明 細 書
技術分野
[0001]
本発明は、微粉炭の供給位置を最適化することにより、仮焼炉出口における燃料の未燃率低減を可能とする流動仮焼炉に関するものである。
背景技術
[0002]
従来、図7に示すように、流動仮焼炉11を備えたセメント製造設備10においては、サスペンションプレヒータ7において、高温ガスとの熱交換により加熱された原料が、サスペンションプレヒータ7の下段サイクロン8から排出され、その一部がロータリキルン排ガス導管9の中に分散投入され、残りが流動仮焼炉11の原料供給シュート12に供給されている。
[0003]
この流動仮焼炉11においては、流動化空気吹込口13、エアチャンバ13aおよび空気分散板14を通じて空気が吹き込まれ、流動層15が形成される。その際、上記空気は、微粉炭供給管16から供給される燃料の一部を燃焼させるとともに、被仮焼原料を流動層15に所定時間滞留させた後に、当該流動層15上方のフリーボード17に飛散させる。また、高温のクリンカクーラ18からの高温空気が吸引口19から略接線方向に吸引され、フリーボード17においても、微粉炭供給管16から供給される燃料が燃焼する。それにより、上部原料供給シュート12から投入された原料および流動層15表面より上方に飛散した原料が効率良くかつ迅速に仮焼される。
[0004]
そして、仮焼された原料は、その全量が仮焼炉排ガスに同伴されて分離サイクロン21に入る。一方、ロータリキルン排ガス導管9内に分散投入された原料も高温のロータリキルン排ガスによって一部が仮焼され、当該ロータリキルン排ガスとともに分離サイクロン21に入る。さらに、分離サイクロン21で捕集された仮焼原料は、原料シュート22を経てロータリキルン20に導入される。
[0005]
他方、クリンカクーラ18で発生した高温空気は、誘引ファン23の吸引力によって、ロータリキルン20と流動仮焼炉11とに各々吸引される。しかし、通風抵抗の小さいロータリキルン20への吸引量が過大になるため、ロータリキルン排ガス導管9の一部において、断面積を縮小するとともに、流動仮焼炉11への吸引量をダンパ24によって調整している。
[0006]
ところで、流動仮焼炉において、セメント原料を仮焼する燃料として、石炭などの固形燃料を用いることが一般的である。その中でも、燃焼性の良い瀝青炭を微粉末に粉砕して使用している。しかし、限られた資源を有効活用するために、燃焼性の悪い石炭やオイルコークスといった幅広い種類の燃料の使用が求められている。
[0007]
一方で、上記従来の流動仮焼炉においては、その底部にセメント原料によって形成された厚い流動層に対して、従来は炉体の側面の1箇所に接続された微粉炭供給管16から微粉炭を吹き込んでいるために、微粉炭が十分に分散されずに微粉炭濃度に偏りを生じたままフリーボード17から出口側へと流れていってしまう傾向になる。
[0008]
この結果、微粉炭の濃度が高いところでは酸素不足になり、逆に濃度が低いところでは酸素が余剰になって酸素消費が不均一になり、炉内で不完全燃焼が生じてチャー反応率が低下するという問題点があった。
[0009]
加えて、流動仮焼炉11の出口における微粉炭のチャー反応率が低くなり、排ガスダクトに多く残った未燃炭素がプレヒータ7において燃焼することにより、プレヒータ7におけるガス温度が高くなって、サイクロンや原料シュートにおいて付着物が生成することによりサイクロンの出入り口や導管での閉塞が多発し、運転の支障となるといった問題点があった。
[0010]
他方、下記特許文献1においては、筒軸心方向を上下方向とした筒状の炉体と、該炉体の底部に略水平に設けられた空気分散板および該空気分散板の下側のエアチャンバと、該空気分散板の上側の原料を供給する原料供給シュートと、該空気分散板の上側の流動層に固形燃料を供給する燃料供給ノズルと、該空気分散板の上側に2次空気(抽気空気)を供給する2次空気ダクトとを有するセメント原料の流動仮焼炉において、該燃料供給ノズルは、水平面に対し20°以上の下り勾配にて、かつ求心方向よりもタンゼンシャル側に偏向して該炉体に接続されているセメント原料の流動仮焼炉が提案されている。
[0011]
上記従来のセメント原料の流動仮焼炉は、燃料の燃焼により原料を仮焼させるものであるが、上記燃料供給ノズルの接続位置などは、経験値に基づくものであり、流動仮焼炉内での原料濃度やガス濃度(特に、O
2)の分布の有無などが考慮されていないため、燃料に石炭やコークスなどの燃焼性の悪い微粉炭を使用した際に、十分な仮焼が行えない上に、導管の閉塞により運転に支障が生じるという問題がある。
[0012]
また、炉体などの耐火物については、燃焼性能が高くなりすぎると、炉壁付近の温度が局所的に高くなり過ぎてしまい、焼損する可能性が高いという問題が生じる。
先行技術文献
特許文献
[0013]
特許文献1 : 特開平8-231254号公報
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0014]
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、燃料に石炭やコークスなどの燃焼性の悪い微粉炭を使用しても、流動仮焼炉出口における未燃率を低減させて、プレヒータでの閉塞を防止しつつ、十分な仮焼を行うことが可能な流動仮焼炉を提供することを課題とするものである。
課題を解決するための手段
[0015]
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明に係る流動仮焼炉は、軸心方向を上下方向に向けて配置されるとともに上端部が天板によって塞がれた筒状の炉体の下部側壁に、当該炉体内に燃料を吹き込む複数の微粉炭吹込ラインおよびセメント原料を投入する原料シュートならびに周方向に順次間隔をおいて配置されて当該炉体内に抽気空気を導入するための第1~第4の抽気導管が接続され、上記炉体の底部に当該炉体内に流動化空気を吹き込む流動化空気吹込口が配設されるとともに、上記第1および/または第2の抽気導管の上方に位置する上記炉体の上部側壁に、上記天板との間に間隔をおいて上記炉体内のセメント原料を含む燃焼ガスを流出させる排気ダクトが接続されてなり、かつ上記微粉炭吹込ラインの吹込口は、各々上記抽気導管の吸引口の下方であり、かつ上記流動化空気吹込口の上方に配設されるとともに、そのうちの1つの上記微粉炭吹込ラインの吹込口は、上記第3または第4の抽気導管の下方に配置されていることを特徴とするものである。
[0016]
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記微粉炭吹込ラインの上記吹込口は、2箇所に配設されていることを特徴とするものである。
[0017]
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記原料シュートは、上記第1の抽気導管に隣接して配置されるとともに、上記微粉炭吹込ラインの吹込口は、上記第1の抽気導管に対して径方向に対向する第3の抽気導管の下方に配置されていることを特徴とするものである。
発明の効果
[0018]
請求項1~3のいずれかに記載の発明によれば、筒状の炉体の上端部を天板によって塞ぎ、上記炉体の上部側壁に、上記天板との間に間隔をおいて炉体内の空気を流出させる排気ダクトを接続しているために、炉体の上部に、排気ダクトへと流れるセメント原料、微粉炭および炉内ガスの混合流体のミキシングチャンバーが形成されている。
[0019]
そして、当該ミキシングチャンバーにおいて、炉内ガスと微粉炭との混合を促進させて燃焼性を向上させることができる。また、混合によりセメント原料、微粉炭および炉内ガスの熱交換も促進されるため、セメント原料の脱炭酸率を向上させることができる。
[0020]
ところで、単に上述したように炉体の上部側壁に排気ダクトを接続すると、炉内における微粉炭の濃度が、排気ダクトからの吸引力によって当該排気ダクトを接続した側壁側で高くなり、上記側壁から離れた位置において相対的に低くなる。このため、微粉炭を1箇所から吹き込んだ場合に、両者の相乗効果によって、一層微粉炭の分散性が悪化するおそれがある。
[0021]
これに対して、本発明においては、複数の微粉炭吹込ラインの吹込口を、各々抽気導管の吸引口の下方であって、流動化空気吹込口の上方に配設するとともに、そのうちの1つの吹込口を、排気ダクトが接続された位置から離間した位置に配置しているために、炉内に微粉炭を効果的に分散させて燃焼を良化することができる。
[0022]
この結果、上記排ガスダクトの接続位置との協働により、炉体上部の出口における燃料の未燃率を低下させ、プレヒータ内の温度を低く抑えてサイクロンや原料シュートでのプレヒータでの閉塞を防ぎ、円滑かつ良好な運転を行うことが可能になる。
[0023]
さらに、請求項2に記載の発明によれば、後述する数値流体力学計算に見られるように、少なくとも1つの微粉炭の吹込口を排気ダクトが接続された位置から離間した位置に配置することにより、上記微粉炭吹込口を合計2箇所に配設することにより、第1~第4の抽気導管の全ての下方(合計4箇所)に配設した場合と略同等の効果を得ることができる。このため、設備コストを抑えることができるとともに、管理が容易になるために経済的である。
[0024]
さらに、請求項3に記載の発明によれば、上記原料シュートが第1の抽気導管に隣接して配置されている場合に、上記微粉炭の吹込口を、第1の抽気導管に対して径方向に対向する第3の抽気導管の下方に配置することにより、一層チャー反応率やセメント原料の脱炭酸率を向上させることが可能になる。
図面の簡単な説明
[0025]
[図1] 図1は、本発明の流動仮焼炉の一実施形態を示す縦断面図である。
[図2] 図2は、図1の流動仮焼炉における微粉炭粒子の主な軌跡を示す斜視図である。
[図3] 図3は、本発明の実施例における微粉炭の吹込口の配置図である。
[図4] 図4は、比較例における微粉炭の吹込口の配置図である。
[図5] 図5は、上記数値流体力学計算による図4の比較例5の炉体内の微粉炭濃度分布図である。
[図6] 図6は、上記数値流体力学計算による図4の比較例5の炉体内酸素濃度の分布図である。
[図7] 図7は、従来の流動仮焼炉を備えたセメント製造設備を示す概略構成図である。
発明を実施するための形態
[0026]
図1および図3は、本発明の流動仮焼炉の実施形態を示すものである。
これらの図において、本実施形態の流動仮焼炉1は、炉体2内に燃料を吹き込む複数の微粉炭吹込ライン3と、セメント原料を投入する原料シュート4と、炉体2内に抽気空気を導入するための第1~第4の抽気導管5a~5dと、炉体2内のセメント原料を含む燃焼ガスを流出させる排気ダクト6が炉体2に接続されるとともに、炉体2の底部に当該炉体2内に流動化空気を吹き込む流動化空気吹込口2aが形成されることによって概略構成されたものである。
[0027]
ここで、炉体2は、内径が5.0~6.5mの円筒状に形成されたもので、軸心方向を上下方向に向けて配置されるとともに上端部が天板2bによって塞がれている。
また、第1~第4の4本の抽気導管5a~5dは、その中心線と水平面とのなす角度が55~65°の範囲の下り勾配に配管されて炉体2の下部側部に接続されている。
[0028]
これら第1~第4の抽気導管5a~5dは、各々の吸引口の中心が同一円周上に配置され、かつ炉底部に均等に空気を供給する観点から、順次平面視において円周方向へ時計回り方向に略等間隔を置いて配置されている。ちなみに、抽気導管5a~5dの吸引口の中心は、流動化空気吹込口2aから上方に1500~2500mmの高さ寸法(図1のH)に配置されるとともに、当該抽気導管5a~5d内のガス流速は概ね15~18m/sに設定されている。
[0029]
また、流動化空気吹込口2aは、例えば、図7に示した従来の流動仮焼炉11を備えたセメント製造設備と同様に、エアチャンバ13aおよび空気分散板14を通じて、空気が炉体2内に吹き込まれるものである。なお本実施形態においては、空気分散板14は水平方向に配設されている。なお、流動化空気吹込口2aからの流動化空気の吹込み速度は、原料密度や粒度分布によって決定されるものであり、通常のセメント原料では、1.0~2.0m/sに設定されている。
[0030]
そして、第1および第2の抽気導管5a、5bの上方に位置する炉体2の上部側壁に、排気ダクト6が接続されている。この排気ダクト6は、炉体2から離間するにしたがって上り勾配となるように配管されており、かつ天板2bとの間に間隔をおいて上側壁6aが位置するように接続されている。これにより、排ガスダクト6の接続部と天板2bとの間には、ミキシングチャンバーCが形成されている。
[0031]
また、原料シュート4は、第1の抽気導管5aまたは第2の抽気導管5bに隣接して(本実施形態においては第1の抽気導管5aに隣接して)配置されるとともに、水平面との角度が概ね50°~70°の範囲をなす下り勾配によって、炉体2の側壁に接続されている。ここで、原料シュート4の投入口の中心は、流動仮焼炉の処理能力によって異なるが、概ね流動化空気吹込口2aから上方に1500~3000mmの範囲の高さ寸法(図1のh)に配置されている。なお、原料シュート4の投入口下部には、図3(a)に示すように、耐火物で形成した原料分散用の台4aが配置されている。
[0032]
そして、燃料である微粉炭、例えば、石炭やコークスを炉体2内に吹き込む微粉炭吹込ライン3が、複数本(図3(a)~(e)においては2本、図3(f)においては4本)配設されている。そして、これら吹込口3aは、各々抽気導管5a~5dの吸引口の下方であって、かつ流動化空気吹込口2aの上方に配設されるとともに、そのうちの少なくとも1つの吹込口3aが、第3または第4の抽気導管5c、5dの下方に配置されている。
[0033]
これら微粉炭吹込ライン3は、それぞれ炉体2の軸線に対して垂直に、かつ炉体の2の中心に向けて微粉炭を吹き込むように接続されており、さらに吹込口3aの中心が、例えば、抽気導管5a~5dの中心と鉛直方向に対して同一線上に位置するように配設されている。なお、微粉炭吹込ライン3における微粉炭の搬送空気速度は、運転上の調整項目であるが、通常その範囲は10~20m/sの範囲に設定されている。
[0034]
上記構成からなる流動仮焼炉1は、本発明者らが行った数値流体力学計算CFD(Computational Fluid Dynamics)により、微粉炭吹込ライン3から吹き込まれた微粉炭の流れが、原料シュート4から投入される原料の流れ、抽気導管5a~5dからのガス流れ、および排ガスダクト6の接続位置に基づく炉体2内のセメント原料や微粉炭を含む燃焼ガスの排気の流れの影響を受けていることを突きとめることによって得られたものである。
[0035]
上記数値流体力学計算は、実際の流動仮焼炉の形状、および操業条件を数値化し、解析プログラムのインストールされたコンピュータによって、ガス流れ、粒子移動、化学反応、伝熱を数値計算し、コンピュータグラフィックを用いて、実測では困難である流動仮焼炉内での燃焼・仮焼の状況を把握するものである。なお、抽気空気は、抽気導管5に吹込みまたは吸込みでも微粒炭の流れに与える影響は同じである。
[0036]
数値流体力学計算の方法、モデルは下記のとおりである。
(1) 数値流体力学計算ソフト:Rflow (株式会社アールフロー)
(2) 乱流モデル:k -ε Model
(3) 流体:非圧縮性理想気体
(4) 圧力-速度カップリング:SIMPLE
(5) 離散化スキーム:Finite Volume Method
(6) 運動量:Second Order Upwind
(7) 乱流運動エネルギー:First Order Upwind
(8) 乱流散逸率:First Order Upwind
(9) エネルギー:Second Order Upwind
(10)粒子解析:Discrete Element Method
(11)粒子流体練成:Two Way Coupling
(12)微粉炭燃焼:H
2+O
2-H
2O、CH
4+O
2-H
2O+CO
2、CO+O
2-CO
2、C+O
2-CO
2
(13)原料脱炭酸モデル:CaCO
3-CaO+CO
2、未反応核モデル
なお、(2)~(11)はガスの流れ等についての数値流体解析を行う際に、(12)は燃焼解析を行う際に、(13)は石灰石の脱炭酸反応を解析する際に、いずれも当業者において広く用いられている汎用のモデルである。
[0037]
また、本数値流体力学計算において用いた石炭の組成は、以下のとおりである。
名称 発熱量 揮発分 固定炭素 水分 灰分
(Kcal/Kg) (%) (%) (%) (%)
瀝青炭 6700 34.3 49.4 6.8 9.5
なお、微粉炭の種類が変わった場合は、上記の工業分析値の変更に加え、仮焼炉へ投入する微粉炭の総発熱量が一定となるように微粉炭フィード量も調整した。
[0038]
さらに、セメント原料の投入量、風速、温度などの実炉の操業条件は、例えば、下記のデータを使用した。
・炉体2
炉内径=5.1m
炉長=14m
・微粉炭吹込ライン3
微粉炭のフィード量=9.1t/h
搬送空気流速=11m/s
温度=50℃
・原料シュート4
セメント原料:272t/h
温度=740℃
搬送空気流速=0.5m/s
・抽気導管5(円周方向に4箇所配置)
抽気空気
温度=880℃
流速=16.5m/s
・流動化空気吹込口2a
流動化空気
温度=800℃
流速=1.64m/s
実施例
[0039]
(実施例A)
実施例Aにおいては、図3(a)~(f)に示すような複数本の微粉炭吹込ライン3の吹込口3aを、各々抽気導管5a~5dの吸引口の下方であって、かつ流動化空気吹込口2aの上方に配設するとともに、そのうちの少なくとも1つの吹込口3aを、第3または第4の抽気導管5c、5dの下方に配置した実施例1~6について、上述した実炉の形状および運転条件に基づいて、数値流体力学計算によって、チャー反応率(%)、セメント原料粒子の脱炭酸率(%)、酸素濃度(%)、セメント原料の粒子温度(℃)およびガス温度(℃)を算出した。
[0040]
なお、実施例1(図3(a))は、2本の微粉炭吹込みライン3の吹込口3aを、各々第1および第3の抽気導管5a、5cの下方に配置した例であり、実施例2(図3(b))は、2本の微粉炭吹込みライン3の吹込口3aを、各々第2および第3の抽気導管5b、5cの下方に配置した例であり、実施例3(図3(c))は、2本の微粉炭吹込みライン3の吹込口3aを、各々第3および第4の抽気導管5c、5dの下方に配置した例である。
[0041]
また、実施例4(図3(d))は、2本の微粉炭吹込みライン3の吹込口3aを、各々第2および第4の抽気導管5b、5dの下方に配置した例であり、実施例5(図3(e))は、2本の微粉炭吹込みライン3の吹込口3aを、各々第1および第4の抽気導管5a、5dの下方に配置した例であり、実施例6(図3(f))は、4本の微粉炭吹込みライン3の吹込口3aを、各々第1~第4の抽気導管5a~5dの下方に配置した例である。
[0042]
さらに、比較例として、微粉炭吹込ライン3の吹込口3aを、各々抽気導管5a~5dの吸引口の下方であって、かつ図4(a)~(e)に示す位置に配置した比較例1~5についても、同様に上述した実炉の形状および運転条件に基づいて、上記数値流体力学計算によって、チャー反応率(%)、セメント原料粒子の脱炭酸率(%)、酸素濃度(%)、セメント原料の粒子温度(℃)およびガス温度(℃)を算出した。
[0043]
具体的には、比較例1(図4(a))は、1本の微粉炭吹込みライン3の吹込口3aを、第2の抽気導管5bの下方に配置した例であり、比較例2(図4(b))は、1本の微粉炭吹込みライン3の吹込口3aを、第3の抽気導管5cの下方に配置した例であり、比較例3(図4(c))は、1本の微粉炭吹込みライン3の吹込口3aを、第4の抽気導管5dの下方に配置した例である。
[0044]
また、比較例4(図4(d))は、1本の微粉炭吹込みライン3の吹込口3aを、第1の抽気導管5aの下方に配置した例であり、比較例5(図4(e))は、2本の微粉炭吹込みライン3の吹込口3aを、各々第1および第2の抽気導管5a、5bの下方に配置した例である。
[0045]
ここで、セメント原料の脱炭酸率(%)は、仮焼炉出口における原料粒子ごとの脱炭酸率を仮焼される前の質量に応じて加重平均したものであり、チャー反応率(%)は、仮焼炉出口における微粉炭粒子ごとのチャー反応率を、反応する前のチャーの質量に応じて加重平均したものである。なお、平均チャー反応率(%)は60%以上において、セメント原料の脱炭酸率(%)は45%以上において、その性能が高いと評価される。
[0046]
表1は、図3の配置における数値流体力学計算の結果を示す図表であり、上記実施例1~6の排ガスダクト6の出口における平均値を示すものである。また、表2は、図4の比較例における数値流体力学計算の結果を示す図表であり、上記比較例1~5の排ガスダクト6の出口における平均値を示すものである。
[表1]
[表2]
[0047]
図4および表2に見られるように、比較例1~4においては、いずれも1箇所に設けた微粉炭吹込みライン3の吹込口3aから炉体2内に微粉炭を吹き込んでいるために、当該1箇所が何処であれ、炉体2内における微粉炭の分散が十分になされずに、排ガスダクト6側に向けて流れて行くことが判った。
[0048]
この結果、微粉炭の濃度が高いところでは酸素不足になり、逆に濃度が低いところでは酸素が余剰になって酸素消費が不均一になり、炉内に不完全燃焼が生じてチャー反応率が低下するために、いずれも平均チャー反応率(%)が54%未満であり、かつセメント原料の脱炭酸率(%)も45%未満になってしまうことが判る。
[0049]
また、比較例5においては、2箇所の微粉炭の吹込口3aから炉体2内に微粉炭を吹き込んでいるものの、当該吹込口3aを、排気ダクト6の下方に位置する第1および第2の抽気導管5a、5bの下方に配置しているために、図5に示すように、当該吹込口3aから投入した微粉炭の分布に偏りが生じ、排気ダクトを接続した側壁側で微粉炭濃度が高くなり、そのまま排ガスダクト6側へと流れてしまう結果、1箇所から微粉炭を吹き込む比較例1~4と比較しても、微粉炭の分散効果の改善が見られないことが判る。
[0050]
これに対して、図3および表1に見られるように、本発明の実施例1~6においては、微粉炭吹込ラインの吹込口3aを、複数個所(実施例1~5においては2箇所、実施例6においては4箇所)に設けるとともに、そのうちの1つの吹込口3aを、排気ダクト6が接続された位置から離間した抽気導管5cおよび/または5dの下方に配置しているために、炉内に微粉炭を効果的に分散させて燃焼を良化させることができる。
[0051]
これにより、炉体2内での微粉炭の分散性が向上し、酸素消費が均一で燃焼が促進されてガス温度が高くなり、かつセメント原料の脱炭酸率が高くなる結果、いずれも60%以上の平均チャー反応率(%)が得られ、セメント原料の脱炭酸率(%)も45%以上になることが判る。
[0052]
また、実施例1~5と実施例6とを比較すると、少なくとも1つの吹込口3aを、排気ダクト6の接続位置から離間した抽気導管5cおよび/または5dの下方に配置することにより、吹込口3aを2箇所に配置すれば、4箇所に配置した場合とほぼ同等の効果が得られるために、設備コストと管理の容易さを勘案すると、2箇所の配置で十分な効果が得られることが判った。
[0053]
さらに、実施例1の結果によれば、原料シュート4が平面視において排気ダクト6の下方に第1の抽気導管5aと隣接して配置されている場合に、微粉炭の吹込口3aを、上記第1の抽気導管5aの下方と、これと炉体2の径方向に対向する第3の抽気導管5cの下方とに配置することにより、一層チャー反応率やセメント原料の脱炭酸率を向上させることが可能になる。なお、原料シュート4を第2の抽気導管5bと隣接して配置し、かつ微粉炭の吹込口3aを上記第2の抽気導管5bの下方と、これと炉体2の径方向に対向する第4の抽気導管5dの下方に配置した場合も同様の効果が得られる。
[0054]
(実施例B)
図2は、実施例Aと同様の実炉の形状および運転条件に基づいて、数値流体力学計算によって、実施例3の構成の流動仮焼炉における微粉炭粒子の主な軌跡を示したものである。
上述したように、本発明に係る流動仮焼炉1においては、円筒状の炉体2の上端部を天板2bによって塞ぎ、炉体2の上部側壁に天板2bとの間に間隔をおいて排気ダクト6を接続することにより、炉体2の上部に、排気ダクトへと流れるセメント原料、微粉炭および炉内ガスの混合流体のミキシングチャンバーCが形成されている。
[0055]
この結果、図2に見られるように、当該ミキシングチャンバーCにおいて流れが複雑であるため、炉内ガスと微粉炭との混合を促進させて燃焼性を向上させることができ、よって実施例Aにおいて示したように、セメント原料、微粉炭および炉内ガスの熱交換も促進されるために、セメント原料の脱炭酸率を向上させることができる。
[0056]
(比較例)
他方、図5および図6は、実施例Aと同様の実炉の形状および運転条件に基づいて、数値流体力学計算によって、微粉炭の吹込口3aを比較例5に示した配置とした場合の炉体2内における微粉炭の粒子分布および酸素濃度分布を解析した結果を示すものである。
[0057]
図5に見られるように、比較例5においては、2箇所の微粉炭の吹込口3aから炉体2内に微粉炭を吹き込んでいるものの、当該吹込口3aを、排気ダクト6の下方に位置する第1および第2の抽気導管5a、5bの下方に配置しているために、当該吹込口3aから投入した微粉炭の分布に偏りが生じて、排気ダクトを接続した側壁側で微粉炭濃度が高くなり、そのまま排ガスダクト6側へと流れてしまう結果、微粉炭が十分に分散されていない。
[0058]
この結果、図6に見られるように、微粉炭の濃度が高いところでは酸素不足(低濃度)になり、逆に濃度が低いところでは酸素が余剰(高酸素濃度)になって酸素消費が不均一になるために、炉内に不完全燃焼が生じてチャー反応率が低下することが判る。このため、脱炭酸率が低下し、1箇所から微粉炭を吹き込む比較例1~4と比較しても、十分な改善効果が得られないことが判る。
産業上の利用可能性
[0059]
本発明は、流動仮焼炉出口における未燃率を低減させて、プレヒータでの閉塞を防止しつつ、十分な仮焼を行うことが可能な流動仮焼炉を提供することができる。
符号の説明
[0060]
1 流動仮焼炉
2 炉体
2a 流動化空気吹込口
2b 天板
3 微粉炭吹込ライン
3a 吹込口
4 原料シュート
5a~5d 第1~第4の抽気導管
6 排ガスダクト
請求の範囲
[請求項1]
軸心方向を上下方向に向けて配置されるとともに上端部が天板によって塞がれた筒状の炉体の下部側壁に、当該炉体内に燃料を吹き込む複数の微粉炭吹込ラインおよびセメント原料を投入する原料シュートならびに周方向に順次間隔をおいて配置されて当該炉体内に抽気空気を導入するための第1~第4の抽気導管が接続され、上記炉体の底部に当該炉体内に流動化空気を吹き込む流動化空気吹込口が配設されるとともに、上記第1および/または第2の抽気導管の上方に位置する上記炉体の上部側壁に、上記天板との間に間隔をおいて上記炉体内のセメント原料を含む燃焼ガスを流出させる排気ダクトが接続されてなり、
かつ上記微粉炭吹込ラインの吹込口は、各々上記抽気導管の吸引口の下方であり、かつ上記流動化空気吹込口の上方に配設されるとともに、そのうちの1つの上記吹込口は、上記第3または第4の抽気導管の下方に配置されていることを特徴とする流動仮焼炉。
[請求項2]
上記微粉炭吹込ラインの上記吹込口は、2箇所に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の流動仮焼炉。
[請求項3]
上記原料シュートは、上記第1の抽気導管に隣接して配置されるとともに、上記吹込口は、上記第1の抽気導管に対して径方向に対向する第3の抽気導管の下方に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の流動仮焼炉。
図面