処理中

しばらくお待ちください...

設定

設定

出願の表示

1. WO2009044846 - 薬物誘発性リン脂質症の予測方法

Document

明 細 書

発明の名称 薬物誘発性リン脂質症の予測方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003  

発明の開示

発明が解決しようとする課題

0004  

課題を解決するための手段

0005   0006   0007   0008   0009   0010  

発明の効果

0011  

図面の簡単な説明

0012  

発明を実施するための最良の形態

0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039  

実施例

0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049  

産業上の利用可能性

0050  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8  

図面

1   2   3   4   5   6   7   8   9  

明 細 書

薬物誘発性リン脂質症の予測方法

技術分野

[0001]
 本発明は薬物誘発性リン脂質症の予測方法に関する。より詳細には、本発明は、リソソーム酵素の輸送異常あるいはオートファジーの亢進(LC3の蓄積)を指標とした、医薬候補化合物に起因する薬物誘発性リン脂質症の予測方法、並びに既存の薬物による薬物誘発性リン脂質症の診断方法に関する。

背景技術

[0002]
 薬物の投与により生体組織内にリン脂質、中性脂肪、スフィンゴミエリンなどの脂質が蓄積する脂質症は、蓄積する脂質の種類に応じてそれぞれリン脂質症(phospholipidosis, PLsis)、脂肪症(steatosis)、スフィンゴミエリン蓄積症(sphingolipidosis)などと呼ばれ、薬物誘発性脂質症(drug-induced lipidosis)と総称されることもある。脂質症を誘発する薬物の多くは、両親媒性の陽イオン性薬剤(cationic amphiphilic drugs;CADs)であることが知られている。近年、ゲノム解析の進展に伴いオーファン受容体の創薬ターゲットとしての価値が認識され、受容体に対する作動薬もしくは拮抗薬の開発が進められているが、そのような化合物はCAD構造を有する場合が多い。脂質症誘発性のために医薬品としての開発を中止するケースも増加している。また、既に認可されている医薬品の中にも副作用として脂質症を惹き起こすことが報告されているものがある。従って、薬物の脂質症誘発性について効率のよい評価・予測系の開発が急務である。
[0003]
 リン脂質症誘発性は、医薬候補化合物の前臨床段階での安全性試験の項目として実施されている。例えば、被検物質を投与した実験動物から採取した細胞内におけるミエリン様構造物の出現を電子顕微鏡観察により検出する方法(非特許文献1)、特定の遺伝子(非特許文献2)や代謝産物(非特許文献3)をバイオマーカーとして利用する方法などがあるが、スクリーニング法としての簡便性に劣る。また、培養細胞を用い、蛍光リン脂質プローブを利用して評価する方法が報告されているが(特許文献1、非特許文献4~7)、自家蛍光を発する化合物は評価できない等の欠点が想定される。
 このように、従来の薬物誘発性リン脂質症のスクリーニング法はいずれも信頼性および/または迅速性などの面で不十分であり、未だ実用的なスクリーニング系の確立には至っていない。
特許文献1 : 特開2006-112947
非特許文献1 : Prog. NeuroBiol., 60: 501-12 (2000)
非特許文献2 : Toxicol. Sci., 83: 282-92 (2005)
非特許文献3 : Biochim. Biophys. Acta, 1631: 136-46 (2003)
非特許文献4 : Biochem. Pharmacol., 53: 1521-32 (1997)
非特許文献5 : Cell Biol. Toxicol., 19: 161-76 (2003)
非特許文献6 : Biochem. Pharmacol., 62: 1661-73 (2001)
非特許文献7 : Toxicol. Sci., 90: 133-41 (2006)

発明の開示

発明が解決しようとする課題

[0004]
 本発明の目的の1つは、医薬候補化合物の毒性スクリーニングに有用な、薬物誘発性リン脂質症の予測方法を提供することである。本発明の別の目的は、既存の医薬品による副作用としての薬物誘発性リン脂質症の診断方法を提供することである。

課題を解決するための手段

[0005]
 本発明者らは、上記の目的を達成するために、まず薬物誘発性リン脂質症の機序の解明を目指した。PLsisでは、リン脂質は主としてリソソーム内に蓄積し、電子顕微鏡学的には円形ないしは楕円形のミエリン様構造物(lamellar body)が観察される。毒性の発現機構としては、1)薬物によるリソソーム酵素(主にリン脂質分解酵素(ホスホリパーゼ))の活性阻害、2)薬物によるリン脂質代謝に関わる輸送経路の阻害、3)薬物とリン脂質の複合体形成による複合体の分解阻害、4)薬物によるリン脂質の合成亢進などが提唱されているが、その機序は未だに解明されていない。
[0006]
 そこで、本発明者らは、種々のオルガネラに局在する蛋白質に対する抗体を用いて、リン脂質症誘発性薬物(PLsis Inducing Drugs; PLIDs)存在下でのその局在性の変化を調べた。その結果、後期エンドソームもしくはリソソームが肥大すること、さらに通常トランスゴルジネットワーク(TGN)に局在し、粗面小胞体で合成されたリソソーム酵素をリソソームへ輸送する役割を担っているマンノース6-リン酸受容体(MPR)の局在性が、PLIDs存在下ではTGN以外のオルガネラ(エンドソームなど)に変化することが明らかとなった。
[0007]
 以上の結果から、PLsisは、MPRがその作用部位であるTGNから枯渇することによって、リソソーム酵素が正常にリソソームに輸送されなくなり、その結果、リソソーム中のリン脂質の代謝が阻害されて蓄積することにより生ずることが示唆される。そこで、本発明者らは、リソソームに正常に輸送されなくなったリソソーム酵素の行方を決定すべく、種々の濃度のPLIDs存在下でのリソソーム酵素の分布を調べたところ、PLIDs曝露により、細胞外のリソソーム酵素活性が用量依存的に上昇する一方で、細胞内の該酵素活性は低下することを見出した。この結果は、リソソーム酵素の細胞外への分泌量の増加に伴う細胞内分解系の低下がオートファジーのmaturationの遅延を誘発し、その結果としてオートファゴソームおよびLC3(microtuble-associated protein 1 light chain 3)の蓄積を引き起こすことを示唆する。そこで、本発明者らは、オートファジーのマーカー蛋白質であるLC3に対する抗体を用いて、PLIDs存在下での細胞内のLC3の量の変化を調べた。その結果、PLIDs存在下では非存在下と比べてLC3の量が増加(蓄積)することが明らかとなった。このようなLC3の量の変化は、PLIDs存在下での細胞内外のリソソーム酵素の量の変化と相関が高かった。
[0008]
 これらの知見に基づいて、本発明者らは、被検物質の存在による細胞外および/または細胞内のリソソーム酵素の量もしくは活性またはLC3の量の変化を測定することにより、簡便かつ迅速に該被検物質のPLsis誘発性を予測する方法を確立することに成功し、本発明を完成するに至った。
[0009]
 すなわち、本発明は、
[1]薬物誘発性リン脂質症の予測方法であって、哺乳動物細胞と被検化合物とを接触させる工程、該細胞外および/または細胞内のリソソーム酵素の量もしくは活性を測定する工程、および該酵素の細胞外への分泌を促進した被検化合物を、薬物誘発性リン脂質症を誘発し得る化合物として選択する工程を含む方法;
[2]細胞外のリソソーム酵素の量もしくは活性を測定することを特徴とする、上記[1]記載の方法;
[3]薬物誘発性リン脂質症の予測方法であって、哺乳動物細胞と被検化合物とを接触させる工程、該細胞内のLC3の量を測定する工程、および該蛋白質の細胞内の量を増加させた被検化合物を、薬物誘発性リン脂質症を誘発し得る化合物として選択する工程を含む方法;
[4]哺乳動物がヒト、ラット、マウス、ハムスター、サルおよびイヌから選択される、上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法;
[5]細胞が肝臓、腎臓または肺由来のもの、あるいはリンパ球である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法;
[6]細胞が培養細胞である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法;
[7]リソソーム酵素が、β-ヘキソサミニダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、β-マンノシダーゼ、カテプシンDおよびカテプシンLからなる群より選択される1以上の酵素である、上記[1]、[2]、[4]~[6]のいずれかに記載の方法;および
[8]上記[1]または[3]記載の方法により選択された薬物誘発性リン脂質症を誘発し得る化合物を、候補から除外することを特徴とする医薬候補化合物の毒性スクリーニング方法を提供する。
[0010]
 さらに、本発明は、
[9]哺乳動物における薬物誘発性リン脂質症またはその関連疾患の診断のための検査方法であって、被検動物より採取した試料中のリソソーム酵素の量もしくは活性を測定する工程、および対照動物と比較して該酵素の細胞外への分泌が増大しているか否かを検定する工程を含む方法;
[10]哺乳動物における薬物誘発性リン脂質症またはその関連疾患の診断のための検査方法であって、被検動物より採取した試料中のLC3の量を測定する工程、および対照動物と比較して該蛋白質の細胞内の量が増大しているか否かを検定する工程を含む方法;
[11]試料が血清、血漿または尿である、上記[9]または[10]記載の方法;
[12]薬物誘発性リン脂質症の予測方法であって、哺乳動物細胞と被検化合物とを接触させる工程、該細胞内のマンノース6-リン酸受容体の局在を調べる工程、および該受容体の局在性を変化させた被検化合物を、薬物誘発性リン脂質症を誘発し得る化合物として選択する工程を含む方法;および
[13]哺乳動物における薬物誘発性リン脂質症またはその関連疾患の診断のための検査方法であって、被検動物より採取した細胞内のマンノース6-リン酸受容体の局在を調べる工程、および該受容体の局在性が変化しているか否かを検定する工程を含む方法などを提供する。

発明の効果

[0011]
 本発明の薬物誘発性リン脂質症の予測方法は、哺乳動物細胞を化合物に曝露した際の細胞外へのリソソーム酵素の分泌の促進を検出すること(あるいは細胞内のLC3の量を測定すること)を特徴とすることにより、従来のインビボ毒性試験やマーカー遺伝子の発現もしくは細胞内へのリン脂質等の蓄積を指標とする評価方法に比べて、迅速且つ簡便に多数の化合物を検査することができるという有利な効果を奏する。

図面の簡単な説明

[0012]
[図1] NRK細胞をアミオダロン(AD)に24時間曝露した際のLGP85の染色像(図1A)およびNile Redの染色像(図1B)、並びにリポ蛋白質を除去した血清を含む培地で培養したNRK細胞を各種濃度のADに24時間曝露した際のLGP85の染色像(図1C)を示す図である。
[図2] NRK細胞をAD、クロロキン(CQ)およびチロロン(TLR)に24時間曝露したときのMPRの染色像を示す図である。
[図3] NRK細胞を各種濃度のADに24時間曝露したときの細胞内外のリソソーム酵素(A:β-ヘキソサミニダーゼ、B:β-ガラクトシダーゼ、C:β-グルクロニダーゼ、D:β-マンノシダーゼ、E:カテプシンD)および小胞体酵素(F:α-グルコシダーゼ)活性を示す図である。上パネルはAD非存在下での各活性を100%とした相対活性を示し、下パネルは、総活性に占める各画分の活性の割合を示す。
[図4] NRK細胞を各種濃度のADに24時間曝露したときの細胞内外のカテプシンD(CTD)量(図4A)およびCTD活性(図4B)を示す図である。
[図5] NRK細胞をAD(レーン2、7)、CQ(レーン3、8)、TLR(レーン4、9)および塩化アンモニウム(レーン5、10)に24時間曝露したときの細胞内外のCTD量を示す図である(レーン1~5:細胞溶解液のCTD免疫沈降物;レーン6~10:培地のCTD免疫沈降物)。
[図6] NRK細胞を各種濃度のADに24時間曝露したときの細胞内外のカテプシンL(CTL)量(図6A)およびカテプシンB/L活性(図6B)を示す図である。
[図7] NRK細胞をADに種々の時間曝露したときのMPRおよびLGP85の細胞内局在(図7A)、並びに培地中のβ-ヘキソサミニダーゼ(図7B)を示す図である。
[図8] NRK細胞をADに種々の時間曝露したときのLC3の細胞内の量(図8A)および染色像(図8B)を示す図である。
[図9] NRK細胞を種々のPLIDsに24時間曝露したときのLC3の量(図9A)およびLC3-IIの定量値(図9B)を示す図である。

発明を実施するための最良の形態

[0013]
 本発明は、哺乳動物細胞と被検化合物とを接触させ、該細胞外および/または細胞内のリソソーム酵素の量もしくは活性を測定し、該被検化合物が該酵素の細胞外への分泌を促進するか否かを指標として、該被検化合物が薬物誘発性リン脂質症を誘発し得るか否かを予測する方法に関する。
 あるいは本発明はまた、哺乳動物細胞と被検化合物とを接触させ、該細胞内のLC3の量を測定し、該被検化合物が該蛋白質の細胞内での量を増大させるか否かを指標として、該被検化合物が薬物誘発性リン脂質症を誘発し得るか否かを予測する方法に関する。
[0014]
 本発明の方法により試験される化合物としては、例えば、医薬または動物薬の候補化合物などが挙げられる。特に、迅速に多検体を処理できるという点から、創薬初期段階で合成される多数の候補化合物群への適用が好ましい。この場合、「哺乳動物細胞」としては該細胞含有試料または非ヒト哺乳動物個体が用いられる。一方、リソソーム酵素の量や活性、LC3の量は血液などの容易にサンプリングが可能な試料を用いて測定することができるので、前臨床試験や臨床試験という医薬品開発の最終段階においても好ましく使用し得る。
[0015]
 使用される哺乳動物細胞含有試料としては、哺乳動物(例:ヒト、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、マウス、ラット等)、望ましくは被検化合物の投与対象とされる哺乳動物のあらゆる細胞[例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはガン細胞など]もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織[例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織、骨格筋など]、あるいは上記の細胞・組織から樹立される培養細胞(細胞株)などが例示される。好ましくは、肝細胞、腎細胞、単球、末梢血リンパ球、線維芽細胞、副腎ステロイド産生細胞、精巣細胞、卵巣細胞、腹腔マクロファージ、肺胞上皮細胞、気管支上皮細胞、肺胞マクロファージ等が挙げられる。また、再現性のよさや(特にヒト細胞の場合)入手の容易さ等から培養細胞の使用が好ましい。例えば、ヒト培養細胞としては、肝癌由来のHepG2細胞株、リンパ腫由来のU-937細胞株、単球由来のTHP-1細胞株、大腸癌由来のCaco-2細胞株等が挙げられるが、それらに限定されない。
 一方、非ヒト哺乳動物としては、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、マウス、サル、イヌ、ブタ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウシ等が例示されるがこれらに限定されない。好ましくは、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、マウス、サル、イヌ等である。例えば、ラット培養細胞としては腎由来のNRK細胞株などが、ハムスター培養細胞としては肺由来のCHL細胞株などが好ましく挙げられるが、それらに限定されない。リン脂質症誘発性薬物に曝露した際のリソソーム酵素の細胞外への分泌の増大が顕著である点、その結果として細胞内のLC3の量変化を検出しやすい点で、NRK細胞の使用が特に好ましい。
[0016]
 哺乳動物細胞含有試料と被検化合物とを接触させる方法は特に制限はないが、具体的には、例えば、培養細胞を試料として用いる場合、適当な培地中、好適な条件下で培養した細胞増殖期の細胞を、トリプシン-EDTAなどを用いて剥離させ、遠心して細胞を回収した後、適当な培地[例:約5~約20%の胎仔ウシ血清(FBS)を含むMEM培地(Science, 122: 501 (1952))、DMEM培地(Virology, 8: 396 (1959))、RPMI 1640培地(The Journal of the American Medical Association, 199: 519 (1967))、199培地(Proceeding of the Society for the Biological Medicine, 73: 1 (1950))など(必要に応じて、ペニシリン、ストレプトマイシン、ハイグロマイシン等の抗生物質をさらに添加してもよい)]を加えて所望の細胞密度となるように懸濁する。細胞密度は、リソソーム酵素およびその活性、またはLC3が検出可能であれば特に限定されないが、細胞が細胞増殖期の状態を保つように調整することが好ましい。したがって、好ましい当初細胞密度は使用する細胞の増殖速度等によって異なり、当業者であれば使用する細胞に応じて容易に設定することができるが、通常約10 4~約10 7cells/mLであり、通常条件下、例えば、CO 2インキュベーター中で、5%CO 2/95%大気、5%CO 2/5%O 2/90%大気等の雰囲気下、約30~約40℃で、約3~約168時間、好ましくは約6~約48時間、より好ましくは約12~約24時間培養する。培養により充分接着した細胞に、適当な溶媒に溶解した被検化合物を培地でさらに希釈し、終濃度が、例えば細胞が生存し得る最高濃度(当該濃度は、別途組織学的観察を行って決定することができる)以下となるように添加して、通常条件下、例えば、CO 2インキュベーター中で、5%CO 2/95%大気、5%CO 2/5%O 2/90%大気等の雰囲気下、約30~約40℃で、約3~約168時間、好ましくは約6~約48時間、より好ましくは約12~約24時間培養する。
[0017]
 一方、哺乳動物個体としては、例えばヒト、サル、ラット、マウス、ハムスター、モルモット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウシ等が挙げられる。好ましくはヒト、サル、イヌ、ラット、マウス、ハムスター等である。動物の性別、齢、体重等は特に制限されず、動物種によっても異なるが、例えばヒトの場合、母体保護の観点などから、第I相試験では、通常健常成人男性が好ましく選択される(女性・小児特有の疾患治療薬や抗癌剤などの場合はこの限りでない)。また、ラットの場合は、約2~約24月齢、体重約100~約700gのものが好ましく用いられるが、これに限定されない。
[0018]
 哺乳動物がヒト以外である場合、遺伝学的および微生物学的に統御されている動物個体群を用いることが好ましい。例えば、遺伝学的には近交系、クローズドコロニーの動物を用いることが好ましく、ラットの場合、例えばSprague-Dawley(SD)、Wistar、LEW等の近交系ラットが挙げられ、マウスの場合、BALB/c、C57BL/6、C3H/He、DBA/2、SJL、CBA等の近交系マウスおよびDDY、ICR等のクローズドコロニーマウスが挙げられるが、これらに限定されない。また、微生物学的にはコンベンショナル動物であってもよいが、感染症の影響を排除する観点から、SPF(specific pathogen free)もしくはノトバイオートグレードのものを用いるのがより好ましい。
[0019]
 哺乳動物個体を被検化合物に曝露する方法は、標的細胞(肝細胞、腎細胞、単球、末梢血リンパ球、線維芽細胞、副腎ステロイド産生細胞、精巣細胞、卵巣細胞、腹腔マクロファージ、肺胞上皮細胞、気管支上皮細胞、肺胞マクロファージ等)に十分量の被検化合物が到達するように、被検化合物を該動物に投与するものであれば特に制限はなく、例えば、被検化合物を固形、半固形、液状、エアロゾル等の形態で経口的もしくは非経口的(例:静脈内、筋肉内、腹腔内、動脈内、皮下、皮内、気道内等)に投与することができる。被検化合物の投与量は、化合物の種類、動物種、体重、投与形態などによって異なり、例えば、動物が生存し得る範囲で、標的細胞が生存し得る最高濃度以下の被検化合物に一定時間以上曝露され得るのに必要な量などが挙げられる。臨床試験においては、前臨床試験で得られたデータに基づいて設定された範囲内で種々の投与量が選択される。投与は1回ないし数回に分けて行うことができる。投与から試料採取までの時間は動物種、試験化合物の投与量、体内動態等によって異なるが、例えばラットの場合、高用量を短期間投与する場合は、初回投与から約1~約7日間、好ましくは約3~約5日間である。また、低用量を長期間投与する場合は、初回投与から約1ヶ月以上、好ましくは約2~約6ヶ月程度が挙げられる。
[0020]
 投与期間中の給餌・給水、明暗周期などの飼育方法は特に制限されないが、例えばラットやマウスなどの場合、市販の固形もしくは粉末飼料と新鮮な水道水もしくは井戸水を自由摂取させ、12時間明期/12時間暗期のサイクルで飼育する方法が挙げられる。必要に応じて一定時間絶食および/または絶水させることもできる。
[0021]
 被検化合物を投与された哺乳動物から採取される試料としては、哺乳動物細胞含有試料について例示された種々の細胞を含有するものなどが好ましく挙げられるが、迅速且つ簡便に採取することができ、動物への侵襲が少ないなどの点から、血液(例:末梢血)およびその液性画分(例:血清、血漿)、尿、リンパ液、精液等の体液が特に好ましい。
[0022]
 本発明の予測方法では、被検化合物と接触させた哺乳動物細胞の細胞外および/または細胞内のリソソーム酵素の量もしくは活性または細胞内のLC3の量を測定する。ここで「リソソーム酵素」とは、通常リソソームに局在し、脂質を含むリソソームに蓄積した物質の代謝に関連する任意の酵素を意味し、例えば、β-ヘキソサミニダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、β-マンノシダーゼ、カテプシンD、カテプシンL等が挙げられるが、それらに限定されない。測定対象となるリソソーム酵素は1つであっても2以上であってもよい。酵素活性を指標とする場合、高感度のβ-ヘキソサミニダーゼを測定対象に含むことがより好ましい。また、「LC3」とは、オートファジーによる細胞質成分の分解に関与する蛋白質であり、LC3は翻訳後(proLC3)、直ぐにC末プロセシングを受けてLC3-Iになる。さらにLC3-Iは、ホスファチジルエタノールアミン(PE)にアミド結合し、PE化されたLC3(LC3-II)はオートファゴソームに局在する。従って、LC3の蛋白質量を指標とする場合、LC3-IIを測定対象とすることが好ましい。
[0023]
 哺乳動物細胞が細胞含有試料(即ち、細胞もしくは組織培養物)として提供される場合、細胞/組織および/または培養上清を遠心分離、濾過等により適宜分取し、培養上清についてはそのまま、あるいは必要に応じて濃縮等の処理を施した後で、細胞/組織については通常の抽出方法に従って可溶性画分を調製し、リソソーム酵素の量または活性あるいはLC3の量の測定に供することができる。例えば、氷冷したリン酸緩衝液、トリス-塩酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液等の抽出用緩衝液中で、必要により超音波処理や界面活性剤等を用いて細胞/組織を破砕した後、遠心分離して上清を回収することにより得ることができる。
 一方、哺乳動物細胞が動物個体として提供される場合、上記のようにして該動物から採取される血液などの細胞含有試料を同様に細胞画分(血液の場合、血球細胞など)と液性画分(血液の場合、血清または血漿)とに分離し、細胞画分については上記と同様にして抽出液を回収することにより検体を調製することができる。あるいは細胞外のリソソーム酵素の量もしくは活性のみを測定するのであれば、標的細胞の外液などの細胞を含まない体液を採取することによって検体を得ることもできる。
[0024]
 リソソーム酵素またはLC3(以下、「本発明の蛋白質」と表記することもある)の量を測定する方法としては、各酵素蛋白質に対する抗体(以下、「本発明の抗体」と表記することもある)を用いたウェスタンブロッティングや各種イムノアッセイを用いることができる。具体的には、例えば、(i)本発明の抗体と、検体および標識化された本発明の蛋白質とを競合的に反応させ、該抗体に結合した標識化された該蛋白質を検出することにより検体中の本発明の蛋白質を定量する方法や、(ii) 検体と、担体上に不溶化した本発明の抗体および標識化された別の本発明の抗体とを、同時あるいは連続的に反応させた後、不溶化担体上の標識剤の量 (活性) を測定することにより、試料液中の本発明の蛋白質を定量する方法等が挙げられる。
 上記 (ii) の定量法においては、2種の抗体は本発明の蛋白質の異なる部分を認識するものであることが望ましい。例えば、一方の抗体が本発明の蛋白質のN端部を認識する抗体であれば、他方の抗体として該蛋白質のC端部と反応するものを用いることができる。
[0025]
 標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、[ 125I]、[ 131I]、[ 3H]、[ 14C]などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などの酵素が用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレセインイソチオシアネートなどが用いられるが、被検化合物が自家蛍光を発する場合、異なる励起波長および蛍光波長を有するものを選択する必要がある。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン-(ストレプト)アビジン系を用いることもできる。
[0026]
 本発明の抗体を用いる本発明の蛋白質の定量法は、特に制限されるべきものではなく、検体中の抗原量に対応した、抗体、抗原もしくは抗体-抗原複合体の量を化学的または物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法およびサンドイッチ法が好適に用いられる。感度、特異性の点で、例えば、後述するサンドイッチ法を用いるのが好ましい。
[0027]
 抗原あるいは抗体の不溶化にあたっては、物理吸着を用いてもよく、また通常蛋白質あるいは酵素等を不溶化・固定化するのに用いられる化学結合を用いてもよい。担体としては、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス等があげられる。
[0028]
 サンドイッチ法においては不溶化した本発明の抗体に試料液を反応させ (1次反応)、さらに標識化した別の本発明の抗体を反応させた (2次反応) 後、不溶化担体上の標識剤の量もしくは活性を測定することにより、検体中の本発明の蛋白質を定量することができる。1次反応と2次反応は、逆の順序で行っても、また、同時に行ってもよいし、時間をずらして行ってもよい。標識化剤および不溶化の方法は、前記のそれらに準じることができる。また、サンドイッチ法による免疫測定法において、固相化抗体あるいは標識化抗体に用いられる抗体は、必ずしも1種類である必要はなく、測定感度を向上させる等の目的で2種類以上の抗体の混合物を用いてもよい。
[0029]
 本発明の抗体は、サンドイッチ法以外の測定システム、例えば、競合法、イムノメトリック法あるいはネフロメトリーなどにも用いることができる。
 競合法では、検体中の本発明の蛋白質と標識した該蛋白質とを抗体に対して競合的に反応させた後、未反応の標識抗原 (F) と、抗体と結合した標識抗原 (B) とを分離し(B/F分離)、B、Fいずれかの標識量を測定することにより、検体中の本発明の蛋白質を定量する。本反応法には、抗体として可溶性抗体を用い、ポリエチレングリコールや前記抗体 (1次抗体) に対する2次抗体などを用いてB/F分離を行う液相法、および、1次抗体として固相化抗体を用いるか (直接法)、あるいは1次抗体は可溶性のものを用い、2次抗体として固相化抗体を用いる固相化法 (間接法) とが用いられる。
[0030]
 イムノメトリック法では、検体中の本発明の蛋白質と固相化した該蛋白質とを一定量の標識化抗体に対して競合反応させた後、固相と液相を分離するか、あるいは検体中の本発明の蛋白質と過剰量の標識化抗体とを反応させ、次に固相化した該蛋白質を加えて未反応の標識化抗体を固相に結合させた後、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し、検体中の抗原量を定量する。
[0031]
 また、ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果生じた不溶性の沈降物の量を測定する。検体中の本発明の蛋白質の量がわずかであり、少量の沈降物しか得られない場合にも、レーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーなどが好適に用いられる。
[0032]
 これら個々の免疫学的測定法を本発明の定量方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に、当業者の通常の技術的配慮を加えて、本発明の蛋白質の測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。
 例えば、Meth. Enzymol., Vol. 70: (Immunochemical Techniques (Part A)), 同書 Vol. 73 (Immunochemical Techniques (Part B)), 同書 Vol. 74 (Immunochemical Techniques(Part C)), 同書 Vol. 84 (Immunochemical Techniques (Part D: Selected Immunoassays)), 同書 Vol. 92 (Immunochemical Techniques (Part E: Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods)), 同書 Vol. 121 (Immunochemical Techniques (Part I: HybridomaTechnology and Monoclonal Antibodies)) (以上、Academic Press発行) などを参照することができる。
 以上のようにして、本発明の抗体を用いることによって、細胞内外における本発明の蛋白質の量を感度よく定量することができる。
[0033]
 一方、リソソーム酵素の活性は、各酵素に応じて自体公知の活性測定法を用いて測定することができる。例えば、検体をリソソーム酵素に対する基質であって、酵素反応により蛍光を発したり、発色したりする化合物と接触させ、生じる蛍光の強度や発色の度合を蛍光光度計や分光光度計などを用いて測定することにより、リソソーム酵素を定量することができる。例えば、β-ヘキソサミニダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、β-マンノシダーゼの測定法としては、The EMBO Journal, 12: 5219-5223 (1993) に記載の方法が、カテプシンDの測定法としては、J. Biochem, 125: 1137-1143 (1999) に記載の方法が、カテプシンB/Lの測定法としては、Methods in Enzymology, 80: 535-561 (1981)に記載の方法が、それぞれ挙げられる。
 尚、リソソーム酵素がカテプシンなどのプロテアーゼである場合、該酵素は不活性なプロ体(プロ酵素)としてリソソームに輸送され、そこでプロセッシングを受けて活性の成熟蛋白質となる場合が多い。したがって、細胞のリン脂質症の発現のために細胞外に分泌されるプロテアーゼはプロ体である。そのため、リソソーム酵素が不活性な前駆体を経由する蛋白質である場合は、抗体を用いてリソソーム酵素の量を測定するか、あるいは自体公知の手法によりプロセッシングして成熟体とした後に活性測定を行う必要がある。
[0034]
 被検化合物が哺乳動物細胞において薬物誘発性リン脂質症を誘発する場合、リソソーム酵素受容体であるMPRの局在性の変化により、リソソーム酵素の細胞外への分泌が増大する。したがって、上記測定の結果、被検化合物の存在下における細胞外のリソソーム酵素の量もしくは活性が、被検化合物の非存在下に比べて有意に増加した場合、および/または被検化合物の存在下における細胞内のリソソーム酵素の量もしくは活性が、被検化合物の非存在下に比べて有意に減少した場合に、該被検化合物は、薬物誘発性リン脂質症を誘発する可能性が高いと予測することができる。薬物誘発性リン脂質症を誘発する場合の細胞外への分泌の増大が比較的小さいリソソーム酵素を測定対象とする場合は、細胞外および細胞内のリソソーム酵素の量もしくは活性を測定し、両者の比を被検化合物の存在下と非存在下との間で比較することにより測定感度を向上させることができる。
[0035]
 また、被検化合物が哺乳動物細胞において薬物誘発性リン脂質症を誘発する場合、リソソーム酵素の細胞外への分泌量が増大するため、細胞内分解系の低下によるオートファジーのmaturationの遅延を引き起こし、LC3の細胞内濃度が増大する。したがって、上記測定の結果、被検化合物の存在下における細胞内のLC3の量が、被検化合物の非存在下に比べて有意に増加した場合に、該被験化合物は、薬物誘発性リン脂質症を誘発する可能性が高いと予測することができる。
[0036]
 本発明は、上述のように、リソソーム酵素の細胞外への分泌の増大またはLC3の細胞内蓄積を指標として、薬物誘発性リン脂質症を予測し得ることを見出したことに基づく。本発明の方法は、薬物誘発性リン脂質症の診断に使用することができる。従って、本発明はまた、被検哺乳動物より採取した試料中のリソソーム酵素の量もしくは活性またはLC3の量を測定し、対照動物と比較してリソソーム酵素の細胞外への分泌またはLC3の細胞内の量が増大しているか否かを検定することによる、該被検動物における薬物誘発性リン脂質症またはその関連疾患の診断のための検査方法を提供する。ここで、哺乳動物、哺乳動物から採取される試料はいずれも上記本発明の予測方法において記載したと同様である。また、ここで「診断」とは、罹患の有無の判定に限らず、確定診断後の重症度(進行度)、将来罹患・発症する可能性が高いか否かの判定など、あらゆる診断を包含する概念として用いられる。
[0037]
 ここで「薬物」とは、医薬品もしくは動物薬として既に認可され使用されている薬物のほか、被検動物が誤って服用ないし環境中から吸収した任意の薬物などが挙げられる。
[0038]
 また、薬物誘発性リン脂質症に関連する疾患(副作用症状)として、例えば肺線維症、失明、脳症などが挙げられるが、それらに限定されない。また、非ヒト哺乳動物における疾患としては、例えばネコ、イヌなどのペット動物における肝リピドーシス等も挙げられる。
[0039]
 本発明は、薬物誘発性リン脂質症が、MPRの細胞内局在性の変化によりリソソーム酵素が正常にリソソームに輸送されなくなり、その結果として細胞外への分泌が増大することの発見に基づく。したがって、本発明はまた、哺乳動物細胞と被検化合物とを接触させ、該細胞内のMPRの局在を調べ、該受容体の局在性の変化に基づいて該被検化合物が薬物誘発性リン脂質症を誘発し得るか否かを予測する方法、並びに、被検動物より採取した細胞内のMPRの局在を調べ、該受容体の局在性が変化しているか否かを検定することによる、哺乳動物における薬物誘発性リン脂質症またはその関連疾患の診断のための検査方法を提供する。MPRの細胞内局在は、抗MPR抗体を用いた免疫組織化学染色などの自体公知の手法により調べることができる。その結果、MPRの局在がその本来の作用部位であるTGNから別のオルガネラ(エンドソームなど)に変化していた場合に、被検化合物は薬物誘発性リン脂質症を誘発する可能性が高い、あるいは被検動物は薬物誘発性リン脂質症またはその関連疾患に罹患しているか、将来罹患する可能性が高いと予測(診断)することができる。

実施例

[0040]
 以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であって本発明の範囲を何ら限定するものではない。
[0041]
参考例1 AD曝露による後期エンドソーム/リソソームの肥大およびリン脂質の蓄積
 NRK細胞(正常ラット腎由来細胞株)を、リン脂質症誘発性薬物(PLIDs)であるアミオダロン(AD)に24時間曝露し、後期エンドソーム/リソソームに局在する膜タンパク質であるLGP85の抗体を用いて共焦点レーザー顕微鏡により観察したところ、これらのオルガネラが肥大していることが判明した(図1A)。また、Nile Red染色によりそこにはリン脂質が蓄積していることが判明した(図1B)。
 また、通常の胎児ウシ血清の代わりに、リポ蛋白質を除去した血清を10%となるように添加したDMEM培地で細胞を培養し、細胞外からのリポ蛋白質の供給を絶った条件下でのAD曝露によるリソソームの形態変化およびリン脂質蓄積の有無を検討した結果、AD用量依存的に後期エンドソーム/リソソームの肥大化が起こり(図1C)、そこにリン脂質が蓄積していることが判明した。したがって、AD曝露により蓄積するリン脂質は細胞外から供給されたものではなく、リン脂質症の病態の発現であることが確認された。
[0042]
実施例1 AD曝露によるMPRの局在変化
 NRK細胞を種々の濃度のADに24時間曝露した後、後期エンドソーム/リソソーム、ゴルジ装置、TGNなどに局在する蛋白質に対する抗体を用いて、これらのオルガネラを共焦点レーザー顕微鏡により観察したところ、MPRの局在パターンが、AD曝露によって、非曝露時にみられる通常のTGN局在から、肥大した顆粒状構造物に変化していることが明らかとなった(図2)。同様のMPR局在の変化は、クロロキン(CQ)、チロロン(TLR)、塩化アンモニウムへの曝露によっても認められた。
[0043]
実施例2 AD曝露後の細胞内外のリソソーム酵素活性の測定
 NRK細胞を0(溶媒対照)、5、10、20、40および80μMのADに24時間曝露したときの細胞内および培地中のリソソーム酵素活性を常法により測定した。その結果、ADの用量依存的に培地中のリソソーム酵素活性が上昇し、細胞内の酵素活性が低下することが判明した(図3A~E)。一方、小胞体酵素であるα-グルコシダーゼの活性はADが細胞毒性を示す用量である80μMにおいてしか変化が認められなかったことから(図3F)、培地中のリソソーム酵素活性の上昇は、細胞損傷による細胞外への漏出ではなく、リソソーム酵素が選択的に細胞外に分泌されたためであることが証明された。
[0044]
実施例3 種々のPLIDs曝露による細胞外のリソソーム酵素活性の上昇
 NRK細胞を、表1に記載される18種の薬物(うち15種はインビトロまたはインビボでリン脂質症誘発性ありと報告されている)に24時間曝露したときの培地中のβ-ヘキソサミニダーゼ活性を常法により測定した。その結果、ゲンタマイシン以外の14種のリン脂質症誘発薬物で培地中のリソソーム酵素活性の上昇が認められ、また、ほとんどの化合物で後期エンドソーム/リソソームの肥大およびMPRの局在変化との相関が認められた(表1)。HeLa細胞を用いて同様の実験を行った場合も培地中のリソソーム酵素活性の上昇が認められたが、最大で対照の1.7倍の上昇であり、NRK細胞を用いた方がより高感度に酵素活性の上昇を検出できることが示唆された。
[0045]
[表1]


[0046]
実施例4 AD曝露後の細胞内外のリソソーム酵素量の測定
 カテプシンのようなプロテアーゼはゴルジ装置からリソソームに輸送される間は不活性なプロ酵素の形態をとり、リソソーム内でプロセッシングされて活性な成熟型酵素となる。カテプシンD(CTD)の場合、ラット(NRK)細胞では約45kDaのプロ酵素として生合成され、リソソームの酸性環境でプロセッシングされて約43kDaの成熟型酵素となる。
 そこで、NRK細胞を0(対照)、5、10、20、40および80μMのADに24時間曝露したときの細胞内および培地中のリソソーム酵素(CTDおよびカテプシンL(CTL))の量を該酵素に対する抗体を用いたウェスタンブロッティングにより測定した。即ち、細胞溶解液および培地の抗CTD抗体による免疫沈降物もしくは細胞溶解液および培地そのものを、それぞれ抗CTD抗体もしくは抗CTL抗体でウェスタンブロット解析した。その結果、細胞内のCTDは、対照では成熟型酵素がほとんどであるが、AD曝露により細胞毒性の小さい40μMの濃度まではプロ酵素の割合が用量依存的に増加し、CTDが正常にリソソームに輸送されていないことが示された。また、培地中には成熟型酵素は全く認められず、プロ酵素のみがADの用量依存的に増加した(図4A)。このことからも、培地中のリソソーム酵素の増加が、細胞損傷などによる細胞外への漏出のためではなく、選択的な細胞外への分泌の結果であることが示された。更に、NRK細胞をCQ、TLRおよび塩化アンモニウムに24時間曝露した場合でも、対照に比べて細胞内のプロ酵素の割合が増加し、培地中へのプロ酵素の分泌量が増加することが明らかとなった(図5)。
 一方、CTLは約39kDaのプロ酵素として生合成された後、細胞内輸送の過程で30kDaの一本鎖型と23kDaおよび7kDaからなる二本鎖型の成熟型酵素に変換される。細胞内のCTL活性はAD曝露により用量依存的に減少したのに対し、培地中のCTL活性は細胞毒性の顕著な80μMでしか変化が認められなかった(図6B)。しかし、抗CTL抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果、細胞内ではADの用量依存的に成熟型酵素の割合が減少し、プロ酵素の割合が増加していた。また、培地中には成熟型酵素は全く認められず、プロ酵素のみがADの用量依存的に増加した(図6A)。CTDでは培地中の酵素活性がADの用量依存的に上昇したのに対し、CTLでは変化がなかったのは、CTD活性は自己触媒的なプロセッシングが起こるpH4.0で測定しているのに対し、CTL活性はほとんどプロセッシングが起こらないpH6.0で測定していることによると考えられる。
[0047]
実施例5 MPRの局在変化およびリソソーム酵素の細胞外分泌の時間依存性
 NRK細胞を0(溶媒対照)、10および20μMのADに1、3、6および12時間曝露したときのMPRおよびLGP85の局在を、各蛋白質に対する抗体を用いて共焦点レーザー顕微鏡により観察した。さらに、培地中のβ-ヘキソサミニダーゼの活性を常法により測定した。その結果、6時間の曝露によりMPRの局在に顕著な変化が認められ(図7A)、12時間以上の曝露では培地中のリソソーム酵素活性が対照の約2倍以上に上昇した(図7B)。
[0048]
実施例6 AD曝露によるLC3の細胞内蓄積
 NRK細胞に20μMのADを1、3、6、12および24時間曝露したとき、各細胞についてオートファジーのマーカーであるLC3(microtuble-associated protein 1 light chain 3)の量を該酵素に対する抗体を用いたウェスタンブロッティングにより測定した。即ち、細胞溶解液を抗LC3の抗体でウェスタンブロット解析した。その結果、3時間の曝露によりLC3-IIの量が増加し,12及び24時間では顕著に増加した(図8A)。また、共焦点レーザー顕微鏡により観察したところ、AD曝露によって、非曝露時にはみられなかったLC3で染色された顆粒が時間依存的に増加していることが明らかとなった(図8B)。
[0049]
実施例7 種々のPLIDs曝露による細胞内のLC3の蓄積
 NRK細胞を種々のPLIDsに24時間曝露したときの細胞中のLC3の量をウェスタンブロッティングにより測定した。その結果、リン脂質症誘発薬物で細胞内のLC3の量の増加(図9AおよびB)が認められ、細胞外のリソソーム酵素活性の増加と良い相関が認められた。

産業上の利用可能性

[0050]
 本発明の予測方法は、薬物によるリン脂質症誘発性の簡便、迅速且つ高感度な予測が可能であり、開発初期段階で迅速に毒性化合物を峻別し、リード化合物の選択を効率化するスクリーニング手段として有用である。特に、従来の蛍光脂質プローブを用いた評価系では誘発性の有無が評価困難と想定される自家蛍光を有するような化合物などについても評価可能であり、より信頼性の高い評価系として期待できる。
 さらに、本発明の予測・診断方法は、血漿などの末梢体液を試料とすれば非侵襲的な診断が可能となることから、薬物誘発性リン脂質症の臨床診断においてもきわめて有用である。
 本出願は、日本で出願された特願2007-261125(出願日:平成19年10月4日)を基礎としており、その内容はすべて本明細書に包含されるものとする。

請求の範囲

[1]
 薬物誘発性リン脂質症の予測方法であって、哺乳動物細胞と被検化合物とを接触させる工程、該細胞外および/または細胞内のリソソーム酵素の量もしくは活性を測定する工程、および該酵素の細胞外への分泌を促進した被検化合物を、薬物誘発性リン脂質症を誘発し得る化合物として選択する工程を含む方法。
[2]
 細胞外のリソソーム酵素の量もしくは活性を測定することを特徴とする、請求項1記載の方法。
[3]
 薬物誘発性リン脂質症の予測方法であって、哺乳動物細胞と被検化合物とを接触させる工程、該細胞内のLC3の量を測定する工程、および該蛋白質の細胞内の量を増加させた被検化合物を、薬物誘発性リン脂質症を誘発し得る化合物として選択する工程を含む方法。
[4]
 哺乳動物がヒト、ラット、マウス、ハムスター、サルおよびイヌから選択される、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
[5]
 細胞が肝臓、腎臓または肺由来のもの、あるいはリンパ球である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
[6]
 細胞が培養細胞である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
[7]
 リソソーム酵素が、β-ヘキソサミニダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、β-マンノシダーゼ、カテプシンDおよびカテプシンLからなる群より選択される1以上の酵素である、請求項1または2記載の方法。
[8]
 請求項1または3記載の方法により選択された薬物誘発性リン脂質症を誘発し得る化合物を、候補から除外することを特徴とする医薬候補化合物の毒性スクリーニング方法。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]

[ 図 6]

[ 図 7]

[ 図 8]

[ 図 9]