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1. (WO2018235937) イリノテカンの治療効果予測方法及びそのためのキット
Document

明 細 書

発明の名称 イリノテカンの治療効果予測方法及びそのためのキット

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005   0006  

先行技術文献

特許文献

0007  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0008   0009  

課題を解決するための手段

0010   0011   0012   0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020  

発明の効果

0021  

図面の簡単な説明

0022  

発明を実施するための形態

0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040  

実施例

0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8  

図面

1   2   3   4   5  

明 細 書

発明の名称 : イリノテカンの治療効果予測方法及びそのためのキット

技術分野

[0001]
 本発明は、イリノテカンの治療効果予測方法及びそのためのキットに関する。

背景技術

[0002]
 イリノテカン(CPT-11)は、カンレンボク由来の抗腫瘍性アルカロイドであるカンプトテシンから合成された抗癌剤であり、肺癌や転移性大腸癌などの癌を治療するのに有用であることが知られている。イリノテカンは、肝臓で代謝されることで活性代謝物であるSN-38に変換され抗腫瘍作用を示す。イリノテカンは、DNA複製を促進する酵素トポイソメラーゼを阻害することにより優れた抗癌作用を示すが、副作用として、白血球減少及び下痢という大きな毒性を有することも報告されている。
[0003]
 グルクロン酸抱合酵素(UDP-glucuronosyltransferase: UGT)は、薬物、異物または内在性物質であるビリルビン、ステロイドホルモン、胆汁酸などにグルクロン酸を付加する反応を触媒する酵素であり、その酵素をコードする遺伝子のひとつであるUGT1A1には遺伝子多型が存在することが知られている。上述したSN-38は、このUGTによって抱合反応を受けて不活化され排泄される。
[0004]
 そして、UGT1A1遺伝子多型は、抗癌剤としてのイリノテカン(CPT-11)の副作用の発現に関与していることが報告されている。すなわち、UGT活性の低下をきたすUGT1A1遺伝子多型をもつ人は、白血球減少や激しい下痢など重篤な副作用リスクが高まることが報告されている。UGT1A1遺伝子多型の1つであるUGT1A1*28は、プロモーター領域TATAボックスにおけるTA配列の繰り返しが、多数を占める野生型(UGT1A1*1)では6回であるのに対し、7回の繰り返しになっている遺伝子多型であり、このTA2塩基挿入という違いにより遺伝子の発現量が低下し、結果としてUGT活性が低下する。
[0005]
 また、UGT1A1遺伝子には、UGT1A1、UGT1A3~UGT1A10の少なくとも9個のアイソフォームが存在する。各アイソフォームについても、上述したUGT1A1遺伝子と同様に、各種の遺伝子多型が知られている。これら遺伝子多型の中には、UGTの酵素活性や遺伝子の発現量などに影響しているものがあり、イリノテカンの副作用の発現に関与することが報告されているものもある。
[0006]
 一方、イリノテカンの副作用を診断することを目的として、Invader法によるUGT1A1遺伝子多型診断キット(米国TWT社)が診断薬として実用化されている。しかし、これらの方法は、判別精度が低いことや、解析コストが高いという問題があった。また、特許文献1には、UGT1A1遺伝子における上記UGT1A1*28多型に対応した核酸プローブを用いたハイブリダイゼーション法により、このUGT1A1*28多型を効率的に判定する方法が開示されている。さらに、特許文献2には、臨床情報(イリノテカン副作用発生の有無)及びUGT1A遺伝子多型情報に基づいて群分けした患者ゲノムを網羅的に解析(エクソーム解析)することによって、UGT1A遺伝子多型を原因としない新規のイリノテカンの副作用関連因子の探索を行った結果が開示されている。特許文献2には、イリノテカンによる副作用の発生リスクの予測を補助する因子として、APCDD1L遺伝子、R3HCC1遺伝子、OR51I2遺伝子、MKKS遺伝子、EDEM3遺伝子、又はACOX1遺伝子における一塩基多型が挙げられている。

先行技術文献

特許文献

[0007]
特許文献1 : 特開2008-072913号公報
特許文献2 : WO2016/132736

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0008]
 ところで、上述したような遺伝子多型は、イリノテカンを投与したときの副作用の発生頻度を予測することに関与する。しかしながら、イリノテカンによる治療効果に関与する遺伝子多型については知られておらず、イリノテカンを投与したときの治療効果を判定することはできなかった。
[0009]
 そこで、本発明は、イリノテカンによる治療効果に関与する遺伝子多型を特定し、当該遺伝子多型を用いてイリノテカンの治療効果を予測する方法又は治療効果の判定を補助する方法を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

[0010]
 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、イリノテカンによる副作用に関連する遺伝子多型のなかから特定の遺伝子多型がイリノテカンの治療効果に関連することを見いだし、本発明を完成するに至った。本発明は以下を包含する。
[0011]
 (1)被検者から採取された生体試料中のゲノムDNAに存在するAPCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される遺伝子多型又は当該遺伝子多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある遺伝子多型を分析し、当該遺伝子多型の遺伝子型を判定し、判定した遺伝子型に基づいてイリノテカンによる治療効果を判定する方法。
[0012]
 (2)上記rs1980576で特定される遺伝子多型は、配列番号1に示すAPCDD1L遺伝子の塩基配列における186番目における、野生型がアデニンであり変異型がグアニンである一塩基多型であることを特徴とする(1)記載の方法。
[0013]
 (3)上記rs1980576で特定される遺伝子多型が野生型のホモである場合にはイリノテカンの治療効果が高いと判定し、変異型と野生型のヘテロである場合にはイリノテカンの治療効果を有すると判定し、変異型のホモである場合にはイリノテカンの治療効果が低いと判定することを特徴とする(1)記載の方法。
[0014]
 (4)上記rs1980576で特定される遺伝子多型と連鎖不平衡の関係にある遺伝子多型は、rs3946003で特定される一塩基多型であることを特徴とする(1)記載の方法。
[0015]
 (5)APCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される遺伝子多型又は当該遺伝子多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある遺伝子多型を含む連続する5~50塩基の領域とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含む、イリノテカンによる治療効果判定用プローブセット。
[0016]
 (6)上記5~50塩基の領域は、配列番号1に示すAPCDD1L遺伝子の塩基配列における186番目を含むことを特徴とする(5)記載の治療効果判定用プローブセット。
[0017]
 (7)上記rs1980576で特定される遺伝子多型における野生型に対応する野生型プローブと、当該遺伝子多型における変異型に対応する変異型プローブとを含む(5)記載の治療効果判定用プローブセット。
[0018]
 (8)上記rs1980576で特定される遺伝子多型と連鎖不平衡の関係にある遺伝子多型は、rs3946003で特定される一塩基多型であることを特徴とする(5)記載の治療効果判定用プローブセット。
[0019]
 なお、本発明に係るイリノテカンによる治療効果判定用プローブセットは、検体に含まれる上記5~50塩基の領域を増幅させるプライマーを含むイリノテカンによる治療効果判定キットとしても良い。すなわち、本発明に係るキットは、APCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される遺伝子多型又は当該遺伝子多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある遺伝子多型を含む連続する5~50塩基の領域を特異的に増幅させるプライマーと、その増幅された領域と特異的にハイブリダイズする上記治療効果判定用プローブセットを含むものであってもよい。また、本発明に係るキットは、上記領域を増幅させる際に必要な各種試薬及び/又は増幅した領域と上記核酸プローブとを特異的にハイブリダイズさせる際に必要な各種試薬を含むものであってもよい。さらに、上記イリノテカンによる治療効果判定用プローブセットを担体に固定することで、イリノテカンによる治療効果判定用DNAチップとすることができる。
[0020]
 本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2017-122569号の開示内容を包含する。

発明の効果

[0021]
 本発明により、遺伝子多型を検出するといった簡便な手段によりイリノテカンによる治療効果を高精度に判定することができる。

図面の簡単な説明

[0022]
[図1] イリノテカンを含むレジメンにて治療を受けた日本人大腸がん患者140症例についてa)~f)の一塩基多型とイリノテカンの治療効果との関係を解析した結果(減量症例、UGT1A1*6、*28、compound heterogeneousを除く140症例での統計解析結果)を示す特性図である。
[図2] 図1と同じ140症例についてg)~k)の一塩基多型とイリノテカンの治療効果との関係を解析した結果(減量症例、UGT1A1*6、*28、compound heterogeneousを除く140症例での統計解析結果)を示す特性図である。
[図3] 140症例の中のFOLFIRI症例に限定したサブポピュレーション66症例についてa)~f)の一塩基多型とイリノテカンの治療効果との関係を解析した結果を示す特性図である。
[図4] 140症例の中のFOLFIRI症例に限定したサブポピュレーション66症例についてg)~k)の一塩基多型とイリノテカンの治療効果との関係を解析した結果を示す特性図である。
[図5] WO2016/132736(PCT/JP2016/000793)に表2として記載された、一塩基多型とイリノテカンによる副作用との関係を解析した結果(UGT1A1*28 homo、*6 homo及びcompound hetero除外症例での統計解析結果(N=68))を示す特性図である。

発明を実施するための形態

[0023]
 本発明は、APCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される遺伝子多型又は当該遺伝子多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある遺伝子多型を特定することにより、イリノテカンによる治療効果を判定する方法である。イリノテカン(CPT-11)、1,4'-ビピペリジン-1'-カルボン酸 (S)-4,11-ジエチル-3,4,12,14-テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-3,14-ジオキソ-1H-ピラノ[3',4':6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-9-イルエステル(CAS NO:97682-44-5)は、カンレンボク由来の抗腫瘍性アルカロイドであるカンプトテシンから合成された化合物である。本発明において、イリノテカンには、その塩及びそれらの溶媒和物、特に水和物(例えば、CAS NO:136572-09-3)も包含される。イリノテカンの塩としては、薬学的に許容される酸を作用させた酸付加塩が抗癌剤として好ましく用いられる。そのような酸付加塩としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸等の無機酸との塩;シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、酢酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸との塩が挙げられ、特に塩酸塩(塩酸イリノテカン;CAS NO:136572-09-3)が好ましく用いられる。
[0024]
 イリノテカンは、生体内投与後にカルボキシルエステラーゼによって活性代謝物SN-38に変換される。SN-38は肝臓でグルクロン酸抱合酵素(UDP-グルクロン酸転移酵素; UGT)による抱合反応を受けて解毒されたのち、腸管に排泄される。イリノテカンの適応は、特に限定されないが、例えば、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、子宮頸癌、卵巣癌、胃癌(手術不能又は再発)、結腸・直腸癌(手術不能又は再発)、乳癌(手術不能又は再発)、有棘細胞癌、悪性リンパ腫(非ホジキンリンパ腫)、小児悪性固形腫瘍、治癒切除不能な膵癌を挙げることができる。すなわち、本発明によれば、上述した各種癌に対するイリノテカンの治療効果を判定することができる。
[0025]
 上記遺伝子多型を特定するには、被検者から採取された生体試料に含まれるゲノムDNAを用いることができる。ここで、被検者から採取する生体試料は、ゲノムDNAを含むものであれば特に制限されない。例えば、血液及びこれに由来する血液関連試料(血液、血清及び血漿など)、リンパ液、汗、涙、唾液、尿、糞便、腹水及び髄液等の体液、ならびに細胞、組織または臓器の破砕物及び抽出液などが挙げられる。本発明においては、好ましくは、血液関連試料を用いる。
[0026]
 被検者から採取した生体試料からゲノムDNAを抽出する抽出手段としては、特に限定されず、前記生体試料から直接的にDNA成分を分離し、精製して回収できる手段であることが好ましい。
[0027]
 ここで、APCDD1L遺伝子(NCBIアクセッション番号:NM_153360.1、更新日:2014年1月26日)の塩基配列を配列番号1に示す。APCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される遺伝子多型は、配列番号1に示す塩基配列における186番目に位置する。rs1980576で特定される遺伝子多型(すなわち、配列番号1に示す塩基配列の186番目の塩基)は、野生型ではアデニンであり、変異型ではグアニンである。なお、配列番号1に示すAPCDD1L遺伝子の塩基配列の相補鎖については、野生型がチミンであり、変異型がシトシンである。
[0028]
 「連鎖不平衡」とは、生物の集団において、複数の遺伝子座の対立遺伝子又は遺伝的マーカー(多型)の間にランダムでない相関が見られる、すなわちそれらの特定の組合せ(ハプロタイプ)の頻度が有意に高くなる集団遺伝学的な現象を意味し、「遺伝的連鎖」とは、特定の対立遺伝子の組合せが、メンデルの独立の法則に従わずに親から子へ一緒に遺伝する遺伝学的現象を意味する。具体的に、rs1980576で特定される遺伝子多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある遺伝子多型としては、特に限定されないが、例えば、rs3946003で特定される一塩基多型を挙げることができる。
[0029]
 上述した遺伝子多型を特定する方法、すなわち遺伝子多型をタイピングする方法としては、公知の一塩基多型を分析する方法を用いることができ、リアルタイムPCR法、ダイレクトシーケンシング法、TaqMan(登録商標)PCR法、インベーダー(登録商標)法、ルミネックス(登録商標)法、クエンチングプライマー/プローブ(QP)法、MALDI-TOF法、分子ビーコン法等を挙げることができる。具体的には、被検者(通常、ヒト被検者をさす)から採取した生体試料のゲノムDNAを鋳型とする増幅反応によって測定対象の一塩基多型部位を含む核酸断片を、プライマーを用いて増幅し、得られた核酸断片と、野生型及び変異型に対応する一対のプローブとのハイブリダイゼーションを検出する方法や、上記PCR増幅過程において、該一塩基多型部位に特異的なプローブを用いることで、野生型及び変異型を検出する方法を挙げることができる。
[0030]
 遺伝子多型を特定する際に用いるプローブセット(すなわち、イリノテカンによる治療効果判定用プローブセット)としては、rs1980576で特定される遺伝子多型を含む連続する5~50塩基、好ましくは10~40塩基、より好ましくは15塩基~30塩基の領域とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含むプローブセットであればよい。また、プローブとしてLocked Nucleic Acid(LNA)等の人工核酸を用いて合成したオリゴプローブを用いることで、短い塩基でも特異的にハイブリダイズするプローブとすることが可能となる。なお、プローブセットとは、野生型のアレルに対応する野生型プローブと、変異型アレルに対応する変異型プローブとを意味する。一例として、野生型プローブの塩基配列を配列番号2に示し、変異型プローブの塩基配列を配列番号3に示す。
[0031]
 ストリンジェントな条件下としては、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、具体的には、6×SSC(1.5M NaCl,0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)、50%フォルムアミドを含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件を挙げることができる。また、ストリンジェントな条件下は、Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6を参照して適宜設定することができる。或いは、ストリンジェントな条件下としては、3×SSC/0.3×SDSを含む溶液中で54℃にてハイブリッドを形成させた後、洗浄液A(10×SSC/1%SDS溶液)、洗浄液B(20×SSC)及び洗浄液C(5×SSC)で順次洗浄するような条件(特開2011-250726参照)等の条件を挙げることができる。
[0032]
 また、遺伝子多型を特定する際に用いるプローブセットは、担体上に固定して用いてもよく、担体としては、平面状の基板やビーズ状の球状担体を挙げることができ、具体的には、特開2011-250726に記載された担体を挙げることができる。また、野生型を検出するプローブとバリアント型を検出するプローブとを同一の担体に固定してもよいし、異なる担体に固定してもよい。
[0033]
 上記遺伝子多型を特定する方法において用いるプライマーとしては、ゲノムDNAを鋳型として、rs1980576で特定される遺伝子多型を含む連続する少なくとも5塩基を核酸断片として増幅することができるオリゴヌクレオチドからなるプライマーであればよい。より具体的には、配列番号1に示すAPCDD1L遺伝子の塩基配列の186番目の塩基を含む少なくとも5塩基、好ましくは10~500塩基、より好ましくは20~200塩基、さらに好ましくは50~100塩基を増幅することができるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを、配列番号1に示す塩基配列に基づいて適宜設計することができる。
[0034]
 また、rs1980576で特定される遺伝子多型を含む連続する少なくとも5塩基を増幅する際に、あらかじめ標識したプライマーを用いるか、増幅反応に標識ヌクレオチドを基質として用いることで、増幅した配列を識別することが可能となる。標識物質としては特に限定されないが、放射性同位元素、蛍光色素、又はジゴキシゲニン(DIG)やビオチン等の有機化合物等を挙げることができる。
[0035]
 上記プローブ又はプライマーは、例えば、核酸合成装置によって化学的に合成することで取得することができる。核酸合成装置としては、DNAシンセサイザー、全自動核酸合成装置等を使用することができる。
[0036]
 増幅した核酸断片が標識を有する場合、標識を検出することで各プローブ(イリノテカンによる治療効果判定用プローブセットに含まれる野生型プローブ又は変異型プローブ)にハイブリダイズした核酸断片を測定することができる。例えば、蛍光色素を標識として使用した場合には、当該蛍光色素に由来する蛍光強度を測定することによって、プローブにハイブリダイズした核酸断片を測定することができる。具体的には、野生型プローブにハイブリダイズした核酸断片と、変異型プローブにハイブリダイズした核酸断片との比を算出するには、野生型プローブにおける標識を検出したときの出力値と、変異型プローブにおける標識を検出したときの出力値とから算出することができる。なお、標識として蛍光標識を使用した場合は蛍光強度が出力値となる。
[0037]
 より具体的に、変異型プローブにハイブリダイズした核酸断片に由来する出力値(蛍光強度)を、変異型プローブにハイブリダイズした核酸断片に由来する出力値(蛍光強度)及び野生型プローブにハイブリダイズした核酸断片に由来する出力値(蛍光強度)の平均値で除算することで判定値を算出することができる。この判定値は、核酸断片に含まれる変異型の存在量を正規化した値に近似する。よって、当該判定値の高さによって、被検者における一塩基多型を分析し変異型をホモとして有しているか、野生型をホモとして有しているか、又はヘテロとして有しているかを判別することができる。
[0038]
 当該判定値を使用する場合、被検者における一塩基多型を分析して変異型をホモとして有しているか、野生型をホモとして有しているか、又はヘテロとして有しているかを判別するため、予め二段階の閾値(閾値A及び閾値B)を設定することが好ましい。なお、ここで、閾値A及び閾値Bは、(閾値A>閾値B)の関係を有しているものとする。すなわち、上述のように算出された判定値が閾値Aを超えると変異型をホモとして有していると判断し、当該判定値が閾値A以下であり閾値Bを超えるとヘテロとして有していると判断し、当該判定値が閾値B以下であると野生型をホモとして有していると判断できる。
[0039]
 閾値A及び閾値Bの設定方法としては、特に限定されないが、予め遺伝子型が判別している試料を用いて上述のように判定値を算出し、上記変異型をホモとして有している場合、野生型をホモとして有している場合、又はヘテロとして有している場合についてそれぞれ確率密度を正規分布として算出する方法を挙げることができる。このとき、確率密度が互いに重なる交点(確率密度の大小が入れ替わる位置で、それぞれの極大値の間)を求め、また、上記変異型をホモとして有している場合、野生型をホモとして有している場合、又はヘテロとして有している場合それぞれの平均値を求める。そして、変異型をホモとして有している場合とヘテロとして有している場合の閾値としては、(変異型をホモとして有している場合の平均値とヘテロとして有している場合の平均値)の平均値と交点の平均値として算出することができる。同様にヘテロとして有している場合と野生型をホモとして有している場合の閾値としては、(ヘテロとして有している場合の平均値と野生型をホモとして有している場合の平均値)の平均値と交点の平均値として算出することができる。
[0040]
 そして、被検者について上記rs1980576で特定される遺伝子多型が野生型のホモである場合にはイリノテカンの治療効果が高いと判定し、変異型と野生型のヘテロである場合にはイリノテカンの治療効果を有すると判定し、変異型のホモである場合にはイリノテカンの治療効果が低いと判定する。ここで、判定対象の被検者とは、上述したイリノテカンの適応範囲の疾患を疑われた者或いは当該疾患と診断された者など特に限定されない。
実施例
[0041]
 以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
[0042]
〔実施例1〕
(解析対象)
 日本人のイリノテカン投与大腸癌(ステージIV)155症例から、イリノテカン減量投与症例、UGT1A1*6(ホモ)、UGT1A1*28(ホモ)及びこれらのコンパウンドヘテロ(compound heterogeneous)症例を除いた症例のうち、治療効果判定を行った140症例及び当該140症例の中のサブポピュレーション66症例(レジメンの統一されたFOLFIRI症例)を解析対象とした。FOLFIRIとは、フルオロウラシルとl-ロイコボリンとを組み合わせた治療にイリノテカンを同時併用する大腸癌に対する標準治療のひとつである。なお、当該140症例は、イリノテカンを含むレジメンにて治療を受けた日本人大腸がん患者である。本実施例におけるレジメンでは、イリノテカンに加えて、フルオロウラシルとl-ロイコボリンとの併用によるFOLFIRIや、カペシタビンとの併用によるXELIRI、S-1との併用によるIRIS、抗EGFR抗体薬(ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブ)との併用療法を含んでいる。
[0043]
(ゲノムDNAの調製)
 各症例からゲノムDNAを次の方法で調製した。まず、EDTA含有チューブに採取した末梢血を加えた。次に、ヨウ化ナトリウム法(Wang et al., Nucleic Acids Res 34:195-201(2014))に基づいて調製した。調製したDNAは、1mM EDTA・2Naを含む10mM Tris-塩酸緩衝液(pH8.0)に溶解し、使用するまで、4℃又は-20℃で保存した。
[0044]
(遺伝子多型解析)
 調製したゲノムDNAを用い、WO2016/132736(PCT/JP2016/000793)に記載と同様の方法でゲノム網羅的解析(WES解析)を行った。すなわち、コントロール群として、UGT1A遺伝子多型(UGT1A1*6、*27、*28、UGT1A7(387T>G、622T>C)、UGT1A9*1b、UGT1A1*60の7箇所)が全て副作用リスクの低いホモ接合型かつイリノテカン副作用の見られなかった症例(n=5)、ケース群には、コントロール群と同じUGT1A遺伝子多型であったにもかかわらず副作用(Grade 3, entire course)がみられた症例(n=5)及び何れかのUGT1A遺伝子多型をヘテロに有するイリノテカン初回投与時から副作用(Grade 4)がみられた症例(n=5)の3つの症例を設定し、ケース・コントロール解析を行った。Validationとして加水分解プローブによるジェノタイピングを行った。遺伝子多型と副作用発生頻度及び奏効率との統計解析にはCochran-Armitage trend testを用いた。
[0045]
 上記WES解析結果から、コントロール・ケース群間のアレル頻度の差違をStandardized differenceを用いてランキングした。ランキング上位の多型についてTaqMan加水分解プローブを用いた手法にて155例を解析しイリノテカン副作用である血液毒性 (グレード3以上) の発生頻度との相関を解析した。この際、WES解析より同定されたAPCDD1L遺伝子における一塩基多型はアミノ酸配列への影響を考慮してrs3946003とrs7265854であったが、rs3946003はTaqMan加水分解プローブを用いた手法ではプライマー・プローブの設計が得られなかったことから、WES解析においてアミノ酸配列に影響しないがrs3946003と完全に連鎖したrs1980576をrs3946003の代替対象とした。その結果、a)APCDD1L遺伝子における一塩基多型rs1980576、b)R3HCC1遺伝子における一塩基多型rs2272761、c)OR51I2遺伝子における一塩基多型rs12577167、d)MKKS遺伝子における一塩基多型rs1547、e)EDEM3遺伝子における一塩基多型rs9425343、f)APCDD1L遺伝子の一塩基多型rs7265854において、副作用発生頻度と有意な線形傾向が見られた。
[0046]
 ここで、通常、副作用が高ければ薬剤の作用も強い、すなわち治療効果が高いと考えられる。そこで、上記a)~f)の一塩基多型及びイリノテカンの副作用との関係が知られている、g)UGT1A1*6、h)UGT1A1*60、i)UGT1A7(387T>G)、j)UGT1A7(622T>C)、k)UGT1A9*1bの合計11カ所の一塩基多型と、イリノテカンによる癌の治療効果との関連を解析した。なお、イリノテカンによる癌の治療効果は、RECIST(response criteria for solid tumors)に基づいてCR(Complete Response:完全奏効、標的病変の完全消失)、PR(Partial Response:部分奏効、標的病変の径和が、ベースラインの径和に比し30%以上縮小)、 SD(Stable Disease:安定、PR に該当する腫瘍縮小やPD に該当する腫瘍増大を認めない)及びPD(Progressive Disease:進行、標的病変の径和が、それまでの最も小さい径和に比して20%以上大きくなり、かつ絶対値で5mm以上増加)と評価し、CR及びPRを治療効果有り、SD及びPDを治療効果無し、と判定した。
[0047]
 それぞれの一塩基多型とイリノテカンの治療効果との関係を図1~4に示した。図1及び2は治療効果判定を行った140症例の解析結果であり、図3及び4は前記140症例の中のサブポピュレーション66症例の解析結果である。図1~4におけるP値(P value/C.-A.)はコクラン・アーミテージ傾向検定の結果、Fisherはフィッシャーの正確確率検定(Fisher’s Exact Test)の結果である。また、図1~4中、Odds ratioはフィッシャーの正確確率検定により野生型ホモ若しくは変異型ホモにおけるイリノテカンによる癌の治療効果(Efficacy)のオッズ比を算出したものである。
[0048]
 図1~4に示すように、a)~k)のうちb)~k)の一塩基多型については、それぞれの一塩基多型とイリノテカンによる癌の治療効果との関連は見られなかった。一方、a)のAPCDD1L遺伝子の一塩基多型rs1980576については、C.-A.値が図1で0.027、図3で0.030であったことから、APCDD1L遺伝子の一塩基多型rs1980576とイリノテカンによる癌に対する治療効果との間に有意な線形傾向がみられた。
[0049]
 従来は、WO2016/132736(PCT/JP2016/000793)に記載されるように、APCDD1L遺伝子の一塩基多型rs1980576によりイリノテカンの副作用の発生リスクしか予測できなかった。しかしながら、本実施例よると一塩基多型rs1980576によりイリノテカンの副作用の発生リスクと共に、イリノテカンによる癌に対する治療効果も予測できることが明らかとなった。
[0050]
 また、WO2016/132736(PCT/JP2016/000793)に表2として記載された図5の内容と組み合わせて検討すると、一塩基多型rs1980576について野生型ホモ(A/A)であればイリノテカンによる癌の治療効果を有する見込みがあり、かつ副作用の発生リスクが低く、ヘテロ(A/G)であればイリノテカンによる癌の治療効果を有する見込みが高く、かつ副作用の発生リスクが低いということが予測できる。なお、一般的にイリノテカンの奏効率が32%程度であることを考慮すると、一塩基多型rs1980576について野生型ホモ(A/A)であれば図1において38%、FOLFIRI症例に限定した図3において43%に治療効果があり、イリノテカンの投与、特にFOLFIRI治療において有効であると判断できる。
[0051]
 一方、一塩基多型rs1980576について変異型ホモ(G/G)であれば癌の治療効果を有さず、かつ副作用の発生リスクが高いということが予測できる。この場合にはイリノテカンの投与による治療を開始する前に、他の癌の治療方法を検討することで、患者に適した治療方法を進めることが可能となる。
[0052]
 なお、イリノテカンの副作用は、イリノテカンの無毒化の遅延によって活性型が長期間体内にとどまることによって引き起こされることから、副作用が高ければ治療効果も高い可能性があると考えられる。この考え方によれば、変異型ホモ(G/G)であれば副作用リスクが高いため治療効果も高いと予測された。しかしながら、本実施例により、このような一般的な理解とは異なり、変異型ホモ(G/G)であれば治療効果は低いという予想外の結果となった。かかる結果は、APCDDL1遺伝子の一塩基多型rs1980576はイリノテカンの副作用リスクとは関係するものの、イリノテカンの代謝に関わっていないためと考えられる。
[0053]
 また、WO2016/132736(PCT/JP2016/000793)の図1に示されているとおり、一塩基多型rs1980576と一塩基多型rs3946003は連鎖不平衡の関係にあることから、一塩基多型rs3946003の遺伝子型を判定することにイリノテカンによる癌に対する治療効果を予測することが可能である。
[0054]
 本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。

請求の範囲

[請求項1]
 被検者から採取された生体試料中のゲノムDNAに存在するAPCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される遺伝子多型又は当該遺伝子多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある遺伝子多型を分析し、当該遺伝子多型の遺伝子型を判定し、判定した遺伝子型に基づいてイリノテカンによる治療効果を判定する方法。
[請求項2]
 上記rs1980576で特定される遺伝子多型は、配列番号1に示すAPCDD1L遺伝子の塩基配列における186番目における、野生型がアデニンであり変異型がグアニンである一塩基多型であることを特徴とする請求項1記載の方法。
[請求項3]
 上記rs1980576で特定される遺伝子多型が野生型のホモである場合にはイリノテカンの治療効果が高いと判定し、変異型と野生型のヘテロである場合にはイリノテカンの治療効果を有すると判定し、変異型のホモである場合にはイリノテカンの治療効果が低いと判定することを特徴とする請求項1記載の方法。
[請求項4]
 上記rs1980576で特定される遺伝子多型と連鎖不平衡の関係にある遺伝子多型は、rs3946003で特定される一塩基多型であることを特徴とする請求項1記載の方法。
[請求項5]
 APCDD1L遺伝子におけるrs1980576で特定される遺伝子多型又は当該遺伝子多型と連鎖不平衡若しくは遺伝的連鎖にある遺伝子多型を含む連続する5~50塩基の領域とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含む、イリノテカンによる治療効果判定用プローブセット。
[請求項6]
 上記5~50塩基の領域は、配列番号1に示すAPCDD1L遺伝子の塩基配列における186番目を含むことを特徴とする請求項5記載の治療効果判定用プローブセット。
[請求項7]
 上記rs1980576で特定される遺伝子多型における野生型に対応する野生型プローブと、当該遺伝子多型における変異型に対応する変異型プローブとを含む請求項5記載の治療効果判定用プローブセット。
[請求項8]
 上記rs1980576で特定される遺伝子多型と連鎖不平衡の関係にある遺伝子多型は、rs3946003で特定される一塩基多型であることを特徴とする請求項5記載の治療効果判定用プローブセット。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]