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1. (WO2018179387) 熱間圧延鋼板
Document

明 細 書

発明の名称 熱間圧延鋼板

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005   0006  

先行技術文献

特許文献

0007  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0008   0009   0010   0011   0012   0013   0014  

課題を解決するための手段

0015   0016   0017  

発明の効果

0018  

図面の簡単な説明

0019  

発明を実施するための形態

0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081   0082   0083   0084   0085   0086   0087   0088   0089   0090   0091   0092   0093   0094   0095   0096   0097   0098   0099   0100   0101   0102   0103   0104  

実施例 1

0105   0106   0107   0108   0109   0110   0111   0112   0113   0114   0115   0116   0117   0118   0119   0120   0121   0122   0123   0124   0125  

産業上の利用可能性

0126  

符号の説明

0127  

請求の範囲

1   2  

図面

1  

明 細 書

発明の名称 : 熱間圧延鋼板

技術分野

[0001]
 本発明は、熱間圧延鋼板に関する。

背景技術

[0002]
 自動車の車体構造に使用される鋼板には、安全性の向上および軽量化の観点から、高強度化と高いプレス加工性とが求められている。特に、プレス加工性を高めるためには、加工時には延性を確保しつつ、自動車に搭載された際には耐衝突性を確保した高強度な鋼板が求められている。
[0003]
 このような鋼板として、残留オーステナイトを含む混合組織とした加工誘起変態型鋼板が知られている(例えば、特許文献1を参照)。なお、以降の説明において、加工誘起変態型鋼板をTRIP(Transformation Induced Plasticity)鋼板と呼ぶ場合がある。
[0004]
 さらに、近年の自動車軽量化および部品の複雑形状化の要求に対応するため、従来よりも高い伸びと局部延性とに優れた混合組織鋼板が提案されている。例えば、特許文献2では、フェライト相と硬質第二相(マルテンサイト、残留オーステナイト)からなる組織において、熱延後の冷却の際に、フェライト相中に合金炭化物を析出させることで、フェライト相を強化した鋼板が提案されている。なお、以降の説明の中で、特許文献2のようなフェライト等の軟質組織とマルテンサイト等の硬質組織をバランスよく分散させた鋼材を、DP(Dupal Phase)鋼と呼ぶ場合がある。
[0005]
 また、特許文献3では、オーステナイトからフェライトへの変態中にその相界面において、主に粒界拡散にて起こる析出現象によって析出分布が制御された析出強化フェライトと残留オーステナイトとの混合組織を用いて、伸びおよび局部延性に優れた高強度鋼板が提案されている。
[0006]
 特許文献4には、バーリング加工性に優れた引張強度540MPa以上の加工誘起変態型複合組織鋼板が開示されている。特許文献5には、コイル内材質変動の小さい熱延TRIP鋼すなわち材質均一性に優れた高加工性熱延高張力鋼板が開示されている。特許文献6には、衝撃荷重が負荷された時における割れの発生が抑制され、さらに有効流動応力の高い衝撃吸収部材を提供可能な鋼材が開示されている。特許文献7には、伸びフランジ性、塗装後耐食性および切欠き疲労特性に優れた高強度複合組織熱延鋼板というDP鋼板が開示されている。そして、特許文献8には、穴拡げ性に優れた高ヤング率鋼板が開示されている。

先行技術文献

特許文献

[0007]
特許文献1 : 特開平10-158735号公報
特許文献2 : 特開2009-84648号公報
特許文献3 : 特開2011-225941号公報
特許文献4 : 特開2002-129286号公報
特許文献5 : 特開2001-152254号公報
特許文献6 : 特開2015-124411号公報
特許文献7 : 国際公開第2016/133222号
特許文献8 : 特開2009-19265号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0008]
 自動車の車体構造の複雑化、部品形状の複雑化に伴い、自動車用鋼板の加工は、従来のプレス加工の要素だけでなく、板鍛造などのように従来のプレス加工要素に新たな加工要素が複合的に組み合わされてきている。従来のプレス加工要素とは、例えば深絞り加工、穴拡げ、張出し成形加工、曲げ加工、しごき加工といった要素であった。
[0009]
 しかし、近年の板鍛造に代表されるプレス加工は、前記の従来のプレス加工要素に、さらにプレス荷重を分散させて、部分的に圧縮荷重をかけることで、鍛造の加工要素、例えば据え込加工、増厚(増肉)加工、といった加工要素も付加されてきている。すなわち、板鍛造は、従来のような鋼板をプレス加工する際の加工要素の他に、鍛造加工特有の加工要素を含む複合的な加工要素を有するプレス加工である。
[0010]
 このような板鍛造を行うことで、従来のプレス加工により、鋼板の板厚が元の板厚のままか、減厚(減肉)しながら鋼板が変形して部品の成型が行われつつ、部分的には圧縮力がかかって鍛造加工を受けた部分では、鋼板の板厚が増厚(増肉)することで、機能上必要な個所の鋼板の板厚になるよう効率よく変形させることができ、部品の強度を確保することができる。
[0011]
 従来のTRIP鋼は、従来のプレス加工では良好な成形性を示すことが知られている。しかしながら、従来のプレス加工に鍛造加工の要素も含む成形方法である板鍛造では、少ない加工度でも鋼板に亀裂が発生し破断する場合があることが判明した。
[0012]
 すなわち、従来のプレス加工においては、板厚くびれ(鋼板の板厚の減厚)が発生した部分でプレス割れが起こるが、板鍛造のように板厚くびれを伴わない加工においても、材料に亀裂が発生し破断して成品が得られない場合があることが判明した。
[0013]
 このような板鍛造の亀裂発生の限界が、鋼板のどのような性質により支配されていて、どのようにすれば向上できるのかについてはあまり知られていない。そのため、従来のTRIP鋼の機能である、深絞り加工性、穴拡げ性、張出し成形加工性、といった機能を有効に活かしつつ、板鍛造加工しても破断しないTRIP鋼が求められていた。
[0014]
 本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、TRIP鋼としての基本的機能を維持しつつ、部分的に圧縮力がかかって鍛造加工を受けた部分の割れ限界を向上させることが可能な板鍛造性に優れた熱間圧延鋼板を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

[0015]
 本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、下記の熱間圧延鋼板を要旨とする。
[0016]
 (1)化学組成が、質量%で、
 C:0.07~0.22%、
 Si:1.00~3.20%、
 Mn:0.80~2.20%、
 Al:0.010~1.000%、
 N:0.0060%以下、
 P:0.050%以下、
 S:0.005%以下、
 Ti:0~0.150%、
 Nb:0~0.100%、
 V:0~0.300%、
 Cu:0~2.00%、
 Ni:0~2.00%、
 Cr:0~2.00%、
 Mo:0~1.00%、
 B:0~0.0100%、
 Mg:0~0.0100%、
 Ca:0~0.0100%、
 REM:0~0.1000%、
 Zr:0~1.000%、
 Co:0~1.000%、
 Zn:0~1.000%、
 W:0~1.000%、
 Sn:0~0.050%、および、
 残部:Feおよび不純物であり、
 鋼板の圧延方向と垂直な断面において、鋼板の幅および厚さをそれぞれWおよびtとしたときに、該鋼板の端面から1/4Wまたは3/4Wで、かつ、該鋼板の表面から1/4tまたは3/4tの位置における金属組織が、面積%で、
 残留オーステナイト:2%を超えて10%以下、
 マルテンサイト:2%以下、
 ベイナイト:10~70%、
 パーライト:2%以下、
 残部:フェライトであり、
 残留オーステナイトおよび/またはマルテンサイトからなる金属相の平均円相当径が1.0~5.0μmであり、
 隣接する前記金属相の最短距離の平均値が3μm以上であり、
 ナノ硬度の標準偏差が2.5GPa以下である、
 熱間圧延鋼板。
[0017]
 (2)引張強さが780MPa以上であり、
 板厚が1.0~4.0mmである、
 上記(1)に記載の熱間圧延鋼板。

発明の効果

[0018]
 本発明によれば、深絞り加工性、張出し成形加工性といったTRIP鋼としての基本的機能を維持しつつ、板鍛造性に優れた熱間圧延鋼板を得ることが可能となる。

図面の簡単な説明

[0019]
[図1] 単純せん断試験を説明する概要図である。図1(a)は、単純せん断試験の試験片を示す図である。図1(b)は、単純せん断試験後の試験片を示す図である。

発明を実施するための形態

[0020]
 本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を行い、以下の知見を得た。
[0021]
 (a)相当塑性歪み
 板鍛造は、従来の引張試験での破断歪みを超える歪み域(高歪み域)での変形を含んでいる。また、板鍛造は複合的加工のため、単純に引張試験およびせん断試験データだけでは評価できない。そこで、本発明者らは、「相当塑性歪み」を指標として導入し、新たな評価法を確立した。
[0022]
 この相当塑性歪みを指標として用いることにより、引張試験をしたときの破断時の引張応力および引張歪みと、せん断試験をしたときの破断時のせん断応力およびせん断歪みとを、複合的に評価できることを見出した。
[0023]
 相当塑性歪みは、単純せん断試験でのせん断応力σsとせん断塑性歪みεspとの関係を、変形形態の異なる、単軸引張試験での引張応力σと引張歪みεとの関係に変換するものである。そして、等方硬化則および塑性仕事共役の関係を仮定して、定数である変換係数(κ)を用いることで、下式のように変換できる。後述の方法により、変換係数(κ)の算出した上で、相当塑性歪みを導出する。
 単軸引張試験での引張応力σ=単純せん断試験でのせん断応力σs×κ
 単軸引張試験での引張歪みε=単純せん断試験でのせん断塑性歪みεsp/κ
[0024]
 (b)多段せん断試験
 相当塑性歪みを求めるためには、引張試験による引張応力および引張歪みの関係と、せん断試験によるせん断応力およびせん断歪みの関係を取得する必要がある。しかし、板鍛造は、高歪み域での変形を含んでいる。そのため、通常使用されているせん断試験装置を用いて1回で試験を行うと、試験片を保持している部分から試験片に亀裂が進行してしまう。その結果、高歪み域までの変形を試験することができない場合が多い。したがって、板鍛造のような鋼板の板厚の減厚(減肉およびくびれ)が生じない加工を再現する方法が必要となる。
[0025]
 そこで、せん断試験を多段階に分けて行い、各段階のせん断試験後毎に、試験片を保持している部分に発生している試験片の亀裂の起点を機械加工して、試験片の亀裂が進行しないようにし、これらのせん断試験結果を直列的につなげて試験結果を評価することとした。この試験方法を適用することにより、高歪み域までのせん断試験結果を得ることが可能となり、高歪み域までのせん断応力とせん断歪みとの関係を求めることができる。
[0026]
 一方、引張応力および引張歪みについては、従来の引張試験方法を適用することができる。例えば、JIS Z2241(2011)に基づいたJIS5号試験片を用いることができる。
[0027]
 (c)亀裂発生のメカニズム
 上述の多段せん断試験と、相当塑性歪みを用いた評価法と、板鍛造の前後における鋼板のミクロ調査とを採用することにより、亀裂の発生メカニズムについて、以下の知見を得た。
[0028]
 硬質相(マルテンサイト、残留オーステナイト)と、軟質相(フェライト、ベイナイト)の変形能の差から、両相の界面でボイド(微小な空洞)が発生する。その後、板鍛造の歪みが増加するとともに、ボイドが成長し、隣接ボイドと結合して亀裂になり、破断に至る。したがって、ボイドの発生を防止し、かつ、ボイドが成長しても、隣接ボイドとの結合を抑制できれば、亀裂発生を抑制できる。但し、その際にTRIP鋼としての本来機能を損なわないことも重要である。なお、以降の説明において、マルテンサイトと残留オーステナイトを総称して硬質相と呼ぶ。硬質相は、「請求の範囲」に記載の「残留オーステナイトおよび/またはマルテンサイトからなる金属相」と完全に同じである。
[0029]
 これらの知見から以下の事項を見出した。
[0030]
 (i)硬質相の平均径を限定すること。
 すなわち、ボイドは硬質相と(硬質相以外の)金属相との境界に発生するため、硬質相の平均径を限定することで、ボイドの発生が低減できる。
[0031]
 (ii)ナノ硬度バラツキを低減させること。
 すなわち、硬質相と軟質相の硬度差をできるだけ低減することにより、ボイドの発生が低減できる。
[0032]
 (iii)硬質相同士の距離を制限すること。
 すわなち、ボイドは硬質相と他の金属相(軟質相)との境界に発生するため、硬質相を離して配置することにより、ボイドが成長しても結合しにくくすることができる。
[0033]
 (iv)破断時の相当塑性歪みが0.50(50%)以上であること。
 前記の(i)~(iii)の条件を満足することにより、破断時の相当塑性歪みが0.50(50%)以上となり、板鍛造のような複合的加工においても、一定の加工性を担保することが可能であることを確認した。
[0034]
 (d)有効累積歪み
 上記(i)~(iv)の組織を得るために、熱間圧延における3段以上の多段(例えば6段または7段)の連続圧延で行われる多段仕上圧延において、最終3段の圧延における累積歪(以下「有効累積歪み」と記述する場合がある)が0.10~0.40になるように、最終仕上圧延を行なうことが必要である。
[0035]
 有効累積歪みは、圧延時の温度、圧延による鋼板の圧下率による結晶粒の回復、再結晶および粒成長を考慮した指標である。そのため、有効累積歪みを求めるに際しては、圧延後の時間経過による静的回復現象を表現する構成則を用いた。結晶粒が圧延後の時間経過により静的回復することを考慮したのは、圧延後の結晶粒に歪みとして蓄積されたエネルギーの解放が、熱的な結晶粒の転位の消滅による静的回復により起こるからである。そして、この熱的な転位の消滅は、圧延温度と圧延後の経過時間とに影響されるものである。そこで、この静的回復も考慮して、圧延時の温度、圧延による鋼板の圧下率(対数歪み)、圧延後の時間経過をパラメーターとして記述した指標を導入し、これを「有効累積歪み」と定義した。
[0036]
 このように、有効累積歪みを制限することにより、硬質相の平均円相当径が制限され、隣接硬質相間の距離が制限され、ナノ硬度のバラツキが低減される。その効果として、硬質相と軟質相の界面に生じるボイドの成長を抑制し、ボイドが成長しても結合しにくくさせることができる。これにより、板鍛造しても亀裂が発生しないので、板鍛造性に優れた鋼板を得ることができる。
[0037]
 本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
[0038]
 (A)化学組成
 各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
[0039]
 C:0.07~0.22%
 Cは、強度を高めるとともに残留オーステナイトを確保するために有効な元素である。C含有量が低すぎると強度を十分高めることができず、また残留オーステナイトを確保できない。一方、その含有量が過剰であると残留オーステナイトの量(面積率)が多くなり板鍛造での破断歪みが低下する。そのため、C含有量は0.07~0.22%とする。C含有量は0.08%以上、0.10%以上または0.12%以上が好ましく、0.14%以上、0.15%以上または0.16%以上がより好ましい。また、C含有量は0.20%以下または0.18%以下が好ましく、0.17%以下がより好ましい。
[0040]
 Si:1.00~3.20%
 Siは、脱酸効果を有し、有害な炭化物の生成を抑えフェライトを生成するのに有効な元素である。また、残留オーステナイトの分解を抑制する作用を有する。一方、その含有量が過剰であると延性が低下するほか、化成処理性も低下し塗装後耐食性が劣化する。そのため、Si含有量は1.00~3.20%とする。Si含有量は1.20%以上、1.30%以上または1.40%以上が好ましく、1.50%以上または1.60%以上がより好ましい。また、Si含有量は3.00%以下、2.80%以下または2.60%以下が好ましく、2.50%以下、2.40%以下または2.30%以下がより好ましい。
[0041]
 Mn:0.80~2.20%
 Mnは、オーステナイト域温度を低温側に拡大させてフェライトとオーステナイトとの二相域の温度範囲を拡大し、残留オーステナイトの安定化に有効な元素である。一方、その含有量が過剰であると焼入れ性が必要以上に高まりフェライトを十分に確保できなくなり、また鋳造時にスラブ割れが発生する。そのため、Mn含有量は0.80~2.20%とする。Mn含有量は0.90%以上、1.00%以上、1.20%以上または1.40%以上が好ましく、1.50%以上がより好ましい。また、Mn含有量は2.00%以下または1.90%以下が好ましく、1.80%以下または1.70%以下がより好ましい。
[0042]
 Al:0.010~1.000%
 Alは、Siと同様に脱酸効果とフェライトを生成する効果を有する。一方、その含有量が過剰であると脆化を招くとともに、鋳造時にタンディッシュノズルを閉塞し易くする。そのため、Al含有量は0.010~1.000%とする。Al含有量は0.015%以上または0.020%以上が好ましく、0.025%以上または0.030%以上がより好ましい。また、Al含有量は0.800%以下、0.700%以下または0.600%以下が好ましく、0.500%以下または0.400%以下がより好ましい。
[0043]
 N:0.0060%以下
 Nは、AlN等を析出して結晶粒を微細化するのに有効な元素である。一方、その含有量が過剰であると固溶窒素が残存して延性が低下するだけでなく、時効劣化が激しくなる。そのため、N含有量は0.0060%以下とする。N含有量の下限を特に定める必要はなく、その下限は0%である。N含有量は0.0050%以下または0.0040%以下が好ましい。また、過度に含有量を低下させることは、精錬時のコスト増につながるため、下限を0.0010%としてもよい。
[0044]
 P:0.050%以下
 Pは溶銑に含まれる不純物であり、粒界偏析するため局部延性を劣化させるとともに、溶接性を劣化させるので、できるだけ少ない方がよい。そのため、P含有量は0.050%以下に制限する。P含有量は0.030%以下または0.020%以下が好ましい。特に下限を規定する必要はなく、下限は0%である。しかし、過度に含有量を低下させることは精錬時のコスト増になるため、下限を0.001%としてもよい。
[0045]
 S:0.005%以下
 Sも溶銑に含まれる不純物であり、MnSを形成して局部延性および溶接性を劣化させるので、できるだけ少ない方がよい。そのため、S含有量は0.005%以下に制限する。延性または溶接性の向上のため、S含有量を0.003%以下または0.002%以下としてもよい。特に下限を規定する必要はなく、下限は0%である。しかし、過度に含有量を低下させることは精錬時のコスト増になるため、下限を0.0005%としてもよい。
[0046]
 Ti:0~0.150%
 Tiは、炭窒化物、または固溶Tiが熱間圧延時の粒成長を遅延させることで、熱延板の粒径を微細化し、低温靭性を向上させる効果を有する。また、TiCとして存在することで、析出強化を通じて鋼板の高強度化に寄与する。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和することに加えて、鋳造時のノズル閉塞の原因となる。そのため、Ti含有量は0.150%以下とする。必要に応じて、その上限を0.100%、0.060%または0.020%としてもよい。Ti含有量の下限は0%であるが、析出強化の効果を十分に得るために、下限を0.001%または0.010%としてもよい。
[0047]
 Nb:0~0.100%
 Nbは、炭窒化物、または固溶Nbが熱間圧延時の粒成長を遅延させることで、熱延板の粒径を微細化し、低温靭性を向上させる効果を有する。また、NbCとして存在することで、析出強化を通じて鋼板の高強度化に寄与する。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Nb含有量は0.100%以下とする。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るために、下限を0.001%または0.010%としてもよい。
[0048]
 V:0~0.300%
 Vは、析出強化または固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、V含有量は0.300%以下とする。必要にV応じて、V含有量を0.200%以下、0.100%以下または0.060%以下としてもよい。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るために、下限を0.001%または0.010%としてもよい。
[0049]
 Cu:0~2.00%
 Cuは、析出強化または固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Cu含有量は2.00%以下とする。また、Cu含有量が多量に含まれると鋼板の表面にスケール起因の傷が発生することがある。そのため、Cu含有量は1.20%以下、0.80%以下、0.50%以下または0.25%以下としてもよい。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るために、Cu含有量の下限を0.01%としてもよい。
[0050]
 Ni:0~2.00%
 Niは、固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Ni含有量は2.00%以下とする。また、Ni含有量が多量に含まれると延性が劣化するおそれがある。そのため、Ni含有量を0.60%以下、0.35%以下または0.20%以下としてもよい。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るために、Ni含有量の下限を0.01%としてもよい。
[0051]
 Cr:0~2.00%
 Crは、固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Cr含有量は2.00%以下とする。より経済性を高めるため、その上限を1.00%、0.60%または0.30%としてもよい。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るために、Cr含有量の下限を0.01%としてもよい。
[0052]
 Mo:0~1.00%
 Moは、析出強化または固溶強化により鋼板の強度を向上させる効果がある元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Mo含有量は1.00%以下とする。より経済性を高めるため、その上限を0.60%、0.30%または0.10%としてもよい。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るために、Mo含有量の下限を0.005%または0.01%としてもよい。
[0053]
 B:0~0.0100%
 Bは粒界に偏析し、粒界強度を高めることで低温靭性を向上させる。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、B含有量は0.0100%以下とする。また、Bは強力な焼き入れ元素であり、その含有量が多量に含まれると冷却中にフェライト変態が十分に進行せず、十分な残留オーステナイトが得られないことがある。そのため、B含有量を0.0050%以下、0.0020%以下または0.0015%としてもよい。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るために、B含有量の下限を0.0001%または0.0002%としてもよい。
[0054]
 Mg:0~0.0100%
 Mgは、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Mg含有量は0.0100%以下とする。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るために、Mg含有量の下限を0.0001%または0.0005%としてもよい。
[0055]
 Ca:0~0.0100%
 Caは、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、Ca含有量は0.0100%以下とする。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るためには、Ca含有量は0.0005%以上であるのが好ましい。
[0056]
 REM:0~0.1000%
 REM(希土類元素)は、破壊の起点となり、加工性を劣化させる原因となる非金属介在物の形態を制御し、加工性を向上させる元素である。したがって、必要に応じて含有させてもよい。しかし、その含有量が過剰であると、効果が飽和して経済性が低下する。そのため、REM含有量は0.1000%以下とする。必要に応じて、その上限を0.0100%または0.0060%としてもよい。その下限は0%であるが、上記効果を十分に得るために、REM含有量の下限を0.0001%または0.0005%としてもよい。
[0057]
 ここで、本発明において、REMはSc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、前記REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。なお、ランタノイドは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加される。
[0058]
 Zr:0~1.000%
 Co:0~1.000%
 Zn:0~1.000%
 W:0~1.000%
 Zr、Co、ZnおよびWは、それぞれ1.000%以下の範囲であれば含有しても本発明の効果は損なわれないことを確認している。これらの上限を0.300%または0.10%としてもよい。Zr、Co、ZnおよびWの合計含有量が1.000%以下または0.100%であることが好ましい。これらの含有は必須でなく、下限は0%であるが、必要に応じて、下限を0.0001%としてもよい。
[0059]
 Sn:0~0.050%
 Snは、少量であれば含有しても本発明の効果は損なわれないことを確認している。しかし、0.05%を超えると熱間圧延時に疵が発生するおそれがある。そのため、Sn含有量は0.050%以下とする。Snの含有は必須でなく、下限は0%であるが、必要に応じて、下限を0.001%としてもよい。
[0060]
 本発明の鋼板の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。
[0061]
 ここで「不純物」とは、鋼板を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[0062]
 (B)金属組織
 本発明の鋼板の金属組織について説明する。なお、本発明において金属組織は、鋼板の圧延方向と垂直な断面において、鋼板の幅および厚さをそれぞれWおよびtとしたときに、該鋼板の端面から1/4Wまたは3/4Wで、かつ、該鋼板の表面から1/4tまたは3/4tの位置における組織をいうものとする。また、以下の説明において「%」は、「面積%」を意味する。
[0063]
 残留オーステナイト:2%を超えて10%以下
 残留オーステナイトは、加工誘起変態(いわゆるTRIP現象)を得る上で必要な組織である。残留オーステナイトが、加工によりマルテンサイト変態し、加工後にマルテンサイトとして存在することにより、加工性を確保しつつ、加工後の部品において強度を確保することができるものである。TRIP鋼板の本来機能を得るため、残留オーステナイトの面積率は2%を超える値とする。
[0064]
 一方、残留オーステナイトが過剰になると、加工誘起変態で硬質相であるマルテンサイトが多く存在して、軟質相であるフェライトとの変形能の差から、両相の界面でボイドが発生し、板鍛造による鋼板の歪み増加に伴い、ボイドが結合し亀裂に成長する。したがって、残留オーステナイトの面積率は10%以下とする。残留オーステナイトの面積率は2.5%以上であるのが好ましく、3%以上または4%以上であるのがより好ましい。また、残留オーステナイトの面積率は9%以下であるのが好ましく、8%以下であるのがより好ましい。
[0065]
 マルテンサイト:2%以下
 TRIP鋼は、加工性を確保しつつ、加工の際に加工誘起変態により残留オーステナイトをマルテンサイト化することが特徴である。したがって、加工性を確保するため、硬質相であるマルテンサイトはできるだけ少ない方がよい。そのため、マルテンサイトの面積率は2%以下とする。マルテンサイトの面積率は1.5%以下、1%以下または0.5%以下であるのが好ましい。しかしながら、特に下限を規定する必要はなく、下限は0%である。
[0066]
 ベイナイト:10~70%
 軟質相であるベイナイトは、強度と伸びとのバランスを確保するために重要な組織であり、亀裂の伝搬を抑制する効果がある。この観点から、ベイナイトの面積率を10%以上とする。強度向上のため、下限を20%、30%、35%または40%としてもよい。一方、ベイナイトの面積率が過剰になると、残留オーステナイトを確保できず、TRIP鋼の本来的機能が確保できなるため、70%以下とする。必要に応じて、上限を65%、60%、55%または50%としてもよい。
[0067]
 パーライト:2%以下
 パーライトが多量に存在すると強度が低下するため、その面積率は2%以下とする。必要に応じて、その上限を1%または0.5%としてもよい。パーライトの面積率は極力低減することが好ましく、0%であることが好ましい。
[0068]
 残部:フェライト
 軟質相であるフェライトも、強度と伸びとのバランスを確保し、加工性を向上させる観点から重要な組織である。したがって、残留オーステナイト、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト以外の組織はフェライトである。残部組織であるフェライトの面積率を特に制限する必要はない。しかしながら、その面積率の下限を10%、上限を88%としてもよい。必要に応じて、その下限を20%、30%、35%または40%に、その上限を80%、70%、60%または55%としてもよい。
[0069]
 ここで、本発明において、金属組織の面積率は以下のように求める。上述のように、まず鋼板の端面から1/4Wまたは3/4Wで、かつ、鋼板の表面から1/4tまたは3/4tの位置から試料を採取する。そして、該試料の圧延方向断面(いわゆるL方向断面)を観察する。
[0070]
 具体的には、試料をナイタールエッチングし、エッチング後に光学顕微鏡を用いて300μm×300μmの視野で観察を行う。そして得られた組織写真に対し、画像解析を行うことによって、フェライトの面積率A、パーライトの面積率B、ならびにベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計面積率Cを得る。
[0071]
 次に、ナイタールエッチングした部分をレペラエッチングし、光学顕微鏡を用いて300μm×300μmの視野で観察を行う。そして得られた組織写真に対し、画像解析を行うことによって、残留オーステナイトおよびマルテンサイトの合計面積率Dを算出する。さらに圧延面法線方向から板厚の1/4深さまで面削した試料を用い、X線回折測定により残留オーステナイトの体積率を求める。体積率は面積率にほぼ等しいので、前記体積率を残留オーステナイトの面積率Eとする。面積率Cと面積率Dとの差からベイナイトの面積率を、面積率Eと面積率Dとの差からマルテンサイトの面積率を求める。この方法により、フェライト、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイト、パーライトそれぞれの面積率を得ることができる。
[0072]
 また、本発明においては、残留オーステナイトおよび/またはマルテンサイトからなる金属相(以下、単に「金属相」ともいう。)の存在状態についても以下のように規定する。なお、上記金属相(硬質相)は残留オーステナイトを主体であること、つまり、残留オーステナイトの面積率がマルテンサイトの面積率より多いことが、好ましい。
[0073]
 金属相の平均円相当径:1.0~5.0μm
 TRIP鋼としての本来的機能を確保するには、上記金属相の面積が一定以上必要であることから、金属相の平均円相当径は1.0μm以上とする。一方、金属相が大きすぎると、板鍛造による鋼板の歪み増加に伴い、粒界に存在するボイドが結合し易くなることから、金属相の平均円相当径率は5.0μm以下とする。金属相の平均円相当径は1.5μm以上が好ましく、1.8μm以上または2.0μm以上がより好ましい。また、金属相の平均円相当径は4.8μm以下、4.4μm以下または4.2μm以下好ましく、4μm以下、3.5μm以下または3μm以下がより好ましい。
[0074]
 金属相の平均円相当径(直径)は、以下のようにして求める。まず、面積率Dを測定する方法に準じ、レペラエッチング後の組織写真より、個々の金属相面積から円相当径を求める。そして、測定した円相当径の(単純)平均値を、平均円相当径とする。
[0075]
 隣接する金属相の最短距離の平均値:3μm以上
 硬質相と軟質相との界面に発生したボイドが成長し、ボイド同士が結合してさらに大きなボイドとならないようにするため、硬質相間の距離を一定量確保する必要がある。そのため、隣接する金属相間の距離の平均値を3μm以上とする。
[0076]
 ボイドの成長による亀裂発生を抑制する観点から、上記平均値は4μm以上であるのが好ましく、5μm以上であるのがより好ましい。上限は特に設定しないが、TRIP鋼としての本来的機能を確保するためには、上記平均値は10μm以下にすることが好ましい。
[0077]
 隣接する金属相の最短距離の平均値は、以下のようにして求める。任意の金属相を20個選択し、それと最も近接する金属相までの距離をそれぞれ測定し、その平均値を算出する。なお、金属相間の最短距離は、面積率Dを測定する方法に準じ、レペラエッチング後の光学顕微鏡の観察画像を画像解析することで求める。
[0078]
 (C)機械特性
 ナノ硬度の標準偏差:2.5GPa以下
 硬質相と軟質相との変形能の差を小さくすることにより両相の界面に発生するボイドを少なくし、さらにボイド間隔をあけることにより、ボイドが結合して亀裂に成長することを抑制することが可能になる。そこで、硬質相と軟質相との変形能の差に対応するナノ硬度差をできるだけ低減することにより、ボイドの発生が抑制できる。本発明においては、軟質相と硬質相との硬度差の指標として、試料断面におけるナノ硬度の標準偏差を採用する。
[0079]
 ナノ硬度は、例えば、Hysitron社製TriboScope/TriboIndenterを用いて測定することが可能である。1mNの荷重にて100点以上のナノ硬度を任意に測定し、その結果からナノ硬度の標準偏差を算出することができる。
[0080]
 軟質相と硬質相の硬度差を減少させ、ボイドの発生を抑制するには、ナノ硬度の標準偏差は小さい方がよく、2.5GPa以下とする。好ましくは、2.4GPa以下または2.3GPa以下とするとよい。
[0081]
 引張強さ:780MPa以上
 本発明に係る鋼板は、従来のTRIP鋼と同等の780MPa以上の引張強さを有することが好ましい。引張強さの上限を特に定める必要はないが、1200MPa、1150MPaまたは1000MPaとしてもよい。ただし、引張強さは、JIS Z 2241(2011)の引張強さを示す。
[0082]
 均一伸びと引張強さとの積:9500MPa%以上
 均一伸びが小さいとプレス成型時にネッキングによる板厚減少が起こり易く、プレス割れの原因となる。プレス成形性を確保するため、均一伸び(u-EL)と引張強さ(TS)との積:TS×u-EL≧9500MPa%を満たすことが好ましい。ただし、均一伸びは、JIS Z 2241(2011)で規定する試験において、公称応力σnと公称歪みεnとの関係で、公称応力σnを公称歪みεnで微分したときの値がゼロとなる点の公称歪みをεn0とした時、以下の式で表される。
 均一伸び(u-EL)=ln(εn0+1)
[0083]
 相当塑性歪み:0.50以上
 相当塑性歪みは、単純せん断試験でのせん断応力σsとせん断塑性歪みεspとの関係を、変形形態の異なる、単軸引張試験での引張応力σと引張歪みεとの関係に変換するものであり、等方硬化則と塑性仕事共役との関係を仮定して、定数である変換係数(κ)を用いて変換したものである。
[0084]
 ここで、等方硬化則とは、降伏曲線の形状は、歪みが進展しても変化しない(つまり、相似形に膨張する)と仮定した加工硬化則である。塑性仕事共役の関係とは、加工硬化は塑性仕事のみの関数として記述され、変形形態によらず同じ塑性仕事(σ×ε)を与えられたとき、同じ加工硬化量を示すという関係である。
[0085]
 これにより、単純せん断試験でのせん断応力とせん断塑性歪みを、それぞれ単軸引張試験の引張応力と引張歪みに変換することができる。この関係を以下に示す。
 単軸引張試験での引張応力σ(変換)=単純せん断試験でのせん断応力σs×κ
 単軸引張試験での引張歪みε(変換)=単純せん断試験でのせん断塑性歪みεsp/κ
[0086]
 次に、せん断応力とせん断塑性歪みの関係を、引張応力と引張歪みの関係に相似になるよう変換係数κを求める。例えば、変換係数κは、以下の手順で求めることができる。まず、単軸引張試験での引張歪みε(実測値)と引張応力σ(実測値)の関係を求めておく。続いて、単軸せん断試験でのせん断歪みεs(実測値)とせん断応力σs(実測値)の関係を求める。
[0087]
 次に、κを変化させて、せん断歪みεs(実測値)から求めた引張歪みε(変換)と、せん断応力σs(実測値)から求めた引張応力σ(変換)とを求めておき、引張歪みε(変換)が、0.2%から均一伸び(u-EL)までの間のときの、引張応力σ(変換)を求める。この時の、引張応力σ(変換)と引張応力σ(実測値)との誤差を求め、誤差が最少となるκを、最小二乗法を用いて求める。
[0088]
 相当塑性歪みεeqは、求めたκを用いて、単純せん断試験での破断時のせん断塑性歪みεsp(破断)を、単純引張試験での引張歪みεに変換したものとして定義される。
[0089]
 本発明に係る鋼板は、板鍛造に代表させる高歪み領域での加工特性がよいことが特徴であり、相当塑性歪みεeqが0.50以上を満たしている。従来のTRIP鋼の相当塑性歪みが高々0.30程度であることから、本発明に係る鋼板の板鍛造性が良好であることが確認された。
[0090]
 (D)寸法
 板厚:1.0~4.0mm
 本発明に係る鋼板は、主に自動車などが主な用途であり、その板厚範囲は主に1.0~4.0mmである。このため、板厚範囲を1.0~4.0mmとしてもよい、必要に応じて、下限を1.2mm、1.4mmまたは1.6mmに、上限を3.6mm、3.2mmまたは2.8mmとしてもよい。
[0091]
 (E)製造方法
 発明者らは、これまでの研究により、下記に示す(a)から(l)までの製造工程により、本発明の熱間圧延鋼板を製造することができることを確認している。以下、各製造工程について詳しく説明する。
[0092]
 (a)溶製工程
 熱間圧延に先行する製造方法は特に限定するものではない。すなわち、高炉または電炉等による溶製に引き続き各種の2次製錬を行って上述した成分組成となるように調整する。次いで、通常の連続鋳造、薄スラブ鋳造などの方法でスラブを製造すればよい。その際、本発明の成分範囲に制御できるのであれば、原料にはスクラップ等を使用しても構わない。
[0093]
 (b)熱間圧延工程
 製造されたスラブは、加熱して熱間圧延を施し、熱間圧延鋼板とする。熱間圧延工程における条件についても特に制限は設けないが、例えば、熱間圧延前の加熱温度を1050~1260℃とするのが好ましい。連続鋳造の場合には一度低温まで冷却した後、再度加熱してから熱間圧延してもよいし、特に冷却することなく連続鋳造に引き続いて加熱して熱間圧延してもよい。
[0094]
 加熱後は、加熱炉より抽出したスラブに対して粗圧延およびその後の仕上圧延を施す。前述したように、仕上圧延は、3段以上の多段(例えば6段または7段)の連続圧延で行われる多段仕上圧延である。そして、最終3段の圧延における累積歪(有効累積歪み)が、0.10~0.40になるように最終仕上圧延を行なう。
[0095]
 前述したように、有効累積歪みは、圧延時の温度、圧延による鋼板の圧下率による結晶粒径の変化と、結晶粒が圧延後の時間経過により静的に回復する結晶粒径の変化とを考慮した指標である。有効累積歪み(εeff)は、以下の式で求めることができる。
[0096]
 有効累積歪み(εeff)=Σεi(ti,Ti)   ・・・(1)
 上式(1)中のΣは、i=1~3についての総和を示す。
 但し、i=1は、多段仕上圧延において最後から1段目の圧延(つまり、最終段圧延)を、i=2は最後から2段目の圧延、i=3は最後から3段目の圧延を、それぞれ示す。
[0097]
 ここで、iで示される各圧延において、εiは以下の式で表される。
 εi(ti,Ti)=ei/exp((ti/τR) 2/3)   ・・・(2)
 ti:最後からi段目の圧延から最終段圧延後の一次冷却開始までの時間(s)
 Ti:最後からi段目の圧延の圧延温度(K)
 ei:最後からi段目の圧延で圧下したときの対数歪み
 ei=|ln{1-(i段目の入側板厚-i段目の出側板厚)/(i段目の入側板厚)}|
   =|ln{(i段目の出側板厚)/(i段目の入側板厚)}|   ・・・(3)
 τR=τ0・exp(Q/(R・Ti))   ・・・(4)
 τ0=8.46×10 -9(s)
 Q:Feの転位の移動に関する活性化エネルギーの定数=183200(J/mol)
 R:ガス定数=8.314(J/(K・mol))
[0098]
 このようにして導いた有効累積歪みを規定することにより、残留オーステナイトを主体とする金属相の平均円相当径および隣接する金属相間の距離が制限され、さらにナノ硬度のバラツキが低減される。その結果として、硬質相と軟質相との界面に生じるボイドの成長を抑制し、ボイドが成長しても結合しにくくさせることができ、板鍛造しても亀裂が発生しない、板鍛造性に優れた鋼板を得ることができる。
[0099]
 仕上圧延の終了温度、すなわち連続熱延工程の終了温度は、Ar (℃)以上、Ar (℃)+30℃未満の温度にするとよい。これにより、残留オーステナイトの量を制限しつつ、2相域で圧延を完了させることができるからである。なお、Ar3の値は下記式により算出することができる。
 Ar =970-325×C+33×Si+287×P+40×Al-92×(Mn+Mo+Cu)-46×(Cr+Ni)
 但し、上記式中の元素記号は、各元素の熱間圧延鋼板中の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0を代入するものとする。
[0100]
 (c)第1(加速)冷却工程
 仕上げ圧延終了後、0.5s以内に得られた熱間圧延鋼板の冷却を開始する。そして、650~750℃の温度まで10~40℃/sの平均冷却速度で冷却し、その後大気中で3~10s冷却する(空冷工程)。この工程と続く大気中での冷却においてフェライト変態を促進し、後の巻取り工程でのオーステナイトの残留に必要なCの分配を行う。この第1冷却工程における平均冷却速度が10℃/s未満であるとパーライトが生成し易くなる。一方、40℃/s超ではフェライト変態ではなく比較的高温でのベイナイト変態が起こってしまい、後のオーステナイトの残留を妨げる。
[0101]
 また、大気中での冷却速度が8℃/s超または空冷時間が10s超であると、ベイナイトが生成し易く、ベイナイト面積率が大きくなる。一方、大気中での冷却速度が4℃/s未満または空冷時間が3s未満であると、パーライトが生成し易くなる。なお、ここでいう大気中での冷却とは、鋼板が大気中で冷却速度4~8℃/sで空冷されることを意味する。
[0102]
 (d)第2(加速)冷却工程
 空冷工程後、直ちに350~450℃の温度まで30℃/s以上の平均冷却速度で冷却する。この平均冷却速度の上限は特に限定されないが、熱偏差による熱歪みで鋼板が反ることが懸念されることから、1000℃/s以下にするとよい。
[0103]
 (e)巻取工程
 その後、冷却された熱間圧延鋼板を巻き取る。巻取工程における条件は、特に限定されないが、巻き取り後、コイル表面温度が200℃になるまでの平均冷却速度を30~100℃/hにするとよい。第2(加速)冷却工程の後、巻取工程までの間に、大気中での空冷を行ってもよい。この大気中の空冷であれば、冷却速度を特に制限する必要はない。
[0104]
 以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例 1
[0105]
 表1に示す化学組成を有する鋼を溶製し、スラブを作製し、このスラブを、表2に示す条件で熱間圧延した後冷却してから巻き取り、熱間圧延鋼板を製造した。得られた熱間圧延鋼板の板厚を表3に示す。
[0106]
[表1]


[0107]
[表2]


[0108]
[表3]


[0109]
 [金属組織]
 得られた熱間圧延鋼板の金属組織観察を行い、各組織の面積率の測定を行った。具体的には、まず鋼板の圧延方向と垂直な断面において、鋼板の幅および厚さをそれぞれWおよびtとしたときに、該鋼板の端面から1/4Wで、かつ、該鋼板の表面から1/4tの位置から金属組織観察用の試験片を切り出した。
[0110]
 そして、上記の試験片の圧延方向断面(いわゆるL方向断面)をナイタールエッチングし、エッチング後に光学顕微鏡を用いて300μm×300μmの視野で観察を行った。そして得られた組織写真に対し、画像解析を行うことによって、フェライトの面積率A、パーライトの面積率B、ならびにベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計面積率Cを求めた。
[0111]
 次に、ナイタールエッチングした部分をレペラエッチングし、光学顕微鏡を用いて300μm×300μmの視野で観察を行った。そして、得られた組織写真に対し、画像解析を行うことによって、残留オーステナイトおよびマルテンサイトの合計面積率Dを算出した。さらに圧延面法線方向から板厚の1/4深さまで面削した試料を用い、X線回折測定により残留オーステナイトの体積率を求めた。体積率は面積率にほぼ等しいので、前記体積率を残留オーステナイトの面積率Eとした。面積率Cと面積率Dとの差からベイナイトの面積率を、面積率Eと面積率Dとの差からマルテンサイトの面積率を求めた。この方法により、フェライト、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイト、パーライトそれぞれの面積率を求めた。
[0112]
 さらに、上述のレペラエッチング後の組織写真より、金属相の個数および面積を求め、円相当径(直径)を算出し、これを個数平均して平均円相当径を求めた。同様に、レペラエッチング後の組織写真より、任意の金属相を20個選択し、それと最も近接する金属相までの距離をそれぞれ測定し、その平均値を算出した。
[0113]
 [機械特性]
 機械特性のうち引張強度特性(引張強さ(TS)、均一伸び(u-EL))は、板幅をWとした時に、板の片端から板幅方向に1/4Wもしくは3/4Wのいずれかの位置において、圧延方向に直行する方向(幅方向)を長手方向として採取したJIS Z 2241(2011)の5号試験片を用いて、JIS Z 2241(2011)に準拠して評価した。
[0114]
 さらに、以下の手順によって単純せん断試験を行い、その結果に基づいて相当塑性歪みを求めた。
[0115]
 単純せん断試験の試験片は、鋼板の板幅をWとした時に、板の片端から板幅方向に1/4Wもしくは3/4Wのいずれかの位置において、圧延方向に直行する方向(幅方向)を長手方向として採取する。図1(a)に試験片の一例を示す。図1に示す単純せん断試験の試験片は、板厚が2.0mmになるように両面を均等に研削して板厚を揃え、鋼板の幅方向に23mm、鋼板の圧延方向に38mmの矩形の試験片となるように加工した。
[0116]
 試験片の長片側(圧延方向)を、短片方向(幅方向)に向かって10mmずつ両側のチャッキング部2をチャッキングし、試験片の中央に、3mmのせん断幅(せん断変形発生部1)を設けるようにした。なお、板厚が2.0mm未満の場合は、研削せずに、板厚はそのままで試験をした。また、試験片の中央には、短片方向(幅方向)にペン等で直線の印を付けた。
[0117]
 そして、チャッキングした長辺側を、長片方向(圧延方向)に、互いに逆向きになるように動かすことで、せん断応力σsを負荷し、試験片にせん断変形を加えた。図1(b)に、せん断変形をした試験片の一例を示す。せん断応力σsは、下記式により求める公称応力である。
 せん断応力σs=せん断力/(鋼板の圧延方向の試験片の長さ×試験片の板厚)
[0118]
 なお、せん断試験では試験片の長さおよび板厚が変化しないので、せん断公称応力≒せん断真応力と考えてもよい。せん断試験中、試験片中央に描いた直線をCCDカメラによって撮影し、その傾きθを計測した(図1(b)参照)。この傾きθから、下記の式を用いて、せん断変形により発生した、せん断ひずみεsを求めた。
 せん断ひずみεs=tan(θ)
[0119]
 なお、単純せん断試験には、単純せん断試験機(最大変位8mm)を用いた。そのため、試験機のストローク(変位)の限界がある。また、試験片の端部またはチャック部でのき裂の発生により、一回のせん断試験では、試験片が破断するまで試験を行うことができない場合がある。そこで、前述したように、せん断試験荷重の負荷、荷重の除荷、試験片のチャック部端部を直線に切除、荷重の再負荷、といった一連の作業を繰り返す、「多段せん断試験法」を採用した。
[0120]
 これらの多段階のせん断試験結果を直列的に繋げて、連続した一つの単純せん断試験結果として評価するために、各段階のせん断試験で得られたせん断ひずみ(εs)から、せん断弾性率を考慮したせん断弾性ひずみ(εse)を減じた、せん断塑性ひずみ(εsp)を下記のように求めて、各段階のせん断塑性ひずみ(εs)を纏めて一つに繋ぎ合わせた。
 せん断塑性ひずみεsp=せん断ひずみεs-せん断弾性ひずみεse
 せん断弾性ひずみεse=σs/G
 σs:せん断応力
 G:せん断弾性率
 ここで、G=E/2(1+ν)≒78000(MPa)とした。
 E(ヤング率(縦弾性係数))=206000(MPa)
 ポアソン比(ν)=0.3
[0121]
 単純せん断試験では、試験片が破断するまで試験を行う。このようにして、せん断応力σsとせん断塑性ひずみεspの関係が追跡できる。そして、試験片が破断するときのせん断塑性ひずみがεspfである。
[0122]
 上記単純せん断試験で得られたせん断応力σsと、試験片が破断するときのせん断塑性ひずみεspfとの関係から、前述した方法により、変換係数κを用いて、相当塑性歪みεeqを求めた。
[0123]
 次に、ナノ硬度の標準偏差の測定を行った。金属組織観察用の試験片を再度研磨し、1mNの荷重(載荷10s、除荷10s)にて、圧延方向に平行な断面内の、鋼板表面から板厚tの1/4深さ位置(1/4t部)について、25μm×25μmの測定エリアを5μm間隔で測定した。その結果から、ナノ硬度の平均値およびナノ硬度の標準偏差を算出した。ナノ硬度の測定は、Hysitron社製TriboScope/TriboIndenterを用いて実施した。
[0124]
 これらの測定結果を表3に併せて示す。
[0125]
 表3からも明らかなように、本発明に係る熱間圧延鋼板であれば、引張強さ(TS)が780MPa以上、均一伸びu-ELと引張強さTSとの積(TS×u-EL)が9500MPa・%以上を有し、バランスのとれた特性を示す。また、本発明に係る熱間圧延鋼板は、相当塑性歪みも0.50以上となり、板鍛造などの高歪み域加工にも耐えられる鋼板であることが確認された。

産業上の利用可能性

[0126]
 本発明によれば、深絞り加工性、張出し成形加工性といったTRIP鋼としての基本的機能を維持しつつ、板鍛造性に優れた熱間圧延鋼板を得ることが可能となる。したがって、本発明に係る熱間圧延鋼板は、広く、機械部品などに利用することができる。特に、板鍛造などの高歪み域での加工を有する鋼板の加工に適用することにより、その顕著な効果を得ることができる。

符号の説明

[0127]
 1 せん断変形発生部
 2 チャッキング部

請求の範囲

[請求項1]
 化学組成が、質量%で、
 C:0.07~0.22%、
 Si:1.00~3.20%、
 Mn:0.80~2.20%、
 Al:0.010~1.000%、
 N:0.0060%以下、
 P:0.050%以下、
 S:0.005%以下、
 Ti:0~0.150%、
 Nb:0~0.100%、
 V:0~0.300%、
 Cu:0~2.00%、
 Ni:0~2.00%、
 Cr:0~2.00%、
 Mo:0~1.00%、
 B:0~0.0100%、
 Mg:0~0.0100%、
 Ca:0~0.0100%、
 REM:0~0.1000%、
 Zr:0~1.000%、
 Co:0~1.000%、
 Zn:0~1.000%、
 W:0~1.000%、
 Sn:0~0.050%、および、
 残部:Feおよび不純物であり、
 鋼板の圧延方向と垂直な断面において、鋼板の幅および厚さをそれぞれWおよびtとしたときに、該鋼板の端面から1/4Wまたは3/4Wで、かつ、該鋼板の表面から1/4tまたは3/4tの位置における金属組織が、面積%で、
 残留オーステナイト:2%を超えて10%以下、
 マルテンサイト:2%以下、
 ベイナイト:10~70%、
 パーライト:2%以下、
 残部:フェライトであり、
 残留オーステナイトおよび/またはマルテンサイトからなる金属相の平均円相当径が1.0~5.0μmであり、
 隣接する前記金属相の最短距離の平均値が3μm以上であり、
 ナノ硬度の標準偏差が2.5GPa以下である、
 熱間圧延鋼板。
[請求項2]
 引張強さが780MPa以上であり、
 板厚が1.0~4.0mmである、
 請求項1に記載の熱間圧延鋼板。

図面

[ 図 1]