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1. (WO2015133644) 中・高炭素鋼板及びその製造方法
Document

明 細 書

発明の名称 中・高炭素鋼板及びその製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005   0006   0007   0008   0009   0010  

先行技術文献

特許文献

0011  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0012  

課題を解決するための手段

0013   0014   0015   0016   0017   0018  

発明の効果

0019  

図面の簡単な説明

0020  

発明を実施するための形態

0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081   0082   0083   0084   0085  

実施例

0086   0087   0088   0089   0090   0091   0092   0093   0094   0095   0096   0097   0098   0099   0100   0101   0102   0103   0104   0105   0106   0107   0108   0109   0110   0111   0112   0113   0114   0115   0116   0117   0118   0119   0120   0121   0122   0123   0124   0125   0126   0127   0128   0129   0130   0131   0132   0133   0134   0135  

請求の範囲

1   2   3  

図面

1   2   3  

明 細 書

発明の名称 : 中・高炭素鋼板及びその製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、高い歪速度での成形において優れた絞りを有する中・高炭素鋼板及びその製造方法に関するものである。
 本願は、2014年3月7日に、日本に出願された特願2014-045689号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。

背景技術

[0002]
 中・高炭素鋼板は、自動車のチェーン、ギヤー、クラッチ等の駆動系部品及び鋸、刃物等の素材として用いられる。中・高炭素鋼の鋼帯あるいは鋼帯から切り出した鋼板から所定の形状に成形された素材は深絞り加工、穴拡げ加工、増肉加工、減肉加工等の塑性加工により部品形状へと成形される。各加工を単独あるいはそのうちの数種を同時に施す冷間鍛造では部分的に10/sec程度の高い歪速度で素材を成形しており、素材となる鋼板には高い歪速度での変形においても優れた成形性、つまりは優れた絞りを有することが要求される。
[0003]
 これまで、中・高炭素鋼板の絞りを改善する技術について多くの提案がなされてきた(例えば、特許文献1~6、参照)。
[0004]
 例えば、特許文献1には、深絞り性に優れた中・高炭素鋼板の製造方法として、C:0.20~0.90質量%の熱延鋼板または焼鈍鋼板に、少なくとも圧延最終パスに表面粗さRaが0.20~1.50μmのワークロールを用い、トータル圧延率を20~70%とする条件で仕上げ圧延を行い、その後、仕上げ焼鈍を施す発明が開示されている。しかし、特許文献1に開示された技術は、鋼板表面の粗度を改善することで絞りを高める技術であり、鋼材の組織形態の制御による材質改善により絞りを高める技術ではなく、必ずしも所望の発明効果を得られるものではない。
[0005]
 さらに特許文献2には、加工性に優れた高靭性高炭素鋼板として、C:0.6~1.3質量%、Si:0.5質量%以下、Mn:0.2~1.0質量%、P:0.02質量%以下、S:0.01質量%以下を含み、残部が実質的にFeの組成を有し、熱延条件、冷延条件および焼鈍条件の調整により、炭化物の最大長さが5.0μm以下であり、炭化物球状化率が90%以上であり、かつ粒径が1.0μm以上の球状炭化物の体積が全球状炭化物体積の20%以上である、炭化物と等軸状フェライトとからなる高炭素鋼板の発明が開示されている。
[0006]
 特許文献3には、深絞り性に優れた中・高炭素鋼として、C含有量が0.10~0.90質量%であり、炭化物のフェライト粒界存在率(F値)が30%以上になるように、炭化物をフェライト中に分散させた組織とする発明が開示されている。
[0007]
 特許文献4には、深絞り面内異方性の小さい高炭素冷延鋼帯として、C:0.25~0.75%の鋼組成をもち、鋼中炭化物の平均粒径が0.5μm以上であり、球状化率が90%以上であり、集合組織が数式「(222)/(200)≧6-8.0×C(%)」を満たす発明が開示されている。
[0008]
 特許文献5には、深絞り性が良好で、しかも高い硬度や優れた耐摩耗性を付与し得る高炭素鋼帯として、C含有量が0.20~0.70質量%であり、鋼中のセメンタイトの50面積%以上が黒鉛化されていることを特徴とする発明が開示されている。
[0009]
 特許文献6には、成形性に優れた高炭素冷延鋼板の製造方法として、C:0.1~0.65%、Si:0.01~0.3%、Mn:0.4~2%、sol.Al:0.01~0.1%、N:0.002~0.008%、B:0.0005~0.005%、Cr:0~0.5、Mo:0~0.1を含有する高炭素鋼を熱間圧延し、300~520℃で巻取り、650~(Ac1―10)℃で箱焼鈍し、40~80%の圧下率で冷間圧延し、650~(Ac1―10)℃で箱焼鈍する技術が開示されている。
[0010]
 しかし、これらのいずれの特許文献にも、高い歪速度で成形する際に発生する鋼材内部のセメンタイトそのものの割れ、及び割れの発生にて生じたボイドの成長・連結による絞りの低下を抑制する知見および技術については何らの開示もされていない。

先行技術文献

特許文献

[0011]
特許文献1 : 日本国特開2003-293042号公報
特許文献2 : 日本国特開2003-147485号公報
特許文献3 : 日本国特開2002-155339号公報
特許文献4 : 日本国特開2000-328172号公報
特許文献5 : 日本国特開平6-108158号公報
特許文献6 : 日本国特開平11-61272号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0012]
 本発明は、上記実情に鑑み、高い歪速度での成形において優れた絞りを有する中・高炭素鋼板とその製造方法とを提供することを課題とするものである。

課題を解決するための手段

[0013]
 本発明者らは、上記課題を解決する手法について鋭意研究した。その結果、本発明者らは、変形時に炭化物で生じる割れ(ボイド)が成長し、互いに連結することにより、高い歪速度での変形における絞りが低下することを知見した。更に、本発明者らは、炭化物にて発生する割れが、従来は一つの粒子として認められていた炭化物粒子の中に存在する結晶界面から発生していることを知見した。本発明者らは、炭化物粒子の中の結晶界面の量を低減させることにより、高い歪速度での変形においても優れた絞りを示し、さらには深絞り加工、穴拡げ加工、増肉加工、減肉加工等の塑性加工やそれらの加工のうちの数種を同時に施す冷間鍛造において優れた成形性を示す中・高炭素鋼板が得られることを知見した。
[0014]
 また、本発明者らは、上述の特徴を有する鋼板は、熱延条件及び焼鈍条件などを個別に工夫した場合には製造困難であり、熱延・焼鈍工程などのいわゆる一貫工程にて最適化を達成することでしか製造できないことも、種々の研究を積み重ねることで知見し、本発明を完成した。
[0015]
 本発明の要旨は、次の通りである。
[0016]
 (1)本発明の一態様に係る中・高炭素鋼板は、質量%で、C:0.10~1.50%、Si:0.01~1.00%、Mn:0.01~3.00%、P:0.0001~0.1000%、S:0.0001~0.1000%、を含有し、残部がFeおよび不純物からなる成分を有する鋼板であり、前記鋼板が、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、および残留オーステナイトを合計した体積率が5.0%以下であり、残部がフェライトと炭化物とである組織を有し、炭化物粒子の球状化率が70%以上99%以下であり、前記炭化物粒子の中に方位差5°以上の結晶界面を含む前記炭化物粒子の個数割合が、前記炭化物粒子の総個数に対して20%以下である。
[0017]
 (2)前記(1)に記載の中・高炭素後半は、前記鋼板の前記成分が、質量%で、さらに、Al:0.001~0.500%、N:0.0001~0.0500%、O:0.0001~0.0500%Cr:0.001~2.000%、Mo:0.001~2.000%、Ni:0.001~2.000%、Cu:0.001~1.000%、Nb:0.001~1.000%、V:0.001~1.000%、Ti:0.001~1.000%、B:0.0001~0.0500%、W:0.001~1.000%、Ta:0.001~1.000%、Sn:0.001~0.020%、Sb:0.001~0.020%、As:0.001~0.020%、Mg:0.0001~0.0200%、Ca:0.001~0.020%、Y:0.001~0.020%、Zr:0.001~0.020%、La:0.001~0.020%、Ce:0.001~0.020%、の内の1種または2種以上を含有してもよい。
[0018]
 (3)本発明の別の態様に係る中・高炭素鋼板の製造方法は、前記(1)または(2)に記載の前記成分を有する鋼片を、直接、または一旦冷却後、加熱し熱間圧延する際に、600℃以上1000℃以下の温度域で仕上げ熱延を完了し、350℃以上700℃以下で捲取った熱延鋼板を箱焼鈍し、10%以上80%以下の冷間圧延を施し、その後の冷延板焼鈍を、連続焼鈍ラインにおいて焼鈍温度を650℃以上780℃以下、保持時間を30秒以上1800秒以下で実施する。

発明の効果

[0019]
 本発明によれば、高い歪速度での成形において優れた絞りを有する中・高炭素鋼板及びその製造方法を提供できる。

図面の簡単な説明

[0020]
[図1] 高い歪速度での絞りを測定するための試験片の形状を示す図である。
[図2] 変形時に炭化物粒子の中にある結晶界面から割れが発生する様子を示す図である。
[図3] 結晶界面を含む炭化物粒子の個数割合と、高い歪速度での引張試験時における絞りとの関係を示す図である。

発明を実施するための形態

[0021]
 以下、本実施形態を詳細に説明する。
[0022]
 まず、本実施形態に係る鋼板の化学成分を限定した理由について説明する。ここで成分についての「%」は質量%を意味する。
[0023]
 (C:0.10~1.50%)
 Cは、焼入れの熱処理により鋼の強度を高める元素である。中・高炭素鋼板は、成形後、自動車のチェーン、ギヤー、クラッチ等の駆動系部品及び鋸、刃物等の素材として用いられる前に、焼入れ及び焼入れ焼戻しの熱処理が施されることにより、部品として必要な強度あるいは靭性を確保する。C含有量が0.10%未満では、焼入れによる強度の増加を得られないので、0.10%をC含有量の下限とする。一方、C含有量が1.50%を超えると、冷延焼鈍後において、粒子内部に結晶界面を持つ炭化物の個数割合が増加し、高い歪速度での絞りが低下するので、C含有量の上限を1.50%とする。より好ましくは、C含有量は0.15~1.30%である。
[0024]
 (Si:0.01~1.00%)
 Siは、脱酸剤として作用し、また、熱延板焼鈍および冷延板焼鈍における炭化物粒子の粗大化及び連結を抑制する元素である。冷延板焼鈍中に炭化物粒子がオストワルド成長する過程で、互いに近傍にある2つ以上の粒子が接触する際に、炭化物粒子の中に結晶界面が導入される。鋼板の変形時に、炭化物粒子中の結晶界面が割れの起点となる。この現象の抑制のためには、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍における炭化物の成長速度を低下させる必要がある。その代表的な、炭化物の成長速度を低下させる元素の一つがSiである。Siの含有量が0.01%未満では、上述の効果が得られないので、Si含有量の下限を0.01%とする。一方、Si含有量が1.00%を超えると、フェライトがヘキ開破壊しやすくなり、高い歪速度での絞りが低下するので、Si含有量の上限を1.00%とする。Si含有量は、より好ましくは0.05%以上、0.80%以下であり、さらに好ましくは0.08%以上、0.50%以下である。
[0025]
 (Mn:0.01~3.00%)
 Mnは、Siと同様に熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍での炭化物粒子の粗大化及び連結を抑制する元素である。Mn含有量が0.01%未満では、上述の効果が得られないので、Mn含有量の下限を0.01%とする。一方、Mn含有量が3.00%を超えると、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍の際に炭化物が球状化しにくくなり、高い歪速度での変形において、針状の炭化物を起点として割れが発生し、絞りが低下する。従って、Mn含有量の上限を3.00%とする。Mn含有量は、より好ましくは0.30%以上、2.50%以下、さらに好ましくは0.50%以上、1.50%以下である。
[0026]
 (P:0.0001~0.1000%)
 Pは、フェライト粒界を脆化させる不純物元素である。P含有量は少ないほど好ましいが、精錬工程においてP含有量0.0001%未満にして鋼を高純度化する場合、精錬のために要する時間が多くなり、製造コストの大幅な増加を招くので、P含有量の下限を0.0001%とする。一方、P含有量が0.1000%を超えると、高い歪速度での変形時にフェライト粒界から割れが顕著に発生し、絞りが著しく低下するので、P含有量の上限を0.1000%とする。P含有量は、より好ましくは0.0010%以上、0.0500%以下、更に好ましくは0.0020%以上0.0300%以下である。
[0027]
 (S:0.0001~0.1000%)
 Sは、MnSなどの非金属介在物を形成する不純物元素であり、非金属介在物は高い歪速度での変形において割れ発生の起点となるので、S含有量は少ないほど好ましい。しかし、S含有量を0.0001%未満に低減することは、精錬コストの大幅な増加を招くので、S含有量の下限を0.0001%とする。一方、0.1000%を超えてSを含有すると、絞りの低下が著しくなるので、S含有量の上限を0.1000%以下とする。S含有量は、より好ましくは0.0003%以上、0.0300%以下である。
[0028]
 本実施形態では、上記成分を鋼板の基本成分とするが、さらに、鋼板の機械的特性を向上させる目的で、以下に述べる元素の1種または2種以上を選択的に含有させることができる。ただし、以下に述べる元素の含有は必須ではないので、以下に述べる元素の下限値は0%である。
[0029]
 (Al:好ましくは0.001~0.500%)
 Alは、鋼の脱酸剤として作用する元素である。Al含有量が0.001%未満では、含有効果が十分に得られないので、Al含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、Al含有量が0.500%を超えるとフェライトの粒界を脆化させ、高い歪速度での変形における絞りの低下を引き起こす。このため、Al含有量の上限を0.500%としてもよい。Al含有量はより好ましくは0.005%以上0.300%以下であり、さらに好ましくは0.010%以上0.100%以下である。
[0030]
 (N:好ましくは0.0001~0.0500%)
 Nは、鋼のベイナイト変態を促進させるとともに、多量の含有によりフェライトの脆化を引き起こす元素である。N含有量は少ないほど好ましいが、N含有量を0.0001%未満に低減することは精錬コストの増加を招くので、N含有量の下限を0.0001%としてもよい。一方、N含有量が0.0500%を超える場合、高い歪速度での変形時にフェライトの割れを引き起こすので、N含有量の上限を0.0500%としてもよい。N含有量は、より好ましくは0.0010%以上、0.0250%以下であり、さらに好ましくは0.0020%以上、0.0100%以下である。
[0031]
 (O:好ましくは0.0001~0.0500%)
 Oは、多量の含有により鋼中に粗大な酸化物の形成を促す元素であるので、O含有量は少ないほうが好ましい。しかし、O含有量を0.0001%未満に低減することは、精錬コストの増加を招くので、0.0001%をO含有量の下限としてもよい。一方、O含有量が0.0500%を超える場合、鋼中に粗大な酸化物が形成し、高い歪速度での変形時に粗大な酸化物を起点とした割れが発生するので、O含有量の上限を0.0500%としてもよい。O含有量は、より好ましくは0.0005%以上、0.0250%以下であり、さらに好ましくは0.0010%以上、0.0100%以下である。
[0032]
 (Cr:好ましくは0.001~2.000%)
 Crは、Si、Mnと同様に熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍での炭化物粒子の粗大化及び連結を抑制する元素であると。しかしCr含有量が0.001%未満では、上述の効果が得られないので、Cr含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、Cr含有量が2.000%を超えると、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍で炭化物が球状化しにくくなり、高い歪速度での変形において針状の炭化物を起点として割れが発生し、絞りが低下するので、Cr含有量の上限を2.000%としてもよい。Cr含有量は、より好ましくは0.005%以上、1.500%以下、さらに好ましくは0.010%以上、1.300%以下である。
[0033]
 (Mo:好ましくは0.001~2.000%)
 Moは、Si、Mn、Crと同様に熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍での炭化物粒子の粗大化及び連結を抑制する元素である。Mo含有量が0.001%未満では、上述の効果が得られないので、Mo含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、Mo含有量が2.00%を超えると、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍で炭化物が球状化しにくくなり、高い歪速度での変形において針状の炭化物を起点として割れが発生し、絞りが低下するので、Mo含有量の上限を2.00%としてもよい。Mo含有量は、より好ましくは0.005%以上、1.900%以下、さらに好ましくは0.008%以上、0.800%以下である。
[0034]
 (Ni:好ましくは0.001~2.000%)
 Niは、部品の靭性の向上、および焼入れ性の向上のために有効な元素である。その効果を有効に発揮させるためには、0.001%以上のNiを含有させることが好ましい。一方、Ni含有量が2.000%を超えると、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍の際に炭化物が球状化しにくくなり、高い歪速度での変形において針状の炭化物を起点として割れが発生し、絞りが低下するので、Ni含有量の上限を2.000%としてもよい。Ni含有量は、より好ましくは0.005%以上、1.500%以下、さらに好ましくは0.005%以上、0.700%以下である。
[0035]
 (Cu:好ましくは0.001~1.000%)
 Cuは、微細な析出物の形成により鋼材の強度を増加させる元素である。強度増加の効果を有効に発揮するためには、0.001%以上のCuの含有が好ましい。一方、Cu含有量が1.00%を超えると、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍の際に炭化物が球状化しにくくなり、高い歪速度での変形において針状の炭化物を起点として割れが発生し、絞りが低下するので、Cu含有量上限を1.00%としてもよい。Cu含有量は、より好ましくは0.003%以上、0.500%以下、さらに好ましくは0.005%以上、0.200%以下である。
[0036]
 (Nb:好ましくは0.001~1.000%)
 Nbは、炭窒化物を形成し、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍での炭化物粒子の粗大化及び連結を抑制する元素である。Nb含有量が0.001%未満では、上述の効果が得られないので、Nb含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、Nb含有量が1.000%を超えると、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍の際に炭化物が球状化しにくくなり、高い歪速度での変形において針状の炭化物を起点として割れが発生し、絞りが低下するので、Nb含有量の上限を1.000%としてもよい。Nb含有量は、より好ましくは0.005%以上、0.600%以下、さらに好ましくは0.008%以上、0.200%以下である。
[0037]
 (V:好ましくは0.001~1.000%)
 Vも、Nbと同様に、炭窒化物を形成し、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍での炭化物粒子の粗大化及び連結を抑制する元素である。V含有量が0.001%未満では、上述の効果が得られないので、V含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、V含有量が1.000%を超えると、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍の際に炭化物が球状化しにくくなり、高い歪速度での変形において針状の炭化物を起点として割れが発生し、絞りが低下するので、V含有量の上限を1.000%としてもよい。V含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.750%以下、さらに好ましくは0.001%以上、0.250%以下である。
[0038]
 (Ti:好ましくは0.001~1.000%)
 Tiも、Nb、およびVと同様に、炭窒化物を形成し、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍での炭化物粒子の粗大化及び連結を抑制する元素である。Ti含有量が0.001%未満では、上述の効果が得られないので、Ti含有量の下限を0.001%以上としてもよい。一方、Ti含有量が1.000%を超えると、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍の際に炭化物が球状化しにくくなり、高い歪速度での変形において針状の炭化物を起点として割れが発生し、絞りが低下するので、Ti含有量の上限を1.000%としてもよい。Ti含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.500%以下、さらに好ましくは0.003%以上、0.150%以下である。
[0039]
 (B:好ましくは0.0001~0.0500%)
 Bは、部品の熱処理時の焼入れ性を改善する元素である。B含有量が0.0001%未満では、上述の効果が得られないので、B含有量の下限を0.0001%としてもよい。B含有量が0.0500%を超えると、粗大なFe-B-C化合物を生成し、高い歪速度での変形時に割れの起点となり、絞りを低下させるので、B含有量の上限を0.0500%としてもよい。B含有量は、より好ましくは0.0005%以上、0.0300%以下、さらに好ましくは0.0010%以上、0.0100%以下である。
[0040]
 (W:好ましくは0.001~1.000%)
 Wも、Nb、V、およびTiと同様に、炭窒化物を形成し、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍での炭化物粒子の粗大化及び連結を抑制する元素である。W含有量が0.001%未満では、上述の効果が得られないので、W含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、W含有量が1.000%を超えると、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍の際に炭化物が球状化しにくくなり、高い歪速度での変形において針状の炭化物を起点として割れが発生し、絞りが低下するので、W含有量の上限を1.000%としてもよい。W含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.450%以下、さらに好ましくは0.001%以上、0.160%以下である。
[0041]
 (Ta:好ましくは0.001~1.000%)
 Taも、Nb、V、Ti、およびWと同様に、炭窒化物を形成し、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍での炭化物粒子の粗大化及び連結を抑制する元素である。Ta含有量が0.001%未満では、上述の効果が得られないので、Ta含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、Ta含有量が1.000%を超えると、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍の際に炭化物が球状化しにくくなり、高い歪速度での変形において針状の炭化物を起点として割れが発生し、絞りが低下するので、Ta含有量の上限を1.000%以下としてもよい。Ta含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.750%以下、さらに好ましくは0.001%以上、0.150%以下である。
[0042]
 (Sn:好ましくは0.001~0.020%)
 Snは、鋼原料としてスクラップを用いた場合に鋼中に含有される元素であり、Sn含有量は少ないほど好ましい。Sn含有量を0.001%未満に低減する場合、精錬コストの増加を招くので、Sn含有量の下限を0.001%としてもよい。また、Sn含有量が0.020%を超える場合、フェライトが脆化し、高い歪速度での変形において絞りが低下するので、Sn含有量の上限を0.020%としてもよい。Sn含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.015%以下、さらに好ましくは0.001%以上、0.010%以下である。
[0043]
 (Sb:好ましくは0.001~0.020%)
 Sbは、Snと同様に鋼原料としてスクラップを用いた場合に鋼中に含有される元素であり、Sb含有量は少ないほど好ましい。Sb含有量を0.001%未満に低減する場合、精錬コストの増加を招くので、Sb含有量の下限を0.001%としてもよい。また、Sb含有量が0.020%を超える場合、フェライトが脆化し、高い歪速度での変形において絞りが低下するので、Sb含有量の上限を0.020%以下としてもよい。Sb含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.015%以下、さらに好ましくは0.001%以上、0.011%以下である。
[0044]
 (As:好ましくは0.001~0.020%)
 Asは、Sn、及びSbと同様に鋼原料としてスクラップを用いた場合に含有される元素であり、As含有量は少ないほど好ましい。As含有量を0.001%未満に低減する場合、精錬コストの増加を招くので、As含有量の下限を0.001%としてもよい。また、As含有量が0.020%を超える場合、フェライトが脆化し、高い歪速度での変形において絞りが低下するので、As含有量の上限を0.020%以下としてもよい。As含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.015%以下、さらに好ましくは0.001%以上、0.007%以下である。
[0045]
 (Mg:好ましくは0.0001~0.0200%)
 Mgは、含有量が微量であっても硫化物の形態を制御できる元素であり、必要に応じて含有できる。Mg含有量が0.0001%未満ではその効果は得られないので、Mg含有量の下限を0.0001%としてもよい。一方、Mgを過剰に含有した場合、フェライトの粒界が脆化し、高い歪速度での変形において絞りの低下を招くので、Mg含有量の上限を0.0200%としてもよい。Mg含有量は、より好ましくは0.0001%以上、0.0150%以下、さらに好ましくは0.0001%以上、0.0075%以下である。
[0046]
 (Ca:好ましくは0.001~0.020%)
 Caは、Mgと同様に含有量が微量であっても硫化物の形態を制御できる元素であり、必要に応じて含有できる。Ca含有量が0.001%未満ではその効果は得られないので、Ca含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、Caを過剰に含有した場合、フェライトの粒界が脆化し、高い歪速度での変形において絞りの低下を招くので、Ca含有量の上限を0.020%としてもよい。Ca含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.015%以下、さらに好ましくは0.001%以上、0.010%以下である。
[0047]
 (Y:好ましくは0.001~0.020%)
 Yは、Mg、およびCaと同様に、含有量が微量であっても硫化物の形態を制御できる元素であり、必要に応じて含有できる。Y含有量が0.001%未満ではその効果は得られないので、Y含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、Yを過剰に含有する場合、フェライトの粒界が脆化し、高い歪速度での変形において絞りの低下を招くので、Y含有量の上限を0.020%としてもよい。Y含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.015%以下、さらに好ましくは0.001%以上、0.009%以下である。
[0048]
 (Zr:好ましくは0.001~0.020%)
 Zrは、Mg、Ca、Yと同様に含有量が微量であっても硫化物の形態を制御できる元素であり、必要に応じて含有できる。Zr含有量が0.001%未満ではその効果は得られないので、Zr含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、Zrを過剰に含有する場合、フェライトの粒界が脆化し、高い歪速度での変形において絞りの低下を招くので、Zr含有量の上限を0.020%としてもよい。Zr含有量は、より好ましくは0.015%以下、さらに好ましくは0.010%以下である。
[0049]
 (La:好ましくは0.001~0.020%)
 Laは、Mg、Ca、Y、およびZrと同様に含有量が微量であっても硫化物の形態制御に有効な元素であり、必要に応じて含有しても良い。La含有量が0.001%未満ではその効果は得られないので、La含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、Laを過剰に含有する場合、フェライトの粒界が脆化し、高い歪速度での変形において絞りの低下を招くので、La含有量の上限を0.020%としてもよい。La含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.015%以下、さらに好ましくは0.001%以上、0.010%以下である。
[0050]
 (Ce:好ましくは0.001~0.020%)
 Ceは、Mg、Ca、Y、Zr、Laと同様に含有量が微量であっても硫化物の形態を制御できる元素であり、必要に応じて含有しても良い。Ce含有量が0.001%未満ではその効果は得られないので、Ce含有量の下限を0.001%としてもよい。一方、Ceを過剰に含有する場合、フェライトの粒界が脆化し、高い歪速度での変形において絞りの低下を招くので、Ce含有量の上限を0.020%としてもよい。Ce含有量は、より好ましくは0.001%以上、0.015%以下、さらに好ましくは0.001%以上、0.010%以下である。
[0051]
 なお、本実施形態に係る鋼板では、上記に述べた成分の残部はFeおよび不純物である。
[0052]
 本実施形態に係る鋼板は、前述した成分組成を有することに加え、最適な熱延及び焼鈍を施されているので、フェライトと炭化物とが主体の組織を有し、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、および残留オーステナイトを合計した体積率が5%以下であり、炭化物粒子の球状化率が70%以上99%以下であり、炭化物粒子の中に方位差5°以上の結晶界面を含む炭化物粒子の個数割合が炭化物粒子の総個数に対して20%以下である。この特徴により、絞り、穴拡げ、増肉、減肉等の塑性加工、あるいはそれらを組み合わせた冷間鍛造を高い歪速度で施す際に、優れた成形性を有する鋼板が得られる。これは、本発明者らが見いだした新規な知見である。
[0053]
 本実施形態に係る鋼は、実質的にフェライトと炭化物との組織を有する。なお、炭化物とは、鉄と炭素との化合物であるセメンタイト(Fe C)に加え、セメンタイト中のFe原子をMn、Cr等の合金元素で置換した化合物と、合金炭化物(M 23、M C、MC。なお、MはFe及びその他の合金元素)とである。マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、残留オーステナイトは、組織中に含まない方が好ましく、含む場合は合計した体積率が5.0%以下とする。マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、および残留オーステナイトの合計量の下限は規定されない。後述する、走査型電子顕微鏡を用いた3000倍の組織観察で、いずれの組織も全く検出されない場合は、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、および残留オーステナイトの合計量は0.0体積%とみなされるので、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、および残留オーステナイトの合計量の下限を0.0%としてもよい。
[0054]
 マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、および残留オーステナイトの合計量の規定理由を説明する。本実施形態で規定の対象とするマルテンサイト、ベイナイト、パーライト、残留オーステナイトは、鋼板が冷延板焼鈍においてフェライト及びオーステナイトの2相域まで加熱された後、室温まで冷却される過程で、オーステナイトから生成した組織である。このため、マルテンサイト、ベイナイト、及びパーライトはフェライトの粒界に位置し、残留オーステナイトはマルテンサイト及びベイナイトのラス界面またはブロック境界に存在する。まず、オーステナイトからマルテンサイト、ベイナイト、またはパーライトへと変態する際には、体積が膨張するので、フェライトの粒界に応力が残留する。フェライトの粒界に局所的に応力が残留することにより、鋼板の応力負荷による変形時に、粒界近傍においてボイドの生成が促されるので、フェライトの粒界に残留する応力は、高い歪速度での変形では絞りの低下を招く。また、残留オーステナイトは、鋼板の変形途中で加工誘起変態を起こしてマルテンサイトになるので、フェライト粒界への応力増加を一層高め、絞りの低下を助長する。以上の理由から、高い歪速度での変形における絞りを向上するためには、鋼板の組織を実質的にフェライトと炭化物の組織とし、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、および残留オーステナイトは含まない方が好ましく、含む場合は、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、および残留オーステナイトの合計の体積率を5.0%以下とすることが必須となる。さらに、パーライト変態が生じた場合は、針状の炭化物の割合も増加する。針状炭化物の影響は後述する。なお、炭化物は、相変態せず、母材との間に応力は集中しないので、絞りの低下を抑えることができる。
[0055]
 次に、炭化物の球状化率を70%以上、99%以下とするべき理由を述べる。炭化物の球状化率が70%未満であると、針状の炭化物に応力が集中し、炭化物が割れてボイドが生成し、ボイドの連結により破断面が形成されるので、高い歪速度での変形における絞りは低下する。このため、炭化物の球状化率の下限を70%とする。なお、球状化率は高いほど望ましいものの、球状化率を100%に制御するためには非常に長時間の焼鈍を施す必要があり、製造コストの増加を招くので、球状化率の上限は100%未満が望ましく、99%以下とする。
[0056]
 さらに、炭化物粒子の中に結晶方位差5°以上の結晶界面を含む炭化物粒子の個数割合を、炭化物粒子の総個数に対して20%以下とするべき理由を述べる。変形における炭化物の割れは、従来技術では一つの粒子として見なされてきた炭化物の中に存在する、結晶方位差5°以上の結晶界面から主に発生する。高い歪速度での変形において、炭化物の結晶界面での割れによりボイドが生じ、それらのボイドが連結し、破断面を形成することにより、絞りの低下が生じる。結晶方位差5°以上の結晶界面を有する炭化物の割合は少ない方が良いものの、結晶方位差5°以上の結晶界面を有する炭化物の個数割合を炭化物粒子の総個数に対して0.1%未満に制御するためには、連続鋳造、熱延、熱延板焼鈍、冷延、および冷延板焼鈍での一貫した品質設計管理が必須となり、歩留まりの低下を引き起こすので、炭化物粒子の総個数に対する結晶方位差5°以上の結晶界面を有する炭化物の個数割合の下限を0.1%とすることが好ましく、さらに好ましくは0.2%である。また、炭化物粒子の総個数に対する結晶方位差5°以上の結晶界面を有する炭化物の個数割合(以下、個数割合と略す場合がある)が20%を超える場合は、高い歪速度での変形における絞りの低下が顕著となるので、個数割合の上限を20%とし、より好ましくは15%、さらに好ましくは10%である。
[0057]
 続いて、上記で規定する組織の観察及び測定方法を述べる。
[0058]
 フェライト、炭化物、マルテンサイト、ベイナイト、パーライトの観察は、走査型電子顕微鏡を用いて行なう。観察に先立ち、組織観察用のサンプルを、エメリー紙による湿式研磨、及び1μmの平均粒子サイズをもつダイヤモンド砥粒による研磨を行い、これにより観察面を鏡面に仕上げる。次に、3%硝酸-アルコール溶液を用いて観察面をエッチングしておく。観察倍率は、1000~10000倍の中で、フェライト、炭化物、マルテンサイト、ベイナイト、およびパーライトの各組織を判別できる倍率を選択する。本実施形態では3000倍を選択した。選択した倍率で、板厚1/4層における30μm×40μmの視野をランダムに16枚撮影する。各組織の体積率は、ポイントカウント法を用いて求める。撮影した組織写真上に、間隔2μmのグリッド線を水平および垂直方向に引き、グリッド線の交点における組織の個数をそれぞれカウントし、各組織の個数割合から、撮影写真1枚あたりの各組織の割合を測定する。その後、16枚の組織写真全てに係る各組織の割合の測定結果を平均した値を、各サンプルにおける組織の体積率として得る。
[0059]
 なお、マルテンサイトとベイナイトとは、組織内における微細な炭化物の有無に基づいて区別する。主にフェライトの粒界上に位置し、炭化物を含まない組織がマルテンサイトであり、炭化物を含む組織がベイナイトである。また、マルテンサイトが焼戻しマルテンサイトである場合、焼戻しマルテンサイトは内部に炭化物を含むので、ベイナイトと誤認される可能性がある。しかし、本実施形態に係る鋼では、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、および残留オーステナイトを合計した体積率を5%とすることにより良好な絞りが得られることを明らかにしているので、最終的な本実施形態に係る鋼の形態に及ぼすマルテンサイトとベイナイトの誤認の影響は非常に小さい。なお、フェライトは体積率70%以上とすることが望ましい。
[0060]
 残留オーステナイトの体積率は、X線回折により測定する。上述の手順で観察面を鏡面に仕上げたサンプルの表面の歪層を、電界研磨を用いて除去することにより、残留オーステナイトの測定のためのサンプルを準備する。電界研磨は、5%過塩素酸-酢酸溶液を用い、10Vの電圧を印加して実施する。X線の管球はCuを選択し、オーステナイトの(200)、(220)、(311)およびフェライトの(200)、(211)の各面における強度をもとに、残留オーステナイトの体積率を求める。
[0061]
 炭化物の観察は、走査型電子顕微鏡で行なう。組織観察用のサンプルは、エメリー紙による湿式研磨及び粒子サイズが1μmのダイヤモンド砥粒による研磨を用いて観察面を鏡面に仕上げた後、飽和ピクリン酸アルコール溶液を用いてエッチングを施すことにより準備する。観察の倍率は1000~10000倍であり、本実施形態では、3000倍の倍率で、組織観察面上に炭化物が500個以上含まれる視野を16個所選択し、組織画像を取得する。得られた組織画像に対して、三谷商事株式会社製(Win ROOF)に代表される画像解析ソフトにより、その領域中に含まれる各炭化物の面積を詳細に測定する。各炭化物の面積から、各炭化物の円相当直径(“円相当直径”=2×(“面積”/3.14) 1/2)を求め、その平均値を炭化物粒子径とする。なお、ノイズによる測定誤差の影響を抑えるために、面積が0.01μm 以下の炭化物は評価の対象から除外する。
[0062]
 炭化物粒子径の好ましい範囲は0.30μm以上、1.50μm以下である。炭化物粒子径が0.30μm未満である場合、フェライト粒径が微細になるので、炭化物粒子径の下限を0.30μmとする。炭化物粒子径が1.50μmを越えると、鋼板の変形中に炭化物の近傍でボイドが生成しやすくなり変形能の低下を招くので、炭化物粒子径の上限を1.50μmとする。また、長軸長と短軸長との比が3以上の炭化物を針状炭化物と判別し、長軸長と短軸長との比が3未満の炭化物を球状炭化物と判別する。球状炭化物の個数を全炭化物の個数で除した値を、炭化物(セメンタイト等)の球状化率とする。
[0063]
 炭化物粒子の中の、結晶方位差5°以上の結晶界面の有無は、EBSDを用いて調査する。評価用のサンプルは、鋼帯及び鋼帯から切り出した切板または打ち抜かれたブランク板の、歪が与えられていない箇所から放電ワイヤ加工機で切り出され、鋼板表面に対して垂直な面を観察面とする。EBSDの測定精度は、観察面の平坦度および研磨により与えられた歪の影響を受けるので、観察面を湿式研磨およびダイヤモンド砥粒研磨により鏡面に仕上げた後に、観察面に歪取りの研磨を施す。歪取り研磨は、振動研磨装置(ビューラー製のバイブロメット2)を用いて、出力40%、および研磨時間60minの条件にて実施する。SEM-EBSDが用いられるのであれば、SEMおよび菊池線検出器の装置種は特に限定しない。板厚1/4層において、板厚方向に100μmおよび板幅方向に100μmの領域を0.2μmの測定ステップ間隔で4視野測定し、得られた結晶方位のマップ情報から各セメンタイトの中に存在する結晶界面の方位差と、5°以上の結晶界面を有する粒子の個数とをカウントする。測定データの解析は、TSL社のOIM解析ソフトを用いて行うことが良く、ノイズによる測定誤差のデータ影響を除くため、クリーンアップは施さずに、信頼性指数(COINCIDENCE INDEX:CI値)が0.1以下のデータを除き、解析する。
[0064]
 冷延板焼鈍後の組織のフェライト粒径を5μm以上、60μm以下とすることで、高い歪速度での変形における絞りの低下を抑制することができる。フェライト粒径が5μm未満であると、変形能が低下するので、フェライト粒径の下限を5μmとする。また、フェライト粒径が60μmを超えると、変形初期段階に表面に梨地が発生し、そこで生じた表面凹凸を起点として破断が促進して絞りの低下を招くので、フェライト粒径の上限を60μm以下とする。フェライト粒径の測定は、上述の手順で観察面を研磨して鏡面に仕上げた後、3%硝酸-アルコール溶液でエッチングし、組織を光顕、もしくは走査型電子顕微鏡にて観察し、撮影した画像に対して線分法を適用して測定することにより行う。フェライト粒径は、好ましくは10μm以上、50μm以下である。
[0065]
 続いて、高い歪速度での変形における絞りの測定方法を述べる。
[0066]
 鋼板を10mm/secの歪速度で変形させ破断時の絞りを測定するためには、図1に示す平行部が1.5mmの特殊試験片を用いる必要がある。1.5mmの平行部を有する特殊試験片に900mm/分のストローク速度で引張試験を実施することにより、10mm/secに非常に近い歪速度を試験片の平行部に与えることが初めて可能となる。また、実部品への成形で起こるような鋼板の破壊の挙動を正確に評価するためには、引張試験片の平行部の厚みと幅との比も厳格に管理する必要がある。引張試験片の絞り変形時には、くびれ変形が厚み方向と幅方向との2方向から発生する。当然ながら、実部品の成形時に破断が生じる際は、厚み方向のくびれ変形が破断の支配要因であり、幅方向のくびれ変形の影響はごく小さい。そのため、引張試験片を用いた評価では、幅方向のくびれ変形の影響を除去する必要があるので、平行部の幅/平行部の厚みの比を2以上とする必要がある。幅/厚みの比は、大きいほど好ましく、より好ましくは4以上、さらに好ましくは6以上である。また、絞りは、引張破断前後における厚みの変化から、(1)式を用いて算出する。
 “絞り(%)”=((“試験前の板厚”-“破断後の板厚”)/“試験前の板厚”)×100 ・・・(1)
 なお、試験前における厚みは、平行部の幅の中央部と、中央部から引張方向に垂直かつ幅方向に平行な向きにそれぞれ1mm離れた2つのポイントの厚みとをマイクロメーターで測定し、3点での測定値を平均することにより求める。破断後のサンプルの厚みの測定は、例えばキーエンス製のマイクロスコープ(VHX-1000)を用いて実施し、試験前と同様に、破断によって2つに分かれたサンプルの各破断面における幅中央部、および幅方向に1mm離れた位置における厚みをそれぞれ測定し、6点での測定値の平均を試験後の厚みとする。上記の試験にて10%以上の高い絞りを示すサンプルを「優れた絞り」を有するサンプルとして評価した。
[0067]
 次に、本実施形態に係る鋼板の製造方法について説明する。
[0068]
 本実施形態に係る鋼板の製造方法の技術的思想は、上述した成分範囲の材料を用いて、熱間圧延と焼鈍との条件の一貫して管理することを特徴としている。
[0069]
 本実施形態に係る鋼板の具体的な製造方法の特徴は以下の通りである。
[0070]
 熱間圧延(熱延)は、所定の成分を有するスラブを連続鋳造後、常法通りそのまま、または一旦冷却した後に加熱してから、熱間で圧延する際に、600℃以上、1000℃未満の温度域にて仕上げ熱間圧延を終了することを特徴とする。仕上げ圧延後の鋼帯を、ランアウトテーブル(ROT)上で10℃/秒以上、100℃/秒以下の冷却速度で冷却後に350℃以上、700℃未満の温度範囲で捲き取ることにより熱延コイルを得る。熱延コイルに熱延板箱焼鈍を施し、次いで10%以上、80%以下の冷延率で冷間圧延を施して、さらに冷延板焼鈍を施すことにより、高い歪速度での変形において優れた絞りを有する中・高炭素鋼板を得る。
[0071]
 以下に、本実施形態に係る鋼板の製造方法について具体的に説明してゆく。
[0072]
 (熱間圧延)
 所定の成分を有するスラブ(鋼片)を連続鋳造後、直接、または一旦冷却後に加熱してから、熱間で圧延する際に、600℃以上、1000℃未満の温度域にて仕上げ熱延を完了し、得られた鋼帯を、350℃以上、700℃未満の温度範囲で捲き取る。
[0073]
 スラブの加熱温度は950℃以上、1250℃以下とし、加熱時間は0.5時間以上、3時間以下とする。加熱温度が1250℃を超え、あるいは加熱時間が3時間を超える場合は、スラブ表層からの脱炭が顕著になり、焼入れの熱処理を施したとしても表層の硬さが低下するので、部品が必要とする耐摩耗性などを得られなくなる。このため、加熱温度の上限は1250℃以下、加熱時間の上限は3時間以下とする。また、加熱温度が950℃未満であり、あるいは加熱時間が0.5時間未満の場合は、鋳造の際に形成されたミクロ偏析やマクロ偏析が解消せず、鋼材内部にSiおよびMn等の合金元素が局所的に濃化する領域が残存し、この領域が高い歪速度での変形における絞りの低下を招く。このため、加熱温度の下限を950℃以上とし、加熱時間の下限を0.5時間以上とする。
[0074]
 仕上げ熱延は600℃以上、1000℃以下で終了させることが好ましい。仕上げ熱延温度が600℃未満であると、鋼材の変形抵抗の増加により、圧延負荷が顕著に高まり、更にロール磨耗量の増大を招くので、生産性の低下を引き起こす。このため仕上げ熱延温度を600℃以上とする。また、仕上げ熱延温度が1000℃を越えると、鋼板がRunOutTableを通板中に、厚いスケールが鋼板に生成し、このスケールが酸素源となり捲取後にフェライトもしくはパーライトの粒界を酸化させることにより、微細な凹凸が表面に生じる。微細な凹凸を起点として、高い歪速度での変形時に鋼板が早期に破断するので、微細な凹凸は絞りの低下を引き起こす。さらに、仕上げ熱延温度が1000℃を越えると、仕上げ熱延後にオーステナイト粒界へのSi、およびMn等の合金元素の偏析が促進し、オーステナイト粒内における合金元素の濃度が低下するので、合金元素の濃度の希薄な部位で、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍時に炭化物の凝集が進み、結晶界面を有する炭化物の個数割合が増加する。このため、仕上げ熱延温度を1000℃以下とする。
[0075]
 仕上げ熱延後のROTでの鋼帯の冷却速度は10℃/秒以上、100℃/秒以下とする。冷却速度が10℃/秒未満である場合、冷却速度が緩やかなので、フェライトの成長が促され、フェライト、パーライト、及びベイナイトが鋼帯の板厚方向に積層した組織が熱延板に形成される。このような組織は、冷延焼鈍後にも残り、鋼板の絞りの低下を招くので、冷却速度を10℃/秒以上とする。また、全板厚にわたり100℃/秒を超える冷却速度で鋼帯を冷却すると、最表層部が過剰に冷却され、ベイナイトおよびマルテンサイトなどの低温変態組織を生じる。捲き取り後に100℃~室温まで冷却されたコイルを払い出す際には、前述の低温変態組織に微小クラックが発生する。続く酸洗及び冷延工程においてクラックを取り除くことは難しく、クラックは冷延板焼鈍後の鋼板の絞り低下を招く。このため、冷却速度を100℃/秒以下とする。なお、上記で定める冷却速度は、仕上げ熱延後の鋼帯が無注水区間を通過後に注水区間で水冷却を受ける時点から、捲取の目標温度までROT上で冷却される時点までに、各注水区間の冷却設備から受ける冷却能を指しており、注水開始点から捲取機により捲取られるまでの平均冷却速度を示すものではない。
[0076]
 捲き取り温度は350℃以上、700℃以下とする。捲き取り温度が350℃未満であると、仕上げ圧延中に未変態であったオーステナイトがマルテンサイトに変態し、冷延板焼鈍後においても微細なフェライトとセメンタイトが維持され、絞りの低下を招くので、捲き取り温度を350℃以上とする。また、捲き取り温度が700℃を越えると、未変態のオーステナイトが粗大なラメラーをもつパーライトに変態し、冷延板焼鈍後にも分厚い針状のセメンタイトが残留するので、絞りの低下を引き起こす。このため捲き取り温度を700℃以下とする。
[0077]
 前述の条件で製造した熱延コイルに、そのまま、あるいは酸洗後に、箱焼鈍を施す。焼鈍温度は670℃以上770℃以下とし、保持時間は1時間以上、100時間以下とする。
[0078]
 箱焼鈍温度は670℃以上770℃以下とすることが好ましい。焼鈍温度が670℃未満であると、フェライト粒および炭化物粒子の粗大化が不十分であり、高い歪速度での変形における絞りの低下を引き起こす。このため焼鈍温度を670℃以上とする。また、焼鈍温度が770℃を超えると、フェライトとオーステナイトとの2相域焼鈍におけるフェライトの組織比率が少なくなりすぎるので、箱焼鈍で1℃/hrの極めて遅い冷却速度で室温まで冷却しても、ラメラー間隔の粗大なパーライトの生成を避けることはできず、冷延板焼鈍後の球状化率を低下させるので、高い歪速度での変形における絞りを低下させる。このため、焼鈍温度を770℃以下とする。焼鈍温度は好ましくは685℃以上、760℃以下である。
[0079]
 箱焼鈍の保持時間は1時間以上、100時間以下とすることが好ましい。保持時間が1時間未満であると、熱延板焼鈍での炭化物の球状化が十分ではなく、冷延板焼鈍後も球状化率が低いので、絞りの低下を引き起こす。このため、箱焼鈍の保持時間を1時間以上とする。保持時間が100時間を超えるような条件では、生産性の低下、および炭化物の合体あるいは接触による界面の形成を招くので、箱焼鈍の保持時間を100時間以下とする。箱焼鈍の保持時間の下限は、好ましくは2時間、さらに好ましくは5時間であり、上限は、好ましくは70時間であり、さらに好ましくは38時間である。
[0080]
 なお、箱焼鈍の雰囲気は特に限定せず、95%以上窒素の雰囲気、95%以上水素の雰囲気、または大気雰囲気のいずれでも良い。
[0081]
 次に冷間圧延を10%以上、80%以下の冷延率で実施する理由を述べる。前述の熱延-熱延板焼鈍の工程において、熱延板焼鈍の前後のいずれかで酸洗を施した熱延板焼鈍コイルを10%以上、80%以下の冷延率で冷延する。冷延率が10%未満の場合は、冷延板焼鈍において、フェライトの再結晶の核の数が少なく、フェライト粒径が粗大化し、高い歪速度での変形において鋼板表面に発生する梨地を起点として破断するので絞りが低下する。このため、冷延率の下限を10%とする。また、冷延率が80%を超えると、フェライトの再結晶の核の数が多いので、冷延板焼鈍後に得られるフェライトの粒径が微細になりすぎ、変形能が低下するので高い歪速度での変形における絞りの低下を引き起こす。このため、冷延率の上限を80%とする。
[0082]
 前述の冷延率で冷延した鋼帯に冷延板焼鈍を施すことにより、高い歪速度での変形において優れた絞りを有する中・高炭素鋼板を得ることができる。
[0083]
 なお、冷延板焼鈍では、冷延により導入された転位などの格子欠陥が存在することにより、鋼中の各元素の拡散頻度が高まる。これにより、冷延板焼鈍では、炭化物粒子がオストワルド成長し、粗大化した炭化物粒子が互いに接触して一つの粒子を形成し、炭化物粒子の内部に結晶界面を形成する変化が起こりやすくなる。長時間の焼鈍では上記の炭化物粒子の変化が一層顕著になるので、冷延板焼鈍は連続焼鈍炉で行うことが望ましい。
[0084]
 続いて連続焼鈍による冷延板焼鈍の条件を述べる。連続焼鈍は焼鈍温度650℃以上、780℃以下、保持時間は30秒以上、1800秒以下で実施することが望ましい。焼鈍温度が650℃未満であると、冷延板焼鈍後に得られるフェライトのサイズが微細であり、変形能が低いので、高い歪速度での変形における絞りの低下を招く。このため焼鈍温度の下限を650℃とする。また焼鈍温度が780℃を越えると、焼鈍中に生成するオーステナイトの比率が増加しすぎるので、冷却後にマルテンサイト、ベイナイト、パーライト、及び残留オーステナイトの生成を抑制することができず、絞りの低下を招く。このため焼鈍温度の上限を780℃とする。さらに保持時間が30秒未満であると、冷延板焼鈍後に得られるフェライトのサイズが微細となるので、絞りが低下する。このため保持時間の下限を30秒とする。また、保持時間が1800秒を超えると、冷延板焼鈍中に炭化物粒子が成長する過程で、互いの炭化物粒子が接触し、粒子の中に結晶界面を有するようになり、絞りは低下する。このため、焼鈍時間の上限を1800秒以下とする。なお、冷延板焼鈍における加熱速度、冷却速度、OA帯(過時効帯)の温度は特に限定しないものの、本実施形態にかかる試験検討では、加熱速度は3.5℃/秒以上、35℃/秒以下、冷却速度は1℃/秒以上、30℃/秒以下、OA帯の温度は250℃以上、450℃以下の条件においては、狙いとする本実施形態に係る鋼板の形態が十分に得られることを確認していることを付記しておく。
[0085]
 以上の本実施形態に係る鋼板の製造方法によれば、フェライトと炭化物とが主体の組織とし、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、および残留オーステナイトを合計した体積率を5%以下とし、炭化物粒子の球状化率を70%以上99%以下とし、炭化物粒子の中に方位差5°以上の結晶界面を含む炭化物粒子の個数割合を炭化物粒子の総個数に対して20%以下とすることにより、絞り、穴拡げ、増肉、減肉等の塑性加工、あるいはそれらを組み合わせた冷間鍛造を高い歪速度で施す際に優れた成形性を発揮する中・高炭素鋼板を得ることができる。
実施例
[0086]
 次に実施例により本発明の効果を説明する。
[0087]
 実施例の水準は、本発明の実施可能性ならびに効果を確認するために採用した実行条件の一例であり、本発明はこの一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明要旨を逸脱せず、本発明目的を達する限りにおいては、種々の条件を採用可能とするものである。
[0088]
 表1に示す成分組成を有する連続鋳造鋳片(鋼塊)を、1140℃で1.6hr加熱後に熱間圧延し、これにより得られた厚さ250mmのスラブを厚さ40mmまで粗熱延後、仕上げ熱延素材の粗バーを36℃昇温させ、仕上げ熱延を開始し、880℃で仕上げ熱延後、ROT上で45℃/秒の冷却速度で520℃まで冷却し、510℃で捲き取り、これにより板厚4.6mmの熱延コイルを製造した。熱延コイルを酸洗し、箱型焼鈍炉内にコイルを装入し、雰囲気を95%水素-5%窒素に制御した後に、室温から500℃までの加熱速度を100℃/時間として加熱し、500℃で3時間保持してコイル内の温度分布を均一化した後に、30℃/時間の加熱速度で705℃まで加熱し、さらに705℃で24時間保持後に室温まで炉冷した。熱延板焼鈍を施したコイルを50%の圧下率にて冷延し、720℃で900秒保持する冷延板焼鈍を施し、1.2%の圧下率にて調質圧延を施して、特性評価用のサンプルを作製した。サンプルの組織および高い歪速度での変形における絞りは、上述した方法にて測定した。
[0089]
 表2-1および表2-2に製造したサンプルの高い歪速度での変形における絞りの評価結果を示す。表2-1および表2-2に示すように、発明例のNo.B-1、C-1、D-1、E-1、F-1、G-1、H-1、I-1、J-1、M-1、N-1、P-1、Q-1、R-1、S-1、U-1、X-1、Y-1、Z-1、AA-1、AB-1、AC-1は、いずれもマルテンサイト、ベイナイト、パーライト、及び残留オーステナイトを合計した体積率が5%以下であり、炭化物粒子の球状化率が70%以上99%以下であり、炭化物粒子の中に方位差5°以上の結晶界面を含む炭化物粒子の個数割合が炭化物粒子の総個数に対して20%以下であり、高い歪速度での変形において優れた絞りを示した。
[0090]
 これに対して、比較例A-1は結晶界面を有する炭化物の割合は少なく、高い歪速度での変形において優れた絞りを示すものの、C含有量が少なく、部品化のための焼入れ工程にて高強度化できないので不合格とした。比較例K-1はMn含有量が少なく、冷延板焼鈍において炭化物のオストワルド成長が促進され、結晶界面を有する炭化物の割合が増加したので、絞りの低下を招いた。比較例L-1はPの含有量が多く、フェライト粒界が脆化し、高い歪速度での変形時にフェライト粒界から亀裂が発生及び伝播したので、絞りの低下を招いた。比較例O-1はMn含有量が多く、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍での炭化物の球状化が抑制され、高い歪速度での変形時に針状の炭化物から亀裂が発生し、伝播したので絞りが低下した。比較例T-1はSi含有量が少ないので、冷延板焼鈍において炭化物のオストワルド成長が促進され、結晶界面を有する炭化物の割合が増加し、絞りの低下を招いた。比較例V-1はS含有量が多く、鋼中に粗大なMnSなどの介在物が多く存在し、介在物を起点として亀裂が発生及び進展したので、絞りの低下を招いた。比較例W-1はSi含有量が多く、冷延板焼鈍中に生成したオーステナイトが冷却中にフェライト変態しにくくなり、ベイナイト及びパーライト変態を促したので、フェライトと炭化物以外の組織割合が増加することによりフェライト粒界への応力集中を招き、絞りが低下した。比較例AD-1はCの含有量および炭化物の体積率が多いので、結晶界面を有する炭化物の個数割合を20%以下に制御することができず、絞りが低下した。
[0091]
[表1]


[0092]
[表2-1]


[0093]
[表2-2]


[0094]
 次に、その他元素の許容される含有量の範囲を調べるために、表3-1、表3-2、および表3-3ならびに表4-1、表4-2、および表4-3に示す成分組成を有する連続鋳造鋳片(鋼塊)を、1180℃で0.7hr加熱後に熱間圧延し、これにより得られた厚さ250mmのスラブを厚さ45mmまで粗熱延後、仕上げ熱延素材の粗バーを48℃昇温させ、仕上げ熱延を開始し、870℃で仕上げ熱延後、ROT上で45℃/秒の冷却速度で510℃まで冷却し、500℃で捲き取り、これにより板厚2.6mmの熱延コイルを製造した。熱延コイルを酸洗し、箱型焼鈍炉内にコイルを装入し、雰囲気を95%水素-5%窒素に制御した後に、室温から500℃までの加熱温度を100℃/時間として加熱し、500℃で3時間保持してコイル内の温度分布を均一化した後に、30℃/時間の加熱速度で705℃まで加熱し、さらに705℃で24時間保持後に室温まで炉冷した。熱延板焼鈍を施したコイルを50%の圧下率にて冷延し、700℃で900秒保持する冷延板焼鈍を施し、1.0%の圧下率にて調質圧延を施して、特性評価用のサンプルを作製した。
[0095]
 表5-1~表5-6に製造したサンプルの高い歪速度での変形での絞りの評価結果を示す。表5-1~表5-6に示すように、発明例のNo.AE-1、AF-1、AL-1、AM-1、AN-1、AR-1、AS-1、AV-1、AW-1、AX-1、BC-1、BD-1、BF-1、BH-1、BI-1、BJ-1、BK-1、BM-1、BN-1、BT-1は、いずれもマルテンサイト、ベイナイト、パーライト、及び残留オーステナイトを合計した体積率が5%以下(0.0%を含む)であり、炭化物粒子の球状化率が70%以上99%以下であり、炭化物粒子の中に方位差5°以上の結晶界面を含む炭化物粒子の個数割合が炭化物粒子の総個数に対して20%以下であり、高い歪速度での変形において優れた絞りを示した。
[0096]
 これに対して、比較例AG-1、AH-1、AO-1,AT-1,AU-1、AZ-1、BA-1、BB-1、BO-1、BS-1はそれぞれCe、Ca、Y、Al、Mg、As、Zr、Sn、Sb、Laの含有量が多いのでフェライトの粒界の脆化を招き、高い歪速度での変形時に絞りが低下した。比較例AI-1、AJ-1、AK-1、AQ-1、BE-1、BG-1、BL-1、BQ-1、BR-1はNb、W、Ti、Ni、Cr、Mo、V、Cu、Taの含有量が多く、熱延板焼鈍及び冷延板焼鈍での炭化物の球状化が抑制され、高い歪速度での変形時に針状の炭化物から亀裂が発生し、伝播したので絞りが低下した。比較例AP-1はNの含有量が多く、冷延板焼鈍中に生成したオーステナイトが冷却中にフェライト変態しにくくなり、ベイナイト及びパーライト変態を促したので、フェライトと炭化物以外の組織割合が増加することによりフェライト粒界への応力集中を招き、絞りが低下した。比較例AY-1はOの含有量が多く、鋼中に粗大な酸化物を形成し、高い歪速度での変形において粗大な酸化物を起点として亀裂が発生及び伝播し、絞りの低下を招いた。比較例BP-1はBの含有量が多く、鋼中に粗大なFe-B-Carbideが生成したので、Fe-B-Carbideを起点として亀裂が発生及び伝播し、絞りの低下を招いた。
[0097]
[表3-1]


[0098]
[表3-2]


[0099]
[表3-3]


[0100]
[表4-1]


[0101]
[表4-2]


[0102]
[表4-3]


[0103]
[表5-1]


[0104]
[表5-2]


[0105]
[表5-3]


[0106]
[表5-4]


[0107]
[表5-5]


[0108]
[表5-6]


[0109]
 続いて製造条件の影響を調べるために、表1、表3-1~表3-3及び表4-1~表4-3に示すNo.B、C、D、E、F、G、H、I、J、M、N、P、Q、R、S、U、X、Y、Z、AA、AB、AC、AE、AF、AL、AM、AN、AR、AS、AV、AW、AX、BC、BD、BF、BH、BI、BJ、BK、BM、BN、BTの成分をもつスラブを鋳造し、一旦冷却後に表6-1-1、表6-1-2、表6-2-1、表6-2-2、表7-1-1、表7-1-2、表7-2-1、表7-2-2、表8-1-1~表8-1-3、表8-2-1~表8-2-3、表9-1-1~表9-1-3、および表9-2-1~表9-2-3(以下単に表6、7、8、9と称す)に示すスラブ加熱条件及び熱延条件にて板厚3.5mmの熱延鋼帯を製造し、熱延板焼鈍、酸洗、冷延、冷延板焼鈍を施して特性評価のためのサンプルを作製した。
[0110]
 表6、7、8、9に製造したサンプルの高い歪速度での変形における絞りの評価結果も示す。発明例のNo.B-2、C-2、D-2、E-2、J-2、N-2、Q-2、X-2、Y-2、Z-2、AB-2、AC-2、AL-2、AN-2、AS-2、AV-2、BC-2、BD-2、BH-2、BI-2、BJ-2、BN-2、F-3、G-3、H-3、I-3、M-3、N-3、P-3、R-3、S-3、U-3、AA-3、AB-3、AE-3、AF-3、AM-3、AR-3、AW-3、AX-3、BF-3、BK-3、BM-3、BT-3は、表8に示すように、いずれもマルテンサイト、ベイナイト、パーライト、および残留オーステナイトを合計した体積率が5%以下であり、炭化物粒子の球状化率が70%以上99%以下であり、炭化物粒子の中に方位差5°以上の結晶界面を含む炭化物粒子の個数割合が炭化物粒子の総個数に対して20%以下であり、高い歪速度での変形において優れた絞りを示した。
[0111]
 これに対して比較例AA-2、BK-2、C-3、BJ-3は、表6、7に示すように、仕上げ熱延温度が高く、結晶界面を有する炭化物の個数割合が増加したとともに、巻取りまでの冷却の間に生成した分厚いスケールが酸素供給源となり、巻取り後に粒界を酸化し、表面に微細なクラックを生むことで、高い歪速度での変形において表層のクラックを起点とし亀裂が伝播するので、絞りの低下を招いた。比較例R-2、BM-2、X-3、BC-3は仕上げ熱延温度が低く、熱延時にスケールを巻き込んで圧延する際、鋼板表面に凹凸を形成し、高い歪速度での変形においては表面凹凸を起点として亀裂が発生及び進展したので、絞りが低下した。比較例U-2、AR-2、Y-3、AL-3は巻き取り温度が高く、針状で大きな厚みをもつ炭化物が熱延板で生成し、冷延板焼鈍後においても針状炭化物の球状化が進まないので、針状の炭化物を起点として亀裂が発生及び伝播し、絞りが低下した。比較例H-2、AM-2、Q-3、BI-3は巻き取り温度が低く、熱延板の組織が微細であり、冷延板焼鈍後の組織も微細なため変形能が低下し、高い歪速度での変形における絞りは低下した。
[0112]
 比較例G-2、AE-2、J-3、BD-3は、表6、7に示すように、冷延率が高いので冷延板焼鈍後の組織が微細となり、変形能が低下し、絞りの低下を招いた。比較例S-2、AW-2、AC-3、BH-3は冷延率が低いので、冷延板焼鈍後のフェライト粒径が粗大となり、高い歪速度での変形において表層に梨地が発生し、形成された表面凹凸をもとに亀裂が発生及び進展したので、絞りの低下を招いた。比較例M-2、BT-2、Z-3、AS-3は冷延板焼鈍の温度が高いので、焼鈍中に生成するオーステナイトの相比が多くなり、冷却過程でマルテンサイト、ベイナイト、パーライト変態を抑制できないので、高い歪速度での変形において絞りが低下した。比較例P-2、BF-2、E-3、BN-3は冷延板焼鈍の温度が低く、フェライト粒径が微細なので変形能が低下し、高い歪速度での変形における絞りは低下した。比較例I-2、AX-2、D-3、AN-3は冷延板焼鈍時間が長く、炭化物粒子が粗大化する過程でお互いに接触し、粒子内部に結晶界面を有するようになるので、絞りの低下を招いた。比較例F-2、AF-2、B-3、AV-3は冷延板焼鈍時間が短く、フェライトが微細なので変形能が低下し、高い歪速度での変形における絞りは低下した。
[0113]
[表6-1-1]


[0114]
[表6-1-2]


[0115]
[表6-2-1]


[0116]
[表6-2-2]


[0117]
[表7-1-1]


[0118]
[表7-1-2]


[0119]
[表7-2-1]


[0120]
[表7-2-2]


[0121]
[表8-1-1]


[0122]
[表8-1-2]


[0123]
[表8-1-3]


[0124]
[表8-2-1]


[0125]
[表8-2-2]


[0126]
[表8-2-3]


[0127]
[表9-1-1]


[0128]
[表9-1-2]


[0129]
[表9-1-3]


[0130]
[表9-2-1]


[0131]
[表9-2-2]


[0132]
[表9-2-3]


[0133]
 図1に、高い歪速度での変形における鋼板の絞りを評価するための試験片形状を示す。試験片の平行部は1.5mmであり、当該試験片を900mm/分のストローク速度で引張り、試験片を破断させ、試験前後における平行部中央の板厚変化から鋼板の絞りを求めた。
[0134]
 図2に、高い歪速度での変形を伸び率13.4%で停止させた後のサンプルを3%硝酸-アルコール溶液を用いてエッチングすることによりフェライトと炭化物とを現出させた、実施例U-1の組織を示す。炭化物の割れが炭化物粒子の中に存在する結晶界面から発生することは明らかである。
[0135]
 図3に、表2-1および表2-2の発明例および比較例、並びに表5-1~表5-6、表6、表7、表8、及び表9の発明例および比較例に関する、高い歪速度での変形における絞りと、全炭化物の個数に対する炭化物粒子の中に結晶界面を有する炭化物の個数割合との関係を示す。成分を発明の範囲に調整し、かつ結晶界面を有する炭化物の個数割合を20%以下とすることで、絞りが著しく改善することがわかる。

請求の範囲

[請求項1]
 質量%で、
C:0.10~1.50%、
Si:0.01~1.00%、
Mn:0.01~3.00%、
P:0.0001~0.1000%、
S:0.0001~0.1000%、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる成分を有する鋼板であり、
 前記鋼板が、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、および残留オーステナイトを合計した体積率が5.0%以下であり、残部がフェライトと炭化物とである組織を有し、
 炭化物粒子の球状化率が70%以上99%以下であり、
 前記炭化物粒子の中に方位差5°以上の結晶界面を含む前記炭化物粒子の個数割合が、前記炭化物粒子の総個数に対して20%以下である
ことを特徴とする中・高炭素鋼板。
[請求項2]
 前記鋼板の前記成分が、質量%で、さらに、
Al:0.001~0.500%、
N:0.0001~0.0500%、
O:0.0001~0.0500%
Cr:0.001~2.000%、
Mo:0.001~2.000%、
Ni:0.001~2.000%、
Cu:0.001~1.000%、
Nb:0.001~1.000%、
V:0.001~1.000%、
Ti:0.001~1.000%、
B:0.0001~0.0500%、
W:0.001~1.000%、
Ta:0.001~1.000%、
Sn:0.001~0.020%、
Sb:0.001~0.020%、
As:0.001~0.020%、
Mg:0.0001~0.0200%、
Ca:0.001~0.020%、
Y:0.001~0.020%、
Zr:0.001~0.020%、
La:0.001~0.020%、
Ce:0.001~0.020%、
の内の1種または2種以上を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の中・高炭素鋼板。
[請求項3]
 請求項1または2に記載の前記成分を有する鋼片を、直接、または一旦冷却後、加熱し熱間圧延する際に、600℃以上1000℃以下の温度域で仕上げ熱延を完了し、
 350℃以上700℃以下で捲取った熱延鋼板を箱焼鈍し、
 10%以上80%以下の冷間圧延を施し、
 その後の冷延板焼鈍を、連続焼鈍ラインにおいて焼鈍温度を650℃以上780℃以下、保持時間を30秒以上1800秒以下で実施する
ことを特徴とする中・高炭素鋼板及びその製造方法。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]