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1. (WO2015141548) 固定式等速自在継手
Document

明 細 書

発明の名称 固定式等速自在継手

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004  

先行技術文献

特許文献

0005  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0006   0007   0008  

課題を解決するための手段

0009   0010   0011   0012   0013   0014   0015   0016  

発明の効果

0017  

図面の簡単な説明

0018  

発明を実施するための形態

0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042  

実施例

0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056  

符号の説明

0057  

請求の範囲

1   2   3   4   5  

図面

1   2   3   4   5   6   7  

明 細 書

発明の名称 : 固定式等速自在継手

技術分野

[0001]
 この発明は、自動車のドライブシャフトの駆動車輪側に使用され、角度変位のみを許容する固定式等速自在継手に関する。

背景技術

[0002]
 図1を参照して、固定式等速自在継手であるツェッパ型等速自在継手は、外側継手部材2、内側継手部材3、ボール4および保持器5を主な構成とする。外側継手部材2の球状内径面8には複数の曲線状のトラック溝6が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。内側継手部材3の球状外径面9には、外側継手部材2のトラック溝6と対向する複数の曲線状のトラック溝7が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。外側継手部材2のトラック溝6と内側継手部材3のトラック溝7との間にトルクを伝達する複数のボール4が1個ずつ組み込まれている。外側継手部材2の球状内径面8と内側継手部材3の球状外径面9の間に、ボール4を保持する保持器5が配置されている。外側継手部材2の外周と、内側継手部材3に連結されたシャフト12の外周とをブーツ13で覆い、継手内部には、潤滑剤としてグリースが封入されている。
[0003]
 外側継手部材2の球状内径面8と内側継手部材3の球状外径面9の曲率中心は、いずれも、継手の中心Oに形成されている。これに対して、外側継手部材2のトラック溝6の曲率中心Aと、内側継手部材3のトラック溝7の曲率中心Bは、継手の中心Oに対して軸方向反対側に等距離f1オフセットされている。これにより、継手が作動角をとった場合、外側継手部材2と内側継手部材3の両軸線がなす角度を二等分する平面上にボール4が常に案内され、二軸間で等速に回転トルクが伝達されることになる。
[0004]
 固定式等速自在継手1は、8個ボールタイプのツェッパ型等速自在継手で、従来の6個ボールの等速自在継手に比べて、トラックオフセット量を小さくし、ボールの個数を増やし、かつ直径を小さくしたことにより、6個のボールを用いた固定式自在継手と同等以上の強度、負荷容量および耐久性を確保し、軽量・コンパクトで、トルク損失の少ない高効率な等速自在継手を実現している。このような8個ボールタイプの固定式自在継手の高常用角化や高速回転時の発熱を低減するために保持器のポケットすきまや内側継手部材とケージ間の球面すきまに着目したものが提案されている(特許文献1)。

先行技術文献

特許文献

[0005]
特許文献1 : 特開2006-258207号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0006]
 近年、自動車の燃費向上のため、自動車部品である等速自在継手の軽量化と共に高効率化に対する要求が高まっている。特に、一般道や高速道路網等が整備され、セダン系乗用車を含む車高の高くない車(以下代表としてセダン系乗用車という。)のドライブシャフトに使用される固定式等速自在継手では低作動角における伝達効率および耐久性の向上が強く望まれている。
[0007]
 特許文献1に記載された固定式等速自在継手は、8個ボールタイプの固定式等速自在継手が使用されるドライブシャフトの高常用角化やプロペラシャフトの高回転時における発熱を低減することに着目し、固定式等速自在継手の内部仕様を改良したものである。しかしながら、特許文献1に記載された固定式等速自在継手は、前述したセダン系乗用車の比較的低い常用角のドライブシャフトに使用される固定式等速自在継手の伝達効率および耐久性の向上に対して着目したものではない。
[0008]
 本発明は、前述した問題点に鑑みて提案されたもので、その目的は、従来継手(6個ボールタイプの固定式等速自在継手)と同等以上の強度、負荷容量および耐久性を確保し、軽量・コンパクトで、トルク損失の少ない高効率な8個ボールタイプの固定式等速自在継手の基本的なフォルム構成を変更することなく、低常用角のドライブシャフトに使用される固定式等速自在継手の伝達トルク損失を低減し耐久性を向上させることである。

課題を解決するための手段

[0009]
 本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討および検証し、以下の多面的な知見と推考活動により本発明に至った。
(1)エネルギー損失の動的解析
 まず、8個ボールタイプの固定式等速自在継手のトルク伝達時に、エネルギー損失がどこの接触部位で発生しているかについて摩擦を考慮した動的解析により検証した。この解析の結果、図7に示すように、エネルギー損失は、低作動角においては、保持器のポケットとボール間の接触部によるものが一番大きく、次に外側継手部材のトラック溝とボール間の接触部や内外継手部材と保持器の球面間の接触部、そして、内側継手部材のトラック溝とボール間の接触部であることが判明した。この解析結果より、保持器のポケットとボール間の接触部の究明に重点をおくことにした。ここで、エネルギー損失とは、上記の動的解析において等速自在継手の内部力よる各接触部位の仕事量を意味し、解析結果より、エネルギー損失は、計測した等速自在継手の伝達効率としてのトルク損失と比例関係にある。
(2)継手内部の接触状態
 前項の保持器のポケットとボール間の接触状態として、ボールは、通常、締め代をもって保持器のポケットに組込まれるため、ボールと、保持器のポケット間や内外継手部材のトラック溝間の円滑な動きを規制する。前項の動的解析の結果により、保持器のポケットとボール間を正すきまにすることで、低作動角時のトルク損失に最も大きく影響する保持器とボール間で発生するトルク損失が低減でき、また、ボールと内外継手部材のトラック溝間のトルク損失も低減できる可能性に注目した。
(3)セダン系乗用車の居住性
 一方で考慮すべきことは、低常用角のドライブシャフトを備えたセダン系乗用車は、居住性を重視するためNVH(Noise,Vibration,Harshness、以下同じ)特性への要求が特に厳しいということである。具体的には、保持器のポケットとボールとの遊び(正すきま)が過大となると、ポケットとボールとの間で打音(異音)が発生したり、継手振動を増大したりするなど、継手性能に好ましくない影響が生じる。この影響は、特に、居住性を重視するセダン系乗用車のドライブシャフトでは重要な課題である。このような状況のため、保持器のポケットとボール間の正すきまが実車の条件面で成立するのかどうかという難題に対処が必要なことと、ポケットとボール間を正すきまとする内部仕様だけでは、セダン系乗用車の要求に対して到達できないという結論に至った。
(4)新規な着目
 そこで、セダン系乗用車のNVH特性の確保を不可欠の条件として、保持器のポケットとボール間を正すきまにすることによる継手の内部仕様の側面よりトルク損失の低減を図ることに加えて、保持器のポケットとボール間の摩擦を低減することにより、さらに、トルク損失の低減効果を増幅させることができないかということに着目した。
(5)グリースの流動性
 前項の摩擦を低減する手段として考えられるグリースの性状面では、流動性の小さいグリースと比較して流動性の大きいグリースは、等速自在継手の内部の摺動部に介入しやすい。特に、トラック溝とボール間の転がり成分をもつ接触部位と比較して、転がり成分を含まない摺動部となる保持器のポケットとボール間には、流動性が大きく影響することが判明した。ところが、グリースの流動性についても難題が浮上した。すなわち、グリースの流動性は、ちょう度が指標とされるが、このちょう度は実際面では単純に選定できるものではなく、継手組立時のハンドリング性、ブーツから漏れ防止、継手内での流動性(摺動部位へのグリース供給性)等を多面的に勘案する必要があるという問題である。
(6)グリースの性状面の新規な着想
 以上の検討や検証を基に種々思考した結果、グリースの性状面では、初期ちょう度は通常用いるレベルであるが、運転時には、ちょう度が大きくなる「組立時のハンドリング性」と「摺動部へのグリース供給性」を両立させるグリースを用いるという新規な着想にたどり着いた。
[0010]
 前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、球状内径面に軸方向に延びる8本の曲線状のトラック溝が形成された外側継手部材と、球状外径面に軸方向に延びる8本の曲線状のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝とこれに対応する前記内側継手部材のトラック溝との間に配された8個のトルク伝達ボールと、このトルク伝達ボールをポケットに保持すると共に前記外側継手部材の球状内径面と前記内側継手部材の球状内径面にそれぞれ嵌合する球状外径面と球状内径面を有する保持器を備え、前記外側継手部材のトラック溝の曲率中心と前記内側継手部材のトラック溝の曲率中心が継手中心に対して軸方向反対側に等距離オフセットされており、継手内部にグリースが封入された固定式等速自在継手において、前記ポケットとボールとの間の初期ポケットすきまを正の値とし、前記グリースは、初期ちょう度がちょう度番号1号~2号(混和ちょう度265~340)であると共に、混和安定度が390~440であることを特徴とする。
[0011]
 ここで、本明細書および特許請求の範囲において、初期ちょう度がちょう度番号1号~2号(混和ちょう度265~340)であるとは、JIS K 2220に規定されたちょう度番号1号~2号であることを意味し、混和安定度が390~440であるとは、JIS K 2220に規定された混和安定度(10 W)が390~440であることを意味する。補足すると、JIS K 2220に規定された混和安定度(10 W)は、グリースを規定の混和器で10万回混和して、25℃に保持した後、さらに60回混和した後のちょう度であるので、継手の運転時のちょう度の指標とすることができる。初期ちょう度がちょう度番号1号~2号(混和ちょう度265~340)であると、継手の組立時の作業性が損なわれない。また、混和安定度が390~440であると、運転時にちょう度が大きくなり(流動性が大きくなり)、すきま部へグリースが供給され、トルク損失を低減させることができる。混和安定度が440より大きいと、グリースがブーツから漏れやすくなり、好ましくない。
[0012]
 上記の構成により、従来継手(6個ボールタイプの固定式等速自在継手)と同等以上の強度、負荷容量および耐久性を有し、軽量・コンパクトで、トルク損失の少ない高効率な8個ボールタイプの固定式等速自在継手の基本的なフォルム構成を変更することなく、低常用角のドライブシャフトに使用される固定式等速自在継手の伝達トルク損失を低減し耐久性を向上させることができる。
[0013]
 8個ボールタイプの固定式等速自在継手の有利な構成として、上記のトルク伝達ボールのピッチ円直径(PCD BALL)とボール直径(D BALL)との比r1(=PCD BALL/D BALL)が3.3≦r1≦5.0の範囲にあり、外側継手部材の外径(D OUTER)と内側継手部材の嵌合部の歯型のピッチ円直径(PCD SERR)との比r2(=D OUTER/PCD SERR)が2.5≦r2<3.5の範囲内にあることが好ましい。これにより、従来継手(6個ボールタイプの固定式等速自在継手)と同等以上の強度、負荷容量および耐久性を有し、かつ、外径寸法がコンパクトとなる。
[0014]
 上記の初期ポケットすきまを0~20μmとすることが好ましい。これにより、封入グリースの特性と相俟って、低常用角のドライブシャフトに使用される固定式等速自在継手のトルク損失を低減すると共に、高作動角時のポケットとボールとの間で打音や継手振動を防止することができる。
[0015]
 上記のグリースは、基油として含まれる潤滑油成分の全質量に対して、パラフィン系鉱物油を70質量%以上含有することが好ましい。これにより、パラフィン系鉱物油は、コスト面で有利であると共に、継手内部の動きによりせん断を受けると急激に流動性がよくなり、トルク損失を低減できる。
[0016]
 上記のグリースの増ちょう剤をウレア化合物としたことより、耐熱性、介入性に優れ、保持器のポケットの摩耗が抑制できる。

発明の効果

[0017]
 本発明によれば、従来継手(6個ボールタイプの固定式等速自在継手)と同等以上の強度、負荷容量および耐久性を有し、軽量・コンパクトで、トルク損失の少ない高効率な8個ボールタイプの固定式等速自在継手の基本的なフォルム構成を変更することなく、低常用角のドライブシャフトに使用される固定式等速自在継手の伝達トルク損失を低減し耐久性を向上させることができる。

図面の簡単な説明

[0018]
[図1] この発明に係る一実施形態の固定式等速自在継手の縦断面図である。
[図2] 図1の固定型等速自在継手の横断面図である。
[図3] 図2のボールとトラック溝を拡大した横断面図である。
[図4] 図1の固定式等速自在継手の保持器の縦断面図である。
[図5] 図1の固定式等速自在継手が高作動角をとった状態を示す縦断面図である。
[図6] 異音を計測する試験装置の概要を示す平面図である。
[図7] 動的解析の結果を示すグラフである。

発明を実施するための形態

[0019]
 以下、この発明の一実施形態を図1~図5に基づいて説明する。図1は本実施形態の固定式等速自在継手の部分縦断面図で、図2は、図1のP―P線で矢視した横断面図で、図3はボールとトラック溝を拡大した横断面図で、図4は保持器の縦断面図で、図5は固定式等速自在継手が高作動角をとった状態を示す縦断面図である。
[0020]
 本実施形態の固定型等速自在継手1は、ツェッパ型等速自在継手であり、図1および図2に示すように、外側継手部材2、内側継手部材3、ボール4および保持器5を主な構成とする。外側継手部材2の球状内径面8には8本の曲線状のトラック溝6が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。内側継手部材3の球状外径面9には、外側継手部材2のトラック溝6と対向する8本の曲線状のトラック溝7が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。外側継手部材2のトラック溝6と内側継手部材3のトラック溝7との間にトルクを伝達する8個のボール4が1個ずつ組み込まれている。外側継手部材2の球状内径面8と内側継手部材3の球状外径面9の間に、ボール4を保持する保持器5が配置されている。保持器5の球状外径面10は外側継手部材2の球状内径面8と、保持器5の球状内径面11は内側継手部材3の球状外径面9とそれぞれ嵌合している。
[0021]
 外側継手部材2の球状内径面8と内側継手部材3の球状外径面9の曲率中心は、それぞれ継手の中心Oに形成されている。これに対して、外側継手部材2の曲線状のトラック溝6の曲率中心Aと、内側継手部材3の曲線状のトラック溝7の曲率中心Bは、継手の中心Oに対して軸方向反対側に等距離f1オフセットされている。これにより、継手が作動角をとった場合、外側継手部材2と内側継手部材3の両軸線がなす角度を二等する平面上にボール4が常に案内され、二軸間で等速に回転が伝達されることになる。
[0022]
 内側継手部材3の内径孔17には、雌スプライン(スプラインはセレーションを含む。以下同じ。)16が形成され、中間シャフト12の端部に形成された雄スプライン19を雌スプライン16に嵌合し、トルク伝達可能に連結されている。内側継手部材3と中間シャフト12は、止め輪18により軸方向に位置決めされている。
[0023]
 外側継手部材2の外周と、内側継手部材3に連結されたシャフト12の外周にブーツ13を装着し、ブーツ13の両端はブーツバンド14、15により締付固定されている。ブーツ13で覆われた継手内部には、潤滑剤としてのグリースGが封入されている。
[0024]
 外側継手部材2のマウス部2aの底部にステム部20が一体に形成され、ステム部20には、駆動車輪が取り付けられるハブ輪(図示省略)と嵌合する雄スプライン21とねじ部22が形成されている。
[0025]
 図3は、図2のボールとトラック溝を拡大した横断面図である。図3に示すように、ボール4は、外側継手部材2のトラック溝6と2点C12、C13でアンギュラコンタクトし、内側継手部材3のトラック溝7と2点C15、C16でアンギュラコンタクトしている。ボール中心O5と各接触点C12、C13、C15、C16を通る直線と、ボール中心O5と継手中心Oを通る直線がなす角度(接触角α)は30°以上に設定することが好ましい。
[0026]
 本実施形態の8個ボールタイプの固定式等速自在継手1は、図1および図2を参照して、ボール4のピッチ円直径(PCD BALL)とボール直径(D BALL)との比r1(=PCD BALL/D BALL)は3.3≦r1≦5.0、好ましくは3.5≦r1≦5.0の範囲内に設定されている。ここで、ボール4のピッチ円直径(PCD BALL)は、PCRの2倍の寸法である(PCD BALL=2×PCR)。外側継手部材2のトラック溝6の曲率中心Aとボール4の中心O5を結ぶ線分の長さ、内側継手部材3のトラック溝7の曲率中心Bとボール4の中心O5を結ぶ線分の長さが、それぞれPCRであり、両者は等しい。また、外側継手部材2の外径(D OUTER)と内側継手部材2の内径孔17の雌スプライン16のピッチ円直径(PCD SERR)との比r2(=D OUTER/PCD SERR)は2.5≦r2≦3.5の範囲内の値に設定されている。したがって、従来継手(6個ボールタイプの固定式等速自在継手)と同等以上の強度、負荷容量および耐久性を有し、かつ、外径寸法がコンパクトとなる。
[0027]
 本実施形態の固定式等速自在継手1の特徴を構成する継手の内部仕様の側面として、保持器のポケットとボール間のポケットすきまを図4に基づいて説明する。図4は、保持器の縦断面図である。保持器5には、周方向に8個のポケット5aが設けられている。ポケット5aの軸方向に対向する面がボール4を保持する面であり、これら両面間の軸方向寸法をHとする。そして、二点鎖線で示したボール4の直径(D BALL)との初期ポケットすきまδは、次式で表される。
初期ポケットすきまδ=保持器のポケットの軸方向寸法H-ボールの直径(D BALL
[0028]
 本実施形態の固定式等速自在継手1では、初期ポケットすきまδを正の値、好ましくは、0~20μmに設定している。この初期ポケットすきまδの範囲は、実車の条件を考慮して実験により確認した。後述する封入グリースの特性と相俟って、居住性を重視するセダン系乗用車のドライブシャフト用として低常用角で使用される固定式等速自在継手のトルク損失を低減させると共に、高作動角時のポケットとボール間の打音や継手振動を抑制することができる。
[0029]
 上記の作用効果に関連する保持器5のポケット5a内におけるボール4の動きを補足説明する。継手が作動角をとった場合、ボール4は、保持器5のポケット5a内で、保持器5の半径方向と周方向に摺動する。図4に示すように、周方向の摺動(図4の矢印E)は、ポケット5aの周方向の中心からボール4が柱部5bに接近するように摺動することである。この周方向の摺動は、作動角をとると、外側継手部材2と内側継手部材3とが斜交することにより、周方向に隣り合うトラック溝6、7とボール4との接点C12、C13およびC15、C16の周方向の間隔が変化し、これによりトラック溝6、7に拘束されたボール4がポケット5aに対して周方向に移動させられることによって生じる。
[0030]
 一方、ボール4のポケット5a内での半径方向の摺動(図4の矢印F)は、トラックオフセット量f1(図1参照)により生じる。その理由は、図5に示すように、作動角θをとると、上死点のボール4 は外側継手部材2の奥側に移動し、下死点のボール4 は外側継手部材2の開口側に移動する。トラックオフセット量f1が設けられているので、外側継手部材2と内側継手部材3のトラック溝6、7は、それぞれ、溝深さが開口側で深く、奥側に行く程浅く形成されている。そのため、外側継手部材2の奥側に移動したボール4 は、半径方向の内側に移動し、外側継手部材2の開口側に移動したボール4 は、半径方向の外側に移動する。このように、ボール4と当接するトラック溝6、7の軸方向の位置によりボール4が半径方向に移動する。図5に示すL1は外側継手部材2のトラック溝6とボール4の接触点C12、C13(図3参照)の軌跡であり、L2は内側継手部材2のトラック溝7とボール4の接触点C15、C16(図3参照)の軌跡である。
[0031]
 前述したボール4のポケット5a(図4参照)内での半径方向と周方向の摺動は、いずれも転がり成分を含まないものである。この転がり成分を含まない摺動部は、トラック溝とボール間の転がり成分をもつ接触部位と比較して、グリースが介入しにくく流動性が大きく影響する。この分析結果と、前述の動的解析の結果判明した低作動角においてケージとボール間の接触部によるエネルギー損失が一番大きいという検証結果とがリンクして、後述するグリースの性状を推考するための鍵になった。
[0032]
 ここで、固定式等速自在継手の常用角について説明する。常用角とは、自動車のドライブシャフトの場合は、水平で平坦な路面上で2名乗車時の自動車において、ステアリングを直進状態にした時にフロントドライブシャフトの固定式等速自在継手に生じる作動角をいう。常用角は、通常、2°~15°程度の間で車種ごとの設計条件に応じて決定される。自動車はセダン系乗用車とSUV(スポーツ用多目的車)に大別される。セダン系乗用車は、通常、常用角は3°~6°程度である。SUVは、バンやピックアップトラックを含む車高が高い車で、通常、常用角は6°~12°程度である。8°以上の常用角を高常用角といい、3°~6°程度を低常用角という。
[0033]
 一方で考慮すべきものとして、低常用角のドライブシャフトを備えたセダン系乗用車は、NVH特性への要求が特に厳しいことである。保持器のポケットとボールとの遊び(正すきま)が過大となると、ポケットとボールとの間で打音が発生したり、継手振動を増大したりするなど、継手性能に好ましくない影響が生じるが、この影響は、特に、居住性を重視するセダン系乗用車のドライブシャフトでは重要な課題である。このような状況のため、保持器のポケットとボール間の正すきまが実車の条件面で成立するのかどうかという難題に対処が必要なことと、ポケットとボール間を正すきまとする内部仕様だけでは、セダン系乗用車の要求に対して到達できないという結論に至った。
[0034]
 そこで、セダン系乗用車のNVH特性の確保を不可欠の条件として、保持器のポケットとボール間を正すきまにすることによる継手の内部仕様の側面よりトルク損失の低減を図ることに加えて、保持器のポケットとボール間の摩擦を低減することにより、さらに、トルク損失の低減効果を増幅させることができないかということに着目した。
[0035]
 摩擦を低減する手段として考えられるグリースの性状面では、前述したように、流動性の小さいグリースと比較して流動性の大きいグリースは、等速自在継手の内部の摺動部に介入しやすい。特に、トラック溝とボール間の転がり成分をもつ接触部位と比較して、転がり成分を含まない摺動部となる保持器のポケットとボール間には、流動性が大きく影響する。
[0036]
 ところが、グリースの流動性についても難題が浮上した。すなわち、グリースの流動性は、ちょう度が指標とされるが、このちょう度は、実際面では単純に選定できるものではなく、継手組立時のハンドリング性、ブーツから漏れ防止、継手内での流動性(摺動部位へのグリース供給性)等を多面的に勘案する必要があるという問題である。
[0037]
 以上の検討や検証を基に種々思考した結果、グリースの性状面では、初期ちょう度は通常用いるレベルであるが、運転時には、ちょう度が大きくなる「組立時のハンドリング性」と「摺動部へのグリース供給性」を両立させるグリースを用いるという新規な着想にたどり着き、本実施形態に至った。
[0038]
 本実施形態の固定式等速自在継手1の特徴を構成する潤滑剤の側面として、継手内部に封入されるグリースについて説明する。グリースGは、初期ちょう度がちょう度番号1号~2号(混和ちょう度265~340)であると共に、混和安定度が390~440である。初期ちょう度がちょう度番号1号~2号(混和ちょう度265~340)であるので、継手の組立時の作業性が損なわれない。また、混和安定度が390~440であるので、運転時にちょう度が大きくなり、すきま部へグリースが供給され、トルク損失を低減させることができる。このように、上記性状のグリースGを採用することにより、「組立時のハンドリング性」と「摺動部へのグリース供給性」を両立させることができる。これにより、セダン系乗用車のドライブシャフト用として低常用角で使用される固定式等速自在継手に対して要求されるトルク損失の低減および耐久性の向上を達成することができる。
[0039]
 自動車の実際の走行状態として、急カーブの道路や交差点等では、固定式等速自在継手に生じる作動角は上記常用角より大きくなるが、本実施形態の固定式等速自在継手1では、急カーブの道路や交差点等の大きな作動角での使用頻度は少ないので、常用角の範囲で継手効率の向上(トルク損失の低減)を図ることにより、総合的にみて継手効率を向上させることができる。
[0040]
 グリースGの組成物としては、基油と増ちょう剤と添加剤である。基油としては、パラフィン系鉱物油を含有したもので、前記基油として含まれる潤滑油成分の全質量に対し、70質量%以上とすることが好ましい。コスト面よりパラフィン系鉱物油を主体に配合している。パラフィン系鉱物油は、継手内部の動きによりせん断を受けると急激に流動性がよくなり、トルク損失を低減できる。
[0041]
 増ちょう剤はウレア化合物とすることが好ましい。このウレア化合物としては、例えば、ジウレア化合物、ポリウレア化合物が挙げられる。ジウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アニリン、p-トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
 本願での使用に望ましいジウレア化合物は、次式で表されるものである。
 R NH-CO-HH-C -P-CH -C -P-NH-CO-NHR
 (式中、R ,R :炭素数8~20の脂肪族の炭化水素基。R とR は同一でも異なっても良い)
 ポリウレア化合物は、例えば、ジイソアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。
[0042]
 上記のウレア化合物の中では、耐熱性、介入性に優れるジウレア化合物が増ちょう剤として望ましい。
実施例
[0043]
 以下に本発明の実施例および比較例を説明する。各実施例および比較例の固定式等速自在継手に封入するグリースの組成を表1に示す。表1では、便宜上、各実施例および比較例をグリース組成の上欄に示しているが、各実施例および比較例は各グリースを封入した固定式等速自在継手であることを意味する。すなわち、いずれも実施形態で構造を説明したポケットすきまδが0~20μmの8個ボールタイプのツェッパ型固定式等速自在継手である。評価試験を行った図1のツェッパ型固定式等速自在継手として、NTN製EBJ82Mを用いた。
[0044]
 以下の各実施例および比較例は、耐久性を考慮し添加剤として、モリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)、モリブデンジチオフォスフェート(MoDTP)、ジンクジチオカーバメイート(ZnDTC)、ジンクジチオフォスフェート(ZnDTP)、その他極圧添加剤等が数質量%程度添加されているが、詳細は省略する。
[0045]
 各実施例および比較例は、表1の左欄に示す組成からなる。各実施例および比較例について表中の基油の欄にある数値は、基油として含まれている潤滑成分の全質量に対する含有量を質量%で示す。
 表中のパラフィン系鉱物油は、動粘度11mm /s(100℃)粘度指数98のものを使用した。
 表1中の評価項目の結果表記は次のとおりである。
 ◎:優れる、○:実用可能、△:やや劣る、×:劣る
[表1]


[0046]
 [組立性の評価結果]
 組立性の評価方法は、ドライブシャフトの自動組立装置に、組立前のブーツ13を装着した中間シャフト12(図1参照)を水平にセットし、グリース封入ノズルをブーツ13内に挿入しブーツ13の小径側に向けてグリースを封入する。その後、ノズルを抜き取るときのグリースの垂れの有無およびブーツ13の小径側から大径側への傾斜による流れ出しの有無により評価した。
[0047]
 表1に示すように、初期ちょう度がちょう度番号1号の範囲の下限近くにある実施例3および初期ちょう度がちょう度番号2号の上限近くにある比較例3が、組立性の面では優れていた。初期ちょう度がちょう度番号1号の範囲の中間値近くにある実施例1、実施例2、比較例1および比較例2は、組立面では良好で、実用上問題のないレベルであった。
[0048]
 [トルク損失の評価結果]
 トルク損失の評価方法は、作動角をとった状態で、固定式等速自在継手にトルクを入力して回転させ、入力側軸と出力側軸のトルク差をトルクメータにより検出した。実車での使用条件を考慮して、次の試験条件とした。
 (試験条件)
 ・作動角:常用角である3°および6°
 ・回転数:200min -1、400min -1、600min -1
 ・トルク:200Nm
[0049]
 表1に示すように、実施例1、実施例2および実施例3は、いずれもトルク損失が低く伝達効率に優れ、比較例1~3は、トルク損失が高く伝達効率が劣ることが判明した。これは、実施例1~3は、混和安定度が390~440の範囲にあるので、継手運転時にちょう度が大きくなり、すきま部へグリースが供給され、トルク損失を低減できるものと考えられる。混和安定度が440より大きいと、グリースがブーツから漏れやすくなり、好ましくない。
[0050]
 [耐久性の評価結果]
 耐久性の評価方法は、NTNの標準耐久試験(高負荷耐久試験、低負荷耐久試験、高角揺動耐久試験)により行った。
[0051]
 表1に示すように、比較例3は、増ちょう剤にリチウム石鹸を用いているので、耐久性が劣るが、実施例1~3および比較例1、2は増ちょう剤にジウレアを使用しているので、実用上十分な耐久性を有することを確認した。
[0052]
 [異音の評価結果]
 次に、初期ポケットすきまδが正の値における異音の発生の有無を評価試験した。試験を行った固定式等速自在継手は、前述した実施例1のものをベースにし、その保持器の初期ポケットすきまδを変えた試料を製作した。試験装置の概要を図6に示す。トルクが大きく、回転数が高いと異音は大きくなる傾向であるが、実車での使用条件を考慮して、次の試験条件とした。
 (試験条件)
 ・作動角:40°
 ・回転数:150min -1、200min -1、300min -1
 ・トルク:147Nm、200Nm
 上記の試験条件のトルクと回転数を組合わせて試験を行った。図6に示すように、異音を集音マイクで拾って騒音計により計測する。測定結果を表2に示す。
 表2中の評価項目の結果表記は次のとおりである。
 ◎:異音なし、○:至近距離(試料から0.15m)でのみ異音感知、△:0.5mの距離で異音感知、×:1mの距離で異音感知
[表2]


[0053]
 初期ポケットすきまが10μmでは、トルクと回転数のどの組合わせでも異音は感知されなかった。初期ポケットすきまが20μmでは、至近距離(試料から0.15m)でのみ異音感知されたが、実車では感知できないレベルで、セダン系乗用車の要求を達成できた。
[0054]
 これに対して、初期ポケットすきまが25μmおよび30μmでは、試料から0.5mmの距離で異音が感知され、初期ポケットすきまが40μmでは、1mの距離で異音が感知され、いずれも、居住性を重視するセダン系乗用車の要求を達成できなかった。
[0055]
 また、試験評価によりセダン系乗用車の要求レベルを達成した上記ポケットすきま0~20μmの範囲は、ポケットの加工工程能力も満足するものであった。これにより、産業上利用できる本発明が完成した。
[0056]
 本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。

符号の説明

[0057]
1     固定式等速自在継手
2     外側継手部材
3     内側継手部材
4     トルク伝達ボール
5     保持器
5a    ポケット
6     トラック溝
7     トラック溝
8     球状内径面
9     球状外径面
10    球状外径面
11    球状内径面
12    中間シャフト
13    ブーツ
A     曲率中心
B     曲率中心
BALL   ボールの直径
OUTER  外側継手部材の外径
G     グリース
H     ポケットの軸方向寸法
O     継手中心
O5    ボール中心
PCD SERR 雌スプラインのピッチ円直径
f1    オフセット量

請求の範囲

[請求項1]
 球状内径面に軸方向に延びる8本の曲線状のトラック溝が形成された外側継手部材と、球状外径面に軸方向に延びる8本の曲線状のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝とこれに対応する前記内側継手部材のトラック溝との間に配された8個のトルク伝達ボールと、このトルク伝達ボールをポケットに保持すると共に前記外側継手部材の球状内径面と前記内側継手部材の球状内径面にそれぞれ嵌合する球状外径面と球状内径面を有する保持器を備え、前記外側継手部材のトラック溝の曲率中心と前記内側継手部材のトラック溝の曲率中心が継手中心に対して軸方向反対側に等距離オフセットされており、継手内部にグリースが封入された固定式等速自在継手において、
 前記ポケットとボールとの間の初期ポケットすきまを正の値とし、
 前記グリースは、初期ちょう度がちょう度番号1号~2号であると共に、混和安定度が390~440であることを特徴とする固定式等速自在継手。
[請求項2]
 前記トルク伝達ボールのピッチ円直径(PCD BALL)とボール直径(D BALL)との比r1(=PCD BALL/D BALL)が3.3≦r1≦5.0の範囲にあり、前記外側継手部材の外径(D OUTER)と前記内側継手部材の嵌合部の歯型のピッチ円直径(PCD SERR)との比r2(=D OUTER/PCD SERR)が2.5≦r2<3.5の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の固定式等速自在継手。
[請求項3]
 前記初期ポケットすきまを0~20μmとしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の固定式等速自在継手。
[請求項4]
 前記グリースは、基油として含まれる潤滑油成分の全質量に対して、パラフィン系鉱物油を70質量%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の固定式等速自在継手。
[請求項5]
 前記グリースの増ちょう剤をウレア化合物としたことを特徴とする請求項1又は請求項4に記載の固定式等速自在継手。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]

[ 図 6]

[ 図 7]