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1. (WO2017033896) 生体試料搬送装置および生体試料搬送方法
Document

明 細 書

発明の名称 生体試料搬送装置および生体試料搬送方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004  

先行技術文献

特許文献

0005  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0006  

課題を解決するための手段

0007   0008  

発明の効果

0009  

図面の簡単な説明

0010  

発明を実施するための形態

0011   0012   0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037  

実施例

0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046  

符号の説明

0047  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8  

図面

1   2   3   4   5  

明 細 書

発明の名称 : 生体試料搬送装置および生体試料搬送方法

技術分野

[0001]
 本発明は、細胞シート等の生体試料を搬送する装置および生体試料搬送方法に関する。

背景技術

[0002]
 近年、再生医療の分野では、細胞を高密度に培養して得た厚みのある細胞シートを患部に配置し、生着させることで治療効果を高めることが試みられている。細胞シートのような組織化された生体試料の製造方法としては、例えば、培養時の温度(例えば37℃)では疎水性で、室温(20~25℃)では親水性となる温度応答性ポリマーを容器の内表面にコーティングした培養容器を用いて生体試料を製造する方法が知られている(特許文献1、2)。
[0003]
 該方法では、培養時には容器表面の温度応答性ポリマーが疎水性で収縮した状態のため、細胞が容器表面に吸着してその組織化が促進される。また、培養後に培養容器の温度を室温まで下げると、温度応答性ポリマーが親水性で膨潤した状態になり、形成された生体試料と容器表面の間に水が入り込むことで、生体試料が容器表面から細胞外マトリックス(ECM)などの損傷を受けず無傷で脱着する。こうして得られた生体試料は、脱着の際に熱や光、酵素による刺激がないため、細胞本来の機能が失われない。
[0004]
 容器表面から脱着させた生体試料は、培養容器から不織布等の搬送用部材上に載せて搬送し、別の生体試料や移植部位に張り付ける。しかし、不織布等を使用する場合、生体試料の脱離が課題となる。生体試料を別の生体試料や移植部位に張り付けた後、生体試料が患部の生体組織に生着する前に不織布等を取り除こうとすると、生体試料が不織布等に追従して別の生体試料や移植部位から剥がれてしまう。さらに、生体試料が移植先の生体組織に生着するまで不織布等を付けたままにしておくと、生体試料と不織布等の接着がより強固になり、不織布等を取り除く際に生体試料が損傷することがある。

先行技術文献

特許文献

[0005]
特許文献1 : 特許第3441530号公報
特許文献2 : 特許第3641301号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0006]
 本発明は、生体試料を損傷させずに容易に搬送して目的の場所に配置できる生体試料搬送装置および生体試料搬送方法を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

[0007]
 本発明は、以下の構成を有する。
[1]生体試料を吸着する吸着面を有する誘電体層と、前記誘電体層の前記吸着面と反対側に設けられた電極と、前記誘電体層と離間して設けられたアース部と、前記電極と前記アース部との間に電圧を印加する加電圧機構と、を備え、
 前記吸着面の表面電位が、前記電極と前記アース部との間に電圧が印加されることにより変化するようになっている、生体試料搬送装置。
[2]前記生体試料がシート状細胞集合体である、[1]の生体試料搬送装置。
[3]前記誘電体が、含フッ素重合体である、[1]または[2]の生体試料搬送装置。
[4]前記加電圧機構が、電圧の印加のON/OFFを切り替えるスイッチを備える、[1]~[3]のいずれかの生体試料搬送装置。
[5]前記加電圧機構が、前記電極と前記アース部との間に印加する電圧を調節できる電圧調節機構を備える、[1]~[4]のいずれかの生体試料搬送装置。
[6]前記誘電体層及び前記電極を収容する吸着部と、前記アース部及び加電圧機構を収容する把持部とを有する、[1]~[5]のいずれかの生体試料搬送装置。
[7]前記アース部が、前記把持部に設けられた金属プレートである、[6]の生体試料搬送装置。
[0008]
[8]前記[1]~[7]のいずれかの生体試料搬送装置を用いた生体試料搬送方法であって、
 前記加電圧機構により前記アース部に対する前記電極の電位を0(V)よりも高いE (V)とし、導電性流体が付着した状態の生体試料を前記吸着面に吸着させて搬送する搬送工程と、前記加電圧機構により前記アース部に対する前記電極の電位をE (V)よりも低いE (V)とし、搬送した前記生体試料を前記吸着面から脱着させる脱着工程と、を有する、生体試料搬送方法。

発明の効果

[0009]
 本発明の生体試料搬送装置を用いれば、生体試料を損傷させずに容易に搬送して目的の場所に配置できる。
 本発明の生体試料搬送方法によれば、生体試料を損傷させずに容易に搬送して目的の場所に配置できる。

図面の簡単な説明

[0010]
[図1] 本発明の生体試料搬送装置の一例を示した模式図である。
[図2] 図1の生体試料搬送装置を用いて生体試料を搬送する様子を示した模式図である。
[図3] 実施例のタンパク質吸着性試験における凹部の内底面の表面電位とタンパク質吸着率Qの関係を示したグラフである。
[図4] 実施例のタンパク質脱着試験における凹部の内底面の表面電位-3Vでの静置時間とタンパク質吸着率Qの関係を示したグラフである。
[図5] 実施例の細胞吸着試験の結果を示した写真である。

発明を実施するための形態

[0011]
 本明細書において、「生体試料」とは、個々の細胞、細胞集合体、および、組織化された細胞集合体(細胞シート等)を意味する。
[0012]
[生体試料搬送装置]
 本発明の生体試料搬送装置は、生体試料を吸着する吸着面を有する誘電体層と、前記誘電体層の前記吸着面と反対側に設けられた電極と、前記誘電体層と離間して設けられたアース部と、前記電極と前記アース部との間に電圧を印加する加電圧機構と、を備えたものである。
 本発明の生体試料搬送装置においては、誘電体層の吸着面の表面電位が、加電圧機構により電極とアース部との間に電圧が印加されることにより変化するようになっている。誘電体層の吸着面の表面電位が変化することで、該吸着面に対する生体試料の吸着性が変化するため、生体試料の脱着を制御できる。
[0013]
 本発明の生体試料搬送装置においては、細胞シート等の生体試料の搬送および脱着が容易になる点から、生体試料を吸着する吸着面全体の表面電位を一様に正電位または負電位に制御できるようになっていることが好ましい。
[0014]
 図1は、本発明の生体試料搬送装置の一例を示す断面図である。
 生体試料搬送装置1は、収容体10と、誘電体層12と、電極14と、アース部16と、加電圧機構18と、を備えている。
 収容体10は、誘電体層12および電極14を収容する吸着部20と、吸着部20の電極14側から突出するように一体に形成され、アース部16および加電圧機構18を収容する把持部22とを備えている。
[0015]
 誘電体層12は、生体試料を吸着する吸着面12aを有し、吸着面12aが収容体10から露出するように設けられている。電極14は、吸着部20内に誘電体層12の吸着面12aと反対側に設けられている。この例では、平板状の電極14上に誘電体層12が設けられている。
 アース部16は、把持部22内において、誘電体層12と離間し、誘電体層12とは電気的に接続されない状態で設けられている。加電圧機構18は、把持部22内における電極14とアース部16の間に、電極14とアース部16にそれぞれ電気的に接続された状態で設けられている。加電圧機構18により電極14とアース部16との間に電圧を印加できるようになっている。
 誘電体層12の吸着面12aの表面電位は、加電圧機構18により電極14とアース部16との間に電圧が印加されることにより変化するようになっている。
[0016]
(収容体)
 収容体の形状は、特に限定されず、吸着層の露出した吸着面に生体試料を吸着させた状態で搬送することを考慮して適宜設計すればよい。例えば、収容体としては、生体試料搬送装置1のように、誘電体層および電極を収容する吸着部と、アース部および加電圧機構を収容し、手で把持される把持部とを備えるものが挙げられる。把持部は、加電圧機構およびアース部を内蔵し、手で把持できる形状であればよく、例えば、円柱状等が挙げられる。
 収容体を形成する材料としては、手で触れたときに手に電気が流れないように電極や加電圧機構から絶縁できる公知の材料を使用でき、例えば、ポリアセタール、ABS樹脂等の樹脂等が挙げられる。
[0017]
(誘電体層)
 誘電体層の吸着面は、搬送時に生体試料が吸着される面である。
 誘電体層を形成する材料としては、特に限定されず、例えば、含フッ素重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、アクリル樹脂、パリレンC等の有機高分子材料等が挙げられ、なかでも含フッ素重合体が好ましい。
 誘電体層を形成する材料は、1種でもよく、2種以上でもよい。
[0018]
 含フッ素重合体としては、特に限定されず、例えば、フルオロオレフィンに由来する単量体単位を有する含フッ素重合体、芳香環を有する含フッ素重合体、フルオロポリエーテル鎖を有する含フッ素重合体、主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体、フッ素ゴム等が挙げられる。
 なお、「主鎖に脂肪族環を有する」含フッ素重合体とは、脂肪族環を有する含フッ素重合体であって、該脂肪族環の環骨格を構成する炭素原子のうち、少なくとも1つが、重合体の主鎖を構成する炭素原子であることを意味する。
[0019]
 フルオロオレフィンに由来する単量体単位を有する含フッ素重合体としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)等が挙げられる。
 芳香環を有する含フッ素重合体としては、例えば、含フッ素芳香族化合物(ペルフルオロ(1,3,5-トリフェニルベンゼン)等)と、フェノール系化合物(1,3,5-トリヒドロキシベンゼン等)と、架橋性官能基含有芳香族化合物(ペンタフルオロスチレン等)とを、脱ハロゲン化水素剤(炭酸カリウム等)の存在下で反応させて得られる重合体が挙げられる。
 フルオロポリエーテル鎖を有する含フッ素重合体としては、例えば、オプツール DSX(登録商標、ダイキン工業社製)、KY-100シリーズ(信越化学社製)等が挙げられる。
 主鎖に脂肪族環を有する含フッ素重合体としては、例えば、CYTOP(登録商標、旭硝子社製)、テフロン(登録商標)AF(DuPont社製)等が挙げられる。
 フッ素ゴムとしては、例えば、ビニリデンフルオリド(VDF)を主成分とするビニリデンフルオリド系フッ素ゴム、プロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロアルキルビニルエーテル系フッ素ゴム等が挙げられる。
 含フッ素重合体としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
[0020]
 誘電体層を形成する材料としては、シリカ、アルミナ、セリア、チタニアおよびジルコニアからなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物を用いてもよい。
[0021]
 誘電体層の厚さは、0.1~10μmが好ましく、0.5~1μmがより好ましい。誘電体層の厚さが下限値以上であれば、実用的な使用電圧内での絶縁破壊が起きにくい。誘電体層の厚さが上限値以下であれば、電圧印加により誘電体層の分極を効率的に行うことができる。
[0022]
(電極)
 電極を形成する材料は、導電性材料であればよく、例えば、酸化インジウムスズ(ITO);Pt、Au、Ni、Al等の金属;SnO 、In 、RuO 等の導電性を有する金属酸化物;Ge、Si、GaAs等の半導体;グラファイト、グラッシーカーボン、ダイヤモンド等の炭素系材料;ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン等の伝導性高分子等が挙げられる。
 電極の形状は、特に限定されず、例えば、平板状、櫛状等が挙げられる。
 電極の数は、1つには限定されず、2つ以上であってもよい。
[0023]
(アース部)
 アース部としては、装置内に内蔵された状態でアースが可能であるものであれば特に限定されず、公知のものを採用できる。アース部の具体例としては、例えば、把持部に人体と接触するように設けられた銅やアルミニウム等の金属プレート等が挙げられる。この場合、該金属プレートから人体を介してアースされる。
[0024]
(加電圧機構)
 加電圧機構としては、電極とアース部との間に任意の電圧を印加できるものであればよく、公知のものを採用することができる。
 加電圧機構としては、電圧の印加のON/OFFを切り替えるスイッチを備えるものが好ましい。また、加電圧機構としては、正電圧出力部、負電圧出力部、および、前記正電圧出力部と前記負電圧出力部のいずれから電極とアース部との間に電圧を印加するかを切り替えるスイッチを備えているものが好ましい。さらに、加電圧機構としては、電極とアース部との間に印加する電圧を調節できる電圧調節機構を備えるものが好ましい。
[0025]
(製造方法)
 本発明の生体試料搬送装置の製造方法は、特に限定されず、例えば、以下の方法が挙げられる。
 含フッ素重合体等を溶媒に溶解した塗布液を平板状の電極上に塗布し、ベーク等により乾燥して誘電体層を形成する。互いに電気的に接続された加電圧機構およびアース部を内蔵する収容体内に、電極と誘電体層を該誘電体層の吸着面が露出するように収容し、電極と加電圧機構を電気的に接続することで生体試料搬送装置を得る。
[0026]
 塗布液の塗布方法としては、特に限定されず、例えば、スピンコート法、ディップコート法、キャストコート法、スプレーコート法、ダイコート法、スキャンコート法、はけ塗り法、ポッティング法等が挙げられる。
[0027]
[生体試料搬送方法]
 本発明の生体試料搬送方法は、本発明の生体試料搬送装置を用いて生体試料を搬送する方法である。本発明の生体試料搬送方法は、下記の搬送工程と脱着工程を有する。
 搬送工程:生体試料搬送装置を用い、加電圧機構によりアース部に対する電極の電位を0(V)よりも高いE (V)とし、導電性流体が付着した状態の生体試料を誘電体層の吸着面に吸着させて搬送する。
 脱着工程:加電圧機構によりアース部に対する電極の電位をE (V)よりも低いE (V)とし、搬送した生体試料を吸着面から脱着させる。
[0028]
(搬送工程)
 例えば、生体試料搬送装置において、加電圧機構によりアース部に対する電極の電位を0(V)よりも高いE (V)とし、誘電体層の吸着面を、導電性流体が付着した状態の生体試料に接触させる。アース部に対する電極の電位がE (V)とされていることで、誘電体層の吸着面の表面電位が正電位となって、該吸着面は正電荷を帯びる。細胞は通常負電荷を帯びているため、正電荷を帯びた吸着面に静電的な相互作用によって生体試料が吸着する。このように、誘電体層の吸着面に生体試料を吸着させた状態で、生体試料を目的の場所まで搬送する。
[0029]
 例えば、細胞培養によって得た生体試料110を図1に例示した生体試料搬送装置1を用いて搬送する場合、図2(A)の状態に先立ち、培養容器100内から培養液を除き、生体試料110に液体培地が付着した状態とする。次いで、図2(A)に示すように、生体試料搬送装置1において、加電圧機構18によりアース部16に対する電極14の電位を0(V)よりも高いE (V)とし、誘電体層12の吸着面12aを、液体培地が付着した状態の生体試料110に接触させる。図2(B)に示すように、誘電体層12の吸着面12aには静電的な相互作用によって生体試料110が吸着するため、その状態で生体試料110を目的の場所まで搬送する。
[0030]
 培養工程におけるアース部に対する電極の電位E (V)としては、0(V)よりも高い範囲で、細胞の種類に応じて適宜決定できる。
[0031]
 生体試料における細胞としては、例えば、歯肉線維芽細胞、歯周靭帯細胞、表皮細胞、線維芽細胞、肝実質細胞、肝非実質細胞(内皮細胞、クッパー細胞、星細胞等)、骨芽細胞、上皮細胞、軟骨細胞、神経細胞、筋細胞、間葉系幹細胞、膵島細胞、マクロファージ、各種の腫瘍細胞や機能細胞等が挙げられる。細胞は、iPS細胞等の人工細胞であってもよい。
 生体試料としては、細胞シートが好ましい。
[0032]
 導電性流体としては、生体試料に悪影響を与えないものであればよく、細胞培養用の液体培地、リン酸緩衝液(D-PBS)、生理食塩水等が挙げられる。
[0033]
(脱着工程)
 搬送後、目的の場所において、加電圧機構によりアース部に対する電極の電位をE (V)よりも低いE (V)とし、生体試料を吸着面から脱着させる。例えば、誘電体層の吸着面に吸着させている生体試料を患者の患部に接触させた状態で、アース部に対する電極の電位をE (V)よりも低いE (V)とし、生体試料を吸着面から脱着させて患部に配置する。
[0034]
 図1に例示した生体試料搬送装置1を用いて生体試料110を搬送した場合は、例えば、図2(C)に示すように、誘電体層12の吸着面12aに吸着させている生体試料110を患者の患部200に接触させた状態で、アース部16に対する電極14の電位をE (V)よりも低いE (V)とする。そして、図2(D)に示すように、生体試料搬送装置1を患部200から遠ざけることで、生体試料110が誘電体層12の吸着面12aから脱着し、患部200に配置される。
[0035]
 脱着工程では、加電圧機構により、アース部に対する電極の電位E (V)を負電位とすることが好ましい。これにより、誘電体層の吸着面の表面電位が負電位となって該吸着面が負電荷を帯びる。そのため、誘電体層の吸着面と生体試料との静電反発により、吸着面からの生体試料の脱着がより容易になる。この場合、アース部に対する電極の電位をE (V)は、0(V)よりも低い範囲で、細胞の種類に応じて適宜決定できる。
[0036]
 なお、脱着工程では、アースが可能な場所に生体試料を配置する場合には、当該場所に生体試料を配置した後に加電圧機構による電圧の印加をOFFとし、アース部に対する電極の電位E (V)を0(V)としてもよい。これにより、アースが可能な場所に接触された生体試料を介して誘電体層および電極がアースされ、吸着面と生体試料との静電的な相互作用がなくなることで、生体試料が吸着面から脱着する。
 例えば、誘電体層の吸着面に吸着した状態で搬送した生体試料を患者の患部に接触させた状態で、加電圧機構による電圧の印加をOFFとするだけでも、生体試料が吸着面から脱着して患部に配置される。
[0037]
 以上説明したように、本発明では、誘電体層の吸着面の表面電位を調節し、該吸着面の表面性状を変化させて細胞の吸着性を変化させることにより、誘電体層の吸着面への細胞の脱着を制御できる。そのため、熱や光や振動や酵素等の刺激を与えずに低負荷で生体試料を搬送することができるうえ、不織布等を用いる場合に比べて生体試料を容易に吸着面から脱着させることができる。このように、本発明では、生体試料が有する本来の機能が損なわれることを抑制しつつ、該生体試料を搬送して目的の場所に配置することができる。
 本発明の用途としては、細胞本来の機能を損なわずに生体試料を搬送して目的の場所に配置できることから、特に細胞シートを搬送して患者の患部に配置する用途が、該細胞シートが患部で生体組織に効率良く生着できる点で有効である。
実施例
[0038]
 以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。なお、実施例の一部として、後述のように、生体試料の模擬物としてタンパク質を使用したタンパク質吸着試験とタンパク質脱着試験とを行った。
[例1](塗布液の調製)
 CYTOP(登録商標、旭硝子社製)を用い、その濃度が0.9質量%となるようにCT-solv100E(旭硝子社製)に溶解させ、塗布液を調製した。
(評価用デバイスの作製)
 ガラス基板上に、電極として厚み150nm、シート抵抗値10Ω/cm のITOを成膜した。さらに電極上に、スピンコートにより前記塗布液を塗布し、厚み0.5μmの誘電体層を形成した。スピンコートにおいては、ガラス基板を500rpmで10秒スピンさせた後に、1000rpmで20秒スピンさせた。
 次いで、底面部に直径35mmの貫通穴が形成されたポリスチレンシャーレを、前記誘電体層上に接着剤を用いて接着し、内底面が誘電体層で形成された凹部を備える評価用デバイスを作製した。
[0039]
[タンパク質吸着性試験]
 評価用デバイスの細胞吸着性を簡易的に評価するために、吸着性に関して細胞と同様の挙動を示すと考えられるタンパク質の吸着性を測定して評価を行った。以下の測定は、Advances in Polymer Science 57 Polymers in Medicine.(洋書)とSurface modification of polymers for medical applications. Biomaterials 1994. Vol. 15 No.10 725-736を参考にして行った。
(1)発色液、タンパク質溶液の準備
 発色液として、ペルオキシダーゼ発色液(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMBZ)、KPL社製)の50mLと、TMB Peroxidase Substrate(KPL社製)の50mLとを混合したものを使用した。
 タンパク質溶液として、タンパク質(POD-goat anti mouse IgG、Biorad社)をリン酸緩衝溶液(D-PBS、Sigma社製)で16,000倍に希釈したものを使用した。
[0040]
(2)タンパク質吸着
 評価用デバイスの凹部内にタンパク質溶液の3mLを分注し、対向電極を配置して評価用デバイスに3Vの電圧を印加し、評価用デバイスの電極電位を3Vとして、室温で1時間放置してタンパク質を吸着させた。また、これとは別に、評価用デバイスの電極電位を-3Vとする以外は同様の操作を行った。また、評価用デバイスに電圧を印加せず、評価用デバイスの電極電位を0Vとしたものについても、上記と同様に室温で1時間放置した。これらにおいては、評価用デバイスの凹部の内底面の表面電位は、電極電位と同等であると見なせる。
 ブランクとして、タンパク質溶液を96ウェルマイクロプレートにおける3ウェルに、1ウェル毎に2μL分注した。
(3)ウェル洗浄
 タンパク質を吸着させた評価用デバイスの凹部を、界面活性剤(Tween20、和光純薬社製)を0.05質量%含ませたリン酸緩衝溶液(D-PBS、Sigma社製)の4mLで4回洗浄した(16mL使用)。
(4)発色液分注
 洗浄を終えた評価用デバイスの凹部に、発色液の3mLを分注し、7分間発色反応を行った。2N硫酸の1.5mLを加えることで発色反応を停止させた。
 ブランクについては、96ウェルマイクロプレートの3ウェルに、1ウェル毎に発色液の100μLを分注して7分間発色反応を行った後、1ウェル毎に2N硫酸の50μLを加えることで発色反応を停止させた。
[0041]
(5)吸光度測定準備
 評価用デバイスの凹部から150μLの液を取り、96ウェルマイクロプレートに移した。
(6)吸光度測定およびタンパク質吸着率Q
 吸光度は、MTP-810Lab(コロナ電気社製)により450nmの吸光度を測定した。ブランクの吸光度の平均値(N=3)をA とした。凹部の内底面の表面電位(評価用デバイスの電極電位)を3V、-3V、0Vとしたもののそれぞれについて、評価用デバイスから96ウェルマイクロプレートに移動させた液の吸光度をA とした。
 タンパク質吸着率Qを下式により求めた。
 Q=A /{A ×(100/ブランクのタンパク質溶液の分注量)}×100
  =A /{A ×(100/2μL)}×100 [%]
 結果を図3に示す。
[0042]
 図3に示すように、例1の評価用デバイスにおいては、凹部の内底面の表面電位(評価用デバイスの電極電位)が-3V、0V、3Vの順でタンパク質吸着率Qが高くなった。この結果は、誘電体層の吸着面の表面電位を制御することにより、該吸着面への生体試料の吸着性を制御できることを示すものである。
[0043]
[タンパク質脱着試験]
(1)タンパク質吸着
 評価用デバイスの凹部に、前記タンパク質溶液の3mLを分注し、対向電極を配置して評価用デバイスに3Vの電圧を印加し、凹部の内底面の表面電位(評価用デバイスの電極電位)を3Vとして、室温で1時間放置してタンパク質を吸着させた。
 ブランクとして、前記タンパク質溶液を96ウェルマイクロプレートにおける3ウェルに、1ウェル毎に2μL分注した。
(2)タンパク質脱着
 タンパク質を吸着させた評価用デバイスに-3Vの電圧を印加し、凹部の内底面の表面電位(評価用デバイスの電極電位)を-3Vとして、室温で1分間静置した。次いで、界面活性剤(Tween20、和光純薬社製)を0.05質量%含ませたリン酸緩衝溶液(D-PBS、Sigma社製)の4mLで凹部を4回洗浄した。
 また、凹部の内底面の表面電位を-3Vとした状態での静置時間を0分間、5分間、10分間としたものについても、同様にして行った。なお、前記静置時間が0分間であるとは、凹部の内底面の表面電位(評価用デバイスの電極電位)を0Vとして洗浄を行ったことを意味する。
(3)発色液分注、吸光度測定準備、吸光度測定およびタンパク質吸着率Q
 前記[タンパク質吸着性試験]の(4)~(6)と同様にして、静置時間を0分間、1分間、5分間、10分間としたもののそれぞれについて、タンパク質吸着率Qを測定した。
 結果を図4に示す。
[0044]
 図4に示すように、例1の評価用デバイスにおいては、タンパク質を吸着させた後、凹部の内底面の表面電位(評価用デバイスの電極電位)を-3Vとする静置時間を10分間としたとき、静置時間が0分間の場合に比べてタンパク質吸着率Qが有意に低くなった。この結果は、誘電体層の吸着面の表面電位を制御することにより、吸着面に生体試料を吸着させて搬送した後に、目的の場所で生体試料を脱着させることが可能であることを示すものである。
[0045]
[細胞吸着試験]
(1)デバイスの滅菌
 評価用デバイスをエチレンオキサイドガス滅菌(EOG滅菌)した。
(2)細胞培養
 評価用デバイスの凹部に、MEM-α培地(Gibco)を3mL分注し、ヒト間葉系幹細胞を20万細胞播種した。対向電極を配置して評価用デバイスに3Vの電圧を印加し、凹部の内底面の表面電位(評価用デバイスの電極電位)を3Vとして、37℃のCO インキュベーター中で24時間培養して細胞を吸着させた。また、評価用デバイスに電圧を印加せず、評価用デバイスの電極電位を0Vとしたものについても、上記と同様に細胞を播種し、37℃のCO インキュベーター中で24時間培養した。これらにおいては、評価用デバイスの凹部の内底面の表面電位は、電極電位と同等であると見なせる。
(3)細胞吸着評価
 所定時間培養して細胞を吸着させた評価用デバイスを顕微鏡観察し、細胞の吸着性を評価した。
[0046]
 図5に示す通り、例1の評価用デバイスでは電圧を印加しない状態では細胞が吸着せず凝集塊を形成して浮いていた。凹部の内底面の表面電位(評価用デバイスの電極電位)が3Vのときは細胞が吸着し、伸展している様子が観察された。この結果は、誘電体層の第1の面の表面電位を制御することにより、培養中の細胞の該第1の面への吸着性を制御できることを示すものである。
 なお、2015年8月25日に出願された日本特許出願2015-165533号の明細書、特許請求の範囲、要約書および図面の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。

符号の説明

[0047]
 1:生体試料搬送装置、10:収容体、12:誘電体層、12a:吸着面、14:電極、16:アース部、18:加電圧機構、20:吸着部、22:把持部。

請求の範囲

[請求項1]
 生体試料を吸着する吸着面を有する誘電体層と、前記誘電体層の前記吸着面と反対側に設けられた電極と、前記誘電体層と離間して設けられたアース部と、前記電極と前記アース部との間に電圧を印加する加電圧機構と、を備え、
 前記吸着面の表面電位が、前記電極と前記アース部との間に電圧が印加されることにより変化するようになっている、生体試料搬送装置。
[請求項2]
 前記生体試料がシート状細胞集合体である、請求項1に記載の生体試料搬送装置。
[請求項3]
 前記誘電体が、含フッ素重合体である、請求項1または2に記載の生体試料搬送装置。
[請求項4]
 前記加電圧機構が、電圧の印加のON/OFFを切り替えるスイッチを備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の生体試料搬送装置。
[請求項5]
 前記加電圧機構が、前記電極と前記アース部との間に印加する電圧を調節できる電圧調節機構を備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の生体試料搬送装置。
[請求項6]
 前記誘電体層及び前記電極を収容する吸着部と、前記アース部及び加電圧機構を収容する把持部とを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の生体試料搬送装置。
[請求項7]
 前記アース部が、前記把持部に設けられた金属プレートである、請求項6に記載の生体試料搬送装置。
[請求項8]
 請求項1~7のいずれか1項に記載の生体試料搬送装置を用いた生体試料搬送方法であって、
 前記加電圧機構により前記アース部に対する前記電極の電位を0(V)よりも高いE (V)とし、導電性流体が付着した状態の生体試料を前記吸着面に吸着させて搬送する搬送工程と、
 前記加電圧機構により前記アース部に対する前記電極の電位をE (V)よりも低いE (V)とし、搬送した前記生体試料を前記吸着面から脱着させる脱着工程と、
を有する生体試料搬送方法。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]