明 細 書
発明の名称 : コラーゲンペプチド及びセラミドを含有する組成物とその製造方法
[0001]
本願は、先行する日本国特許出願である特願2015-166707号(出願日:2015年8月26日)に基づくものであって、その優先権の利益を主張するものであり、その開示内容全体は参照することによりここに組み込まれる。
技術分野
[0002]
本発明は、造粒する工程中に発生する褐変化が抑制された、コラーゲンペプチド及びセラミドを含有する組成物とその製造方法に関する。
背景技術
[0003]
コラーゲンペプチドやセラミドは、皮膚に対する美容効果が期待される飲食品用の成分としてよく知られている(国際公開第2008/059927号パンフレット(特許文献1)、国際公開第2010/125910号パンフレット(特許文献2)および特開2008-184428号公報(特許文献3))。食品に使用されるコラーゲンペプチドは、豚皮や魚の鱗等の原料から得られるものである。また、食品に使用されるセラミド素材は、米・小麦・こんにゃく芋等の植物由来の原料や、卵黄や乳等の動物由来の原料から得られるものである。
[0004]
原料の由来や製造方法が異なれば、得られる素材に含まれる成分構成は異なるものとなる。例えば、植物由来のセラミドの主要な成分はグルコースが結合したグリコシルセラミドであるが、動物由来のセラミドにはスフィンゴミエリンやスフィンゴ糖脂質が多く含まれている。また、たとえ同じ牛乳から調製されたセラミド原料であっても、異なる精製工程を経て得られた場合は、含まれているタンパク質、脂質、ミネラル等の組成はそれぞれ異なるものとなる。
[0005]
近年、皮膚に対する美容効果が期待される飲食品を手軽に摂取するニーズが高まっているため、市場には多くの商品がみられる。商品の形態は多様であり、例えば、粉末、タブレット、カプセル、ドリンク、ゼリー飲料、グミ等が挙げられる。
[0006]
コラーゲンペプチドを含有する粉末飲料において、溶けやすい性質が求められている。コラーゲンペプチドの原料粉末は水への沈降性が悪いことから、コラーゲンペプチドを含む顆粒と水への沈降性がよい顆粒とを、あらかじめ別々に造粒した後、混合しながら乳化剤を添加して、乳化剤でコーティングされた混合顆粒とすることによって、即溶性顆粒を製造する方法が知られている(国際公開第2006/117958号パンフレット(特許文献4))。
先行技術文献
特許文献
[0007]
特許文献1 : 国際公開第2008/059927号パンフレット
特許文献2 : 国際公開第2010/125910号パンフレット
特許文献3 : 特開2008-184428号公報
特許文献4 : 国際公開第2006/117958号パンフレット
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0008]
本発明者らは、コラーゲンペプチドとセラミドを必須成分として含有し、さらにビタミンC、香料等を含有する粉末状又は顆粒状の組成物の製造を試みた。前記セラミドとして、スフィンゴミエリンの含有率が高い原料を探索した結果、固形分中の脂質含量が70重量%を超える動物原料由来のリン脂質素材(牛乳由来のリン脂質、脂質含量85重量%)をセラミド原料として選択した。
[0009]
脂質含量が非常に高いセラミド原料を粉末状又は顆粒状の組成物に直接混合すると、セラミド原料がべたつきをもっているため偏析が起こる。そのため、前記組成物を粉末飲料として好適に用いることができない。そこで、前記セラミド原料を温水に溶解させた溶液を調製して、コラーゲンペプチドに対して噴霧して造粒した。その結果、セラミドとコラーゲンペプチドが均一に分散されて含まれる顆粒状の組成物を得ることができた。しかしながら、前記組成物は、造粒する工程において褐変化した上に好ましくない臭気が発生した。さらに、前記組成物を30℃後半以上の高温度帯で保存すると、褐変化は進行し、臭気の強いものとなった。
[0010]
そこで、本発明では、コラーゲンペプチド及びセラミドを含有する組成物において、コラーゲンペプチドとセラミドが均一に分散されている組成物であって、造粒工程中及び夏季等の高温度帯で保存中に発生し、進行する、褐変化、及び好ましくない臭気が抑制された、組成物とその製造方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0011]
本発明者らは、褐変化の原因となる成分の組合せに着目して検討した。コラーゲンペプチドに対して、コラーゲンペプチド以外の原料の混合液を噴き付けて流動層造粒した結果、コラーゲンペプチドとセラミド原料を組合せた試験区において特に好ましくない臭気が発生することを突き止めた。さらに本発明者らが検討を重ねたところ、造粒する前のセラミド原料のみを包材に充填した後、高温度帯で保存しただけでも褐変化と特有の臭気が発生することを突き止めた。
[0012]
そこで、本発明者らは、セラミド原料を安定化する手段についてさらに検討した。その結果、セラミド原料をシクロデキストリンで包接させた複合体は、非常に保存安定性が高いことを見出した。さらに、前記複合体溶液をコラーゲンペプチドに噴き付けて造粒することによって、組成物中にコラーゲンペプチドとセラミドが均一に分散されるだけでなく、製造時点及び高温度帯での保存中における、褐変化と、好ましくない臭気の発生とがいずれも著しく抑制されることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づくものある。
[0013]
本発明は、以下に記載の事項をその特徴とする。
[0014]
(1) コラーゲンペプチド又はコラーゲンペプチド含有顆粒に対して、シクロデキストリンに包接されたセラミド原料が付着してなることを特徴とする、コラーゲン及びセラミドを含有する組成物。
(2) セラミド原料が、固形分中の脂質含量が70重量%以上である、前記(1)の組成物。
(3) セラミド原料が、牛乳由来のリン脂質を含有する、前記(1)又は(2)の組成物。
(4) シクロデキストリンがγ-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、又はα-シクロデキストリンである、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の組成物。
(5) シクロデキストリンがγ-シクロデキストリンである、前記(1)~(4)のいずれかの組成物。
(6) セラミド原料とシクロデキストリンとの重量比率が1:0.5~1:5である、前記(1)~(5)のいずれかの組成物。
(7) セラミド原料及びシクロデキストリンを含有する混合液を得る工程、次いで前記混合液をコラーゲンペプチド又はコラーゲンペプチド含有顆粒に噴き付けて造粒する工程を特徴とする、コラーゲン及びセラミドを含有する組成物を製造する方法。
発明の効果
[0015]
本発明によれば、組成物中にコラーゲンペプチド及びセラミドが均一に分散されている上に、造粒工程中に発生する組成物の褐変化及び好ましくない臭気の発生が抑制された、コラーゲンペプチド及びセラミドを含有する組成物とその製造方法を提供することができる。さらに、本発明の組成物によれば、夏季等の高温度帯で保存中に発生する褐変化及び好ましくない臭気の発生も抑制できる。本発明においては、前記セラミドが固形分中70重量%以上の高い脂質含量を有する場合でも、前記した良好な特性を有する組成物を得ることができる。
図面の簡単な説明
[0016]
[図1] 図1は、試験例4に関する、セラミド原料とシクロデキストリンの重量比率が異なる試料の示差走査熱量測定(DSC)チャートを示す。図中、横軸は温度(Temperature)(℃)を表し、縦軸はDSC(示差走査熱量)(μW)を表す。
[図2] 図2は、試験例5に関する、セラミド原料とシクロデキストリンの重量比率が異なる試料のNMRスペクトルを示す。図中、横軸は化学シフト(ppm)を表し、縦軸は相対強度を示す。
[図3] 図3は、試験例5に関する、セラミド原料とシクロデキストリンの重量比率が異なる試料のNMRスペクトルを示す。
発明を実施するための形態
[0017]
本発明において「コラーゲンペプチド及びセラミドを含有する組成物」とは、少なくとも後述する「セラミド原料」、「シクロデキストリン」、及び「コラーゲンペプチド」を含有するものである。
[0018]
[セラミド原料]
本発明において「セラミド」(ceramide)とは、スフィンゴ脂質の一種であり、スフィンゴシンと脂肪酸および糖が結合した構造を有し、かつ天然に由来するものをいう。例えば、牛乳、卵等より抽出した動物由来のもの、小麦、米、大豆、こんにゃく芋、トウモロコシ等より抽出した植物由来のもの、酵母等より抽出した微生物由来のもの等が挙げられる。これらのセラミドは、公知の抽出方法により得ることができる。さらに、前記した公知の抽出方法に加えて、乳化剤等をコーティングする加工工程を経て得ることもできる。本発明において「セラミド原料」とは、前記したセラミドを含有するものである。
[0019]
本発明におけるセラミド原料として、固形分中の脂質含量が70重量%以上であるものが好ましい。本発明によれば、セラミド原料の固形分中における前記脂質含量が80重量%以上、さらには85重量%以上の原料も用いることができる。
[0020]
本発明において、セラミド原料は「牛乳由来のリン脂質」を含有することが好ましい。前記牛乳由来のリン脂質とは、牛乳から抽出して製造されるものであって、主な成分としてフォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、及びスフィンゴミエリンを含有しているものをいう。本発明において、牛乳由来のリン脂質は、牛乳から抽出されたリン脂質を広く指すものであるが、市販品も用いることができる。
[0021]
本発明において、セラミド原料はスフィンゴミエリンを含有することが好ましい。特に、スフィンゴミエリンを15重量%以上含有するセラミド原料が好ましい。
[0022]
[シクロデキストリン]
本発明の組成物において好ましく用いられるシクロデキストリンとして、γ-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、α-シクロデキストリン等が挙げられる。より好ましくは、γ-シクロデキストリン又はα-シクロデキストリンであり、γ-シクロデキストリンが特に好ましい。シクロデキストリンは、糖鎖が環状になった立体的構造を有する化合物であり、外側が親水性、内側が親油性を示す。
[0023]
[混合液]
本発明の製造方法において、「混合液」とは、少なくとも前記したセラミド原料及びシクロデキストリンを水等の溶媒に溶解させたものをいう。混合液に用いる溶媒としては、水が好ましい。前記溶媒の温度は特に限定されないが、溶解を容易にするためには40℃以上であればよく、40~80℃とすることが好ましい。好ましい溶媒の量は、シクロデキストリンの種類によって異なる。γ-シクロデキストリンを用いる場合の溶媒量は、混合液中の成分(シクロデキストリン、セラミド原料及び任意で追加される成分)の固形分含量に対して1.5倍以上の重量であればよく、好ましくは2.5~5倍、より好ましくは3~4倍程度の重量である。α-シクロデキストリンを用いる場合の溶媒量は、混合液中の成分の固形分含量に対して5倍以上の重量であればよく、好ましくは6.5倍以上の重量である。β-シクロデキストリンを用いる場合の溶媒量は、混合液中の成分の固形分含量に対して10倍以上の重量であればよく、好ましくは20倍以上の重量である。
[0024]
作用の詳細は不明であるが、セラミド原料とシクロデキストリンとが混合液中で接触して乾燥されると、シクロデキストリンの内側にセラミド原料が包接されると推測される。このようにして包接体が形成されることにより、造粒工程中にセラミド原料が関与する褐変化反応が抑制されるものと推測される。なお、これらは理論に基づく推測であって、本発明を拘束するものではない。
[0025]
混合液中のセラミド原料とシクロデキストリンの重量比率は1:0.5~1:5であることが好ましく、より好ましくは1:1~1:2で、特に好ましくは1:1.5~1:2である。混合液中のシクロデキストリンの重量比率が高い方が、褐変化及び臭気の発生は抑制される傾向を示す。さらに、混合液中のシクロデキストリンの重量比率が高い方が、最終的に得られる組成物の流動性が高いものとなる。ただし、混合液中のシクロデキストリンの重量比率が高い場合、適切な粘度のバインダー液として噴霧するために必要な溶媒(水)の量は多くなる。混合液中の水の量が多い場合、造粒時の乾燥に必要な熱量が増加するため、製造コストが増大する。そのため、混合液中のシクロデキストリンの重量比率の上限は前記した範囲が好ましい。
[0026]
混合液には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を含有させることができる。例えば、結合剤(アラビアガム、プルラン、グアーガム、デンプン等)、コア(デキストリン、デンプン、結晶セルロース、糖質原料等)、抗酸化剤(カテキン類、ビタミン類、ローズマリー抽出物、ヤマモモ抽出物等の各種植物抽出物を含む)、乳化剤、光沢剤、香料等が挙げられる。
[0027]
[コラーゲンペプチド]
コラーゲンは、牛や豚等の家畜や魚を加工する際に副生する皮、骨、靭帯、腱、軟骨等から抽出して製造される。本発明において「コラーゲンペプチド」とは、前記のように抽出されたコラーゲン又はゼラチンを、酵素や化学的処理等により分解して得られたものである。コラーゲンペプチドの起源は適宜選択することができるが、魚由来が好ましい。
[0028]
コラーゲンペプチドに含まれるコラーゲンの分子量は適宜選択することができる。低分子化されたコラーゲン成分は反応性が高い可能性があるが、本発明の組成物において造粒工程中に褐変化することなく含有させることができる。例えば、コラーゲンペプチドとして、平均分子量が1800~5000であるコラーゲンペプチドを好適に用いることができる。
[0029]
[コラーゲンペプチド含有顆粒]
前記したコラーゲンペプチドを、別途調製した結合剤(好ましくはアラビアガム)を含有するバインダー液を噴き付けて造粒することによって、コラーゲンペプチド含有顆粒を得ることができる。前記バインダー液には、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を加えることができる。その他の成分として、例えば糖質原料、乳酸菌粉末、アミノ酸粉末、ビタミン類粉末、香料、乳化剤、結晶セルロース、着色料、甘味料、酸味料、滑沢剤等が挙げられる。造粒方法としては、流動層造粒、押出造粒、圧縮造粒、スプレードライ等が挙げられるが、特に流動層造粒が好ましい。コラーゲンペプチド含有顆粒は、前記した造粒工程の後、任意で乾燥工程や冷却工程を経て得られるものも含む。
[0030]
[組成物]
前記したコラーゲンペプチド又はコラーゲンペプチド含有顆粒に対して、セラミド原料及びシクロデキストリンを含有する混合液を噴き付けて造粒することによって、本発明の組成物が得られる。本発明の組成物は、シクロデキストリンに包接されたセラミド原料が、コラーゲンペプチド又はコラーゲンペプチド含有顆粒に対して付着してなる構成を特徴とする。
[0031]
すなわち、本発明による組成物は、コラーゲンペプチド又はコラーゲンペプチド含有顆粒上に、シクロデキストリンに包接されたセラミド原料が付着して、シクロデキストリンに包接されたセラミド原料による被覆層が形成された状態にあると言える。この場合、被覆層には、コラーゲンペプチド又はコラーゲンペプチド含有顆粒の全体または部分的に被覆する場合が包含される。よって、本発明による組成物は、コラーゲンペプチド又はコラーゲンペプチド含有顆粒上の全部または一部に、シクロデキストリンに包接されたセラミド原料による被覆層を有するものであると言うこともできる。
[0032]
すなわち、本発明の組成物は、前記したように、セラミド原料及びシクロデキストリンを含有する混合液を得る工程、次いで前記混合液をコラーゲンペプチド又はコラーゲンペプチド含有顆粒に噴き付けて造粒する工程を含む方法により製造することができる。
[0033]
本発明の組成物は、セラミド原料とシクロデキストリンを含有する混合液中にさらに結合剤(例えばアラビアガム)を配合して、コラーゲンペプチド又はコラーゲンペプチド含有顆粒に噴き付けて造粒して製造することができる。造粒方法としては、流動層造粒、押出造粒、圧縮造粒、スプレードライ等が挙げられるが、特に流動層造粒が好ましい。また、本発明の組成物には、前記した造粒工程の後、任意で乾燥工程や冷却工程を経て得られるものも含む。
[0034]
本発明の組成物において、前記したコラーゲンペプチド、セラミド原料、シクロデキストリンの重量比率について特に制限はない。本発明の組成物は、セラミドがコラーゲンペプチドに対して微量であっても、コラーゲンペプチドがセラミドに対して微量であっても、また、コラーゲンペプチドとセラミドがほぼ同量であっても、均一に分散されたものが得られる。
[0035]
本発明の組成物には、コラーゲンペプチド、セラミド原料及びシクロデキストリンに加えて、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を添加することができる。例えば、結合剤(アラビアガム等)、糖質原料、グルコサミン、N-アセチルグルコサミン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、コエンザイムQ10、乳清発酵物、植物エキス、乳酸菌粉末、アミノ酸粉末、ビタミン類粉末、甘味料、香料、乳化剤、滑沢剤、光沢剤等が挙げられる。前記した成分は、コラーゲンペプチド又はコラーゲンペプチド含有顆粒に対して、セラミド原料とシクロデキストリンを含有する混合液を噴き付けて造粒する工程の前、造粒工程中、造粒工程の後に適宜選択して添加することができる。
[0036]
本発明の組成物は、前記した顆粒の混合工程に加えて、打錠工程又は圧縮工程を経て得ることもできる。打錠工程及び圧縮工程は、公知の手段を採用することができる。本発明の「組成物」の性状は、混合顆粒、追加された粉末成分等を含有する混合顆粒、前記顆粒等を打錠して得られるタブレット、又は前記顆粒等を圧縮成形して得られる圧縮成形体等を有する。
[0037]
本発明の組成物は、造粒工程及び高温度帯での保存中における褐変化や臭気の発生が抑制されていることから、粉末飲料、タブレット等としてそのまま用いることができる。また本発明の組成物は、その他の形態の製品、例えば、グミ、ゼリー飲料、容器詰飲料等の原材料として用いることができる。前記その他の形態の製品を製造する場合において、本発明の組成物は流動性が良好で粉舞いしにくいことから、製造時における優れたハンドリング性を有している。
実施例
[0038]
本発明を以下の例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[0039]
比較例1:コラーゲンペプチドに直接セラミド原料を噴霧して造粒された組成物
[ベース粉末]
コラーゲンペプチド(新田ゼラチン製コラーゲンペプチド、分子量約3000): 150重量部
アスコルビン酸ナトリウム: 10重量部
トレハロース微粉: 100重量部
マルトデキストリン: 40重量部
[0040]
[バインダー液]
アラビアガム0.5重量部と、セラミド原料(乳由来リン脂質、脂質含量85重量%、フォンテラジャパン製)10重量部とを、撹拌されている水40重量部に加えて溶解させた。
[0041]
流動層造粒機に上記ベース粉末を入れて85℃で流動させながら、上記バインダー液を噴霧して造粒を行った。造粒して得られた顆粒を100℃で30分間乾燥させた後、マルトデキストリン80重量部を加えて混合しながら、香料2.5重量部及び乳化剤2.5重量部を噴霧することにより、比較例1の組成物を得た。
得られた組成物は顆粒状で、セラミドとコラーゲンペプチドが均一に分散されていた。
[0042]
比較例1の組成物は、流動層造粒装置で造粒している間に褐変化し、好ましくない臭気を発生した。さらに、得られた組成物をアルミパウチに封入して23℃、37℃、60℃でそれぞれ1週間保存したところ、いずれの保存温度帯においても褐変化は進行し、好ましくない臭気はさらに強くなった。
[0043]
試験例1:褐変化を発生する成分の組合せに関する検討
表1に記載した各試験区のサンプルを調製した。本試験例で使用した原料は、比較例1に使用した原料と同じものを用いた。試験区1-1は、未処理のコラーゲンペプチドとした。試験区1-2は、コラーゲンペプチド400重量部を100℃で30分間乾燥することによって調製した。試験区1-3~1-8は、流動層造粒機にベース粉末原料を入れて、85℃で流動させながらバインダー液を噴霧して造粒した後、100℃で30分間乾燥させることによって調製した。
[0044]
得られた各サンプルを製造した直後に香りと色調を評価した。さらに、各サンプル約1.2gを150mLの水に溶解させて得られた水溶液について、風味と色調を評価した。
結果を表1に示した。
[0045]
[表1]
[0046]
表1の結果から、コラーゲンペプチドとセラミド原料が水分の存在する環境下で結着した顆粒(試験区1-5、1-6)は好ましくない臭気と着色を有していた。また、試験区1-5、1-6のサンプルを溶解して調製された水溶液(飲料)は不快な風味と臭いを有していた。
[0047]
試験例2:分子量の異なるコラーゲンペプチドを配合した組成物
平均分子量約5,000、約3,000、約2,000、約1,800を有するコラーゲンペプチド(いずれも新田ゼラチン製)をそれぞれ原料として組成物を調製した。流動層造粒機にベース粉末(前記コラーゲンペプチド280重量部)を投入して流動させながら、バインダー液(水30重量部、比較例1と同じセラミド原料17重量部)を85℃で噴霧して造粒した後、100℃で30分間乾燥させた。得られた各組成物をアルミパウチ袋に封入して、23℃、40℃、60℃でそれぞれ1週間保存した。保存後の各組成物について香りと色差を評価した。
色差の評価結果を表2に示した。
[0048]
[表2]
[0049]
結果から、セラミド原料を水で溶解してコラーゲンペプチドに噴き付けて形成された顆粒は、40℃以上の高温度帯で保存されることにより、褐変化が進行する傾向がみられた。前記した褐変化の進行は、コラーゲンペプチドの平均分子量の違いに関わらず発生した。また、保存後のサンプルはすべて好ましくない臭気(釣り餌のような臭い)を有していた。
[0050]
試験例3:セラミド原料の保存試験
セラミド原料(乳由来リン脂質、脂質含量85重量%、フォンテラジャパン製)をアルミパウチ袋に封入して、40℃で1週間、60℃で4日間保存した。保存後の各セラミド原料は、褐変化して好ましくない臭気(釣り餌のような臭い)を有していた。
[0051]
実施例1
[ベース粉末]
マルトデキストリン: 300重量部
コラーゲンペプチド(新田ゼラチン製コラーゲンペプチド、分子量約3000): 370重量部
糖質原料(トレハロース微粉): 175重量部
[バインダー液]
アラビアガム2.0重量部を、撹拌されている水100重量部に加えて溶解させた。
[0052]
[混合液]
表3に示した成分を混合して、混合液を調製した。表中の成分の詳細を以下に示した。
セラミド原料: 乳由来リン脂質、脂質含量85重量%、フォンテラジャパン製
γ-シクロデキストリン: 商品名「CAVAMAX(R) W8 Food」、シクロケム社製
β-シクロデキストリン: 商品名「CAVAMAX(R) W7 Food」、シクロケム社製
α-シクロデキストリン: 商品名「CAVAMAX(R) W6 Food」、シクロケム社製
[0053]
[表3]
[0054]
流動層造粒機内でベース粉末を85℃で流動させながら、バインダー液を噴霧した。続けて、表3に示した実施例1-1~1-5の各混合液を噴霧して約100℃で約10分間乾燥させた後、冷却することで、それぞれ組成物1-1~1-5を得た。噴霧に要した時間は、実施例1-1~1-3が約20分間、実施例1-4が約180分間、実施例1-5が約70分間であった。
[0055]
得られた組成物1-1~1-3を各94.5重量部に対して、粉末状の追加成分(アスコルビン酸ナトリウム:2.4重量部)を混合した。続けて、前記混合物に対して香料1.0重量部及び乳化剤0.6重量部を噴霧することにより、組成物1-1a~1-3aを得た。
[0056]
また、組成物1-1~1-3を各67重量部に対して、以下の粉末状の追加成分を混合した。
マルトデキストリン:30重量部
アスコルビン酸ナトリウム:1.5重量部
続けて、前記混合物に対して香料0.8重量部及び乳化剤0.6重量部を噴霧することにより、組成物1-1b~1-3bを得た。
[0057]
上記した全ての組成物は、セラミドとコラーゲンペプチドが均一に分散されたものであった。また、いずれの組成物も、製造工程中において褐変化は発生せず、好ましくない臭気を生じることなく製造することができた。
[0058]
製造直後の各組成物を約3.0gはかりとり、150mLの水に溶解させて飲料を調製した。
α-シクロデキストリンを用いた組成物(1-5)はやや溶けにくい性状、β-シクロデキストリンを用いた組成物(1-4)は溶けにくい性状であった。一方、γ-シクロデキストリンを用いた組成物(1-1~1-3、1-1a~1-3a、1-1b~1-3b)については、いずれの組成物も良好な分散性と沈降性を有していた。調製された飲料は、いずれも白濁していて、かすかなミルク様の香りを有する良好な品質であった。
[0059]
さらに、組成物1-1a~1-3a、組成物1-1b~1-3bをそれぞれアルミパウチに封入して、60℃で4日間及、40℃又は23℃で2ヶ月間保存した。組成物1-4~1-5についても同様にして60℃で4日間、40℃又は23℃で2週間保存した。保存後の組成物は、いずれも褐変化せず好ましくない臭気の発生もなかった。
[0060]
試験例4:シクロデキストリンによるセラミド原料の包接作用に関する分析(1)DSC
セラミド原料とシクロデキストリンの重量比率を変化させることにより得られた試料の熱挙動を、示差走査熱量測定(DSC)により評価した。
[0061]
セラミド原料(乳由来リン脂質、脂質含量85重量%、フォンテラジャパン製)及びγ-シクロデキストリン(γ―CD;商品名:CAVAMAX(R) W8 Food、シクロケム社製)を用いて、下記表に示す重量比率(Weight ratio)をもつ測定用試料を下記の手順に従って調製した。
[0062]
[表4]
[0063]
試料(1)及び(10)については、原料をそのまま測定に供した。
試料(2)~(9)については、各原料を特定の重量比率となるように秤量し、対固形分4倍重量の約70℃温水に加えてスターラーにて10分間撹拌した後、得られた混合液を流動層造粒機で送風温度100℃にて噴霧乾燥させて各試料(Sample)を得た。
[0064]
DSCの測定機器にはセイコーインスツル株式会社製、EXSTAR6000を使用した。測定重量は5.0mg、測定雰囲気はAir、昇温レートは2℃/分とした。
[0065]
分析結果は図1に示した通りであった。
[0066]
図1に示したように、試料(1)セラミド原料単品にみられる150℃付近の吸熱ピークは、試料中のシクロデキストリンの重量比率が高くなるにつれて高温側にシフトしていき、約170℃付近(試料(6)1.03125:1~試料(7)1:1)で消失した。試料(8)及び(9)についても、前記吸熱ピークはみられなかった。
[0067]
これらの結果から、シクロデキストリン(γ-CD)によるセラミド原料(乳由来リン脂質、脂質含量85重量%)の包接作用は、セラミド原料とシクロデキストリンの重量比率が少なくとも2:1(1:0.5)~1:2の範囲において確認された。また、セラミド原料とシクロデキストリンの重量比率が約1:1付近において、試料に用いたすべてのセラミド原料がシクロデキストリンに包接されたと考えられた。さらに、セラミド原料とシクロデキストリンの重量比率が1.03125:1~1:2の範囲において、試料に用いたすべてのセラミド原料はシクロデキストリンに包接されていると考えられた。
[0068]
これらのことから、前記した包接作用によって、実施例1に示した本発明の組成物(組成物中のセラミド原料:シクロデキストリン=1:1~1:2)における褐変化抑制効果及び好ましくない臭気の発生を抑制する効果が発揮されていることが確認された。
[0069]
試験例5:シクロデキストリンによるセラミド原料の包接作用に関する分析(2)NMR
セラミド原料とシクロデキストリンの重量比率を変化させて調製した混合液及びその乾燥粉末を、核磁気共鳴分析により評価した。
[0070]
原料のセラミド原料(乳由来リン脂質、脂質含量85重量%、フォンテラジャパン製)とシクロデキストリン(γ―CD;商品名:CAVAMAX(R) W8 Food、シクロケム社製)を、それぞれ10:1、5:1、2:1、1:1、0.8:1、0.6:1、0.4:1、0.2:1、及び0:1(γ-CD単品)の重量比率で重水に混合し、70℃に加温、撹拌し、混合液を得た。その後、常温に戻し、それぞれを測定試料とした。
[0071]
また、原料のセラミド原料(上記と同じ)とシクロデキストリン(上記と同じ)を、それぞれ1:2、及び0:1(γ-CD単品)の重量比率で水に混合し、70℃に加温、撹拌して得た混合液を、凍結乾燥した後に粉砕することによって、乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末を、核磁気共鳴分析を実施するために、それぞれ重水に溶解させ、上記と同様に各測定試料とした。
[0072]
得られた測定試料を1H-NMR核磁気共鳴分析に供した。
分析にはブルカー・バイオスピン社製Avance500核磁気共鳴スペクトル測定装置(1H共鳴周波数500MHz)を装置として用い、25℃で測定した。
[0073]
混合液を測定試料とした場合の分析結果は、図2に示した通りであった。
[0074]
事前の検討から、乳由来リン脂質がγ-シクロデキストリンに包接されると、γ-シクロデキストリンの内側に存在するH3及びH5との間で相互作用が生じ、当該シグナルの化学シフトが変化することが予想された。前記した化学シフトの変化は、γ-シクロデキストリンに対する乳由来リン脂質の比率が高いほど大きいことが予想された。
[0075]
しかしながら、図2によると、乳由来リン脂質とγ-シクロデキストリンの比率が異なる試料におけるH3及びH5の化学シフトは、すべてほぼ同じであった。これは、測定した混合液においては、乳由来リン脂質がγ-シクロデキストリンに包接されていないことを意味すると考えられた。
すなわち、本発明のコラーゲン及びセラミドを含有する組成物は、セラミド原料(乳由来リン脂質)とシクロデキストリン(γ-シクロデキストリン)を含有する混合液を得る製造工程において、包接体を形成していないことが示唆された。
[0076]
乾燥粉末を溶解した溶液を測定試料とした場合の分析結果は、図3に示した通りであった。
[0077]
結果から、乳由来リン脂質とγ-シクロデキストリンを含有する混合液を凍結乾燥した後に粉砕する工程により得られた包接体を本分析に供した場合も、溶液中では包接体を形成していないことが示唆された。
[0078]
さらに、α-シクロデキストリンと乳由来リン脂質含有する混合液、及び、β-シクロデキストリンと乳由来リン脂質を含有する混合液についても調製し、それぞれの場合について、乳由来リン脂質とシクロデキストリンの溶液中における包接能を、実際に確認した。その結果、これらの場合の包接能は極めて弱いことが判明した。これらのことから、溶液中での包接体の形成の有無の関する状況は、α-シクロデキストリン及びβ-シクロデキストリンの場合についても、上記γ-シクロデキストリンの場合と同様であると考えられた。
[0079]
従って、図2および図3の結果から、セラミド原料とシクロデキストリンとが混合液中で、単に接触した状態では、包接体は形成されず、混合液を乾燥することではじめて、シクロデキストリンの内側にセラミド原料が包接されると考えられた。
請求の範囲
[請求項1]
コラーゲンペプチド又はコラーゲンペプチド含有顆粒に対して、シクロデキストリンに包接されたセラミド原料が付着してなることを特徴とする、コラーゲン及びセラミドを含有する組成物。
[請求項2]
セラミド原料が、固形分中の脂質含量が70重量%以上である、請求項1に記載の組成物。
[請求項3]
セラミド原料が、牛乳由来のリン脂質を含有する、請求項1又は2に記載の組成物。
[請求項4]
シクロデキストリンが、γ-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、又はα-シクロデキストリンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
[請求項5]
シクロデキストリンが、γ-シクロデキストリンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
[請求項6]
セラミド原料とシクロデキストリンとの重量比率が1:0.5~1:5である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
[請求項7]
セラミド原料及びシクロデキストリンを含有する混合液を得る工程、次いで前記混合液をコラーゲンペプチド又はコラーゲンペプチド含有顆粒に噴き付けて造粒する工程を特徴とする、コラーゲン及びセラミドを含有する組成物を製造する方法。
図面