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1. (WO2017029922) 高炭素冷延鋼板及びその製造方法
Document

明 細 書

発明の名称 高炭素冷延鋼板及びその製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005   0006   0007   0008   0009  

先行技術文献

特許文献

0010  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0011   0012   0013  

課題を解決するための手段

0014   0015   0016   0017  

発明の効果

0018   0019  

図面の簡単な説明

0020  

発明を実施するための形態

0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043  

実施例

0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061  

産業上の利用可能性

0062  

請求の範囲

1   2   3   4   5  

図面

1   2   3   4   5   6   7  

明 細 書

発明の名称 : 高炭素冷延鋼板及びその製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、焼入れ焼戻し処理によって製造される各種機械部品の素材となる高炭素冷延鋼板に関するものである。とくに、短時間の溶体化処理で焼入れし、低温の焼戻し処理後に十分な硬さ(600~750HV)と優れた衝撃特性(靱性)とを兼備し、さらに耐久性、耐摩耗性などに対する要求が厳しいメリヤス針などに適用できる板厚1.0mm未満の高炭素冷延鋼板に関する。ここで、短時間の溶体化処理とは、760~820℃の温度範囲で3~15分の時間での処理をいい、低温の焼戻し処理とは200~350℃の温度範囲での処理をいう。

背景技術

[0002]
 一般に、JISに規定される機械構造用炭素鋼鋼材(S××C)や炭素工具鋼鋼材(SK)は、大小の各種機械部品に使用されている。展伸材として使用される場合は、打抜き加工や各種の塑性加工を経て部品形状に成形した後、焼入れ・焼戻し処理を行う。これにより、所定の硬さと靱性(衝撃特性)が付与される。その中で、例えば、ニット地を編むメリヤス針では、高速で往復運動を繰返しながら糸を手繰り寄せてニット地を編むため、回転駆動部と接触する針本体のバット部には十分な強度と耐摩耗性が求められ、糸と擦れ合うフック部には十分な耐摩耗性に加えて先端部の衝撃特性に優れることが求められる。
[0003]
 メリヤス針用素材として使われる高炭素冷延鋼板は、板厚が1.0mm以上の場合には横編機用メリヤス針向けとして、板厚が1.0mm未満の場合には丸編機や縦編機用メリヤス針向けとして用いられる。丸編機や縦編機用メリヤス針では細径の糸を高速で編むため、使用される素材の板厚は0.4~0.7mmとなることが多い。さらに、メリヤス針用素材には、優れた冷間加工性(以下、二次加工性とも云う)を有することに加えて、針形状に加工(二次加工)し、焼入れ焼戻ししたのちに、十分な硬さと針先端部で十分な靱性を有することが求められる。
[0004]
 また、JISに規定される機械構造用炭素鋼鋼材(S××C)や炭素工具鋼鋼材(SK)などの所謂高炭素鋼板は、C量によって用途が細かく分類されている。C量が0.8mass%未満の領域、すなわち亜共析組成の鋼板では、フェライト相の分率が高いため冷間加工性には優れるが、十分な焼入れ硬さを得ることが難しい。そのため、亜共析組成の鋼板は、フック部の耐摩耗性や針本体の耐久性が求められるメリヤス針用途等には向かない。一方、0.8mass%以上の領域、すなわち過共析組成の鋼板の中でも、C量が1.1mass%より大きい高炭素鋼板は、優れた焼入れ性を有する反面、多量に含まれる炭化物(セメンタイト)のために冷間加工性が極端に劣り、溝切加工等の精密かつ微細な加工が行われるメリヤス針用途等には向かない。C量が1.1mass%より大きい高炭素鋼板は、刃物や冷間金型等、単純形状で高硬度が求められる部品用途に限定される。
[0005]
 従来から、メリヤス針には、C:0.8~1.1mass%の炭素工具鋼や合金工具鋼又はこれらの鋼組成をベースとして第3元素を添加した鋼組成の素材が広く用いられている。このメリヤス針の製造過程では、その素材は打抜き(せん断加工)、切削、伸線、かしめ、曲げなどの多種多様な塑性加工に供される。したがって、このメリヤス針製造用の素材は、針の製造工程での素材加工時に十分な加工性(二次加工性)を有していることに併せて、針として実際に使用するときに要求される焼入れ焼戻し処理後の硬さ特性や衝撃特性(靱性)を具備する必要がある。
[0006]
 メリヤス針の製造では、所定の硬さ特性を確保するため素材に焼入れ焼戻し処理が行われる。この焼戻し処理では、200~350℃の温度範囲での低温焼戻し処理が一般的に採用されている。しかし、硬さ特性を重視して焼入れ性に有効なMnやCrの添加量を増量したり、その他の第3元素を多量に添加すると、上記した低温焼戻し処理では、マルテンサイト相の焼戻しが十分になされず、衝撃特性(靱性)の向上が不十分であったり靱性値がばらついたりする場合があった。
 一方、メリヤス針の衝撃特性を向上させることを目的として、素材の化学組成のうち不純物元素であるPやSを低減し、Pの粒界偏析やMnS介在物の生成を極小化させ、それら元素の悪影響の軽減を図ることも有効な対策とされている。しかし、製鋼技術上及びコスト経済性の観点から、PやSを低減してメリヤス針の衝撃特性の向上を図るには限界がある。
[0007]
 また、衝撃特性を向上させる手段として金属組織の微細化が有効であることは従来から知られている。例えば、特許文献1及び2には、Ti、Nb、Vなどの炭窒化物形成元素を添加してそれらの元素の微細炭窒化物を利用して金属組織を微細化する技術が開示されている。しかし、これらの元素は、Cが0.8mass%以下の亜共析組成の鋼の靱性向上対策として添加されるのが一般的であった。
 特に、200~350℃の低温焼戻し状態でのマルテンサイト相の衝撃特性に対する個々の第3元素の影響(特に相互作用)に関しては十分に解明されておらず、個々の元素の効果を等価と見なして成分設計されるケースが多くあった。
[0008]
 例えば、特許文献1に記載された技術では、C:0.5~0.7mass%の亜共析鋼を対象として、V、Ti、Nbなどの炭窒化物形成元素を添加することで、旧オーステナイト粒を微細化し、靱性値(衝撃特性)を向上させている。
[0009]
 特許文献2に記載された技術では、C:0.60~1.30mass%の亜共析鋼から過共析鋼の広範な炭素含有量の鋼を対象とし、必要に応じてNi:1.8mass%以下、Cr:2.0mass%以下、V:0.5mass%以下、Mo:0.5mass%以下、Nb:0.3mass%以下、Ti:0.3mass%以下、B:0.01mass%以下、Ca:0.01mass%以下の一種または二種以上を添加して、未溶解炭化物の体積率(Vf)を(15.3×Cmass%-Vf)が8.5超~10.0未満の範囲となるようにコントロールすることで衝撃特性を向上させている。

先行技術文献

特許文献

[0010]
特許文献1 : 特開2009-24233号公報
特許文献2 : 特開2006-63384号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0011]
 しかしながら、特許文献1に記載された技術は、亜共析鋼に限定されたものであり、V、Ti、Nbなどの炭窒化物形成元素を添加することで、それらの微細炭窒化物によって旧オーステナイト粒を微細化する効果を期待した技術である。また、特許文献1に記載された技術は、炭素レベルが亜共析組成であるため、フェライト母相の成形性を改善した技術でもある。このため、この技術を、メリヤス針のような高硬度が求められる機械部品へ適用することは難しい。
[0012]
 また、特許文献2に記載された技術では、炭素含有量が0.67~0.81mass%の範囲の亜共析鋼について、Mo、V、Ti、Nb、Bなどを添加している。このMo、V、Ti、Nb、Bなどの添加は、あきらかに亜共析鋼の特性改善を意図した添加と解される。特許文献2には、0.81mass%を超える炭素量の鋼における個々の第3元素の作用とその最適化に関する開示は全くない。
 さらに、特許文献2に記載された技術では、第3元素の添加量に関し、衝撃値に悪影響を及ぼさない上限値を規定しているだけであり、その下限値を規定していない。このことから、特許文献2には、第3元素を意図した範囲で添加して、添加元素の作用によって積極的に衝撃特性の向上を図った技術の開示もないといえる。
[0013]
 さらに、特許文献1、特許文献2には、高炭素冷延鋼板について、3~15分のような短時間の溶体化処理保持時間で焼入れ、200~350℃の低温焼戻しにより、所望の衝撃特性及び所定硬さを有利に改善するような技術の開示はなく、また、板厚が1.0mm未満の鋼板について衝撃特性を評価した技術の開示もない。
 そこで、本発明は、短時間の溶体化処理後、焼入れ及び低温焼戻し処理を施したのちに、衝撃値が5J/cm 以上で、かつ硬さが600~750HVの範囲である機械的特性を発現することができる、板厚が1.0mm未満の高炭素冷延鋼板(以下、単に「冷延鋼板ともいう」)を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

[0014]
 本発明者らは、上記した課題を解決するために、高炭素冷延鋼板の化学成分の適正な添加範囲と鋼中の炭化物の粒径や存在形態について鋭意検討した。
 本発明は、加工性、焼入れ性、低温焼戻し後の硬さと靱性などの観点からメリヤス針に好適なC:0.85mass%以上1.10mass%以下の炭素量に限定したものであるが、その炭素量の範囲で第3元素としてNbを所定の範囲添加し、炭化物の平均粒径と球状化の程度を制御することが目的の特性の発現に有効であるとの知見を得たのが本技術の核心である。
[0015]
 特に本発明者らは、従来、靱性評価が難しかった板厚1.0mm未満の鋼板を対象とした、靭性評価のための新しい試験法(新衝撃試験法)を開発した。新しい試験法(新衝撃試験法)を図1および図2に示す。
 この新衝撃試験法を利用して、種々の第3元素を添加した、板厚1.0mm未満の高炭素冷延鋼板について、焼入れ低温焼戻し状態の衝撃値を調査した。その結果、所定量のNb添加が唯一、上記した目的の特性を満足するという新規な知見を得た。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
[0016]
 すなわち、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究し、基本成分をC:0.85~1.10mass%、Mn:0.50~1.0mass%、Si:0.10~0.35mass%、P:0.030mass%以下、S:0.030mass%以下、Cr:0.35~0.45mass%の範囲に規定した高炭素鋼に0.005~0.020mass%のNbを添加することを必須とし、炭化物の球状化と平均粒径を所定の範囲に制御することにより、優れた焼入れ性と優れた靱性とを兼備した高炭素冷延鋼板を得ることができ、さらに焼入れ処理時間の短縮や焼戻し温度の低下も可能であることを見出した。また、薄板の衝撃特性を適正に評価する試験方法を採用することで、適正な化学成分および炭化物の球状化率、平均粒径を規定することができるようになった。
 まず、本発明者らが行った実験結果について説明する。
 mass%で、1.01%C-0.26%Si-0.73%Mn-0.42%Cr-0.02%Moを含み、さらにNbを0%、0.010%、0.020%、0.055%と変化させて添加し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の熱延鋼板(4mm厚)に、冷間圧延(圧下率:25~65%、最終は3~50%)と、軟化焼鈍および球状化焼鈍(640~700℃)とを、それぞれ5回繰り返して、冷延鋼板(1mm未満)とした。得られた冷延鋼板に、加熱温度を780℃、800℃の2水準で、保持時間を0~16分の範囲で変化させた溶体化処理を施したのち、油焼入れして、ビッカース硬さ(HV)を測定した。得られた結果を、溶体化処理の加熱保持時間(分)と焼入れ硬さ(HV)との関係で図3(加熱温度:800℃)、図4(加熱温度:780℃)に示す。
 図3、図4から、Nb含有量が0.010mass%である冷延鋼板が、最も短い加熱保持時間で、700HVを超える焼入れ硬さを確保できることがわかる。Nb含有量が0.010mass%を超えて増加すると、短時間加熱保持での硬さ上昇は鈍化する。図4の結果から、溶体化処理の加熱温度が780℃である場合に、焼入れ硬さが700HVに達する加熱保持時間を求め、Nb含有量との関係で図5に示す。
 図5から、Nb含有量が0.020mass%以上では、焼入れ硬さが700HVに達する溶体化処理の加熱保持時間はほぼ一定となる。Nb含有量が0.005~0.015mass%の範囲では、所望の焼入れ硬さ(700HV)を確保するための溶体化処理の加熱保持時間が最も短くなり、しかも安定した焼入れ性を確保できる。さらに、この範囲のNb含有量であれば、溶体化処理の加熱保持時間を短時間とすることができる。このことから、Nb含有量を0.005~0.015mass%の範囲とすることは、針加工メーカーで問題とされる焼伸びばらつきや焼曲りを防止できる対策として有効となることを知見した。
 また、各種Nb含有量の冷延鋼板に、加熱温度:800℃、加熱保持時間:10分とする溶体化処理を施し、油焼入れしたのち、さらに焼戻し処理を施した。焼戻し処理では、焼戻し温度は、150℃、200℃、250℃、300℃、350℃の各種温度とし、保持時間を1時間とした。焼戻し処理後、衝撃特性を調査した。なお、衝撃特性は図1、図2に示す新試験法を用いて行った。得られた結果を図6に示す。衝撃値は、焼戻し温度が200℃以上の場合には、Nb含有量が0.010mass%の場合が最も高かった。
 図6から、衝撃値:5J/cm が得られる焼戻し温度を求め、Nb含有量との関係で図7に示す。図7から、衝撃値:5J/cm が得られる焼戻し温度は、Nb含有量:0.010mass%の鋼板の場合が最も低い。0.020mass%を超えてNb含有量が増加すると、衝撃値:5J/cm が得られる焼戻し温度は高温側となる。焼戻し温度が高温となると、硬さが低下し、針としての耐久性が低下する。また、Nb含有量が0.005mass%未満では、所望の衝撃値を確保するために、焼戻し温度を高温にする必要があることを知見した。
 図5、図7から、焼戻し後の高い硬さと優れた衝撃特性を兼備させるためには、Nb含有量は0.005mass%が下限、0.020mass%が上限である。さらに、溶体化処理の加熱保持時間を短時間とするには、Nb含有量の上限を0.015mass%とすることが好ましい。
[0017]
 本発明は、かかる知見に基づきさらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
[1]鋼板の化学組成がC:0.85~1.10mass%、Mn:0.50~1.0mass%、Si:0.10~0.35mass%、P:0.030mass%以下、S:0.030mass%以下、Cr:0.35~0.45mass%、Nb:0.005~0.020mass%を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなり、前記鋼板中に分散する炭化物の平均粒径(d av)と球状化率(N SC/N TC)×100%がそれぞれ下記(1)式及び(2)式を満たし、前記鋼板の板厚は1.0mm未満であることを特徴とする高炭素冷延鋼板。
              記
  0.2≦d av≦0.7(μm)   …(1)
  (N SC/N TC)×100≧90% …(2)
 ここで、(1)式の平均粒径(d av)は、鋼板断面で観察される個々の炭化物と同等の面積の円を想定したときの個々の円の直径(円相当径)の平均値である。
 また、(2)式のN TC及びN SCは、それぞれN TC:観察面積100μm 当たりの炭化物の総個数、N SC:d /d が1.4以下の条件を満たす炭化物個数であり、ここで炭化物の長径をd 、短径をd とする。
[2]前記化学組成が、さらに、Mo及びVの内から選ばれる1種または2種を含有し、それぞれの含有量がいずれも0.001mass%以上0.05mass%未満であることを特徴とする、前記[1]に記載の高炭素冷延鋼板。
[3]前記[1]又は[2]に記載の化学組成からなる熱延鋼板に冷間圧延及び球状化焼鈍を繰り返し行い高炭素冷延鋼板を製造する方法において、前記高炭素冷延鋼板中に分散する炭化物の平均粒径(d av)と、球状化率(N SC/N TC)がそれぞれ下記(1)式及び(2)式を満たし、前記高炭素冷延鋼板の板厚は1.0mm未満であることを特徴とする高炭素冷延鋼板の製造方法。
               記
  0.2≦d av≦0.7(μm)   …(1)
  (N SC/N TC)×100≧90% …(2)
 ここで、(1)式の平均粒径(d av)は、鋼板断面で観察される個々の炭化物と同等の面積の円を想定したときの個々の円の直径(円相当径)の平均値である。
 また、(2)式のN TC及びN SCは、それぞれN TC:観察面積100μm 当たりの炭化物の総個数、N SC:d /d が1.4以下の条件を満たす炭化物個数であり、ここで炭化物の長径をd 、短径をd とする。
[4]前記熱延鋼板に冷間圧延及び球状化焼鈍を繰り返し行う回数を2~5回とすることを特徴とする、前記[3]に記載の高炭素冷延鋼板の製造方法。
[5]前記冷間圧延の圧下率が25~65%で、前記球状化焼鈍の温度が640~720℃であることを特徴とする、前記[3]又は[4]に記載の高炭素冷延鋼板の製造方法。

発明の効果

[0018]
 本発明に係る高炭素冷延鋼板は、板厚1.0mm未満、特に板厚0.4~0.7mmという薄い高炭素冷延鋼板で、炭化物の平均粒径の大きさを0.2~0.7μmの大きさに制御し、なおかつ球状化率を90%以上に制御した鋼板である。この鋼板に、焼入れ、焼戻しの熱処理を施すと、3~15分という短時間の溶体化処理でも焼入れ、低温焼戻しの熱処理により良好な衝撃特性(衝撃値:5J/cm 以上)及び硬さ特性(600~750HV)が得られる。
[0019]
 さらに、本発明に係る高炭素冷延鋼板は、短時間の溶体化処理後、焼入れして不可避の残留γ相を含むマルテンサイト相にした後、200~350℃のいわゆる低温焼戻しを行う条件下で、従来の高炭素冷延鋼板に対して硬さと衝撃特性(靱性)のバランスの点で明確な優位性を発揮する。つまり、本発明に係る高炭素冷延鋼板を用いれば、優れた焼入れ性を確保しつつ、焼入れ焼戻し後の靭性に優れた高炭素鋼製機械工具部品を得ることができる。特に本発明で開示される冷延鋼板は、硬さと靱性のバランスのみならず耐摩耗性や耐疲労特性が求められる、メリヤス針のような過酷な使用環境下で優れた耐久性が求められる用途に好適である。

図面の簡単な説明

[0020]
[図1] 本発明の評価に用いた衝撃試験の試験装置の例を示す説明図である。
[図2] 本発明の評価に用いた衝撃試験の試験片の形状を示す説明図である。
[図3] 焼入れ硬さと溶体化処理の加熱保持時間との関係を示すグラフである(加熱温度:800℃)。
[図4] 焼入れ硬さと溶体化処理の加熱保持時間との関係を示すグラフである(加熱温度:780℃)。
[図5] 焼入れ硬さ700HVが得られる溶体化処理の加熱保持時間とNb含有量との関係を示すグラフである。
[図6] 衝撃値と焼戻温度との関係を示すグラフである。
[図7] 衝撃値:5J/cm が得られる焼戻温度とNb含有量との関係を示すグラフである。

発明を実施するための形態

[0021]
 以下、本発明の実施の形態を説明する。
 まず、本発明に係る鋼板は、熱延鋼板を、必要に応じて軟化焼鈍を行い、冷間圧延と球状化焼鈍を交互に繰り返し、板厚1.0mm未満の高炭素冷延鋼板として得られるものである。その後、この高炭素冷延鋼板に所定の二次加工及び溶体化処理を行い、焼入れ、焼戻し処理を施し、メリヤス針等の部材(機械部品)に供するものである。
[0022]
 まず、本発明鋼板の化学成分を、C:0.85~1.10mass%、Mn:0.50~1.0mass%、Si:0.10~0.35mass%、P:0.030mass%以下、S:0.030mass%以下、Cr:0.35~0.45mass%、Nb:0.005~0.020mass%に規定した理由について以下に説明する。
[0023]
 C:0.85~1.10mass%
 Cは高炭素冷延鋼板の熱処理後に十分な硬さを得るための必須元素である。その下限値は、メリヤス針等のような精密部品で600~750HVの硬さを確保できるように、またその上限値は、多種多様の冷間加工を阻害しないレベルの炭化物量に制御できるように決定した。つまり、下限値は、短時間の焼入れ焼戻し処理で安定して600HVの硬さを確保するため0.85mass%に規定した。また、上限値は、打抜き性、スェージング性、曲げ性、切削性など多岐にわたる塑性加工に耐えうる上限として1.10mass%に規定した。冷間圧延と球状化焼鈍を繰り返すことで炭化物の球状化処理を行うと冷間加工性が改善される。しかし、Cが1.10mass%を超えると、熱間圧延工程、冷間圧延工程での圧延負荷が高くなり、またコイル端部の割れの頻度が著しく高くなるなど、製造工程上の問題も顕在化する。このため、Cは0.85~1.10mass%の範囲に規定した。なお、好ましくは、0.95~1.05mass%である。
[0024]
 Mn:0.50~1.0mass%
 Mnは鋼の脱酸に有効な元素であるとともに、鋼の焼入れ性を向上させて所定の硬さを安定的に得ることができる元素である。過酷な用途に適用される高炭素鋼板を対象とした場合、0.50mass%以上で本発明の効果が顕著となる。そこで、下限値は0.50mass%に規定した。一方、1.0mass%を超えると熱間圧延時にMnSが多量に析出して粗大化するため、部品加工時に割れなどが多発するようになる。そこで、上限値は1.0mass%に規定した。このようなことから、Mnは0.50~1.0mass%の範囲に規定した。なお、好ましくは0.50~0.80mass%である。
[0025]
 Si:0.10~0.35mass%
 Siは鋼の脱酸元素であるため清浄鋼を溶製する上で有効な元素である。また、Siはマルテンサイトの焼戻し軟化抵抗を有する元素である。このようなことから、下限値は0.10mass%に規定した。また、多量に添加すると低温焼戻しでのマルテンサイトの焼戻しが不十分となり、衝撃特性を劣化させるため、上限値は0.35mass%に規定した。このため、Siは0.10~0.35mass%の範囲に規定した。
[0026]
 P:0.030mass%以下、S:0.030mass%以下
 P、Sは不純物元素として不可避的に鋼中に存在し、何れも衝撃特性(靱性)に悪影響を及ぼすため、できる限り低減することが好ましい。Pは0.030mass%まで、Sは0.030mass%までの含有は実用上問題ない。このようなことから、Pは0.030mass%以下、Sは0.030mass%以下に規定した。なお、より優れた衝撃特性を維持するためにはPは0.020mass%まで、Sは0.010mass%までの含有とすることが好ましい。
[0027]
 Cr:0.35~0.45mass%
 Crは鋼の焼入れ性を向上させる元素ではあるが、炭化物(セメンタイト)中に固溶して加熱段階での炭化物の再溶解を遅滞させるため、多量に添加すると逆に焼入れ性を阻害する。そのため、Crの上限値を0.45mass%に規定した。焼入れ焼戻し後の硬さと衝撃特性のバランスより、Crの下限値は0.35mass%に規定した。このようなことから、Crは0.35~0.45mass%の範囲に規定した。
[0028]
 Nb:0.005~0.020mass%
 Nbは、従来から、熱間圧延時に鋼の未再結晶温度域を拡大し、同時にNbCとして析出しオーステナイト粒の微細化に寄与する元素であることが知られている。このため、高炭素鋼においても冷間圧延工程以降における組織の微細化効果を期待して添加される場合がある。本発明では、焼入れ後の低温での焼戻しによる靭性回復を主目的に、Nbを0.005~0.020mass%添加する。微量のNb添加であれば、組織の微細化に寄与するほどのNbCは形成されず、Nbは希薄固溶状態となっている。Nbが希薄固溶状態となっていることにより、BCC構造であるフェライト相とマルテンサイト相中でのCの拡散が促進されるものと考えられる。すなわち、焼入れ処理における加熱時に球状炭化物からフェライト相へ溶けたCのオーステナイト相への拡散、および、焼戻し処理における加熱時にマルテンサイト相中の過飽和固溶Cの拡散と析出が促進される。その結果、短時間加熱での焼入れ性の向上と低温焼戻し処理による靭性の回復とを両立させることができると、現時点では考えている。Nbが0.020mass%を超えて添加されると、NbCの析出が顕著になり、Nbの希薄固溶状態が確保できず、Nbの希薄固溶状態に起因するCの拡散の促進効果が認められなくなる。このため、Nb添加量の上限は0.020mass%に規定した。なお、好ましくは0.015mass%以下である。一方、Nb添加量が0.005mass%未満では、上記した効果を期待できなくなる。このため、Nb添加量の下限は0.005mass%に規定した。このようなことから、Nbは0.005~0.020mass%の範囲に規定した。
[0029]
 上記した成分が基本の成分であるが、本発明では任意の選択元素として、必要に応じて、さらに、Mo及びVの内から選ばれる1種または2種を含有できる。
 Mo及びVは、不可避的にそれぞれMo:0.001mass%未満、V:0.001mass%未満含有することがある。さらに本発明では、任意の選択元素として、焼入れ性や焼戻し後の衝撃特性を向上させるために、MoとVを不可避的に含有する水準よりも多く添加することができる。しかし、MoやVを所定量以上添加するとNbの添加効果は失われるので、Nbの添加効果を最大限発揮するために、添加する場合には、MoとVの含有量を以下の範囲で制限することが好ましい。
[0030]
 Mo:0.001mass%以上0.05mass%未満
 Moは鋼の焼入れ性向上に有効な元素であるが、添加量が多いと200~350℃の低温焼戻しでは衝撃特性を悪化させることがある。したがって、添加する場合には、不可避的に含有する水準よりも多い0.001mass%以上で、衝撃特性を阻害しない範囲である0.05mass%未満に規定した。なお、好ましくはMoの添加は、0.01~0.03mass%である。
[0031]
 V:0.001mass%以上0.05mass%未満
 Vは鋼組織を微細化することで衝撃特性の向上には有効な元素であるが、焼入れ性を悪化させることがある元素である。したがって、添加する場合には、不可避的に含有する水準よりも多い0.001mass%以上で、焼入れ性を阻害しない範囲で0.05mass%未満に規定した。なお、好ましくはVの添加は、0.01~0.03mass%である。上記した成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。
[0032]
 次に、本発明に係る鋼板の炭化物について説明する。
 本発明の高炭素冷延鋼板では、鋼板中に分散する炭化物の平均粒径(d av)と、球状化率(N SC/N TC)がそれぞれ下記(1)式及び(2)式を満たすことが必要である。
  0.2≦d av≦0.7(μm)   …(1)
  (N SC/N TC)×100≧90% …(2)
 ここで(1)式の平均粒径(d av)(μm)は、鋼板断面で観察される個々の炭化物と同等の面積の円を想定したときの個々の円の直径(円相当径)の平均値である。平均粒径(d av)が、この範囲にあると、衝撃特性に優れ、さらに短時間の溶体化処理でも所望の焼入れ硬さが容易に達成できるという効果がある。平均粒径(d av)が、0.2μm未満であると、経験上、針形状への加工である二次加工時の負荷が増大し、また、0.7μmを超えると短時間の溶体化処理では所望の焼入れ性向上が達成し難くなり好ましくない。
[0033]
 また、本発明では、炭化物が球状化している割合である球状化率を(2)式のN TC及びN SCで定義した。ここにおいて、N TCは、観察面積100μm 2あたりの炭化物の総個数である。また、N SCは、同一観察視野で球状化しているとみなせる炭化物の個数であり、d /d :1.4以下の条件を満たす炭化物個数とした。ここで炭化物の長径をd 、短径をd とした。
[0034]
 炭化物は完全な球状に形成されているとは云えず、また観察面によっても楕円形として観察される場合が多いので、長径と短径との比(d /d )により、球状化の程度を規定した。このような事情から、本発明においては、d /d :1.4以下の条件を満たす炭化物を球状化しているとみなしてその個数であるN SCを定義した。また、球状化率(N SC/N TC)×100が、90%以上であるとしたのは、この範囲であれば鋼板の二次加工性が良好となるとの経験的な知見を見出したためである。
[0035]
 以上、説明した炭化物の平均粒径及び球状化率の測定は、走査型電子顕微鏡を用いて、二次電子像を2千倍の倍率で観察することにより行った。
 炭化物は、冷間圧延後の鋼板を用いて熱処理前のサンプルの圧延方向と直角方向で板状試験片を切り取り、樹脂埋込等の処理を行い、板厚中央部近辺の観察面積100μm 2の範囲で、円相当径、d /d 比、N TC、N SCを測定し、5視野分の平均値を算出した。これら測定及び算出は、市販の画像解析ソフト「winroof」(商品名)を用いた。
[0036]
 次に、本発明に係る鋼板の製造方法について説明する。
 本発明で用いる熱延鋼板は、通常の製造条件で得られるものでよい。例えば、前記した化学組成を有する鋼片(スラブ)を1050~1250℃に加熱し、800~950℃の仕上温度で熱間圧延し、600~750℃の巻取温度でコイルとすることで製造できる。なお、熱延鋼板の板厚は、所望の冷延鋼板の板厚から好適な冷間圧下率となるように適宜設定すればよい。
[0037]
 冷間圧延(25~65%)と球状化焼鈍(640~720℃)を複数回繰り返すことで、板厚1.0mm未満の高炭素冷延鋼板を製造する。この冷間圧延(25~65%)と球状化焼鈍(640~720℃)は、それぞれ2~5回繰り返すことが好ましい。
[0038]
 本発明では、冷間圧延(25~65%)と球状化焼鈍(640~720℃)を複数回繰り返す。その理由は、以下に述べるように炭化物の平均粒径(d av)と、球状化率(N SC/N TC)×100がそれぞれ上記した(1)式及び(2)式を満たすように制御するためである。
 まず、冷間圧延によって炭化物にひびが導入され、球状化焼鈍によってくだけはじめた炭化物が球状化していく。しかし、1回の球状化焼鈍回数のみでは炭化物の球状化率を90%以上まで高めるのは困難であり、棒状又は板状の炭化物が残留する。そのような場合、焼入れ性にも悪影響を及ぼし、精密部品への冷間加工性を悪化させる。そのため、炭化物の球状化率(N SC/N TC)×100を90%以上にするには、冷間圧延と球状化焼鈍を交互に繰返すことが最適である。その結果として鋼板中に微細かつ球状化率の高い炭化物の分布が得られる。
 特に好ましくは、2~5回の冷間圧延と2~5回の球状化焼鈍である。
[0039]
 冷間圧延圧下率が25%未満の鋼板(冷延鋼板)に、球状化焼鈍を施すと、炭化物が粗大化してしまう。一方、冷間圧延圧下率が65%超では、冷間圧延操業の負荷が大きすぎることがある。このため、冷間圧延圧下率は、好ましくは25~65%の範囲である。
 なお、最終の冷間圧延では、冷間圧延後に球状化焼鈍を施さないため、圧下率の下限は特に限定されない。
[0040]
 球状化焼鈍温度が、640℃より低いと、球状化が不十分となりやすく、720℃より高温で球状化焼鈍を繰り返すと炭化物が粗大化しやすい。このため、球状化焼鈍温度は640~720℃の範囲とすることが好ましい。球状化焼鈍の保持時間は、この範囲の温度で9~30時間の範囲で適宜選択して行うことができる。
 なお、冷間圧延前の熱延鋼板の軟化を目的とする軟化焼鈍についても、同様の温度範囲が好ましい。
 以上が本発明に係る高炭素冷延鋼板の製造方法であるが、この鋼板を最終の目的である、メリヤス針のような機械部品とするには、所定の形状に加工したのち、以下の熱処理を行うことが好ましい。
[0041]
 90%以上球状化した炭化物が分布した高炭素冷延鋼板を、各種機械部品に加工後(プレス加工、溝切加工、スエージング加工等)、溶体化処理し、急冷(焼入れ)し、ついで焼戻し処理を施す。溶体化処理は、加熱温度を760~820℃で、保持時間を短時間の3~15分とする。焼入れ(急冷)は油を用いることが好ましい。焼戻し処理では、焼戻し温度を200~350℃とすることが好ましい。さらに、より好ましくは250~300℃である。これにより、硬さ600~750HVを持つ各種機械部品を製造することができる。
[0042]
 溶体化処理の保持時間が、15分より長いと炭化物が溶け込みすぎ、オーステナイト粒が粗大化することで焼入れ後のマルテンサイト相が粗くなり、衝撃特性が劣化する。そのため溶体化処理の保持時間の上限は15分が好ましい。一方3分より短いと、炭化物の溶け込みが不十分で焼きが入りにくくなるため、溶体化処理の保持時間の下限は3分が好ましい。より好ましくは5~10分の範囲である。
[0043]
 焼戻し温度が200℃未満ではマルテンサイト相の靱性回復が不十分である。一方、焼戻し温度が350℃を超えると衝撃値は回復するが硬さが600HVを下回るため、耐久性や耐摩耗性が問題となる。よって焼戻し温度の適正範囲は200~350℃とすることが好ましい。なお、より好ましくは250~300℃である。焼戻しの保持時間は、30分~3時間の範囲で適宜選択して行うことが出来る。
実施例
[0044]
 種々の化学組成を有する鋼を真空溶解して30kgの鋼塊に鋳込んだ。この鋼塊を分塊圧延後、加熱温度1150℃、仕上げ温度870℃の条件で熱間圧延を行い、4mm及び2mmの熱延鋼板とした。その後、表1に示す製造条件で冷間圧延及び球状化焼鈍を行って板厚が0.4mm以上1.0mm未満の冷間圧延鋼板とした。ついで、この冷間圧延鋼板に、表2に示す条件で、溶体化処理(800℃の炉に10分装入)を行ったのち油焼入れし、焼戻し(焼戻し温度:250℃)を行った。
 焼戻し処理後の鋼板から所定の試験片を採取し、衝撃試験及び硬さ測定試験に供した。硬さ測定は、JIS Z 2244の規定に準拠して、ビッカース硬度計で荷重5kg重(試験力:49.0N)の条件で行った。
[0045]
 衝撃特性はシャルピー衝撃試験により評価した。衝撃試験片は、ノッチ幅0.2mmのUノッチ試験片(ノッチ深さ2.5mm、ノッチ半径0.1mm)とした。試験装置に試験片を設置した状態を図1に、試験片の形状を図2に示す。このような試験片及び試験方法を採用したのは以下の理由からである。
[0046]
 本発明が対象とする板厚1.0mm未満の鋼板に対して、従来使用されている金属材料用シャルピー衝撃試験装置では、試験装置の定格容量が50J以上と大きすぎてしまうため、正確な評価ができないという問題があった。試験装置の定格容量が50Jより小さい衝撃試験装置として、1Jの衝撃試験装置((株)東洋精機製作所製、型式DG-GB)を用いた。この試験装置は、炭素繊維強化プラスチックのシャルピー衝撃試験方法(JIS K 7077)に基づいたシャルピー衝撃試験機である。この試験装置を改良して支持台間距離を60mmから40mmにして用いた。本試験装置で、支持台間距離を60mmから40mmにしたのは、金属材料のシャルピー衝撃試験方法である、JIS規格(JIS Z 2242)に近い条件にするためである。
[0047]
 試験片は、図2に示したように、ノッチ深さ2.5mm、ノッチ半径0.1mm(ノッチ幅0.2mm)とし、Uノッチを放電加工で形成した試験片を用いた。ノッチ半径を小さくしたのは、シャルピー衝撃試験時、1.0mm未満の薄板の場合には板のたわみが問題となるため、応力集中係数を高めることでシャルピー衝撃試験時の板のたわみを最小限にし、安定した衝撃値を得るためである。この試験方法及び試験片形状を採用することで、実際の使用環境に近い状態の衝撃特性を得ることができることを確認している。本発明では衝撃値の数値が5J/cm 以上である場合に衝撃特性が優れていると判断した。
[0048]
[表1]


[0049]
[表2]


[0050]
(実施例1)
 溶体化処理後に油焼入れし、焼戻した後の断面硬さ及び衝撃値に及ぼす各種添加元素の影響を確認した。試験結果を化学成分と共に、表3及び表4に示す。冷延鋼板の製造条件は、両者共に、5Aの条件(表1)を用いた。圧下率は、表1に記載されている範囲で制御した。
 断面硬さは、圧延直角方向に切り出した試験片を樹脂に埋め込み、断面を研磨し、板厚中央部で測定した。衝撃値は、圧延平行方向に採取した衝撃試験片を用いて測定した。得られた結果(硬さ、衝撃値)を表3及び表4に示した。
 衝撃値が5J/cm より大きく、かつ硬さが600~750HVを満足する場合の評価を◎、衝撃値及び硬さの上記目標値のいずれかが満足していないものを×とした。
[0051]
[表3]


[0052]
[表4]


[0053]
 表3に示す例では、C量が下限値を外れたもの(鋼種No.1)は、衝撃値及び焼入れ焼戻し硬さが目標値を外れていた。C量が上限値をはずれたもの(鋼種No.6)は、焼入れ焼戻し硬さが目標値600~750HVを上回り、衝撃値が目標値5J/cm を下回っていた。Nbを含有しないものは、C量が0.85mass%のもの(鋼種No.2、比較例)、C量が1.10mass%のもの(鋼種No.4、比較例)のいずれも、衝撃値が目標値5J/cm を下回り、評価は×であった。それに対し、発明例の化学成分に相当する鋼板(鋼種No.3、5、7、8、9、10)は、焼入れ焼戻し硬さが目標範囲内であり、衝撃特性も優れていた。
[0054]
 表4に示す例では、発明例に相当する化学成分の鋼板(鋼種No.15、16、17、19、21)は、すべて焼入れ焼戻し硬さが目標値600~750HVを満たし、衝撃特性に優れていた。Nbを添加しないもの(鋼種No.11)、Nbを添加せずV添加量が0.05mass%を超えるもの(鋼種No.12)、Nbを添加せずMo添加量が0.05mass%を超えるもの(鋼種No.13)、Nb+Mo複合添加でNb添加量が0.005mass%より少ないもの(鋼種No.14)、Nb+Mo複合添加でNb添加量が0.020mass%を超えるもの(鋼種No.18)、Nb+Mo複合添加でMo添加量が0.05mass%より多いもの(鋼種No.20)、Nb+Mo+V複合添加でV添加量が0.05mass%より多いもの(鋼種No.22)は、焼入れ焼戻し硬さが目標値600~750HVを満たしているが、衝撃特性が劣っているか、衝撃特性が目標値5J/cm を満足しているが焼入れ焼戻し硬さが低下しているか、焼入れ焼戻し硬さおよび衝撃特性がともに目標値の下限を下回っていた。
[0055]
(実施例2)
 鋼種No.3(表3)の化学成分を有する熱延鋼板を用いて、表1に記載の冷間圧延と球状化処理の製造条件を変化させて、表5に示す板厚の冷延鋼板を得た。得られた冷延鋼板の球状化率、炭化物平均粒径を、表5に示す。さらに、得られた冷延鋼板に、実施例1と同様に、表2に示す条件で、溶体化処理後に油焼入れと低温焼戻を施した。得られた冷延鋼板の、溶体化処理後焼入れ焼戻した後の断面硬さ及び衝撃値を、実施例1と同様に測定し、表5に示した。
[0056]
[表5]


[0057]
 球状化焼鈍回数が1回のもの(製造条件No.1)は球状化率が不十分で、衝撃特性が劣っていた。球状化焼鈍回数が2回の場合、球状化焼鈍温度を600~635℃、冷間圧延圧下率を10~20%で組み合わせて、それぞれ2回行うと、球状化が不十分となり、衝撃特性が劣っていた(製造条件No.2A)。球状化焼鈍温度を600~635℃、冷間圧延圧下率を70~85%で組み合わせてそれぞれ2回繰り返すと、衝撃特性は十分であるが、炭化物の平均粒径が下限を外れ、焼入れ焼戻し処理後の硬さが目標値を上回っていた(製造条件No.2C)。
[0058]
 球状化焼鈍温度を640~720℃、冷間圧延圧下率を10~20%で組み合わせてそれぞれ2回繰り返すと、球状化は十分だが、炭化物の平均粒径が目標値の上限を超え、衝撃特性が劣っていた(製造条件No.2D)。これは炭化物が大きすぎると、焼入れ時に、マルテンサイト素地の未溶解炭化物が大きめとなり、破壊時の起点となりやすい未溶解の炭化物とマルテンサイト素地の界面の面積が大きいため、衝撃特性に劣ることになったものと思われる。それに対し、球状化焼鈍温度を640~720℃、冷間圧延圧下率を25~65%の組み合わせでそれぞれ2回繰り返すと球状化率、炭化物粒径、焼入れ焼戻し後の硬さはそれぞれ目標値の範囲に収まり、衝撃特性が優れていた(製造条件No.2B)。
[0059]
 球状化焼鈍回数を4回にしたとき、1回目~4回目の冷間圧延圧下率を全て25~65%にすると、球状化率、炭化物粒径が目標値の範囲におさまり、衝撃特性も優れていた(製造条件No.5A)。製造条件No.5Aと球状化焼鈍温度を同じにして、1回目~4回目の冷間圧延圧下率を全て10~20%にすると、炭化物粒径が目標値を超えて大きくなりすぎ、衝撃特性も劣っていた(製造条件No.5B)。
[0060]
(実施例3)
 鋼種No.16(表4)の化学成分を有する熱延鋼板を用いて、表1に記載の製造条件を変化させて、表6に示す板厚の冷延鋼板を得た。得られた冷延鋼板の球状化率、炭化物平均粒径を、表6に示す。さらに、得られた冷延鋼板に、実施例1と同様に、表2に示す条件で、溶体化処理後に油焼入れと低温焼戻を施した。得られた冷延鋼板の、溶体化処理後焼入れ焼戻した後の断面硬さ及び衝撃値を、実施例1と同様に測定し、表6に示した。
 本発明の製造方法に相当する製造条件No.2B、No.5Aを用いて冷間圧延、球状化焼鈍を行った鋼板は、目標球状化率、目標衝撃値を満たしていた。
[0061]
[表6]


産業上の利用可能性

[0062]
 本発明範囲の化学成分を有する鋼板は、Nb添加によって焼入れ性が向上し、熱処理後の衝撃特性が改善されるため、過共析鋼で過酷な環境で使用される機械工具部品用途に適している。
 Cが0.85~1.10mass%の過共析鋼板は、メリヤス針のような過酷な使用環境下で硬さと靭性バランスが求められる用途に好適である。

請求の範囲

[請求項1]
 鋼板の化学組成がC:0.85~1.10mass%、Mn:0.50~1.0mass%、Si:0.10~0.35mass%、P:0.030mass%以下、S:0.030mass%以下、Cr:0.35~0.45mass%、Nb:0.005~0.020mass%を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなり、
前記鋼板中に分散する炭化物の平均粒径(d av)と球状化率(N SC/N TC)×100%がそれぞれ下記(1)式及び(2)式を満たし、前記鋼板の板厚は1.0mm未満であることを特徴とする高炭素冷延鋼板。
               記
  0.2≦d av≦0.7(μm)   …(1)
  (N SC/N TC)×100≧90% …(2)
 ここで、(1)式の平均粒径(d av)は、鋼板断面で観察される個々の炭化物と同等の面積の円を想定したときの個々の円の直径(円相当径)の平均値である。
 また、(2)式のN TC及びN SCは、それぞれN TC:観察面積100μm 当たりの炭化物の総個数、N SC:d /d が1.4以下の条件を満たす炭化物個数であり、ここで炭化物の長径をd 、短径をd とする。
[請求項2]
 前記化学組成が、さらに、Mo及びVの内から選ばれる1種または2種を含有し、それぞれの含有量がいずれも0.001mass%以上0.05mass%未満であることを特徴とする、請求項1に記載の高炭素冷延鋼板。
[請求項3]
 請求項1又は2に記載の化学組成からなる熱延鋼板に冷間圧延及び球状化焼鈍を繰り返し行い高炭素冷延鋼板を製造する方法において、
前記高炭素冷延鋼板中に分散する炭化物の平均粒径(d av)と、球状化率(N SC/N TC)がそれぞれ下記(1)式及び(2)式を満たし、前記高炭素冷延鋼板の板厚は1.0mm未満であることを特徴とする高炭素冷延鋼板の製造方法。
               記
  0.2≦d av≦0.7(μm)   …(1)
  (N SC/N TC)×100≧90% …(2)
 ここで、(1)式の平均粒径(d av)は、鋼板断面で観察される個々の炭化物と同等の面積の円を想定したときの個々の円の直径(円相当径)の平均値である。
 また、(2)式のN TC及びN SCは、それぞれN TC:観察面積100μm 当たりの炭化物の総個数、N SC:d /d が1.4以下の条件を満たす炭化物個数であり、ここで炭化物の長径をd 、短径をd とする。
[請求項4]
 前記熱延鋼板に冷間圧延及び球状化焼鈍を繰り返し行う回数を2~5回とすることを特徴とする請求項3に記載の高炭素冷延鋼板の製造方法。
[請求項5]
 前記冷間圧延の圧下率が25~65%で、前記球状化焼鈍の温度が640~720℃であることを特徴とする請求項3又は4に記載の高炭素冷延鋼板の製造方法。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]

[ 図 6]

[ 図 7]