国際・国内特許データベース検索
このアプリケーションの一部のコンテンツは現在ご利用になれません。
この状況が続く場合は、次のお問い合わせ先までご連絡ください。フィードバック & お問い合わせ
1. (WO2012002520) 延性及び耐遅れ破壊特性に優れる超高強度冷延鋼板およびその製造方法
Document
注: テキスト化された文書

明 細 書

発明の名称 延性及び耐遅れ破壊特性に優れる超高強度冷延鋼板およびその製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005   0006   0007  

先行技術文献

特許文献

0008  

非特許文献

0009  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0010  

課題を解決するための手段

0011   0012   0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021  

発明の効果

0022   0023  

図面の簡単な説明

0024  

発明を実施するための形態

0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057  

実施例

0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068  

産業上の利用可能性

0069  

符号の説明

0070  

請求の範囲

1   2   3   4  

図面

1  

明 細 書

発明の名称 : 延性及び耐遅れ破壊特性に優れる超高強度冷延鋼板およびその製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、主として自動車のセンターピラーやドアインパクトビームなどの超高強度車体構造部材の材料として好適な強度・延性バランスおよび耐遅れ破壊特性に優れた超高強度冷延鋼板およびその製造方法に関するものである。

背景技術

[0002]
 近年、CO 排出量の増加による地球温暖化への懸念から、欧州ではCO の移動発生源である自動車からのCO 排出量の規制が進んでおり、自動車の燃費改善が強く求められている。燃費の改善には車体の軽量化が有効であるが、乗員の安全性を確保することも必要であるため、車体重量を低減しつつ、衝突安全性を従来以上に確保することが必要とされる。車体軽量化と衝突安全性の確保という2つの要求に対応するために、高比強度の材料の適用により使用する鋼板の薄肉化が検討されており、近年では引張強度980MPa~1180MPa級の高強度鋼板の、センターピラーやドアインパクトビームに代表される自動車構造部材への適用が進んでいる。しかし、車体軽量化の要求はさらに高まっており、1180MPa級鋼板よりもさらに高強度の鋼板を適用することによる更なる車体軽量化を視野に入れた検討が行われている。
[0003]
 自動車構造部材は一般にプレス成形により製造されるため、材料の延性がプレス成形性を大きく左右する。また、車体の衝突安全性の観点からは、プレス成形後の残留延性が重要とされている。しかし、鋼板の延性は一般に高強度になるに伴って低下するため、プレス成形性および成形後の残留延性は高強度になるほど低下する。また、引張強度で980MPaを超える高強度の材料では、プレス成形後の残留応力と環境から侵入する水素に起因した遅れ破壊が懸念される。そのため、高強度の冷延鋼板を上述のような自動車構造部材として適用するためには、高いプレス成形性すなわち高い延性、と耐遅れ破壊特性に優れることが必要となる。
[0004]
 このような要求に対し、これまでに種々の提案がなされている。
[0005]
 例えば、特許文献1では、その発明例として金属組織の構成比率に関する記載は無いものの、焼入れ・焼戻し法により引張強度1350MPaを有する、焼戻しマルテンサイト単相組織を有していると推察される鋼板が開示されている。しかし、当該鋼板の破断伸びは7%と低くプレス加工による自動車保安部材の製造は極めて困難である。さらに、急冷によりマルテンサイト単相組織を得ていると推察される当該鋼板の形状は著しく悪化しているものと推察される。この場合、焼鈍後に形状矯正の工程が必要となり製造上好ましくない。
[0006]
 また、特許文献2では残留オーステナイトが加工中のひずみによってマルテンサイトに変態するひずみ誘起変態を利用した、高強度ながらも高い延性を持つTRIP型(Transformation Induced Plasticity)鋼板について開示されているが、TRIP効果を発現させるために必要な残留オーステナイト量を確保するために、質量%でAlが0.3~2%添加されている。しかし、Alを多量に添加した場合、鋳造欠陥が生じやすくなるという問題がある。さらに残留オーステナイトをミクロ組織中に残存させるために、焼鈍温度からの冷却過程においてMs変態点以上の温度において等温保持を行う必要があり、製造工程が増加する。さらに、等温保持温度までの冷却速度などが操業時に変動した場合、大きな材質変動を招くことから、一定の品質の鋼板を安定して生産するためには、操業条件の厳密な管理が必要となり、製造上好ましくない。
[0007]
 非特許文献1、非特許文献2については、実施例で説明する。

先行技術文献

特許文献

[0008]
特許文献1 : 特開2005−163055号公報
特許文献2 : 特開2006−307325号公報

非特許文献

[0009]
非特許文献1 : 日本金属学会編:「鉄鋼材料」、丸善、1985年、p.43
非特許文献2 : 金属熱処理技術便覧編集委員会:「金属熱処理技術便覧第3版」、日刊工業新聞社、1966年、p.137

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0010]
 本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、VやMo等の合金コストを著しく上昇させる遷移金属元素ならびに鋳造欠陥を誘引する可能性があるAlを過剰に含まない鋼成分でありながら、耐遅れ破壊特性に優れ、1320MPa以上の引張強度を有する超高強度冷延鋼板とその製造方法を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

[0011]
 従来、引張強度1320MPa以上の超高強度鋼板を得ようとするならば、焼入れ法によりミクロ組織をマルテンサイト単相組織とする必要があった。しかし、ミクロ組織をマルテンサイト単相とした場合、十分な延性を得ることができない。また、焼入れ後の焼戻し熱処理により延性を向上させようとしても、マルテンサイト相中の転位組織の回復、およびマルテンサイト相中に析出しているFe C炭化物の粗大化により強度は低下するものの、延性はさほど向上しない傾向がある。
[0012]
 一方、高延性を発現させるために、残留オーステナイト相のひずみ誘起変態を利用したTRIP鋼についても多くの発明がなされている。しかし、TRIP効果を発現させるためには、オーステナイトの安定性を高めるために多量の合金元素を添加する必要があるとともに、焼鈍温度からの冷却時にMs変態点以上の温度で等温保持を厳密に行う必要があり、製造安定性ならびに製造コストの観点で好ましくない。
[0013]
 さらに、耐遅れ破壊特性の観点から、遅れ破壊を誘引する水素のトラップサイトは可能な限り低減することが望ましいが、マルテンサイト相は、オーステナイト相からの結晶構造変態時に水素のトラップサイトとなる転位が多量に導入されるため、可能な限り低減することが望ましい。また、延性向上に寄与する残留オーステナイトも転位と同様に水素のトラップサイトとして働くことが知られているとともに、残留オーステナイトは粒界上にフィルム状に存在することから、残留オーステナイトへの水素の侵入は粒界破壊を誘引し、耐遅れ破壊特性を低下させる可能性があることから、金属組織中に残留オーステナイトを含むことは好ましくない。
[0014]
 発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねたところ、ミクロ組織を焼戻しマルテンサイト相とフェライト相を有する組織とし、焼戻しマルテンサイト相の体積率を変化させることにより、引張強度と延性のバランスを制御できることを明らかにするとともに、CおよびSiを添加することにより、焼戻しマルテンサイト相およびフェライト相の硬度を上昇させ、焼戻しされていないマルテンサイト相の体積率を低減させて鋼板の超高強度化を図る手法を見出し、極めて高強度でありながら、高い延性を有する鋼板を得ることが可能であることがわかった。
[0015]
 加えて、金属組織中に転位をほとんど含まないフェライト相を析出させることにより、金属組織中の転位密度をマルテンサイト単相組織に比べて大幅に減少させ、水素のトラップサイトを低減させることにより、鋼中への水素の侵入量を大幅に低減できることを明らかにし、耐遅れ破壊特性を向上させることが可能であることを見出した。
[0016]
 一方、製造工程的には、冷間圧延後の焼鈍および冷却に際し、焼鈍温度とその後の冷却過程を適正に制御し、その後、100℃以上、300℃以下の温度域で焼戻し熱処理を施すことが効果的であるとの知見を得た。
[0017]
 本発明は、上記の知見に立脚するものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次の通りである。
[0018]
 [1]質量比で、C:0.15~0.25%、Si:1.0~3.0%、Mn:1.5~2.5%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Al:0.01~0.05%、N:0.005%未満を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、金属組織が体積率で40~85%の焼戻しマルテンサイト相、および体積率で15~60%のフェライト相を含み、引張強度が1320MPa以上であることを特徴とする延性及び耐遅れ破壊特性に優れる超高強度冷延鋼板。
[0019]
 [2]上記[1]の超高強度冷延鋼板において、さらに、質量比で、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下、B:5~30ppmの1種以上を含有することを特徴とする延性及び耐遅れ破壊特性に優れる超高強度冷延鋼板。
[0020]
 [3]上記[1]または[2]の超高強度冷延鋼板において、破断伸びが12%以上であることを特徴とする延性及び耐遅れ破壊特性に優れる超高強度冷延鋼板。
[0021]
 [4]上記[1]または[2]に記載の化学成分を有する鋼スラブを1200℃以上に加熱後、仕上げ圧延出側温度800℃以上の条件で熱間圧延した後、酸洗および冷間圧延し、次いで連続焼鈍する際に、A C1変態点~A C3変態点の温度範囲で30~1200sec保持した後、100℃/秒以下の平均冷却速度で600~800℃まで冷却し、引き続き100~1000℃/秒の平均冷却速度で100℃以下まで冷却し、次いで、再加熱して100~300℃の温度範囲で120~1800sec保持する焼戻し処理を施すことを特徴とする延性及び耐遅れ破壊特性に優れる超高強度冷延鋼板の製造方法。

発明の効果

[0022]
 本発明の冷延鋼板は、極めて高い引張強度を有するとともに、高い延性とそれに伴う優れた加工性を有する。また部材に成形加工した後も環境から侵入する水素に起因した遅れ破壊が生じにくい優れた耐遅れ破壊特性を有する。例えば、引張強度1320MPa以上、破断伸び12%以上を有し、25℃−pH3の塩酸環境下で100時間破壊が生じない耐遅れ破壊特性を容易に実現することができる。さらに、本発明の製造方法によれば、上記のような優れた性能を有する冷延鋼板を、安定的に製造することが出来る。
[0023]
 本発明によれば、部材にプレス成形後も環境から侵入する水素に起因した遅れ破壊が生じ難い優れた耐遅れ破壊特性を有し、かつ成形時には優れた加工性を発現する引張強度1320MPa以上の超高強度冷延鋼板を安定製造することができ、遅れ破壊が生じにくい超高強度部材、例えばセンターピラーやインパクトビーム等の自動車保安部材を提供することができる。

図面の簡単な説明

[0024]
[図1] 180°曲げ加工後、ボルト締結により応力を付与した試験片の概略図である。

発明を実施するための形態

[0025]
 本発明の超高強度冷延鋼板は、以下に述べるような特定の化学成分と金属組織を有する。まず、冷延鋼板の化学成分について説明する。
[0026]
 <C:0.15~0.25質量%>
 Cはオーステナイトを安定化させる元素であるとともに、鋼板の強度を確保するのに必要な元素である。C量が0.15質量%未満では、焼戻しマルテンサイト相とフェライト相を有する組織において、引張強度1320MPa以上を安定して得ることが困難である。一方、C量が0.25質量%を超えると、溶接部および溶接による熱影響部の硬化が顕著に生じ、溶接性が低下する。このため、C量を0.15~0.25質量%の範囲とする。より好ましくは0.18~0.22質量%の範囲である。
[0027]
 <Si:1.0~3.0質量%>
 Siは、鋼板を硬質化させるのに有効な置換型固溶強化元素である。この効果を発現させるためには、1.0質量%以上含有させる必要がある。Si量が3.0質量%超になると、熱間圧延でのスケール形成が顕著になり、最終製品時の欠陥率が増加し、経済的に好ましくない。そのため、Si量は1.0~3.0質量%とする。
[0028]
 <Mn:1.5~2.5質量%>
 Mnはオーステナイトを安定化させるとともに、鋼の強化に有効な元素である。しかし、Mnが1.5質量%未満では、鋼の焼入れ性が十分ではなく、焼鈍温度からの冷却中に生じるフェライト相の生成、およびパーライトならびにベイナイトの生成が早期に開始し、強度が著しく低下することから、目的とする強度を有する鋼板を安定して製造することが困難となる。一方、2.5質量%を超えると、偏析が顕著となり、加工性が劣化する場合があるとともに耐遅れ破壊特性が低下する。このためMn量は1.5~2.5質量%、好ましくは1.5~2.0質量%とする。
[0029]
 <P:0.05質量%以下>
 Pは粒界偏析による粒界破壊を助長する元素であるため低いほうが望ましく、その上限を0.05質量%、好ましくは0.010質量%とする。さらに溶接性向上の観点からは、0.008質量%以下がより好ましい。
[0030]
 <S:0.02質量%以下>
 SはMnSなどの介在物となって、耐衝撃特性や耐遅れ破壊特性の劣化を誘引するため、極力低い方が望ましく、その上限を0.02質量%、好ましくは0.002質量%とする。
[0031]
 <Al:0.01~0.05質量%>
 Alは脱酸のために有効な元素であり、有用な脱酸効果を得るためには0.01質量%以上とする必要があるが、0.05質量%を超えて過剰に添加すると鋼板中の介在物が増加し延性を低下させる。このためAl量は0.01~0.05質量%とする。
[0032]
 <N:0.005質量%未満>
 Nは含有量が0.005質量%以上になると窒化物の形成による高温および低温での延性が低下する。そのため、N量は0.005質量%未満とする。
[0033]
 鋼板には、必要に応じて、さらにNb、Ti、Bの1種以上を含有することができる。以下、これら3元素の添加効果とその好適な添加量について説明する。
[0034]
 <Nb、Ti:0.1質量%以下>
 NbおよびTiは結晶粒を微細化させる効果があり、鋼板の強度を上昇させるのに有効な元素あるので、それぞれ0.015質量%以上添加することが好ましい。しかし、Nb、Tiをそれぞれ0.1質量%を超えて含有させても、その効果は飽和するため経済的に好ましくない。このため、NbおよびTiの添加量はそれぞれ0.1質量%以下とする。
[0035]
 <B:5~30質量ppm>
 Bは鋼板の強度上昇に有効な元素である。B量が5質量ppm未満では、Bによる強度上昇効果が期待できない。一方、B量が30質量ppmを超えると熱間加工性が低下するため、製造上好ましくない。このため、Bの添加量は5~30質量ppmとする。
[0036]
 上記以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。
[0037]
 次に冷延鋼板の金属組織について説明する。
[0038]
 本発明者らは、プレス成形性を左右する延性を向上させるとともに、プレス成形後にも優れた耐遅れ破壊特性を示す鋼板を得るべく検討を行い、高い延性を発揮させるためには、ミクロ組織を適切に制御することが重要であることを知見した。具体的には、連続焼鈍後のミクロ組織が、焼戻しマルテンサイト相を体積率で40%以上含み、残部がフェライト相を有する組織とすることが重要であることが判った。この組織は焼鈍時に焼鈍温度からの急冷と、急冷後の焼戻し処理によって得られるものであり、この手法によれば、コストを上昇させるVやMo等の遷移金属元素や鋳造欠陥を誘引する可能性があるAlなどの合金元素を過剰に添加することなく高い延性を有する超高強度冷延鋼板を得ることが可能である。
[0039]
 耐遅れ破壊特性は鋼中に侵入する水素量が少ないほど優れる。焼戻しマルテンサイト相は焼入れ時のオーステナイト相からマルテンサイト相への結晶構造変態によって極めて多量の転位が導入されるが、金属組織中にフェライト相を適量含ませることにより、遅れ破壊を誘引するとされる水素のトラップサイトとなる転位を、焼戻しマルテンサイト単相組織に比べて大幅に低減させ、鋼中への水素侵入量を低減できる。
[0040]
 焼戻しマルテンサイト相とフェライト相を有する組織の鋼の引張強度は、焼戻しマルテンサイト相の体積率の増加に伴って上昇する。これは焼戻しマルテンサイト相とフェライト相では、焼戻しマルテンサイト相の方が、硬度が高く、引張変形時における変形抵抗は硬質相である焼戻しマルテンサイト相が担っており、焼戻しマルテンサイト相の体積率が大きいほど焼戻しマルテンサイト単相組織の引張強度に漸近するためである。本発明の鋼成分範囲においては、焼戻しマルテンサイト体積率が40%未満では引張強度1320MPa以上は得られない。焼戻しマルテンサイト体積率が増加するに伴って延性は低下し、焼戻しマルテンサイト相の体積率が85%を超える組織では、破断伸びで12%以上の高い延性および耐遅れ破壊特性を向上させるために必要なフェライト相を確保できなくなる。また、フェライト相の体積率が15%未満では、破断伸びで12%以上の高い延性および耐遅れ破壊特性の向上が十分でなく、一方、60%超では所定の強度を得るために必要な焼戻しマルテンサイト相の体積率を確保できない。
[0041]
 以上の理由から本発明の冷延鋼板の金属組織は、焼戻しマルテンサイト相の体積率を40~85%、フェライト相の体積率を15~60%とする。より好ましくは、焼戻しマルテンサイト相の体積率を60~85%、フェライト相の体積率が15~40%とした金属組織である。本発明の冷延鋼板の金属組織は、所望の体積率を有する焼戻しマルテンサイト相とフェライト相からなる二相組織であってもよいし、これら二相以外の組織として、残留オーステナイト相、ベイナイト相、パーライト相などの構成相を含んでもよい。しかし、ベイナイト相およびパーライト相が多量に存在した場合、それぞれ延性の低下および強度の低下を誘引するため、多量に含むことは好ましくない。また、残留オーステナイト相は主に結晶粒界にフィルム状に存在するとともに、水素のトラップサイトとなることから、水素脆化に伴う破壊起点となる可能性があるため、可能な限り低減することが望ましい。このため、本発明において、焼戻しマルテンサイト相およびフェライト相以外の構成相(ベイナイト相、パーライト相、残留オーステナイト相等)は、体積率の合計で1%以下とすることが好ましい。
[0042]
 本発明が目標とする引張強度および延性は、引張強度1320MPa以上、破断伸び(JIS5号引張試験片を用いた引張試験における破断伸び)12%以上であり、この破断伸びはインパクトビーム等の自動車保安部材にプレス加工することが可能とされる最低限の延性に相当するものであるが、本発明ではこのような強度・延性レベルを容易に実現できる。また、本発明が目標とする耐遅れ破壊特性は、25℃、pH3の塩酸環境下で100時間破壊が生じないような性能であるが、本発明ではこのような性能も容易に実現できる。
[0043]
 本発明の冷延鋼板の用途に特別な制約はないが、上記のような性能を有することから、特に、自動車のドアインパクトビームやセンターピラーをはじめとする超高強度車体保安部材に好適である。なお、本発明が対象とする鋼板には鋼帯も含まれ、本発明の冷延鋼板は、表面にめっき(電気めっき等)や化成処理等の表面処理を施し、表面処理鋼板として使用することもできる。
[0044]
 次に本発明の超高強度冷延鋼板の製造方法について説明する。
[0045]
 本発明においては、上記成分組成の鋼を溶製し、連続鋳造により鋳片(スラブ)とし、該スラブを1200℃以上に加熱後、仕上げ圧延出側温度800℃以上で熱間圧延する。以下、熱間圧延の限定理由について説明する。
[0046]
 <スラブ加熱温度1200℃以上>
 スラブ加熱温度が1200℃未満では、圧延荷重が増大し、熱間圧延時のトラブル発生の危険が増大する。したがって、スラブ加熱温度は1200℃以上とする。加熱温度があまりに高くなると酸化重量の増加に伴うスケールロスの増大につながるため、スラブ加熱温度は1300℃以下とすることが望ましい。
[0047]
 <仕上げ圧延出側温度800℃以上>
 仕上げ圧延出側温度を800℃以上とすることで、均一な熱延母相組織を得ることができる。仕上げ圧延出側温度が800℃を下回ると、鋼板の組織が不均一となり、延性が低下するとともに成形時に種々の不具合を発生する危険性が増大する。したがって、仕上げ圧延出側温度は800℃以上とする。なお、仕上げ圧延出側温度の上限は特に規制されないが、過度に高い温度で圧延するとスケール疵などの原因となるため、1000℃以下程度とすることが好ましい。
[0048]
 熱間圧延後巻取り処理を行う。巻取り温度は特に限定されないが、巻取り温度が高すぎると粗大粒が生成し、鋼板組織が不均一となり、延性が低下する。また、巻取り温度が低すぎる場合は、熱間圧延によって生じた加工組織が残留し、次工程である冷間圧延の圧延荷重が大きくなる。そのため、巻取り温度は600~700℃とすることが望ましい。特に好ましい巻取り温度は600~650℃である。
[0049]
 熱間圧延を施した後、酸洗および冷間圧延し、次いで連続焼鈍および焼戻し処理を行う。酸洗、冷間圧延の条件は特に限定されない。連続焼鈍は、A C1変態点~A C3変態点の温度範囲で30~1200sec保持した後、100℃/秒以下の平均冷却速度で600~800℃まで冷却し、引き続き100~1000℃/秒の平均冷却速度で100℃以下まで冷却し、次いで、再加熱して100~300℃の温度範囲で120~1800sec保持する焼戻し処理を施す。以下、連続焼鈍および焼戻し処理の条件の限定理由について説明する。
[0050]
 <焼鈍温度:A C1変態点~A C3変態点で30~1200秒保持>
 焼鈍温度がA C1変態点未満になると、焼鈍中に所定強度確保に必要なオーステナイト相(焼入れ後にマルテンサイト相に変態)が生成せず,焼鈍後焼入れを実施しても所定強度が得られない。焼鈍温度がA C3変態点超であっても、焼鈍温度からの冷却中に析出するフェライト相の体積率を制御することにより、体積率で40%以上のマルテンサイト相を得ることが可能であるが、A C3変態点超で焼鈍した場合、所望の金属組織が得られにくくなる。そのため、焼鈍温度はA C1変態点~A C3変態点の範囲とする。また、この温度範囲においてオーステナイト相の平衡体積率が40%以上を安定して確保する観点から、760℃以上とするのが好ましく、780℃以上とすることがより好ましい。また、焼鈍温度での保持時間(焼鈍時間)が短すぎるとミクロ組織が十分に焼鈍されずに冷間圧延による加工組織が存在した不均一な組織となり延性が低下する。一方、保持時間が長すぎると製造時間の増加を招き製造コスト上好ましくない。このため、保持時間は30~1200秒とする。特に好ましい保持時間は250~600秒の範囲である。
[0051]
 <平均冷却速度100℃/秒以下で600~800℃に冷却(徐冷)>
 次いで、上記焼鈍温度から100℃/秒以下の平均冷却速度で600~800℃の温度(徐冷停止温度)まで冷却(以下の説明では、この冷却を「徐冷」という場合がある)する。焼鈍温度からの徐冷中にフェライト相を析出させ、強度−延性バランスを制御することが可能であるが、徐冷停止温度を600℃未満にした場合、ミクロ組織中にパーライトが多量に生成し強度が急激に低下するために、1320MPa以上の引張強度を得ることができない。また、徐冷停止温度を800℃より高温とした場合には、焼鈍温度からの徐冷中に十分な量のフェライト相を析出させることができず、延性を十分に得ることができない。そのため、徐冷停止温度は600~800℃とする。操業上の徐冷停止温度変動に伴う材質変動を抑制する観点からは徐冷停止温度は700~750℃とすることが好ましい。
[0052]
 また、徐冷の平均冷却速度が100℃/秒を超えると、徐冷中に十分な量のフェライト相の析出が生じないため所定の延性を得ることができない。本発明で意図する焼戻しマルテンサイト相とフェライト相を有する金属組織の延性は硬質な焼戻しマルテンサイト相と軟質なフェライト相が混在することによって発現する高い加工硬化能にも起因しているが、平均冷却速度が100℃/秒を超える場合、徐冷中のオーステナイト中への炭素濃化が不十分となり、急冷時に硬質なマルテンサイト相が得られない。その結果、最終組織の加工硬化能が低下し十分な延性が得られない。以上のことから徐冷時の平均冷却速度は100℃/秒以下とする。オーステナイト相中への炭素濃化を十分に生じさせるためには、5℃/秒以下の平均冷却速度とすることが好ましい。
[0053]
 <平均冷却速度100~1000℃/秒で100℃以下まで冷却(急冷)>
 上記徐冷に引き続き、100~1000℃/秒の平均冷却速度で100℃以下の温度(冷却停止温度)まで冷却(以下の説明では、この冷却を「急冷」という場合がある)する。徐冷後の急冷はオーステナイト相をマルテンサイト相に変態させるために行うが、その平均冷却速度が100℃/秒未満では、冷却中にオーステナイト相がフェライト相、ベイナイト相またはパーライト相に変態するため、所定の強度を得ることができない。一方、平均冷却速度が1000℃/秒を超えると、冷却による鋼板の収縮割れが生じる可能性がある。このため、急冷時の平均冷却速度は100~1000℃/秒とする。この冷却は、水焼入れによる急冷が好ましい。
[0054]
 冷却停止温度は100℃以下とすることが好ましい。冷却停止温度が100℃超では急冷時にオーステナイトの焼入れが十分に生じないことによるマルテンサイト相の体積率の低下、および急冷により生成したマルテンサイト相の自己焼戻しによる材料強度の低下を誘引するため製造上好ましくない。
[0055]
 <焼戻し処理:100~300℃で120~1800秒保持>
 上記急冷に引き続き、マルテンサイト相の焼戻しのために、再加熱して100~300℃の温度範囲で120~1800秒間保持する焼戻し処理を行う。この焼戻しはマルテンサイト相を軟質化させ、加工性を向上させる。焼戻しを100℃未満で行った場合、マルテンサイトの軟質化が不十分であり、加工性の向上効果が期待できない。また、焼戻しを300℃超で行うことは、再加熱のための製造費用を高めるだけでなく、著しい強度の低下を招き、有用な効果を得ることができない。
[0056]
 一方、保持時間を120sec未満とした場合、保持温度におけるマルテンサイトの軟質化が十分には生じないため、加工性の向上効果が期待できない。また、保持時間が1800secを超える場合、マルテンサイトの軟質化が過度に進行することにより強度が著しく低下することに加え、再加熱時間の増加により製造費用を高めるため好ましくない。
[0057]
 以上の製造工程により、本発明の超高強度冷延鋼板を製造することが可能である。また、本発明の超高強度冷延鋼板は焼鈍後の板形状性(平坦度)に優れていることから、圧延やレベラー加工等の鋼板の形状を矯正するための工程は必ずしも必要ではないが、材質や表面粗度を調整する観点から、焼鈍後の鋼板に数%程度の伸長率にて圧延を施しても何ら問題はない。
実施例
[0058]
 表1に記載の成分組成からなる供試鋼A~Mを真空溶製し、スラブとした後、表2に記載の条件で熱間圧延し板厚3.4mmの熱延鋼板とした。この熱延鋼板を酸洗処理して表面スケールを除去し、その後1.4mm厚まで冷間圧延した。次いで、表2に記載の条件で連続焼鈍および焼戻し処理を施した。なお、各鋼種のA C1変態点は非特許文献1、A C3変態点は非特許文献2に記載の変態点の合金成分依存性に関する関係式(下記の2式)より求めた値である。
C1[℃]=723−10.7×(質量%Mn)+29.1×(質量%Si) ・・・(1)
C3[℃]=910−203×(質量%C) 1/2+29.1×(質量%Si)−30×(質量%Mn)+700×(質量%P)+400×(質量%Al)+400×(質量%Ti) ・・・(2)
[0059]
[表1]


[0060]
[表2]


[0061]
 以上の製造工程により得られた鋼板から試験片を採取し、金属組織の観察(測定)と引張試験を実施した。さらに、一部の鋼種については遅れ破壊試験を実施した。それらの結果を表3に示す。
[0062]
 金属組織の観察(測定)と性能試験は、以下のようにして行った。
 (1)金属組織の観察
 得られた冷延鋼板から試験片を採取し、圧延方向と平行な断面について鏡面研磨後、ナイタールによりエッチングを施し、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いて微細組織を観察・撮影し、焼戻しマルテンサイト相およびフェライト相などの構成相の種類を同定するとともに、画像解析装置を用いて組織写真を2値化することにより、焼戻しマルテンサイト相およびフェライト相の体積率を求めた。なお、得られた冷延鋼板には残留オーステナイト相が存在する可能性もあるため、発明例についてはX線(Mo−Kα線)測定法により残留オーステナイト相の測定を試みたが、その存在量はいずれもほとんどゼロであったため表3の残部には含めていない。
[0063]
 (2)引張試験
 得られた冷延鋼板から圧延方向と直角にJIS5号引張り試験片を採取し、JIS−Z−2241の規定に準拠して引張試験を行い、引張特性(0.2%応力(YS)、引張強度(TS)、破断伸び(EL)を求めた。
[0064]
 (3)遅れ破壊特性評価試験
 得られた冷延鋼板の圧延方向を長手として30mm×100mmに切断および、端面を研削加工した試験片を用い、試験片をポンチ先端の曲率半径10mmで180°曲げ加工を施した。この曲げ加工を施した試験片に生じたスプリングバックを図1に示すようにボルト2により試験片1の内側間隔が20mmになるように締込み、試験片1に応力を負荷したのち、25℃、pH3の塩酸に浸漬し、破壊が生じるまでの時間を最長100時間まで測定した。100時間以内に破壊が生じないものを合格とした。
[0065]
[表3]


[0066]
 表1から3によれば、本発明の条件に適合した発明例は、引張強度1320MPa以上、破断伸び12%以上という高い強度・延性バランスが得られ、遅れ破壊特性評価試験において100時間破壊が生じておらず優れた耐遅れ破壊特性を有することが確認された。
[0067]
 焼鈍時間を本発明の範囲外である10秒としたNo.24は、熱間圧延後に生成したパーライト組織が焼鈍工程後も残存しているとともに、冷間圧延に伴う加工ひずみの影響が十分に除去されなかったことにより、所定の強度・延性が得られていない。また、焼鈍温度をA C3点以上としたNo.25、29は徐冷中にフェライト相の析出を生じさせることができず、マルテンサイト単相組織となり、所定の強度は得られているものの所定の延性は得られていない。鋼成分が本発明の範囲外であるNo.26および27は、本発明で規定する連続焼鈍および焼戻し処理を施しても所定の強度は得られていない。徐冷停止温度を500℃としたNo.30は多量のフェライト相が析出するとともに、パーライト相も生成するため、所定の強度が得られていない。急冷工程の平均冷却速度を本発明の範囲外である20℃/秒としたNo.31は、所定量のマルテンサイト相を得ることができず、所定の強度は得られていない。焼戻し温度を400℃としたNo.32は、マルテンサイト相の過度の焼戻し軟化が生じたことにより所定の強度は得られていない。
[0068]
 本発明の条件に適合した発明例No.1~23は遅れ破壊特性評価試験において100時間破壊が生じておらず、本発明によって得られる冷延鋼板が十分な耐遅れ破壊特性を有することが確認された。しかし、金属組織が焼戻しマルテンサイト単相であり、本発明の範囲外となる比較例No.25、29は、100時間以内に割れが発生したため、耐遅れ破壊特性試験結果が不合格となった。

産業上の利用可能性

[0069]
 本発明は、主として自動車のドアインパクトビームやセンターピラーをはじめとした、超高強度車体保安部材等の使途に好適な焼入れ、焼戻し処理用の薄鋼板であり、かかる鋼板を用いた自動車用部品を製造するに当たり、鋼組成、圧延条件ならびに焼鈍条件を適正に制御することによって、体積率で40%以上85%以下の焼戻しマルテンサイト相と体積率で15%以上60%以下のフェライト相を含む組織を有し、引張強度1320MPa以上、破断伸び12%以上で優れた強度−延性バランスを有し、また耐遅れ破壊特性も優れる。本発明の超高強度冷延鋼板を用いると、インパクトビーム等の自動車保安部材のプレス加工が可能で、この自動車保安部材では、優れた耐遅れ破壊特性が発現される。

符号の説明

[0070]
1 試験片
2 ボルト

請求の範囲

[請求項1]
質量比で、C:0.15~0.25%、Si:1.0~3.0%、Mn:1.5~2.5%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Al:0.01~0.05%、N:0.005%未満を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、金属組織が体積率で40~85%の焼戻しマルテンサイト相、および体積率で15~60%のフェライト相を含み、引張強度が1320MPa以上であることを特徴とする延性及び耐遅れ破壊特性に優れる超高強度冷延鋼板。
[請求項2]
さらに、質量比で、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下、B:5~30ppmの1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の延性及び耐遅れ破壊特性に優れる超高強度冷延鋼板。
[請求項3]
破断伸びが12%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の延性及び耐遅れ破壊特性に優れる超高強度冷延鋼板。
[請求項4]
請求項1または2に記載の化学成分を有する鋼スラブを1200℃以上に加熱後、仕上げ圧延出側温度800℃以上の条件で熱間圧延した後、酸洗および冷間圧延し、次いで連続焼鈍する際に、A C1変態点~A C3変態点の温度範囲で30~1200sec保持した後、100℃/秒以下の平均冷却速度で600~800℃まで冷却し、引き続き100~1000℃/秒の平均冷却速度で100℃以下まで冷却し、次いで、再加熱して100~300℃の温度範囲で120~1800sec保持する焼戻し処理を施すことを特徴とする延性及び耐遅れ破壊特性に優れる超高強度冷延鋼板の製造方法。

図面

[ 図 1]