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1. WO2017002977 - 遺伝的組換えを誘発する方法及びその利用

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明 細 書

発明の名称 遺伝的組換えを誘発する方法及びその利用

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005   0006   0007  

先行技術文献

特許文献

0008  

非特許文献

0009  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0010   0011   0012  

課題を解決するための手段

0013   0014  

図面の簡単な説明

0015  

発明を実施するための形態

0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081   0082   0083   0084   0085   0086   0087   0088   0089   0090   0091   0092   0093   0094   0095   0096  

実施例

0097   0098  

実施例 1

0099  

実施例 2

0100   0101   0102  

実施例 3

0103   0104   0105  

実施例 4

0106  

実施例 5

0107   0108   0109   0110   0111  

実施例 6

0112   0113  

実施例 7

0114   0115  

実施例 8

0116   0117  

実施例 9

0118   0119   0120   0121   0122  

実施例 10

0123  

実施例 11

0124   0125  

実施例 12

0126   0127  

実施例 13

0128  

実施例 14

0129   0130  

実施例 15

0131   0132  

実施例 16

0133   0134  

実施例 17

0135  

実施例 18

0136   0137   0138   0139   0140   0141   0142   0143   0144   0145  

実施例 19

0146   0147   0148   0149  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10   11   12   13   14   15   16   17   18   19   20   21   22   23  

図面

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10   11   12   13   14   15   16   17   18   19   20   21  

明 細 書

発明の名称 : 遺伝的組換えを誘発する方法及びその利用

技術分野

[0001]
(関連出願の相互参照)
 本出願は、2015年7月2日に出願した日本国特許出願である特願2015-133902及び2015年12月2日に出願した日本国特許出願である特願2015-236072の関連出願であって、これらの出願に基づく優先権を主張するものであり、これらの出願に記載された全ての内容は引用により本明細書に組み込まれるものとする。
 本明細書は、遺伝的組換えを誘発する方法及びその利用等に関する。

背景技術

[0002]
 生物資源の質量(バイオマス)を増大させること、なかでも植物バイオマスの増大は、食糧の増産のみならず、地球環境保全、地球温暖化防止、温室効果ガス排出低減の効果があるといえる。したがって、植物バイオマスの増産技術や有用な植物の創出は、極めて重要である。
[0003]
 また、微生物は、様々な産業において有効に利用されている。例えば、セルロースなどの多糖を原料とするバイオエタノール製造においてはより低コストにエタノール発酵を行うために、高温耐性、高アルコール濃度耐性、高アルコール合成能などの特性を持った酵母が期待されている。
[0004]
 有用な植物体や微生物の有する特性は、概して、単一遺伝子ではなく多数の遺伝子発現の影響を受ける量的形質である。量的形質の改変は、通常の変異処理では、一回の操作による形質変化が小さく膨大な世代にわたる処理が必要となってしまう。
[0005]
 そこで、量的形質を改変するためのゲノムの大規模な再編成を効率的に実施できる方法の開発が報告されている(特許文献1、2、3)。これらの方法によれば、細胞においていわゆる制限酵素を一過的に発現させることにより、ゲノム全体のDNA切断を誘発して、同時多発的に多数のゲノム再編成を実現して、多様なゲノム構成の変異体集団を効率的に得ることができることが報告されている。
[0006]
 また、染色体の倍加は、植物品種などの改良において重要な意義を有している。例えば、コムギは、2倍体の一粒系コムギから6倍体の普通コムギが栽培されている。こうしたゲノム倍化が、生産性や脱穀性の向上等、農業上適した性質の獲得につながったと考えられる。人工的にゲノム倍化を誘発することによる耐性植物の創出(特許文献4)や人工的に染色体異数性を誘発することによるストレス耐性の向上した酵母の創出(非特許文献1)が報告されている。
[0007]
 一方、植物では、倍数性の向上が植物の成長に対して負に作用する"high ploidy syndrome"の存在が報告されている(非特許文献2)。また、特定の染色体のみ倍数性が向上する染色体異数性は、動物では種々の遺伝病の原因となるほか、植物においても稔性の低下や生育異常を誘発することが報告されている(非特許文献3)。さらに、出願酵母においても、4倍体特異的な致死遺伝子が報告されている(非特許文献4)。さらに、酵母において、優良形質を備える酵母を選抜するには1000世代以上の継続的な培養が必要である(非特許文献5)。

先行技術文献

特許文献

[0008]
特許文献1 : 特開2011-160798号公報
特許文献2 : 特開2006-141322号公報
特許文献3 : 特開2012-44883号公報
特許文献4 : 特開平11-151050号公報

非特許文献

[0009]
非特許文献1 : Nature. 2010 Nov 11;468(7321):321-5
非特許文献2 : Plant Cell. 2007 Oct;19(10):3090-9
非特許文献3 : PLoS Biol. 2008 Jul 15;6(7):e174
非特許文献4 : Nature. 2006 Oct 5;443(7111):541-7
非特許文献5 : Cell. 2013 Jan 31;152(3):394-405

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0010]
 有用な形質を備える生物体を取得するのにあたってゲノムを再編成する各種の手法が試みられてきている。しかしながら、各種のゲノム再編成は、有用な形質の獲得が可能である反面、望ましい形質の喪失や望ましくない形質の獲得などが生じるという負の作用を生じさせる。したがって、こうした手法を用いたとしても、有用な量的形質を備える生物体を選抜することは非常に困難であり、膨大な時間を要するものであった。
[0011]
 優れた量的形質を備える生物体を取得するには、さらに高度な多様性を有する生物集団を作製し、当該生物集団に対して選抜を行うことが重要である。一方、一層高度な多様性を有する生物集団を構築するには、好ましい形質の喪失又は劣化、致死性の発現等を抑制することも必要である。しかしながら、こうした多様性のある遺伝的組換えを実現する効果的な方法は未だ提供されていない。
[0012]
 本明細書は、上記課題に鑑み、遺伝的組換えを誘発する方法及びその利用を提供する。

課題を解決するための手段

[0013]
 本発明者らは、一層高度な多様性を有する真核生物体集団を創出するために、染色体倍化と、DNA二本鎖切断処理との組合せに着目した。そして、染色体が基本倍化されている親真核生物体の細胞内においてDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を作用させることにより、多様な遺伝的組換えが実現できることを見出した。すなわち、速やかに、高度な多様性を有する真核生物体集団を創出できるという知見を得た。こうした知見に基づき、本明細書は、以下の手段を提供する。
[0014]
(1)真核生物体における遺伝的組換えの誘発方法であって、
 真核生物体が本来的に有する倍数性を超える倍数体である真核生物体の細胞内においてDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を作用させるゲノムセットの改変工程、
を備える、方法。
(2)前記遺伝的組換えは、1又は2以上の塩基の置換、挿入及び欠失による遺伝子突然変異並びに染色体の逆位、不等交叉、交叉、転座、重複、欠失、サイズコピー数の低下、コピー数の増大、染色体倍数化及び染色体異数化からなる群から選択される1種又は2種以上である、(1)に記載の方法。
(3)前記真核生物体は4倍数性以上の倍数体である、(1)又は(2)に記載の誘発方法。
(4)前記遺伝的組換えは、染色体異数化を含む、(1)~(3)のいずれかに記載の誘発方法。
(5)前記遺伝的組換えは、ゲノムサイズの低下又は増加を含む、(1)~(4)のいずれかに記載の誘発方法。
(6)前記遺伝的組換えは、染色体の一部に欠失又は重複を含む、(1)~(5)のいずれかに記載の誘発方法。
(7)前記改変工程は、前記タンパク質の前記DNA二本鎖切断活性を人為的に活性化する工程である、(1)~(6)のいずれかに記載の誘発方法。
(8)前記改変工程は、前記タンパク質の前記DNA二本鎖切断活性についての至適温度より低い温度で作用させる工程である、(1)~(7)のいずれかに記載の誘発方法。
(9)前記改変工程は、前記タンパク質をコードする外来遺伝子の発現によって得られる前記タンパク質を用いる工程である、(1)~(8)のいずれかに記載の誘発方法。
(10)前記タンパク質は多頻度制限酵素である、(1)~(9)のいずれかに記載の誘発方法。
(11)前記多頻度制限酵素は、好熱菌由来の制限酵素である、(10)に記載の誘発方法。
(12)前記多頻度制限酵素は、TaqIである、(11)に記載の誘発方法。
(13)前記真核生物体は、植物体である、(1)~(12)のいずれかに記載の誘発方法。
(14)前記真核生物体は、微生物である、(1)~(13)のいずれかに記載の誘発方法。
(15)前記改変工程に先立って、人為的にゲノムサイズ増大操作によって親真核生物体を取得する倍数化工程を備える、(1)~(14)のいずれかに記載の誘発方法。
(16)前記倍数化工程は、倍化誘発剤を用いる、(15)に記載の誘発方法。
(17)前記倍数化工程は、細胞融合を用いる、(14)に記載の誘発方法。
(18)改変された真核生物体の生産方法であって、
 真核生物体が本来的に有する倍数性を超える倍数体である親真核生物体の細胞内においてDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を作用させる改変工程、
を備える、方法。
(19)さらに、任意の指標に基づいて意図する真核生物体を選抜する工程、
を備える、(18)に記載の生産方法。
(20)真核生物体集団の生産方法であって、
 本来的に有する倍数性を超える倍数体である親真核生物体の細胞内においてDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を作用させて親真核生物体のゲノムセットを改変する改変工程を備え、
 改変されたゲノムセットを保持する真核生物体の集団を取得する、生産方法。
を備える、生産方法。
(21)本来的に有する倍数性を超える倍数性を有し、DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を発現可能に保持する、真核生物体である育種材料。
(22)育種材料の生産方法であって、
 本来的に有する倍数性を超える倍数体である真核生物体に対して人為的なゲノム増大操作を1回又は2回以上繰り返して、所望の倍数性の真核生物体を得る工程と、
 前記所望の倍数性の真核生物体をDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を発現可能に形質転換する工程と、
を備える、方法。
(23)育種材料の生産方法であって、
 本来的に有する倍数性を超える倍数体である真核生物体をDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を発現可能に形質転換する工程と、
 形質転換された前記真核生物体に対して人為的なゲノム増大操作を1回又は2回以上繰り返して、所望の倍数性の形質転換された真核生物体を得る工程と、
を備える、方法。

図面の簡単な説明

[0015]
[図1] 本開示の概要を示す図である。
[図2] 4倍体コントロール株および4倍体TaqI導入系統植物の形態変化を示す図である。
[図3] 4倍体TaqI導入系統植物の形態変化株染色体のタイリングアレイを用いたコピー数解析を示す図である。
[図4] TS3055系統T2世代の播種後9週間目の植物体を示す図である。
[図5] 2倍体および4倍体TaqI系統植物の熱処理後14週生育後の乾燥重量を示す図である。
[図6] 2倍体、4倍体野生株および、2倍体、4倍体TaqI導入系統の倍数性ヒストグラムを示す図である。
[図7] 8倍体TaqI導入系統後代の乾燥重量増加を示す図である。
[図8] 播種後40日目の8倍体野生株およびTaqI導入8倍体系統の生育を示す図である。
[図9] TCL878_P8-5#3染色体のタイリングアレイを用いたコピー数解析を示す図である。
[図10] TaqI遺伝子酵母発現用ベクターの構造の概要を示す図である。
[図11] ゲノム再編効率の評価のためのGF-FPレポーター遺伝子を含むプラスミドの構築を示す図である。
[図12] GF-FPレポーター遺伝子を用いたゲノム再編評価法の概要を示す図である。
[図13] BY4741+GFP(HIS)株を用いた各誘導温度でのTaqI発現量の比較を示す図である。
[図14] BY4741+GFP(HIS)株を用いた一過的な熱処理によるゲノム再編効率を示す図であり、Aは、熱処理直後における再編効率を示し、Bは回復培養後における再編効率を示す。
[図15] BY4741+GFP(HIS)株を用いた穏やかな熱処理によるゲノム再編効率を示す図である。
[図16] 1倍体、2倍体及び4倍体酵母を用いたゲノム再編効率の比較を示す図である。
[図17] 1倍体、2倍体及び4倍体酵母を用いたTaqI処理時間による倍数性ヒストグラムを示す図である。
[図18] 集積培養工程における菌体量の推移を示す図である。
[図19] OC2A-C5株のキシロース資化能力についての発酵試験結果(5%キシロース発酵培地)を示す図である。
[図20] OC2A-C5株のキシロース資化能力についての発酵試験結果(高糖濃度のグルコース+キシロース混合発酵培地(80 g/L グルコース及び100 g/Lキシロース)を示す図である。
[図21] OC2A-TT株の耐熱性(40℃)についての発酵試験結果(グルコース+キシロース混合発酵培地(30 g/Lグルコース、30 g/Lキシロース)を示す図である。

発明を実施するための形態

[0016]
 本明細書の開示は、遺伝的組換えの誘発方法及びその利用に関する。本明細書に開示する遺伝的組換えの誘発方法の概要を図1に例示する。図1に示すように、本誘発方法は、真核生物体が本来的に有する倍数性(本明細書において、固有倍数性ともいう。)を超える倍数性を有する真核生物体の細胞内において、DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を作用させて真核生物体のゲノムセットを改変する。真核生物体の倍数化されたゲノムセットは、DNA二本鎖切断酵素によって多様な部位で切断され、遺伝的組換えが生じる結果、種々の遺伝的組換えを包含することができる。
[0017]
 個々の真核生物体がそれぞれ異なる遺伝的組換えによるゲノムセットを保持する結果、ゲノムセット組成の多様性に富む真核生物体集団を構築することができる。こうして得られるゲノムセット組成の多様性に富む真核生物体集団は、同時に、形質の多様性に富む真核生物体集団となる。
[0018]
 すなわち、本誘発方法によれば、固有倍数性を超える倍数体である真核生物体を用いるため、染色体の大規模欠失により致死個体が生じにくくなっている。また、染色体数が増大していることにより、染色体異数性が生じやすくなるとともに、大規模なゲノム再編成が誘発される頻度を増大させることができる。こうした遺伝的組換えによって得られるゲノムセットは、染色体異数性、欠失領域などの大きな変化のほか、種々の変異を包含しうる。このため、本生産方法によって、多様な形質をもつ真核生物個体からなる集団を得ることができる。
[0019]
 従来、4倍体以上などの固有倍数性を超える倍数体は、遺伝子が重複しており、劣性変異が隠蔽され易いため、変異誘発薬剤やガンマ線等の突然変異育種が難しいと言われていた。しかしながら、こうした倍数体の細胞内においてDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を作用させることで、倍数体の従来の欠点を抑制してその長所を利用することでより多様な遺伝的組換えを可能とし、この結果、多様なゲノムセット組成及び形質を有する真核生物体集団を得ることができる。こうした多様性のある真核生物体集団の生産方法は、真核生物体の育種を促進する有用なツールとなる。
[0020]
 本誘発方法によれば、真核生物体に保持されているゲノムセットにおける遺伝的組換えによる染色体や遺伝子の機能ダメージを抑制できるため、遺伝的組換えによるゲノムセット組成の多様性を確保することができる。この結果、真核生物体の染色体の倍化(ゲノムサイズの増大)に伴う不都合の回避と染色体倍化のメリットの実現とを同時にかつ効率的に実現することができる。この結果、形質においても多様性に富む真核生物体の集団を構築できる。
[0021]
 この真核生物体集団は、進化の過程で生じうる新たな形質の獲得した真核生物体、形質の喪失に加え、形質の劣化や向上など備える真核生物体など、形質の獲得、向上、喪失、低下、改変などを種々の態様で備えうる真核生物体の集団となっていると考えられる。
[0022]
 したがって、本開示の方法によって得られる真核生物体集団に対して、所望の指標に基づいて選抜を実施することで、効率的に意図した真核生物体を取得することができる。
[0023]
 本明細書において「ゲノムセット」とは、真核細胞において染色体DNAとして存在し、真核細胞において自己複製可能であって娘細胞に伝達されるDNAをいうものとする。
[0024]
 また、本明細書において「遺伝的組換え」とは、広い意味において、DNA間で起きるDNA切断・再結合現象を意味する。したがって、本明細書における「遺伝的組換え」には、相同組換え、非相同組換を包含する。さらに、本明細書における「遺伝的組換え」は、1又は2以上の塩基の置換、挿入及び欠失等による遺伝子突然変異及び染色体の逆位、不等交叉、交叉、転座、重複、欠失、コピー数の低下、コピー数の増大、染色体倍数化及び染色体異数化等の染色体突然変異を包含する。
[0025]
 「倍数性」とは、概して、生物が有するゲノムセット数を意味する。また、「倍数体」とは、概して、生物が有するゲノムセット数による生物体の表現方法であって、一倍体、二倍体、三倍体等が挙げられる。
[0026]
 本明細書において、「真核生物体が本来的に有する倍数性」とは、その真核生物体が本来的に持っている、その真核生物体におけるゲノム1セットに相当する染色体数(基本数)からなるゲノムセット数を意味している。本明細書において、「固有倍数性」ともいう。
[0027]
 より具体的には、「固有倍数性」とは、その真核生物体の同種又は類縁種において本来的に有しているゲノムセット数と考えられているものが挙げられる。例えば、概して、動物は、2倍数性であるから、固有倍数性は2倍性である。植物の固有倍数性は、様々である。また、微生物においては、例えば、酵母など1倍体及び2倍体であるが、生活環を考慮すると固有倍数性は2倍性である。
[0028]
 本明細書において「固有倍数性を超える倍数体」とは、固有倍数性を超える倍数のゲノムセットを備える真核生物体をいう。
[0029]
 「固有倍数性を超える倍数体」は、動物においては、概して、二倍体を超える倍数体が挙げられる。また、植物においては、種々の倍数体が存在している。「固有倍数性を超える倍数体」は、同質倍数体であってもよいし、雑種などに由来する異質倍数体であってもよい。また、「固有倍数性を超える倍数体」は、整数倍の倍数体のほか、一部の染色体の数が変異している異数性を備える異数体であってもよい。真核生物体の染色体の倍数性については、従来公知の方法によって決定できるほか、後述する実施例で示すように、フローサイトメーターやタイリングアレイによって決定することができる。
[0030]
 以下、本開示の代表的かつ非限定的な実施形態について、適宜図面を参照して詳細に説明する。この詳細な説明は、本発明の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴ならびに発明は、さらに改善された遺伝的組換えを誘発する方法及びその利用を提供するために、他の特徴や発明とは別に、又は共に用いることができる。
[0031]
 また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本開示を実施する際に必須のものではなく、特に本開示の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本開示の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。
[0032]
 本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施例及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。
[0033]
(遺伝的組換えの誘発方法)
 本開示の遺伝的組換えの誘発方法(以下、単に、誘発方法という。)は、真核生物体の固有倍数性を超える倍数体である真核生物体の細胞内においてDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質(以下、本タンパク質という。)を作用させて真核生物体のゲノムセットを改変する改変工程、を備えることができる。本誘発方法は、このような改変工程を備えることにより、個々の真核生物体において種々の遺伝的組換えが許容され、その結果、改変されたゲノムセットを保持する真核生物体集団を取得することができる。すなわち、元々は単一組成のゲノムセットを備える親真核生物体の細胞内において本タンパク質を作用させると、ゲノムセット組成及び形質に関して多様性に富む複数の真核性物体からなる集団を得ることができる。
[0034]
(改変工程)
(真核生物体)
 本誘発方法は、任意の真核細胞生物体に適用可能である。本誘発方法に適用される真核生物体としては、動物、植物、真核性微生物が挙げられる。動物としては特に限定しないで、哺乳動物及び各種の魚類などの非哺乳動物が挙げられる。また、本誘発方法に適用される動物としては、動物に由来するものであればよく、細胞、組織、器官、受精卵などいずれの形態であってもよい。受精卵など、完全な動物に再生する能力を保持しているものであれば、改変した動物を得るのに都合がよい。
[0035]
 本誘発方法に適用される植物としても特に限定するものではないが、例えば、双子葉植物、単子葉植物、例えばアブラナ科、イネ科、ナス科、マメ科、ヤナギ科等に属する植物(下記参照)が挙げられる。
[0036]
アブラナ科:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、アブラナ(Brassica rapa、Brassica napus)、キャベツ(Brassica oleracea var. capitata)、ハクサイ(Brassica rapa var. pekinensis)、チンゲンサイ(Brassica rapa var. chinensis)、カブ(Brassica rapa var. rapa)、ノザワナ(Brassica rapa var. hakabura)、ミズナ(Brassica rapa var. lancinifolia)、コマツナ(Brassica rapa var. peruviridis)、パクチョイ(Brassica rapa var. chinensis)、ダイコン(Brassica Raphanus sativus)、ワサビ(Wasabia japonica)など。
ナス科:タバコ(Nicotiana tabacum)、ナス(Solanum melongena)、ジャガイモ(Solaneum tuberosum)、トマト(Lycopersicon lycopersicum)、トウガラシ(Capsicum annuum)、ペチュニア(Petunia)など。
マメ科:ダイズ(Glycine max)、エンドウ(Pisum sativum)、ソラマメ(Vicia faba)、フジ(Wisteria floribunda)、ラッカセイ(Arachis. hypogaea)、ミヤコグサ(Lotus corniculatus var. japonicus)、インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)、アズキ(Vigna angularis)、アカシア(Acacia)など。
キク科:キク(Chrysanthemum morifolium)、ヒマワリ(Helianthus annuus)など。
ヤシ科:アブラヤシ(Elaeis guineensis、Elaeis oleifera)、ココヤシ(Cocos nucifera)、ナツメヤシ(Phoenix dactylifera)、ロウヤシ(Copernicia)など。
ウルシ科:ハゼノキ(Rhus succedanea)、カシューナットノキ(Anacardium occidentale)、ウルシ(Toxicodendron vernicifluum)、マンゴー(Mangifera indica)、ピスタチオ(Pistacia vera)など。
ウリ科:カボチャ(Cucurbita maxima、Cucurbita moschata、Cucurbita pepo)、キュウリ(Cucumis sativus)、カラスウリ(Trichosanthes cucumeroides)、ヒョウタン(Lagenaria siceraria var. gourda)など。
バラ科:アーモンド(Amygdalus communis)、バラ(Rosa)、イチゴ(Fragaria)、サクラ(Prunus)、リンゴ(Malus pumila var. domestica)など。
ナデシコ科:カーネーション(Dianthus caryophyllus)など。
ヤナギ科:ポプラ(Populus trichocarpa、Populus nigra、Populus tremula)など。
イネ科:トウモロコシ(Zea mays)、イネ(Oryza sativa)、オオムギ(Hordeum vulgare)、コムギ(Triticum aestivum)、タケ(Phyllostachys)、サトウキビ(Saccharum officinarum)、ネピアグラス(Pennisetum pupureum)、エリアンサス(Erianthus ravenae)、ミスキャンタス(ススキ)(Miscanthus virgatum)、ソルガム(Sorghum)スイッチグラス(Panicum)など。
ユリ科:チューリップ(Tulipa)、ユリ(Lilium)など。
フトモモ科:ユーカリ(Eucalyptus camaldulensis、Eucalyptus grandis)など。
[0037]
 本誘発方法に適用される植物としては、植物に由来するものであればよいが、完全な植物に再生する能力を保持しているものであれば、改変した植物を得るのに都合がよい。したがって、植物としては、細胞、組織、器官、種子、カルスなどいずれの形態であってもよい。
[0038]
 また、微生物としても、特に限定するものではないが、物質生産等を考慮すると、麹菌などのカビや酵母などの微生物細胞が挙げられる。麹菌としては、アスペルギルス・アキュリータス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus orizae)等のアスペルギルス属が挙げられる。また、酵母としては、公知の各種酵母を利用できるが、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属の酵母、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属の酵母、キャンディダ・シェハーテ(Candida shehatae)等のキャンディダ属の酵母、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)等のピキア属の酵母、ハンセヌラ(Hansenula)属の酵母、クロッケラ属(Klocckera)の酵母、スワニオマイセス属(Schwanniomyces)の酵母及びヤロイア属(Yarrowia)の酵母、トリコスポロン(Trichosporon)属の酵母、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属の酵母、パチソレン(Pachysolen)属の酵母、ヤマダジマ(Yamadazyma)属の酵母、クルイベロマイセス・マーキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluveromyces lactis)等のクルイベロマイセス属の酵母、イサトケンキア・オリエンタリス(Issatchenkia orientalis)等のイサトケンキア属の酵母が挙げられる。なかでも、工業的利用性等の観点からサッカロマイセス属酵母が好ましい。なかでも、サッカロマイセス・セレビジエが好ましい。
[0039]
(真核生物体の準備)
 本誘発方法においては、固有倍数性を超える倍数体である真核生物体を用いる。なお、遺伝的組換えを誘発させる、固有倍数性を超える倍数体である真核生物体を、親真核生物体ということもできる。こうした倍数体を親真核生物体として用いることで、DNA二本鎖切断による種々の遺伝的組換えを許容し、飛躍的かつ効率的にゲノムセット組成及び形質の多様性に富む集団を構築できる。
[0040]
 親真核生物体としては、固有倍数性を超える倍数体を用いることができる。固有倍数性を超える倍数体としては、例えば、動物の固有倍数性は2倍数性あるから、2倍体を超える倍数体を親真核生物体として用いることができる。また、植物の固有倍数性は種々であるため、その固有倍数性を超える倍数体を親真核生物体として用いることができる。微生物においては、例えば、酵母などにおいては、2倍数性を超える倍数体を親真核生物体として用いることができる。
[0041]
 固有倍数性を超える倍数体としては、野生型であってもよい。例えば、コムギなど野生型として2倍体が存在する一方、2倍体を超える野生型コムギ、すなわち、4倍体コムギ、6倍体コムギも野生型として存在する場合には、こうした4倍体以上のコムギを用いてもよい。親真核生物体としては、人為的にゲノムサイズ増大操作を行って得られた真核生物体を用いることもできる。
[0042]
 親真核生物体は、好ましくは4倍体以上の倍数体である。4倍体以上の倍数体は、例えば、4倍体のほか、5倍体、6倍体、7倍体、8倍体等が挙げられる。本開示によれば、染色体の倍数性が高くても、DNA二本鎖の切断を介したゲノムセットの遺伝的組換えにより、ゲノムサイズの大きさに関する不都合を回避してゲノムサイズメリットを生かした多様性のある真核生物体集団を取得できる。したがって、親真核生物体の固有倍数性が4倍体以上であると、遺伝的組換えの効率が高まり、顕著に多様性に優れる真核生物体集団を構築できるようになる。より好ましくは5倍体であり、さらに好ましくは6倍体であり、なお好ましくは7倍体であり、一層好ましくは8倍体以上である。
[0043]
 親真核生物体は、人為的なゲノムサイズ増大操作を行って固有倍数性を超えるように至った親真核生物体であってもよい。こうした親真核生物体を用いる場合、前もって取得された、あるいは既に存在している人為的なゲノムサイズ増大操作を行って得られた親真核生物体を、改変工程に供してもよい。また、親真核生物体となる真核生物体に対してゲノムサイズ増大操作を行って安定的に固有倍数性を超える倍数性の親真核生物体を得る工程を行い、この工程によって得られた親真核生物体について改変工程を行う形態であってもよい。
[0044]
 人為的なゲノム増大操作としては、各種細胞を用いた細胞融合、動物における受精卵や未受精卵における温度や圧力による減数分裂の抑制処理、植物における交配、コルヒチンなどの染色体倍化誘発剤の供給等が挙げられる。さらに、酵母であれば、一般ヘテロタリズム株間の低頻度接合体の選択分離、接合型変換系を応用する方法及び細胞融合法等が挙げられる(生物化学実験法第39巻、酵母分子遺伝学実験法(大嶋泰治、学会出版センター)。なお、当業者であれば、固有倍数性を超える倍数性の親真核生物体を得るため、公知の手法を適宜真核生物体に適用することができる。
[0045]
(本タンパク質:DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質)
 本工程では、親真核生物体の細胞内において、本タンパク質、すなわち、DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を作用させる。本タンパク質としては、特に限定しないが、典型的には、公知のDNA二本鎖切断酵素を用いることができる。本誘発方法では、固有倍数性を超える倍数性の親真核生物体を用いて、大規模なゲノム再編が許容されることから、本タンパク質のDNA二本鎖切断活性の特性(認識部位(すなわち、頻度)等)の影響が回避又は抑制されており、公知のDNA二本鎖切断酵素から適宜選択して用いることができる。
[0046]
 DNA二本鎖切断酵素が有する切断部位(認識部位)は特に限定するものではない。遺伝的組換えの効率の観点からは、DNA上の4塩基~6塩基程度を認識部位とする、いわゆる多頻度制限酵素と称されるDNA二本鎖切断酵素が好ましい。ゲノムにおける切断箇所の数がゲノム再編効率に寄与するため、かかる塩基数の認識部位とすることで、好ましい頻度で染色体DNAを切断できる。例えば、4塩基又は5塩基の認識部位とするDNA二本鎖切断酵素がより好ましく、4塩基の認識部位とすることがさらに好ましい。このようなDNA二本鎖切断酵素としては、特に限定されないが、ApeKI、BsrI、BssKI、BstNI、BstUI、BtsCI、FatI、FauI、PhoI、PspGI、SmlI、TaqI、TfuI、TseI、Tsp45I、TspRIが挙げられる。また、Sse9I、MseI、DpnI及びCviAII等などの公知の各種の多頻度性酵素を挙げることができる。
[0047]

 制限酵素としては、好熱菌由来の制限酵素であって、親真核生物体の細胞の培養温度よりも高温領域にDNA二本鎖切断活性についての至適温度を有する制限酵素を使用することがより好ましい。温度処理により任意のタイミングで本タンパク質を活性化するとともにその活性を低下させるなどが可能であり、一時的な本タンパク質の作用に好都合であるからである。また、こうしたタンパク質であると、温度により、その活性の調節も可能であるからである。さらに、こうしたタンパク質であると、比較的緩やかなDNA二本鎖切断活性を作用させることができるからである。こうした本タンパク質としては、例えば、DNA二本鎖切断活性の至適温度が50℃以上80℃以下の制限酵素を用いることができる。例えば、至適温度が50℃、55℃、60℃、65℃、及び75℃(いずれも、カタログ値)が挙げられる。制限酵素の至適温度は、各種の販売会社のカタログ等に基づいて(カタログ値)等に基づいて選択することができる。至適温度は50℃未満であると、DNA二本鎖切断活性が強くなりすぎる場合がある。至適温度が80℃を超えると、DNA二本鎖切断活性が弱くなりすぎる場合がある。概して、至適温度は、好ましくは、55℃以上であり、より好ましくは60℃以上であり、62℃以上であってもよく、65℃程度であってもよい。また、概して、至適温度は、75℃以下であることが好ましく、より好ましくは70℃以下であり、また、68℃以下であってもよい。
[0048]
 例えば、本タンパク質としては、以下の公知の制限酵素から適宜選択して用いることができる。
[表1]


[0049]
 また、例えば、認識部位等の観点からは、ApeKI、BsrI、BssKI、BstNI、BstUI、BtsCI、FatI、FauI、PhoI、PspGI、SmlI、Sse9I、TaqI、TfuI、TseI、Tsp45I、TspRIが本タンパク質として好適な制限酵素として挙げられる。また、至適温度等の観点からは、例えば、ApeKI、BsaBI、BsaJI、BsaWI、BsIEI、BslI、BsmBI、BsmI、BspQI、BsrDI、BsrI、BssKI、BstAPI、BstBI、BstNI、BstUI、BstYI、FatI、FauI、MwoI、Nb.BsmI、Nb.BsrDI、PspGI、SfiI、SmlI、TaqI、TfiI、TliI、TseI、Tsp45I、Tsp509I、TspMI、TspRI、Tth111I等が挙げられる。
[0050]
 本タンパク質を親真核生物体の細胞内において作用させるには、少なくとも、本タンパク質を細胞内に存在させる。本タンパク質は、本来的に細胞内に存在するが、好ましくは、外部から供給する。本タンパク質は、親真核生物体の細胞に直接供給してもよいし、あるいは本タンパク質をコードする遺伝子を発現可能とする発現ベクターを親真核生物体の細胞に供給して形質転換してもよい。好ましくは、本タンパク質を親真核生物体の細胞内で発現誘導を経て作用させてもよい。こうすることで、意図したタイミングで、本タンパク質の作用を発現させることができる。
[0051]
 親真核生物体の細胞において、本タンパク質を発現させるベクターは、当業者であれば、従来公知の手法により適宜細胞の種類や形質転換手法に応じて構築することができる。本タンパク質をコードする塩基配列は、各種データベースより入手可能である。また、細胞に応じたベクターを適宜入手可能であるほか、適切なプロモーター、ターミネーター、エンハンサーなども適宜選択した、所望の発現カセットを構築することができる。なお、特に限定するものではないが、用いる真核生物体において有用な核移行シグナルを伴うことが好ましい。
[0052]

 例えば、植物の細胞内において、タンパク質を発現させるための発現ベクターの母体となるベクターとしては、従来公知の種々のベクターを用いることができる。例えば、プラスミド、ファージ、またはコスミド等を用いることができ、導入される植物細胞や導入方法に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、pBR322、pBR325、pUC19、pUC119、pBluescript、pBluescriptSK、pBI系のベクター等を挙げることができる。特に、植物体へのベクターの導入法がアグロバクテリウムを用いる方法である場合には、pBI系のバイナリーベクターを用いることが好ましい。pBI系のバイナリーベクターとしては、具体的には、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221等を挙げることができる。
[0053]
 プロモーターは、植物体内で制限酵素遺伝子を発現させることが可能なプロモーターであれば特に限定されるものではなく、公知のプロモーターを好適に用いることができる。かかるプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、各種アクチン遺伝子プロモーター、各種ユビキチン遺伝子プロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター、タバコのPR1a遺伝子プロモーター、トマトのリブロース1,5-二リン酸カルボキシラーゼ・オキシダーゼ小サブユニット遺伝子プロモーター、ナピン遺伝子プロモーター等を挙げることができる。後述するように、例えば、シロイヌナズナのシグマ因子由来のSIG2(AtSIG2)プロモーターなどの、発現強度が35Sプロモーターよりも低いプロモーターであることも好ましい。
[0054]
 発現ベクターは、適宜、プロモーター及び上記制限酵素遺伝子に加えて、さらに他のDNAセグメントを含んでいてもよい。当該他のDNAセグメントは特に限定されるものではないが、ターミネーター、選抜マーカー、エンハンサー、翻訳効率を高めるための塩基配列等を挙げることができる。また、上記組換え発現ベクターは、さらにT-DNA領域を有していてもよい。T-DNA領域は特にアグロバクテリウムを用いて上記組換え発現ベクターを植物体に導入する場合に遺伝子導入の効率を高めることができる。
[0055]
 転写ターミネーターは転写終結部位としての機能を有していれば特に限定されるものではなく、公知のものであってもよい。例えば、具体的には、ノパリン合成酵素遺伝子の転写終結領域(Nosターミネーター)、カリフラワーモザイクウイルス35Sの転写終結領域(CaMV35Sターミネーター)等を好ましく用いることができる。この中でもNosターミネーターをより好ましく用いることできる。
[0056]
 その他、選抜マーカー及び翻訳効率を高めるための塩基配列としては、公知の要素を適宜選択して用いることができる。発現ベクターの構築方法についても特に限定されるものではなく、適宜選択された母体となるベクターに対して、必要とする要素を適宜導入すればよい。
[0057]
 こうした発現ベクターは、かかるタンパク質を一過的に発現させるかあるいは恒常的に発現させるように、植物細胞に導入される。タンパク質を一過的に発現させるには、例えば、PEG法、エレクトロポレーション法及びパーティクルガン法を用いて発現ベクターをプラスミド等として植物細胞内に物理的に導入する。また、恒常的に発現させるには、アグロバクテリウム法等を用いて植物ゲノムに組み込むようにする。
[0058]
 アグロバクテリウム法を用いる場合には、本タンパク質をコードする遺伝子の導入に起因する植物細胞の死滅割合を低くすることができるため、ゲノムセットの多様性を確保することができる点において、有利である。また、アグロバクテリウム法は、双子葉植物、特にシロイヌナズナに適用することが好ましい。
[0059]
 形質転換した植物細胞等から、植物体を再生する方法については、従来公知の方法を適用することができる。
[0060]
 また、酵母などの細胞内において、本タンパク質を発現させるには、同様に酵母に適した発現ベクターを構築し、酵母に導入すればよい。発現ベクターは、当業者であれば、公知の方法を用いて、プロモーター、ターミネーター他、適宜エンハンサーを用いて構築することができる。発現カセットを染色体導入形態に構成することもできるし、染色体外で保持される形態に構成することもできる。
[0061]
 発現ベクターを構築するのにあたっては、タンパク質を発現させるタイミングを意図的に決定できる誘導的プロモーターを用いることが好ましい。また、発現強度を所望のレベルに設定するために、プロモーターやターミネーターなどの他の制御領域についても適宜設定することが好ましい。
[0062]
 例えば、誘導的プロモーターは、GAL1及びGAL10などのガラクトース誘導性プロモーター、Tet-onシステム/Tet-offシステムなどのドキシサイクリンの添加による誘導/除去による誘導システムに用いるプロモーター、HSP10、HSP60、HSP90などの熱ショックタンパク質(HSP)をコードする遺伝子のプロモーター等を用いることができるが、好ましくは、銅イオンの添加で活性化するCUP1プロモーターを用いる。CUP1プロモーターを用いることで、グルコース等の炭素源を含み銅イオンを含まない培地で細胞を培養し、その後銅イオン化合物を培地に添加して培養することでDNA二本鎖切断酵素を発現誘導することができる。なお、銅イオンの添加濃度は適宜設定できるが、例えば、50μM以上300μM以下程度とすることができる。また、培養時間は、1時間~6時間程度とすることができる。さらに、発現誘導と同時にDNA二本鎖切断酵素を活性化しないためには、DNA二本鎖切断酵素の活性化条件に該当しない温度等(例えば、30℃程度)で細胞を培養することが好ましい。CUP1プロモーターは、意図的なDNA二本鎖切断酵素の発現誘導及び活性化を簡易にかつ迅速に実行できるという利点がある。
[0063]
 こうした発現ベクターを酵母に導入して、染色体内又は染色体外に保持するように酵母を形質転換することは、当業者であれば、従来公知の方法に基づき実施できる。
[0064]
(本タンパク質をコードする遺伝子を発現可能に保持する親真核生物体)
 親真核生物体としては、本タンパク質をコードする遺伝子を保持して発現可能である親真核生物体を用いることができる。この場合には、所望の倍数性を備える親真核生物体候補に、こうした遺伝子を導入し形質転換して所望の倍数性を備える親真核生物体を得ることができる。かかる所望の倍数性を備える親真核生物体候補は、固有倍数性を超える倍数性を有する真核生物体に対して人為的なゲノム増大操作を1回又は2回以上繰り返すことで得るようにしてもよい。
[0065]
 また、固有倍数性を超える倍数体である真核生物体に、こうした遺伝子を導入して形質転換後、形質転換体に対して人為的なゲノム増大操作を1又は2回以上繰り返すことで、所望の倍数性を備える親真核生物体を得ることができる。
[0066]
 以上のことから、親真核生物体は、育種等のための真核生物体又は真核生物集団を作製するための育種材料でもある。したがって、本明細書の開示によれば、本誘発方法に好適に用いることのできる育種材料としても有用な親真核生物体及びその誘発方法も提供される。本開示によれば、固有倍数性を超える倍数性を有し、DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を発現可能に保持する、真核生物体である育種材料が提供される。
[0067]
 また、本開示の育種材料を生産するのに適した誘発方法は、固有倍数性を有する倍数体である真核生物体に対して人為的なゲノム増大操作を1回又は2回以上繰り返して、所望の倍数性の真核生物体を得る工程と、前記所望の倍数性の真核生物体をDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を発現可能に形質転換する工程と、を備えることができる。また、この誘発方法は、固有倍数性を有する倍数体である真核生物体をDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を発現可能に形質転換する工程と、形質転換された前記真核生物体に対して人為的なゲノム増大操作を1回又は2回以上繰り返して、所望の倍数性の形質転換された真核生物体を得る工程と、を備えることができる。
[0068]
 この親真核生物体及びその誘発方法における、真核生物体、DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質、倍数性又は倍数体、DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質、及び当該タンパク質をコードする遺伝子の発現、人為的なゲノム増大操作等については、既に、本開示の真核生物体集団の誘発方法について説明した各種実施態様を適用できる。
[0069]
(親真核生物体の細胞内において本タンパク質を作用させる態様)
 次いで、親真核生物体の細胞内において本タンパク質を作用させる態様について説明する。以下の説明において、親真核生物体の細胞内というときには、親真核生物体の態様は特に限定するものではない。例えば、親真核生物体が植物体の場合には、植物体の態様は問わないで、植物個体の一部としての細胞、組織、器官のほか、種子、幼苗、あるいはその後の成長した植物個体のほか、カルスにおける細胞内を意味している。また、親真核生物体が、酵母など微生物の場合には、その細胞内で本タンパク質を作用させることを意味する。
[0070]
 親真核生物体の細胞内において本タンパク質を作用させるには、細胞内に存在させた本タンパク質に対してDNA二本鎖切断活性を発揮できる条件を付与させればよい。本タンパク質本タンパク質は、低い活性で定常的(構成的)に作用させてもよいし、意図的に及び/又は一時的に本タンパク質を作用させるようにしてもよい。
[0071]
 本タンパク質を定常的に作用させるには、例えば、適当なプロモーター、典型的には構成的プロモーターの制御下に本タンパク質を発現させるようにして、本タンパク質のDNA二本鎖切断活性が高くなりすぎない程度に、本タンパク質の活性を作用温度や作用時間で調節するようにすることが好ましい。本タンパク質が常時作用することで、過度のDNA二本鎖切断により細胞は死に至るからである。こうした活性調節のためには、本タンパク質として好熱菌由来の制限酵素を用い、かつ作用温度をこうした制限酵素の至適温度よりも十分に低い温度とする。好ましくは、好熱菌由来の制限酵素を用いる。
[0072]
 例えば、作用温度は、本タンパク質の種類、真核生物体の種類等にもよるが、18℃以上30℃以下とすることができる。例えば、より好ましくは、下限が20℃以上であり、さらに好ましくは22℃以上である。また、例えば、好ましくは上限は28℃以下であり、より好ましくは25℃以下である。
[0073]
 好ましくは、意図的かつ一時的に本タンパク質を作用させるようにする。本タンパク質が常時作用することで、過度のDNA二本鎖切断により細胞は傷害を受けるからである。このためには、既述のとおり、適当なプロモーターの制御下、典型的には、誘導的プロモーターにより本タンパク質を発現し、本タンパク質の活性化操作を用いることが好ましい。
[0074]
 誘導的プロモーターによれば、意図的なタイミングで本タンパク質を細胞内で発現させて作用させることができるし、誘導を停止することでおおよそその作用を低下又は停止することができる。なお、誘導的プロモーターよって本タンパク質を発現させる場合には、本タンパク質のDNA二本鎖切断活性の至適温度よりも十分に低い温度で真核生物体を生育ないし培養することが好ましい。例えば、15℃以上25℃以下程度とすることができる。なお、本タンパク質を作用させる改変工程において、誘導的プロモーターを用いて本タンパク質を発現させた場合には、改変工程後には、誘導的プロモーターの作動を停止できる条件で真核生物体を生育又は培養することが好ましい。
[0075]
 本タンパク質のDNA二本鎖切断活性を人為的に活性化して、その後、好ましくは不活性化する。こうすることで、より限定的にかつ効果的に本タンパク質を作用させることができる。このためには、例えば、好熱菌由来の制限酵素など、通常の親真核生物体の生育(培養)条件とは異なる条件をDNA二本鎖切断活性の至適条件とする本タンパク質を用いることで意図的なタイミングで本タンパク質を活性化するとともに活性化を停止することができる。また、かかる本タンパク質を用いることで、本タンパク質が十分に活性化する温度未満で親真核生物体を生育(培養)し、本タンパク質の十分な活性化温度以上で親真核生物体を生育(培養)することにより、本タンパク質を簡易に一時的に作用させることができる。
[0076]
 本タンパク質のDNA二本鎖切断活性を活性化して作用させるには、本タンパク質の活性が最大となるいわゆる至適条件よりも緩和な条件で行うことが好ましい。こうすることで、より多様性の高いゲノムセット組成の細胞集団を構築することができる。本タンパク質を緩和な条件で作用させるには、例えば、DNA二本鎖切断活性酵素としての至適温度よりも低い温度であって、細胞の活性を損なわない温度範囲で本タンパク質を活性化することが好ましい。より好ましくは本タンパク質をDNA二本鎖切断活性を発現できる下限近傍の温度で活性化することが好ましい。DNA二本鎖切断酵素の活性を発現できる下限近傍の温度とは、例えば、至適温度における活性を100%としたとき、その活性が5%以上30%以下程度となる温度ということができる。好ましくは、5%以上20%以下程度となる温度とすることができる。
[0077]
 例えば、こうした作用温度としては、本タンパク質の種類や真核生物体の種類にもよるが、18℃以上45℃以下とすることができる。例えば、より好ましくは、下限が20℃以上であり、さらに好ましくは22℃以上であり、なお好ましくは同25℃以上であり、一層好ましくは30℃以上であり、より一層好ましくは35℃以上である。また、例えば、好ましくは上限は45℃以下であり、より好ましくは42℃以下であり、さらに好ましくは40℃以下であり、なお好ましくは37℃以下であり、一層好ましくは35℃以下である。こうした作用温度であると、固有倍数体を超える倍数体である真核生物体におけるゲノムセットの改変を効率的に行うことができる。特に酵母などの微生物や植物体において上記温度条件が好適である。
[0078]
 なお、本タンパク質の作用温度が、真核生物体に一般的に適用される好適な生育温度又は培養温度に一致あるいは近い場合には、誘導的プロモーターの作動による本タンパク質の発現制御を組み合わせることで、本タンパク質を真核生物体に一過的に作用させることができる。
[0079]
 また、本タンパク質を緩和な条件で作用させるには、本タンパク質の種類、真核生物体の種類及び作用温度にもよるが、本タンパク質を低い活性化条件(例えば、本タンパク質のDNA二本鎖切断活性の至適温度よりも低い温度)で、30分程度から1時間で処理するほか、比較的長い時間、例えば、2時間以上、3時間以上、より好ましくは4時間以上、さらに好ましくは6時間以上、なお好ましくは12時間以上、一層好ましくは24時間以上、より一層好ましくは36時間以上、さらに一層好ましくは48時間以上、なお一層好ましくは60時間以上、さらに好ましくは72時間以上作用させることができる。
[0080]
 例えば、上述のTaqIに関しては、親真核生物体の種類や時期にもよるが、TaqIを発現した細胞を、好ましくは20℃以上45℃以下、より好ましくは25℃以上42℃以下、さらに好ましくは30℃以上42℃以下、なお好ましくは30℃以上40℃以下、一層好ましくは35℃以上40℃以下、より一層好ましくは37℃程度の温度条件で培養ないし生育させることができる。作用時間は、好ましくは2時間以上、より好ましくは4時間以上、さらに好ましくは5時間以上、なお好ましくは6時間以上、一層好ましくは12時間以上、より一層好ましくは24時間以上、さらに一層好ましくは36時間以上、なお一層好ましくは48時間以上、さらにまた好ましくは60時間以上、さらに一層好ましくは72時間以上生育又は培養する。特に酵母などの微生物や植物体においてこうした条件が好適である。
[0081]
 なお、こうした本タンパク質の作用温度や作用時間などの作用条件は、当業者であれば、本タンパク質の発現状況、真核生物体の生育(増殖)状況、ゲノム再編効率の評価(レポーター遺伝子を用いた評価や倍数性ヒストグラムによる評価)等を用いて、用いる本タンパク質、真核生物体や意図するゲノム改変効率を考慮して適宜決定することができる。
[0082]
 本タンパク質を親真核生物体の細胞内で作用させる改変工程は、例えば、植物においては、本タンパク質を発現可能に形質転換した親植物である親真核生物体から収穫した播種前の種子、播種後から発芽までの間、発芽後の幼苗、より成長した植物体に対して一定期間実施する。また、例えば、酵母においては、本タンパク質を発現可能に形質転換した親酵母に対して、一定期間、本タンパク質を発現させるか、あるいは発現させた本タンパク質を活性化させるようにする。
[0083]
 こうした改変工程は、好ましくは、親真核生物体が植物の場合には、種子又は幼苗である。多検体処理が容易であって改変体の集団を得るのに好都合であるからである。また、酵母のなど場合には、体細胞分裂期など、出芽が活発に行われている周期(すなわち、親真核生物体の倍数性が維持されている周期)が好ましい。
[0084]
 改変工程は、例えば、親真核生物体が植物であるとき、種子、幼苗、成長した植物などを、37℃の温度条件下で24時間生育し、その後、より低い温度の生育条件(例えば、シロイヌナズナの場合、20℃~25℃程度)に戻すようすることができる。
[0085]
 また、親真核生物体が酵母であるときには、酵母の培養条件を37℃、24時間維持してその後、通常の培養温度(おおよそ25℃~30℃程度)に戻すような態様が挙げられる。
[0086]
 こうした改変工程を実施することで、改変工程に供された各真核生物体において、遺伝的組換えが生じ、その遺伝子組換えが反映されたゲノムセットが保持される。その結果、改変されたゲノムセットを備える真核生物体の集団を得ることができる。この真核生物体の集団の個々の真核生物体は、もとの親真核生物体の集団において生じた遺伝的組換えによって生じた種々の「改変されたゲノムセット」を備えている。本改変工程を経た真核生物体のゲノムセット組成は、親真核生物体が正倍数性を超える倍数体でありしかもDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質により処理されているため、より多様性に富むものとなっている。
[0087]
 例えば、本誘発方法によって得られた、新たに構築された真核生物体集団を構成する真核生物体のゲノムセットは、遺伝的組換えの結果、染色体異数性を有しているか又は増大する傾向がある。また、かかる真核生物体のゲノムセットは、遺伝的組換えの結果、染色体の一部に欠失及び/又は重複を備える傾向がある。さらに、かかる真核生物体のゲノムセットは、遺伝的組換えの結果、ゲノムセットの一部の領域が脱落するなどして低下したゲノムサイズを有する傾向や、ゲノムセットの一部が重複するなどして増大したサイズを有する傾向がある。また、こうした真核生物体のゲノムセットにおいては、1又は2以上の突然変異を備えている傾向がある。
[0088]
 本改変工程によれば、4倍体以上の倍数体である親真核生物体を対象として本改変工程を実施することで、2倍体の親真核生物体に対して本タンパク質を作用させるのに対して、予想を超えるゲノムセット多様性を備える集団を得ることができる。すなわち、4倍体以上を対象とすることで、顕著に、染色体DNAに対する遺伝的組換えが増大する。また、得られる真核生物体は、ゲノムサイズの変化(サイズの低下や増大)傾向や異数性傾向が顕著になる。
[0089]
 また、一般的には、TaqIなどのDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を導入し作用させることで、親真核生物体の成長抑制等が生じる傾向があるが、親真核生物体が4倍体以上であると、2倍体においてTaqI遺伝子等を導入して作用させたとき成長抑制に比較して、抑制程度が低下している。すなわち、親真核生物体が4倍体以上であると、TaqI等の導入に対して抵抗性を発揮することができる。
[0090]
 概して、倍数化によって植物などの真核生物体ではその質量が低下する傾向があるが、意外にも4倍体以上を対象として得られる真核生物体は、そうした傾向が抑制されている。得られる真核生物体が、染色体異数性及び/又はゲノムサイズの低下若しくは増大を伴っているためであると考えられる。こうした傾向は、親真核生物体の倍数性が高くなるのに伴って顕著になる。例えば、8倍体の親真核生物体の場合、本タンパク質を作用させない場合には、顕著に生長が抑制されるが、本タンパク質の作用により質量が野生型と同等又はそれ以上である場合もある。これも、ゲノムセットのサイズの低下、増大及び/又は染色体異数性の増大によるものと考えられる。
[0091]
 以上説明したように、本誘発方法によれば、倍化されたゲノムを有する真核生物体の細胞内においてDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を作用させることで、遺伝的組換えによる染色体や遺伝子の機能ダメージを抑制して、遺伝的組換えによって生じた新たなゲノムセット組成を有する真核生物体を得ることができる。この結果、ゲノムセット組成の多様性を備える真核生物体集団を構築できる。したがって、本誘発方法によれば、親真核生物体の染色体の倍化(ゲノムサイズの増大)に伴う不都合の回避と染色体倍化のメリットの実現とを同時にかつ効率的に実現することができる。この結果、形質においても多様性に富む真核生物体の集団を構築できる。
[0092]
 特に、こうした大きなゲノムサイズのゲノムセットに対してDNA二本鎖切断活性を適用することで、量的形質などの複数の遺伝子が関連する形質を効率的に向上させることができる。
[0093]
 なお、本誘発方法は、前記真核生物体集団から選抜した1又は2以上の真核生物体を親真核生物体として、さらに改変工程を実施するなど、改変工程と選抜工程とを繰り返して実施することもできる。
[0094]
 以上のことから、本誘発方法は、上記改変工程を備える、改変されたゲノムセットを備える真核生物体の集団の生産方法としても実施できる。
[0095]
(改変された真核生物体の生産方法)
 本明細書に開示される改変された真核生物体の生産方法は、固有倍数性を超える倍数体である真核生物体の細胞内においてDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を作用させて、前記真核生物体のゲノムセットを改変する改変工程と、前記ゲノムセットを保持する真核生物体の集団から、任意の指標に基づいて意図する真核生物体を選抜する工程と、を備えることができる。本方法によれば、多様性に優れる真核生物体の集団から意図した1又は2以上の真核生物体を選抜するため、効率的に意図した真核生物体を得ることができる。また、本方法によれば、選抜した真核生物体を利用して効率的な育種が可能である。したがって、本生産方法は、植物体や酵母などの真核生物体の育種方法としても実施することができる。なお、有用な植物や酵母などが得られた後のさらに後代の育種については、従来公知の育種技術を適用することができる。
[0096]
 本方法における改変工程は、既に説明した本生産方法における改変工程の各種実施態様をそのまま適用することができる。また、本方法においては、改変工程と選抜工程とを繰り返し実施してもよい。すなわち、選抜された1又は2以上の真核生物体を親真核生物体として改変工程と選抜工程を実施してもよい。
実施例
[0097]
 以下、本明細書の開示を具現化した実施例について説明する。なお、以下の実施例は、本開示を説明するものであってその範囲を限定するものではない。
[0098]
 以下の実施例において、シロイヌナズナの栽培は、特に限定しない限り、以下のように行った。種子を、MS寒天培地(ムラシゲスクーグ無機塩, 1% ショ糖, 0.05% MES, 0.8% Agar)に播種し、22℃、16時間明期8時間暗期、光強度約30~50 μmol/m 2/secの人工気象室で3週間生育後スーパーミックス(タキイ種苗)を入れた直径50 mmのポットに移植した。その後、22 ℃、16時間明期8時間暗期、光強度約30~45 μE/m 2/sでさらに9週間栽培し、潅水停止後さらに2週間栽培した。また、栽培後の植物体を風乾後に秤量し植物体乾燥重量とした。
実施例 1
[0099]
(TaqI遺伝子植物発現用ベクターの構築)
 TaqI遺伝子植物発現用ベクターとして、特開2011-160798号公報(段落0121~0142)に開示された方法により、カリフラワーモザイクウィルス35Sプロモーターの下流にTaqI遺伝子を配置したpBI 35S:TaqI-NLSおよび、シロイヌナズナシグマ因子AtSIG2プロモーターの下流にTaqI遺伝子を配置したpBI AtSIG2:TaqI -NLSを構築した。また、このプラスミドには、TaqIのコード領域のC末端側には核移行シグナル(NLS)を備えている。
実施例 2
[0100]
(35S:TaqI遺伝子のシロイヌナズナへの導入)
 pBI 35S:TaqI-NLSを保持するアグロバクテリウム(C58C1株)を特開2011-160798号公報に準じて作製した。このアグロバクテリウムを用いてシロイヌナズナ1406株(EMBO Journal (2006) 25, 5579-5590)に35S:TaqI遺伝子を導入した。1406株はInverted repeat 構造をもつGUSレポーター遺伝子が野生型シロイヌナズナ エコタイプCol-0株に導入されており、GUS遺伝子内で相同組み換えが生じるとGUS遺伝子が発現するように構築されている。この仕組みにより相同組換えの定量解析に利用されている。
[0101]
 形質転換方法としてはインプランタ法を用いて行った。すなわち、実施例1で作製した植物発現用ベクターをエレクトロポレーション法(Plant Molecular Biology Mannal, Second Edition , B. G. Stanton and A. S. Robbert, Kluwer Acdemic Publishers 1994)により、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)C58C1株に導入した。次いで植物発現用ベクターが導入されたアグロバクテリウム・ツメファシエンスを、Cloughらにより記載された浸潤法(Steven J. Clough and Andrew F. Bent, 1998, The Plant Journal 16, 735-743)により、野生型シロイヌナズナ エコタイプCol-0に導入した。
[0102]
 形質転換したシロイヌナズナは、22℃、16時間明期8時間暗期、光強度約30~50 μmol/m 2/secで生育させ、T1種子を回収した。回収したT1種子を、カナマイシン(50mg/L)を含む改変MS寒天培地〔ショ糖10 g/l、MES (2-Morpholinoethanesul phonic acid)0.5 g/L、寒天(細菌培地用;和光純薬工業社製)8 g/L〕に無菌播種し、22℃、16時間明期8時間暗期、光強度約30~45μmol/m 2/secで2週間生育してカナマイシン耐性個体を選抜し、形質転換体TCL878を得た。
実施例 3
[0103]
(シロイヌナズナの4倍数体植物および8倍体植物の作製)
 本実施例では、コルヒチンを用いてゲノム増大操作を行い、4倍数体及び8倍数体植物を得た。
[0104]
シロイヌナズナ エコタイプCol-0野生株、1406株、実施例2で取得したpBI 35S:TaqI-NLS 導入系統の各植物体を1%のショ糖を含む滅菌培地上で3週間生育後、0.05% Triton-Xを含む0.01%コルヒチン溶液に1~10分間浸漬した。その後、スーパーミックス(タキイ種苗)を入れた直径50 mmのポットに移植し22℃、16時間明期8時間暗期、光強度約30~50 μmol/m 2/secの人工気象室で8週間生育後種子を得た。次世代植物体において、核をDAPIを用いて染色し、フローサイトメータに供す方法を用いてゲノムの倍数性を調べ、4倍体植物を選抜し、Col-0_P4、1406_P4、TCL878_P4C2をそれぞれ取得した。さらに得られた4倍体植物を同様の方法でコルヒチン溶液処理を行い8倍体化した花茎を選抜し、Col-0_P8、1406_P8、TCL878_P8をそれぞれ取得した。
[0105]
 なお、フローサイトメーターを用いた植物倍数性の測定は、以下のとおり行った。
 発芽後3週間の植物体のロゼット葉または、抽台した花茎の茎生葉を切除し、CyStain UV 植物用DNA試薬キット(Partec社)の核抽出液と核染色溶液の混合液400 μl中にロゼット葉を浸し、剃刀により細かく切断した(約100回切断/cm 2)。その後抽出液中の植物細胞残渣をCellTrics(登録商標)50 μm(Partec社)用いて除去した。得られた核溶液をCell Lab Quanta SC MPL(ベックマン社)を用いて測定した。
実施例 4
[0106]
(SIG2:TaqI遺伝子のシロイヌナズナへの導入)
 pBI AtSIG2:TaqI-NLSを保持するアグロバクテリウムを用いて実施例3で作製したCol-0_P4株にSIG2:TaqI遺伝子を導入した。形質転換方法としては、実施例2と同様にインプランタ法を用いて行った。アグロバクテリウムの感染後取得した種子を、カナマイシンを含むMS寒天培地(ムラシゲスクーグ無機塩, 1% ショ糖, 0.05% MES, 0.8% Agar, 50mg/l硫酸カナマイシン)に播種した。22℃、16時間明期8時間暗期、光強度約30~50μmol/m 2/secの人工気象室で2週間生育後、カナイマイシン耐性個体を選抜し形質転換体TS3055を得た。
実施例 5
[0107]
(35S:TaqI遺伝子導入シロイヌナズナ4倍体系統後代植物の形態とゲノム構造変化)
 35S:TaqI遺伝子を有する4倍体系統であるTCL878_P4C2系統について、発芽後1週間の幼植物体を37℃1日間熱処理し、その後生育し種子を採種した。得られたTCL878_P4C2系統後代種子およびコントロール株として1406_P4株を播種・生育し形態を観察した。結果を図2に示す。
[0108]
 図2に示すように、TCL878_P4C2系統後代において、葉の大型化や葉柄の伸長による植物個体の大型化、葉の細葉化、葉の小型化、花成の促進、花成の遅延、葉の老化促進、抑制など多様な形態変化が観察された。
[0109]
 次に、植物体よりゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNAを用いてタイリングアレイによるゲノムコピー数多型を解析した。なお、コピー数多型解析は以下のようにして行った。結果を図3に示す。
[0110]
(TaqI遺伝子導入シロイヌナズナ染色体コピー数解析用タイリングアレイ解析)
 シロイヌナズナのタイリングアレイはアジレント社のeArrayシステムを用いて設計した。381815個の鎖超60 merプローブをシロイヌナズナゲノム上に平均空間解像度は約314 ntに配置したAt_tilling_400K_v3.2を設計した。また同様に177170個の鎖超60 merプローブをシロイヌナズナゲノム上に平均空間解像度は約677ntに配置したAt_tilling_180K_v4を設計した。タイリングアレイはアジレント社プロトコールに従い行った。タイリングアレイのスキャニングはAgilent G2565CA マイクロアレイスキャナ(アジレント社)を用いて行った。蛍光シグナルの抽出と数値化はFeature Extractionソフトウェアを用いて行った。Relative levelは以下の計算式で求め(Relative level = Log 10(Cy5(サンプル)/Cy3(コントロール))、さらに染色体上の連続する20プローブのRelative levelの平均値を求め、図示した。
[0111]
 図3に示すように、TCL878_P4C2系統後代には、多くの染色体異数性および局所的なゲノムコピー数の増減が検出された。以上の結果より、ゲノムの倍化とDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質の作用を組み合わせることにより多様なゲノムセット組成の変化と表現型を示す植物個体の作製を可能であることがわかった。
実施例 6
[0112]
(SIG2:TaqI遺伝子導入シロイヌナズナ4倍体系統後代植物の形態変化)
 プロモーターの異なる4倍体植物での効果を確認するために、SIG2:TaqI遺伝子を有する4倍体系統であるTS3055系統を用いて実施例5と同様に形態変化を観察した。実施例4で取得したSIG2:TaqI遺伝子を有する4倍体系統であるTS3055系統の形質転換体のT2世代の植物を生育し、コントロール株としてCol-0_P4株と形態を比較した。結果を図4に示す。
[0113]
 図4に示すように、Col-0_P4株と比べTS3055系統の植物では、花成の促進または遅延、葉の大型化、茎の伸長促進または抑制などの多様な形態変化が観察された。これらの結果より、異なるプロモーターでTaqIを発現することによっても形態変化を誘発できる事がわかった。
実施例 7
[0114]
(4倍体植物におけるTaqI発現に対する抵抗性の向上)
 実施例2で選抜したTaqI遺伝子導入シロイヌナズナ2倍体系統(TCL878)、実施例3で選抜した4倍体系統(PCL878_P4)およびコントロール2倍体系統(1406)、4倍体系統(1406_P4)を播種後1週間目に1日間37℃の熱処理を行い、その後14週栽培を継続し乾燥重量を測定した。結果を図5に示す。
[0115]
 図5に示すように、2倍体植物ではTaqI遺伝子導入系統の乾燥重量がコントロール株に対して0.65と大きく低下した。一方で、4倍体植物ではTaqI遺伝子導入系統の乾燥重量がコントロール株に対して0.86となり2倍体植物と比べ乾燥重量の低下が抑えられた。以上の結果より4倍体植物は2倍体植物よりTaqI遺伝子の発現に抵抗性を持つ事がわかった。
実施例 8
[0116]
(35S:TaqIまたはSIG2:TaqI遺伝子導入シロイヌナズナ4倍体系統のゲノム倍数性)
 TaqI遺伝子の発現によるDNA二本鎖鎖切断の誘発が、植物体の倍数性に与える影響を調べるために、Col-0、Col-0_P4、1406、TCL878、TS3055、TCL878_P4(ぞれぞれについての発芽後1週間37℃1日間熱処理したものの後代)について植物体の倍数性を実施例3と同様にフローサイトメーターによる方法で測定し、ヒストグラムを作成した。結果を、図6に示す。
[0117]
 図6に示すように、TaqI遺伝子を導入した4倍体系統であるTS3055系統(AtSIG2プロモーター)およびTCL878_P4系統(35Sプロモーター)において、倍数性が増加または減少した個体の出現頻度の上昇が認められた。また、本実施例においては、全体としてヒストグラムが低い倍数性に移動しており、ゲノムサイズの低下が観察された。以上のことから、4倍体系統では、ゲノムセットの組成が大きく変動していることがわかった。
実施例 9
[0118]
(TaqI遺伝子導入シロイヌナズナ8倍体系統後代植物の乾燥重量と倍数性)
 実施例3で選抜したTaqI遺伝子導入シロイヌナズナ8倍体系統の花茎に結実した種子を播種、生育させた。これらの植物につき、生育状態を観察するとともに、各植物の倍数性および14週栽培後の乾燥重量を測定した。また、倍数性を、実施例2と同様にフローサイトメーターにより測定した。8倍体系統後代の1つであるTCL878_P8-5#3株について、実施例5と同様にしてタイリングアレイを用いて遺伝子のコピー数を調べた。これらの結果を図7~図9に示す。
[0119]
 図7に示すように、Col-0野生株や1406コントロール株より作製した8倍体植物Col-0_P8および1406_P8は野生株と比べ顕著に乾燥重量が低下した。これらはポリプロイディシンドロームだと考えられる。一方で、35S:TaqI遺伝子導入系統より作製した8倍体TCL878_P8系統の植物は乾燥重量がCol-0_P8や1406_P8と比べ回復する傾向が認められ、TCL878_P8-10#3系統は2倍体のCol-0野生株より乾燥重量が増加した。
[0120]
 図7に併せて示す倍数性については、Col-0_P8および1406_P8の倍数性はほぼ8であったが、TCL878_P8系統の植物は倍数性が8より低下した個体が多くあった。特に、TCL878_P8-5#3株のゲノムサイズは5.7倍体相当まで低下していた。また、図7及び図8に示すように、この系統は、Col-0_P8と比べ良好な生育を示した。
[0121]
 図9に示す、TCL878_P8-5#3株についてのタイリングアレイを用いた遺伝子のコピー数の解析結果によると、1番染色体、2番染色体と3番染色体は6コピー、4番染色体は5コピー、5番染色体は7コピーであり、染色体毎にコピー数が異なる染色体異数性を示した。また3番染色体上腕においては、522kbp領域が周辺領域と比べ2コピー増加し約8コピーとなっていた。
[0122]
 以上のことから、倍数体系統においてDNA二本鎖切断酵素を作用させることで、多様なゲノムセット組成及び形質を発現する集団を構築できることがわかった。また、倍数体系統においてDNA二本鎖切断酵素を作用させることで、染色体異数性が付与されるほか、ゲノムサイズも低減しており、結果として、染色体セットの増大による不都合が抑制されていることがわかった。
実施例 10
[0123]
(TaqI遺伝子酵母発現用ベクターの作製)
 TaqI遺伝子酵母発現用ベクターとして、図10に示すように、ガラクトース誘導型プロモーター(pGAL1)の下流に酵母コドンに最適化したTaqI遺伝子(TtTaqI opt)、Saccharomyces cerevisiae由来DIT1タンパク質の3’UTR(tDIT1)を配置したpORF-pGAL1-TtTaqI-tDIT1(AUR)を用いた。
実施例 11
[0124]
(ゲノム再編評価酵母の作製)
 図11に示すように、ゲノム再編効率を評価するGF-FPレポーター遺伝子は、緑色蛍光蛋白質(GFP)のN末端側約600 bpとC末端側600 bpで抗生物質Nourseothricin耐性マーカー(nat1)を挟むようにデザインされている。このカセットを用いることで、TaqIによる二本鎖DNA切断により、GF-FP間で相同組換えが起こり、完全長のGFP遺伝子が再構築された場合、酵母が緑色蛍光を発するため、フローサイトメーター等を用いる事でゲノム再編を検出することが出来る(図12参照)。
[0125]
 S. cerevisiae BY4741株とBY4742株のADH3遺伝子上流領域(転写開始点より上流3000 bp~2000 bp)にGF-FPレポーター遺伝子を導入した株をそれぞれ、BY4741+GFP株、BY4742+GFP株とした。また、それぞれの株のleu2遺伝子、his3遺伝子をS. cerevisiae S288C由来LEU2遺伝子、HIS3遺伝子で相補したBY4741+GFP(LEU)株、BY4741+GFP(HIS)株、およびBY4742+GFP(LEU)株、BY4742+GFP(HIS)株を作製した。
実施例 12
[0126]
(TaqIの発現誘導条件の検討)
 実施例10で作製したTaqI遺伝子酵母発現用ベクター、pORF-pGAL1-TtTaqIopt-tDIT1(AUR)を実施例11で作製したBY4741+GFP(HIS)株へ形質転換した(BY4741+GFP(HIS)+TaqI)。グルコースを糖源とするYPD培地(10 g/L Yeast extract、20 g/L Peptone、20 g/L Glucose)+0.5 mg/L オーレオバシジンA(AbA)を用いて、30℃で終夜培養後、ガラクトースを糖源とするYPG(10 g/L Yeast extract、20 g/L Peptone、20 g/L Galactose)+0.5 mg/L AbA培地に培地交換し、20、22.5、25、27.5、30℃で終夜培養することで、TaqIの発現誘導を行った。各温度でのTaqI発現量を測定するために、菌体量を揃えてSDS-PAGEを行い、抗TaqI抗体を用いて、ウエスタンブロッティングを行った。結果を図13に示す。
[0127]
 図13に示すように、20℃で発現誘導した場合が最もTaqIの発現量が高い事が分かった。また、生菌率を比較した結果、温度が高くなるにつれ生菌率が減少しており、30℃においてもTaqIが活性化され、ゲノム切断による細胞死が生じていることが分かった。
実施例 13
[0128]
(一過的な熱処理によるゲノム再編効率の評価)
 BY4741+GFP(HIS)+TaqI株を用いて、実施例12と同様に20℃でTaqIの発現誘導を行った。42℃で30分間、または60分間熱処理する事で、一過的にTaqIの活性化を促した後、フローサイトメーターで1×10 5細胞中のGFP蛍光を持つ細胞の割合を測定することでゲノム再編効率を算出した。結果を図14Aに示す。その結果、ゲノム再編効率は0.03~0.04%だった。一方、図14Bに示すように、熱処理後にYPD培地に培地交換し、回復培養を18時間行った場合、ゲノム再編効率は0.06~0.07%に上昇した。
実施例 14
[0129]
(穏やかな熱処理によるゲノム再編効率の評価)
 BY4741+GFP(HIS)+TaqI株を用いて、実施例12と同様にYPG+0.5 mg/L AbA培地に培地交換した後、20、25、30、35℃でTaqIを発現誘導しながら、穏やかにTaqIの活性化を行った。5、23、46時間後に酵母を回収し、実施例13と同様にフローサイトメーターでゲノム再編効率を測定した。結果を図15に示す。
[0130]
 図15に示すように、その結果、どの温度においても時間経過とともにゲノム再編効率が上昇した。特に30℃以上では、ゲノム再編効率が著しく上昇し、一過的な熱処理の約10~20倍に達した。
実施例 15
[0131]
(2倍数体酵母および4倍体酵母の作製)
 BY4741+GFP(LEU)株とBY4742+GFP(LEU)株、BY4741+GFP(HIS)株とBY4742+GFP(HIS)株を定法に従いそれぞれ接合し、SD-Met-Lys寒天プレートで30℃、5日間培養した。生育したコロニーをシングル化後、フローサイトメーターでゲノムDNA量を測定し、2倍体であることを確認した株をBY4743+GFP(LEU)株、BY4743+GFP(HIS)株とした。
[0132]
 BY4743+GFP(LEU)株とBY4743+GFP(HIS)株を細胞融合し、4倍体酵母を作製した。細胞融合はプロトプラスト-PEG法を用いて行った。SD-Leu-His寒天プレートで生育したコロニーを細胞融合候補株とした。生育したコロニーをシングル化後、フローサイトメーターでゲノムDNA量を測定し、4倍体であることを確認した株をBY4744+GFP(LH)株とした。
実施例 16
[0133]
(倍加酵母を用いたゲノム再編効率の測定)
 実施例10で作製したTaqI遺伝子酵母発現用ベクター、pORF-pGAL1-TtTaqIopt-tDIT1(AUR)を実施例11、14で作製した各倍加酵母へ形質転換した。形質転換体を用いて、実施例12と同様にYPG+0.5 mg/L AbA培地に培地交換した後、35℃でTaqIを発現誘導しながら、穏やかにTaqIの活性化を行った。22時間後に酵母を回収し、実施例13と同様にフローサイトメーターでゲノム再編効率を測定した。結果を図16に示す。
[0134]
 図16に示すように、1倍体酵母のゲノム再編効率が0.5~0.75%だったのに対し、2倍体酵母では1.0%、4倍体酵母では2.5%と増加し、ゲノムの倍加がゲノム再編効率を向上させることが示された。
実施例 17
[0135]
(倍加酵母のゲノム再編による倍数性の変化)
 実施例16と同様に、各倍加酵母を用いて35℃でTaqIを発現誘導しながら、穏やかにTaqIの活性化を行った。0、16、46時間後に酵母を回収し、70%エタノールで固定後、DAPI染色によりゲノムDNAを蛍光染色した。蛍光染色した各倍加酵母を用いてフローサイトメーターで核相解析を行った。結果を図17に示す。図17に示すように、倍加酵母では、倍数性が増加または減少した個体の出現頻度の上昇が認められた。
実施例 18
[0136]
(ゲノム倍加とゲノム再編によるキシロース資化能力の進化育種)
(OC2-A(CF)株の取得)
 ワイン酵母OC-2株にキシロース資化遺伝子を導入したOC2-A株を作製した。すなわち、ワイン酵母OC-2株にキシロース資化遺伝子を導入したOC700株(特開2014-193152)をベースに、ADH2遺伝子を破壊するとともにADH1遺伝子を増強し、mhpF遺伝子(E.coli由来)を導入したOC2-A株を取得した。
[0137]
(OC2-A(CF)株の取得)
 OC2-A株を用いて、以下のとおり、ゲノム再編によるキシロース資化能力の進化育種を行った。OC2-A株にKluyveromyces lactis由来のURA3遺伝子を導入したOC2-A(KlURA3)株と、Kluyveromyces marxianus由来のTRP1遺伝子を導入したOC2-A(KmTRP1)株を作製した。両株を用いてプロトプラスト-PEG法による細胞融合を行い、細胞融合株OC2-A(CF)株を作製した。
[0138]
 OC2-A(CF)株をTaqI遺伝子酵母発現用ベクター、pORF-pGAL1-TtTaqIopt-tDIT1(AUR)で形質転換しOC2-A(CF)+TaqI株を取得した。OC2-A(CF)+TaqI株を用いて、実施例12と同様にYPG+0.5 mg/L AbA培地に培地交換した後、20℃で終夜培養することでTaqIを発現誘導した。その後、35℃で8~24時間、TaqIの活性化を行った後、YPD培地+0.5 mg/L AbA培地で回復培養を行ったサンプルをゲノム再編酵母ライブラリーとした。
[0139]
(OC2A-C5株の取得)
 キシロースを主な糖源とする培地で培養、植え継ぎを繰り返すことで集積培養(35℃)を行った。集積培養を開始後、約300時間までは僅かにグルコースを加えたYPX培地(10g/L Yeast extract、20 g/L Peptone、1 g/L Glucose、20 g/L Xylose)で培養した。その後、キシロースのみを糖源とするYPX培地(10 g/L Yeast extract、20 g/L Peptone、20 g/L Xylose)に変更し、さらに集積培養を約200時間行った。これらの培養工程における菌体量の推移を図18に示す。集積培養後の培養液をYPD寒天プレートにストリークし、シングル化した株をOC2A-C5株とした。
[0140]
(OC2A-C5株のキシロース資化能力試験)
 OC2A-C5株のキシロース資化能力を発酵試験により評価した。5%キシロース発酵培地(10 g/L Yeast extract、50 g/L Xylose)にOC2-A株、OC2-A(CF)株、OC2A-C5株をそれぞれOD600 = 1.0で植菌し、32℃で発酵試験を行った。0、16、24、48、72時間でサンプリングを行い、HPLCでキシロース及びエタノールを測定した。結果を図19に示す。
[0141]
 図19に示すように、OC2A-C5株は、親株であるOC2-A株、その細胞融合株であるOC2-A(CF)株と比較して、キシロースの資化能力が顕著に向上し、48時間で50 g/Lのキシロースを完全に消費し、21.3 g/Lのエタノールを生産した。
[0142]
 さらに、高糖濃度のグルコース+キシロース混合発酵培地(10 g/L Yeast extract、80 g/L Glucose、100 g/L Xylose)とするほかは、上記資化能力試験と同様に発酵能力の評価を行った。結果を図20に示す。
[0143]
 図20に示すように、OC2A-C5株は、親株であるOC2-A株、その細胞融合株であるOC2-A(CF)株と比較して、キシロースの資化能力が向上し、72時間で80 g/Lのグルコースと100 g/Lのキシロースを完全に消費し、76.2 g/Lのエタノールを生産した。
[0144]
 図19及び図20に示すように、OC2A-C5株は、キシロースの資化能が顕著に増大し、その結果、エタノールなどを生産発酵する能力も増大していることがわかった。特に現実的な発酵条件である高糖濃度での発酵試験でも、OC2-A(CF)株に対して約1.3倍、OC2-A株に対して約1.4倍の発酵能を呈しており、実用的なキシロース資化性能に優れていることがわかった。
[0145]
 以上の結果から、TaqI遺伝子が導入されたOC2-A(CF)+TaqI株を、TaqI遺伝子の発現及び活性化後に、キシロース含有培地という進化圧力の下で集積培養することで、進化的変化及び淘汰により、有用な株であるOC2A-C5株を取得できることがわかった。すなわち、DNA二本鎖切断酵素を発現し活性化した状態の細胞を、任意の条件下で増殖させることにより、条件に適合した細胞を効率的に得られることがわかった。
実施例 19
[0146]
(ゲノム再編による耐熱性の進化育種)
 実施例18で作製したOC2A-C5株を用いて、実施例18と同様にしてTaqI処理を行い、ゲノム再編酵母ライブラリーを作製した。次に、YPX培地(10 g/L Yeast extract、20 g/L Peptone、20 g/L Xylose)、39~41℃で培養、植え継ぎを繰り返すことで集積培養を約500時間行った。集積培養後の培養液をYPD寒天プレートにストリークし、シングル化した株をOC2A-TT株とした。
[0147]
 このOC2A-TT株を用いて、40℃での発酵試験により耐熱性を評価した。グルコース+キシロース混合発酵培地(10 g/L Yeast extract、30 g/L Glucose、30 g/L Xylose)にOC2-A株、OC2-A(CF)株、OC2A-C5株、OC2A-TT株をそれぞれOD600 = 1.0で植菌し、40℃で発酵試験を行った。0、16、24、48、65時間でサンプリングを行い、HPLCでグルコース、キシロース及びエタノールを測定した。結果を図21に示す。
[0148]
 図21に示すように、OC2A-TT株は、他の株と比較して、40℃での増殖能(耐熱性)が増大していることがわかった。図21に示すように、OC2A-TT株の耐熱性が顕著に増大しており、良好な高温培養でも良好なキシロース資化能を示し、は、キシロースの資化能が顕著に増大し、その結果、エタノールなどを生産発酵する能力も増大していることがわかった。特に現実的な発酵条件である高糖濃度での発酵試験でも、OC2-A株に対して約1.2倍、OC2-A(CF)株やOC2A-C5株に対しては約3倍もの発酵能を呈しており、耐熱性に特化して実用上においても優れていることがわかった。
[0149]
 以上の結果から、TaqI遺伝子が導入されたOC2-A(CF)+TaqI株を、TaqI遺伝子の発現及び活性化後に、高温という進化圧力の下で集積培養することで、進化的変化及び淘汰により、有用な株であるOC2A-TT株を取得できることがわかった。すなわち、DNA二本鎖切断酵素を発現し活性化した状態の細胞を、任意の条件下で増殖させることにより、当該条件に適合した細胞を効率的に得られることがわかった。

請求の範囲

[請求項1]
 真核生物体における遺伝的組換えの誘発方法であって、
 真核生物体が本来的に有する倍数性を超える倍数体である真核生物体の細胞内においてDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を作用させるゲノムセットの改変工程、
を備える、方法。
[請求項2]
 前記遺伝的組換えは、1又は2以上の塩基の置換、挿入及び欠失による遺伝子突然変異並びに染色体の逆位、不等交叉、交叉、転座、重複、欠失、サイズコピー数の低下、コピー数の増大、染色体倍数化及び染色体異数化からなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1に記載の方法。
[請求項3]
 前記真核生物体は4倍数性以上の倍数体である、請求項1又は2に記載の誘発方法。
[請求項4]
 前記遺伝的組換えは、染色体異数化を含む、請求項1~3のいずれかに記載の誘発方法。
[請求項5]
 前記遺伝的組換えは、ゲノムサイズの低下又は増加を含む、請求項1~4いずれかに記載の誘発方法。
[請求項6]
 前記遺伝的組換えは、染色体の一部に欠失又は重複を含む、請求項1~5のいずれかに記載の誘発方法。
[請求項7]
 前記改変工程は、前記タンパク質の前記DNA二本鎖切断活性を人為的に活性化する工程である、請求項1~6のいずれかに記載の誘発方法。
[請求項8]
 前記改変工程は、前記タンパク質の前記DNA二本鎖切断活性についての至適温度より低い温度で作用させる工程である、請求項1~7のいずれかに記載の誘発方法。
[請求項9]
 前記改変工程は、前記タンパク質をコードする外来遺伝子の発現によって得られる前記タンパク質を用いる工程である、請求項1~8のいずれかに記載の誘発方法。
[請求項10]
 前記タンパク質は多頻度制限酵素である、請求項1~9のいずれかに記載の誘発方法。
[請求項11]
 前記多頻度制限酵素は、好熱菌由来の制限酵素である、請求項10に記載の誘発方法。
[請求項12]
 前記多頻度制限酵素は、TaqIである、請求項11に記載の誘発方法。
[請求項13]
 前記真核生物体は、植物体である、請求項1~12のいずれかに記載の誘発方法。
[請求項14]
 前記真核生物体は、微生物である、請求項1~13のいずれかに記載の誘発方法。
[請求項15]
 前改変工程に先立って、人為的にゲノムサイズ増大操作によって親真核生物体を取得する倍数化工程を備える、請求項1~14のいずれかに記載の誘発方法。
[請求項16]
 前記倍数化工程は、倍化誘発剤を用いる、請求項15に記載の誘発方法。
[請求項17]
 前記倍数化工程は、細胞融合を用いる、請求項14に記載の誘発方法。
[請求項18]
 改変された真核生物体の生産方法であって、
 真核生物体が本来的に有する倍数性を超える倍数体である親真核生物体の細胞内においてDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を作用させて、前記親真核生物体のゲノムセットを改変する改変工程、
を備える、方法。
[請求項19]
 さらに、改変されたゲノムセットを保持する真核生物体の集団から、任意の指標に基づいて意図する真核生物体を選抜する工程、
を備える、請求項18に記載の生産方法。
[請求項20]
 真核生物体集団の生産方法であって、
 本来的に有する倍数性を超える倍数体である親真核生物体の細胞内においてDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を作用させて親真核生物体のゲノムセットを改変する改変工程を備え、
 改変されたゲノムセットを保持する真核生物体の集団を取得する、生産方法。
[請求項21]
 本来的に有する倍数性を超える倍数性を有し、DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を発現可能に保持する、真核生物体である育種材料。
[請求項22]
 育種材料の生産方法であって、
 本来的に有する倍数性を超える倍数体である真核生物体に対して人為的なゲノム増大操作を1回又は2回以上繰り返して、所望の倍数性の真核生物体を得る工程と、
 前記所望の倍数性の真核生物体をDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を発現可能に形質転換する工程と、
を備える、方法。
[請求項23]
 育種材料の生産方法であって、
 本来的に有する倍数性を超える倍数体である真核生物体をDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を発現可能に形質転換する工程と、
 形質転換された前記真核生物体に対して人為的なゲノム増大操作を1回又は2回以上繰り返して、所望の倍数性の形質転換された真核生物体を得る工程と、
を備える、方法。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]

[ 図 6]

[ 図 7]

[ 図 8]

[ 図 9]

[ 図 10]

[ 図 11]

[ 図 12]

[ 図 13]

[ 図 14]

[ 図 15]

[ 図 16]

[ 図 17]

[ 図 18]

[ 図 19]

[ 図 20]

[ 図 21]