明 細 書
発明の名称 : 樹脂組成物、多層構造体、及びバッグインボックス用内容器
技術分野
[0001]
本発明は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記することもある)を含有する樹脂組成物に関する。また本発明は、当該樹脂組成物からなる層を有する多層構造体に関する。さらに本発明は、当該多層構造体を備えるバッグインボックス用内容器に関する。
背景技術
[0002]
EVOHは、酸素等のガスに対して優れたバリア性を示し、かつ溶融成形性にも優れることから、フィルムなどに加工され、食品包装材料等として広く利用されている。しかし、EVOHのフィルムは高い結晶性を有するために剛直であり、屈曲によりピンホールを生じやすいという欠点を有する。
[0003]
一方、近年、利便性、軽量、耐落下性などの利点から、ミネラルウォーターやワインなどの飲料用液体を輸送・保存するためにバッグインボックスが利用されるようになってきた。上記バッグインボックスは、ダンボール箱の内部に、液体注入口を設けたフレキシブルなプラスチックの内容器(バッグインボックス用内容器)を収納したものである。上記内容器としてEVOH層を有する多層構造体も用いられている。
[0004]
しかし、このバッグインボックス用内容器は、輸送時に繰り返しの屈曲に晒されるために、従来のEVOH層を有する多層構造体では輸送中にピンホールを生じる場合がある。そこで、この問題を解決すべく柔軟性及び耐屈曲性に優れるバッグインボックス用内容器が提案されている。
[0005]
例えば、特許文献1には、EVOH樹脂、ポリアミド樹脂、オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体、20℃における弾性モジュラスが100kgf/cm
2以下である熱可塑性樹脂(エチレン-プロピレン共重合体、ブタジエンゴム等のゴム成分)を、所定比率で配合した樹脂組成物を少なくとも1層含むフレキシブル積層包装材からなるバッグインボックスが記載されている。
[0006]
特許文献2には、EVOH樹脂に、ポリオレフィン系樹脂、カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂を配合し、所定の範囲のエネルギー値で押出加工した樹脂組成物を中間層としたバッグインボックス用内容器が記載されている。
[0007]
特許文献3には、EVOH樹脂、オレフィン系ポリマー、カルボン酸変性オレフィン系ポリマー及び数平均分子量100~3000であり且つ60℃以上170℃未満の軟化点を有している炭化水素系樹脂の混合物からなる樹脂組成物を用いた多層構造体からなるバッグインボックス用バッグが記載されている。
[0008]
特許文献4には、エチレン含有率20~60モル%のエチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物と、炭素-炭素二重結合を含有する脂肪族炭化水素モノマー単位を有する、230℃で荷重2160g条件下のメルトフローレートが0.01~200g/10分の重合体と、極性基含有化合物で変性してなる炭素-炭素二重結合を含有する脂肪族炭化水素モノマー単位を有する、230℃で荷重2160g条件下のメルトフローレートが0.01~200g/10分の重合体と、数平均分子量100~3000であり且つ60℃以上170℃未満の軟化点を有している炭化水素系樹脂を含有するEVOH樹脂組成物を用いた多層構造体からなるバッグインボックス用バッグが記載されている。
[0009]
特許文献5には、シングルサイト触媒を用いて製造され、密度が0.85~0.90g/cm
3であるエチレンを主成分とする共重合体(A)およびエチレン含量が20~60モル%でケン化度が95%以上のエチレン-ビニルアルコール共重合体(B)からなり、上記(A)と(B)の重量比((A)/(B))が1/99~40/60である樹脂組成物を用いた多層構造体からなるバッグインボックス内容器が記載されている。
先行技術文献
特許文献
[0010]
特許文献1 : 特開2000-248136号公報
特許文献2 : 特開平8-165397号公報
特許文献3 : 特開2011-202147号公報
特許文献4 : 国際公開第2010/137659号
特許文献5 : 特開平10-306180号公報
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0011]
本発明は、上記の背景を踏まえ、特殊な押出条件、例えば押出加工に所定の範囲のエネルギー値を採用することなく、成形体とする際の押出加工の安定性に優れる樹脂組成物を提供することを目的とする。また本発明は、優れた酸素バリア性、高い柔軟性、耐屈曲性を有する多層構造体を提供することを目的とする。さらに本発明は、耐ピンホール性等の機械強度に優れたバッグインボックス用内容器を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0012]
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意研究した結果、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)、及び特定の範囲のメルトフローレート(MFR)を有するエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を特定の割合で配合するのに加えて、さらにアルカリ金属塩(D)を配合することにより、特定の範囲のMFRを有する樹脂組成物が得られることを見出した。そして、この樹脂組成物は、成形体とする際の押出加工の安定性に優れる。この樹脂組成物を用いて得られた成形体や多層構造体は酸素バリア性、柔軟性、耐屈曲性に優れる。また、この多層構造体を備えるバッグインボックス用内容器は耐ピンホール性等の機械強度に優れる。
[0013]
すなわち上記課題は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)及びアルカリ金属塩(D)を含有する樹脂組成物であって;エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)及び酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の合計量の質量比[(A)/((B)+(C))]が80/20~65/35であり、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の質量比[(B)/(C)]が92/8~70/30であり、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のメルトフローレート(MFR)(210℃、2160g荷重下)が8.0g/10分以上15g/10分以下であり、アルカリ金属塩(D)の含有量が、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)及び酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の合計量に対して金属換算で25ppm以上300ppm以下であり、前記樹脂組成物のMFR(210℃、2160g荷重下)が2.0g/10分以上4.0g/10分以下である樹脂組成物を提供することによって解決される。
[0014]
このとき、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)が、エチレン-プロピレン共重合体であることが好ましい。また、変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)が、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体であることも好ましい。
[0015]
また上記樹脂組成物の、20℃/65%RHにおける酸素透過速度が10ml・20μm/(m
2・day・atm)以下であることが好ましい。
[0016]
上記樹脂組成物からなる層を有する多層構造体が本発明の好適な実施態様である。また、当該多層構造体を備えるバッグインボックス用内容器も本発明の好適な実施態様である。
発明の効果
[0017]
本発明では、溶融混練時にEVOH(A)と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の反応が促され、特殊な押出条件を取らずとも、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)が微分散された状態の樹脂組成物を得ることができる。また、当該樹脂組成物において、EVOH(A)、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)及び酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の相容性が良好となるため、押出時のダイへの樹脂の付着量(目ヤニ)が少なく、優れた押出加工時の安定性を有する。また当該樹脂組成物を用いて得られる多層構造体は優れた酸素バリア性、高い柔軟性、耐屈曲性を有する層を有する。さらに、当該樹脂組成物からなる層を少なくとも1層備えるバッグインボックス用内容器は、樹脂組成物が特定のMFRを有することで、酸素バリア性、柔軟性及び耐屈曲性に優れ、かつ良好な外観を有する。
[0018]
本発明の樹脂組成物を用いれば、柔軟性及び耐屈曲性に優れる成形体、多層構造体及びバッグインボックス用内容器を得ることができる。本発明の樹脂組成物を用いて得られる多層構造体はフレキシブルな包装材として有用である。この多層構造体は、特に優れた耐屈曲性を有することから、輸送時に繰り返しの屈曲に晒されるバッグインボックス用内容器に用いることができる。
発明を実施するための形態
[0019]
以下、本発明の樹脂組成物、多層構造体、及びバッグインボックス用内容器の実施の形態について説明する。なお、以下の説明において特定の機能を発現するものとして具体的な材料を例示する場合があるが、本発明に用いることができる材料はこれらに限定されない。また、例示される材料は、特に記載がない限り、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
[0020]
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)(A)、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)、及びアルカリ金属塩(D)を含有する。当該樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、さらにその他の成分を含有していてもよい。
[0021]
[EVOH(A)]
EVOH(A)は、主にエチレン単位とビニルアルコール単位とを有する共重合体である。EVOH(A)は、例えば、エチレンとビニルエステルとからなる共重合体を、アルカリ触媒等を用いてケン化して得られる。ビニルエステルとしては、酢酸ビニルが代表的なものとして挙げられるが、その他の脂肪酸ビニルエステル(プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなど)も使用できる。
[0022]
EVOH(A)は、共重合成分として、例えばビニルシラン化合物、プロピレン、ブチレン、不飽和カルボン酸又はそのエステル、及びビニルピロリドンなどを共重合することもできる。
[0023]
EVOH(A)のエチレン含有率は、20モル%以上60モル%以下であることが好ましい。エチレン含有率が20モル%未満では、得られる樹脂組成物の溶融成形性が低下する。エチレン含有率の下限は25モル%以上であることがより好ましく、27モル%以上であることがさらに好ましい。逆に、エチレン含有率が60モル%を超えると、得られる樹脂生成物の酸素バリア性が低下する。エチレン含有率の上限は、55モル%以下であることがより好ましく、50モル%以下であることがさらに好ましい。
[0024]
EVOH(A)のケン化度は、特に限定されるものではないが、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることがさらに好ましい。EVOH(A)のケン化度を上記の範囲とすることが、得られる樹脂組成物の酸素バリア性を維持する観点から好ましい。
[0025]
EVOH(A)の210℃、2160g荷重下におけるメルトフローレート(MFR)は、8.0g/10分以上15.0g/10分以下である。このようなMFRのEVOH(A)を用いることで、得られる樹脂組成物の押出加工時の安定性をより高めることができる。EVOH(A)のMFRの下限は9.0g/10分以上であることが好ましく、上限は12.0g/10分以下であることが好ましい。
[0026]
EVOH(A)として、EVOHを炭素数2~8の炭化水素鎖を有するエポキシ化合物で変性して得られる変性エチレン-ビニルアルコール共重合体を用いてもよい。この変性EVOHは結晶化度が低く柔軟であるために、当該変性EVOHを用いた樹脂組成物から得られる多層構造体は優れた耐屈曲性を有する。EVOH(A)は、単独で用いることもできるし、2種以上を混合して用いることもできる。
[0027]
[未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)]
本発明に用いる未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)としては、特に限定されるものではなく、例えばエチレン-プロピレン共重合体(EP)、エチレン-ブテン共重合体(EB)、プロピレン-ブチレン共重合体(PB)、ブチレン-エチレン共重合体(BE)等を挙げることができる。これらの中でも、柔軟性に優れ、得られる樹脂組成物を用いた成形体及び多層構造体の耐屈曲性が向上する観点から、エチレン-プロピレン共重合体(EP)、エチレン-ブテン共重合体(EB)が好ましく、エチレン-プロピレン共重合体(EP)がより好ましい。
[0028]
未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)の密度は、0.9g/cm
3以下であることが好ましく、0.89g/cm
3以下であることがより好ましく、0.88g/cm
3以下であることがさらに好ましい。このような低密度の未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)を用いることで、特に耐屈曲性に優れた成形品及び多層構造体を得ることができる。未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)の密度は通常、0.85g/cm
3以上である。
[0029]
未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)の210℃、2160g荷重下におけるMFRは、1.0g/10分以上100g/10分以下であることが好ましい。このような未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)を用いることで、得られる樹脂組成物の押出加工時の安定性、得られる成形体の耐屈曲性をより高めることができる。当該MFRの下限は2.0g/10分以上であることがより好ましく、上限は60g/10分以下であることがより好ましい。なお、ここで「未変性エチレン-α-オレフィン共重合体」とは、酸変性をしていないエチレン-α-オレフィン共重合体を表し、例えば以下に記載する[酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)]ではないエチレン-α-オレフィン共重合体を表す。本発明に用いる未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)の酸価は、0.5mgKOH/g未満であることが好ましい。
[0030]
[酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)]
本発明に用いる酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)は、エチレン-α-オレフィン共重合体を構成するモノマーの一部を、α,β-不飽和カルボン酸又はその無水物モノマーに代えて共重合することにより、またはラジカル付加などのグラフト反応等により側鎖の一部にα,β-不飽和カルボン酸又はその無水物を導入すること等により得られる。
[0031]
上記酸変性に用いられるα,β-不飽和カルボン酸又はその無水物としては、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。中でも無水マレイン酸が好適に用いられる。
[0032]
酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の酸価は、50mgKOH/g以下であることが好ましい。この範囲より酸価が高いとEVOH(A)中の水酸基との反応点が増し、溶融混練過程において高重合度化物が生成して、押出加工時の安定性が低下し、良好な成形体を得にくくなる傾向にある。当該酸価の上限は30mgKOH/g以下であることがより好ましく、20mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。一方、酸価が低いとEVOH(A)との相容性が低下し、押出加工時のダイへの樹脂の付着量(目ヤニ)が多くなる傾向がある。当該酸価の下限は1mgKOH/g以上であることが好ましく、2mgKOH/g以上であることがより好ましい。
[0033]
酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の密度は、0.9g/cm
3以下であることが好ましく、0.89g/cm
3以下であることがより好ましく、0.88g/cm
3以下であることがさらに好ましい。このような低密度の酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)を用いることで、特に耐屈曲性に優れた成形品及び多層構造体を得ることができる。酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の密度は通常、0.85g/cm
3以上である。
[0034]
本発明の樹脂組成物では、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)が、EVOH(A)と高い相容性を有するだけでなく、EVOH(A)と未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)の相容化剤の役割も果たしていると考えられる。当該樹脂組成物を二軸押出機で混練、調製する際に、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)とEVOH(A)中の水酸基とが反応することによって、EVOH(A)と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)のグラフト重合体が生成する。このグラフト重合体がEVOH(A)と相容性を有しており、さらにEVOH(A)と未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)と相容化効果を示す。これにより、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)がEVOH(A)中に微分散し、当該樹脂組成物の押出加工時の安定性が向上するとともに、当該樹脂組成物を用いて得られる成形体の耐屈曲性も向上する。
[0035]
[(A)、(B)、(C)の質量比]
本発明の樹脂組成物における、EVOH(A)の量と、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)及び酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の合計量との質量比[(A)/((B)+(C))]は、押出加工時の安定性、得られる成形体の酸素バリア性や柔軟性及び耐屈曲性を両立する観点から、80/20~65/35である。質量比[(A)/((B)+(C))]が80/20を超える場合、又は未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)及び酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)が含まれない場合、得られる成形体の柔軟性、耐屈曲性が不十分となる。一方、質量比[(A)/((B)+(C))]が65/35未満の場合、押出加工時のダイへの樹脂の付着量(目ヤニ)が多くなるとともに、EVOH(A)がマトリックス相とならずに成形体の酸素バリア性が不十分となる。本発明の樹脂組成物を用いて得られる多層構造体、具体的には多層フィルムにおいて、膜面に発生するストリークを更に抑制する観点から、上記質量比の上限は75/25以下であることが好ましい。また同様の観点から、上記質量比の下限は67/33以上であることが好ましく、70/30以上であることがより好ましい。
[0036]
[(B)、(C)の質量比]
未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)及び酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の質量比[(B)/(C)]は92/8~70/30である。当該質量比が92/8~70/30であることで、相容化効果が十分となり、EVOH(A)中の未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)の分散性が良好になる。上記質量比が92/8を超える場合、又は酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)が含まれない場合、樹脂組成物中のEVOH(A)と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)とが反応して生じるグラフト重合体が少ない、又はEVOH(A)と反応して生じるグラフト重合体が無いため、EVOH(A)と未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)と相容性が悪くなる。その結果、押出加工時のダイへの樹脂の付着量(目ヤニ)が多くなる。上記質量比は90/10以下であることが好ましい。一方、上記質量比が70/30未満であると、樹脂組成物中のEVOH(A)と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)が反応して生じるグラフト重合体が多くなり、また、分子鎖同士の絡み合いが増すことにより、押出加工時の安定性が悪くなるため良好な成形体を得にくくなる。本発明の樹脂組成物を用いて得られる多層構造体、具体的には多層フィルムにおいて、膜面に発生するストリークを更に抑制する観点から、上記質量比は80/20以上であることが好ましく、82/18以上であることがより好ましく、85/15以上であることがさらに好ましい。
[0037]
[アルカリ金属塩(D)]
本発明の樹脂組成物は、EVOH(A)と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の反応を促す観点から、アルカリ金属塩(D)を含む必要がある。アルカリ金属塩(D)は、EVOH(A)の水酸基と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の酸や無水物基とからエステル基が生じる反応の触媒として作用する。アルカリ金属塩(D)を含むことでグラフト重合体が生じやすくなるため、本発明では特殊な押出条件を採用せずとも、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)がEVOH(A)中に微分散し、柔軟性、耐屈曲性に優れ、かつ特定のMFRを有し押出加工時の安定性に優れる樹脂組成物を得ることができる。
[0038]
本発明に用いるアルカリ金属塩(D)としては、特に限定されるものではなく、例えば酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、炭酸水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩等を挙げることができる。これらの中でも、EVOH(A)と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の反応を促す観点から、酢酸カリウム、炭酸水素カリウム、リン酸水素二カリウム、ステアリン酸カリウム等のカリウム塩が好ましく、炭酸水素カリウム、リン酸水素二カリウム、ステアリン酸カリウムがより好ましい。また、相容性の観点からは、カルボン酸塩が好ましく、ラウリン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、ベヘン酸、モンタン酸などの炭素数10から26の高級脂肪酸の金属塩であることがより好ましい。
[0039]
アルカリ金属塩(D)の含有量は、EVOH(A)、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)及び酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の合計量に対し、金属換算で25ppm以上300ppm以下である。アルカリ金属塩(D)の含有量が金属換算で25ppmより少ないとEVOH(A)と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の反応が不十分となり、EVOH(A)と未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)と相容性が悪くなるので、押出加工時のダイへの樹脂の付着量(目ヤニ)が多くなる。本発明の樹脂組成物を用いて得られる多層構造体、具体的には多層フィルムにおいて、膜面に発生するストリークを更に抑制する観点から、当該含有量の下限は50ppm以上であることが好ましく、70ppm以上であることがより好ましく、100ppm以上であることがさらに好ましい。一方、アルカリ金属塩(D)の含有量が金属換算で300ppmより多いと、EVOH(A)と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の反応が進みすぎ、樹脂組成物のMFRが低下し、押出加工時の安定性が悪くなり、良好な成形体を得にくくなる。当該含有量の上限は250ppm以下であることが好ましく、200ppm以下であることがより好ましい。
[0040]
[樹脂組成物のMFR]
本発明の樹脂組成物の210℃、2160gにおけるMFRは、2.0g/10分以上4.0g/10分以下である。樹脂組成物のMFRを上記範囲とすることにより、押出加工時の安定性に優れ、良好な成形体を得ることができる。当該MFRの下限は2.4g/10分以上であることが好ましく、2.8g/10分以上であることがより好ましい。一方、当該MFRの上限は3.6g/10分以下であることが好ましく、3.2g/10分以下であることがより好ましい。なお、用いる各成分の種類及び質量比を適宜調節することにより樹脂組成物のMFRを上記範囲とすることができる。
[0041]
[樹脂組成物の酸素透過速度]
本発明の樹脂組成物は、成形体としたときの酸素透過速度が10ml・20μm/(m
2・day・atm)以下であることが好ましい。酸素透過速度が10ml・20μm/(m
2・day・atm)を超えると、成形体によって包装される内容物の劣化や変質を抑制できる期間が短くなる。当該酸素透過度は3ml・20μm/(m
2・day・atm)以下であることがより好ましく、1ml・20μm/(m
2・day・atm)以下であることがさらに好ましく、0.8ml・20μm/(m
2・day・atm)以下であることが特に好ましい。なお、成形体の酸素透過速度(単位:ml・20μm/(m
2・day・atm))は、酸素透過度測定装置(例えば、Modern Control製OX-Tran2/20など)を用いて、20℃、65%RH条件下で、酸素圧1気圧、キャリアガス圧力1気圧の条件下で測定し、膜厚20μmに換算した値である。
[0042]
[その他の成分]
本発明の樹脂組成物は、熱安定性や粘度調整の観点で種々の酸や金属塩等の化合物を含有していてもよい。これら化合物としては、カルボン酸、リン酸化合物及びホウ素化合物などであり、具体的な例としては次のようなものが挙げられる。なお、これらの化合物は、あらかじめEVOH(A)と混合した状態のものが用いられる場合がある。
カルボン酸:シュウ酸、コハク酸、安息香酸、クエン酸、酢酸、乳酸等
リン酸化合物:リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等
ホウ素化合物:ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等
[0043]
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて上記の化合物以外の各種添加剤が配合されていてもよい。このような添加剤の例としては、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー等を挙げることができ、これらを本発明の作用効果が阻害されない範囲でブレンドすることができる。樹脂組成物におけるこれら添加剤の含有量は通常、10質量%以下であり、好適には5質量%以下である。
[0044]
本発明の目的を阻害しない範囲であれば、本発明の樹脂組成物に、EVOH(A)、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)、及び酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)以外の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を配合していてもよい。熱可塑性樹脂としては、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)や酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)以外のポリオレフィン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ポリスチレンなどが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、これら樹脂の変性物の単品又は混合物などが挙げられる。本発明の樹脂組成物における、EVOH(A)、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)、及び酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)以外の樹脂の含有量は通常、5質量%以下であり、好適には1質量%以下である。
[0045]
[樹脂組成物の調製]
本発明の樹脂組成物の調製方法としては、特に限定されないが、例えば、以下の(1)~(5)の方法が挙げられる。
(1)EVOH(A)(又はEVOHを主成分として含む樹脂、以下同様)、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)、及びアルカリ金属塩(D)をドライブレンドして溶融混練する方法
(2)未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)とアルカリ金属塩(D)を溶融混練して得たペレットを、EVOH(A)にドライブレンドしてから溶融混練する方法
(3)未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)とアルカリ金属塩(D)のうち2種を溶融混練して得たペレットを、EVOH(A)と残りの成分にドライブレンドしてから溶融混練する方法
(4)未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)とをEVOH(A)の一部に高濃度で配合してマスターバッチを作製し、それを残りのEVOH(A)、アルカリ金属塩(D)とドライブレンドして溶融混練する方法
(5)EVOH(A)の合成時に予めアルカリ金属塩(D)を添加しておき、得られたペレットに未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)とをドライブレンドしてから溶融混練する方法
これらの中でも、上記(1)または(5)が各成分を均一にブレンドすることができるためより好ましい。
[0046]
本発明の樹脂組成物を調製するための溶融混練の手段としては、特に限定されないが、例えば、リボンブレンダー、高速ミキサーコニーダー、ミキシングロール、押出機(単軸又は二軸押出機等)、インテンシブミキサーなどが挙げられる。これらの中でも、単軸又は二軸押出機を用いる方法が好ましい。溶融混練の温度は、用いる樹脂の種類、分子量、組成物の配合割合又は成形機の種類などにより適宜選択されるが、通常、170~350℃の範囲である。
[0047]
押出機を用い溶融混練する際は、混練度の高い押出機を使用し、ホッパー口を窒素シールし、低温で押出すことが好ましい。このようにすることで、分散状態を均一にし、ゲルや異物の発生や混入を抑制することができる。
[0048]
[成形体]
本発明の樹脂組成物を用いて得られる成形体は、酸素バリア性に優れ、かつ優れた柔軟性、耐屈曲性を有する。当該成形体を得るための成形機としては、例えば、溶融押出成形機、圧縮成形機、トランスファ成形機、射出成形機、吹込成形機、熱成形機、回転成形機、ディップ成形機などを挙げることができる。また、当該成形体としては、具体的には、フィルム、シート、チューブ、ボトル、カップ、パイプなどを挙げることができる。成形に際しての押出温度は、用いる樹脂の種類、分子量、組成物の配合割合又は成形機の種類などにより適宜選択されるが、通常、170~350℃の範囲である。
[0049]
[多層構造体]
本発明の多層構造体は、本発明の樹脂組成物からなる層を少なくとも1層含む。当該多層構造体は、酸素バリア性に優れ、かつ優れた柔軟性、耐屈曲性を有する。従って、当該多層構造体は、フレキシブルな包装材として有用である。
[0050]
本発明の多層構造体の層構造としては、特に限定されないが、本発明の樹脂組成物から得られる層をE、接着性樹脂から得られる層をAd、熱可塑性樹脂から得られる層をTで表した場合、以下の層構成が例示できる。ここで、接着性樹脂としては例えば不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたポリオレフィンが好適に用いられる。また、熱可塑性樹脂としては、例えばポリオレフィンが好適である。
[0051]
2層 Ad/E
3層 T/Ad/E、Ad/E/Ad、E/Ad/E
4層 T/Ad/E/Ad、Ad/E/Ad/E
5層 E/Ad/T/Ad/E、T/Ad/E/Ad/T、
Ad/E/Ad/E/Ad、T/Ad/E/Ad/E
6層 T/Ad/E/Ad/E/Ad
7層 T/Ad/E/Ad/E/Ad/T
[0052]
本発明の多層構造体の層構造は、樹脂成分としてEVOH(A)のみからなる層を有さないことが好ましい。後述する共押出機の構造を単純化できることからE、Ad、Tの3種のみからなることがより好ましい。本発明の樹脂組成物を含むと多層構造体は柔軟になり、屈曲によるピンホールの発生を防止できる。さらに、EVOH(A)のみからなる層に比べ本発明の樹脂組成物を含む層は、ヒートシール性が向上する。
[0053]
本発明の多層構造体において、熱可塑性樹脂及び/又は接着性樹脂は、多層構造体のスクラップで代用することもできる。また、他のポリオレフィン成形体のスクラップを混合して使用することもできる。
[0054]
本発明の多層構造体を製造する方法としては、特に限定されない。例えば、本発明の樹脂組成物から得られる成形体(フィルム、シート等)に熱可塑性樹脂を溶融押出する方法、当該樹脂組成物と他の熱可塑性樹脂とを共押出する方法、当該樹脂組成物と熱可塑性樹脂とを共射出する方法、当該樹脂組成物から成形された成形体と他の基材のフィルム、シートとを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物等の公知の接着剤を用いてラミネートする方法等が挙げられる。
[0055]
[バッグインボックス用内容器]
本発明のバッグインボックス用内容器は、本発明の多層構造体を備え、本発明の樹脂組成物からなる層を少なくとも1層含む。当該バッグインボックス用内容器としては、例えば、液体注入口が他の樹脂組成物から成形され、容器本体が上記多層構造体で形成されたものを挙げることができる。当該バッグインボックス用内容器は、例えば、上記多層構造体のフィルムやシートをヒートシールし、さらに液体注入口をヒートシールすることにより作成することができる。ヒートシールする方法は、通常のヒートシール条件を適宜選択することができる。なお、バッグインボックス用内容器全体が本発明の樹脂組成物から形成されていてもよい。
[0056]
バッグインボックス用内容器は、通常、輸送時等に繰り返しの屈曲に晒される。バッグインボックス用内容器成形時には、屈曲箇所や密封栓の周囲の厚みを増すなどの加工を施してもよい。本発明のバッグインボックス用内容器によれば、優れた耐屈曲性を有する本発明の樹脂組成物からなる層を備えるため、優れた耐久性を発揮することができる。
実施例
[0057]
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。なお、得られた樹脂組成物等の評価は、以下の方法にて行った。また、溶融混練条件及び成膜条件を以下に示す。
[0058]
[EVOH(A)のエチレン含有量及びケン化度]
DMSO-d
6を溶媒とした
1H-NMR測定(測定装置:日本電子株式会社製「JNM-GX-500型」)により求めた。
[0059]
[メルトフローレート(MFR)]
メルトインデクサ(宝工業株式会社製「L244」)を用い、温度210℃、荷重2160gの条件下で、試料の流出速度(g/10分)を測定し求めた。
[0060]
[未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)及び酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の酸価]
未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)及び酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)をキシレンに溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として用い、0.05mol/L水酸化カリウム-エタノール溶液を滴下することで酸価を算出した。
[0061]
[溶融混練条件]
EVOH(A)、エチレン-α-オレフィン共重合体(B)、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)及びアルカリ金属塩(D)をドライブレンドした後に、以下の条件で溶融混練、ペレット化、乾燥し、樹脂組成物のペレットを得た。
[0062]
装置:26mmφ二軸押出機(株式会社東洋精機製作所製「ラボプラストミル15C300」)
L/D:25
スクリュー:同方向完全噛合型
ダイスホール数:2ホール(3mmφ)
押出し温度(℃):C1=200、C2~C5=230、Die=230
回転数:100rpm
吐出量:約5kg/hr
乾燥:熱風乾燥80℃/6hr
[0063]
[ペレット化時の目ヤニ発生具合評価]
ペレット化時のダイに付着する樹脂(目ヤニ)の発生具合を以下の基準により評価した。
A:目ヤニが発生せずストランドは安定
B:目ヤニは少し発生するがストランドは安定
C:目ヤニが発生しストランドがやや乱れる
D:目ヤニが発生しストランドが乱れる
[0064]
[単層フィルム作製条件]
得られた樹脂組成物ペレットを用いて以下の条件で製膜し、厚み20μmの単層フィルムを得た。
[0065]
装置:20mmφ単軸押出機(株式会社東洋精機製作所製「ラボプラストミル15C300」)
L/D:20
スクリュー:フルフライト
ダイ:300mmコートハンガーダイ
押出し温度(℃):C1=200、C2~C5=230、Die=230
スクリーン:50/100/50
冷却ロール温度:80℃
引取り速度:3.0~3.5m/分
フィルム厚み:20μm
[0066]
[多層フィルム作製条件]
得られた樹脂組成物ペレットを用いて以下の条件で製膜し、総厚み90μmの3種5層の多層フィルムを得た。なお、以下「接着性樹脂層」を「Ad」と略称することがある。また、「LLDPE」は、直鎖状低密度ポリエチレンを表す。
多層フィルムの層構成:LLDPE層/Ad/樹脂組成物層/Ad/LLDPE層
LLDPE:株式会社プライムポリマー製の商品名「ウルトゼックス 2022L」
接着性樹脂:三井化学株式会社製の商品名「アドマー NF500」
[0067]
(多層フィルムの製造条件)
装置:フィードブロック型3種5層フィルム押出成形機
ダイ温度:220℃
冷却ロール温度:60℃
引取り速度:5.0m/min
層厚み:LLDPE層36μm、接着性樹脂層6μm、樹脂組成物層6μm
[0068]
(LLDPE層押出機の条件)
押出機:32φ単軸押出機(株式会社プラスチック工学研究所製)
回転数:57rpm
押出温度:供給部/圧縮部/計量部=150℃/200℃/210℃
[0069]
(接着性樹脂層押出機の条件)
押出機:20φ単軸押出機(株式会社テクノベル製)
回転数:25rpm
押出温度:供給部/圧縮部/計量部=150℃/200℃/220℃
[0070]
(樹脂組成物層押出機の条件)
押出機:20φ単軸押出機(株式会社東洋精機製作所製)
回転数:12.5rpm
押出温度:供給部/圧縮部/計量部=175℃/210℃/220℃
[0071]
[多層フィルム膜面]
得られた多層フィルムの膜面を以下の基準に則り目視で評価した。
A:良好な膜面
B:わずかにストリークあり
C:顕著にストリークあり
D:層乱れあり
[0072]
[耐屈曲性]
得られた単層フィルム、及び多層フィルムを23℃/50%RHの条件下で調湿したのち、ゲルボフレックステスター(理学工業株式会社製)を使用し、屈曲性の測定を行った。具体的には、まず、12インチ×8インチのフィルムを直径3.5インチの円筒状とした。この両端を把持し、初期把持間隔7インチ、最大屈曲時の把持間隔1インチ、ストロークの最初の3.5インチで角度440度のひねりを加え、その後2.5インチは直進水平運動である動作の繰り返しからなる往復運動を40回/分の早さで行った。最初のピンホールが発生するまでの屈曲回数について測定した。
[0073]
[引張弾性率]
JIS K 7161に準拠し、得られた単層フィルム及び多層フィルムを23℃/50%RHの条件下で調湿したのち、幅15mm、長さ12cmにカットし短冊を作製し、AUTOGRAPH AGS-H(株式会社島津製作所製)を用い、チャック間距離50mm、引張り速度5mm/分で測定を行った。
[0074]
[酸素透過速度]
得られた厚み20μmの単層フィルムを20℃/65%RHの条件下で調湿したのち、酸素透過度測定装置(Modern Control製「OX-Tran2/20」)を使用し、20℃/65%RHの条件下で酸素透過速度を測定した。
[0075]
実施例1
EVOH(A)としてEVOH(A-1)を70質量部、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)としてエチレン-プロピレン共重合体(B-1)を27質量部、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)として無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(C-1)を3質量部、及びアルカリ金属塩(D)としてステアリン酸カリウムを825ppm(カリウム原子換算で100ppm)ドライブレンドして樹脂組成物を得た。
[0076]
(A-1):株式会社クラレ製のEVOH(エチレン含有量:32モル%、ケン化度:99モル%以上、MFR:9.7g/10分(210℃、2160g荷重))
(B-1):三井化学株式会社製のエチレン-プロピレン共重合体(商品名「タフマー P0280」、MFR:3.0g/10分(210℃、2160g荷重)、密度:0.869g/cm
3、酸価:0.0mgKOH/g)
(C-1):三井化学株式会社製の無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(商品名「タフマー MP0610」、MFR:0.6g/10分(210℃、2160g荷重)、密度:0.870g/cm
3、酸価:12.5mgKOH/g)
[0077]
そして、上述した方法により二軸押出機を使用して、この樹脂組成物を溶融混練した後、ペレット化した。得られた樹脂組成物ペレットを熱風乾燥機で80℃/6hr乾燥した。この樹脂組成物ペレットのMFRは3.4g/10分(210℃、2160g荷重)であった。
[0078]
得られた樹脂組成物ペレットを用いて、上述した方法により、厚さ20μmの単層フィルムを作製した。
[0079]
また、得られた樹脂組成物ペレットを用いて、上述した方法により、多層フィルムを作製した。多層フィルムの層構成及び厚さは以下の通りである。
層構成:LLDPE層/Ad/樹脂組成物層/Ad/LLDPE層
総厚み90μm、樹脂組成物層の厚み6μm、接着性樹脂層(Ad)の厚み6μm、LLDPE層の厚み36μm
[0080]
実施例2
EVOH(A-1)をEVOH(A-2)に変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂組成物ペレットを得た。
[0081]
(A-2):株式会社クラレ製のEVOH(エチレン含有量:27モル%、ケン化度:99モル%以上、MFR:8.9g/10分(210℃、2160g荷重))
[0082]
得られた樹脂組成物ペレットのMFRは、3.0g/10分(210℃、2160g荷重))であった。この樹脂組成物ペレットを用いて実施例1と同様の方法により、単層フィルム(厚さ20μm)及び多層フィルムを作製した。そして、上述した方法により、単層フィルム及び多層フィルムを評価した。
[0083]
実施例3
EVOH(A-1)を70質量部、エチレン-プロピレン共重合体(B-1)を25.5質量部、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(C-1)を4.5質量部とした以外は実施例1と同様の方法で樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットのMFRは、2.8g/10分(210℃、2160g荷重))であった。この樹脂組成物ペレットを用いて実施例1と同様の方法により、単層フィルム及び多層フィルムを作製して、評価した。
[0084]
実施例4
EVOH(A-1)を70質量部、エチレン-プロピレン共重合体(B-1)を24質量部、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(C-1)を6質量部とした以外は実施例1と同様の方法で樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットのMFRは、2.4g/10分(210℃、2160g荷重))を得た。この樹脂組成物ペレットを用いて実施例1と同様の方法により、単層フィルム及び多層フィルムを作製して、評価した。
[0085]
実施例5
EVOH(A-1)を70質量部、エチレン-プロピレン共重合体(B-1)を21質量部、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(C-1)を9質量部とした以外は実施例1と同様の方法で、樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットのMFRは、2.0g/10分(210℃、2160g荷重)であった。この樹脂組成物ペレットを用いて実施例1と同様の方法により、単層フィルム及び多層フィルムを作製して、評価した。
[0086]
実施例6
EVOH(A-1)を65質量部、エチレン-プロピレン共重合体(B-1)を31.5質量部、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(C-1)を3.5質量部とした以外は実施例1と同様の方法で樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットのMFRは、2.4g/10分(210℃、2160g荷重))であった。この樹脂組成物ペレットを用いて実施例1と同様の方法により、単層フィルム及び多層フィルムを作製して、評価した。
[0087]
実施例7
EVOH(A-1)を80質量部、エチレン-プロピレン共重合体(B-1)を18質量部、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(C-1)を2質量部とした以外は実施例1と同様の方法で樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットのMFRは、3.9g/10分(210℃、2160g荷重))であった。この樹脂ペレットを用いて実施例1と同様の方法により、単層フィルム及び多層フィルムを作製して、評価した。
[0088]
実施例8
アルカリ金属塩(D)としてステアリン酸カリウムを206ppm(カリウム原子換算で25ppm)とした以外は実施例1と同様の方法で樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットのMFRは、3.9g/10分(210℃、2160g荷重))であった。この樹脂組成物ペレットを用いて実施例1と同様の方法により、単層フィルム及び多層フィルム(8)を作製して、評価した。
[0089]
実施例9
アルカリ金属塩(D)としてステアリン酸カリウムを412ppm(カリウム原子換算で50ppm)とした以外は実施例1と同様の方法で樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットのMFRは、3.6g/10分(210℃、2160g荷重))であった。この樹脂組成物ペレットを用いて実施例1と同様の方法により、単層フィルム及び多層フィルム(9)を作製して、評価した。
[0090]
実施例10
アルカリ金属塩(D)としてステアリン酸カリウムを1650ppm(カリウム原子換算で200ppm)とした以外は実施例1と同様の方法で樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットのMFRは、3.0g/10分(210℃、2160g荷重))であった。この樹脂組成物ペレットを用いて実施例1と同様の方法により、単層フィルム及び多層フィルムを作製して、評価した。
[0091]
実施例11
アルカリ金属塩(D)としてステアリン酸カリウムを2062ppm(カリウム原子換算で250ppm)とした以外は実施例1と同様の方法で樹脂組成物ペレット(11)を得た。得られた樹脂組成物ペレットのMFRは、2.6g/10分(210℃、2160g荷重))であった。この樹脂組成物ペレットを用いて実施例1と同様の方法により、単層フィルム及び多層フィルムを作製して、評価した。
[0092]
実施例12
アルカリ金属塩(D)としてステアリン酸カリウムを2475ppm(カリウム原子換算で300ppm)とした以外は実施例1と同様の方法で樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットのMFRは、2.1g/10分(210℃、2160g荷重))であった。この樹脂組成物ペレットを用いて実施例1と同様の方法により、単層フィルム及び多層フィルムを作製して、評価した。
[0093]
実施例13
EVOH(A)として(A-1)を70質量部、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)としてエチレン-ブテン共重合体(B-2)を27質量部、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)として無水マレイン酸変性エチレン-ブテン共重合体(C-2)を3質量部とした以外は実施例1と同様の方法で樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットのMFRは、3.5g/10分(210℃、2160g荷重))であった。
[0094]
(B-2):三井化学株式会社製のエチレン-ブテン共重合体(商品名「タフマー A4085」、MFR:3.6g/10分(210℃、2160g荷重)、密度:0.885g/cm
3、酸価:0.0mgKOH/g)
(C-2):三井化学株式会社製の無水マレイン酸変性エチレン-ブテン共重合体(商品名「タフマー MA8510」、MFR:2.9g/10分(210℃、2160g荷重)、密度:0.885g/cm
3、酸価:5.5mgKOH/g)
[0095]
得られた樹脂組成物ペレットを用いて実施例1と同様の方法により、単層フィルム及び多層フィルムを作製して、評価した。
[0096]
比較例1
EVOH(A-1)を、二軸押出機を使用して溶融混練した後、ペレット化した。得られた樹脂組成ペレットを熱風乾燥機にて80℃/6hr乾燥した。この樹脂組成物ペレットのMFRは、3.4g/10分(210℃、2160g荷重))であった。
[0097]
得られた樹脂組成物ペレットを用いて、実施例1と同様の方法により、厚さ20μmの単層フィルムを作製した。
[0098]
また、得られた樹脂組成物ペレットを用いて、実施例1と同様の方法により、多層フィルムを作製した。多層フィルムの層構成及び厚さは以下の通りである。
層構成:LLDPE層/Ad/樹脂組成物層/Ad/LLDPE層
総厚み90μm、樹脂組成物層の厚み6μm、接着性樹脂層(Ad)の厚み6μm、LLDPE層の厚み36μm
[0099]
そして、上述した方法により、単層フィルム及び多層フィルムを評価した。未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)、アルカリ金属塩(D)を含まない樹脂組成物ペレットのMFRは、本発明で規定した値から外れた。また、得られた多層フィルムの膜面にはストリークが顕著に発生した。
[0100]
比較例2
エチレン-プロピレン共重合体(B-1)を30質量部とし、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)を添加しなかったこと以外は実施例1と同様の方法で樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットのMFRは、8.7g/10分(210℃、2160g荷重)であった。樹脂組成物ペレットは、EVOH(A)とエチレン-α-オレフィン共重合体を溶融混練しても相容性が悪く、ペレット化時に目ヤニの発生が激しかった。
[0101]
また、樹脂組成物ペレットを用いて、実施例1と同様の方法により、単層フィルムの作製を試みたが、EVOH(A)とエチレン-α-オレフィン共重合体(B)の相容性が悪いことにより、膜厚ムラ、穴開き、切れが生じ製膜することができなかった。さらに樹脂組成物ペレットを用いて、多層フィルムの作製を試みたが、EVOH(A)とエチレン-α-オレフィン共重合体(B)の相容性が悪く、MFRが規定の範囲から外れたことにより、膜厚ムラ、穴開き、切れが生じ、製膜することができなかった。
[0102]
比較例3
未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)を添加しないこと、及び無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(C-1)を30質量部とした以外は実施例1と同様の方法で、樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットのMFRは、0.1g/10分(210℃、2160g荷重))であった。上述した方法により、ペレット化の際の目ヤニの発生具合を評価した。樹脂組成物ペレットは、押出機中で過剰のEVOH(A)と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)のグラフト重合体が生成し、EVOH(A)と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の絡み合いが増すため、MFRが著しく低下した。このため、実施例1と同様の方法により、単層フィルムの作製を試みたが、穴開き、切れが生じ製膜することができなかった。さらに樹脂組成物ペレットを用いて、多層フィルムの作製を試みたが、製膜時にストリークが激しくなり、評価可能なフィルムを得ることができなかった。
[0103]
比較例4
アルカリ金属塩(D)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で、樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットのMFRは、4.6g/10分(210℃、2160g荷重)であった。樹脂組成物ペレットはアルカリ金属塩(D)を含まないため、EVOH(A)と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の反応性が悪く、ペレット化時に目ヤニの発生が激しかった。実施例1と同様の方法により、樹脂組成物ペレットから単層フィルムを作製した。ついで、多層フィルムの作製を試みたが、EVOH(A)とエチレン-α-オレフィン共重合体(B)の相容性が悪いこと、及びMFRが規定の範囲から外れ、膜厚ムラ、穴開き、切れが生じ製膜することができなかった。
[0104]
比較例5
EVOH(A)としてEVOH(A-3)を用いた以外は実施例1と同様の方法で、樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットのMFRは1.5g/10分(210℃、2160g荷重)であった。この樹脂ペレットを用いて実施例1と同様にして、単層フィルム及び多層フィルムを作製して、評価した。EVOH(A)と樹脂組成物のそれぞれのMFRが規定の範囲から外れ、多層フィルムの膜面には顕著にストリークが現れた。
[0105]
(A-3):株式会社クラレ製のEVOH(エチレン含有量:32モル%、ケン化度:99モル%以上、MFR:3.8g/10分(210℃、2160g荷重))
[0106]
比較例6
EVOH(A-1)を70質量部、エチレン-プロピレン共重合体(B-1)を28.5質量部、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(C-1)を1.5質量部とした以外は実施例1と同様の方法で、樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットのMFRは、4.2g/10分(210℃、2160g荷重)であった。樹脂組成物ペレットは、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の量が少ないため、ペレット化時に目ヤニが発生した。実施例1と同様の方法により、単層フィルム、多層フィルムを作製した。そして、実施例1と同様にして単層フィルム及び多層フィルムを評価したが、MFRが規定の範囲から外れ、多層フィルムの膜面には顕著にストリークが現れた。
[0107]
比較例7
エチレン-プロピレン共重合体(B-1)を18質量部、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(C-1)を12質量部とした以外は実施例1と同様の方法で、樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットのMFRは1.1g/10分(210℃、2160g荷重)であった。この樹脂組成物ペレットを用いて実施例1と同様の方法により単層フィルム及び多層フィルムを作製して、評価した。この樹脂組成物ペレットは、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の量が多いために、MFRが規定の範囲から外れ、多層フィルムには層乱れが現れた。
[0108]
比較例8
EVOH(A-1)を90質量部、エチレン-プロピレン共重合体(B-1)を9質量部、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(C-1)を1質量部とした以外は実施例1と同様の方法で、樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成ペレットのMFRは、7.9g/10分(210℃、2160g荷重)であった。樹脂組成物ペレットは、EVOH(A)と、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)及び酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の合計の質量比[(A)/((B)+(C))]が規定の範囲から外れ、ペレット化時に目ヤニが発生した。また、実施例1と同様の方法により、単層フィルム、多層フィルムを作製したが、MFRが規定の範囲から外れ、多層フィルムの膜面には層乱れが現れた。
[0109]
比較例9
EVOH(A-1)を60質量部、エチレン-プロピレン共重合体(B-1)を36質量部、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(C-1)を4質量部とした以外は実施例1と同様の方法で、樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成ペレットのMFRは、1.9g/10分(210℃、2160g荷重)であった。樹脂組成物ペレットは、[(A)/((B)+(C))]が規定の範囲から外れ、ペレット化時に目ヤニが発生した。また、実施例1と同様の方法により、単層フィルム、多層フィルムを作製した。MFRが規定の範囲から外れて、多層フィルムの膜面にストリークが顕著に現れた。
[0110]
比較例10
EVOH(A-1)を20質量部、エチレン-プロピレン共重合体(B-1)を72質量部、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体(C-1)を8質量部とした以外は実施例1と同様の方法で、樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成ペレットのMFRは、2.0g/10分(210℃、2160g荷重)であった。また、実施例1と同様の方法により、単層フィルムを作製した。得られた単層フィルムは、[(A)/((B)+(C))]が規定の範囲から外れたため、引張弾性率が測定できないほど柔軟性が高くなり、耐屈曲性は大きく向上するものの、酸素透過速度が高くなった。酸素透過速度が高かったため、多層フィルムは作製しなかった。
[0111]
上記の実施例及び比較例について、ペレット化時の目ヤニの発生具合;20μmの単層フィルムの耐屈曲性、引張弾性率、酸素透過速度;90μmの多層フィルムの膜面、耐屈曲性、引張弾性率を評価し、結果を表1にまとめた。
[0112]
[表1]
[0113]
実施例のMFRが規定の範囲にある樹脂組成物から得られる多層フィルムは、比較例の多層フィルムよりも膜面が良好であった。アルカリ金属塩(D)を含む実施例の樹脂組成物は、アルカリ金属塩(D)によりEVOH(A)と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の反応性が上がり、EVOH(A)とエチレン-α-オレフィン共重合体(B)の相容性が改善されるため、ペレット化時の目ヤニの発生が著しく抑制された。
[0114]
[バッグインボックス用内容器及びバッグインボックスの作製方法]
得られたLLDPE/Ad/樹脂組成物/Ad/LLDPE構成の総厚み90μmの多層フィルムを230mm×180mmに切り出した。続いて、フィルムに直径43mmの穴を開けた。穴を開けていない多層フィルムを上記の多層フィルムと重ね合わせて三辺をヒートシールし袋を作製した。次に、上記の穴に高密度ポリエチレン製の密封栓を取り付け、ヒートシールし固定した。得られた袋に1.5Lの水を加え、残りの一辺をヒートシールして密閉し、水を充填したバッグ(バッグインボックス用内容器)を作製した。得られたバッグを190mm×130mm×65mmのダンボール箱の中に収納し、バッグインボックスを作製した。
[0115]
[輸送包装試験]
得られたバッグインボックスを、輸送包装試験機(アイデックス株式会社の製「BF-50UT」)を使用し、以下の条件で輸送包装試験を行った。輸送包装試験後にピンホールの有無をバッグからの水の漏出により評価した。
周波数:10~25Hz
掃引時間:120秒
掃引回数:30回
[0116]
実施例14
実施例1の多層フィルムを用いて、上述の方法によりバッグインボックスを作製し、輸送包装試験を行った。バッグインボックス用内容器は容易に作製できた。輸送包装試験において、バッグインボックス中のバッグインボックス用内容器にピンホールの発生は認められず、バッグインボックス用内容器からの水の漏出はなかった。
[0117]
比較例11
比較例1の多層フィルムを用いて、上述した方法によりバッグインボックスを作製し、輸送包装試験を行った。バッグインボックス用内容器は容易に作製できた。輸送包装試験において、バッグインボックス中のバッグインボックス用内容器のダンボール箱角部付近にピンホールの発生が認められ、バッグインボックス用内容器から水が漏出した。
請求の範囲
[請求項1]
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)、酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)及びアルカリ金属塩(D)を含有する樹脂組成物であって;
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)と、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)及び酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の合計量の質量比[(A)/((B)+(C))]が80/20~65/35であり、
未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)と酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の質量比[(B)/(C)]が92/8~70/30であり、
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のメルトフローレート(MFR)(210℃、2160g荷重下)が8.0g/10分以上15g/10分以下であり、
アルカリ金属塩(D)の含有量が、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)及び酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)の合計量に対して金属換算で25ppm以上300ppm以下であり、
前記樹脂組成物のMFR(210℃、2160g荷重下)が2.0g/10分以上4.0g/10分以下である樹脂組成物。
[請求項2]
未変性エチレン-α-オレフィン共重合体(B)が、エチレン-プロピレン共重合体である請求項1に記載の樹脂組成物。
[請求項3]
変性エチレン-α-オレフィン共重合体(C)が、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
[請求項4]
20℃/65%RHにおける酸素透過速度が、10ml・20μm/(m
2・day・atm)以下である請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
[請求項5]
請求項1~4のいずれかに記載の樹脂組成物からなる層を有する多層構造体。
[請求項6]
請求項5に記載の多層構造体を備えるバッグインボックス用内容器。