国際・国内特許データベース検索
このアプリケーションの一部のコンテンツは現在ご利用になれません。
この状況が続く場合は、次のお問い合わせ先までご連絡ください。ご意見・お問い合わせ
1. (WO2008123445) 垂直磁気記録媒体およびその製造方法
Document

明 細 書

発明の名称 垂直磁気記録媒体およびその製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005   0006   0007   0008   0009   0010  

発明の開示

発明が解決しようとする課題

0011   0012   0013   0014   0015   0016   0017   0018  

課題を解決するための手段

0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032  

発明の効果

0033  

図面の簡単な説明

0034  

発明を実施するための最良の形態

0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081   0082   0083   0084   0085   0086   0087   0088   0089   0090   0091   0092   0093   0094   0095   0096   0097   0098   0099   0100   0101   0102   0103   0104   0105   0106   0107   0108   0109   0110   0111   0112   0113   0114   0115   0116   0117  

産業上の利用可能性

0118  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10   11   12   13  

図面

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10  

明 細 書

垂直磁気記録媒体およびその製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気記録媒体およびその製造方法に関する。

背景技術

[0002]
 近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径垂直磁気記録ディスクにして、1枚あたり100GBを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請に応えるためには1平方インチあたり150GBitを超える情報記録密度を実現することが求められる。
[0003]
 HDD等に用いられる垂直磁気記録ディスクにおいて高記録密度を達成するためには、情報信号の記録を担う磁気記録層を構成する磁性結晶粒子を微細化すると共に、その層厚を低減していく必要があった。ところが、従来から商業化されている面内磁気記録方式(長手磁気記録方式、水平磁気記録方式とも呼称される)の磁気ディスクの場合、磁性結晶粒子の微細化が進展した結果、超常磁性現象により記録信号の熱的安定性が損なわれ、記録信号が消失してしまう、いわゆる熱揺らぎ現象が発生するようになり、磁気ディスクの高記録密度化への阻害要因となっていた。この阻害要因を解決するために、近年、垂直磁気記録方式の磁気ディスク(垂直磁気記録ディスク)が提案されている。
[0004]
 垂直磁気記録方式は、面内磁気記録方式の場合とは異なり、磁気記録層の磁化容易軸は基板面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は面内記録方式に比べて、熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。
[0005]
 また、このような情報記録密度の増加に伴い、円周方向の線記録密度(BPI:Bit Per Inch)、半径方向のトラック記録密度(TPI:Track Per Inch)のいずれも増加の一途を辿っている。さらに、磁気ディスクの磁性層と、磁気ヘッドの記録再生素子との間隙(磁気的スペーシング)を狭くしてS/N比を向上させる技術も検討されている。近年望まれる磁気ヘッドの浮上量は10nm以下である。
[0006]
 このような、磁気的スペーシングを小さくするための1つの技術として、磁気ヘッド素子の動作時に、ヘッド素子を発熱させ、その熱によって磁気ヘッドを熱膨張させ、ABS(The air bearing surface)方向にわずかに突出させるDFH(Dynamic Flying Height)ヘッドが提案されている。これにより、磁気ヘッドと磁気ディスクとの間隙を調節し、常に安定して狭い磁気的スペーシングで磁気ヘッドを飛行させることができる。
[0007]
 垂直磁気記録ディスクでは、磁気ヘッドが垂直磁気記録ディスクに衝突した際、磁気記録層の表面が傷つかないように保護する媒体保護層が設けられる。媒体保護層は、カーボンオーバーコート(COC)、即ち、カーボン皮膜によって高硬度な皮膜を形成する。媒体保護層には、カーボンの硬いダイヤモンドライク結合と、柔らかいグラファイト結合とが混在しているものもある(例えば、特許文献1)。また、ダイヤモンドライク結合保護膜を、CVD(Chemical Vapour Deposition)法によって製造する技術も開示されている(例えば、特許文献2)。さらに、媒体保護層の耐久性を向上させる技術も開示されている(例えば、特許文献3)。
[0008]
 ところで、垂直磁気記録方式においては、単磁極型垂直ヘッドが用いられ、上述したように、磁気記録層に対して垂直方向の磁界が生じる。しかし、単に単磁極型垂直ヘッドを用いるのみでは、単磁極端部を出た磁束が直ぐに反対側のリターン磁極に戻ろうとするため十分な強度の磁界を磁気記録層に印加することができない。そこで、垂直磁気記録ディスクの磁気記録層の下に軟磁性層を設け、軟磁性層を磁束の通り道とすることで磁気記録層に垂直方向の強い磁界を印加することが可能となる。
[0009]
 また、このような軟磁性層をスペーサ層を隔てて2層に分離させ、その磁化の方向を垂直磁気記録ディスク面に平行かつ互いに逆向きにする、いわゆるAFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)構造をとることで、軟磁性層における水平方向の巨大な磁区の発生を抑制し、その磁壁から生じる垂直方向の漏れ磁束によるスパイクノイズの発生を防止する技術も知られている(例えば、特許文献4)。
[0010]
 また媒体保護層の上には、磁気ヘッドが衝突した際に媒体保護層および磁気ヘッドを保護するために、潤滑層が形成される。潤滑層は、例えばパーフルオロポリエーテルを塗布して焼結することにより形成される。
特許文献1 : 特開平10-11734号公報
特許文献2 : 特開2006-114182号公報
特許文献3 : 特開2005-149553号公報
特許文献4 : 特開2002-358618号公報

発明の開示

発明が解決しようとする課題

[0011]
 上述したような例えば10nm以下の磁気的スペーシングを達成するために、垂直磁気記録ディスクの媒体保護層に対して3nm以下の薄膜化が求められている。しかし、単に媒体保護層を薄膜化すると、媒体保護層自体の耐摩耗性や耐衝撃性等の耐久性が劣化することとなる。
[0012]
 従来から媒体保護層の様々な形成方法が知られているが、従来の媒体保護層は十分な耐久性を有していないため、LUL(Load Unload)方式の垂直磁気記録ディスク装置において、磁気記録ヘッドが垂直磁気記録ディスク上にロードされた時の衝撃で、垂直磁気記録ディスク上に微少なスクラッチ等が発生し、再生信号が低下する問題が起こっている。
[0013]
 また、上述したDFHヘッドを用いた場合においても、磁気ヘッドが磁気ディスクに接触したとき、潤滑層の固着力が弱い場合には、潤滑層が磁気ヘッドに移着してしまう場合がある。すると磁気ヘッドが覆われることによってリードライトに不良を生じたり、磁気ヘッドの浮上が不安定となってハイフライライト現象を生じるおそれがある。ハイフライライト現象とは、磁気ヘッドが磁気ディスクから離れてしまったことにより書き込んだはずのデータが書き込まれていない現象であり、必ずしもハードウェアは故障していなくても読み出しエラーを生じてしまう。
[0014]
 上記特許文献3においても、このような媒体保護層の耐久性を向上する技術が記載されているが、上記ハイフライライトの問題や、媒体保護層膜厚を3nm以下とするための具体的な手段については言及されていない。
[0015]
 また、磁気メディアに従来から存在していた問題の1つにコロージョンがある。コロージョンは、典型的にはコバルト(Co)などの金属が下層から析出し、媒体保護層の表面に酸化物を形成する現象である。コロージョンが発生すると、その位置に記録されたデータが消失してしまうほか、磁気ヘッドの低浮上量化もあいまってクラッシュ障害が発生し、ディスクドライブの故障に発展するおそれがある。
[0016]
 かかる問題を解決するために発明者らが鋭意検討したところ、媒体保護層成膜直前に磁性層を加熱処理することで、直後の媒体保護層の性質が変化すること、および、その加熱処理温度を調整することで、媒体保護層のラマンスペクトルが変化すること、ならびに、潤滑層の固着力は媒体保護層の最表面の窒素量に影響されること、および、媒体保護層の最表面の窒素と炭素の原子量比(N/C)が、表面処理層の窒素流量の変化に依存することを見出した。従って、媒体保護層を成膜する直前に磁性層を加熱することにより、ダイヤモンドライク結合を増加させ、媒体保護層の耐摩耗性や耐衝撃性等の耐久性を向上させることができ、コロージョンの発生を抑制することが可能となる。
[0017]
 しかし、上記の媒体保護層成膜前には、既に軟磁性層が形成されており、軟磁性層には上述したAFC構造が用いられている。このAFC構造は、熱に弱く、高温に加熱することで反平行に配された上下2層の反強磁性結合力が低下し、ついにはAFC構造としての機能を果たさなくなってしまう場合もある。軟磁性層のAFC構造が壊れると、軟磁性層からのノイズが増大し、高記録密度を達成することが困難になる。
[0018]
 本発明は、従来の媒体保護層の構成が有する上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、耐摩耗性や耐衝撃性等の耐久性を向上し、また、潤滑層の磁気ヘッドへの移着を防止することにより、媒体保護層の膜厚が3nm以下に制限されたとしてもハイフライライトやコロージョン等の諸問題を回避可能な、垂直磁気記録媒体およびその製造方法を提供することである。

課題を解決するための手段

[0019]
 上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、基体上に磁気記録層を備え、磁気記録層上に媒体保護層を備える垂直磁気記録媒体であって、磁気記録層は、少なくともコバルト(Co)を含有する柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性物質からなる粒界部が形成されたグラニュラー構造の強磁性層であり、媒体保護層は、炭素を主成分とする皮膜の表層に窒素を含浸してなり、含有する窒素(N)と炭素(C)の原子量比(N/C)が0.050~0.150であり、かつ、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザ光により媒体保護層を励起して得られる波数900cm -1~波数1800cm -1におけるラマンスペクトルから蛍光を除いたスペクトルの1350cm -1付近に現れるDピークDh(Disordered-peaks-height)と、1520cm -1付近に現れるGピークGh(Graphite-peaks-height)とをガウス関数により波形分離したときのピーク比Dh/Ghが0.70~0.95であることを特徴とする、垂直磁気記録媒体が提供される。
[0020]
 上記媒体保護層成膜直前に磁性層を加熱する構成により、ラマンスペクトルによるピーク比Dh/Ghを0.70~0.95とすることができ、耐衝撃性や耐摩耗性、耐食性等の耐久性を向上することができる。また、原子量比(N/C)を0.050~0.150とすることで、ハイフライライトの問題や磁気ヘッドとのクラッシュを回避することが可能となる。
[0021]
 垂直磁気記録媒体は、鉄(Fe)を30~70at%含有する反強磁性交換結合(AFC)構造で形成され、飽和磁化Msが1.2T以上である軟磁性層を磁気記録層の下に備えてもよい。軟磁性層は、スペーサ層を隔てて2層に分離され、その磁化の方向を垂直磁気記録媒体のディスク面に平行かつ互いに逆向きに構成する。このように構成された反強磁性交換結合(AFC:Antiferro-magnetic exchange coupling:以下単にAFCという。)構造は、所定温度以上の熱によって反平行に配された上下2層の反強磁性結合力が低下してしまう。本発明では、軟磁性層の成膜時に鉄を混合することで、熱に強いAFC構造を形成し、媒体保護層成膜直前の加熱を可能にした。また、飽和磁化Msは、記録媒体への書き込みやすさ、すなわちオーバーライト特性に影響を及ぼし、飽和磁化Msが大きいほどオーバーライト特性は向上する。したがって、かかる飽和磁化Msが1.2T以上となる構成により、求められるオーバーライト特性を維持することができる。
[0022]
 また、軟磁性層は、交換結合磁界Hexが40Oe以上であってもよい。上記AFC構造の結合の強さは交換結合磁界Hexに基づいて決まる。したがって、Hexが大きいほどAFCのカップリングが強いこととなり、Hexが40Oe未満であると、AFC構造としての機能を維持できなくなってしまう。
[0023]
 磁気記録層はグラニュラー構造で形成され、磁気記録層の上に補助記録層を備えてもよい。かかる構成により、磁気記録層の磁性粒子の微細化と保磁力Hcの向上を図ることができる。したがって、磁気記録層の高密度記録性と低ノイズ性を向上することが可能である。また、磁気記録層の上に補助記録層を備えることにより、垂直磁気記録媒体に更に高熱ゆらぎ耐性を付加することができる。
[0024]
 補助記録層の組成は、CoCrPtBであってもよい。これにより、垂直磁気異方性を示す薄膜を形成し、垂直磁気記録媒体の高熱ゆらぎ耐性を向上することが可能である。
[0025]
 上記課題を解決するために、本発明の他の観点によれば、基体上に磁気記録層を備え、磁気記録層上に炭素を主成分とする皮膜からなる媒体保護層を備える垂直磁気記録媒体の製造方法であって、磁気記録層として、少なくともコバルト(Co)を含有する柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性物質からなる粒界部が形成されたグラニュラー構造の強磁性層を形成し、後に形成される媒体保護層の、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザ光により媒体保護層を励起して得られる波数900cm -1~波数1800cm -1におけるラマンスペクトルから蛍光を除いたスペクトルの1350cm -1付近に現れるDピークDhと、1520cm -1付近に現れるGピークGhとをガウス関数により波形分離したときのピーク比Dh/Ghが、0.70~0.95となるように当該垂直磁気記録媒体を加熱し、媒体保護層をCVD法により成膜し、さらに、窒素(N)と炭素(C)の原子量比(N/C)が0.050~0.150となるように窒素に曝露することを特徴とする、垂直磁気記録媒体の製造方法が提供される。
[0026]
 ラマンスペクトルによるピーク比Dh/Ghが0.70~0.95、原子量比(N/C)が0.050~0.150となるように垂直磁気記録媒体を形成することで、耐摩耗性や耐衝撃性等の耐久性を向上し、媒体保護層の膜厚が3nm以下に制限されたとしてもハイフライライト等の諸問題を回避することができる。
[0027]
 磁気記録層を形成する前に、鉄(Fe)を30~70at%含有する反強磁性交換結合(AFC)構造の軟磁性層を形成してもよい。軟磁性層は、交換結合磁界Hexが40Oe以上であってもよい。
[0028]
 磁気記録層の後に、グラニュラー構造の補助記録層を形成してもよい。補助記録層の組成は、CoCrPtBであってもよい。
[0029]
 加熱は、157~204℃の温度で為されてもよい。媒体保護層成膜直前に加熱処理した場合、プラズマで分解された炭素原子が高エネルギーを維持したまま基板まで到達できる。この高エネルギーを維持した炭素原子が磁性膜上の基板に成膜されることから、緻密で耐久性のある媒体保護層が成膜できる。また、磁性層を高温で加熱することにより、磁性層と媒体保護層との密着性も向上する。
[0030]
 媒体保護層を成膜した後、さらに、流量が100~350sccmの窒素雰囲気下に曝し、媒体保護層の表面処理を行うとしてもよい。流量が100~350sccmの窒素雰囲気下に曝すことで窒素(N)と炭素(C)の原子量比(N/C)が0.050~0.150となり、CVDで形成する媒体保護層と潤滑層との密着性と硬度が好適になる。
[0031]
 さらに、末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を含有する潤滑層を形成してもよい。
[0032]
 パーフルオロポリエーテルは、直鎖構造を備え、垂直磁気記録媒体用に適度な潤滑性能を発揮するとともに、末端基に水酸基(OH)を備えることで、媒体保護層に対して高い密着性能を発揮することができる。特に、媒体保護層の表面に窒素を含有する表面処理層を備える本発明の構成では、(N )と(OH )とが高い親和性を奏するので、高い潤滑層密着率を得ることができる。

発明の効果

[0033]
 以上、説明したように、本発明の垂直磁気記録媒体によれば、耐摩耗性や耐衝撃性等の耐久性を向上し、また潤滑層の磁気ヘッドへの移着を防止することにより、媒体保護層の膜厚が3nm以下に制限されたとしてもハイフライライト等の諸問題を回避することが可能となる。

図面の簡単な説明

[0034]
[図1] 本実施形態にかかる垂直磁気記録ディスクの構成を説明する図である。
[図2] AFC構造による磁化特性を説明するための説明図である。
[図3] Feの濃度を変化させた場合の垂直磁気記録媒体の基板温度と、AFCによる交換結合磁界Hexの強さとの関係を示した説明図である。
[図4] Feの濃度とブロッキング温度との関係を示した説明図である。
[図5] Feの濃度と飽和磁化Msとの関係を示した説明図である。
[図6] 媒体保護層成膜直前の基板温度と加熱後のピーク比Dh/Ghとの関係を示した説明図である。
[図7] Feの濃度と加熱後のピーク比Dh/Ghとの関係を示した説明図である。
[図8] 実施例と比較例のパラメータおよび有効性を示した説明図である。
[図9] ラマンスペクトルのイメージを説明するための説明図である。
[図10] 実施例と比較例とのN/CおよびDh/Ghをプロットしたプロット図である。

発明を実施するための最良の形態

[0035]
 以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
[0036]
 図1は、本実施形態にかかる垂直磁気記録媒体としての垂直磁気記録ディスク100の構成を説明する図である。図1に示す垂直磁気記録ディスク100は、ディスク基体10、付着層12、第一軟磁性層14a、スペーサ層14b、第二軟磁性層14c、配向制御層16、第一下地層18a、第二下地層18b、オンセット層20、第一磁気記録層22a、第二磁気記録層22b、補助記録層24、媒体保護層26、潤滑層28で構成されている。なお第一軟磁性層14a、スペーサ層14b、第二軟磁性層14cは、あわせて軟磁性層14を構成する。第一下地層18aと第二下地層18bはあわせて下地層18を構成する。第一磁気記録層22aと第二磁気記録層22bとはあわせて磁気記録層22を構成する。
[0037]
 まず、アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円盤状に成型し、ガラスディスクを作成した。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性のディスク基体10を得た。
[0038]
 アルミノシリケートガラスは、平滑かつ高剛性が得られるので、磁気的スペーシング、特に、磁気ヘッドの浮上量をより安定して低減できる。また、アルミノシリケートガラスは化学強化により、高い剛性強度を得ることができる。
[0039]
 得られたディスク基体10上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、Ar雰囲気中でDCマグネトロンスパッタリング法にて、付着層12から補助記録層24まで順次成膜を行い、媒体保護層26はCVD法により成膜した。この後、潤滑層28をディップコート法により形成した。なお、均一な成膜が可能であるという点で、インライン型成膜方法を用いることも好ましい。以下、各層の構成および製造方法について詳述する。
[0040]
 付着層12は、10nmのTi合金層となるように、Ti合金ターゲットを用いて成膜した。付着層12を形成することにより、ディスク基体10と軟磁性層14との間の付着性を向上させることができるので、軟磁性層14の剥離を防止することができる。付着層12の材料としては、例えばCrTi合金を用いることができる。実用上の観点からは付着層の膜厚は、1nm~50nmとすることが好ましい。
[0041]
 軟磁性層14は、第一軟磁性層14aと第二軟磁性層14cの間に非磁性のスペーサ層14bを介在させることによって、AFCを備えるように構成した。これにより軟磁性層14の磁化方向を高い精度で磁路(磁気回路)に沿って整列させることができ、磁化の垂直成分が極めて少なくなることで軟磁性層14から生じるノイズを低減することができる。
[0042]
 図2は、AFC構造による磁化特性を説明するための説明図である。かかる磁化特性を参照すると、AFC構造をとらない軟磁性層が磁界Hを印加していないとき正負いずれかの磁化状態を維持するのに対して、AFC構造を有する軟磁性層は、磁界Hを印加していないときには、第一軟磁性層14aと第二軟磁性層14cの間で磁束が(b)に示すように閉路を構成し、磁化Mが0になる。そして、いずれかの方向に磁界Hを印加すると、両軟磁性層14a、14cの磁束が(a)、(c)のように同一方向に配向する。
[0043]
 上記AFC構造の結合の強さは、図2に示した交換結合磁界Hexに基づいて決まり、Hexが大きいほどAFCのカップリングが強いこととなる。かかるHexは、対応する磁気記録層22の書き込みに対する磁界に対しては磁化され、隣接する磁気記録層22の書き込みに対する磁界に対しては反応しないように設定される。Hexは、膜厚を薄くすれば大きくすることができるが、単に膜厚を薄くすると磁気ヘッドからの磁束を全て吸収できなくなってしまうので、磁気ヘッドからの磁束に応じて薄膜化する必要がある。
[0044]
 また、磁界Hを印加していくにつれ、AFC構造を有する軟磁性層の磁化Mは一定の値まで増大し、飽和状態となる。このように磁化Mが飽和状態となった値を飽和磁化Msと呼ぶ。飽和磁化Msが向上することにより、記録媒体への書き込みやすさ、すなわちオーバーライト特性が向上する。かかる飽和磁化Msは、1.2T以上であることが好ましい。これにより、求められるオーバーライト特性を維持することができるからである。
[0045]
 なお磁性膜の磁石の強さを表す磁気モーメントは、飽和磁化Msと膜厚tの積であるMs・tで表される。従って所望の強さの磁気モーメントMs・tを得たいときに、飽和磁化Msが弱い場合には、膜厚を厚くする必要がある。しかし膜厚が厚くなるとAFCのカップリングが弱くなり、Hexが低下してしまう。このため同じ磁気モーメントMs・tを得るとしても、できるだけ高い飽和磁化Msと薄い膜厚tにすることが好ましい。
[0046]
 このように構成されたAFC構造は、通常、所定温度以上の熱によって反平行に配された上下2層の磁化容易軸のカップリングがくずれ、S/N比が低下してしまう。本実施形態では、軟磁性層の成膜時に鉄を混合することで、熱に強いAFC構造を形成し、後述する媒体保護層成膜直前の加熱を可能にする。従って、第一軟磁性層14a、第二軟磁性層14cの組成を、Feを30~70at%含有するCoCrFeBとし、スペーサ層14bの組成はRu(ルテニウム)とした。
[0047]
 配向制御層16は、軟磁性層14を防護する作用と、下地層18の結晶粒の配向の整列を促進する作用を備える。配向制御層16としては、fcc構造を有するNiWもしくはNiCrの層とした。
[0048]
 下地層18は、Ruからなる2層構造となっている。上層側の第二下地層18bを形成する際に、下層側の第一下地層18aを形成するときよりもArのガス圧を高くすることにより、結晶配向性を改善することができる。
[0049]
 オンセット層20は、非磁性のグラニュラー層である。下地層18のhcp結晶構造の上に非磁性のグラニュラー層を形成し、この上に第一磁気記録層22aのグラニュラー層を成長させることにより、磁性のグラニュラー層を初期段階(立ち上がり)から分離させる作用を有している。オンセット層20の組成は非磁性のCoCr-SiO とした。
[0050]
 磁気記録層22は、膜厚の薄い第一磁気記録層22aと、膜厚の厚い第二磁気記録層22bとから構成されている。
[0051]
 第一磁気記録層22aは、非磁性物質の例としての酸化クロム(Cr )を含有するCoCrPtからなる硬磁性体のターゲットを用いて、2nmのCoCrPt-Cr のhcp結晶構造を形成した。非磁性物質は磁性物質の周囲に偏析して粒界を形成し、磁性粒(磁性グレイン)は柱状のグラニュラー構造を形成した。この磁性粒は、オンセット層のグラニュラー構造から継続してエピタキシャル成長した。
[0052]
 第二磁気記録層22bは、非磁性物質の例としての酸化チタン(TiO )を含有するCoCrPtからなる硬磁性体のターゲットを用いて、10nmのCoCrPt-TiO のhcp結晶構造を形成した。第二磁気記録層22bにおいても磁性粒はグラニュラー構造を形成した。
[0053]
 補助記録層24は、グラニュラー磁性層の上に高い垂直磁気異方性を示す薄膜(連続層)を形成し、CGC構造(Coupled Granular Continuous)を構成するものである。これによりグラニュラー層の高密度記録性と低ノイズ性に加えて、連続膜の高熱ゆらぎ耐性を付け加えることができる。補助記録層24の組成は、CoCrPtBとした。
[0054]
 媒体保護層26は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気記録層を防護するための媒体保護層である。
[0055]
 かかる媒体保護層26では、コバルト(Co)などの金属が下層から析出し、媒体保護層の表面に酸化物を形成する、いわゆるコロージョンが生じる。コロージョンが発生すると、その位置に記録されたデータが消失してしまうほか、磁気ヘッドの低浮上量化もあいまってクラッシュ障害が発生し、ディスクドライブの故障に発展するおそれがある。
[0056]
 本実施形態では、媒体保護層26を成膜する直前に磁性層を加熱する構成により、ダイヤモンドライク結合を増加させて、媒体保護層26の耐摩耗性や耐衝撃性等の耐久性を向上させ、コロージョンの発生を抑制する。しかし、媒体保護層26成膜前に既に形成されている軟磁性層のAFC構造は一般的に熱に弱く、磁性層を加熱することで、反平行に配された上下2層の磁化容易軸のカップリングがくずれ、ついにはAFC構造としての機能を果たさなくなってしまっていた。本実施形態では、上述したように、Feを含有する耐熱性に優れたAFC構造を構成することで、媒体保護層26成膜直前の磁性層の加熱が可能となった。
[0057]
 このようにして、媒体保護層26成膜直前に磁性層を加熱処理すると直後の媒体保護層26の性質が変化する。本実施形態においては、特に、ラマンスペクトル(ダイヤモンドライク結合とグラファイトライク結合との比)が変化し、ダイヤモンドライク結合の増加に伴い媒体保護層26の耐性が向上する。かかる加熱処理は、後に形成される媒体保護層26のピーク比Dh/Ghが、0.70~0.95となる範囲で為される。
[0058]
 ここで、ピーク比Dh/Ghは、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザ光により媒体保護層を励起して得られる波数900cm -1~波数1800cm -1におけるラマンスペクトルを測定し、蛍光によるバックグランドを直線近似で補正し、スペクトルの低波数側(1350cm -1)付近に現れるDピークDhと高波数側(1520cm -1)付近に現れるGピークGhとをガウス関数により波形分離したときのDhとGhとの比である。
[0059]
 かかるDh/Ghを0.70~0.95としたのは、Dh/Ghが0.70未満の場合、媒体保護膜の硬度が不十分であり、また、Dh/Ghが0.95以上の場合、媒体保護層の硬度が低下する場合があるからである。Dh/Ghを0.70~0.95の範囲内とすることで、CVDを通して形成される媒体保護層の硬度が好適になり、十分な耐久性を得ることが可能となる。
[0060]
 ピーク比Dh/Ghが、0.70~0.95とするための具体的な加熱温度は、例えば、157~204℃の温度範囲である。媒体保護層26成膜直前の磁性層成膜後の垂直磁気記録ディスク100の温度を157~204℃としたのは、成膜温度が157℃未満の場合、炭素原子の運動エネルギーが低いため媒体保護層の緻密性が失われ、また、204℃を超える温度では、磁性層自身が拡散してしまい、磁気特性が劣化するからである。従って、157~204℃で磁性層を加熱処理することで、緻密かつ、高硬度の媒体保護層を形成することができる。
[0061]
 上記のように媒体保護層26を成膜する直前に加熱処理を施した場合、媒体保護層26成膜の際に、プラズマによって分解された炭素原子が高エネルギーを維持したまま垂直磁気記録ディスク100まで到達、成膜されるので、緻密で耐久性のある媒体保護層26を成膜することが可能となる。また、磁性層を高温で加熱することにより、磁性層と媒体保護層との密着性も併せて向上する。
[0062]
 このような加熱処理が為された後、カーボンをプラズマCVD法により成膜し、媒体保護層26が形成される。プラズマCVDで炭化水素の媒体保護層を形成する場合、反応性ガスとして炭化水素ガスのみを用いてダイヤモンドライク結合を形成するのが望ましい。これは、他の不活性ガス(例えばAr等)や水素ガス等のキャリアガスを炭化水素ガスと混合させて用いた場合、媒体保護層中にこれらの不純ガスが取り込まれ、膜密度を低下させてしまうからである。
[0063]
 そして、反応性ガスとしては、炭化水素(水素化炭素)、特に低級炭化水素を用いることが好ましく、さらに、直鎖低級飽和炭化水素、または直鎖低級不飽和炭化水素を用いることがより好ましい。直鎖低級飽和炭化水素としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等を用いてもよい。また、直鎖低級不飽和炭化水素としては、エチレン、プロピレン、ブチレン、アセチレン等を用いてもよい。なお、ここで言う低級とは、1分子当たりの炭素数が1~10の炭化水素のことである。
[0064]
 上記直鎖低級炭化水素を用いることが好ましいとしたのは、炭素数が増大するに従って、炭化水素をガスとして気化させ、成膜装置に供給することが困難となるうえ、プラズマ放電時の分解が困難となるからである。
[0065]
 また、炭素数が増大すると、形成した媒体保護層の成分に高分子の炭化水素が多く含有されやすくなり、媒体保護層の緻密性および硬度の低下を招くこととなる。さらに、環式炭化水素の場合、プラズマ放電時の分解が直鎖炭化水素に比べて困難となることも挙げられる。従って、炭化水素として、直鎖低級炭化水素を用いることが好適であり、特に、エチレンを用いることで、緻密かつ、高硬度の媒体保護層を形成することが可能となる。
[0066]
 一般にCVD法によって成膜されたカーボンは、スパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気記録層を防護することができる。
[0067]
 さらに、上記CVD法により成膜した後、媒体保護層26を、流量が100~350sccmの窒素雰囲気下に曝し、窒素(N)と炭素(C)の原子量比(N/C)が0.050~0.150となるように表面処理が行われる。ここで、N/Cが0.05~0.15としたのは、N/Cが0.05未満の場合、ハイフライライトが頻発し記録再生課程でエラーが発生するからであり、また、0.150を超えると、クラッシュする可能性が高くなるからである。従って、N/Cを0.05~0.15の範囲内とすることで、CVDで形成する媒体保護層と潤滑層との密着性と硬度が好適になる。
[0068]
 ここで、窒素/炭素の原子量比(N/C)はX線光電子分光法(以下、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)と称す。)を用いて測定することができる。詳細には、ESCAで測定したN1sスペクトルとC1sスペクトルの強度から窒素/炭素の原子量比を求める。
[0069]
 本実施形態において、媒体保護層26の膜厚は、1nm以上であることが好ましい。1nm未満では、媒体保護層26の被覆率が低減してしまうため磁性層の金属イオンのマイグレートを防止するのに十分でない場合があり、さらに耐摩耗性に問題が生じるおそれがある。また、CVDで形成する媒体保護層の膜厚に特に上限を設ける必要はないが、磁気的スペーシング改善を阻害しないよう、実用上3nm以下とするのが好ましい。
[0070]
 さらに媒体保護層26を形成するときに-300~-50Vのバイアス電圧を印加することが好ましい。印可電圧を-300~-50Vとしたのは、-300V未満では、基板に過度なエネルギーが加えられアーキングが発生し、パーティクル、コンタミネーションの原因となり、また、-50Vを超える場合、バイアス印可の効果が無くなるからである。
[0071]
 そして、媒体保護層26を形成した後、超純水とイソプロアルコールで洗浄することで、垂直磁気記録ディスク100の表面品位を向上できる。
[0072]
 上述した媒体保護層26により、従来製法では、媒体保護層を3nm以下に形成することでスクラッチ等の耐久性異常が発生し、ハイフライライトで再生信号等の劣化が生じていたものが、3nm以下であってもロードアンロード(以下、単にLULという。)耐久性等に問題が生じなくなった。
[0073]
 潤滑層28は、PFPE(パーフルオロポリエーテル)をディップコート法により成膜した。潤滑層28の膜厚は約1nmである。この潤滑層28の作用により、垂直磁気記録ディスク100の表面に磁気ヘッドが接触しても、媒体保護層26の損傷や欠損を防止することができる。このパーフルオロポリエーテルは、直鎖構造を備え、垂直磁気記録ディスク用に適度な潤滑性能を発揮するとともに、末端基に水酸基(OH)を備えることで、媒体保護層26に対して高い密着性能を発揮することができる。特に、媒体保護層の表面に窒素を含有する表面処理層を備える本実施形態の構成では、(N )と(OH )とが高い親和性を奏するので、高い潤滑層密着率を得ることができ、好適である。
[0074]
 なお、末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物としては、1分子の水酸基の数が2~4個とするとよい。これは、2個未満では、潤滑層の密着率が低下する場合があり、また、4個を超えると、密着率が向上し過ぎる結果、潤滑性能を低下させる場合があるからである。潤滑層の膜厚は、0.5~1.5nmの範囲内で適宜調節するとよい。これは、0.5nm未満では潤滑性能が低下する場合があり、また、1.5nmを超えると、潤滑層密着率が低下する場合があるからである。
[0075]
 以上のように生成された垂直磁気記録ディスク100表面の粗さは、Rmaxで2.5nm以下であることが好ましい。これは、2.5nmを超えると、磁気的スペーシング低減を阻害する場合があるからである。上記表面粗さは、日本工業規格(JIS)BO601に定められている。
[0076]
 以上の製造工程により、垂直磁気記録ディスク100が得られた。以下に、上述したパラメータの根拠を示す。
[0077]
 上述したように軟磁性層14におけるAFC構造は、通常、所定温度以上の熱によって反平行に配された上下2層の磁化容易軸がくずれ、S/N比が低下してしまう。しかし、軟磁性層の成膜時にFeを混合することで、熱に強いAFC構造を形成し、後述する媒体保護層成膜直前の加熱を可能にする。
[0078]
 図3は、Feの濃度を変化させた場合の垂直磁気記録ディスク100の基板温度と、AFCによる交換結合磁界Hexの強さとの関係を示した説明図である。かかる図3を参照すると、基板温度が所定温度を超えるとHexの強さが急峻に低下し、AFC構造としての機能を果たさなくなることがわかる。このような境界点の温度(後述するブロッキング温度)は、Feの濃度に応じて変化し、Feの濃度が高ければ高いほどその境界温度も高くなる。
[0079]
 例えば、その境界温度は、Feを含有しないCoTaZrの場合約177℃となり、Feを40at%含有するFeCoTaZrの場合約197℃となり、Feを65at%含有するFeCoBCrの場合約210℃となる。この境界温度は、Feと結合する材料の組成に拘わらずある程度の規則性を有する。
[0080]
 図4は、Feの濃度とブロッキング温度(境界温度)との関係を示した説明図である。図4を参照すると上述したCoTaZr、FeCoTaZr、FeCoBCrのブロッキング温度は、線形近似でき、Feの濃度を高くすると、それにほぼ比例した温度まで、当該垂直磁気記録ディスク100を加熱できることが理解できる。ここで、ブロッキング温度(Blocking Temperature)は、Hexが低下し始める温度である。
[0081]
 本実施形態では、軟磁性層14に30~70at%のFeを含有することで、ブロッキング温度を約190~215℃まで上昇させることができる。
[0082]
 図5は、Feの濃度と飽和磁化Msとの関係を示した説明図である。かかる図5を参照すると、軟磁性層14にFeを30~70at%含有した場合においても、軟磁性層14は1.2T以上の飽和磁化Msを有している。また、かかる軟磁性層14にFeを65%含有したとき、飽和磁化Msのピークは最大値1.60となる。このことから、30~70at%のFeを含有した軟磁性層14は、十分なオーバーライト特性を備えていることがわかる。
[0083]
 次に、媒体保護層26成膜直前の加熱処理と、加熱後のピーク比Dh/Ghとの関係を説明する。
[0084]
 図6は、媒体保護層26成膜直前の基板温度と加熱後のピーク比Dh/Ghとの関係を示した説明図である。図6を参照して理解できるように、ピーク比Dh/Ghは基板温度に対して漸増関数となり、基板温度を上げると、ピーク比Dh/Ghが上がる、即ち、ダイヤモンドライク結合が増加し、媒体保護層26の耐性が向上する。
[0085]
 本実施形態におけるピーク比Dh/Ghの好適な値は、上述したように0.70~0.95であり、そのようなピーク比Dh/Ghを形成するための基板温度は、図6を参照すると、157~204℃であることが理解できる。
[0086]
 図7は、Feの濃度と加熱後のピーク比Dh/Ghとの関係を示した説明図である。図7を参照すると、軟磁性層14のFeの含有率が30at%未満および70at%超過のときは、軟磁性層14の飽和磁化Msが低く、飽和磁化Ms1.2Tという条件を満たすことができない。したがって、かかる軟磁性層14を有する垂直磁気記録ディスク100は、要求されるオーバーライト特性を維持することができない。また、Feの含有率が70%以上の場合、コロージョン特性が著しく低下するため、媒体として使用できない。
[0087]
 また、ピーク比Dh/Ghが0.70未満のときは、媒体保護層26の硬度が低すぎるため、傷が生じやすくなり、垂直磁気記録ディスク100の信頼性が低下する。同様に、ピーク比Dh/Ghが0.95超過のときは、媒体保護層26の硬度が高すぎるため、脆くなってしまい、垂直磁気記録ディスク100の信頼性が低下する。
[0088]
 したがって、軟磁性層14のFeの含有率が30~70at%であり、かつ媒体保護層26のピーク比Dh/Ghが0.70~0.95の範囲内とすることにより、十分なオーバーライト特性を備え、かつ信頼性に優れる垂直磁気記録ディスク100を得ることができる。
[0089]
 以下に実施例と比較例を用いて、本実施形態の有効性について説明する。
[0090]
 図8は、実施例と比較例のパラメータおよび有効性を示した説明図である。ここでは、13の実施例と8の比較例を挙げ、それぞれに対してLUL耐久性試験、ピンオンディスク試験、ハイフライライト試験を実行し、その有効性を評価している。
[0091]
 ここでは、基体10としてアモルファスガラス基板を用いた。その組成はアルミノシリケートである。ガラス基板の直径は、65mm、内径は20mm、ディスク厚は0.635mmの2.5インチ型垂直磁気記録ディスク用基板であった。ここで、得られたガラス基板の表面粗さをAFM(原子間力顕微鏡)で観察したところ、Rmaxが2.18nm、Raが0.18nmの平滑な表面であることを確認した。
[0092]
 次に、キャノンアネルバ社製C3040スパッタ成膜装置を用いて、基体10上に、DCマグネトロンスパッタリングで順次、付着層12、軟磁性層14、配向制御層16、下地層18、オンセット層20、磁気記録層22、補助記録層24を成膜した。成膜時の真空度は0.6Paであった。成膜に関する詳細な説明は以下の通りである。
[0093]
 スパッタリングターゲットとしてPdを用い、配向制御層16上に、膜厚7nmとなるPd下地層18をスパッタリングで成膜した。成膜時の真空度は1.0Paであった。
[0094]
 次に、スパッタリングターゲットとしてCoCrPt-TiO2(Cr:12at%、Pt:10at%、T :9at%、残部Co)合金からなるスパッタリングターゲットを用い、オンセット層20上に、CoCrPt-TiO2合金からなる15nmの磁気記録層22をスパッタリングで形成した。成膜時の真空度は3.5Paであった。
[0095]
 そして、補助記録層24形成後の垂直磁気記録ディスク100表面を予熱した。例えば、実施例1では、垂直磁気記録ディスク100表面の温度が160℃になるように、ヒ-タ加熱方式を用いて垂直磁気記録ディスク100を加熟した。加熱時間は約5秒である。なお、垂直磁気記録ディスク100の基板温度は磁性層成膜直後にチャンバーの窓より放射温度計を用いて確認した。
[0096]
 また、磁気記録層22まで形成したディスク上に、エチレンガス250sccmを導入し、真空度を1Paの圧力下で、バイアスを-300V印加させながらプラズマCVD法で媒体保護層26を形成した。媒体保護層26形成時の成膜速度は1nm/secであった。
[0097]
 さらに、媒体保護層26を形成後、プラズマ中に窒素ガスのみを250sccm導入して3Paの真空度に調整した圧力下で媒体保護層26を窒素雰囲気下に曝した。こうして、媒体保護層26の表面に窒素を含浸させる処理が行われた。
[0098]
 媒体保護層26まで成膜した後、当該媒体保護層26の膜厚を、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察により測定した。すると、媒体保護層26の膜厚は3.0nmであった。
[0099]
 また、媒体保護層26を形成後、ESCAにて媒体保護層26の窒素/炭素の原子量比(N/C)を確認したところ、その値は0.107であった。かかるESCA分析の測定条件は以下の通りである。
 装置:     アルバックファイ社製   Quantum2000
 X線励起源:  Al-Kα線(1486.6eV)
 X線源     20W
 分析室真空度  <2×10-7 Pa
 パスエネルギー 117.5eV
 光電子検出角  45°
 測定対象ピーク C1s、N1s
 分析領域100umφ
 積算回数10回
また、媒体保護層26を形成後、ラマン分光分析を行なったところ、Dh/Ghは0.80であった。
[0100]
 なお、ラマン分光分析は、媒体保護層26の表面に、波長が514.5nmのArイオンレーザーを照射し、900cm -1~1800cm -1の波数帯に表れるラマン散乱によるラマンスペクトルを観察することで為された。
[0101]
 図9は、ラマンスペクトルのイメージを説明するための説明図である。ここでは、ラマンスペクトルの波数900cm -1から1800cm -1の範囲内において、蛍光によるバックグランドを直線近似で補正し、DピークとGピークのピーク高さの比をDh/Ghとして求めた。
[0102]
 ラマン分光分析は通常、潤滑層28塗布前に行うが、潤滑剤塗布後に測定しても構わない。潤滑剤塗布前後でラマン分光分析を行ったところ、Dh/Gh値は前後どちらにおいても全く同じ値を示しており、末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル系潤滑層のラマン分光分析への影響はないことが明らかとなった。
[0103]
 媒体保護層26を形成後、70℃の純水中で400秒間浸漬洗浄を行い、その後、更にIPAにて400秒洗浄し、仕上げ乾燥としてIPAベーパーにて乾燥を行った。
[0104]
 次に、超純水及びIPA洗浄後の媒体保護層26の上に、デップ法を用いてPFPE(パーフルオロポリエーテル)化合物からなる潤滑層28を形成した。具体的には、アウジモント社製のアルコール変性フォンプリンゼット誘導体を用いた。この化合物はPFPEの主鎖の両末端にそれぞれ1個~2個、即ち、1分子当たり2個~4個の水酸基を末端基に備えている。潤滑層28の膜厚は1.4nmであった。
[0105]
 以上のように、生成された垂直磁気記録ディスク100について、表面粗さをAFMで観察したところ、Rmaxが2.30nm、Raが0.22nmの平滑な表面であることを確認した。また、グライドハイトを測定したところ3.2nmであった。磁気ヘッドの浮上量を安定的に10nm以下とする場合、垂直磁気記録ディスク100のグライドハイトは4.0nm以下とすることが望ましい。
[0106]
 このようにして得られた垂直磁気記録ディスク100の各種性能を以下のようにして評価分析した。
[0107]
(LUL耐久性試験)
 LUL耐久性試験は、5400rpmで回転する2.5インチ型HDDと、浮上量が10nmの磁気ヘッドを用いて行なった。なお、磁気ヘッドのスライダはNPAB(負圧型)スライダを用い、再生素子はDFH機構を搭載したTMR型素子を用いた。垂直磁気記録ディスク100をこのHDDに搭載し、上述の磁気ヘッドによりLUL動作を連続して行なった。
[0108]
 そして、HDDが故障することなく耐久したLUL回数を測定することにより、垂直磁気記録ディスク100のLUL耐久性を評価した。また、試験環境は70C/80%RHの環境下で行った。これは通常のHDD運転環境よりも、過酷な条件であり、カーナビゲーション等の用途に使用されるHDDを想定した環境下で行うことにより、垂直磁気記録ディスク100の耐久信頼性をより的確に判断するためである。
[0109]
 かかるLUL耐久性試験において、実施例1~13の垂直磁気記録ディスク100は、その故障を生じることなくLUL回数が100万回を超えた。通常、LUL耐久性試験では、故障無くLUL回数が連続して40万回を超えることが必要とされている。かかるLUL回数40万回は、通常のHDDの使用環境における10年程度の利用に匹敵する。
[0110]
(ピンオンディスク試験)
 ピンオンディスク試験は次のようにして行った。即ち、媒体保護層26の耐久性及び耐磨耗性を評価するために、Al -TiCからなる直径2mmの球を15g荷重で垂直磁気記録媒体の半径22mm位置の当該媒体保護層26上に押し付けながら、この垂直磁気記録ディスク100を回転させることにより、Al -TiC球と媒体保護層26とを2m/secの速度で相対的に回転摺動させ、この摺動により媒体保護層26が破壊に至るまでの摺動回数を測定した。
[0111]
 このピンオンディスク試験では、媒体保護層26が破壊に至るまでの摺動回数が300回以上であれば合格とする。なお、通常磁気記録ヘッドは垂直磁気記録ディスク100に接触しないので、このピンオン試験は、実際の使用環境に比べて過酷な環境での耐久試験である。例えば、実施例1の垂直磁気記録ディスク100は、摺動回数が501回となり、他の実施例においても軒並み、300回を超える値となった。
[0112]
(ハイフライライト試験)
 ハイフライライト試験は次のようにして行った。5400rpmで回転する2.5インチ型HDDと、浮上量が10nmの磁気ヘッドを用いる。また、磁気ヘッドのスライダはNPAB(負圧型)スライダを用い、再生素子はDFH機構を搭載したTMR型素子を用いた。垂直磁気記録ディスク100をこのHDDに搭載し、DFH機構を動作させ、ヘッド素子を発熱させた。その熱によって磁気ヘッドが熱膨張し、ABS方向に2nm突出させた状態にして、その状態で記録再生を1000時間行い、エラー障害発生の有無を調べた。その結果、実施例1~13における1000時間の記録再生において、エラーは発生しなかった。
[0113]
 上述した実施例と同様に比較例にも、それぞれ、LUL耐久性試験、ピンオンディスク試験、ハイフライライト試験を実行した。
[0114]
 例えば、比較例1では、媒体保護層26に曝す窒素ガスを90sccmとしたこと以外は、実施例1と同様に垂直磁気記録ディスクを形成した。しかし、窒素導入量が少なすぎたため、ハイフライライト試験において12時間後に記録再生できない障害が発生した。
[0115]
 また、比較例2では、360sccmの窒素ガスに曝しているので、窒素導入量が多すぎ、ピンオン試験ディスク試験にて規格の300回に到達せず、さらにLUL試験にて垂直磁気記録ディスクにスクラッチが生じ30万回でクラッシュした。その他の比較例においても実施例と1または複数のパラメータを相違させ、所定範囲外とすることで、上記LUL耐久性試験、ピンオンディスク試験、ハイフライライト試験の1または複数の合格値を満たさないことが理解できる。
[0116]
 図10は、実施例と比較例とのN/CおよびDh/Ghをプロットしたプロット図である。図中実線の四角で示された、N/C=0.050~0.150およびDh/Gh=0.70~0.95の範囲内における実施例と、範囲外の比較例とを参照して分かるように、本実施形態における垂直磁気記録ディスク100は、DFHヘッドにも適用可能であり、かつ、3nm以下の媒体保護層膜厚であっても、ハイフライライト障害を回避でき、さらに耐摩耗性、摺動特性に好適である。また、本実施形態の垂直磁気記録ディスク100は、LUL方式のHDDにも適用できることは言うまでもない。
[0117]
 以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

産業上の利用可能性

[0118]
 本発明は、HDDなどに搭載される垂直磁気記録媒体およびその製造方法に利用可能である。

請求の範囲

[1]
 基体上に磁気記録層を備え、該磁気記録層上に媒体保護層を備える垂直磁気記録媒体であって、
 前記磁気記録層は、少なくともコバルト(Co)を含有する柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性物質からなる粒界部が形成されたグラニュラー構造の強磁性層であり、
 前記媒体保護層は、炭素を主成分とする皮膜の表層に窒素を含浸してなり、含有する窒素(N)と炭素(C)の原子量比(N/C)が0.050~0.150であり、かつ、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザ光により該媒体保護層を励起して得られる波数900cm -1~波数1800cm -1におけるラマンスペクトルから蛍光を除いたスペクトルの1350cm -1付近に現れるDピークDhと1520cm -1付近に現れるGピークGhとをガウス関数により波形分離したときのピーク比Dh/Ghが0.70~0.95であることを特徴とする、垂直磁気記録媒体。
[2]
 鉄(Fe)を30~70at%含有する反強磁性交換結合(AFC)構造で形成され、飽和磁化Msが1.2T以上である軟磁性層を前記磁気記録層の下に備えることを特徴とする、請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
[3]
 前記軟磁性層は、交換結合磁界Hexが40Oe以上であることを特徴とする、請求項2に記載の垂直磁気記録媒体。
[4]
 前記磁気記録層はグラニュラー構造で形成され、該磁気記録層の上に補助記録層を備えることを特徴とする、請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
[5]
 前記補助記録層の組成は、CoCrPtBであることを特徴とする、請求項4に記載の垂直磁気記録媒体。
[6]
 基体上に磁気記録層を備え、該磁気記録層上に炭素を主成分とする皮膜からなる媒体保護層を備える垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
 前記磁気記録層として、少なくともコバルト(Co)を含有する柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性物質からなる粒界部が形成されたグラニュラー構造の強磁性層を形成し、
 後に形成される媒体保護層の、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザ光により該媒体保護層を励起して得られる波数900cm -1~波数1800cm -1におけるラマンスペクトルから蛍光を除いたスペクトルの1350cm -1付近に現れるDピークDhと1520cm -1付近に現れるGピークGhとをガウス関数により波形分離したときのピーク比Dh/Ghが、0.70~0.95となるように当該垂直磁気記録媒体を加熱し、
 前記媒体保護層をCVD法により成膜し、さらに、窒素(N)と炭素(C)の原子量比(N/C)が0.050~0.150となるように窒素に曝露することを特徴とする、垂直磁気記録媒体の製造方法。
[7]
 前記磁気記録層を形成する前に、鉄(Fe)を30~70at%含有する反強磁性交換結合(AFC)構造の軟磁性層を形成することを特徴とする、請求項6に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
[8]
 前記軟磁性層は、交換結合磁界Hexが40Oe以上であることを特徴とする、請求項7に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
[9]
 前記磁気記録層の後に、グラニュラー構造の補助記録層を形成することを特徴とする、請求項6に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
[10]
 前記補助記録層の組成は、CoCrPtBであることを特徴とする、請求項9に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
[11]
 前記加熱は、157~204℃の温度で為されることを特徴とする、請求項6に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
[12]
 前記媒体保護層を成膜した後、さらに、流量が100~350sccmの窒素雰囲気下に曝し、該媒体保護層の表面処理を行うことを特徴とする、請求項6に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
[13]
 さらに、末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を含有する潤滑層を形成することを特徴とする、請求項6に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]

[ 図 6]

[ 図 7]

[ 図 8]

[ 図 9]

[ 図 10]