、硬質炭素系被膜として、炭素が100%のダイヤモンドやテトラヘドラルアモルファスカーボン、又はカーボンナノチューブなどで構成される被膜が挙げられる。その他、炭素が100%未満の炭素系被膜、例えば窒化炭素(CN)又はホウ窒化炭素(BCN)の被膜なども、硬質炭素系被膜の一つに挙げられる。さらに、引張強度に強い繊維質の炭素材料(カーボンナノチューブなどを含む)、又は導電性の炭素材料(SP2結合の部分、SP2様結合の部分、及びフラーレンなどを含む)が含まれる被膜も、本開示の硬質炭素系被膜に含まれる。繊維質の炭素材料が含まれる硬質炭素系被膜は、その硬質炭素系被膜が形成された部材の抗折強度を向上させる効果を有する。また、硬質炭素系被覆の中に含まれる上記導電性の炭素材料は潤滑剤として機能することができる。そのような硬質炭素系被膜は、工具、金型、摺動部材、耐腐食部材、又は電極部材などに形成する被膜として利用可能である。
[0024]
(2)実施形態に係る硬質炭素系被膜の製造方法の一形態として、
 前記電源装置は交流電源であり、
 前記放電電極に印加する交流電圧は3.6kV以上である形態を挙げることができる。
[0025]
 電源装置を交流電源とすることで、放電電極の電圧が高まったときに放電が生じることを繰り返すことができる。基材側には負のバイアス電位を印加してもかまわない。バイアス電位は、セルフバイアス電位であっても良いし、外部から基材に印加したバイアス電位であっても良い。また、放電電極を振動させて、放電が周期的に発生することを促しても良い。
[0026]
 本願発明者らの検討の結果、繰り返しの放電の際、従来では考えられなかった大きなエネルギーを一瞬で効率よく与えること、高いエネルギー状態の結合をより早く凍結すること、が重要であることが分かった。そこで、上記構成では、3.6kV以上の高い交流電圧を放電電極に印加している。このような電圧は、タングステン被膜のような金属材料を基材上に形成する従来の手法よりも、大きなエネルギーを電極と基材間に与えるものである。このような電圧とすることにより、SP2結合、及びSP2様結合の割合が多い炭素電極の構成材料を、SP3結合、及びSP3様結合の割合の多い硬質炭素系被膜に変換することができる。
[0027]
(3)実施形態に係る硬質炭素系被膜の製造方法の一形態として、
 前記電源装置は直流電源であり、
 前記放電電極に印加する直流電圧は3.6kV以上であり、
 前記放電電極を周期的に振動させ、100ミリ秒未満のパルス幅を有する放電を生じさせる。
[0028]
 3.6kV以上の高い直流電圧を放電電極に印加することで、上記(2)と同様に、SP2結合、及びSP2様結合の割合が多い炭素電極の構成材料を、SP3結合、及びSP3様結合の割合の多い硬質炭素系被膜に変換することができる。また、放電電極は基材に対して振動させることで、連続して放電を持続でき、広範囲に連続した硬質炭素系被膜を形成できる。本構成においても、基材側に負のバイアス電位を印加してもかまわない。
[0029]
(4)実施形態に係る硬質炭素系被膜の製造方法の一形態として、
 前記成膜装置は、前記電源装置からの電力を蓄える充電回路と、
 前記充電回路の電力をパルス状に放電させる放電回路と、
 前記放電電極と前記基材との間の電圧が125V超でパルス幅が1ミリ秒未満の放電、又は前記放電電極と前記基材との間の電圧が50V超でパルス幅が10マイクロ秒未満の放電が発生するように前記放電回路を制御する放電制御部と、を備える形態を挙げることができる。
[0030]
 上記構成に示すように、極めて短時間に、放電電極と基材との間に所定以上の電圧がかかるようにすることで、上記(2),(3)と同様に、SP2結合、及びSP2様結合の割合が多い炭素電極の構成材料を、SP3結合、及びSP3様結合の割合の多い硬質炭素系被膜に変換することができる。本構成においても、放電電極を振動させたり基材側に負のバイアス電位を印加したりしてもかまわない。
[0031]
(5)実施形態に係る硬質炭素系被膜の製造方法の一形態として、
 前記基材は、超硬合金、鉄系材料、ホウ窒化炭素系材料、立方晶窒化ホウ素系材料、サーメット、Ni系材料、又は導電性セラミックスで構成される形態を挙げることができる。
[0032]
 上記(5)に列挙される材料は、主に工具の構成材料である。従って、上記構成によれば、硬質炭素系被膜を有する工具(被膜付き部材)を作製することができる。
[0033]
(6)実施形態に係る硬質炭素系被膜の製造方法の一形態として、
 前記放電電極は、炭素を90質量%以上含む炭素材料である形態を挙げることができる。
[0034]
 放電電極に炭素が90質量%以上含まれることで、硬質炭素系被膜が形成され易く、硬質炭素系被膜におけるSP3結合、及びSP3様結合の割合を大きくできる。炭素材料を固めるためのバインダーが多量に入った純度の低い炭素電極では、SP3結合、及びSP3様結合を有する硬質炭素系被膜が形成され難い。
[0035]
(7)実施形態に係る被膜付き部材は、
 基材と、前記基材の少なくとも一部に形成される硬質炭素系被膜と、を備える被膜付き部材であって、
 前記硬質炭素系被膜のラマン分光法におけるピーク位置であるXと、そのピーク位置における半値幅であるWと、が以下の条件を満たす。
 38cm -1<W<500cm -1
 16×(X-1347.5)+39<W<16×(X-1335)+39
 X<1370cm -1
[0036]
 532nmの励起波長のレーザーを用いたラマン分光法で得られたスペクトルにおいて、SP3結合は1325cm -1以上1335cm -1未満の位置に鋭いピーク(半値幅が20cm -1未満)を形成する。SP3結合の秩序が乱れてくると、ピーク位置が1335cm -1以上1400cm -1未満となり、半値幅も大きく(20cm -1以上)なる。本明細書では、SP3結合のピークに隣接する位置にピークがシフトし、半値幅が大きくなった結合をSP3様結合と称する。ここで、特異な場合では、ピーク位置が1335cm -1以上1400cm -1未満においても、半値幅が小さい(20cm -1未満)炭素材料の結合が得られることがある。これは、SP3様結合でありながらSP3結合の秩序が向上したものであり、本開示のSP3様結合に含まれる。この特異なSP3様結合は、硬質炭素系被膜の硬度の向上に寄与するので、工具の被膜として好適である。一方、ラマン分光法で得られたスペクトルにおいて、SP2結合は1500cm -1以上1650cm -1未満の位置に半値幅が20cm -1未満のピークを形成する。SP2結合の秩序が乱れてくると、ピーク位置は変わらないが(1500cm -1以上1650cm -1未満)、半値幅は20cm -1以上と大きくなる。本明細書では、SP2結合に対して半値幅が大きくなった結合をSP2様結合と称する。これら各結合の定義に鑑みれば、硬質炭素系被膜をラマン分光法で測定した結果が上記(7)に記載の範囲を満たしていれば、硬質炭素系被膜においてSP3結合、及びSP3様結合の少なくとも一つが形成されていると判断できる。Xの下限値は1335cm -1とすることが好ましい。
[0037]
(8)実施形態に係る被膜付き部材は、
 基材と、前記基材の少なくとも一部に形成される硬質炭素系被膜と、を備える被膜付き部材であって、
 前記硬質炭素系被膜のラマン分光法におけるDバンドのピーク強度とGバンドのピーク強度との比であるD/Gと、前記Dバンドにおける半値幅であるWとが、
 W<50cm -1、かつD/G>10.5、又は
 W≦115cm -1、かつD/G<9.0、かつ80/(D/G) 0.5<W<180/(D/G) 0.5、又は
 115cm -1<W<500cm -1、かつD/G<2.8を満たす。
[0038]
 一般に、ラマン分光法で1360cm -1付近に形成されるピークをDバンド、1580cm -1付近に形成されるピークをGバンドというが、本明細書では、1325cm -1以上1400cm -1未満に形成されるピークをDバンド、1500cm -1以上1650cm -1未満に形成されるピークをGバンドと称す。つまり、DバンドはSP3結合、及びSP3様結合に対応し、GバンドはSP2結合、及びSP2様結合に対応している。そのため、両バンドのピーク強度比であるD/Gと、Dバンドにおける半値幅Wが上記範囲を満たしていれば、硬質炭素系被膜においてSP3結合、及びSP3様結合が形成されていると判断できる。D/Gが高いということは、硬質炭素系被膜におけるSP3結合、及びSP3様結合が多いことを示しているので、D/Gの下限値は1.0以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、更には2.0以上であることが好ましい。特異な場合では、ピーク位置が1335cm -1以上1400cm -1未満においても、半値幅が小さく(20cm -1未満)、D/Gが100以上の炭素材料の結合が得られることがある。これは、SP3様結合でありながらSP3結合の秩序が向上したものであり、本開示のSP3様結合に含まれる。この特異なSP3様結合は、硬質炭素系被膜の硬度の向上に寄与するので、工具の被膜として好適である。但し、硬質炭素系被膜において上記下限値以上の部位が面積比で10%以上含まれていれば、残りの部分のD/Gは0.2以上あれば十分である。硬質な部位が硬質炭素系被膜中に10%以上含まれていれば、硬質な部分が被膜中でパーコレーションを起こす。そのため、硬質炭素系被膜が、当該被膜に含まれる硬質な部分に支えられて、摩耗し難くなる。ここで、面積比の判断には色分けされたラマンイメージ、あるいは白黒の濃淡で表示されたラマンイメージを利用することができる。ラマンイメージの濃淡は4段階程度が適当である。ラマンイメージの作成にあたっては、ラマン分光法で得られたスペクトルからピークの強度の強弱が反映された5段階以上の濃淡イメージを画像処理で4段階程度にすることが好ましい。スペクトルのピーク位置は、スペクトルからバックグラウンドを引いて、ガウス分布でフィッティングすることで正確に求めることができる。バックグラウンドは、例えば次のように求める。まず、スペクトルから極大値を示す部分(仮のピーク)を特定する。仮のピークの半値幅が30cm -1以上であれば、仮のピークを中心に600cm -1の範囲で、スペクトルのカーブが下向きに凸となる極小値に接する接線を引いたものをバックグラウンドとする。仮のピークの半値幅が10cm -1以下であれば、仮のピークを中心として、その半値幅の3倍の範囲で、スペクトルのカーブが下向きに凸となる極小値に接する接線を引いたものをバックグラウンドとする。バックグラウンドが大きな傾きを持っていない場合、ピークと極大値はほぼ一致する。500cm -1以下のピークではバックグラウンドの傾きが大きくなったりする。
[0039]
(9)実施形態に係る被膜付き部材は、
 基材と、前記基材の少なくとも一部に形成される硬質炭素系被膜と、を備える被膜付き部材であって、
 前記硬質炭素系被膜は、ラマン分光法におけるDバンドのピークとGバンドのピークを有する部位を含み、
 更に
 (a)ラマン分光法におけるピーク位置が910±50cm -1の部位
 (b)ラマン分光法におけるピーク位置が810±30cm -1の部位
 (c)ラマン分光法におけるピーク位置が705±30cm -1の部位
 (d)ラマン分光法におけるピーク位置が535±30cm -1の部位
 (e)ラマン分光法におけるピーク位置が260±20cm -1の部位
 (f)ラマン分光法におけるピーク位置が210±20cm -1の部位
 (g)ラマン分光法におけるピーク位置が135±20cm -1の部位
 (h)ラマン分光法におけるピーク位置が95±10cm -1の部位
 (i)ラマン分光法におけるピーク位置が2327±10cm -1の部位、の少なくとも一つを含む。
[0040]
 上記(a)~(i)は、Dバンドのピーク高さの1/5以上のピーク値を持つ部位、より好ましくは1/3以上のピーク値を持つ部位(以下、Nバンドエリアと呼ぶ)である。このNバンドエリアは、カーボンナノチューブ、又はフラーレンなどのSPx結合、あるいはSPx様結合が形成された部分と考えられる。硬質炭素系被膜は、(a)~(d)のうちの少なくとも二つ、あるいは(e)~(i)のうちの少なくとも二つを含むことが好ましい。また、硬質炭素系被膜は、(a)~(d)のうちの少なくとも二つと、(e)~(i)のうちの少なくとも二つと、を含むことがより好ましい。
[0041]
 上記硬質炭素系被膜は、ラマン分光法におけるDバンドのピークとGバンドのピークを有する部分と、Nバンドエリアとを含む。Nバンドエリアを含む硬質炭素系被膜は、被膜付き部材の抗折強度を向上させる。このような硬質炭素系被膜は、工具あるいは電極材料の被膜として好適である。硬質炭素系被膜の平面面積に占めるNバンドエリアの面積割合は、0.1%以上99%以下であることが挙げられる。Nバンドエリア面積割合の下限値は、好ましくは1%以上、さらに好ましくは5%以上である。Nバンドエリア面積割合の上限値は、好ましくは80%以下、さらに好ましくは60%以下である。この面積割合を満たす硬質炭素被膜は、工具として、あるいは電極として好ましくなる。
[0042]
(10)実施形態に係る被膜付き部材は、
 基材と、前記基材の少なくとも一部に形成される硬質炭素系被膜と、を備える被膜付き部材であって、
 前記硬質炭素系被膜は、
 [A]ラマン分光法におけるピーク位置が1335cm -1以上1349cm -1以下で、そのピーク位置における半値幅が30cm -1以上95cm -1以下の部位、
 [B]ラマン分光法におけるピーク位置が1349cm -1以上1370cm -1以下で、そのピーク位置における半値幅が95cm -1以上350cm -1以下の部位、及び
 [C]ラマン分光法におけるピーク位置が1300cm -1以上1335cm -1以下で、そのピーク位置における半値幅が1cm -1以上29cm -1以下の部位、の少なくとも一つを含む。
[0043]
 実施形態の硬質炭素系被膜の製造方法で得られた硬質炭素系被膜では、炭素原子の結合状態が異なる部位がマーブル状に、あるいは粒状に形成されることがある。各部位の炭素原子の結合状態をラマン分光法で測定したとき、上記[A]、[B]、[C]のいずれかを満たしていれば、その部位の炭素原子の結合状態がSP3結合又はSP3様結合であると認められる。もちろん、硬質炭素系被膜が、[A]、[B]、[C]のいずれかのみで構成されることもあり得る。この中でも、少なくとも[A]を含むことは、[A]を含まない組み合わせより好ましい。[A]は、[B]と[C]の中間の特性を持つため、[B]に対しても[C]に対しても親和性が良いからである。
[0044]
(11)上記(7)、(8)、又は(10)の被膜付き部材の一形態として、
 前記硬質炭素系被膜は更に、
 (a)ラマン分光法におけるピーク位置が910±50cm -1の部位、
 (b)ラマン分光法におけるピーク位置が810±30cm -1の部位、
 (c)ラマン分光法におけるピーク位置が705±30cm -1の部位、
 (d)ラマン分光法におけるピーク位置が535±30cm -1の部位、
 (e)ラマン分光法におけるピーク位置が260±20cm -1の部位、
 (f)ラマン分光法におけるピーク位置が210±20cm -1の部位、
 (g)ラマン分光法におけるピーク位置が135±20cm -1の部位、
 (h)ラマン分光法におけるピーク位置が95±10cm -1の部位、及び
 (i)ラマン分光法におけるピーク位置が2327±10cm -1の部位の少なくとも一つを含む形態を挙げることができる。
[0045]
 硬質炭素系被膜は、(a)~(d)のうちの少なくとも二つ、あるいは(e)~(i)のうちの少なくとも二つを含むことが好ましい。また、硬質炭素系被膜は、(a)~(d)のうちの少なくとも二つと、(e)~(i)のうちの少なくとも二つと、を含むことがより好ましい。上記(a)~(i)は引張りに強い特性を持つため、硬質である[A]、[B]、[C]を含む硬質炭素系被膜の靱性を向上させる。
[0046]
(12)実施形態に係る被膜付き部材の一形態として、
 前記硬質炭素系被膜は、5原子%以上60原子%以下の窒素を含む形態を挙げることができる。
[0047]
 窒素を含む硬質炭素系被膜としては、例えば窒化炭素などが挙げられる。この硬質炭素系被膜は、例えば工具の被膜として好適である。
[0048]
(13)実施形態に係る被膜付き部材の一形態として、
 前記硬質炭素系被膜は、5原子%以上50原子%以下のホウ素を含む形態を挙げることができる。
[0049]
 ホウ素を含む硬質炭素系被膜としては、例えばホウ窒化炭素などが挙げられる。この硬質炭素系被膜は、例えば工具の被膜として好適である。
[0050]
(14)実施形態に係る被膜付き部材の一形態として、
 前記硬質炭素系被膜は、アルミニウム、シリコン及びリンを合計で5原子%以上50原子%以下含む形態を挙げることができる。
[0051]
 アルミニウム、シリコン及びリンは、炭化物を形成して硬質炭素系被膜の硬度、及び耐亀裂性を向上させる。
[0052]
(15)実施形態に係る被膜付き部材の一形態として、
 前記硬質炭素系被膜の表面粗さRaが0.1μm以上である形態を挙げることができる。
[0053]
 硬質炭素系被膜の表面粗さRaは、基材の表面粗さRaを反映した値となる。そのため、硬質炭素系被膜の表面粗さRaが0.1μm以上であれば、基材の表面に所定の凹凸があり、基材と硬質炭素系被膜との接触面積が十分に大きくなっているので、基材に対して密着性の向上した被膜となる。ここで、硬質炭素系被膜の表面粗さRaは凹凸を測定する機能を有する光学顕微鏡で一般的に評価できる表面粗さRaである。また、基材の表面粗さは、硬質炭素系被膜を酸素を含む雰囲気あるいはプラズマで除去した後に露出した表面粗さを測定することができる。ただし、硬質炭素系被膜が除去される速度が基材が除去される速度よりも5倍以上である条件で除膜する。その他、被膜付き部材の断面を露出させ、その断面を顕微鏡観察することで基材の凹凸を測定することもできる。
[0054]
(16)実施形態に係る被膜付き部材の一形態として、
 前記基材の表面粗さRaが0.1μm以上である形態を挙げることができる。
[0055]
 基材の表面粗さRaが0.1μm以上であれば、基材と硬質炭素系被膜との接合面積が大きくなり、硬質炭素系被膜が剥離し難くなる。
[0056]
(17)実施形態に係る被膜付き部材の一形態として、
 前記硬質炭素系被膜の平均粒径が10μm以下である形態を挙げることができる。
[0057]
 硬質炭素系被膜の平均粒径が10μm以下であれば、硬質炭素系被膜の靱性を向上させることができる。本実施形態の製造方法では、放電に伴って基材の表面の異なる位置にバラバラに被膜粒子が形成されていき、それら被膜粒子が繋がって硬質炭素系被膜が形成される。そのため、硬質炭素系被膜を走査型電子顕微鏡、又は光学顕微鏡で観察すると、粒界として認識できる境界が存在する。この境界は、ある瞬間に形成された被膜粒子と、別の瞬間に形成された被膜粒子とで、表面の凹凸の傾きが急激に変化することで形成される。顕微鏡観察した被膜粒子は、その最大径と最小径を算出できる状況であり、その算術平均を一つの被膜粒子の粒径とする。硬質炭素系被膜の任意の100μm角の視野を観察し、その観察視野内にある被膜粒子の粒径の平均を、硬質炭素系被膜の平均粒径とする。視野の抽出は、例えば被膜付き部材の被覆領域の重心を基準に行うと良い。視野の抽出は、硬質炭素系被膜の平面方向の異なる複数箇所(例えば、3以上10以下)で行い、抽出した全視野における粒径の平均を、硬質炭素系被膜の平均粒径とすることが好ましい。例えば、重心を通り、その重心から最も遠位にある硬質炭素系被膜の縁部を含む直線と、その直線に直交する直線を規定する。そして、重心で1点、重心から硬質炭素系被膜の縁部まで延びる各線分の中央で1点ずつ、合計5点の視野を抽出することが挙げられる。ここで、本明細書中の重心とは質量中心ではなく、被覆領域を2次元的にみた平面図形の重心(2次元的重心)である。その他、ラマン分光装置のマッピング機能あるいはイメージング機能で境界を見極めて、平均粒径を求めても良い。
[0058]
(18)実施形態に係る被膜付き部材の一形態として、
 前記基材は超硬合金であり、
 前記基材と前記硬質炭素系被膜との間に、Ni,Ti,Zr,Hf,Nb,Ta,Mo,Wの少なくとも1種を含む中間層を備える形態を挙げることができる。
[0059]
 上記中間層を備えることで、硬質炭素系被膜の剥離を抑制できる。また、この中間層であれば、基板材料と炭素材料との相互拡散を防止し、硬質炭素材料が形成し難くなることを防ぐという効果も得られる。
[0060]
(19)実施形態に係る被膜付き部材の一形態として、
 前記基材は超硬合金であり、
 前記基材と前記硬質炭素系被膜との間に、TiN,ZrN,HfN,NbN,TaN,NbC、TaC,MoC,WCの少なくとも1種を含む中間層を備える形態を挙げることができる。
[0061]
 上記中間層を備えることで、硬質炭素系被膜の剥離を抑制できる。また、この中間層であれば、上記(16)の中間層と異なり、既に窒化あるいは炭化していることもあり、基板材料と硬質炭素系被膜との相互拡散を防止できる。
[0062]
 ここで、本実施形態の硬質炭素系被膜の製造方法では、成膜時の基材の温度を室温とできる利点があり、そのため、基材上に熱膨張率の異なる硬質炭素系被膜を形成し易いという利点がある。しかし、放電によって極局部的に高温状態となるため、基材と硬質炭素系被膜との熱膨張差が全く無視できるわけではなく、基材上に硬質炭素系被膜が形成され難くなる場合がある。上記中間層は、基材と硬質炭素系被膜との熱膨張差によって硬質炭素材料が形成し難くなることを防ぐという効果を奏する。
[0063]
[本開示の実施形態の詳細]
<実施形態1>
 以下、本開示の硬質炭素系被膜の製造方法、及び被膜付き部材の実施形態を図面を参照して説明する。図面は特に記載がない限り、説明を明確にするための概略図である。よって、部材の大きさ、及び位置関係等は、誇張したり見やすい比率で記載されたりしている。複数の図面に表れる同一符号の部分は同一の部分又は部材を示す。なお、図面の参照、及び説明の都合において必要に応じて上下左右の方向、及び位置関係を示す用語を用いるが、それらの用語の使用は発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本開示の技術的範囲が制限されるものではない。
[0064]
 ≪硬質炭素系被膜の製造方法≫
 実施形態に係る硬質炭素系被膜の製造方法は、炭素電極と基材との間に繰り返し放電を発生させ、基材の表面に硬質炭素系被膜を形成する。その具体的な製造方法として、(1)交流を利用するもの、(2)直流を利用するもの、(3)パルス電圧を利用するもの、の三つがある。
[0065]
 (1)交流を利用した製造方法
 図1は、交流を利用した硬質炭素系被膜の製造方法を説明する図である。図1に示す成膜装置10は、放電電極1と、基材20を支持する支持電極3と、電源装置4と、バイアス電源5と、を備える。本例では、支持電極3上に基材20を設置し、放電電極1を基材20に近づけて、電源装置4で交流電圧を放電電極1と支持電極3との間に印加する。本例では更に、バイアス電源5によって支持電極3が負電位となるバイアス電位を印加し、放電電極1の電極材料を基材20側に引き付ける様にしている。バイアス電源5は無くても良い。この成膜装置10で放電電極1に交流電圧を印加することで、放電電極1の電極材料で構成された硬質炭素系被膜22を基材20の表面21に形成できる。放電電極1に交流電圧を印加しつつ放電電極1を基材20の表面21に並行に走査させることで、広範囲に硬質炭素系被膜22を形成することができる。走査は、表面21をスキャンできる装置を用いて自動で行っても良いし、手動で行っても良い。
[0066]
 電源装置4の交流電圧は3.6kV以上とすることが好ましい。これは、従来の高融点金属(1500℃より高い融点を持つ金属とする)の被覆方法における交流電圧よりも20%以上大きい。従来の高融点金属の被覆方法における交流電圧は1kV以上3kV以下程度である。高融点金属の被覆においては、交流電圧が1kVより小さいと放電時の電流が小さくなり、高融点の金属が溶融され難く、膜形成が難しくなり、3kVより大きいと放電時の衝撃が大きくなり、基材表面の凹凸が大きくなり、もとの表面形状を維持したままの平坦で均質な膜にならないからである。従来の被覆方法と同様の交流電圧で図1の成膜装置10を動作させても、炭素材料の被膜を形成することはできるが、その被膜はSP2結合の多い軟質の被膜になる。また、交流電圧が3kVより若干大きいぐらいでは、SP2結合、SP2様結合、SP3結合、及びSP3様結合が不均質に混ざる被膜となるので、本例では交流電圧を3.6kV以上としている。本例の交流電圧は、7kV以上とすることが好ましく、8kV以上とすることが更に好ましく、9kV以上とすることが最も好ましい。
[0067]
 放電電極1に瞬間的に高いエネルギーを与える上で、交流電圧の周波数を高くすることが有効である。例えば周波数は、商用周波数(50Hz又は60Hz)以上13.56MHz以下とすることが挙げられる。周波数の好ましい範囲は、例えば50Hz以上100MHz以下、更には10kHz以上15MHz以下である。
[0068]
 バイアス電源5によって支持電極3(基材20)が負電位となるバイアス電位をかける場合、そのバイアス電位の絶対値は100V以上とすることが好ましい。これは、従来の高融点金属の被膜方法におけるバイアス電位よりも20%以上大きい。従来の被覆方法におけるバイアス電位は30V以上80V以下程度である。本例のバイアス電位の上限は500Vとすることが好ましい。バイアス電位を大きくすると、SP3結合がSP3様結合に転換する可能性が高い。
[0069]
 硬質炭素系被膜22におけるSP3結合、及びSP3様結合の割合を増やすには、上述した交流電圧(交流電流)とバイアス電圧(バイアス電流)をそれぞれ独立に制御することが有効である。例えば、交流電圧とバイアス電圧がそれぞれ4.2kV超と112V超とすると、SP3様結合が均質な硬質炭素系被膜22となる。また、上記割合の増加には、基材20と放電電極1との間の距離を変化させることも有効である。瞬間的に放電電極1に大きなエネルギーを与えることができるからである。上記距離を変化させるには、例えば放電電極1を振動装置などで振動させると良い。
[0070]
 放電電極1には、導電性を有する炭素材料、例えばグラファイトなどを使用する。放電電極1には、炭素材料を結合する炭素以外のバインダーが含有されていても良い。放電電極1に占める炭素の含有量は90質量%以上とすることが好ましく、95質量%以上とすることがより好ましい、99質量%以上とすることが最も好ましい。さらに、炭素以外の元素の中で、共有結合性の元素が50質量%以上であることが好ましい。更に、放電電極の炭素材料が、本開示の硬質炭素系被膜の特徴を備えていることが好ましい。
[0071]
 支持電極3は特に限定されない。例えば図1に示すように、支持電極3は、基材20を表面21側から平面視したときの面積よりも大きな平面面積を有する平板状の電極とすることが挙げられる。また、支持電極3は、導電性に優れるCu(銅)などで構成することができる。
[0072]
 その他、成膜時の基材20の温度は600℃以下であることが好ましい。基材20の温度は常温付近とすることもできる。例えば、成膜時の基材20周りの成膜雰囲気を、室温・大気雰囲気とすることが挙げられる。その場合、より簡便な設備で硬質炭素系被膜22を形成することができる。大気雰囲気であれば、大気に含まれる窒素の一部が硬質炭素系被膜22に含有される場合がある。また、成膜雰囲気は、窒素が95体積%以上の雰囲気とすることもできる。そうすることで、より多くの窒素を含んだ硬質炭素系被膜22とすることができる。分子状窒素ではなく原子状窒素を硬質炭素系被膜22に含ませるために、原子状窒素が分離し易いガス(NH など)を含む成膜雰囲気で、硬質炭素系被膜22を成膜することが好ましい。窒素が含まれた硬質炭素系被膜22になると、炭素単体では反応してしまう被削材料に対しても適用範囲が広がるので、好ましい。硬質炭素系被膜22に窒素が原子数比で5%以上含まれると、被削材料に対する反応を抑制する効果が顕在化するようになり、10%以上で顕著になり、30%以上でさらに顕著になる。
[0073]
 放電電極1は、硬質炭素系被膜22の成膜に伴って消耗する。そこで、放電電極1から基材20までの距離をモニターし、当該距離が一定となるように調整することが好ましい。例えば、距離を自動で調整する装置を用いて、当該距離が0.5mmで保たれるようにすることが挙げられる。その他、振動装置などで放電電極1を機械的に振動させ、基材20の表面21に放電電極1をこすりつける様にしても良い。その場合、振動によって周期的に放電電極1と基材20との間隔が開き、間隔が開いたときに放電が生じるようにできる。当該間隔は0mmから1mm程度の間で変化する。
[0074]
 (2)直流を利用した製造方法
 図2は、直流を利用した硬質炭素系被膜の製造方法を説明する図である。図2に示す成膜装置10は、図1の放電電極1と支持電極3に加え、直流を発生させる電源装置4と放電電極1を振動させる振動装置6とを備える。本例では、支持電極3上に基材20を設置し、放電電極1を基材20に近づけて、電源装置4で直流電圧を放電電極1に印加すると共に、振動装置6で放電電極1を振動させる。本例においても、放電電極1を基材20の表面21に並行に走査させることで、広範囲に硬質炭素系被膜22を形成することができる。
[0075]
 電源装置4の直流電圧は3.6kV以上とすることが好ましい。、直流電圧が3kVより若干大きいぐらいでは、SP2結合、SP2様結合、SP3結合、及びSP3様結合が不均質に混ざる被膜となるので、本例では直流電圧を3.6kV以上としている。本例の直流電圧は、7kV以上とすることが好ましく、8kV以上とすることが更に好ましく、9kV以上とすることが最も好ましい。
[0076]
 振動装置6は、放電電極1の一端(基材20とは反対側)を把持し、放電電極1を周期的に振動させる。振動によって放電電極1と基材20との間の距離が変化し、その距離が所定以下になったときに、放電が生じる。振動装置6は、放電のパルス幅が100ミリ秒未満となるように調整される。例えば、振動装置6による放電電極1の振動数を1Hz以上、更には10Hz以上、あるいは50Hz以上とすることが挙げられる。瞬間的に大きなエネルギーを放電電極1に与えることで、硬質炭素系被膜22におけるSP3結合、及びSP3様結合の割合を増やすことができる。
[0077]
 本例においても、支持電極3が負電位となるバイアス電位を付与しても良い。バイアス電位の付与には、図1に示すようなバイアス電源5を用いることができる。バイアス電位はセルフバイアス電位であっても良い。図2ではバイアス電源の図示を省略している。
[0078]
 (3)パルス電圧を利用した製造方法
 既に説明したように、硬質炭素系被膜22におけるSP3結合、及びSP3様結合の割合を増やすには、瞬間的に大きなエネルギーを放電電極1に与えることが好ましい。その観点から、パルス電圧が放電電極1に印加されるようにしても良い。図3は、パルス電圧を利用した硬質炭素系被膜の製造方法を説明する図である。図3に示す成膜装置10は、図2の放電電極1、支持電極3及び電源装置4に加え、充電回路11と放電回路12と放電制御部13とを備える。充電回路11は、電源装置4の正極に繋がる可変抵抗11rと、可変抵抗11rの下流で正極線と負極線との間を繋ぐ連絡線に設けられる可変コンデンサ11cと、を備える。放電回路12は、充電回路11の可変コンデンサ11cと、上記連絡線よりも下流で可変抵抗11rに直列に繋がる抵抗12r及びインダクタ12iと、を備える。放電制御部13は、可変抵抗11rと可変コンデンサ11cの値を変化させる。本例の成膜装置10によれば、充電回路11の可変コンデンサ11cに貯めた電力を、放電回路12によってパルス状に放電電極1に印加することができる。パルス状の電圧が放電電極1に印加されることで、放電電極1と基材20との間にパルス状の放電が発生し、基材20の表面21に硬質炭素系被膜22が形成される。本例においても、放電電極1を基材20の表面21に並行に走査させることで、広範囲に硬質炭素系被膜22を形成することができる。
[0079]
 パルス状の放電は、次の条件のいずれかを満たすことが好ましい。
・放電電極1と基材20との間の電圧が125V超でパルス幅が1ミリ秒未満
・放電電極1と基材20との間の電圧が50V超でパルス幅が10マイクロ秒未満
[0080]
 上記条件を満たすように、充電回路11と放電回路12を放電制御部13で制御することで、基材20に硬質炭素系被膜22を形成することができる。放電電極1と基材20との間の電圧は、放電制御部13が可変抵抗11rと可変コンデンサ11cの値を変えることで調整できる。また、パルス幅は抵抗12r、及びインダクタンス12iの少なくとも一方を変えることで調整できる。なお、放電電極1と基材20との間の電圧とパルス幅は、高圧プローブなども利用して、オシロスコープで観察することで測定することができる。
[0081]
 パルス幅の調整にあたり、放電電極1を振動させても良い。放電電極1の振動には、図2の振動装置6を利用することができる。
[0082]
 放電電圧を高くすることで、硬質炭素系被膜22に占めるSP3結合、及びSP3様結合の部位(Dバンドの部位)を多くすることができる。例えば、後述するD/G>10.5を達成する場合、放電電圧を400V以上とすることが挙げられる。一方、放電電圧を低くすることで、硬質炭素系被膜22に占めるSPx結合、及びSPx様結合の部位を多くすることができる。例えば、放電電圧を80V以上110V未満とすることが挙げられる。より好ましい放電電圧は100V以上110V未満である。
[0083]
 ≪被膜付き部材≫
 上述した硬質炭素系被膜の製造方法によれば、図4に示すような被膜付き部材2を作製することができる。被膜付き部材2は、基材20と、基材20の少なくとも一部(ここでは表面21)に形成される硬質炭素系被膜22と、を備える。
[0084]
 基材20としては、超硬合金、鉄系材料、ホウ窒化炭素系材料、立方晶窒化ホウ素系材料、サーメット、Ni系材料、導電性セラミックスなどを挙げることができる。これらの材料は、主に工具の構成材料である。
[0085]
 上述した硬質炭素系被膜の製造方法で成膜した硬質炭素系被膜22は、ラマン分光法で特定することができる。特定方法は大別して3つある。
[0086]
 (1)一つ目の特定方法
 硬質炭素系被膜22のラマン分光法におけるピーク位置であるXと、そのピーク位置における半値幅であるWとが下記の[条件I]を満たす。
 [条件I]
 38cm -1<W<500cm -1
 16×(X-1347.5)+39<W<16×(X-1335)+39
 X<1370cm -1
[0087]
 既に述べたように、ラマン分光法で得られたスペクトルにおいて、SP3結合は1325cm -1以上1335cm -1未満の位置にピークを形成し、SP3様結合は1335cm -1以上1400cm -1未満の位置にピークを形成する。また、ラマン分光法で得られたスペクトルにおいて、SP2結合は1500cm -1以上1650cm -1未満の位置に半値幅が20cm -1未満のピークを形成し、SP2様結合は1500cm -1以上1650cm -1未満の位置に半値幅が20cm -1以上のピークを形成する。そのため、532nmの励起波長のレーザーを用いて、硬質炭素系被膜をラマン分光法で測定した結果が上記範囲を満たしていれば、硬質炭素系被膜においてSP3結合、及びSP3様結合が形成されていると判断できる。
[0088]
 上記硬質炭素系被膜22は、高硬度であるだけでなく、欠け難い性質を持つ。ピーク位置と半値幅が小さくなると硬度が高くなる傾向にあり、ピーク位置と半値幅が大きくなると耐欠損性が高くなる傾向にある。
[0089]
 (2)二つ目の特定方法
 前記硬質炭素系被膜のラマン分光法におけるDバンドのピーク強度とGバンドのピーク強度との比であるD/Gと、前記Dバンドにおける半値幅であるWと、が下記の[条件II-A]又は[条件II-B]又は[条件II-C]を満たす。
・[条件II-A]
 W≦115cm -1
 D/G<9.0
 80/(D/G) 0.5<W<180/(D/G) 0.5
・[条件II-B]
 115cm -1<W<500cm -1
 D/G<2.8
・[条件II-C]
 W<50cm -1(W<30cm -1がさらに好ましくは<20cm -1
 D/G>10.5(より好ましくはD/G>50、さらに好ましくはD/G>300)
[0090]
 既に述べたように、本明細書では、1325cm -1以上1400cm -1未満に形成されるピークはDバンド、1500cm -1以上1650cm -1未満に形成されるピークはGバンドである。つまり、DバンドはSP3結合、及びSP3様結合に対応し、GバンドはSP2結合、及びSP2様結合に対応している。そのため、両バンドのピーク強度比であるD/Gと、Dバンドにおける半値幅Wが上記範囲を満たしていれば、硬質炭素系被膜においてSP3結合、及びSP3様結合が形成されていると判断できる。
[0091]
 上記硬質炭素系被膜22は、高硬度であるだけでなく、欠け難く、摩耗し難い性質を持つ。D/Gが大きくなると耐摩耗性が高くなる傾向にあり、半値幅が大きくなると耐欠損性が高くなる傾向にある。
[0092]
 (3)三つ目の特定方法
 実施形態の硬質炭素系被膜の製造方法で得られた硬質炭素系被膜22では、炭素原子の結合状態が異なる部位がマーブル状、あるいは粒状に形成されることがある。その場合、硬質炭素系被膜22は、下記[条件III-A]を満たす部位、[条件III-B]を満たす部位、及び[条件III-C]を満たす部位の少なくとも一つを含む。
・[条件III-A]
 ラマン分光法におけるピーク位置が1335cm -1以上1349cm -1以下で、そのピーク位置における半値幅が30cm -1以上95cm -1以下。半値幅は更に30cm -1以上90cm -1以下が好ましく、40cm -1以上73cm -1以下が更に好ましく、62cm -1以上73cm -1以下が最も好ましい。
・[条件III-B]
 ラマン分光法におけるピーク位置が1349cm -1以上1370cm -1以下で、そのピーク位置における半値幅が95cm -1以上350cm -1以下。ピーク位置は更に、1350cm -1以上1365cm -1以下が好ましい。また、半値幅は更に120cm -1以上350cm -1以下が好ましく、130cm -1以上300cm -1以下が最も好ましい。
・[条件III-C]
 ラマン分光法におけるピーク位置が1300cm -1以上1335cm -1以下で、そのピーク位置における半値幅が1cm -1以上29cm -1以下。
[0093]
 ラマン分光法で測定した部位が、上記[条件III-A]、[条件III-B]、[条件III-C]のいずれかを満たしていれば、その部位の炭素原子の結合状態がSP3結合又はSP3様結合であると認められる。この中でも、少なくとも[条件III-A]を含むことは、[条件III-A]を含まない組み合わせより好ましい。これは[条件III-A]の部位は、[条件III-B]の部位と[条件III-C]の部位の中間の特性を持つために、全体の親和性が良くなるからである。
[0094]
 上記硬質炭素系被膜22は、次の項目で説明する[条件IV-A]から[条件IV-I]を満たす部位を含んでいても良い。
[0095]
 (4)四つ目の特定方法
 実施形態の硬質炭素系被膜の製造方法で得られた硬質炭素系被膜22では、炭素原子の結合状態が異なる部位がマーブル状、あるいは粒状に形成されることがある。その場合、硬質炭素系被膜22は、1325cm -1以上1400cm -1以下に形成されるDバンドの部位と、1500cm -1以上1650cm -1以下に形成されるGバンドの部位を有し、更に下記[条件IV-A]から[条件IV-I]の少なくとも一つを満たす部位(Nバンドエリア)を含む。
・[条件IV-A]
 ラマン分光法におけるピーク位置が910±50cm -1の範囲。ピーク位置の好ましい範囲は910±30cm -1であり、より好ましい範囲は910±10cm -1である。ピークの半値幅は200cm -1未満である。ピークの好ましい半値幅は100cm -1未満であり、より好ましい半値幅は70cm -1未満である。
・[条件IV-B]
 ラマン分光法におけるピーク位置が810±30cm -1の範囲。ピーク位置の好ましい範囲は810±20cm -1であり、より好ましい範囲は815±10cm -1である。ピークの半値幅は200cm -1未満である、ピークの好ましい半値幅は100cm -1未満であり、より好ましい半値幅は70cm -1未満である。
・[条件IV-C]
 ラマン分光法におけるピーク位置が705±30cm -1の範囲。ピーク位置の好ましい範囲は705±20cm -1であり、より好ましい範囲は705±10cm -1である。ピークの半値幅は200cm -1未満である。ピークの好ましい半値幅は100cm -1未満であり、より好ましい半値幅は70cm -1未満である。
・[条件IV-D]
 ラマン分光法におけるピーク位置が535±30cm -1の範囲。ピーク位置の好ましい範囲は535±20cm -1であり、より好ましい範囲は535±15cm -1、さらに好ましい範囲は505±10cm -1である。ピーク位置の半値幅は800cm -1未満である。ピークの好ましい半値幅は300cm -1未満であり、より好ましい半値幅は100cm -1未満である。
・[条件IV-E]
 ラマン分光法におけるピーク位置が260±20cm -1の範囲。ピーク位置の好ましい範囲は260±15cm -1、より好ましい範囲は260±10cm -1である。ピークの半値幅は100cm -1未満である。ピークの好ましい半値幅は80cm -1未満であり、より好ましい半値幅は50cm -1未満である。
・[条件IV-F]
 ラマン分光法におけるピーク位置が210±20cm -1の範囲。ピーク位置の好ましい範囲は210±15cm -1、より好ましい範囲は210±10cm -1である。ピークの半値幅は100cm -1未満である。ピークの好ましい半値幅は80cm -1未満であり、より好ましい半値幅は50cm -1未満である。
・[条件IV-G]
 ラマン分光法におけるピーク位置が135±20cm -1の範囲。ピーク位置の好ましい範囲は135±15cm -1、より好ましい範囲は135±10cm -1である。ピークの半値幅は80cm -1未満である。ピークの好ましい半値幅は40cm -1未満であり、より好ましい半値幅は20cm -1未満である。
・[条件IV-H]
 ラマン分光法におけるピーク位置が95±10cm -1の範囲。ピーク位置の好ましい範囲は95±8cm -1、より好ましい範囲は95±5cm -1である。ピークの半値幅は20cm -1未満である。ピークの好ましい半値幅は10cm -1未満であり、より好ましい半値幅は5cm -1未満である。
・[条件IV-I]
 ラマン分光法におけるピーク位置が2327±10cm -1の範囲。ピーク位置の好ましい範囲は2327±7cm -1、より好ましい範囲は2327±5cm -1である。ピークの半値幅は16cm -1未満である。ピークの好ましい半値幅は8cm -1未満であり、より好ましい半値幅は5cm -1未満である。
[0096]
 上記Nバンドエリアは、繊維質の炭素材料、及び潤滑性のある導電性の炭素材料で認められる。繊維質の炭素材料は、硬質炭素系被膜22が形成された工具の抗折強度を大きくする効果があると考えられる。一方、潤滑性のある導電性の炭素材料は、硬質炭素系被膜22が形成された工具の切削抵抗を小さくする効果があると考えられる。そのため、Nバンドエリアを含む硬質炭素系被膜22を備える工具は、曲げ強度に優れ、耐欠損性、耐摩耗性を有する工具となることが期待される。
[0097]
 また、潤滑性のある導電性の炭素材料は、硬質炭素系被膜22が形成された電極材料の耐久性及び容量を大きくする効果があると考えられる。そのため、Nバンドエリアを含む硬質炭素系被膜22を備える電極材料は、耐久性に優れ、高容量の電池に使用できる電極材料となることが期待される。
[0098]
 ここで、Nバンドエリアでは、Dバンドのピークも検出される。ラマンイメージでNバンドエリアを特定するにあたり、N/Dを用いることができる。N/Dは、Nバンドのピーク強度と、Dバンドのピーク強度の比である。N/Dの好ましい範囲は、1/5以上15以下である。より好ましいN/Dは1/3以上6以下である。
[0099]
 硬質炭素系被膜22は、炭素以外の原子を含んでいても良い。例えば、硬質炭素系被膜22中に5原子%以上60原子%以下の窒素を含む形態、5原子%以上50原子%以下のホウ素を含む形態を挙げることができる。前者の形態では硬質炭素系被膜22中に窒化炭素が含まれ、後者の形態では硬質炭素系被膜22中にホウ窒化炭素が含まれる。その他、硬質炭素系被膜22中に、アルミニウム、シリコン及びリンを合計で5原子%以上50原子%以下含まれる形態を挙げることができる。
[0100]
 (その他の構成)
 硬質炭素系被膜22の表面粗さRaは0.1μm以上であることが好ましい。硬質炭素系被膜22の表面粗さRaが0.1μm以上であれば、密着性が強固になる。ここで、本明細書におけるRaは、JIS B0601(2001年)に規定される算術平均粗さである。
[0101]
 硬質炭素系被膜22の厚さは適宜選択することができる。例えば、硬質炭素系被膜22の厚さは10μm以下とすることが挙げられる。厚さは必ずしも均一である必要はなく、最も厚い箇所の厚さが10μm以下であれば良い。厚さを10μm以下とすることで、硬質炭素系被膜22の剥離を抑制し易い。厚さは、図1~3の放電電極1の走査速度を変化させることによって調整することができる。硬質炭素系被膜22の上を更に放電電極1で走査し、硬質炭素系被膜22を厚くすることも可能である。
[0102]
 上記硬質炭素系被膜22の平均粒径が10μm以下であることが好ましい。硬質炭素系被膜22の平均粒径が10μm以下であれば、硬質炭素系被膜22の靱性を向上させることができる。硬質炭素系被膜22の平均粒径は、硬質炭素系被膜22を顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、10個以上の結晶粒子について面積を測定し、各粒子の面積と同等となる円の直径を求める。求めた直径の平均値が、硬質炭素系被膜22の平均粒径である。
[0103]
 また、硬質炭素系被膜22が形成される基材20の表面21の表面粗さRaも0.1μm以上であることが好ましい。基材20の表面粗さRaが0.1μm以上であれば、基材20と硬質炭素系被膜22との接合面積が大きくなり、硬質炭素系被膜22が剥離し難くなる。
[0104]
 基材20の表面21と硬質炭素系被膜22との間に、両者の密着性を向上させる中間層23を備えていても良い。中間層23としては、Ni,Ti,Zr,Hf,Nb,Ta,Mo,Wの少なくとも1種を含む金属層又は複合金属層が挙げられる。また、中間層23として、TiN,ZrN,HfN,NbN,TaN,NbC、TaC,MoC,WCの少なくとも1種を含むセラミックス層又は積層セラミックスが挙げられる。この中間層23の平均厚みは10μm以下とすることが好ましい。
[0105]
<試験例>
 図1~3のいずれかの成膜装置10を用いて、図4に示す硬質炭素系被膜22を備える被膜付き部材2を作製した。
 ≪試験1≫
 試験1では、図1に示す交流を用いた成膜装置10(バイアス電源5は無し)によって硬質炭素系被膜22を形成した。まず、100mm×100mm×5mmtサイズのCu製の支持電極3の上に30mm×30mm×1mmtのMo又は炭化タングステン(WC)の基材20を載せた。次いで、支持電極3と炭素棒からなる放電電極1との間に8kV、60Hzの交流電圧を印加しながら、放電電極1を基材20に接触しないように近づけた。交流電流は、放電時に放電電極1と基材20との間で約1A流れた。放電電極1には60Hzの振動を加えていたので、振動時に放電電極1と基材20との離隔距離が近くなったときに放電が起こった。支持電極3と放電電極1との間に発生したセルフバイアス電圧は-200Vである。
[0106]
 基材20上に硬質炭素系被膜22が形成されたので、それを532nmの励起波長のレーザーを用いたラマン分光法で評価した。評価にあたっては、硬質炭素系被膜22の被覆領域の2次元的重心を含む100μm角の領域を、ラマン分光装置のマッピング機能あるいはイメージング機能で分析し、特性によって色分け、あるいは濃淡で表示されたラマンイメージを作製した。そのラマンイメージのうち、Dバンドが面積比で50%超を占める主要部分を特定し、その主要部分のラマンピークと半値幅を調べた。その結果を表1に示す。表1のラマンピーク(1)は、上記主要部分で検出されたピークであって、SP3結合、及びSP3様結合の存在を示すDバンドのうちで、最も大きいピークである。また、ラマンピーク(2)は、上記主要部分で検出されたピークであって、SP2結合、及びSP2様結合の存在を示すGバンドのうちで、最も大きいピークである。また、D/Gは、Dバンドのピーク強度をGバンドのピーク強度で除したピーク比である。これら表中の用語の意味は後述する表2~表9においても同様である。
[0107]
[表1]


[0108]
 表1に示すように、サンプル1-1では、ピーク位置1348cm -1で半値幅56cm -1のSP3様結合と、ピーク位置1583cm -1で半値幅47cm -1のSP2様結合のスペクトルが確認された。また、サンプル1-2では、ピーク位置1347cm -1で半値幅59cm -1のSP3様結合と、ピーク位置1587cm -1で半値幅53cm -1のSP2様結合のスペクトルが確認された。これらサンプル1-1,1-2の被膜は、被膜付き部材2の項目で説明した[条件I]と[条件II-A]と[条件III-A]とを同時に満たす硬質炭素系被膜22であることが分かった。
[0109]
 また、各サンプルの硬質炭素系被膜22の平面面積に占める表1のラマン分光分布を示すエリアの比率(エリア比)を調べた。エリア比は、色分けされたラマンイメージ、あるいは濃淡で表示されたラマンイメージを利用し、計算により求めた。その結果、サンプル1-1のエリア比は92%、サンプル1-2のエリア比は98%であった。
[0110]
 ≪試験2≫
 試験2では、試験1と同じ成膜装置10を使用し、30mm×20mm×1mmtのSUS310の基材20に硬質炭素系被膜22を形成した。その際、支持電極3と放電電極1との間に7kVの60Hzの交流電圧を印加しながら、放電電極1を基材20の表面21にこすりつけるようにして、放電電極1で表面21を走査した。交流電流は、放電時に放電電極1と基材20との間で約0.8A流れた。放電電極1には60Hzの振動を加えていたので、振動により放電電極1が基材20の表面21から一定以上離隔した際に放電が生じた。その際、支持電極3と放電電極1との間で-200Vのセルフバイアス電圧が発生した。基材20上に硬質炭素系被膜22が形成されたので、それをラマン分光法で評価した。その結果を表2に示す。
[0111]
[表2]


[0112]
 サンプル2-1では、ピーク位置1350cm -1で半値幅54cm -1のSP3様結合と、ピーク位置1604cm -1で半値幅65cm -1のSP2様結合のスペクトルが確認された。このサンプル2-1の被膜は、[条件II-A]を満たす硬質炭素系被膜22であることが分かった。
[0113]
 試験2においても、試験1と同様の手法でサンプルにおけるエリア比を調べた。その結果、サンプル2-1のエリア比は82%であった。
[0114]
 ≪試験3≫
 試験3では、試験1と同じ成膜装置10を使用し、10mm×10mm×5mmtの超硬合金の基材20に硬質炭素系被膜22を形成した。基材20は、10質量%Coを含み、残部がWC及び不可避的不純物で構成されるインサートチップである。硬質炭素系被膜22の形成にあたって、支持電極3と放電電極1との間に8kVの60Hzの交流電圧を印加しながら、放電電極1を基材20の表面21にこすりつけるようにして、放電電極1で表面21を走査した。交流電流は、放電時に放電電極1と基材20との間で約0.8A流れた。放電電極1には60Hzの振動を加えていたので、振動により放電電極1が基材20の表面21から一定以上離隔した際に放電が生じた。その際、支持電極3と放電電極1との間で-200Vのセルフバイアス電圧が発生した。基材20上に硬質炭素系被膜22が形成されたので、それをラマン分光法で評価した。その結果を表3に示す。ここで、分析にあたり、超硬合金の表面を酸で処理し、バインダーのCoを酸で除去した。
[0115]
[表3]


[0116]
 サンプル3-1では、ピーク位置1348cm -1で半値幅55cm -1のSP3様結合と、ピーク位置1580cm -1で半値幅40cm -1のSP2様結合のスペクトルが確認された。[条件I]と[条件II-A]と[条件III-A]とを同時に満たす硬質炭素系被膜22であることが分かった。
[0117]
 試験3においても、試験1と同様の手法でサンプルにおけるエリア比を調べた。その結果、サンプル3-1のエリア比は95%であった。
[0118]
 ≪試験4≫
 試験4では、試験3のインサートチップ(基材20)の表面21に中間層23を形成し、その基材20上に試験1と同じ成膜装置10を使用して硬質炭素系被膜22を形成した。中間層23は、厚さ10μm以下のNiメッキ層、又は厚さ10μm以下のTiNメッキ層であった。硬質炭素系被膜22の形成にあたって、支持電極3と放電電極1との間に7.5kVの60Hzの交流電圧を印加しながら、放電電極1を基材20の表面21にこすりつけるようにして、放電電極1で表面21を走査した。放電電極1には60Hzの振動を加えていたので、振動により放電電極1が基材20の表面21から一定以上離隔した際に放電が生じた。その際、支持電極3と放電電極1との間で-180Vのセルフバイアス電圧が発生した。基材20上に硬質炭素系被膜22が形成されたので、それをラマン分光法で評価した。その結果を表4に示す。
[0119]
[表4]


[0120]
 サンプル4-1では、ピーク位置1346cm -1で半値幅50cm -1のSP3様結合と、ピーク位置1583cm -1で半値幅50cm -1のSP2様結合のスペクトルが確認された。また、サンプル1-2では、ピーク位置1349cm -1で半値幅50cm -1のSP3様結合と、ピーク位置1580cm -1で半値幅50cm -1のSP2様結合のスペクトルが確認された。これらサンプル4-1の被膜は、[条件I]と[条件II-A]と[条件III-A]とを同時に満たし、4-2の被膜は、[条件II-A]と[条件III-A]とを同時に満たす硬質炭素系被膜22であることが分かった。
[0121]
 試験4においても、試験1と同様の手法でサンプルにおけるエリア比を調べた。その結果、サンプル4-1のエリア比は88%、サンプル4-2のエリア比は85%であった。
[0122]
 ≪試験5≫
 試験5では、図3のパルス放電を用いた成膜装置10を用いて基材20上に硬質炭素系被膜22を形成したサンプル5-1~5-11を作製した。基材20は、超硬合金、中間層23を有する超硬合金、Ta、Mo、Nb、高速度鋼、又はAlのいずれかであった。成膜装置10は、パルス放電の条件が下記[A]、[B]のいずれかを満たすように調整した。放電電極1は、30Hz、60Hz、又は90Hzで振動させながら基材20の表面21にこすりつけるようにして、放電電極1で表面21を走査した。
[A]放電電極1と基材20との間の電圧が50V超でパルス幅が10マイクロ秒未満
[B]放電電極と前記基材との間の電圧が125V超でパルス幅が1ミリ秒未満
[0123]
 各サンプルをラマン分光法で調べたところ、特性が異なるエリアがマーブル状に形成されていた。各エリアのピークを調べた結果を表5,6に示す。各サンプルには、第一エリア、第二エリア、第四エリアが認められ、一部のサンプルには第三エリアも含まれていた。第一エリアは、DバンドとGバンドが混在している部分を含むエリアである。第二エリアは、[条件III-A]又は[条件III-B]を満たす部分を含むエリアである。第三エリアは、[条件III-C]を満たす部分を含むエリアである。第四エリアは、[条件IV-A]から[条件IV-I]のいずれかを満たす部分を含むエリア(Nバンドエリアに同じ)である。
[0124]
[表5]


[0125]
[表6]


[0126]
 表5の結果(第一エリアの結果)をプロットしたグラフを図5,6に示す。図5のグラフの横軸はラマンピーク(1)のピーク位置(cm -1)、縦軸はラマンピーク(1)の半値幅(cm -1)を示し、菱形の細線で囲まれる部分が[条件I]を満たす範囲である。一方、図6のグラフの横軸はD/G、縦軸はラマンピーク(1)の半値幅(cm -1)である。図6における二本の曲線と、半値幅の115cm -1の位置を示す横方向の破線と、D/Gの9.0の位置を示す縦方向の破線と、で囲まれる部分が[条件II-A]を満たす範囲である。また、図6における半値幅の115cm -1の位置を示す横方向の破線と、D/Gの2.8の位置を示す縦方向の点線と、で囲まれる部分が[条件II-B]を満たす範囲である。
[0127]
 図5に示すように、サンプルの大部分は[条件I]を満たすが、一部は[条件I]を満たさない。しかし、図6に示すように、全てのサンプルは、[条件II-A]又は[条件II-B]を満たしており、全てのサンプルの被膜は、硬質炭素系被膜22であることが分かった。
[0128]
 表5の結果から、放電電圧が110Vであるサンプル5-4,5-5,5-6は、放電電圧が125V超の他のサンプルに比べて、ラマンピーク(1)が高い傾向にあった。サンプル5-4,5-5,5-6は[条件III-B]を満たし、その他のサンプルは[条件III-A]を満たす。
[0129]
 また、表5,6の結果から、全サンプルの硬質炭素系被膜22において第一エリアが約50%以上を占め、第二エリアが約20~30%前後を占めていることが分かった。
[0130]
 ≪試験6≫
 試験6では、成膜雰囲気が窒素100%であること以外、試験5と同様の手法を用いて、硬質炭素系被膜22を有するサンプル6-1~6-5を作製した。基材20は、Ta、Mo、Nb、高速度鋼、又はAlのいずれかであった。放電電極と前記基材との間の電圧が125V超でパルス幅が1ミリ秒未満であった。放電電極1の振動周波数は、30Hz又は60Hzであった。各サンプルの成膜条件と硬質炭素系被膜22の窒素含有量を表7に示す。硬質炭素系被膜22における窒素の含有量は、エネルギー分散型X線分析を用いた一般的な手順で求めた。窒素の含有量は、サンプル中央(被膜領域の2次元的重心)を含む100μm角中の平均の値である。ラマン分光法によって、全ての硬質炭素系被膜22が[条件I]、[条件II-A]を満たすことを確認した。
[0131]
[表7]


[0132]
 表7に示すように、サンプル6-1,6-2の窒素含有量の測定結果から、放電電極1の振動周波数が高くなると、硬質炭素系被膜22に含まれる窒素量が大きくなることが分かった。また、サンプル6-3,6-4,6-5の結果から、パルス電圧幅が大きくなると、硬質炭素系被膜22に含まれる窒素量が大きくなることが分かった。
[0133]
 ≪試験7≫
 試験7では、試験5と同様の手法で硬質炭素系被膜22を有するサンプル7-1~7-6を作製した。図3のパルス放電を用いた成膜装置10を用いて基材20上に硬質炭素系被膜22を形成した。基材20は超硬合金、又はTaであった。放電電圧は500V又は800V、パルス電圧幅は0.7、0.8、又は0.9、放電電極1の振動周波数は180Hz又は360Hzであった。各サンプルの成膜条件とラマン分光法の測定結果を表8に示す。
[0134]
[表8]


[0135]
 表8に示すように、サンプル7-1~7-6はいずれも、[条件II-C]を満たしていた。条件II-Cは、Dバンド(ラマンピーク(1))の半値幅が50cm -1未満で、D/Gが10.5超であることを規定している(図6のグラフに示す一点鎖線で囲まれた部分を参照)。サンプル7-1~7-6のD/Gはいずれも極めて大きな値になっている。つまり、サンプル7-1~7-6では、Dバンドが極めて優勢である。DバンドはSP3結合、SP3様結合に対応するバンドであるので、サンプル7-1~7-6の硬質炭素系被膜22は、SP3結合、及びSP3様結合の割合が極めて多い被膜である。
[0136]
 試験7では、試験5に比べて放電電圧を高めに設定している。そのことが硬質炭素系被膜22のD/Gを大きくすることに寄与しているものと推察される。特に、サンプル7-1、7-2を比較すると、放電電圧が高くなるとD/Gが大きく上昇することが分かる。また、サンプル7-4と、サンプル7-6とを比較することで、放電電極1の振動周波数を高くすることでD/Gを大きくできることが分かった。
[0137]
 ≪試験8≫
 試験8では、試験5と同様の手法で硬質炭素系被膜22を有するサンプル8-1~8-12を作製した。基材20はTa、Cu、又はAlであった。放電電圧は100V、102V、105V、又は108V、パルス電圧幅は0.005msec、0.007msec、0008msec、又は0.009msec、放電電極1の振動周波数は90Hz、又は120Hzであった。各サンプルの成膜条件とラマン分光法の測定結果を表9に示す。各サンプルの硬質炭素系被膜22において第四エリア([条件IV-A]から[条件IV-I]のいずれかを満たす部分)が最も大きな面積を占めていた。従って、表9では第四エリアの測定結果のみを示す。また、表9では、Nバンドのピーク強度と、Dバンドのピーク強度との比(N/D)を合わせて示す。
[0138]
[表9]


[0139]
 表9に示すように、サンプル8-1~8-12[条件IV-A]から[条件IV-I]のうち、二つを満たす部位が混在する第四エリアが大半を占める。これのピークは、カーボンナノチューブ、又はフラーレンなどのラマンピークに近いピークである。試験8では、放電電圧を100Vから110V程度に設定し、かつ放電電極1の振動周波数を90Hzから120Hz程度に設定している。つまり、試験8では、試験5に比べて放電電圧を低めに設定している。そのことが硬質炭素系被膜22に占める第四エリアを大きくすることに寄与しているものと推察される。
[0140]
 今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

符号の説明

[0141]
10 成膜装置
 11 充電回路 11r 可変抵抗 11c 可変コンデンサ
 12 放電回路 12r 抵抗 12i インダクタ
 13 放電制御部
1 放電電極
2 被膜付き部材
 20 基材 21 表面 22 硬質炭素系被膜 23 中間層
3 支持電極
4 電源装置
5 バイアス電源
6 振動装置

請求の範囲

[請求項1]
 電源装置と炭素材料を含む放電電極とを有する成膜装置、及び被膜が形成される表面を有する基材を準備する工程Aと、
 前記成膜装置によって、前記放電電極と前記基材との間に繰り返し放電を発生させることで、前記表面に硬質炭素系被膜を形成する工程Bと、を備える硬質炭素系被膜の製造方法。
[請求項2]
 前記電源装置は交流電源であり、
 前記放電電極に印加する交流電圧は3.6kV以上である請求項1に記載の硬質炭素系被膜の製造方法。
[請求項3]
 前記電源装置は直流電源であり、
 前記放電電極に印加する直流電圧は3.6kV以上であり、
 前記放電電極を周期的に振動させ、100ミリ秒未満のパルス幅を有する放電を生じさせる請求項1に記載の硬質炭素系被膜の製造方法。
[請求項4]
 前記成膜装置は、
  前記電源装置からの電力を蓄える充電回路と、
  前記充電回路の電力をパルス状に放電させる放電回路と、
  前記放電電極と前記基材との間の電圧が125V超でパルス幅が1ミリ秒未満の放電、又は前記放電電極と前記基材との間の電圧が50V超でパルス幅が10マイクロ秒未満の放電が発生するように前記放電回路を制御する放電制御部と、を備える請求項1に記載の硬質炭素系被膜の製造方法。
[請求項5]
 前記基材は、超硬合金、鉄系材料、ホウ窒化炭素系材料、立方晶窒化ホウ素系材料、サーメット、Ni系材料、又は導電性セラミックスで構成される請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の硬質炭素系被膜の製造方法。
[請求項6]
 前記放電電極は、炭素を90質量%以上含む炭素材料である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の硬質炭素系被膜の製造方法。
[請求項7]
 基材と、前記基材の少なくとも一部に形成される硬質炭素系被膜と、を備える被膜付き部材であって、
 前記硬質炭素系被膜のラマン分光法におけるピーク位置であるXと、そのピーク位置における半値幅であるWとが以下の条件を満たす被膜付き部材。
 38cm -1<W<500cm -1
 16×(X-1347.5)+39<W<16×(X-1335)+39
 X<1370cm -1
[請求項8]
 基材と、前記基材の少なくとも一部に形成される硬質炭素系被膜と、を備える被膜付き部材であって、
 前記硬質炭素系被膜のラマン分光法におけるDバンドのピーク強度とGバンドのピーク強度との比であるD/Gと、前記Dバンドにおける半値幅であるWとが、
 W≦115cm -1、かつD/G<9.0、かつ80/(D/G) 0.5<W<180/(D/G) 0.5、又は
 115cm -1<W<500cm -1、かつD/G<2.8、又は
 W<50cm -1、かつ10.5<D/Gを満たす被膜付き部材。
[請求項9]
 基材と、前記基材の少なくとも一部に形成される硬質炭素系被膜と、を備える被膜付き部材であって、
 前記硬質炭素系被膜は、ラマン分光法におけるDバンドのピークとGバンドのピークを有する部位を含み、
 更に
  ラマン分光法におけるピーク位置が910±50cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が810±30cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が705±30cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が535±30cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が260±20cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が210±20cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が135±20cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が95±10cm -1の部位、及び
  ラマン分光法におけるピーク位置が2327±10cm -1の部位、の少なくとも一つを含む被膜付き部材。
[請求項10]
 基材と、前記基材の少なくとも一部に形成される硬質炭素系被膜と、を備える被膜付き部材であって、
 前記硬質炭素系被膜は、
  ラマン分光法におけるピーク位置が1335cm -1以上1349cm -1以下で、そのピーク位置における半値幅が30cm -1以上95cm -1以下の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が1349cm -1以上1370cm -1以下で、そのピーク位置における半値幅が95cm -1以上350cm -1以下の部位、及び
  ラマン分光法におけるピーク位置が1300cm -1以上1335cm -1以下で、そのピーク位置における半値幅が1cm -1以上29cm -1以下の部位、の少なくとも一つを含む被膜付き部材。
[請求項11]
 前記硬質炭素系被膜は更に
  ラマン分光法におけるピーク位置が910±50cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が810±30cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が705±30cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が535±30cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が260±20cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が210±20cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が135±20cm -1の部位、
  ラマン分光法におけるピーク位置が95±10cm -1の部位、及び
  ラマン分光法におけるピーク位置が2327±10cm -1の部位、の少なくとも一つを含む請求項7、請求項8、又は請求項10に記載の被膜付き部材。
[請求項12]
 前記硬質炭素系被膜は、5原子%以上60原子%以下の窒素を含む請求項7から請求項11のいずれか1項に記載の被覆付き部材。
[請求項13]
 前記硬質炭素系被膜は、5原子%以上50原子%以下のホウ素を含む請求項7から請求項12のいずれか1項に記載の被覆付き部材。
[請求項14]
 前記硬質炭素系被膜は、アルミニウム、シリコン及びリンを合計で5原子%以上50原子%以下含む請求項7から請求項13のいずれか1項に記載の被覆付き部材。
[請求項15]
 前記硬質炭素系被膜の表面粗さRaが0.1μm以上である請求項7から請求項14のいずれか1項に記載の被覆付き部材。
[請求項16]
 前記基材の表面粗さRaが0.1μm以上である請求項7から請求項15のいずれか1項に記載の被覆付き部材。
[請求項17]
 前記硬質炭素系被膜の平均粒径が10μm以下である請求項7から請求項16のいずれか1項に記載の被覆付き部材。
[請求項18]
 前記基材は超硬合金であり、
 前記基材と前記硬質炭素系被膜との間に、Ni,Ti,Zr,Hf,Nb,Ta,Mo,Wの少なくとも1種を含む中間層を備える請求項7から請求項17のいずれか1項に記載の被膜付き部材。
[請求項19]
 前記基材は超硬合金であり、
 前記基材と前記硬質炭素系被膜との間に、TiN,ZrN,HfN,NbN,TaN,NbC、TaC,MoC,WCの少なくとも1種を含む中間層を備える請求項7から請求項18のいずれか1項に記載の被膜付き部材。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]

[ 図 6]