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1. (WO2019039298) アーチファクトレスな超弾性合金
Document

明 細 書

発明の名称 アーチファクトレスな超弾性合金

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004  

先行技術文献

特許文献

0005  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0006   0007   0008   0009  

課題を解決するための手段

0010   0011   0012   0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027  

発明の効果

0028   0029  

発明を実施するための形態

0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042  

産業上の利用可能性

0043  

請求の範囲

1   2   3   4  

明 細 書

発明の名称 : アーチファクトレスな超弾性合金

技術分野

[0001]
 本発明は、医療用材料として好適な超弾性合金に関する。詳しくは、Niフリーであり、常温域における超弾性の発現可能性を有すると共に、磁場環境内でのアーチファクトが生じ難い超弾性合金に関する。

背景技術

[0002]
 カテーテル、ステント、塞栓コイル等の医療用器具が適用される医療分野に対して、超弾性合金の応用が期待されている。超弾性合金とは、変態温度以上の環境下において、極めて広い弾性範囲を有する金属材料であり、大変形を受けても元の形状に回復する性質を有する。そして、常温域近傍に変態温度を有する超弾性合金は、人体の体温でも超弾性を発現可能であるので医療用器具への応用が可能とされている。
[0003]
 その特性上の観点から、これまでで最も知られている超弾性合金はNi-Ti系形状記憶合金を基礎とする合金である。しかし、Ni-Ti系合金は、金属アレルギーの要因となるNiを含有することから、生体適合性という医療分野で最重要視されるべき特性に欠ける材料である。
[0004]
 そこで、Niフリーとしつつ超弾性を発現可能な合金材料の開発が行われている。本願出願人も、Au-Ti系形状記憶合金に対して、Coの添加、及び、Mo又はNbを添加してなる超弾性合金(特許文献1)や、Au-Cu-Al系形状記憶合金に対して、Fe又はCoを添加してなる超弾性合金(特許文献2)等を開示している。

先行技術文献

特許文献

[0005]
特許文献1 : 特開2014-84485号公報
特許文献2 : 特開2015-48485号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0006]
 上記した各種の超弾性合金は、Niを排除しつつも超弾性を発現し得るものである。特に、上記の合金はAuを構成元素とするが、Auは生体適合性にも優れているというメリットがある。また、Auという重い金属を含むことから、上記の超弾性合金はレントゲン造影性も良好であるため医療用器具に好適である。
[0007]
 しかしながら、医療現場における治療・診断方法の進展に鑑みると、上記の超弾性合金は、医療用材料として重要視されつつある新規な要求特性までも具備しているとはいい難い。この新規な要求特性とは、磁気特性である。
[0008]
 近年の医療現場においては、磁気共鳴画像診断処理装置(MRI)を用いた治療、手術が広く行われるようになっており、磁場環境内における医療器具の構成材料への影響が懸念されるようになっている。その影響によって生じる問題として、MRIのアーチファクト(偽像)が挙げられる。アーチファクトとは、磁場中で金属が磁化しその周辺領域におけるMRI像にゆがみを生じさせる現象である。アーチファクトが発生した場合、正確な手術・診断の妨げとなる。そして、上記した医療用とされる超弾性合金は、アーチファクトを抑制することができないと思われる。
[0009]
 本発明は、上記背景のもとになされたものであり、Niフリーとしつつも常温域での超弾性を発現し得ることことに加え、磁場環境内でのアーチファクトが生じ難い超弾性合金を開示する。そして、医療分野での使用に対して、従来以上に適合性を有する合金材料を提供する。

課題を解決するための手段

[0010]
 上記課題は、超弾性発現とアーチファクトレスとの両立を図ることであるが、それらの現象は原理的に相違する現象であるので、必ずしも容易なことではない。
[0011]
 超弾性に関しては、その原理は、形状記憶合金のマルテンサイト変態による相転移現象を基礎とするものであり、合金の結晶構造に関連する。そして、超弾性は、合金の結晶構造を考慮しつつ、変態温度を常温域にまで意識的に低下することができるような構成元素の採用によって図られている。
[0012]
 一方、アーチファクトは、金属の磁場中での磁化に起因する現象であることから、当該金属の磁化率(体積磁化率)と関連がある。但し、アーチファクトの問題に関しては、単に磁化率を低くすれば良いというわけではなく、一定の基準が設定される。本発明者等によれば、その基準とは、当該金属の磁化率が生体組織の磁化率に近似することである。生体組織の磁化率は、その主要構成成分である水に起因する。そして、水の磁化率は-9ppm(-9×10 -6)であり、わずかに反磁性を示す。アーチファクトレスの材料とは、その磁化率が水の磁化率に近似しているものとすべきである。ここで、本発明者等は、磁化率の基準として、水の磁化率(-9ppm)に対して±15ppm(-24ppm以上6ppm以下)とした。
[0013]
 本発明者等は、上記事項を考慮しつつ、超弾性発現とアーチファクトレスとの双方を達成できる合金系として、Au-Cu-Al合金に着目した。上記の特許文献2で言及しているように、Au-Cu-Al合金は、形状記憶合金として知られている材料であるので、超弾性発現の可能性が高い合金である。そして、Niを含まないことから生体適合性の問題を解消することができる。
[0014]
 Au-Cu-Al合金は、Auを含むことによる利点も有する。上記のとおり、Auは、生体適合性を有すると共にレントゲン造影性もあるので医療用材料として好適である。そして、Auは、本発明の課題であるアーチファクトの抑制に対して重要な利点がある。即ち、Auは、磁化率が-34ppmの反磁性金属である。上記の通り、アーチファクトレスな材料の基準としては、水の磁化率に近い範囲(-9ppm±15ppm)とすることが好適である。Auは、この基準に近い金属であり、本発明の課題解決の起点というべき金属である。
[0015]
 ここで、合金材料の磁化率は、合金化する金属の磁気的性質と組成に応じて調整することができる。上記のとおり、Auの磁化率は-34ppmであり、本発明における基準値(-9ppm±15ppm)に対して、わずかにプラス側にシフトさせることで近づけることができる。この点、本発明のAu-Cu-Al合金において、Alは常磁性金属(磁化率:16ppm)であり、その磁化率は僅かながらプラス側を示すことから、Auに合金化することで合金の磁化率の調整に寄与する。一方、Cuは反磁性金属(磁化率:-9ppm)であるので、Alと比較すると合金の磁化率に対する影響がマイルドである。本発明者等によれば、AuにAl、Cuを適切に合金化することで、上記した基準範囲内の磁化率の合金を形成できる可能性がある。
[0016]
 本発明者等は、以上のような考察を背景として鋭意検討を行い、Au-Cu-Al合金について、適切な組成範囲を有し、常温域での超弾性発現を可能とする変態温度を有すると共に、アーチファクトレスと称することのできる磁化率を示す合金材料を見出し、本発明に想到した。
[0017]
 即ち、本発明は、Au-Cu-Al合金からなる超弾性合金であって、20原子%以上40原子%以下のCuと、15原子%以上25原子%以下のAlと、残部Auとからなり、更に、体積磁化率が-24ppm以上6ppm以下である超弾性合金である。
[0018]
 以下、本発明についてより詳細に説明する。本発明に係るAu-Cu-Al合金からなるアーチファクトレスな超弾性合金は、Auを主要な構成元素としつつ、Cu、Alを好適範囲で添加した合金である。以下、この合金の構成金属について説明する。尚、以下において合金組成を示す「%」とは「原子%」の意義である。また、合金の「磁化率」とは、体積磁化率の意義である。
[0019]
 本発明に係るAu-Cu-Al合金において、Cuの添加量は、20%以上40%以下とする。Cuは、主に、合金の超弾性発現に関与する金属である。Cuが20%未満では超弾性が発現しない。そして、40%を超えると、変態温度が高くなり、常温では形状記憶効果を発現するに止まり超弾性は発現しない。また、磁化率が6ppmを超える可能性も生じる。Cuについては、25%以上35%以下とするのがより好ましい。
[0020]
 そして、Alの添加量は、15%以上25%以下とする。本発明においては、Alも重要な構成金属であり、超弾性発現に関与するとともに、磁化率の調整作用が比較的大きい。また、Alは合金の加工性にも影響を及ぼす。Alが15%未満となると、常温での超弾性が発現し難くなり、磁化率の調整作用にも劣る。そして、Alが25%を超えると、変態温度が過度に低くなると共に、加工性が悪化する。Alについては、18%以上25%以下とするのがより好ましい。
[0021]
 以上のCu、Al添加量を基準として残部をAuとする。Au濃度については、40%以上57%以下とするのがより好ましい。
[0022]
 本発明に係る超弾性合金は、基本的に溶解鋳造法にて製造することができる。各金属の原材料を溶解して溶湯を生成し、これを鋳造することでAu-Cu-Al合金のインゴットを製造する工程が基本となる。
[0023]
 但し、本発明では、超弾性特性と磁化特性の双方に対する要求を同時に達成する必要がある。これらの特性を同時に好適なものとするためには、合金材料の組織的な均質性を高める必要がある。ここで、本発明に係る超弾性合金の製造方法は、均質性確保のため、溶解鋳造工程における溶湯を高い冷却速度で鋳造することと、溶解鋳造後のAu-Cu-Al合金のインゴットをホットプレスする工程を付加している。即ち、本発明に係る超弾性合金の製造方法は、上記した組成のAu-Cu-Al合金を溶解鋳造する工程を含み、溶解鋳造工程で、溶湯の凝固時間を6.0sec以下としてAu-Cu-Al合金を製造し、更に、前記溶解鋳造工程後のAu-Cu-Al合金を、550℃以上650℃以下の温度でホットプレスするホットプレス工程を含むものである。
[0024]
 本発明の合金製造方法では、溶解鋳造法工程で溶湯を合金インゴットとするときの冷却速度を制御する。これは、冷却速度を高くすることで、偏析の発生を抑制し鋳造過程での材料組織の均質化を図るためである。この冷却速度に関する具体的な条件として、溶湯の凝固時間を6.0sec以下としている。凝固時間が6.0secを超えるような遅い冷却では、偏析を含む凝固組織が形成される可能性がある。この凝固時間は、鋳型の材質と鋳造品となる合金の組成と鋳造品の表面積及び体積との関係により設定することができる。本発明において、凝固時間を6.0sec以下としてAu-Cu-Al合金を製造するための具体的方法としては、水冷銅鋳型を採用することが挙げられる。尚、この凝固時間の下限としては、装置上の制約等から0.3sec以上とするのが好ましい。また、溶解鋳造法工程は、非酸化性雰囲気(真空雰囲気、不活性ガス雰囲気等)で行うことが好ましい。
[0025]
 そして、溶解鋳造工程後の合金インゴットは、ホットプレス工程に供される。ホットプレスを行うのは、材料組織の均質化を図るためである。溶解鋳造工程において、冷却速度を制御しても偏析が生じる可能性がある。特に、溶解鋳造工程で形成される凝固組織(樹枝状組織)においては、樹枝間に微小な偏析が生じることがある。また、凝固組織には、微小なポア(空隙)が形成されている可能性もある。本発明では、ホットプレスにより凝固組織を破壊して微細な偏析やポア等を除去し、材料組織の均質化を図ることとしている。
[0026]
 このホットプレスの条件としては、加熱温度を550℃以上650℃以下の温度とする。550℃未満では凝固組織の破壊が不十分である。また、650℃を超えると、結晶粒の粗大化による脆化が生じるおそれがある。そして、ホットプレスの加圧力は、50MPa以上150MPa以下とするのが好ましく、プレス時間は、600sec以上とするのが好ましい。
[0027]
 ホットプレス後の合金については、更に、所定温度で加熱する均質化熱熱処理を行うことが好ましい。これにより、材料組織の更なる均質化を図ることができる。この均質化熱処理は、450℃以上550℃以下の温度で合金を加熱保持するのが好ましい。熱処理時間は、3000sec以上4000sec以下とするのが好ましい。熱処理後の合金は、急冷(油冷、水冷、湯冷)することが好ましい。

発明の効果

[0028]
 以上説明したように、本発明に係る超弾性合金は、Niフリーとしつつも常温での超弾性発現可能性を有する合金である。そして、本発明に係る超弾性合金は、その体積磁化率が適切な範囲内となるように制御されており、磁場環境下においてアーチファクトレスであるという特徴も有する。また、本発明に係るAu-Cu-Al合金からなる超弾性合金は、生体適合性やレントゲン造影性も良好である。
[0029]
 上記のような多くの利点を有するため、本発明は医療用材料として、各種の医療用器具への応用が期待できる。具体的には、塞栓コイル、歯列矯正具、クラスブ、人工歯根、クリップ、ステープル、カテーテル、ステント、ボーンプレート、ガイドワイヤ等の医療用器具への応用が可能である。

発明を実施するための形態

[0030]
 以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、Cu及びAlの添加濃度を変化させたAu-Cu-Al合金を製造した後、常温域での超弾性特性の有無、体積磁化率、機械的特性、加工性の各特性の評価を行った。
[0031]
 超弾性合金の作製は、溶解原料として純度99.99%Cu、純度99.99%Al、純度99.99%Auを用いた。非消耗W電極型アルゴンアーク溶解炉を用いて、これらの原料をAr-1%H 雰囲気において溶解し、この溶湯を凝固してAu-Cu-Al合金インゴットを製造した。尚、本実施形態では、溶湯を水冷銅鋳型で鋳造しており、このときの凝固時間は、1.6secであった。
[0032]
 次に、製造した合金インゴットを、ホットプレス処理した。ホットプレスは、真空中、600℃でインゴットを100MPaで3600secプレスした。ホットプレス処理後、合金インゴットを500℃で3.6ksec加熱して均質化処理した。均質化処理後のインゴット(厚さ1~2mm)は徐冷して試験片作製に供した。
[0033]
 そして、上記の合金インゴットを放電加工で引張試験片(厚さ0.2mm、幅2mm×長さ20mm)を作製した。この試験片に加工後の合金について、最終熱処理を行った。最終熱処理は、500℃で1時間加熱後急冷した。
[0034]
 各試験片について、超弾性特性の有無、体積磁化率、機械的特性、加工性の評価を行った。各特性の評価方法は以下のとおりとした。
[0035]
超弾性特性
 DSC(示差走査熱量測定)法により、変態温度(Ms)を測定した。測定条件は、-150℃から150℃までの昇降温速度を10℃/minとした。測定された変態温度について、310K(37℃)以下のものを超弾性発現の可能性ありとして優良(◎)と判定した。一方、変態温度が310K(37℃)を超えたものは不適(×)とした。
[0036]
体積磁化率(アーチファクト)
 磁気天秤により各試験片の体積磁化率(Xvol)を測定した。測定条件は、室温とした。測定された体積磁化率について、水の磁化率(-9ppm)に対する偏差を算定し、±5ppm以下を優良(◎)とし、±15ppm以下を良(○)とし、±15ppmを超えたものを不適(×)と判定した。
[0037]
機械的特性
 各試験片について、ビッカース試験機(荷重300gf)によりビッカース硬度(HV)を測定した。評価については、300Hv以上を優良(◎)とし、200Hv以上を良(○)とし、150以上を可(△)とし、150未満を不適(×)と判定した。
[0038]
加工性
 各試験片について、圧縮試験機により圧縮ひずみ(ε)を測定した。測定条件は、室温で歪速度3.3×10 -4-1とした。評価については、εが10%以上のものを優良(◎)とし、5%以上のものを良(○)とし、5%未満のものを不適(×)と判定した。
[0039]
 以上の各特性についての測定結果及び評価結果を表1に示す。
[0040]
[表1]


[0041]
 表1から、20原子%以上40原子%以下のCuと、15原子%以上25原子%以下のAlのAu-Cu-Al合金(No.1~No.5)において、好適な変態温度(Ms)と体積磁化率(Xvol)が測定されており、超弾性の発現とアーチファクトレスの両立を図ることの可能性が確認された。これらのAu-Cu-Al合金は、機械的性質(硬度)と加工性(圧縮ひずみ)も合格であった。
[0042]
 一方、25%を超えるAlを含む合金(No.6)は、Alによる磁化率の調整作用により磁化率の値は極めて良好であったが、加工性(圧縮ひずみ)が著しく低かった。本発明は、医療用材料として各種形状の医療器具に加工されることが想定されていることから、加工性も重要な特性である。そのため、この合金は、総合的には好ましくない特性となった。また、40%を超えるCuを含む合金(No.7)は、超弾性を示すことなく、磁化率も6ppmを超えていたので、好ましい合金ではないことが確認された。

産業上の利用可能性

[0043]
 本発明に係る超弾性合金は、常温域における超弾性の発現に加えて、適切な体積磁化率を有し、MRI等の磁場環境下でアーチファクトレスとなり得る合金である。そして、Niを含まないことから、医療用材料として必須の条件である生体適合性を有すると共に、レントゲン造影性も良好である。本発明は、各種の医療器具への応用が期待できる。

請求の範囲

[請求項1]
 Au-Cu-Al合金からなる超弾性合金であって、
 20原子%以上40原子%以下のCuと、15原子%以上25原子%以下のAlと、残部Auとからなり、
 更に、体積磁化率が-24ppm以上6ppm以下であるアーチファクトレスな超弾性合金。
[請求項2]
 25原子%以上35原子%以下のCuと、18原子%以上25原子%以下のAlと、残部Auとからなる請求項1記載の超弾性合金。
[請求項3]
 請求項1又は請求項2記載の超弾性合金の製造方法であって、
 20原子%以上40原子%以下のCuと、15原子%以上25原子%以下のAlと、残部AuとからなるAu-Cu-Al合金を溶解鋳造する工程を含み、
 前記溶解鋳造工程で、溶湯の凝固時間を6.0sec以下としてAu-Cu-Al合金を製造し、
 更に、前記溶解鋳造工程後のAu-Cu-Al合金を、550℃以上650℃以下の温度でホットプレスするホットプレス工程を含む超弾性合金の製造方法。
[請求項4]
 ホットプレス工程後の合金を、450℃以上550℃以下の温度で加熱する均質化熱処理工程を含む請求項3記載の超弾性合金の製造方法。