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1. (WO2015141840) 良加工性鋼線材およびその製造方法
Document

明 細 書

発明の名称 良加工性鋼線材およびその製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005   0006   0007  

先行技術文献

特許文献

0008  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0009  

課題を解決するための手段

0010   0011   0012  

発明の効果

0013  

図面の簡単な説明

0014  

発明を実施するための形態

0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042  

実施例

0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061  

産業上の利用可能性

0062  

請求の範囲

1   2   3  

図面

1   2   3   4   5  

明 細 書

発明の名称 : 良加工性鋼線材およびその製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、線材を使用して製品化される製造工程の中で必須加工と言える伸線加工やボルト成形加工の代表例である圧造などの加工において、破断や亀裂発生の素過程である内部マイクロボイド形成を遅延化させるなどの効果により、鋼線材の加工性能を高めた発明であって、鋼線材の一般的な加工分野に適用できることを特徴とする。

背景技術

[0002]
 鋼線材の加工性を高めるために、従来技術の中で最も一般的に使われている技術は、球状化焼鈍を実施する方法である。球状化焼鈍を利用した従来技術は特許文献1に示されている様に、オーステナイト結晶粒径を100μm以上とし、かつフェライト分率を20%以下としたものがある。特に焼鈍後のセメンタイト球状化を促進させる方法としてCrを添加している。
[0003]
 この従来技術においては、圧造性を確保するためにオーステナイト結晶粒径を100μm以上とする必要があるため、アップセット方式でなく、自由表面が露出して加工される圧造工程を実施した場合には、自由表面部の肌に凹凸が生じる場合がある。この程度がひどい場合には、オレンジピール状の比較的目立つ凹凸になり、適用する用途によってはこの凹凸が問題となる場合がある。また、セメンタイトの生成能向上のためにCrも多く添加しているため、合金鋼コストもやや高くなるなどの問題点を抱えていた。
[0004]
 特許文献2は、擬似パーライトが10面積%以上、ベイナイトが75面積%以下、フェライトが60面積%以下になるように鋼材の組織を調整することによって、鋼材の球状化焼鈍時間時間の短縮と球状化後における加工性の向上と変形抵抗の低減の両立を図っている。
[0005]
 また、特許文献2は、疑似パーライトとベイナイトとフェライトの面積%を規定して望ましい範囲とすることによって、加工性能と変形抵抗のバランスをとることができ、優れた冷間鍛造性を発揮する鋼線材を得ることを特徴としている。
[0006]
 また、特許文献3は、共析鋼等圧延鋼線を製造するに際して、鋳造から線材圧延までの一貫的な工程において、該鋼材がオーステナイト相から変態をさせることなく圧延を完了させ直ちに等温変態熱処理させることによって、優れた伸線加工性を有する高張力鋼線を製造することを特徴としている。
[0007]
 しかし、特許文献1~4において、鋼線材に厳しい加工を与えて鋼線を製造する場合、鋼線の断線が生じやすくなる原因が検討されていない。また、鋼線材を鋼線に形成した際に発生するマイクロボイドの挙動が鋼線の断線に与える影響が検討されていない。

先行技術文献

特許文献

[0008]
特許文献1 : 特開2004-68064号公報
特許文献2 : 特開2006-225701号公報
特許文献3 : 特開2009-275250号公報
特許文献4 : 特開平7-258734号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0009]
 本発明はこの様な状況に鑑みてなされたものであり、安定した伸線加工性能および圧造加工性能を実現させるために、加工中に形成する内部のマイクロボイドの形成遅延化を狙ったセメンタイトの組織形態を有することを特徴とし、安定した加工性能を具備する鋼線材を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

[0010]
 上記目的を達成するための本発明の要旨は、以下の通りである。
 (1)質量%で、C:0.20~0.60%、Si:0.15~0.30%、Mn:0.25~0.60%、P:≦0.020%、S:≦0.010%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物である鋼成分を有する鋼線材であって、内部組織としてセメンタイトを有し、線材の長手方向に垂直な断面内におけるセメンタイトのうち、その個数比で80%以上は、短径が0.1μm以下、且つ長径と短径の比からなるアスペクト比が2.0以下であることを特徴とする良加工性鋼線材。
[0011]
 (2)前記鋼成分に加えて、更に、質量%で、Al:0.06%以下、Cr:1.5%以下、Mo:0.50%以下、Ni:1.00%以下、V:0.50%以下、B:0.005%以下、Ti:0.05%以下のうち1種以上を含むことを特徴とする(1)に良加工性鋼線材。
[0012]
 (3)(1)又は(2)に記載の成分組成の鋼片を950℃~1080℃に加熱して線材圧延に供し、750℃~900℃の温度域で捲取り、その後、400℃~430℃の溶融塩にてインライン熱処理を施し、溶融塩に浸漬中の線材に対して撹拌流速が0.5m/s~2.0m/sの範囲で溶融塩を噴流させることを特徴とする伸線加工性および圧造加工性の優れた良加工性鋼線材の製造方法。

発明の効果

[0013]
 本発明は鋼線材の代表製造工程である伸線加工や冷間圧造加工などの分野において、加工中の断線や割れの発生を抑制し、優れた加工性能を有する線材の提供を可能とし、当該分野における生産活動の安定化に寄与できる。

図面の簡単な説明

[0014]
[図1] 電気抵抗測定方法の概略を示す図である。
[図2] 本発明と従来の鋼線材の電気抵抗の相違を示す比較図である。
[図3] ボイド形状とセメンタイト短径の関係を示すグラフである。
[図4] (a)は鋼線材のインライン熱処理工程を説明する概略上面図、(b)は鋼線材のインライン熱処理工程を説明する概略側面断面図である。
[図5] (a)は冷却槽内に溶融塩Aを吐出させる配管2を敷設した、インライン熱処理工程を行う装置10の概略正面断面図であり、(b)は前記装置10の概略側面断面図である。

発明を実施するための形態

[0015]
 以下、本発明に係る鋼成分、セメンタイトの組織形態に関するアスペクト比(長径)/短径)および断面内セメンタイト全量に対するアスペクト比別の存在比率および短径サイズおよび製造方法に関する内容について適正範囲の下限、上限を規定した内容を具体的に説明する。鋼成分に関する%は全て、質量%を示す。
[0016]
 C:0.20~0.60%
 Cは周知の通り強度を確保するために必要な元素であり、0.20%未満では適用用途における適正強度を保てなくなる。0.60%を超えると冷間鍛造時の負荷応力が高くなるため、圧造用ポンチ寿命などへの影響が出始める。
[0017]
 Si:0.15~0.30%
 Siは脱酸材として用いる。0.15%未満になると脱酸不足が生じて鋼片表面部に鋳造段階のピンホール欠陥起因による表面欠陥が生じてしまう。また、0.30%を超えると鋼片加熱段階の選択酸化によりスケールと地鉄界面にSiが濃化し、脱スケール性に悪影響をもたらすことを懸念して上限を0.30%とした。
[0018]
 Mn:0.25~0.60%
 MnはSiと同様に脱酸に必要な元素である。また、熱間圧延中の延性を確保するために重要な元素である。下限を0.25%にしたのは脱酸不足を回避するため、また、上限を0.60%としたのは、これを超える添加は固溶強化量が増え、鍛造加工時の変形抵抗を高めて工具寿命の劣化を招くためである。
[0019]
 P:≦0.020%
 Pは鋼材の延性を劣化させる特徴を有する元素である。また、偏析比も高いため製造段階で生じる偏析部分への濃化が生じやすい。このため、上限を0.020%とした。
[0020]
 S:≦0.010%
 Sは鋼中のMnと結合しMnSを生成する。また、Sは鋼の精錬~凝固過程で中心部に偏析するため、中心部にMnSが集積する。Sが0.010%を超えると伸線加工時などに内部クラックを形成し断線する場合がある。従って、Sは0.010%以下とする。
[0021]
 本発明の鋼線材における基本的な化学成分組成は上記の通りであり、上記の組成の他に更に、Al:0.06%以下、Cr:1.50%以下、Mo:0.50%以下、Ni:1.00%以下、V:0.50%以下、B:0.005%以下、Ti:0.05%以下よりなる群から選ばれる1種以上の元素を含有すると、焼入れ性の向上や、冷間鍛造の強度向上といった利点が得られる。
[0022]
 Al:0.06%以下、
 Alは、Nを固定して冷間鍛造中の動的歪時効を抑制し、変形抵抗を低減する効果がある。この効果を得るためには、少なくとも0.01%含有させることが好ましい。しかし、過剰に含有させると靭性を低下させるため、上限は0.06%とする。
[0023]
 Cr:1.50%以下、Mo:0.50%以下、Ni:1.00%以下
 Cr、MoおよびNiは、焼入れ性を高めることに有効な元素である。しかし、過剰に含有させると延性の劣化を引き起こすため、上記範囲内に抑える。
V:0.50%以下
 Vは、析出強化を目的として添加しても良い。しかし、多量に添加すると、延性の劣化を引き起こすため、上記範囲内に抑える。
[0024]
 B:0.0050%以下、Ti:0.05%以下
 Bは焼き入れ性を向上させる元素であり、必要により添加しても良い。ただし、過剰に含有させると、靭性を劣化させるため上限を0.005%とする。Tiは固溶Nの固定による動的時効抑制効果によって、冷間鍛造時の変形抵抗低減に有効な元素であるため、必要により添加しても良い。但し、過剰に含有させると粗大なTiNが析出し、この粗大なTiNを起点とする割れが生じやすくなることから、上限を0.05%とする。
[0025]
 次にセメンタイトのアスペクト比の限定理由について説明する。発明者らは加工性に及ぼすセメンタイト形状の影響を把握する方法として、通常用いる伸線ダイスよりもアプローチ角度が大きいダイスを用いて、材料に厳しい加工を意識的に与え、内部に形成するマイクロボイドの発生状況について種々検討を行った。その結果、セメンタイトと地鉄との界面部に生成するマイクロボイドの形態に以下の特徴があることを見出した。
[0026]
 アスペクト比の異なる各種鋼線材をそれぞれ高角度ダイス(アプローチ角度30°)で1パス(25%の伸線減面率)を実施し、伸線された各鋼線の断面のマイクロボイド観察を行い、発生したボイド形状及びその発生比率を測定した。その具体的な観察事例を表1に示す。
 観察は、倍率10000倍のSEM観察写真を表層部、1/4D部(Dは線材の直径)、中心部の3箇所から各265μm 2の面積領域で撮影することによって行った。セメンタイト形状のアスペクト比が2以下の場合、マイクロボイドが単独で生成する比率が極めて高くなる。一方、ラメラー状に生成したセメンタイト(アスペクト比が10以上)では隣接するセメンタイトのマイクロボイドが連結する比率が高い。また、アスペクト比が2~10の範囲では単独および連結形態の両方が混在している。但し、この方法による観察では断面内の局部的な視野に限定される。
[0027]
 そこで、発明者らは観察ボリュームを増やし、かつ安定して内部マイクロボイド形成状態を把握するために、表3に示す本発明の鋼線材No.1~6及び比較例の鋼線材No.11~16を用いてそれぞれ鋼線を製造、各鋼線に対して図1に示す4探針方式による電気抵抗測定を試みた。
[0028]
[表1]


[0029]
 その結果を図2に示す。実際に観察したボイド形状から想定される様に、本発明の鋼線材からなる鋼線の方が内部のマイクロボイドの形成が抑制され、マイクロボイドの発生個数が少ないため電気抵抗値が低いことが確認された。発明者らはこの測定結果によって、内部のマイクロボイド発生状況を把握しつつ組織形態を詳細に観察していく過程で、初期に通常より厳しい伸線条件を敢えて付与して人為的にマイクロボイドを形成させることにより、マイクロボイドの形成とセメンタイト形態の間に密接な関係があることを発見した。セメンタイトの形状に注目すると、長径と短径の比(以後、アスペクト比と呼ぶ)が2以下になるとセメンタイトの周りの地鉄界面からクラックが単独で生じることがわかった。
[0030]
 一方、表1において、アスペクト比が2を超え10以下になると、隣接するセメンタイト同士の距離により傾向は異なるものの、単独および連結形態の両方が現れる。さらにアスペクト比が10を超えると連結形態が増える傾向も表1に示されている。発明者らはこの知見を基にセメンタイトのアスペクト比を2以下に抑制することが内部のマイクロボイド形成を抑制し、単独で連結し難いマイクロボイドに制御することで伸線加工性および鍛造加工性の優れた線材の提供に効果を発揮する知見を得た。
[0031]
 以上の検討結果を踏まえて、以下に組織形態に関する限定理由について説明する。
 <アスペクト比1~2>
 アスペクト比を2以下としたのは表1に示すように、人為的に厳しい伸線加工を行い、セメンタイトにダメージを与えた後のマイクロボイドの形成に関して、発明者らが詳細に観察して得られた知見から、単独のマイクロボイドとなって連結し難いマイクロボイドの比率が最も高くなるのは、アスペクト比が2以下に集中した観察結果に基づいて決定した。また、アスペクト比が1~2のセメンタイトの比率が、断面内で80%以上の存在比率であれば、期待した加工性能が得られるために、存在比率の下限を80%とした。また、存在比率が80%未満の場合は単独のマイクロボイドが連結する比率が高まって加工性能に影響を及ぼすためである。
[0032]
 <セメンタイトの短径の限定理由>
 セメンタイトの短径を0.1μm以下としたのは、図3に示す様にマイクロボイド形成段階で隣接したボイドへの連結を生じにくくするためであり、この値を超えると連結しやすくなる。また、さらにセメンタイトの厚みが増して5μm以上になると、セメンタイト自体の割れによるマイクロボイドの形成を招くなど、本発明が問題にしている破壊モードとは別の悪影響が現れる。従って、セメンタイトの短径を0.1μm以下に規定した。
[0033]
 <ラメラー形態の組織比率の限定理由>
 線材製造段階で生じる冷却速度の断面内部位別の差により組織変動が生じるため、全断面を均一組織にするのは自ずと限界があり、ラメラー形態の組織比率を0とすることは困難である。種々試験を行った結果、ラメラー形態の組織比率が5%未満であれば加工性への影響が出にくいことが確認できたため、ラメラー形態の組織比率の上限を5%に規定した。
[0034]
 次に、本発明の良加工性鋼線材の製造方法について説明する。
 <鋼片の加熱及び線材圧延工程>
 鋼片は950℃~1080℃の範囲で加熱し、加熱後の鋼片を線材圧延する。950℃未満とすると、通常の保定時間内では鋼片の内部偏熱が大きくなり、圧延時の鋼材のそりや反力増大に伴う問題が生じる。また、上限温度を1080℃としたのは、これ以上の加熱温度とすると、γ(オーステナイト)粒径の増大などが生じ易くなるためである。この様な必要以上のγ粒径の増大は、最終製品の表面自由面の肌品質に影響を与えるため上限を1080℃とした。
[0035]
 <捲取り工程>
 前記加熱工程後の鋼片に対して、750℃~900℃の範囲にて捲取り工程を行う。下限温度は線材圧延の線径により多少の変動はあるものの、捲取り後の熱処理を安定的に行うために750℃とした。また、750℃以下では熱処理前にパーライト変態が生じて、狙いとする金属組織の付与ができなくなるためである。一方、900℃を超える温度での捲取りは、表面酸化の増大等を招き、好ましくない。
[0036]
 <インライン熱処理>
 インライン熱処理は、硝酸カリウム及び硝酸ナトリウムの少なくともいずれかの溶融塩が400℃~430℃にて所定の流速で攪拌された冷却槽中に、前記捲取り工程後の線材を浸漬することによって行われる。
 インライン熱処理温度の下限温度を400℃としたのは、これ未満の温度では下部ベイナイト組織となって素地の硬さが急激に増えてしまうため、圧造工程等で使用する工具の寿命が劣化するためである。熱処理の上限温度を430℃としたのは、これを超える温度になると上部ベイナイトの中に疑似パーライト組織が混入する領域になるため、セメンタイトのアスペクト比を制御することが困難となり、本発明の最も重要なマイクロボイド形成遅延効果が発揮できなくなるためである。
[0037]
 本発明の中で重要な役割を果たすのは前記インライン熱処理温度に加えて、ここで述べる噴流を生じさせる撹拌流速である。
 前記インライン熱処理において、鋼線材はルーズコイル等のコイルの形態で冷却槽内に浸漬される。この場合、冷却槽内の溶融塩の流れを一定の方向に維持したとしても、熱処理される鋼線材がコイル状であるために、溶融塩の鋼線材への衝突方向は場所によって異なり一定の衝突方向とすることは事実上困難と考えられる。
[0038]
 従って、流速のみならず鋼線材への溶融塩の衝突方向の影響も本発明を実現する上で重要な技術的課題と考えその影響についても調査した。溶融塩の流速の代表的な方向として、鋼線材の搬送方向(F)に対して平行な方向(図4(a)、(b)のD11及びD12)、鋼線材のコイル面に対して垂直な方向(図4(b)の方向D31及びD32)、鋼線材のコイル面に対して水平且つ前記搬送方向(F)に対して垂直な方向の流速(図4(a)の方向D21及びD22)と、断面内セメンタイト全量に対するアスペクト比2以下のセメンタイトの存在比率との関係について調査した。
[0039]
 図4(a)及び図4(b)に示すようにD12、D22及びD32方向を正方向とし、D11、D21、D31方向を負の方向として、鋼線材1のコイル面11A及び11B近傍における互いに垂直な3方向それぞれの溶融塩Aの最大流速及び最小流速をそれぞれ測定した。前記最大流速及び最小流速から求められる互いに垂直な前記3方向のそれぞれの平均流速を「攪拌流速ベクトル」と定義し、前記攪拌流速ベクトルの大きさを「攪拌流速」と定義して、溶融塩の攪拌流速と前記セメンタイトの存在比率との関係を調査した。その結果、鋼線材がコイル状である場合、溶融塩の攪拌流速が鋼線材のコイル面に対して0.5m/s以上であれば、実質的に問題が生じないレベルにまで断面内の材質の均一性を向上できることを知見した。
[0040]
 尚、撹拌流速が前記コイル面に対して0.5m/s未満では、溶融塩による線材の冷却が不十分になり、セメンタイトのアスペクト比を2以下とする制御が安定的に行えなくなる。一方、撹拌速度を前記コイル面に対して2m/sを超える速度とすると、溶融塩内の撹拌流の圧力上昇を招き、被熱処理材の線材コイルが揺動を始めるため搬送が安定しなくなるなど、操業安定性の観点から上限の撹拌流速を限定した。
[0041]
 前記攪拌流速の測定位置は、搬送ローラ6の隣接するローラの隙間等としても良い。また、前記攪拌流速の測定は、前記コイル面11A及び11Bに到達するまでの流速が略一定に維持される位置において測定することが特に好ましい。
[0042]
 尚、攪拌の駆動媒体としてガス体を用いる方法では、溶融塩による線材の冷却が不十分になるため、セメンタイトのアスペクト比を2以下に制御できないおそれがある。そこで、攪拌機を用いて冷却槽内の溶融塩を直接的に攪拌するか、冷却槽内の溶融塩中で溶融塩自体を吐出させることにより、線材の冷却を行っても良い。
実施例
[0043]
 以下に実施例に基づいて本発明の効果を記す。表2-1に試作に用いた供試鋼の化学成分を示す。
[0044]
 表2-1の鋼を溶製し、連続鋳造で300mm×500mmの鋳片サイズに鋳造した後、分塊圧延で122mm角の鋼片とした。この鋼片を再加熱後、線材圧延を行い、本発明例である線材No.1~10及び線材No.18~21は、線材捲取り後に、図5(a)、(b)に示すインライン熱処理装置10内の溶融塩に浸漬して直接熱処理を実施して、5.5mmφの線材とした。線材No.11は線材圧延後の直接冷却時の溶融塩の撹拌を実施していない。また、線材No.12~17は連続鋳造で同一サイズの鋳片とした後、分塊圧延で同一サイズの鋼片とし、線材圧延後の冷却は衝風冷却による熱処理を行って、5.5mmφの線材とした比較例の事例である。
[0045]
 尚、捲取り後の線材のインライン熱処理は、図5(a)、(b)に示すように、コイル状の鋼線材1全体が溶融塩Aの液面5の下まで浸漬されるように、インライン熱処理装置10内に搬送ローラ6で前記鋼線材1をF方向に搬送することによって行った。前記インライン熱処理装置10は、冷却槽3内に溶融塩Aを吐出させる配管2が敷設された構造であり、前記配管2は、前記線材1に向かって下側から上側の方向に溶融塩Aを吐出することによって、線材1のコイル面11に対して垂直な溶融塩の流れ4を作り出すことができる。
[0046]
 また、攪拌流速は、前記溶融塩の流れ4の、前記鋼線材1のコイル面11近傍における最大速度及び最小速度の平均速度として求めた。
[0047]
 表2-2から判る様に、本発明に係る線材の製造方法の特徴は、線材圧延後の直接熱処理により比較的低温の400~430℃の溶融塩に浸漬し、浸漬させた線材に撹拌流を伴った溶融塩を被熱処理材に接触させることにより抜熱強化を施した点である。
[0048]
 このため、比較例の線材とは異なり、本発明に係る鋼線材の組織はF(フェライト)+B(ベイナイト)を呈している。一方、比較例の線材の組織形態は、線材冷却速度が本発明に係る製造方法より遅くなるため、F+P(パーライト)組織を呈していることが判る。次に、表3から判る様に、前述した組織形態の差はセメンタイト形態因子であるアスペクト比に現れることが判る。
[0049]
 すなわち、本発明の鋼線材の場合、熱処理媒体の温度が通常の衝風冷却による製造の場合よりもアスペクト比を小さくすることが可能となり、容易に2以下を達成することができる。一方、比較例の線材No.12~17はラメラー状の組織を有するためアスペクト比が2以下の存在比率が極端に少なくなっているのが判る。また、比較例の線材No.18~21は、アスペクト比2以下のセメンタイト量の比率が、断面内で80%に満たなかった。これは、インライン熱処理時の溶融塩の攪拌流速が0.5m/s未満であったために、溶融塩による線材の冷却が不十分になったことが影響している。
[0050]
 線材No.1~21について、方向に垂直な断面内におけるセメンタイトのうち、短径が0.1μm以下且つアスペクト比2以下のセメンタイトの存在割合を測定した。また、線材No.1~21の伸線を行い、伸線性、圧造性、電気抵抗率測定及びマイクロボイドの数の測定を行った。この結果を表3に示す。
[0051]
 まず、表3に示すように、本発明例の鋼線材ならびに比較例の鋼線材をダイス半角5°の金型で伸線を実施すると両者の加工性能に大きな差が認められない。そこで、発明者らは意識的に厳しい伸線加工条件を付与させるために、ダイス半角15°の金型を用いて伸線を試みた。その結果、表3に示す様に本発明鋼の特性が表れ、5.5mm~5mmの1ダイス伸線時の内部にマイクロボイドの生成が認められないのに対して、比較例の鋼線材の場合は内部にマイクロボイドの生成が生じていることが判った。
[0052]
[表2-1]


[0053]
[表2-2]


[0054]
[表3]


[0055]
 本発明例に相当する線材No.1~10におけるアスペクト比2以下のセメンタイト量は、80%以上であった。また、表3の鋼線材No.12~17においては、大部分のセメンタイトがラメラー形態をなし、短径が0.1μmであって、アスペクト比が2以下のセメンタイトの面積による存在比率(表3の項目「アスペクト比2以下のセメンタイト量(%)」)は、6%以下に過ぎない。
 一方、ダイス半角15°の金型を用いた伸線性の試験結果について、鋼線材No.1~10(発明例)と鋼線材No.11~21(比較例)とを比較すると、本発明例の鋼線材は、マイクロボイド生成遅延による高延性を有している。
 このことから、マイクロボイド生成遅延による高延性は、アスペクト比の平均値が2以下でその存在比率が80%以上の領域において発現することが判る。
[0056]
 また、表3の結果から、実際にマイクロボイドの生成が多くなると伸線された鋼線の電気抵抗が増えることも併せて確認することができた。
[0057]
 すなわち、表3に示す様に本発明の鋼線の電気伝導度は0.23~0.25×10 -3Ωの範囲であるのに対して、比較例の鋼線は0.28~0.38×10 -3Ωの範囲と高いことが確認された。更に、本発明の鋼線に比べて、比較例の鋼線のマイクロボイドの発生数は明らかに多いことを確認することができた。
[0058]
 尚、前記電気抵抗率測定は、図1に示す4探針方式を用いて行った。また、マイクロボイドの数の測定は、高角度ダイス(アプローチ角度30°)で1パス(25%の伸線減面率)を実施して、2.4mm×3.2mmの面積内に存在するマイクロボイドのうち倍率500倍の観察において目視認識できるマイクロボイドの個数をカウントすることにより行った。
[0059]
 この様な内部のマイクロボイド生成鋼数の差異は、実際の加工性能への影響として鍛造加工性に現れる。
[0060]
 L/D比(L:長さ、D:直径)が1.5の試験片の円周方向の一箇所に長手方向に沿ってVノッチを付与した試験片を用いて、圧減比が90%までの鍛造を各5本ずつ行って、ノッチ底の割れの発生率(%)を求めた結果を表3の圧造性の欄に示す。
[0061]
 この結果から判る様に本発明に係る鋼線材の場合、割れは認められずに良好な加工性を有する。一方、比較例の鋼線材は50~100%の範囲で割れの発生が認められる。これらの結果は、セメンタイトの形状制御により、アスペクト比を2以下とした本発明に係る鋼線材においては、成形加工中の内部マイクロボイド生成を遅延させることができた結果により成されたものである。その理由は図3に示す観察結果が表すように、に係る鋼線材は、マイクロボイド単独形成比率が高いためである。

産業上の利用可能性

[0062]
 本発明は、鋼線材を素材とする代表的な製造工程である伸線加工や冷間圧造加工などの分野において、加工中の断線や割れの発生を抑制し、優れた加工性能を有する線材の提供を可能とし、当該分野における生産活動の安定化に寄与できる有意義な発明である。

請求の範囲

[請求項1]
 質量%で、C:0.20~0.60%、Si:0.15~0.30%、Mn:0.25~0.60%、P:≦0.020%、S:≦0.010%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物である鋼成分を有する鋼線材であって、内部組織としてセメンタイトを有し、線材の長手方向に垂直な断面内におけるセメンタイトのうち、その個数比で80%以上は、短径が0.1μm以下、且つ長径と短径の比からなるアスペクト比が2.0以下であることを特徴とする良加工性鋼線材。
[請求項2]
 前記鋼成分に加えて、更に、質量%で、Al:0.06%以下、Cr:1.5%以下、Mo:0.50%以下、Ni:1.00%以下、V:0.50%以下、B:0.005%以下、Ti:0.05%以下のうち1種以上を含むことを特徴とする請求項1に良加工性鋼線材。
[請求項3]
 請求項1又は請求項2に記載の成分組成の鋼片を950℃~1080℃に加熱して線材圧延に供し、750℃~900℃の温度域で捲取り、その後、400℃~430℃の溶融塩にてインライン熱処理を施し、溶融塩に浸漬中の線材に対して撹拌流速が0.5m/s~2.0m/sの範囲で溶融塩を噴流させることを特徴とする伸線加工性および圧造加工性の優れた良加工性鋼線材の製造方法。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]