処理中

しばらくお待ちください...

設定

設定

1. WO2008129664 - レーザー光による有機反応の制御方法および反応装置

Document

明 細 書

発明の名称 レーザー光による有機反応の制御方法および反応装置

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005   0006   0007   0008  

発明の開示

発明が解決しようとする課題

0009   0010   0011  

課題を解決するための手段

0012  

発明の効果

0013   0014   0015  

発明を実施するための最良の形態

0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043  

実施例

0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081   0082   0083   0084   0085   0086   0087   0088  

図面の簡単な説明

0089   0090  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6  

図面

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10   11   12   13   14  

明 細 書

レーザー光による有機反応の制御方法および反応装置

技術分野

[0001]
 本発明はレーザー光による有機反応の制御方法および反応装置に関する。

背景技術

[0002]
 今日、年間数10万もの多種多様な新規有機化合物が合成されその生産プロセスのうち、熱反応によるものが99%以上を占める。一般的には、温度、圧力、溶媒、触媒による化学反応が用いられ、高温・高圧の過酷な条件を必要とするプロセスも少なくない。これらは大量のエネルギーを消費し熱損失も大きいことから非効率であり、かつ有害な副産物を生成するなどして環境及び安全の面での問題も大きい。このような状況から、収率及び選択性の両面から極めて高い効率を持ち、環境に調和する新たな合成方法(低温反応プロセス)の開発が求められている。
[0003]
 一般的に熱反応は分子の振動・回転・並進の活性化によって起こる。熱反応は、分子の振動準位に相当する数kcal/moleのエネルギーが順次吸収されて、高い振動準位に至り原子間の振動が活発化し、ついには弱い結合が切れて他の物質へと変換していくプロセスである。
[0004]
 一方、レーザー光による有機反応のように光による活性化を利用した反応は、分子の中でエネルギーの低い軌道を回っていた電子が、光のエネルギーを受けてエネルギーの高い(電子の詰まっていなかった)空軌道にたたき上げられることによって起こる電子励起状態(基底状態より、E=hνだけ大きくなり反応性が増した状態)によって誘起される。そして2つの分子を反応させるためには、一方の分子の最高被占軌道(HOMO)を、反応相手の分子の最低空軌道(LUMO)の位相と一致させる必要があると考えられている(フロンティア軌道理論)。
[0005]
 電子励起状態における分子の特性として以下の(1)~(3)が知られており、一般的な温度、圧力、溶媒、触媒による化学反応では実現できない選択的かつ特異な有機反応を光化学反応が成し遂げる可能性がある。
[0006]
 (1)基底状態にある結合軌道がレーザーの高エネルギーの吸収により一気に反結合性軌道に励起されると、結合が開裂(解離)する。励起分子は普通の共有結合と同程度の大きなエネルギーを持っていて、かなり強い結合も切断され、反応性に富んだラジカルなどが生成されたり、エネルギーを蓄えた歪みの大きい分子が生成される。
[0007]
 (2)電子分布が基底状態のものと異なっていることから、基底状態では起こらない反応が起こる。同じ型の反応が起きても、熱反応と光反応とでは位置選択性・立体選択性が違う。
[0008]
 (3)励起状態の最高被占軌道(HOMO)には電子を1個持っていて、これを他の分子に与えやすいので還元力が強い。また励起された電子の後に残った正孔(ホール)は他の分子から電子を受入やすく酸化力が増している。このことから、電子励起状態は基底状態に比べ、還元力・酸化力ともに強くなっている。

発明の開示

発明が解決しようとする課題

[0009]
 しかしながら、赤外レーザーを用いて特定の振動電子状態への励起による反応経路の制御や赤外多光子励起による選択的な結合切断など多くの試みはなされているものの、失敗に終わった例が多い。その理由として、赤外レーザーにより特定の伸縮振動モードを励起しても、分子内の極めて早いエネルギーの再分配により、分子内の最も弱い化学結合が切れてしまうことが挙げられる。これでは従来の熱反応と同じであり、選択的に結合解離や結合生成を実現することはできない。選択反応を可能にするためには、エネルギーが再配分される緩和速度より反応速度が打ち勝つことが必要になる。
[0010]
 紫外レーザーの短パルス性でエネルギー再配分の緩和速度より反応速度を高速にし、それに伴う急熱・急冷却を利用して、選択的な結合解離や結合生成を行う試みもあるが、熱エネルギーへの変換を抑制して、完全な非熱的反応場を形成することには無理がある。また有益な反応のみを選択的にかつ高効率に誘起するための最適な反応制御方法(電子移動制御方法)並びに、分子構造の変化をその場(in situ)で測定する反応追跡装置、反応物質の物理的・化学的特性の変化を計測する装置などが一体化された精密改質及び合成装置は開発されていない。
[0011]
 超短パルスレーザーを集光照射しエネルギー強度を1PW/cm 2(1×10 15 W/cm 2)レベルに上げ強光子場を用いると、完全な非熱的反応場を形成することが可能になり、分子の構造が大きく変形する。詳しくは、分子のポテンシャル面が光電場により大きく歪む(ドレスト状態のポテンシャルが形成される)ことにより、本来切断するはずのない化学結合を切断することが可能になる。またレーザー光の強度、波形、パルス幅、チャープ、位相などの最適制御方法を開発し上手に光子場を設計できれば、選択的に分子結合を解離したり、生成したりする確率を高めることができると考えられている。

課題を解決するための手段

[0012]
 本発明は、有機物質にレーザー光を照射する工程を包含する有機反応の制御方法を提供する。
 本発明の好ましい一態様では、上記有機反応は非熱的過程で進行する。
 本発明の好ましい一態様では、上記レーザー光はパルス幅が10 -12以下の超短パルスレーザーである。
 本発明の好ましい一態様では、上記有機物質は水素含有化合物又は液晶ポリマーである。
 本発明は、また、有機物質にレーザー光を照射する手段を備えた、上記方法を行うための反応装置を提供する。
 本発明は、更に、レーザー光が透過できるレーザー透過部を有し、有機物質(固体、溶融体、液体などの形態)を収容する容器と、前記有機物質にレーザー光を照射するレーザー照射手段を備えた上記方法を行うための反応装置を提供する。

発明の効果

[0013]
 本発明は、有機物質に目的とする機能性を与えるために、レーザー光により選択的かつ特異な有機光化学反応を誘起・制御することにより、精密に分子設計を行う方法に関する発明である。その一例として前記有機物質が液晶ポリマー(LCP)の場合、液晶ポリマー自体の物理的強度及び電磁波特性を向上させることを目的として、超短パルスレーザーによる非熱的反応を用い、超高速で分子の電子励起を行い、精密かつ選択的に分子間の炭素と炭素のみを結合させる特異な架橋反応を生成することで実質的に重合度を上げ、物理的強度及び電磁波特性を向上させることができる。例えば、既存の液晶ポリマーを改質して高機能化を実現したり、その機能性モノマーを直接合成できうるのみではなく、有機合成全般に渡り従来法における熱反応に伴う危険性や環境リスクを低減できる新規反応場及びプロセスを開発できる利点がある。
[0014]
 本発明の液晶ポリマーの高機能化に関わる具体的な効果は、以下の(1)~(5)である。
 (1)液晶ポリマーの精密改質反応の光制御方法及び装置の確立
 (2)液晶ポリマーのモノマーの精密有機合成の光制御方法及び装置の確立
 (3)液晶ポリマーの精密重合反応の光制御方法及び装置の確立
 (4)液晶ポリマーの精密分子設計手法及び装置の確立
 (5)液晶ポリマーに選択的かつ特異な反応を誘起した新規機能性物質の創製
[0015]
 また環境・エネルギー問題解決に関わる具体的な効果は、以下の(6)~(9)である。
 (6)有害環境汚染物質の分解方法(無害化方法)
 (7)新エネルギー燃料物質、例えば水素などの製造方法
 (8)収率及び選択性の両面から極めて高い効率を持ち、環境に調和する精密マイクロプラントの実現
 (9)商業プロセスプラントの小型化・省エネ化・環境保全化

発明を実施するための最良の形態

[0016]
 レーザー光の照射対象である有機物質の種類は特に限定されない。例えば、低分子化合物では水素発生原料としての用途が期待される水素含有化合物、高分子量化合物ではタイヤ補強繊維のような機能性材料としての用途が期待される液晶ポリマーが挙げられる。
[0017]
 液晶ポリマーは溶液型でも溶融型でもよい。しかしながら、重合度や物理的強度が向上する改質効果は溶融型について顕著に得られる。溶融型液晶ポリマーは異方性溶融相を形成するポリマーであり、当業者にサーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれているものである。
[0018]
 異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することができる。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。上記ポリマーは光学的に異方性である。即ち、直交偏光子の間で検査したときに光を透過させる。試料が光学的に異方性であると、たとえ静止状態であっても偏光は透過する。
[0019]
 液晶ポリマーとしては、具体的には、例えば芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸などから選ばれたモノマー単位、特には芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸から選ばれたモノマー単位を構成単位とする異方性溶融相を形成する液晶ポリエステル樹脂ならびに液晶ポリステルアミドである。
[0020]
 照射対象はどのような形態のものでもよい。例えば、液体は、少なくとも一部がレーザー光を透過可能な容器に収納して、照射を行う。また、例えば、ポリマーは、繊維状、微粒子状、板状、フィルム状などに成形した形態、溶液および溶融体を膜状、微粒子状にした形態で、照射を行う。
[0021]
 照射時に触媒は存在してもしなくてもよい。触媒は一般に高価であり、触媒を用いない場合、反応が安価に行なえる。また、触媒が不存在であると反応系が単一相になるため、反応の管理及び操作が非常に簡単になる。
[0022]
 但し、触媒を用いると反応の効率が向上するため、触媒の存在下で照射を行なってもよい。例えば、有機物質の液体の反応に好ましい触媒は、アルミナなどの担体に白金などの白金属元素、又は銅、ニッケル、クロム、亜鉛などの碑金属元素及びその酸化物などを担持した金属化合物の粉末、またはCu-ZnO系、またはCu-ZnO-M(但し、Mは亜鉛に置換する他の金属であり、アルミニウム、クロム、ガリウム、鉄、マンガン、セリウム、パラジウム、白金及び金からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属)などである。またTiO に代表される光触媒でもよい。
[0023]
 触媒の使用量は、照射するレーザー光の種類や波長にもよるが、波長800nmの場合、有機物質に対して0.001~0.1重量%、好ましくは0.005~0.05重量%である。
[0024]
 照射するレーザー光の種類は特に限定されず、赤外レーザー、紫外レーザー、ファイバーレーザー、半導体レーザー、UV-LEDレーザーなどを用いてよい。しかしながら、フェムト秒レーザーを用いると有機反応が非熱的過程で進行するため好ましい。
[0025]
 レーザー光の照射スポット径は特に制限されず、目的とする変化部の大きさやその変化の種類又は該変化の程度、レンズの大きさや開口数又は倍率などに応じて適宜選択することができ、例えば、直径50μm以下(好ましくは0.1~10μm程度)の範囲から選択することができる。またシリンドリカルレンズを用いてレーザー光をライン状に変換して集光照射する場合、例えば幅約1mm×長さ約5mmのライン面積を選択することもできる。
[0026]
 ここでいうフェムト秒レーザーとは、パルス幅が10 -12秒以下の超短パルスレーザーをいう。例えば、パルス幅が1×10 -15秒~1×10 -12秒、好ましくは10×10 -15秒~500×10 -15秒より好ましくは50×10 -15秒~300×10 -15秒であるパルスレーザーであればよい。
[0027]
 フェムト秒レーザーは、例えば、チタン・サファイア結晶を媒質とするレーザー、エルビウムまたはイッテリビウムドープ石英のファイバーレーザーや色素レーザーを再生、増幅して得ることができる。フェムト秒レーザーの波長は、例えば、260~800nmから適宜選択する。また、フェムト秒レーザーの繰り返し数は、例えば、1Hz~80MHzの範囲から選択し、通常、10Hz~500kHz程度である。
[0028]
 フェムト秒レーザーの平均出力又は照射エネルギーは特に制限されず、対象物の種類や状態等に応じて適宜選択することができる。使用する集光手段をも考慮して、照射対象物の集光部にアブレージョンが起こらない範囲に調節することが好ましい。
[0029]
 例えば、固体フィルム状の液晶ポリマーに照射する場合、照射光を、対物レンズを用いて直径約50μmの円面積に集光照射するときは、平均出力を0.06~0.16mW、好ましくは0.08~0.14mWに調節し、シリンドリカルレンズを用いて照射光をライン状に変換して、幅約1mm×長さ約5mmのライン面積に集光照射するときは、100~800mW、好ましくは300~700mWに調節する。
[0030]
 また、溶融されて液状又は液体フィルム状になった液晶ポリマーに照射する場合、照射光を、対物レンズを用いて直径約50μmの円面積に集光照射するときは、平均出力をレーザーアブレージョンが起こらない範囲に調節し、シリンドリカルレンズを用いて照射光をライン状に変換して、幅約1mm×長さ約5mmのライン面積に集光照射するときは、30~2000mW、好ましくは50~500mWに調節する。
[0031]
 フェムト秒レーザーの平均出力が低すぎると改質効果が不十分となり、高すぎると照射対象物の照射スポット部に熱衝撃を伴うレーザーアブレージョンが生じるおそれがある。
[0032]
 本発明によれば、固体状態の液晶ポリマーフィルムに照射して、レーザーアブレージョン反応を誘起することができる(微粒子:ナノ粒子を目標物質に飛来・堆積させ液晶ポリマー薄膜を生成することができれば、有機エレクトロニクス材への応用が可能になる)。
[0033]
 液晶ポリマーファイバー固体状態(直径0.3mm)に照射して、高分子主鎖を切断する反応を誘起することにより、物理的強度を劣化させることができる(液晶ポリマーリサイクル・廃棄処理への応用)。
[0034]
 液晶ポリマーフィルム溶融状態に照射して、分子構造を変化させ架橋構造を生成することにより、物理的強度や電磁波特性を向上させることができる(溶融紡糸工程での連続改質、高機能液晶ポリマー創製への応用)。
[0035]
 ベンゼンからフェノール、フェノールから4-ヒドロキシ安息香酸(POB)、ナフタレンから2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸(BON6)などを直接合成し、液晶ポリマーのモノマー直接合成方法を確立することにより、新規の機能性液晶ポリマーのモノマーを創製することができる。
[0036]
 液晶ポリマーモノマー重合反応(ポリマー合成)プロセスに最適照射することにより、反応を促進することができる。
[0037]
 液晶ポリマー溶融紡糸プロセスに最適照射して、連続改質を行うことにより、液晶ポリマーファバーを高機能化することができる。
[0038]
 液晶ポリマー電子・フォトニクス材料、その他の機能性材料(医薬、食物質を含む)を創製できる。
[0039]
 有害環境汚染物質に照射して、選択的かつ特異な分解反応を誘起することにより、無害化することができる。
[0040]
 水素含有化合物に照射して、選択的かつ特異な分解反応を誘起することにより、非熱的に水素を製造することができる。
[0041]
 また、当該超短パルスレーザー、又はその他の種類のレーザーによる光化学反応を利用する以外にも、その他の光源による照射を最適設計することにより、同等の選択的かつ特異な有機光化学反応の効果を上げることができれば、光制御による精密分子設計における光変換効率をさらに向上させうると考えられる。
[0042]
 図1は本発明の有機光反応を行うのに好ましい反応装置の構成を示す概略図である。この反応装置は有機物質6(固体、溶融体、液体などの形態)を収容する容器5、及び有機物質にレーザー光2を照射するレーザー照射手段を有している。容器5の下には加熱冷却ステージ7が設けられていてもよい。容器5はレーザー光を透過するレーザー透過部を有する必要があり、例えば石英マイクロリアクターなどが好ましい。レーザー照射手段は、典型的には、レーザー発生部1、反射ミラー3、集光レンズ4などから構成される。
[0043]
 以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」などの量は、特に断らない限り重量基準である。

実施例

[0044]
<調製例>
 液晶ポリマーの合成
 4-ヒドロキシ安息香酸256部、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸129部及び無水酢酸266部を、攪拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、窒素ガス雰囲気下に40℃~145℃を1時間かけて昇温し、145℃で0.5時間保った後、325℃まで7時間で昇温し、さらに325℃で30分反応させた後、325℃で減圧を行った。90分で100torrまで減圧し、更に100torr下で10分重合反応を行った時点で所定の攪拌トルクに達したので重合槽を密閉し、窒素ガスにより重合槽内を0.1MPaに加圧し反応を終了した。
[0045]
 次いで重合槽底部のバルブを開き、ダイスを通じ重合槽内容物をストランド状に抜き出し、重合槽直下に設置された水冷式のコンベアによりストランドをカッターへ送り、ペレット状に切断することによりポリマーのペレットを得た。
[0046]
 溶融粘度測定
 合成した樹脂を溶融粘度測定装置(東洋精機(株)製「キャピログラフ1A」)を用い、0.7mmφ×10mmのキャピラリーで測定温度320℃、剪断速度10 -1での粘度を測定した。このように320℃で測定した溶融粘度は22Pa・sであった。
[0047]
 結晶融解温度測定
 セイコーインスツルメンツ株式会社製「Exstar6000」を用い、合成した樹脂試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、330℃で10分間保持した。
[0048]
 ついで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却し、その際に観測される発熱ピークのピークトップの温度を樹脂の結晶化温度(Tc)とし、さらに、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリエステル樹脂の融点結晶融解温度(Tm)とした。このように示差走査熱量計により測定される結晶融解温度は280℃であった。
[0049]
<実施例1>
 調製例で合成した液晶ポリマーを射出成形機(日精樹脂工業(株)製「UH1000-110」)を用いて300℃のシリンダー温度にて長さ89mm、幅54mm、厚さ0.8mmの液晶ポリマー板を成形した。
[0050]
 コヒーレント(Coherent)社製Ti:サファイアレーザー(波長780nm、平均出力600mW、繰り返し数200kHz、パルス幅200フェムト秒)を用い、図1に示した構成の反応装置により、得られた液晶ポリマー板の表面にフェムト秒レーザーを5倍対物レンズで集光照射(集光面積:直径約50μmの円面積)した。
[0051]
 その結果、照射直後に青色の蛍光(第二高調波:SHG)が発生し、照射スポットにおいては熱衝撃を伴うレーザーアブレージョンによる10μm~20μm程度の穴があき、その周辺に改質部分が観察された。図2は表面にフェムト秒レーザーが照射された液晶ポリマー板の外観を示す写真である。このレーザーアブレージョン機構を利用して、改質された液晶ポリマーの微粒子(ナノ粒子)を生成し、それを目標とする材料の表面に堆積させ改質液晶ポリマーの有機薄膜を創製する製法を確立することが可能になる。またその製法を用いることにより、液晶ポリマー及びそれ以外の有機物質から新規有機エレクトロニクス材料を創製することが可能になる。
[0052]
<実施例2>
 ダイ幅150mm、圧縮比2.0のTダイを装着し、300℃のシリンダー温度およびダイ温度に設定した東洋精機製ラボプラストミル100C100に、調製例で合成した液晶ポリマーを供し、巻き取り速度3m/分で巻き取りながら厚み約50μmのフィルムを得た。
[0053]
 サイバーレーザー(Cyber Laser)社製エルビウムドープ石英ファイバーレーザー(波長780nm、平均出力0.14mW、繰り返し数1kHz、パルス幅215フェムト秒)を用い、上記液晶ポリマーフィルムの6mm×24mmの面積部分に対し、照射速度10μm/pulse(10000μm/s)でフェムト秒レーザーを照射して改質処理を行った。
[0054]
 その試料に対しゲル透過クロマトグラフ法(GPC)により分子量分布を測定した。図3は液晶ポリマーの改質処理部と改質未処理部についてGPC測定の結果を示すスペクトルである。改質処理部を示す曲線aは改質未処理部を示す曲線bよりも分子量が高くなる方向にシフトする分布傾向がある。平均分子量の計算結果を表1に示す。
[0055]
[表1]


[0056]
 表1の結果によれば、改質処理をした部分の数平均分子量(Mn)は改質処理していない部分のものより約15%上がっていることから、引張強度、衝撃強度、硬さなどが向上していると予想される。
[0057]
<実施例3>
 ガラス基板の上に、実施例2で得られた液晶ポリマーフィルム(約12mm×12mm、板厚50μm)を乗せ、ホットステージ上で約320℃(初期昇温速度40℃/min)に加熱し溶融状態にした。
[0058]
 サイバーレーザー(Cyber Laser)社製エルビウムドープ石英ファイバーレーザー(波長780nm、繰り返し数1kHz、パルス幅215フェムト秒)を用い、溶融した液晶ポリマーフィルムの表面に超短パルスレーザーを5倍対物レンズで集光照射(集光面積:直径約50μmの円面積)した。照射はレーザーアブレージョンが起こらない範囲に平均出力を調節して行った。
[0059]
 得られた改質液晶ポリマーに対しゲル透過クロマトグラフ法(GPC)による分子量分布の測定を行おうとしたところ、前処理用溶媒(ペンタフロロフェノール)に溶けない物質に変化していた。
[0060]
  固体NMR測定
 改質液晶ポリマーおよび改質処理していない液晶ポリマーをフィルムに成形し、固体NMR測定を行なった。測定条件を表2に示す。
[0061]
[表2]


[0062]
 図4は改質液晶ポリマーフィルム(中央部)の 13CCP/MASスペクトルである。図5は改質処理していない液晶ポリマーフィルムの 13CCP/MASスペクトルである。図4のスペクトル中には架橋構造を表わす可能性のあるピークcが認められた。
[0063]
  緩和時間測定
 次に、架橋の有無を評価するため、改質液晶ポリマーフィルム及び改質処理していない液晶ポリマーフィルムについて、分子運動を反映すると考えられる水素核T 1ρ 緩和時間測定を行なった。この結果を表3に示す。
[0064]
[表3]


[0065]
 改質液晶ポリマーフィルムと改質処理していない液晶ポリマーフィルムとでは、改質液晶ポリマーフィルムの方が大きな値となっていることから、改質液晶ポリマーフィルムの分子運動性が低下しており、架橋構造の存在が示唆された。
[0066]
 図6は、改質液晶ポリマーフィルム(中央部)の水素核T 1ρ プロットである。図7は、改質処理していない液晶ポリマーフィルムの水素核T 1ρ プロットである。
[0067]
 改質液晶ポリマーのスペクトル分布上のピークNo.7とNo.8の緩和時間の平均値16.61m秒を、改質処理していない液晶ポリマーのピークNo.3とNo.4の緩和時間の平均値13.55m秒で割った値で、重合度の向上割合を近似したところ、重合度は約23%向上していた。
[0068]
  コンタクトタイム依存性測定
 更に、改質液晶ポリマーフィルム及び改質処理していない液晶ポリマーフィルムについて、コンタクトタイム依存性の測定を行なった。測定条件を表4に示す。
[0069]
[表4]


[0070]
 図8は、改質液晶ポリマーフィルム(中央部)のコンタクトタイム依存性プロット(130ppm)である。図9は、改質処理していない液晶ポリマーフィルムのコンタクトタイム依存性プロット(130ppm)である。これらのプロットによれば、コンタクトタイムの時定数は改質液晶ポリマーフィルムで22.8m秒、改質処理していない液晶ポリマーフィルムで75m秒であり、改質液晶ポリマーフィルムの時定数は改質処理していない液晶ポリマーフィルムのものよりも小さい。このことは、改質液晶ポリマーフィルム中に架橋構造があることを示している。
[0071]
 以上の分析結果から、改質液晶ポリマーは架橋構造を有し、その結果重合度が上がっており、改質処理していない液晶ポリマーと比較して、引張り強度、弾性率、衝撃強度、硬さなどが向上していると考えられる。
[0072]
<実施例4>
 溶着防止のためにアルミ箔を敷いたガラス基板の上に、実施例2で得られた液晶ポリマーフィルム(幅約10mm×長さ約40mm、板厚約50μm)を5枚重ねて乗せ、ホットステージ上で約380℃に加熱し溶融状態にした。
[0073]
 コヒーレント(Coherent)社製Ti:サファイアレーザー(波長780nm、平均出力50mW~500mW、繰り返し数200kHz、パルス幅150フェムト秒)を用い、溶融した液晶ポリマーフィルムの表面に超短パルスレーザー光をシリンドリカルレンズを用いてライン状に変換して、集光照射(集光面積:幅約1mm×長さ約5mmのライン面積)した。
[0074]
 照射は、集光部の長さ方向と液晶ポリマーフィルムの長さ方向がほぼ垂直になるように、光源に対して液晶ポリマーフィルムを位置させ、ついで、液晶ポリマーフィルムの表面全体が集光部によって1回走査されるように、光源に対して液晶ポリマーフィルムを移動させて行った。超短パルスレーザーの平均出力は、試料ごとに、50mW、100mW、300mW、及び500mWと変化させた。
[0075]
 照射後の各フィルムについて引張り試験を行い、初期ヤング率及び破断強度を測定した。試験条件を表5に示す。また、測定結果を表6に示す。
[0076]
[表5]


[0077]
[表6]


[0078]
 図10は照射強度(平均出力)に対して初期ヤング率をプロットしたグラフである。図11は照射強度に対して破断強度をプロットしたグラフである。これらのグラフから、照射強度が増加すると、初期ヤング率および破断強度が高くなる傾向が認められた。
[0079]
 この結果より、液晶ポリマーの繊維化における成形加工において、溶融紡糸のノズル出口以前の溶融状態、またはノズル出口以降の溶融又は半溶融状態のファイバーに、照射条件を最適化した超短パルスレーザーを照射することで、非熱的光化学反応を利用することにより重合度を高め、物理的強度を向上させうると考えられる。この方法においては、従来法のように成形後に熱処理で固相重合をさせて重合度を高めるためのプロセス、すなわち真空下における高温処理プロセスが不必要になる利点がある。
[0080]
 この改質された液晶ポリマー繊維には引張破断強度及び初期ヤング率が高くなると同時に、曲げ強度及び圧縮弾性率も高くなる可能性がある。この特性の向上した繊維の応用として例えば、乗用車用、軽トラック用、特に大型トラック・バス用のラジアルタイヤのカーカス材に使用されるスチールコードの代わりに用いることにより、更なるタイヤの軽量化及びそれに伴う性能の向上、耐久性(屈曲疲労性)の向上、などが可能になる。
[0081]
 また液晶ポリマーのフィルム化における成膜加工においても、ダイ出口以前の溶融状態、またはダイ出口以降の溶融又は半溶融状態のフィルムに最適照射することにより、物理的強度及び縦横方向(流れ方向:MDとこれと直交する方向:TD)の強度の均一性を向上させうると考えられる。更にこの改質方法には、従来の液晶ポリマーに高周波(THz)領域の電磁波を透過しにくい特性を持たせる可能性があることから、高周波・誘電特性(低誘電損失)により優れた耐熱フィルムを創製できうると考えられる。
[0082]
 また、当該超短パルスレーザーによる光化学反応を利用する以外にも、その他の種類のレーザー、又は光源による照射を最適設計することにより、同等の改質効果を上げることができれば、改質における光変換効率をさらに向上させうると考えられる。
[0083]
<実施例5>
 実施例2で得られた液晶ポリマーフィルム(幅約10mm×長さ約40mm、板厚約50μm)の表面に対し、コヒーレント(Coherent)社製Ti:サファイアレーザー(波長780nm、繰り返し数200kHz、パルス幅150フェムト秒、平均出力500mW)を用い、シリンドリカルレンズを用いて超短パルスレーザー光をライン状に変換して集光照射(集光面積:幅約1mm×長さ約5mmのライン面積)した。
[0084]
 照射は、集光部の長さ方向と液晶ポリマーフィルムの長さ方向がほぼ垂直になるように、光源に対して液晶ポリマーフィルムを位置させ、ついで、液晶ポリマーフィルムの表面全体が集光部によって1回走査されるように、光源に対して液晶ポリマーフィルムを移動させて行った。
[0085]
 テラヘルツ測定機(先端赤外社製「pulseIRS-2004」)を用いて、照射後のフィルムについてテラヘルツ(THz)分光スペクトル測定を行った。
[0086]
 図12は照射後のフィルムについてテラヘルツ分光スペクトル測定を行った結果を示すスペクトルである。図13は未照射のフィルムについてテラヘルツ分光スペクトル測定を行った結果を示すスペクトルである。図14は照射後のフィルムについてのスペクトルから未照射のフィルムについてのスペクトルを差し引いた差分を示すスペクトルである。
[0087]
 図14に示されたスペクトルより、照射後のフィルムは、テラヘルツ電磁波の透過率が、未照射のフィルムよりも低くなっていることが認められた。電磁波の透過率が減少した原因のひとつは、ポリマーの分子間で架橋構造が形成されたことと考えられる。かかるポリマーはテラヘルツ電磁波シールド材やフォトニクス材料への応用が有望である。
[0088]
 また、本発明の改質方法には、従来の液晶ポリマーフィルムに高周波(THz)領域の電磁波を透過しにくい特性を持たせる可能性があることから、更に高周波・誘電特性(低誘電損失)に優れた耐熱フィルムを提供できることが考えられる。

図面の簡単な説明

[0089]
[図1] 本発明の反応装置の構成を示す概略図である。
[図2] 表面にフェムト秒レーザーが照射された液晶ポリマー板の外観を示す写真である。
[図3] 液晶ポリマーの改質処理部と改質未処理部についてGPC測定の結果を示すスペクトルである。
[図4] 改質液晶ポリマーフィルム(中央部)の 13CCP/MASスペクトルである。
[図5] 改質処理していない液晶ポリマーフィルムの 13CCP/MASスペクトルである。
[図6] 改質液晶ポリマーフィルム(中央部)の水素核T 1ρ プロットである。
[図7] 改質処理していない液晶ポリマーフィルムの水素核T 1ρ プロットである。
[図8] 改質液晶ポリマーフィルム(中央部)のコンタクトタイム依存性プロット(130ppm)である。
[図9] 改質処理していない液晶ポリマーフィルムのコンタクトタイム依存性プロット(130ppm)である。
[図10] 液晶ポリマーフィルムの引張り試験において、照射強度に対して初期ヤング率をプロットしたグラフである。
[図11] 液晶ポリマーフィルムの引張り試験において、照射強度に対して破断強度をプロットしたグラフである。
[図12] 照射後の液晶ポリマーフィルムについてテラヘルツ分光スペクトル測定を行った結果を示すスペクトルである。
[図13] 未照射の液晶ポリマーフィルムについてテラヘルツ分光スペクトル測定を行った結果を示すスペクトルである。
[図14] 照射後の液晶ポリマーフィルムについてのスペクトルから未照射のフィルムについてのスペクトルを差し引いた差分を示すスペクトルである。

符号の説明

[0090]
1・・・レーザー発生部、
2・・・レーザー光、
3・・・反射ミラー、
4・・・集光レンズ、
5・・・容器、
6・・・有機物質、
7・・・加熱冷却ステージ。

請求の範囲

[1]
 有機物質にレーザー光を照射する工程を包含する有機反応の制御方法。
[2]
 前記有機反応が非熱的過程で進行する請求項1記載の方法。
[3]
 前記レーザー光がパルス幅が10 -12以下の超短パルスレーザーである請求項1又は2記載の方法。
[4]
 前記有機物質が液晶ポリマーである請求項1~3のいずれか記載の方法。
[5]
 有機物質にレーザー光を照射する手段を備えた、請求項1~4のいずれか記載の方法を行うための反応装置。
[6]
 レーザー光が透過できるレーザー透過部を有し、固体、溶融体、液体などの形態である有機物質を収容する容器と、前記有機物質にレーザー光を照射するレーザー照射手段を備えた請求項1~4のいずれか記載の方法を行うための反応装置。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]

[ 図 6]

[ 図 7]

[ 図 8]

[ 図 9]

[ 図 10]

[ 図 11]

[ 図 12]

[ 図 13]

[ 図 14]