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1. (WO2019039540) 細胞殺傷剤
Document

明 細 書

発明の名称 細胞殺傷剤

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005  

先行技術文献

特許文献

0006  

非特許文献

0007  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0008  

課題を解決するための手段

0009   0010  

発明の効果

0011  

図面の簡単な説明

0012  

発明を実施するための形態

0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060  

実施例

0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081   0082   0083   0084   0085   0086   0087   0088   0089   0090   0091   0092   0093   0094   0095   0096   0097   0098   0099   0100   0101   0102   0103   0104   0105   0106   0107   0108   0109   0110   0111   0112   0113   0114   0115   0116   0117   0118   0119   0120   0121   0122   0123   0124   0125   0126   0127   0128   0129   0130   0131   0132   0133   0134   0135   0136   0137   0138   0139   0140   0141  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10   11   12   13   14   15   16   17  

図面

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10   11   12   13   14   15   16  

明 細 書

発明の名称 : 細胞殺傷剤

技術分野

[0001]
 本発明は、標的の細胞に対して選択的にアポトーシスを誘導し得るペプチド薬剤に関する。
 本願は、2017年8月24日に、日本に出願された特願2017-161556号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。

背景技術

[0002]
 アポトーシスは、多細胞生物の細胞死のうち、増殖制御機構として管理・調節された細胞死である。多細胞生物においては、発生や再生過程で生じた不要な細胞や有害な細胞の排除を、これらの細胞にアポトーシスを誘導することによって行っている。また、アポトーシスを疾患の原因となる細胞に誘導させて排除することにより、病態の改善が期待できる。このことから、アポトーシスを誘導する活性を持つ物質を医薬用途へ利用することも行われている。例えば、癌細胞に対してアポトーシスを誘導させることにより、癌を寛解又は治癒することが期待できる。
[0003]
 アポトーシス誘導を疾患の治療に利用する場合には、アポトーシスを誘導する標的細胞に対する選択性が非常に重要である。標的選択性が低く、標的細胞以外の細胞に対してアポトーシスを誘導してしまう場合には、副作用が、期待される治療効果を上回り、安全性の点から治療薬としては不適当である。標的細胞に対してのみ特異的にアポトーシスを誘導することができれば、副作用が充分に抑制された効果的な治療薬となり得る。
[0004]
 子宮内膜症は、子宮内膜細胞が子宮内腔以外の部位で増殖する疾患である。多くのケースにおいて、骨盤の腹膜や卵巣内で子宮内膜細胞が増殖する。代表的な症状は、月経痛(月経困難症)や不妊症であり、重篤な場合には、激しい疼痛が起こり、失神することもある。さらに、子宮内膜症を発生母体として、癌が発症する場合もある。子宮内膜細胞は女性ホルモン(エストロゲン)の刺激を受けて増殖する。このため、子宮内膜症の治療薬としては、エストロゲンの分泌を抑制するようなホルモン剤、例えば、低用量ピル、プロゲステロン受容体に対する選択的なアゴニスト(卵巣機能及び子宮内膜細胞増殖に対する抑制剤)、GnRHアゴニスト(卵胞刺激ホルモンの分泌抑制剤)が使用されている。ただし、根治療法は子宮と卵巣を摘出する手術しかなく、子宮内膜症の根治が望める治療薬の開発が求められている。
[0005]
 例えば特許文献1には、CNGB3(cyclic nucleotide-gated channel beta 3)に特異的に結合するZ13ペプチドとエンドソームエスケープペプチドとの融合ペプチドと、Z13ペプチドとアポトーシス誘導ペプチドとの融合ペプチドとを含むペプチド組成物が開示されている。CNGB3は、子宮内膜症細胞(子宮内膜以外に存在する子宮内膜細胞)の細胞表面に特異的に高発現しており、腹膜表面には発現していない分子である。両ペプチドを、Z13ペプチド部分により子宮内膜症細胞に共に取り込ませることにより、子宮内膜症細胞に対して選択的にアポトーシスを誘導させることができる。実際に、子宮内膜症を発症しているヒヒに、Z13ペプチドとエンドソームエスケープペプチドとの融合ペプチドと、Z13ペプチドとアポトーシス誘導ペプチドとの融合ペプチドとを含むペプチド組成物を、腹腔鏡を介して腹膜に投与したところ、子宮内膜症の病変の細胞のみ選択的にアポトーシスが誘導され、隣接するその他の細胞ではアポトーシスは誘導されなかった(非特許文献1参照。)。

先行技術文献

特許文献

[0006]
特許文献1 : 米国特許出願公開第2016/145308号明細書

非特許文献

[0007]
非特許文献1 : Sugihara,et al.,NATURE COMMUNICATIONS、2014年、第5巻、記事番号4478.

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0008]
 本発明は、標的の細胞に対して選択的にアポトーシスを誘導し得るペプチド薬剤を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

[0009]
 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、Z13ペプチドとエンドソームエスケープペプチドとの融合ペプチドと、Z13ペプチドとアポトーシス誘導ペプチドとの融合ペプチドと、を含むペプチド組成物よりも、特定のペプチド配列からなるエンドソームエスケープペプチドと特定のペプチド配列からなるアポトーシス誘導ペプチドとZ13ペプチドとの融合ペプチドのほうが、より高い選択性で効率よく、CNGB3を発現している子宮内膜細胞に対してアポトーシスを誘導できることを見出した。さらに、CNGB3が、子宮内膜及び網膜のみならず、幾つかの癌細胞でも発現していることを見出し、本発明を完成させた。
[0010]
 すなわち、本発明は、以下の細胞殺傷剤及び子宮内膜症モデル動物等を提供するものである。
[1] 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドと、標的分子と選択的に結合する部位とを有する、細胞殺傷剤。
[2] 前記標的分子が、細胞又は組織表面に存在する分子である、前記[1]の細胞殺傷剤。
[3] 前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドが、
 全てL-アミノ酸からなるペプチド、
 前記配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、1~14番目のアミノ酸までがD-アミノ酸からなり、15~19番目のアミノ酸までがL-アミノ酸からなるペプチド、
 前記配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、1~14番目のアミノ酸までがL-アミノ酸からなり、15~19番目のアミノ酸までがD-アミノ酸からなるペプチド、又は
 全てD-アミノ酸からなるペプチド
である、前記[1]又は[2]の細胞殺傷剤。
[4] 前記標的分子と選択的に結合する部位がペプチド又はタンパク質であり、前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドと前記標的分子と選択的に結合する部位とが直接的又は間接的に連結されている、前記[1]~[3]のいずれかの細胞殺傷剤。
[5] 前記標的分子が、CNGB3又はアネキシンIである、前記[1]~[4]のいずれかの細胞殺傷剤。
[6] 前記標的分子と選択的に結合する部位が、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
 前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの下流に、前記標的分子と選択的に結合する部位が直接的又は間接的に連結されている、前記[1]の細胞殺傷剤。
[7] 前記標的分子と選択的に結合する部位が、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
 前記標的分子と選択的に結合する部位の下流に、前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドが直接的又は間接的に連結されている、前記[1]の細胞殺傷剤。
[8] 細胞の異常増殖に起因する疾患の治療剤である、前記[1]~[7]のいずれかの細胞殺傷剤。
[9] 前記疾患が、子宮内膜症又は癌である、前記[8]の細胞殺傷剤。
[10] CNGB3をコードする遺伝子を導入したCNGB3過剰発現細胞が、腹腔内に移植されている、子宮内膜症モデル動物。
[11] 発症の原因となる細胞がCNGB3を発現している疾患の発症可能性を評価する方法であって、
 被検動物から採取されたエクソソーム中のCNGB3を測定し、
 得られた測定値を、予め設定された基準値と比較して、前記被検動物が前記疾患を発症している可能性を評価する、疾患発症可能性の評価方法。
[12] 前記測定値が、前記基準値超である場合に、前記被検動物は前記疾患を発症している可能性が高いと評価する、前記[11]の疾患発症可能性の評価方法。
[13] 前記エクソソームが前記被検動物から採取された血液から分離されたものである、前記[11]又は[12]の疾患発症可能性の評価方法。
[14] CNGB3の測定を、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを用いて行う、前記[11]~[13]のいずれかの疾患発症可能性の評価方法。
[15] 前記被検動物がヒトである、前記[11]~[14]のいずれかの疾患発症可能性の評価方法。
[16] 前記疾患が、子宮内膜症又は癌である、前記[11]~[15]のいずれかの疾患発症可能性の評価方法。
[17] エクソソーム中のCNGB3の量からなり、
 子宮内膜症又は癌の発症の有無を評価するために用いられる、バイオマーカー。

発明の効果

[0011]
 本発明に係る細胞殺傷剤は、非常に効率よく標的の細胞に対してアポトーシスを誘導できる。このため、当該細胞殺傷剤は、特に、子宮内膜症や癌等の細胞の異常増殖に起因する疾患の治療剤として有効である。
 また、本発明に係る子宮内膜症モデル動物は、子宮内膜症の治療剤候補物質に対する薬効試験等に有用である。
 また、本発明に係る疾患発症の評価方法及びバイオマーカーにより、子宮内膜症や癌などのCNGB3を特異的に発現している疾患の発症可能性を簡便かつ効率よく評価することができる。

図面の簡単な説明

[0012]
[図1] 参考例1において、各ペプチドで処理した反応溶液の発光強度(RLU)の測定結果を示した図である。
[図2] 実施例1において、各ペプチドで処理した反応溶液の発光強度(RLU)の測定結果を示した図である。
[図3] 実施例2において、ペプチド8とペプチドA1~A6の各ペプチドで処理した反応溶液の発光強度(RLU)の測定結果を示した図である。
[図4] 実施例2において、ペプチド8とペプチドB1~B7の各ペプチドで処理した反応溶液の発光強度(RLU)の測定結果を示した図である。
[図5] 実施例3において、各ペプチドで処理した反応溶液の発光強度(RLU)の測定結果を示した図である。
[図6] 実施例4において、ペプチドA2で処理したA431-CNGB3-myc細胞の生存細胞数の測定結果を示した図である。
[図7] 実施例4において、ペプチドA2で処理したA431-CNGB3-myc細胞に対してApop-Tag assayと核染色を行った染色像である。
[図8] 実施例5において、ペプチドA2を腹腔内に単回投与した子宮内膜症モデルマウスの腹膜の発光強度(RLU)の測定結果を示した図である。
[図9] 実施例5において、ペプチドA2を腹腔内に複数回投与した子宮内膜症モデルマウスの腹膜の発光強度(RLU)の測定結果を示した図である。
[図10] 実施例6において、各ペプチドで処理したA431-CNGB3-myc細胞の相対ATP量(%)の測定結果を示した図である。
[図11] 実施例6において、各ペプチドで処理したishikawa細胞の相対ATP量(%)の測定結果を示した図である。
[図12] 実施例6において、各ペプチドで処理したSNG-II細胞の相対ATP量(%)の測定結果を示した図である。
[図13] 実施例6において、各ペプチドで処理したHec-1A細胞の相対ATP量(%)の測定結果を示した図である。
[図14] 実施例6において、各ペプチドで処理したRL95-2細胞の相対ATP量(%)の測定結果を示した図である。
[図15] 実施例8において、IF7(RR)-(K+H)ペプチドを投与した担癌マウスのphoton数の増大率(%)を経時的に測定した結果を示した図である。
[図16] 実施例8において、IF7(RR)-(K+H)ペプチドを投与した担癌マウスの腫瘍体積の増大率(%)を経時的に測定した結果を示した図である。

発明を実施するための形態

[0013]
<細胞殺傷剤>
 本発明に係る細胞殺傷剤は、配列番号1で表されるアミノ酸配列(KLAKLAKKLAKLAKHLAHL)からなるペプチド(以下、「エフェクターペプチド」ということがある。)と、標的分子と選択的に結合する部位とを有する。エフェクターペプチドは、アポトーシス誘導活性を有するペプチドとエンドソームエスケープ活性を有するペプチドがタンデムに連結されたペプチドである。本発明に係る細胞殺傷剤は、標的分子と選択的に結合する部位を介して標的分子と結合し、標的細胞内へエンドサイトーシスにより取り込まれる。次いで、標的細胞内に取り込まれたエンドソームに内包された細胞殺傷剤は、エンドソームエスケープ活性を有するペプチド部位の作用によってエンドソーム膜が破壊される結果、標的細胞の細胞質へ放出される。細胞質へ放出された細胞殺傷剤は、アポトーシス誘導活性を有するペプチド部位の作用によって、ミトコンドリア膜を障害して当該標的細胞のアポトーシスを誘導する。
[0014]
 本発明に係る細胞殺傷剤は、一分子中に、アポトーシス誘導活性を有するペプチド部分、エンドソームエスケープ活性を有するペプチド部分、及び標的分子と選択的に結合する部位の全てを含む。このため、標的分子と選択的に結合するペプチド及びアポトーシス誘導活性を有するペプチドを連結させたペプチドと、標的分子と選択的に結合するペプチド及びエンドソームエスケープ活性を有するペプチドを連結させたペプチドと、をそれぞれ独立に含むペプチド組成物と比較して、非常に効率よく標的細胞にアポトーシスを誘導することができる。
[0015]
 なお、本発明及び本願明細書において、「標的細胞」は、アポトーシスを誘導したい対象の細胞である。「標的分子」は、アポトーシスを誘導したい対象の細胞の表面又は当該細胞が存在する組織表面に存在する分子であって、本発明に係る細胞殺傷剤が選択的に結合する分子である。
[0016]
 特許文献1に開示されているように、KLAKの4アミノ酸の繰り返しからなるアミノ酸配列(以下、「KLAK配列」ということがある。)からなるペプチド(以下、「KLAKペプチド」ということがある。)は、ミトコンドリア膜を障害してアポトーシスを誘導する作用(アポトーシス誘導活性)を有する。また、HLAHの4アミノ酸の繰り返しからなるアミノ酸配列(以下、「HLAH配列」ということがある。)からなるペプチド(以下、「HLAHペプチド」ということがある。)は、エンドソームの膜を破壊する作用(エンドソームエスケープ活性)を有する。KLAKペプチドとHLAHペプチドを連結したペプチドは、エンドソームエスケープ活性とアポトーシス誘導活性を有する。しかし、その活性の強さは、それぞれのペプチドのアミノ酸の長さと、連結の順番に影響を受ける。KLAKペプチドの下流(C末端)にHLAHペプチドを連結したペプチドと、HLAHペプチドの下流(C末端)にKLAKペプチドを連結したペプチドとは、いずれもエンドソームエスケープ活性とアポトーシス誘導活性を有するが、KLAKペプチドの下流(C末端)にHLAHペプチドを連結したペプチドのほうが、アポトーシス誘導活性が高い。
[0017]
 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるエフェクターペプチドは、14アミノ酸からなるKLAK配列の下流に、5アミノ酸からなるHLAH配列が連結されたペプチドである。すなわち、配列番号1のアミノ酸配列のうち、1~14番目のアミノ酸までがアポトーシス誘導活性を有する部位であり、15~19番目のアミノ酸までがエンドソームエスケープ活性を有する部位である。このエフェクターペプチドは、標的細胞にエンドサイトーシスで取り込まれた場合に、最も高いアポトーシス誘導活性が得られるように、KLAK配列の長さ、HLAH配列の長さ、及びKLAK配列とHLAH配列の連結の順番が最適化されたペプチドである。このエフェクターペプチドを有しているため、本発明に係る細胞殺傷剤は、非常に高いアポトーシス誘導活性を持つ。
[0018]
 本発明に係る細胞殺傷剤が有するエフェクターペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドであれば特に限定されるものではなく、L-アミノ酸からなるペプチドであってもよく、D-アミノ酸からなるペプチドであってもよく、L-アミノ酸とD-アミノ酸からなるペプチドであってもよい。エンドソーム内における安定性が高く、より高いアポトーシス誘導活性が得られることから、エフェクターペプチドは、少なくとも一部にD-アミノ酸を含むペプチドであることが好ましく、KLAK配列(配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、1~14番目のアミノ酸)とHLAH配列の(配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、15~19番目のアミノ酸)少なくとも一方がD-アミノ酸からなるペプチドであることがより好ましく、全てD-アミノ酸からなるペプチドであることが特に好ましい。
[0019]
 本発明に係る細胞殺傷剤において、標的分子と選択的に結合する部位と配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるエフェクターペプチドは、直接結合していてもよく、リンカーを介して間接的に結合していてもよい。当該リンカーとしては、特に限定されるものではなく、例えば、1~20個のアミノ酸程度のペプチド、糖鎖、ポリエチレングリコール、ポリオレフィン等が挙げられる。合成が比較的容易であることから、本発明に係る細胞殺傷剤としては、標的分子と選択的に結合する部位がペプチド又はタンパク質であり、エフェクターペプチドと直接又は1~20個のアミノ酸程度のペプチドを介して結合しているものが好ましい。また、本発明に係る細胞殺傷剤において、標的分子と選択的に結合する部位は、標的分子との結合性が阻害されない限り、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるエフェクターペプチドのN末端側に連結されていてもよく、C末端側に連結されていてもよい。
[0020]
 本発明に係る細胞殺傷剤における標的分子と選択的に結合する部位は、特に限定されるものではなく、標的分子に合わせて決定される。当該部位は、ペプチドやタンパク質であってもよく、オリゴヌクレオチドや核酸であってもよく、糖鎖であってもよく、脂質であってもよく、低分子化合物であってもよい。
[0021]
 なお、本発明に係る細胞殺傷剤が選択的に結合する標的分子としては、アポトーシスを誘導する標的細胞又は組織の表面に存在している分子であれば特に限定されるものではなく、タンパク質であってもよく、糖鎖であってもよく、脂質であってもよい。
[0022]
 本発明に係る細胞殺傷剤の選択性が高くなり、各種疾患の治療剤として使用した場合に副作用を低減させられる。このことから、本発明に係る細胞殺傷剤が選択的に結合する標的分子としては、標的細胞の表面又は当該標的細胞を含む組織の表面における発現量が、その他の多くの細胞及び組織における発現量と比較して顕著に多い分子であることが好ましく、標的細胞の表面又は当該標的細胞を含む組織の表面に特異的に発現している分子がより好ましい。
[0023]
 例えば、CNGB3は、正常組織では、子宮内膜と網膜においてのみ高発現している膜タンパク質である。正常組織におけるCNGB3の局在は非常に偏っており、松果体において中程度の発現が、骨髄、脈絡叢、輸卵管、眼、卵巣、及び精巣において弱い発現が確認されているのみである。このため、本発明に係る細胞殺傷剤のうち標的分子をCNGB3としたものは、子宮内膜や網膜の細胞に対して特異的にアポトーシスを誘導できる細胞殺傷剤であり、子宮内膜や網膜の疾患に対する治療薬として有用である。特に、腹腔や骨盤における正常細胞にはアポトーシスを誘導せず、子宮内膜症細胞に対して選択的にアポトーシスを誘導できるため、子宮内膜症の治療薬として非常に好適である。
[0024]
 また、CNGB3は、様々な癌細胞でも比較的強く発現している。このため、本発明に係る細胞殺傷剤のうちの標的分子をCNGB3としたものは、CNGB3を発現している癌細胞に対する選択性が高く、副作用が抑えられた抗癌剤として有用である。CNGB3を発現している癌としては、例えば、子宮癌、子宮頸癌、骨盤腔癌、卵巣癌、乳癌、腹壁腫瘍、大網腫瘍、食道癌、胃癌、小腸癌、結腸癌、直腸癌、盲腸癌、胆嚢癌、膵臓癌、肝臓癌、脾臓癌、腎臓癌、舌癌、咽頭癌、鼻癌、耳下腺癌、甲状腺癌、悪性リンパ腫、骨腫瘍、皮膚癌、肺癌、縦隔癌、精巣癌、前立腺癌、膀胱癌、脳腫瘍等が挙げられる。同種の組織に由来する癌細胞であっても、CNGB3が発現している癌細胞と発現していない癌細胞がある。このため、本発明に係る細胞殺傷剤のうち標的分子をCNGB3としたものを抗癌剤として使用する場合には、予め、生検等により、標的とする癌細胞がCNGB3を発現している細胞であることを確認するほうが好ましい。
[0025]
 CNGB3を標的分子とする場合、標的分子と選択的に結合する部位としては、例えば、配列番号2(VRRAXNXPG;Xは任意の天然に存在するアミノ酸を表す。)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号2で表されるアミノ酸配列の一部を改変したアミノ酸配列からなるペプチド(以下、これらのペプチドを「CNGB3結合性ペプチド」ということがある。)が挙げられる(特許文献1)。配列番号2で表されるアミノ酸配列の一部を改変したアミノ酸配列からなるペプチドとしては、配列番号2で表されるアミノ酸配列の1個、2個、又は3個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、かつCNGB3に対する結合能を保持しているペプチド;配列番号2で表されるアミノ酸配列と少なくとも75%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上の配列同一性を有しており、かつCNGB3に対する結合能を保持しているペプチド;が挙げられる。CNGB3結合性ペプチドとしては、具体的には、配列番号3(VRRADNRPG)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下、「Z13ペプチド」ということがある。)、配列番号4(VRRAENRPG)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号5(VRRANNLPG)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号6(VRRANNRPG)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。
[0026]
 CNGB3を発現している細胞に対してより強いアポトーシス誘導活性を有するため、標的分子をCNGB3とした細胞殺傷剤としては、Z13ペプチドと前記エフェクターペプチドが直接又はリンカーを介して間接的に連結されたものが好ましく、Z13ペプチドと前記エフェクターペプチドが直接又は1~20個のアミノ酸からなるペプチドを介して連結されたペプチドであることがより好ましく、前記エフェクターペプチドのC末端にZ13ペプチドが直接又は1~20個のアミノ酸からなるペプチドを介して連結されたペプチドであることがさらに好ましく、前記エフェクターペプチドのC末端がZ13ペプチドのN末端と直接連結したペプチド(配列番号26:KLAKLAKKLAKLAKHLAHLVRRADNRPG)であることがよりさらに好ましく、全てD-アミノ酸からなる前記エフェクターペプチドのC末端が全てL-アミノ酸からなるZ13ペプチドのN末端と直接連結したペプチドであることが特に好ましい。
[0027]
 また、アネキシンIは、正常血管内皮細胞では細胞質に発現しているが、悪性腫瘍組織では新生された血管(腫瘍新生血管)の血管内皮細胞の血流側に特異的に発現している膜タンパク質である。生体内に投与されたアネキシンIと選択的に結合する分子は、悪性腫瘍組織では、腫瘍新生血管の血流側に発現しているアネキシンIとの結合を介して、腫瘍新生血管の血管内皮細胞に取り込まれる。血管内皮細胞に取り込まれた分子は、小胞輸送によりapical側からbasal側へ運ばれて間質へ排出される。排出された分子は、間質中を拡散して腫瘍細胞内へ取り込まれ得る。このため、本発明に係る細胞殺傷剤のうち標的分子をアネキシンIとしたものは、癌細胞に対してアポトーシスを誘導できる細胞殺傷剤であり、抗癌剤として有用である。標的分子をアネキシンIとした細胞殺傷剤は、腫瘍新生血管の血管内皮細胞に特異的に取り込まれ、血管内皮細胞内における小胞輸送の過程において、若しくは取り込まれた腫瘍細胞内における小胞輸送の過程において、HLAHペプチド部分の機能によりエンドソームの膜を破壊して細胞質に放出される。その後KLAKペプチドペプチド部分の機能により、当該細胞殺傷剤を取り込んだ細胞は殺傷される。標的分子をアネキシンIとした細胞殺傷剤を抗癌剤として使用する場合、治療対象とする癌種は特に限定されるものではなく、前記で列挙されているものと同様の癌に対して使用することができる。
[0028]
 アネキシンIを標的分子とする場合、標的分子と選択的に結合する部位としては、例えば、配列番号7(IFLLWQR)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下、「IF7ペプチド」ということがある。)、及び配列番号7で表されるアミノ酸配列の一部を改変したアミノ酸配列からなるペプチド(以下、これらのペプチドを「アネキシンI結合性ペプチド」ということがある。)が挙げられる。配列番号7で表されるアミノ酸配列の一部を改変したアミノ酸配列からなるペプチドとしては、配列番号7で表されるアミノ酸配列の1個、2個、又は3個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、かつアネキシンIに対する結合能を保持しているペプチドや、配列番号7で表されるアミノ酸配列と少なくとも70%以上、好ましくは85%以上の配列同一性を有しており、かつアネキシンIに対する結合能を保持しているペプチドが挙げられる。
[0029]
 癌細胞に対してより強いアポトーシス誘導活性を有するため、標的分子をアネキシンIとした細胞殺傷剤としては、IF7ペプチドと前記エフェクターペプチドが直接又はリンカーを介して間接的に連結されたものが好ましく、IF7ペプチドと前記エフェクターペプチドが直接又は1~20個のアミノ酸からなるペプチドを介して連結されたペプチドであることがより好ましく、IF7ペプチドのC末端に前記エフェクターペプチドが直接又は1~20個のアミノ酸からなるペプチドを介して連結されたペプチドであることがさらに好ましく、IF7ペプチドのC末端に前記エフェクターペプチドが1~5個のアミノ酸からなるペプチドを介して連結されたペプチドであることがよりさらに好ましく、全てL-アミノ酸からなるIF7ペプチドのC末端が全てD-アミノ酸からなる前記エフェクターペプチドのN末端と1~5個のL-アミノ酸からなるペプチドを介して連結したペプチドであることが特に好ましい。IF7ペプチドのC末端が前記エフェクターペプチドのN末端と1~5個のアミノ酸からなるペプチドを介して連結したペプチドとしては、例えば、配列番号40で表されるアミノ酸配列(IFLLWQRRRKLAKLAKKLAKLAKHLAHL)からなるペプチドが挙げられる。
[0030]
 本発明に係る細胞殺傷剤を医薬として使用する場合、投与経路は特に限定されるものではなく、標的細胞及びそれを含む組織に応じて適宜決定される。例えば、本発明に係る細胞殺傷剤の投与経路としては、経口投与、経静脈投与、腹腔内投与、注腸投与等が挙げられる。
[0031]
 本発明に係る細胞殺傷剤は、通常の方法によって、散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤、チュアブル剤、徐放剤などの経口用固形剤、溶液剤、シロップ剤などの経口用液剤、注射剤、注腸剤、スプレー剤、貼付剤、軟膏剤などに製剤化することができる。
[0032]
 本発明に係る細胞殺傷剤は、製剤上の必要に応じて、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、流動化剤、溶剤、溶解補助剤、緩衝剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、防腐剤、抗酸化剤、矯味矯臭剤、着色剤等を配合して製剤化される。
[0033]
 賦形剤としては、乳糖、ブドウ糖、D-マンニトールなどの糖類、デンプン、結晶セルロースなどのセルロース類、エリスリトール、ソルビトール、キシリトールなどの糖アルコール類、リン酸二カルシウム、炭酸カルシウム、カオリンなどが挙げられる。結合剤としては、α化デンプン、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、D-マンニトール、トレハロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。崩壊剤としては、クロスポビドン(架橋ポリビニルピロリドン)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。流動化剤としては、ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム化合物、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。溶剤としては、精製水、生理的食塩水などが挙げられる。溶解補助剤としては、デキストラン、ポリビニルピロリドン、安息香酸ナトリウム、エチレンジアミン、サリチル酸アミド、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体などが挙げられる。緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム水和物、酢酸ナトリウム水和物、炭酸水素ナトリウム、トロメタモール、ホウ酸、ホウ砂、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウムなどが挙げられる。懸濁化剤あるいは乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、アラビアゴム、ゼラチン、レシチン、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース類、ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。等張化剤としては、乳糖、ブドウ糖、D-マンニトールなどの糖類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、尿素などが挙げられる。安定化剤としては、ポリエチレングリコール、デキストラン硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、クロロクレゾール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。抗酸化剤としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸などが挙げられる。矯味矯臭剤としては、医薬及び食品分野において通常に使用される甘味料、香料などが挙げられる。着色剤としては、医薬及び食品分野において通常に使用される着色料が挙げられる。
[0034]
 本発明に係る細胞殺傷剤は、そのまま使用してもよく、その他の成分も含む医薬用組成物として使用することもできる。当該医薬用組成物に含まれるその他の成分としては、例えば、前記の賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、流動化剤、溶剤、溶解補助剤、緩衝剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、防腐剤、抗酸化剤、矯味矯臭剤、着色剤等が挙げられる。また、当該医薬用組成物は、本発明に係る細胞殺傷剤以外の他の有効成分を含有していてもよい。
[0035]
 本発明に係る細胞殺傷剤は、哺乳動物に投与されるものであることが好ましく、ヒトや、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、サル、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、ロバ、イヌ、ネコ等の家畜や実験動物に投与されるものであることがより好ましく、ヒトに投与されるものであることがさらに好ましい。
[0036]
<子宮内膜症モデル動物>
 子宮内膜症細胞は、CNGB3を発現している。また、多くの子宮内膜症においては、子宮内膜症細胞は腹腔内において増殖する。このため、CNGB3を過剰発現させた細胞が腹腔内に移植されている動物を、子宮内膜症モデル動物とすることができる。
[0037]
 過剰発現させるCNGB3としては、子宮内膜細胞において発現している野生型のヒトCNGB3(NCBIのGene ID:54714)と同じ機能を奏するタンパク質であれば特に限定されるものではない。例えば、ヒトCNGB3であってもよく、ヒト以外の動物に由来するヒトCNGB3のホモログタンパク質であってもよく、ヒトCNGB3又はそのホモログの改変体であって、ヒトCNGB3と同じ機能を保持するタンパク質であってもよい。
[0038]
 前記改変体としては、例えば、ヒトCNGB3又はそのホモログのアミノ酸配列の1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸配列からなり、かつCNGB3としての機能を保持しているタンパク質が挙げられる。欠失等するアミノ酸の数は、1~50個が好ましく、1~30個がより好ましく、1~20個がさらに好ましく、1~10個がよりさらに好ましい。ヒトCNGB3又はそのホモログのN末端又はC末端に付加するアミノ酸としては、Hisタグ、Mycタグ、Flagタグ等のタグペプチドが挙げられる。また、前記改変体としては、例えば、ヒトCNGB3又はそのホモログのアミノ酸配列との配列同一性が70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、よりさらに好ましくは95%以上のアミノ酸配列からなり、かつCNGB3としての機能を保持しているタンパク質も挙げられる。
[0039]
 なお、本発明及び本願明細書において、「タンパク質においてアミノ酸が欠失する」とは、タンパク質を構成しているアミノ酸の一部が失われる(除去される)ことを意味する。
 本発明及び本願明細書において、「タンパク質においてアミノ酸が置換する」とは、タンパク質を構成しているアミノ酸が別のアミノ酸に変わることを意味する。
 本発明及び本願明細書において、「タンパク質においてアミノ酸が付加される」とは、タンパク質中に新たなアミノ酸が挿入されることを意味する。
[0040]
 CNGB3過剰発現細胞を調製するために、CNGB3をコードする遺伝子(CNGB3遺伝子)を導入する細胞(宿主細胞)としては、特に限定されるものではなく、子宮内皮細胞であってもよく、動物の組織から採取された子宮内皮細胞以外の細胞の初代培養細胞であってもよく、培養細胞株であってもよい。また、CNGB3遺伝子を導入する宿主細胞は、ヒト由来の細胞であってもよく、ヒト以外の動物由来の細胞であってもよい。
[0041]
 CNGB3過剰発現細胞は、宿主細胞に、CNGB3遺伝子を発現可能な状態で導入することによって得られる。具体的には、CNGB3を発現させるために必要なDNAの組み合わせからなる発現カセットを組み込んだ発現ベクターを、宿主細胞に導入する。発現カセットは、発現させるタンパク質をコードする遺伝子と、当該遺伝子の発現を制御するプロモーターとを備える。発現カセットは、さらに、ターミネーター、5’-非翻訳領域、3’-非翻訳領域のいずれか1つ以上が含まれていてもよい。好ましい発現カセットは、タンパク質をコードする遺伝子配列、プロモーター、ターミネーター、5’-非翻訳領域、3’-非翻訳領域を全て含む発現カセットである。宿主細胞に導入するCNGB3遺伝子は、目的のアミノ酸配列からなるCNGB3をコードする塩基配列からなるものであればよく、宿主細胞のコドン頻度に応じて改変してもよい。
[0042]
 プロモーターとターミネーターは、宿主細胞内で機能するものであればよい。宿主細胞内で機能するプロモーター及びターミネーターとしては、宿主細胞が本来有するものであってもよく、宿主細胞が本来有していないものであってもよい。
[0043]
 CNGB3遺伝子の発現カセットを組み込んで発現ベクターを作製するためのベクターは、宿主細胞への導入に通常用いられる任意のベクターを用いることができる。当該ベクターは、環状のプラスミドベクターであってもよく、直鎖状のベクターであってもよく、アデノウイルス等のウイルスベクターであってもよい。市販されている哺乳細胞発現用ベクターのクローニングサイトにCNGB3遺伝子を組込むことによっても、発現ベクターを作製することができる。
[0044]
 CNGB3過剰発現細胞は、CNGB3遺伝子の発現カセットが、宿主細胞の細胞内で染色体外遺伝子として保持される形質転換体であってもよく、宿主細胞の染色体中に組み込まれた形質転換体であってもよい。また、発現ベクターを宿主となる哺乳細胞へ導入する形質転換方法は、リポフェクション法、リン酸カルシウム沈殿法、酢酸リチウム法、エレクトロポレーション法等の公知の形質転換方法の中から適宜選択して行うことができる。得られたCNGB3過剰発現細胞は、宿主とした哺乳細胞と同様の条件で培養することができる。
[0045]
 CNGB3過剰発現細胞を腹腔内に移植する非ヒト動物の生物種は特に限定されるものではない。本発明に係る子宮内膜症モデル動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、サル、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、ロバ、イヌ、ネコ等の家畜や実験動物が好ましい。CNGB3過剰発現細胞の腹腔内への移植は常法により行うことができる。
[0046]
<バイオマーカー>
 エクソソームには、当該エクソソームが放出された元の細胞の細胞膜に発現している生体分子を含む。前述の通り、CNGB3は、子宮内膜症細胞の細胞膜に多く発現しており、子宮内膜症細胞から放出されたエクソソームにはCNGB3が含まれている。同様に、CNGB3は、様々な癌細胞でも発現しており、癌細胞から放出されたエクソソームにはCNGB3が含まれている。このため、エクソソーム中のCNGB3量は、子宮内膜症又は癌のバイオマーカーとして有用である。
[0047]
<疾患発症可能性の評価方法>
 本発明に係る疾患発症可能性の評価方法(以下、「本発明に係る評価方法」ということがある。)は、エクソソーム中のCNGB3をバイオマーカーとし、CNGB3を発現している疾患の発症可能性を評価する方法である。発症の原因となる細胞がCNGB3を発現している疾患(以下、「CNGB3高発現疾患」ということがある。)を発症している動物の体内においては、当該疾患の原因細胞から、CNGB3を多く含むエクソソームが多く分泌されている。一方で、CNGB3は正常細胞では限られた組織でしか発現していないため、CNGB3高発現疾患を発症していない動物の体内には、CNGB3を多く含むエクソソームは非常に少ない。このため、エクソソーム中のCNGB3量に基づいて、CNGB3高発現疾患の発症者群と非発症者群を識別することができる。本発明に係る評価方法は、被検動物から採取されたエクソソーム中のCNGB3を測定し、得られた測定値を予め設定された基準値と比較して、前記被検動物がCNGB3高発現疾患を発症している可能性を評価する。
[0048]
 CNGB3高発現疾患としては、子宮内膜症やCNGB3を発現している癌が挙げられる。また、本発明に係る評価方法により評価される対象の被検動物としては、ヒトであってもよく、非ヒト動物であってもよい。非ヒト動物の生物種は特に限定されるものではなく、例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、サル、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、ロバ、イヌ、ネコ等の家畜や実験動物が挙げられる。本発明に係る評価方法により評価される対象の被検動物としては、ヒト、家畜、実験動物が好ましく、ヒトがより好ましい。
[0049]
 具体的には、エクソソーム中のCNGB3の測定値が、予め設定された基準値超である場合に、当該エクソソームが採取された被検動物は、CNGB3高発現疾患を発症している可能性が高いと評価する。当該基準値は、CNGB3高発現疾患の発症者と非発症者を識別するための基準値である。
[0050]
 当該基準値は、例えば、CNGB3高発現疾患の患者群と非患者群のエクソソーム中のCNGB3の量を測定し、両群を区別することができる閾値として実験的に求めることができる。本発明におけるエクソソーム中のCNGB3量の基準値の決め方は特に限定されるものではなく、例えば、一般的な統計学的手法によって求められる。
[0051]
 基準値の求め方の一例としては、例えば、一般的に行われている病理検査等の他の方法によって目的のCNGB3高発現疾患の患者であると診断されている患者のエクソソームを採取してそのCNGB3の量を測定する。複数の患者について測定した後に、その平均値又は中央値などによりこれらのエクソソーム中のCNGB3量を算出し、これが含まれる数値を基準値とすることができる。
[0052]
 また、複数のCNGB3高発現疾患患者と複数のCNGB3高発現疾患の非患者に対して、それぞれエクソソーム中のCNGB3量を測定し、平均値又は中央値などによりCNGB3高発現疾患患者群とCNGB3高発現疾患非患者群のエクソソーム中のCNGB3量とばらつきをそれぞれ算出した後、ばらつきも考慮して両数値が区別されるような閾値を求め、これを基準値とすることができる。
[0053]
 評価対象のCNGB3高発現疾患が、CNGB3が発症の原因細胞において特異的に発現している場合、前記基準値は、CNGB3の検出限界値とすることができる。被検動物から採取されたエクソソーム中からCNGB3が検出された場合には、当該被検動物は当該CNGB3高発現疾患に発症している可能性が高いと評価し、CNGB3が検出されなかった場合には、当該被検動物は当該CNGB3高発現疾患に発症していない可能性が高いと評価できる。
[0054]
 被検動物から採取されたエクソソーム中のCNGB3の量の測定方法は、特に限定されるものではなく、タンパク質の発現を定量的又は半定量的に測定する際に一般的に使用される各種方法で測定することができる。当該方法としては、例えば、ELISA法、免疫組織化学法、ウェスタンブロット法等の免疫反応を利用した方法が挙げられる。また、被検動物から採取されたエクソソーム中のCNGB3量は、CNGB3を含むエクソソームの量として求めてもよい。CNGB3は主にエクソソームの脂質二重膜表面に存在している。このため、特定の表面分子を有するエクソソームを測定する各種の方法を適用することによっても、エクソソーム中のCNGB3の量を測定できる。特定の表面分子を有するエクソソームを測定する装置としては、例えば、「Exo Counter」(JVCケンウッド社製)、「dNano」(メイワフォーシス社製)、「Nano Sight」(日本カンタム・デザイン社製)、「SP6800」ソニー(株)等のエクソソーム計測システムが挙げられる。
[0055]
 免疫反応を利用した測定方法においては、いずれの抗CNGB3抗体を用いてもよい。また、抗CNGB3抗体に代えて、CNGB3と結合する分子を利用することができる。当該分子としては、ペプチド、タンパク質、核酸、低分子等のいずれであってもよい。また、当該分子は、標識化物(CNGB3と結合する部位に、直接的又は間接的に標識物質が結合したもの)であることも好ましい。当該標識物質は、特に限定されるものではなく、例えば、ビオチン等の低分子であってもよく、蛍光物質であってもよく、酵素であってもよく、Hisタグ、Mycタグ、Flagタグ等のタグペプチドであってもよい。
[0056]
 例えば、CNGB3と結合するペプチドとしては、前述のCNGB3結合性ペプチド又はその標識化物が好ましく、Z13ペプチド又はその標識化物が特に好ましい。また、配列番号41(MQRTRATPG)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下、「Z24ペプチド」ということがある。)、配列番号42(VRSSRSTPQ)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下、「Z11ペプチド」ということがある。)(いずれも、非特許文献1参照。)等のCNGB3と結合可能なペプチドを用いることもできる。CNGB3と結合するペプチドとしては、ペプチド部分が全てL-アミノ酸からなるものを用いてもよく、D-アミノ酸からなるものを用いることもできる。例えば、ビオチン化Z13ペプチドと、酵素や蛍光で標識されたアビジンやストレプトアビジンのセットを用いることができる。
[0057]
 CNGB3量の測定に供されるエクソソームは、被検動物から採取されたものであればよく、被検動物から採取された生体試料そのものであってもよいが、当該生体試料から精製されたエクソソームであることが好ましい。生体試料からのエクソソームの分離は、例えば、市販のエクソソーム分離用キットを用いて行うことができる。
[0058]
 エクソソームを含む生体試料としては、特に限定されるものではなく、血液、血漿、血清、涙液、唾液、腹腔液、尿等であってもよく、子宮粘膜や消化管粘膜のような粘膜や、肝臓、胃、小腸、大腸等の組織から採取された組織片であってもよい。中でも、血液、血漿、血清は、臨床検体として汎用されており、かつ比較的低侵襲的に採取することが可能である。このため、本発明に係る評価方法においてCNGB3量の測定に供されるエクソソームとしては、被検動物から採取された血液、特に血漿又は血清から分離されたエクソソームが好ましい。本発明に係る評価方法は、血清等から分離されたエクソソームをサンプルとして実施できるため、健康診断のようなCNGB3高発現疾患のファーストスクリーニングにも有効である。
[0059]
 本発明に係る評価方法は、CNGB3高発現疾患の治療における治療効果の評価に用いることができる。例えば、CNGB3高発現疾患患者に対して、CNGB3高発現疾患の治療の開始前と終了後に、本発明に係る評価方法を実施する。当該治療によって、患者の体内において、CNGB3高発現疾患の原因細胞が減少した、若しくは、その生理活性が低下した場合には、当該患者の体内では、CNGB3高発現疾患の原因細胞から分泌されるエクソソームの量が低下する。このため、エクソソーム中のCNGB3量が治療前と比較して治療後に有意に減少している場合には、当該治療により治療効果が得られた、と評価できる。また、エクソソーム中のCNGB3量の減少の割合が大きければ大きいほど、高い治療効果が得られた、と評価できる。CNGB3高発現疾患の治療の開始前と終了後に加えて、治療期間中にも経時的に本発明に係る評価方法を実施することにより、治療効果をモニタリングすることもできる。
[0060]
 また、CNGB3高発現疾患に少なくとも1度罹患した動物に対して、本発明に係る評価方法を経時的に実施することにより、当該罹患動物のCNGB3高発現疾患の発症の有無をモニタリングすることができる。例えば、CNGB3高発現疾患が、癌や子宮内膜症のように、治癒した場合でも再発リスクが高い疾患の場合、CNGB3高発現疾患患者に対して本発明に係る評価方法を経時的に実施することにより、再発の有無をモニタリングすることができる。
実施例
[0061]
 次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[0062]
<子宮内膜症モデル細胞(A431-CNGB3-myc細胞)>
 A431細胞(ヒト上皮様細胞癌由来細胞株)に、C末端にmycタグを融合させたヒトCNGB3をコードする遺伝子を導入して強制発現させた形質転換細胞(A431-CNGB3-myc細胞)を、子宮内膜症モデル細胞として調製した。
[0063]
 A431-CNGB3-myc細胞の培養は、DMEM High Glucose培地 (GIBCO社製)に10%の非働化FBS(ウシ胎児血清、Corning社製)と1%のpenicillin-streptomycin(Invitrogen社製)を含有させた培地を培養培地として、37℃、5容量%二酸化炭素環境下で行った。継代は2~3日ごとに行った。
[0064]
<子宮内膜症モデルマウス>
 免疫不全マウス(NOD/ShiJic-scid Jcl系統、日本クレア社より供給)の腹腔にA431-CNGB3-myc細胞を移植して子宮内膜症モデルマウスを作製した。
 具体的には、凍結保存してあるA431-CNGB3-myc細胞を解凍した後、10cmディッシュ(Thermo Fisher Scientific社製、Lot No. F3BAXQ103)を用いて2回継代した細胞を1×10 7 cells/0.5 mL/body となるように培養培地を加えて調製した細胞液を投与液とした。この投与液を、調製後可及的速やかに、7週齢の雌の免疫不全マウスに腹腔内投与することにより、A431-CNGB3-myc細胞を移植した。
[0065]
 なお、マウスは、ポリカーボネートケージ(W×D×H=270×440×187(mm))内で5~10匹/ケージを、19.8~27.1℃、湿度32~75%、12時間照明の環境下で飼育した。飼料(滅菌済CRF-1(固型)、オリエンタル酵母工業社製)と飲料水(滅菌済水道水)は自由摂取させた。
[0066]
 モデル作製の確認は、腹膜腫瘤の観察及び採材によって行った。A431-CNGB3-myc細胞移植から1~3週間後に、各週2匹ずつに対して剖検を行い、腹膜に腫瘤(1mm程度の粒状)が認められるかを目視で確認し、写真撮影を行った。その後、腹膜を採材し、4カ所(腹部・背部の各左右)を切り出してそれぞれ10%中性緩衝ホルマリンに浸漬して固定し、冷蔵保存した。ホルマリン固定後の腹膜に対して、抗c-myc抗体を用いて免疫組織化学染色し、播種の状態を調べた。
[0067]
 A431-CNGB3-myc細胞移植後のマウスの目視確認の結果、1回目の実験では、移植から1週間後では、目視で腫瘤が確認されたものの、腹膜播種は見られなかったが、移植から2又は3週間後には、目視で腫瘤及び腹膜播種が確認された。2回目の実験では、移植から1週間後でも、目視で腹膜播種が確認された。また、移植後マウスの腹膜組織片のc-myc染色の結果、移植から1週間後には既に腹膜播種していることが確認された。
[0068]
[参考例1]
 KLAKペプチドとHLAHペプチドとCNGB3結合性ペプチドとが連結されたペプチドについて、CNGB3結合性ペプチドのアミノ酸配列の種類と子宮内膜症細胞に対する細胞障害性の強さに対する影響を調べた。
[0069]
 具体的には、表2に示すアミノ酸配列からなる2種類のペプチドを合成し、A431-CNGB3-myc細胞に対する細胞障害性を比較した。これらの2種類のペプチドは、KLAK配列とHLAH配列部分をD-アミノ酸から、CNGB3結合性ペプチド部分をL-アミノ酸で合成した。
[0070]
[表1]


[0071]
<細胞殺傷活性の評価>
 各ペプチドの細胞殺傷活性の評価は、CellTiter-Glo(登録商標)アッセイキット(プロメガ社製)を用いて、各ペプチドで処理したA431-CNGB3-myc細胞のATP量を測定して行った。
[0072]
 具体的には、まず、2回継代後のA431-CNGB3-myc細胞を、96ウェルプレート(Corning/Costar社製、Lot No. 00515003)に、1×10 cells/wellになるように細胞の濃度を調製して播種した。播種から2日間培養した後、各ウェルに、各ペプチドをそれぞれ、終濃度が35.5、75、又は150μMになるよう添加し、24時間培養した。その後、各ウェルから培養上清を除去し、残った細胞にCellTiter-Glo bufferを加えてホモジナイズした後、遠心により上清を回収し、これをライセートとした。このライセートに2倍量のPBS及びライセートと同量の2×CellTiterGlo Reagentを加えて撹拌したものを反応溶液とし、この反応溶液を10分間室温で静置した。室温静置後の反応溶液の発光強度(Luminescence)(RLU:RELATIVE LIGHT UNITS)を、Synergy H1 ハイブリッドマルチモードマイクロプレートリーダー(BioTek社製)を用いて測定した。反応溶液の発光強度はATP量の指標である。反応溶液の発光強度が小さいほど、ATP量が少なく、投与されたペプチドの細胞殺傷活性が強いことを示す。全ての試行はtriplicateで測定し、その平均を各ペプチドの濃度の細胞殺傷活性として評価した。
[0073]
 各ペプチドのA431-CNGB3-myc細胞に対する細胞殺傷活性の評価において、各反応溶液の発光強度(RLU)の測定結果を図1に示す。図1中、「WT」が表1のペプチドWTの結果を、「D5E」が表1のペプチドD5Eの結果を、それぞれ示す。両ペプチドは共に濃度依存的に細胞殺傷活性作用を示した。CNGB3結合性ペプチドがZ13ペプチドであるペプチドWTのほうが、CNGB3結合性ペプチドが配列番号4のペプチドであるペプチドD5Eよりも強い細胞殺傷活性作用を示した。
[0074]
[実施例1]
 KLAKペプチドとHLAHペプチドとZ13ペプチドとが連結されたペプチドについて、KLAK配列とHLAH配列の長さを、子宮内膜症細胞に対する細胞障害性の強さが最大となるように最適化した。
[0075]
 具体的には、表2に示すアミノ酸配列からなる16種類のペプチドを合成し、A431-CNGB3-myc細胞に対する細胞障害性を比較した。これらの16種類のペプチドは、KLAK配列とHLAH配列部分をD-アミノ酸から、Z13ペプチド部分をL-アミノ酸で合成した。
[0076]
[表2]


[0077]
 96ウェルプレートに播いたA431-CNGB3-myc細胞に添加する各ペプチドの終濃度を、2.34、4.69、9.38、18.8、37.5、75、又は150μMとし、かつペプチド添加後の培養時間を20時間とした以外は、参考例1と同様にして、各ペプチドの細胞殺傷活性を評価した。各ペプチドのA431-CNGB3-myc細胞に対する細胞殺傷活性の評価において、各反応溶液の発光強度(RLU)の測定結果を図2に示す。図中、「1」~「16」は、それぞれ、表2のペプチド1~16を添加した反応溶液の結果を示す。いずれも、ペプチド添加から20時間後には濃度依存的に細胞殺傷活性作用を示した。KLAK配列のペプチドの下流にHLAH配列のペプチドが連結されたペプチド1~8のほうが、HLAH配列のペプチドの下流にKLAK配列のペプチドが連結されたペプチド9~16よりも強い細胞殺傷活性作用を示した。さらに、ペプチド1~8の中では最短であるペプチド8は、最長であるペプチド1よりも細胞殺傷活性が強く、ペプチド9~16の中では最短であるペプチド16は、最長であるペプチド9よりも細胞殺傷活性が強かった。
[0078]
[実施例2]
 実施例1において最も強い細胞殺傷活性作用を示したペプチド8をさらに短くし、子宮内膜症細胞に対する細胞障害性の強さが最大となるように最適化した。
[0079]
 具体的には、表3に示すアミノ酸配列からなる14種類のペプチドを合成し、A431-CNGB3-myc細胞に対する細胞障害性を比較した。これらの14種類のペプチドは、KLAK配列とHLAH配列部分をD-アミノ酸から、Z13ペプチド部分をL-アミノ酸で合成した。
[0080]
[表3]


[0081]
 実施例1と同様にして、各ペプチドの細胞殺傷活性を評価した。各ペプチドのA431-CNGB3-myc細胞に対する細胞殺傷活性の評価において、ペプチド8とペプチドA1~A6で処理した反応溶液の発光強度(RLU)の測定結果を図3に、ペプチド8とペプチドB1~B7で処理した反応溶液の発光強度(RLU)の測定結果を図4に示す。図中、「#8」は表3のペプチド8を添加した反応溶液の結果を示し、「A1」~「A6」及び「B1」~「B6」は、それぞれ、表3のペプチドA1~A6、B1~B6を添加した反応溶液の結果を示す。KLAK配列が14アミノ酸からなるペプチドA1~A6のうち、HLAH配列が4アミノ酸以下のペプチドA3~6は、ペプチド終濃度が75μMでもほとんど細胞殺傷活性を示さなかった(図3)。また、HLAH配列が7アミノ酸からなるペプチドB1~B7のうち、KLAK配列が11アミノ酸以下のペプチドB3~B7は、ペプチド終濃度が75μMでもほとんど細胞殺傷活性を示さなかった(図4)。また、ペプチドA2のみが、ペプチド8よりも強い細胞殺傷活性を示した。これらの結果から、エフェクターペプチドとしては、KLAK配列が14アミノ酸からなるペプチドとHLAH配列が5アミノ酸からなるペプチドとを連結させたペプチドが、最も高い細胞殺傷活性を示すことがわかった。
[0082]
[実施例3]
 KLAKペプチドとHLAHペプチドとZ13ペプチドを連結したペプチドにおいて、構成するアミノ酸をD-アミノ酸とした場合とL-アミノ酸とした場合の細胞殺傷活性の強さを調べた。
[0083]
 具体的には、表3に記載のペプチドA2(14アミノ酸からなるKLAK配列と5アミノ酸からなるHLAH配列の両方がD-アミノ酸からなる。ペプチド(14D+5D)ともいう。)と、ペプチド8のアミノ酸のうち、14アミノ酸からなるKLAK配列がD-アミノ酸からなり、5アミノ酸からなるHLAH配列がL-アミノ酸からなるペプチド(14D+5L)、ペプチド8のアミノ酸のうち、14アミノ酸からなるKLAK配列がL-アミノ酸からなり、5アミノ酸からなるHLAH配列がD-アミノ酸からなるペプチド(14L+5D)、ペプチド8のアミノ酸の全てがL-アミノ酸からなるペプチド(14L+5L)の細胞殺傷活性の強さを、実施例1と同様にして調べた。なお、これらのペプチドのZ13ペプチド部分はいずれもL-アミノ酸のみからなる。
[0084]
 各ペプチドのA431-CNGB3-myc細胞に対する細胞殺傷活性の評価において、各ペプチドで処理した反応溶液の発光強度(RLU)の測定結果を図5に示す。エスケープペプチドの全てがL-アミノ酸からなるペプチド(14L+5L)の細胞殺傷活性が最も小さく、エスケープペプチドの全てがD-アミノ酸からなるペプチドA2(ペプチド(14D+5D))の細胞殺傷活性が最も大きかった。これは、D-アミノ酸からなるペプチドのほうが、L-アミノ酸からなるペプチドよりもエンドソーム内や細胞質内で消化され難く、エンドソームエスケープ活性とアポトーシス誘導活性が充分に発揮されるためと推察された。
[0085]
[実施例4]
 実施例2及び3で最も細胞殺傷活性が高かったペプチドA2の細胞殺傷活性について調べた。
[0086]
<生存細胞の定量的解析>
 細胞培養用マルチディッシュに置いたカバーグラスに播いたA431-CNGB3-myc細胞に、ペプチドA2を終濃度が0(コントロール)、37.5、75、又は150μMとなるように添加して培養した。ペプチド添加から24、48又は72時間後に、カバーグラスに接着しスプレッドしている細胞(生存細胞)数をカウントした。一視野当たりの生存細胞数(Cells/view)の測定結果を図6に示す。この結果、A431-CNGB3-myc細胞の生存細胞数は、添加したペプチドA2の濃度依存的かつ経時的に減少することが判明した。
[0087]
<アポトーシス誘導活性の解析>
 細胞培養用マルチディッシュに置いたカバーグラスに播いたA431-CNGB3-myc細胞に、ペプチドA2を終濃度が0(コントロール)、37.5、75、又は150μMとなるように添加して培養した。ペプチド添加から24、48又は72時間後に、ApopTag(登録商標) Fluorescein In Situ Apoptosis Detection Kitを用いてアポトーシスを検出した。図7に、ペプチド添加から48時間経過後の細胞に対してApop-Tag assayを行った結果を示す。図中、「Hoechst」は、Hoechst 33342 solutionによる核染色の結果を示す。この結果、添加したペプチドA2の濃度依存的に、Apop-Tag染色された細胞数が多くなっており、ペプチドA2によりアポトーシスが誘導されたことが確認された。
[0088]
[実施例5]
 子宮内膜症モデルマウスに、実施例2及び3で最も細胞殺傷活性が高かったペプチドA2を投与し、子宮内膜症に対する治療効果を調べた。
[0089]
<ペプチドの腹腔内への単回投与>
 A431-CNGB3-myc細胞を腹腔内に移植してから7日後の子宮内膜症モデルマウスに対して、イソフルラン麻酔下で、腹腔内に、37℃に温めた生理的食塩液0.5mLを入れてマッサージした直後に、ペプチドA2を生理食塩水に溶解させた溶液を腹腔内投与した。ペプチドA2は、マウスの体重当たりの投与量が0mg/10mL/kg(対照)、5mg/10mL/kg、又は10mg/10mL/kgとなるように投与した(n=3)。
[0090]
<ペプチドの腹腔内への複数回投与>
 A431-CNGB3-myc細胞を腹腔内に移植してから7日後の子宮内膜症モデルマウスに対して、イソフルラン麻酔下で、腹腔内に、37℃に温めた生理的食塩液0.5mLを入れてマッサージした直後に、ペプチドA2を生理食塩水に溶解させた溶液を腹腔内投与した(1回目投与)。その後、A431-CNGB3-myc細胞を腹腔内に移植してから8日後と9日後に、同様にしてペプチドA2溶液を投与した。つまり、ペプチドA2溶液を1日1回、合計3回投与した。ペプチドA2は、マウスの体重当たりの投与量が0mg/10mL/kg(対照)、2.5mg/10mL/kg、5.0mg/10mL/kg、又は7.5mg/10mL/kgとなるように投与した(n=3)。
[0091]
<腹膜の採取(採材)>
 ペプチドA2を投与した子宮内膜症モデルマウスは、最終投与から24時間後又は48時間後に、イソフルラン麻酔下で放血死させ、腹膜を採取した。ATP測定用腹膜は、液体窒素で凍結後、測定までディープフリーザで保管した。病理標本作製用腹膜は、10%中性緩衝ホルマリンに浸漬して固定した後、冷蔵で保管した。
[0092]
 なお、各マウスは放血死させる前に体重を測定した。ペプチドA2の投与量や投与回数にかかわらず、各マウスの体重に特に変化はなかった。
[0093]
<ATP量測定>
 ATP量測定は、CellTiter-Glo(登録商標)アッセイキット(プロメガ社製)を用いて行った。凍結した腹膜の重量を測定し、凍結組織の10倍量のCellTiter-Glo bufferを加えてホモジナイズした後、遠心により上清を回収し、これをライセートとした。このライセートに2倍量のPBS及びライセートと同量の2×CellTiterGlo Reagentを加えて撹拌したものを反応溶液とし、この反応溶液を10分間室温で静置した。室温静置後の反応溶液の発光強度(RLU)を、Synergy H1 ハイブリッドマルチモードマイクロプレートリーダー(BioTek社製)を用いて測定した。反応溶液の発光強度はATP量の指標であり、発光強度が小さいほど、ATP量が少なく、投与されたペプチドの細胞殺傷活性が強いことを示す。全ての試行はtriplicate(n=3)で測定し、その平均を各ペプチドの細胞殺傷活性として評価した。
[0094]
 ペプチドA2を単回投与した子宮内膜症モデルマウスの腹膜の発光強度(RLU)の測定結果を図8に示す。また、ペプチドA2を3回繰り返し投与した子宮内膜症モデルマウスの腹膜の発光強度(RLU)の測定結果を図9に示す。図8及び図9に示す通り、単回投与と複数回投与のいずれのマウスにおいても、投与したペプチドA2の量依存的に腹膜の発光強度(RLU)が低下しており、腹膜のATP量が低下したことが確認された。腹膜のATP量の低下は、腹膜に移植されたA431-CNGB3-myc細胞の生存細胞数の減少を意味する。これらの結果から、ペプチドA2により、腹腔内のA431-CNGB3-myc細胞が殺傷されること、すなわち、ペプチドA2は、生体内環境において細胞殺傷効果を発揮することができ、特に子宮内膜症に対する治療薬として有用であること、がいえる。
[0095]
<TUNEL染色>
 10%中性緩衝ホルマリンで固定した病理標本作製用腹膜に対して、HE染色及びTUNEL染色を行った。この結果、ペプチドA2投与群では、TUNEL法(TdT-mediated dUTP nick end labeling)陽性であり(図示せず。)、ペプチドA2はアポトーシスを誘導し、細胞殺傷効果を示すことが確認された。
[0096]
[実施例6]
 A431-CNGB3-myc細胞及び各種の子宮癌細胞に由来する細胞株に対する、ペプチドA2(ペプチド(14D+5D))の細胞殺傷活性作用を調べた。
 癌細胞由来細胞株としては、ヒト子宮内膜腺癌由来のishikawa細胞、ヒト子宮内膜癌由来のSNG-II細胞、ヒト子宮体癌由来のHec-1A細胞、ヒト子宮内膜癌由来のRL95-2細胞を用いた。これらの細胞はA431-CNGB3-myc細胞と同様にして培養した。
[0097]
 各細胞を処理するペプチドとしては、表4に示すアミノ酸配列からなる3種類のペプチドを用いた。これらの3種類のペプチドは、KLAK配列とHLAH配列部分をD-アミノ酸から、Z13ペプチド部分をL-アミノ酸で合成した。
[0098]
[表4]


[0099]
 96ウェルプレートに播いた各細胞に添加する各ペプチドの終濃度を、0(ペプチド無添加)、2.34、4.69、9.38、18.8、37.5、75.0、150.0、又は300.0μMとした以外は実施例1と同様にして、各ペプチドの細胞殺傷活性を評価した。ペプチド無添加の反応溶液の発光強度(RLU)を100%とした場合の各反応溶液の相対発光強度(%)を相対ATP量(%)として算出した。算出結果を図10~14に示す。図中、「14D-Z13+5D-Z13」は、ペプチドA2-1とペプチドA2-2の両方を添加した反応溶液の相対ATP量を、「14D-Z13」は、ペプチドA2-1のみを添加した反応溶液の相対ATP量を、「5D-Z13」は、ペプチドA2-2のみを添加した反応溶液の相対ATP量を、「14D-5D-Z13」は、ペプチドA2のみを添加した反応溶液の相対ATP量(%)を、それぞれ示す。図10~14に示すように、ペプチドA2はA431-CNGB3-myc細胞のみならず、子宮癌細胞に由来する様々な細胞株に対しても細胞殺傷活性作用を有していることが確認された。また、KLAKペプチドとZ13ペプチドの連結ペプチドとHLAHペプチドとZ13ペプチドの連結ペプチドの両方で処理した細胞では、KLAKペプチドとZ13ペプチドの連結ペプチドのみで処理した細胞及びHLAHペプチドとZ13ペプチドの連結ペプチドのみで処理した細胞と同様に細胞殺傷活性作用はほとんど観察されないか、非常に弱かった。
[0100]
[実施例7]
 A431細胞はヒト上皮様細胞癌由来の細胞株であることから、A431-CNGB3-myc細胞が腹腔に移植された子宮内膜症モデルマウスは、担癌マウスでもある。そこで、子宮内膜症モデルマウスの腹腔に、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるエフェクターペプチドとIF7ペプチドを連結したペプチド(IFLLWQR-RR-KLAKLAK-KLAKLAK-HLAHL、配列番号40)(以下、「IF7(RR)-(K+H)ペプチド」ということがある。)を投与し、癌細胞に対する細胞殺傷活性作用を調べた。IF7(RR)-(K+H)ペプチドは、KLAK配列とHLAH配列部分をD-アミノ酸から、その他のペプチド部分をL-アミノ酸で合成した。
[0101]
<ペプチドの経尾静脈投与>
 A431-CNGB3-myc細胞を腹腔内に移植してから14日後の子宮内膜症モデルマウスに対して、1日1回、6日間連続して、IF7(RR)-(K+H)ペプチドを生理食塩水に溶解させた溶液50μLを尾静脈から投与した。IF7(RR)-(K+H)ペプチドは、マウスの体重当たりの投与量が0μg/body(対照)、10μg/body、又は50μg/bodyとなるように投与した。
[0102]
 この結果、ペプチドを投与していない対照群(n=8)では、A431-CNGB3-myc細胞を腹腔内に移植してから24日後までにおける死亡個体数は1であり、生存率は88.9%であった。これに対して、IF7(RR)-(K+H)ペプチドを10μg/body/day又は50μg/bodyとなるように投与した群(n=6)では、生存率は100%であった。また、試験終了時点において全てのマウスの腹腔の癌細胞(A431-CNGB3-myc細胞)の広がりを調べたところ、対照群では癌細胞は腹膜全体に広がっていたが、IF7(RR)-(K+H)ペプチドを投与した群では、多くのマウスにおいて、癌細胞の広がりは比較的限局的であった。なお、各マウスの体重は、IF7(RR)-(K+H)ペプチドの投与量や投与回数にかかわらず、特に変化はなかった。これらの結果から、経静脈投与されたIF7(RR)-(K+H)ペプチドは、癌細胞に対する細胞殺傷活性作用を有し、抗癌剤として有用であることがわかった。
[0103]
[実施例8]
 背中に腫瘤を形成させた担癌マウスに対して、実施例7で用いたIF7(RR)-(K+H)ペプチドを経静脈投与し、癌細胞に対する細胞殺傷活性作用を調べた。
[0104]
<ルシフェラーゼ遺伝子導入卵巣がん担癌皮下腫瘍マウス(OVCAR3-Lucマウス)>
 マウスに移植する腫瘍組織は、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した卵巣がん細胞株(OVCAR3-Luc細胞、他施設より移譲)を培養したものを用いた。OVCAR3-Luc 細胞の培養は、RPMI medium 1640(11875-093、gibe by life technologies)を培養培地として、37℃、5容量%二酸化炭素環境下で行った。
[0105]
 8週齢メスのSCIDマウス(C.B-17/Icr-scid/scid Jcl系統、日本クレア社より供給)の背部に、OVCAR3-Luc 細胞約1×10 個を移植して、OVCAR3-Lucマウスを作製した。
[0106]
<ペプチドの経尾静脈投与>
 実施例7と同様にして、OVCAR3-Lucマウスに、1日1回、6日間連続して、IF7(RR)-(K+H)ペプチドを生理食塩水に溶解させた溶液50μLを尾静脈から投与した。IF7(RR)-(K+H)ペプチドは、マウスの体重当たりの投与量が0μg/body(対照)又は10μg/bodyとなるように投与した。
[0107]
<腫瘍組織の大きさの測定> 
 各マウスに対して発光イメージング検査を行い、背中の腫瘤のphoton数と腫瘍組織の大きさを経時的に測定した。
[0108]
(1)Photon数の測定
 ルシフェリン-ルシフェラーゼ発光機構を利用し、in vivo発光イメージング装置(Xenogen IVIS-200、Caliper Corporation製)を用いて測定した。まず、OVCAR3-Lucマウスの腹腔内に、30mg/mLのD-ルシフェリンカリウム(126-05116、和光純薬工業社製)溶液100μLを投与した。投与から15分後に、当該マウスをin vivo発光イメージング装置で測定し、Photon数を計測した。
[0109]
(2)腫瘍体積の測定
 各OVCAR3-Lucマウスの背部の推定腫瘍体積(mm )は、腫瘍の長径と短径から、下記式により求めた。なお、腫瘍の長径(mm)と短径(mm)は、ノギスを用いて測定した。
[0110]
[推定腫瘍体積(mm 3)]=[長径(mm)]×[短径(mm)]×[短径(mm)]×1/2
[0111]
 図15に、各マウスの背中の腫瘤のphoton数の増大率(%)の経時的変化を示し、図16に、各マウスの背中の腫瘍体積(mm )の増大率(%)の経時的変化を示す。photon数の増大率及び腫瘍体積の増大率はいずれも、ペプチド溶液を投与開始日の前日の値を基準(100%)とした。図中、「treatment」は、ペプチド溶液を経静脈投与した処理期間を示す。図15に示すように、IF7(RR)-(K+H)ペプチドを投与したマウスでは、ペプチド処理期間には、photon数がほとんど増大せず、また、ペプチド処理期間後の増大率も、対照群(Saline)よりも小さかった。また、腫瘍体積は、ペプチド処理期間には、対照群とIF7(RR)-(K+H)ペプチド投与群に差はないが、当該処理期間経過後の増大率は、IF7(RR)-(K+H)ペプチド投与群のほうが明らかに小さかった。これらの結果から、IF7(RR)-(K+H)ペプチドの投与により、生体内の腫瘍組織を殺傷することができ、当該ペプチドは抗癌剤として有用であるといえる。
[0112]
[参考例2]
 各種臓器の癌組織のパラフィン包埋切片を、抗CNGB3抗体で免疫染色し、CNGB3の発現の有無を調べた。
 組織切片は、市販されているヒトの卵巣癌組織アレイ(Ovary cancer tissue array)(US Biomax社製)4種のうちの2種類(OV20811及びOV2088)と、各種臓器の癌組織アレイ(Multiple organ tumor tissue array)のうちの2種類(FDA800a及びMC964a)を用いた。また、抗CNGB3抗体は、市販されている抗体のうち、Biorbyt(Catalog No.orb156415BRT 100UG)(以下、「抗体orb」ということがある。)及びOsenses(Code; OSC00253W)(以下、「抗体253W」ということがある。)の2種類を用いた。
[0113]
 組織切片の免疫染色は以下の通りにして行った。まず、パラフィン包埋組織切片を、液状免疫実験用ブロッキング剤(イムノブロック、DSファーマバイオメディカル社製)で30分間反応させて非特異的反応をブロッキングした後、TBST(Tween 20含有トリス緩衝生理食塩水)による5分間の洗浄処理を2回行った。次いで、当該組織切片を、0.3%の過酸化水素水に浸漬させて5分間反応させ、内在性ペルオキシダーゼ活性のブロッキング処理を行った後、TBSTによる5分間の洗浄処理を2回行った。続いて、当該組織切片を、抗CNGB3抗体をREAL Antibody Diluent(Code S2022、Dako社製)で100倍に希釈した一次抗体溶液に浸漬させて室温で30分間反応させた後、TBSTによる5分間の洗浄処理を2回行った。さらに、当該組織切片を、標識二次抗体(EnVision+System-HRP 標識 Polymer 抗ウサギ抗体、Dako社製)と室温で30分間反応させた後、TBSTによる5分間の洗浄処理を2回行った。その後、当該組織切片を、DAB発色試薬[DAB + Liquid (ラージサイズ)、RUO(K3468)、Dako社製]で5分間処理して発色させた。DAB発色後の組織切片は、水洗した後、マイヤーヘマトキシリンで2分間処理して核を染色した後、封入した。
[0114]
 ヒトの卵巣癌組織アレイのうちのOV20811の染色結果を表5~10に、OV2088の染色結果を表11~16に、それぞれ示す。各種臓器の癌組織アレイのうちのFDA800aの染色結果を表17、18に、MC964aの染色結果を表19~21に、それぞれ示す。表中、各抗CNGB3抗体の欄が「+」は当該抗体で免疫染色された結果を、「-」は当該抗体で免疫染色されなかった結果を、それぞれ意味する。大部分の組織切片が抗CNGB3抗体による免疫染色されており、CNGB3が発現していることがわかった。
[0115]
[表5]


[0116]
[表6]


[0117]
[表7]


[0118]
[表8]


[0119]
[表9]


[0120]
[表10]


[0121]
[表11]


[0122]
[表12]


[0123]
[表13]


[0124]
[表14]


[0125]
[表15]


[0126]
[表16]


[0127]
[表17]


[0128]
[表18]


[0129]
[表19]


[0130]
[表20]


[0131]
[表21]


[0132]
[実施例9]
 血液から分離されたエクソソーム中のCNGB3量を測定し、CNGB3高発現疾患患者とCNGB3高発現疾患の非発症者を識別できるかを調べた。なお、以降の実験は、浜松医科大学制度審査委員会の承認を受けて行われた。
[0133]
<血清サンプル>
 健常者(腫瘤を持たず、何等かの疾患への罹患が確認されておらず、健康と予想されるヒト)2名、及び浜松医科大学大学病院の患者(卵巣癌患者3名、子宮体癌患者3名、乳癌患者3名、子宮頸癌患者1名、大腸癌患者2名、子宮内膜症患者3名、及び子宮腺筋症患者1名)から採取された血液を遠心分離し、得られた血清アリコートを-80℃で保存した。子宮腺筋症患者は、子宮内膜症と子宮筋腫の両方を発症している患者である。
[0134]
<エクソソーム分離>
 エクソソームは、Exosome Isolation Kit(富士フィルム・和光純薬社製)を用い、製造者の使用説明書に従って血清から単離した。具体的には、まず、血清を1,000×g、4℃で20分間遠心分離し、上清を回収した。回収した上清を、10,000×g、4℃で30分間遠心分離し、上清を新しいチューブに移した。次いで、この上清1.0mLを、エクソソーム捕捉ビーズと4℃で180分間、ローテーターで混合した。その後、当該補足ビーズを洗浄した後、100μLの溶出バッファーでエクソソームを溶出し、-20℃で保存した。
[0135]
<ペプチド合成>
 Z13ペプチド(VRRADNRPG:配列番号3)にビオチンを結合させたビオチン化Z13ペプチド(L-アミノ酸からなるペプチド)は、GenScript社により合成されたものを用いた。
[0136]
<アビジンブロッティング>
 800μLの血清から単離されたエクソソームを濃縮Laemmli緩衝液と混合して測定サンプルを調製した。当該測定サンプルを、SDS-PAGEにより分離し、次いでPVDF膜に移した。PVDF膜を室温で60分間、5%BSA含有TBST(0.1v/v% Tween-20)中でブロッキングした。ブロッキング後のPVDF膜は、洗浄後、1.0μg/mLのビオチン化Z13ペプチド含有TBST中、4℃で一晩インキュベートした。その後、当該膜をTBSTで洗浄し、続いて、0.1μg/mL HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)結合アビジン(Thermo Fisher Scientific社製)含有TBST中、室温で60分間インキュベートした。当該膜上のCNGB3は、CCDカメラシステム(ATTO社製)及びECL prime(GE Healthcare社製)を用いて検出した。デンシトメトリー分析は、画像解析ソフトウェア「CS Analyzer 4」(ATTO社製)を用いて行った。
[0137]
<統計分析>
 全ての分析は、医学統計ソフトウェア「GraphPad Prism 6」(GraphPad Software社製)を用いて行った。
[0138]
 各測定サンプルのアビジンブロッティングの結果に得られたCNGB3のバンドのシグナル強度及びその相対値(健常者1のシグナル強度を1とした相対値)を表22に示す。ただし、乳癌患者1及び2は、少量の血清しか確保できなかったため、100μLの血清より単離したエクソソームを用い、乳癌患者3は、37.5μLの血清から単離したエクソソームを用いた。そのため、乳癌患者サンプルのシグナル強度は、血清使用量の逆数を乗じることで補正を行った。
[0139]
[表22]


[0140]
 この結果、全てのサンプルにおいて、CNGB3のバンドが検出され、これらのエクソソームにはCNGB3が含まれていることが確認された。癌患者、子宮内膜症患者、及び子宮腺筋症患者から分離されたエクソソームのCNGB3量は、健常者から分離されたエクソソームの2倍以上であった。これらの結果から、腫瘍患者、子宮内膜症患者、及び子宮腺筋症患者のような、疾患の原因細胞でCNGB3が高発現している患者の血清から分離されたエクソソームには、健常者の血清から分離されたエクソソームよりも有意に多くのCNGB3が含まれており、よって、適切な基準値(カットオフ値)を設定することにより、エクソソーム中のCNGB3の量に基づいてCNGB3高発現疾患の発症の可能性が評価できることが確認できた。
[0141]
 また、健常者のエクソソームにも非常に少量ではあるがCNGB3が存在していることが確認された。これは、CNGB3結合性ペプチドのようなCNGB3との結合性の高い分子を用いたことにより、血清中のエクソソームのCNGB3を非常に高感度に検出できたためと推察された。健常者の体内にある極めて微量の癌細胞から放出されたCNGB3を含むエクソソームが検出できたことから、CNGB3結合性ペプチドを利用することにより、血清中のエクソソームを検体とした場合でも、進行癌が検出できるだけではなく、非常に早期の癌の検出も可能であることが期待できた。

請求の範囲

[請求項1]
 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドと、標的分子と選択的に結合する部位とを有する、細胞殺傷剤。
[請求項2]
 前記標的分子が、細胞又は組織表面に存在する分子である、請求項1に記載の細胞殺傷剤。
[請求項3]
 前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドが、
 全てL-アミノ酸からなるペプチド、
 前記配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、1~14番目のアミノ酸までがD-アミノ酸からなり、15~19番目のアミノ酸までがL-アミノ酸からなるペプチド、
 前記配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、1~14番目のアミノ酸までがL-アミノ酸からなり、15~19番目のアミノ酸までがD-アミノ酸からなるペプチド、又は
 全てD-アミノ酸からなるペプチド
である、請求項1又は2に記載の細胞殺傷剤。
[請求項4]
 前記標的分子と選択的に結合する部位がペプチド又はタンパク質であり、前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドと前記標的分子と選択的に結合する部位とが直接的又は間接的に連結されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞殺傷剤。
[請求項5]
 前記標的分子が、CNGB3(cyclic nucleotide-gated channel beta 3)又はアネキシンIである、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞殺傷剤。
[請求項6]
 前記標的分子と選択的に結合する部位が、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
 前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの下流に、前記標的分子と選択的に結合する部位が直接的又は間接的に連結されている、請求項1に記載の細胞殺傷剤。
[請求項7]
 前記標的分子と選択的に結合する部位が、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
 前記標的分子と選択的に結合する部位の下流に、前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドが直接的又は間接的に連結されている、請求項1に記載の細胞殺傷剤。
[請求項8]
 細胞の異常増殖に起因する疾患の治療剤である、請求項1~7のいずれか一項に記載の細胞殺傷剤。
[請求項9]
 前記疾患が、子宮内膜症又は癌である、請求項8に記載の細胞殺傷剤。
[請求項10]
 CNGB3をコードする遺伝子を導入したCNGB3過剰発現細胞が、腹腔内に移植されている、子宮内膜症モデル動物。
[請求項11]
 発症の原因となる細胞がCNGB3を発現している疾患の発症可能性を評価する方法であって、
 被検動物から採取されたエクソソーム中のCNGB3を測定し、
 得られた測定値を、予め設定された基準値と比較して、前記被検動物が前記疾患を発症している可能性を評価する、疾患発症可能性の評価方法。
[請求項12]
 前記測定値が、前記基準値超である場合に、前記被検動物は前記疾患を発症している可能性が高いと評価する、請求項11に記載の疾患発症可能性の評価方法。
[請求項13]
 前記エクソソームが前記被検動物から採取された血液から分離されたものである、請求項11又は12に記載の疾患発症可能性の評価方法。
[請求項14]
 CNGB3の測定を、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを用いて行う、請求項11~13のいずれか一項に記載の疾患発症可能性の評価方法。
[請求項15]
 前記被検動物がヒトである、請求項11~14のいずれか一項に記載の疾患発症可能性の評価方法。
[請求項16]
 前記疾患が、子宮内膜症又は癌である、請求項11~15のいずれか一項に記載の疾患発症可能性の評価方法。
[請求項17]
 エクソソーム中のCNGB3の量からなり、
 子宮内膜症又は癌の発症の有無を評価するために用いられる、バイオマーカー。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]

[ 図 6]

[ 図 7]

[ 図 8]

[ 図 9]

[ 図 10]

[ 図 11]

[ 図 12]

[ 図 13]

[ 図 14]

[ 図 15]

[ 図 16]