明 細 書
発明の名称 : 偏光板用粘着剤組成物、粘着剤層、粘着シートおよび粘着剤層付き偏光板
技術分野
[0001]
本発明は、偏光板用粘着剤組成物に関する。
背景技術
[0002]
液晶セルは、液晶層が2枚の基板(例:ガラス板)間に挟まれた構造を有しており、前記基板の表面には粘着剤層を介して偏光板が貼付されている。偏光板は、高温・高湿熱環境下において、熱収縮しやすいことから寸法安定性に欠け、液晶セルに反りが発生することがある。近年、液晶セルの薄型化(例:液晶セルを構成する基板の薄型化)および偏光板の薄型化に伴い、高温・高湿熱環境下での液晶セルの反りがより大きな問題となっている。液晶セルの反りの原因としては、例えば、偏光板の熱収縮(寸法変化)に粘着剤層が追従することができないこと、粘着剤層の応力緩和特性が低いことが挙げられる。
[0003]
また、高温・高湿熱環境下では、偏光板と基板との界面での発泡や、粘着剤層の断裂、偏光板の剥がれ等の不具合も生じやすい。したがって、偏光板用粘着剤には、高い耐久性が要求される。
[0004]
一般的に、液晶セルの反りを抑制する手段として、偏光板の寸法変化に対応することができる柔軟性の高い粘着剤層を使用する方法が挙げられる。しかしながら、このような粘着剤層では凝集力が不足し、耐久性の悪化および加工性の悪化等の問題が生じる。
[0005]
特許文献1には、厳しい湿熱条件下での耐久性や、透明性、リワーク性の向上を課題として、アクリル系樹脂(A)が、多官能イソシアネート系化合物(B)と多官能チオール(C)との反応物で架橋されてなるアクリル系粘着剤が開示されている。
[0006]
特許文献2には、接着剤を剥離する際に被着体の汚染がない、優れた再剥離性を有するアクリル系粘着剤を提供することを課題として、特定の重合体(A)と、多価カルボン酸化合物(B)とを含む粘着剤用ポリマー組成物が開示されている。
[0007]
しかしながら、上述したように偏光板用粘着剤には、液晶セルの反り(ベンディング)を抑制でき、かつ耐久性に優れるという物性が要求されている。特許文献1~2に記載された粘着剤は、これらの物性が充分ではなく、さらなる改善が必要である。
先行技術文献
特許文献
[0008]
特許文献1 : 特開2013-199579号公報
特許文献2 : 特開2002-155255号公報
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0009]
本発明の課題は、液晶セルの反り(ベンディング)を抑制でき、かつ耐久性に優れた粘着剤層を形成することが可能な偏光板用粘着剤組成物、前記組成物より形成された偏光板用粘着剤層、前記粘着剤層を有する偏光板用粘着シート、および前記粘着剤層を有する粘着剤層付き偏光板を提供することにある。
課題を解決するための手段
[0010]
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、多官能連鎖移動剤の存在下に合成された特定の(メタ)アクリル系共重合体と特定の架橋剤とを含有する粘着剤組成物であって、かつ前記組成物より形成された粘着剤層の23℃および80℃における損失正接が特定範囲となる粘着剤組成物が、液晶セルの反り(ベンディング)を抑制でき、かつ耐久性に優れた粘着剤層を形成することができることを見出した。すなわち、本発明者らは、以下の特定の構成を有する偏光板用粘着剤組成物を用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
[0011]
本発明は、例えば以下の[1]~[10]である。
[1](A)多官能連鎖移動剤の存在下に、アルキル基の炭素数が4~18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび水酸基含有モノマーを含むモノマー成分を共重合して得られる(メタ)アクリル系共重合体と、(B1)イソシアネート化合物と、(B2)金属キレート化合物とを含有する偏光板用粘着剤組成物であり、前記組成物より形成された粘着剤層の、23℃における損失正接(tanδ
1)が0.33~0.55であり、かつ80℃における損失正接(tanδ
2)が0.40~0.65であることを特徴とする偏光板用粘着剤組成物。
[0012]
[2]前記多官能連鎖移動剤が、メルカプト基を2つ以上有する化合物である、前記[1]記載の偏光板用粘着剤組成物。
[0013]
[3]前記(メタ)アクリル系共重合体(A)が、さらに水酸基含有モノマー以外の極性基含有モノマーを共重合して得られた共重合体である、前記[1]または[2]記載の偏光板用粘着剤組成物。
[0014]
[4]イソシアネート化合物(B1)100質量部に対する金属キレート化合物(B2)の含有量が、10~1000質量部である、前記[1]~[3]のいずれか1項記載の偏光板用粘着剤組成物。
[0015]
[5]前記(メタ)アクリル系共重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定される重量平均分子量(Mw)が、50万以上である、前記[1]~[4]のいずれか1項記載の偏光板用粘着剤組成物。
[0016]
[6]前記偏光板用粘着剤組成物より形成された粘着剤のゲル分率が、15~60質量%である、前記[1]~[5]のいずれか1項記載の偏光板用粘着剤組成物。
[0017]
[7]前記[1]~[6]のいずれか1項記載の偏光板用粘着剤組成物より形成され、23℃における損失正接(tanδ
1)が0.33~0.55であり、かつ80℃における損失正接(tanδ
2)が0.40~0.65であることを特徴とする偏光板用粘着剤層。
[0018]
[8]ゲル分率が、15~60質量%である、前記[7]記載の偏光板用粘着剤層。
[0019]
[9]前記[7]または[8]記載の偏光板用粘着剤層を有することを特徴とする偏光板用粘着シート。
[0020]
[10]偏光板と、前記偏光板の少なくとも一方の面に形成された前記[7]または[8]記載の偏光板粘着剤層とを有することを特徴とする粘着剤層付き偏光板。
発明の効果
[0021]
本発明によれば、液晶セルの反り(ベンディング)を抑制でき、かつ耐久性に優れた粘着剤層を形成することが可能な偏光板用粘着剤組成物、前記組成物より形成された偏光板用粘着剤層、前記粘着剤層を有する偏光板用粘着シート、および前記粘着剤層を有する粘着剤層付き偏光板を提供することができる。
発明を実施するための形態
[0022]
以下、本発明の偏光板用粘着剤組成物、偏光板用粘着剤層、偏光板用粘着シートおよび粘着剤層付き偏光板を説明する。以下では、本発明の偏光板用粘着剤組成物を単に「粘着剤組成物」ともいい、本発明の偏光板用粘着剤層を単に「粘着剤層」ともいい、本発明の偏光板用粘着シートを単に「粘着シート」ともいう。
[0023]
〔偏光板用粘着剤組成物〕
本発明の偏光板用粘着剤組成物は、(メタ)アクリル系共重合体(A)とイソシアネート化合物(B1)と金属キレート化合物(B2)とを含有する組成物であり、前記粘着剤組成物より形成された粘着剤層の、23℃における損失正接(tanδ
1)が0.33~0.55であり、かつ80℃における損失正接(tanδ
2)が0.40~0.65であることを特徴とする。
[0024]
本発明の粘着剤組成物は、必要に応じて、シランカップリング剤(C)、帯電防止剤(D)および有機溶媒(E)から選択される少なくとも1種を含有してもよい。
以下では、イソシアネート化合物(B1)と金属キレート化合物(B2)とを総称して、「架橋剤(B)」ともいう。本発明では、(メタ)アクリル系共重合体(A)を、これらの架橋剤を併用して架橋することで、粘着剤層を形成する。
[0025]
ここで、本発明の粘着剤組成物の特性として、以下の条件で形成した厚さ1.0mmの粘着剤層について、Anton Paar製「Physica MCR300」を用いて、JIS K7244に準拠した動的粘弾性測定法(温度範囲-40~180℃、昇温速度3.67℃/分、周波数1Hzの条件)により粘弾性スペクトルを測定することにより、損失正接を得ることができる。
[0026]
動的粘弾性測定における粘着剤層は、以下のようにして形成される。乾燥後の厚さが20μmになるように粘着剤組成物を剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)上に塗布し、90℃で3分間乾燥させて溶媒を除去して、塗膜を形成する。塗膜の前記PETフィルムの貼付面とは反対面に、剥離処理されたPETフィルムをさらに貼り合わせ、23℃/50%RH環境下で7日間エージングを行い、厚さ20μmの粘着剤層を形成する。エージング終了後、得られた粘着シートの片側のPETフィルムを剥がし、前記厚さ20μmの粘着剤層同士を複数回貼り合わせ、最終的な厚さが1.0mmとなるような粘着剤層を形成し、この粘着剤層について、上記粘弾性スペクトルを測定する。
[0027]
なお、粘着剤層の上記形成条件は、本発明の粘着剤組成物の特性としての損失正接を測定するために記載したものであり、本発明の粘着剤組成物より形成される粘着剤層が上記条件により形成された層に限定されるわけでは勿論ない。
[0028]
損失正接(tanδ)は、弾性的性質を示す貯蔵弾性率G'と粘性的性質を示す損失弾性率G"との比:G"/G'で表され、値が大きいほど粘性の寄与が大きく、値が小さいほど弾性の寄与が大きいことを示す。
[0029]
上記粘着剤層において、23℃における損失正接(tanδ
1)は、0.33~0.55、好ましくは0.35~0.52、特に好ましくは0.40~0.49であり;80℃における損失正接(tanδ
2)は、0.40~0.65、好ましくは0.42~0.62、特に好ましくは0.47~0.56である。
[0030]
23℃における損失正接(tanδ
1)が上記範囲にあることにより、適度な弾性を発現し、被着体への密着性および作業性の面で有利である。tanδ
1が上記範囲を上回ると、粘着層の粘性寄与が大きくなりすぎ、搬送・打ち抜き等の作業工程上、歩留まりが低下する傾向にある。tanδ
1が上記範囲を下回ると、粘着層の弾性寄与が大きくなりすぎ、被着体への濡れ性が低下し、密着性が悪化する傾向にある。
[0031]
80℃における損失正接(tanδ
2)が上記範囲にあることにより、柔軟性に優れ、高温で偏光板の熱収縮(寸法変化)に粘着剤層が追従することができる。tanδ
2が上記範囲を上回ると、粘着剤層の凝集性が低下し、耐久性が得られない傾向にある。tanδ
2が上記範囲を下回ると、高温で偏光板の熱収縮(寸法変化)に粘着剤層が追従することができず、偏光板の反りや、粘着剤層の断裂等が生じる傾向にある。
[0032]
上記粘着剤層は、23℃における損失正接(tanδ
1)と80℃における損失正接(tanδ
2)との比(tanδ
2/tanδ
1)が、通常1.04以上、好ましくは1.10以上、より好ましくは1.10~5.0、さらに好ましくは1.10~2.0である。損失正接の比が前記範囲にあることにより、上記粘着剤層は高温で柔軟性が高くなり、偏光板の熱収縮(寸法変化)に追従することができる。
[0033]
上記範囲の損失正接(tanδ
1、tanδ
2)を有する粘着剤層を形成するためには、例えば、粘着剤組成物の含有成分として以下に説明する(メタ)アクリル系共重合体(A)と、イソシアネート化合物(B1)および金属キレート化合物(B2)とを用いることが挙げられる。例えば、(B1)および(B2)の合計量を一定とした場合に、イソシアネート化合物(B1)に対する金属キレート化合物(B2)の量を減らすと、化学結合による架橋比率が高くなり、粘着剤層の損失正接が小さくなる傾向にある。
[0034]
本発明の粘着剤組成物より形成された粘着剤のゲル分率は、好ましくは15~60質量%、より好ましくは20~55質量%、さらに好ましくは25~55質量%である。前記ゲル分率は、例えば実施例記載の条件により採取された粘着剤について測定される値である。
[0035]
本発明の粘着剤組成物は、以上の特性を有することから、液晶セルを構成する基板と偏光板との貼り合わせ用途に好適である。特に、薄型化された液晶セルを構成するガラス板の厚さが0.1~1.0mm程度と小さい場合においても、当該基板と偏光板との貼り合わせ用途に好適である。
[0036]
[(メタ)アクリル系共重合体(A)]
(メタ)アクリル系共重合体(A)は、多官能連鎖移動剤の存在下に、アルキル基の炭素数が4~18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび水酸基含有モノマーを含むモノマー成分を共重合して得られた共重合体である。共重合体(A)のモノマー成分としては、水酸基含有モノマー以外の極性基含有モノマー、およびこれら以外のその他のモノマーから選択される少なくとも1種をさらに用いてもよい。
[0037]
本明細書において、アクリルおよびメタクリルを総称して「(メタ)アクリル」とも記載する。また、重合体に含まれる、あるモノマーaに由来する構成単位を「モノマーa単位」とも記載する。
[0038]
《(メタ)アクリル酸アルキルエステル》
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が4~18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(CH
2=CR
1-COOR
2;R
1は水素原子またはメチル基であり、R
2は炭素数4~18のアルキル基である)が用いられ、ここで前記アルキル基の炭素数は4~12がより好ましい。
[0039]
アルキル基の炭素数が4~18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデカ(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
[0040]
(メタ)アクリル系共重合体(A)を形成するモノマー成分100質量%中、アルキル基の炭素数が4~18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの合計量は、良好な粘着力および耐久性の観点から、好ましくは99.8~20質量%、より好ましくは99.5~30質量%、さらに好ましくは99~50質量%である。
[0041]
(メタ)アクリル系共重合体(A)のモノマー成分として、アルキル基の炭素数が1~3の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(CH
2=CR
3-COOR
4;R
3は水素原子またはメチル基であり、R
4は炭素数1~3のアルキル基である)を使用することも可能である。
[0042]
アルキル基の炭素数が1~3の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
[0043]
アルキル基の炭素数が1~3の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの使用量は、応力緩和特性の観点から、モノマー成分100質量%中、60質量%以下が好ましく、より好ましくは50質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以下である。
[0044]
《水酸基含有モノマー》
水酸基含有モノマーとしては、例えば、水酸基含有(メタ)アクリレートが挙げられ、具体的には、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロシキブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートでのヒドロキシアルキル基の炭素数は、通常2~8、好ましくは2~6である。
[0045]
水酸基含有モノマーは1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
水酸基含有モノマーに含まれる当該水酸基は、例えばイソシアネート化合物(B1)に含まれるイソシアネート基との架橋性官能基として機能する。水酸基含有モノマーの使用量は、モノマー成分100質量%中、好ましくは0.01~15質量%、より好ましくは0.05~10質量%、さらに好ましくは0.1~7質量%である。
[0046]
水酸基含有モノマーの使用量が前記上限値以下であると、(メタ)アクリル系共重合体(A)とイソシアネート化合物(B1)とにより形成される架橋密度が高くなりすぎず、応力緩和特性に優れる。水酸基含有モノマーの使用量が前記下限値以上であると、架橋構造が有効に形成され、常温において適切な強度を有する粘着剤層が得られる。
[0047]
《極性基含有モノマー》
極性基含有モノマーとしては、例えば、酸基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、アミド基含有モノマー、窒素系複素環含有モノマー、シアノ基含有モノマーが挙げられる。本明細書において酸基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、リン酸基、硫酸基が挙げられる。
[0048]
極性基含有モノマーとしては、架橋剤(B)が有する架橋性官能基と反応することが可能な極性基(架橋性官能基)を有するモノマーを用いることが好ましい。これらの中でも、架橋剤との適度な反応性の観点から、カルボキシル基含有モノマーを用いることが好ましい。
[0049]
カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸β-カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸5-カルボキシペンチル、コハク酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有(メタ)アクリレート;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸が挙げられる。酸無水物基含有モノマーとしては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸が挙げられる。リン酸基含有モノマーとしては、側鎖にリン酸基を有する(メタ)アクリル系モノマーが挙げられ、硫酸基含有モノマーとしては、側鎖に硫酸基を有する(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。
[0050]
酸基含有モノマーに含まれる当該酸基は、例えばイソシアネート化合物(B1)や金属キレート化合物(B2)との架橋性官能基として機能する。酸基含有モノマーの使用量は、モノマー成分100質量%中、好ましくは0~15質量%、より好ましくは0.05~10質量%、さらに好ましくは0.1~5質量%である。例えば、(メタ)アクリル系共重合体(A)の酸価は、好ましくは0~117mgKOH/g、より好ましくは78mgKOH/g以下である。
[0051]
酸基含有モノマーの使用量が前記上限値以下であると、(メタ)アクリル系共重合体(A)と架橋剤(B)とにより形成される架橋密度が高くなりすぎず、応力緩和特性に優れる粘着剤層が得られる。酸基含有モノマーの使用量が前記下限値以上であると、架橋構造が有効に形成され、常温において適切な強度を有する粘着剤層が得られる。
[0052]
アミノ基含有モノマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。アミド基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-ヘキシル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。窒素系複素環含有モノマーとしては、例えば、ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン、ビニルカプロラクタムが挙げられる。シアノ基含有モノマーとしては、例えば、シアノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリルが挙げられる。
[0053]
水酸基含有モノマーを除く極性基含有モノマーの全使用量は、モノマー成分100質量%中、好ましくは0~20質量%、より好ましくは0~15質量%、さらに好ましくは0~10質量%である。
極性基含有モノマーは1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
[0054]
《その他のモノマー》
(メタ)アクリル系共重合体(A)を形成するモノマー成分は、(メタ)アクリル系共重合体(A)の物性を損なわない範囲で、例えば、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、脂環式基または芳香環含有(メタ)アクリレートなどの、その他の(メタ)アクリル酸エステルを含むことができる。
[0055]
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メトキシメチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-エトキシプロピル(メタ)アクリレート、4-メトキシブチル(メタ)アクリレート、4-エトキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
[0056]
アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしては、例えば、メトキシジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシトリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
[0057]
脂環式基または芳香環含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
[0058]
上記共重合における、上記その他の(メタ)アクリル酸エステルの全使用量は、モノマー成分100質量%中、60質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下である。
[0059]
また、(メタ)アクリル系共重合体(A)の物性を損わない範囲で、例えば、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、へキシルスチレン、ヘプチルスチレンおよびオクチルスチレン等のアルキルスチレン、フロロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ヨウ化スチレン、ニトロスチレン、アセチルスチレンおよびメトキシスチレン等のスチレン系単量体;酢酸ビニルなどの、共重合性モノマーを用いることもできる。
[0060]
上記共重合における、上記共重合性モノマーの全使用量は、モノマー成分100質量%中、40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下である。
その他のモノマーは1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
[0061]
《多官能連鎖移動剤》
多官能連鎖移動剤とは、メルカプト基含有化合物や、ハロゲン含有化合物、アルコール性水酸基含有化合物、メタクリル基含有化合物等の連鎖移動定数の大きい化合物で、かつ、連鎖移動官能基を2つ以上有する化合物である。その中でも、反応性の観点からメルカプト基を2つ以上有する多官能性メルカプタン化合物が好ましい。前記メルカプト基数は、好ましくは2~8、より好ましくは3~6である。
[0062]
多官能性メルカプタン化合物としては、例えば、
ヘキサン-1,6-ジチオール、デカン-1,10-ジチオール、ジメルカプトジエチルエーテル、ジメルカプトジエチルスルフィド等の脂肪族ポリチオール;キシリレンジメルカプタン、4,4'-ジメルカプトジフェニルスルフィド、1,4-ベンゼンジチオール等の芳香族ポリチオール類;
エチレングリコールビス(メルカプトアセテート)、ポリエチレングリコールビス(メルカプトアセテート)、プロピレングリコールビス(メルカプトアセテート)、グリセリントリス(メルカプトアセテート)、トリメチロールエタントリス(メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(メルカプトアセテート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(メルカプトアセテート)等の、多価アルコールのポリ(メルカプトアセテート);
エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、ポリエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、プロピレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、グリセリントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)等の、多価アルコールのポリ(3-メルカプトプロピオネート);
1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチリルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)等の、多価アルコールのポリ(3-メルカプトブチレート);
が挙げられる。
[0063]
上記多価アルコールの水酸基数は、通常2~8、好ましくは3~6である。
これらの中でも、ポリマー中への分岐構造を、効率よく導入することが出来る観点から、多価アルコールのポリ(3-メルカプトブチレート)が好ましく、メルカプト基数3~6のポリ(3-メルカプトブチレート)がより好ましく、メルカプト基数4のポリ(3-メルカプトブチレート)が特に好ましい。
[0064]
多官能連鎖移動剤の市販品としては、例えば、カレンズMT PE1(昭和電工(株)製)、カレンズMT BD1(昭和電工(株)製)、カレンズMT NR1(昭和電工(株)製)が挙げられる。
[0065]
多官能連鎖移動剤は、上記共重合におけるモノマー成分100質量部に対して、通常0.005~5質量部、好ましくは0.01~3質量部、より好ましくは0.012~2質量部の範囲で用いられる。多官能連鎖移動剤の使用量が前記範囲にあると、発生ポリマーの分子量が適性に設計できる点で好ましい。
[0066]
また、n-ドデシルメルカプタン等の1官能連鎖移動剤は使用しないことが好ましい。すなわち、1官能性連鎖移動剤の添加量は、多官能連鎖移動剤100質量部に対して、通常0.1質量部以下、好ましくは0.05質量部以下、より好ましくは0質量部である。
[0067]
《(メタ)アクリル系共重合体(A)の製造条件》
(メタ)アクリル系共重合体(A)は、多官能連鎖移動剤の存在下で前記共重合により得られた共重合体である。前記移動剤の存在下で前記共重合を行うことにより、分岐の多いポリマー分子が得られる傾向にある。このため、(1)室温程度ではポリマー分子相互の分岐鎖に起因する絡み合いが多く発生し、結果として、ポリマーの分子量および粘着剤層のゲル分率が低い設計においても、ポリマーの凝集性が維持され、粘着特性、粘着剤層を打ち抜く等の加工性、粘着剤層の変形およびはみ出しが少ない等の保管性に優れる粘着剤層が得られ;(2)高温(例:60℃)ではポリマー分子相互の前記絡み合いが一部緩むため、粘着剤層の粘性的性質増加度の温度依存性が高く、粘着剤層が優れた柔軟性を示す。そのため、偏光板の反り(ベンディング)抑制に優れるとともに、一部残存している前記絡み合いに起因して、粘着剤層が優れた耐久性を示す。
[0068]
上記(1)および(2)に関して、架橋剤(B)の一部に後述する金属キレート化合物(B2)を使用することで、(メタ)アクリル系共重合体(A)/金属キレート化合物(B2)間で配位結合により架橋が形成される(疑似架橋)。このため、上記室温時には前記架橋が維持され、ポリマーが凝集性を発揮するのに対して、上記高温時には前記架橋が一部解かれ、粘着剤層がより優れた柔軟性を示す傾向にある。
[0069]
分岐の多いポリマー分子が、偏光板の反りの抑制に寄与する点については、以下の理由によるものと推測される。例えば偏光板/粘着剤層/被着体という構成において、被着体としてガラス板を使用する場合を例にとって説明する。偏光板およびガラス板はそれぞれ熱収縮率が異なり、偏光板はガラス板に比べて熱収縮率(寸法変化)が通常大きい。粘着剤層が高温・高湿熱環境下での柔軟性に欠ける場合、偏光板の寸法変化に対して粘着剤層が追従することができず、粘着剤層で応力を緩和することが出来ず、応力がガラス板に集中し、これによってガラス板に反りが発生する。一方、高分岐鎖ポリマー、および架橋剤の一部に金属キレート化合物を用いることで、高温・高湿熱環境下において上記絡み合いが一部緩み、また上記架橋が一部解かれるため、偏光板の寸法変化に対して粘着剤層が追従することができる。このため、応力が発生せず、ガラス板に応力が集中することがない。また、偏光板も異方性なく均一に熱収縮することができ、偏光板の複屈折を誘発することがない。以上のように、偏光板の寸法変化に伴う応力を粘着剤層が吸収・緩和することができ、よってガラス板に対して過度の応力(負荷)がかかることがないため、ガラス板の反り抑制へとつながると推測される。
[0070]
(メタ)アクリル系共重合体(A)は、例えば、溶液重合法、塊状重合法、乳化重合法、懸濁重合法等の従来公知の重合法により製造することができ、これらの中でも溶液重合法が好ましい。具体的には、反応容器内に重合溶媒、モノマー成分および多官能連鎖移動剤を仕込み、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で重合開始剤を添加し、反応開始温度を通常40~100℃、好ましくは50~80℃に設定し、通常50~90℃、好ましくは70~90℃の温度に反応系を維持して、4~20時間反応させる。
[0071]
重合開始剤としては、例えば、アゾ系開始剤、過酸化物系重合開始剤が挙げられる。
アゾ系開始剤としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2-シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2'-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロリド、2,2'-アゾビス(N,N'-ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2'-アゾビス〔2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド〕、2,2'-アゾビス(イソブチルアミド)ジヒドレート、4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、2,2'-アゾビス(2-シアノプロパノール)、ジメチル-2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2'-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等のアゾ化合物が挙げられる。
[0072]
過酸化物系重合開始剤としては、例えば、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、カプロイルパーオキシド、ジ-i-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシビバレート、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-アミルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-オクチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジ-α-クミルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)ブタン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-オクチルパーオキシシクロヘキシル)ブタンが挙げられる。
[0073]
これらの重合開始剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。また、重合中に、重合開始剤を複数回添加することも制限されない。
重合開始剤は、(メタ)アクリル系共重合体(A)を形成するモノマー成分100質量部に対して、通常0.001~5質量部、好ましくは0.005~3質量部の範囲内の量で使用される。また、上記重合反応中に、重合開始剤、連鎖移動剤、モノマー成分、重合溶媒を適宜追加添加してもよい。
[0074]
溶液重合に用いる重合溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、フェニルエチルエーテル、ジフェニルエーテル等のエーテル類;クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセタミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類等が挙げられる。これらの重合溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
[0075]
《(メタ)アクリル系共重合体(A)の物性および含有量》
(メタ)アクリル系共重合体(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定される重量平均分子量(Mw)が、ポリスチレン換算値で、通常50万以上であり、好ましくは55万~200万、より好ましくは60万~180万である。例えば、Mwが小さい共重合体(A)を用いると、架橋後のポリマーの分子量が比較的小さく抑えられることから、高温での粘着剤の流動性が上がり、損失正接が大きくなる傾向にある。一方、Mwが大きい共重合体(A)を用いると、架橋後のポリマーの分子量が高くなり、高温での粘着剤の流動性が下がり、損失正接が小さくなる傾向にある。
[0076]
(メタ)アクリル系共重合体(A)のGPC法により測定される分子量分布(Mw/Mn)は、通常50以下であり、好ましくは30以下、より好ましくは20以下である。
(メタ)アクリル系共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、例えば、当該重合体を構成するモノマー単位およびその含有割合から、Foxの式により算定することができる。例えば、Foxの式により求めたガラス転移温度(Tg)が通常-70~0℃、好ましくは-60~-30℃となるように、(メタ)アクリル系共重合体(A)を合成することができる。このようなガラス転移温度(Tg)を有する(メタ)アクリル系共重合体(A)を用いることにより、常温で粘着性に優れた粘着剤組成物を得ることができる。
Foxの式:1/Tg=(W
1/Tg
1)+(W
2/Tg
2)+…+(W
m/Tg
m)
W
1+W
2+…+W
m=1
式中、Tgは(メタ)アクリル系共重合体(A)のガラス転移温度であり、Tg
1,Tg
2,…,Tg
mは各モノマーからなるホモポリマーのガラス転移温度であり、W
1,W
2,…,W
mは各モノマー由来の構成単位の前記共重合体(A)における重量分率である。
[0077]
前記Foxの式における各単量体からなるホモポリマーのガラス転移温度は、例えば、Polymer Handbook Fourth Edition(Wiley-Interscience 1999)記載の値を用いることができる。
[0078]
本発明の粘着剤組成物中の(メタ)アクリル系共重合体(A)の含有量は、当該組成物中の有機溶媒(E)を除く固形分100質量%中、通常50~99.99質量%、より好ましくは60~99.95質量%、特に好ましくは80~99.90質量%である。(メタ)アクリル系共重合体(A)の含有量が前記範囲にあると、粘着剤としての性能のバランスがとれ、粘着特性に優れる。
[0079]
[イソシアネート化合物(B1)]
イソシアネート化合物(B1)としては、1分子中のイソシアネート基数が2以上のイソシアネート化合物が通常用いられる。イソシアネート化合物(B1)により(メタ)アクリル系共重合体(A)を架橋することで、架橋体(ネットワークポリマー)を形成することができる。
[0080]
イソシアネート化合物(B1)のイソシアネート基数は、通常2以上であり、好ましくは2~8であり、より好ましくは3~6である。イソシアネート基数が前記範囲にあると、(メタ)アクリル系共重合体(A)とイソシアネート化合物(B1)との架橋反応効率の点、および粘着剤層の柔軟性を保つ点で好ましい。
[0081]
1分子中のイソシアネート基数が2のジイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートが挙げられる。脂肪族ジイソシアネートとしては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2-メチル-1,5-ペンタンジイソシアネート、3-メチル-1,5-ペンタンジイソシアネート、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート等の炭素数4~30の脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。脂環族ジイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、シクロペンチルジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の炭素数7~30の脂環族ジイソシアネートが挙げられる。芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルプロパンジイソシアネート等の炭素数8~30の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。
[0082]
1分子中のイソシアネート基数が3以上のイソシアネート化合物としては、例えば、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネートが挙げられる。具体的には、2,4,6-トリイソシアネートトルエン、1,3,5-トリイソシアネートベンゼン、4,4',4"-トリフェニルメタントリイソシアネートが挙げられる。
[0083]
また、イソシアネート化合物(B1)としては、例えば、イソシアネート基数が2または3以上の上記イソシアネート化合物の、多量体(例えば2量体または3量体、ビウレット体、イソシアヌレート体)、誘導体(例えば、多価アルコールと2分子以上のジイソシアネート化合物との付加反応生成物)、重合物が挙げられる。前記誘導体における多価アルコールとしては、低分子量多価アルコールとして、例えば、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリトリトール等の3価以上のアルコールが挙げられ;高分子量多価アルコールとして、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオールが挙げられる。
[0084]
このようなイソシアネート化合物としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネートの3量体、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートまたはトリレンジイソシアネートのビウレット体またはイソシアヌレート体、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートまたはキシリレンジイソシアネートとの反応生成物(例えばトリレンジイソシアネートまたはキシリレンジイソシアネートの3分子付加物)、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物(例えばヘキサメチレンジイソシアネートの3分子付加物)、ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネートが挙げられる。
[0085]
イソシアネート化合物(B1)の中でも、エージング性および光漏れ性能を向上させることができる点で、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートまたはキシリレンジイソシアネートとの反応生成物(綜研化学社製L-45、綜研化学社製TD-75等)、ヘキサメチレンジイソシアネートまたはトリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(旭化成工業社製TSE-100、日本ポリウレタン社製2050等)が好ましい。
イソシアネート化合物(B1)は1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
[0086]
[金属キレート化合物(B2)]
本発明では、架橋剤(B)の一部に金属キレート化合物(B2)を用いる。金属キレート化合物(B2)は、配位結合により(メタ)アクリル系共重合体(A)を架橋する(疑似架橋)。このため、高温時には前記架橋が一部解かれ、粘着剤層がより優れた柔軟性を示す。
[0087]
このように本発明では、粘着剤層の損失正接を上記範囲に調整する観点から、(メタ)アクリル系共重合体(A)に対して、イソシアネート化合物(B1)に基づく共有結合による架橋と、金属キレート化合物(B2)に基づく配位結合による疑似架橋とを形成することが好ましい。
[0088]
金属キレート化合物(B2)としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロム、ジルコニウム等の多価金属に、アルコキシド、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル等が配位した化合物が挙げられる。これらの中でも、特にアルミキレート化合物(綜研化学社製M-12AT等)が好ましい。具体的には、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムセカンダリーブチレート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムトリスアセチルアセトネートが挙げられる。
[0089]
金属キレート化合物(B2)は1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
本発明の粘着剤組成物において、イソシアネート化合物(B1)と金属キレート化合物(B2)との合計含有量は、(メタ)アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、通常0.01~5質量部、より好ましくは0.05~2.5質量部、さらに好ましくは0.1~1質量部である。この含有量が前記範囲にあると、粘着剤層の損失正接を上記範囲に調整することができる点で好ましい。この含有量が前記範囲を上回ると、粘着剤層の損失正接が小さくなり過ぎる傾向にあり、前記範囲を下回ると、粘着剤層の損失正接が大きくなり過ぎる傾向にある。
[0090]
本発明の粘着剤組成物において、金属キレート化合物(B2)の含有量は、イソシアネート化合物(B1)100質量部に対して、通常10~1000質量部、より好ましくは50~600質量部、さらに好ましくは100~400質量部である。この含有量が前記範囲にあると、粘着剤層の損失正接を上記範囲に調整することができる点で好ましい。この含有量が前記範囲を上回ると、粘着剤層の損失正接が小さくなり過ぎる傾向にあり、前記範囲を下回ると、粘着剤層の損失正接が大きくなり過ぎる傾向にある。
[0091]
[シランカップリング剤(C)]
本発明の偏光板用粘着剤組成物は、さらにシランカップリング剤(C)を含有することが好ましい。シランカップリング剤(C)は、粘着剤層をガラス板等の被着体に対して強固に接着させ、高湿熱環境下で剥がれを防止する点に寄与する。
[0092]
シランカップリング剤(C)としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の重合性不飽和基含有シランカップリング剤;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤;3-アミノプロピルトリメトキシシラン,N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン等のハロゲン含有シランカップリング剤が挙げられる。
[0093]
本発明の偏光板用粘着剤組成物におけるシランカップリング剤(C)の含有量は、(メタ)アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、通常1質量部以下、好ましくは0.01~1質量部、より好ましくは0.05~0.5質量部である。含有量が前記範囲にあると、高湿熱環境下における偏光板の剥がれや、高温環境下におけるシランカップリング剤(C)のブリードが防止される傾向にある。
[0094]
[帯電防止剤(D)]
帯電防止剤(D)は、例えば、本発明の偏光板用粘着剤組成物の表面抵抗値を低下させるために使用することができる。帯電防止剤(D)としては、例えば、界面活性剤、イオン性化合物、導電性ポリマーが挙げられる。
[0095]
界面活性剤としては、例えば、4級アンモニウム塩類、アミド4級アンモニウム塩類、ピリジウム塩類、第1級~第3級アミノ基等のカチオン性基を有するカチオン性界面活性剤;スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、リン酸エステル塩基等のアニオン性基を有するアニオン性界面活性剤;アルキルベタイン類、アルキルイミダゾリニウムベタイン類、アルキルアミンオキサイド類、アミノ酸硫酸エステル類等の両性界面活性剤、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸エステル類、N-ヒドロキシエチル-N-2-ヒドロキシアルキルアミン類、アルキルジエタノールアミド類等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。
[0096]
また、界面活性剤として重合性基を有する反応型乳化剤も挙げられ、上記の界面活性剤または反応性乳化剤を含むモノマー成分を高分子量化したポリマー系界面活性剤を用いることもできる。
[0097]
イオン性化合物は、カチオン部とアニオン部とから構成され、室温下(23℃/50%RH)では固体状でも液体状のいずれであってもよい。
イオン性化合物を構成するカチオン部としては、無機系カチオンまたは有機系カチオンのいずれか一方であっても双方であってもよい。無機系カチオンとしては、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンが好ましく、帯電防止性が優れたLi
+、Na
+およびK
+がより好ましい。有機系カチオンとしては、例えば、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウム系カチオン、ピロリンカチオン、ピロールカチオン、イミダゾリウムカチオン、テトラヒドロピリミジニウムカチオン、ジヒドロピリミジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピラゾリニウムカチオン、テトラアルキルアンモニウムカチオン、トリアルキルスルホニウムカチオン、テトラアルキルホスホニウムカチオンおよびこれらの誘導体が挙げられる。
[0098]
イオン性化合物を構成するアニオン部としては、カチオン部とイオン結合してイオン性化合物を形成し得るものであれば特に制限されない。具体的には、F
-、Cl
-、Br
-、I
-、AlCl
4
-、Al
2Cl
7
-、BF
4
-、PF
6
-、SCN
-、ClO
4
-、NO
3
-、CH
3COO
-、CF
3COO
-、CH
3SO
3
-、CF
3SO
3
-、(CF
3SO
2)
2N
-、(F
2SO
2)
2N
-、(CF
3SO
2)
3C
-、AsF
6
-、SbF
6
-、NbF
6
-、TaF
6
-、F(HF)
n
-、(CN)
2N
-、C
4F
9SO
3
-、(C
2F
5SO
2)
2N
-、C
3F
7COO
-および(CF
3SO
2)(CF
3CO)N
-が挙げられる。これらの中では、フッ素原子を含むアニオンは、低融点のイオン性化合物を与えるので好ましく、(F
2SO
2)
2N
-および(CF
3SO
2)
2N
-がとりわけ好ましい。
[0099]
イオン性化合物としては、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(ジフルオロスルホニル)イミド、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタン、カリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、カリウムビス(ジフルオロスルホニル)イミド、1-エチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1-ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1-ヘキシル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1-オクチル-4-メチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1-オクチル-4-メチルピリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド、(N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボレート、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-オクチルピリジニウムフルオロスホニウムイミド、1-オクチル3-メチルピリジニウム、トリフルオロスルホニウムイミドが好ましい。
[0100]
導電性ポリマーとしては、例えば、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールおよびこれらの誘導体が挙げられる。
本発明の偏光板用粘着剤組成物における帯電防止剤(D)の含有量は、(メタ)アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、通常3質量部以下、好ましくは0.01~3質量部、より好ましくは0.05~2.5質量部である。
[0101]
[有機溶媒(E)]
本発明の粘着剤組成物は、その塗布性を調製するため、有機溶媒(E)を含有することが好ましい。有機溶媒としては、(メタ)アクリル系共重合体(A)の欄で説明した重合溶媒が挙げられる。例えば、上記共重合で得られた、(メタ)アクリル系共重合体(A)および重合溶媒を含むポリマー溶液と、架橋剤(B)とを混合して、粘着剤組成物を調製することができる。本発明の粘着剤組成物において、有機溶媒の含有量は、通常50~90質量%、好ましくは60~85質量%である。
[0102]
なお、本明細書において「固形分」とは、粘着剤組成物中の含有成分のうち上記有機溶媒(E)を除いた全成分をいい、「固形分濃度」とは、粘着剤組成物100質量%に対する前記固形分の割合をいう。
[0103]
[添加剤]
本発明の粘着剤組成物は、上記成分のほか、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、光安定剤、金属腐蝕防止剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋促進剤、前記(A)以外の(メタ)アクリル系重合体およびリワーク剤から選択される1種または2種以上を含有してもよい。
[0104]
[偏光板用粘着剤組成物の調製]
本発明の偏光板用粘着剤組成物は、(メタ)アクリル系共重合体(A)とイソシアネート化合物(B1)と金属キレート化合物(B2)と、必要に応じて他の成分とを、従来公知の方法により混合することで調製することができる。例えば、(メタ)アクリル系共重合体(A)を合成する際に得られた、当該ポリマーを含むポリマー溶液に、イソシアネート化合物(B1)と金属キレート化合物(B2)と必要に応じて他の成分とを配合することが挙げられる。
[0105]
〔偏光板用粘着剤層〕
本発明の粘着剤層は、例えば、上述の粘着剤組成物中の架橋反応を進めることにより、具体的には(メタ)アクリル系共重合体(A)をイソシアネート化合物(B1)および金属キレート化合物(B2)で架橋することにより得られる。
[0106]
本発明の粘着剤層は、23℃における損失正接(tanδ
1)が0.33~0.55、好ましくは0.35~0.52、特に好ましくは0.40~0.49であり、かつ80℃における損失正接(tanδ
2)が0.40~0.65、好ましくは0.42~0.62、特に好ましくは0.47~0.56である。
[0107]
上記損失正接は、例えば、上記粘着剤層同士を複数回貼り合わせ、厚さ約1.0mmの積層体を作製し、この積層体について測定した動的粘弾性スペクトルより算出される値である。
[0108]
上記粘着剤層は、23℃における損失正接(tanδ
1)と80℃における損失正接(tanδ
2)との比(tanδ
2/tanδ
1)が、通常1.04以上、好ましくは1.10以上、より好ましくは1.10~5.0、さらに好ましくは1.10~2.0である。
[0109]
粘着剤層の形成条件は、例えば以下のとおりである。本発明の粘着剤組成物を支持体上に塗布し、溶媒の種類によっても異なるが、通常50~150℃、好ましくは60~100℃で、通常1~10分間、好ましくは2~7分間乾燥して溶媒を除去し、塗膜を形成する。乾燥塗膜の膜厚は、通常5~75μm、好ましくは10~50μmである。
[0110]
粘着剤層は、以下の条件で形成することが好ましい。本発明の粘着剤組成物を支持体上に塗布し、上記条件で形成された塗膜上にカバーフィルムを貼付した後、通常3日以上、好ましくは7~10日間、通常5~60℃、好ましくは15~40℃、通常30~70%RH、好ましくは40~70%RHの環境下で養生する。上記のような熟成条件で架橋を行うと、効率よく架橋体(ネットワークポリマー)の形成が可能である。
[0111]
粘着剤組成物の塗布方法としては、公知の方法、例えばスピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、バーコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などにより、所定の厚さになるように塗布・乾燥する方法を用いることができる。
[0112]
支持体およびカバーフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルフィルム;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィンフィルムなどのプラスチックフィルムが挙げられる。
[0113]
本発明の粘着剤組成物より形成された粘着剤層は、偏光板の歪み抑制、凝集力、接着力、再剥離性の観点から、ゲル分率が、好ましくは15~60質量%、より好ましくは20~55質量%、さらに好ましくは25~55質量%である。ゲル分率が前記範囲にあっても(メタ)アクリル系共重合体(A)が高分岐鎖を有しているので、共重合体(A)の分岐鎖同士が相互に適度に絡み合うことができ、粘着剤層の耐久性や加工性が悪化することがない。特にゲル分率が25質量%以上であると、凝集性の高い粘着剤層が得られる。ゲル分率が前記範囲を超えると、高温・高湿熱環境下での偏光板の寸法変化に起因する応力を、粘着剤層が充分に吸収・緩和できないことがある。
[0114]
〔偏光板用粘着シート〕
本発明の偏光板用粘着シートは、上述の偏光板用粘着剤組成物より形成された粘着剤層を有する。粘着シートとしては、例えば、上記粘着剤層のみを有する両面粘着シート、基材と、基材の両面に形成された上記粘着剤層とを有する両面粘着シート、基材と、基材の一方の面に形成された上記粘着剤層を有する片面粘着シート、およびそれら粘着シートの粘着剤層の基材と接していない面に剥離処理されたカバーフィルムが貼付された粘着シートが挙げられる。
[0115]
基材およびカバーフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルフィルム;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィンフィルムなどのプラスチックフィルムが挙げられる。
[0116]
粘着剤層の形成条件や損失正接、ゲル分率は、〔偏光板用粘着剤層〕の欄に記載した条件と同様である。
粘着剤層の膜厚は、粘着性能維持の観点から、通常5~75μm、好ましくは10~50μmである。基材およびカバーフィルムの膜厚は、特に限定されないが、通常10~125μm、好ましくは25~75μmである。
[0117]
〔粘着剤層付き偏光板〕
本発明の粘着剤層付き偏光板は、偏光板と、前記偏光板の少なくとも一方の面に、本発明の偏光板用粘着剤組成物より形成された粘着剤層とを有することを特徴とする。なお、本明細書では、「偏光板」は「偏光フィルム」を包含する意味で用いる。
[0118]
偏光板としては、従来公知の偏光フィルムを使用することができる。例えば、ポリビニルアルコール系樹脂からなるフィルムに偏光成分を含有させて延伸することにより得られる延伸フィルムと、前記延伸フィルム上に配置された保護フィルムとを有する多層フィルムが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、エチレン・酢酸ビニル共重合体の鹸化物が挙げられる。偏光成分としては、例えば、ヨウ素または二色性染料が挙げられる。保護フィルムとしては、例えば、トリアセチルセルロース等のセルロースフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルムが挙げられる。
[0119]
偏光板の厚さは、通常30~250μm、好ましくは50~200μmである。
偏光板表面に粘着剤層を形成する方法に特に制限はなく、偏光板表面に直接バーコーター等を用いて上記粘着剤組成物を塗布し乾燥させる方法、本発明の偏光板用粘着シートが有する粘着剤層を偏光板表面に転写し熟成させる方法が挙げられる。乾燥および熟成の条件や損失正接、ゲル分率の範囲等は、〔偏光板用粘着剤層〕の欄に記載した条件と同様である。
[0120]
偏光板上に形成される粘着剤層の厚さは、乾燥膜厚で通常5~75μm、好ましくは10~50μmである。なお、粘着剤層は、偏光板の少なくとも一方の面に形成されていればよく、偏光板の片面のみに粘着剤層が形成される態様、偏光板の両面に粘着剤層が形成される態様が挙げられる。
[0121]
また、上記偏光板には、例えば保護層、防眩層、位相差層、視野角向上層等の他の機能を有する層が積層されていてもよい。
上記のようにして得られる本発明の粘着剤層付き偏光板を液晶セルの基板表面に設けることにより液晶素子が製造される。ここで液晶セルは、液晶層が2枚の基板間に挟まれた構造を有している。
[0122]
液晶セルが有する基板としては、例えばガラス板が挙げられる。基板の厚さとしては、通常0.1~1mm、好ましくは0.15~0.8mmである。特に本発明では、上記粘着剤組成物を用いることで偏光板および基板の反りを抑制することができる。このため、基板の厚さが小さい場合(例:0.8mm以下、好ましくは0.15~0.7mm)にも、偏光板と基板との貼り合わせに、上記粘着剤組成物は好適に用いることができる。
実施例
[0123]
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。以下の実施例等の記載において、特に言及しない限り、「部」は「質量部」を示す。
[0124]
〔平均分子量〕
(メタ)アクリル系共重合体について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により、下記条件で、標準ポリスチレン換算による重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を求めた。
・測定装置:HLC-8320GPC(東ソー(株)製)
・GPCカラム構成:以下の4連カラム(すべて東ソー(株)製)
(1)TSKgel HxL-H(ガードカラム)
(2)TSKgel GMHxL
(3)TSKgel GMHxL
(4)TSKgel G2500HxL
・流速:1.0mL/min
・カラム温度:40℃
・サンプル濃度:1.5%(w/v)(テトラヒドロフランで希釈)
・移動相溶媒:テトラヒドロフラン
[0125]
[合成例1]
撹拌機、還流冷却器、温度計および窒素導入管を備えた反応装置に、n-ブチルアクリレート98.8部、4-ヒドロキシブチルアクリレート1部、アクリル酸0.2部、昭和電工(株)製「カレンズMT PE1」0.05部、および酢酸エチル溶媒100部を仕込み、窒素ガスを導入しながら80℃に昇温した。次いで、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.1部を加え、窒素ガス雰囲気下、80℃で6時間重合反応を行った。反応終了後、酢酸エチルにて希釈し、固形分濃度30質量%のポリマー溶液を調製した。得られた(メタ)アクリル系共重合体Aの重量平均分子量(Mw)は70万であり、分子量分布(Mw/Mn)は7.1であり、酸価は1.6mgKOH/gであった。
[0126]
[合成例2~8]
重合反応に用いたモノマー成分、連鎖移動剤および重合開始剤を表1に記載したとおりに変更したこと以外は合成例1と同様に行い、固形分濃度30質量%のポリマー溶液を調製した。結果を表1に示す。
[0127]
表1中、4官能連鎖移動剤は「カレンズMT PE1」(昭和電工(株)製))を、3官能連鎖移動剤は「カレンズMT NR1」(昭和電工(株)製)を、1官能連鎖移動剤はn-ドデシルメルカプタンを、それぞれ示す。
[0128]
[表1]
[0129]
[実施例1]
(1)粘着剤組成物の調製
合成例1で得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液(固形分濃度30質量%)と、当該溶液に含まれる(メタ)アクリル系ポリマー100部(固形分量)に対して、イソシアネート化合物として綜研化学(株)製「TD-75」(固形分75質量%、酢酸エチル溶液)0.05部(固形分量)と、金属キレート化合物として綜研化学(株)製「M-12AT」(固形分10質量%、トルエン、アセチルアセトン溶液)0.14部と、シランカップリング剤として信越化学工業(株)製「KBM-403」(固形分100%)0.2部と、帯電防止剤として第一工業製薬(株)製「AS-804」(固形分100%)1部とを混合して、粘着剤組成物を得た。
[0130]
(2)粘着シートの作製
泡抜け後、剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)上に、上記(1)で得られた粘着剤組成物をドクターブレードを用いて塗布し、90℃で3分間乾燥して、乾燥膜厚20μmの塗膜を形成した。塗膜の前記PETフィルムの貼付面とは反対面に、剥離処理されたPETフィルムをさらに貼り合わせ、23℃/50%RH環境下で7日間静置して熟成させて、2枚のPETフィルムに挟まれた厚さ20μmの粘着剤層を有する粘着シートを得た。
[0131]
(3)粘着剤層付き偏光板の作製
泡抜け後、剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)上に、上記(1)で得られた粘着剤組成物をドクターブレードを用いて塗布し、90℃で3分間乾燥して、乾燥膜厚20μmの塗膜を有するシートを得た。前記シートと偏光板(厚さ:110μm、層構成:トリアセチルセルロースフィルム/ポリビニルアルコールフィルム/トリアセチルセルロースフィルム)とを、前記塗膜と偏光板とが接するように貼り合わせ、23℃/50%RHの条件で7日間静置して熟成させて、PETフィルムと厚さ20μmの粘着剤層と偏光板とを有する粘着剤層付き偏光板を得た。
[0132]
[実施例2~8、比較例1~4]
実施例1において、(メタ)アクリル系ポリマー溶液を合成例2~8で得られたポリマー溶液に変更し、および/または配合組成を表2に記載したとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にして、粘着剤組成物、粘着シートおよび粘着剤層付き偏光板を得た。
[0133]
[評価]
〔損失正接〕
実施例・比較例で得られた粘着シートにおいて、厚さ20μmの粘着剤層同士を23℃/50%RH環境下で複数回貼り合わせ、50℃/5atmのオートクレーブで20分間処理して、厚さ1.0mmの粘着剤層を作製した。この厚さ1.0mmの粘着剤層について、Anton Paar製「Physica MCR300」を用いて、JIS K7244に準拠した動的粘弾性測定法(温度範囲-40~180℃、昇温速度3.67℃/分、周波数1Hzの条件)により粘弾性スペクトルを測定し、温度23℃および80℃における損失正接(tanδ)を決定した。
[0134]
〔ゲル分率〕
実施例・比較例で得られた粘着シートから、粘着剤約0.1gをサンプリング瓶に採取し、酢酸エチル30mLを加えて4時間振盪した後、このサンプル瓶の内容物を200メッシュのステンレス製金網で濾過し、金網上の残留物を100℃で2時間乾燥して乾燥重量を測定した。次式により、粘着剤のゲル分率を求めた。
・ゲル分率(%)=(乾燥重量/粘着剤採取重量)×100(%)
[0135]
〔粘着力の測定〕
実施例・比較例で得られた粘着剤層付き偏光板(PETフィルム/粘着剤層/偏光板からなる積層体)を70mm×25mmの大きさに裁断して試験片を作成した。試験片からPETフィルムを剥離し、ラミネーターロールを用いて、粘着剤層/偏光板からなる積層体を厚さ2mmのガラス板の片面に、粘着剤層とガラス板とが接するように貼着した。得られた積層体を、50℃/5気圧に調整されたオートクレーブ中に20分間保持した。次いで23℃/50%RH環境下に1時間放置した後、被着体のガラス板面に対して90°方向に300mm/minの速度で偏光板端部を引っ張り、粘着力(剥離強度)を測定した。
[0136]
〔ベンディング(反り)〕
実施例・比較例で得られた粘着剤層付き偏光板(PETフィルム/粘着剤層/偏光板からなる積層体)を35mm×400mm(延伸軸方向)の大きさに裁断して試験片を作成した。試験片からPETフィルムを剥離し、ラミネーターロールを用いて、粘着剤層/偏光板からなる積層体を厚さ0.7mm、40mm×410mmのガラス板の片面に、粘着剤層とガラス板とが接するように貼着した。得られた積層体を、23℃/50%RH環境下に24時間放置した後、60℃のオーブン中に72時間保持した。片方の末端を床面に対して垂直な壁面に固定し、逆側末端の浮き上がり量を定規で測定した。オーブンから取り出し直後、および24時間後に測定を実施した。
[0137]
〔耐久性試験〕
実施例・比較例で得られた粘着剤層付き偏光板(PETフィルム/粘着剤層/偏光板からなる積層体)を150mm×250mmの大きさに裁断して試験片を作成した。試験片からPETフィルムを剥離し、ラミネーターロールを用いて、粘着剤層/偏光板からなる積層体を厚さ2mmのガラス板の片面に、粘着剤層とガラス板とが接するように貼着した。得られた積層体を、50℃/5気圧に調整されたオートクレーブ中に20分間保持して、試験板を作成した。同様の試験板を2枚作成した。前記試験板を、温度80℃の条件下(耐熱性)または温度60℃/湿度90%RHの条件下(耐湿熱性)で500時間放置し、以下の基準で発泡および断裂の発生を観察して評価した。発泡は凝集力不足の場合に発生し、断裂は応力緩和不足の場合に発生する。
[0138]
(発泡)
・AA:発泡が全く見られない。
・BB:発泡の面積が全体の5%未満である。
・CC:発泡の面積が全体の5%以上である。
[0139]
(断裂)
・AA:断裂が全く見られない。
・BB:断裂の面積が全体の5%未満である。
・CC:断裂の面積が全体の5%以上である。
[0140]
[表2]
表2に示すとおり、粘着剤層のtanδ
1(23℃)が0.33~0.55であり、かつtanδ
2(80℃)が0.40~0.65であると、ベンディング性および耐久性(耐発泡、耐断裂)が満足のいくものであった。一方、粘着剤層のtanδ
1(23℃)が0.33未満であるか、またはtanδ
2(80℃)が0.40未満であると、ベンディング性および耐久性(耐断裂)が低かった。また、粘着剤層のtanδ
1(23℃)が0.55を超えるか、またはtanδ
2(80℃)が0.65を超えると、耐久性(耐発泡性)が低かった。
請求の範囲
[請求項1]
(A)多官能連鎖移動剤の存在下に、アルキル基の炭素数が4~18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび水酸基含有モノマーを含むモノマー成分を共重合して得られる(メタ)アクリル系共重合体と、
(B1)イソシアネート化合物と、
(B2)金属キレート化合物と
を含有する偏光板用粘着剤組成物であり、
前記組成物より形成された粘着剤層の、
23℃における損失正接(tanδ
1)が0.33~0.55であり、かつ
80℃における損失正接(tanδ
2)が0.40~0.65である
ことを特徴とする偏光板用粘着剤組成物。
[請求項2]
前記多官能連鎖移動剤が、メルカプト基を2つ以上有する化合物である、請求項1記載の偏光板用粘着剤組成物。
[請求項3]
前記(メタ)アクリル系共重合体(A)が、さらに水酸基含有モノマー以外の極性基含有モノマーを共重合して得られた共重合体である、請求項1または2記載の偏光板用粘着剤組成物。
[請求項4]
イソシアネート化合物(B1)100質量部に対する金属キレート化合物(B2)の含有量が、10~1000質量部である、請求項1~3のいずれか1項記載の偏光板用粘着剤組成物。
[請求項5]
前記(メタ)アクリル系共重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定される重量平均分子量(Mw)が、50万以上である、請求項1~4のいずれか1項記載の偏光板用粘着剤組成物。
[請求項6]
前記偏光板用粘着剤組成物より形成された粘着剤のゲル分率が、15~60質量%である、請求項1~5のいずれか1項記載の偏光板用粘着剤組成物。
[請求項7]
請求項1~6のいずれか1項記載の偏光板用粘着剤組成物より形成され、
23℃における損失正接(tanδ
1)が0.33~0.55であり、かつ
80℃における損失正接(tanδ
2)が0.40~0.65である
ことを特徴とする偏光板用粘着剤層。
[請求項8]
ゲル分率が、15~60質量%である、請求項7記載の偏光板用粘着剤層。
[請求項9]
請求項7または8記載の偏光板用粘着剤層を有することを特徴とする偏光板用粘着シート。
[請求項10]
偏光板と、前記偏光板の少なくとも一方の面に形成された請求項7または8記載の偏光板粘着剤層とを有することを特徴とする粘着剤層付き偏光板。