明 細 書
発明の名称 : リチウムイオン二次電池素子およびリチウムイオン二次電池
技術分野
[0001]
本発明は、非水電解質電池、特にリチウムイオン二次電池とそれを構成するリチウムイオン二次電池素子に関する。
背景技術
[0002]
非水電解質電池は、ハイブリッド自動車や電気自動車等を含む自動車用電池として実用化されている。このような車載電源用電池としてリチウムイオン二次電池が使用されている。リチウムイオン二次電池は、出力特性、エネルギー密度、容量、寿命、高温安定性等の種々の特性を併せ持つことが要求されている。特に電池の安定性や寿命を向上させるために、電極や電解液を含む電池構成に様々な改良が図られている。
[0003]
特にハイブリッド自動車用途のリチウムイオン二次電池(HEV用電池)は、高い出力と安全性とを兼ね備えているほか、電池作動(放電)直後に高出力状態に達し、維持することが求められている。すなわち、HEV用電池は、電池作動(放電)後に電流が流れることによって高出力に達するものの、電圧が低下して出力は低下してしまうので、電圧を一定時間の間一定値以上に維持して出力を長時間維持できることが望ましい。そこで電池の高出力化を図るために電池の各部材に工夫をしていくと、次第に、リチウムイオンの拡散が律速となっていく。よって、電池の電圧維持可能な時間にはおのずと限界がある。このような限界を超えて電池の電圧を維持して出力を維持する時間を延長させることが望ましい。
[0004]
電池の発熱を防止し、安全性を高めたリチウムイオン二次電池が提案されている(特許文献1)。特開2017-33826号では、電池の発熱指数とセパレータの熱収縮率とのバランスを考慮することにより、安全性を低下させることなく電池の出力を高く維持することを提案する。
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0005]
特開2017-33826号に提案される従来技術では、主にセラミックセパレータを使用することで、HEV用電池の耐熱性を向上させていた。しかしながらセラミック層が存在する分セパレータの厚さが増加するため、負極集電体表面と正極活物質層との距離が長くなりうる。すると、電池に一定以上の電圧を維持させて電池の最大出力を維持する時間をさらに延長するには、改善の余地があった。
[0006]
本発明は、電池作動(放電)後に電流が流れることによって低下する電圧を、一定時間、一定値以上に維持することができる、高出力リチウムイオン二次電池用の素子を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0007]
本発明の実施形態におけるリチウムイオン二次電池素子は、正極活物質混合物が塗工され形成された正極活物質層を有する正極と、セパレータと、負極活物質混合物が塗工され形成された負極活物質層を有する負極とが積層されたリチウムイオン二次電池素子である。ここで、セパレータは、ポリオレフィンの一軸延伸フィルムであり、セパレータの透気度は100秒/100ミリリットル以下であり、リチウムイオン二次電池素子を含むリチウムイオン二次電池を1度充電および放電した後に、セパレータの厚さと負極の片面に形成された該負極活物質層の厚さとの和は50マイクロメートル以下であることを特徴とする。
発明の効果
[0008]
本発明のリチウムイオン二次電池素子は、セパレータの透気度と、リチウムイオンの実質的な移動距離とのバランスを考慮することにより、高出力を維持できるHEV用電池を提供することができる。
図面の簡単な説明
[0009]
[図1] 図1は、本発明の一の実施形態のリチウムイオン二次電池を表す模式断面図である。
発明を実施するための形態
[0010]
本発明の実施形態を以下に説明する。実施形態のリチウムイオン二次電池素子は、正極活物質混合物が塗工され形成された正極活物質層を有する正極と、セパレータと、負極活物質混合物が塗工され形成された負極活物質層を有する負極とが積層されたものである。実施形態において正極とは、正極活物質と、バインダと、必要な場合導電助剤との混合物(正極活物質混合物)を金属箔等の正極集電体に塗布または圧延および乾燥して正極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の矩形の電池部材である。負極とは、負極活物質と、バインダと、必要な場合導電助剤との混合物(負極活物質混合物)を負極集電体に塗布して負極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の矩形の電池部材である。セパレータとは、正極と負極とを隔離して負極・正極間のリチウムイオンの伝導性を確保するための膜状の電池部材である。正極と、負極と、セパレータとが積層されて、実施形態のリチウムイオン二次電池素子が形成されている。
[0011]
実施形態のリチウムイオン二次電池素子において、セパレータは、ポリオレフィンの一軸延伸フィルムである。ポリオレフィンとは、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、へキセンなどのα-オレフィンを重合または共重合させて得られる化合物のことであり、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセンのほか、これらの共重合体を挙げることができる。一軸延伸フィルムとは、ポリオレフィンを縦一方向に延伸することにより得たフィルムである。一軸延伸フィルムは延伸した方向の強度が高く、捩りに対する抵抗が高く、熱収縮する性質を有する。一軸延伸フィルムは、電池温度上昇時に閉塞される空孔を有する構造、すなわち多孔質あるいは微多孔質のポリオレフィンフィルムであることが好ましい。ポリオレフィンフィルムがこのような構造を有していることにより、万一電池温度が上昇しても、セパレータが閉塞して(シャットダウンして)、イオン流を寸断することができる。すなわち一軸延伸ポリオレフィンフィルムは、電池の加熱時に収縮して孔が塞がるため、正負極間の短絡を防ぐことが可能となる。シャットダウン効果を発揮するためには、多孔質のポリエチレン膜を用いることが非常に好ましい。
[0012]
実施形態のリチウムイオン二次電池素子において、セパレータの透気度は100秒/100ミリリットル以下である。透気度とは、単位面積、単位圧力あたり規定された体積の空気が透過するのに要する時間のことであり、「ガーレー透気度」あるいは「透気抵抗度」ともいう。本明細書では「透気度」と称するものとする。透気度の単位は[秒/100ミリリットル]である。すなわち、単位面積、単位圧力あたりに100ミリリットルの空気が通過するのに何秒間かかるかを表した値であり、この値が大きいほど空気が透過しにくいことを意味する。実施形態で用いるセパレータは、特定の透気度を有する、多孔質フィルムである。一般に、電池の面積あたりの放電量、すなわち、単位面積あたりのリチウムイオンの移動量が増加するに従い、電池の出力は、セパレータの透気度の影響をより大きく受けるようになる。リチウムイオンの移動量が増えると、リチウムイオンが通過しやすいセパレータであるかどうかが電池出力に大きく関わることになると云える。高出力タイプのリチウムイオン二次電池は、短時間の放電で所定の電圧を維持する必要があるが、リチウムイオンの移動がセパレータに妨げられないように適切なセパレータを選択する必要がある。好適なセパレータを選択する上で、セパレータの透気度を目安にすることができる。
[0013]
実施形態において、セパレータとして架橋されている一軸延伸フィルムを用いることができる。先記の通り、一軸延伸フィルムは、加熱時に収縮する性質を有するため、電池の過熱時にはフィルムが収縮してシャットダウンする。しかしながらフィルムの熱収縮率が大きすぎると、フィルムの面積が大きく変化してしまい、かえって大電流の流れを生じることにもなりかねない。架橋されている一軸延伸フィルムは、熱収縮率が適切であるため、過熱時にも、大きく面積を変化させることなく孔を塞ぐ分だけ収縮することができる。
[0014]
実施形態のリチウムイオン二次電池素子において、当該リチウムイオン二次電池素子を含むリチウムイオン二次電池を1度充電および放電した後に、セパレータの厚さと負極の片面に形成された該負極活物質層の厚さとの和は50マイクロメートル以下である。ここでセパレータの厚さとは、セパレータ全体の平均厚さのことである。また負極の片面に形成された負極活物質層の厚さとは、負極集電体の一の面に負極活物質混合物が塗工され、これに圧力をかけるなどして形成された負極活物質層全体の平均厚さのことである。負極活物質層を形成してなる負極をリチウムイオン二次電池に用い、当該リチウムイオン二次電池を充放電すると、負極活物質層の厚さが変化する。一般的には、充放電後の負極活物質層の厚さの方が充放電前の負極活物質層の厚さよりも大きくなっている。実施形態において、「セパレータの厚さと負極の片面に形成された該負極活物質層の厚さとの和」というとき、負極活物質層の厚さは、実施形態のリチウムイオン二次電池素子を含むリチウムイオン二次電池を1度充電および放電した後の負極活物質層の厚さのことを意味する。ここで「1度充電および放電をした後」とは、リチウムイオン二次電池の初回充放電を行いそれ以降ずっと、という意味である。つまり「1度充電および放電をした後」には、初回充放電の後のみならず2回目以降の充放電の後をも含む。実施形態のリチウムイオン二次電池素子を含むリチウムイオン二次電池が初回充放電を経た後に測定した、負極活物質層(片面)の厚さと、セパレータの厚さとの和が、50マイクロメートル以下となるように、リチウムイオン二次電池素子の製造時に調整して負極活物質層を形成することが好ましい。セパレータの厚さと負極の片面に形成された該負極活物質層の厚さとの和とは、すなわち、電池の放電時に負極からセパレータに接する側の正極表面まで移動するリチウムイオンの最長移動距離である。この距離(長さ)が50マイクロメートル以下であることが好ましいということである。一般的に使用されるセパレータの厚さと負極活物質層の実質的な厚さとを考慮すると、負極の片面に形成された該負極活物質層の厚さとの和は10マイクロメートル以上40マイクロメートル以下であることが好ましいと云える。
[0015]
続いて、リチウムイオン二次電池素子を構成する部材をさらに詳細に説明する。すべての実施形態において用いることができる正極は、正極活物質混合物が塗工され形成された正極活物質層を有する正極である。正極は、正極活物質、バインダおよび場合により導電助剤の混合物をアルミニウム箔などの金属箔からなる正極集電体に塗布または圧延し、乾燥して得た正極活物質層を有している。正極活物質層は、空孔を含む多孔質形状または微孔質形状のものであることが好ましい。各実施形態において、正極活物質層は、好ましくはリチウム・ニッケル系複合酸化物を正極活物質として含む。リチウム・ニッケル系複合酸化物とは、一般式Li
xNi
yMe
(1-y)O
2(ここでMeは、Al、Mn、Na、Fe、Co、Cr、Cu、Zn、Ca、K、Mg、およびPbからなる群より選択される、少なくとも1種以上の金属である。)で表される、リチウムとニッケルとを含有する遷移金属複合酸化物のことである。
[0016]
正極活物質層は、リチウム・マンガン系複合酸化物を正極活物質として含むことができる。リチウム・マンガン系複合酸化物は、たとえばジグザグ層状構造のマンガン酸リチウム(LiMnO
2)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)等を挙げることができる。リチウム・マンガン系複合酸化物を併用することで、より安価に正極を作製することができる。特に、過充電状態での結晶構造の安定度の点で優れるスピネル型のマンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)を用いることが好ましい。リチウム・マンガン系正極活物質を含む場合、正極活物質の重量に対して70重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがさらに好ましい。混合正極を使用する場合は、正極活物質中に含まれるリチウム・マンガン系複合酸化物の量が多すぎると、電池内に混入しうる金属異物由来の析出物と混合正極との間に部分電池が形成されやすくなり、短絡電流が流れやすくなる。
[0017]
正極活物質層は、特に、一般式Li
xNi
yCo
zMn
(1-y-z)O
2で表される層状結晶構造を有するリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を正極活物質として含むことが好ましい。ここで、一般式中のxは1≦x≦1.2であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数であり、yの値が0.5以下である。なお、マンガンの割合が大きくなると単一相の複合酸化物が合成されにくくなるため、1-y-z≦0.4とすることが望ましい。また、コバルトの割合が大きくなると高コストとなり容量も減少するため、z<y、z<1-y-zとすることが望ましい。高容量の電池を得るためには、y>1-y-z、y>zとすることが特に好ましい。この一般式を有するリチウム・ニッケル系複合酸化物は、すなわちリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(以下、「NCM」と称することがある。)である。NCMは、電池の高容量化を図るために好適に用いられるリチウム・ニッケル系複合酸化物である。たとえば、一般式Li
xNi
yCo
zMn
(1.0-y-z)O
2において、x=1、y=0.4、z=0.3の複合酸化物を「NCM433」と称し、x=1、y=0.5、z=0.2の複合酸化物を「NCM523」と称し、x=1、y=1/3、z=1/3の複合酸化物を「NCM111」と称する。
[0018]
正極活物質層に用いられるバインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。
[0019]
正極活物質層に場合により用いられる導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。その他、正極活物質層には、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
[0020]
すべての実施形態において用いることができる負極は、負極活物質混合物が塗工され形成された負極活物質層を有する負極である。負極は、負極活物質、バインダおよび場合により導電助剤の混合物を銅箔などの金属箔からなる負極集電体に塗布または圧延し、乾燥して得た負極活物質層を有している。負極活物質層は、空孔を含む多孔質形状または微孔質形状のものであることが好ましい。各実施形態において、負極活物質が、黒鉛を含む。特に負極活物質層に黒鉛が含まれると、電池の残容量(SOC)が低いときにも電池の出力を向上させることができるというメリットがある。黒鉛は、六方晶系六角板状結晶の炭素材料であり、石墨、グラファイト等と称されることがある。黒鉛は粒子の形態であることが好ましい。
[0021]
黒鉛には、天然黒鉛と人造黒鉛がある。天然黒鉛は安価に大量に入手することができ、構造が安定し耐久性に優れている。人造黒鉛とは人工的に生産された黒鉛のことであり、純度が高い(同素体などの不純物がほとんど含まれていない)ため電気抵抗が小さい。実施形態における炭素材料として、天然黒鉛、人造黒鉛とも好適に用いることができる。非晶質炭素による被覆を有する天然黒鉛、あるいは非晶質炭素による被覆を有する人造黒鉛を用いることもできる。
[0022]
非晶質炭素とは、部分的に黒鉛に類似するような構造を有していてもよい、微結晶がランダムにネットワークした構造をとった、全体として非晶質である炭素材料のことである。非晶質炭素として、カーボンブラック、コークス、活性炭、カーボンファイバー、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボン等が挙げられる。
[0023]
これらの負極活物質は場合により混合して用いてもよい。また、非晶質炭素で被覆された黒鉛を用いることもできる。黒鉛粒子と非晶質炭素粒子とをともに含む混合炭素材料を負極活物質として用いると、電池の回生性能が向上する。非晶質炭素による被覆を有する天然黒鉛粒子、または非晶質炭素による被覆を有する人造黒鉛を負極活物質の炭素材料として用いると、電解液の分解が抑制され、負極の耐久性が向上する。
[0024]
人造黒鉛を用いる場合、層間距離d値(d
002)が0.337nm以上のものであることが好ましい。人造黒鉛の結晶の構造は、一般的に天然黒鉛よりも薄い。人造黒鉛をリチウムイオン二次電池用負極活物質として用いる場合は、リチウムイオンが挿入可能な層間距離を有していることが条件となる。リチウムイオンの挿脱が可能な層間距離はd値(d
002)で見積もることができ、d値が0.337nm以上であれば問題なくリチウムイオンの挿脱が行われる。
[0025]
負極活物質層に用いられるバインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。
[0026]
負極活物質層に場合により用いられる導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。その他、負極活物質層には増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
[0027]
すべての実施形態において用いることができる正極ならびに負極は、先に説明した正極活物質あるいは負極活物質を含む電極活物質層が電極集電体に配置されたものとなっている。好ましくは、このとき各電極活物質層の厚さは片面あたり10~100μmであることが好ましく、さらに25~50μmであることが好ましい。電極活物質層の厚さが小さすぎると均一な電極活物質層の形成が難しいという不都合があり、一方電極活物質層の厚さが大きすぎると高レートでの充放電性能が低下するという不都合があり得る。負極活物質層の厚さについては、特に、リチウムイオン二次電池素子を含むリチウムイオン二次電池を1度充電および放電した後に、セパレータの厚さとの和が50マイクロメートル以下である必要があるため、10~40μmであることが好ましい。
[0028]
すべての実施形態において用いられるセパレータは、上記の通り一軸延伸ポリオレフィンフィルムである。セパレータは、場合により耐熱性微粒子層を有していてよい。この際、電池の過熱を防止するために設けられた耐熱性微粒子層は、耐熱温度が150℃以上の耐熱性を有し、電気化学反応に安定な無機微粒子から構成される。このような無機微粒子として、シリカ、アルミナ(α-アルミナ、β-アルミナ、θ-アルミナ)、酸化鉄、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウムなどの無機酸化物;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、スピネル、マイカ、ムライトなどの鉱物を挙げることができる。このように、耐熱層を有するセラミックセパレータを用いることもできる。しかしながらリチウムイオン二次電池素子を含むリチウムイオン二次電池を1度充電および放電した後に、セパレータの厚さと負極の片面に形成された負極活物質層の厚さとの和を50マイクロメートル以下とするためには、できるだけ耐熱性微粒子層を有しないポリオレフィンフィルムを用いることが望ましい。
[0029]
上記の正極、セパレータ、および負極は、いずれも独立したシートの形状をしている。正極シートと負極シートとの間にセパレータを介するように積層され、シート状のリチウムイオン二次電池素子を形成している。このようなシート状のリチウムイオン二次電池素子に電解液を浸漬させ、さらに外装体で封止することによりリチウムイオン二次電池を形成することができる。封止とは、リチウムイオン二次電池素子の少なくとも一部が外気に触れないように、比較的柔軟な外装体材料により包まれていることを意味する。リチウムイオン二次電池の外装体は、ガスバリア性を有し、リチウムイオン二次電池素子を封止することが可能な筐体か、あるいは柔軟な材料から構成される袋形状のものである。外装体として、アルミニウム箔とポリプロピレン等を積層したアルミニウムラミネートシートを好適に使用することができる。リチウムイオン二次電池は、コイン型電池、ラミネート型電池、巻回型電池など、種々の形態であってよい。
[0030]
電解液とは、イオン性物質を溶媒に溶解させた電気伝導性のある溶液のことであり、実施形態においては、特に非水電解液を用いることができる。正極と負極とセパレータとが積層されて電解液を含むリチウムイオン二次電池素子は、電池の主構成部材の一単位であり、通常、複数の矩形の正極と複数の矩形の負極とが複数の矩形のセパレータを介して積層されて、この積層物が電解液に浸漬されている。本明細書のすべての実施形態において用いる電解液は、非水電解液であって、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジ-n-プロピルカーボネート、ジ-t-プロピルカーボネート、ジ-n-ブチルカーボネート、ジ-イソブチルカーボネート、またはジ-t-ブチルカーボネート等の鎖状カーボネートと、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)等の環状カーボネートとを含む混合物であることが好ましい。電解液は、このようなカーボネート混合物に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、ホウフッ化リチウム(LiBF
4)、過塩素酸リチウム(LiClO
4)等のリチウム塩を溶解させたものである。
[0031]
電解液は、このほか、添加剤として上記の環状カーボネートとは異なる環状カーボネート化合物を含んでいてもよい。添加剤として用いられる環状カーボネートとしてビニレンカーボネート(VC)が挙げられる。また、添加剤としてハロゲンを有する環状カーボネート化合物を用いてもよい。これらの環状カーボネートも、電池の充放電過程において正極ならびに負極の保護被膜を形成する化合物である。特に、上記のジスルホン酸化合物またはジスルホン酸エステル化合物のような硫黄を含む化合物による、リチウム・ニッケル系複合酸化物を含有する正極活物質への攻撃を防ぐことができる化合物である。ハロゲンを有する環状カーボネート化合物として、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ジクロロエチレンカーボネート、トリクロロエチレンカーボネート等を挙げることができる。ハロゲンを有し不飽和結合を有する環状カーボネート化合物であるフルオロエチレンカーボネートは特に好ましく用いられる。
[0032]
また、電解液は、添加剤としてジスルホン酸化合物をさらに含んでいてもよい。ジスルホン酸化合物とは、一分子内にスルホ基を2つ有する化合物であり、スルホ基が金属イオンと共に塩を形成したジスルホン酸塩化合物、あるいはスルホ基がエステルを形成したジスルホン酸エステル化合物を包含する。ジスルホン酸化合物のスルホ基の1つまたは2つは、金属イオンと共に塩を形成していてもよく、アニオンの状態であってもよい。ジスルホン酸化合物の例として、メタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1,4-ブタンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、ビフェニルジスルホン酸、およびこれらの塩(メタンジスルホン酸リチウム、1,2-エタンジスルホン酸リチウム等)、およびこれらのアニオン(メタンジスルホン酸アニオン、1,2-エタンジスルホン酸アニオン等)が挙げられる。またジスルホン酸化合物としてはジスルホン酸エステル化合物が挙げられ、メタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1,4-ブタンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、またはビフェニルジスルホン酸のアルキルジエステルまたはアリールジエステル等の鎖状ジスルホン酸エステル;ならびにメチレンメタンジスルホン酸エステル、エチレンメタンジスルホン酸エステル、プロピレンメタンジスルホン酸エステル等の環状ジスルホン酸エステルが好ましく用いられる。メチレンメタンジスルホン酸エステル(MMDS)は特に好ましく用いられる。
[0033]
上記の正極ならびに負極をセパレータを介して積層し、これを上記の電解液と共に外装体内部に封入してラミネート型リチウムイオン二次電池を形成することができる。外装体として、電解液を外部に浸出させない材料であればいかなるものを使用してもよい。外装体の最外層にポリエステル、ポリアミド、液晶性ポリマーなどの耐熱性の保護層を有し、最内層にポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー、マレイン酸変性ポリエチレンなどの酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレンなどの酸変性ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PETとPENのブレンド、PETとPEIのブレンド、ポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂とPETのブレンド、キシリレン基含有ポリアミドとPETのブレンドなどからなる熱可塑性樹脂から構成されたシーラント層を有するラミネートフィルムを用いることができる。外装体は、これらのラミネートフィルムを1枚または複数枚組み合わせて接着または溶着し、さらに多層化したものを用いて形成してもよい。ガスバリア性金属層としてアルミニウム、スズ、銅、ニッケル、ステンレス鋼を用いることができる。金属層の厚みは30~50μmであることが好ましい。特に好適には、アルミニウム箔と、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリマーとの積層体であるアルミニウムラミネートを使用することができる。
[0034]
実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は従来の方法に従うことができ、特に限定されるものではない。たとえば、正極、セパレータ、負極の積層体に正極および負極タブリードを超音波溶接等の方法によって接続し、これを矩形に切り出した外装体材料の所定の位置に配置し、まず正極および負極タブリードと重なる部分(つば部)を熱融着する。そして外装体材料のタブリード引き出し部ではない側辺のうち1辺を熱融着して袋状とする。次いで袋の内部に電解液を注入する。最後に、残った一辺を減圧状態で熱融着する。なおここで用いる各電極のタブリードは、電池内の正極または負極と外部との電気の出し入れを行う端子のことである。リチウムイオン二次電池の負極タブリードとしてニッケルまたはニッケルめっきを施した銅導体を、正極タブリードとしてアルミニウム導体をそれぞれ用いることができる。
[0035]
ここで、実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の構成例を、図面を用いて説明する。図1はリチウムイオン二次電池の断面図の一例を表す。リチウムイオン二次電池10は、主な構成要素として、負極集電体11、負極活物質層13、セパレータ17、正極集電体12、正極活物質層15を含む。図1では、負極集電体11の両面に負極活物質層13が設けられ、正極集電体12の両面に正極活物質層15が設けられているが、各々の集電体の片面上のみに活物質層を形成することもできる。負極集電体11、正極集電体12、負極活物質層13、正極活物質層15、及びセパレータ17が一つの電池の構成単位である(図中、単電池19)。このような単電池(二次電池素子)19を、セパレータ17を介して複数積層する。各負極集電体11から延びる延出部を負極タブリード25上に一括して接合し、各正極集電体12から延びる延出部を正極タブリード27上に一括して接合してある。なお正極タブリードとしてアルミニウム板、負極タブリードとして銅板が好ましく用いられ、場合により他の金属(たとえばニッケル、スズ、はんだ)または高分子材料による部分コーティングを有していてもよい。正極タブリードおよび負極タブリードはそれぞれ正極および負極に溶接される。このように複数の単電池を積層してできた電池は、溶接された負極タブリード25および正極タブリード27を外側に引き出す形で、外装体29により包装される。外装体29の内部には電解液31が注入されている。外装体29は、周縁部が熱融着した形状をしている。
実施例
[0036]
<正極の作製>
リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン系複合酸化物NCM111と、導電助剤としてカーボンブラック粉末(CB)と、バインダ樹脂としてPVDF(クレハ製、#7200)とを、固形分質量比で、複合酸化物:CB:PVDFが90:5:5割合となるように混合し、溶媒であるNMPに添加した。この混合物に有機系水分捕捉剤として無水シュウ酸(分子量90)を、上記混合物からNMPを除いた固形分100質量部に対して0.03質量部添加した上で遊星方式の分散混合を30分間実施することで、これらの材料を均一に分散させてスラリーを作製した。得られたスラリーを、正極集電体となる厚み20μmのアルミニウム箔の両面上にドクターブレード法にて塗布した。次いで、100℃にて乾燥し、NMPを蒸発させることにより正極集電体の両面に正極活物質層を形成した。さらに、得られた電極を空孔率が35%となるようにロールプレスした後、正極活物質を塗布しない未塗布部を含めて矩形になるように正極を切り出した。
[0037]
<負極の作製>
負極活物質として、黒鉛粉末を用いた。この炭素材料粉末と、導電助剤としてカーボンブラック粉末(CB)と、バインダ樹脂であるスチレンブタジエンラバー(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、黒鉛粉末:CB:SBR:CMC=96:1:2:1の割合となるように均一に混合し、溶媒であるNMPに添加してスラリーを作製した。得られたスラリーを、負極集電体となる厚み10μmの銅箔の両面上に負極容量と正極容量の比(A/C比)が1.2となるようにドクターブレード法にて塗布した。次いで、100℃にて乾燥し、NMPを蒸発させることにより負極集電体の両面に負極活物質層を形成した。さらに、両面の負極活物質層の空孔率が40%、厚さが、各々19μm、26μm、27μm、29μm(これらの値を、表1~3中では「負極活物質層厚さ※充放電前」の欄に表記)となるように、得られた電極をロールプレスした後、各々負極活物質を塗布しない未塗布部を含めて矩形になるように負極を切り出した。
[0038]
<セパレータ>
空孔率60%、透気度50秒/100ミリリットル、100秒/100ミリリットル、130秒/100ミリリットルの一軸延伸ポリプロピレンセパレータをそれぞれ用意した。なおセパレータの透気度は、日本工業規格JIS P8117:2009に倣い、ガーレー式透気度試験機を用いて測定した。各セパレータの厚さは、表1に記載する通りである。
[0039]
<電解液>
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを、EC:DEC=30:70の体積比で混合し、ビニレンカーボネート(VC)を1重量%混合した非水溶媒を用意した。この混合非水溶媒に電解質塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を濃度が1モル/リットルとなるように溶解させたものを電解液として用いた。
[0040]
<外装体>
外装体用ラミネートフィルムとして、厚さ25μmのナイロン、厚さ40μmの軟質アルミニウム、厚さ40μmのポリプロピレンを積層した積層フィルムを用いた。
[0041]
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記のように作製した正極ならびに負極を、セパレータを隔てて重なるように配置して電池素子を得た。この際、正極活物質の未塗布部と負極活物質の未塗布部とが対向する側となるようにそれぞれ向きを揃えて積層した。これは、各電極タブリードを対向する2辺から導出させるためである。正極タブリードとなるアルミニウム板と正極活物質層未塗布部とを一括して超音波溶接した。同様に負極タブリードとなるニッケルめっきした銅板と負極活物質層未塗布部とを一括して超音波溶接した。そして、負極板の負極集電体延長部に対し負極端子の内側端(一端部)を接合した。電極積層体の最も外側に配置した正極上に金属異物として銅片を固定化した。
上記のラミネートフィルムを所定のサイズに切り出し、電極積層体を収納できるサイズのカップ状に深絞り成形した。成形後、カップ部の周囲のつば部を、15mm幅の辺となるように残してトリミングした。電極積層体をラミネートフィルムのカップ部に収納した。トリミングされたラミネートフィルムのつば部の2カ所に、各電極タブリードが位置するように配置した。電極タブリードに予め融着しておいたシーラントが、つば部をまたいで電池の内側と外側とに1mmずつはみ出るようにした。電極タブリードが導出されている辺のつば部をヒートプレスしてラミネートフィルム同士を幅9.5~10mmで熱融着した。このときに各電極タブリードに予め融着しておいたシーラントとラミネートフィルムとも融着され、電極タブリードも厳密に封止された。
電極タブリードの封止辺に隣接する二辺のうち、一方の辺をヒートシールした。未シールの辺から上記の電解液を電極積層体が十分に浸漬するように注入した。電解液を注入した後に外装体内部を減圧脱泡し、真空シール機を用いて最後の一辺を封止し、積層型リチウムイオン電池を完成させた。この積層型リチウムイオン電池の初充電を行った後、45℃でエージングを数日間行い、素子容量37mAhの積層型リチウムイオン電池を得た。
[0042]
<リチウムイオ二次電池の初回充放電>
上記のように作製したリチウムイオン電池を、0.1Cで4.1Vまで定電流定電圧充電(終了条件:12時間)し、その後0.1Cで2.5Vまで定電流放電を行い、これを初回充放電とした。初回充放電を経た後のリチウムイオン電池を解体し、マイクロゲージを用いてセパレータと負極の厚さを測定した。この値からセパレータ厚さと負極集電体厚さを減じ、2で除した値を計算して、片面に塗工された負極活物質層の厚さを求めた(表1~3中では、「負極活物質層厚さ※充放電後」の欄に表記)。表1~3中「負極活物質層厚さ+セパレータ厚さ」の欄に表記した値は、「負極活物質層厚さ※充放電後」の値と前記の「セパレータ厚さ」の値を足した値である。
[0043]
<リチウムイオン二次電池素子の評価>
作成したリチウムイオン電池を3.7Vまで充電した。44mA/cm
2の電流量で放電し、10秒間経過後の電池電圧を測定した。10秒間経過後に電池電圧が2.5V以上であるものについてはその電池電圧を記載した。一方、10秒間経過後に電池電圧が2.5Vを維持していなかったもの(10秒間経過までに電池電圧が2.5V以下にまで低下してしまったもの)を「不可」と記載した。
[0044]
[表1]
[0045]
[表2]
[0046]
[表3]
[0047]
透気度100秒/100ミリリットル以下のセパレータを用い、かつ、リチウムイオン二次電池を1度充電および放電した後に、セパレータの厚さと負極の片面に形成された負極活物質層の厚さとの和が50マイクロメートル以下の条件を満たす実施例にかかる各電池は、所定の時間内に所定の電池電圧に達した。これに対し、上の条件のいずれかを満たしていない比較例にかかる各電池は、所定の時間内に充分な出力を得ることができなかった。
[0048]
以上、本発明の実施例について説明したが、上記実施例は本発明の実施形態の一例を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を特定の実施形態あるいは具体的構成に限定する趣旨ではない。
請求の範囲
[請求項1]
正極活物質混合物が塗工され形成された正極活物質層を有する正極と、セパレータと、負極活物質混合物が塗工され形成された負極活物質層を有する負極とが積層されたリチウムイオン二次電池素子であって、
該セパレータが、ポリオレフィンの一軸延伸フィルムであり、
該セパレータの透気度が100秒/100ミリリットル以下であり、
該リチウムイオン二次電池素子を含むリチウムイオン二次電池を1度充電および放電した後に、該セパレータの厚さと該負極の片面に形成された該負極活物質層の厚さとの和が50マイクロメートル以下である
ことを特徴とする、前記リチウムイオン二次電池素子。
[請求項2]
該ポリオレフィンの一軸延伸フィルムが架橋されている、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池素子。
[請求項3]
該正極と、該セパレータと、該負極とが、独立したシート状である、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池素子。
[請求項4]
請求項1~3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池素子と、
電解液と、
を含む発電要素を、外装体内部に含む、リチウムイオン二次電池。
図面