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1. (WO2018186273) 鋼部材、前記鋼部材用の熱延鋼板およびこれらの製造方法
Document

明 細 書

発明の名称 鋼部材、前記鋼部材用の熱延鋼板およびこれらの製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004  

先行技術文献

特許文献

0005  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0006   0007  

課題を解決するための手段

0008   0009   0010   0011   0012  

発明の効果

0013  

図面の簡単な説明

0014  

発明を実施するための形態

0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058  

実施例

0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8   9  

図面

1  

明 細 書

発明の名称 : 鋼部材、前記鋼部材用の熱延鋼板およびこれらの製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、鋼部材、前記鋼部材用の熱延鋼板およびこれらの製造方法に関する。本発明は、より具体的には、塑性歪域の耐疲労特性に優れた鋼部材、前記鋼部材用の熱延鋼板およびこれらの製造方法に関する。本発明は、特に、高強度で塑性歪域の耐疲労特性を要求される、コイルドチュービング用溶接鋼管、ラインパイプ用溶接鋼管、自動車用構造部材用溶接鋼管に関し、なかでもコイルドチュービング用溶接鋼管に係るものであり、これらの鋼部材の塑性歪域での疲労寿命の改善に関するものである。

背景技術

[0002]
 特許文献1には、自動車等の高強度構造部材および駆動力伝達部材、あるいは油井管洗浄用電縫管として、造管後の降伏強度700MPa以上、引張強度800MPa以上の強度と、伸び15%以上の延性を有する高張力電縫鋼管の製造方法が開示されている。この方法によれば、0.09~0.18%のCと、Cu、Ni、Cr、Moの合金元素を所定量含有することで、溶接熱影響部の軟化をもたらすことない高張力電縫鋼管を得ることができる。しかしながら、疲労用途、特に塑性歪域の耐疲労特性を要求されるコイルドチュービング用鋼管としては、繰返し使用での耐久寿命が低いという問題があった。
[0003]
 特許文献2には、材質均一性に優れたコイルドチュービング用鋼帯およびその製造方法が開示されている。この方法によれば、0.10~0.16%のCと、Cr、Cu、Ni、Mo、Nb、Tiの合金元素を所定量含有することでコイル幅方向、長手方向の降伏強度のばらつきが小さいコイルドチュービング用鋼帯を得ることができる。しかしながら、塑性歪域の耐疲労特性は十分ではなく、繰返し使用での耐久寿命が低いという問題があった。
[0004]
 特許文献3には、自動車等の機械構造物用鋼管、特に自動車用中空スタビライザー用として、疲労寿命の優れた焼入れ・焼戻し鋼管が開示されている。この方法によれば、所定の化学成分を含有し、析出炭化物の平均粒径を0.5μm以下とし、肉厚中心部の硬さを400HVとすることにより、高疲労寿命の鋼管が得られる。しかしながら、本鋼管で得られる疲労寿命レベルは、寿命が数万サイクルとなる低応力-高サイクルの弾性域疲労特性である。一方、コイルドチュービングは、抗井への挿入、回収を繰り返しながら数百回使用される。コイルの巻き戻し-巻き付けならびに、抗井へ挿入する際の湾曲(グースネック)部分では2%程度の塑性域の歪が加わり、100~1000サイクルの高歪-低サイクル疲労強度が必要となる。一般に、弾性域疲労のように応力振幅一定の条件での疲労強度は、材料強度を上げることで増加する。一方、コイルドチュービングに加わる長手方向歪は、コイルとグースネックの内径で決まる歪一定条件に相当し、所謂Morrowの式の疲労延性係数の寄与が大きくなるため、高強度化は必ずしも寿命の向上につながらず所望の塑性歪域の耐疲労特性が得られないという問題があった。

先行技術文献

特許文献

[0005]
特許文献1 : 特許第3491339号公報
特許文献2 : 特許第5494895号公報
特許文献3 : 特許第5196934号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0006]
 本発明は、塑性歪域での耐疲労特性に優れた鋼部材と、その素材となる熱延鋼板およびこれらの製造方法を提供することを目的とする。
[0007]
 なお、本発明でいう、「塑性歪域の耐疲労特性に優れた」ないし「優れた塑性歪域の耐疲労特性」とは、引張モード、ひずみ制御モード、ひずみ比=0、全ひずみ範囲2.0%の条件で引張疲労試験を行った場合の破断までの繰り返し数が1000回以上である場合をいうものとする。
 また、本発明の鋼部材の素材となる熱延鋼板を、「素材熱延鋼板」ともいう。
 本発明の鋼部材としては、溶接鋼管等の鋼管、自動車用構造部材等の成形部品等が挙げられる。溶接鋼管としては、コイルドチュービング用溶接鋼管、ラインパイプ用溶接鋼管、自動車用構造部材用溶接鋼管等が挙げられる。

課題を解決するための手段

[0008]
 本発明者らは、強度と塑性歪域での耐疲労特性という、相反する特性を高度なレベルで両立させるために、素材となる熱延鋼板の化学成分、製造条件を種々変化させて系統的な実験検討を行なった。その結果、特定化学成分を有する鋼を、特定温度加工条件で熱間圧延し、或いは鋼管形状等に成形加工したのちに特定の条件で熱処理することで、高い強度と優れた塑性歪域での耐疲労特性を同時に満たす鋼部材が得られることを見出した。
 本発明はこのような知見に基づいて完成されたものであり、以下の[1]~[9]の構成を有する。
[0009]
[1]質量%で、Tiを0.031~0.200%含有し、組織中に0.005%以上のTiが粒径20nm以下の析出物として析出している、鋼部材。
[2]前記鋼部材は、質量%で、C:0.19~0.50%、Si:0.002~1.5%、Mn:0.4~2.5%、Al:0.01~0.19%、Cr:0.001~0.90%、B:0.0001~0.0050%、Ti:0.031~0.200%、P:0.019%以下(0%を含む)、S:0.015%以下(0%を含む)、N:0.008%以下(0%を含む)、O:0.003%以下(0%を含む)、Sn:0.10%以下(0%を含む)を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する、[1]に記載の鋼部材。
[3]前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.001~0.15%、V:0.001~0.15%、W:0.001~0.15%、Mo:0.001~0.45%、Cu:0.001~0.45%、Ni:0.001~0.45%、Ca:0.0001~0.005%、Sb:0.0001~0.10%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する、[2]に記載の鋼部材。
[4]前記鋼部材が溶接鋼管である、[1]~[3]のいずれかに記載の鋼部材。
[0010]
[5]前記[1]~[4]のいずれかに記載の鋼部材用の熱延鋼板であって、質量%で、Tiを0.031~0.200%含有し、組織中に0.005%以上のTiが固溶Tiとして存在する、鋼部材用の熱延鋼板。
[6]長手方向両端部である先端部および尾端部の板厚が、ともに長手方向中央部の板厚に比べて5~50%厚い、[5]に記載の鋼部材用の熱延鋼板。
[0011]
[7]前記[1]~[4]のいずれかに記載の鋼部材の製造方法であって、質量%で、Tiを0.031~0.200%含有し、組織中に0.005%以上のTiが固溶Tiとして存在する熱延鋼板に成形加工を施した後に、550℃を超え1050℃以下の温度に加熱した後、550~400℃の温度域を10℃/s以上の平均冷却速度で冷却する熱処理を施す、鋼部材の製造方法。
[8]前記熱延鋼板を、質量%で、Tiを0.031~0.200%含有する鋼スラブを下記(1)式から計算される平衡固溶温度T Tiよりも高い温度条件でスラブ抽出した後、T Ti-400℃以上の温度で仕上げ圧延を終了し、T Ti-400℃からT Ti-500℃までの温度域を10℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、T Ti-500℃以下の温度で巻き取って製造する、[7]に記載の鋼部材の製造方法。
log([Ti-N×48÷14][C])=-7000/(T Ti(℃)+273)+2.75 ・・・(1)
ただし、(1)式におけるTi、N、Cは、鋼スラブ中のそれぞれの元素の含有量(質量%)である。
[0012]
[9]前記[5]または[6]に記載の鋼部材用の熱延鋼板の製造方法であって、質量%で、Tiを0.031~0.200%含有する鋼スラブを、下記(1)式から計算される平衡固溶温度T Tiよりも高い温度条件でスラブ抽出した後、T Ti-400℃以上の温度で仕上げ圧延を終了し、T Ti-400℃からT Ti-500℃までの温度域を10℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、T Ti-500℃以下の温度で巻き取る、鋼部材用の熱延鋼板の製造方法。
log([Ti-N×48÷14][C])=-7000/(T Ti(℃)+273)+2.75 ・・・(1)
ただし、(1)式におけるTi、N、Cは、鋼スラブ中のそれぞれの元素の含有量(質量%)である。

発明の効果

[0013]
 本発明によれば、塑性歪域の耐疲労特性に優れる鋼部材を提供できる。また、本発明の熱延鋼板は、前記鋼部材の素材として特に適する。
 本発明によれば、強度と塑性歪域での耐疲労特性という相反する特性を高度なレベルで両立できる鋼部材を提供できる。そのため、本発明の鋼部材としては、特に、高強度で塑性歪域の耐疲労特性を要求される、コイルドチュービング用溶接鋼管、ラインパイプ用溶接鋼管、自動車用構造部材用溶接鋼管が好適であり、なかでもコイルドチュービング用溶接鋼管が好適である。

図面の簡単な説明

[0014]
[図1] 後熱処理により粒径20nm以下の析出物として析出したTi量と塑性歪域での疲労特性の関係を示す図である。

発明を実施するための形態

[0015]
(鋼部材)
 本発明の鋼部材は、特定温度加工条件で熱間圧延して製造した熱延鋼板(素材熱延鋼板)に成形加工を施した後、特定の条件で熱処理することで得られる。以下、素材熱延鋼板に成形加工を施した後に施す熱処理を「後熱処理」ともいう。
 まず、本発明の鋼部材の化学成分範囲の限定理由について説明する。なお、以下、組成における質量%は、単に%で示す。
[0016]
 Ti:0.031~0.200%
 Tiは、熱間圧延工程で炭窒化物として析出し、熱間圧延工程での回復・再結晶の粒成長を抑制する。Tiを含有することで、素材熱延鋼板の組織(ミクロ組織)中に所望の微細なフェライト相の粒径(1~50μm)を得られる効果がある。この素材熱延鋼板段階でのミクロ組織の微細化は、その後の造管、部品成形等の成形加工(冷間加工)後に、熱処理を施した後のミクロ組織の微細化につながり、優れた塑性歪域での耐疲労特性が得られる。
[0017]
 Tanakaらは疲労サイクルによってすべり面上に転位が不可逆的にパイルアップし、このときに発生する応力が限界応力を超えると初期亀裂が発生するというモデルを提唱している(文献:K. Tanaka and T. Mura:J Appl Mech., Vol. 48, p.97-103 (1981))。このモデルによれば、G:横弾性定数、Ws:単位面積あたりの破壊エネルギー、ν:ポアソン比、Δτ:すべり面上の分解剪断応力範囲、k:すべり面上の転位の摩擦力など材料物性値、外力条件等が同じであれば、各結晶粒の疲労亀裂発生サイクルNcは、すべり面長さdが短いほど、すなわち結晶粒径が小さいほど長くなる。
 このようなメカニズムにより、本発明の微細化されたミクロ組織材は、疲労き裂発生が遅れ、優れた塑性歪域での耐疲労特性を示すものと考えられる。
[0018]
 さらにTiは炭化物としてマトリクスを析出強化し、かつ固溶元素として固溶強化し、かつ焼入れ性向上元素として変態組織強化を強めることで、造管、部品成形等の成形加工後に熱処理を施した後の強度が向上し、疲労強度を著しく向上させる必須元素である。こうした効果は、Ti含有量が0.031~0.200%の範囲にあるときに得られ、Ti含有量が前記範囲の下限値未満であると、後述する素材熱延鋼板の段階で0.005%以上のTiが固溶Tiとして存在し、成形加工した後の熱処理によって、0.005%以上のTiを粒径20nm以下の微細な析出物として析出させることができず、上記効果を得ることができない。一方、Ti含有量が前記範囲の上限値を超えると、粗大なTiNの生成によって耐疲労特性が低下する。そのため、Ti含有量は0.031~0.200%の範囲とする。Ti含有量は、好ましくは0.120%超である。また、Ti含有量は、好ましくは0.150%以下である。
[0019]
 本発明の鋼部材の組織中には、0.005%以上のTiが粒径20nm以下の析出物として析出している。
 本発明者らは、本発明のように熱延鋼板を素材とし、さらに造管あるいは部品成形等の成形加工後に施される熱処理(後熱処理)の後に、塑性歪域での耐疲労特性が必要とされる場合、後熱処理によって、0.005%以上のTiを粒径20nm以下の微細な析出物として析出させることで、格段に優れた塑性歪域での耐疲労特性が得られることを知見した。図1に、後熱処理により粒径20nm以下の微細な析出物として析出したTi量(質量%)と塑性歪域での疲労特性の関係を示す。後熱処理により粒径20nm以下の微細な析出物として析出したTi量が0.005%以上になると、引張モード、ひずみ制御モード、ひずみ比=0、全ひずみ範囲2.0%の条件で引張疲労試験を行った場合の破断までの繰り返し数が1000回以上となり、優れた塑性歪域での耐疲労特性が得られる。
[0020]
 次に、本発明の鋼部材が有する好適な組成について説明する。
[0021]
 C:0.19~0.50%
 本発明において、Cは、特定の条件で後熱処理することで、高い強度を確保させ、さらに後熱処理時にTiと結合し、特に表層部おいて微細析出物を析出させ塑性歪域での耐疲労特性を向上させる元素である。Cの含有量が0.19%未満では、この所望の強度(YS≧770MPa)と塑性歪域での耐疲労特性を得られにくくなる。一方、Cの含有量が0.50%を超えると、鋼部材、例えば鋼管の靱性、溶接性が確保できなくなるため、これを上限とする。なお、さらに好ましくは、Cの含有量は0.28%超である。また、さらに好ましくは、Cの含有量は0.30%以下である。
[0022]
 Si:0.002~1.5%
 Siは、固溶強化により所望の強度を確保しつつ、塑性歪域での耐疲労特性を向上させる元素である。Siの含有量が0.002%未満では強度が不足する。一方、1.5%を超える含有は、溶接性が劣化する。従ってSiの含有量は0.002~1.5%に限定することが好ましい。なお、さらに好ましくは、Siの含有量は0.05%以上である。また、さらに好ましくは、Siの含有量は0.35%以下である。
[0023]
 Mn:0.4~2.5%
 Mnは、後熱処理時に低温変態強化により所望の強度を確保させ、塑性歪域での耐疲労特性を向上させる働きがある。Mnの含有量が0.4%未満では、この効果が十分に発現せず、一方、Mnの含有量が2.5%を超えると溶接性が劣化する。従ってMnの含有量は0.4~2.5%に限定することが好ましい。なお、さらに好ましくは、Mnの含有量は1.09%以上である。また、さらに好ましくは、Mnの含有量は1.99%以下である。
[0024]
 Al:0.01~0.19%
 Alは、製鋼時の脱酸元素であるとともに、熱間圧延工程でのオーステナイト粒の成長を抑制し、結晶粒を微細とし、後熱処理後に所望のフェライト粒径(1~50μm)を得られ、塑性歪域での耐疲労特性を向上させる働きがある。Alの含有量が0.01%未満ではこれらの効果が得られずフェライト粒径が粗大化し、一方、Alの含有量が0.19%を超えると溶接性が低下するともに、酸化物系介在物の増大により耐疲労特性が低下する傾向となる。なお、さらに好ましくは、Alの含有量は0.041%以上である。また、さらに好ましくは、Alの含有量は0.080%以下である。
[0025]
 Cr:0.001~0.90%
 Crは、後熱処理時に低温変態強化により所望の強度を確保させ、塑性歪域での耐疲労特性を向上させる働きがある。Crの含有量が0.001%未満では、この効果が十分に発現せず、一方、Crの含有量が0.90%を超えると溶接性が劣化する。従って、Crの含有量は0.001~0.90%に限定することが好ましい。なお、さらに好ましくは、Crの含有量は0.001~0.19%である。
[0026]
 B:0.0001~0.0050%
 Bは、後熱処理時に低温変態強化により所望の強度を確保させ、塑性歪域での耐疲労特性を向上させる働きがある。Bの含有量が0.0001%未満では、この効果が十分に発現せず、一方、Bの含有量が0.0050%を超えると耐疲労特性が低下する傾向となる。従って、Bの含有量は0.0001~0.0050%に限定することが好ましい。なお、さらに好ましくは、Bの含有量は0.0005%以上である。また、さらに好ましくは、Bの含有量は0.0035%以下である。
[0027]
 P:0.019%以下(0%を含む)
 Pは、Mnとの凝固共偏析を介し、塑性歪域での耐疲労特性を低下させるとともに電縫溶接性を劣化させる。Pの含有量が0.019%を超えると悪影響が顕著となるため、0.019%を上限とすることが好ましい。
[0028]
 S:0.015%以下(0%を含む)
 Sは、MnSなどとして鋼中介在物として存在し、塑性歪域での疲労亀裂の起点として耐疲労特性を低下させる。Sの含有量が0.015%を超えるとこの悪影響が顕著となるため、0.015%を上限とすることが好ましい。なお、さらに好ましくはSの含有量は0.005%以下である。
[0029]
 N:0.008%以下(0%を含む)
 Nは、TiとTiNを形成し、粗大な析出物として析出し、固溶Tiを消費する。こうしてNは、Ti添加によって素材熱延鋼板の段階で0.005%以上のTiを固溶Tiとして存在させ、成形加工後の熱処理によって、0.005%以上のTiを粒径20nm以下の微細な析出物として析出し、格段に優れた塑性歪域での耐疲労特性が得られる効果を低下させる。Nの含有量が0.008%を超えるとこの悪影響が顕著となるため、0.008%を上限とすることが好ましい。なお、さらに好ましくは、Nの含有量は0.0049%以下である。
[0030]
 O:0.003%以下(0%を含む)
 Oは、酸化物系介在物として存在し、鋼の耐疲労特性を低下させる。Oの含有量が0.003%を超えるとこの悪影響が顕著となるため、0.003%を上限とすることが好ましい。なお、さらに好ましくは、Oの含有量は0.002%以下である。
[0031]
 Sn:0.10%以下(0%を含む)
 Snは、固溶元素として存在し、鋼の熱間延性を低下させる。Snの含有量が0.10%を超えるとこの悪影響が顕著となるため、0.10%を上限とすることが好ましい。なお、さらに好ましくは、Snの含有量は0.03%以下である。
[0032]
 残部はFeおよび不可避的不純物である。本発明では、さらに、本発明の効果を向上させること等を目的に、つぎの元素を添加することができる。
[0033]
 Nb:0.001~0.15%
 Nbは、炭化物として析出し、熱間圧延工程での回復・再結晶の粒成長を抑制し、所望のフェライト粒径(1~50μm)を得られる効果があり必要に応じて含有できる。Nbの含有量が0.001%未満ではこれらの効果が得られない。一方、Nbの含有量が0.15%を超えると、熱間圧延時の歪誘起析出によって表層部に粗大な析出物が析出し、表層部の微細析出物が減少し、塑性歪域での耐疲労特性が低下するため、0.15%を上限とする。そのためNbを含有する場合には、Nbの含有量を0.001~0.15%とする。なお、さらに好ましくは、Nbの含有量は0.001~0.009%である。
[0034]
 V:0.001~0.15%
 Vは、炭化物として析出し、熱間圧延工程での回復・再結晶の粒成長を抑制し、所望のフェライト粒径(1~50μm)を得られる効果があり必要に応じて含有できる。Vの含有量が0.001%未満ではこれらの効果が得られない。一方、Vの含有量が0.15%を超えると、熱間圧延時の歪誘起析出によって表層部に粗大な析出物が析出し、表層部の微細析出物が減少し、塑性歪域での耐疲労特性が低下するため0.15%を上限とする。そのためVを含有する場合には、Vの含有量を0.001~0.15%とする。なお、さらに好ましくはVの含有量は0.001~0.049%である。
[0035]
 W:0.001~0.15%
 Wは、炭化物として析出し、熱間圧延工程での回復・再結晶の粒成長を抑制し、所望のフェライト粒径(1~50μm)を得られる効果を補完する働きがあり必要に応じて含有できる。Wの含有量が0.001%未満ではこれらの効果が得られない。一方、Wの含有量が0.15%を超えると、熱間圧延時の歪誘起析出によって表層部に粗大な析出物が析出し、表層部の微細析出物が減少し、塑性歪域での耐疲労特性が低下するため0.15%を上限とする。そのためWを含有する場合には、Wの含有量を0.001~0.15%とする。なお、さらに好ましくは、Wの含有量は0.001~0.049%である。
[0036]
 Mo:0.001~0.45%
 Moは、後熱処理時に低温変態強化或いは析出強化により所望の強度を確保させ、塑性歪域での耐疲労特性を向上させる効果を補完する働きがあり必要に応じて含有できる。Moの含有量が0.001%未満では、この効果が発現せず、一方、Moの含有量が0.45%を超えると溶接性が劣化する。従って、Moを含有する場合には、Moの含有量を0.001~0.45%とする。なお、さらに好ましくは、Moの含有量は0.001~0.30%である。
[0037]
 Cu:0.001~0.45%、Ni:0.001~0.45%
 Cu、Niは、Mnの疲労強度を向上させる効果を補完する働きがある元素であると同時に、鋼材の耐食性を高める効果があり、必要に応じてCu、Niをそれぞれ含有できる。これら効果はCu、Niそれぞれ0.001%以上の含有で発現するが、Cu、Niそれぞれ0.45%を超える含有は溶接性を低下させるために、それぞれ0.45%を上限とする。そのためCuを含有する場合には、Cuの含有量を0.001~0.45%とする。また、Niを含有する場合には、Niの含有量を0.001~0.45%とする。なお、さらに好ましくはいずれの元素も0.35%以下である。
[0038]
 Ca:0.0001~0.005%
 Caは、展伸したMnSを粒状のCa(Al)S(O)とする所謂形態制御効果があり、疲労亀裂発生を抑制し、耐疲労特性を向上させる効果があり、必要に応じて含有できる。この効果は0.0001%以上の含有で発現するが、0.005%を超える含有は、非金属介在物の増大によってかえって耐疲労特性が低下するために0.005%を上限とする。そのためCaを含有する場合には、Caの含有量を0.0001~0.005%とする。
[0039]
 Sb:0.0001~0.10%
 Sbは、表面に優先的に偏析し、熱間圧延工程、或いは後熱処理工程での雰囲気からのNの侵入を抑制し、BNの形成によるBの添加効果の減少を抑制する働きがあり、必要に応じて含有できる。この効果は、0.0001%以上の含有で発現するが、0.10%を超えて含有しても効果が飽和するために0.10%を上限とする。そのためSbを含有する場合には、Sbの含有量を0.0001~0.10%とする。なお、さらに好ましくは、Sbの含有量は0.0001~0.030%である。
[0040]
 また、本発明の鋼部材は、後熱処理後の表面から板厚方向200μmまでのフェライト相の平均結晶粒径が1~50μmであり、表面から板厚方向200μmまでのフェライト相中に粒径1.0~20nmのTi炭化物が析出してなる組織を有し、表面から板厚方向200μmまでの平均硬度と、中心偏析部を除く板厚中心近傍の平均硬度の差(絶対値)が、ビッカース硬さ(HV)で、ΔHV50ポイント以下であることが望ましい。
[0041]
 鋼部材のミクロ組織、析出物の析出状態、並びに断面硬度は、優れた塑性歪域での耐疲労特性を確保する上で重要である。後熱処理後の表面から板厚方向200μmまでのフェライト相の平均結晶粒径が50μm超えでは、初期疲労き裂が早く、大きく発生し所望の塑性歪域での耐疲労特性が確保しにくくなる。一方、後熱処理後にフェライト相の平均結晶粒径を1μm未満とすることは工業的、経済的に難しいためこれを下限とした。
[0042]
 なお、ここでいうフェライト相とは体心立方格子の母相鉄を謂い、ポリゴナルフェライト、アシキュラーフェライト、ウィッドマンステッテンフェライト、ベイニティックフェライト、ベイナイト、低炭素(C含有量1%以下)マルテンサイト組織を含むものとする。なお、フェライト相以外の第二相としては、オーステナイト、カーバイド、パーライト、高炭素マルテンサイト(C含有量1%超え)が挙げられる。
 本発明の鋼部材の組織は、上記フェライト相を主相とすることが好ましい。ここで、主相とは、体積率で、51%以上占有する相をいい、80%以上が好ましく、100%であってもよい。
[0043]
 また、表面から板厚方向200μmまでのフェライト相中のTi炭化物寸法は、表面硬度を確保し、高い塑性歪域での耐疲労特性を確保するために重要である。表面から板厚方向200μmまでのフェライト相中に1.0~20nmのTi炭化物が析出することで、疲労初期き裂の発生が抑制され、またその寸法が小さくなり優れた塑性歪域での耐疲労特性をより高めることができる。なお、1.0~20nmのTi炭化物の析出量はここでは特に定めない。また、1.0~20nmのTi炭化物以外に、寸法の異なるTi炭化物が析出していることも許容する。
[0044]
 表面から板厚方向200μmまでの平均硬度と、中心偏析部を除く板厚中心近傍の平均硬度の差がΔHV50ポイント以下であることは、優れた塑性歪域での耐疲労特性を確保する上で重要である。表面から板厚方向200μmまでの平均硬度と、中心偏析部を除く板厚中心近傍の平均硬度の差がΔHV50ポイントを超えると、初期疲労き裂が早く、大きく発生し、所望の塑性歪域での耐疲労特性を確保しにくくなる。このため、表面から板厚方向200μmまでの平均硬度と、中心偏析部を除く板厚中心近傍の平均硬度の差がΔHV50ポイント以下であることが望ましい。
[0045]
 なお、表面から板厚方向200μmまでの平均硬度と、中心偏析部を除く板厚中心近傍の平均硬度の差は、板厚方向50~200μmの間を板厚方向に25μmピッチでマイクロビッカース硬度を荷重0.1kgfで測定し(HV(0.1))、7点を平均した値HV(0.1) Sと、板厚中心部を中心に中心偏析部を避け、板厚方向に25μmピッチでHV(0.1)を7点測定し平均した値HV(0.1) Cの差、HV(0.1) C-HV(0.1) Sとして測定した。
[0046]
(素材熱延鋼板)
 本発明の鋼部材用の熱延鋼板(素材熱延鋼板)は、本発明の鋼部材を得るために特に好適なものである。
 本発明の素材熱延鋼板は、質量%で、Tiを0.031~0.200%含有し、組織中に0.005%以上のTiが固溶Tiとして存在する。これにより、成形加工後、所定の熱処理を施した後に、鋼部材の組織中に0.005%以上のTiを粒径20nm以下の微細な析出物として析出させることができ、塑性歪域での耐疲労特性に優れ、さらに強度特性にも優れる鋼部材を得ることができる。
[0047]
 本発明の素材熱延鋼板の有する組成は、上記鋼部材の有する組成と同様である。
 また、本発明の素材熱延鋼板は、長手方向両端部である先端部および尾端部の板厚が、ともに長手方向両端部以外の中間部(長手方向中央部)の板厚に比べて5~50%厚いことが好ましい。このことにより、コイルドチュービングのように、素材熱延鋼板を所定の幅にスリットした後、長手方向に溶接で繋いで用いる場合の、溶接部の塑性歪域での耐疲労特性が向上する効果が高められる。
[0048]
(製造方法)
 次に、本発明の鋼部材と、その素材となる熱延鋼板の製造方法について説明する。なお、以下の説明において、特に断らない限り、温度は鋼スラブ等の表面温度とする。
 本発明では、上記した組成を有する鋼を鋳造した鋼スラブを出発素材とする。出発素材の製造方法は、とくに限定されず、例えば、上記した組成の溶鋼を転炉等の常用の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の通常の鋳造方法で鋼スラブとする方法等が挙げられる。
[0049]
 まず、本発明の鋼部材の素材となる熱延鋼板(素材熱延鋼板)の製造方法について説明する。
 本発明の素材熱延鋼板は、Tiを0.031~0.200%含有する鋼スラブを所定の条件で熱間圧延することで製造できる。
[0050]
 log([Ti-N×48÷14][C])=-7000/(T Ti(℃)+273)+2.75から計算される平衡固溶温度T Tiよりも高い温度条件でスラブ抽出
 熱間圧延工程におけるスラブ抽出温度は鋼中のTiの再固溶、析出状況を通じて、熱間圧延後の析出物サイズ、固溶Ti量に影響を及ぼし、後熱処理後に良好な耐疲労特性を確保するために重要である。抽出温度が下記(1)式から計算される平衡固溶温度T Ti以下であると、連続鋳造時に析出した粗大なTiが未固溶炭窒化物として残存し、素材熱延鋼板の段階で固溶Ti量が0.005%未満となり、後熱処理後に格段に優れた塑性歪域での耐疲労特性が得られない。下記(1)式から計算される平衡固溶温度T Tiよりも高い温度条件でスラブ抽出することで、素材熱延鋼板の段階で0.005%以上のTiが固溶Tiとして存在し、成形加工後の熱処理によって、0.005%以上のTiを粒径20nm以下の微細な析出物として析出させることができ、格段に優れた塑性歪域での耐疲労特性が得られる。なお、さらに好ましくは結晶粒径の粗大化防止の観点から、スラブ抽出温度は1620K以下であることが好ましく、Tiの固溶状態の均一性と十分な固溶時間の確保の観点からスラブの均熱時間(平衡固溶温度T Tiよりも高い温度でスラブを保持する時間)は10min以上であることが好ましい。
[0051]
log([Ti-N×48÷14][C])=-7000/(T Ti(℃)+273)+2.75 ・・・(1)
ただし、(1)式におけるTi、N、Cは、鋼スラブ中のそれぞれの元素の含有量(質量%)である。
[0052]
 T Ti-400℃以上の仕上げ圧延温度
 熱延仕上げ圧延温度がT Ti-400℃を下回ると、表面近傍部分での上下ロールによる付加的剪断歪、あるいはロールや冷却水による抜熱により歪誘起析出が誘発され、素材熱延鋼板の段階で特に表面近傍(表裏面から200μm以内)に存在する固溶Ti量が0.005%を下回り、後熱処理後に格段に優れた塑性歪域での耐疲労特性が得られない。熱延仕上げ圧延温度をT Ti-400℃以上とすることで、素材熱延鋼板の段階で表面近傍含め0.005%以上のTiが固溶Tiとして存在し、成形加工後の熱処理によって、0.005%以上のTiを粒径20nm以下の微細な析出物として析出させることができ、格段に優れた塑性歪域での耐疲労特性が得られる。
[0053]
 T Ti-400℃からT Ti-500℃までの温度域を10℃/s以上の平均冷却速度で冷却
 T Ti-400℃からT Ti-500℃までの温度域の平均冷却速度が10℃/sを下回ると、TiCが熱延ランナウトからコイリングの過程で析出し、素材熱延鋼板の段階で存在する固溶Ti量が0.005%を下回り、後熱処理後に格段に優れた塑性歪域での耐疲労特性が得られない。T Ti-400℃からT Ti-500℃までの温度域を10℃/s以上の平均冷却速度で急冷することで、素材熱延鋼板の段階で表面近傍含め0.005%以上のTiが固溶Tiとして存在し、成形加工後の熱処理によって、0.005%以上のTiを粒径20nm以下の微細な析出物として析出させることができ、格段に優れた塑性歪域での耐疲労特性が得られる。
[0054]
 T Ti-500℃以下の巻き取り温度
 巻き取り温度がT Ti-500℃を超えると、コイル冷却までの間にTi析出物の析出が促進され、素材熱延鋼板の段階で存在する固溶Ti量が0.005%を下回り、後熱処理後に格段に優れた塑性歪域での耐疲労特性が得られない。巻き取り温度をT Ti-500℃以下とすることで、素材熱延鋼板の段階で表面近傍含め0.005%以上のTiが固溶Tiとして存在し、成形加工後の熱処理によって、0.005%以上のTiを粒径20nm以下の微細な析出物として析出させることで、格段に優れた塑性歪域での耐疲労特性が得られる。なお、前記仕上げ圧延温度、巻き取り温度は、コイル幅中央部の表面温度であり、平均冷却速度は、前記表面温度から求められるものである。
[0055]
 上記の製造方法により、組織中に0.005%以上のTiが固溶Tiとして存在する熱延鋼板(素材熱延鋼板)が得られる。
[0056]
 次に、本発明の鋼部材の製造方法について説明する。
 本発明の鋼部材は、上記素材熱延鋼板に、成形加工を施した後、所定の熱処理を施すことで製造される。成形加工としては、特に限定されないが、例えば、鋼部材が鋼管であれば、造管加工が挙げられる。鋼部材が溶接鋼管であれば、造管加工後に溶接加工を施してもよい。また、例えば、鋼部材が自動車用構造部材等の成形部品であれば、プレス加工等が挙げられる。
 成形加工後、以下の条件で熱処理を施す。
[0057]
 550℃を超え1050℃以下の温度に加熱した後、550~400℃の温度域を10℃/s以上の平均冷却速度で冷却
 素材熱延鋼板に成形加工を施した後、550℃を超え1050℃以下の温度に加熱した後、550~400℃の温度域を10℃/s以上の平均冷却速度で冷却する熱処理を施すことで、0.005%以上のTiが粒径20nm以下の微細な析出物として析出し、格段に優れた塑性歪域での耐疲労特性が得られる。加熱温度が550℃以下であると固溶Tiが20nm以下の微細な析出物として析出せず、格段に優れた塑性歪域での耐疲労特性が得られない。また、加熱温度が1050℃を超えるとフェライト相の粒径が50μmを超え、格段に優れた塑性歪域での耐疲労特性が得られにくくなる。また550~400℃の温度域の冷却速度が10℃/sを下回ると十分な強度(YS≧770MPa)が得られない。なお、加熱温度はさらに望ましくは700~1000℃の範囲である。
[0058]
 また、特に限定されないが、例えば溶接鋼管を製造する場合には、素材熱延鋼板を、黒皮まま、或いは、必要に応じて、酸洗、冷間圧延、焼鈍、めっきのいずれかまたは複数の処理を行った後、スリッティングで所定の板幅とし、コイルを長手方向に1コイル以上溶接接合し、ロール成形或いはプレス成形により概円形断面成形に成形し、端部を高周波電縫溶接、レーザー溶接等の方法により接合し、オンライン或いはオフラインで550℃を超え1050℃以下の温度に加熱後、550~400℃の温度域を10℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、コイル状にまかれた鋼管とする。
 また、例えば成形部品を製造する場合には、素材熱延鋼板を、黒皮まま、或いは、必要に応じて、酸洗、冷間圧延、焼鈍、めっきのいずれかまたは複数の処理を行った後、所定の大きさにブランキングし、部品に成形加工した後、550℃を超え1050℃以下の温度に加熱後、550~400℃の温度域を10℃/s以上の平均冷却速度で冷却する。これにより、0.005%以上のTiが粒径20nm以下の微細な析出物として析出し、格段に優れた塑性歪域での耐疲労特性が得られる。
実施例
[0059]
(実施例1)
 表1に示す組成(鋼種C~L)の鋼スラブを、スラブ表面温度約1220℃、スラブ中心温度約1210℃で加熱炉より抽出し、仕上げ圧延圧下率:91%、コイル幅中央部仕上げ圧延温度約860℃、コイル幅方向最低仕上げ圧延温度約850℃、T Ti-400℃からT Ti-500℃までの温度域を約20℃/sの平均冷却速度で冷却し、巻取り温度約560℃とする熱間圧延を行い素材熱延鋼板(板厚:約5mm、先後端部の板厚は長手中央部に対し約10%厚い)とした(No.3~12)。
 また、表1に示す組成(鋼種A)の鋼スラブを、スラブ表面温度約1250℃、スラブ中心温度約1245℃で加熱炉より抽出したこと以外は、上記と同様にして素材熱延鋼板とし(No.1)、表1に示す組成(鋼種B、M)の鋼スラブを、スラブ表面温度約1335℃、スラブ中心温度約1335℃で加熱炉より抽出し、コイル幅中央部仕上げ圧延温度を約940℃としたこと以外は、上記と同様にして素材熱延鋼板とした(No.2、13)。
[0060]
 次いで、これら素材熱延鋼板に酸洗を施したのち、所定の幅寸法にスリット加工し、連続成形してオープン管とし、該オープン管を高周波抵抗溶接により電縫溶接して、幅絞り率4%で、外径φ50.8mm肉厚約5mmの溶接鋼管を得た。この溶接鋼管全体を連続的に高周波加熱し、加熱温度920℃、保持時間約5秒加熱した後、外面より水でミスト冷却を行い、550~400℃の温度域を約50℃/sの平均冷却速度で冷却する熱処理を施した。
[0061]
 これらの溶接鋼管から試験片を採取し、組織観察試験、析出物、固溶量の定量試験、引張試験、塑性歪域疲労試験、低温靱性試験を実施した。試験方法はつぎの通りとした。
[0062]
(1)組織観察試験
 これら溶接鋼管の円周方向断面が観察面となるように組織観察試験片を採取して、研磨、ナイタール腐食して走査型電子顕微鏡(3000倍)で組織を観察し、EBSD(Electron BackScatter Diffraction)法により隣接粒との傾角15°以上を粒界としてフェライト相の平均粒径を求めた。なお、表面から板厚方向200μmまでの平均粒径として、板厚方向50~200μmの間を50μmピッチで3点を測定し平均した値と、板厚中心部を中心に中心偏析部を避け、板厚方向に50μmピッチで3点を測定平均した値をそれぞれ求めた。
[0063]
(2)析出物、固溶量の定量試験
 これら溶接鋼管から、20mm×30mmの大きさの試料片を切り出し、10%AA系電解液(10vol%アセチルアセトン-1mass%塩化テトラメチルアンモニウム-メタノール)中で、約0.2gを電流密度20mA/cm で定電流電解した。電解後の、表面に析出物が付着している試料片を電解液から取り出して、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液(500mg/l)(以下、SHMP水溶液と称す)中に浸漬し、超音波振動を付与して、析出物を試料片から剥離しSHMP水溶液中に抽出した。次いで、析出物を含むSHMP水溶液を、穴径100nm、20nmの順にフィルタを用いてろ過し、ろ過後のフィルタ上の残渣とろ液に対してICP発光分光分析装置を用いて分析し、フィルタ上の残渣中およびろ液中のTiの絶対量を測定し、粒径100nmを超える析出物、粒径100nm以下20nm超の析出物、粒径20nm以下の析出物に含まれるTiの絶対量Tilp、Timp、Tispをそれぞれ得た。なお、電解質量は、析出物剥離後の試料片の質量を測定し、電解前の試料片の質量から差し引くことで求めた。
[0064]
 固溶状態にあるTi(固溶Ti)は、電解後の電解液を分析溶液とし、ICP質量分析法を用いてTi及び比較元素としてFeの液中濃度を測定した。得られた濃度を基に、Feに対するTiの濃度比をそれぞれ算出し、さらに、試料中のFeの含有率を乗じることで、固溶状態にあるTiの含有率を求めた。なお、試料中のFeの含有率は、Fe以外の組成値の合計を100%から減算することで求めることができる。この析出物、固溶量の定量試験は、後熱処理を施した後の溶接鋼管に加えて、後熱処理を施す前の溶接鋼管についても行った。
[0065]
(3)引張試験
 これら溶接鋼管から、L方向が引張方向となるように、JIS Z 2201の規定に準拠してJIS 12号試験片を切出し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、引張特性(引張強さTS、降伏強さYS、全伸びEl)を求めた。
[0066]
(4)塑性歪域疲労試験
 これら溶接鋼管から、板厚約5mm×板幅5mm、平行部長さ12mmの平行部断面寸法の板状L方向疲労試験片を偏平矯正後に採取し、引張モード、ひずみ制御モード、ひずみ比=0、全ひずみ範囲2.0%、サイクル数0.125Hzの条件で疲労試験を行った。引張最大荷重が初期荷重から25%低下したサイクル数を求め、破断までの繰り返し数とした。
[0067]
(5)低温靭性試験
 これら溶接鋼管から管長手方向(L方向)が試験片長さとなるように展開し、JIS Z 2202の規定に準拠してシャルピー試験片(2mmVノッチ、1/2サイズ)を切出し、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、破面遷移温度を求め、低温靭性を評価した。
[0068]
 また、上述の方法により、表面から板厚方向200μmまでの平均硬度(HV(0.1) S)、中心偏析部を除く板厚中心近傍の平均硬度(HV(0.1) C)を測定し、表面から板厚方向200μmまでの平均硬度と、中心偏析部を除く板厚中心近傍の平均硬度の差ΔHV(HV(0.1) C-HV(0.1) S)を求めた。
 得られた結果を表2に示す。
[0069]
[表1]


[0070]
[表2]


[0071]
 本発明例(No.1~11)は、いずれも上述の塑性歪域疲労試験におけるサイクル数が1000サイクル以上となり、塑性歪域での耐疲労特性に優れる。さらに、本発明例は、いずれもYSが770MPa以上であり強度特性にも優れる。また、本発明例は、いずれもシャルピー破面遷移温度が-30℃以下であり低温靭性にも優れる。一方、鋼の成分組成が本発明の範囲を満たさず粒径20nm以下の析出物として析出したTiが0.005%未満であるNo.12、鋼の成分組成が本発明の範囲を満たさないNo.13は、所望の塑性歪域での耐疲労特性が得られない。
[0072]
(実施例2)
 表1に示す鋼種A、B、Cの成分組成を有する鋼スラブに、表3に示す条件の熱間圧延を施し素材熱延鋼板(板厚:約5mm、先後端部の板厚は長手中央部に対し約10%厚い)とした。ついでこれら素材熱延鋼板に酸洗を施したのち、所定の幅寸法にスリット加工し、連続成形してオープン管とし、該オープン管を高周波抵抗溶接により電縫溶接して、幅絞り率4%で、外径φ50.8mm肉厚約5mmの溶接鋼管を得た。この溶接鋼管全体を連続的に高周波加熱し、表3に示す条件で熱処理を施した。これらの溶接鋼管から試験片を採取し、組織観察試験、析出物、固溶量の定量試験、引張試験、塑性歪域疲労試験、低温靱性試験、ビッカース硬さ測定を実施した。
 なお、No.23については、素材熱延鋼板に酸洗を施したのち、所定の大きさにブランキングし、プレス加工して成形部品としたものに対して、表3に示す条件で熱処理を施した。そして、この成形部品から試験片を採取し、上記各試験を実施した。
[0073]
 得られた結果を表4に示す。なお、表3、表4には、上記No.1~3の結果を併記してある。
[0074]
[表3]


[0075]
[表4]


[0076]
 本発明例(No.21~23)はいずれも、上述の塑性歪域疲労試験におけるサイクル数が1000サイクル以上となり、塑性歪域での耐疲労特性に優れる。さらに、本発明例は、いずれもYSが770MPa以上であり強度特性にも優れる。また、本発明例は、いずれもシャルピー破面遷移温度が-30℃以下であり低温靭性にも優れる。一方、粒径20nm以下の析出物として析出したTi量が本発明の範囲外であるNo.14~20は、所望の塑性歪域での耐疲特性が得られない。

請求の範囲

[請求項1]
 質量%で、Tiを0.031~0.200%含有し、組織中に0.005%以上のTiが粒径20nm以下の析出物として析出している、鋼部材。
[請求項2]
 前記鋼部材は、質量%で、
C:0.19~0.50%、
Si:0.002~1.5%、
Mn:0.4~2.5%、
Al:0.01~0.19%、
Cr:0.001~0.90%、
B:0.0001~0.0050%、
Ti:0.031~0.200%、
P:0.019%以下(0%を含む)、
S:0.015%以下(0%を含む)、
N:0.008%以下(0%を含む)、
O:0.003%以下(0%を含む)、
Sn:0.10%以下(0%を含む)を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する、請求項1に記載の鋼部材。
[請求項3]
 前記組成に加えてさらに、質量%で、
Nb:0.001~0.15%、
V:0.001~0.15%、
W:0.001~0.15%、
Mo:0.001~0.45%、
Cu:0.001~0.45%、
Ni:0.001~0.45%、
Ca:0.0001~0.005%、
Sb:0.0001~0.10%
のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する、請求項2に記載の鋼部材。
[請求項4]
 前記鋼部材が溶接鋼管である、請求項1~3のいずれかに記載の鋼部材。
[請求項5]
 請求項1~4のいずれかに記載の鋼部材用の熱延鋼板であって、
 質量%で、Tiを0.031~0.200%含有し、組織中に0.005%以上のTiが固溶Tiとして存在する、鋼部材用の熱延鋼板。
[請求項6]
 長手方向両端部である先端部および尾端部の板厚が、ともに長手方向中央部の板厚に比べて5~50%厚い、請求項5に記載の鋼部材用の熱延鋼板。
[請求項7]
 請求項1~4のいずれかに記載の鋼部材の製造方法であって、
 質量%で、Tiを0.031~0.200%含有し、組織中に0.005%以上のTiが固溶Tiとして存在する熱延鋼板に成形加工を施した後に、550℃を超え1050℃以下の温度に加熱した後、550~400℃の温度域を10℃/s以上の平均冷却速度で冷却する熱処理を施す、鋼部材の製造方法。
[請求項8]
 前記熱延鋼板を、質量%で、Tiを0.031~0.200%含有する鋼スラブを下記(1)式から計算される平衡固溶温度T Tiよりも高い温度条件でスラブ抽出した後、T Ti-400℃以上の温度で仕上げ圧延を終了し、T Ti-400℃からT Ti-500℃までの温度域を10℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、T Ti-500℃以下の温度で巻き取って製造する、請求項7に記載の鋼部材の製造方法。
log([Ti-N×48÷14][C])=-7000/(T Ti(℃)+273)+2.75 ・・・(1)
ただし、(1)式におけるTi、N、Cは、鋼スラブ中のそれぞれの元素の含有量(質量%)である。
[請求項9]
 請求項5または6に記載の鋼部材用の熱延鋼板の製造方法であって、
 質量%で、Tiを0.031~0.200%含有する鋼スラブを、下記(1)式から計算される平衡固溶温度T Tiよりも高い温度条件でスラブ抽出した後、T Ti-400℃以上の温度で仕上げ圧延を終了し、T Ti-400℃からT Ti-500℃までの温度域を10℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、T Ti-500℃以下の温度で巻き取る、鋼部材用の熱延鋼板の製造方法。
log([Ti-N×48÷14][C])=-7000/(T Ti(℃)+273)+2.75 ・・・(1)
ただし、(1)式におけるTi、N、Cは、鋼スラブ中のそれぞれの元素の含有量(質量%)である。

図面

[ 図 1]