明 細 書
発明の名称 : 垂直磁化膜用下地、垂直磁化膜構造、垂直MTJ素子及びこれらを用いた垂直磁気記録媒体
技術分野
[0001]
本発明は、強磁性薄膜成長のための下地となる六方最密充填構造の非磁性材料を用いた垂直磁化膜用下地と垂直磁化膜構造に関する。また、本発明は当該垂直磁化膜構造を用いた垂直MTJ素子及び垂直磁気記録媒体に関する。
背景技術
[0002]
磁性体を用いた磁気ディスク装置(ハードディスク)や不揮発性ランダムアクセス磁気メモリ(MRAM)に代表される磁気ストレージやメモリの高密度記録化、大容量化の進展に伴い、膜面垂直方向に磁化する垂直磁化膜の利用が有効である。この垂直磁化膜を用いたハードディスクの記録媒体や、MRAMの記録ビットを構成するトンネル磁気抵抗素子(MTJ素子)の微細化による記録密度の向上のためには、垂直磁化膜の品質向上による磁気異方性エネルギー密度Kuの増大が必要である。そして、垂直磁化膜の高品質化のためには、結晶配向性や結晶粒径の制御、積層欠陥の低減、平坦性の確保といった重要な役割を担う下地層の存在が極めて重要である。
[0003]
非特許文献1では、コバルト-白金-クロム(Co-Pt-Cr)合金などのCo基合金の垂直磁気記録媒体にはこれらと同じ六方最密充填(hexagonal close-packed,hcp)構造を持つRu下地を用いることが開示されている。また、極めて高いKuが得られるため将来の記録媒体やMTJ素子への応用が期待されるL1
0型鉄-白金(FePt)合金については、その下地として有効な物質として、非特許文献2では塩化ナトリウム構造(NaCl構造)の酸化マグネシウム(MgO)が開示され、特許文献1ではマグネシウム-チタン酸化物(MgTiO
x)が開示されている。
また、MTJ素子向けの垂直磁化膜では、バルク状では垂直磁化にならないコバルト-鉄-ホウ素(CoFeB)や鉄(Fe)などの軟磁性材料においても、超薄膜構造の界面効果を利用することで、垂直磁化を実現可能なため記録層として用いることができる(界面誘起垂直磁化層)ことが提案されている。この場合、非特許文献3、4によると、タンタル(Ta)やクロム(Cr)といった微結晶状もしくは体心立方構造(body-centered cubic,bcc)系材料が下地層として利用されている。
[0004]
しかし、上記従来のL1
0型合金とMgO下地には10%近い格子不整合があり、高い結晶性と規則度を持つ平坦膜状を実現することができない。また、従来の界面誘起垂直磁化層の下地は耐熱性が悪く、MTJ素子のトンネル磁気抵抗(TMR)比を確保するために必要な加熱処理を実行できないという課題がある。そしてまた、強磁性材料によっては下地層によってひずみの影響を受けることで十分な特性を引き出すことが不可能になる。それゆえ、従来では、これらの垂直磁化膜を用いた磁気記録媒体やMTJ素子の高品質化が困難であった。
先行技術文献
特許文献
[0005]
特許文献1 : WO2014004398 A1
非特許文献
[0006]
非特許文献1 : 中村 慶久 (監修)、「垂直磁気記録の最新技術」、シーエムシー出版 (2007/08)
非特許文献2 : A.Perumal,Y.K.Takahashi,and K.Hono,”L10 FePt-C Nanogranular Perpendicular Anisotropy Films with Narrow Size Distribution,“Applied Physics Express,vol.1,p101301(2008).
非特許文献3 : S.Ikeda et al.,“A perpendicular-anisotropy CoFeB-MgO magnetic tunnel junction,”Nature Mater.vol.9,pp.721-724(2010).
非特許文献4 : Z.C.Wen,H.Sukegawa,S.Mitani,and K.Inomata,“Perpendicular magnetization of Co2FeAl full-Heusler alloy films induced by MgO interface ”,Applied Physics Letters, vol.98,p.242507(2011).
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0007]
本発明は、このような実情に鑑み、従来の問題点を解消し、立方晶系または正方晶系垂直磁化膜を高品質に成長可能であって耐熱性の高い下地膜を用いた垂直磁化膜構造を提供することを課題としている。
また、本発明は当該垂直磁化膜構造を用いて形成した垂直磁化膜及び垂直MTJ素子を提供することを課題としてもいる。
課題を解決するための手段
[0008]
本発明者は垂直磁化MTJ素子の研究を行っている過程で、MgO層上に成長条件を制御することで得た高結晶方位を持つhcp構造を有するRu下地を見出し、その上に成長させた立方晶のコバルト-鉄-アルミニウム(Co
2FeAl)合金薄膜が(001)方位をもって形成されて、垂直磁化膜となることを見出した。また、本発明者は、この垂直磁化膜は一般的な下地材料であるCr層上に作製した場合よりも有意に高い垂直磁気異方性を有することや、この垂直磁化膜をMTJ素子の構成要素として用いた場合、TMR比の向上も得られることを見出した。また、Ruの融点の高さと、Ruと前記合金薄膜との結晶系が異なることにより高い耐熱性を有することも見いだした。そしてまた、本発明者は、Ruと同様に貴金属でありhcp構造を有するレニウム(Re)においても、MgO層上にRuと同等の高結晶方位を持って成長し、立方晶強磁性体の下地として利用可能なこと、も見いだした。このことは、Ruに留まらず、hcp構造を有する材料であれば幅広く有効であることを示している。
本発明は、このような新しい知見に基づいて完成されたものである。
[0009]
すなわち本発明の垂直磁化膜用下地は、hcp構造を有する金属であり、(001)面方位の立方晶系単結晶基板もしくは(001)面方位に成長した立方晶系配向膜に対して、[0001]方位が42°~54°の範囲の角度をなすことを特徴としている。
ここで、hcp構造を有する金属は各種であってよく、例えばその好ましい金属としてRuやRe等の貴金属が挙げられる。
例えば、上記金属がRuの場合には、図1~図4に例示したhcp構造のRuである。(001)面方位の立方晶系単結晶基板もしくは(001)面方位に成長した立方晶系配向膜に対し、Ru[0001]方位が42°~54°の範囲の角度をなしている。Ru[0001]方位が42°未満の場合には、Ru外7面よりも低結晶方位となること、また、Ru[0001]方位が54°を超える場合には、Ru外3面よりも高結晶方位となることから、Ruの正方形状格子が現れないために、立方晶系および正方晶系垂直磁化膜の下地として機能しない。
本発明の上記垂直磁化膜用下地においては、好ましくは、前記立方晶系単結晶基板または立方晶系配向膜の少なくとも一方は、酸化マグネシウムまたはマグネシウム-チタン酸化物である。
また、本発明の上記垂直磁化膜用下地においては、好ましくは、外1面、外2面もしくは外3面のいずれかを有する構造である。
尚、本段落の外1、外2、外3、外7は、次のミラー指数である。
[0010]
<外1>
[0011]
<外2>
[0012]
<外3>
[0013]
<外7>
[0014]
そして、本発明の垂直磁化膜構造は、例えば図5に示すように、(001)面方位の立方晶系単結晶の基板、または(001)面方位をもって成長した立方晶系配向膜を有する基板の一方(5)と、基板5に形成されたhcp構造の金属薄膜であって、基板5の<001>方位又は(001)面方位に対して、[0001]方位が42°~54°の範囲の角度をなす前記金属薄膜からなる下地層(6)と、下地層6の上に位置すると共に、組成材料としてCo基ホイスラー合金、bcc構造のコバルト-鉄(CoFe)合金、L1
0系合金XY(X=Fe、Co、Y=Pt、Pd)、DO
22型もしくはL1
0型のマンガン合金、例えばマンガン-ガリウム(Mn-Ga)合金およびマンガン-ゲルマニウム(Mn-Ge)合金、からなる群より選ばれた(001)面方位をもって成長した立方晶材料よりなる垂直磁化層(7)とを有することを特徴とする。
本発明の垂直磁化膜構造において、好ましくは、さらに、前記垂直磁化層の上に位置する非磁性層(8)を有することを特徴とする。
[0015]
本発明の垂直MTJ素子膜は、例えば図6に示すように、(001)面方位の立方晶系単結晶の基板、または(001)面方位に成長した立方晶系配向膜を有する基板の一方(10)と、基板10に形成されたhcp構造の金属薄膜であって、基板10の<001>方位又は(001)面方位に対して、[0001]方位が42°~54°の範囲の角度をなす前記金属薄膜からなる下地層(11)と、下地層11の上に位置すると共に、組成材料としてCo基ホイスラー合金、bcc構造のコバルト-鉄(CoFe)合金、L1
0系合金XY(X=Fe、Co、Y=Pt、Pd)、DO
22型もしくはL1
0型のマンガン合金、例えばマンガン-ガリウム(Mn-Ga)合金およびマンガン-ゲルマニウム(Mn-Ge)合金からなる群より選ばれた(001)方位に成長した立方晶材料よりなる第一の垂直磁化層(12)と、第一の垂直磁化層12の上に位置すると共に、組成材料としてMgO、スピネル(MgAl
2O
4)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)からなる群より選ばれた(001)方位およびそれに等価な方位に成長しているトンネルバリア層(13)と、トンネルバリア層13の上に位置すると共に、組成材料としてCo基ホイスラー合金、bcc構造のコバルト-鉄(CoFe)合金、L1
0系合金XY(X=Fe、Co、Y=Pt、Pd)、DO
22型もしくはL1
0型のマンガン合金、例えばマンガン-ガリウム(Mn-Ga)合金およびマンガン-ゲルマニウム(Mn-Ge)合金からなる群より選ばれた(001)方位に成長した立方晶材料よりなる第2の垂直磁化層(14)とを有することを特徴とする。
好ましくは、上記の垂直MTJ素子膜において、好ましくは、第2の垂直磁化層14の上に位置すると共に、組成材料としてTaと前記金属の少なくとも一方を含む上部電極(15)を有するとよい。
[0016]
本発明の垂直磁気記録媒体は、上記の垂直磁化膜用下地、上記の垂直磁化膜構造、または上記の垂直MTJ素子膜の少なくとも一つを有することを特徴とする。
[0017]
本発明の垂直磁化膜構造の製造方法は、(001)面方位の立方晶系単結晶の基板5を提供する工程と、基板5に前記金属薄膜の成膜を行う工程と、前記金属Ru薄膜を200~600℃で真空中ポスト加熱処理を行うことで、金属下地層6を形成する工程と、金属下地層6の上にCo基ホイスラー合金、bcc構造のコバルト-鉄(CoFe)合金、L1
0系合金XY(X=Fe、Co、Y=Pt、Pd)、DO
22型もしくはL1
0型のマンガン合金、例えばマンガン-ガリウム(Mn-Ga)合金およびマンガン-ゲルマニウム(Mn-Ge)合金からなる群より選ばれた(001)面方位をもって成長した立方晶材料よりなる垂直磁化層7を形成する工程とを有することを特徴とする。
[0018]
本発明の垂直MTJ素子膜の製造方法は、(001)面方位の立方晶系単結晶基板10を提供する工程と、基板10に前記金属薄膜の成膜を行う工程と、前記金属薄膜を200~600℃で真空中ポスト加熱処理を行うことで、金属下地層11を形成する工程と、金属下地層11の上にCo基ホイスラー合金、bcc構造のコバルト-鉄(CoFe)合金、L1
0系合金XY(X=Fe、Co、Y=Pt、Pd)、DO
22型もしくはL1
0型のマンガン合金、例えばマンガン-ガリウム(Mn-Ga)合金およびマンガン-ゲルマニウム(Mn-Ge)合金からなる群より選ばれた(001)面方位をもって成長した立方晶材料よりなる第一の垂直磁化層12を形成する工程と、第一の垂直磁化層12の上に形成されると共に、組成材料としてMgO、スピネル(MgAl
2O
4)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)からなる群より選ばれた(001)方位およびそれに等価な方位に成長しているトンネルバリア層13を形成する工程と、前記トンネルバリア層13の上に形成されると共に、組成材料としてCo基ホイスラー合金、bcc構造のコバルト-鉄(CoFe)合金、L1
0系合金XY(X=Fe、Co、Y=Pt、Pd)、DO
22型もしくはL1
0型のマンガン合金、例えばマンガン-ガリウム(Mn-Ga)合金およびマンガン-ゲルマニウム(Mn-Ge)合金からなる群より選ばれた(001)面方位をもって成長した立方晶材料よりなる第2の垂直磁化層14を形成する工程とを有することを特徴とする。
好ましくは、上記の垂直MTJ素子膜の製造方法において、好ましくは、第2の垂直磁化層14の上に形成されると共に、組成材料としてTaと前記金属の少なくとも一方を含む上部電極15を形成する工程を有するとよい。
発明の効果
[0019]
高い結晶指数面を有するルテニウム(Ru)やレニウム(Re)等の金属層を実現することで、六方最密充填(hcp)構造にもかかわらず正方形に近い原子配列が得られることを利用し、立方晶や正方晶系に属する強磁性材料を(001)面方位に成長可能にし、高い加熱耐性をもつ垂直磁化膜を実現するとともに,それを用いた垂直磁化型垂直MTJ素子の提供ができる。
図面の簡単な説明
[0020]
[図1] 図1は、本発明の一実施形態に係る下地構造の基本構造を示す断面図である。
[図2] 図2は、本発明の一実施形態に係る下地構造のRu原子配列、結晶方位および結晶面の関係を示した図である。
[図3] 図3は、外1方位に成長したRuと基板面との相対関係を表した図である。
[図4] 図4は、Ru下地表面の原子配列を示す俯瞰図及び側面図で、(A)はRu外1面,(B)Ru外3面を示している。
[図5] 図5は、本発明の一実施形態に係る垂直磁化膜構造の基本構造を示す断面図である。
[図6] 図6は、本発明の一実施形態に係る垂直磁気抵抗効果素子構造の基本構造を示す断面図である。
[図7] 図7(A)は、Ru下地構造を用いた垂直磁化膜構造の磁気特性を示すグラフである。図7(B)は既存構造Cr下地構造を用いた垂直磁化膜構造の磁気特性を示すグラフである。
[図8] 図8は、垂直磁気異方性Kuの加熱処理温度Texとの関係について、Ru下地構造および既存構造Cr下地構造との比較を示したグラフである。
[図9] 図9(A)は、Ru下地構造を用いた垂直磁化膜構造の磁気特性のCFA膜厚t
CFAの関係を示すグラフである。図9(B)は垂直磁気異方性KuとCFA膜厚t
CFAの積をt
CFAに対してプロットしたグラフである。
[図10] 図10は、Ru下地構造を用いた垂直MTJ素子のTMR比および素子抵抗を外部磁界に対してプロットしたグラフである。
[図11] 図11は、Ru下地構造/CFA20nm積層構造のX線回折パターン(Cu Kα線源)を示すもので、(A)は膜面直方向スキャン結果、(B)はMgO基板[100]方位における膜面内スキャン結果、(C)はMgO基板[110]方位における膜面内スキャン結果を示すグラフである。
[図12] 図12は、Ru下地構造のX線極スキャン測定結果(Cu Kα線源)を示すもので、(A)はRu外5ピークにおける結果、(B)はRu外6ピークにおける結果を示すグラフである。
[図13] 図13は、Ru下地構造のRu外1ピークのX線ロッキングカーブ測定結果(Cu Kα線源)を示すもので、(A)は加熱処理なしの場合の結果、(B)は加熱温度Tex=400℃の場合の結果を示すグラフである。
[図14] 図14は、Ru下地構造のX線膜面内回折パターン(Mo Kα線源)を示すグラフである。
[図15] 図15は、Ru下地構造上に形成したCFA(20nm)の(202)ピークのX線極スキャン測定結果(Cu Kα線源)を示すグラフである。
[図16] 図16は、Ru外1面上にMgOとCFAの原子配列を模式的に再現した俯瞰図及び側面図である。
[図17] 図17は、Ru下地構造/CFA(1nm)試料表面の原子間力顕微鏡像を示す図である。
[図18] 図18は、Ru下地構造を用いた垂直MTJ素子断面の高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡像を示す図である。
[図19] 図19は、Ru下地構造を用いた垂直MTJ素子断面の高分解能透過型電子線顕微鏡像を示すもので、(A)はMgO[100]方位、(B)はMgO[110]方位の場合を示している。
[図20] 図20(A)は、MgO基板とRu下地構造界面近傍のMgO[110] 方位の高分解能透過型電子線顕微鏡像。図20(B)は図20(A)のRu原子配列とMgO(001)面を模式的に示した図である。図20(C)は図20(B)を面内に180°回転させて得られたグラフである。
[図21] 図21は、Ru下地構造/Fe 20nm積層構造のX線回折パターン(Cu Kα線源)を示すもので、(A)は膜面内方向スキャン結果、(B)は(101)ピークの極スキャン結果を示すグラフである。
[図22] 図22は、MgO(001)、MgAl
2O
4(001)、SrTiO
3(001)基板上に形成したRu下地構造の膜面内X線回折パターン(Cu Kα線源)を示すグラフである。
[図23] 図23は反射高速電子線回折像を示した図である。(A)、(B)はRe(30nm)表面、(C)、(D)はFe(0.7nm)表面、(E)、(F)はMgO(2nm)表面における像である。
[図24] 図24はRe下地構造/Fe(0.7nm)/MgO(2nm)積層構造のX線回折パターン(Cu Kα線源)を示すもので、(A)は膜面内方向スキャン結果、(B)はRe(0002)ピークの極スキャン結果を示すグラフである。
発明を実施するための形態
[0021]
(A)基本構造
以下、図1-図6を参照しながら、本発明の各実施形態に係る下地構造1、垂直磁化膜構造4、垂直型磁気抵抗素子(垂直MTJ素子膜9)について詳細に説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態である下地構造1は、基板2と下地層3からなる。基板2は塩化ナトリウム(NaCl)構造を有する(001)面方位の酸化マグネシウム(MgO)単結晶である。さらに、基板2は(001)面方位に配向した面内多結晶MgO膜でもよく、また、MgOの代わりのNaCl構造を持ち同等の格子定数を有するマグネシウム-チタン酸化物(MgTiO
x)を用いてもよい。
[0022]
下地層3はルテニウム(Ru)やレニウム(Re)等の金属からなり、その結晶の[0001]方位(c軸)が膜面直方向から傾き、薄膜表面が高い方位面を有する。例えば金属がルテニウム(Ru)の場合、図2に示すように、Ruの結晶面は外7から外3近傍の方位面を有し、(0001)面(c面)と42°~54°の範囲の角度をなし、例えばこの範囲に外1面、外2面が含まれる。
[0023]
図3には代表例として外1方位に成長したRuの六方最密充填格子と基板面との関係を模式図として示している。MgOとRuの結晶構造の違いから、Ru層は結晶学的方位の異なる領域(バリアント)から構成され、エピタキシャルMgOを基板とする場合、膜全体として面内4回対称性を有する。
[0024]
図4(A)に外1面、図4(B)には外3面をRu膜上部及び側面方向から見たときの結晶配列を模式的に示している。図4(A)、(B)では、いずれもRu層の下地層3としての結晶表面には、ほぼ正方形に並んだ原子配列した格子が存在する。この正方形状格子は外3面上にある原子面2層が対になることで構成される(例えばRu1,Ru2の対)。Ruの格子定数(a=0.2704nm、c=0.4278nm)から得られる正方形状格子の原子間距離は0.265~0.270nm、対角方向における原子面間隔は0.189nmとなる。
[0025]
次に、本発明の一実施形態である垂直磁化膜構造4について説明する。
図5に示すように、垂直磁化膜構造4は基板5、下地層6、垂直磁化層7、非磁性層8の順に積層されている。基板5と下地層6は、それぞれ図1の場合の下地構造1の基板2、下地層3と同一である。垂直磁化層7は(001)面方位をもって成長した立方晶材料、例えばコバルト(Co)基フルホイスラー合金やbcc構造のコバルト-鉄(CoFe)合金(Co
1-xFe
x(0≦x≦1))を有する。フルホイスラー合金とはL2
1型の構造を持ち、Co
2YZ(Yは遷移金属、Zは主に典型元素)の化学組成を持ち、X、Y原子サイトは例えば、X=Fe、Cr、Mn及びその合金、Y=Al、Si、Ge、Ga、Sn及びその合金である。Co基フルホイスラー合金の形態としてL2
1型以外に、XとY原子サイトが不規則化した構造であるB2構造でも良い。また、CoFe合金にはホウ素を含むコバルト-鉄-ホウ素(CoFeB)合金も含まれる。
[0026]
垂直磁化層7には、上記に加えて、Ruの正方形状格子を利用可能な正方晶材料、例えばL1
0系合金XY(X=Fe、Co、Y=Pt、Pd)、DO
22型もしくはL1
0型のマンガン合金、例えばマンガン-ガリウム(Mn-Ga)合金およびマンガン-ゲルマニウム(Mn-Ge)合金なども(001)成長可能であるため、適用できる。これらの合金材料はRu正方形状格子との間の格子不整合が数%以下と小さいためである。
[0027]
垂直磁化層7に立方晶材料を用いる場合、0.5~2nm程度の超薄膜状とし、非磁性層8として例えばMgOなどの酸化物膜を配置することによりRu、Re等の金属下地構造と酸化物膜間に垂直磁化膜が形成される。正方晶垂直磁化膜の場合この非磁性層8は必ずしも必要が無い。
[0028]
次に本発明の一実施形態である垂直MTJ素子膜9について説明する。例えば図6に示すように、垂直MTJ素子膜9は、基板10、下地層11、第一の垂直磁化層12、非磁性層13、第二の垂直磁化層14、及び上部電極15を含んでいる。基板10、下地層11、第一の垂直磁化層12はそれぞれ垂直磁化膜構造4の基板5、下地層6、垂直磁化層7と同一である。第二の垂直磁化層14は非磁性層13と直接接しており、第一の垂直磁化層12と同じ構造、材料を用いることができる。またこの層にはアモルファス構造を有する垂直磁化膜、たとえばテルビウム-コバルト-鉄(Tb-Co-Fe)合金膜を含んでも良い。
[0029]
非磁性層13は酸化物層であり垂直磁気異方性を付与する目的だけではなく、MTJ素子ではトンネルバリアとしての役割を有する。以下では非磁性層13のことをトンネルバリア層と呼ぶ。トンネルバリア層13としては、組成材料としてMgO、スピネル(MgAl
2O
4)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)を採用でき、その膜厚は0.8nmから3nm程度である。MgAl
2O
4、Al
2O
3については立方晶であれば陽イオンサイトの不規則化した構造を有しても良い。トンネルバリア層13は(001)面およびそれに等価な面方位に成長していることが好ましい。これによって、第一の垂直磁化層12と第二の垂直磁化層14を含め(001)面方位のMTJ素子として機能するため高いTMR比が実現される。
[0030]
上部電極15は第二の垂直磁化層14の上に設けられる。タンタル(Ta)/Ru、Re等の金属の積層構造を有する。Ta、金属各層の厚さは例えばそれぞれ5nm、10nmである。
例えば、Ruはその融点の高さ(2334℃)から既存材料のクロム(Cr)よりも加熱処理による原子拡散の影響が小さく耐熱性が向上する。それゆえ下地構造11として用いた場合MTJ素子や磁気記録媒体層の構成層に特性向上のために十分な加熱処理が可能になる。
[0031]
また、Ru層はhcp構造を有し、立方晶及び正方晶の垂直磁化層とは結晶構造を異にする。それゆえ、それぞれの結晶同士の結びつきが同一の結晶構造同士の組み合わせの場合と比べ適度に弱まる。これによって下地層から受けるひずみの影響を弱めることが可能になり、作製条件によって垂直磁化層の特性を向上させることが可能になる。例えば、本形態のMTJ素子においては磁気異方性KuおよびTMR比特性を向上できる。
もちろん、本発明においてはhcp構造を有する金属はルテニウム(Ru)以外にも、レニウム(Re)をはじめとして各種のものであってよいことは言うまでもない。例えば、Ru、Reをはじめ、オスミウム(Os)、ロジウム(Rh)等の貴金属やこれらの合金、さらにチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、亜鉛(Zn)等がその例として挙げられる。
[0032]
本発明の実施形態である下地構造を垂直磁気記録媒体として用いる場合、下地構造及び垂直磁化層は結晶方位が配向した微小結晶粒からなる薄膜構造が必要となる。アモルファス構造の熱酸化膜付Si基板やガラス基板上には(001)結晶配向したMgOやMgTiO
xの多結晶膜をスパッタ成膜により作製可能であり、本実施形態の下地構造の下地として用いることができる。例えば熱酸化膜付Si基板/MgO/Ru/Co-Fe-Al合金(Co
2FeAl):CFA構造を利用可能である。
[0033]
(B)製造方法
以下、図1、図5、図6を用いて本発明の実施形態である下地構造1、垂直磁化膜構造4、および垂直MTJ素子膜9の製造方法について記述する。
以下Ruを例として説明する。まず、金属下地層3、6、11としてのRu層の作製方法としては、基板2、5、10を(001)面方位をもつMgOとし、超高真空マグネトロンスパッタ装置(到達真空度3×10
-7Pa程度)を用い、Ru薄膜を高周波(RF)スパッタにより成膜を行う。Ru膜厚は例えば40nmであるが平坦膜状になればより薄くてもよい。その後200~600℃で真空中ポスト加熱処理を行うことで結晶方位面の制御を行う。このときにRuのc軸方向とMgO基板面がなす角度が42°~54°の範囲の角度をなす。
[0034]
Co基ホイスラー合金である前記CFAはRu下地層の上に形成される。このCFA層は垂直磁化層7、第一の垂直磁化層12を構成する。CFAは高いスピン偏極率を有する材料として知られており、MTJ素子の強磁性層として用いることで極めて大きなTMR比を得ることができる。CFA層は一般的にB2構造を持ちFeとAlサイト間に不規則性がある。B2規則度が高いほどスピン分極率が高く、得られるTMR比が高くなる。CFA層は、Co-Fe-Al合金ターゲット(溶融ターゲット、代表的な組成50:25:25 atomic%)からのスパッタ成膜によって形成できる。CFA層の膜厚は、垂直磁化が得るのに適した0.5~1.5nm程度である。CFA層形成には真空中電子線蒸着法や複数ターゲットからの同時スパッタ成膜法が利用可能である。このとき、Ru正方形状格子を結晶成長のテンプレートとして立方晶の(001)成長が促される。CFA層の形成時には基板温度は150℃とすることで、B2規則構造を成膜中に得るとともに、膜の平坦性も確保できる。CFAの他に、立方晶で格子定数が近い材料、例えばCFA以外のCo基ホイスラー合金やbcc構造のCoFeを使用できる。
[0035]
次に、作製したCFA層上にトンネルバリア層13としてMgO層を、例えば1~2nm程度の膜厚で形成する。MgO膜形成には、MgOターゲットからの直接RFスパッタ成膜や、金属マグネシウム(Mg)をスパッタ成膜後に酸化処理する方法を用いることができる。MgO層の形成後に200℃程度のポスト加熱処理を行うことで結晶品質が向上でき、(001)配向性が向上することでより高いTMR比が得られる。
[0036]
その次に第二の垂直磁化層14としてCoFeBアモルファス層をスパッタ成膜により形成し、その膜厚は例えば1.3nmとする。その上に上部電極15として、例えば5nm膜厚のTaと、例えば10nm膜厚のRu層を同様にスパッタ成膜により形成する。Co-Fe-B層のホウ素(B)は加熱処理によってTa層へ原子拡散することで濃度が薄まることによって、MgOトンネルバリア層から結晶化し、(001)面方位のbcc構造へと変化する。これによって第一の垂直磁化層12/トンネルバリア層13/第二の垂直磁化層14の構造が(001)面方位に成長するため高いTMR比が得られる。この結晶化を促進するためにMgO層とCoFeB層間に結晶質のCoFe層を0.1~0.3nm挿入することができる。
[0037]
(C)特性
次に図7ないし図10を参照して、本実施形態の垂直磁化膜とそれを用いた磁気抵抗効果素子の特性について以下の実施例として説明する。
実施例 1
[0038]
(垂直磁気異方性)
垂直磁化膜構造として、MgO基板/Ru/CFA/MgO構造をスパッタ成膜により形成した例を示す。垂直磁化特性を確認するためにCFA膜厚は0.5nmから2.1nmまで0.1nm間隔で変化させた。MgO膜厚は1.8nmとした。特性改善のため、Tex=250~450°の温度範囲で真空中加熱処理をおこなった。
[0039]
図7(A)にMgO基板/Ru/CFA/MgO構造においてCFA層膜厚t
CFAを1nm、加熱温度Texを350℃とした場合の室温での磁化(M)の外部磁界(H)に対する曲線(磁化曲線)を示す。膜面直磁界と膜面内磁界の両方を示している。膜面直磁界方向の場合、外部磁界に対し容易に磁化が反転し小さい磁界で磁化が飽和するが、膜面内磁界方向では磁化させることが困難である。したがって大きな垂直磁気異方性を有する。垂直磁気異方性エネルギー密度(Ku)は膜面直と膜面内の曲線が囲む領域に対応する値であり、この面積が広い場合大きなKuの値を持つことを意味する。図7(A)において本発明の実施形態のRu下地を用いた場合のKuの値は3.1×10
6emu/cm
3であった。
[0040]
図7(B)には、比較例として、既存の下地であるCrを用いた場合における磁化曲線を示している。比較例では、Cr(40nm)/CFA(1nm)/MgO(2nm)、加熱温度Tex
= 350℃の積層構造を用いている。この場合も垂直磁化膜が得られているが、Ru下地を用いた場合に比べKuが小さく、Kuの値は8×10
5emu/cm
3であった。したがって、本発明の実施形態によれば、比較例のCrの代わりにRu下地を用いることによって、Kuの値は4倍に増大した。
[0041]
図8にRu下地およびCr下地の両方の場合について、TexのKuの依存性を示した。このときt
CFA は1nmとした。図8において正のKuは垂直磁化膜であることを示し、負のKuは面内磁化膜であることを示している。Ru下地の場合Tex が250~400℃の全てで垂直磁化となっている。一方、Cr下地の場合、Texが300~350℃の狭い範囲のみ垂直磁化となっており、特にTex=400℃では著しくKuの値が低下している。これはCr層とCFA層とが相互拡散し、CFA層の磁気特性を大いに劣化させたためである。Ru下地の場合、Cr下地よりも常に大きなKuの値を示す上、示したTexの範囲では垂直磁気異方性の劣化は見られない。すなわち、Ru下地を用いた場合高いTexでの加熱処理に適応できることを示している。
[0042]
図9(A)にはMgO基板/Ru/CFA/MgO構造においてt
CFAを変化させたときの磁化曲線を示している。この図からt
CFAが1.2nmから1.3nmの間で垂直磁化膜から面内磁化膜へと変化していることがわかる。図9(B)には各TexにおけるKuとt
CFAの積をt
CFAに対してプロットした図である。As-depo.とは膜構造形成後の加熱処理を行っていない試料を意味する。Kuとt
CFAの積が正の場合垂直磁化であることを示す。したがって、Tex=300、450℃ではt
CFAが0.6~1.2nmの範囲で垂直磁化膜が得られている。
なお、As-depo.では垂直磁化はほとんど得られていないが、これはRu下地層によるものではなく、CFA/MgO界面における結晶構造の品質が不十分なためである。
[0043]
図9(B)の実線は以下の式を用いたフィッティングによって得られた直線である。
[数1]
ここで、Msは飽和磁化(CGS単位系の場合、単位:emu/cm
3)、Kvは結晶磁気異方性エネルギー密度(単位:erg/cm
3)、KsはMgO/CFA界面の界面異方性エネルギー密度(単位:erg/cm
2)である。フィッティング計算から、Kvは負であり、CFA層自体はMgOトンネルバリア層が無い場合は面内磁気異方性を示す。一方Ksは図9(B)の切片であり、いずれのTexにおいても正である。したがって、CFA層が垂直磁化膜となるのは、MgOトンネルバリア層との界面における量子力学的効果によるものである。Tex=350℃においてKsは最大値2.2erg/cm
2であった。この値は、比較例であるCr下地を用いた場合の1.0erg/cm
2にくらべ2倍以上であった。
実施例 2
[0044]
(磁気抵抗効果)
垂直磁化膜を用いたMTJ素子として、MgO基板/Ru(40nm)/CFA (1.2nm)/MgO(1.8nm)/Fe(0.1nm)/Co
20Fe
60B
20(1.3nm)/Ta(5nm)/Ru保護層(10nm)構造を例に示す。膜構造作製後の加熱温度Tex
は325℃とした。
[0045]
図10に磁気抵抗変化(TMR)比の膜面直方向の外部磁界(H)依存性の室温および低温(10K)での結果を示す。図中の黒抜き及び白抜きの矢印は、それぞれCFA層とFe/CoFeB層の磁化方向を示す。磁界に対して急峻な抵抗変化が観察されることから、第一の垂直磁化層であるCFA層および第二の垂直磁化層であるFe/CoFeB層のいずれも完全な垂直磁化膜となっており、測定に用いた磁界範囲において平行磁化配列状態と反平行磁化配列状態が実現されていることを示している。平行磁化配列時と反平行磁化配列時のトンネル抵抗変化率で定義されるTMR比は室温で132%であった。この値は、比較例であるCr下地層を用いた場合の91%に比べて有意に大きい。また、低温におけるTMR比は237%であった。このRu下地層を用いることによるTMR比の増大は、Ruの結晶による影響が比較的小さいことでその上に成長したCFA/MgO/Fe/CoFeB構造の高品質化が促進されたこと、(001)方位配向度が高まったこと、さらに下地との間で原子拡散による影響が小さいことが主な要因である。
[0046]
(D)結晶構造
次に図11ないし図22を参照して、本形態の下地構造および垂直磁化膜構造についての結晶構造について説明する。
[0047]
図11にMgO基板上に40nmのRu下地上にCFA20nmを作成した試料における銅(Cu)Kα線源を用いたX線回折の結果を示す。図11(A)ではX線を膜面直方向スキャン(2θ-ωスキャン)の回折パターン、図11(B)はMgO基板[100]方位に平行にX線を入射して膜面内方向スキャン(2外4スキャン)を行った場合の回折パターン、図11(C)はMgO基板[110]方位への入射した場合の2外4スキャンの回折パターンを示している。図11(A)から、Ruからの回折ピークは外1のみであることがわかる。図11(B)および図11(C)において、2外4スキャンにはRu層からの外5、外6、外8面からの回折ピークがみられる。図12(A)および図12(B)にはそれぞれ外5、外6面に対応する極スキャン(φスキャン)の結果を示している。双方とも90°間隔でピークが得られており、4回対称を持つエピタキシャル膜であることがわかる。この4回対称性は図3のRuが膜面内に90°ずつ回転した4つのバリアント領域から構成されていることを示している。また、図12(A)から外5ピークが2つに分裂した構造を持つこともわかる。これは、後に示すとおり、外5がMgO[100]方位から少し傾いていることに対応する。
尚、本段落の外4は次のイメージデータであり、外5、外6は、次のミラー指数である。
[0048]
<外4>
[0049]
<外5>
[0050]
<外6>
[0051]
<外8>
[0052]
図13には図12(A)で得られた膜面直方向X線回折パターンに現れた外1ピークのロッキングカーブ(ωスキャン)を示している。バリアントの存在によって、加熱処理なし(as-depo.)(図13(A))およびTex=400℃(図13(B))の両方でピークが2つに分裂した構造がみられている。加熱処理によって、膜面外回折パターンの外1ピークが小さくなる一方、ロッキングカーブのピークが2.94°の角度を持って鮮明に2つに分解される。これは後述するとおり熱処理によってRu層が外1方位からより最適な方位である外2方位に再配列したことを示している。
[0053]
図14にはRu下地層の高面方位からの回折パターンを得るため、モリブデン(Mo)Kα線源を用いた2θ-ωスキャンの結果を示した。用いた試料はMgO上にRu40nm成長させ、Texをas-depo.、400℃、600℃とした。いずれの試料でも外1ピークが現れ、600℃ではこれに加えて外3ピークが現れることがわかる。また、それ以外のRuピークは観察されないため、外1から外3近傍の結晶面をもつRu下地構造が実現されていることが確認された。
[0054]
Ru(40nm)/CFA(20nm)の試料の2θ-ωスキャン(図11(A))にはCFA層のピークとして(002)、(004)のみが観察され、(001)方位に成長していることがわかる。(002)ピークと(004)ピーク強度比から、B2規則度が計算を行ったところほぼ理論値となった。したがって、CFAがほぼ完全なB2構造を有していることがわかった。また図15にはCFAの(202)面におけるφスキャンの結果を示した。CFAのB2構造に由来した4回対称性がみられ、CFAがエピタキシャル膜として得られている。したがって、高結晶面をもって成長したRu層はB2規則化した高品質なCFA膜の下地層としての有効性が認められる。
[0055]
以上の結果を基にRu外1面上にMgO基板とCFA膜の原子配列を模式的に再現した結果を図16に示した。X線回折パターンに見られた結晶面との交差面も示してある。Ruの正方形状格子とMgO、CFA格子が重なる様子が見て取れる。また、図12(A)で外5の極スキャンのピークが2つに分裂した構造を持った理由が、Ru外5の交差面がMgO[110]方位から40.5°すなわち、MgO[100]方位から4.5°の傾きを持っていることに起因している。
[0056]
図17には原子間力顕微鏡(AFM)を用いてMgO基板/Ru(40nm、400℃加熱処理)/CFA(1nm)構造の試料表面を観察した結果を示す。平均ラフネスRaは0.24nmと平坦であるが、30nm程度の大きさの起伏を持っていることがわかる。この起伏形態とRuとの構造との関係を明らかにするために、図18にMgO基板/Ru(40nm)/CFA(1.2nm)/MgO(1.8nm)/Fe(0.1nm)/Co
20Fe
60B
20(1.3nm)/Ta(5nm)/Ru保護層(10nm)構造(Tex=325℃)を有する垂直MTJ素子膜の断面を高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(HAADF-STEM)によって観察した結果を示す。黒い領域がCFA/MgO/CoFeB構造を示している。Ru層表面はAFMと同様に30nm程度の周期の起伏を有し、MgO基板との起伏周期とほぼ等しいこともわかる。ナノビーム電子によって得られた局所回折像パターンがおおよそ起伏ごとに変化することから、起伏の周期とバリアントのドメインサイズに関係があることがわかった。以上の結果から、起伏構造は基板の凹凸と、バリアントのドメインサイズと関連するが、垂直磁気異方性やTMR比に影響を与える原子スケールの構造の乱れではない。
[0057]
さらに、Ru構造を決定的に明らかにするために、高分解能透過型電子線顕微鏡(HRTEM)像をMgO基板に対し[100]方位および[110]方位の断面観察を行った。図19(A)にMgO[100]方位、図19(B)にMgO[110]方位のCFA層近傍でのHRTEM像を示す。図19(A)からRuの膜面内方向の格子縞が観察され、その間隔は約0.19nmである。この値は、図4(A)に模式的に示したRuの正方形状配列の対角線で予測される原子面間隔である0.189nmとほぼ一致する。また、CFAの結晶格子はMgOトンネルバリア層の存在によって膜面内方向に約3%引き延ばされており、無視できない正方晶ひずみがあることがわかった。この面内方向への引っ張りひずみは垂直磁気異方性を弱める働きがある。
しかし、本実施形態のRu下地層を用いることで、CFA/MgO界面構造が高品質化されることによる垂直磁気異方性の増大効果がこの正方晶ひずみに勝っていることを示している。同時に、Ru下地層が立方晶系のみならず正方晶系結晶の下地としても機能することを示している。
[0058]
図19(B)は図2に対応した観察方位であり、同一の原子配列が予測される。図19(B)内に点で示したとおりRu外1面付近の原子配列と一致する。これらから、X線回折で得られた構造が非常に微細な領域においても保たれていることがわかる。垂直磁化CFA層はB2構造を持っていることも確認された。また、MgO層はNaCl構造を有しており、かつ(001)方位に成長していることも確認され、大きなKuと高いTMR比が得られることの妥当性がある。
[0059]
RuのMgO基板に対する成長方向を確認するため、MgO基板/Ru(40nm、Tex=400℃)の下地構造の基板近傍のHRTEM像(MgO[110]方位)を図20(A)に示す。MgO(001)面とRu(0001)面のなす角度は約47°であることがわかる。図20(B)にこの関係を模式的に図示したが、この角度はRuが外2方位を持って成長していることに対応する。外2面は外7面と外1面の間に存在する高方位面である。外2はX線及び電子線の消滅線であるためX線回折や電子線回折では直接確認できない。しかしながら、図13(B)の外1のロッキングカーブから間接的に確認できる。まず、2つに分裂したピークは図20(B)と(C)に対比させたように、180°面内回転した別のバリアントからの回折を示しており、外1方位からΔ=2.94°ずつ傾いた方位に成長していることを示す。また、分裂したピークの中心の強度が弱くなったことは、Ru下地の結晶方位が外1から外れていることを示している。外1面と外2面のなす角度の計算値は2.99°は、図13(B)で得られたΔ=2.94°とほぼ一致する。したがって、HRTEMとX線回折の双方からTex=400℃の加熱処理を行ったRu下地層は外2面の高方位面を持っていることが結論付けられる。
[0060]
以上の構造解析からRuは加熱処理温度によって、外1、外2、外3面が得られ、最適な面へ再配列が起こることが示された。いずれの結晶面においてもRu下地表面の正方形状格子の存在によって、立方晶材料の下地として有効に機能する。
実施例 3
[0061]
次に、図21にbcc構造の鉄(Fe)を強磁性層としてRu上に形成したX線回折パターンを示す。Fe層厚さは20nmとした。図21(A)の2θ-ωスキャンから、Fe層からは(002)ピークのみが得られ、CFA層と同様に(001)面方位に成長して形成される。また、図21(B)のFe(101)のφスキャンから4回対称ピークがみられ、エピタキシャル成長が確認できる。したがって、CFA以外の立方晶材料においても下地として有効に機能する。
実施例 4
[0062]
次に、MgO基板の影響を確認するため、格子定数がMgO(格子定数0.421nm)と異なる立方晶のSrTiO
3(格子定数0.385nm)、MgAl
2O
4(格子定数0.808nm)の単結晶基板を用いて40nmのRuを形成した。2θ-ωスキャンの結果を図22に示す。いずれの基板においてもRu外1ピークがみられるが、MgOでは確認されなかったRu(0002)、Ru(0004)ピークも同時にみられる。したがって、(0001)成長と高指数面成長の両方が混在している。したがって、Ru下地成長のためにはMgOを用いることがより好ましいことがわかる。
[0063]
(E)小括
表1に本実施形態のRu下地構造と、既存構造であるCr下地構造の結晶構造の違いについて、また、それらを用いて構成したCFA垂直磁化膜の垂直磁気特性およびTMR比を比較した。
[表1]
[0064]
Ru下地構造ではその結晶構造が複雑であるもかかわらず、高い垂直磁気異方性、高いTMR比が実現されている。これら垂直MTJ素子に求められる高い特性に加え、高い耐熱性を持つことにより、MRAMをはじめとするメモリ素子の製造工程における加熱処理における悪影響を抑制することができる。また、磁気記録媒体への下地構造として用いる場合、合金規則度を向上し強固な垂直磁化を得るために必要な加熱処理を実施することを可能にする。
実施例 5
[0065]
下地層としてRu以外のhcp構造を有する元素を用いた例としてRe下地の成長について示す。ReはRuと同様にhcp構造を有する貴金属である。格子定数はa=0.2761nm、c=0.4458nmであり、前記外1面を持って成長した場合、図4(A)に対応する正方形状格子の原子間距離は0.274~0.276nm、対角方向における原子面間隔は0.1195nmとなる。これらはRuよりも約2%大きいため、MgOとの格子整合性がより改善される。また融点は3186℃と極めて高いことからRu下地と同等の成長と耐熱効果が期待される。そこでRFマグネトロンスパッタ装置を用いてMgO(001)基板上へRe(30nm)/Fe(0.7nm)/MgO(2nm)の構造を作製した。Re層は室温においてRF電力50W、プロセスArガス圧力0.2Paの条件で成膜し、その後300℃で真空中ポスト加熱処理を行った。FeおよびMgO層もRFスパッタを用いてReと同様の条件で作製した。
図23(A)、(B)に、Re(30nm)成膜直後の表面を、反射高速電子線回折(RHEED)を用いて観察を行った像である。ストリーク状の像が得られエピタキシャル成長が確認される。また、基板回転に対し4回対称性を有しておりRu下地の場合とほぼ同等の像が得られたこともわかった。次に図23(C)、(D)にはFe(0.7nm)、図23(E)、(F)にはMgO(2nm)成膜後のRHEED像をそれぞれ示した。Fe層はRe下地構造にしたがってエピタキシャル成長し、bcc構造をもって(001)成長していることからRe下地においても立方晶強磁性体の下地として機能していることが確認された。また、MgO層もエピタキシャル成長が確認された。
図24(A)にはこのMgO基板/Re(30nm)/Fe(0.7nm)/MgO(2nm)構造を持つ多層膜のX線回折プロファイル(2θ-ωスキャン)を示す。2θ=110°付近に明確な外1ピークが観察される。なお(0002)、(0004)ピークが見られるものの相対的に強度は弱く、外1面成長が主体である。外1面成長とエピタキシャル成長を確認するためには基板をX入射方向に対して傾け(0002)ピークに対してのφスキャンを行えばよい。図24(B)に基板を49.5°傾けた場合の(0002)ピークに対してのφスキャン結果を示した。明確に4回対称のピークが得られていること、また傾けた基板角度(49.5°)は(0001)面と外1面方位のなす角度(50.6°、計算値)と近いことからReの外1面方位へのエピタキシャル成長が実現されていると結論付けられる。
以上の結果から、ReもRuと同等に、高結晶方位外1面を持ってエピタキシャル成長が可能であり、立方晶の強磁性体層の下地層として機能することが確認された。
産業上の利用可能性
[0066]
本発明による垂直磁化膜は垂直磁気記録媒体として利用でき、特にHDD等の磁気ディスク装置に搭載される垂直磁気記録ディスクに用いるのに好適である。また、現状の垂直磁気記録媒体の情報記録密度をさらに上回る超高記録密度を実現するための媒体として有望視されているディスクリートトラックメディア(DTM)やビットパターンドメディア(BPM)として、あるいは垂直磁気記録方式による情報記録密度をさらに上回る超高記録密度を達成できる熱アシスト磁気記録向けの媒体として特に好適に用いられる。
符号の説明
[0067]
1 下地構造、
2、5、10 基板、
3、6、11 下地層、
4 垂直磁化膜構造、
7 垂直磁化層、
8、13 非磁性層、
9 垂直MTJ素子、
12 第一の垂直磁化層、
14 第二の垂直磁化層、
15 上部電極
請求の範囲
[請求項1]
hcp構造を有する金属であって、(001)面方位の立方晶系単結晶基板もしくは(001)面方位をもって成長した立方晶系配向膜に対して、[0001]方位が42°~54°の範囲の角度をなすことを特徴とする垂直磁化膜用下地。
[請求項2]
前記立方晶系単結晶基板または立方晶系配向膜の少なくとも一方は、酸化マグネシウムまたはマグネシウム-チタン酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁化膜用下地。
[請求項3]
前記金属が外1面、外2面もしくは外3面のいずれかを有する構造であることを特徴とする請求項1または2に記載の垂直磁化膜用下地。
[請求項4]
前記金属が貴金属のうちの少くとも一種であることを特徴とする請求項1または2に記載の垂直磁化膜用下地。
[請求項5]
前記貴金属がルテニウム(Ru)またはレニウム(Re)であることを特徴とする請求項4に記載の垂直磁化膜用下地。
[請求項6]
(001)面方位の立方晶系単結晶の基板、または(001)面方位をもって成長した立方晶系配向膜を有する基板の一方と、
前記基板に形成されたhcp構造の金属薄膜であって、前記基板の<001>方位又は(001)面方位に対して、金属[0001]方位が42°~54°の範囲の角度をなす前記金属薄膜からなる下地層と、
前記金属下地層の上に位置すると共に、組成材料としてCo基ホイスラー合金、bcc構造のコバルト-鉄(CoFe)合金、L1
0系合金XY(X=Fe、Co、Y=Pt、Pd)、DO
22型もしくはL1
0型のマンガン合金、例えばマンガン-ガリウム(Mn-Ga)合金およびマンガン-ゲルマニウム(Mn-Ge)合金からなる群より選ばれた(001)方位に成長した立方晶材料よりなる垂直磁化層と、
を有することを特徴とする垂直磁化膜構造。
[請求項7]
前記金属薄膜が貴金属の薄膜のうちの少くとも一種であることを特徴とする請求項6に記載の垂直磁化膜構造。
[請求項8]
前記貴金属の薄膜がルテニウム(Ru)またはレニウム(Re)の薄膜であることを特徴とする請求項7に記載の垂直磁化膜構造。
[請求項9]
請求項6から8のうちのいずれか一項に記載された垂直磁化膜構造において、さらに、前記垂直磁化層の上に位置する非磁性層を有することを特徴とする垂直磁化膜構造。
[請求項10]
(001)面方位の立方晶系単結晶の基板、または(001)面方位をもって成長した立方晶系配向膜を有する基板の一方と、
前記基板に形成されたhcp構造の金属薄膜であって、前記基板の<001>方位又は(001)面方位に対して、Ru[0001]方位が42°~54°の範囲の角度をなす前記金属薄膜からなる下地層と、
前記金属下地層の上に位置すると共に、組成材料としてCo基ホイスラー合金、bcc構造のコバルト-鉄(CoFe)合金、L1
0系合金XY(X=Fe、Co、Y=Pt、Pd)、DO
22型もしくはL1
0型のマンガン合金、例えばマンガン-ガリウム(Mn-Ga)合金およびマンガン-ゲルマニウム(Mn-Ge)合金からなる群より選ばれた(001)方位に成長した立方晶材料よりなる第一の垂直磁化層と、
前記第一の垂直磁化層の上に位置すると共に、組成材料としてMgO、スピネル(MgAl
2O
4)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)からなる群より選ばれた(001)方位およびそれに等価な方位に成長しているトンネルバリア層と、
前記トンネルバリア層の上に位置すると共に、組成材料としてCo基ホイスラー合金、bcc構造のコバルト-鉄(CoFe)合金、L1
0系合金XY(X=Fe、Co、Y=Pt、Pd)、DO
22型もしくはL1
0型のマンガン合金、例えばマンガン-ガリウム(Mn-Ga)合金およびマンガン-ゲルマニウム(Mn-Ge)合金からなる群より選ばれた(001)面方位に成長した立方晶材料よりなる第2の垂直磁化層と、
を有することを特徴とする垂直MTJ素子膜。
[請求項11]
前記金属薄膜が貴金属の薄膜のうちの少くとも一種であることを特徴とする請求項10に記載の垂直MTJ素子膜。
[請求項12]
前記貴金属の薄膜がルテニウム(Ru)またはレニウム(Re)の薄膜であることを特徴とする請求項11に記載の垂直MTJ素子膜。
[請求項13]
請求項1から5のうちのいずれかに記載された垂直磁化膜用下地、請求項6から9のうちのいずれかに記載された垂直磁化膜構造、請求項10から12のうちのいずれかに6に記載された垂直MTJ素子膜の少なくとも一つを有することを特徴とする垂直磁気記録媒体。
[請求項14]
(001)方位の立方晶系単結晶の基板を提供する工程と、
前記基板に金属薄膜の成膜を行う工程と、
前記金属薄膜を200~600℃で真空中ポスト加熱処理を行うことで、金属下地層を形成する工程と、
前記金属下地層の上に形成されると共に、組成材料としてCo基ホイスラー合金、bcc構造のコバルト-鉄(CoFe)合金、L1
0系合金XY(X=Fe、Co、Y=Pt、Pd)、DO
22型もしくはL1
0型のマンガン合金、例えばマンガン-ガリウム(Mn-Ga)合金およびマンガン-ゲルマニウム(Mn-Ge)合金からなる群より選ばれた(001)面方位をもって成長した立方晶材料よりなる垂直磁化層を形成する工程と、
を有することを特徴とする垂直磁化膜構造の製造方法。
[請求項15]
前記金属薄膜が貴金属の薄膜のうちの少なくとも一種であることを特徴とする請求項14に記載の垂直磁化膜構造の製造方法。
[請求項16]
前記貴金属の薄膜がルテニウム(Ru)またはレニウム(Re)の薄膜であることを特徴とする請求項15に記載の垂直磁化膜構造の製造方法。
[請求項17]
(001)方位の立方晶系単結晶基板を提供する工程と、
前記基板に金属薄膜の成膜を行う工程と、
前記金属薄膜を200~600℃で真空中ポスト加熱処理を行うことで、金属下地層を形成する工程と、
前記Ru下地層の上に形成されると共に、組成材料としてCo基ホイスラー合金、bcc構造のコバルト-鉄(CoFe)合金、L1
0系合金XY(X=Fe、Co、Y=Pt、Pd)、DO
22型もしくはL1
0型のマンガン合金、例えばマンガン-ガリウム(Mn-Ga)合金およびマンガン-ゲルマニウム(Mn-Ge)合金からなる群より選ばれた(001)面方位をもって成長した立方晶材料よりなる第一の垂直磁化層を形成する工程と、
前記第一の垂直磁化層の上に形成されると共に、組成材料としてMgO、スピネル(MgAl
2O
4)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)からなる群より選ばれた(001)方位およびそれに等価な方位に成長しているトンネルバリア層を工程と、
前記トンネルバリア層の上に形成されると共に、組成材料としてCo基ホイスラー合金、bcc構造のコバルト-鉄(CoFe)合金、L1
0系合金XY(X=Fe、Co、Y=Pt、Pd)、DO
22型もしくはL1
0型のマンガン合金、例えばマンガン-ガリウム(Mn-Ga)合金およびマンガン-ゲルマニウム(Mn-Ge)合金からなる群より選ばれた(001)面方位をもって成長した立方晶材料よりなる第2の垂直磁化層を形成する工程と、
を有することを特徴とする垂直MTJ素子の製造方法。
[請求項18]
前記金属薄膜が貴金属の薄膜の一種以上であることを特徴とする請求項17に記載の垂直MTJ素子の製造方法。
[請求項19]
前記貴金属の薄膜がルテニウム(Ru)またはレニウム(Re)の薄膜であることを特徴とする請求項18に記載の垂直MTJ素子の製造方法。
図面