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1. (WO2019050010) 鋼板およびその製造方法
Document

明 細 書

発明の名称 鋼板およびその製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002  

先行技術文献

非特許文献

0003  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0004   0005   0006   0007   0008  

課題を解決するための手段

0009   0010   0011   0012   0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019  

発明の効果

0020  

発明を実施するための形態

0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064  

実施例

0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072  

産業上の利用可能性

0073  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6  

明 細 書

発明の名称 : 鋼板およびその製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、建築、橋梁、造船、海洋構造物、建産機、タンク、ペンストックなどの鋼製構造物等に用いられる鋼板、中でも板厚100mm以上の厚鋼板およびその製造方法に関する。

背景技術

[0002]
 建築、橋梁、造船、海洋構造物、建産機、タンク、ペンストックなどの構造物に、鋼材が使用される場合は、当該構造物の形状に対応して、鋼材を溶接により接合して所望の形状に仕上げられる。近年、かような鋼製構造物の大型化が著しく、使用される鋼材の高強度化や厚肉化も進められている。例えば、非特許文献1には、ジャッキアップリグのラック用に開発された、板厚210mmの極めて厚い鋼板について報告されている。この非特許文献1には、厚鋼板の板厚中心部の靭性を確保するための、成分組成や製造条件が記載されている。

先行技術文献

非特許文献

[0003]
非特許文献1 : 大谷幸三郎、他4名、「ジャッキアップリグのラック用極厚(210mm)800N/mm2級鋼板の開発」、新日鉄技報、1993年、第348号、p.10-16

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0004]
 板厚が100mm以上の高強度鋼板は、熱間圧延後に焼入れ焼もどしを施すことによって、高強度に加えて高靭性を付与して製造されるのが通例である。このようにして厚鋼板を製造する際、熱間圧延後の焼入れ工程における冷却速度は、鋼板表層よりも該表層の内側の鋼板内部で低下するため、鋼板内部ではフェライトなど比較的低強度の組織が形成されやすくなる。鋼板内部でこのような低強度の組織が生成されることを抑制するには、多量の合金元素の添加が必要となる。
 ここで、鋼板の表層とは、鋼板の表裏面からそれぞれ板厚方向へ1/4t(tは板厚を表す)の位置を境とする、表面側および裏面側の各領域を指し、この表層より内側(1/4tを含む)を鋼板の内部とする。
[0005]
 特に、厚鋼板内部の強度と靭性を満足させるためには、焼入れ時にベイナイトまたはベイナイトとマルテンサイトの混合組織を鋼板内部に生成させることが重要であり、Mn、Ni、Cr、Mo等の合金元素を多量に添加する必要がある。
[0006]
 一方で、上記のような合金元素を多量に添加した場合、焼入れ時の冷却速度が鋼板内部に比べて速い鋼板表層では、靭性に劣るマルテンサイト組織が形成されるため、焼もどしした後でも鋼板内部に比べ鋼板表層の靭性が低下する。
[0007]
 しかしながら、上記した冷却の速い鋼板表層における靭性低下について、非特許文献1に触れられていないように、これまで検討がなされてこなかった。
[0008]
 本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであって、鋼板内部は勿論、鋼板表層についても、靭性に優れた高強度の鋼板を安定的に製造することを目的とする。

課題を解決するための手段

[0009]
 本発明者らは、上記課題を解決するため、降伏強度620MPa以上かつ板厚100mm以上の厚鋼板を対象に、鋼板表層における靭性および鋼板内部における強度の低下を抑制するためのミクロ組織制御因子について鋭意究明したところ、以下I~IIIの知見を得た。
[0010]
 I.焼入れ時に鋼板表層に比べて著しく冷却速度が低下する鋼板内部において良好な靭性を維持したまま高い強度を得るためには、冷却速度の低い焼入れであってもミクロ組織をマルテンサイトおよび/またはベイナイト組織とすることが重要であり、そのためには、成分組成を適切に選定し、かつ炭素当量を0.57%以上とする必要がある。
[0011]
 II.上記のように選定された成分組成を有する鋼板を焼入れるときに、焼入れ時の冷却速度が速くなる鋼板表層においては、靭性確保に不利なマルテンサイト組織が形成され、焼もどし後においても一旦形成されたブロックやパケットと呼ばれるマルテンサイト組織の組織単位は変化しないことから、安定的な靭性の確保が難しくなる。
[0012]
 III.靭性に不利な焼もどしマルテンサイト単相組織の形成を抑制するためには、鋼板表層および鋼板内部が(Ar3変態点+50)℃以上(Ar3変態点-20)℃以下の温度域にある
ときの平均冷却速度を0.2~10℃/sの範囲に制御することにより、鋼板表層に所定割合以上のベイナイトを形成させることが重要である。
[0013]
 本発明は、上記の新規な知見に立脚するものであり、その要旨構成は、以下のとおりである。
[0014]
1.質量%で、
 C:0.080%以上0.200%以下、
 Si:0.40%以下、
 Mn:0.50%以上5.00%以下、
 P:0.015%以下、
 S:0.0050%以下、
 Cr:3.00%以下、
 Ni:5.00%以下、
 Al:0.080%以下、
 N:0.0070%以下および
 B:0.0030%以下
を、下記式(1)を満足する範囲にて含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成を有する鋼板であって、
 該鋼板の表層にベイナイト面積分率が10%以上の組織を有し、該表層より内側の鋼板内部の降伏強度が620MPa以上である鋼板。
                 記
[C]+[Mn]/6+[Ni]/15+[Cr]/15≧0.57 … (1)
 ここで、
 []は、該[]内元素の含有量(質量%)である。
[0015]
2.前記成分組成は、さらに、
 質量%で、
 Cu:0.50%以下、
 Mo:1.50%以下、
 Nb:0.100%以下、
 V:0.200%以下および
 Ti:0.005%以上0.020%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を前記式(1)に代えて下記式(2)を満足する範囲にて含有する、上記1に記載の鋼板。
                    記
[C]+[Mn]/6+([Cu]+[Ni])/15+([Cr]+[Mo]+[V])/15≧0.57 … (2)
 ここで、
 []は、該[]内元素の含有量(質量%)である。
[0016]
3.前記成分組成は、さらに、
 質量%で、
 Mg:0.0005%以上0.0100%以下、
 Ta:0.010%以上0.200%以下、
 Zr:0.0050%以上0.1000%以下、
 Y:0.001%以上0.010%以下、
 Ca:0.0005%以上0.0050%以下および
 REM:0.0005%以上0.0200%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、上記1または2に記載の鋼板。
[0017]
4.質量%で、
 C:0.080%以上0.200%以下、
 Si:0.40%以下、
 Mn:0.50%以上5.00%以下、
 P:0.015%以下、
 S:0.0050%以下、
 Cr:3.00%以下、
 Ni:5.00%以下、
 Al:0.080%以下、
 N:0.0070%以下および
 B:0.0030%以下
を、下記式(1)を満足する範囲にて含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成を有する鋼素材に、熱間圧延を施して熱延鋼板とし、
 該熱延鋼板を冷却した後に、Ac 3変態点以上1050℃以下の温度域に加熱した後、
 (Ar 3変態点+50)℃以上(Ar 3変態点-20)℃以下の温度域における平均冷却速度が0.2~10℃/sである冷却処理を施して350℃以下まで冷却する鋼板の製造方法。
                    記
[C]+[Mn]/6+[Ni]/15+[Cr]/15≧0.57 … (1)
 ここで、
 []は、該[]内元素の含有量(質量%)である。
[0018]
5.前記成分組成は、さらに、
 質量%で、
 Cu:0.50%以下、
 Mo:1.50%以下、
 Nb:0.100%以下、
 V:0.200%以下および
 Ti:0.005%以上0.020%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を前記式(1)に代えて下記式(2)を満足する範囲にて含有する、上記4に記載の鋼板の製造方法。
                    記
[C]+[Mn]/6+([Cu]+[Ni])/15+([Cr]+[Mo]+[V])/15≧0.57 … (2)
 ここで、
 []は、該[]内元素の含有量(質量%)である。
[0019]
6.前記成分組成は、さらに、
 質量%で、
 Mg:0.0005%以上0.0100%以下、
 Ta:0.010%以上0.200%以下、
 Zr:0.0050%以上0.1000%以下、
 Y:0.001%以上0.010%以下、
 Ca:0.0005%以上0.0050%以下および
 REM:0.0005%以上0.0200%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、上記4または5に記載の鋼板の製造方法。

発明の効果

[0020]
 本発明によれば、鋼板内部だけでなく鋼板表層についても靭性に優れた、高強度の鋼板を安定的に製造することができる。

発明を実施するための形態

[0021]
[成分組成]
 以下、本発明の一実施形態に係る鋼板の製造条件について説明する。まず、鋼の成分組成の限定理由について述べる。なお、本明細書において、各成分元素の含有量を表す「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
[0022]
C:0.080%以上0.200%以下
 Cは、構造用鋼に求められる強度を安価に得るために有用な元素であり、その効果を得るために0.080%以上の添加が必要である。一方、0.200%を超えて含有すると、母材および溶接部の靭性を顕著に劣化させるため、上限を0.200%とする。好ましくは0.080%以上0.140%以下とする。
[0023]
Si:0.40%以下
 Siは脱酸のために、好ましくは0.05%以上で添加するが、0.40%を超えて添加すると母材および溶接熱影響部の靭性が顕著に低下するため、Si量は0.40%以下とする。好ましくは0.05%以上0.30%以下とする。より好ましくは0.05%以上0.25%以下とする。
[0024]
Mn:0.50%以上5.00%以下
 Mnは母材強度を確保する観点から添加するが、0.50%未満の添加ではその効果が十分ではない。一方、5.00%を超えて添加すると、母材の靭性が劣化するだけではなく、中心偏析を助長するため上限を5.00%とする。好ましくは0.60%以上2.00%以下とする。より好ましくは0.60%以上1.60%以下とする。
[0025]
P:0.015%以下
 Pは、0.015%を超えて含有すると、母材および溶接熱影響部の靭性を著しく低下させる。そのため、0.015%以下に制限する。好ましくは、0.010%以下とする。なお、0.001%未満とするのは工業的規模の製造では難しいため、0.001%以上の含有は許容される。
[0026]
S:0.0050%以下
 Sは、0.0050%を超えて含有すると、母材および溶接熱影響部の靭性を顕著に低下させる。そのため、Sは0.0050%以下とする。好ましくは、0.0010%以下とする。なお、0.0001%未満とするのは工業的規模の製造では難しいため、0.0001%以上の含有は許容される。
[0027]
Cr:3.00%以下
 Crは、母材の高強度化に有効な元素であり、好ましくは0.10%以上で添加するが、多量に添加すると溶接性を低下させる。そのため、Crは3.00%以下とする。好ましくは、0.10%以上2.00%以下とする。
[0028]
Ni:5.00%以下
 Niは、鋼の強度および溶接熱影響部の靭性を向上させる有益な元素であり、好ましくは0.50%以上で添加するが、5.00%を超えて添加すると、経済性が著しく低下する。そのため、Niは5.00%以下とする。好ましくは、0.50%以上4.00%以下とする。
[0029]
Al:0.080%以下
 Alは、溶鋼を十分に脱酸するために添加されるが、0.080%を超えて添加すると母材中に固溶するAl量が多くなり、母材靭性を低下させる。そのため、Alは0.080%以下とする。好ましくは、0.030%以上0.080%以下とする。より好ましくは、0.030%以上0.060%以下とする。
[0030]
N:0.0070%以下
 Nは、Alなどと窒化物を形成することによって組織を微細化し、母材および溶接熱影響部の靭性を向上させる効果を有するため、好ましくは0.0020%以上のNを添加してもよい。しかしながら、0.0070%を超えて添加すると、母材中に析出する窒化物量が増加し、母材靭性が著しく低下し、さらに溶接熱影響部においても粗大な炭窒化物を形成し靭性を低下させる。そのため、Nは0.0070%以下とする。好ましくは、0.0050%以下とし、より好ましくは0.0040%以下とする。なお、Nは0%であってもよい。
[0031]
B:0.0030%以下
 Bは、オーステナイト粒界に偏析することで粒界からのフェライト変態を抑制し、焼入性を高める効果を有するため、好ましくは0.0003%以上で添加する。一方、0.0030%を超えて添加すると、炭窒化物として析出し焼入性を低下させ靭性低下を引き起こす。そのため、Bは0.0030%以下とする。好ましくは、0.0003%以上0.0030%以下とする。より好ましくは0.0005%以上0.0020%以下とする。
[0032]
炭素当量CeqIIW
 本発明では、特に板厚100mm以上の鋼板の内部において降伏強度で620MPa以上の強度と良好な靭性を確保するために、適切な成分組成の設計が必要であり、炭素当量CeqIIWに関する下記式(1)を満足する範囲に成分組成を調整する必要がある。なぜなら、炭素等量が下記式(1)を満足しない場合、強度に劣るフェライトなどが形成されやすく、安定的に所望の強度を確保することが難しくなるためである。
                    記
[C]+[Mn]/6+[Ni]/15+[Cr]/15≧0.57 … (1)
 ここで、
 []は、該[]内元素の含有量(質量%)での含有量である。
[0033]
 以上、本発明の基本成分について説明した。上記成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物であるが、本発明では、その他の元素についても必要に応じて適宜含有させることができる。
[0034]
 具体的には、さらに強度および靭性を高める目的で、Cu:0.50%以下、Mo:1.50%以下、Nb:0.100%以下、V:0.200%以下およびTi:0.005%以上0.020%以下、のうちから選ばれる1種または2種以上を含有させることができる。
 この場合には、炭素当量CeqIIWについて、上記式(1)に代えて下記式(2)を満足する範囲に成分組成を調整する。
[C]+[Mn]/6+([Cu]+[Ni])/15+([Cr]+[Mo]+[V])/15≧0.57 … (2)
 ここで、
 []は、該[]内元素の含有量(質量%)での含有量である。
[0035]
Cu:0.50%以下
 Cuは、靭性を損なうことなく鋼の強度の向上が図れるが、0.50%より多く添加すると熱間加工時に鋼板表層に割れを生じる。そのため、Cuを含有させる場合は0.50%以下とする。好ましくは、0.03%以上0.40%以下とする。
[0036]
Mo:1.50%以下
 Moは、母材の高強度化に有効な元素であるが、1.50%を超えて添加すると合金炭化物の析出により硬度を上昇させ靭性を低下させる。そのため、Moを含有させる場合は、1.50%以下とする。好ましくは、0.02%以上0.80%以下とする。
[0037]
Nb:0.100%以下
 Nbは、母材の強度の向上に効果があるため有効であるが、0.100%を超える添加は母材の靭性を顕著に低下させる。そのため、Nbを含有させる場合は、上限を0.100%とする。好ましくは、0.025%以下とする。なお、0.003%未満とすると特性の向上効果が得られないため、添加する場合は0.003%以上とする。
[0038]
V:0.200%以下
 Vは、母材の強度・靭性の向上に効果があり、また、VNとして析出することで固溶Nの低下に有効であるが、0.200%を超えて添加すると硬質なVCの析出により靭性が低下する。そのため、Vを含有させる場合は、0.200%以下とする。好ましくは、0.010%以上0.100%以下とする。
[0039]
Ti:0.005%以上0.020%以下
 Tiは、加熱時にTiNを生成し、オーステナイトの粗大化を効果的に抑制し、母材および溶接熱影響部の靭性を向上させる。しかし、0.020%を超えて添加すると、Ti窒化物が粗大化し母材の靭性を低下させる。そのため、Tiを含有させる場合は、0.005%以上0.020%以下とする。好ましくは、0.008%以上0.015%以下とする。
[0040]
 また、さらに材質を改善する目的で、Mg:0.0005%以上0.0100%以下、Ta:0.010%以上0.200%以下、Zr:0.0050%以上0.1000%以下、Y:0.001%以上0.010%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下およびREM:0.0005%以上0.0200%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有させることができる。
[0041]
Mg:0.0005%以上0.0100%以下
 Mgは、高温で安定な酸化物を形成し、溶接熱影響部の旧γ粒の粗大化を効果的に抑制し、溶接部の靭性を向上させるのに有効な元素である。しかし、添加量が0.0005%未満の場合では明瞭な効果が得られず、0.0100%を超えて添加すると、介在物量が増加し靭性が低下する。そのため、Mgを含有させる場合は、0.0005%以上0.0100%以下とする。好ましくは、0.0005%以上0.0050%以下とする。
[0042]
Ta:0.010%以上0.200%以下
 Taは、強度向上に有効である。しかし、添加量が0.010%未満の場合では明瞭な効果が得られず、0.200%を超える場合は析出物生成により靭性が低下する。そのため、Taを含有させる場合は、0.010%以上0.200%以下とする。
[0043]
Zr:0.0050%以上0.1000%以下
 Zrは、強度上昇に有効な元素であるが、添加量が0.0050%未満の場合は顕著な効果が得られず、また、0.1000%を超える場合には粗大な析出物を生成し靭性が低下する。そのため、Zrを含有させる場合は、0.0050%以上0.1000%以下とする。
[0044]
Y:0.001%以上0.010%以下
 Yは、高温で安定な酸化物を形成し、溶接熱影響部の旧γ粒の粗大化を効果的に抑制し、溶接部の靭性を向上させるのに有効な元素である。しかし、0.001%未満の添加では効果が得られず、0.010%を超えて添加すると、介在物量が増加し靭性が低下する。そのため、Yを含有させる場合は、0.001%以上0.010%以下とする。
[0045]
Ca:0.0005%以上0.0050%以下
 Caは、硫化物系介在物の形態制御に有用な元素であり、その効果を発揮させるためには、0.0005%以上の添加が必要である。しかし、0.0050%を超えて添加すると、清浄度の低下を招き靭性を劣化させる。そのため、Caを含有させる場合は、0.0005%以上0.0050%以下とする。好ましくは0.0005%以上0.0025%以下とする。
[0046]
REM:0.0005%以上0.0200%以下
 REM(希土類金属)もCaと同様に鋼中で酸化物および硫化物を形成して材質を改善する効果があり、その効果を得るためには0.0005%以上の添加が必要である。しかし、0.0200%を超えて添加しても、その効果が飽和する。そのため、REMを含有させる場合は、0.0005%以上0.0200%以下とする。好ましくは0.0005%以上0.0050%以下とする。
[0047]
[組織]
 本発明では、鋼板表層におけるベイナイト面積分率を10%以上とすることが肝要である。鋼板表層がこのような組織を有することにより、鋼板表層についても優れた靭性を得ることができる。鋼板表層のベイナイト面積分率は、好ましくは20%以上である。残部は焼もどしマルテンサイト、フェライト等である。
[0048]
 また、鋼板表層だけでなく、鋼板内部におけるベイナイト面積分率を10%以上とすることが好ましい。鋼板内部もこのような組織を有することにより、鋼板表層と鋼板内部との特性の差が小さい鋼板を得ることができる。鋼板内部のベイナイト面積分率は、より好ましくは20%以上である。
[0049]
 なお、鋼板表層および鋼板内部の組織の面積分率の評価は、焼入れままの鋼材の圧延方向断面のサンプルを採取し、ナイタール腐食液で組織を現出させて、200倍の光学顕微鏡で5視野以上観察し、画像解析によりベイナイト等各組織の面積分率を求めることにより、行うことができる。鋼板表層については、板厚1/8tの位置を中心として、厚さ15mmの圧延方向断面のサンプルを採取する。鋼板内部については、板厚3/8tの位置を中心として、厚さ15mmの圧延方向断面のサンプルを採取する。
[0050]
 少なくとも鋼板表層のベイナイト面積分率が10%以上である組織を得るためには、上記の範囲に成分組成を調整した鋼素材に熱間圧延を施して得た、熱延鋼板を冷却した後に、Ac 3変態点以上1050℃以下の温度域に加熱した後、(Ar 3変態点+50)℃以上(Ar 3変態点-20)℃以下の温度域における平均冷却速度が0.2~10℃/sである冷却処理を施して350℃以下まで冷却する、必要がある。ここで規定される温度条件は、熱延鋼板の表層および鋼板内部が共に満足していることが肝要である。詳細は、後述する。
[0051]
[靭性]
 鋼板表層の靭性はこれまで着目されてこなかったが、構造物の安全性向上要求の高まりを受け、鋼板内部と同等のレベルを要求されつつある。本発明の鋼板では、鋼板表層面と鋼板内部との靭性差を、延性-脆性破面遷移温度(vTrs)により評価すると、vTrsでの差が20℃以内であることが好ましい。これにより、鋼板表面と鋼板内部とで実質的に同一の靭性が得られていると評価できるためである。ここで、vTrsは、JIS Z2242に記載の方法で評価した。vTrsの差で20℃以内とするのは、靭性のvTrsによる評価は、同じ靭性レベルであったとしても、脆性破面率の測定誤差によりその値が最大で20℃程度生じる場合があるため、実質同等と考えられる20℃以内とした。
[0052]
[降伏強度]
 本発明では、鋼板の内部における降伏強度が620MPa以上であることとする。その理由は、構造物の大型化に寄与させるには620MPa以上の降伏強度を必要とするからである。
[0053]
 次に、本発明の鋼板の製造方法について説明する。以下の説明における温度は、特に断らない限り、板厚中心部(1/2t)における温度を意味するものとする。
[鋼素材]
 上記成分組成の溶鋼を、転炉、電気炉、真空溶解炉等の通常の方法で溶製し、連続鋳造法または造塊法等の通常の鋳造方法でスラブ、ビレットなどの鋼素材とする。また、圧延機の荷重等の制約がある場合には、鋼素材にさらに鍛造または分塊圧延を行い、鋼素材の板厚みを小さくしても良い。
[0054]
[熱間圧延]
 上記鋼素材に対して熱間圧延を施す。鋼板表層における靭性と鋼板内部における強度および靭性とを両立するためには、熱間圧延時に、γ域での再結晶を促進し、旧γ粒径の微細化を図ることが有効である。このため、熱間圧延では、圧延終了温度をAr 3点以上とすることが好ましい。
 なお、Ar 3変態点は、後述の式(4)により計算される値を用いることができる。
[0055]
[熱間圧延後の冷却]
 上記熱間圧延後の鋼板を空冷または加速冷却する。特に、靱性の向上を図る場合には加速冷却が有効である。加速冷却することで、空冷に比べて高温域での滞留時間が短くなり、結晶粒径の微細化や析出物の粗大化を抑制できるためである。そのため、加速冷却する場合はAr 3点未満までとする。加速冷却時の冷却は水冷、衝風により行い、いずれの場合も、鋼板表面において0.1℃/s以上の冷却速度とすることが好ましい。
[0056]
[熱間圧延後加熱温度:Ac 3変態点以上1050℃以下]
 上記冷却後の熱延鋼板を、Ac 3変態点以上1050℃以下に加熱する。Ac 3変態点以上に加熱するのは、鋼をオーステナイト単相に均一化するためである。再加熱温度を1050℃以下とするのは、1050℃を超える高温の再加熱ではオーステナイト粒の粗大化による母材靭性の低下が著しく低下するためである。好ましくは、Ac 3変態点以上1000℃以下とする。さらに、Ac 3変態点以上950℃以下がより好ましい。
[0057]
 なお、Ac 3変態点は、下記式(3)により計算される値を用いる。
Ac 3=937.2-476.5[C]+56[Si]-19.7[Mn]-16.3[Cu]-26.6[Ni]-4.9[Cr]+38.1[Mo]+124.8[V]+136.3[Ti]+198.4[Al]+3315[B]… (3)
 ここで、式(3)における各元素記号は、それぞれの成分組成の鋼素材中の含有量(質量%)を示し、含有しないものは0として計算する。
[0058]
 [冷却処理:(Ar 3変態点+50)℃以上(Ar 3-20)℃以下の範囲における平均冷却速度が0.2~10℃/s]
 上記加熱後に冷却処理を施す。この冷却処理は、鋼板表層および鋼板内部を350℃以下まで冷却するにあたり、鋼板表層および鋼板内部のそれぞれにおける、(Ar 3変態点+50)℃以上(Ar 3変態点-20)℃以下の温度域での平均冷却速度が0.2~10℃/sとなるように冷却処理を施すことが重要である。このような冷却を行うことで、鋼板表層にベイナイト面積分率が10%以上の組織を形成させることができ、鋼板表層の靭性を著しく向上させることができる。同様に、鋼板内部においても、ベイナイトが10%以上の組織を形成させることができる。
[0059]
 冷却速度の制御は、水の流量を調整する、間欠的に冷却を行う、衝風により冷却を行うなどの方法により行うことができる。
 具体的には、鋼板表層および鋼板内部における平均冷却速度の制御は、所望の冷却速度となるように冷却方法、水量調整、間欠条件をシミュレーション等により導出して行う。
[0060]
 鋼板表層および鋼板内部の温度は、板厚、表面温度および冷却条件等から、シミュレーション計算等により求めることができる。例えば、差分法を用い、板厚方向の温度分布を計算することにより、鋼板表層から鋼板内部までの温度を求めることができる。
[0061]
 なお、Ar 3変態点は、下記式(4)により計算される値を用いる。
Ar 3=910-310[C]-80[Mn]-20[Cu]-15[Cr]-55[Ni]-80[Mo]… (4)
 ここで、式(4)における各元素記号は、それぞれの成分組成の鋼素材中の含有量(質量%)を示し、含有しないものは0として計算する。
[0062]
[冷却停止温度:350℃以下]
 上記冷却の停止温度を350℃以下とする。350℃以下まで冷却すれば、鋼板全体において変態が完了し、均一な組織が得られるためである。
 冷却の方法は、工業的には水冷とすることが一般的であるが、冷却方法は水冷以外でも良く、例えば、ガス冷却などの方法もある。
[0063]
[焼もどし]
 上記のような急冷を行った後に、必要に応じて、450℃以上700℃以下の温度範囲で焼もどしを行う。450℃未満では残留応力の除去効果が少なく、一方、700℃を超えると、種々の炭化物が析出するとともに、母材の組織が粗大化し、強度、靭性が大幅に低下するためである。
[0064]
 なお、工業的には、鋼の強靭化を目的に繰返し焼入れする場合があるが、本発明においても繰り返し焼入れしても良い。ただし、最終の焼入れの際に、鋼板表層および鋼板内部が(Ar 3変態点+50)℃以上(Ar 3変態点-20)℃以下の温度域における平均冷却速度が0.2℃/s 以上10℃/s以下である冷却を施し、その後、350℃以下まで冷却を行い、450℃以上700℃以下で焼もどすことが好ましい。
実施例
[0065]
 表1に示した鋼No.1~31の鋼を溶製し、スラブとした後、表2に示した製造条件により板厚が100mm以上240mm以下の鋼板とし、その後、冷却処理、焼もどし処理を行い、試料No.1~37の厚鋼板を製造し、下記の試験に供した。
[0066]
[表1]


[0067]
[引張試験]
 各鋼板の板厚1/8t部および板厚1/4t部からΦ12.5mm丸棒引張試験片を圧延方向と直角方向に長さ50mmにて採取し、降伏強度(YS)、引張強度(TS)を測定した。降伏強度(YS)および引張強度(TS)は、JIS Z2241に準拠して測定した。
[0068]
[シャルピー衝撃試験]
 各鋼板の鋼板表層下2mmおよび板厚1/4t部から圧延方向を長手方向とする2mmVノッチシャルピー試験片を各15本ずつ採取し、各試験片についてvTrs(延性‐脆性破面遷移温度)をJIS Z 2242に準拠して評価した。
[0069]
 上記の試験結果を表2に示す。この結果から、鋼の成分組成および組織が本発明に適合する発明例の鋼板(試料No.1~22)は、いずれも1/4t部のYSが620MPa以上、TSが720MPa以上、鋼板表層および1/4t部の靭性(vTrs)が-30℃より低温であり、vTrsの差が20℃以内となっており、母材の強度および鋼板表層と鋼板内部の靭性差が小さく、鋼板表層から鋼板内部まで、板厚方向にわたって靭性に優れていることがわかる。
[0070]
[表2]


[0071]
 これに対して、本発明の成分組成または組織を外れる比較例の鋼板(試料No.23~32)は、鋼板内部のYSが620MPa未満、TSが720MPa未満、または、鋼板表層および1/4t部の靭性(vTrs )が-30℃以上、もしくは、vTrs 差が20℃を超えており、上記のいずれかの特性が劣っている。
[0072]
 また、試料No.33~37に示すように、鋼の成分組成が本発明に適合する鋼板であっても、製造条件が本発明に適合していない場合、YS、TS、靭性、靭性差のいずれか1つ以上の特性が劣っていることがわかる。

産業上の利用可能性

[0073]
 本発明によれば、母材の降伏強度が620MPa以上の強度であるとともに、鋼板表層の靭性、鋼板内部の強度および靭性、並びに製造安定性に優れた100mm以上の厚鋼板を得ることができ、鋼構造物の大型化、鋼構造物の安全性の向上に大きく寄与する。

請求の範囲

[請求項1]
 質量%で、
 C:0.080%以上0.200%以下、
 Si:0.40%以下、
 Mn:0.50%以上5.00%以下、
 P:0.015%以下、
 S:0.0050%以下、
 Cr:3.00%以下、
 Ni:5.00%以下、
 Al:0.080%以下、
 N:0.0070%以下および
 B:0.0030%以下
を、下記式(1)を満足する範囲にて含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成を有する鋼板であって、
 該鋼板の表層にベイナイト面積分率が10%以上の組織を有し、該表層より内側の鋼板内部の降伏強度が620MPa以上である鋼板。
                 記
[C]+[Mn]/6+[Ni]/15+[Cr]/15≧0.57 … (1)
 ここで、
 []は、該[]内元素の含有量(質量%)である。
[請求項2]
 前記成分組成は、さらに、
 質量%で、
 Cu:0.50%以下、
 Mo:1.50%以下、
 Nb:0.100%以下、
 V:0.200%以下および
 Ti:0.005%以上0.020%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を前記式(1)に代えて下記式(2)を満足する範囲にて含有する、請求項1に記載の鋼板。
                    記
[C]+[Mn]/6+([Cu]+[Ni])/15+([Cr]+[Mo]+[V])/15≧0.57 … (2)
 ここで、
 []は、該[]内元素の含有量(質量%)である。
[請求項3]
 前記成分組成は、さらに、
 質量%で、
 Mg:0.0005%以上0.0100%以下、
 Ta:0.010%以上0.200%以下、
 Zr:0.0050%以上0.1000%以下、
 Y:0.001%以上0.010%以下、
 Ca:0.0005%以上0.0050%以下および
 REM:0.0005%以上0.0200%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1または2に記載の鋼板。
[請求項4]
 質量%で、
 C:0.080%以上0.200%以下、
 Si:0.40%以下、
 Mn:0.50%以上5.00%以下、
 P:0.015%以下、
 S:0.0050%以下、
 Cr:3.00%以下、
 Ni:5.00%以下、
 Al:0.080%以下、
 N:0.0070%以下および
 B:0.0030%以下
を、下記式(1)を満足する範囲にて含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成を有する鋼素材に、熱間圧延を施して熱延鋼板とし、
 該熱延鋼板を冷却した後に、Ac 3変態点以上1050℃以下の温度域に加熱した後、
 (Ar 3変態点+50)℃以上(Ar 3変態点-20)℃以下の温度域における平均冷却速度が0.2~10℃/sである冷却処理を施して350℃以下まで冷却する鋼板の製造方法。
                    記
[C]+[Mn]/6+[Ni]/15+[Cr]/15≧0.57 … (1)
 ここで、
 []は、該[]内元素の含有量(質量%)である。
[請求項5]
 前記成分組成は、さらに、
 質量%で、
 Cu:0.50%以下、
 Mo:1.50%以下、
 Nb:0.100%以下、
 V:0.200%以下および
 Ti:0.005%以上0.020%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を前記式(1)に代えて下記式(2)を満足する範囲にて含有する、請求項4に記載の鋼板の製造方法。
                    記
[C]+[Mn]/6+([Cu]+[Ni])/15+([Cr]+[Mo]+[V])/15≧0.57 … (2)
 ここで、
 []は、該[]内元素の含有量(質量%)である。
[請求項6]
 前記成分組成は、さらに、
 質量%で、
  Mg:0.0005%以上0.0100%以下、
  Ta:0.010%以上0.200%以下、
  Zr:0.0050%以上0.1000%以下、
  Y:0.001%以上0.010%以下、
  Ca:0.0005%以上0.0050%以下および
  REM:0.0005%以上0.0200%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項4または5に記載の鋼板の製造方法。