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1. (WO2018180424) 黒心可鍛鋳鉄及びその製造方法
Document

明 細 書

発明の名称 黒心可鍛鋳鉄及びその製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005   0006   0007  

先行技術文献

特許文献

0008  

非特許文献

0009  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0010   0011   0012  

課題を解決するための手段

0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022  

発明の効果

0023  

図面の簡単な説明

0024  

発明を実施するための形態

0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081   0082   0083   0084   0085   0086   0087   0088  

実施例

0089   0090   0091   0092   0093   0094   0095   0096   0097   0098   0099   0100   0101   0102   0103   0104   0105   0106   0107   0108   0109   0110   0111   0112   0113   0114   0115   0116   0117   0118   0119   0120   0121   0122   0123   0124   0125   0126   0127   0128   0129   0130   0131   0132   0133   0134  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10   11   12  

図面

1   2   3  

明 細 書

発明の名称 : 黒心可鍛鋳鉄及びその製造方法

技術分野

[0001]
 この発明は、黒心可鍛鋳鉄及びその製造方法に関する。

背景技術

[0002]
 鋳鉄は、炭素の存在形態によって、片状黒鉛鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄及び可鍛鋳鉄などに分類することができる。可鍛鋳鉄はさらに、白心可鍛鋳鉄、黒心可鍛鋳鉄及びパーライト可鍛鋳鉄などに分類することができる。
[0003]
 本発明の対象である黒心可鍛鋳鉄は、マレアブル鋳鉄とも呼ばれ、フェライトでなるマトリクス中に黒鉛が分散して存在する形態を有する。黒心可鍛鋳鉄は、片状黒鉛鋳鉄と比べて機械的強度に優れ、マトリクスがフェライトであることから靱性にも優れている。このため、黒心可鍛鋳鉄は、機械的強度が必要とされる自動車部品や管継手などを構成する材料として広く使用されている。
[0004]
 片状黒鉛鋳鉄及び球状黒鉛鋳鉄では、鋳造後の冷却過程で片状又は球状の黒鉛(グラファイト)が析出する。これに対し、黒心可鍛鋳鉄では、鋳造、冷却後の鋳物中の炭素は鉄との化合物であるセメンタイト(Fe C)の形態で存在している。その後、鋳物を720℃以上の温度に加熱、保持することによって、セメンタイトが分解されて黒鉛が析出する。本明細書において、熱処理によって黒鉛を析出させる工程を以下「黒鉛化」という。
[0005]
 黒心可鍛鋳鉄の黒鉛化には極めて長い時間を要する。黒鉛化には、オーステナイト中に遊離したセメンタイトを900℃以上の温度で分解する第1段黒鉛化と、第1段黒鉛化の後に実施され、パーライト中のセメンタイトを720℃前後の温度で分解する第2段黒鉛化とがある。第1段黒鉛化及び第2段黒鉛化のいずれも、マトリクス中の炭素の拡散と黒鉛の析出過程を伴うため、数時間から数十時間を要するのが一般的である。この長時間の黒鉛化は、黒心可鍛鋳鉄の製造コストを増大させる原因となる。
[0006]
 黒鉛化に要する時間を短縮する目的で、従来からさまざまな方法が検討されている。第1の方法は、黒心可鍛鋳鉄の成分を調整したり新たな添加元素を加えたりすることによって、黒鉛化に要する時間を短縮する方法である。例えば、特許文献1には、黒鉛化を促進する元素であるケイ素の含有量を通常の量よりも多くなるように調整すると共に、鋳造前の溶湯にミッシュメタルを添加する黒心可鍛鋳鉄の製造方法が記載されている。この製造方法によれば、ミッシュメタルの添加によって鋳造直後の冷却過程における片状黒鉛の生成が防止されると共に、第1段黒鉛化を2時間、第2段黒鉛化を4時間に短縮できる。
[0007]
 第2の方法は、黒鉛化を行う前に、黒鉛化に要する温度よりも低い温度で熱処理を行う方法である。例えば、特許文献2には、100℃から400℃の低い温度範囲で少なくとも10時間の熱処理を行うことによって、黒鉛化に要する時間を従来よりも短縮できることが記載されている。また、特許文献3には、第2の方法によって第1段黒鉛化及び第2段黒鉛化に要する時間を短縮できることや、黒鉛化を行った後の黒鉛の粒子径が従来よりも小さくなり、かつ、粒子数が増えることが記載されている。

先行技術文献

特許文献

[0008]
特許文献1 : 特公昭46-17421号公報
特許文献2 : 米国特許第2227217号明細書
特許文献3 : 米国特許第2260998号明細書

非特許文献

[0009]
非特許文献1 : 「鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法」、日本工業規格 JIS G 0551、一般財団法人日本規格協会、2013年1月21日改正

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0010]
 上記の第1の方法では、黒鉛化を促進するケイ素の含有量を増やしているので、鋳型の形状や鋳造直後の冷却速度その他の冷却条件によっては、鋳造時及びその後の冷却過程において「モットル」と呼ばれる片状黒鉛を生成しやすくなる。鋳造時に生成したモットルはその後の熱処理によって消失することはなく、黒心可鍛鋳鉄の機械的強度を低下させる原因となる。このため、第1の方法には、工業的な規模で実施するにはリスクが大きいという課題がある。
[0011]
 上記の第2の方法では、黒鉛化に要する温度よりも低い温度で行う熱処理に要する時間が8時間から10時間程度と長い。このため、新たに行う熱処理と、従来からの黒鉛化とを合せた合計の熱処理時間は必ずしも短くならない。したがって、熱処理に要する製造コストを大きく削減することができないという課題があることから、第2の方法も広く普及するには至っていない。
[0012]
 本発明は、上記の諸課題に鑑みてなされたものであり、黒心可鍛鋳鉄の黒鉛化に要する合計の熱処理時間を大幅に短縮することができると共に、鋳造時にモットルが生成される危険性がなく、安定した操業を行うことができる黒心可鍛鋳鉄及びその製造方法を提供することを目的としている。

課題を解決するための手段

[0013]
 本発明は、第1の実施形態において、フェライトのマトリクスと、マトリクスに含まれる塊状黒鉛とを有する黒心可鍛鋳鉄であって、
(i)ビスマスを0.0050質量%以上、0.15質量%以下、及びマンガンを0.020質量%以上;並びに
(ii)アルミニウムを0.0050質量%以上、1.0質量%以下、及び窒素を0.0050質量%以上;
のうちの少なくとも一方を含み、かつ、
 前記マトリクスの結晶粒度が金属組織写真と結晶粒度標準図との比較によって数値化される粒度番号で8.0以上、10.0以下である黒心可鍛鋳鉄の発明である。上記の通りビスマスとマンガンを所定量含有するか、又はアルミニウムと窒素を所定量含有した場合には、塊状黒鉛がマトリクスの結晶粒界の位置に分散して存在しやすくなり、マトリクスの結晶粒度が粒度番号で8.0以上、10.0以下である金属組織が形成されやすい。
[0014]
 好ましい実施の形態において、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄では、前記塊状黒鉛が前記マトリクスの結晶粒界の位置に分散して存在する。前記マトリクスの結晶粒界の位置に塊状黒鉛が分散して存在することによって、マトリクスの結晶粒界の移動と粒成長が妨げられるので、マトリクスの結晶粒径を従来の黒心可鍛鋳鉄に比べて微細化することができる。黒鉛化の工程における炭素原子の拡散による移動距離は、最長でも、マトリクスの結晶粒の中心から結晶粒界の位置までの長さである。その結果、黒鉛化に要する熱処理時間を例えば3時間以下に短縮することができる。
[0015]
 好ましい実施の形態において、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、前記塊状黒鉛の平均粒子径が10マイクロメートル以上、40マイクロメートル以下である。また好ましい実施の形態において、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、断面積1平方ミリメートルあたりの前記塊状黒鉛の粒子数が200個以上、1200個以下である。
[0016]
 好ましい実施の形態において、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、炭素を2.0質量%以上、3.4質量%以下、ケイ素を0.5質量%以上、2.0質量%以下、及び残部として鉄及び不可避的不純物を含有する。より好ましい実施の形態において、炭素を2.5質量%以上、3.2質量%以下、ケイ素を1.0質量%以上、1.7質量%以下含有する。
[0017]
 好ましい実施の形態において、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、更に、ボロンを0質量%超、0.010質量%以下含有する。
[0018]
 本発明は、第2の実施形態において、
炭素を2.0質量%以上、3.4質量%以下、ケイ素を0.5質量%以上、2.0質量%以下、及び
(i)ビスマスを0.0050質量%以上、0.15質量%以下、及びマンガンを0.020質量%以上;並びに
(ii)アルミニウムを0.0050質量%以上、1.0質量%以下、及び窒素を0.0050質量%以上;のうちの少なくとも一方を含み、
残部として鉄及び不可避的不純物を含有する鋳物を鋳造する工程と、前記鋳物を275℃以上、425℃以下の温度で予備加熱する工程と、前記予備加熱の後、前記鋳物を680℃を超える温度で黒鉛化する工程とを有する黒心可鍛鋳鉄の製造方法の発明である。
[0019]
 好ましい実施の形態において、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法は、前記鋳物が、更にボロンを0質量%超、0.010質量%以下含有する。
[0020]
 好ましい実施の形態において、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法は、前記予備加熱する工程において、前記鋳物を275℃以上、425℃以下の温度で予備加熱する時間が30分以上、5時間以下である。
[0021]
 好ましい実施の形態において、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法は、前記黒鉛化する工程において、前記鋳物を680℃を超える温度で黒鉛化する時間が合計で1時間以上、6時間以下である。
[0022]
 好ましい実施の形態において、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法は、前記黒鉛化する工程が、900℃を超える温度で加熱する第1段黒鉛化と、開始温度が720℃以上、800℃以下であり、かつ完了温度が680℃以上、720℃以下である第2段黒鉛化とを含む。

発明の効果

[0023]
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄及びその製造方法によれば、鋳造の工程においてモットルを生成することなく、黒鉛化の工程において黒鉛の拡散による移動距離を短くすることができる。その結果、予備加熱と黒鉛化を合せた合計の熱処理時間を大幅に短縮することができるので、熱処理に要する製造コストを大きく削減することができる。また、マトリクスの結晶粒の微細化により機械的強度が向上する。

図面の簡単な説明

[0024]
[図1] 本発明の実施例の鋳物の金属組織写真である。
[図2] 比較例の鋳物の金属組織写真である。
[図3] 比較例の鋳物の金属組織写真である。

発明を実施するための形態

[0025]
 本発明を実施するための形態につき、図及び表を参照しながら以下に詳細に説明する。なお、ここに記載された実施の形態はあくまで例示にすぎず、本発明を実施するための形態はここに記載された形態に限定されない。
[0026]
<金属組織>
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の金属組織について説明する。
[0027]
 本発明の第1の実施形態において、黒心可鍛鋳鉄はフェライトのマトリクスを有する。本明細書において「フェライト」とは、鉄-炭素系平衡状態図におけるα相をいう。また、本明細書において「マトリクス」とは、黒鉛を除く残域組織であって、合金に含まれる相のうち合金の体積(断面観察においては面積)の大部分を占める主相あるいは母相をいう。具体的には、例えば後記する図1の様な顕微鏡写真を観察したときに、全組織に占めるフェライトが面積比で80%以上であるような場合には、フェライトは、合金の大部分を占める主相あるいは母相であるといえ、本発明におけるマトリクスに該当する。黒鉛化が完了した後のマトリクスは、炭素をほとんど固溶しないフェライトで構成される。よって、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、従来の黒心可鍛鋳鉄と同様靱性に優れている。
[0028]
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、マトリクスに含まれる塊状黒鉛を有する。本明細書において「塊状黒鉛」とは、黒鉛でなる析出相であって、複数の粒状黒鉛が互いに凝集して塊状の集合体を形成した形態を有する析出相をいう。塊状黒鉛は、フェライトのマトリクスに包囲された形で含まれている。
[0029]
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、マトリクスの結晶粒度が金属組織写真と結晶粒度標準図との比較によって数値化される粒度番号で8.0以上、10.0以下である。本明細書において「結晶粒度標準図」とは、さまざまな結晶粒度を有する金属組織の結晶粒界を線図で表した一組の図面をいう。結晶粒度標準図の具体例は、非特許文献1に規定する「鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法」(日本工業規格 JIS G 0551、一般財団法人日本規格協会、2013年1月21日改正)の「附属書B(規定)結晶粒度の測定-結晶粒度標準図」に示されている。上記JISに記載の鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法は、「ISO 643:2012 鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法(Steels-Micrographic determination of the apparent grain size)」、(スイス)、第3版、国際標準化機構(International Organization for Standardization)、2012年、と実質的に同じである。
[0030]
 本明細書において「粒度番号」とは、断面積1平方ミリメートル当たりの平均結晶粒数mを用いて、次の数式で計算されるGの値をいう。例えば、mが16の場合、粒度番号Gは1となる。粒度番号が小さいほど結晶粒度は粗くなり、逆に粒度番号が大きいほど結晶粒度は細かくなる。
[0031]
[数1]


[0032]
 金属組織写真と結晶粒度標準図との比較は、黒心可鍛鋳鉄の金属組織を示す顕微鏡写真と、これと同じ倍率で表示された結晶粒度標準図とを対比し、顕微鏡写真が示す結晶粒度と最も近い結晶粒度を有する結晶粒度標準図の粒度番号を目視で特定することによって行う。比較に際しては、顕微鏡写真に含まれる塊状黒鉛の部分は無視し、フェライトのマトリクスの結晶粒界のサイズのみに着目して結晶粒度標準図との対比を行う。
[0033]
 本明細書において「金属組織写真」とは、金属組織を紙に印刷した顕微鏡写真に限られず、金属顕微鏡に設置されたCCDカメラを使って得られた画像データ等であってもよい。
[0034]
 上記のマトリクスの結晶粒度は、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄に固有のものである。従来技術において、このような金属組織の特徴を有する黒心可鍛鋳鉄を生産できる技術は確立されていなかった。
[0035]
 従来技術に係る黒心可鍛鋳鉄において、塊状黒鉛は必ずしもマトリクスの結晶粒界の位置に存在せず、マトリクスの結晶粒界から離れた中心付近の位置に存在したり、あるいはマトリクスの複数の結晶粒界にまたがって存在したりすることがしばしばあった。また、マトリクスの結晶粒度は粒度番号で7.5以下であることがしばしばあった。このような金属組織である場合、炭素原子は、黒鉛化の工程において塊状黒鉛として析出するまでに、マトリクスを拡散によって長い距離だけ移動しなければならず、場合によっては、マトリクスの複数の結晶粒に跨って移動しなければならなかった。したがって、黒鉛化の工程が完了するまでに数時間から数十時間という長い時間を要していた。
[0036]
 一方、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄では、最終製品、すなわち黒鉛化が完了した後のマトリクスの結晶粒度が粒度番号で8.0以上であり、マトリクスの結晶粒が従来の黒心可鍛鋳鉄に比べて微細である。このような金属組織を有する黒心可鍛鋳鉄では、該黒心可鍛鋳鉄の製造工程において、炭素原子は、最長でも、微細化されたマトリクスの結晶粒の中心から結晶粒界の位置までの長さだけ拡散により移動することによって、結晶粒界の位置に到達し、そこで黒鉛として析出することができる。
[0037]
 また、マトリクスの結晶粒界における炭素原子の拡散速度は、結晶粒内における炭素原子の拡散速度に比べて速い。本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、該黒心可鍛鋳鉄の製造工程において、マトリクスの結晶粒界の位置に存在する塊状黒鉛の析出と成長に必要な炭素原子の供給を、マトリクスの結晶粒界を経由して高速で行うことができる。このようにして、炭素原子の拡散による移動距離を短くし、かつ結晶粒界を拡散経路として利用可能とすることによって、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、従来技術に比べて黒鉛化に要する時間を大幅に短縮することができる。
[0038]
 マトリクスの結晶粒度が粒度番号で8.0以上のときは、黒鉛が析出するまでの炭素原子の拡散による移動距離が短くてすむので、黒鉛化時間を短縮する効果が得られる。マトリクスの結晶粒度は細かければ細かいほどよく、粒度番号の上限はない。しかし、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄において形成することができるマトリクスの結晶粒度の粒度番号は、どんなに大きくても10.0を超えることはない。よって、本発明におけるマトリクスの結晶粒度は粒度番号で8.0以上、10.0以下とする。前記粒度番号は、好ましくは8.5以上である。
[0039]
 好ましい実施の形態において、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、塊状黒鉛がマトリクスの結晶粒界の位置に存在する。本明細書において「塊状黒鉛がマトリクスの結晶粒界の位置に存在する」とは、最終製品としての黒心可鍛鋳鉄の金属組織において、塊状黒鉛が、マトリクスの2つのフェライト結晶粒の間の結晶粒界の位置に存在するか、又は3つのフェライト結晶粒の粒界三重点の位置に存在するか、これらのいずれかの位置に存在することをいう。塊状黒鉛がマトリクスの複数の結晶粒界にまたがって存在することはほとんどない。塊状黒鉛は、その大多数がマトリクスの結晶粒界の位置に存在していればよい。例えば後記する図1の様な顕微鏡写真を観察したときに、写真中の塊状黒鉛の全面積のうちの70面積%以上が、上述したマトリクスの結晶粒界の位置に存在していることが好ましい。上記結晶粒界の位置に存在する塊状黒鉛の割合は、より好ましくは80面積%以上、更に好ましくは90面積%以上、最も好ましくは100面積%である。少数の塊状黒鉛がマトリクスの結晶粒界から離れたマトリクスの結晶粒の中心付近の位置に存在したり、あるいは少数の塊状黒鉛がマトリクスの4つ以上の結晶粒界にまたがって存在したりすることは、本発明において許容される。
[0040]
 また、本明細書において「塊状黒鉛が分散して存在する」とは、塊状黒鉛が、マトリクスの一部の結晶粒の位置に偏って存在するのでなく、マトリクスの多くの結晶粒の位置に万遍なく存在することをいう。言い換えれば、マトリクスの多くの結晶粒において、その結晶粒と周囲の結晶粒との間の結晶粒界の位置に塊状黒鉛が存在することをいう。結晶粒界の位置に塊状黒鉛が存在しない結晶粒は少数である。塊状黒鉛は、マトリクスの多くの結晶粒に存在していればよい。少数の結晶粒において、塊状黒鉛が存在しなかったり、存在したとしてもその位置が結晶粒界ではなく結晶粒の中心付近の位置であったりすることは、本発明において許容される。
[0041]
 マトリクスの結晶粒界の位置に析出物が存在すると、マトリクスとその析出物との間には異相粒界が形成される。一般に、異相粒界の粒界エネルギーは、同一の相の間の結晶粒界の粒界エネルギーに比べて小さい。マトリクスの小さな結晶粒が大きな結晶粒と一体化して粒成長を起こすような場合、結晶粒界の移動が必要となる。しかし、結晶粒界が析出物の位置から離れて移動するためには、異相粒界に代わる新たな結晶粒界を形成しなければならず、析出物が存在しない場合に比べて粒界の移動により多くのエネルギーが必要となる。このため、結晶粒界は移動せずに析出物の位置に固定され、粒成長が妨げられる。このような効果は、析出物による結晶粒界の「ピン止め効果」と呼ばれることがある。
[0042]
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄において、マトリクスの結晶粒界の位置に塊状黒鉛が存在する場合には、黒鉛化の工程におけるマトリクスの粒成長がピン止め効果によって妨げられる。また、塊状黒鉛がマトリクスの結晶粒界の位置に分散して存在する場合には、ピン止め効果はほとんど全ての結晶粒について起こる。その結果として、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄に固有のマトリクスの結晶粒度を有する金属組織が形成されやすくなる傾向がある。
[0043]
 好ましい実施の形態において、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、塊状黒鉛の平均粒子径が10マイクロメートル以上、40マイクロメートル以下である。塊状黒鉛の平均粒子径が10マイクロメートル以上のときは、塊状黒鉛の数が多くなりすぎず、マトリクスの結晶粒界の位置に分散して存在しやすくなる傾向がある。塊状黒鉛の平均粒子径が40マイクロメートル以下のときは、塊状黒鉛の数が少なくなりすぎず、塊状黒鉛の成長に必要な炭素の拡散距離があまり長くならないので、黒鉛化に要する時間を短縮しやすくなる傾向がある。よって、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、塊状黒鉛の平均粒子径が10マイクロメートル以上、40マイクロメートル以下とすることが好ましい。塊状黒鉛の平均粒子径は、より好ましくは12.0マイクロメートル以上、更に好ましくは15.0マイクロメートル以上であり、より好ましくは19.0マイクロメートル以下、更に好ましくは18.5マイクロメートル以下、より更に好ましくは18.0マイクロメートル以下である。
[0044]
 好ましい実施の形態において、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、断面積1平方ミリメートルあたりの塊状黒鉛の粒子数が200個以上、1200個以下である。本発明に係る黒心可鍛鋳鉄に最終的に含まれる黒鉛の体積はほぼ一定なので、塊状黒鉛の平均粒子径が大きいほど粒子数は少なくなり、平均粒子径が小さいほど粒子数は多くなる。塊状黒鉛の粒子数が200個以上のときは、塊状黒鉛の成長に必要な炭素の拡散距離が短くなり、黒鉛化に要する時間を短縮しやすくなる傾向がある。塊状黒鉛の粒子数は多ければ多いほどよく、粒子数の上限はない。しかし、本発明の好ましい実施の形態において形成することができる断面積1平方ミリメートルあたりの塊状黒鉛の粒子数は、どんなに多くても1200個を超えることはない。よって、断面積1平方ミリメートルあたりの塊状黒鉛の粒子数は200個以上、1200個以下とすることが好ましい。断面積1平方ミリメートルあたりの塊状黒鉛の粒子数は、より好ましくは300個以上、更に好ましくは500個以上であり、また、1000個以下であってもよい。
[0045]
 塊状黒鉛の平均粒子径及び断面積1平方ミリメートルあたりの粒子数は、後記する実施例に記載の通り、粒度番号の特定に用いた黒心可鍛鋳鉄の金属組織を示す顕微鏡写真と同じ顕微鏡写真を用いて、スキャナ又はCCDカメラ等を用いて顕微鏡写真の画像をデータ化し、コンピュータ画像解析によって測定する。
[0046]
 なお、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄に関する上記の説明で述べた粒度番号、平均結晶粒径及び粒子数は、いずれも黒鉛化の工程が完了した後の黒心可鍛鋳鉄の金属組織について測定された数値であることに留意すべきである。本発明における結晶粒成長の抑制や黒鉛化に要する時間の短縮などの作用、効果は、主として黒鉛化の工程が進行している途中段階で発現されるものである。しかし、そのような工程の途中段階での金属組織を数値的に評価することは困難である。そこで、便宜上、黒鉛化の工程が完了した後の金属組織における数値で代用する。
[0047]
<合金組成>
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の合金組成について説明する。なお、本明細書において、各元素の含有量はすべて質量百分率を意味する質量%で表示する。
[0048]
 好ましい実施の形態において、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、炭素を2.0質量%以上、3.4質量%以下含有する。炭素の含有量が2.0質量%以上のときは、黒心可鍛鋳鉄の鋳造に使用する溶湯の融点が1400℃以下となるので、溶湯を製造するために原料を高温まで加熱する必要がなく、大規模な溶解設備が不要となる傾向がある。それと同時に溶湯の粘度も低くなるので、溶湯が流れやすくなり、鋳造用鋳型に溶湯を容易に注湯できる傾向がある。炭素の含有量が3.4質量%以下のときは、鋳造時及びその後の冷却過程においてモットルを生成しにくい傾向がある。よって、炭素の含有量は2.0質量%以上、3.4質量%以下とすることが好ましい。より好ましい炭素の含有量は2.5質量%以上、3.2質量%以下である。
[0049]
 好ましい実施の形態において、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、ケイ素を0.5質量%以上、2.0質量%以下含有する。ケイ素の含有量が0.5質量%以上のときは、ケイ素による黒鉛化の促進の効果が得られ、短時間で黒鉛化を完了しやすい傾向がある。ケイ素の含有量が2.0質量%以下のときは、ケイ素による黒鉛化の促進の効果が過剰とならず、鋳造時及びその後の冷却過程においてモットルを生成しにくい傾向がある。よって、ケイ素の含有量は0.5質量%以上、2.0質量%以下とすることが好ましい。より好ましいケイ素の含有量は1.0質量%以上、1.7質量%以下である。
[0050]
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、
(i)ビスマスを0.0050質量%以上、0.15質量%以下、及びマンガンを0.020質量%以上;並びに
(ii)アルミニウムを0.0050質量%以上、1.0質量%以下、及び窒素を0.0050質量%以上;
のうちの少なくとも一方を含む。すなわち、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、上記(i)及び(ii)のうちの少なくとも一方を含み、場合によっては上記(i)及び(ii)の両方を含んでもよい。
[0051]
 上記の通りビスマスとマンガン、アルミニウムと窒素の少なくとも一方の組み合わせを含有させることにより、結晶粒の微細化を図ることができる。ビスマスとマンガンを含有させる場合は、ビスマスを0.0050質量%以上と、マンガンを0.020質量%以上含有させる。ビスマスの含有量は、好ましくは0.0060質量%以上、より好ましくは0.0070質量%以上、更に好ましくは0.0080質量%以上であり、マンガンの含有量は、好ましくは0.10質量%以上である。一方、ビスマスの含有量が多すぎると、モットルが生じる場合がある。よって、ビスマスの含有量は0.15質量%以下、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.050質量%以下、更に好ましくは0.020質量%以下である。
[0052]
 好ましい実施の形態において、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、マンガンの含有量を0.50質量%以下としてもよい。マンガンの含有量が0.50質量%以下のときは、焼鈍を行った後のフェライトでなるマトリックスにパーライトが残存して靱性が低下することを未然に防止したり、黒鉛化が阻害されたりすることが未然に防止される傾向がある。よって、マンガンの含有量は0.50質量%以下が好ましい。マンガンは、硫黄と結合して硫化マンガンを形成すると黒鉛化に影響しないので、溶湯中のマンガンと硫黄とのバランスをとることにより黒鉛化への影響を抑制することができる。キュポラを用いて原料を溶解する場合、燃料のコークスから硫黄が供給される。マンガンの含有量は、より好ましくは0.35質量%以下、更に好ましくは0.30質量%以下である。
[0053]
 また、アルミニウムと窒素を含有させる場合は、アルミニウムを0.0050質量%以上と、窒素を0.0050質量%以上含有させる。アルミニウムの含有量は、好ましくは0.0060質量%以上であり、より好ましくは0.0065質量%以上である。窒素の含有量は、好ましくは0.0060質量%以上、より好ましくは0.0070質量%以上、更に好ましくは0.0080質量%以上である。一方、アルミニウムの含有量が多すぎると、モットルが生じる場合がある。よって、アルミニウムの含有量は1.0質量%以下、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.050質量%以下、更に好ましくは0.020質量%以下である。また、窒素の含有量が多すぎると、黒鉛化を阻害するため、好ましくは0.015質量%以下、より好ましくは0.010質量%以下である。アルミニウムと窒素は、いずれか一方が過剰に含まれている場合、過剰なアルミニウム又は窒素は結晶粒の微細化にあまり寄与しない。窒化アルミニウムを効率よく生成させるためには、アルミニウムの含有量(質量%)が窒素の含有量(質量%)のおよそ2倍であることが好ましい。
[0054]
 上記ビスマスとマンガン、及びアルミニウムと窒素の組み合わせのうち、結晶粒微細化の効果を安定して得る観点からは、上記アルミニウムと窒素を含有させることが好ましい。
[0055]
 好ましい実施の形態において、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、ビスマス及びアルミニウムからなる元素群から選択される1又は2の元素を合計で0.0050質量%以上、1.0質量%以下含有してもよい。
[0056]
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄では、炭素やケイ素などの黒鉛化を促進する元素の含有量を増やすことをしない。また、ビスマス及びアルミニウムの含有量の上限を設定している。その結果、鋳造時及びその後の冷却過程におけるモットルの生成が抑制され、不良品の発生の少ない安定した操業を行うことができる傾向がある。
[0057]
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄において、上述の通り、ビスマスとマンガン、及び/又は、アルミニウムと窒素を所定量含有した場合は、そうでない場合に比べて、粒度番号で8.0以上、10.0以下の結晶粒が微細な金属組織を容易に形成することができる傾向がある。その理由は明らかではないが、おそらくこれらの特定の元素が添加されることによって、黒鉛の析出が促進され、そのことが原因となって、フェライトのマトリクスの結晶粒度が粒度番号で8.0以上、10.0以下である金属組織が形成されるものと推測される。このような金属組織形成のメカニズムは、詳細には、次の通り考えられる。
[0058]
 これまでに得られた比較実験の結果から、黒心可鍛鋳鉄に含まれる微量元素のうち、(i)ビスマスとマンガンを多く含む場合と、(ii)アルミニウムと窒素を多く含む場合に、マトリクスの結晶粒度が顕著に微細化し、ボロンの含有量は結晶粒度にあまり影響しないことを見出した。また、微量元素ではないが、炭素及びケイ素の含有量もマトリクスの結晶粒度にあまり影響しないことを見出した。上記(i)及び(ii)の場合において、マトリクスの結晶粒度が微細になる理由として、以下のメカニズムが考えられる。なお、以下のメカニズムは、得られた実験結果をもとに本発明者らが推測したものであり、本願発明の技術的範囲を限定するものではない。
[0059]
 まず、上記(ii)の通りアルミニウムと窒素を多く含む場合には、予備加熱において微細な窒化アルミニウム(AlN)が分散して析出し、その後の黒鉛化においてこの窒化アルミニウムの微細結晶を核として、窒化アルミニウムと同じ六方晶の黒鉛が微細に析出するのではないかと推測される。
[0060]
 鉄鋼材料では、窒化アルミニウムの析出による二次再結晶の抑制効果が知られている。また、窒化アルミニウムの析出速度は再結晶の速度に比べて温度依存性が少ないことが知られている。このため、比較的低温で温度を保持したときは、再結晶が起こる前に窒化アルミニウムを析出させることができる。一方、昇温速度が速いときは、窒化アルミニウムが析出する前に再結晶が起こって結晶粒が粗大化する。これと同様に、黒心可鍛鋳鉄の黒鉛化においても、低温の予備加熱で窒化アルミニウムが析出することが、本発明におけるマトリクスの結晶粒度の微細化と関係していると考えられる。本発明者らは、一旦予備加熱温度以上に昇温した鋳鉄を予備加熱しても微細化が起きないことを、別途実験で確認しており、この実験結果は上記推測と整合する。
[0061]
 また本発明者らは、アルミニウム及び窒素と共にチタンを添加した試験で、マトリクスの微細化が見られなかったことを別途確認している。この試験でマトリクスが微細化しなかった理由は、窒化アルミニウムよりも安定な窒化チタンが優先的に形成された結果、窒化アルミニウムを形成するための窒素が不足して窒化アルミニウムが形成されなかったためであると推測される。
[0062]
 次に、上記(i)の通りビスマスとマンガンを多く含む場合には、予備加熱温度においてビスマスとマンガンの六方晶金属間化合物が黒鉛の生成核となることが推測される。マンガンは、例えばキュポラで溶解する場合には、鋳鉄中に通常存在する微量元素である。本発明者らは、500℃以上の予備加熱では本発明の効果が得られないことを別途実験で確認しており、この実験結果は、マンガンビスマスが約500℃で分解することと整合する。
[0063]
 なお、上記のビスマス及びアルミニウムの代わりに、例えば、ビスマスと似た性質を有するテルルやアンチモンなどの元素を使用することが考えられる。しかし、これらの元素は人体に対する毒性の疑いがあることが知られている。したがって、本発明におけるビスマス及びアルミニウムの代わりにこれらの元素を添加することはなく、不可避的不純物として含まれる場合であっても、下記に示す不可避的不純物の合計含有量の範囲内に抑えられる。
[0064]
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、更にボロンを0質量%超、0.010質量%以下含有していてもよい。本明細書において、ある元素の含有量が「0質量%を超える」とは、その元素が通常の分析手段によって検出することができる最少の量(例えば0.001質量%など。)以上含まれることを意味する。ボロンを含有させることによって、黒鉛化時間をより短くすることが可能となる。該効果を発揮させるには、ボロンの含有量を、好ましくは0.0025質量%以上、より好ましくは0.0030質量%以上とする。一方、ボロンの含有量が高すぎると、伸びが低下するといった不具合が生じるため、ボロンの含有量は0.010質量%以下であることが好ましい。
[0065]
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、上記の元素のほかに、残部として鉄及び不可避的不純物を含有する。鉄は黒心可鍛鋳鉄の主要元素である。不可避的不純物とは、もともと原料に含まれていた例えばクロム、硫黄、酸素、窒素などの微量金属元素や、製造工程において炉壁から混入する酸化物などの化合物及び溶湯と雰囲気ガスとの反応によって生成される酸化物などの化合物をいう。これらの不可避的不純物は、黒心可鍛鋳鉄に合計で1.0質量%以下含有されていても、その性質を大きく変えることはない。好ましい不可避的不純物の合計の含有量は0.5質量%以下である。
[0066]
<製造方法>
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法について説明する。
[0067]
 本発明の第2の実施形態において、黒心可鍛鋳鉄の製造方法は、炭素を2.0質量%以上、3.4質量%以下、ケイ素を0.5質量%以上、2.0質量%以下、及び
(i)ビスマスを0.0050質量%以上、0.15質量%以下、及びマンガンを0.020質量%以上;並びに
(ii)アルミニウムを0.0050質量%以上、1.0質量%以下、及び窒素を0.0050質量%以上;
のうちの少なくとも一方を含み、
残部として鉄及び不可避的不純物を含有する鋳物を鋳造する工程を有する。ここに規定された各元素の含有量は、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の場合と同様に、鋳造、予備加熱及び黒鉛化の工程を経た最終製品に含まれる含有量を表している。各元素の組成範囲を限定した理由については既に述べたので、ここでは説明を省略する。
[0068]
 上述したビスマス、マンガン、アルミニウム、窒素、炭素、ケイ素、ボロンの含有量は、金属や化合物の形態のものを添加して調製する他、鋼くずの使用や鋳鉄の再利用など、既に上記元素が含まれている原料を用いて調整することができる。よって、鋳物の鋳造に使用する原料は、炭素、ケイ素、ビスマス、アルミニウム、マンガン及び鉄の単体を使用してもよいし、炭素、ケイ素及びアルミニウムについてはそれぞれの元素と鉄との合金などを使用してもよい。上記ビスマス等の酸化物、窒化物、炭化物、ホウ化物、又はこれらの複合化合物などの化合物を使用してもよい。鉄の原料には、上述した鋼くずなどを使用することができる。また上述した鋳鉄の再利用もできる。鉄の原料に鋼くずなどを使用する場合に、炭素及びケイ素については一般の鋼材に既に含まれているので、多くの場合、鋼くずを溶解するだけでこれらの元素を本発明に規定する組成範囲に適合させることができる。鋼くずや再利用する鋳鉄には、上記炭素とケイ素以外に、ビスマス、アルミニウム、マンガンが含まれている場合がある。これら鋼くずや再利用する鋳鉄に、上記ビスマス等の元素が多く含まれている場合、上記ビスマス等の元素を添加することなく、本発明で規定する量のビスマスを含む黒心可鍛鋳鉄を製造することができる。窒素は、大気溶解を行うことで溶鋼中に含まれうるが、不足する場合には更に窒化物等の形態で添加してもよい。
[0069]
 上記の元素のうちビスマス及びアルミニウムは蒸気圧が高く、溶湯の表面から蒸発して失われやすい元素である。したがって、ビスマス及びアルミニウムについては、原料の溶解が始まって鋳造が完了するまでの間や、黒鉛化の過程において含有量が徐々に減少するので、その減少する量を予測して多めに含有することが好ましい。また、ビスマス及びアルミニウムについて、鋳物を鋳造する直前の溶湯に添加してもよい。具体的には、例えば、溶解設備から注湯用の取鍋に溶湯を出湯する際に、ビスマス及びアルミニウムを添加することが好ましい。上記鋳物の化学組成は、最終製品である黒心可鍛鋳鉄の化学組成とほぼ同じである。
[0070]
 原料を溶解して溶湯を準備するには、キュポラ又は電気炉などの公知の手段を使用することができる。本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法において、炭素の含有量は2.0質量%よりも多いので、溶解に必要な温度は1400℃を超えることはない。したがって、1400℃を超える到達温度を有する大規模な溶解設備を必要としない。キュポラで溶解を行う場合、マンガンを不可避的不純物として多く含む原料を用いる場合がある。この場合、マンガンを添加することなく、本発明で規定する量のビスマスとマンガンを含む黒心可鍛鋳鉄を製造することができる。
[0071]
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法は、鋳物を鋳造する工程を有する。本発明に係る製造方法において、鋳造に用いる鋳型には、鋳型砂を成形したものや金型などの公知の鋳型を使用することができる。
[0072]
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法は、鋳物を275℃以上、425℃以下の温度で予備加熱する工程を有する。本明細書において「予備加熱」とは、鋳造された鋳物について、黒鉛化に先立って行われる低温度域での加熱処理をいう。また、本明細書で示す予備加熱の温度や後記する黒鉛化の温度は、鋳鉄の中心付近の温度である。予備加熱の温度が275℃以上、425℃以下のときは、塊状黒鉛がマトリクスの結晶粒界の位置に分散して存在しやすく、マトリクスの結晶粒度が粒度番号で8.0以上、10.0以下であるような本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の金属組織形成が形成され、黒鉛化時間の短縮の効果が得られる。よって、予備加熱の温度は275℃以上、425℃以下とする。前記予備加熱の温度は、好ましくは300℃以上、より好ましくは320℃以上であり、好ましくは420℃以下、より好ましくは410℃以下である。予備加熱は、前記鋳造し、室温まで冷却して得られた鋳物に対して行う。鋳造後に冷却した鋳型をばらすことによって、鋳物が得られる。
[0073]
 本明細書において「鋳物を275℃以上、425℃以下の温度で予備加熱する」とは、鋳物の温度を275℃以上、425℃以下の温度範囲に含まれる一定の温度に保持する場合と、鋳物の温度を低温から高温に変化させる過程で275℃以上、425℃以下の温度範囲を通過する場合と、の双方を含むものとする。尚、どちらの場合にも、上記275℃以上、425℃以下の温度範囲内で、温度が低下することや上記の通り上昇することを許容し得る。
[0074]
 予備加熱において、鋳物の温度を上述の通り低温から高温に変化させる場合、275℃以上、425℃以下の温度範囲の平均昇温速度は、3.0℃/分以下であることが好ましく、より好ましくは2.8℃/分以下、更に好ましくは2.5℃/分以下である。
[0075]
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法のように、黒鉛化前の鋳物に予備加熱を施した場合は、そうでない場合に比べて、粒度番号で8.0以上、10.0以下の結晶粒が微細な金属組織を容易に形成することができる。その理由として、上述したメカニズムが考えられる。先に引用した特許文献3にも記載されているように、本発明における予備加熱の温度はセメンタイトの分解が始まる温度よりも低いので、予備加熱を行った後、黒鉛化の前の金属組織に黒鉛の析出のような明確な変化は認められない。上述したメカニズムの通り、予備加熱を行うことによって鋳物に金属組織学上の変化が生じ、その変化に起因して黒鉛化後に本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の金属組織が形成されるものと推測される。
[0076]
 好ましい実施の形態において、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法は、予備加熱する工程において、鋳物を275℃以上、425℃以下の温度で予備加熱する時間が30分以上、5時間以下である。予備加熱する時間が30分以上のときは、予備加熱による効果が得られやすい傾向がある。予備加熱する時間が5時間以下のときは、黒鉛化と合せた合計の熱処理時間を短縮することができる。よって、予備加熱する時間は30分以上、5時間以下が好ましい。予備加熱する時間のより好ましい上限は3時間以下である。
[0077]
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法は、予備加熱の後、680℃を超える温度で鋳物を黒鉛化する工程を有する。前記予備加熱の後、予備加熱の温度から黒鉛化の温度まで昇温するか、室温まで一旦冷却させた後に黒鉛化の温度まで昇温すればよい。本発明に係る製造方法において、黒鉛化を行う手段には、ガス燃焼炉や電気炉などの公知の熱処理炉を使用することができる。
[0078]
 黒鉛化は黒心可鍛鋳鉄の製造方法に特有な工程である。黒鉛化の工程では、予備加熱後の製品を680℃を超え、さらにA1変態点に相当する720℃を超える温度に加熱することによってセメンタイトを分解して黒鉛を析出させるとともに、オーステナイトでなるマトリクスを冷却することによってフェライトに変態させ、鋳物に靱性を付与することができる。鋳物を黒鉛化する工程は、最初に行う第1段黒鉛化と、第1段黒鉛化の後に行う第2段黒鉛化とに分かれる。黒鉛化する工程は、好ましくは、900℃を超える温度で加熱する第1段黒鉛化と、開始温度が720℃以上、800℃以下であり、かつ完了温度が680℃以上、720℃以下である第2段黒鉛化とを含む。
[0079]
 第1段黒鉛化は、900℃を超える温度域でオーステナイト中のセメンタイトを分解して黒鉛を析出させる工程である。第1段黒鉛化において、セメンタイトの分解によって生成した炭素は、塊状黒鉛の成長に寄与する。第1段黒鉛化を行う温度は950℃以上、1100℃以下が好ましい。より好ましい温度範囲は980℃以上、1030℃以下である。
[0080]
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法において、第1段黒鉛化を行う時間は、本発明の効果により従来技術に比べて大幅に短縮することができる。実際の時間は、焼鈍炉の大きさや、処理を行う鋳物の量などによって適宜定めることができる。第1段黒鉛化に必要な時間は、従来技術においては数時間以上を要していたのに対し、本発明においては長くても3時間、典型的には1時間以下で足り、条件によっては30分を超えて45分以下で完了させることも可能である。
[0081]
 第2段黒鉛化は、第1段黒鉛化を行う温度よりも低い温度域でパーライト中のセメンタイトを分解して黒鉛とフェライトを析出させる工程である。第2段黒鉛化は、塊状黒鉛の成長を促し、オーステナイトからフェライトへの変態を確実に行わせるために、第2段黒鉛化開始温度から第2段黒鉛化完了温度まで徐々に温度を低下させながら行うことが好ましい。第2段黒鉛化開始温度から第2段黒鉛化完了温度までの平均冷却速度は、1.5℃/分以下とすることがより好ましく、更に好ましくは1.0℃/分以下である。尚、塊状黒鉛の成長とフェライトへの変態の観点からは、上記平均冷却速度は遅いほど好ましいが、生産性確保の観点から、上記平均冷却速度の下限は0.20℃/分程度とするのがよい。
[0082]
 第2段黒鉛化開始温度は720℃以上、800℃以下が好ましい。第2段黒鉛化開始温度のより好ましい温度範囲は740℃以上、780℃以下である。第2段黒鉛化完了温度は680℃以上、720℃以下の温度で、第2段黒鉛化開始温度よりも低い温度が好ましい。第2段黒鉛化完了温度のより好ましい温度範囲は690℃以上、710℃以下である。
[0083]
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法において、第2段黒鉛化を行う時間は、本発明の効果により従来技術に比べて大幅に短縮することができる。実際の時間は、焼鈍炉の大きさや、処理を行う鋳物の量などによって適宜定めることができる。第2段黒鉛化に必要な時間は、従来技術においては第1段黒鉛化と同様数時間以上を要していたのに対し、本発明においては長くても3時間、典型的には1時間以下で足り、条件によっては30分を超えて45分以下で完了させることも可能である。
[0084]
 好ましい実施の形態において、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法は、黒鉛化する工程において、鋳物を680℃を超える温度で黒鉛化する時間が合計で30分以上、6時間以下である。本明細書において「鋳物を680℃を超える温度で黒鉛化する時間」とは、鋳物の温度を上記の第1黒鉛化の温度に保持する時間と、第2黒鉛化の温度に保持する時間との合計の時間である。上記黒鉛化する時間の合計は、5時間以下であることが好ましく、より好ましくは3時間以下である。上記時間は、鋳物の中心付近が上記温度範囲となってからの時間である。
[0085]
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法は、上述した組織と化学組成を有する黒心可鍛鋳鉄を製造する方法である。本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法で製造された黒心可鍛鋳鉄、特に黒鉛化する工程を経た後の黒心可鍛鋳鉄は、フェライトのマトリクスと、マトリクスに含まれる塊状黒鉛とを有し、上述した量のビスマスとマンガン、及び/又はアルミニウムと窒素を含み、マトリクスの結晶粒度が金属組織写真と結晶粒度標準図との比較によって数値化される粒度番号で8.0以上、10.0以下である。また好ましい実施の形態において、塊状黒鉛の平均粒子径が10マイクロメートル以上、40マイクロメートル以下である。
[0086]
 <その他>
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の金属組織に対する合金組成及び製造方法の影響について説明する。
[0087]
 本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、フェライトのマトリクスと、マトリクスに含まれる塊状黒鉛とを有し、マトリクスの結晶粒度が金属組織写真と結晶粒度標準図との比較によって数値化される粒度番号で8.0以上、10.0以下であることを金属組織の特徴として有している。また、(i)ビスマスを0.0050質量%以上、0.15質量%以下、及びマンガンを0.020質量%以上;並びに(ii)アルミニウムを0.0050質量%以上、1.0質量%以下、及び窒素を0.0050質量%以上;のうちの少なくとも一方を含むことを成分の特徴として有している。これらの特徴は、第1の実施形態における本発明を特定するために必要と認められる事項のうち最小限のものである。
[0088]
 上記の特徴を備えた黒心可鍛鋳鉄を生産するためには、製造方法に関して鋳物を275℃以上、425℃以下の温度で予備加熱する工程を有することが必要である。この条件は、本発明を実施可能とするために必要な条件である。また、合金組成に関して上述の通り(i)ビスマスを0.0050質量%以上、0.15質量%以下、及びマンガンを0.020質量%以上;並びに(ii)アルミニウムを0.0050質量%以上、1.0質量%以下、及び窒素を0.0050質量%以上;のうちの少なくとも一方を含むようにする。
実施例
[0089]
<第1の実施例>
 第1の実施例では、一定量以上のビスマスの有無と予備加熱の有無が組織に及ぼす影響について検討した。炭素を3.0質量%、ケイ素を1.5質量%、鉄及び不可避的不純物を残部として含有するように配合された溶湯を700kgだけ取鍋に分注し、ビスマスを210g(0.030質量%)添加、攪拌した後、直ちに鋳型に注湯して鋳物を鋳造した。得られた鋳物には、上記量の炭素とケイ素の他、ビスマスが0.01質量%と、原料に由来するマンガンが0.35質量%含まれていた。
[0090]
 次に、鋳造した鋳物を400℃で1時間予備加熱した後室温まで冷却し、室温から980℃まで1.5時間かけて昇温して1時間保持し、第1段黒鉛化を行った。以下、第2~6の実施例においても、予備加熱を行った場合は、予備加熱した後室温まで冷却し、室温から黒鉛化の温度まで1.5時間から2時間までの時間をかけて昇温させた。続いて、鋳物の温度を760℃まで冷却した後、760℃から720℃までを1時間かけて冷却しながら第2段黒鉛化を行い、実施例1の黒心可鍛鋳鉄の試料を作製した。
 尚、第1~6の実施例において、鋳物の温度は熱電対を用いて測定した。該測定は、鋳物の中心付近に熱電対の温度検知部を配設して行った。
[0091]
 得られた試料の切断面を研磨し、粒界をナイタールでエッチングした後、光学顕微鏡で切断面の金属組織を観察し、光学顕微鏡に設置されたCCDカメラで金属組織写真を撮影した。撮影された金属組織写真を図1に示す。図1に示されたスケールバーの長さは200マイクロメートルである。尚、第1~6の実施例において、いずれの例も、全組織に占めるフェライトの面積比は80%以上であった。
[0092]
 図1に示すように、実施例1の黒心可鍛鋳鉄の金属組織では、多くの塊状黒鉛がマトリクスの2つのフェライト結晶粒の間の結晶粒界の位置に存在するか、又は3つのフェライト結晶粒の粒界三重点の位置に存在するか、これらのいずれかの位置に存在していた。塊状黒鉛がマトリクスの4つ以上の結晶粒界にまたがって存在することはほとんどなかった。
[0093]
 また、塊状黒鉛がマトリクスの一部の結晶粒の位置に偏って存在するのでなく、マトリクスの多くの結晶粒の位置に万遍なく存在していた。マトリクスの多くの結晶粒において、その結晶粒と周囲の結晶粒との間の結晶粒界の位置に塊状黒鉛が存在し、結晶粒界の位置に塊状黒鉛が存在しない結晶粒は少数であった。すなわち、塊状黒鉛がマトリクスの結晶粒界の位置に分散して存在していた。
[0094]
 次に、図1に示す金属組織写真と非特許文献1の結晶粒度標準図との比較によって、フェライトのマトリクスの結晶粒度を測定した。比較に際しては、金属組織写真に含まれる塊状黒鉛の部分は無視し、フェライトのマトリクスの結晶粒界のサイズのみに着目して比較を行った。その結果、マトリクスの結晶粒度は粒度番号で9.5であった。
[0095]
 次に、図1に示す金属組織写真の画像データを画像処理ソフトウェア(株式会社イノテック製、Quick Grain Pad+)を用いて二値化した後、塊状黒鉛の粒子径及び粒子数を測定した。測定に際しては、金属組織に含まれる塊状黒鉛以外の微量不純物を誤って測定しないように、粒径が10マイクロメートル以下の析出物は測定の対象から除外した。測定の結果得られた塊状黒鉛の平均粒子径は15.1マイクロメートル、断面積1平方ミリメートルあたりの塊状黒鉛の粒子数は1023個であった。
[0096]
<比較例1>
 第1の実施例で鋳造した鋳物と同一条件で鋳造した鋳物を、予備加熱を行うことなく室温から980℃まで5時間かけて昇温して3時間保持し、第1段黒鉛化を行った。続いて、鋳物の温度を760℃まで冷却した後、760℃から720℃までを3時間かけて冷却しながら第2段黒鉛化を行い、比較例1の黒心可鍛鋳鉄の試料を作製した。実施例1と同様の方法によって比較例1の試料について撮影された金属組織写真を図2に示す。
[0097]
 図2に示すように、比較例1の黒心可鍛鋳鉄の金属組織では、多くの塊状黒鉛が大きな塊を形成し、塊状黒鉛の中にはマトリクスの4つ以上の結晶粒界にまたがって存在しているものもあった。また、多くの塊状黒鉛が、マトリクスの一部の結晶粒の位置に偏って存在し、結晶粒界の位置に塊状黒鉛が存在しない結晶粒が多数見られた。
[0098]
 次に、第1の実施例と同じ方法でフェライトのマトリクスの結晶粒度を測定したところ、マトリクスの結晶粒度は粒度番号で7.5であった。また、第1の実施例と同じ方法で計測した塊状黒鉛の平均粒子径は25.2マイクロメートル、断面積1平方ミリメートルあたりの粒状黒鉛の粒子数は352個であった。
[0099]
<比較例2>
 第1の実施例で準備した溶湯と同じ溶湯を700kgだけ取鍋に分注し、他の元素を添加することなく直ちに鋳型に注湯して鋳物を鋳造した。この場合、鋳物中のビスマス、アルミニウム及び窒素は、いずれも本発明で規定する範囲を下回っていた。次に、鋳造した鋳物を、予備加熱を行うことなく室温から980℃まで5時間かけて昇温して3時間保持し、第1段黒鉛化を行った。続いて、鋳物の温度を760℃まで冷却した後、760℃から720℃まで3時間かけて冷却しながら第2段黒鉛化を行い、比較例2の黒心可鍛鋳鉄の試料を作製した。実施例1と同様の方法によって比較例2の試料について撮影された金属組織写真を図3に示す。
[0100]
 図3に示すように、比較例2の黒心可鍛鋳鉄の金属組織では、多くの塊状黒鉛が巨大な塊を形成し、中にはマトリクスの結晶粒径の大きさを超える粒子径を有する塊状黒鉛も存在した。また、多くの塊状黒鉛がマトリクスの4つ以上の結晶粒界にまたがって存在していた。多くの塊状黒鉛が、マトリクスの一部の結晶粒の位置に偏って存在し、結晶粒界の位置に塊状黒鉛が存在しない結晶粒が多数見られた。第1の実施例と同じ方法でフェライトのマトリクスの結晶粒度を測定したところ、マトリクスの結晶粒度は粒度番号で7.0であった。また、第1の実施例と同じ方法で塊状黒鉛の平均粒子径と断面積1平方ミリメートルあたりの粒状黒鉛の粒子数を計測したところ、塊状黒鉛の平均粒子径は48.3マイクロメートル、断面積1平方ミリメートルあたりの粒状黒鉛の粒子数は73個であった。
[0101]
 上述の第1の実施例によれば、ビスマスとマンガンを一定量以上併せて含有し、黒鉛化の前に予備加熱を行った本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、塊状黒鉛がマトリクスの結晶粒界の位置に分散して存在し、マトリクスの結晶粒度が金属組織写真と結晶粒度標準図との比較によって数値化される粒度番号で8.0以上、10.0以下である本発明に係る黒心可鍛鋳鉄に固有の金属組織が形成されることがわかる。また、この金属組織は、わずか1時間という短時間の予備加熱を行うことによって形成することができ、それによって黒鉛化に要する時間を従来技術に比べて大幅に短縮できることがわかる。
[0102]
<第2の実施例>
 第2の実施例では、ビスマスとマンガン及び/又はアルミニウムと窒素の含有量が組織に及ぼす影響について検討した。炭素を3.0質量%、ケイ素を1.5質量%、鉄及び不可避的不純物を残部として含有するように配合された溶湯を700kgだけ取鍋に分注し、表1に示す添加元素を添加、攪拌した後、直ちに鋳型に注湯して実施例2及び3の鋳物を鋳造した。比較例3の鋳物については添加元素を添加しなかった。尚、これらの鋳物には、更に、原料に由来する、マンガンが0.35質量%と不溶性窒素が0.007質量%が含まれていた。また鋳物には、添加元素を意図的に添加しない場合でも、下記表1の合金組成に示す量の、原料に起因するビスマス、アルミニウム、ボロンがそれぞれ含まれていた。上記不溶性窒素の量は、電解抽出法によって測定した。ビスピラゾロン吸光光度法で測定した可溶性窒素量はおよそ0.003質量%であり、上記可溶性窒素と上記不溶性窒素を合わせたトータルの窒素量はおよそ0.01質量%であった。
[0103]
 次に、鋳造した鋳物を400℃で5時間予備加熱した後、980℃まで昇温して3時間保持し、第1段黒鉛化を行った。続いて、鋳物の温度を760℃まで冷却した後、760℃から720℃までを3時間かけて冷却しながら第2段黒鉛化を行い、黒心可鍛鋳鉄の試料を作製した。得られた試料の合金組成について化学分析を行った。分析値のうち、残部の鉄及び不可避的不純物を除く元素の分析値を表1に示す。
[0104]
[表1]


[0105]
 次に、得られた試料の切断面を研磨し、粒界をナイタールでエッチングした後、光学顕微鏡で切断面の金属組織を観察した。塊状黒鉛の分布状態を評価した結果と、第1の実施例と同じ方法でマトリックスの結晶粒度を粒度番号で測定した結果を、それぞれ表2に示す。表2で「YES」と記載されている実施例2及び実施例3の試料では、塊状黒鉛がマトリクスの結晶粒界の位置に分散して存在していた。表2で「NO」と記載されている比較例3の試料では、多くの塊状黒鉛がマトリクスの4つ以上の結晶粒界にまたがって存在していた。また、多くの塊状黒鉛がマトリクスの一部の結晶粒の位置に偏って存在し、結晶粒界の位置に塊状黒鉛が存在しない結晶粒が多数見られた。
[0106]
[表2]


[0107]
 次に、黒心可鍛鋳鉄の試料から引張強度試験用の試験片を切り出し、引張強度試験機を用いて試験片の引張強度を測定した。得られた引張強度及び伸びの値をそれぞれ表2に示す。上述の第2の実施例によれば、ビスマスとマンガン、及び/又はアルミニウムと窒素を一定量以上含む実施例2及び3の黒心可鍛鋳鉄の試料では、塊状黒鉛がマトリクスの結晶粒界の位置に分散して存在し、マトリクスの結晶粒度が金属組織写真と結晶粒度標準図との比較によって数値化される粒度番号で8.0以上、10.0以下である本発明に固有の金属組織を形成できることがわかる。また、これらの試料では、ビスマスやアルミニウムを添加していない比較例3の試料に比べて引張強度試験における伸びが増加することがわかる。
[0108]
<第3の実施例>
 第3の実施例では特に、ビスマスとマンガン及び/又はアルミニウムと窒素の含有と、ボロンの含有が組織に及ぼす影響について検討した。炭素を2.7質量%、ケイ素を1.1質量%、鉄及び不可避的不純物を残部として含有するように配合された溶湯を700kgだけ取鍋に分注し、表3に示す添加元素を添加、攪拌した後、直ちに鋳型に注湯して実施例4乃至6及び比較例4の鋳物を鋳造した。比較例5の鋳物については添加元素を添加しなかった。尚、得られた鋳物にはいずれも、下記表1に示す元素の他、原料に由来するマンガンと窒素が、本発明で規定する範囲内で含まれていたと推測される。
[0109]
 次に、鋳造した鋳物を400℃で5時間予備加熱した後、980℃まで昇温して3時間保持し、第1段黒鉛化を行った。続いて、鋳物の温度を760℃まで冷却した後、760℃から720℃までを3時間かけて冷却しながら第2段黒鉛化を行い、黒心可鍛鋳鉄の試料を作製した。
[0110]
 得られた試料の合金組成について化学分析を行った。分析値のうち、残部の鉄及び不可避的不純物を除く元素の分析値を表3に示す。
[0111]
[表3]


[0112]
 次に、得られた試料の切断面を研磨し、粒界をナイタールでエッチングした後、光学顕微鏡で切断面の金属組織を観察した。塊状黒鉛の分布状態を評価した結果と、第1の実施例と同じ方法でマトリックスの結晶粒度を粒度番号で測定した結果を、それぞれ表4に示す。また、得られた試料から引張強度試験用の試験片を切り出し、引張強度試験機を用いて試験片の引張強度を測定した。得られた引張強度及び伸びの値をそれぞれ表4に示す。
[0113]
[表4]


[0114]
 上述の第3の実施例によれば、ビスマスとマンガン、及び/又はアルミニウムと窒素を一定量以上含む実施例4乃至6の黒心可鍛鋳鉄の試料では、塊状黒鉛がマトリクスの結晶粒界の位置に分散して存在し、マトリクスの結晶粒度が金属組織写真と結晶粒度標準図との比較によって数値化される粒度番号で8.0以上、10.0以下である本発明に固有の金属組織を形成できることがわかる。また、これらの試料では、ビスマスやアルミニウムを添加していない比較例4及び5の試料に比べて引張強度試験における伸びが増加することがわかる。また、ボロンの単独添加では結晶粒の微細化効果がないことがわかる。
[0115]
<第4の実施例>
 第4の実施例では、鋳物の大きさと予備加熱の条件が組織に及ぼす影響について検討した。炭素を3.0質量%、ケイ素を1.5質量%、鉄及び不可避的不純物を残部として含有するように配合された溶湯を700kgだけ取鍋に分注し、ビスマスを210g(0.030質量%)添加、攪拌した後、直ちに表5に示す公称径を有するエルボの形状の鋳物継手の鋳型に注湯して、実施例7乃至10の鋳物継手を鋳造した。得られた鋳物には、上記量の炭素とケイ素の他、ビスマスが0.01質量%と、原料に由来するマンガンが0.35質量%含まれていた。
[0116]
[表5]


[0117]
 次に、鋳造した鋳物を表5に示す温度及び時間で予備加熱した後、980℃まで昇温して1時間保持し、第1段黒鉛化を行った。続いて、実施例7~9では、鋳物継手の温度を760℃まで冷却した後、760℃から720℃までを1時間かけて冷却しながら第2段黒鉛化を行い、黒心可鍛鋳鉄の試料を作製した。実施例10では、第1段黒鉛化において980℃で1.5時間保持し、かつ760℃から720℃までを1.5時間かけて冷却しながら第2段黒鉛化を行った。
[0118]
 得られた鋳物継手の試料の胴部から採取した試験片の切断面を研磨し、粒界をナイタールでエッチングした後、光学顕微鏡で切断面の金属組織を観察した。塊状黒鉛の分布状態を評価した結果と、第1の実施例と同じ方法でマトリックスの結晶粒度を粒度番号で測定した結果を、それぞれ表5に示す。
[0119]
 上述の第4の実施例によれば、実施例7~9に示される通り、350℃又は400℃で予備加熱する時間が30分又は60分と短い場合であっても、短時間で黒鉛化を完了することができる。また実施例7~9では、塊状黒鉛がマトリクスの結晶粒界の位置に分散して存在し、マトリクスの結晶粒度が金属組織写真と結晶粒度標準図との比較によって数値化される粒度番号で8.0以上、10.0以下である本発明に固有の金属組織を形成できることがわかる。また、実施例10の大型の鋳物継手では、400℃で予備加熱する時間を180分とし、第1段黒鉛化及び第2段黒鉛化をそれぞれ1.5時間かけて行うことによって、塊状黒鉛がマトリクスの結晶粒界の位置に分散して存在し、マトリクスの結晶粒度が粒度番号で8.5である本発明に固有の金属組織を形成できることがわかる。
[0120]
<第5の実施例>
 第5の実施例では、原料に由来する元素の影響を排除する目的で、鉄の原料として高純度の電解鉄を使用し、炭素を2.7質量%、ケイ素を1.2質量%、マンガンを0.30質量%、鉄を残部として含有するように配合された溶湯を100kg溶解した。得られた溶湯から50kgだけ取鍋に分注し、ビスマスを15g添加、攪拌した後、直ちに鋳型に注湯して実施例11の鋳物を鋳造した。また、残りの溶湯50kgを取鍋に分注し、ビスマスを30g添加、攪拌した後、直ちに鋳型に注湯して実施例12の鋳物を鋳造した。尚、得られた鋳物にはいずれも、上記量の炭素、ケイ素、及びマンガンが含まれていた。また、得られた鋳物にはいずれも、ビスマスが本発明で規定する範囲内で含まれていたと推測される。
[0121]
 次に、鋳造した鋳物を400℃で1時間予備加熱した後、980℃まで昇温して1時間保持し、第1段黒鉛化を行った。続いて、鋳物の温度を760℃まで冷却した後、760℃から720℃までを1時間かけて冷却しながら第2段黒鉛化を行い、実施例11及び12の黒心可鍛鋳鉄の試料を作製した。
[0122]
 得られた試料の切断面を研磨し、粒界をナイタールでエッチングした後、光学顕微鏡で切断面の金属組織を観察したところ、塊状黒鉛がマトリクスの結晶粒界の位置に分散して存在していた。試料の金属組織を撮影した金属組織写真と非特許文献1の結晶粒度標準図との比較によって、フェライトのマトリクスの結晶粒度を測定した結果を表6に示す。
[0123]
[表6]


[0124]
<比較例7>
 比較例7では、上記実施例11及び12と異なりマンガンを含まない試料を作製した。詳細には、鉄の原料として高純度の電解鉄を使用し、炭素を2.7質量%、ケイ素を1.2質量%、鉄を残部として含有するように配合された溶湯を50kg溶解した。得られた溶湯を取鍋に注湯し、ビスマスを15g添加、攪拌した後、直ちに鋳型に注湯して比較例7の鋳物を鋳造した。得られた鋳物には、上記量の炭素とケイ素が含まれ、マンガンの含有量は本発明で規定する範囲を下回っていた。また、ビスマスが本発明で規定する範囲内で含まれていたと推測される。次に、鋳造した鋳物を400℃で1時間予備加熱した後、980℃まで昇温して3時間保持し、第1段黒鉛化を行った。続いて、鋳物の温度を760℃まで冷却した後、760℃から720℃までを3時間かけて冷却しながら第2段黒鉛化を行い、比較例7の黒心可鍛鋳鉄の試料を作製した。
[0125]
 得られた試料の金属組織を観察したところ、多くの塊状黒鉛が巨大な塊を形成し、中にはマトリクスの結晶粒径の大きさを超える粒子径を有する塊状黒鉛も存在した。試料の金属組織を撮影した金属組織写真と非特許文献1の結晶粒度標準図との比較によって、フェライトのマトリクスの結晶粒度を測定した結果を上記表6に示す。
[0126]
 上述の第5の実施例によれば、実施例11及び12の通り、マンガンとビスマスの双方を所定量含有し、かつ黒鉛化の前に予備加熱を行って得られた本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄に固有の金属組織が形成されていた。すなわち、塊状黒鉛がマトリクスの結晶粒界の位置に分散して存在し、マトリクスの結晶粒度が、金属組織写真と結晶粒度標準図との比較によって数値化される粒度番号で8.0以上、10.0以下であった。一方、比較例7の通り、規定量のビスマスのみを含み、原料に由来するマンガンを含まずマンガン量が本発明で規定する範囲に満たない場合には、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄に固有の金属組織を有さず、実施例に比べて長時間の黒鉛化処理が必要となることがわかる。
[0127]
<第6の実施例>
 第6の実施例では、原料に由来する元素の影響を排除する目的で、鉄の原料として高純度の電解鉄を使用し、炭素を2.9質量%、ケイ素を1.3質量%、マンガンを0.7質量%、窒素を0.02質量%、鉄を残部として含有するように配合された溶湯を50kg溶解した。上記マンガンの添加には窒化マンガンを使用した。得られた溶湯を取鍋に分注し、アルミニウム50gとビスマス15gをそれぞれ添加、攪拌した後、直ちに鋳型に注湯して実施例13の鋳物を鋳造した。鋳物の合金組成の分析値を表7に示す。次に、鋳造した鋳物を400℃で5時間予備加熱した後、980℃まで昇温して1時間保持し、第1段黒鉛化を行った。続いて、鋳物の温度を760℃まで冷却した後、760℃から720℃までを1時間かけて冷却しながら第2段黒鉛化を行い、実施例13の黒心可鍛鋳鉄の試料を作製した。
[0128]
 得られた試料の切断面を研磨し、粒界をナイタールでエッチングした後、光学顕微鏡で切断面の金属組織を観察したところ、塊状黒鉛がマトリクスの結晶粒界の位置に分散して存在していた。試料の金属組織を撮影した金属組織写真と非特許文献1の結晶粒度標準図との比較によって、フェライトのマトリクスの結晶粒度を測定した。また、第1の実施例と同じ方法で塊状黒鉛の平均粒子径及び粒子数を測定した。得られた結果を表7に示す。実施例13では、塊状黒鉛が微細化した本発明に係る黒心可鍛鋳鉄に固有の金属組織を短時間で形成することができた。
[0129]
[表7]


[0130]
<比較例8>
 実施例13で鋳造した鋳物と同一の鋳物を、予備加熱することなく室温から980℃まで昇温して8時間保持し、第1段黒鉛化を行った。続いて、鋳物の温度を760℃まで冷却した後、760℃から720℃までを8時間かけて冷却しながら第2段黒鉛化を行い、比較例8の黒心可鍛鋳鉄の試料を作製した。試料の金属組織の評価結果を表7に示す。予備加熱を行わなかった比較例8の試料では、長時間の黒鉛化処理を行っても黒鉛化が完了せず、パーライト組織が残留していた。
[0131]
<比較例9>
 マンガンの添加に窒化マンガンでなくフェロマンガンを使用した他は、実施例13及び比較例8と同じ方法で鋳物を鋳造した。次に、鋳造した鋳物を実施例13と同じ条件で熱処理を行い、比較例9の試料を作製した。試料の金属組織の評価結果を表7に示す。比較例9の試料では、短時間の黒鉛化処理で黒鉛化が完了しているものの、結晶粒度は粗く、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄に固有の金属組織を有していなかった。
[0132]
<比較例10>
 比較例9で鋳造した鋳物と同一の鋳物を、予備加熱することなく室温から980℃まで昇温して8時間保持し、第1段黒鉛化を行った。続いて、鋳物の温度を760℃まで冷却した後、760℃から720℃までを8時間かけて冷却しながら第2段黒鉛化を行い、比較例10の黒心可鍛鋳鉄の試料を作製した。金属組織の評価結果を表7に示す。比較例10の試料では、長時間の黒鉛化処理を行っても黒鉛化が完了せず、パーライト組織が残留していた。
[0133]
 上述の第5の実施例によれば、アルミニウム及び窒素を同時に規定量含有する場合には、アルミニウムのみを含有し窒素の含有量が比較的少ない場合に比べ、短時間の黒鉛化処理によって黒鉛化が完了することが分かる。可溶性の窒素は一般に黒鉛化を阻害する元素して知られているが、本発明において窒素は、アルミニウムと共存する場合には、むしろ黒鉛化を促進する元素して作用する。一定量以上の窒素とアルミニウムが共存し、かつ予備加熱を行った場合に黒鉛化が促進される理由は、上述の通り、予備加熱の温度域において窒素がアルミニウムと結合して微細な窒化アルミニウムを形成し、それが核となって黒鉛の析出を促進するためであると推測される。
[0134]
 本出願は、日本国特許出願、特願2017-061680号を基礎出願とする優先権主張を伴う。特願2017-061680号は参照することにより本明細書に取り込まれる。

請求の範囲

[請求項1]
 フェライトのマトリクスと、前記マトリクスに含まれる塊状黒鉛とを有する黒心可鍛鋳鉄であって、
(i)ビスマスを0.0050質量%以上、0.15質量%以下、及びマンガンを0.020質量%以上;並びに
(ii)アルミニウムを0.0050質量%以上、1.0質量%以下、及び窒素を0.0050質量%以上;
のうちの少なくとも一方を含み、かつ、
 前記マトリクスの結晶粒度が金属組織写真と結晶粒度標準図との比較によって数値化される粒度番号で8.0以上、10.0以下である
黒心可鍛鋳鉄。
[請求項2]
 前記塊状黒鉛が前記マトリクスの結晶粒界の位置に分散して存在する請求項1に記載の黒心可鍛鋳鉄。
[請求項3]
 前記塊状黒鉛の平均粒子径が10マイクロメートル以上、40マイクロメートル以下である、請求項1又は2に記載の黒心可鍛鋳鉄。
[請求項4]
 断面積1平方ミリメートルあたりの前記塊状黒鉛の粒子数が200個以上、1200個以下である、請求項1乃至3のいずれかに記載の黒心可鍛鋳鉄。
[請求項5]
 炭素を2.0質量%以上、3.4質量%以下、ケイ素を0.5質量%以上、2.0質量%以下、及び、残部として鉄及び不可避的不純物を含有する、請求項1乃至4のいずれかに記載の黒心可鍛鋳鉄。
[請求項6]
 炭素を2.5質量%以上、3.2質量%以下、ケイ素を1.0質量%以上、1.7質量%以下含有する、請求項5に記載の黒心可鍛鋳鉄。
[請求項7]
 更に、ボロンを0質量%超、0.010質量%以下含有する請求項5又は6に記載の黒心可鍛鋳鉄。
[請求項8]
 炭素を2.0質量%以上、3.4質量%以下、ケイ素を0.5質量%以上、2.0質量%以下、及び
(i)ビスマスを0.0050質量%以上、0.15質量%以下、及びマンガンを0.020質量%以上;並びに
(ii)アルミニウムを0.0050質量%以上、1.0質量%以下、及び窒素を0.0050質量%以上;
のうちの少なくとも一方を含み、
残部として鉄及び不可避的不純物を含有する鋳物を鋳造する工程と、
 前記鋳物を275℃以上、425℃以下の温度で予備加熱する工程と、
 前記予備加熱の後、前記鋳物を680℃を超える温度で黒鉛化する工程とを有する
黒心可鍛鋳鉄の製造方法。
[請求項9]
 前記鋳物は、更にボロンを0質量%超、0.010質量%以下含有する請求項8に記載の黒心可鍛鋳鉄の製造方法。
[請求項10]
 前記予備加熱する工程において、前記鋳物を275℃以上、425℃以下の温度で予備加熱する時間が30分以上、5時間以下である、請求項8又は9に記載の黒心可鍛鋳鉄の製造方法。
[請求項11]
 前記黒鉛化する工程において、前記鋳物を680℃を超える温度で黒鉛化する時間が合計で1時間以上、6時間以下である、請求項8乃至10のいずれかに記載の黒心可鍛鋳鉄の製造方法。
[請求項12]
 前記黒鉛化する工程は、900℃を超える温度で加熱する第1段黒鉛化と、開始温度が720℃以上、800℃以下であり、かつ完了温度が680℃以上、720℃以下である第2段黒鉛化とを含む請求項8乃至11のいずれかに記載の黒心可鍛鋳鉄の製造方法。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]