明 細 書
技術分野
[0001]
本発明は、全固体二次電池に関するものである。
背景技術
[0002]
近年、スマートフォン・タブレット端末・ノートパソコンなどの情報関連機器や通信機器の高機能化に伴い、長時間使用が可能であり、小型・軽量で安全性の高い二次電池が強く要望されている。また、自動車業界においても、電気自動車用やハイブリッド自動車用の高出力且つ高容量の電池の開発が進められている。これらの要望に応え得る電池として、特に全固体リチウムイオン二次電池(全固体二次電池の1つ)が安全性の面からも注目を集めている。
[0003]
全固体リチウムイオン二次電池では、粒状物からなる電極材料の粒界抵抗を低減させるために、正極集電体および負極集電体の間に電極材料が挟み込まれた状態で加圧成型される。
[0004]
特に、電極材料に硫化物無機固体電解質を用いると、硫化物無機固体電解質が高い結着力および延性を有するので、上記加圧成型により電極材料における粒子同士の密着性が向上する。また、硫化物無機固体電解質は、酸化物無機固体電解質と比べてイオン伝導度が低いので、上記加圧成型が重要になる。さらに、正極集電体および負極集電体に密着性の高い材料を用いることで、正極集電体および負極集電体と電極材料と間における電気抵抗が小さくなる。
[0005]
しかしながら、電極材料に硫化物無機固体電解質を用いた全固体リチウムイオン二次電池は、上記加圧成型により、正極側または負極側に反ることになる。この反りは、全固体リチウムイオン二次電池の最大外形長が小さい場合だと、湾曲量が小さく問題にならないが、最大外形長が大きい場合だと、湾曲量が大きく問題になる。そして、この反りを矯正すれば、電極材料に割れの発生するおそれがある。
[0006]
このような反りを防止する全固体リチウムイオン二次電池として、正極集電体の両面それぞれに、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、および負極集電体を積層したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
先行技術文献
特許文献
[0007]
特許文献1 : 日本国特開2001-126756号公報
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0008]
ところで、全固体二次電池は、単セルであれば、製造工程が短縮され、且つ配線が単純になるという利点を有する。しかしながら、上記特許文献1に記載の全固体リチウムイオン二次電池は、複層セルであることを前提としている。言い換えれば、上記全固体リチウムイオン二次電池だと、単セルにすることができないという問題がある。
[0009]
そこで、本発明は、反りを抑えることができる単セルの全固体二次電池を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0010]
上記課題を解決するため、請求項1に係る本発明の全固体二次電池は、正極集電体および負極集電体にそれぞれ配置されるとともに加圧されてなる正極層および負極層と、これら正極層および負極層の間に配置される固体電解質層とを具備する全固体二次電池であって、
上記正極層および負極層は、硫化物無機固体電解質を有し、
上記正極集電体および負極集電体は、ピール試験による硫化物無機固体電解質との剥離強度が0.2N/mm以上であるものである。
[0011]
また、請求項2に係る本発明の全固体二次電池は、請求項1に係る発明の全固体二次電池において、固体電解質層は、硫化物無機固体電解質からなるものである。
[0012]
さらに、請求項3に係る本発明の全固体二次電池は、請求項1または2に係る発明の全固体二次電池において、正極集電体は、錫またはエッチドアルミニウムであり、
負極集電体は、粗化銅であるものである。
発明の効果
[0013]
上記全固体二次電池によると、単セルにおいて、正極集電体および正極層の反りと、負極集電体および負極層との反りとが相殺されるので、単セルであっても反りを抑えることができる。
図面の簡単な説明
[0014]
[図1] 本発明の実施の形態に係る全固体リチウムイオン二次電池の概略構成を示す断面図である。
[図2] 同全固体リチウムイオン二次電池における正極層の加圧成型による反りを説明するための断面図であり、加圧される前の状態を示す。
[図3] 同全固体リチウムイオン二次電池における正極層の加圧成型による反りを説明するための断面図であり、加圧されている状態を示す。
[図4] 同全固体リチウムイオン二次電池における正極層の加圧成型による反りを説明するための断面図であり、加圧された後の状態を示す。
[図5] 同全固体リチウムイオン二次電池における正極層の加圧成型による反りを説明するための断面図であり、正極集電体および正極層の密着性が低い場合を示す。
[図6] 同全固体リチウムイオン二次電池における正極層の加圧成型による反りを説明するための断面図であり、正極集電体および正極層の密着性が高い場合を示す。
[図7] 同全固体リチウムイオン二次電池の反りが抑えられる原理を説明するための断面図である。
[図8] 同全固体リチウムイオン二次電池における正極(負極)集電体の表面近傍を示す拡大斜視図であり、正極集電体がエッチドアルミニウムの場合を示す。
[図9] 同全固体リチウムイオン二次電池における正極(負極)集電体の表面近傍を示す拡大斜視図であり、負極集電体が粗化銅の場合を示す。
[図10] 90°ピール試験を説明するための側面図であり、剥離する前の状態を示す。
[図11] 90°ピール試験を説明するための側面図であり、剥離している状態を示す。
[図12] 90°ピール試験を説明するための側面図であり、剥離した後の状態を示す。
[図13] 比較例1に係る全固体リチウムイオン二次電池の写真である。
[図14] 本発明の実施例1に係る全固体リチウムイオン二次電池の写真である。
発明を実施するための形態
[0015]
以下、本発明の実施の形態に係る全固体二次電池について図面に基づき説明する。なお、本実施の形態では、全固体二次電池の一例として、固体電解質にリチウムイオン伝導性のものを用いた全固体二次電池、すなわち全固体リチウムイオン二次電池について説明する。
[0016]
まず、本実施の形態に係る全固体リチウムイオン二次電池の基本的構成について説明する。
[0017]
この全固体リチウムイオン二次電池は、図1に示すように、正極層2と負極層4との間にリチウムイオン伝導性固体電解質層(以下では単に、固体電解質層3という)が配置(積層)され、また正極層2の固体電解質層3とは反対側の表面に正極集電体1が、負極層4の固体電解質層3とは反対側の表面に負極集電体5が、それぞれ配置(積層)されたものである。上記正極層2および負極層4は、当然ながら電極となる層、つまり電極層である。また、上記正極層2および負極層4は、詳しくは後述するが、いずれも硫化物無機固体電解質を有する。なお、上記正極層2、固体電解質層3および負極層4は、いずれも粉末材料から形成されたものである。また、正極層2の外周に絶縁フィルム6を配置してもよい。
[0018]
次に、本発明の要旨について説明する。
[0019]
図2に示すように、正極集電体1の表面に配置された正極層2を加圧成型すると、図3に示すように、上記正極層2は、厚さ(積層)方向に圧縮するとともに幅方向に膨張しようとするが、正極集電体1から幅方向の反対向きに摩擦力Fを受けて、幅方向に膨張できない。このため、正極層2には、幅方向に膨張しようとする残留応力が発生する。しかしながら、図4に示すように、加圧成型を終えた正極層2は、上記残留応力が解放されて、幅方向に膨張しようとする。
[0020]
ここで、正極集電体1のピール試験による硫化物無機固体電解質との剥離強度が0.2N/mm未満である場合、正極集電体1および正極層2(硫化物無機固体電解質を有する)の密着性が低い。この場合、図5に示すように、正極層2は、正極集電体1の表面を滑りながら膨張するので、正極集電体1の形状に影響を与えない。これに対して、正極集電体1のピール試験による硫化物無機固体電解質との剥離強度が0.2N/mm以上である場合、正極集電体1および正極層2の密着性が高い。この場合、図6に示すように、正極層2は、正極集電体1の表面に食い込んだまま膨張するので、正極集電体1に反りを発生させる。上述した内容は、正極集電体1および正極層2についてだけでなく、図示しないが、負極集電体5および負極層4についても同様である。
[0021]
本発明は、図7に示すように、正極集電体1および正極層2の反りと、負極集電体5および負極層4の反りと相殺することで、全固体リチウムイオン二次電池の全体としての反りを抑えようとするものである。
[0022]
以下、上記全固体リチウムイオン二次電池の詳細な構成について説明する。
[0023]
上記正極層2には、正極活物質とリチウムイオン伝導性固体電解質との混合物が用いられる。上記混合物における、正極活物質とリチウムイオン伝導性固体電解質との重量比は、例えば7:3である。ここで、正極活物質には、リチウム・ニッケル複合酸化物(LiNi
xM
1-xO
2;MはCo,Al,Mn,V,Cr,Mg,Ca,Ti,Zr,Nb,MoおよびWのうち少なくとも1つの元素)、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、マンガン酸リチウム(LiMnO
2)など、電池分野において正極活物質に通常用いられている材料が用いられる。
[0024]
上記負極層4には、負極活物質とリチウムイオン伝導性固体電解質との混合物が用いられる。上記混合物における、負極活物質とリチウムイオン伝導性固体電解質との重量比は、例えば6:4である。ここで、負極活物質には、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維または樹脂焼成炭素などの炭素材料、シリコン、錫、リチウム、酸化物、硫化物、窒化物、合金など、粉体や箔などの形状にかかわらず、電池分野において負極活物質に通常用いられている材料が用いられる。
[0025]
ここで、正極層2、固体電解質層3、負極層4のリチウムイオン伝導性固体電解質には、有機化合物、無機化合物、有機および無機の両化合物からなる材料、リチウムイオン電池分野で通常用いられている材料などが用いられる。また、無機化合物のうち、例えばLi
2S-P
2S
5などの硫化物系は、他の無機化合物と比べてイオン伝導性に優れる。
[0026]
上記正極集電体1および負極集電体5には、表面未処理の錫、エッチングにより表面にスポンジ状の細孔が多数形成されたエッチドアルミニウム(図8参照)、または表面にピラミッド状の低角錐が多数形成された粗化銅(図9参照)などが用いられる。また、これらは、板状体、箔状体、成膜体、または金属箔複合体などである。この金属箔複合体は、金属箔に表面コートを施した複合体であり、例えば、ステンレス箔の表面にカーボンコートを施したものである。上記正極集電体1および負極集電体5は、同一のものが用いられてもよく、異なるものが用いられてもよい。このような正極集電体1および負極集電体5とすることにより、ピール試験(正確には90°ピール試験)による硫化物無機固体電解質との剥離強度が高く(0.2N/mm以上)なる。
[0027]
以下、上記正極集電体(負極集電体)の硫化物無機固体電解質との剥離強度を計測するためのピール試験(正確には90°ピール試験)について説明する。
[0028]
図10に示すように、50mm(短手方向)×100mm(長手方向)の集電体1,5(正極集電体1または負極集電体5)に、Li
2S-P
2S
5層Lを14mg/cm
2で均一の厚さに形成した。こうして得られたものを厚さ(積層)方向に300MPaで加圧して、試験片とした。
[0029]
ここで、上記ピール試験の試験片を構成する層にLi
2S-P
2S
5層L(正極層2または負極層4と同一材料からなる層ではなく)を用いた理由について説明する。
[0030]
正極層2または負極層4と同一材料(以下では電極合材という)を加圧成型したものは、粉体同士の結着力が小さくなる。この結着力は、電極合材からなる層と集電体1,5との密着力よりも小さい。このため、上記試験片を構成する層に電極合材からなる層を用いた場合、ピール試験において、電極合材からなる層が破断(層間剥離ともいう)するので、電極合材からなる層と集電体1,5との剥離が発生しない。したがって、ピール試験により計測される値は、電極合材からなる層と集電体1,5との剥離強度ではなく、電極合材からなる層の層間剥離強度となるからである。
[0031]
また、上記ピール試験は、正確には90°ピール試験であるから、厚さ(積層)方向に剥離させようとするものである。このため、上記試験片を構成する層に電極合材からなる層を用いた場合、ピール試験において、電極合材からなる層が層間剥離する。これに対して、実際の全固体リチウムイオン二次電池は、図6で説明したように、厚さ(積層)方向ではなく幅方向に膨張しようとするので、電極材料が層間剥離しない。したがって、集電体1,5に密着させる層が電極合材からなる層およびLi
2S-P
2S
5層Lのいずれであっても、同等の密着力を有すると考えられるからである。
[0032]
上記試験片におけるLi
2S-P
2S
5層Lの一端部(長手方向)を試験台Bに接着剤Aで固定するとともに、上記試験片の他端部(長手方向)をチャックCで引っ張る。なお、チャックCで引っ張る方向は、試験台Bの面に対して常に直交させる。すると、図11に示すように、Li
2S-P
2S
5層Lは、一端部が試験台Bに固定されるとともに他端部が引っ張られるので、いずれ破断する。その後、試験台Bに固定されたLi
2S-P
2S
5層Lと、集電体1,5とが剥離し始める。この際に、チャックCで負荷が計測される。そして、図12に示すように、上記剥離が終了すると、上記計測も終了する。
[0033]
こうして上記計測で得られた負荷の平均値を、試験片の短手方向における長さで除した値が、ピール試験(正確には90°ピール試験)による剥離強度となる。
[0034]
以下、上記全固体リチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
[0035]
まず、正極集電体1の表面に、乾式成膜法により正極層2を形成する。次に、正極層2の正極集電体1とは反対側の表面に、乾式成膜法により固体電解質層3を形成する。その後、固体電解質層3の正極層2とは反対側の表面に、乾式成膜法により負極層4を形成する。そして、負極層4の固体電解質層3とは反対側の表面に負極集電体5を積層し、正極層2に98kN/cm
2(10tf/cm
2,980MPa)の圧力が作用するように、正極集電体1および負極集電体5から厚さ(積層)方向に加圧する。こうして、全固体リチウムイオン二次電池が製造される。
[0036]
上記全固体リチウムイオン二次電池によると、単セルにおいて、正極集電体1および正極層2の反りと、負極集電体5および負極層4との反りとが相殺されるので、単セルであっても反りを抑えることができる。
[0037]
以下、上記実施の形態をより具体的に示した実施例に係る全固体リチウムイオン二次電池と、比較例に係る全固体リチウムイオン二次電池とについて説明する。なお、以下の実施例および比較例では、いずれも、次の条件を満たすものとした。
(1)正極層2を50mm角とし、正極層2の正極活物質にLiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2(粒径6μm)を用い、正極層2のリチウムイオン伝導性固体電解質にLi
2S(80mol%)-P
2S
5(20mol%)を用いた。
(2)固体電解質層3を54mm角とし、固体電解質層3にLi
2S(80mol%)-P
2S
5(20mol%)を用いた。
(3)負極層4を54mm角とし、負極層4の負極活物質にグラファイト(粒径25μm)を用い、負極層4のリチウムイオン伝導性固体電解質にLi
2S(80mol%)-P
2S
5(20mol%)を用いた。
[0038]
[比較例1]
正極集電体にエッチドアルミニウム(密着性の高い材料)を用い、負極集電体に電解銅箔(密着性の低い材料)を用いた。本比較例1に係る全固体リチウムイオン二次電池によると、反りによる湾曲量が15~20mmとなった(図13)。
[0039]
[比較例2]
正極集電体にステンレス箔(密着性の低い材料)を用い、負極集電体に粗化銅箔(密着性の高い材料)を用いた。本比較例2に係る全固体リチウムイオン二次電池によると、図示しないが、反りによる湾曲量が上記比較例1と同様になった。
実施例 1
[0040]
正極集電体1にエッチドアルミニウム(密着性の高い材料)を用い、負極集電体5に粗化銅箔(密着性の高い材料)を用いた。本実施例1に係る全固体リチウムイオン二次電池によると、反りによる湾曲量を上記比較例の1/3程度である5~6mmに抑えることができた(図14)。
実施例 2
[0041]
正極集電体1に錫(密着性の高い材料)を用い、負極集電体5に粗化銅箔(密着性の高い材料)を用いた。本実施例2に係る全固体リチウムイオン二次電池によると、図示しないが、反りによる湾曲量を上記実施例1と同等に抑えることができた。
[0042]
このように、上記実施例および比較例に係る全固体リチウムイオン二次電池を対比すると明らかであるが、上記実施例に係る全固体リチウムイオン二次電池によると、単セルであっても反りを抑えることができた。
[0043]
ところで、上記実施の形態および実施例では、全固体二次電池の一例として全固体リチウムイオン二次電池について説明したが、これに限定されるものではなく、全固体二次電池であればよい。
[0044]
また、上記実施の形態および実施例では、正極集電体1および負極集電体5の具体的な材料について説明したが、これに限定されるものではなく、正極集電体1および負極集電体5のピール試験(正確には90°ピール試験)による硫化物無機固体電解質との剥離強度が0.2N/mm以上であればよい。
請求の範囲
[請求項1]
正極集電体および負極集電体にそれぞれ配置されるとともに加圧されてなる正極層および負極層と、これら正極層および負極層の間に配置される固体電解質層とを具備する全固体二次電池であって、
上記正極層および負極層は、硫化物無機固体電解質を有し、
上記正極集電体および負極集電体は、ピール試験による硫化物無機固体電解質との剥離強度が0.2N/mm以上であることを特徴とする全固体二次電池。
[請求項2]
固体電解質層は、硫化物無機固体電解質からなることを特徴とする請求項1に記載の全固体二次電池。
[請求項3]
正極集電体は、錫またはエッチドアルミニウムであり、
負極集電体は、粗化銅であることを特徴とする請求項1または2に記載の全固体二次電池。
図面