明 細 書
技術分野
[0001]
本発明は、筆記具用油性インク組成物に関する。
背景技術
[0002]
従来、サインペンに使用される油性インク組成物は、種々の材質の筆記面に形成された筆跡の密着性や、日光に長時間暴露されたときに退色が生じない耐光性等の性能が要求される。特に、濡れ性の悪い材質、例えば、合成樹脂フィルム、表面を樹脂コーティングした紙、金属等に筆記した場合にも、油性インクは、十分な密着性を有する筆跡をもたらすことが要求されている。
[0003]
かかる要求を満足させるため、特許文献1では、水で濡れた面に塗ることが可能な油性インク、及び水で濡れた面に筆記可能なマーキングペンに関する発明が開示されている。特許文献1では、この油性インクには、微細高分子粉として、平均粒子径が1~15μmであるアクリル樹脂粒子、フッ素樹脂粒子及びフッ素樹脂変性エチレン樹脂粒子を、単独又は2種以上混合して含有されているとしている。
先行技術文献
特許文献
[0004]
特許文献1 : 特開2010-196046号公報
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0005]
特許文献1の筆記具用油性インク組成物によれば、対象物にインクが強く密着し、しかも作業性が高くかつ耐水性・耐候性・耐光性が良好な油性インクを得ることができるとしている。
[0006]
しかしながら、上記の筆記具用油性インク組成物を用いた場合にも、紫外線等に対して耐久した後に筆跡の耐擦過性が低下し、その結果、弱い摩擦力でも筆跡が剥離されることがあった。
[0007]
したがって、種々の材質に筆記して形成された筆跡の繰り返しの擦過やより強い力での擦過に耐えることができ、かつ耐久後であっても維持される、耐擦過性を筆跡にもたらすことができる、筆記具用油性インク組成物を提供する必要性が存在する。
課題を解決するための手段
[0008]
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである:
〈1〉 着色剤、樹脂、有機溶剤、フッ素系樹脂粒子を含有しており、
動的光散乱法により測定したときの、上記フッ素系樹脂粒子の平均粒子径が、0.1μm以上1.0μm未満である、
筆記具用油性インク組成物。
〈2〉 上記フッ素系樹脂粒子の含有率が、筆記具用油性インク組成物全体の質量を基準として、3~25質量%である、上記〈1〉項に記載の筆記具用油性インク組成物。
〈3〉 上記フッ素系樹脂粒子が、完全フッ素化樹脂粒子である、上記〈1〉又は〈2〉項に記載の筆記具用油性インク組成物。
〈4〉 上記完全フッ素化樹脂粒子が、ポリテトラフルオロエチレン粒子である、上記〈3〉項に記載の筆記具用油性インク組成物。
〈5〉 インク貯蔵部、筆記部及び保持部を少なくとも具備しており、
上記インク貯蔵部に上記〈1〉~〈4〉項に記載の筆記具用油性インク組成物が貯蔵されている、
筆記具。
発明の効果
[0009]
本発明によれば、種々の材質に筆記して形成された筆跡の繰り返しの擦過やより強い力での擦過に耐えることができ、かつ耐久後であっても維持される、耐擦過性を筆跡にもたらすことができる、筆記具用油性インク組成物を提供することができる。
図面の簡単な説明
[0010]
[図1] 図1(a)は、本発明の筆記具用油性インク組成物によって形成された油性インク層の、摩擦力を印加する前における概略図である。図1(b)は、本発明の筆記具用油性インク組成物によって形成された油性インク層の、摩擦力を印加した後における概略図である。図1(c)は、本発明の筆記具用油性インク組成物によって形成された油性インク層の、摩擦力を更に印加した後における概略図である。
[図2] 図2(a)は、従来の筆記具用油性インク組成物によって形成された油性インク層の、摩擦力を印加する前における概略図である。図2(b)は、従来の筆記具用油性インク組成物によって形成された油性インク層の、摩擦力を印加した後における概略図である。図2(c)は、従来の筆記具用油性インク組成物によって形成された油性インク層の、摩擦力を更に印加した後における概略図である。
発明を実施するための形態
[0011]
《筆記具用油性インク組成物》
本発明の筆記具用油性インク組成物は、着色剤、樹脂、有機溶剤、フッ素系樹脂粒子を含有しており、動的光散乱法により測定したときの、フッ素系樹脂粒子の平均粒子径が、0.1μm以上1.0μm未満である、筆記具用油性インク組成物である。
[0012]
特許文献1に関して言及したように、平均粒子径が1~15μmであるフッ素系樹脂粒子を含有している筆記具用油性インク組成物は、対象物にインクを強く密着させることができるとされている。すなわち、従来、筆跡の密着性を向上させる手段として、インクにフッ素系樹脂粒子を含有させて筆記面に対するインク組成物の濡れ性を向上させ、それによって、筆記面とインク組成物との間の界面での密着性を向上させる手段が検討されてきたと考えられる。
[0013]
しかしながら、かかるフッ素系樹脂粒子を含有している筆記具用油性インク組成物を用いて筆記した場合であっても、耐久後には筆跡の密着性が十分でなくなることがあった。
[0014]
本発明者らは、平均粒子径が0.1μm以上1.0μm未満であるフッ素系樹脂粒子を用いることにより、この課題を解決できることを見出した。このことを、図1及び2を参照して説明する。
[0015]
従来の筆記具用油性インク組成物は、筆記面に筆記すると、筆記面に対するインク組成物の濡れ性が良くなって、密着性が改良される。
[0016]
また、これと併せて、フッ素系樹脂粒子を含有する筆記具用油性インク組成物を基材に適用して乾燥させて、筆跡たる油性インク層(10)を形成すると、図2(a)に示すように、フッ素系樹脂粒子(12)が、油性インク層(10)の表面に露出するため、これにより、油性インク層(10)の表面の摩擦係数が低減し、その結果、筆跡の耐擦過性が良好になっていると考えられる。
[0017]
しかしながら、この油性インク層(10)を、紫外線等に対して耐久すると、油性インク層(10)の表面に露出している被着成分(14)が紫外線のエネルギーによって劣化すると考えられる。その結果、図2(a)の矢印に示すように摩擦力が印加されると、図2(b)に示すように、被着成分(14)が物理的に脱離することがある。その結果、更に摩擦力が印加されると、図2(c)に示すように、油性インク層(10)全体が筆記面(20)から剥離されることがある。
[0018]
これに対して、本発明の筆記具用油性インク組成物を基材に適用して乾燥させて、油性インク層(10)を形成した場合には、図1(a)に示すように、フッ素系樹脂粒子(12)の平均粒子径が小さく、それによって、表面に露出する被着成分(14)部分の面積を小さくすることができる。
[0019]
また、フッ素系樹脂粒子(12)の平均粒子径が小さく、それによって、フッ素系樹脂粒子(12)が分散して、油性インク層(10)の厚さ方向に層を形成するようにされていると考えられる。その結果、表面の被着成分(14)が劣化し、仮に剥離した場合でも、層を形成している下層のフッ素系樹脂粒子が露出し、筆跡の耐摩耗性が維持される。
[0020]
したがって、耐久後に、図1(a)の矢印に示すように摩擦力が印加されても、被着成分(14)は物理的に脱離しにくく、また仮に脱離する場合にも、図1(b)に示すように、油性インク層(10)の表面に露出していた被着成分(14)が物理的に脱離するのみであり、その結果、更に摩擦力が印加されても、図1(c)に示すように、油性インク層(10)の内部に存在していたフッ素系樹脂粒子(12)が新たに露出することとなるため、筆跡の耐摩耗性が維持されることとなると考えられる。
[0021]
上記の構成によれば、フッ素系樹脂粒子の存在に起因して、種々の材質に筆記して形成された筆跡の繰り返しの擦過やより強い力での擦過に耐えることができる耐擦過性を有しつつ、かつフッ素系樹脂粒子の小さい平均粒子径に起因して、耐久後であっても維持される耐擦過性を筆跡にもたらすことができる、筆記具用油性インク組成物を得ることができる。
[0022]
本発明の筆記具用油性インク組成物中のフッ素系樹脂粒子の含有率は、3質量%以上、4質量%以上、又は5質量%以上であることが、筆跡中にフッ素系樹脂粒子を十分に存在させ、それによって筆跡の耐擦過性を向上させる観点から好ましく、また25質量%以下、22質量%以下、又は20質量%以下であることが、筆記具用油性インク組成物の筆記面との密着性を確保する観点から好ましい。
[0023]
本発明の筆記具用油性インク組成物中の着色剤の含有率は、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上であることができ、また25質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下であることができる。
[0024]
本発明の筆記具用油性インク組成物中の樹脂の含有率は、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上であることができ、また25質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下であることができる。
[0025]
以下では、本発明の各構成要素について説明する。
[0026]
〈着色剤〉
着色剤としては、染料、顔料、又は染料と顔料との混合物等、従来のインクに用いることができる種々の着色剤を使用することができる。
[0027]
本発明で使用することができる染料としては、通常の染料インク組成物に用いられる直接染料、酸性染料、塩基性染料、媒染・酸性媒染染料、酒精溶性染料、アゾイック染料、硫化・硫化建染染料、建染染料、分散染料、油溶染料、食用染料、金属錯塩染料、造塩染料、樹脂に染料を染着した染料等の中から任意のもの、及びこれらの溶液を使用することができる。
[0028]
本発明で使用することができる顔料としては、カーボンブラック、グラファイト、二酸化チタン顔料等の無機顔科、タルク、シリカ、アルミナ、マイカ、アルミナシリケート等の体質顔科、アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アンスラキノン顔料、キナクドリン顔料、イソインドリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、各種レーキ顔料等の有機顔料、蛍光顔料、パール顔料、金色、銀色等のメタリック顔料等が挙げられる。
[0029]
本発明で用いる着色剤としては、上記した染料、顔料を単独で用いることができ、又は上記した染料、顔料を混合して用いることもできる。
[0030]
〈樹脂〉
樹脂としては、ケトン樹脂、スルホアミド樹脂、マレイン酸樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、エステルガム、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ブチラール樹脂、ロジン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、セルロース系樹脂等、及びこれらの誘導体を用いることができる。これらの樹脂は、単独で用いてもよく、混合させて用いてもよい。
[0031]
特に、フッ素系樹脂粒子がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子である場合には、樹脂として、ブチラール樹脂を少なくとも含有していることが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子を良好に分散させる観点から好ましい。この場合、ブチラール樹脂のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子に対する質量比は、0.01以上、0.03以上、又は0.05以上であることができ、また0.3以下、0.2以下、又は0.1以下であることができる。
[0032]
〈有機溶剤〉
有機溶剤としては、例えば芳香族類、アルコール類、多価アルコール類、グリコールエーテル類、炭化水素類、エステル類等を用いることができる。これらの溶剤は、単独で用いてもよく、又は組み合わせて用いてもよい。
[0033]
芳香族類としては、例えばベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、フタル酸ブチル、フタル酸エチルヘキシル、フタル酸トリデシル、トリメリット酸エチルヘキシル、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート等を用いることができる。
[0034]
アルコール類としては、例えばエタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、3-ペンタノール、tert-アミルアルコール、n-ヘキサノール、メチルアミルアルコール、2-エチルブタノール、n-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、n-オクタノール、2-オクタノール、2-エチルヘキサノール、3,5,5-トリメチルヘキサノール、ノナノール、n-デカノール、ウンデカノール、n-デカノール、トリメチルノニルアルコール、テトラデカノール、ヘプタデカノール、シクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール等を用いることができる。
[0035]
多価アルコール類としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、3-メチル-1,3ブンタンジオール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3プロパンジオール、1,3ブタンジオール、1,5ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール等を用いることができる。
[0036]
グリコールエーテル類としては、例えば、メチルイソプロピルエーテル、エチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、ヘキシルエーテル、2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテルジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノブチルエーテル等を用いることができる。
[0037]
炭化水素類としては、例えばヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の直鎖炭化水素類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の環状炭化水素類を用いることができる。
[0038]
エステル類としては、例えばプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸イソアミル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸イソアミル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸プロピル、イソ吉草酸メチル、イソ吉草酸エチル、イソ吉草酸プロピル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、トリメチル酢酸プロピル、カプロン酸メチル、カプロン酸エチル、カプロン酸プロピル、カプリル酸メチル、カプリル酸エチル、カプリル酸プロピル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、カプリル酸トリグリセライド、クエン酸トリブチルアセテート、オキシステアリン酸オクチル、プロピレングリコールモノリシノレート、2-ヒドロキシイソ酪酸メチル、3-メトキシブチルアセテート等を用いることができる。
[0039]
〈フッ素系樹脂粒子〉
フッ素系樹脂粒子は、フッ素含有モノマーが重合されているポリマーで構成されている粒子である。特に、本発明の筆記具用油性インク組成物におけるフッ素系樹脂粒子は、動的光散乱法により測定したときの平均粒子径が、0.1μm以上1.0μm未満である、フッ素系樹脂粒子である。ここで、動的光散乱法を用いた平均粒子径とは、濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(大塚電子社)を用いて算出された、散乱強度分布におけるキュ ムラント法解析の平均粒子径の値である。
[0040]
この平均粒子径は、0.1μm以上、0.2μm以上、又は0.3μm以上であることが、フッ素系樹脂粒子を筆跡の表面に露出しやすくし、それによって、筆跡の耐擦過性を良好にする観点から好ましく、また1.0μm未満、0.9μm以下、又は0.8μm以下であることが、筆跡の紫外線等に耐久することによる影響を受けにくくし、それによって、筆跡の耐擦過性を、耐久後でも維持できるようにする観点から好ましい。
[0041]
フッ素系樹脂粒子としては、完全フッ素化樹脂粒子、部分フッ素化樹脂粒子、及びフッ素化樹脂-オレフィン共重合体粒子を用いることができ、中でも完全フッ素化樹脂粒子を用いることが、筆跡の表面の摩擦係数を低減させ、その結果、筆跡の耐擦過性を良好にする観点から好ましい。
[0042]
完全フッ素化樹脂粒子としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)粒子、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)粒子等が挙げられ、化学的安定性及びコスト等の観点から、中でもPTFEが好ましい。
[0043]
部分フッ素化樹脂粒子としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)粒子、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)粒子等が挙げられる。
[0044]
フッ素化樹脂-オレフィン共重合体粒子は、完全フッ素化樹脂及び/又は部分フッ素化樹脂とオレフィンとの共重合体粒子であり、例えばテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)粒子、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)粒子等が挙げられる。
[0045]
〈他の成分〉
本発明の筆記具用油性インク組成物は、随意の他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、レべリング剤、防錆剤、防腐剤、潤滑剤、樹脂等が挙げられる。
[0046]
レべリング剤としては、例えばフッ素系界面活性剤、シリコーンオイル、リン酸エステル系界面活性剤等を用いることができる。
[0047]
《筆記具》
本発明の筆記具は、インク貯蔵部、筆記部及び保持部を少なくとも具備している。このインク貯蔵部には、上記の筆記具用油性インク組成物が貯蔵されている。本発明の筆記具は、マーキングペンであってもよく、又はボールペンであってもよい。
[0048]
ここで、本明細書において「マーキングペン」とは、インク貯蔵部に貯蔵されているインクを、毛細管現象により樹脂製の筆記部に供給する機構を有するペンを意味するものであり、当業者により「サインペン」として言及されるペンも含まれる。また、本明細書において「ボールペン」とは、筆記部に備えられているボールの回転によって、インク貯蔵部に貯蔵されているインクを滲出させる機構を有するペンを意味する。
[0049]
〈インク貯蔵部〉
インク貯蔵部には、上記の筆記具用油性インク組成物が貯蔵されている。
[0050]
インク貯蔵部は、インクを貯蔵し、かつ筆記部にインクを供給することができる物であれば、任意の物を用いることができる。
[0051]
〈筆記部〉
筆記部は、筆記具の用途に応じ、随意の材料で構成されていてよい。本発明の筆記具がマーキングペンである場合、筆記部としては、例えば繊維芯及びプラスチック芯等が挙げられる。本発明の筆記具がボールペンである場合、筆記部は、ボールペンチップを先端部に備えた筆記部であることができる。
[0052]
《筆記具用油性インク組成物の製造方法》
筆記具用油性インク組成物は、上記の着色剤、樹脂、有機溶剤、及びフッ素系樹脂粒子を、ディスパー等の攪拌機器を用いて混合しながら、従来公知の方法で製造することができる。
実施例
[0053]
実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
[0054]
《筆記具用油性インク組成物の作製》
〈実施例1〉
フッ素系樹脂粒子A(Algoflon L203F、SOLVAY社、平均粒子径0.3μm、12質量部)、樹脂Bとしてのブチラール樹脂(エスレックBL-10、積水化学社、0.6質量部)を溶剤としてのエタノール(52.2質量部)及びプロピレングリコールモノエチルエーテル(17.5質量部)を撹拌により混合させて分散した。次いで、着色剤としての染料(Valifast Black 3830、オリヱント化学工業社、12.5質量部)、樹脂Aとしてのテルペンフェノール(YSポリスターS145、ヤスハラケミカル社、5質量部)、レべリング剤としてのフッ素系界面活性剤(サーフロンS-243、AGCセイミケミカル社、0.2質量部)を混合させて、実施例1の筆記具用油性インク組成物を100質量部作製した。
[0055]
〈実施例2〉
着色剤としての染料を、Spilon Red C-GH(保土谷化学工業社、3.5質量部)に変更し、フッ素系樹脂粒子Aを、フッ素系樹脂粒子B(ダイニオンTF マイクロパウダー 9201Z、3M社、平均粒子径0.15μm、6質量部)に変更し、レべリング剤を、シリコーンオイル(KF0004、信越シリコーン社、1質量部)に変更し、ブチラール樹脂、エタノール及びプロピレングリコールモノエチルエーテルの質量部をそれぞれ0.3質量部、62.7質量部及び21.5質量部に変更したことを除き、実施例1と同様にして、実施例2の筆記具用油性インク組成物を100質量部作製した。
[0056]
〈実施例3〉
着色剤としての染料を、Valifast Blue 1613(オリヱント化学工業社、7.5質量部)に変更し、フッ素系樹脂粒子Aを、フッ素系樹脂粒子C(KTL-500F、喜多村社、平均粒子径0.75μm、18質量部)に変更し、ブチラール樹脂、エタノール及びプロピレングリコールモノエチルエーテルの質量部をそれぞれ0.9質量部、51.4質量部及び17質量部に変更したことを除き、実施例1と同様にして、実施例3の筆記具用油性インク組成物を100質量部作製した。
[0057]
〈実施例4〉
フッ素系樹脂粒子Aの含有量を、3質量部に変更し、レべリング剤を、シリコーンオイル(KF0004、信越シリコーン社、1質量部)に変更し、ブチラール樹脂、エタノール及びプロピレングリコールモノエチルエーテルの質量部をそれぞれ0.15質量部、58.85質量部及び19.5質量部に変更したことを除き、実施例1と同様にして、実施例4の筆記具用油性インク組成物を100質量部作製した。
[0058]
〈実施例5〉
フッ素系樹脂粒子Aの含有量を、25質量部に変更し、ブチラール樹脂、エタノール及びプロピレングリコールモノエチルエーテルの質量部をそれぞれ1.25質量部、41.55質量部及び14.5質量部に変更したことを除き、実施例1と同様にして、実施例5の筆記具用油性インク組成物を100質量部作製した。
[0059]
〈比較例1〉
フッ素系樹脂粒子A及びブチラール樹脂を用いず、エタノール及びプロピレングリコールモノエチルエーテルの質量部をそれぞれ62.8質量部及び19.5質量部に変更したことを除き、実施例1と同様にして、比較例1の筆記具用油性インク組成物を100質量部作製した。
[0060]
〈比較例2〉
フッ素系樹脂粒子B及びブチラール樹脂を用いず、エタノール及びプロピレングリコールモノエチルエーテルの質量部をそれぞれ68質量部及び22.5質量部に変更したことを除き、実施例2と同様にして、比較例2の筆記具用油性インク組成物を100質量部作製した。
[0061]
〈比較例3〉
フッ素系樹脂粒子Cを、フッ素系樹脂粒子D(18質量部)に変更し、エタノール及びプロピレングリコールモノエチルエーテルの質量部をそれぞれ51.6質量部及び16.8質量部に変更したことを除き、実施例3と同様にして、比較例3の筆記具用油性インク組成物を100質量部作製した。
[0062]
《筆記具の作製》
三菱鉛筆社製PA-121T(商品名「ピースマーカー」、ペン芯:細字丸芯(アクリル繊維芯))に、上記の筆記具用油性インク組成物を充填してマーキングペンを作成した。その後、細字丸芯を用いて耐擦過性及び耐紫外線擦過性の評価を行った。
[0063]
〈耐擦過性〉
作製したサインペンを用いて、ポリプロピレン(PP)フィルム、ガラス、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)表面に筆記し、筆跡を乾燥させた。この筆跡を、500gの分銅を載せたキムワイプを5回移動させることによって擦過して、筆跡の耐擦過性を評価した。
[0064]
評価基準は以下のとおりである。
○:試験後に観察した際に、筆跡に剥がれがまったく生じなかった。
△:試験後に観察した際に、筆跡に少し剥がれが生じたが、筆跡はほとんど残っていた。
×:試験後に観察した際に、筆跡が残らないほど剥がれが生じた。
[0065]
〈耐久後の耐擦過性〉
乾燥させた筆跡を、JIS S 6037-2006に準じてキセノンフェードメーターX25F(FLR40SW/M/36、スガ試験機社)を用いて、紫外線を200時間照射した後、上記の耐擦過性の評価と同様にして、筆跡の耐久後の擦過性を評価した。
[0067]
[表1]
[0068]
表1から、平均粒子径が0.1μm以上1.0μm未満であるフッ素系樹脂粒子を含有している実施例1~5の筆記具用油性インク組成物は、フッ素系樹脂粒子を含有していない比較例1及び2の筆記具用油性インク組成物と比較して、筆跡の耐久前後の耐擦過性のいずれもが良好であったことが理解できよう。また、実施例1~5の筆記具用油性インク組成物は、平均粒子径が1.0μm超のフッ素系樹脂粒子を含有している比較例3の筆記具用油性インク組成物と比較して、筆跡の耐久後の耐擦過性が良好であったことが理解できよう。
符号の説明
[0069]
10 油性インク層
12 フッ素系樹脂粒子
14 被着成分
20 筆記面
請求の範囲
[請求項1]
着色剤、樹脂、有機溶剤、フッ素系樹脂粒子を含有しており、
動的光散乱法により測定したときの、前記フッ素系樹脂粒子の平均粒子径が、0.1μm以上1.0μm未満である、
筆記具用油性インク組成物。
[請求項2]
前記フッ素系樹脂粒子の含有率が、筆記具用油性インク組成物全体の質量を基準として、3~25質量%である、請求項1に記載の筆記具用油性インク組成物。
[請求項3]
前記フッ素系樹脂粒子が、完全フッ素化樹脂粒子である、請求項1又は2に記載の筆記具用油性インク組成物。
[請求項4]
前記完全フッ素化樹脂粒子が、ポリテトラフルオロエチレン粒子である、請求項3に記載の筆記具用油性インク組成物。
[請求項5]
インク貯蔵部、筆記部及び保持部を少なくとも具備しており、
前記インク貯蔵部に請求項1~4のいずれか一項に記載の筆記具用油性インク組成物が貯蔵されている、
筆記具。
図面