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1. (WO2018181997) カルバペネマーゼ産生菌の検出方法
Document

明 細 書

発明の名称 カルバペネマーゼ産生菌の検出方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005  

先行技術文献

特許文献

0006  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0007   0008  

課題を解決するための手段

0009  

発明の効果

0010  

図面の簡単な説明

0011  

発明を実施するための形態

0012   0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058  

実施例

0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081  

産業上の利用可能性

0082  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8   9  

図面

1   2   3   4   5   6   7   8   9  

明 細 書

発明の名称 : カルバペネマーゼ産生菌の検出方法

技術分野

[0001]
 本発明は、カルバペネマーゼ産生菌の検出方法及び該方法に用いる装置、カルバペネマーゼ産生菌の加水分解性能の判定方法、ならびにカルバペネマーゼ産生菌の阻害剤をスクリーニングする方法に関する。

背景技術

[0002]
 カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)は、重症感染症に対する切り札的治療薬であるカルバペネム系抗生物質を分解して耐性を示すことから、その世界的拡散は大きな問題である。そのため、CPEの検出系を確立することは、臨床医学的に大きな意義があり、これまでにも幾つか報告されている。
[0003]
 例えば、特許文献1は、ディスク拡散法に関するものであり、具体的には、カルバペネム系抗菌薬、フルオロキノロン系抗菌薬及びアミノグリコシド系抗菌薬からなる少なくとも3種の抗菌薬を含有しているディスク試験片と緑膿菌、アシネトバクター属菌などが増殖可能な固体培地を組み合わせて用い、培地上の薬剤拡散領域内のコロニーの有無を目視で観察するのみで、短時間で容易かつ正確に多剤耐性緑膿菌、多剤耐性アシネトバクターなどの多剤耐性菌を検出できることが開示されている。
[0004]
 特許文献2は、微量液体希釈法においてファロペネムとクロキサシリンとを組み合わせた組成物を用いることにより、カルバペネマーゼ産生耐性菌のみが選択的に発育し、カルバペネマーゼ産生耐性菌を簡便かつ正確に検出できることを開示している。
[0005]
 また、カルバペネマーゼの遺伝子に特異的なプライマーを用いてPCRを行って、耐性菌の存在有無を検出する方法もある(例えば、特許文献3参照)。カルバペネマーゼに選択的に切断されうるプローブを接触させて該プローブに結合させた標識を検出する方法(例えば、特許文献4参照)や、特異性のある基質と反応させることで生じた反応混合物のpH変化を指示薬によって評価する方法もある(例えば、特許文献5参照)。

先行技術文献

特許文献

[0006]
特許文献1 : 特開2016-168058号公報
特許文献2 : 特開2016-010399号公報
特許文献3 : 特開2016-146818号公報
特許文献4 : 特表2017-505612号公報
特許文献5 : 特表2014-533951号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0007]
 しかしながら、従来技術は、測定サンプルの調製に煩雑な操作や時間が必要であったり、判定に評価者の熟練度が必要であったりするために、高い感度・特異度で簡便かつ迅速に実施できる新たな系の確立が求められていた。
[0008]
 本発明の課題は、高い感度・特異度で簡便かつ迅速に実施できるカルバペネマーゼ産生菌の検出方法及びカルバペネマーゼ産生菌を検出するための装置、カルバペネマーゼ産生菌の加水分解性能の判定方法、ならびにカルバペネマーゼ産生菌の阻害剤をスクリーニングする方法を提供することに関する。

課題を解決するための手段

[0009]
 本発明は、下記〔1〕~〔9〕に関する。
〔1〕 下記工程を含む、カルバペネマーゼ産生菌の検出方法。
工程1:試料に抗菌薬を添加して培養する工程
工程2:工程1で得られた培養液について、前記抗菌薬の最大吸収の極大波長(Anm)における吸光度(A-Abs)と、該波長から少なくとも40nm高波長側の波長(Bnm)における吸光度(B-Abs)を測定する工程
工程3:工程2で得られた吸光度(B-Abs)を検量線に当てはめブランク吸光度(C-Abs)を算出する工程
工程4:工程2で得られた吸光度(A-Abs)と工程3で得られた吸光度(C-Abs)の差が予め設定された閾値を下回る場合は試料にカルバペネマーゼ産生菌が含まれると判定する工程
〔2〕 波長(Bnm)が波長(Anm)より45~400nm高波長である、前記〔1〕記載の検出方法。
〔3〕 抗菌薬として、イミペネム、パニペネム、メロペネム、ビアペネム、ドリペネム、テビペネム、エルタペネム、又はファロペネムを用いる、前記〔1〕又は〔2〕記載の検出方法。
〔4〕 試料が、ヒト、他の動物の生体由来検体、環境由来検体又は食品由来検体である、前記〔1〕~〔3〕いずれか記載の検出方法。
〔5〕 工程1における培養時間が少なくとも15分である、前記〔1〕~〔4〕いずれか記載の検出方法。
〔6〕 カルバペネマーゼ産生菌が、カルバペネマーゼを産生するグラム陰性菌である、前記〔1〕~〔5〕いずれか記載の検出方法。
〔7〕 分光光度測定装置と、プロセッサ及び前記プロセッサの制御下にあるメモリを備えたコンピュータを含み、前記メモリには、下記の工程:
試料と抗菌薬を添加して培養した培養液について、分光光度測定装置により前記抗菌薬の最大吸収の極大波長(Anm)における吸光度(A-Abs)と、該波長から少なくとも40nm高波長側の波長(Bnm)における吸光度(B-Abs)を測定する工程、
前記で得られた吸光度(B-Abs)を検量線に当てはめブランク吸光度(C-Abs)を算出する工程、及び
前記で得られた吸光度(A-Abs)と吸光度(C-Abs)の差が予め設定された閾値を下回る場合は試料にカルバペネマーゼ産生菌が含まれると判定する工程
を前記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されている、カルバペネマーゼ産生菌の検出装置。
〔8〕 下記工程を含む、カルバペネマーゼ産生菌の加水分解性能の判定方法。
工程1:試料に抗菌薬を添加して培養する工程
工程2:工程1で得られた培養液について、前記抗菌薬の最大吸収の極大波長(Anm)における吸光度(A-Abs)と、該波長から少なくとも40nm高波長側の波長(Bnm)における吸光度(B-Abs)を測定する工程
工程3:工程2で得られた吸光度(B-Abs)を検量線に当てはめブランク吸光度(C-Abs)を算出する工程
工程4:工程2で得られた吸光度(A-Abs)と工程3で得られた吸光度(C-Abs)の差が予め設定された閾値を下回る場合は試料に含まれるカルバペネマーゼ産生菌の加水分解性能が高いと判定する工程
〔9〕 カルバペネマーゼ産生菌に被験物質を作用させたサンプルの波長(Anm)における吸光度(A-Abs)と、該波長から少なくとも40nm高波長側の波長(Bnm)における吸光度(B-Abs)を測定し、該吸光度(B-Abs)を検量線に当てはめブランク吸光度(C-Abs)を算出し、吸光度(A-Abs)と吸光度(C-Abs)の差が予め設定された閾値を上回る場合に被験物質をカルバペネマーゼ産生菌の活性を抑制する物質として選択する、カルバペネマーゼ産生菌の活性を抑制する物質のスクリーニング方法。

発明の効果

[0010]
 本発明によれば、高い感度・特異度で簡便かつ迅速にカルバペネマーゼ産生菌を検出することができる。

図面の簡単な説明

[0011]
[図1] 図1は、各抗菌薬の吸光度スペクトルを測定した結果を示し、図1aは波長220~400nmにおける測定結果を、図1bはイミペネムの濃度と297nmにおける吸光度の相関関係を示す図である。
[図2] 図2は、菌が存在する場合の各抗菌薬のスペクトルを測定した結果を示し、図2aはカルバペネマーゼ産生菌(CPE株)又はカルバペネマーゼ非産生菌(非CPE株)が存在する場合の波長220~400nmにおける測定結果を、図2bは抗菌薬と菌が共存する場合のスペクトルとPBSに菌が存在する場合のスペクトルを各抗菌薬で対比した図である。
[図3] 図3は、細菌混合液中のイミペネムの絶対吸光度を示した図であり、図3aがイミペネムを含む細菌混合液とイミペネムを含まない細菌混合液の吸光度スペクトルから絶対吸光度を模式的に示した図、図3bがイミペネムを含まない細菌混合液の吸光度を差し引いて絶対吸光度のスペクトルを示した図である。
[図4] 図4は、吸光度の測定に調製する溶液を模式的に示す図であり、図4aが細菌とイミペネムを含む溶液(実験溶液)及び細菌のみを同濃度で含む溶液(バックグラウンド)を準備する場合、図4bがバックグラウンド溶液の調製を省略する場合を示す図である。
[図5] 図5は、297nmでのバックグラウンド吸光度(C-Abs)と297nmとは異なる波長での吸光度(B-Abs)の相関関係を示す図であり、図5aは波長350nmでの吸光度(B-Abs)を用いた場合、図5bは波長450nmでの吸光度(B-Abs)を用いた場合、図5cは波長600nmでの吸光度(B-Abs)を用いた場合の相関関係を示す図である。
[図6] 図6は、イミペネムの加水分解率を示す図であり、図6aがCPE株と非CPE株との間で加水分解率を対比した結果(55株)を示し、図6bがCPE株における加水分解性能の高低を示す図である。
[図7] 図7は、CPE株と非CPE株との間で各抗菌薬を用いて加水分解率を対比した結果を示す図である。
[図8] 図8は、イミペネムの加水分解率を示す図であり、図8aがCPE株と非CPE株との間で加水分解率を対比した結果(149株)を示し、図8bがCPE株における加水分解性能の高低を示す図である。
[図9] 図9は、インキュベーションの時間毎にCPE株と非CPE株との間で加水分解率を対比した結果を示す図である。

発明を実施するための形態

[0012]
 本発明は、カルバペネマーゼ産生菌による抗菌薬の加水分解反応を利用したものであり、該抗菌薬が有する特異的な紫外線領域吸収が加水分解により変化することに基づくものである。
[0013]
 従来のカルバペネマーゼ産生菌による加水分解反応を利用する方法としては、カルバペネマーゼの酵素活性を指標としたものが挙げられる。この場合、酵素活性が低いと検出が困難になるため、偽陰性が認められるなど検出感度に問題があった。一方、本願発明は、カルバペネマーゼによって加水分解される抗菌薬について、加水分解に伴って該抗菌薬の紫外線吸収スペクトルが変化することに着目して見出したものである。即ち、該抗菌薬の吸光度を測定する際に、加水分解によって吸光度が変動する波長と、バックグラウンドとして前記波長とは異なる特定の波長をそれぞれ設定し、これらの波長における吸光度を同一サンプルから測定することで、高い感度・特異度で簡便かつ迅速にカルバペネマーゼ産生菌を検出することができるというものである。なお、本明細書において、カルバペネマーゼ産生菌を検出するとは、試料にカルバペネマーゼ産生菌が含まれるか否かを検出するものであって、カルバペネマーゼ産生菌の有無を判定するものであるとも言える。
[0014]
1.カルバペネマーゼ産生菌の検出方法
 本発明の検出方法は、下記工程を含む。
工程1:試料に抗菌薬を添加して培養する工程
工程2:工程1で得られた培養液について、前記抗菌薬の最大吸収の極大波長(Anm)における吸光度(A-Abs)と、該波長から少なくとも40nm高波長側の波長(Bnm)における吸光度(B-Abs)を測定する工程
工程3:工程2で得られた吸光度(B-Abs)を検量線に当てはめブランク吸光度(C-Abs)を算出する工程
工程4:工程2で得られた吸光度(A-Abs)と工程3で得られた吸光度(C-Abs)の差が予め設定された閾値を下回る場合は試料にカルバペネマーゼ産生菌が含まれると判定する工程
[0015]
 工程1では、吸光度測定用の試料を調製する。具体的には、試料に抗菌薬を添加して培養することにより調製することができる。ここで、用いることができる試料としては、カルバペネマーゼ産生菌の有無を検出することから、当該菌が含まれている可能性がある試料を使用することができる。具体的には、ヒト、他の動物の生体由来検体、環境由来検体、食品由来検体が例示される。生体由来検体としては、例えば、尿、血液、喀痰、便などの臨床材料が挙げられる。環境由来検体としては、上下水道内の水や土壌、病院内の設備や医療機器表面(例えば、ベッドサイド柵、床、シンク、人口呼吸装置など)が挙げられる。試料中のカルバペネマーゼ産生菌の濃度は特に限定されない。
[0016]
 前記試料を培地に添加し、カルバペネマーゼ産生菌の培養に適する条件、例えば、pH6.0~8.0、10~42℃の条件下で培養する。培養時間は15分でもよく、精度を向上させる観点からは、下限としては、30分、1時間、1時間30分、2時間が例示される。また、上限としては、迅速性の観点から、6時間、4時間、3時間が挙げられる。なお、培地は公知のものを適宜選択して用いることができる。
[0017]
 また、添加する抗菌薬は、カルバペネマーゼ産生菌によって加水分解され得る抗菌薬であれば特に限定はない。例えば、カルバペネム系抗菌薬、ペネム系抗菌薬が挙げられ、具体的には、イミペネム(IPM)、パニペネム(PAPM)、メロペネム(MEPM)、ビアペネム(BIPM)、ドリペネム(DRPM)、テビペネム(TBPM)、エルタペネム(ETPM)、ファロペネム(FRPM)などが例示される。添加濃度は、カルバペネマーゼ産生菌に接触させた時に加水分解を後述の方法によって検出できる濃度である。具体的には、培養液中に0.1~100μg/mLが例示される。
[0018]
 工程2では、かくして得られた培養液、即ち、吸光度測定用の試料について紫外領域の吸収を測定する。
[0019]
 測定する波長は、工程1で用いた抗菌薬の最大吸収の極大波長である波長(Anm)と、当該波長から少なくとも40nm、好ましくは42nm以上、より好ましくは45nm以上、更に好ましくは50nm以上であり、上限は特に設定されないが、特異度の観点から、好ましくは400nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下、更に好ましくは100nm以下の高波長側の波長(Bnm)である。表1に、抗菌薬について、本発明で設定可能な波長(Anm)と波長(Bnm)の組み合わせの一例を示す。例えば、カルバペネム系抗菌薬としてイミペネムを用いた場合、波長(Anm)は297nmに、波長(Bnm)は350nmに設定することができるが、これに限定されるものではない。なお、波長(Anm)は、予め抗菌薬のみを培養液に溶解したものを測定して極大波長として設定してもよく、公知技術情報から設定してもよい。また、波長(Anm)は、極大波長から多少の乖離、例えば、極大波長±10nm、好ましくは極大波長±5nmの範囲内に設定されてもよく、波長(Anm)と波長(Bnm)が前記した波長分離れていればよい。
[0020]
[表1]


[0021]
 吸光度の測定は、前記した波長における吸光度を測定できるのであれば特に限定されず、例えば、公知の分光光度測定装置を用いて行うことができる。また、波長(Anm)における吸光度(A-Abs)と波長(Bnm)における吸光度(B-Abs)は、同一サンプルについて測定するのであれば、別々に測定しても同時に測定してもよい。本発明では、バックグラウンドとして菌のみが存在する対照液を別途調製しないことから、時間を置くと菌が増殖して吸光度が変動する可能性もあるため、別々に測定する場合は時間差がないことが好ましく、同時に測定することが好ましい。具体的には、例えば、好ましくは5分以内、より好ましくは1分以内である。ここで、同時に測定するとは、時間差なく同時に二波長を測定する態様以外、菌が増殖しない程度の時間差であれば連続して測定する態様も含むものである。
[0022]
 また、本発明においては、波長(Anm)の吸光度に応じて、吸光度測定用の試料を適宜、濃縮あるいは希釈して用いてもよい。濃縮方法、希釈方法は特に制限されず、例えば、室温以下の温度下で減圧して濃縮する方法や培養液を添加して希釈する方法などが例示される。
[0023]
 工程3では、工程2で得られた吸光度(B-Abs)を検量線に当てはめブランク吸光度(C-Abs)を算出する。
[0024]
 ブランク吸光度(C-Abs)とは、前記した波長(Anm)におけるブランク吸光度として、別途作成した検量線を用いて算出することに特徴がある。即ち、本発明では、菌の種類や量、培養液組成などが吸光度測定用の試料によって異なるため、ブランク値が試料によって変動して一概には設定できないところ、吸光度(A-Abs)を測定するのと同一のサンプルにおいて吸光度(B-Abs)を測定して検量線に当てはめることで、ブランク値の影響を受けずにブランク吸光度(C-Abs)を設定できることに一つの特徴を有する。
[0025]
 検量線は次のようにして作成する。先ず、抗菌薬の添加量、菌の種類・量、培養液の種類・量などが予め既知のサンプルを調製し、培養条件などを変更して培養した種々の培養液について、波長(Bnm)における吸光度を測定する。次いで、抗菌薬を添加しない以外は、前記と同じ条件でサンプルを調製し同じ条件で培養した培養液について波長(Anm)における吸光度を測定し、その相関関係をプロットすることで作成することができる。検量線は、例えば、X軸に波長(Bnm)における吸光度、Y軸に波長(Anm)におけるブランク吸光度として作成した場合、良好な直線関係(近似式)を示すものである。なお、検量線は、そのデータが追加更新されて随時、近似式が再算出可能なものである。
[0026]
 かくして得られたブランク吸光度(C-Abs)を用いて、工程4での判定を行う。
[0027]
 工程4では、工程2で得られた吸光度(A-Abs)と工程3で得られた吸光度(C-Abs)の差が予め設定された閾値を下回るか否かによって、下回る場合には工程1で用いた試料がカルバペネマーゼ産生菌を含んでおり、同等もしくは上回る場合は工程1で用いた試料がカルバペネマーゼ産生菌を含んでいないと判定する。
[0028]
 吸光度(A-Abs)と吸光度(C-Abs)の差を予め設定された閾値と対比する。閾値とは加水分解されたか否かを識別する適切なカットオフ値のことであり、当該閾値と前記で得られた吸光度の差を対比することにより、試料に含まれる菌がカルバペネマーゼ産生菌であるか否かを判定できる。
[0029]
 閾値は以下のようにして設定することができる。複数の既知のカルバペネマーゼ産生菌とカルバペネマーゼ非産生菌について前記のようにして吸光度(A-Abs)と吸光度(C-Abs)の差を求め、それらの値から傾向を把握することで設定することができる。例えば、吸光度の差が0.2、好ましくは0.15、より好ましくは0.1として設定することができる。よって、吸光度(A-Abs)と吸光度(C-Abs)の差が、閾値の0.2、好ましくは0.15、より好ましくは0.1よりも下回る場合は、試料にカルバペネマーゼ産生菌が含まれていると判定し、同等もしくは上回る場合は含まれていないと判定することができる。
[0030]
 また、本発明においては、吸光度(A-Abs)と吸光度(C-Abs)の差をそのまま算出した値と閾値との対比から菌の存在有無を確認できるが、判断のしやすさの観点から、関係式に当てはめて算出した数値を判定に用いてもよい。
[0031]
 例えば、吸光度(A-Abs)と吸光度(C-Abs)から、以下の式を用いて抗菌薬の加水分解率を算出して判定を行うこともできる。
 加水分解率(%)=100-[(A-Abs)-(C-Abs)]/[(D-Abs)-(E-Abs)]×100
  A-Abs:工程2で測定された培養液の波長(Anm)における吸光度
  C-Abs:工程3で得られた培養液のブランク吸光度
  D-Abs:工程1と同濃度の抗菌薬含有PBSの波長(Anm)における吸光度
  E-Abs:PBSの波長(Anm)における吸光度
 なお、吸光度(D-Abs)と吸光度(E-Abs)は、吸光度(A-Abs)を測定する際にその都度測定してもよいが、予め測定しておいたデータを用いてもよい。また、ここではPBS(リン酸緩衝液)を用いているが、吸光度(D-Abs)と吸光度(E-Abs)を測定するサンプルが同一の溶液で用いて調製されるのであれば、公知の緩衝液など特に限定されずに用いることができる。
[0032]
 得られた加水分解率を予め設定された閾値と対比する。ここで用いる閾値は、複数の既知のカルバペネマーゼ産生菌とカルバペネマーゼ非産生菌について加水分解率を前記の方法を用いて算出し、それらの値から傾向を把握することで設定することができる。例えば、加水分解率が10%、好ましくは15%、より好ましくは20%を閾値として設定することができる。よって、吸光度(A-Abs)と吸光度(C-Abs)の差から加水分解率を求める場合は、加水分解率が閾値の10%、好ましくは15%、より好ましくは20%と同等もしくは上回る場合は、試料にカルバペネマーゼ産生菌が含まれていると判定し、下回る場合は含まれていないと判定することができる。
[0033]
 なお、閾値は、試料の吸光度を測定する際に別途同時に取得してもよく、事前に取得しておいたものであってもよい。また、試料の加水分解率と比較する際に、それまでに得られた解析結果を随時追加更新して、取得されたものであってもよい。
[0034]
 こうして予め設定された閾値と吸光度又は吸光度から算出された加水分解率とを対比することで、試料がカルバペネマーゼ産生菌を含むか否かを判定することができる。
[0035]
 かくして検出される菌は、カルバペネマーゼ産生菌であれば特に限定はなく、NDM型カルバペネマーゼ産生菌、KPC型カルバペネマーゼ産生菌、OXA型カルバペネマーゼ産生菌、IMP型カルバペネマーゼ産生菌などが挙げられる。具体的には、カルバペネマーゼを産生するグラム陰性菌が挙げられ、肺炎桿菌、大腸菌、エンテロバクター・クロアカエ、エンテロバクター・アエロゲネス、緑膿菌、ビブリオ・コレラ、アシネトバクター属菌、エロモナス属菌などが含まれる。
[0036]
2.カルバペネマーゼ産生菌の加水分解性能の判定方法
 また、前記検出方法において工程4での閾値との対比において、カルバペネマーゼ産生菌の加水分解性能の高低についても評価することができる。具体的には、算出された吸光度の差が小さいほど又は加水分解率が高いほど、試料に含まれるカルバペネマーゼ産生菌の加水分解性能が高いと判定することができ、換言すると、工程2で測定された培養液の波長(Anm)における吸光度が低いほど、カルバペネマーゼ産生菌の加水分解活性が高いことを示唆すると評価することができる。よって、本発明はまた、指標となる波長の吸光度からカルバペネマーゼ産生菌の加水分解性能の高低も判定することができることから、下記工程を含む、カルバペネマーゼ産生菌の加水分解性能の判定方法を提供する。
工程1:試料に抗菌薬を添加して培養する工程
工程2:工程1で得られた培養液について、前記抗菌薬の最大吸収の極大波長(Anm)における吸光度(A-Abs)と、該波長から少なくとも40nm高波長側の波長(Bnm)における吸光度(B-Abs)を測定する工程
工程3:工程2で得られた吸光度(B-Abs)を検量線に当てはめブランク吸光度(C-Abs)を算出する工程
工程4:工程2で得られた吸光度(A-Abs)と工程3で得られた吸光度(C-Abs)の差が予め設定された閾値を下回る場合は試料に含まれるカルバペネマーゼ産生菌の加水分解性能が高いと判定する工程
[0037]
 前記判定方法における工程1~4での具体的な操作や仕様は、本発明の検出方法における項を参照することができる。また、加水分解性能を判定される菌も、本発明の検出方法において検出される菌が挙げられる。
[0038]
3.カルバペネマーゼ産生菌の検出装置
 本発明の検出装置は、分光光度測定装置とプロセッサおよび前記プロセッサの制御下にあるメモリを備えたコンピュータを含み、前記メモリには、下記の工程:
試料と抗菌薬を添加して培養した培養液について、分光光度測定装置により前記抗菌薬の最大吸収の極大波長(Anm)における吸光度(A-Abs)と、該波長から少なくとも40nm高波長側の波長(Bnm)における吸光度(B-Abs)を測定する工程、
前記で得られた吸光度(B-Abs)を検量線に当てはめブランク吸光度(C-Abs)を算出する工程、及び
前記で得られた吸光度(A-Abs)と吸光度(C-Abs)の差が予め設定された閾値を下回る場合は試料にカルバペネマーゼ産生菌が含まれると判定する工程
を前記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されている。
[0039]
 以下に、本発明の方法を実施するのに好適な装置の一例を説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。
[0040]
 本実施形態は、分光光度測定装置と該測定装置に接続されたコンピュータシステムを含んでいる。
[0041]
 測定装置は、試料と抗菌薬を添加して培養した培養液について、例えば、設定した二波長に基づいて吸光度を測定するUV測定装置である。二波長での測定は同時であっても別々に行ってもよい。別々の場合の間隔は特に制限されないが、順次に行うことが好ましい。波長は、後述のコンピュータシステムに使用した抗菌薬の情報を入力することで、自動的に最大吸収の極大波長(Anm)と当該波長から一定波長分高波長側に離れた波長(Bnm)とに設定することもできる。また、測定装置において、試料と抗菌薬を添加した混合液をpH6.0~8.0、10~42℃の条件下で、15分程度の時間(下限としては、30分、1時間、1時間30分、2時間が例示され、上限としては、6時間、4時間、3時間が例示される)培養し、次いで、そのまま吸光度を自動的に測定することもできる。抗菌薬の種類や使用量、波長の設定方法などは本発明の検出方法の項を参照にすることができる。また、試料を入れる容器はUV測定が可能な容器であればよく、例えば、本発明の検出用キットの項を参照にして用いてもよい。得られた吸光度はコンピュータシステムに送信される。
[0042]
 コンピュータシステムは、得られた吸光度に基づいて、試料におけるカルバペネマーゼ産生菌の有無を判定するプログラムを実行する。
[0043]
 カルバペネマーゼ産生菌の有無を判定するプログラムは、得られた吸光度からハードディスク等に記憶された近似式に基づいてブランク吸光度を算出し、次いで、加水分解率を算出する。
[0044]
 その後、ハードディスク等に記載された予め設定された閾値を用いて、試料におけるカルバペネマーゼ産生菌の有無を判定する。判定結果は、別途プリンターに印刷させたり、表示部(ディスプレイ)に表示させることができる。
[0045]
 本発明の検出装置は、分光光度測定装置とコンピュータシステムとが一体化していても、接続可能なものとして別々に構成されていてもよい。また、吸光度測定から判定までが自動化した装置であってもよく、例えば、試料を添加することで判定結果が付随したディスプレイに表示されるような装置であってもよい。
[0046]
 本発明の検出装置の大きさは、特に制限されず、例えば、分光光度測定装置とコンピュータシステムとが一体化した、好ましくは、二波長の吸光度同時測定と判定、その結果表示までが自動化した小型デバイスであってもよく、既存の分光光度測定装置に付設させることが可能なデバイスであってもよい。
[0047]
 また、本発明においては、前記コンピュータに記録されるプログラムとして、
下記の工程:
試料と抗菌薬を添加して培養した培養液について、分光光度測定装置により前記抗菌薬の最大吸収の極大波長(Anm)における吸光度(A-Abs)と、該波長から少なくとも40nm高波長側の波長(Bnm)における吸光度(B-Abs)を測定する工程、
前記で得られた吸光度(B-Abs)を検量線に当てはめブランク吸光度(C-Abs)を算出する工程、及び
前記で得られた吸光度(A-Abs)と吸光度(C-Abs)の差が予め設定された閾値を下回る場合は試料にカルバペネマーゼ産生菌が含まれると判定する工程
をコンピュータに実行させるためのプログラム、あるいは、
下記の工程:
別途分光光度測定装置に測定した、抗菌薬の最大吸収の極大波長(Anm)における吸光度(A-Abs)と、該波長から少なくとも40nm高波長側の波長(Bnm)における吸光度(B-Abs)を用いて、当該吸光度(B-Abs)を検量線に当てはめブランク吸光度(C-Abs)を算出する工程、及び
前記で得られた吸光度(A-Abs)と吸光度(C-Abs)の差が予め設定された閾値を下回る場合は試料にカルバペネマーゼ産生菌が含まれると判定する工程
をコンピュータに実行させるためのプログラムもまた、判定用ソフトとして公知のコンピュータに搭載して使用可能なことから、本発明の一態様として含まれる。
[0048]
 本発明は、以上説明したように、使用する抗菌薬の紫外吸収の変動に基づいて試料に含まれる菌を判定するという原理に基づくものであることから、構造が既知の化合物を用いるのであれば、例えば、β-ラクタマーゼ産生菌の検出についても適用可能であることは、当業者には十分理解できるものである。
[0049]
4.カルバペネマーゼ産生菌の阻害剤のスクリーニング方法
 本発明は添加した抗菌薬の紫外吸収の変化に基づいて菌の存在有無を判定していることから、公知のカルバペネマーゼ産生菌が存在する場合には、添加した化合物が加水分解されるか否かを判定することができ、ひいては、添加した化合物がカルバペネマーゼ産生菌の活性を抑制できるか否かを判定することが可能となる。即ち、本発明はまた、カルバペネマーゼ産生菌を阻害する化合物のスクリーニング方法を提供する。
[0050]
 本発明のスクリーニング方法は、特定の波長における吸光度の変化を指標とし、カルバペネマーゼ産生菌の活性を抑制する物質を候補化合物とするものであり、公知のカルバペネマーゼ産生菌に被験物質を作用させたサンプルの吸光度と作用させないサンプルの吸光度とを比較し、被験物質を作用させたサンプルの吸光度が、作用させないサンプルの吸光度より上回る場合に、被験物質をカルバペネマーゼ産生菌の活性を抑制する物質として選択することができる。
[0051]
 より詳しくは、被験物質を作用させないサンプルの吸光度としては当該サンプルを別途調製するのではなく、本発明では、被験物質を作用させたサンプルの吸光度を測定する際に、別途設定した波長における吸光度を測定することに特徴を有する。具体的には、カルバペネマーゼ産生菌に被験物質を作用させたサンプルの波長(Anm)における吸光度(A-Abs)と、該波長から少なくとも40nm高波長側の波長(Bnm)における吸光度(B-Abs)を測定し、該吸光度(B-Abs)を検量線に当てはめブランク吸光度(C-Abs)を算出し、吸光度(A-Abs)と吸光度(C-Abs)の差が予め設定された閾値、例えば、0.1、好ましくは0.15、より好ましくは0.2を上回る場合に被験物質をカルバペネマーゼ産生菌の活性を抑制する物質として選択することを特徴とする。なお、極大波長(Anm)は予め測定せずとも、当業者の技術常識に基づいて構造から推定して設定後、本発明の検出方法の項を参照して波長(Bnm)を設定してもよい。波長(Anm)における吸光度(A-Abs)と波長(Bnm)における吸光度(B-Abs)の測定後は、本発明の検出方法の項を参照して、ブランク吸光度(C-Abs)を算出することができる。
[0052]
 本発明のスクリーニング方法において使用可能なカルバペネマーゼ産生菌としては、本発明の検出方法において検出され得る菌であれば特に限定されない。使用する菌に基づいて、培養条件などを適宜設定することができる。
[0053]
 吸光度の対比においては、本発明の検出方法において用いた加水分解率の式にあてはめ、加水分解率を算出して対比することもできる。この場合、加水分解率が20%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下の場合、被験物質をカルバペネマーゼ産生菌の活性を抑制する物質として選択することができ、加水分解率が20%を超える被験物質はカルバペネマーゼ産生菌の活性を抑制する物質としては選択することができない。
[0054]
 かくして、カルバペネマーゼ産生菌を阻害する化合物をスクリーニングすることができる。
[0055]
5.カルバペネマーゼ産生菌の検出用キット
 本発明は添加した抗菌薬の紫外吸収の変化に基づいて菌の存在有無を判定していることから、抗菌薬を添加することでその判定を行うことが可能であるとも言える。よって、本発明はまた、抗菌薬を含む、カルバペネマーゼ産生菌の検出用キットを提供する。
[0056]
 本発明のキットとしては、試料を容器に添加することで吸光度測定に提供することが可能になるキットが好ましく、具体的には、例えば、容器(プレート型、カード型、試験管型など)に基質である抗菌薬が予め添加されているものが挙げられる。また、容器はウェルを備えたものであってもよく、抗菌薬が容器あるいは各ウェルの側面及び/又は底面に乾燥固定されたものであってもよい。この場合、抗菌薬を溶解する溶剤(例えば、PBS)等もキットの構成要素として含まれていてもよい。かかるキットは、例えば、ポジティブコントロール用、ネガティブコントロール用、サンプル調製用の各容器を含み、これらの容器は、菌と直接触れるので安全面を考慮して、ディスポーザブルであることが望ましい。また、本発明の検出装置に、適用可能なものであることが好ましい。
[0057]
 抗菌薬としては、本発明の検出方法において添加される抗菌薬を用いることができる。なお、紫外吸収の測定時に培養液中の抗菌薬の濃度が、例えば、0.1~100μg/mLとなるのであれば、キットにおける抗菌薬の濃度は特に限定されず、適宜設定することができる。
[0058]
 また、前記抗菌薬以外には、吸光度測定用の試料調製に使用される材料も含むことができる。具体的には、測定対象となる菌を培養できるのであれば、培地など公知のものを適用することができる。
実施例
[0059]
 以下、実施例によって本発明を詳述するが、これらの実施例は本発明の一例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、イミペネムは和光純薬工業社;メロペネムは東京化成工業社;ドリペネム、ビアペネム、エルタペネム、ファロペネムとPBS(リン酸緩衝液)はSigma Aldrich社から購入したものを用いた。
[0060]
試験例1
 UV透過性96ウェルプレート(Zell-kontakt、Germany)に、各抗菌薬が種々濃度となるようPBS溶液に調製し、コロナプレートリーダーSH-9000(HITACHI、Japan)を用いて、室温(25℃)下、220nm~400nmの波長で分析した(図1a)。
[0061]
 いずれの抗菌薬溶液も250nm~350nmの間の特徴的な吸光度を示し、297nm付近でピーク吸光度を示した。また、スペクトルは1000nmまで分析しても他のピークは同定されなかった。例えば、イミペネム溶液については、297nmでの吸光度(A-Abs)は溶液中濃度と線形関係を示し(図1b)、イミペネムの吸光度から溶液中の存在量を推定することができた。
[0062]
試験例2
 細菌混合液中のイミペネムのスペクトルを測定して、加水分解活性の差がカルバペネマーゼ産生菌(CPE株)とカルバペネマーゼ非産生菌(非CPE株)との間に見出され得るか否かを調べた。具体的には、CPE株(Klebsiella pneumoniae、ATCC BAA-2470株)と非CPE株(Klebsiella pneumoniae、ATCC 4352株)を用い、イミペネムとCPE株を混合させたもの(CPE)、イミペネムと非CPE株を混合させたもの(Non-CPE)、細菌非含有でイミペネムをPBSに溶解させたもの(PBS)について、試験例1と同様にして220nm~400nmのスペクトルを測定した。また、各抗菌薬について、抗菌薬とCPE株を混合させたもの及びPBSにCPE株を懸濁させたものを調製し、200nm~1000nmのスペクトルも測定した。
[0063]
 図2aに示すように、細菌の種類によって異なるベースライン吸光度を示すために、CPE溶液と非CPE溶液との間の297nmでピーク吸光度を比較することは困難であった。また、図2bから、350nm付近より長波長側においては、いずれの抗菌薬も、抗菌薬とCPE株を混合させたもの(抗菌薬+Bac)とPBSにCPE株を懸濁させたもの(PBS+Bac)はスペクトルがほぼ一致することが分かる。
[0064]
試験例3
 細菌の種類が異なることでバックグラウンドが変化すると思われたので、細菌混合液中の「イミペネムの絶対吸光度」について検討した。図3aに示すように、例えば、波長297nmにおいては、イミペネムを含む細菌混合液の吸光度(A点)から、イミペネムを含まない細菌混合液の吸光度(C点)を引くことにより、イミペネムの絶対吸光度が算出できると考えたので、試験例2のサンプルにおいて前記のようにして絶対吸光度を算出した。
[0065]
 図3bより、イミペネムの加水分解は、CPEを含む溶液においてイミペネムの特徴的なスペクトルの消失として明らかに示され、吸光度の差によりCPEの存在有無が検出できることが分かった。一方、非CPE溶液は、例えば、297nmでのピーク吸光度は比較的安定であり、細菌のないイミペネム溶液と同様であった。
[0066]
試験例4
 試験例3の方法では、吸光度の測定に2種類の溶液を調製する必要があった。具体的には、細菌とイミペネムを含む溶液(実験溶液)及び細菌のみを同濃度で含む溶液(バックグラウンド)が必要であった(図4a)。しかし、検出システムへの適用を考慮すると、時間を節約し、システムを単純化するためには、バックグラウンド溶液を準備する手順をスキップすることが理想的であった。また、2種類の溶液における細菌の増殖程度は異なり、バックグラウンド溶液がもはや「バックグラウンド」として使用することができないことが示唆された。よって、図4bに示すように、実験溶液を用いてバックグラウンド吸光度を推定する方法を検討した。
[0067]
 イミペネムの測定においては297nmの吸光度(A-Abs)を指標とすることから、297nmでのバックグラウンド吸光度(C-Abs)と、350nmでの吸光度(B-Abs)との関係に着目して検討した(図3aのB点とC点の関係)。表2に示す株を用いて、これら2種類の吸光度を測定してプロットすると、R 2=0.9987と良好な直線関係を示すことが分かった(図5a)。350nmでの吸光度(B-Abs)は、イミペネムの吸光度の影響を受けず、イミペネムを含まない細菌混合液の代わりに用いることが可能であることが示唆された。また、450nmでの吸光度(B-Abs)からバックグラウンド吸光度(C-Abs)を算出した場合と600nmでの吸光度(B-Abs)からバックグラウンド吸光度(C-Abs)を算出した場合についても同様に検討した結果を図5b、図5cに示すが、いずれも、イミペネムを含まない細菌混合液の代わりに用いることが可能であることが示唆された。なお、表2に示すカルバペネマーゼ型は、NDM:New Delhi Metallo-b-lactamase、KPC:Klebsiella pneumonia Carbapenemase、OXA:Oxacillinase、IMP:Imipenemaseを示す。
[0068]
[表2]


[0069]
試験例5
 試験例4に基づいて、表3に示す公知の55株について加水分解活性を測定した。対照株はATCCから購入したものを用い、その他は研究室で保有するヒトの臨床分離株を用いた。
[0070]
[表3]


[0071]
 具体的には、細菌を寒天プレート上で一晩培養し、コロニーをイミペネム溶液(25μg/mL)100μLに添加し、1.0McFarland標準と同等の濁度となるようにした後、37℃で60分のインキュベーション後、分光光度測定を行った。得られた吸光度から、以下の式を用いて加水分解率を算出した。
 加水分解率(%)=100-[(A-Abs)-(C-Abs)]/[(D-Abs)-(E-Abs)]×100
  A-Abs:297nmにおける吸光度
  C-Abs:試験例4で得られた関係式(350nm)から算出されたブランク吸光度
  D-Abs:抗菌薬含有PBSの波長(297nm)における吸光度
  E-Abs:PBSの波長(297nm)における吸光度
[0072]
 図6aより、加水分解率はCPE株と非CPE株との間で明らかに分離されることが分かる。また、イミペネムのMIC値をcolor scaleを用いて示しているが、CPEの中にはMIC値が低いものも含まれるが、本発明の検出方法を用いることで非CPE株とのカルバペネマーゼ活性の違いが明らかとなっている。また、短時間での加水分解作用が弱いことが知られているOXA型は、他のCPE株よりも比較的低い活性を示すことが確認され、本発明の検出方法はそのような検出にも優れていることが分かった(図6b)。
[0073]
試験例6
 試験例5において用いたカルバペネマーゼ産生菌(CPE株:Klebsiella pneumoniae、ATCC BAA-2470株)とカルバペネマーゼ非産生菌(非CPE株:Klebsiella pneumoniae、ATCC 4352株)について、各抗菌薬を用いて試験例5と同様にして加水分解率を算出した。なお、本試験では、ブランク吸光度を求める近似式は試験例4で作成したイミペネムのものを用い、いずれの抗菌薬も便宜上波長(Anm)を297nm、波長(Bnm)を350nmに設定した。
[0074]
 図7より、いずれの抗菌薬を用いてもCPE株と非CPE株との間で明らかに判別することが可能である。また、同じCPE株間でも、抗菌薬によってカルバペネマーゼ活性が相違することも分かる。また、各抗菌薬の波長(Anm)がそれぞれの極大波長から多少ずれたとしても、波長(Anm)と波長(Bnm)の吸光度をそれぞれ測定することで、判定を簡便に良好な精度で行えることも示唆される。
[0075]
試験例7
 本発明の検出方法が、種々の株に対応しうるか否かを確認した。具体的には、インキュベーション時間を120分に変更する以外は試験例4と同様の方法で、表4に示す株(149株)について加水分解活性を評価した。株は、ATCCから購入、あるいは、研究室で保有するヒトの臨床分離株を用いた。
[0076]
[表4]


[0077]
 図8a及び8bより、株数を増やしても、加水分解率がCPE株と非CPE株との間で明らかに分離されることが確認され、また、活性が弱いOXA型についても十分判別可能であることが明らかである。よって、本発明の検出方法は種々の株に適用しうる優れた検出方法であることが分かった。
[0078]
試験例8
 本発明の検出方法について、試験例7で用いた149株を用いて異なるインキュベーション時間(30、60、120、180分)におけるCPE株と非CPE株との判別性を検討した。具体的には、インキュベーション時間を前記時間に変更する以外は試験例4と同様の方法で加水分解活性を評価した。また、各インキュベーション時間において、加水分解率に関してROC曲線を作成し、カットオフ値を算出した(表5)。
[0079]
[表5]


[0080]
 30分間インキュベーション後のカットオフ値9.43は、98.25%の感度と100%の特異性であり、十分な判定性能を示すものであることが分かる。また、インキュベーション時間が60分、120分、180分では100%の感度と特異性を示すものであり、本発明の検出方法が、判定を良好な特異度と精度で行えることが分かる(図9)。
[0081]
試験例9
 生体試料由来の検体(血液など)を培養して発育したコロニーに、抗菌薬を添加して更に培養する。得られた培養液について、添加した抗菌薬に応じて極大波長(Anm)における吸光度(A-Abs)と、該波長から少なくとも40nm高波長側の波長(Bnm)における吸光度(B-Abs)を測定し、吸光度(B-Abs)からブランク吸光度(C-Abs)を算出する。次いで、吸光度(A-Abs)とブランク吸光度(C-Abs)の差から検体にカルバペネマーゼ産生菌が含まれるか否かを判定する。

産業上の利用可能性

[0082]
 本発明の検出方法により、高い感度・特異度で簡便かつ迅速にカルバペネマーゼ産生菌を検出することができるため、臨床及び院内感染対策上有用である。

請求の範囲

[請求項1]
 下記工程を含む、カルバペネマーゼ産生菌の検出方法。
工程1:試料に抗菌薬を添加して培養する工程
工程2:工程1で得られた培養液について、前記抗菌薬の最大吸収の極大波長(Anm)における吸光度(A-Abs)と、該波長から少なくとも40nm高波長側の波長(Bnm)における吸光度(B-Abs)を測定する工程
工程3:工程2で得られた吸光度(B-Abs)を検量線に当てはめブランク吸光度(C-Abs)を算出する工程
工程4:工程2で得られた吸光度(A-Abs)と工程3で得られた吸光度(C-Abs)の差が予め設定された閾値を下回る場合は試料にカルバペネマーゼ産生菌が含まれると判定する工程
[請求項2]
 波長(Bnm)が波長(Anm)より45~400nm高波長である、請求項1記載の検出方法。
[請求項3]
 抗菌薬として、イミペネム、パニペネム、メロペネム、ビアペネム、ドリペネム、テビペネム、エルタペネム、又はファロペネムを用いる、請求項1又は2記載の検出方法。
[請求項4]
 試料が、ヒト、他の動物の生体由来検体、環境由来検体又は食品由来検体である、請求項1~3いずれか記載の検出方法。
[請求項5]
 工程1における培養時間が少なくとも15分である、請求項1~4いずれか記載の検出方法。
[請求項6]
 カルバペネマーゼ産生菌が、カルバペネマーゼを産生するグラム陰性菌である、請求項1~5いずれか記載の検出方法。
[請求項7]
 分光光度測定装置と、プロセッサ及び前記プロセッサの制御下にあるメモリを備えたコンピュータを含み、前記メモリには、下記の工程:
試料と抗菌薬を添加して培養した培養液について、分光光度測定装置により前記抗菌薬の最大吸収の極大波長(Anm)における吸光度(A-Abs)と、該波長から少なくとも40nm高波長側の波長(Bnm)における吸光度(B-Abs)を測定する工程、
前記で得られた吸光度(B-Abs)を検量線に当てはめブランク吸光度(C-Abs)を算出する工程、及び
前記で得られた吸光度(A-Abs)と吸光度(C-Abs)の差が予め設定された閾値を下回る場合は試料にカルバペネマーゼ産生菌が含まれると判定する工程
を前記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されている、カルバペネマーゼ産生菌の検出装置。
[請求項8]
 下記工程を含む、カルバペネマーゼ産生菌の加水分解性能の判定方法。
工程1:試料に抗菌薬を添加して培養する工程
工程2:工程1で得られた培養液について、前記抗菌薬の最大吸収の極大波長(Anm)における吸光度(A-Abs)と、該波長から少なくとも40nm高波長側の波長(Bnm)における吸光度(B-Abs)を測定する工程
工程3:工程2で得られた吸光度(B-Abs)を検量線に当てはめブランク吸光度(C-Abs)を算出する工程
工程4:工程2で得られた吸光度(A-Abs)と工程3で得られた吸光度(C-Abs)の差が予め設定された閾値を下回る場合は試料に含まれるカルバペネマーゼ産生菌の加水分解性能が高いと判定する工程
[請求項9]
 カルバペネマーゼ産生菌に被験物質を作用させたサンプルの波長(Anm)における吸光度(A-Abs)と、該波長から少なくとも40nm高波長側の波長(Bnm)における吸光度(B-Abs)を測定し、該吸光度(B-Abs)を検量線に当てはめブランク吸光度(C-Abs)を算出し、吸光度(A-Abs)と吸光度(C-Abs)の差が予め設定された閾値を上回る場合に被験物質をカルバペネマーゼ産生菌の活性を抑制する物質として選択する、カルバペネマーゼ産生菌の活性を抑制する物質のスクリーニング方法。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]

[ 図 6]

[ 図 7]

[ 図 8]

[ 図 9]