明 細 書
技術分野
[0001]
本発明は、医療用装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、薬剤などの流体を放出可能なカテーテルを備えた医療用装置に関する。
背景技術
[0002]
目的部位の診断や治療、および疾病の予防などのために、血管などの体腔内に挿入され、その先端より造影剤等の薬剤の放出や血液等の吸引等を行うカテーテルが用いられている(例えば、特許文献1)。
[0003]
カテーテルを血管造影検査に用いる場合、カテーテルを血管内に挿入し、目的部位まで押し進める。具体的には、ガイドワイヤ導入用開口部からカテーテル本体先端に特許文献1に示されるようなアングルの形状を付けることができるガイドワイヤを挿入し、カテーテルの先端からガイドワイヤの先端を延出させ、カテーテルに対してガイドワイヤを先行させた状態を維持しながら、血管内でガイドワイヤを回して血管内でアングルを付けた先端の方向を変化させてワイヤを押し引きすることによって目的の血管にワイヤを挿入する。ワイヤが目的の血管に入るとワイヤを保持し、ワイヤに追従させてカテーテル先端を目的の血管に挿入する。この操作を行うためには血管の走行を術者が把握する必要があるため、目的の血管へカテーテルを進める前に、カテーテルから造影剤を放出し、X線撮影を行い、目的血管までのマップを得る必要がある。カテーテルの先端が目的部位に達すると、先行させたワイヤを抜去し、造影剤をシリンジ等の注入装置により注入してカテーテル先端から放出する。血管内に放出された造影剤がX線撮影されることで、血管の形態や血流状態が診断される。新たな目的血管へのマップを得たところでさらに目的の血管へとカテーテルを同様の手法にて進め、最終目的の血管へ到達する。このようにして中枢の大血管から適宜血管造影を行い、段階的に分枝を選択して最終目的の末梢血管へ到達する。
先行技術文献
特許文献
[0004]
特許文献1 : 特開平05-220225号公報
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0005]
上記のような場合に、以下に示すいくつかの問題がある。
[0006]
(1)血管をガイドワイヤで選択する場合、その血管に合った先端形状のガイドワイヤを使用しなければならず、分岐を選択する度にガイドワイヤを抜いて先端の形状付けをしなければならない。
(2)3次元的に分岐する血管分岐を2次元のマップで判断する必要があるため、マップ平面に直行する分岐方向はわからない。
(3)先に取得し別画面に映したマップ、あるいは同画面に重ね合わせたマップを参照してワイヤを進めているため、ワイヤを進めようとする血管の位置とマップにずれが生じる。
(4)血管を選択するときにはまずガイドワイヤを使用するが、このガイドワイヤは血管に刺激を与えて血管の攣縮や損傷の危険が高まる。
(5)カテーテルの内腔にあるガイドワイヤを抜かなければ内腔が確保できないため造影ができない。したがって段階的に造影が必要であるためその都度ガイドワイヤを抜去しなければならない。
課題を解決するための手段
[0007]
目的の血管にカテーテルを到達させるに際し、上記(1)から(5)に記載した問題をすべて解決するために、以下の(A)から(C)の3つの解決策に想到した。
(A)従来のガイドワイヤ先行のカテーテル挿入法をやめ、カテーテルを先行させて進める。
(B)血管の形状に合わせ、カテーテルを抜去することなく術者が任意のカーブを3次元に形成しながら進める。
(C)リアルタイムにカテーテル先端から造影剤を放出し、カテーテル先端が挿入する血管に向いているか、血管内進行度はどの程度かを把握し、常にカテーテル先端が目的とする血管に向かっているかを見定める。
[0008]
そして、上記に述べた(A)から(C)の3つの解決策を実行するために、以下の2つのデバイスを発案した。
[0009]
<スタイレットワイヤ>
カテーテルだけで血管を選択する操作は現在も行われることがある。しかし、カテーテルは柔軟であり、手元から押し引きの力が加わらず、かつトルクも伝わらない。これを解決するためにカテーテル内部にスタイレットワイヤを設けることとした。これによりカテーテル先端に押し引きの力とトルクを伝えることができる。カテーテルを先行させて目的とした方向に先端を向けることを目指した特許文献に示すような能動カテーテルがある。これらは操作が煩雑で一般的に行われているカテーテル操作から大きく異なる手技となる。またカテーテルが複雑となり、細径化、広い内腔の確保が現実的ではない。本発明のシステムもカテーテル先端を術者の意図する方向に向けることができる。これはスタイレットワイヤに任意の形状を設け、カテーテル先端にも任意の形状を設け、この組み合わせで任意の3次元形状にカテーテルを抜去することなく術者がいつでも血管形状に合わせて可変させることができる。この形状付けとカテーテル回転の組み合わせにより術者の意図する方向へカテーテル先端を向けることができる。能動カテーテルに比較すると意図する方向へ向ける能力は、状況により一長一短であるが、スタイレットを抜去するとカテーテルは従来のカテーテルと同じ単純な構造であり、カテーテルの細径化と内腔確保、脈管への追従性が達成できる。スタイレットワイヤとカテーテルには適切な空間を設け薬剤が通過できる。
[0010]
<側枝付きカテーテルトルカーハブ>
従来はワイヤを先行させて血管を選択するためワイヤにトルカーを装着していた。しかし本発明のシステムはカテーテルを先行させて進めるためカテーテルへ繊細にトルクを伝える必要がありカテーテル用トルカーが必要となる。カテーテルの鉛直線上にシリンジを設け、シリンジの内筒を術者の右手掌に固定し、シリンジ内筒を押しこみ、シリンジ内に充てんした造影剤を注入しながら、5本の指でシリンジ外筒をつまみ回転させることで、シリンジ外筒と接続した側枝付きカテーテルトルカーハブ(以下カテーテルトルカーハブとする)をトルカーとして作動させることができる。さらに説明すると、シリンジ内筒は手掌で押して固定され回転しないように保たれるが、シリンジは内筒を押しつつも外筒を回転させられる構造になっているので、この可動を利用し、シリンジ外筒を事実上トルカーとして利用できるようにシリンジ外筒とカテーテルを接続する役目をカテーテルトルカーハブは持っている。押し引きの操作は左手で同時に行う。これによりカテーテルを回転、押し引きしつつリアルタイムに造影剤を注入し放出することが可能である。しかし、スタイレットワイヤを操作するためにスタイレットワイヤの手元側はカテーテルから出ていなければならない。このスタイレットワイヤをカテーテル操作、造影剤注入操作の障害にならないよう、先に述べたシリンジを持つ手の形状を考慮して、手からスタイレットワイヤを最小限に回避させ、回転に支障のない角度に逃がす側枝を設けている。リアルタイムに造影することによりカテーテルが常に目的の血管に向かっていることが分かる。カーブのついたカテーテル先端が、ある方向を向いている時に造影剤が注入されると、造影剤と血液の比重の違いから層流が生じる。目的とした血管が描出される場合には進め、されない場合には回転させて描出されたところで回転を止めて進める。また目的でない血管が描出されたときにそのまま進めると、その血管に挿入されてしまうので、カテーテルを回転させ描出されないタイミングでカテーテルを進める。
[0011]
上記の2つの発案に基づく本発明の医療用装置は、体腔に挿入されるカテーテルと、前記カテーテルに挿入されるスタイレットワイヤと、前記カテーテルの内部に薬剤を注入し、かつ、前記体腔に侵入したカテーテルの一端から前記薬剤を放出させる注入具と、直線状の基部と、前記基部に対して斜めに連通する側枝とを有するカテーテルトルカーハブとを備え、前記基部の一端には前記カテーテルの他端が、前記基部の他端には前記注入具がそれぞれ接続され、前記側枝は、前記スタイレットワイヤが挿入される挿入口を前記基部の他端側に有し、前記スタイレットワイヤの外径は、前記カテーテルの内径未満、かつ、前記薬剤を前記カテーテルの一端側に導入可能な大きさであり、前記スタイレットワイヤが前記カテーテルに挿入された状態で前記薬剤の注入と前記カテーテルの一端からの前記薬剤の体腔への放出とが可能であり、前記スタイレットワイヤは、前記カテーテルの一端側を曲がった状態で維持することが可能であることを特徴とする。
[0012]
また、前記薬剤が造影剤であることが好ましい。
[0013]
また、前記側枝が前記薬剤の逆流を防止する逆流防止弁を備えることが好ましい。
発明の効果
[0014]
本発明の医療用装置によれば、造影剤等の薬剤の放出の際にスタイレットワイヤを抜去する必要がなく、造影剤等の薬剤を必要なときに必要な量だけ体腔に放出することができる。
図面の簡単な説明
[0015]
[図1] 本発明の医療用装置の一実施形態を示す概略図である。
[図2] (a)は、図1の医療用装置におけるカテーテルの一端側の概略断面図であり、(b)は、2次元のS字カーブ状に形状付けされたカテーテルを示す図であり、(c)は、3次元のS字カーブ状に形状付けされたカテーテルを示す図である。
[図3] (a)は、医療用装置のカテーテルの一端が血管の分岐箇所の手前まで進んだ状態を示す概略図であり、(b)は、血管の分岐箇所において、カテーテルの一端を回転させて、分岐血管に進行しようとしている状態を示す概略図である。
[図4] 血管全体に造影剤が行き渡ったときの血管の造影像を示す概略図である。
[図5] 血管の分岐箇所の手前までカテーテルが進行し、分岐箇所が造影された造影像を示す概略図である。
[図6a] カテーテルの一端が分岐血管に進行するときの造影像を示す概略図であり、造影剤と血液とが層流を形成し、目的部位に向かう分岐血管が造影されていない状態を示している。
[図6b] カテーテルの一端が分岐血管に進行するときの造影像を示す概略図であり、造影剤と血液とが層流を形成しているが、目的部位に向かう分岐血管が造影された状態を示している。
[図6c] カテーテルの一端が目的部位に向かう分岐血管を向き、目的部位に向かう分岐血管が造影された状態を示す概略図である。
[図6d] カテーテルが目的部位に向かう分岐血管内に進行した状態を示す概略図である。
[図6e] カテーテルが目的部位に向かう分岐血管内でさらなる分岐を通過するときの造影剤の放出を示す概略図である。
[図6f] カテーテルが目的部位に向かう分岐血管内でさらなる分岐を通過するときの造影剤の放出を示す概略図である。
[図7] カテーテルの一端が目的部位に到達したときの造影像を示す概略図である。
発明を実施するための形態
[0016]
以下、図面を参照し、本発明の医療用装置を詳細に説明する。以下に示す実施形態の医療用装置はあくまで例示であり、本発明の医療用装置は、図面および下記の実施形態に限定されるものではない。
[0017]
図1に示されるように、本実施形態の医療用装置1は、体腔に挿入されるカテーテル2と、カテーテル2に挿入されるスタイレットワイヤ3と、カテーテル2の内部に薬剤を注入し、かつ、体腔に侵入したカテーテル2の一端から薬剤を放出させる注入具4と、直線状の基部51と、基部51に対して斜めに連通する側枝52とを有するカテーテルトルカーハブ5とを備えている。医療用装置1は、たとえば、体腔内にカテーテル2を挿入して、薬剤をカテーテル2の一端2a側(先端側)から放出することにより、人若しくは動物における目的部位の診断や治療、および疾病の予防等に用いられる。
[0018]
カテーテル2は、図1および図2(a)に示されるように、チューブ状の部材であり、血管・リンパ管・胆管・消化管等の体腔における目的部位に一端2aを位置させることで、目的部位に薬剤を導入する。カテーテル2は、一端2aから他端(基端)2bまで連通する内腔2c(図2(a)参照)を有し、湾曲した体腔内を移動可能なように可撓性材料から形成されている。また、カテーテル2は製作時にカーブ等の形状を付けておくこともあり、術中に指などでしごいて血管に合わせた形状付けを行うこともある。カテーテル2の一端2aは、血管等、体腔内の目的部位まで移動し、位置付けられる。カテーテル2の他端2bは、カテーテルトルカーハブ5の基部51の一端(先端側の端部)51aに接続される。カテーテル2の一端2aの位置をX線(放射線)造影下で、画像表示装置等において視認するために、カテーテル2の少なくとも一端2a側の外周には、X線(放射線)不透過性のマーカーを設けても構わない。
[0019]
スタイレットワイヤ3は、細長い金属線から構成されている。スタイレットワイヤ3は、カテーテルトルカーハブ5の側枝52に形成された挿入口52aから挿入され、後述する側枝52の内腔、基部51の連通孔を経由して、カテーテル2の内腔2cに通されている。スタイレットワイヤ3の一端(先端)3aは、本実施形態では、図1および図2(a)に示されるように、カテーテル2の一端2a側に位置している。スタイレットワイヤ3の他端(図示せず)は、側枝52の挿入口52aからスタイレットワイヤ3の残り部分が導出されて、手元操作が可能なように手元側に位置する。なお、スタイレットワイヤ3の材料および構造は特に限定されない。例えば、スタイレットワイヤ3の材料としては、SUS、Ni-Ti合金等を用いることができ、スタイレットワイヤの構造としては、単線や撚線から構成されるものや、単線や撚線を芯線とし、外周に単線や撚線をコイル状に巻きつけたものなどが挙げられる。スタイレットワイヤ3の先端には製作時にカーブ等の形状を付けておくこともあり、術中に術者が血管に合わせ形状付けを行うこともある。
[0020]
注入具4は、カテーテルトルカーハブ5を経由して、カテーテル2の内腔2cに薬剤を注入する部材である。注入具4からカテーテル2へと供給される薬剤は、治療や検査、疾病の予防などを目的として体腔内に放出される物質である。薬剤は、たとえば、造影剤、抗がん剤、血栓溶解剤など、治療や検査、疾病の予防などを目的とする薬剤であれば特に限定されないが、本実施形態では、造影剤を例にあげて説明する。造影剤は、画像診断の際に画像にコントラストを付けたり特定の組織を強調して撮影するために患者に投与される。造影剤は、たとえばカテーテル2が血管等の体腔内を進行する際に、カテーテル2の先端から体腔内に放出され、カテーテル2の先端付近の体腔がX線撮影されることで、画像表示装置6(図4~図7参照)に血管等の体腔の造影像の表示を可能にする。なお、本実施形態では、図1に示されるように、注入具4としてシリンジが用いられているが、カテーテル2内へ薬剤の注入が可能であれば、注入具4はシリンジに限定されない。たとえば、注入具として、輸液バッグを用いてもよいし、ポンプ等の注入機構を備えた薬剤供給装置を用いてもよい。
[0021]
カテーテルトルカーハブ5は、図1に示されるように、カテーテル2と注入具4とを接続するとともに、スタイレットワイヤ3をカテーテル2の内部へ導入する。カテーテルトルカーハブ5は上述したように、直線状の基部51と、基部51に対して斜めに連通する側枝52を有している。側枝52の分岐角度は、スタイレットワイヤがカテーテルトルカーハブに接続したシリンジを把持する手を最小限に回避し、カテーテルを回転させた時にスタイレットワイヤ3の他端の回転移動ができるだけ少なくなるように設けられていることが好ましい。
[0022]
基部51の一端51aおよび他端51bにはそれぞれ開口(図示せず)が形成され、基部51の内部には基部51の一端51aから他端51bにかけて連通する連通孔(図示せず)が形成されている。この連通孔は、注入具4からカテーテル2に供給される薬剤の供給路を形成している。基部51の先端側の一端51aには、カテーテル2の他端2bが接続され、基部51の基端側の他端51bには、注入具4が接続される。基部51の一端51aおよび他端51b側には、カテーテル接続部C1および注入具接続部C2が設けられ、カテーテル2および注入具4がそれぞれ接続可能とされている。本実施形態では、カテーテル接続部C1に、カテーテル2の他端2bが直接接続され、注入具接続部C2に注入具4の接続部4aが直接接続されている。しかし、これらの接続は、図示しないコネクタなど、他部材を介して間接的に接続されていてもよい。また、本実施形態では、シリンジとして示された注入具4の接続部4aの外面が、先端が先細となるテーパー状に形成され、注入具接続部C2の内面が、注入具4側からカテーテル2側に向かってテーパー状に形成されている。すなわち、注入具4の接続部4aを注入具接続部C2に形成された開口に挿入してテーパー接続されている。しかし、注入具4とカテーテルトルカーハブ5との間の接続は、上述したテーパー接続に限定されるものではなく、たとえば螺合による接続等、他の接続方法により、注入具4とカテーテルトルカーハブ5とを接続しても構わない。
[0023]
側枝52は中空状に形成され、側枝52内の内腔(図示せず)が、基部51の中間部分の連結部で連結して、当該連通孔に連通している。側枝52は、スタイレットワイヤ3が挿入される挿入口52aを基部51の他端51b側(側枝52の自由端側)に有している。側枝52の挿入口52aから挿入されたスタイレットワイヤ3は、側枝52の内腔、基部51の連通孔を経由して、カテーテル2の内腔2cに通されている。これにより、スタイレットワイヤ3は、カテーテル2の一端2a側へ移動することができる。側枝52は、基部51に対して斜めに、すなわち、側枝52と基部51との連結部から基部51の他端51b側までの部位と、側枝52とが鋭角をなすように形成されている。また、側枝52は、図1に示されるように、基部51の他端51bより注入された薬剤が挿入孔52へと逆流することを防止する逆流防止弁52bを備えていてもよい。逆流防止弁52bは、スタイレットワイヤ3を挿通可能である一方、薬剤を注入したときに、薬剤が側枝52の挿入口52aから漏出することを防止するように、スリットやスイッチ、コック等を備えていればよい。
[0024]
つぎに、本実施形態の医療用装置1における、スタイレットワイヤ3とカテーテル2について、詳細に説明する。本実施形態においては、スタイレットワイヤ3の外径は、カテーテル2の内径(内腔2cの直径)未満、かつ、薬剤をカテーテル2の一端2a側に導入可能な大きさとなるように構成されている。これにより、薬剤は、スタイレットワイヤ3がカテーテル2に挿入された状態でカテーテル2の一端2aから注入され、スタイレットワイヤ3の外面とカテーテル2の内腔2cとの間を通って、カテーテル2の先端より体腔へ放出が可能とされている。すなわち、本実施形態では、スタイレットワイヤ3をカテーテル2から手元側に抜去することなく、薬剤をカテーテル2の内腔2c内に注入し、カテーテル2の一端2aから放出可能となっている。したがって、造影剤等の薬剤の注入の際に、スタイレットワイヤ3をカテーテル2から抜去する必要がないため、手技時間を短縮することができる。また、薬剤を必要なときに必要な量だけ注入することができ、体腔内の複数箇所で薬剤を注入する場合などに、その都度、スタイレットワイヤ3の抜去、挿入が不要であり、患者の負担を大きく低減させることができる。
[0025]
なお、スタイレットワイヤ3の外径の、薬剤をカテーテル2の一端2a側に導入可能な大きさは、図2(a)に示されるように、スタイレットワイヤ3の外面とカテーテル2の内面との間を薬剤が移動可能な所定のクリアランスが形成される大きさである。ここでいう所定のクリアランスは、一義的には決めることはできないが、用いられるカテーテル2の内径や材質、注入する薬剤の粘度等に応じて適宜変更が可能である。そのため、スタイレットワイヤ3の外面とカテーテル2の内面との間のクリアランスの大きさは特に限定されない。
[0026]
また、本実施形態では、図1および図2(a)に示されるように、スタイレットワイヤ3の先端3a側は、カテーテル2の一端2a側を曲がった状態で維持することが可能に構成されている。より具体的には、図1および図2(a)に示されるように、スタイレットワイヤ3の一端3a側が所定の方向に方向付けされており、柔軟なカテーテル2の一端2a側が、スタイレットワイヤ3の一端3a側の形状に追従して変形し、スタイレットワイヤ3が芯となり、曲がった状態で維持される。そのため、カテーテル2自体が形状付けされていない柔軟なカテーテルであっても、図3(a)および(b)に示されるように、スタイレットワイヤ3を、スタイレットワイヤ3の軸回りに回転させることにより、カテーテル2の一端2aが所望の方向に方向付けられる。したがって、血管の分岐箇所などにおいて、カテーテル2を意図した方向に前進させることができる。また、スタイレットワイヤ3がカテーテル2のスタイレットとして機能するので、マイクロカテーテルのような小径で柔軟なカテーテルであっても、カテーテル2の一端2aにトルクや押し引きする力が伝わりやすい。したがって、手元から遠く細い末梢血管へのカテーテル2の進行も容易となる。特に、血管の走行や分岐は3次元であり、上記のとおり意図した方向に進めるためには3次元の方向付けをする必要がある。カテーテル2の先端は直線から立体的なカーブまでの形状をつけることが可能であり、またスタイレットワイヤ3の先端も直線から立体的なカーブまでの形状をつけることが可能である。上記のとおりカテーテル2もスタイレットワイヤ3も2次元のカーブの形状を有していた場合、図2(a)に示すようにスタイレットワイヤ3とカテーテル2の先端を合わせると形状はカーブ状となるが、スタイレットワイヤ3の先端をカテーテル2の先端より後ろに引きこみ、同一平面で180度反対方向に向けると、図2(b)に示すように2次元のS字カーブの形状を作り出すことができる。さらにスタイレットワイヤ3をカテーテル2のカーブに対し、90度回転させた位置にすると図2(c)に示すように3次元のS字カーブとなる。このようにカテーテル2とスタイレットワイヤ3を任意の方向に回転させること、および、カテーテル2の先端からスタイレットワイヤ3の先端を引く距離、そしてカテーテル2とスタイレットワイヤ3の形状により、複雑に3次元で分岐する血管に追従させて任意の方向に変えて所望の方向に方向付けられる。なお目的の血管に挿入する際には、すでに通過したひとつ前の血管分岐の形状とその追従性が重要となるため、2段階の3次元カーブ形状は重要となる。なお、スタイレットワイヤ3の回転を容易にし、カテーテル2の一端2aへのトルクの伝達を容易にするために、スタイレットワイヤ3の手元側に、トルクデバイス7(図1参照)を設けてもよい。トルクデバイス7は、公知のトルクデバイスを用いることができるが、スタイレットワイヤ3とカテーテル2との間の軸方向での相対移動を規制するために、カテーテルトルカーハブ5に固定可能であってもよい。たとえば、トルクデバイス7にカテーテルトルカーハブ5に脱着可能な連結部を設け、逆流防止弁52bを含む被連結部材を側枝52の自由端に設けて、トルクデバイス7の連結部を被連結部材に連結してもよい。本実施形態のスタイレットワイヤ3はスタイレットの役割を有するが、カテーテル2の先端から延出させ、従来のガイドワイヤのように血管を選択し、ガイドワイヤにカテーテル2を追従させて進めることも可能であるよう、カテーテルの先端がガイドワイヤよりも柔軟な柔軟性を備えていてもよい。
[0027]
このように、本実施形態では、スタイレットワイヤ3がカテーテル2の一端2a側を曲がった状態で維持しつつ、薬剤を注入することができるため、薬剤の注入と、カテーテル2の一端2aの操作とを時間間隔をあけることなく行なうことができる。たとえば、図3(a)の状態で造影剤を放出し、血管の造影を行った直後に、カテーテル2の一端2aを血管の分岐箇所において、図3(b)に示すように目的の分岐血管へ迅速に挿入することが可能になる。
[0028]
なお、スタイレットワイヤ3の一端3aは、カテーテル2の一端2a側を曲がった状態で維持することができれば、カテーテル2の一端2aから若干突出していても構わないが、本実施形態では、スタイレットワイヤ3の一端3aは、カテーテル2の一端2aから突出せずに、カテーテル2内に収容されている。一般に、スタイレットワイヤ3の一端3aは、カテーテル2の一端2aよりも細く硬い材質のため先端が鋭いので、同様な押圧力であってもカテーテル2に比べて体腔に与える単位面積当たりの圧力が高くなってしまう。したがって、カテーテル2内にスタイレットワイヤ3の一端3aが突出せずに収容されている場合、血管内膜などの体腔内の組織を損傷させたり、攣縮などが誘発されたりする可能性を低下させることができる。
[0029]
スタイレットワイヤ3の一端3aをカテーテル2の一端2aから突出させず、かつ、カテーテル2の一端2a側を曲がった状態で維持させる場合、スタイレットワイヤ3の一端3aの軸方向での位置付けを調整してもよい。この場合、スタイレットワイヤ3の一端3aの位置をカテーテル2の一端2a側の所定の位置に調整する位置調整手段が設けられてもよい。位置調整手段としては、たとえば、スタイレットワイヤ3の手元側の外周に軸方向に所定の間隔で複数形成された、目盛や目印等の長さ表示部とすることができる。この場合、たとえば、造影像により把握される、カテーテル2の一端2aから突出したスタイレットワイヤ3の一端3aの長さに応じて、所定の目盛数の分だけスタイレットワイヤ3を手元側に引き操作することにより、スタイレットワイヤ3の一端3aを、所定の位置に調整することができる。また、位置調整手段の他の態様として、スタイレットワイヤ3が所定の長さだけ挿入されたときに、スタイレットワイヤ3の一部が当接してスタイレットワイヤ3の挿入長さが所定の範囲に規制される規制部をスタイレットワイヤ3またはカテーテル2に設けても構わない。
[0030]
つぎに、図4~図7を用いて、薬剤として造影剤を用い、上述した医療用装置1、X線照射装置(図示せず)および画像表示装置(ディスプレイ)6を備えた、造影システムを例にあげて、本実施形態の医療用装置1の作用を説明する。なお、図4は、血管全体に造影剤が行き渡ったときの血管の造影像を参考として示している。図4中、参照符号Dは、カテーテル2の一端2aを到達させるべき目的部位を示している。
[0031]
図5に示されるように、血管V1に挿入されたカテーテル2は、スタイレットワイヤ3と一体となって血管V1を進行する。血管V1において、図1および図2に示されるようなカテーテル2の一端2a側にスタイレットワイヤ3の一端3aが位置した状態で、注入具4を操作する。注入具4から供給された造影剤は、カテーテル2の内面とスタイレットワイヤ3との間のクリアランスを通過して、スタイレットワイヤ3の一端3aが、カテーテル2の一端2a側に位置したまま、カテーテル2の一端2aから造影剤が放出される。このとき、造影剤の注入圧により、側枝52の挿入口52a側へと圧力が加わるが、側枝52に設けられた逆流防止弁52bにより、造影剤の逆流が防止される。これにより、造影剤が側枝52の挿入口52a側から漏れ出さず、薬剤の効率的な注入と放出が可能となる。造影剤が強く放出されると、図5に示されるように、血管V1はカテーテル2の一端2aの周囲からその末梢血管までリアルタイムで造影される(なお、図5~図7においては、造影され、画像表示装置6において視認できる血管の領域をドットで、造影されていない箇所を白抜きで示している)。進行方向となる分岐血管V2が造影されると、さらに弱く造影剤を放出しつつカテーテル2およびスタイレットワイヤ3を一体に進行させる。図6aのごとく、一端2aが進行方向となる分岐血管V2の方向を向いていない場合には、放出された造影剤は後ろから来た血液との層流を形成し分岐血管V2は造影されない。なお造影剤と血液は比重が異なるためすぐには均一に拡散せず層流を形成する。これでは分岐血管V2にカテーテル2が進まないことが分かるので、造影剤を弱く放出させつつカテーテル2およびスタイレットワイヤ3を一体に回転させる。すると図6bのごとく分岐血管V2血管方向に向いた瞬間に先に述べた層流により分岐血管V2が造影される。そのタイミングで造影剤を放出しつつカテーテル2およびスタイレットワイヤ3を一体に進行させると図6cのごとく分岐血管V2のみが造影される。そのタイミングでカテーテル2およびスタイレットワイヤ3を一体に進行させると図6dのごとく分岐血管V2に到達する。目的部位Dに向かうため造影剤を放出しつつ分岐血管V2内を回転させつつカテーテル2およびスタイレットワイヤ3を一体に進行させる。分岐血管V3との分岐を通過するときは分岐血管V3が造影されないタイミングで図6eのごとく進め、分岐血管V4との分岐を通過するときは分岐血管V4が造影されないタイミングで図6fのごとく進める。このようにカテーテル2より末梢の血管全体を造影したいときには強く造影剤を放出する。そしてカテーテル2を進める時に層流によって進めたい血管、あるいは進めたくない血管と一端2aの向きの関係を確認する場合には造影剤を必要量だけ放出する。図7に示されるように目的部位Dにカテーテル2の一端2aが到達すると、薬剤の放出や血液等の吸引等を行い、所定の検査や治療などが行われる。このようにスタイレットワイヤ3を抜去することなくカテーテル2の挿入が完了する。
[0032]
このように、本実施形態の医療用装置1は、造影剤を必要なときに必要な量だけ放出することができ、造影剤を無駄に放出することなく、経済的であり、かつ患者の負担を減らすことができる。また、造影剤の放出に際して、その都度スタイレットワイヤ3を抜去する必要がないため、造影剤を放出した後、すぐに分岐血管へカテーテル2の一端2aを進行させることができる。そのため、従来必要であった、スタイレットワイヤ3を抜去してから造影剤の放出までの時間と、造影剤放出からスタイレットワイヤ3の再挿入に必要な時間とが短縮される。また、マップでは不明なX線入射方向に分岐する血管にもリアルタイムな造影にて挿入が容易となる。したがって、長時間の施術による患者への負担が軽減される。
[0033]
また、本実施形態の医療用装置1によれば、造影剤を必要なときに必要な量だけ放出することで、リアルタイムの血管のマップが得られる。予め得た血管造影像をマップとして参照しつつ、体腔内に挿入されているカテーテルの透視画像を見ながら目的とする血管へスタイレットワイヤやカテーテルを進める方法では、体動、呼吸、蠕動などの影響により、予め得た血管造影像と体腔内に挿入されているカテーテルの透視画像との差が大きくなる場合がある。一方、リアルタイムの血管のマップであれば、体動、呼吸、蠕動などの影響をほぼ受けないので、施術時間を短縮できると期待される。
[0034]
以上、カテーテル2の先端2aからの造影剤の放出を例として本実施形態の医療用装置1の作用について説明したが、薬剤の放出のみならず、血管からの血液の吸引などの吸引動作についても、同様の効果を奏する。
符号の説明
[0035]
1 医療用装置
2 カテーテル
2a カテーテルの一端(先端)
2b カテーテルの他端(基端)
2c カテーテルの内腔
3 スタイレットワイヤ
3a スタイレットワイヤの一端(先端)
4 注入具
4a 接続部
5 側枝付きカテーテルトルカーハブ
51 基部
51a 基部の一端
51b 基部の他端
52 側枝
52a 挿入口
52b 逆流防止弁
6 画像表示装置
7 トルクデバイス
C1 カテーテル接続部
C2 注入具接続部
D 目的部位
V1 血管
V2~V4 分岐血管
請求の範囲
[請求項1]
体腔に挿入されるカテーテルと、
前記カテーテルに挿入されるスタイレットワイヤと、
前記カテーテルの内部に薬剤を注入し、かつ、前記体腔に侵入したカテーテルの一端から前記薬剤を放出させる注入具と、
直線状の基部と、前記基部に対して斜めに連通する側枝とを有するカテーテルトルカーハブとを備え、
前記基部の一端には前記カテーテルの他端が、前記基部の他端には前記注入具がそれぞれ接続され、
前記側枝は、前記スタイレットワイヤが挿入される挿入口を前記基部の他端側に有し、
前記スタイレットワイヤの外径は、前記カテーテルの内径未満、かつ、前記薬剤を前記カテーテルの一端側に導入可能な大きさであり、
前記スタイレットワイヤが前記カテーテルに挿入された状態で前記薬剤の注入と前記カテーテルの一端からの前記薬剤の体腔への放出とが可能であり、
前記スタイレットワイヤは、前記カテーテルの一端側を曲がった状態で維持することが可能な医療用装置。
[請求項2]
前記薬剤が造影剤である請求項1に記載の医療用装置。
[請求項3]
前記側枝が前記薬剤の逆流を防止する逆流防止弁を備える請求項1または2に記載の医療用装置。
図面