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1. (WO2018179395) ホットスタンプ成形体
Document

明 細 書

発明の名称 ホットスタンプ成形体

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004  

先行技術文献

特許文献

0005  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0006   0007   0008   0009   0010  

課題を解決するための手段

0011   0012   0013   0014   0015   0016  

発明の効果

0017  

図面の簡単な説明

0018  

発明を実施するための形態

0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081   0082   0083   0084   0085   0086   0087   0088   0089   0090   0091  

実施例 1

0092   0093   0094   0095   0096   0097   0098   0099   0100   0101   0102   0103   0104   0105   0106   0107   0108   0109   0110   0111   0112   0113  

産業上の利用可能性

0114  

請求の範囲

1   2   3   4   5  

図面

1   2  

明 細 書

発明の名称 : ホットスタンプ成形体

技術分野

[0001]
 本発明は、ホットスタンプ成形体に関する。

背景技術

[0002]
 自動車等に用いられる構造部材(成形体)は、強度および寸法精度をいずれも高めるため、ホットスタンプ(熱間プレス)により製造されることがある。成形体をホットスタンプによって製造する際には、鋼板をAc 点以上に加熱し、金型でプレス加工しつつ急冷する。つまり、当該製造では、プレス加工と焼入れとを同時に行う。ホットスタンプによれば、寸法精度が高く、かつ、高強度の成形体を製造することができる。
[0003]
 一方、ホットスタンプにより製造された成形体は、高温で加工されていることから、表面にスケールが形成される。このため、ホットスタンプ用鋼板としてめっき鋼板を用いることで、スケールの形成を抑制し、さらには耐食性を向上させる技術が提案されている(特許文献1~3参照)。
[0004]
 例えば、特許文献1にはZnめっき層が形成された熱間プレス用鋼板が開示されている。また、特許文献2にはAlめっき層が形成された高強度自動車部材用アルミめっき鋼板が開示されている。さらに、特許文献3には、Znめっき鋼板のめっき層中にMn等の各種元素が添加された熱間プレス用Zn系めっき鋼材が開示されている。

先行技術文献

特許文献

[0005]
特許文献1 : 特開2003-73774号公報
特許文献2 : 特開2003-49256号公報
特許文献3 : 特開2005-113233号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0006]
 特許文献1の技術では、ホットスタンプ後にZnが鋼材表層に残存するため、高い犠牲防食作用が期待できる。しかしながら、Znが溶融した状態で鋼板が加工されるため、溶融Znが鋼板に侵入し、鋼材内部に割れが生ずるおそれがある。この割れは、液体金属脆化割れ(Liquid Metal Embrittlement、以下「LME」ともいう。)と呼ばれる。そして、LMEに起因して、鋼板の疲労特性が劣化する。
[0007]
 なお、現状では、LMEの発生を回避するために、鋼板加工時の加熱条件を適宜制御する必要がある。具体的には、溶融Znのすべてが鋼板中に拡散し、Fe-Zn固溶体となるまで加熱をする方法等が採用されている。しかしながら、これらの方法については、長時間の加熱が必要であり、その結果、生産性が低下するという問題がある。
[0008]
 また、特許文献2の技術では、めっき層にZnよりも融点が高いAlを用いていることから、特許文献1のように溶融金属が鋼板に侵入するおそれは低い。このため、優れた疲労特性を得られ、ひいてはホットスタンプ後の成形体の疲労特性が優れていると予想される。しかしながら、Alめっき層が形成された鋼材には、自動車用部材の塗装前に行われるりん酸塩処理時に、りん酸塩皮膜を形成し難くなるという問題がある。換言すれば、当該鋼材によってはりん酸塩処理性が十分に得られず、塗装後耐食性が低下する懸念がある。
[0009]
 さらに、特許文献3の技術では、ホットスタンプ後の最表層(酸化物皮膜)を改質して、スポット溶接性を向上させているが、添加する元素によっては、やはりLMEが発生してホットスタンプ鋼材の疲労特性が十分に得られないおそれがある。また、添加する元素によっては、当該鋼材の疲労特性のみならず、りん酸塩処理性を低下させるおそれがある。
[0010]
 本発明は、上記の問題点を解決し、疲労特性、スポット溶接性、および塗装後耐食性に優れたホットスタンプ成形体を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

[0011]
 本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、下記のホットスタンプ成形体を要旨とする。
[0012]
 (1)母材と該母材の表面に形成されためっき層とを備えるホットスタンプ成形体であって、
 前記めっき層は、前記母材側から順に、界面層、中間層および酸化物層を含み、
 前記界面層は、組織がαFe、Fe AlおよびFeAlから選択される1種以上のFe-Al合金を含み、かつ、前記Fe-Al合金の合計面積率が90%以上であり、
 前記中間層は、Fe(Al,Zn) 、Fe (Al,Zn) およびFe(Al,Zn) から選択される1種以上のFe-Al-Zn相を含み、かつ、前記Fe-Al-Zn相の合計面積率が50%以上であり、
 前記中間層の平均組成が、質量%で、
 Al:30~50%、および、
 Zn:15~30%、を含み、
 前記酸化物層は、平均膜厚が3.0μm以下であり、かつ、Mg含有量が0.05~1.00g/m である、
 ホットスタンプ成形体。
[0013]
 (2)上記界面層は、平均膜厚が1.0μm以上である、
 上記(1)に記載のホットスタンプ成形体。
[0014]
 (3)上記めっき層中のAlおよびZnの合計含有量が20~100g/m である、
 上記(1)または(2)に記載のホットスタンプ成形体。
[0015]
 (4)前記中間層の前記Fe-Al-Zn相の合計面積率が90%以上である、
 上記(1)から(3)までのいずれかに記載のホットスタンプ成形体。
[0016]
 (5)上記めっき層は、質量%で、0.1~15%のSiをさらに含み、
 前記中間層は、Fe (Al,Si)およびFe(Al,Si)から選択される1種または2種のFe-Al-Si相をさらに含み、かつ、前記Fe-Al-Zn相および前記Fe-Al-Si相の合計面積率が90%以上である、
 上記(1)から(3)までのいずれかに記載のホットスタンプ成形体。

発明の効果

[0017]
 本発明によれば、疲労特性、スポット溶接性、および塗装後耐食性に優れたホットスタンプ成形体を得ることができる。

図面の簡単な説明

[0018]
[図1] 本発明の一実施形態に係るホットスタンプ成形体の構造を説明するための図である。
[図2] 本発明の一実施形態に係るホットスタンプ成形体の断面をSEM観察した画像の一例である。

発明を実施するための形態

[0019]
 本発明者らは、ホットスタンプ成形時の耐LME性と、ホットスタンプ成形体のスポット溶接性および塗装後耐食性とを両立する方法について検討した。
[0020]
 まず、本発明者らは、成形体の塗装後耐食性を向上させる方法について検討を行った。その結果、成形体が有するめっき層中にMgを含有させることによって、耐食性を向上できることを見出した。しかし、めっき層中にMgを含有する成形体を製造する場合、ホットスタンプ成形時にLMEが生じやすくなり、疲労特性が劣化することが分かった。また、めっき層中のMg含有量が過剰であるとスポット溶接性も低下する。
[0021]
 そのため、本発明者らは、疲労特性およびスポット溶接性を劣化させることなく、耐食性を向上させる方法について鋭意検討を行った。その結果、めっき層を母材側のFe-Al合金を主体とする層と、表層側の酸化物の層と、その中間に位置する層とを含む構造にするとともに、表層に形成される酸化物の層中に適切な量のMgを濃化させることによって、上記の全ての特性をバランスよく確保できることが明らかになった。
[0022]
 本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
[0023]
 (A)全体構成
 図1は、本発明の一実施形態に係るホットスタンプ成形体の構造を説明するための図である。また、図2は、本発明の一実施形態に係るホットスタンプ成形体の断面をSEM観察した画像の一例である。図1および2に示すように、本発明の一実施形態に係るホットスタンプ成形体1は、母材10と母材10の表面に形成されためっき層20とを備える。
[0024]
 (B)母材
 本実施形態に係るホットスタンプ成形体の課題である疲労特性、スポット溶接性、および塗装後耐食性の改善は、めっき層の構成によって実現される。したがって、本実施形態に係るホットスタンプ成形体の母材は特に限定されない。しかし、母材の成分が以下に説明する範囲内である場合、疲労特性、スポット溶接性、および塗装後耐食性に加えて、好適な機械特性を有する成形体が得られる。
[0025]
 各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
[0026]
 C:0.05~0.4%
 炭素(C)は、ホットスタンプ成形体の強度を高める元素である。C含有量が少な過ぎると、上記効果が得られない。一方、C含有量が過剰であると、鋼材の靭性が低下する。したがって、C含有量は0.05~0.4%とする。C含有量は0.10%以上であるの他好ましく、0.13%以上であるのがより好ましい。また、C含有量は0.35%以下であるのが好ましい。
[0027]
 Si:0.5%以下
 シリコン(Si)は、不可避的に含まれ、鋼を脱酸する作用を有する元素である。しかしながら、Si含有量が過剰であると、ホットスタンプの加熱中に鋼中のSiが拡散し、鋼板表面に酸化物が形成されて、りん酸塩処理性を低下させる。Siは、さらに、鋼板のAc 点を上昇させる元素であり、Ac 点が上昇すると、ホットスタンプ時の加熱温度がZnめっきの蒸発温度を超えてしまうおそれがある。したがって、Si含有量は0.5%以下とする。Si含有量は0.3%以下であるのが好ましく、0.2%以下であるのがより好ましい。上記製品性能の観点からはSi含有量の下限値の制約はないが、上述する脱酸を目的として使用されるため、実質的な下限値が存在する。求められる脱酸レベルによるが、通常は0.05%である。
[0028]
 Mn:0.5~2.5%
 マンガン(Mn)は、焼入れ性を高め、ホットスタンプ後の鋼材の強度を高める元素である。Mn含有量が少な過ぎると、この効果は得られない。一方、Mn含有量が過剰であると、この効果は飽和する。したがって、Mn含有量は0.5~2.5%とする。Mn含有量は0.6%以上であるのが好ましく、0.7%以上であるのがより好ましい。また、Mn含有量は2.4%以下であるのが好ましく、2.3%以下であるのがより好ましい。
[0029]
 P:0.03%以下
 りん(P)は、鋼中に含まれる不純物である。Pは結晶粒界に偏析して鋼の靭性を低下させ、耐遅れ破壊性を低下させる。したがって、P含有量は0.03%以下とする。P含有量はできる限り少なくすることが好ましい。
[0030]
 S:0.01%以下
 硫黄(S)は、鋼中に含まれる不純物である。Sは硫化物を形成して鋼の靭性を低下させ、耐遅れ破壊性を低下させる。したがって、S含有量は0.01%以下とする。S含有量はできる限り少なくすることが好ましい。
[0031]
 sol.Al:0.1%以下
 アルミニウム(Al)は、一般に鋼の脱酸目的で使用され、不可避的に含有される元素である。しかしながら、Al含有量が過剰であると、脱酸は十分に行われるが、鋼板のAc 点が上昇して、ホットスタンプ時の加熱温度がZnめっきの蒸発温度を超えるおそれがある。したがって、Al含有量は0.1%以下とする。Al含有量は0.05%以下であるのが好ましい。上記の効果を得るためには、Al含有量は0.01%以上であるのが好ましい。なお、本明細書において、Al含有量は、sol.Al(酸可溶Al)の含有量を意味する。
[0032]
 N:0.01%以下
 窒素(N)は、鋼中に不可避的に含まれる不純物である。Nは窒化物を形成して鋼の靭性を低下させる。Nはさらに、鋼中にBが含有される場合、Bと結合して固溶B量を減らし、ひいては焼入れ性を低下させる。したがって、N含有量は0.01%以下とする。N含有量はできる限り少なくすることが好ましい。
[0033]
 B:0~0.005%
 ボロン(B)は、鋼の焼入れ性を高め、ホットスタンプ後の鋼材の強度を高める効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、B含有量が過剰であると、この効果は飽和する。したがって、B含有量は0.005%以下とする。上記の効果を得るためには、B含有量は0.0001%以上であるのが好ましい。
[0034]
 Ti:0~0.1%
 チタン(Ti)は、Nと結合して窒化物を形成する。このようにTiとNとが結合する場合には、BとNとの結合が抑制され、BN形成による焼入れ性の低下を、抑制することができる。そのため、Tiを必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Ti含有量が過剰であると上記効果が飽和し、さらに、Ti窒化物が過剰に析出して鋼の靭性が低下する。したがって、Ti含有量は0.1%以下とする。なお、Tiはそのピン止め効果により、ホットスタンプ加熱時のオーステナイト粒径を微細化し、それにより鋼材の靱性等を高める。上記の効果を得るためには、Ti含有量は0.01%以上であるのが好ましい。
[0035]
 Cr:0~0.5%
 クロム(Cr)は、鋼の焼入れ性を高める効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Cr含有量が過剰であると、Cr炭化物が形成される。このCr炭化物は、ホットスタンプの加熱時に溶解し難いことから、オーステナイト化が進行し難くなり、焼き入れ性が低下する。したがって、Cr含有量は0.5%以下とする。上記の効果を得るためには、Cr含有量は0.1%以上であるのが好ましい。
[0036]
 Mo:0~0.5%
 モリブデン(Mo)は、鋼の焼入れ性を高める効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Mo含有量が過剰であると、上記効果は飽和する。したがって、Mo含有量は0.5%以下とする。上記の効果を得るためには、Mo含有量は0.05%以上であるのが好ましい。
[0037]
 Nb:0~0.1%
 ニオブ(Nb)は、炭化物を形成して、ホットスタンプ時に結晶粒を微細化し、鋼の靭性を高める効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Nb含有量が過剰であると、上記効果が飽和するだけでなく、焼入れ性が低下する。したがって、Nb含有量は0.1%以下とする。上記の効果を得るためには、Nb含有量は0.02%以上であるのが好ましい。
[0038]
 Ni:0~1.0%
 ニッケル(Ni)は、鋼の靭性を高める効果を有する。Niは、さらに、ホットスタンプでの加熱時に、溶融Znの存在に起因した脆化を抑制する。そのため、Niを必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Ni含有量が過剰であると、これらの効果は飽和する。したがって、Ni含有量は1.0%以下とする。上記の効果を得るためには、Ni含有量は0.1%以上であるのが好ましい。
[0039]
 本実施形態のホットスタンプ成形体を構成する母材の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで、不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石もしくはスクラップに含まれ得る成分、または、製造環境などに起因して混入され得る成分であって、意図的に加えられていない成分を意味する。
[0040]
 (C)めっき層
 図1に示すように、本実施形態におけるめっき層20は、母材10側から順に、界面層21、中間層22および酸化物層23を含む。それぞれの層について詳しく説明する。なお、本明細書において、平均膜厚とは、対象となる層(膜)の最大膜厚と最小膜厚との平均値を意味するものとする。
[0041]
 界面層21は、母材10に隣接して形成されており、Fe-Al合金を主体とする組織で構成される。なお、本発明において、Fe-Al合金とは、αFe、Fe AlおよびFeAlの総称である。すなわち、界面層21は、組織がαFe、Fe AlおよびFeAlから選択される1種以上を含む。また、Fe-Al合金が主体であるとは、Fe-Al合金の合計面積率が90%以上であることを意味する。Fe-Al合金の合計面積率は95%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。
[0042]
 界面層21中のAl含有量は、質量%で、30%以下であり、母材10に近づくにつれてAl含有量は低下する。界面層21が母材10に隣接して形成されることにより、LMEを抑制することができる。また、Fe-Al合金には、ZnまたはSi等が固溶している場合もあるため、界面層21中には、Zn:10%以下、Si:10%以下が含まれていてもよい。
[0043]
 耐LME性に起因する疲労特性等を向上させるためには、界面層21の平均膜厚は1.0μm以上であるのが好ましく、2.0μm以上であるのがより好ましい。界面層21の平均膜厚の下限は、5.0μm、6.0μm、または7.0μmであることがさらに好ましい。
[0044]
 界面層の平均膜厚の上限値を規定する必要はないが、平均膜厚が15.0μmを超える界面層21は、耐食性等の性能を低下させる場合があるので、好ましくない。したがって、界面層21の平均膜厚は15.0μm以下であるのが好ましい。界面層21の平均膜厚の上限は、12.0μm、11.0μm、または10.0μmであることがより好ましい。
[0045]
 中間層22は、Fe-Al-Zn相を主体とする組織で構成される。なお、本発明において、Fe-Al-Zn相とは、Fe(Al,Zn) 、Fe (Al,Zn) およびFe(Al,Zn) の総称である。すなわち、中間層22は、組織がFe(Al,Zn) 、Fe (Al,Zn) およびFe(Al,Zn) から選択される1種以上を含む。また、Fe-Al-Zn相が主体であるとは、Fe-Al-Zn相の合計面積率が50%以上であることを意味する。なお、めっき層中にSiを含まない場合には、Fe-Al-Zn相の合計面積率は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、99%以上であることがさらに好ましい。
[0046]
 一方、後述するように、めっき層中にSiを含むことによって、母材とめっき層との密着性を向上させることができる。この場合には、中間層22は、Fe-Al-Si相をさらに含む。Fe-Al-Si相とは、Fe (Al,Si)およびFe(Al,Si)の総称である。すなわち、中間層22は、Fe (Al,Si)およびFe(Al,Si)から選択される1種または2種をさらに含む。この場合、Fe-Al-Zn相およびFe-Al-Si相の合計面積率は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、99%以上であることがさらに好ましい。
[0047]
 また、中間層22は、質量%で、Al:30~50%、および、Zn:15~30%、を含む平均組成を有する。
[0048]
 中間層22中のAl含有量を30%以上とすることで、LMEを抑制し疲労特性を向上させることができる。また、Al含有量を50%以下とすることで、優れたりん酸塩処理性を確保することができ、塗装後耐食性が向上する。Al含有量は32%以上であるのが好ましく、35%以上であるのがより好ましい。また、Al含有量は48%以下であるのが好ましく、45%以下であるのがより好ましい。
[0049]
 中間層22中のZn含有量を15%以上とすることで、優れたりん酸塩処理性を確保することができ、塗装後耐食性の向上を図ることができる。また、Zn含有量を30%以下とすることで、LMEを抑制し疲労特性を向上させることができる。Zn含有量は17%以上であるのが好ましく、20%以上であるのがより好ましい。また、Zn含有量は28%以下であるのが好ましく、25%以下であるのがより好ましい。
[0050]
 さらに、中間層22中のMg含有量を低減することで、耐LME性を向上させることが可能になる。そのため、Mg含有量は1.0%以下であることが好ましい。また、中間層22がFe-Al-Si相を含む場合には、中間層22中にSi:25%以下が含まれていてもよい。
[0051]
 中間層の膜厚については特に制限は設けない。しかし、中間層の膜厚が小さい場合、成形体の耐食性の性能が下がるので、中間層の膜厚を5.0μm以上とすることが望ましい。また、中間層の膜厚が過剰に大きくなると、製造コストが高くなり、さらにホットスタンプ時の加熱時間が長くなる懸念がある。したがって、中間層の膜厚は30.0μm以下が望ましい。
[0052]
 酸化物層23は、Zn主体の酸化物層であり、Mgを含む。ここで、Zn主体の酸化物層とは、具体的には、酸化物中に含まれる金属成分の50質量%以上がZnであることを意味する。酸化物層23の存在により、りん酸塩処理性が向上する。しかしながら、酸化物層23が厚過ぎると、成形体の耐食性および溶接性等に悪影響を及ぼすため、酸化物層23の平均膜厚は3.0μm以下とする。ホットスタンプ成形体のスポット溶接性および塗装後耐食性等の性能を向上させるためには、酸化物層23の平均膜厚は2.0μm以下とすることが好ましい。
[0053]
 酸化物層23中にMgを含有することで、塗装後耐食性を向上することができる。この効果を得るためには、酸化物層23中のMg含有量は0.05g/m 以上とする。しかしながら、Mg酸化物は電気抵抗が高いことから、その含有量が増えるとスポット溶接性が低下する。スポット溶接性を確保するためには、Mg含有量は1.00g/m 以下とする必要がある。
[0054]
 ホットスタンプ成形体の酸化物中にMgを含有させるためには、ホットスタンプ前のめっき層中にMgを含有させてもよいし、めっき鋼板の上に塗装等の形態でMgを含有する皮膜を生成しておいてもよい。
[0055]
 Cr、Ca、Sr、Ti等は、Mgと同様に酸化されやすいため、成形体の表層に酸化物として濃化する。そのため、酸化物層23中にこれらの元素が含まれていてもよい。しかしながら、これらの酸化物もMgと同様に電気抵抗が高いため、過剰に濃化すると、ホットスタンプ成形体の溶接性が悪化するおそれがある。そのため、酸化物層23中のMg、Cr、Ca、SrおよびTiの合計含有量は、2.0g/m 以下であるのが好ましい。
[0056]
 また、めっき層20中のAlおよびZnの合計含有量は20~100g/m であることが好ましい。AlおよびZnの合計含有量を、20g/m 以上とすることで、母材10の表面にめっき層20を設けたことによる効果を得ることができる。一方、上記の合計含有量を100g/m 以下とすることで、ホットスタンプ成形体の原材料費を抑制して製造コスト削減を図ることができるともに、ホットスタンプ成形体の溶接性を担保することができる。上記の合計含有量は30g/m 以上であるのが好ましく、90g/m 以下であるのが好ましい。
[0057]
 めっき層20は、質量%で、0.1~15%のSiをさらに含むことが好ましい。めっき層中のSi含有量を0.1%以上とすることで、母材とめっき層との密着性を向上させることができる。一方、上記Si含有量を15%以下とすることで、ホットスタンプ成形体の耐食性および溶接性等の性能を担保することができる。上記Si含有量は0.3%以上であるのが好ましく、10%以下であるのが好ましい。
[0058]
 また、めっき層20全体としての膜厚については特に制限は設けないが、耐食性を確保する観点から6.0μm超とすることが好ましく、一方、経済性の観点から48.0μm以下とすることが好ましい。
[0059]
 ここで、本発明においては、界面層、中間層および酸化物層の組織、平均組成および厚さ、ならびにめっき層の化学組成については、以下の方法により求めるものとする。
[0060]
 まず、成形体を表面に垂直に切断し、断面を研磨する。そして、この断面において界面層および中間層のそれぞれの領域における各元素の濃度を、電子線マイクロアナライザ(EPMA)で分析する。この際、各層の膜厚中心から膜厚方向に上下25%以上、幅方向に20μm以上の領域において、マッピング分析を行い、その平均組成を用いることとする。これにより、界面層のAlおよびZnの含有量、ならびに中間層のAl、ZnおよびMgの含有量を測定する。
[0061]
 また、めっき層全体での平均Si含有量は、以下の方法により求める。まず、EPMAにより、母材側からめっき層の表面側に向かって0.2μmピッチでライン分析を行う。そして、めっき層での測定結果の平均値を求めることで、めっき層全体での平均組成とする。母材側からめっき層の表面側まで連続的に測定を行った際に、Fe濃度が母材の平均組成より低くなる箇所をめっき層の一方の端部とし、酸化物層に含まれる金属成分のうちZn濃度が50質量%未満となる箇所をめっき層の他方の端部とし、その間の領域をめっき層とする。また、ライン分析は5か所以上で行い、その平均値を採用することとする。
[0062]
 めっき層に含まれるAlおよびZnの合計含有量は、ホットスタンプ成形体を塩酸で溶解し、溶解液を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP分析)することで測定可能である。この方法を用いることで、AlおよびZnの量を個別に求めることが可能である。
[0063]
 ホットスタンプ加熱前のめっき鋼材を溶解する際には、めっき層のみを溶解するために、母材のFeの溶解を抑制するインヒビターを塩酸に添加することが一般的である。しかしながら、ホットスタンプ成形体のめっき層はFeを含有しているので、上記方法では、十分にホットスタンプ成形体のめっき層が溶解しない。
[0064]
 そのため、成形体のめっき中AlおよびZn量をICP分析にて求める際には、インヒビターを添加していない塩酸を用い、40~50℃の液温でめっき層を溶解する方法が適している。また、溶解後にはAlまたはZnといっためっき成分の解け残りがないかを確認するために、溶解後のホットスタンプ成形体の表面をEPMAで組成分析することが望ましい。上述された分析は、成形体の加工されていない領域において実施されなければならない。
[0065]
 また、酸化物層に含まれるMg、Cr、Ca、SrおよびTiの含有量は、ホットスタンプ成形体を重クロム酸アンモニウム溶液で溶解し、溶解液をICP分析することで測定する。上記溶解液を用いることで、酸化物層のみを溶解することが可能である。この方法を用いることで、Mg、Cr、Ca、SrおよびTiの含有量を個別に求めることが可能である。
[0066]
 さらに、界面層および中間層の組織は、TEMによる結晶構造解析により得られる。さらに、界面層、中間層および酸化物層の厚さは、上述の断面の写真をSEMで撮影し、この顕微鏡写真を画像解析することにより得られる。
[0067]
 なお、本実施形態に係る成形体のめっき層の構成は、成形体の表面に平行な方向に沿って実質的に一様ではない。特に、界面層、中間層および酸化物層の厚さは、加工された領域と加工されていない領域とで異なることが多い。したがって、上述された分析は、成形体の加工されていない領域において実施されなければならない。加工されていない領域におけるめっき層の状態が上述の範囲内である成形体は、本実施形態に係る成形体であるとみなされる。
[0068]
 (D)製造方法
 本実施形態のホットスタンプ成形体の製造方法は、ホットスタンプ用めっき鋼材を製造する工程と、ホットスタンプ用めっき鋼材に対してホットスタンプする工程とを含む。また、上記のホットスタンプ用めっき鋼材を製造する工程には、ホットスタンプ用めっき鋼材の母材を製造する工程と、ホットスタンプ用めっき鋼材の母材にAl-Znめっき層を形成する工程とが含まれる。さらに、ホットスタンプする工程の前に、必要に応じて、防錆油膜形成工程およびブランキング加工工程を行ってもよい。以下、各工程について、詳述する。
[0069]
[母材製造工程]
 母材製造工程では、ホットスタンプ用めっき鋼材の母材を製造する。例えば、上に例示された本実施形態に係るホットスタンプ成形体の母材の化学組成と同じ化学組成を有する溶鋼を製造する。そして、この溶鋼を用いて、鋳造法によりスラブを製造するか、または、造塊法によりインゴットを製造する。
[0070]
 次いで、スラブまたはインゴットを熱間圧延することにより、ホットスタンプ用めっき鋼材の母材(熱延板)が得られる。なお、上記熱延板に対して酸洗処理を行い、酸洗処理後の熱延板に対して冷間圧延を行って得られる冷延板をホットスタンプ用めっき鋼材の母材としてもよい。
[0071]
[めっき処理工程]
 めっき処理工程では、上記ホットスタンプ用めっき鋼材の母材にAl-Zn-Mgめっき層を形成して、ホットスタンプ用めっき鋼材を製造する。Al-Zn-Mgめっき層の形成方法は、溶融めっき処理であってもよいし、溶射めっき処理、蒸着めっき処理等の、その他のいかなる処理であってもよい。母材とめっき層との密着性を高めるためには、めっき層にSiを含有させることが好ましい。
[0072]
 溶融めっき処理によるAl-Zn-Mgめっき層の形成例は、以下のとおりである。すなわち、母材を、Al、Zn、Mgおよび不純物からなる溶融めっき浴に浸漬し、母材表面にめっき層を付着させる。次いで、めっき層が付着した母材をめっき浴から引き上げる。
[0073]
 なお、上述したとおり、ホットスタンプ成形体については、めっき層中のAlおよびZnの合計含有量が20~100g/m であることが好ましい。この合計含有量を確保するには、本工程において、母材をめっき浴から引き上げた際のめっき層中のAlおよびZnの合計含有量を、20~100g/m とすることが肝要である。
[0074]
 本工程においては、めっき浴からの鋼板の引き上げ速度、ワイピングのガスの流量を適宜調整することにより、めっき層中のAlおよびZnの合計含有量を調整することが可能となる。
[0075]
 また、上述したとおり、ホットスタンプ成形体のめっき層においては、中間層が、質量%で、30~50%のAlと、15~30%のZnとを含む。このAlおよびZnの含有量についても、主に、本工程(めっき処理工程)において制御することができる。具体的には、本工程におけるめっき浴中のAl含有量を40~60%とするとともに、Zn含有量を40~60%とすることで、ホットスタンプ成形体におけるAlおよびZnの含有量を上記の範囲とすることができる。
[0076]
 また、溶融めっき処理によりAl-Zn-Mgめっき層を形成する場合には、めっき浴中のMg含有量は0.5~2.0%とすることが好ましく、1.0~1.5%とすることがより好ましい。めっき鋼板の付着量にもよるが、めっき浴のMg濃度が高いと、めっき中に含有するMg量が増加することから、成形品の表層酸化物に含まれるMg量が増加し、溶接性の低下が懸念される。また、中間層にMgが1.0%を超えて残存することで耐LME性の低下も懸念される。一方で、めっき浴のMg濃度が低いと、成形品の表層酸化物に含まれるMg量が低下し、十分な塗装後耐食性が得られない懸念がある。
[0077]
 Mgを含まない溶融めっき浴を用いる場合には、めっき層のさらに上層にMg酸化物を含有する処理液をバーコータにより塗布し、オーブンで焼付け乾燥させることで、Mgを塗装してもよい。Mg塗装を行う場合には、塗布するMg含有量を0.050~1.00g/m とするのが好ましい。
[0078]
[ホットスタンプ工程]
 ホットスタンプ工程では、上述のホットスタンプ用めっき鋼材にホットスタンプを行う。通常のホットスタンプは、鋼材をホットスタンプ温度範囲(熱間加工温度範囲)まで加熱し、次いで鋼材を熱間加工し、さらに鋼材を冷却することにより行われる。通常のホットスタンプ技術によれば、製造時間を短縮するために、鋼材の加熱速度をなるべく大きくすることがよいとされる。また、鋼材をホットスタンプ温度範囲まで加熱すればめっき層の合金化が十分に進むので、通常のホットスタンプ技術は、鋼材の加熱条件の制御を重要視していない。
[0079]
 しかしながら、本実施形態に係るホットスタンプ成形体を製造するためのホットスタンプ工程では、ホットスタンプ用めっき鋼材に対して、合金化加熱処理を施した後に、ホットスタンプ温度(焼入れ加熱温度)まで加熱し、熱間加工および冷却する。ホットスタンプ用めっき鋼材をホットスタンプ温度まで昇温させる際に、所定の温度域で一定時間保持する合金化加熱処理を行うことで、上述した構成を有するめっき層を形成することが可能となる。
[0080]
 ホットスタンプ工程では、まず、ホットスタンプ用めっき鋼材を加熱炉(ガス炉、電気炉、赤外線炉等)に装入する。加熱炉内で、ホットスタンプ用めっき鋼材を500~750℃の温度範囲まで加熱し、この温度範囲内で10~450s保持する合金化加熱処理を行う。合金化加熱処理を行うことにより、めっき層中に母材のFeが拡散して、合金化が進行する。この合金化により、めっき層は、母材側から順に、界面層、中間層および酸化物層を含むものに変化する。なお、合金化加熱温度は一定である必要はなく、500~750℃の範囲内で変動してもよい。
[0081]
 合金化加熱温度が500℃未満であると、めっき層が合金化する速度が極めて小さく、加熱時間が極端に延びるため、生産性の観点から好ましくないことに加えて、中間層の形成が不十分となるおそれがある。一方、合金化加熱温度が750℃を超えると、この処理過程で酸化物層の成長が過剰に促進され、ホットスタンプ成形体の溶接性が低下する。
[0082]
 また、合金化加熱時間が10s未満であると、めっき層の合金化が完了しないので、上述の界面層、中間層および酸化層を有するめっき層が得られない。一方、合金化加熱時間が450sを超えると、酸化物の成長量が過剰となり、また、生産性の低下に繋がる。
[0083]
 ホットスタンプ用めっき鋼材を、上述の合金化加熱温度まで加熱する際の加熱条件は特に限定されない。ただし、生産性の観点から、加熱時間は短いことが望ましい。
[0084]
 合金化加熱処理が終了した後、Ac 点~950℃の温度範囲までホットスタンプ用めっき鋼材を加熱し、次いで熱間加工を行う。この際、ホットスタンプ用めっき鋼材温度がAc 点~950℃の温度範囲(酸化温度範囲)内にある時間を60s以下に制限する。ホットスタンプ用めっき鋼材温度が酸化温度範囲内にあると、めっき層の表層の酸化層が成長する。ホットスタンプ用めっき鋼材温度が酸化温度範囲内にある時間が60sを超えると、酸化物皮膜が成長し過ぎて、成形体の溶接性の低下が懸念される。一方、酸化物被膜の生成速度は非常に速いので、ホットスタンプ用めっき鋼材温度が酸化温度範囲内にある時間の下限値は0s超である。ただし、ホットスタンプ用めっき鋼材の加熱が100%窒素雰囲気等の非酸化雰囲気で行われた場合、酸化層が形成されないので、ホットスタンプ用めっき鋼材の加熱は大気雰囲気等の酸化雰囲気で行う。
[0085]
 ホットスタンプ用めっき鋼材温度が酸化温度範囲内にある時間が60s以下である限り、加熱速度および最高加熱温度等の条件は特に規定されず、ホットスタンプを行いうる種々の条件を選択することができる。
[0086]
 次に、加熱炉から取り出されたホットスタンプ用めっき鋼材を、金型を用いてプレス成形する。本工程では、このプレス成形と同時に、金型によって当該鋼材を焼入れする。金型内には冷却媒体(例えば水)が循環しており、金型がホットスタンプ用めっき鋼材の抜熱を促して、焼入れがなされる。以上の工程により、ホットスタンプ成形体を製造することができる。
[0087]
 なお、加熱炉を用いてホットスタンプ用めっき鋼材を加熱する方法を例に説明したが、通電加熱によりホットスタンプ用めっき鋼材を加熱してもよい。この場合であっても、通電加熱により鋼材を所定時間加熱し、金型を用いて当該鋼材のプレス成形を行う。
[0088]
[防錆油膜形成工程]
 防錆油膜形成工程は、めっき処理工程後、かつ、ホットスタンプ工程前に、ホットスタンプ用めっき鋼材の表面に防錆油を塗布して防錆油膜を形成するものであり、製造方法に任意に含まれてもよい。ホットスタンプ用めっき鋼材が製造されてからホットスタンプが行われるまでの時間が長い場合には、ホットスタンプ用めっき鋼材の表面が酸化されるおそれがある。しかしながら、防錆油膜形成工程により防錆油膜が形成されたホットスタンプ用めっき鋼材の表面は酸化し難いので、防錆油膜形成工程は、成形体のスケールの形成を抑制することができる。なお、防錆油膜の形成方法は、公知のいかなる技術を用いることもできる。
[0089]
[ブランキング加工工程]
 本工程は、防錆油膜形成工程後、かつ、ホットスタンプ工程前に、ホットスタンプ用めっき鋼材に対して剪断加工および/または打ち抜き加工を行って、当該鋼材を特定の形状に成形する工程である。ブランキング加工後の鋼材の剪断面は酸化し易い。しかしながら、鋼材表面に事前に防錆油膜が形成されていれば、上記剪断面にも防錆油がある程度広がる。これにより、ブランキング加工後の鋼材の酸化を抑制することができる。
[0090]
 以上、本発明の一実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明の例示にすぎない。したがって、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更することができる。
[0091]
 以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例 1
[0092]
 まず、母材を準備した。すなわち、表1に示す化学組成の溶鋼を用いて、連続鋳造法によりスラブを製造した。次いで、スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造し、熱延鋼板をさらに酸洗した後、冷間圧延を行って冷延鋼板を製造した。そして、この冷延鋼板をホットスタンプ成形体の製造に用いる母材(板厚1.4mm)とした。
[0093]
[表1]


[0094]
 次に、このように製造した母材を用いて、表2に示す製造条件に従い、ホットスタンプ用めっき鋼材(材料No.1~28)を作製した。また、めっき処理時のめっき浴への浸漬時間は5sとし、めっき浴から引き上げた後の450℃までの冷却速度は10℃/sとした。
[0095]
[表2]


[0096]
 その後、上記のホットスタンプ用めっき鋼材に対して、表3に示す条件(加熱No.1~9)で加熱した後、直ちにハンドプレス機を用いて、ホットスタンプを模擬したV曲げ加工を施し、各試験例のホットスタンプ成形体を製造した。なお、金型の形状は、V曲げ加工による曲げ半径の外側部分が曲げ加工終了時に15%程度伸ばされるような形状とした。また、加工時の冷却速度が遅い部分でも、マルテンサイト変態開始点(410℃)程度まで、50℃/s以上の冷却速度となるように焼入れした。
[0097]
[表3]


[0098]
 得られた各試験例のホットスタンプ成形体の平板部から、めっき層の構造観察用、ICP分析用、スポット溶接性評価試験用および塗装後耐食性評価試験用の試験片を切り出し、さらに曲げ加工部から耐LME性評価試験用の試験片を切り出した。
[0099]
 めっき層の構造観察用試験片については、成形体の表面に垂直な断面を研磨した後、EPMAを用いて、界面層のAlおよびZnの含有量、ならびに中間層のAl、ZnおよびMgの含有量の測定を行った。EPMA分析に際しては、各層の膜厚中心から膜厚方向に上下25%以上、幅方向に20μm以上の領域において、マッピング分析を行い、その平均組成を算出した。
[0100]
 また、めっき層全体での平均Si含有量を求める際には、EPMAにより、母材側からめっき層の表面側に向かって0.2μmピッチでライン分析を行い、めっき層での測定結果の平均値を算出した。ライン分析は5か所において行い、その平均値をめっき層全体での平均組成とした。
[0101]
 さらに、上記断面をSEMで撮影し、その顕微鏡写真を画像解析することで、各層の厚さを測定した。各層の組織については、上記試験片の同じ場所から採取した薄片に対してTEMによる結晶構造解析を行うことにより判定した。
[0102]
 そして、ICP分析用試験片については、50℃の塩酸でめっき層を溶解した後、溶解液をICP分析することで、めっき層に含まれるAlおよびZnの合計含有量を求めた。また、同様に、ICP分析用試験片について、重クロム酸アンモニウム溶液で酸化物層のみを溶解し、溶解液をICP分析することで、Mg、Cr、Ca、SrおよびTiの含有量を求めた。
[0103]
 次に、以下に示すように、耐LME性評価試験、スポット溶接性評価試験および塗装後耐食性評価試験を行った。
[0104]
[耐LME性評価試験]
[0105]
 各試験例の耐LME性評価試験用試験片の厚さ方向断面について、SEMおよび反射電子検出器を用いて反射電子像を観察することにより、LMEの発生の有無を観察した。この時、母材(Fe濃度が98%以上の箇所)にまで割れが進展している場合をLME発生とした。そして、クラックが発生していないものを優(1)、クラックがめっき層を越えて母材まで延在しているものを不可(4)と評価した。
[0106]
 なお、クラックの終端位置の判定が上記観察では困難な場合には、エネルギー分散型X線マイクロアナライザを用い、クラック終端位置の周囲領域に対して、エネルギー分散型X線分析(EDS)を行うことで、母材までクラックが延在しているか否かを判定した。この際、Al、Znの含有量の合計が0.5%を超えている領域をめっき層とし、それよりも鋼材の内側領域を母材と認定した。
[0107]
[スポット溶接性評価試験]
 各試験例の溶接性評価試験用試験片に対して、直流電源を用いて、加圧力350kgfにてスポット溶接を実施した。種々の溶接電流にて試験を実施し、溶接部のナゲット径が4.7mmを超えた値を下限値とし、適宜溶接電流の値を上げていき、溶接時にチリ発生した値を上限値とした。そして、上限値と下限値の間の値を適正電流範囲と設定し、上限値と下限値との差をスポット溶接性の指標とした。スポット溶接性の評価においては、この値が1.5A以上のものを優(1)、1.0A以上1.5A未満のものを良(2)、0.5A以上1.0A未満のものを可(3)、0.5A未満のものを不可(4)と評価した。
[0108]
[塗装後耐食性評価試験]
 各試験例の塗装後耐食性評価試験用試験片に対して、日本パーカライジング株式会社製の表面調整処理剤(商品名:プレパレンX)を用いて、表面調整を室温で20s行った。次いで、日本パーカライジング株式会社製のりん酸亜鉛処理液(商品名:パルボンド3020)を用いて、りん酸塩処理を行った。具体的には、処理液の温度を43℃とし、成形体を処理液に120s浸漬した。これにより、鋼材表面にりん酸塩被膜が形成された。
[0109]
 上述のリン酸塩処理を実施した後、各成形体に対して、日本ペイント株式会社製のカチオン型電着塗料を、電圧160Vのスロープ通電で電着塗装し、さらに、焼き付け温度170℃で20分間焼き付け塗装した。電着塗装後の塗料の膜厚制御は、ホットスタンプ成形前の鋼材にて、電着塗装が15μmとなる条件にて実施した。
[0110]
 電着塗装した後の成形体に対して、素地の鋼材にまで到達するようにクロスカットをいれ、複合腐食試験(JASO M610サイクル)を実施した。塗装膨れ幅にて耐食性を評価し、180サイクルの複合腐食試験を実施した後の塗装膨れ幅が2.0mm以下のものを優(1)、2.0mm超3.0mm以下のものを良(2)、3.0mm超4.0mm以下のものを可(3)、4.0mm超のものを不可(4)と評価した。
[0111]
[評価結果]
 本発明においては、疲労特性(耐LME性)、スポット溶接性、および塗装後耐食性の全てにおいてバランスよく優れるホットスタンプ成形体を提供することを目的としている。そのため、これらの評価結果を総合的に勘案し、いずれの試験においても優または良であった総合評価Aおよびいずれの試験においても少なくとも不可がなかった総合評価Bのものを合格とし、いずれかの試験において不可があった総合評価Cのものを不合格とした。それらの結果を表4に示す。
[0112]
[表4]


[0113]
 表4からも明らかなように、本発明に係るホットスタンプ成形体は、疲労特性(耐LME性)、スポット溶接性、および塗装後耐食性の全てにおいてバランスよく優れることが確認された。

産業上の利用可能性

[0114]
 本発明によれば、疲労特性、スポット溶接性、および塗装後耐食性に優れたホットスタンプ成形体を得ることができる。したがって、本発明に係るホットスタンプ成形体は、自動車等に用いられる構造部材等として好適に用いることができる。

請求の範囲

[請求項1]
 母材と該母材の表面に形成されためっき層とを備えるホットスタンプ成形体であって、
 前記めっき層は、前記母材側から順に、界面層、中間層および酸化物層を含み、
 前記界面層は、組織がαFe、Fe AlおよびFeAlから選択される1種以上のFe-Al合金を含み、かつ、前記Fe-Al合金の合計面積率が90%以上であり、
 前記中間層は、Fe(Al,Zn) 、Fe (Al,Zn) およびFe(Al,Zn) から選択される1種以上のFe-Al-Zn相を含み、かつ、前記Fe-Al-Zn相の合計面積率が50%以上であり、
 前記中間層の平均組成が、質量%で、
 Al:30~50%、および、
 Zn:15~30%、を含み、
 前記酸化物層は、平均膜厚が3.0μm以下であり、かつ、Mg含有量が0.05~0.50g/m である、
 ホットスタンプ成形体。
[請求項2]
 上記界面層は、平均膜厚が1.0μm以上である、
 請求項1に記載のホットスタンプ成形体。
[請求項3]
 上記めっき層中のAlおよびZnの合計含有量が20~100g/m である、
 請求項1または請求項2に記載のホットスタンプ成形体。
[請求項4]
 前記中間層の前記Fe-Al-Zn相の合計面積率が90%以上である、
 請求項1から請求項3までのいずれかに記載のホットスタンプ成形体。
[請求項5]
 上記めっき層は、質量%で、0.1~15%のSiをさらに含み、
 前記中間層は、Fe (Al,Si)およびFe(Al,Si)から選択される1種または2種のFe-Al-Si相をさらに含み、かつ、前記Fe-Al-Zn相および前記Fe-Al-Si相の合計面積率が90%以上である、
 請求項1から請求項3までのいずれかに記載のホットスタンプ成形体。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]