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1. (WO2018179816) 亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法
Document

明 細 書

発明の名称 亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005   0006   0007   0008   0009  

先行技術文献

特許文献

0010  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0011   0012   0013   0014   0015  

課題を解決するための手段

0016   0017   0018  

発明の効果

0019   0020  

図面の簡単な説明

0021  

発明を実施するための形態

0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047  

実施例

0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067  

産業上の利用可能性

0068  

符号の説明

0069  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8   9  

図面

1   2   3  

明 細 書

発明の名称 : 亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、プレス成形時の摺動抵抗が小さく、優れたプレス成形性を有する亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法に関する。

背景技術

[0002]
 亜鉛系めっき鋼板は自動車車体用途を中心に広範な分野で広く利用される。通常、亜鉛系めっき鋼板は、プレス成形を施した後に使用に供される。しかし、亜鉛系めっき鋼板は、冷延鋼板に比べてプレス成形性が劣るという欠点を有する。これはプレス金型での亜鉛系めっき鋼板の摺動抵抗が冷延鋼板に比べて大きいことが原因である。すなわち、金型とビードでの摺動抵抗が大きい部分で、摺動抵抗が大きい亜鉛系めっき鋼板がプレス金型に流入しにくくなり、鋼板の破断が起こりやすい。
[0003]
 そのため、亜鉛系めっき鋼板使用時のプレス成形性を向上させる方法として、高粘度の潤滑油を塗布する方法が広く用いられる。しかし、この方法では、潤滑油が高粘性であるため、塗装工程で脱脂不良による塗装欠陥が発生する。また、プレス時の油切れにより、プレス性能が不安定になる等の問題がある。このため、亜鉛系めっき鋼板自身のプレス成形性の改善が要求されている。
[0004]
 上記の問題を解決する方法として、特許文献1には、亜鉛系めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理、または加熱処理を施すことにより、亜鉛を主体とする酸化膜を形成させてプレス加工性を向上させる技術が開示されている。
[0005]
 特許文献2には、鋼板を溶融亜鉛めっき後、加熱処理により合金化し、さらに調質圧延を施した後にpH緩衝作用を有する酸性溶液と接触させ、所定時間保持した後水洗することでめっき表層に酸化物層を形成させ、プレス成形性を向上させる技術が開示されている。
[0006]
 特許文献3には、調質圧延後の溶融亜鉛めっき鋼板を、pH緩衝作用を有する酸性溶液と接触させ、鋼板表面に酸性溶液の液膜が形成された状態で所定時間保持した後水洗、乾燥し、めっき表面に酸化物層を形成したプレス成形性に優れる溶融亜鉛めっき鋼板が開示されている。
[0007]
 特許文献4には、電気亜鉛めっき鋼板を、pH緩衝作用を有する酸性溶液もしくは酸性の電気亜鉛めっき浴と接触させ、その後に所定時間保持した後水洗、乾燥し、めっき表面にZn系酸化物を形成した、プレス成形性に優れる電気亜鉛めっき鋼板が開示されている。
[0008]
 特許文献5には、亜鉛系めっき鋼板を酸性溶液に接触させ、所定時間保持し、水洗・乾燥を行うことにより表面に酸化物層及び/又は水酸化物層を形成する亜鉛系めっき鋼板の製造方法において、酸性溶液中に酸化物コロイドを含有させることにより、優れたプレス成形性を得る技術が開示されている。
[0009]
 また、本出願人らは亜鉛系めっき鋼板をフッ素樹脂を含む酸性溶液に接触させ、所定時間保持し、水洗・乾燥を行うことにより、表面に、フッ素樹脂を含有する酸化物層及び/又は水酸化物層を形成し従来よりも格段に優れたプレス成形性を得る技術を提案した(特許文献6)。

先行技術文献

特許文献

[0010]
特許文献1 : 特開平2-190483号公報
特許文献2 : 特許第3807341号公報
特許文献3 : 特許第4329387号公報
特許文献4 : 特開2005-248262号公報
特許文献5 : 特許第5386842号公報
特許文献6 : 特開2016-098380号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0011]
 上記特許文献1~5に記載の技術を適用した場合、通常の亜鉛系めっき鋼板と比較すると良好なプレス成形性を得ることができる。しかし、近年では自動車車体の軽量化の観点から高強度の亜鉛系めっき鋼板が広く用いられるようになり、従来以上のプレス成形性が求められるようになっている。
[0012]
 また、比較的強度の低い亜鉛系めっき鋼板に対しても、より複雑な成形を可能とするため、更なるプレス成形性の向上が必要である。
[0013]
 上記特許文献1~5に記載の技術を高強度の亜鉛系めっき鋼板に適用した場合には必ずしも十分な効果を得ることができず、比較的強度の低い亜鉛系めっき鋼板に対しても、複雑な成形を可能とするには十分ではなかった。
[0014]
 特許文献6に記載の技術では、皮膜中にフッ素樹脂を含むため、場合によっては溶接時に有害ヒュームが発生する可能性があり、ヒューム対策を施す必要があった。
[0015]
 本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、高強度の亜鉛系めっき鋼板および複雑な成形を施される比較的強度の低い亜鉛系めっき鋼板に対して、安定的に優れたプレス成形性を有し、かつ溶接時に有害ヒュームが発生することのない亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

[0016]
 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、亜鉛系めっき鋼板の表面に、平均厚さが20nm以上であり、Zn、Sおよびポリエチレン粒子を含有する酸化物層を形成することで、上記課題を解決できることを見出した。
[0017]
 本発明は、以上の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1]亜鉛系めっき鋼板の表面に酸化物層を有し、前記酸化物層は、平均厚さが20nm以上であり、前記酸化物層中には、Znを30mg/m 以上、Sを1.0mg/m 以上、平均粒子径が5.0μm以下であるポリエチレン粒子を50mg/m 以上1000mg/m 以下含有する亜鉛系めっき鋼板。
[2]前記酸化物層には、硫酸基及び水酸基が存在する上記[1]に記載の亜鉛系めっき鋼板。
[3]前記酸化物層中に、さらに、Pを0.2mg/m 以上10mg/m 以下含有する上記[1]または[2]に記載の亜鉛系めっき鋼板。
[4]前記亜鉛系めっき鋼板は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板のいずれかである上記[1]~[3]のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼板。
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法であって、
亜鉛系めっき鋼板を、硫酸イオンを3g/L以上、Znイオンを3g/L以上およびポリエチレン粒子を0.10g/L以上含有する酸性溶液に接触させる亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[6]前記酸性溶液は、pHが2~6であり、温度が20℃~80℃である上記[5]に記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[7]前記酸性溶液は、酸化剤を含有する上記[5]または[6]に記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[8]前記亜鉛系めっき鋼板と前記酸性溶液との接触時間は1秒以上500秒以下である上記[5]~[7]のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[9]酸性溶液に接触後、Pイオンを0.01g/L以上含有する溶液に亜鉛系めっき鋼板を接触させる上記[5]~[8]のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[0018]
 本発明において、亜鉛系めっき鋼板とは、例えば溶融めっき法、電気めっき法、蒸着めっき法、溶射法などの各種の製造方法により鋼板上に亜鉛をめっきした鋼板を総称して亜鉛系めっき鋼板と呼称する。また、合金化処理を施していない溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、合金化処理を施す合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)のいずれも亜鉛系めっき鋼板に含まれる。また、鋼板の表面に形成される亜鉛系めっき層として、溶融亜鉛めっき層、合金化溶融亜鉛めっき層、溶融亜鉛-アルミニウム合金めっき層、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき層、電気亜鉛めっき層、電気亜鉛-ニッケル合金めっき層などが例示されるが、これらに限定されるものではなく、亜鉛を含む公知の亜鉛系めっき層すべてが適用可能である。

発明の効果

[0019]
 本発明によれば、プレス成形時の摺動抵抗が小さく、優れたプレス成形性を有する亜鉛系めっき鋼板が得られる。
亜鉛系めっき鋼板と金型等との摩擦係数が顕著に低下する。このため、高強度の亜鉛系めっき鋼板や、複雑な成形を施される比較的強度の低い亜鉛系めっき鋼板に対しても安定的に優れたプレス成形性を有することになる。バックドアなどの複雑形状化に必要とされる深絞り加工などの難成形時においても、プレス成形時の割れ危険部位での摺動抵抗が小さく張り出し性が良好である。
また、フッ素樹脂を含有しないため、溶接時にも有害ヒューム発生の懸念がない。
[0020]
 なお、上記において、「高強度」とは引張強度(TS)が440MPa以上を想定しており、「比較的強度の低い」とはTSが440MPa未満を想定している。

図面の簡単な説明

[0021]
[図1] 図1は、摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。
[図2] 図2は、図1中のビード形状・寸法を示す概略斜視図である。
[図3] 図3は、図1中のビード形状・寸法を示す概略斜視図である。

発明を実施するための形態

[0022]
 以下、本発明の実施形態について説明する。
[0023]
 本発明では、鋼板と鋼板上に形成された亜鉛系めっき層とを備える亜鉛系めっき鋼板の表面に酸化物層を有し、酸化物層は、平均厚さが20nm以上であり、酸化物層中には、Znを30mg/m 以上、Sを1.0mg/m 以上、平均粒子径が5.0μm以下であるポリエチレン粒子を50mg/m 以上1000mg/m 以下含有することを特徴とする。
[0024]
 上記酸化物層の潤滑メカニズムについては明確ではないが、以下のように考えることができる。摺動時には、金型と亜鉛系めっき鋼板の間には高い面圧が生じ、潤滑油が排除され、金型と亜鉛系めっき層には直接的に接触する部分が生じる。さらに金型と亜鉛系めっきの凝着力から亜鉛系めっき層の表面にはせん断応力が生じる。このような場合において、Znを含む酸化物には、金型と鋼板の直接的な接触を抑制する凝着抑制力がある。また、Sは極圧添加剤として使用される元素である。Sには、油が排除されるような高面圧状態においても、亜鉛系めっき鋼板表面あるいは金型に吸着することで、鋼板と金型の凝着を抑制する凝着抑制力がある。さらに、酸化物層中にポリエチレン粒子を含むことにより、ポリエチレン粒子が金型と鋼板の間の摺動の一部を担い、摩擦係数は著しく低下する。これらの相乗効果により、高強度鋼板のプレス成形時の高面圧条件や比較的強度の低い鋼板の複雑成形時においても、優れたプレス成形性を有することが可能となると考えられる。
[0025]
 酸化物層中のZnおよびSの含有量は、Znが30mg/m 以上、Sが1.0mg/m 以上である。酸化物層のZn含有量が30mg/m 未満、S含有量が1.0mg/m 未満では十分な摺動特性向上効果、すなわち、プレス成形性向上効果を得ることが難しい。一方、Zn含有量が1000mg/m 超え、S含有量が100mg/m 超えになると、自動車製造の際に重要となるスポット溶接性や化成処理性が低下する場合がある。そのため、Zn含有量は1000mg/m 以下、S含有量は100mg/m 以下が好ましい。
[0026]
 酸化物層の平均厚さは、20nm以上とする。20nm未満では十分なプレス成形性が得られない。一方、200nmを超えると表面の反応性が極端に低下し、化成処理皮膜を形成するのが困難になる場合がある。よって、酸化物層の平均厚さは200nm以下とするのが好ましい。
[0027]
 本発明では、固体潤滑剤として、酸化物層中にポリエチレン粒子を含有する。ポリエチレンは汎用的に使用されコストが安い。また、酸化物層中にポリエチレン粒子を含有することで十分な摺動特性向上効果が得られる。また、フッ素樹脂を含む場合、溶接時に熱分解し、HFやPFIBなどの有害なガスが発生する可能性がある。これに対して、本発明では、分子中にCおよびHしか含まないため、溶接時に有害ヒュームが発生する懸念や有害ガスが発生する懸念がない。また、本発明では有機樹脂を使用するため、二硫化モリブデンや窒化ホウ素のような無機固体潤滑剤に比べ十分な摺動特性向上効果が得られる。
[0028]
 酸化物層中にポリエチレン粒子を効率よく含有させるためには、平均粒子径は5.0μm以下とする。平均粒子径が5.0μmを超えると、酸化物層中に取り込まれ難くなる。また、酸化物層との密着性が劣る傾向がある。好ましい平均粒子径は、下限が0.1μmであり、上限が1.0μmである。
[0029]
 ポリエチレン(PE)の含有量は、合計で50mg/m 以上1000mg/m 以下とする。50mg/m 未満では十分な潤滑効果を発揮できない。一方、1000mg/m 超えの場合には、スポット溶接性や化成処理性が低下する。好ましくは、50mg/m ~以上400mg/m 以下である。
[0030]
 本発明で亜鉛系めっき鋼板の表面に形成させる酸化物層は下記の方法で分析することが可能である。
酸化物層中のZn含有量、S含有量については、重クロム酸アンモニウム2質量%+アンモニア水14質量%溶液で、酸化物層を溶解した溶液を、ICP発光分析装置を用いて分析することで定量することが可能である。
[0031]
 酸化物層の厚さについては、蛍光X線を用いて測定し、得られた酸素強度を、厚さが既知である酸化シリコン皮膜を形成したシリコンウエハーの値を基準として、シリカ膜厚に換算し測定することができる。これから測定した値の平均値を酸化物層の平均厚さとする。
[0032]
 Zn、S、Oの存在形態はX線光電子分光装置を用いて分析することが可能である。
[0033]
 酸化物層中のポリエチレン粒子については、SEM観察像から、任意の20個のポリエチレン粒子の粒径を測定し平均することでポリエチレン粒子の平均粒子径を求め、一定面積にあるポリエチレン粒子の存在数を測定し全体積に密度を積算することで含有量を算出することが可能である。
[0034]
 酸化物層中には、硫酸基及び水酸基が存在することが酸化物層の安定性の観点で好ましい。なお、硫酸基及び水酸基が存在の有無は、後述する実施例の方法にて確認することができる。
[0035]
 さらに、本発明では、酸化物層中に、さらに、Pを0.2mg/m 以上10mg/m 以下含有することが好ましい。酸化物層中にPを含有することで、自動車製造における脱脂工程において、鋼板表面に付着した油を除去する脱脂性を向上させることができる。Pを酸化物層中に含有しない場合、脱脂液が劣化した場合や、鋼板の塗油量が極端に多い場合に、脱脂工程において、十分に油を除去することができず、水はじきを生じ、化成処理、塗装など後工程に悪影響を及ぼす可能性がある。これに対して、Pはリン酸化合物の形態で表面に付着していると考えられ、リン酸化合物に存在するOH基が水との親和性を向上させ脱脂後の水濡れ性が向上するものと考えられる。P含有量が0.2mg/m 未満では十分な脱脂性向上効果が得られない場合がある。10mg/m 超えになると、自動車製造の際に重要となるスポット溶接性が低下することが懸念される。
[0036]
 酸化物層中のP含有量は、重クロム酸アンモニウム2質量%+アンモニア水14質量%溶液で酸化物層を溶解した溶液を、ICP発光分析装置を用いて分析し、測定した値を単位面積あたりの含有量に換算することで求めることができる。
[0037]
 本発明の亜鉛系めっき鋼板の製造方法について説明する。
まず、鋼板に、亜鉛系めっき処理を施す。めっき処理を施す方法は特に限定されず、溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき等の一般的な方法を採用可能である。また、めっきの処理条件は特に限定されず、適宜好ましい条件を採用すればよい。さらに、めっき後に、合金化処理を施してもよい。なお、合金化処理の方法は特に限定されず、一般的な方法を採用可能である。
[0038]
 次に、亜鉛系めっき鋼板の表面に、平均厚さが20nm以上であり、Znを30mg/m 以上、Sを1.0mg/m 以上、平均粒子径が5.0μm以下であるポリエチレン粒子を50mg/m 以上1000mg/m 以下含有する酸化物層を形成する。
酸化物層を形成する方法としては、亜鉛系めっき鋼板を、硫酸イオン、Znイオン、ポリエチレン粒子を含有する酸性溶液に接触させ、その後水洗を行う方法が挙げられる。なお、必要に応じて、水洗後に乾燥を行ってもよい。具体的には、鋼板を、硫酸イオン:3g/L以上、Znイオン:3g/L以上およびポリエチレン粒子:0.10g/L以上含有する酸性溶液と接触させた後、水洗を行う。平均粒子径が5.0μm以下であるポリエチレン粒子を用いるにあたって、ポリエチレン粒子の製造方法は特に限定しない。平均粒子径が5.0μm以下のポリエチレン製品を用いることもできる。
酸性溶液はpHが2~6であることが好ましい。pHが2未満では亜鉛系めっき層の溶解が激しく、酸化物層の生成が抑制される場合がある。一方、pHが6超えの酸性溶液では溶液中のZnイオンが析出し、スラッジが発生してしまう場合があり、好ましくなく、酸化物の形成も十分ではない場合がある。よって、酸性溶液のpHは2以上6以下が好ましい。
[0039]
 酸性溶液の温度は20~80℃が好ましい。温度が20℃未満では酸化物層形成速度が遅い。一方、温度が80℃を超えると溶液の蒸発量が増加し、液濃度の管理が困難になり、コスト増大に繋がるため好ましくない。
[0040]
 酸性溶液との接触時間は1秒以上500秒以下が好ましい。1秒未満では十分な膜厚の皮膜が得られない場合がある。500秒を超えると処理時間が長時間化し、生産コストが増大する。
[0041]
 酸性溶液には酸化剤を含有することが好ましい。酸化剤の例として、硝酸や硝酸ナトリウムなどの硝酸塩、過酸化水素、過マンガン酸カリウムなどが挙げられる。酸性溶液に酸化剤を含有することにより、酸化物層の形成が促進され、短時間での酸化物層の形成が可能となる。
[0042]
 Zn、S、およびポリエチレン粒子を含有する酸化物層の形成メカニズムについては明確ではないが、次のように考えることができる。亜鉛系めっき層を被覆した鋼板を硫酸イオン、Znイオンおよびポリエチレン粒子を含有する酸性溶液に接触させると、鋼板側では亜鉛の溶解反応と水素イオンの還元による水素発生が生じ鋼板表面のpHが上昇する。このときpHが上昇した鋼板表面付近の溶液中に硫酸イオンとZnイオンが存在するとZn、O、Sが化合物として沈殿析出する。また、同時に鋼板付近の溶液中にポリエチレン粒子が存在すると、Zn、O、Sの化合物にポリエチレン粒子が取り込まれる。そして、上記酸化物層が形成すると考えられる。
[0043]
 上記形成メカニズムの観点から、鋼板を接触させる溶液中の硫酸イオンは3g/L以上、Znイオンは3g/L以上、ポリエチレン粒子は0.10g/L以上含有することが好ましい。硫酸イオンおよびZnイオンがそれぞれ3g/L未満の場合、析出速度が遅く、十分な厚さの酸化物層形成が困難となる場合がある。ポリエチレン粒子が0.10g/L未満の場合、酸化物層に取り込まれる量が少なくなる可能性がある。一方、硫酸イオンが170g/L以上、Znイオンが120g/L以上、ポリエチレン粒子が100g/L以上となると、それ以上の析出速度の増加は期待できない。そのため、コストとの兼ね合いから、硫酸イオンは170g/L未満、Znイオンは120g/L未満、ポリエチレン粒子は100g/L未満であることが好ましい。
[0044]
 上記酸性溶液を上記鋼板に接触させる方法は特に限定されず、鋼板を酸性溶液に浸漬させて接触させる方法、鋼板に酸性溶液をスプレーして接触させる方法、塗布ロールを用いて鋼板上に酸性溶液を塗布する方法等がある。
[0045]
 酸性溶液に接触後、水洗を行う。なお、必要に応じて、その後、乾燥を行ってもよい。なお、水洗、乾燥の方法は特に限定されず、一般的な方法を採用可能である。
[0046]
 さらに、酸化物層中にさらにPを含有量0.2mg/m 以上10mg/m 以下含有する場合は、水洗、必要に応じて乾燥を行った後に、Pイオンを0.01g/L以上含有する溶液に鋼板を接触させる。水洗、乾燥後、Pを含有する溶液に鋼板を接触させることで、Zn、S、Oを含有する化合物のうちのS系化合物がP系化合物と置換反応し、酸化物層中にP系化合物が含有される。接触させる溶液中に含まれるPイオンの濃度が少なすぎると置換速度が低下し、十分な効果が得られない可能性があるため、Pイオンの濃度は0.01g/L以上が好ましい。一方、Pイオンが100g/L以上となると、それ以上の析出速度の増加は期待できないため、コストとの兼ね合いから100g/L未満であることが好ましい。Pイオンを含有する溶液としてはリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム水溶液などが用いることができる。Pイオンを含有していれば、同様の効果を発現し、特段、使用する薬剤を指定するものでは無い。
[0047]
 なお、溶液中に不純物が含まれることによりN、Pb、Na、Mn、Ba、Sr、Si、Zr、Al、Sn、Cu、Be、B、F、Neなどが酸化物層中に取り込まれても、本発明の効果が損なわれるものではない。
実施例
[0048]
 以下、本発明を実施例により説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
[0049]
 板厚1.2mmの高強度冷延鋼板(TS:590MPa)に対して、電気亜鉛めっき(EG)、溶融亜鉛めっき(GI)および溶融亜鉛めっき後に合金化処理(GA)を施した。引き続き、表1に示す条件に調整した酸性溶液に鋼板を表1に示す条件で浸漬した。次に、水洗を行った後、乾燥した。一部の鋼板については、さらに、表1に示す濃度、温度、浸漬時間で、ピロリン酸ナトリウム10水和物の溶液に鋼板を浸漬した。次に、十分水洗を行った後、乾燥させ、酸化物層中に、Pを0.2mg/m 以上10mg/m 以下含有させた。
[0050]
 上記により得られた高強度冷延鋼板に対して表面の酸化物層中に含まれるZn含有量、S含有量、P含有量、ポリエチレン粒子含有量、酸化物層の平均厚さを測定した。また、水酸基および硫酸基の存在の有無を確認した。また、プレス成形性を評価する手法として摩擦係数の測定を実施し摺動特性を評価した。なお、高強度冷延鋼板表層のZn含有量、S含有量、P含有量、ポリエチレン粒子含有量、酸化物層の平均厚さ、Zn、S、Oの存在形態の測定方法(水酸基および硫酸基の存在の有無確認)、プレス成形性(摺動特性)の評価方法は以下の通りである。
[0051]
 (1)酸化物層の分析
 酸化物層の平均厚さの測定
 亜鉛系めっき鋼板に形成された酸化物層の厚みの測定には蛍光X線分析装置を使用した。測定時の管球の電圧および電流は30kVおよび100mAとし、分光結晶はTAPに設定してO-Kα線を検出した。O-Kα線の測定に際しては、そのピーク位置に加えてバックグラウンド位置での強度も測定し、O-Kα線の正味の強度が算出できるようにした。なお、ピーク位置およびバックグラウンド位置での積分時間は、それぞれ20秒とした。
[0052]
 また、試料ステージには、これら一連の試料と一緒に、適当な大きさに劈開した膜厚96nm、54nm及び24nmの酸化シリコン皮膜を形成したシリコンウエハーをセットし、これらの酸化シリコン皮膜からもO-Kα線の強度を算出できるようにした。これらのデータを用いて酸化物層厚さとO-Kα線強度との検量線を作成し、供試材の酸化物層の厚さを酸化シリコン皮膜換算での酸化物層厚さとして算出した。これから測定した値の平均値を酸化物層の平均厚さとする。
[0053]
 酸化物層の組成分析
 重クロム酸アンモニウム2%+アンモニア水14質量%溶液を用いて、酸化物層のみを溶解し、その溶液を、ICP発光分析装置を用いて、Zn、S、Pの定量分析を実施した。
測定した値を単位面積あたりの含有量に換算し、その値を含有量とした。
[0054]
 ポリエチレン粒子の含有量分析
 走査型電子顕微鏡を用いて、加速電圧5kV、作動距離8.5mm、倍率5000倍でランダムに抽出した5視野を観察し、ポリエチレン粒子の平均粒子径、個数を求めた。観察視野中の単位面積当たりのポリエチレン粒子の合計体積を求め、密度と掛け合わせることで含有量を算出し、5視野の平均値を求めてポリエチレン粒子の含有量とした。
[0055]
 Zn、S、Oの存在形態(水酸基および硫酸基の存在の有無)
 X線光電子分光装置を用いて、Zn、S、Oの存在形態について分析した。Al Ka モノクロ線源を使用し、Zn LMM、 S 2pに相当するスペクトルのナロー測定を実施した。

 (2)プレス成形性(摺動特性)の評価方法 プレス成形性を評価するために、各供試材の摩擦係数を以下のようにして測定した。
[0056]
 図1は、摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。同図に示すように、供試材から採取した摩擦係数測定用試料1が試料台2に固定され、試料台2は、水平移動可能なスライドテーブル3の上面に固定されている。スライドテーブル3の下面には、これに接したローラ4を有する上下動可能なスライドテーブル支持台5が設けられ、これを押上げることにより、ビード6による摩擦係数測定用試料1への押付荷重Nを測定するための第1ロードセル7が、スライドテーブル支持台5に取付けられている。上記押し付け力を作用させた状態でスライドテーブル3を水平方向へ移動させるための摺動抵抗力Fを測定するための第2ロードセル8が、スライドテーブル3の一方の端部に取付けられている。なお、潤滑油として、スギムラ化学工業(株)製のプレス用洗浄油プレトンR352Lを試料1の表面に塗布して試験を行った。
[0057]
 図2、図3は使用したビードの形状・寸法を示す概略斜視図である。ビード6の下面が試料1の表面に押し付けられた状態で摺動する。図2に示すビード6の形状は幅10mm、試料の摺動方向長さ5mm、摺動方向両端の下部は曲率1.0mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ3mmの平面を有する。図3に示すビード6の形状は幅10mm、試料の摺動方向長さ59mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ50mmの平面を有する。
[0058]
 摩擦係数測定試験は以下に示す2条件で行った。
[条件1]
 図2に示すビードを用い、押し付け荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル3の水平移動速度):100cm/minとした。
[条件2]
 図3に示すビードを用い、押し付け荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル3の水平移動速度):20cm/minとした。
[0059]
 供試材とビードとの間の摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。
(3)脱脂性の評価方法
 一部の鋼板については脱脂性の評価を行った。脱脂性の評価は、脱脂後の水濡れ率で評価を行った。作成した試験片に、スギムラ化学工業(株)製のプレス用洗浄油プレトンR352Lを片面2.0g/m 塗油したのち、日本パーカライジング(株)製のFC-E6403のアルカリ脱脂液を用いてサンプルの脱脂を行った。脱脂液にスギムラ化学工業(株)製のプレス用洗浄油プレトンR352Lを10g/Lを予め添加することで自動車生産ラインにおけるアルカリ脱脂液の劣化をシミュレートした。ここで、脱脂時間は60秒とし、温度は37℃とした。脱脂時は脱脂液を直径10cmのプロペラを150rpmの速度で攪拌した。脱脂完了から20秒後の試験片の水濡れ率を測定することで、脱脂性の評価を行った。
[0060]
 以上より得られた結果を表2に示す。
[0061]
[表1]


[0062]
[表2]


[0063]
 表1、2より以下の事項がわかる。
[0064]
 No.8~15、17~20、22~35、40~43、47~53は発明例である。酸化物層に十分なZn、S、ポリエチレン粒子が含まれ、プレス成形性に優れる。
[0065]
 一方、比較例はプレス成形性に劣る。
[0066]
 No.12について詳細な酸化物層分析を行ったところ、X線光電子分光装置を用いて、分析した結果、Zn LMMに相当するピークが987eV付近に観察され、Znは水酸化亜鉛の状態として存在していることが分かった。同様に、S 2pに相当するピークが171eV付近に観察され、Sは硫酸塩として存在していることが分かった。他の実施例についても、同様の手順で水酸化亜鉛、硫酸塩を含有するかどうかについて調査した。存在、及び含有が確認されたものについては○、確認されなかったものには×として、調査した結果を表2中に示した。本発明例は、No.12と同様に、水酸化亜鉛、硫酸塩を含有していることがわかる。
[0067]
 また、脱脂性の評価の結果から、皮膜中にPを含有するNo.51~53は、Pイオンを含有する液で処理していないNo.12に比べて良好な脱脂性を有していることがわかる。

産業上の利用可能性

[0068]
 本発明の鋼板はプレス成形性に優れることから、自動車車体用途を中心に広範な分野で適用できる。

符号の説明

[0069]
1 摩擦係数測定用試料
2 試料台
3 スライドテーブル
4 ローラ
5 スライドテーブル支持台
6 ビード
7 第1ロードセル
8 第2ロードセル
9 レール
N 押付荷重
F 摺動抵抗力

請求の範囲

[請求項1]
 亜鉛系めっき鋼板の表面に酸化物層を有し、
前記酸化物層は、平均厚さが20nm以上であり、
前記酸化物層中には、Znを30mg/m 以上、Sを1.0mg/m 以上、平均粒子径が5.0μm以下であるポリエチレン粒子を50mg/m 以上1000mg/m 以下含有する亜鉛系めっき鋼板。
[請求項2]
 前記酸化物層には、硫酸基及び水酸基が存在する請求項1に記載の亜鉛系めっき鋼板。
[請求項3]
 前記酸化物層中に、さらに、Pを0.2mg/m 以上10mg/m 以下含有する請求項1または2に記載の亜鉛系めっき鋼板。
[請求項4]
 前記亜鉛系めっき鋼板は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板のいずれかである請求項1~3のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼板。
[請求項5]
 請求項1~4のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法であって、
亜鉛系めっき鋼板を、硫酸イオンを3g/L以上、Znイオンを3g/L以上およびポリエチレン粒子を0.10g/L以上含有する酸性溶液に接触させる亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[請求項6]
 前記酸性溶液は、pHが2~6であり、温度が20℃~80℃である請求項5に記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[請求項7]
 前記酸性溶液は、酸化剤を含有する請求項5または6に記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[請求項8]
 前記亜鉛系めっき鋼板と前記酸性溶液との接触時間は1秒以上500秒以下である請求項5~7のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[請求項9]
 酸性溶液に接触後、Pイオンを0.01g/L以上含有する溶液に亜鉛系めっき鋼板を接触させる請求項5~8のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]