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1. (WO2018179358) 抗菌性生体インプラントの製造方法
Document

明 細 書

発明の名称 抗菌性生体インプラントの製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004  

先行技術文献

特許文献

0005  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0006  

課題を解決するための手段

0007  

発明の効果

0008  

図面の簡単な説明

0009  

発明を実施するための形態

0010   0011   0012   0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061  

実施例

0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081   0082   0083   0084   0085   0086   0087   0088   0089  

符号の説明

0090  

請求の範囲

1   2   3   4   5  

図面

1   2   3   4   5  

明 細 書

発明の名称 : 抗菌性生体インプラントの製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、抗菌性を有する生体インプラントの製造方法に関する。

背景技術

[0002]
 生体インプラントは、外傷または疾病などによって低下または喪失した人体の機能を修復または代替するものであり、その利用者数は高齢者人口の増加とともに増えている。このような生体インプラントには、術後、長期にわたり安定して生体機能を代替できることが要求される。近年の科学技術の発展は生体インプラントにおいても顕著であり、現在では一定の成績を残せるようになってきている。
[0003]
 しかしながら、生体インプラントに残存する課題の1つに術後感染症が挙げられる。人工関節を初めとするインプラント置換術後において、細菌がインプラント周囲または手術部位で増殖して感染症を引き起こすと、最悪の場合には、感染した人工関節を再手術により抜去して抗生物質による感染治療を行った後、人工関節を再置換することになる。また、予後不良の場合には、関節固定または手足の切断に至るなど、回復しがたい問題となる。
[0004]
 このような問題に対し、近年、生体インプラントに抗菌性を付与する研究が活発に行われている。生体インプラントに抗菌性を付与する方法として、抗菌成分であるヨウ素を利用する方法が知られている。例えば、特許文献1、2では、陽極酸化または薬品処理酸化などにより微細孔または凹凸を形成し、電気泳動によって微細孔または凹凸にヨウ素またはヨウ素化合物を含浸させ、ヨウ素を溶出させることによって抗菌性を得ている。このようなヨウ素による抗菌性は、長期にわたり安定して発揮できることが望ましい。

先行技術文献

特許文献

[0005]
特許文献1 : 特許第2932437号公報
特許文献2 : 特許第5044795号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0006]
 本発明の課題は、長期にわたり安定して優れた抗菌性を発揮することができる抗菌性生体インプラントを提供することである。

課題を解決するための手段

[0007]
 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
 (1)金属材料からなる基材に対して順に、陽極酸化処理、酸処理およびヨウ素処理を行うことによって、前記基材および前記基材上に積層されている陽極酸化皮膜を備えるとともに前記陽極酸化皮膜が前記基材との界面側に位置しているヨウ素リッチ層を有する抗菌性生体インプラントを得る、抗菌性生体インプラントの製造方法。
 (2)前記酸処理が、硫酸処理である、前記(1)に記載の抗菌性生体インプラントの製造方法。
 (3)前記酸処理が、前記基材を酸に浸漬する処理であり、前記酸が硫酸及び過酸化水素を含む、前記(1)に記載の抗菌性生体インプラントの製造方法。
 (4)前記金属材料が、チタンまたはチタン合金である、前記(1)~(3)のいずれか1に記載の抗菌性生体インプラントの製造方法。
 (5)前記ヨウ素処理の後に洗浄処理をさらに行う、前記(1)~(4)のいずれか1に記載の抗菌性生体インプラントの製造方法。

発明の効果

[0008]
 本発明によれば、長期にわたり安定して優れた抗菌性を発揮することができる抗菌性生体インプラントを得ることができる。

図面の簡単な説明

[0009]
[図1] 本発明の一実施形態に係る抗菌性生体インプラントを示す部分拡大概略断面説明図である。
[図2] 本発明の一実施形態に係る抗菌性生体インプラントの製造方法を示すフローチャートである。
[図3] 実施例2における断面観察結果を示す図であり、(a)は電界放射型走査電子顕微鏡写真、(b)はヨウ素の元素マッピングである。なお、図3を模式的に示したものが図1である。
[図4] 比較例1における断面観察結果を示す図であり、(a)は電界放射型走査電子顕微鏡写真、(b)はヨウ素の元素マッピングである。
[図5] 実施例2におけるヨウ素の経時溶出試験の結果を示すグラフである。

発明を実施するための形態

[0010]
<抗菌性生体インプラント>
 以下、本発明の一実施形態に係る抗菌性生体インプラント(以下、「生体インプラント」と言うことがある。)について、図1を参照して詳細に説明する。
[0011]
 図1に示す本実施形態の生体インプラント1は、ヨウ素に起因する抗菌性を有するものであり、基材2および陽極酸化皮膜3を備えている。
[0012]
 (基材)
 基材2は、金属材料からなる。金属材料としては、例えば、チタン、コバルト、チタン合金、コバルト合金、コバルト-クロム合金、ステンレス鋼などが挙げられるが、生体インプラントとして使用可能な限りこれらに限定されるものではない。
[0013]
 例示した金属材料のうち、骨親和性が高く、骨との結合強度に優れること、また生体親和性も高いことからチタンまたはチタン合金が好ましい。言い換えれば、本実施形態の金属材料は、チタンまたはチタン合金であるのが好ましい。チタンとしては、例えばASTM F67に記載のGrade1~4が好ましい。チタン合金としては、例えば、Ti-6Al-4V ELI合金(ASTM F136)、Ti-6Al-7Nb(ASTM F1295)、Ti6Al-2Nb-1Ta-0.8Mo(JIS T 7401-3)、Ti-15Mo-5Zr-3Al(ISO 5832-14)などが挙げられる。例示したチタンおよびチタン合金のうちTi-6Al-4V ELI合金(ASTM F136)からなるチタン合金がより好ましい。
[0014]
 (陽極酸化皮膜)
 陽極酸化皮膜3は、上述した基材2上に積層されている皮膜であり、後述する陽極酸化処理を経ることによって形成される。それゆえ、本実施形態の陽極酸化皮膜3は、陽極酸化処理に起因して形成される微細孔33および微細凹凸34を有する。微細孔33は、面積換算で円相当直径が0.1~5μmの円形状または多角形状の孔である。微細凹凸34は、微細孔33が変形するか、または互いに隣り合う微細孔33、33同士が結合することによって形成される凹凸であり、JIS B0601-2001に準拠して測定される算術平均粗さ(Ra)が0.2μm以上である。このような微細孔33および微細凹凸34にヨウ素またはヨウ素化合物を含浸させると抗菌性が得られる。
[0015]
 本実施形態の陽極酸化皮膜3は、ヨウ素リッチ層31を有する。ヨウ素リッチ層31は、陽極酸化皮膜3のうちヨウ素含有量が最も多い層状の部位である。ヨウ素含有量とは、ヨウ素またはヨウ素化合物を構成するヨウ素元素の量をいう。本実施形態では、ヨウ素リッチ層31が、陽極酸化皮膜3のうち基材2との界面S側に位置している。微細孔33および微細凹凸34に含浸させたヨウ素またはヨウ素化合物は比較的溶出し易く、これらのヨウ素またはヨウ素化合物に起因する抗菌性は比較的早期に低下してしまうが、これらの構成によれば、ヨウ素リッチ層31からヨウ素またはヨウ素化合物が簡単に溶出するのを抑制することができ、ヨウ素の徐放性が継続して発揮されるようになり、ヨウ素処理後に洗浄処理を行ったとしてもヨウ素に起因する優れた抗菌性を長期にわたり安定して得ることが可能となる。
[0016]
 陽極酸化皮膜3がヨウ素リッチ層31を有することの確認は、例えば、クロスセクションポリッシャ(以下、「CP」と言うことがある。)加工を行った後、電界放射型走査電子顕微鏡(以下、「FE-SEM」と言うことがある。)を使用して断面を観察し、エネルギー分散型X線分析装置(以下、「EDS」と言うことがある。)による元素マッピングを実施することによって行うことができる。
[0017]
 本実施形態では、ヨウ素リッチ層31が、陽極酸化皮膜3のうち最も基材2との界面S側に位置している。言い換えれば、ヨウ素リッチ層31が、陽極酸化皮膜3におけるヨウ素リッチ層31以外の部位32と、基材2との間に位置している。したがって、本実施形態では、ヨウ素リッチ層31が基材2に接触している。このような構成によれば、ヨウ素が簡単に溶出するのを抑制することができる。なお、ヨウ素リッチ層31が基材2に接触しているとは、ヨウ素リッチ層31が実質的に基材2に接触していることを意味するものとする。すなわち、ヨウ素リッチ層31が基材2に接触しているとは、ヨウ素リッチ層31のうち大部分が基材2に接触しており、残りの僅かな部分が基材2から離れて基材2との界面S近傍に位置している場合をも含む概念である。
[0018]
 本実施形態のヨウ素リッチ層31は、少なくともヨウ素を含有する無機化合物からなり、より具体的には、少なくともヨウ素および基材2由来の元素を含有する無機化合物からなる。このような構成によれば、ヨウ素が簡単に溶出するのを抑制することができる。本実施形態のヨウ素リッチ層31は、基材2由来の元素ならびに後述するヨウ素処理の浴由来の元素をさらに含有する無機化合物を有する。
[0019]
 また、本実施形態のヨウ素リッチ層31は、ヨウ素を含有する無機化合物と共に、ヨウ素を含有する有機化合物を含むことが好ましい。これにより、ヨウ素またはヨウ素化合物の徐放性により優れる。
[0020]
 本実施形態の陽極酸化皮膜3は、ヨウ素リッチ層31以外の部位32が、ヨウ素を含有していない。これにより、ヨウ素またはヨウ素化合物を長時間安定して放つことができ、徐放性に優れる。ヨウ素を含有していないとは、CP加工を行った後、FE-SEMを使用して断面を観察し、EDSによる元素マッピングを実施したときに、測定誤差レベルおよび不可避不純物レベルを超える濃度としてはヨウ素が測定されないことを意味するものとする。図3(b)の部位32に見られるような、測定誤差や不可避不純物によってヨウ素が検出されているような場合を排除するものではない。本実施形態の部位32は、基材2由来の元素および陽極酸化処理の浴由来の元素を含有する無機化合物からなる。
[0021]
 陽極酸化皮膜3の厚さとしては、3~10μmであるのが好ましい。上限値としては、6μm以下または5μm以下であってよい。3μm以上であると、ヨウ素リッチ層31、並びに微細孔33および微細凹凸34にヨウ素またはヨウ素化合物を十分に含むことができ、より長期にわたり安定して優れた抗菌性を発揮することができる。10μmを超えると、陽極酸化皮膜の密着強度が低下する場合がある。
[0022]
 また、ヨウ素リッチ層31の厚さとしては、0.1~2μmであるのが好ましい。ヨウ素リッチ層31にヨウ素またはヨウ素化合物を十分に含むことができ、より長期にわたり安定して優れた抗菌性を発揮することができる。
[0023]
 陽極酸化皮膜3およびヨウ素リッチ層31のそれぞれの厚さは、CP加工を行った後、FE-SEMを使用して断面を観察することにより測定することができる。測定箇所は5箇所とし、その平均値を陽極酸化皮膜3およびヨウ素リッチ層31のそれぞれの厚さとする。なお、ヨウ素リッチ層31の厚さを測定するときには、EDSによる元素マッピングをさらに実施し、ヨウ素リッチ層31を特定すればよい。
[0024]
 陽極酸化皮膜3の基材2に対する密着強度は、22MPa以上であるのが好ましい。これにより、骨との結合強度に優れると共に、医療用部品において求められる皮膜と基材の密着強度(静的引張強度)が22MPa以上であるという要求に対応することができる。密着強度の上限値としては、接着剤の強度に依存するが約70MPa等が挙げられる。密着強度は、ASTM F1147に準拠して測定して得られる値である。
[0025]
 生体インプラント1のヨウ素含有量の上限としては、100μg/cm 以下、50μg/cm 以下、25μg/cm 以下、20μg/cm 以下または16μg/cm 以下であってよく、下限としては、4μg/cm 以上または8μg/cm 以上であってよい。これにより長期にわたって抗菌性を発揮するのに十分なヨウ素量を確保することができる。
[0026]
 また、生体インプラント1のヨウ素含有量は、4~20μg/cm 、4~16μg/cm であってよく、10~16μg/cm であるのが好ましい。このような構成によれば、上述した陽極酸化皮膜3の基材2に対する密着強度を維持しつつ、長期にわたって抗菌性を発揮するのに十分なヨウ素量を確保することができる。ヨウ素含有量は、エネルギー分散型X線分析装置で測定して得られる値である。本実施形態のヨウ素含有量は、ヨウ素処理をして洗浄処理した後の値である。
[0027]
 上述した生体インプラント1の形態としては、例えば、人工関節、人工骨、人工歯根、内外固定材、創外固定器などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
[0028]
<抗菌性生体インプラントの製造方法>
 次に、本発明の一実施形態に係る抗菌性生体インプラントの製造方法について、上述した生体インプラント1を製造する場合を例にとって、図2を参照して詳細に説明する。
[0029]
 図2に示すように、本実施形態では、上述した基材2に対して順に、工程S1の陽極酸化処理、工程S2の酸処理、および工程S4のヨウ素処理を行うことによって、生体インプラント1を得る。また、本実施形態では、工程S4のヨウ素処理の後に工程S5の第2洗浄処理をさらに行う。そして、本実施形態では、工程S3の第1洗浄処理、および工程S6の乾燥処理も行う。なお、工程S1の陽極酸化処理の前に、工程S0の脱脂処理を行ってもよい。以下、工程S0~S6の順に本実施形態を詳細に説明する。
[0030]
 (工程S0;脱脂処理)
 脱脂処理は、基材2の表面の汚れなどの不純物を取り除く処理である。例えば、超音波洗浄や浸漬洗浄などを用いることができ、また、洗浄液には、水酸化ナトリウムおよび界面活性剤を含む水溶液などが挙げられる。さらに付着した洗浄液を流すため、純水にて流水洗浄を行う。
[0031]
 (工程S1:陽極酸化処理)
 陽極酸化処理は、基材2を電解液に浸漬し、基材2を陽極として電解する処理である。この処理により、基材2上にヨウ素リッチ層31を有していない陽極酸化皮膜を形成することができる。
[0032]
 電解液としては、例えば、硫酸-水混合浴、硫酸-リン酸-水混合浴、硫酸-リン酸-過酸化水素-水混合浴、硫酸-リン酸-アスコルビン酸-水混合浴などの硫酸を含有する酸性電解液が挙げられる。例示した各混合浴において、硫酸などの各構成成分の濃度は、適宜設定することができる。例えば、硫酸-リン酸-過酸化水素-水混合浴では、硫酸の濃度を30~40g/l、リン酸の濃度を20~30g/l、過酸化水素の濃度を5~15g/lなどにすることができる。
[0033]
 なお、上述した酸性電解液に代えて、アルカリ性電解液などを使用することもできる。アルカリ性電解液としては、水酸化カリウム-フッ化カリウム-リン酸ナトリウム-水酸化アルミニウム-水混合浴などが挙げられる。この混合浴において、各構成成分の濃度は、例えば、水酸化カリウムの濃度を165g/l、フッ化カリウムの濃度を35g/l、リン酸ナトリウムの濃度を35g/l、水酸化アルミニウムの濃度を35g/lなどにすることができる。
[0034]
 基材がチタン、チタン合金、またはステンレス鋼の場合には、酸性電解液を、コバルト-クロム合金の場合には、アルカリ性電解液を使用することが好ましい。
[0035]
 電解液の温度としては、23~40℃の範囲であるのが好ましく、23~35℃の範囲であるのがより好ましい。後述のとおり、主電解においては火花放電が生じ、ジュール熱により発熱が起こる。過度な発熱は酸化皮膜の脱落原因となるため、反応中は電解液を冷却する、電圧を急激にあげないようにする等して電解液の温度を上記範囲に保つことが好ましい。
[0036]
 電解に用いる電流は、脈流直流とする。脈流直流の周波数は、50Hz以上であるのが好ましい。直流を付加して陽極酸化処理を行った場合に比べて抗菌性の向上が著しいためである。また、周波数の下限値としては、50Hz以上、200Hz以上、800Hz以上、1000Hz以上の順により好ましく、上限値としては、10,000Hz以下、5000Hz以下の順により好ましい。抗菌性が顕著に向上するためである。
[0037]
 電解は、予備電解と主電解を有することが好ましい。予備電解における条件としては、火花放電(プラズマ放電)が発生しない最大電圧以下の電圧を用いる。予備電解においては、0Vrmsから所定電圧まで徐々に電圧を上げていくことが好ましく、予備電解に用いる電圧をかける時間としては、所定電圧としてから10秒~2分であるのが好ましく、20秒~1分であるのがより好ましく、30秒~1分であるのがさらに好ましい。
[0038]
 主電解に用いる電圧としては、100~210Vrmsであるのが好ましく、140~210Vrmsであるのがより好ましく、170~210Vrmsであるのがさらに好ましい。これにより火花放電を生じさせることができる。電圧が低すぎると、火花放電(プラズマ放電)を生じず、微細孔33および微細凹凸34が形成されない場合があり、電圧が高すぎると、皮膜の脱落を起こす場合がある。
[0039]
 また、主電解に用いる電圧をかける時間としては、3~10分であるのが好ましく、5~10分であるのがより好ましく、6~10分であるのがさらに好ましい。この時間が短すぎると、皮膜の厚さが不十分であり、長すぎると、皮膜の脱落を起こす。
[0040]
 例えば、チタンまたはチタン合金を基材として用いる場合を挙げると、予備電解における条件としては、脈流直流電圧を用い、0~120Vrmsの電圧で、所定の電圧まで上昇した後10秒~2分間電解処理を行うこと、また主電解における条件としては、脈流直流電圧を用い、120~210Vrmsの電圧で3~10分間電解処理を行うことが挙げられる。
[0041]
 (工程S2:酸処理)
 酸処理は、基材2およびヨウ素リッチ層31を有していない陽極酸化皮膜を酸に浸漬する処理である。この処理を経ることにより、基材表面に形成された微細孔33の底部にある基材に接触しているバリア層の一部にダメージを与え、後述するヨウ素処理における電解が十分に生じるようにすることによってヨウ素リッチ層31を形成することができ、ヨウ素含有量も増加することができる。
[0042]
 この理由としては、次のような理由が推察される。例えば、上述した陽極酸化処理において、電解液として硫酸-リン酸-過酸化水素-水混合浴を使用し、基材2の金属材料としてASTM F136からなるチタン合金を使用した場合、陽極酸化皮膜のうち基材2との界面Sおよびその近傍に硫黄リッチ層が形成される。硫黄リッチ層は、少なくとも硫黄を含有する無機化合物からなる層であり、陽極酸化皮膜のうち硫黄含有量が最も多い層状の部位である。上述した電解液および金属材料の組み合わせでは、硫黄リッチ層は、硫黄および基材2由来の元素であるチタンを含有し、酸素をさらに含有する無機化合物からなる。このような硫黄リッチ層を有する陽極酸化皮膜を基材2とともに酸処理すると、硫黄リッチ層または硫黄リッチ層の一部が酸によって溶解する。そして、硫黄リッチ層の溶解した部位に後述するヨウ素処理によってヨウ素リッチ層が形成され、その結果、基材2との界面S側にヨウ素リッチ層31が形成されるものと推察される。なお、上述した電解液および金属材料の組み合わせでは、陽極酸化皮膜のうち硫黄リッチ層以外の部位は、チタン、アルミニウム、酸素およびリンを含有する無機化合物からなる。
[0043]
 酸処理における酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸及びシュウ酸などが挙げられる。例示した酸は、1種または2種以上を混合して使用することができる。例示した酸のうち硫酸が好ましい。言い換えれば、酸処理は硫酸処理であるのが好ましい。これらの酸は過酸化水素と共に用いることが好ましい。例えば、純チタンやチタンニオブ合金等は、硫酸のみでは酸処理が十分に進行しない場合があるが、硫酸と過酸化水素を併用することによって、酸処理を十分に完了することができる。
[0044]
 酸は、水溶液の状態で使用するのが好ましい。水溶液における酸の濃度としては、5~20質量%であるのが好ましく、5~15質量%であるのがより好ましい。
[0045]
 酸水溶液の温度としては、40~70℃であるのが好ましく、50~70℃であるのがより好ましい。液温があまり低いと、ヨウ素リッチ層31が形成され難くなる傾向がある。また、液温があまり高いと、陽極酸化皮膜3の基材2に対する密着強度が低下するおそれがある。
[0046]
 浸漬時間としては、1~10分であるのが好ましく、1~5分であるのがより好ましい。浸漬時間があまり短いと、ヨウ素リッチ層31が形成され難くなる傾向がある。また、浸漬時間があまり長いと、陽極酸化皮膜3の基材2に対する密着強度が低下するおそれがある。
[0047]
 基材の金属材料の種類によって、酸処理の条件を適宜変更することが好ましい。例えば、純チタンであれば、酸水溶液の組成を硫酸10質量%及び過酸化水素10質量%、浸漬時間を7分間とし、Ti-6Al-4V ELI合金(ASTM F136)であれば、酸水溶液の組成を硫酸10質量%、浸漬時間を3分間とし、さらに、Ti-6Al-7Nb(ASTM F1295)であれば酸水溶液の組成を硫酸10質量%及び過酸化水素10質量%、浸漬時間を10分間とすることが挙げられる。
[0048]
 (工程S3:第1洗浄処理)
 第1洗浄処理は、上述した酸処理の後、基材2およびヨウ素リッチ層31を有していない陽極酸化皮膜に付着している酸を洗い流す処理である。洗浄液としては、例えば、純水などが挙げられるが、これに限定されるものではない。洗浄液の液温としては、20~30℃であるのが好ましい。洗浄方法としては、例えば、すすぎ洗浄、浸漬洗浄などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
[0049]
 (工程S4:ヨウ素処理)
 ヨウ素処理は、基材2およびヨウ素リッチ層31を有していない陽極酸化皮膜をヨウ素またはヨウ素化合物を含む電解液に浸漬し、基材2を陽極として電解する処理である。この処理により、基材2との界面S側にヨウ素リッチ層31を形成することができ、生体インプラント1を得ることができる。上述した陽極酸化処理において、電解液として硫酸-リン酸-過酸化水素-水混合浴を使用し、基材2の金属材料としてASTM F136からなるチタン合金を使用した場合、ヨウ素リッチ層31は、ヨウ素および基材2由来の元素であるチタンを含有し、酸素をさらに含有する無機化合物及びヨウ素処理におけるヨウ素化合物に起因する、ヨウ素の有機化合物を備える。なお、上述した電解液および金属材料の組み合わせでは、陽極酸化皮膜3のうちヨウ素リッチ層31以外の部位32は、チタン、アルミニウム、酸素およびリンを含有する無機化合物からなる。
[0050]
 ヨウ素処理におけるヨウ素化合物としては、例えば、ヨウ素の無機化合物、ヨウ素の有機化合物などが挙げられる。ヨウ素の無機化合物としては、例えば、ヨウ化銀、ヨウ化カリウム、ヨウ化ニッケル、ヨウ化鉄、ヨウ化錫などが挙げられる。ヨウ素の有機化合物としては、例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピル、ヨウ化ブチル、ヨウ化イソプロピルなどの鎖状飽和炭化水素およびその誘導体;ヨウ化ビニル、ヨウ化アニル、ヨウ化クロチル、ヨウ化プロパルギル、ヨウ化フェニルアセチレンなどの鎖状不飽和炭化水素およびその誘導体;ヨウ化ベンゼン、ヨウ化ベンジル、ヨウ化ベンゾイル、ヨウ化フェナシル、ヨウ化キシリレン、ヨウ化フタレイン、ヨウ化ヒドロキノン、シクロデキストリン-ヨウ素包摂体などの芳香族炭化水素およびその誘導体;ヨウ化トリメチルスルホニウム、ヨウ化トリフェニルスルホニウムなどの複素化合物;ポリビニルピロリドンヨウ素(以下、「PVPI」と言うことがある。)、ポリビニルフタルイミドヨウ素などの複素化合物ポリマーなどが挙げられる。例示したヨウ素化合物は、1種または2種以上を混合して使用することができる。
[0051]
 また、例示したヨウ素化合物のうちPVPIが、人体への安全性、環境保全、生体親和性の観点から好ましい。
[0052]
 ヨウ素およびヨウ素化合物は、水溶液の状態で使用するのが好ましい。水溶液におけるヨウ素またはヨウ素化合物の濃度としては、0.1~10.0質量%であるのが好ましく、0.4~6.0質量%であるのがより好ましい。
[0053]
 ヨウ素及び/またはヨウ素化合物の水溶液液の温度としては、20~40℃であるのが好ましく、23~40℃であるのがより好ましく、23~35℃であるのがさらに好ましい。
[0054]
 電解に用いる電流は、直流とする。定電流密度とすることが好ましく、電流密度を0.05~10A/dm の範囲とすることがより好ましい。
[0055]
 電解に用いる電圧としては、100~250Vrmsであるのが好ましく、100~200Vrmsであるのがより好ましい。電解時間としては、1~20分であるのが好ましく、3~18分であるのがより好ましい。
[0056]
 電解は、2段階で行うことが好ましい。1段階目の電解は、2段階目の電解の電圧以下の定電圧で行うのが好ましい。1段階目の電解の電圧としては、0~150Vrmsであることが好ましい。また、2段階目の電解の電圧としては、100~250Vrmsであるのが好ましく、150~250Vrmsであるのがより好ましく、180~210Vrmであるのがさらに好ましい。例えば、チタンまたはチタン合金を基材として用いる場合を挙げると、1段階目の電解では、0Vrmsから例えば120~150Vrms程度の電圧で一定時間電解を行った後、さらに、2段階目の電解として150Vrmsから250Vrms程度の電圧でさらに電解を行うことが挙げられる。
[0057]
 1段階目の電解および2段階目の電解を合わせた電解時間としては、1~20分であるのが好ましく、3~18分であるのがより好ましいが、特に、2段階目の電解における電解時間を長くすることによりヨウ素含有量を増加させることができる。
[0058]
 例示したヨウ素処理条件を調整すると、上述したヨウ素含有量を所望の値に制御することができる。また、基材の金属材料の種類によって、酸処理の条件を適宜変更することが好ましい。例えば、純チタンであれば、1段階目の電解は電圧を0~150Vrmsで8分間行い、2段階目の電解は電圧を210Vrmsで7分間行い、Ti-6Al-4V ELI合金(ASTM F136)であれば、1段階目の電解は電圧を0~150Vrmsで6分間行い、2段階目の電解は電圧を180Vrmsで7分間行い、さらに、Ti-6Al-7Nb(ASTM F1295)であれば1段階目の電解は電圧を0~150Vrmsで6分間行い、2段階目の電解は電圧を210Vrmsで7分間行うことなどが挙げられる。
[0059]
 (工程S5:第2洗浄処理)
 第2洗浄処理は、生体インプラント1に付着している余剰のヨウ素またはヨウ素化合物を洗い流す処理である。この処理により、生体インプラント1を包装する包装材にヨウ素またはヨウ素化合物が付着して包装材が変色、劣化するのを抑制することができ、生体インプラント1を安定して保管することができる。また、生体インプラント1は、陽極酸化皮膜3がヨウ素リッチ層31を有することから、第2洗浄処理後においても十分なヨウ素含有量を確保することができ、結果として優れた抗菌性を長期にわたって安定して発揮することができる。
[0060]
 洗浄液としては、例えば、純水などが挙げられるが、これに限定されるものではない。洗浄液の温度としては、40~60℃であるのが好ましい。これにより、生体インプラント1に付着した余剰のヨウ素またはヨウ素化合物を十分に洗い流すことができる。洗浄方法は、浸漬洗浄であるのが好ましい。浸漬時間としては、1~10分であるのが好ましく、3~7分であるのがより好ましい。なお、洗浄液に純水を使用し、液温を例示した温度にする場合には、第2洗浄処理はいわゆる温水洗浄になる。
[0061]
 (工程S6:乾燥処理)
 乾燥処理は、第2洗浄処理後の生体インプラント1を乾燥する処理である。乾燥温度としては、20~70℃であるのが好ましい。乾燥時間としては、1~15分であるのが好ましい。なお、生体インプラント1を乾燥できる限り、例示した乾燥条件に限定されるものではない。
実施例
[0062]
 以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、陽極酸化処理、酸処理およびヨウ素処理は、以下のようにして行った。
[0063]
(陽極酸化処理)
 硫酸(35g/l)-リン酸(25g/l)-過酸化水素(5g/l)-水混合浴の酸性電解液(液温:30℃)中で、予備電解(火花放電が発生しない最大電圧)および主電解の2段階の電解を行った。予備電解として、脈流直流電圧を用い、0~120Vrmsの電圧で2分間処理した後(具体的には、0~120Vrmsで90秒間、その後さらに120Vrmsで30秒間)、続いて、主電解として、150Vrmsまたは175Vrmsの定電圧で5分間または8分間電解した。
[0064]
(酸処理)
 10質量%の硫酸水溶液(液温:55℃)中に3分間浸漬した。
[0065]
(ヨウ素処理)
 0.5質量%、3.5質量%または5.0質量%のPVPI水溶液(液温:25℃)中で、電解を行った。初期電流密度1~2A/dm で、120Vrmsまたは150Vrmsの定電圧で5分間または15分間電解処理した。
[0066]
[実施例1~4]
<生体インプラントの作製>
 機械加工したTi-6Al-4V ELI材からなるチタン合金(大きさ:5cm×5cm、厚み:約1mm)を基材とし、この基材を試験片として、脱脂処理、陽極酸化処理、酸処理、第1洗浄処理、ヨウ素処理、第2洗浄処理および乾燥処理の順に各処理を行った。具体的には、まず、試験片に対して脱脂処理として、洗浄液に10%ダイクレンEW(マクダーミッド社製)を用いて、45℃で超音波アルカリ処理を行った後、純水にて流水洗浄を行った。次に、表1に示す条件で(表1の陽極酸化の電圧及び時間は主電解のもの)陽極酸化処理を行った後に酸処理を行った。さらに、第1洗浄処理として試験片を純水(液温:23℃(室温))中で十分にすすぎ洗浄した後、表1に示す条件でヨウ素処理を行った。そして、試験片に付着した余剰のヨウ素化合物を洗い流すために第2洗浄処理を行い、さらに乾燥処理を行って、基材上に陽極酸化皮膜が積層されている生体インプラントを得た。なお、第2洗浄処理は、試験片を純水(液温:45℃)中に5分間浸漬する温水洗浄とした。乾燥処理は、乾燥温度を60~70℃、乾燥時間を10分にした。
[0067]
<評価>
 得られた生体インプラントについて、ヨウ素含有量および陽極酸化皮膜の基材に対する密着強度を評価した。各評価方法を以下に示すとともに、その結果を表1に示す。
[0068]
(ヨウ素含有量)
 温水洗浄後に残存しているヨウ素量を、エネルギー分散型X線分析装置である島津製作所社製のEDX-GP型を使用して測定した。分析条件は、以下のとおりである。
 加速電圧:50keV
 測定時間:100秒
 その他:KI標準試料を使用して感度係数を設定した後にヨウ素含有量を評価した。
[0069]
(密着強度)
 ASTM F1147に準拠して陽極酸化皮膜の基材に対する密着強度を測定した。その結果を、表1中の「密着強度」の欄に示す。なお、具体的な測定条件は、以下のとおりである。
 装置:インストロン社製の55R1123型
 クロスヘッドスピード:2.5mm/分
 接着剤:サイテックエンジニアドマテリアルズ(Cytec Engineered Materials)社製のポリアミド-エポキシ樹脂系接着剤シートであるFM1000
[0070]
[比較例1および比較例2]
 試験片に酸処理を行わなかった以外は上述した実施例1~4と同様にして生体インプラントを得た。具体的には、まず、機械加工したTi-6Al-4V ELI材からなるチタン合金を基材とし、この基材からなる試験片に対して、脱脂処理及び表1に示す条件で陽極酸化処理を行った。次に、試験片に上述した実施例1~4と同様にして第1洗浄処理を行った後、表1に示す条件でヨウ素処理を行った。そして、試験片に上述した実施例1~4と同様にして順に第2洗浄処理および乾燥処理を行い、基材上に陽極酸化皮膜が積層されている生体インプラントを得た。得られた生体インプラントについて、上述した実施例1~4と同様にしてヨウ素含有量および陽極酸化皮膜の密着強度を評価した。
[0071]
[表1]


[0072]
 表1から明らかなように、実施例1~4はいずれも、比較例1、2よりもヨウ素含有量が多いことがわかる。また、ヨウ素処理の条件を変更すると、ヨウ素含有量が変化していることがわかる。さらに、ヨウ素含有量が増加するにつれて密着強度が低下していることがわかる。ヨウ素含有量を4~16μg/cm にすると、医療用部品において求められる皮膜の基材に対する密着強度22MPa以上を達成できることがわかる。
[0073]
 次に、上述した実施例2および比較例1のそれぞれの生体インプラントについて、CP加工を行った後、FE-SEMを使用して断面を観察し、EDSによる元素マッピングを実施した。各条件を以下に示すとともに、実施例2の断面観察結果として、電界放射型走査電子顕微鏡写真および元素マッピングをそれぞれ図3(a)および(b)に、比較例1の断面観察結果として、電界放射型走査電子顕微鏡写真および元素マッピングをそれぞれ図4(a)および(b)に示す。
[0074]
(CP加工条件)
 装置:日本電子社製のSM-09010型
 加速電圧:6.0kV
 加工時間:3.0時間
 加工範囲:表面から25μm
[0075]
(FE-SEM観察条件)
 装置:JEOL社製のJSM-7600F型
 加速電圧:5.0kV
 検出器:COMPO像
 観察倍率:10,000倍
[0076]
(EDS分析条件)
 装置:Oxford社製のX-act型
 加速電圧:10kV
 マッピング対象元素:炭素、チタン、酸素、バナジウム、アルミニウム、リンおよびヨウ素
[0077]
 図3(a)および(b)から明らかなように、実施例2の生体インプラントでは、陽極酸化処理によって形成された微細孔33および微細凹凸34中にヨウ素が存在していなかった。これは、CP加工を行った結果、微細孔33または微細凹凸34に含まれるヨウ素またはヨウ素化合物が飛び、観測できなかったものによると推察される。
[0078]
 また、実施例2の生体インプラントは、陽極酸化皮膜3が基材2との界面S側に位置しているヨウ素リッチ層31を有していた。陽極酸化皮膜3のうちヨウ素リッチ層31以外の部位32と、ヨウ素リッチ層31の構成元素をEDSによってそれぞれ測定した。その結果、部位32は、チタン、アルミニウム、酸素およびリンから構成されていた。言い換えれば、部位32は、ヨウ素を含有しておらず、チタン、アルミニウム、酸素およびリンを含有する無機化合物で構成されていた。また、ヨウ素リッチ層31は、ヨウ素、チタンおよび酸素から構成されていた。言い換えれば、ヨウ素リッチ層31は、ヨウ素、チタンおよび酸素を含有する無機化合物で構成されていた。これは、CP加工を行った結果、ヨウ素リッチ層31に含まれる有機化合物としてのヨウ素またはヨウ素化合物が飛び、観測できなかったものによると推察される。なお、ヨウ素リッチ層31は、ヨウ素、チタンおよび酸素を含有する無機化合物を構成する元素のうち、チタンおよびアルミニウムは、基材のTi-6Al-4V由来の成分であり、リン、酸素およびヨウ素のそれぞれは、陽極酸化処理およびヨウ素処理の浴由来の成分であると考えられる。
[0079]
 なお、実施例1、3、4の生体インプラントについても実施例2と同様にしてCP加工を行った後にFE-SEMを使用して断面を観察し、EDSによる元素マッピングを実施した。その結果、実施例1、3、4の生体インプラントも、実施例2の生体インプラントと同様に陽極酸化皮膜3が基材2との界面S側に位置しているヨウ素リッチ層31を有していることが確認できた。実施例1~4のヨウ素リッチ層31はいずれも、陽極酸化皮膜3におけるヨウ素リッチ層31以外の部位32と基材2との間に位置しており、基材2に接触していた。
[0080]
 実施例1~4の生体インプラントについて、陽極酸化皮膜3およびヨウ素リッチ層31のそれぞれの厚さを測定した。測定は、FE-SEMによる断面観察において、測定箇所を10箇所とし、その平均値を算出することによって行った。その結果を表2に示す。
[0081]
 一方、図4(a)および(b)から明らかなように、比較例1の生体インプラントでは、陽極酸化皮膜100中にヨウ素リッチ層31が存在していなかった。
[0082]
 なお、比較例2の生体インプラントについても比較例1と同様にしてCP加工を行った後にFE-SEMを使用して断面を観察し、EDSによる元素マッピングを実施した。その結果、比較例2の生体インプラントも、比較例1の生体インプラントと同様に陽極酸化皮膜100中にヨウ素リッチ層が存在していなかった。
[0083]
 比較例1、2の生体インプラントについて、陽極酸化皮膜100の厚さを上述した実施例1~4と同様にして測定した。その結果を表2に示す。
[0084]
[表2]


[0085]
 次に、上述した実施例2の生体インプラントについて、JIS Z 2801に準拠したフィルム密着法による抗菌試験を行った。具体的には、試験片の形状を縦50mm×横50mm×厚さ3mmとし、菌液として黄色ブドウ球菌を使用した。また、ポリエチレンフィルムをブランク、表面処理していないTi-6Al-4V ELI材をSiC研磨紙#120を使用して研磨した研磨面を比較例3として、実施例2の生体インプラントと同様に抗菌試験を行った。24時間後の菌数および抗菌活性値を表3に示す。なお、表3中の抗菌活性値は、24時間後のブランクの菌数に対する対数である。抗菌活性値が2以上の場合には、抗菌性を有すると判断することができる。
[0086]
[表3]


[0087]
 表3から明らかなように、実施例2は、抗菌活性値が5.5であり、抗菌性に優れていることがわかる。
[0088]
 次に、上述した実施例2の生体インプラントについて、ヨウ素の経時溶出試験を行った。具体的には、試験片の形状を縦50mm×横50mm×厚さ3mmとし、この試験片を200mlの生理食塩水(液温:23℃)中に浸漬し、所定期間(時間)浸漬後の溶出液中に含まれるヨウ素量をICP質量分析法によって定量した。その結果を図5に示す。
[0089]
 図5から明らかなように、実施例2の生体インプラントは、長期にわたって抗菌成分であるヨウ素を溶出できているのがわかる。この結果より、実施例2の生体インプラントは、ヨウ素徐放性に優れ、長期にわたり安定して抗菌性を発揮できることがわかる。

符号の説明

[0090]
1 抗菌性生体インプラント
2 基材
3 陽極酸化皮膜
31 ヨウ素リッチ層
32 ヨウ素リッチ層以外の部位
33 微細孔
34 微細凹凸
100 陽極酸化皮膜
S 界面

請求の範囲

[請求項1]
 金属材料からなる基材に対して順に、陽極酸化処理、酸処理およびヨウ素処理を行うことによって、
前記基材および前記基材上に積層されている陽極酸化皮膜を備えるとともに前記陽極酸化皮膜が前記基材との界面側に位置しているヨウ素リッチ層を有する抗菌性生体インプラントを得る、抗菌性生体インプラントの製造方法。
[請求項2]
 前記酸処理が、硫酸処理である、請求項1に記載の抗菌性生体インプラントの製造方法。
[請求項3]
 前記酸処理が、前記基材を酸に浸漬する処理であり、前記酸が硫酸及び過酸化水素を含む、請求項1に記載の抗菌性生体インプラントの製造方法。
[請求項4]
 前記金属材料が、チタンまたはチタン合金である、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗菌性生体インプラントの製造方法。
[請求項5]
 前記ヨウ素処理の後に洗浄処理をさらに行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗菌性生体インプラントの製造方法。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]