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1. (WO2018179389) 熱間圧延鋼板および鋼製鍛造部品ならびにそれらの製造方法
Document

明 細 書

発明の名称 熱間圧延鋼板および鋼製鍛造部品ならびにそれらの製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003  

先行技術文献

特許文献

0004  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0005   0006   0007   0008   0009   0010   0011   0012  

課題を解決するための手段

0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019  

発明の効果

0020  

図面の簡単な説明

0021  

発明を実施するための形態

0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081   0082   0083   0084   0085   0086   0087   0088   0089   0090   0091   0092   0093   0094   0095   0096   0097   0098   0099   0100   0101   0102   0103   0104   0105   0106   0107   0108   0109   0110   0111   0112   0113   0114   0115   0116   0117   0118   0119   0120   0121   0122   0123   0124   0125   0126   0127   0128   0129   0130   0131   0132   0133   0134   0135   0136  

実施例 1

0137   0138   0139   0140   0141   0142   0143   0144   0145   0146   0147   0148   0149   0150   0151   0152   0153   0154   0155   0156   0157   0158   0159  

産業上の利用可能性

0160  

符号の説明

0161  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6  

図面

1  

明 細 書

発明の名称 : 熱間圧延鋼板および鋼製鍛造部品ならびにそれらの製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、熱間圧延鋼板および鋼製鍛造部品ならびにそれらの製造方法に関する。

背景技術

[0002]
 自動車の車体構造に使用される鋼板には、安全性の向上および軽量化の観点から、高強度化と高いプレス加工性とが求められている。このような要求に対して、従来よりも良好な穴広げ性(高いバーリング性)に優れた高強度な鋼板が提案されている。例えば、穴広げ性(λ値)に優れる鋼板としては、Ti、Nb等の微細析出物により析出強化されたフェライト主相の鋼板とその製造方法が報告されている。
[0003]
 特許文献1には、高強度で優れた伸びフランジ性を備えた熱延鋼板が開示されている。また、特許文献2には、材質均一性に優れた高成形性高張力熱延鋼板が開示されている。さらに、特許文献3には、伸びおよび伸びフランジ性に優れた高張力熱延鋼板が開示されている。

先行技術文献

特許文献

[0004]
特許文献1 : 特開2002-105595号公報
特許文献2 : 特開2002-322540号公報
特許文献3 : 特開2002-322541号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0005]
 ところで、自動車の車体構造の複雑化、部品形状の複雑化に伴い、自動車用鋼板の加工は、従来のプレス加工の要素だけでなく、板鍛造などのように従来のプレス加工要素に新たな加工要素が複合的に組み合わされてきている。従来のプレス加工要素とは、例えば深絞り加工、穴拡げ、張出し成形加工、曲げ加工、しごき加工といった要素であった。
[0006]
 しかし、近年の板鍛造に代表されるプレス加工は、前記の従来のプレス加工要素に、さらにプレス荷重を分散させて、部分的に圧縮荷重をかけることで、鍛造の加工要素、例えば据え込加工、増厚(増肉)加工、といった加工要素も付加されてきている。すなわち、板鍛造は、従来のような鋼板をプレス加工する際の加工要素の他に、鍛造加工特有の加工要素を含む複合的な加工要素を有するプレス加工である。
[0007]
 このような板鍛造を行うことで、従来のプレス加工により、鋼板の板厚が元の板厚のままか、減厚(減肉)しながら鋼板が変形して部品の成型が行われつつ、部分的には圧縮力がかかって鍛造加工を受けた部分では、鋼板の板厚が増厚(増肉)することで、機能上必要な個所の鋼板の板厚になるよう効率よく変形させることができ、部品の強度を確保することができる。
[0008]
 しかしながら、特許文献1~3では、板鍛造に代表される複合的加工要素を含む加工に関しては全く言及されていない。また、特許文献1に記載された熱延鋼板を製造するための巻き取り条件は非常に厳しく現実的ではない。さらに特許文献2および3に記載された熱延鋼板は高価な合金元素であるMoを0.07%以上含有するため、製造コストが高いという問題がある。
[0009]
 高バーリング鋼は、従来のプレス加工では良好な成形性を示すことが知られている。しかしながら、従来のプレス加工に鍛造加工の要素も含む成形方法である板鍛造では、少ない加工度でも鋼板に亀裂が発生し破断する場合があることが判明した。
[0010]
 すなわち、従来のプレス加工においては、板厚くびれ(鋼板の板厚の減厚)が発生した部分でプレス割れが起こるが、板鍛造のように板厚くびれを伴わない加工においても、材料に亀裂が発生し破断して成品が得られない場合があることが判明した。
[0011]
 このような板鍛造の亀裂発生の限界が、鋼板のどのような性質により支配されていて、どのようにすれば向上できるのかについてはあまり知られていない。そのため、従来の高バーリング鋼の機能である、深絞り加工性、穴広げ性、張出し成形加工性、といった機能を有効に活かしつつ、板鍛造加工しても破断しない高バーリング鋼が求められていた。
[0012]
 本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、高バーリング鋼としての基本的機能を維持しつつ、部分的に圧縮力がかかって鍛造加工を受けた部分の割れ限界を向上させることが可能な板鍛造性に優れた熱間圧延鋼板を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

[0013]
 本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、下記の熱間圧延鋼板および鋼製鍛造部品ならびにそれらの製造方法を要旨とする。
[0014]
 (1)鋼板の化学組成が、質量%で、
 C:0.020~0.070%、
 Si:0.05~1.70%、
 Mn:0.60~2.50%、
 Al:0.010~1.000%、
 N:0%超~0.0030%以下、
 P:0.050%以下、
 S:0.005%以下、
 Ti:0.015~0.170%、
 Nb:0~0.100%、
 V:0~0.300%、
 Cu:0~2.00%、
 Ni:0~2.00%、
 Cr:0~2.00%、
 Mo:0~1.00%、
 B:0~0.0100%、
 Mg:0~0.0100%、
 Ca:0~0.0100%、
 REM:0~0.1000%、
 Zr:0~1.000%、
 Co:0~1.000%、
 Zn:0~1.000%、
 W:0~1.000%、
 Sn:0~0.050%、および、
 残部:Feおよび不純物であり、
 前記鋼板の圧延方向と垂直な断面において、前記鋼板の幅および厚さをそれぞれWおよびtとしたときに、前記鋼板の端面から1/4Wまたは3/4Wで、かつ、前記鋼板の表面から1/4tまたは3/4tの位置における金属組織が、面積%で、
 フェライト:5~70%、
 ベイナイト:30~95%、
 残留オーステナイト:2%以下、
 マルテンサイト:2%以下、および、
 パーライト:1%以下、であり、かつ、
 フェライトおよびベイナイトの合計:95%以上であり、
 前記フェライトは、粒内にTiを含む析出物を有し、
 前記Tiを含む析出物の個数密度が、1.0×10 16~50.0×10 16個/cm であり、
 前記鋼板中にTiN析出物が含まれ、
 前記TiN析出物の平均円相当径が1.0~10.0μmであり、
 隣接する前記TiN析出物間の最短距離の平均値が10.0μm以上であり、
 ナノ硬度の標準偏差が1.00GPa以下である、
 熱間圧延鋼板。
[0015]
 (2)前記Tiを含む析出物の平均円相当径が1.00~3.00nmである、
 上記(1)に記載の熱間圧延鋼板。
[0016]
 (3)引張強さが780MPa以上であり、
 均一伸びと引張強さとの積が7000MPa・%以上であり、
 穴広げ率と引張強さとの積が50000MPa・%以上である、
 上記(1)または(2)に記載の熱間圧延鋼板。
[0017]
 (4)上記(1)から(3)までのいずれかに記載の熱間圧延鋼板を製造する方法であって、
 上記(1)に記載の化学組成を有するスラブに対して、加熱工程、連続熱延工程、第1冷却工程、第2冷却工程および巻取工程を順に施し、
 前記加熱工程において、前記スラブを下記(i)式で表わされるSRTmin℃以上、1260℃以下の温度に加熱し、
 前記連続熱延工程は、粗圧延と3段以上の多段仕上圧延とを含み、
 前記粗圧延の終了温度が1100℃以上であり、
 前記多段仕上圧延における最終3段の圧延における累積歪みが、0.01~0.10であり、
 前記多段仕上圧延の圧延終了温度が、下記(ii)式で求められるAr +30℃以上の温度であり、
 前記第1冷却工程では、前記多段仕上圧延が終了した後、1.00~5.00s後に冷却を開始し、前記圧延終了温度から、650~750℃の温度範囲まで、10℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、その後、大気中で1~10s保持し、
 前記第2冷却工程では、前記大気中での保持後に、600~740℃の温度範囲から、10℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、
 前記巻取工程では、450~650℃の巻取り温度で巻取る、
 熱間圧延鋼板の製造方法。
 SRTmin=7000/{2.75-log(Ti×C)}-273 ・・・(i)
 Ar =970-325×C+33×Si+287×P+40×Al-92×(Mn+Mo+Cu)-46×(Cr+Ni) ・・・(ii)
 但し、上記式中の元素記号は、各元素の熱間圧延鋼板中の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0を代入するものとする。
[0018]
 (5)上記(1)から(3)までのいずれかに記載の熱間圧延鋼板から得られる、
 鋼製鍛造部品。
[0019]
 (6)上記(1)から(3)までのいずれかに記載の熱間圧延鋼板に対して、少なくとも鍛造加工を施す、
 鋼製鍛造部品の製造方法。

発明の効果

[0020]
 本発明によれば、高バーリング鋼としての基本的機能である良好な穴広げ性を維持しつつ、板鍛造性に優れた熱間圧延鋼板を得ることが可能となる。

図面の簡単な説明

[0021]
[図1] 単純せん断試験を説明する概要図である。図1(a)は、単純せん断試験の試験片を示す図である。図1(b)は、単純せん断試験後の試験片を示す図である。

発明を実施するための形態

[0022]
 本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を行い、以下の知見を得た。
[0023]
 (a)相当塑性歪み
 板鍛造は、従来の引張試験での破断歪みを超える歪み域(高歪み域)での変形を含んでいる。また、板鍛造は複合的加工のため、単純に引張試験およびせん断試験データだけでは評価できない。そこで、本発明者らは、「相当塑性歪み」を指標として導入し、新たな評価法を確立した。
[0024]
 この相当塑性歪みを指標として用いることにより、引張試験をしたときの破断時の引張応力および引張歪みと、せん断試験をしたときの破断時のせん断応力およびせん断歪みとを、複合的に評価できることを見出した。
[0025]
 相当塑性歪みは、単純せん断試験でのせん断応力σsとせん断塑性歪みεspとの関係を、変形形態の異なる、単軸引張試験での引張応力σと引張歪みεとの関係に変換するものである。そして、等方硬化則および塑性仕事共役の関係を仮定して、定数である変換係数(κ)を用いることで、下式のように変換できる。後述の方法により、変換係数(κ)の算出した上で、相当塑性歪みを導出する。
 単軸引張試験での引張応力σ=単純せん断試験でのせん断応力σs×κ
 単軸引張試験での引張歪みε=単純せん断試験でのせん断塑性歪みεsp/κ
[0026]
 (b)多段せん断試験
 相当塑性歪みを求めるためには、引張試験による引張応力および引張歪みの関係と、せん断試験によるせん断応力およびせん断歪みの関係を取得する必要がある。しかし、板鍛造は、高歪み域での変形を含んでいる。そのため、通常使用されているせん断試験装置を用いて1回で試験を行うと、試験片を保持している部分から試験片に亀裂が進行してしまう。その結果、高歪み域までの変形を試験することができない場合が多い。したがって、板鍛造のような鋼板の板厚の減厚(減肉およびくびれ)が生じない加工を再現する方法が必要となる。
[0027]
 そこで、せん断試験を多段階に分けて行い、各段階のせん断試験後毎に、試験片を保持している部分に発生している試験片の亀裂の起点を機械加工して、試験片の亀裂が進行しないようにし、これらのせん断試験結果を直列的につなげて試験結果を評価することとした。この試験方法を適用することにより、高歪み域までのせん断試験結果を得ることが可能となり、高歪み域までのせん断応力とせん断歪みとの関係を求めることができる。
[0028]
 一方、引張応力および引張歪みについては、従来の引張試験方法を適用することができる。例えば、JIS Z2241(2011)に基づいたJIS5号試験片を用いることができる。
[0029]
 (c)亀裂発生のメカニズム
 上述の多段せん断試験と、相当塑性歪みを用いた評価法と、板鍛造の前後における鋼板のミクロ調査とを採用することにより、亀裂の発生メカニズムについて、以下の知見を得た。
[0030]
 高バーリング鋼のミクロ組織として、優れた穴広げ性を得るために、Ti、Nb等の微細析出物により析出強化されたフェライト(析出強化フェライト)を主相とした組織が用いられている。一方、Tiが添加されると、特別な製法を用いない限り粗大なTiNが析出する(以下、析出したTiNを単に「TiN」ともいう。)。これは、TiNが熱力学的に非常に安定した化合物であり、鋼板製造プロセス中の鋳造時、熱間圧延の加熱時、または粗圧延初期等の高温状態において、他の化合物に対して優先的に晶出または析出するためである。
[0031]
 TiNは、切削工具、機械部品、プラスチック成型の金型、スポーツ用品、装飾品などのコーティング用途として用いられるほど硬く、その硬度はHv2000~2300程度であることが知られおり、非常に硬質な析出物である。したがって、板鍛造のような高ひずみ域での変形を受けると、母相組織との変形能の差から界面でボイドが発生しやすい。
[0032]
 硬質析出物(TiN)と、適度に軟質な母相組織(フェライトまたはベイナイト)の変形能の差から、両相の界面でボイド(微小な空洞)が発生する。その後、板鍛造の歪みが増加するとともに、ボイドが成長し、隣接ボイドと結合して亀裂になり、破断に至る。そこで、ボイドの発生を防止すること、およびボイドが成長しても、隣接ボイドとの結合を抑制できれば、亀裂発生を抑制できることを見出した。但し、その際に高バーリング鋼としての本来機能を損なわないことも重要である。
[0033]
 これらの知見から以下の事項を見出した。
[0034]
 (i)TiNの平均径を限定すること。
 すなわち、ボイドは硬質析出物のTiNの粒界に発生するため、TiNの平均径を限定することで、ボイドの発生が低減できる。
[0035]
 (ii)TiN同士の距離を制限すること。
 すわなち、ボイドはTiNの粒界に発生するため、TiN同士を離して配置することにより、ボイドが成長しても結合しにくくすることができる。
[0036]
 (iii)ナノ硬度バラツキを低減させること。
 すなわち、硬質組織と軟質組織の硬度差をできるだけ低減することにより、ボイドの発生が低減できる。
[0037]
 (iv)破断時の相当塑性歪みが0.90(90%)以上であること。
 前記の(i)~(iii)の条件を満足することにより、破断時の相当塑性歪みが0.90(90%)以上となり、板鍛造のような複合的加工においても、一定の加工性を担保することが可能であることを確認した。
[0038]
 (d)有効累積歪み
 上記(i)~(iv)の組織を得るために、熱間圧延における3段以上の多段(例えば6段または7段)の連続圧延で行われる多段仕上圧延において、最終3段の圧延における累積歪(以下「有効累積歪み」と記述する場合がある)が0.01~0.10になるように、最終仕上圧延を行なうことが必要である。
[0039]
 有効累積歪みは、圧延時の温度、圧延による鋼板の圧下率による結晶粒の回復、再結晶および粒成長を考慮した指標である。そのため、有効累積歪みを求めるに際しては、圧延後の時間経過による静的回復現象を表現する構成則を用いた。結晶粒が圧延後の時間経過により静的回復することを考慮したのは、圧延後の結晶粒に歪みとして蓄積されたエネルギーの解放が、熱的な結晶粒の転位の消滅による静的回復により起こるからである。そして、この熱的な転位の消滅は、圧延温度と圧延後の経過時間とに影響されるものである。そこで、この静的回復も考慮して、圧延時の温度、圧延による鋼板の圧下率(対数歪み)、圧延後の時間経過をパラメーターとして記述した指標を導入し、これを「有効累積歪み」と定義した。
[0040]
 このように、有効累積歪みを制限することにより、目的とするミクロ組織が得られるとともにナノ硬度のバラツキが低減されるので、硬質組織と軟質組織の界面でのボイドの発生を抑制することにより、板鍛造しても亀裂が発生しないので、板鍛造性に優れた鋼板を得ることができる。
[0041]
 本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
[0042]
 (A)化学組成
 各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
[0043]
 C:0.020~0.070%
 Cは、Nb、Ti等と結合して鋼板中で析出物を形成し、析出強化により強度向上に寄与する。C含有量が0.020%未満では、上記作用による効果が十分には得られない。一方、C含有量が0.070%を超えると、穴広げ加工時の割れの起点となる鉄系炭化物が増加し、穴広げ値が劣化する。そのため、C含有量は0.020~0.070%とする。C含有量は0.025%以上であるのが好ましく、0.030%以上であるのがより好ましい。また、C含有量は0.060%以下であるのが好ましく、0.050%以下であるのがより好ましい。
[0044]
 Si:0.05~1.70%
 Siは、脱酸効果、ならびに材料組織中におけるセメンタイト等の鉄系炭化物の析出を抑制し、延性および穴広げ性の向上に寄与する効果を有する。しかし、その含有量が過剰な場合、高温域でフェライト変態が生じやすくなり、これに伴い高温域でTiを含む炭化物が析出しやすくなる。高温域での炭化物の析出は、析出量のばらつきを生じやすく、結果として強度や穴広げ性等の材質変動をもたらす。そのため、Si含有量は0.05~1.70%とする。
[0045]
 Si含有量は、ウロコ、紡錘スケールといったスケール系欠陥の発生の抑制の観点から、0.06%以上であるのが好ましく、0.08%以上であるのがより好ましい。また、Si含有量は1.50%以下であるのが好ましく、さらに化成処理性、塗装後耐食性を向上させる観点から、1.00%以下であるのがより好ましい。
[0046]
 Mn:0.60~2.50%
 Mnは、フェライトの強化および焼入れ性の向上に寄与する元素である。一方、多量に含有させると、焼入れ性が必要以上に高まりフェライトを十分に確保できず、また、鋳造時にスラブ割れが発生する。そのため、Mn含有量は0.60~2.50%とする。Mn含有量は1.00%以上であるのが好ましく、1.50%以上であるのがより好ましい。また、Mn含有量は2.00%以下であるのが好ましく、1.80%以下であるのがより好ましい。
[0047]
 Al:0.010~1.000%
 Alは、Siと同様に脱酸効果とフェライトを生成する効果を有する。一方、その含有量が過剰であると脆化を招くとともに、鋳造時にタンディッシュノズルを閉塞し易くする。そのため、Al含有量は0.010~1.000%とする。Al含有量は0.015%以上または0.020%以上が好ましく、0.025%以上または0.030%以上がより好ましい。また、Al含有量は0.800%以下、0.700%以下または0.600%以下が好ましく、0.500%以下または0.400%以下がより好ましい。
[0048]
 N:0%超~0.0030%以下
 Nは、多く含有すると、固溶窒素が残存して延性が低下するだけでなく、TiNが析出し穴広げ性を低下させる。そのため、N含有量は0.0030%以下とする。N含有量は0.0025%以下であるのが好ましい。
[0049]
 P:0.050%以下
 Pは溶銑に含まれる不純物であり、粒界偏析するため局部延性を劣化させるとともに、溶接性を劣化させるので、できるだけ少ない方がよい。そのため、P含有量は0.050%以下に制限する。P含有量は0.030%以下または0.020%以下が好ましい。特に下限を規定する必要はなく、下限は0%である。しかし、過度に含有量を低下させることは精錬時のコスト増になるため、下限を0.001%としてもよい。
[0050]
 S:0.005%以下、
 Sも溶銑に含まれる不純物であり、MnSを形成して局部延性および溶接性を劣化させるので、できるだけ少ない方がよい。そのため、S含有量は0.005%以下に制限する。延性または溶接性の向上のため、S含有量を0.003%以下または0.002%以下としてもよい。特に下限を規定する必要はなく、下限は0%である。しかし、過度に含有量を低下させることは精錬時のコスト増になるため、下限を0.0005%としてもよい。
[0051]
 Ti:0.015~0.170%
 Tiは、炭窒化物、または固溶Tiが熱間圧延時の粒成長を遅延させることで、熱延板の粒径を微細化し、低温靭性を向上させる効果を有する。また、TiCとしてフェライト中に微細分散することで、析出強化を通じて鋼板の高強度化に寄与する。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和することに加えて、硬質析出物であるTiNを析出し易くなる。そのため、Ti含有量は0.015~0.170%とする。Ti含有量は0.030%以上、0.045%以上または0.060%以上であるのが好ましく、0.070%以上、0.080%以上、0.090%以上または0.100%以上であるのがより好ましい。また、Ti含有量は0.160%以下、0.150%以下、0.140%以下、0.130%以下または0.120%以下であるのが好ましい。
[0052]
 Nb:0~0.100%
 Nbは、炭窒化物、または固溶Nbが熱間圧延時の粒成長を遅延させることで、熱延板の粒径を微細化し、低温靭性を向上させる効果を有する。また、NbCとして存在することで、析出強化を通じて鋼板の高強度化に寄与する。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Nb含有量は0.100%以下とする。必要に応じて、Nb含有量を0.080%以下、0.060%以下または0.050%以下としてもよい。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るために、下限を0.001%または0.010%としてもよい。
[0053]
 V:0~0.300%
 Vは、析出強化または固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、V含有量は0.300%以下とする。必要に応じて、V含有量を0.200%以下、0.100%以下または0.060%以下としてもよい。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るために、下限を0.001%または0.010%としてもよい。
[0054]
 Cu:0~2.00%
 Cuは、析出強化または固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Cu含有量は2.00%以下とする。また、Cu含有量が多量に含まれると鋼板の表面にスケール起因の傷が発生することがある。そのため、Cu含有量は1.20%以下、0.80%以下、0.50%以下または0.25%以下としてもよい。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るために、Cu含有量の下限を0.01%としてもよい。
[0055]
 Ni:0~2.00%
 Niは、固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Ni含有量は2.00%以下とする。また、Ni含有量が多量に含まれると延性が劣化するおそれがある。そのため、Ni含有量を0.60%以下、0.35%以下または0.20%以下としてもよい。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るために、Ni含有量の下限を0.01%としてもよい。
[0056]
 Cr:0~2.00%
 Crは、固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Cr含有量は2.00%以下とする。より経済性を高めるため、その上限を1.00%、0.60%または0.30%としてもよい。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るために、Cr含有量の下限を0.01%としてもよい。
[0057]
 Mo:0~1.00%
 Moは、析出強化または固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Mo含有量は1.00%以下とする。より経済性を高めるため、その上限を0.60%、0.30%または0.10%としてもよい。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るために、Mo含有量の下限を0.005%または0.01%としてもよい。
[0058]
 B:0~0.0100%
 Bは粒界に偏析し、粒界強度を高めることで低温靭性を向上させる。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、B含有量は0.0100%以下とする。また、Bは強力な焼き入れ元素であり、その含有量が多量に含まれると冷却中にフェライト変態が十分に進行せず、十分な残留オーステナイトが得られないことがある。そのため、B含有量を0.0050%以下、0.0020%以下または0.0015%としてもよい。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るために、B含有量の下限を0.0001%または0.0002%としてもよい。
[0059]
 Mg:0~0.0100%
 Mgは、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Mg含有量は0.0100%以下とする。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るために、Mg含有量の下限を0.0001%または0.0005%としてもよい。
[0060]
 Ca:0~0.0100%
 Caは、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Ca含有量は0.0100%以下とする。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るためには、Ca含有量は0.0005%以上であるのが好ましい。
[0061]
 REM:0~0.1000%
 REM(希土類元素)は、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、REM含有量は0.1000%以下とする。必要に応じて、その上限を0.0100%または0.0060%としてもよい。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るために、REM含有量の下限を0.0001%または0.0005%としてもよい。
[0062]
 ここで、本発明において、REMはSc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、前記REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。なお、ランタノイドは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加される。
[0063]
 Zr:0~1.000%
 Co:0~1.000%
 Zn:0~1.000%
 W:0~1.000%
 Zr、Co、ZnおよびWは、それぞれ1.000%以下の範囲であれば含有しても本発明の効果は損なわれないことを確認している。これらの上限を0.300%または0.10%としてもよい。Zr、Co、ZnおよびWの合計含有量が1.000%以下または0.100%であることが好ましい。これらの含有は必須でなく、下限は0%であるが、必要に応じて、下限を0.0001%としてもよい。
[0064]
 Sn:0~0.050%
 Snは、少量であれば含有しても本発明の効果は損なわれないことを確認している。しかし、0.05%を超えると熱間圧延時に疵が発生するおそれがある。そのため、Sn含有量は0.050%以下とする。Snの含有は必須でなく、下限は0%であるが、必要に応じて、下限を0.001%としてもよい。
[0065]
 本発明の鋼板の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。
[0066]
 ここで「不純物」とは、鋼板を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[0067]
 (B)金属組織
 本発明の鋼板の金属組織について説明する。なお、本発明において金属組織は、鋼板の圧延方向と垂直な断面において、鋼板の幅および厚さをそれぞれWおよびtとしたときに、該鋼板の端面から1/4Wまたは3/4Wで、かつ、該鋼板の表面から1/4tまたは3/4tの位置における組織をいうものとする。また、以下の説明において「%」は、「面積%」を意味する。
[0068]
 析出強化フェライト:5~70%
 Tiを含有する微細な析出物(微細析出したTiの炭化物などであり、以下、「微細Ti析出物」ともいう。)が圧延後の冷却中にγ→α変態する際のTiの炭化物の過飽和度を駆動力としてTiの炭化物がフェライト中に相界面析出または均質核生成してTiの炭化物が微細に分散した初析フェライトが析出強化したフェライトである(以下、「析出強化フェライト」ともいう。)。析出強化フェライトは、優れた均一伸びと強度とを両立するために必要な組織である。
[0069]
 しかしながら、析出強化フェライトの面積率が5%未満では均一伸びと強度とを両立することが難しく、一方、70%を超えると均一伸びは優れるものの局部延性が劣化してしまう。そのため、析出強化フェライトの面積率は5~70%とする。均一伸びと強度とのバランスを確保する観点から、析出強化フェライトの面積率は7%以上であるのが好ましく、10%以上であるのがより好ましい。また、析出強化フェライトの面積率は65%以下であるのが好ましく、60%以下であるのがより好ましい。
[0070]
 ここで、本発明において、析出強化フェライトとは、粒内に含まれる微細Ti析出物の個数密度が、1.0×10 16~50.0×10 16個/cm であるフェライトを意味する。フェライト粒内に含まれる微細Ti析出物の個数密度が、1.0×10 16個/cm 未満では、析出強化による効果が十分に得られない。一方、微細Ti析出物の個数密度が、50.0×10 16個/cm を超えると、強度が飽和するばかりか、延性が低下する。
[0071]
 すなわち、析出強化フェライトの面積率が5~70%であるとは、フェライトの面積率が5~70%であり、かつ、フェライト粒内に含まれる微細Ti析出物の個数密度が、1.0×10 16~50.0×10 16個/cm であることを意味する。
[0072]
 さらに、析出強化フェライトの粒内に含まれる微細Ti析出物の平均円相当径は、1.00~3.00nmであることが好ましい。微細Ti析出物の平均円相当径が1.00nm未満では、析出強化の効果が得られにくく、一方、粗粒になり平均円相当径が3.00nmを超えると、十分な量の微細Ti析出物を確保できなくなるためである。
[0073]
 ベイナイト:30~95%
 ベイナイトは、強度と局部延性とのバランスを得るために必要な組織であり、亀裂の伝搬を抑制する効果がある。しかし、ベイナイトが多くなりすぎると、フェライトが減少し、局部延性は優れるものの均一伸びが著しく劣化してしまう。そのため、ベイナイトの面積率は30~95%とする。ベイナイトの面積率は80%以下であることが好ましく、さらに均一伸びを重視する場合は70%以下にすることがより好ましい。
[0074]
 残留オーステナイト:2%以下
 高バーリング鋼は、析出強化フェライトおよびベイナイトの存在により加工性を確保しつつ、高強度も確保し、強度と加工性とを両立することが特徴である。しかしながら、鋼板中にマルテンサイト変態を起こさなかった熱力学的に安定な残留オーステナイトが存在するということは、その残留オーステナイトのC濃度は高く、残留オーステナイトが板鍛造時に加工誘起変態して生成するマルテンサイトの硬度が高くなりすぎて、ボイドの発生を助長してしまう。そのため、残留オーステナイトはできるだけ少ない方がよく、その面積率は2%以下とする。残留オーステナイトの面積率は1.5%以下、1%以下または0.5%以下が好ましい。特に下限を規定する必要はなく、下限は0%であり、0%が最も好ましい。
[0075]
 マルテンサイト:2%以下
 高バーリング鋼は、析出強化フェライトおよびベイナイトの存在により加工性を確保しつつ、高強度も確保し、強度と加工性とを両立することが特徴である。しかしながら、硬質組織であるマルテンサイトの面積率が2%を超えると、板鍛造による鋼板の歪み増加に伴い、マルテンサイトとフェライトとの境界にボイドが発生し易くなり、破断しやすくなる。そのため、マルテンサイトの面積率は2%以下とする。マルテンサイトの面積率は1.5%以下、1%以下または0.5%以下であるのが好ましい。特に下限を規定する必要はなく、下限は0%である。
[0076]
 パーライト:1%以下
 パーライトは、穴広げ成形の際に破壊の起点となるため、その面積率は1%以下とする。パーライトの面積率は0.5%以下であるのが好ましい。パーライトの面積率は極力低減することが好ましく、0%であることが好ましい。
[0077]
 析出強化フェライトおよびベイナイトの合計:95%以上
 高バーリング鋼は、優れた均一伸びと強度とを両立する析出強化フェライト、および強度と局部延性とを両立するベイナイトを有する。これにより優れた強度、均一伸びおよび局部延性が得られる。析出強化フェライトとベイナイトとの合計面積率が95%未満であると、これら特性が劣化してしまう。したがって、析出強化フェライトおよびベイナイトの合計面積率は95%以上とする。該合計面積率は97%以上であるのが好ましく、98%以上であるのがより好ましい。
[0078]
 ここで、本発明において、金属組織の面積率は以下のように求める。上述のように、まず鋼板の端面から1/4Wまたは3/4Wで、かつ、鋼板の表面から1/4tまたは3/4tの位置から試料を採取する。そして、該試料の圧延方向断面(いわゆるL方向断面)を観察する。
[0079]
 具体的には、試料をナイタールエッチングし、エッチング後に光学顕微鏡を用いて300μm×300μmの視野で観察を行う。そして得られた組織写真に対し、画像解析を行うことによって、フェライトの面積率A、パーライトの面積率B、ならびにベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計面積率Cを得る。
[0080]
 次に、ナイタールエッチングした部分をレペラエッチングし、光学顕微鏡を用いて300μm×300μmの視野で観察を行う。そして得られた組織写真に対し、画像解析を行うことによって、残留オーステナイトおよびマルテンサイトの合計面積率Dを算出する。さらに圧延面法線方向から板厚の1/4深さまで面削した試料を用い、X線回折測定により残留オーステナイトの体積率を求める。体積率は面積率にほぼ等しいので、前記体積率を残留オーステナイトの面積率Eとする。面積率Cと面積率Dとの差からベイナイトの面積率を、面積率Eと面積率Dとの差からマルテンサイトの面積率を求める。この方法により、フェライト、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイト、パーライトそれぞれの面積率を得ることができる。
[0081]
 また、析出強化フェライトの面積率は、EBSP-OIMTM(Electron Back Scatter Diffraction Pattern-Orientation Image Microscopy)に装備されている、Kernel Average Misorientation(KAM)法によって、求めることができる。
[0082]
 KAM法は、測定データのうちのある正六角形のピクセルの隣り合う6個(第一近似)、さらにその外側12個(第二近似)、またはさらにその外側の18個(第三近似)のピクセル間の方位差を平均し、その平均した値をその中心のピクセルの値とする計算を各ピクセルに行う。粒界を越えないようにこの計算を実施することで粒内の方位変化を表現するマップを作成できる。すなわち、このマップは粒内の局所的な方位変化に基づくひずみの分布を表している。
[0083]
 本発明における析出強化フェライトの解析条件は、EBSP-OIMTMにおいて、第三近似にて隣り合うピクセル間の平均の方位差を計算し、この方位差が1°以下と算出された部分を、析出強化フェライトとした。
[0084]
 本発明の析出強化フェライトの生成温度域は、圧延後の冷却中にγ→α変態する際のTiの炭化物の過飽和度を駆動力としてTiの炭化物がフェライト中に相界面析出または均質核生成する温度域と合致している。高温で変態したポリゴナルな初析フェライトは拡散変態で生成するので、転位密度が小さく、粒内の歪みが少ないため、結晶方位の粒内差が小さくなる。そのため、析出強化フェライトも同様に結晶方位差が小さくなる。これまで発明者らが実施してきた様々な調査結果により、光学顕微鏡観察で得られるポリゴナルなフェライト面積率と、KAM法にて測定した第三近似での方位差が1°以下で得られるエリアの面積率が、ほぼ一致するためである。
[0085]
 析出強化フェライトの面積分率の測定は、詳細には下記のように行った。組織観察で述べたものと同様に採取した試料を、コロイダルシリカ研磨剤で30~60分研磨し、倍率400倍、160μm×256μmエリア、測定ステップ0.5μmの測定条件でEBSP測定を実施した。EBSP-OIMTM法は走査型電子顕微鏡(SEM)内で高傾斜した試料に電子線を照射し、後方散乱して形成された菊池パターンを高感度カメラで撮影し、コンピュータ画像処理する事により照射点の結晶方位を短待間で測定する装置およびソフトウエアで構成されている。
[0086]
 EBSP法ではバルク試料表面の微細構造および結晶方位の定量的解析ができ、分析エリアはSEMで観察できる領域で、SEMの分解能にもよるが、最小20nmの分解能で分析できる。解析は数時間かけて、分析したい領域を等間隔のグリッド状に数万点マッピングして行う。多結晶材料では試料内の結晶方位分布および結晶粒の大きさを見ることができる。
[0087]
 このようにして、上述の第三近似での方位差が1°以下と算出された部分を、析出強化フェライトとし、析出強化フェライトの面積を求め、測定面積に対して析出強化フェライトの面積率を求めた。
[0088]
 また、微細Ti析出物の観察は、三次元アトムプローブ測定法により、以下のようにして行った。
[0089]
 まず、測定対象の試料から、切断および電解研磨法により、必要に応じて電解研磨法とあわせて集束イオンビーム加工法を活用し、針状の試料を作製する。三次元アトムプローブ測定では、積算されたデータを再構築して実空間での実際の原子の分布像として求めることができる。Na-Cl構造の微細Ti析出物の場合、単位格子は、4.33オングストロームであるので、TiとTiの原子間距離は、4.33×√2=6.1オングストロームであるとした。
[0090]
 そこで、ほぼ同一座標位置(7オングストローム以下)に、Ti原子が複数存在している場合には、これらのTi原子は同一の析出物中にあると判断し、この同一の析出物中にあると判断されたTi原子の個数をカウントし、この個数が50個以上存在した場合に、この析出物を微細Ti析出物と定義した。
[0091]
 上記微細Ti析出物のサイズは、観察した微細Ti析出物を構成するTiの原子の数と微細Ti析出物の格子定数から、微細Ti析出物を球状と仮定し算出した円相当径とする。
[0092]
 三次元アトムプローブ測定法で得られた微細Ti析出物のTi原子の個数を用いて、析出物の円相当径(直径)Rを求める方法を以下に示す。
[0093]
 三次元アトムプローブ測定法で対象サンプルの全ての原子の数Nを測定するが、実際には、三次元アトムプローブ測定法では対象サンプルの全ての原子の数Nを検出することはできない。各装置固有の原子の検出率α(=検出した原子の数/原子の総数)があるため、実際の測定値nから存在したであろう原子の数Nを算出する。すなわち、原子の総数N=n/αである。なお、本発明において測定した機器での検出率αは0.35であった。
[0094]
 次に、この原子の数Nに対して、Na-Cl構造のTi析出物の場合は単位格子に8個のTi原子が存在するとし、また、Na-Cl構造の格子定数aは、4.33オングストロームであるとし、次式にて円相当径を算出する。
 円相当径(直径)R={(6/8)・(1/π)・N・a (1/3)
[0095]
 例えば、Tiの数が50個であった場合は、円相当径は、ほぼ、1nmと計算される。本発明では、任意に30個以上の微細Ti析出物の円相当径(直径)を測定し、その平均値を求める。
[0096]
 微細Ti析出物の個数密度は、測定視野を分母とし、微細Ti析出物の数を分子として求める。個数密度の測定においては、10nm(板厚方向t)×40nm(板幅方向W)×60nm(板長手方向L)の視野を、5視野以上測定し、その個数密度(個/cm )の平均値を求めた。
[0097]
 また、本発明においては、TiNの存在状態についても以下のように規定する。
[0098]
 TiNの平均円相当径:1.0~10.0μm
 TiNが大きいと、板鍛造による鋼板の歪み増加に伴い、粒界に存在するボイドが結合し易くなることから、TiNの平均円相当径は10.0μm以下とする。これらの効果をより確実に確保するため、TiNの平均円相当径は8.0μm以下であるのが好ましく、5.0μm以下であることがより好ましい。
[0099]
 なお、TiNは小さいほど好ましいため、TiNの平均円相当径には、本来下限を設ける必要はない。しかし、後述するTiNの観察方法においては、TiNの円相当径が1.0μm未満では、TiNであるかどうかの判別が困難になる。そのため、本発明においては、円相当径が1.0μm以上であるもののみをTiNとして測定対象とする。そのため、TiNの平均円相当径は1.0μm以上となる。
[0100]
 TiNの平均円相当径(直径)は、以下のようにして求める。上述のように、まず鋼板の端面から1/4Wまたは3/4Wで、かつ、鋼板の表面から1/4tまたは3/4tの位置から試料を採取する。そして、該試料の圧延方向断面(いわゆるL方向断面)を研磨し、エッチングしない状態で観察する。具体的には、光学顕微鏡を用いて1000倍の倍率でミクロ組織写真を撮影し、ミクロ組織写真を目視または画像処理装置等により観察する。
[0101]
 ミクロ組織写真において、TiNであると特定できるものについて、その円相当径(直径)を求め、この円相当径(直径)が1.0μm以上のもののみをTiNとする。そして、60μm(圧延方向L)×40μm(板厚方向t)の視野を、20視野以上について観察し、TiNの円相当径(直径)のすべてを平均したものを、TiNの平均円相当径(直径)とする。
[0102]
 隣接するTiN間の最短距離の平均値:10.0μm以上
 TiNとフェライトとの界面に発生したボイドが成長し、ボイド同士が結合してさらに大きなボイドとならないようにするため、TiN間の距離を一定量確保する必要がある。そのため、隣接するTiN間の距離の平均値を10.0μm以上とする。
[0103]
 ボイドの成長による亀裂発生を抑制する観点から、上記平均値は15.0μm以上であるのが好ましく、20.0μm以上であるのがより好ましい。上限は特に設定しないが、ある程度のTiNの析出は不可避であることから、隣接TiNの間の最短距離の平均値は1000μm以下にすることが好ましい。
[0104]
 隣接するTiN間の最短距離の平均値は、以下のようにして求める。任意のTiNを20個選択し、それと最も近接するTiNまでの距離をそれぞれ測定し、その平均値を算出する。なお、TiN間の最短距離の測定は、平均円相当径の測定と同様に求める。
[0105]
 (C)機械特性
 ナノ硬度の標準偏差:1.0GPa以下
 硬質組織と軟質組織との変形能の差を小さくすることにより両組織の界面に発生するボイドを少なくし、さらにボイド間隔をあけることにより、ボイドが結合して亀裂に成長することを抑制することが可能になる。そこで、硬質組織と軟質組織との変形能の差に対応するナノ硬度差をできるだけ低減することにより、ボイドの発生が抑制できる。本発明においては、軟質組織と硬質組織との硬度差の指標として、試料断面におけるナノ硬度の標準偏差を採用する。
[0106]
 ナノ硬度は、例えば、Hysitron社製TriboScope/TriboIndenterを用いて測定することが可能である。1mNの荷重にて100点以上のナノ硬度を任意に測定し、その結果からナノ硬度の標準偏差を算出することができる。
[0107]
 軟質組織と硬質組織の硬度差を減少させ、ボイドの発生を抑制するには、ナノ硬度の標準偏差は小さい方がよく、1.0GPa以下とする。ナノ硬度の標準偏差は0.8GPa以下であるのが好ましい。
[0108]
 引張強さ:780MPa以上
 本発明に係る鋼板は、従来の高バーリング鋼と同等の780MPa以上の引張強さを有することが好ましい。引張強さの上限を特に定める必要はないが、1200MPa、1150MPaまたは1000MPaとしてもよい。ただし、引張強さは、JIS Z 2241(2011)の引張強さを示す。
[0109]
 均一伸びと引張強さとの積:7000MPa・%以上
 均一伸びが小さいとプレス成型時にネッキングによる板厚減少が起こり易く、プレス割れの原因となる。プレス成形性を確保するため、均一伸び(u-EL)と引張強さ(TS)との積:TS×u-EL≧7000MPa%を満たすことが好ましい。ただし、均一伸びは、JIS Z 2241(2011)で規定する試験において、公称応力σnと公称歪みεnとの関係で、公称応力σnを公称歪みεnで微分したときの値がゼロとなる点の公称歪みをεn0とした時、以下の式で表される。
 均一伸び(u-EL)=ln(εn0+1)
[0110]
 穴広げ率と引張強さとの積:50000MPa・%以上
 穴広げ性が悪いと、伸びフランジ加工をした際に材料流れ性が悪く割れを生じる可能性がある。そのため、穴広げ性を確保するため、穴広げ率(λ)と引張強さ(TS)との積:(TS)×(λ)≧50000MPa%を満たすことが好ましい。ただし、穴広げ率(λ)は、JIS Z 2256(2010)に準拠した試験方法による穴広げ率の(λ)を表す。
[0111]
 相当塑性歪み:0.9以上
 相当塑性歪みは、単純せん断試験でのせん断応力σsとせん断塑性歪みεspとの関係を、変形形態の異なる、単軸引張試験での引張応力σと引張歪みεとの関係に変換するものであり、等方硬化則と塑性仕事共役との関係を仮定して、定数である変換係数(κ)を用いて変換したものである。
[0112]
 ここで、等方硬化則とは、降伏曲線の形状は、歪みが進展しても変化しない(つまり、相似形に膨張する)と仮定した加工硬化則である。塑性仕事共役の関係とは、加工硬化は塑性仕事のみの関数として記述され、変形形態によらず同じ塑性仕事(σ×ε)を与えられたとき、同じ加工硬化量を示すという関係である。
[0113]
 これにより、単純せん断試験でのせん断応力とせん断塑性歪みを、それぞれ単軸引張試験の引張応力と引張歪みに変換することができる。この関係を以下に示す。
 単軸引張試験での引張応力σ(変換)=単純せん断試験でのせん断応力σs×κ
 単軸引張試験での引張歪みε(変換)=単純せん断試験でのせん断塑性歪みεsp/κ
[0114]
 次に、せん断応力とせん断塑性歪みの関係を、引張応力と引張歪みの関係に相似になるよう変換係数κを求める。例えば、変換係数κは、以下の手順で求めることができる。まず、単軸引張試験での引張歪みε(実測値)と引張応力σ(実測値)の関係を求めておく。続いて、単軸せん断試験でのせん断歪みεs(実測値)とせん断応力σs(実測値)の関係を求める。
[0115]
 次に、κを変化させて、せん断歪みεs(実測値)から求めた引張歪みε(変換)と、せん断応力σs(実測値)から求めた引張応力σ(変換)とを求めておき、引張歪みε(変換)が、0.2%から均一伸び(u-EL)までの間のときの、引張応力σ(変換)を求める。この時の、引張応力σ(変換)と引張応力σ(実測値)との誤差を求め、誤差が最少となるκを、最小二乗法を用いて求める。
[0116]
 相当塑性歪みεeqは、求めたκを用いて、単純せん断試験での破断時のせん断塑性歪みεsp(破断)を、単純引張試験での引張歪みεに変換したものとして定義される。
[0117]
 本発明に係る鋼板は、板鍛造に代表させる高歪み領域での加工特性がよいことが特徴であり、相当塑性歪みεeqが0.50以上を満たしている。従来のTRIP鋼の相当塑性歪みが高々0.30程度であることから、本発明に係る鋼板の板鍛造性が良好であることが確認された。
[0118]
 (D)寸法
 板厚:1.0~4.0mm
 本発明に係る鋼板は、主に自動車などが主な用途であり、その板厚範囲は主に1.0~4.0mmである。このため、板厚範囲を1.0~4.0mmとしてもよい、必要に応じて、下限を1.2mm、1.4mmまたは1.6mmに、上限を3.6mm、3.2mmまたは2.8mmとしてもよい。
[0119]
 (E)製造方法
 発明者らは、これまでの研究により、下記に示す(a)から(f)までの製造工程を順に行うことにより、本発明の熱間圧延鋼板を製造することができることを確認している。以下、各製造工程について詳しく説明する。
[0120]
 (a)溶製工程
 熱間圧延に先行する製造方法は特に限定するものではない。すなわち、高炉または電炉等による溶製に引き続き各種の2次製錬を行って上述した成分組成となるように調整する。次いで、通常の連続鋳造、薄スラブ鋳造などの方法でスラブを製造すればよい。その際、本発明の成分範囲に制御できるのであれば、原料にはスクラップ等を使用しても構わない。
[0121]
 (b)加熱工程
 製造されたスラブに熱間圧延を施し、熱間圧延鋼板とする。熱間圧延を行うに際しては、まず、スラブを加熱する。加熱工程においては、スラブを下記(i)式で表わされるSRTmin℃以上、1260℃以下の温度に加熱する。連続鋳造の場合には一度低温まで冷却した後、再度加熱してもよいし、特に冷却することなく連続鋳造に引き続いて加熱してもよい。ここで、SRTminは、TiCの溶体化温度を意味する。
 SRTmin=7000/{2.75-log(Ti×C)}-273 ・・・(i)
 但し、上記式中の元素記号は、各元素の熱間圧延鋼板中の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0を代入するものとする。
[0122]
 (c)連続熱延工程
 加熱後は、加熱炉より抽出したスラブに対して粗圧延およびその後の多段仕上圧延を施す。Tiを含む析出物が析出しないように、粗圧延の終了温度は1100℃以上とする。また、前述したように、多段仕上圧延は、3段以上の多段(例えば6段または7段)の連続圧延で行われる。そして、最終3段の圧延における累積歪(有効累積歪み)が、0.01~0.10になるように多段仕上圧延を行なう。
[0123]
 前述したように、有効累積歪みは、圧延時の温度、圧延による鋼板の圧下率による結晶粒径の変化と、結晶粒が圧延後の時間経過により静的に回復する結晶粒径の変化とを考慮した指標である。有効累積歪み(εeff)は、以下の式で求めることができる。
[0124]
 有効累積歪み(εeff)=Σεi(ti,Ti)   ・・・(iii)
 上式(iii)中のΣは、i=1~3についての総和を示す。
 但し、i=1は、多段仕上圧延において最後から1段目の圧延(つまり、最終段圧延)を、i=2は最後から2段目の圧延、i=3は最後から3段目の圧延を、それぞれ示す。
[0125]
 ここで、iで示される各圧延において、εiは以下の式で表される。
 εi(ti,Ti)=ei/exp((ti/τR) 2/3)   ・・・(iv)
 ti:最後からi段目の圧延から最終段圧延後の一次冷却開始までの時間(s)
 Ti:最後からi段目の圧延の圧延温度(K)
 ei:最後からi段目の圧延で圧下したときの対数歪み
 ei=|ln{1-(i段目の入側板厚-i段目の出側板厚)/(i段目の入側板厚)}|
   =|ln{(i段目の出側板厚)/(i段目の入側板厚)}|   ・・・(v)
 τR=τ0・exp(Q/(R・Ti))   ・・・(vi)
 τ0=8.46×10 -9(s)
 Q:Feの転位の移動に関する活性化エネルギーの定数=183200(J/mol)
 R:ガス定数=8.314(J/(K・mol))
[0126]
 このようにして導いた有効累積歪みを規定することにより、目的とするミクロ組織が得られるとともにナノ硬度のバラツキが低減される。その結果として、硬質組織と軟質組織との界面に生じるボイドの成長を抑制し、ボイドが成長しても結合しにくくさせることができ、板鍛造しても亀裂が発生しない、板鍛造性に優れた鋼板を得ることができる。
[0127]
 多段仕上圧延の終了温度、すなわち連続熱延工程の終了温度は、下記(ii)式で求められるAr を用いて、Ar (℃)+30℃以上の温度にするとよい。これにより本発明で目的とする析出強化フェライトおよびベイナイトが得られるからである。
 Ar =970-325×C+33×Si+287×P+40×Al-92×(Mn+Mo+Cu)-46×(Cr+Ni) ・・・(ii)
 但し、上記式中の元素記号は、各元素の熱間圧延鋼板中の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0を代入するものとする。
[0128]
 (d)第1(加速)冷却工程
 多段仕上圧延終了後、1.00~5.00s後に得られた熱間圧延鋼板の冷却を開始する。そして、圧延終了温度から、650~750℃の温度まで10℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、その後、大気中で1~10s保持する。
[0129]
 連続熱延工程終了後から1.00s未満で冷却を開始すると、フェライト変態が促進され、最終的なミクロ組織において目的とするベイナイト面積率が得られないばかりか、析出物が粗大化して本発明の効果が得られない。一方、5.00sを超えて冷却を開始するとフェライト変態が遅延して目的とする析出強化フェライトの面積率が得られない。
[0130]
 また、第1冷却工程における平均冷却速度が10℃/s未満であると、パーライトが生成し易くなる。一方、冷却速度の上限は特に限定されないが、過冷却を回避するため300℃/s以下にするとよい。さらに、大気中での保持温度が650℃未満であると、ベイナイトが生成し易く、ベイナイト面積率が大きくなる。一方、大気中での保持温度が750℃を超えると、パーライトが生成し易くなる。
[0131]
 なお、ここでいう大気中の保持とは、熱延鋼板が冷却設備内で空冷または冷却が最小限に制限されることを含み、この時の冷却速度の下限は理想的には0℃/sであり、上限は8℃/sである。
[0132]
 (e)第2(加速)冷却工程
 大気中での保持後に、600~740℃の温度範囲から、10℃/s以上の平均冷却速度で冷却する。冷却開始温度が600℃未満では、フェライト変態が十分に進行せず、微細Ti析出物の析出も不十分となる。一方、冷却開始温度が740℃を超えると、フェライト変態が過度に進行するとともに、パーライトが生成して穴広げ性が劣化するおそれがある。また、微細Ti析出物が粗大化して強度が低下するおそれがある。
[0133]
 また、平均冷却速度が10℃/s未満の場合も、パーライトが生成して穴広げ性が劣化するおそれがある。平均冷却速度の上限は特に限定されないが、熱偏差による熱歪みで鋼板が反ることが懸念されることから、1000℃/s以下にするとよい。
[0134]
 (f)巻取工程
 その後、冷却された熱間圧延鋼板を、450~650℃の巻取り温度で巻き取る。巻取工程後の条件は、特に限定されない。
[0135]
 (F)鋼製鍛造部品
 上記のようにして得られた熱延鋼板は、板鍛造性に優れているため、当該熱延鋼板を板鍛造などの鍛造加工することにより、従来ではなし得なかった高強度を要する複雑形状の鍛造部品を得ることができる。
[0136]
 以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例 1
[0137]
 表1に示す化学組成を有する鋼を溶製し、スラブを作製し、このスラブを、表2に示す条件で熱間圧延した後冷却してから巻き取り、熱間圧延鋼板を製造した。得られた熱間圧延鋼板の板厚を表3に示す。
[0138]
[表1]


[0139]
[表2]


[0140]
[表3]


[0141]
 [金属組織]
 得られた熱間圧延鋼板の金属組織観察を行い、各組織の面積率の測定を行った。具体的には、まず鋼板の圧延方向と垂直な断面において、鋼板の幅および厚さをそれぞれWおよびtとしたときに、該鋼板の端面から1/4Wで、かつ、該鋼板の表面から1/4tの位置から金属組織観察用の試験片を切り出した。
[0142]
 そして、上記の試験片の圧延方向断面(いわゆるL方向断面)をナイタールエッチングし、エッチング後に光学顕微鏡を用いて300μm×300μmの視野で観察を行った。そして得られた組織写真に対し、画像解析を行うことによって、フェライトの面積率A、パーライトの面積率B、ならびにベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計面積率Cを求めた。
[0143]
 次に、ナイタールエッチングした部分をレペラエッチングし、光学顕微鏡を用いて300μm×300μmの視野で観察を行った。そして、得られた組織写真に対し、画像解析を行うことによって、残留オーステナイトおよびマルテンサイトの合計面積率Dを算出した。さらに圧延面法線方向から板厚の1/4深さまで面削した試料を用い、X線回折測定により残留オーステナイトの体積率を求めた。体積率は面積率にほぼ等しいので、前記体積率を残留オーステナイトの面積率Eとした。面積率Cと面積率Dとの差からベイナイトの面積率を、面積率Eと面積率Dとの差からマルテンサイトの面積率を求めた。この方法により、フェライト、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイト、パーライトそれぞれの面積率を求めた。
[0144]
 析出強化フェライトの面積率は、前述したように、上記試験片をコロイダルシリカ研磨剤で研磨後、倍率400倍で160×256μmの視野を測定ステップ0.5μmの測定条件でEBSP測定し、KAM法にて求めた。
[0145]
 微細Ti析出物も、前述したように、上記試験片を電解研磨し、三次元アトムプローブ測定法にて測定し、その円相当径、個数密度を求めた。
[0146]
 TiNも、前述したように、上記試験片を倍率1000倍で、60×40μmの視野を20視野観察し、画像処理によりTiNの平均円相当径を求めた。また、TiN同士の最短距離は、組織調査と同じ箇所を500倍の金属顕微鏡で観察して、求めた。
[0147]
 [機械特性]
 機械特性のうち引張強度特性(引張強さ(TS)、均一伸び(u-EL)、穴広げ率(λ))は、板幅をWとした時に、板の片端から板幅方向に1/4Wもしくは3/4Wのいずれかの位置において、圧延方向に直行する方向(幅方向)を長手方向として採取したJIS Z 2241(2011)の5号試験片を用いて、JIS Z 2241(2011)に準拠して評価した。穴広げ率は、引張試験片採取位置と同様の位置から試験片を採取し、JIS Z 2256 2010記載の試験方法に準拠して評価した。
[0148]
 さらに、以下の手順によって単純せん断試験を行い、その結果に基づいて相当塑性歪みを求めた。
[0149]
 単純せん断試験の試験片は、鋼板の板幅をWとした時に、板の片端から板幅方向に1/4Wもしくは3/4Wのいずれかの位置において、圧延方向に直行する方向(幅方向)を長手方向として採取する。図1(a)に試験片の一例を示す。図1に示す単純せん断試験の試験片は、板厚が2.0mmになるように両面を均等に研削して板厚を揃え、鋼板の幅方向に23mm、鋼板の圧延方向に38mmの矩形の試験片となるように加工した。
[0150]
 試験片の長片側(圧延方向)を、短片方向(幅方向)に向かって10mmずつ両側のチャッキング部2をチャッキングし、試験片の中央に、3mmのせん断幅(せん断変形発生部1)を設けるようにした。なお、板厚が2.0mm未満の場合は、研削せずに、板厚はそのままで試験をした。また、試験片の中央には、短片方向(幅方向)にペン等で直線の印を付けた。
[0151]
 そして、チャッキングした長辺側を、長片方向(圧延方向)に、互いに逆向きになるように動かすことで、せん断応力σsを負荷し、試験片にせん断変形を加えた。図1(b)に、せん断変形をした試験片の一例を示す。せん断応力σsは、下記式により求める公称応力である。
 せん断応力σs=せん断力/(鋼板の圧延方向の試験片の長さ×試験片の板厚)
[0152]
 なお、せん断試験では試験片の長さおよび板厚が変化しないので、せん断公称応力≒せん断真応力と考えてもよい。せん断試験中、試験片中央に描いた直線をCCDカメラによって撮影し、その傾きθを計測した(図1(b)参照)。この傾きθから、下記の式を用いて、せん断変形により発生した、せん断ひずみεsを求めた。
 せん断ひずみεs=tan(θ)
[0153]
 なお、単純せん断試験には、単純せん断試験機(最大変位8mm)を用いた。そのため、試験機のストローク(変位)の限界がある。また、試験片の端部またはチャック部でのき裂の発生により、一回のせん断試験では、試験片が破断するまで試験を行うことができない場合がある。そこで、前述したように、せん断試験荷重の負荷、荷重の除荷、試験片のチャック部端部を直線に切除、荷重の再負荷、といった一連の作業を繰り返す、「多段せん断試験法」を採用した。
[0154]
 これらの多段階のせん断試験結果を直列的に繋げて、連続した一つの単純せん断試験結果として評価するために、各段階のせん断試験で得られたせん断ひずみ(εs)から、せん断弾性率を考慮したせん断弾性ひずみ(εse)を減じた、せん断塑性ひずみ(εsp)を下記のように求めて、各段階のせん断塑性ひずみ(εs)を纏めて一つに繋ぎ合わせた。
 せん断塑性ひずみεsp=せん断ひずみεs-せん断弾性ひずみεse
 せん断弾性ひずみεse=σs/G
 σs:せん断応力
 G:せん断弾性率
 ここで、G=E/2(1+ν)≒78000(MPa)とした。
 E(ヤング率(縦弾性係数))=206000(MPa)
 ポアソン比(ν)=0.3
[0155]
 単純せん断試験では、試験片が破断するまで試験を行う。このようにして、せん断応力σsとせん断塑性ひずみεspの関係が追跡できる。そして、試験片が破断する時のせん断塑性ひずみがεspfである。
[0156]
 上記単純せん断試験で得られたせん断応力σsと、試験片が破断する時のせん断塑性ひずみεspfの関係から、前述した方法により、変換係数κを用いて、相当塑性歪みεeqを求めた。
[0157]
 次に、ナノ硬度の標準偏差の測定を行った。金属組織観察用の試験片を再度研磨し、1mNの荷重(載荷10s、除荷10s)にて、圧延方向に平行な断面内の、鋼板表面から板厚tの1/4深さ位置(1/4t部)について、25μm×25μmの測定エリアを5μm間隔で測定した。その結果から、ナノ硬度の平均値およびナノ硬度の標準偏差を算出した。ナノ硬度の測定は、Hysitron社製TriboScope/TriboIndenterを用いて実施した。
[0158]
 これらの測定結果を表3に併せて示す。
[0159]
 表3からも明らかなように、本発明に係る熱間圧延鋼板であれば、引張強さ(TS)が780MPa以上、均一伸びu-ELと引張強さTSとの積(TS×u-EL)が7000MPa・%以上、穴広げ率λと引張強さTSとの積(TS×λ)が50000MPa・%以上を有し、バランスのとれた特性を有する熱延鋼板が得られる。また、本発明に係る熱延鋼板は、相当塑性歪みも0.90(90%)を超え、板鍛造などの高歪み域加工にも耐えられる鋼板であることが確認された。

産業上の利用可能性

[0160]
 本発明によれば、高バーリング鋼としての基本的機能である良好な穴広げ性を維持しつつ、板鍛造性に優れた熱間圧延鋼板を得ることが可能となる。したがって、本発明に係る熱間圧延鋼板は、広く、機械部品などに利用することができる。特に、板鍛造などの高歪み域での加工を有する鋼板の加工に適用することにより、その顕著な効果を得ることができる。

符号の説明

[0161]
 1 せん断変形発生部
 2 チャッキング部

請求の範囲

[請求項1]
 鋼板の化学組成が、質量%で、
 C:0.020~0.070%、
 Si:0.05~1.70%、
 Mn:0.60~2.50%、
 Al:0.010~1.000%、
 N:0%超~0.0030%以下、
 P:0.050%以下、
 S:0.005%以下、
 Ti:0.015~0.170%、
 Nb:0~0.100%、
 V:0~0.300%、
 Cu:0~2.00%、
 Ni:0~2.00%、
 Cr:0~2.00%、
 Mo:0~1.00%、
 B:0~0.0100%、
 Mg:0~0.0100%、
 Ca:0~0.0100%、
 REM:0~0.1000%、
 Zr:0~1.000%、
 Co:0~1.000%、
 Zn:0~1.000%、
 W:0~1.000%、
 Sn:0~0.050%、および、
 残部:Feおよび不純物であり、
 前記鋼板の圧延方向と垂直な断面において、前記鋼板の幅および厚さをそれぞれWおよびtとしたときに、前記鋼板の端面から1/4Wまたは3/4Wで、かつ、前記鋼板の表面から1/4tまたは3/4tの位置における金属組織が、面積%で、
 フェライト:5~70%、
 ベイナイト:30~95%、
 残留オーステナイト:2%以下、
 マルテンサイト:2%以下、および、
 パーライト:1%以下、であり、かつ、
 フェライトおよびベイナイトの合計:95%以上であり、
 前記フェライトは、粒内にTiを含む析出物を有し、
 前記Tiを含む析出物の個数密度が、1.0×10 16~50.0×10 16個/cm であり、
 前記鋼板中にTiN析出物が含まれ、
 前記TiN析出物の平均円相当径が1.0~10.0μmであり、
 隣接する前記TiN析出物間の最短距離の平均値が10.0μm以上であり、
 ナノ硬度の標準偏差が1.00GPa以下である、
 熱間圧延鋼板。
[請求項2]
 前記Tiを含む析出物の平均円相当径が1.00~3.00nmである、
 請求項1に記載の熱間圧延鋼板。
[請求項3]
 引張強さが780MPa以上であり、
 均一伸びと引張強さとの積が7000MPa・%以上であり、
 穴広げ率と引張強さとの積が50000MPa・%以上である、
 請求項1または請求項2に記載の熱間圧延鋼板。
[請求項4]
 請求項1から請求項3までのいずれかに記載の熱間圧延鋼板を製造する方法であって、
 請求項1に記載の化学組成を有するスラブに対して、加熱工程、連続熱延工程、第1冷却工程、第2冷却工程および巻取工程を順に施し、
 前記加熱工程において、前記スラブを下記(i)式で表わされるSRTmin℃以上、1260℃以下の温度に加熱し、
 前記連続熱延工程は、粗圧延と3段以上の多段仕上圧延とを含み、
 前記粗圧延の終了温度が1100℃以上であり、
 前記多段仕上圧延における最終3段の圧延における累積歪みが、0.01~0.10であり、
 前記多段仕上圧延の圧延終了温度が、下記(ii)式で求められるAr +30℃以上の温度であり、
 前記第1冷却工程では、前記多段仕上圧延が終了した後、1.00~5.00s後に冷却を開始し、前記圧延終了温度から、650~750℃の温度範囲まで、10℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、その後、大気中で1~10s保持し、
 前記第2冷却工程では、前記大気中での保持後に、600~740℃の温度範囲から、10℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、
 前記巻取工程では、450~650℃の巻取り温度で巻取る、
 熱間圧延鋼板の製造方法。
 SRTmin=7000/{2.75-log(Ti×C)}-273 ・・・(i)
 Ar =970-325×C+33×Si+287×P+40×Al-92×(Mn+Mo+Cu)-46×(Cr+Ni) ・・・(ii)
 但し、上記式中の元素記号は、各元素の熱間圧延鋼板中の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0を代入するものとする。
[請求項5]
 請求項1から請求項3までのいずれかに記載の熱間圧延鋼板から得られる、
 鋼製鍛造部品。
[請求項6]
 請求項1から請求項3までのいずれかに記載の熱間圧延鋼板に対して、少なくとも鍛造加工を施す、
 鋼製鍛造部品の製造方法。

図面

[ 図 1]