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1. (WO2012002208) 析出強化型ステンレス鋼及びその製造方法
Document

明 細 書

発明の名称 析出強化型ステンレス鋼及びその製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002  

先行技術文献

特許文献

0003  

非特許文献

0004  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0005  

課題を解決するための手段

0006   0007   0008  

発明の効果

0009  

図面の簡単な説明

0010  

発明を実施するための形態

0011   0012   0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021  

実施例

0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035  

産業上の利用可能性

0036  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10   11  

図面

1   2   3   4  

明 細 書

発明の名称 : 析出強化型ステンレス鋼及びその製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、析出強化型ステンレス鋼及びその製造方法に関するものである。

背景技術

[0002]
 従来、高強度材料としては、AISI4340や300M等に代表される低合金系高抗張力鋼が知られている。これらは、熱処理条件を選べば、約1800MPaを超える引張強さと10%程度の伸びを得ることが出来る(非特許文献1参照)。しかし、これらは、低合金鋼であり、耐食性に大きく寄与するCrが1%弱と少ないため耐食性が不十分である。
 また、従来から高強度のステンレス鋼としてPH13-8Mo(AISI XM-13)や17-4PH(AISI 630)等に代表されるマルテンサイト系析出強化型ステンレス鋼が知られている。これらは、耐食性の良好なステンレス鋼の中では高強度であるが、AISI4340や300M等に代表される低合金系高抗張力鋼と比較すると強度が劣っている。また、特許文献1に高強度のステンレス鋼が提案されており、優れた強度特性を持っているが、低合金系高抗張力鋼と比較すると延性が十分とは言えない。さらに、特許文献2に提案されている高張力鋼は、耐食性向上元素であるCrが無添加の場合、強度は十分高く優れているが、Cr添加をした場合、低合金系高抗張力鋼と比較すると強度がやや劣っている。
 低合金鋼の耐食性と高強度ステンレス鋼の強度や延性を改善した高強度材料として本願出願人は特許文献3に示す高強度ステンレス鋼を提案した。特許文献3に示す高強度ステンレス鋼は、熱処理条件を選べば1800MPaを超える引張強さを得られ、さらに、優れた耐食性を持つ材料である。

先行技術文献

特許文献

[0003]
特許文献1 : 英国特許公開第988452号公報
特許文献2 : 特開昭57-41351号公報
特許文献3 : 特許第3342501号公報

非特許文献

[0004]
非特許文献1 : 「Improved Lower Temperature Fracture Toughness of Ultrahigh Strength 4340 Steel through Modified Heat Treatment」 YOSHIYUKI TOMITA:Metallurgical Transactions Vol.18A (1987) p.1495-1501
非特許文献2 : 「Department Of Deffence Handbook Metallic Materials And Elements For Aerospace Vehicle Structures MIL-HDBK 5J(2003)」

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0005]
 上述した特許文献3に示す高強度ステンレス鋼は、引張強さ及び耐食性の点では優れた材料であるものの、0.2%耐力が引張強さと比較して低い。例えば、析出強化型ステンレス鋼が使用される用途の一つである航空機の構造設計には、運用荷重に安全率を乗じた破壊荷重と引張強さを用いて強度設計が行われ、加えて実用環境で航空機用脚材及び宇宙航空機一次構造部材に降伏が起きないように考慮することが求められる。そのため適用する材料の耐力比(=0.2%耐力/引張強さ)は高いことが望ましい。しかし、特許文献3に示す高強度ステンレス鋼は耐力比が低く、例えば、現在、航空機の構造部材に適用されている低合金系高抗張力鋼の替わりに使用するには、強度特性が不十分である。
 そこで、本発明の目的は、低合金系高抗張力鋼レベルの引張強さ、0.2%耐力及び延性を維持しつつ、さらに優れた耐食性も有する析出強化型ステンレス鋼及びその製造方法を提供することである。

課題を解決するための手段

[0006]
 本発明者は、低合金系高抗張力鋼レベルの引張強さ、0.2%耐力及び延性を有し、かつ従来の高強度ステンレス鋼の耐食性を両立すべく、鋭意検討した結果、Cを低く抑えた析出強化型マルテンサイト系ステンレス鋼をベースとしてMoを添加し、Niと化合物形成するAlならびにTiの割合及び量のバランスをはかることで、耐食性を損なうことなく、引張強さと延性を維持しつつ0.2%耐力を大きく改善できることを見いだし本発明に到達した。
 すなわち本発明は、質量%でC:≦0.2%、7%≦Ni≦14%、0%≦Co≦3.5%、9.5%≦Cr≦14%、0.5%≦Mo≦3%、0.25%<Al<1%、0.75%<Ti≦2.5%、残部はFe及び不純物からなり、かつ、式(1)乃至(4)を満足する析出強化型ステンレス鋼である。
 式(1) 1260-65Ni-20Co-40Cr≧0
 式(2) 670+75Ni+40Co-100Cr≧0
 式(3) 0.125≦(Al/Ti)≦1.25
 式(4) 1.45≦(Al+Ti)≦2.95
 (ただし、式中のNi、Co、Cr、Al及びTiは質量%での値で計算)
[0007]
 また本発明は、下記の式(5)を満足することが好ましい。
 式(5) 4.5≦Ni/(Al+Ti)
 (ただし、式中のNi、Al及びTiは質量%での値で計算)
 本発明でより好ましい式(4)の範囲は、2.1≦(Al+Ti)≦2.55である。
 また、本発明でより好ましい式(3)の範囲は、0.35≦(Al/Ti)≦0.65である。
 また、本発明の不純物元素であるSi、Mn、Cu、P、S、O、Nは、Si≦0.1%、Mn≦0.1%、Cu≦0.1%、P≦0.03%、S≦0.008%、O≦0.005%、N≦0.01%に制限することが好ましい。
 また、本発明の析出強化型ステンレス鋼は、常温での引張試験において伸びが7.5%以上、0.2%耐力と引張強さが0.2%耐力で1600MPa以上、引張強さで1700MPa以上、破壊靭性が40MPa・m 1/2以上の何れかを満たす析出強化型ステンレス鋼である。
[0008]
 また、本発明の上記析出強化型ステンレス鋼の製造方法は、少なくとも溶解と熱間塑性加工を行った上記組成よりなるステンレス鋼を、940℃~1050℃で固溶化処理した後、さらに480℃~550℃で時効処理を行う析出強化型ステンレス鋼の製造方法である。
 好ましくは、上記の固溶化処理に次いで-50℃~-100℃でサブゼロ処理を析出強化型ステンレス鋼の製造方法である。
 また、上記の熱間塑性加工の加工比が3以上である析出強化型ステンレス鋼の製造方法である。

発明の効果

[0009]
 本発明の析出強化型ステンレス鋼は低合金系高抗張力鋼レベルの引張強さ、0.2%耐力及び延性を有し、かつ従来の高強度ステンレス鋼なみの耐食性を有しているため、例えば、耐食性が必要な航空機用部品等の設計において、耐力比が小さい材料に比べて、引張強度を有効に使用できることが効果として期待できる。

図面の簡単な説明

[0010]
[図1] 本発明合金断面の光学顕微鏡写真である。
[図2] 比較例合金断面の光学顕微鏡写真である。
[図3] 比較例合金断面の光学顕微鏡写真である。
[図4] 実施例4の疲労試験結果を示すグラフである。

発明を実施するための形態

[0011]
 上述したように、本発明の重要な特徴は、Cを低く抑えた析出強化型マルテンサイト系ステンレス鋼の成分をベースに、引張強さと0.2%耐力を向上させるためにMoを添加し、Niと化合物形成するAlならびにTiの割合及び量のバランスをはかったことにある。
 本発明にて、各化学組成や関係式を規定した理由は以下の通りである。なお、特に記載のない限り質量%として記す。
[0012]
 C:≦0.2%
 Cは、本発明においては不純物として規制すべき元素である。Cは、TiやCr等の添加元素との炭化物の形成により強度と延性とのバランスを低下させ、さらには耐食性を劣化させるため、0.2%以下に制限する。好ましくは0.05%以下である。
 7%≦Ni≦14%
 Niは、オーステナイト形成元素であり、固溶化処理時のδフェライトの消失に有効であり、また時効処理中にAlやTiと共に微細な金属間化合物を形成して析出強化する効果があるため、必須で添加する元素である。しかし、Niが7%未満であると、固溶化処理温度においてδフェライトが安定となり、残存したδフェライトの存在形態は製造工程、特に圧延工程や鍛造工程における塑性加工方向に依存した方向性がある。そのため、最終製品の特性に方向性が現れてしまう。また、δフェライトの存在自体が強度を低下させ、その結果として強度と延性とのバランスを著しく損なう。一方、Ni添加が14%を越えるとMs点の低下が著しく、固溶化処理後の急冷処理で十分なマルテンサイト変態が行われず、大量の残留オーステナイトが残存するため、強度を著しく低下させ、強度と延性とのバランスを著しく損なう。
 そのため、Niは7%~14%の範囲とした。上述したNiの効果をより確実に得るには、Niの下限を9%とするのが好ましい。
[0013]
 0%≦Co≦3.5%
 Coは、Niと同様にオーステナイト形成元素であり、固溶化処理時のδフェライトの消失に効果があり、さらに、NiよりMs点の温度低下が大きくないため、3.5%以下の範囲で添加することは効果的である。ただし、本発明においてはNiを7~14%の範囲で必須添加するため、Coは必ずしも添加の必要はなく、0%を含む無添加レベルであっても差し支えない任意成分である。また、Coは、Niと異なりAl、Ti等との間で金属間化合物を形成せず、間接的に金属間化合物の析出を促進することや、金属間化合物を微細化することで析出強化に寄与する。しかし、Coの添加によって析出強化へ直接の寄与は大きくなく、また、多量の添加はコストの上昇を招くことから、Coの上限を3.5%とした。
 9.5%≦Cr≦14%
 Crは、耐食性を付与する目的で必須添加する。しかし、Crが9.5%未満であると、ステンレス鋼として十分な耐食性が発揮されず、一方、Crはフェライト形成元素でありCr添加が14%を超えると、固溶化処理温度においてδフェライトが安定となり、強度を低下させるだけでなく、残存したδフェライトの存在形態は製造工程に依存した方向性があるため、最終製品の特性に方向性が現れてしまう。また、δフェライトの存在自体が強度と延性とのバランスを著しく損なう。そのため、Crは9.5%~14%の範囲とした。
[0014]
 0.5%≦Mo≦3%
 Moは、強度と耐食性を向上させるため必須添加する。しかし、Moが0.5%未満であると、延性低下が著しく、一方、Moが3%を越えると固溶化処理温度においてδフェライトが安定となり、残存したδフェライトの存在形態は製造工程に依存した方向性があるため、最終製品の特性に方向性が現れてしまう。また、δフェライトの存在自体が強度と延性とのバランスを著しく損なう。そのため、Moを0.5%~3%の範囲とした。
 Moは、Crとの複合添加により耐食性、特に、耐孔食性の向上が期待できるため、Moの下限を0.7%とするのが好ましい。
 0.25%<Al<1%
 Alは、時効処理中にNiと金属間化合物を形成し析出強化する元素であるため必須で添加する。Alの添加により高強度化させるためには、0.25%以上が必要がある。一方で1%以上の添加は延性の低下が著しくなる。そのため、Alは0.25%を超えて1%未満の範囲とした。
[0015]
 0.75%<Ti≦2.5%
 Tiは、時効処理中にNiと金属間化合物を形成し析出強化する元素であるため必須で添加する。Tiの添加により高強度化させるためには、0.75%を超える添加量が必要となる。一方で2.5%を超える場合は延性の低下が著しくなる。そのため、Tiは0.75を超えて2.5%以下の範囲とした。Tiは、好ましい上限は、2.45%である。
 以上、述べた元素以外はFe及び不純物とする。
 代表的な不純物元素として、Si、Mn、Cu、P、S、O、N等があり、これらの元素は以下の範囲に規制することが好ましい。
 Si≦0.5%、Mn≦0.5%、Cu<0.5%、P≦0.05%、S≦0.02%、O≦0.01%、N≦0.05%。
 好ましくは、以下の範囲にすると良い。
 Si≦0.1%、Mn≦0.1%、Cu≦0.1%、P≦0.03%、S≦0.008%、O≦0.005%、N≦0.01%。
[0016]
 次に関係式について説明する。
 引張強さと延性を維持しつつ0.2%耐力を大きく改善するには、上述した成分の範囲を満足させるだけでなく、以下の4つの関係式の全てを満足させるように成分調整を行う必要がある。なお、式中のNi、Co、Cr、Al及びTiは質量%での値で計算する。
 式(1):1260-65Ni-20Co-40Cr≧0
 式(1)は固溶化処理後の冷却時におけるマルテンサイト変態のし易さの指標である。一般に、マルテンサイト変態がおこる温度は、Ms点として知られているが、本発明の析出強化型ステンレス鋼においては、この式(1)を満たさない場合、固溶化処理後の冷却処理で十分なマルテンサイト変態が行われず、残留オーステナイトが残存し、強度と延性とのバランスを著しく損なう。
 式(2):670+75Ni+40Co-100Cr≧0
 式(2)は固溶化処理温度においてδフェライト相が存在するか否かの指標である。このδフェライトの存在は、フェライト形成元素であるCrの添加量とオーステナイト形成元素Ni及びCoの添加量とのバランスで決定するが、本発明の析出強化型ステンレス鋼においては、この式(2)を満たさない場合、固溶化処理温度においてδフェライトが安定となり、残存したδフェライトの存在形態は製造工程に依存した方向性があるため、最終製品の特性に方向性が現れてしまう。また、δフェライトの存在自体が強度と延性とのバランスを著しく損なう。
[0017]
 式(3):0.125≦(Al/Ti)≦1.25
 式(3)は析出強化を担う析出相を最適化する指標である。この式(3)を満たす場合、L1 構造であるNi (Ti、Al)相が析出しやすく、時効処理後の強度と延性とのバランスが最も優れている。一方で、(Al/Ti)が0.125未満の場合は、六方晶系のNi Ti相が析出しやすくなり、その結果として延性が低下する。(Al/Ti)が1.25を超える場合は、B2構造のNi(Al、Ti)相が析出しやすくなり、延性の低下が著しく、引張強さが不十分となる。そのため、式(3)で示す関係式の範囲を0.125~1.25とした。強度と延性のバランスを考慮すると式(3)で示す関係式の範囲は0.35~0.65であることが好ましい。
 式(4):1.45≦(Al+Ti)≦2.95
 式(4)は析出強化を担う析出相の析出量を最適化する指標である。この式(4)で示す(Al+Ti)が1.45未満の場合は析出量が少ないため強度が不十分となり、(Al+Ti)が2.95を超える場合は析出量が多くなり過ぎるため延性の低下が著しい。そのため、式(4)で示す関係式の範囲を1.45~2.95とした。特に、式(4)で示す関係式が2.1~2.55であることが好ましい。
[0018]
 さらに本発明では、以下に示す式(5)を満足させると良い。
 式(5):4.5≦Ni/(Al+Ti)
 式(5)は破壊靭性を最適化する指標である。この式(5)で示すNi/(Al+Ti)が4.5未満の場合は破壊靭性が低下する傾向になるため、式(5)で示す関係式が4.5以上であることが好ましい。
[0019]
 次に本発明の析出強化型ステンレス鋼の製造方法について説明する。
 先ず、本発明の析出強化型ステンレス鋼に対し、所望の機械的特性を付与する熱処理について述べておく。
 一般に析出強化型ステンレス鋼は、固溶化処理においてオーステナイト相中に、析出強化元素を固溶させた後、水、油、冷却ガス等を用いた冷却により、オーステナイト相をマルテンサイトへと変態させる。その後、時効処理により金属間化合物相等を微細に析出させることにより、高強度の材料を得ることが可能になる。
 本発明においても上記の組成に調整した析出強化型ステンレス鋼に固溶化処理を行う。本発明の固溶化処理温度は、940℃未満であると合金元素が十分固溶せず、一方、1050℃を超えるとオーステナイト結晶粒が粗大化しやすく、また、δフェライトが生成し、機械的性質を害しやすいことから、固溶化処理温度を940℃~1050℃とする。なお、固溶化処理時間としては、例えば、0.5~3時間で十分である。
 本発明の析出強化型ステンレス鋼は、マルテンサイト変態開始点(Ms点)が比較的低いため固溶化処理時の冷却のみでは完全なマルテンサイト組織が得られず、オーステナイト組織が多く残留し、耐力が低下するので、固溶化処理にて、室温まで冷却したのち、さらに-50℃~-100℃でサブゼロ処理を必要に応じて行う。サブゼロ処理の処理時間としては、例えば、0.5~3時間とすることができる。サブゼロ処理を行うことによって残留オーステナイトを減少させ、耐力などの機械的特性を改善できる。
[0020]
 固溶化処理もしくはサブゼロ処理の後、高強度、高靭性をバランス良く得るために、480℃~550℃で時効処理(析出強化処理)を行う。時効処理温度は、480℃未満であると強度は高いが延性が低くなる場合があり、一方550℃を超えると、強度が低下する場合がある。なお、時効処理時間は1~24時間の保持で十分である。
 本発明の析出強化型ステンレス鋼は、上述の製造方法により、常温での引張試験において伸びが7.5%以上、0.2%耐力が1600MPa以上、引張強さが1700MPa以上の機械的特性を得ることができる。また、上述の製造方法により、破壊靭性が40MPa・m 1/2以上の特性を有することもできることから、航空機用部品等に安定的に用いることが可能となる。
[0021]
 なお、本発明の析出強化型ステンレス鋼において、介在物や成分偏析等が問題となる航空機用部品や発電用部品へ本発明の析出強化型ステンレス鋼を量産的に製造する場合、その溶解方法として、真空溶解を適用するのが好適である。真空溶解に続き、真空アーク再溶解やエレクトロスラグ再溶解等の再溶解法を適宜組合わせるのが良い。
 また、上述の熱処理を行うには、前述の溶解の後、鍛造やプレス等の熱間塑性加工を行った素材を用いて熱処理を行う。その場合、本発明の析出強化型ステンレス鋼を実際の製品に熱処理を行うときには、時効処理前に製品形状に近い形状に機械加工を行った後に時効処理を行うのが良い。
 また、熱間塑性加工を行う場合、その加工比は3以上であることが好ましい。加工比が3未満であると、0.2%耐力の低下が顕著となる場合があるためである。なお、加工比は、加工前の被加工材断面積/加工後断面積で求めるものとする。
 ここで、例えば、加工前の被加工材が鋼塊とすると、鋼塊にはテーパが形成されている場合が多い。その場合、鋼塊上下の両端部で断面積が異なるため、断面積は平均断面積として計算する。
実施例
[0022]
 (実施例1)
 以下の実施例で本発明をさらに詳しく説明する。
 真空溶解で10kg鋼塊を作製した。鋼塊にはテーパが形成されていたため、鋼塊の上部と下部の断面積を求め、その和を2で除して求めた平均断面積は5625mm であった。鋼塊の化学組成を表1に示す。なお、表1中に示した元素以外はFe及び不純物である。代表的な不純物元素のCu、P、S、O、Nの含有量はそれぞれ、0.1%以下、0.015%以下、0.0025%以下、0.005%以下、0.005%以下であった。
 なお、以下の表1及び表2で示す従来例No.31は、特許文献3から抜粋した数値であって、特許文献3の表1に示したNo.32合金の組成と、1085℃×1時間、油冷の固溶化処理後、-75℃×2時間のサブゼロ処理、385℃×2時間の時効処理、空冷(2回)後の機械的特性値を示すものである。
 また、従来例No.32は、特許文献1から抜粋した数値であって、特許文献1のTABLE1に示されている材料の一つの組成と、850℃×20分の固溶化処理後、475℃×24時間の時効処理後の機械的特性値示すものである。
 さらに従来例No.33は、特許文献2から抜粋した数値であって、特許文献2の第1表に示されている鋼種Nの組成と、900℃×1時間、空冷の固溶化処理後、500℃×5時間、空冷の時効処理後の機械的特性値である。
 また、従来例No.34は、低合金高抗張力鋼であるAISI4340として非特許文献1から抜粋した数値であって、非特許文献1のTableIIIに示されている1133K DOQT-steel 3Rの組成と機械的特性値である。
[0023]
[表1]


[0024]
 表1に示す本発明及び比較例の鋼塊を1050℃に加熱を行った後、鍛造を行って、No.14合金及びNo.15合金以外は45mm幅×20mm厚みの平角素材とした。また、No.14合金は38mm×38mmの角型素材とし、No.15合金は65mm幅×30mm厚の平角素材を作製した。なお、加工比(=鋼塊平均断面積/鍛造後断面積)を計算すると、No.14合金及びNo.15合金以外は6.25であった。No.14合金の加工比は3.90であり、No.15合金の加工比は2.88であった。
 次に作製した各鍛造素材の熱処理を行った。熱処理は、固溶化処理、サブゼロ処理、時効処理と連続して行った。固溶化処理は、大気炉にて、950℃、1000℃及び1050℃のいずれかの温度で1時間保持した後、油中で冷却した。サブゼロ処理は、ドライアイスとエタノールを用いて、-75℃で2時間保持した。時効処理は、大気炉にて、500℃、510℃、520℃及び530℃の何れかの温度で16時間保持した後、大気中で冷却した。
 固溶化処理後の断面金属組織を塩化第二鉄の水溶液にてエッチング処理して観察した。金属組織観察結果として、No.2合金及びNo.23合金の光学顕微鏡写真をそれぞれ図1及び図2に示す。
 また、上述の熱処理後の素材から平行部直径6.35mm、ゲージ長さ25.4mmの丸棒引張試験片を作製し、ASTM E8に基づいて常温において引張試験を行い、0.2%耐力、引張強さ、伸び及び絞りを測定した。測定結果を表2に示す。また、表2中には固溶化処理及び時効処理の温度を示す。
 なお、金属組織観察の結果、本発明No.2合金においては図1に示すようにδフェライト相は観察されなかったが、No.23合金では、図2に示すように、固溶化処理後に鍛造方向に方向性を持ったδフェライトの残存が確認されたため、引張試験は実施しなかった。
[0025]
[表2]


[0026]
 表2より、本発明の析出強化型ステンレス鋼に対して適切な熱処理を行うことにより、引張強さと延性を維持しつつ0.2%耐力が従来鋼No.31合金よりも高くなることが確認される。
 一方、比較例のNo.21合金はMoが添加されていないため延性が低いことが確認され、また、No.22合金は式(1)を満たさないため、強度が非常に低い値である。No.22合金の固溶化処理後の素材より試料を採取し電解研磨で仕上げた後、X線回折法により残留オーステナイト量を測定した結果、体積率で30.1%と大量の残留オーステナイトが残存していることを確認した。また、No.22合金の金属組織を図3に示す。X線回折法と金属組織観察の結果から、固溶化処理時の急冷処理でマルテンサイト変態が十分でなく大量の残留オーステナイトが残存したため強度が非常に低い値となったと考えられる。No.23合金においては、式(2)を満たさないため、固溶化処理後にδフェライトが残存したと考えられる。No.24合金に関してはAl量が多く、また、(Al+Ti)量も多いため延性が十分ではなく引張試験中に掴み部より破断した。従来例のNo.32合金の結果は、延性に寄与する要因がMoだけでなく、NiとAlおよび/もしくはTiとの金属間化合物の析出相の構造や量にもあることを示唆すると考えられる。従来例のNo.33合金の結果は、Ti量が2.5%と比較的高くCr量が少なく、かつ式(4)の値が3.0と高いにもかかわらず著しく強度低下しており、このことは析出相の析出量に臨界的な上限があることを示唆するととらえることができる。
 また、比較的合金組成が近似するNo.11合金、No.14合金及びNo.15合金を対比すると、加工比が3未満になると引張特性、特に0.2%耐力が低下することが確認された。
[0027]
 (実施例2)
 実施例1で用いた本発明のNo.1合金、No.2合金、No.3合金、No.4合金、No.10合金、No.11合金及びNo.13合金の熱処理後の素材から15mm×36mm×38.5mmのコンパクトテンション型試験片を作製し、ASTM E399に基づいて破壊靭性を測定した。測定結果を表3に示す。また、表3中には固溶化処理、時効処理の温度及び式(5)の値を示す。
[0028]
[表3]


[0029]
 表3より、本発明の析出強化型ステンレス鋼において式(5)で示すNi/(Al+Ti)が4.5以上の場合は破壊靭性が40MPa・m 1/2以上の優れた特性が得られることがわかる。
[0030]
 (実施例3)
 実施例1で用いたNo.11合金及びNo.13合金の熱処理後の素材及び低合金系高抗張力鋼のAISI4340相当材を35℃、5%塩化ナトリウム溶液での塩水噴霧試験で72時間後の発錆状況観察を行った。観察結果を表4に示す。No.11合金及びNo.13合金においては、試験を2000時間まで延長し、発錆状況観察を行ったが、発錆は確認されなかった。
[0031]
[表4]


[0032]
 表4より、本発明の析出強化型ステンレス鋼は、従来の低合金高抗張力鋼と比較し耐食性が優れていることがわかる。
[0033]
 (実施例4)
 実施例1で用いたNo.11合金及びNo.13合金の熱処理後の素材から全長110mm、評価部の直径5.00mm、切欠き係数Kt=1.0の丸棒疲労試験片を作製し、ASTM E466にしたがって常温環境、応力比0.1で応力制御軸力疲労試験を行った。
 試験片が破断したときのサイクル数を測定し、試験で得られた破断したサイクル数と試験片にかけた最大応力をまとめたものを表5に示す。加えて、非特許文献2に記載されているAISI4340材の疲労曲線、15-5PHステンレス鋼の疲労曲線とNo.11、No.13の疲労試験結果をまとめたものを図4に示す。
[0034]
[表5]


[0035]
 図4より、本発明の析出強化型ステンレス鋼は、従来の低合金高抗張力鋼やステンレス鋼と比較し疲労特性が優れていることがわかる。

産業上の利用可能性

[0036]
 本発明は0.2%耐力、引張強さに優れ、更に優れた耐食性も兼備する高強度ステンレス鋼であるため、高い強度が必要な航空機用脚材及び宇宙航空機一次構造部材、例えばフラップトラックレール、スラットトラックレール、ファスナーなどの締結部材、種々のアクチュエータ、ドアヒンジ、エンジン部品等に好適である。その他の用途としては、発電プラント用タービンブレード材、エンジン用シャフト材、ゴルフクラブのヘッドなどのスポーツ用品、または自転車部品、自動車部品、船舶部品などへの適用も期待できる。

請求の範囲

[請求項1]
 質量%で、C:≦0.2%、7%≦Ni≦14%、0%≦Co≦3.5%、9.5%≦Cr≦14%、0.5%≦Mo≦3%、0.25%<Al<1%、0.75%<Ti≦2.5%、残部はFe及び不純物からなり、かつ、下記式(1)乃至(4):
 式(1) 1260-65Ni-20Co-40Cr≧0
 式(2) 670+75Ni+40Co-100Cr≧0
 式(3) 0.125≦(Al/Ti)≦1.25
 式(4) 1.45≦(Al+Ti)≦2.95
(ただし、式中のNi、Co、Cr、Al及びTiは質量%での値で計算)の全てを満足することを特徴とする析出強化型ステンレス鋼。
[請求項2]
 式(5) 4.5≦Ni/(Al+Ti)
(ただし、式中のNi、Al及びTiは質量%での値で計算)を満足することを特徴とする請求項1に記載の析出強化型ステンレス鋼。
[請求項3]
 式(4)が、2.1≦(Al+Ti)≦2.55であることを特徴とする請求項1または2に記載の析出強化型ステンレス鋼。
[請求項4]
 式(3)が、0.35≦(Al/Ti)≦0.65であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の析出強化型ステンレス鋼。
[請求項5]
 質量%で、Si≦0.1%、Mn≦0.1%、Cu≦0.1%、P≦0.03%、S≦0.008%、O≦0.005%、N≦0.01%であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の析出強化型ステンレス鋼。
[請求項6]
 常温での引張試験における伸びが7.5%以上であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の析出強化型ステンレス鋼。
[請求項7]
 常温での引張試験における0.2%耐力が1600MPa以上及び引張強さが1700MPa以上であることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の析出強化型ステンレス鋼。
[請求項8]
 破壊靭性が40MPa・m 1/2以上であることを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の析出強化型ステンレス鋼。
[請求項9]
 少なくとも溶解と熱間塑性加工を行った請求項1乃至5の何れかに記載の組成よりなる析出強化型ステンレス鋼を940℃~1050℃で固溶化処理した後、さらに480℃~550℃で時効処理を行う析出強化型ステンレス鋼の製造方法。
[請求項10]
 固溶化処理に次いで-50℃~-100℃でサブゼロ処理を行う請求項9に記載の析出強化型ステンレス鋼の製造方法。
[請求項11]
 熱間塑性加工の加工比が3以上であることを特徴とする請求項9または10に記載の析出強化型ステンレス鋼の製造方法。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]