16:00 CETの火曜日 19.11.2019のメンテナンス理由で数時間使用できません
国際・国内特許データベース検索
このアプリケーションの一部のコンテンツは現時点では利用できません。
このような状況が続く場合は、にお問い合わせくださいフィードバック & お問い合わせ
1. (WO2008123096) 腎不全予防剤
Document

明 細 書

発明の名称 腎不全予防剤

技術分野

0001   0002   0003   0004   0005   0006   0007   0008   0009   0010   0011   0012   0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043  

図面の簡単な説明

0044  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10   11  

図面

1   2  

明 細 書

腎不全予防剤

技術分野

[0001]
 本発明は、腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制作用を有する有効成分、該有効成分を含む腎不全予防剤、ならびに該有効成分を含み腎不全の予防効果が期待できる機能性食品に関する。
 また、本発明は、腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化を抑制する方法に関する。さらに、本発明は腎不全を予防する方法に関する。
[0002]
(背景技術)
 近年、一部の国では喫煙、高血圧、高血糖、高脂血症など、心疾患や腎疾患を引き起こすとされる危険因子をかかえる人が多くなっており、心不全や腎不全の患者数は増加する傾向にある。また、これらの病態は人間だけに限られず、犬や猫その他コンパニオンアニマルやペットアニマルなど人間と密接な関係を有する動物にも増加する傾向にある。
 心不全治療に有効な薬剤として、アンジオテンシンIから昇圧作用を有するアンジオテンシンIIへ変換する酵素(即ち、アンジオテンシン変換酵素; ACE)を阻害する物質で降圧作用を有する、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)、例えば、エナラプリルが知られている。また、降圧剤は血圧を下げると同時に腎障害の進行が改善されることが報告されている(J. Clin. Invest. 77, 1993-2000, 1986)。しかし一方では、種々の原疾患から誘発される心不全に対して、ACE阻害剤は必ずしもすべての症例に有効なわけでなく、むしろ降圧に伴い急性腎不全をきたす危険もあり慎重な投与が必要であることが指摘されており(最新医学、48:1404 ~1409, 1993)、すなわち降圧剤が心不全の予防に不十分なばかりか、むしろ腎不全を誘発する可能性がある。
[0003]
 腎不全とは、一般に、腎臓が血液をろ過して血液中の代謝性老廃物をうまく取り除くことができなくなった状態をいう。
 腎不全はさまざまな腎疾患により腎機能が荒廃した病態であり、その原疾患として、例えば、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、腎硬化症、多発性嚢胞腎、慢性腎盂腎炎、急速進行性糸球体腎炎、SLE腎炎、糸球体硬化症、腎動脈硬化による腎動脈血流不全等があげられる。また、ACE阻害剤が腎不全に対し有効であることが報告され注目されているが、時に、急性腎不全や腎障害の悪化を引き起こす可能性が指摘されており、これら薬剤の有用性も満足できるものとは言えない。(最新医学、48:1404-1409, 1993)。以上のように腎不全は高血糖や薬物障害など様々な要因によって引き起こされるため、高血圧を改善するのみでは、前記のような原疾患に起因する腎不全すべてに対する予防には十分とはいえない。一方で、糸球体疾患は、腎不全の共通の病変であり、また腎動脈硬化は腎不全に関連する病変である。これらのことから、糸球体疾患の抑制作用を有する化合物、またはさらに腎動脈硬化の抑制作用をも有する化合物は、腎不全の予防・治療に有用といえる。
[0004]
 一方、カゼイン等の食品素材に由来するペプチドにACE阻害活性のあることが報告されており、これらが血圧降下作用を有することが知られているが、腎臓糸球体疾患の抑制作用、腎動脈硬化の抑制作用を有するか否かは直接示されていない(特許第2782142号公報、J. Dairy Sci. 1995, 78:777-783, J.Dairy Sci. 1995, 78:1253-1257, Am. J. Clin. Nutr. 1996, 64:767-771)。また、ACE阻害による腎不全の予防または治療効果は前記のように限定的であるため、ACE阻害に因らない疾患の予防または治療が望まれる。
[0005]
(発明の開示)
 本発明により、ACE阻害活性に依存せずに、腎臓糸球体疾患の抑制作用及び腎動脈硬化の抑制作用を有する化合物又は組成物が提供される。
 また本発明により、前記化合物又は組成物を含む腎不全の予防剤や、腎不全の予防効果が期待できる機能性食品が提供される。
 本発明により、前記化合物または組成物を対象者に投与することを含む、腎臓糸球体疾患を抑制する方法、及び、腎動脈硬化を抑制する方法が提供される。
 したがって、本発明により、前記化合物または組成物を対象者に投与することを含む、腎不全の予防方法が提供される。
 また本発明は、前記化合物または組成物の、腎臓糸球体疾患抑制及び腎動脈硬化の抑制のための医薬の製造における使用でもある。特に、本発明は、前記化合物または組成物の、腎不全予防のための医薬の製造における使用でもある。
[0006]
 本発明者等は、Xaa Pro Pro(Xaaは任意の天然のアミノ酸)という特定の構造を有するトリペプチドが腎臓糸球体疾患の抑制、腎動脈硬化の抑制といった作用を有することを見出し、腎不全の予防に役立つ医薬及び機能性食品を発明するに至った。その具体的な内容は、以下の通りである。
 本発明は、Xaa Pro Proを有効成分として含有する、腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤を提供する。
 また本発明は、上述のような腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制作用を有する腎不全予防剤を提供する。
 また本発明は、上述のような腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤を含む機能性食品を提供する。
 さらに、本発明はXaa Pro ProまたはXaa Pro Proを含む組成物を対象者に投与することを含む、腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化を抑制する方法を提供する。
 したがって、本発明は、Xaa Pro ProまたはXaa Pro Proを含む組成物を対象者に投与することを含む、腎不全を予防する方法を提供する。
 さらに、本発明は、Xaa Pro ProまたはXaa Pro Proを含む組成物の、腎臓糸球体疾患抑制及び腎動脈硬化の抑制用医薬の製造における使用でもある。特に、本発明は、Xaa Pro ProまたはXaa Pro Proを含む組成物の、腎不全予防用医薬の製造における使用でもある。
[0007]
 好ましくは、Xaa Pro ProがVal Pro Pro及び/又はIle Pro Proである。
 本発明の別の態様においては、有効成分Xaa Pro Proが、獣乳カゼイン加水分解物又はその濃縮物に由来する。
 本発明のさらに別の態様においては、有効成分Xaa Pro Proが、乳タンパク質を含む原料をラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)種に属する菌により発酵させて得られる発酵物に由来する。
 好ましくは、ラクトバチルス・ヘルベティカス種に属する菌がラクトバチルス・ヘルベティカスCM4株(FERM BP-6060)である。
[0008]
(発明を実施するための最良の形態)
 本発明の腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤は、Xaa Pro Proという構造のトリペプチドを有効成分として含有する。ここで「剤」とは薬剤に限定されるものではなく、例えば、医薬組成物または食品組成物などの組成物、あるいは、例えば食品添加剤などの化合物をいう。本発明でいう「腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤」とは、腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化病変の進行を抑えとどめる作用を有するか、腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化病変を改善する作用を有するか、あるいは腎臓糸球体疾患発症及び腎動脈硬化発症の予防効果を有する化合物又は組成物をいう。また、本発明において「糸球体疾患」とは、腎臓の糸球体に病変を起こした疾患をいい、組織学的には、糸球体の萎縮、糸球体荒廃、糸球体硬化、ボウマン嚢の変化などが認められるに至った状態にある。具体的な疾患名としては、例えば、微小変化型ネフローゼ症候群、巣状糸球体硬化症、管内増殖性糸球体腎炎(いわゆる急性腎炎)、IgA腎症(メサンギウム増殖性糸球体腎炎)、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、および半月体形成性糸球体腎炎などが挙げられる。
 本発明の有効成分Xaa Pro ProのXaaは、任意の天然のアミノ酸でよい。具体的には、Val Pro Pro(バリン-プロリン-プロリン)、Ile Pro Pro(イソロイシン-プロリン-プロリン)、Ser Pro Pro(セリン-プロリン-プロリン)、Leu Pro Pro(ロイシン-プロリン-プロリン)などが挙げられ、好ましくはVal Pro Pro、Ile Pro Proであり、より好ましくはVal Pro Proである。また有効成分として、Val Pro Pro及びIle Pro Proといった1種以上のトリペプチドXaa Pro Proの組合せを含んでいてもよい。
 有効成分Xaa Pro Proは有機化学的に合成したトリペプチドであってもよく、また天然由来のトリペプチドであってもよい。
 トリペプチドXaa Pro Proの有機化学的合成法としては、固相法(Boc法、Fmoc法)や液相法といった一般的な方法を用いることができ、例えば、島津製作所製のペプチド合成装置(PSSM-8型)といったペプチド自動合成装置を用いて合成したものであってもよい。ペプチド合成の反応条件等については、当業者の技術常識に基づき、選択する合成方法や所望のトリペプチドXaa Pro Proに合せて、適切な反応条件等を任意で設定することができる。
 あるいは、天然由来のものとしては、獣乳カゼイン加水分解物又はその濃縮物に由来するものであってもよく、タンパク質を含む食品原料を麹菌や乳酸菌といった菌類によって発酵させて得られる発酵物に由来するものであってもよい。
 獣乳カゼイン加水分解物又はその濃縮物や、乳タンパク質を含む原料をラクトバチルス・ヘルベティカス種に属する菌により発酵させて得られる発酵物を用いる場合は、本発明の有効成分であるトリペプチドXaa Pro Pro以外に遊離アミノ酸を含んでいても良く、更に、前記ペプチド及び遊離アミノ酸の他に、例えば市販の獣乳カゼイン、乳タンパク質に通常含まれる、脂質、灰分、炭水化物、食物繊維、水分等が含まれていても良く、また、必要に応じてこれらのうちの適当な成分の一部若しくは全部を除去しても良い。
[0009]
 本発明の有効成分Xaa Pro Proは、Xaa Pro Pro、特にVal Pro Pro及びIle Pro Proが得られる酵素群を用いて、獣乳カゼインを加水分解する方法、獣乳カゼインを麹菌により発酵する方法により得られる、獣乳カゼイン加水分解物又はその濃縮物に由来するものであってもよい。
 獣乳カゼインとしては、例えば、牛乳、馬乳、山羊乳、羊乳等のカゼインが挙げられ、特に牛乳カゼインが好ましく使用できる。
 獣乳カゼインを加水分解又は発酵する際のカゼイン濃度は、特に限定されないが獣乳カゼイン分解物を効率良く生産するために、1~19重量%が好ましい。
[0010]
 前記酵素群としては、例えば、Xaa Pro Pro Xaa配列のカルボキシ末端のPro Xaa残基間が切断可能なペプチダーゼを含む酵素群(X)が好ましく挙げられる。
 酵素群(X)は、活性中心にセリンを持つ、セリンタイプのプロティナーゼもしくは、活性中心に金属を持つ金属プロティナーゼを含むことが好ましい。金属プロティナーゼとしては、中性プロテアーゼI、中性プロテアーゼII及びロイシンアミノペプチダーゼ等が挙げられ、これらの少なくとも1種を更に含むことが、所望の加水分解物を効率良く、且つ短時間で、更には1段階反応で得ることができる点で好ましい。また前記Pro Xaa配列が切断可能なペプチダーゼとしては、等電点が酸性域を示す酵素であることが好ましい。
[0011]
 前記酵素群又は酵素群(X)としては、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)等の麹菌由来の酵素群が挙げられる。このような酵素群は、適当な培地で菌体を培養し、生産される酵素を水抽出した酵素群等が挙げられ、特に、アスペルギルス・オリゼ由来の酵素群のうちの等電点が酸性域を示す酵素群が好ましく挙げられる。
 アスペルギルス・オリゼ由来の酵素群としては、市販品を利用することができ、例えば、スミチームFP、LP又はMP(以上、登録商標、新日本化学(株)製)、ウマミザイム(登録商標、天野エンザイム(株)製)、Sternzyme B11024、PROHIDROXY AMPL(以上、商品名、株式会社樋口商会製)、オリエンターゼONS(登録商標、阪急バイオインダストリー(株)製)、デナチームAP(登録商標、ナガセ生化学社製)等が挙げられ、特に、スミチームFP(登録商標、新日本化学(株)製)の使用が好ましい。
 これら市販の酵素群を用いる場合には、通常、至適条件が設定されているが、前記カゼイン加水分解物が得られるように条件、例えば、使用酵素量や反応時間等を、用いる酵素群に応じて適宜変更して行なうことができる。
[0012]
 前記獣乳カゼインを加水分解する際の酵素群の添加量は、例えば、獣乳カゼインを溶解した水溶液に、酵素群/獣乳カゼインが重量比で1/1000以上、好ましくは1/1000~1/10、特に好ましくは1/100~1/10、更に好ましくは1/40~1/10の割合となるような量である。
 反応条件は、使用する酵素群に応じて目的のカゼイン加水分解物が得られるように適宜選択できるが、温度は、通常25~60℃、好ましくは45~55℃であり、pHは、3~10、好ましくは5~9、特に好ましくは5~8である。また、酵素反応時間は、通常2~48時間、好ましくは7~15時間である。
[0013]
 酵素反応の終了は、酵素を失活させることにより行なうことができ、通常、60~110℃で酵素を失活させ、反応を停止させることができる。
 酵素反応停止後、必要に応じて沈澱物を、遠心分離除去や各種フィルター処理により除去することが好ましい。
 また、必要に応じて、得られる加水分解物から苦味や臭味を有するペプチドを除去することもできる。このような苦味成分や臭味成分の除去は、活性炭又は疎水性樹脂等を用いて行なうことができる。例えば、得られた加水分解物中に、使用したカゼイン量に対して活性炭を1~20重量%添加し、1~10時間反応させることにより実施できる。使用した活性炭の除去は、遠心分離や膜処理操作等の公知の方法により行なうことができる。
 このようにして得られた獣乳カゼイン加水分解物又はその濃縮物を含む反応液は、そのまま飲料等の液体製品に添加して機能性食品に利用することができる。また、獣乳カゼイン加水分解物の汎用性を高めるために、前記反応液を濃縮後、乾燥し粉末の形態とすることもできる。
[0014]
 獣乳カゼイン加水分解物又はその濃縮物に含まれるXaa Pro Proの含有割合は、獣乳カゼイン加水分解物又はその濃縮物中のペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対して通常1重量%以上、好ましくは1~5重量%である。該含有割合を1重量%以上とすることにより、より高い作用が期待される。また、獣乳カゼイン加水分解物又はその濃縮物中に含まれるIle Pro Pro又はVal Pro Proの含有割合は、獣乳カゼイン加水分解物又はその濃縮物中のペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対して、それぞれ単独で0.3重量%以上であっても、Ile Pro Pro及びVal Pro Proの合計量が0.3重量%以上であっても、高い効果が期待される。更に、Ile Pro Pro及びVal Pro Proのそれぞれを0.3重量%以上含有する場合には、より高い効果が期待される。
[0015]
 また、本発明の有効成分Xaa Pro Proは、乳タンパク質を含む原料をラクトバチルス・ヘルベティカス種に属する菌により発酵させて得られる発酵物に由来するものであってもよい。
 ラクトバチルス・ヘルベティカス種に属する菌は、ラクトバチルス・ヘルベティカス種単独で発酵に用いるのが好ましいが、本発明の所望の効果を損なわない範囲で他の乳酸菌等を含んでいても良い。
 ラクトバチルス・ヘルベティカス種に属する菌としては、Ile Pro Pro及び/又はVal Pro Proを高生産しうるプロティナーゼ生産菌が好ましい。例えば、Twiningらの方法(Twining, S. Anal. Biochem. )143 3410(1984))をもとにしたYamamotoらの方法(Yamamoto, N.ら J.Biochem. )(1993) 114, 740)に準じて測定したU/OD590の値が400以上を示す菌株が好ましい。
 そのような好ましい菌株としては、例えば、ラクトバチルス・ヘルベティカスCM4株(通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所、日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号、郵便番号305((現、産業技術総合研究所特許生物寄託センター、日本国茨城県つくば市東1-1-1つくばセンター中央第6、郵便番号305-8566)、受託番号:FERM BP-6060,寄託日1997.8.15)(以下、CM4株と称す)が挙げられる。このCM4株は、特許手続上の微生物寄託の国際的承認に関するブタペスト条約の下に上記寄託番号で登録されており、この株は既に特許されている。
[0016]
 乳タンパク質を含む原料をラクトバチルス・ヘルベティカス種に属する菌により発酵させて得られる発酵物は、ラクトバチルス・ヘルベティカス種に属する菌株を含む発酵乳スターターを乳タンパク質を含む原料に添加し、発酵温度等の発酵条件を適宜選択して発酵させることにより得ることができる。
 また、このようにして得られた発酵物の濃縮物等を凍結乾燥、噴霧乾燥等により粉末として用いてもよい。
[0017]
 ラクトバチルス・ヘルベティカス種に属する菌は、あらかじめ前培養しておき充分に活性の高いスターターとして用いることが好ましい。初発菌数は、好ましくは10 5~10 9個/ml程度である。
 乳タンパク質を含む原料をラクトバチルス・ヘルベティカス種に属する菌により発酵させて得られる発酵物は、例えば、特定保健用食品等の機能性食品に利用するに際して、風味を良好にし、嗜好性を良好とするために、前記ラクトバチルス・ヘルベティカス種に属する菌株に酵母を併用して発酵させることもできる。酵母の菌種は特に限定されないが、例えば、サッカロマイセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属酵母等が好ましく挙げられる。酵母の含有割合は、その目的に応じて適宜選択することができる。
[0018]
 乳タンパク質を含む原料としては、例えば、牛乳、馬乳、羊乳、山羊乳等の動物乳、及び豆乳等の植物乳、これらの加工乳である脱脂乳、還元乳、粉乳、コンデンスミルクが挙げられ、牛乳、豆乳、これらの加工乳が好ましく、牛乳又はその加工乳が特に好ましい。
 乳の固形分濃度は特に限定されないが、例えば、脱脂乳を用いる場合の無脂乳固形分濃度は、通常3~15重量%程度であり、生産性的には6~15重量%が好ましい。
[0019]
 前記発酵は、通常静置若しくは撹拌発酵により、例えば、発酵温度25~45℃、好ましくは30~45℃、発酵時間3~72時間、好ましくは12~36時間で、乳酸酸度が1.5%以上になった時点で発酵を停止する方法により行なうことができる。
 乳タンパク質を含む原料をラクトバチルス・ヘルベティカス種に属する菌により発酵させて得られる発酵物中に含まれるXaa Pro Pro、好ましくはIle Pro Pro及び/又はVal Pro Proの含有割合は、該発酵物の凍結乾燥物100g中に換算して10mg以上が好ましく、より好ましくは15mg以上である。
 本発明の腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤の投与量又は摂取量としては、1日あたり、ヒトの場合、有効成分Xaa Pro Pro、好ましくはVal Pro Pro及び/又はIle Pro Proを、通常10μg~10g、好ましくは1mg~5g、さらに好ましくは3mg~1g程度含む用量であり、1日に何回かに分けて投与又は摂取しても良い。
 腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤の投与又は摂取期間は、投与又は摂取するヒト又は動物の年齢やそのヒトや動物の腎不全の危険因子に対する環境等を考慮して種々調整することができ、例えば通常1日以上、好ましくは7日~365日間とすることが出来る。
[0020]
 また本発明の腎不全予防剤は、上述のようなトリペプチドを有効成分とする。
 本発明の腎不全予防剤の投与量又は摂取量としては、1日あたり、ヒトの場合、有効成分Xaa Pro Pro、好ましくはVal Pro Pro及び/又はIle Pro Proを、通常10μg~10g、好ましくは1mg~5g、さらに好ましくは3mg~1g程度含む用量であり、1日に何回かに分けて投与又は摂取しても良い。
 腎不全予防剤の投与又は摂取期間は、投与又は摂取するヒト又は動物の年齢やそのヒトや動物の腎不全の危険因子に対する環境等を考慮して種々調整することができ、例えば、通常1日以上、好ましくは7日~365日間とすることができる。
[0021]
 本発明の腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤、並びに腎不全の予防剤の投与又は摂取の方法は、経口的であるのが好ましい。
 本発明の腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤、並びに腎不全の予防剤を医薬として用いる場合の形態は、経口投与用の製剤の形態とすることができる。例えば、錠剤、丸剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、マイクロカプセル、散剤、顆粒剤、液剤等が挙げられる。
 医薬として製造する場合は、例えば、適宜必要に応じて、製薬的に許容される担体、アジュバント、賦形剤、補形剤、防腐剤、安定化剤、結合剤、pH調節剤、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、保存剤、抗酸化剤等を用い、一般に認められた製剤投与に要求される単位用量形態で製造することができる。
[0022]
 本発明の食品は、本発明の腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤を有効成分として含み、例えば、腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制作用、腎不全の予防といった効能を有する特定保健用食品等の機能性食品とすることができる。
 このような効能を得るための摂取量は、食品、例えば機能性食品が、日常的、連続的又は断続的に長期間摂取することを鑑みると、ヒトの場合、1日あたり、有効成分Xaa Pro Proの量として、あるいはVal Pro Pro及び/又はIle Pro Proの量として、通常10μg~10g、好ましくは1mg~5g、さらに好ましくは3mg~1g程度であり、1日あたりの摂取回数に応じて、食品、例えば機能性食品における1回あたりの摂取量を前記量より更に低くすることも可能である。
 有効成分Xaa Pro Proを含む獣乳カゼイン加水分解物又はその濃縮物をそのまま用いる際には、ヒトの場合、1日あたり、該加水分解物又はその濃縮物を通常1mg~100g、特に100mg~10g程度摂取するのが好ましい。
 有効成分Xaa Pro Proを含む発酵物の凍結乾燥物をそのまま用いる際には、ヒトの場合、1日あたり、該発酵物の凍結乾燥物を乾燥量として、通常1~100g、特に2~50g程度摂取するのが好ましい。
 本発明の食品、例えば機能性食品の摂取期間は、特に限定されず、長期間摂取することが好ましいが、上記効能を得るために、例えば、通常1日以上、好ましくは7日~365日間とすることができる。
[0023]
 本発明の食品、例えば機能性食品は、本発明の有効成分Xaa Pro Pro、好ましくはVal Pro Pro及び/又はIle Pro Proを含む腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤を含み、例えば、上述のようにして得た獣乳カゼイン加水分解物又はその濃縮物や乳タンパク質を含む原料の発酵物をそのまま、あるいは粉末状や顆粒状にして各種食品に添加することができる。また必要に応じて、ラクトバチルス・ヘルベティカス以外の乳酸菌の発酵物や、食品に用いる他の成分、例えば、糖類、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、フレーバー、例えば、各種炭水化物、脂質、ビタミン類、ミネラル類、甘味料、香料、色素、テクスチュア改善剤等又はこれらの混合物等の添加物を添加し、栄養的バランスや風味等を改善してもよい。
 本発明の食品、例えば機能性食品は、固形物、ゲル状物、液状物の何れの形態とすることができ、例えば、乳酸菌飲料等の発酵乳製品、各種加工飲食品、乾燥粉末、錠剤、カプセル剤、顆粒剤等が挙げられ、更には各種飲料、ヨーグルト、流動食、ゼリー、キャンディ、レトルト食品、錠菓、クッキー、カステラ、パン、ビスケット、チョコレート等とすることができる。
 以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例に限られない。
[0024]
(実施例)
[ペプチド合成例]
 本発明の有効成分Ile Pro Pro及びVal Pro Proを、以下に示す有機化学合成法(Fmoc法)により合成した。合成は島津製作所製のペプチド自動合成装置(PSSM-8型)を用いた固相法によって行った。
 固相担体として2-クロロトリチル(2-Chlorotrityl)タイプのポリスチレン樹脂であって、アミノ基をフルオレニルメチルオキシカルボニル基(以下Fmocと略す)で保護されたプロリンが結合した樹脂50mgを使用した(島津製作所社製 登録商標SynProPep Resin)。前記アミノ酸配列に従って、アミノ基がFmoc基で保護されたFmoc-Ile、Fmoc-Pro及びFmoc-Valを100μmolずつ、常法に従い、ペプチド配列通り順次反応させてペプチド結合樹脂を得た。
 次にこのペプチド結合樹脂を1mlの反応液A(10容量%酢酸、10容量%トリフルオロエタノール、80容量%ジクロロメタン)に懸濁し、室温で30~60分間反応させてペプチドを樹脂から切離した後、反応液Aをガラスフィルターで濾過した。濾液の溶媒を減圧除去後、直ちに1mlの反応液B(82.5%容量トリフルオロ酢酸、3%容量エチルメチルスルフィド、5%容量純水、5%容量チオアニソール、2.5%容量エタンジチオール、2%容量チオフェノール)を加え、室温で6時間反応させて側鎖保護基を外した。これに無水エーテル10mlを加えてペプチドを沈殿させ、3000回転、5分間遠心して分離した。その沈殿を無水エーテルにて数回洗浄した後、窒素ガスを吹き付けて乾燥した。このようにして得られた未精製の合成ペプチド全量を、0.1N塩酸水溶液2mlに溶解した後に、C18の逆層カラムを用いたHPLCで、以下の条件に従って精製した。
[0025]
 ポンプ:形式L6200インテリジェントポンプ(日立製作所)、検出機:形式L4000UV検出器(日立製作所)にて215nmの紫外部吸収を検出カラム:マイクロボンダスフェアー5μC18(ウォーターズ社製)、溶出液:A液;0.1重量%TFA水溶液、B液;0.1重量%TFA入りアセトニトリル(B/A+B)×100(%):0→40%(60分)、流速:1ml/分。最大吸収を示した溶出画分を分取し、これを凍結乾燥することにより目的とする合成ペプチドIle Pro Pro及びVal Pro Proをそれぞれ5.7mg、6.5mg得た。精製ペプチドを全自動タンパク質一次構造分析装置(形式PPSQ-10、島津製作所製)により、ペプチドのN末端から分析し、さらにアミノ酸分析装置(形式800シリーズ、日本分光社製)にて分析した結果、設計通りであることが確認できた。
[0026]
[獣乳カゼイン加水分解物の調製例]
 牛乳由来カゼイン(日本NZMP社製)1gを約80℃に調整した蒸留水99gに加えて充分に撹拌した後、1N水酸化ナトリウム(和光純薬社製)溶液を添加してpH7.0とし、また温度を20℃に調整して基質溶液を調製した。
 得られた基質溶液にアスペルギルス・オリゼ由来であり、少なくとも金属プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、中性プロテアーゼI、中性プロテアーゼII及びロイシンアミノペプチダーゼを含む市販の酵素(登録商標「スミチームFP」、新日本化学工業社製)を、酵素/カゼインの重量比が1/25となるように添加して、50℃で14時間反応させた。続いて、110℃で10分間のオートクレーブを行い、酵素を失活させ、カゼイン酵素分解物溶液を得た。次に、得られた酵素分解物溶液をスプレードライヤーにより乾燥し、粉末を調製した。
 得られた粉末中の含有成分の分析を行なった。タンパク質はケルダール法で測定し、アミノ酸はアミノ酸分析装置にて測定した。また、該タンパク質量からアミノ酸を引いた量をペプチド量とした。更に、脂質は酸分解法で、灰分は直接灰化法で、水分は常圧加熱乾燥法でそれぞれ測定した。尚、100%から各成分を引いた残りを炭水化物量とした。その結果、アミノ酸は35.8重量%、ペプチドは45.7重量%、水分は6.6重量%、脂質は0.2重量%、灰分は4.1重量%及び炭水化物は7.6重量%であった。
[0027]
 <ペプチド構成アミノ酸の測定>
 上記で調製した粉末を適量の蒸留水に溶解し、自動ペプチド分析機(商品名PPSQ-10(株)島津製作所製)を用いて解析し、粉末中においてN末端側から順に如何なるアミノ酸が位置するかを調べた。尚、自動ペプチド分析機は遊離アミノ酸を検出しない。
 また、5残基目のアミノ酸の合計は120pmol、6残基目のアミノ酸の合計は100pmolであった。これらの結果より、前記粉末中に含まれるペプチドのほとんどがジペプチド及びトリペプチドであることが判った。また、2残基目のアミノ酸がProであるペプチドの割合が49.5%と顕著に上昇していた。更に3残基目のアミノ酸がProであるペプチドの割合も29.8%と多かった。
 従って、前記粉末には、Xaa Pro Proが多く含まれており、これらペプチドは生体内プロテアーゼによる酵素分解作用に対する抵抗性が高いペプチドであると推定できる。
[0028]
 <酵素分解物中に含まれるペプチドの測定>
 上記酵素分解物の粉末について、各種の化学合成標準ペプチドを用いて、常法に従い、該粉末に含まれる表1に示すトリペプチド量を求めた。結果を表1に示す。
[0029]
 [表1]


[0030]
 また、前記粉末を蒸留水で希釈溶解した溶液中のペプチド及び遊離アミノ酸量が8.15mg/mlであり、ペプチド量が4.57mg/mlであり、該ペプチド中のXaa Pro量が514.5μgであったので、粉末中のペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対するXaa Proの割合は6.3重量%であり、更に、該ペプチド中のXaa Pro Pro量が116.5μgであったので、粉末中のペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対するXaa Pro Proの割合は1.4重量%であることを確認した。
[0031]
[CM4発酵乳飼料の調製例]
 乳タンパク質を含む原料をCM4株により発酵させて得られる発酵乳を用い、本発明の有効成分Xaa Pro Proを含む動物飼料を調製した。
 市販の脱脂粉乳を固形率9%(w/w)となるように蒸留水で溶解し、オートクレーブで105℃、10分間、高温加熱殺菌した後、室温まで冷却し、CM4株スターター発酵液(菌数5×10 8個/ml)を3%(v/w)接種して、37℃で24時間、静置状態で発酵させCM4発酵乳を得た。
 得られたCM4発酵乳を80℃達温殺菌後、凍結乾燥により粉末を得た。得られた凍結乾燥粉末と市販の粉末飼料(商品名「CE-2」、日本クレア株式会社製)を、質量比10:90で混合し、固型飼料を作成し、CM4発酵乳飼料とした。この飼料には、CM4発酵乳由来のVal Pro Proが34.1mg/kg及びIle Pro Proが17.1mg/kg含まれていた。
[0032]
[試験1:Val Pro Pro(VPP)の腎臓糸球体疾患及び腎臓動脈硬化の抑制効果]
 トリペプチドVal Pro Pro(VPP)の腎臓糸球体疾患及び腎臓動脈硬化の抑制効果を評価するため、腎臓糸球体病変出現頻度及び中小動脈壁の肥厚度について試験を行った。
 7週齢、雄のWistar系ラット(日本エスエルシー株式会社)を一群9~12匹として計3群で試験を行った。一週間馴化飼育した後、L-NAME(Sigma社製)を1g/Lの濃度で溶解した飲水、L-NAMEとVPPをそれぞれ1g/Lと0.3g/Lの濃度で溶解した飲水、L-NAMEとアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤であるエナラプリルをそれぞれ1g/Lと0.5mg/Lの濃度で溶解した飲水を8週間自由摂取させた。エナラプリル投与量はVPPとACE阻害活性が同等になるように設定した。
[0033]
 ラットはジエチルエーテル麻酔下で放血致死させ、腎臓を摘出後、10%中性緩衝ホルマリン液にて固定した。固定した腎臓から短軸に平行に腎乳頭の先端が含まれるように切り出しを行い、組織片を作製した。組織片をパラフィン包埋した後2.0~2.5μmの厚さでミクロトームにより薄切を行った。各ラットについて、2~5の切片を作製した。薄切した切片をヘマトキシリン・エオシン染色または過ヨウ素酸メセナミン銀染色(PAM染色)を行った。組織病理学検査はFoglieniらの方法(Chiara Foglieni,et al., “Protective effect of EDTA preadministration on renal ischemia”BMC Nephrology 2006,7:5、[online]、2006年3月15日、BioMed Central Ltd、http://www.biomedcentral.com/bmcnephrol/)に従い、試験に関与しない病理学者によってサンプル名を伏せて行った。
[0034]
 顕微鏡での観察下、榎本らの著書(榎本 真、林 裕造、田中 寿子編、「実験動物の病理組織」ソフトサイエンス社、p.380~396)に記載の糸球体病変の定義に従い、萎縮性病変、糸球体の荒廃、糸球体硬化、ボウマン嚢の変化などが認められた糸球体を糸球体病変があるものとした。萎縮性病変とは糸球体の萎縮により糸球体とボウマン嚢の大きさの比率が崩れている状態をいい、糸球体の荒廃とは糸球体の毛細血管腔が消失し機能を失った状態をいい、糸球体硬化とはメサンギウム基質の増加が認められかつ膠原線維の増生を伴わない状態をいい、ボウマン嚢の変化とは上皮細胞の肥大や脂肪滴、タンパク粒子のとり込みが認められる状態をいう。1の切片全体でこれら糸球体病変の出現頻度を0~3にスコア化し、各個体についてのスコアを決定した。このようにして決定した各個体のスコアを統計処理して、各群のスコアを決定した。
  スコア0:糸球体の病変が1~2個以内の生理的変化による場合
  スコア1:糸球体の病巣領域が1~2箇所観察され、限局的かつ小範囲の場合
  スコア2:糸球体の病巣領域が2~4箇所観察され、中範囲の場合
  スコア3:糸球体の病巣領域が5箇所以上、広範囲にわたって認められる場合
 ここで、病巣領域とは、病理所見上、1の切片全体で一定の範囲に複数の病変が認められることを指す。
[0035]
 腎皮質に存在する中小動脈壁の肥厚も糸球体病変の観察と同様に組織病理学検査によって評価した。顕微鏡での観察下、1の切片全体で確認できるすべての動脈を、同週齢の正常ラットの標本とほぼ同位置にみられる動脈と比較して、中小動脈壁の肥厚を下記の0~3にスコア化し、各個体についてスコアを決定した。決定した各個体のスコアを統計処理して、各群のスコアを決定した。
  スコア0:1の切片全体で正常ラットと同等の肥厚しか認められない場合
  スコア1:正常ラットに比べ、軽度もしくは軽頻度に肥厚が認められる場合
  スコア2:正常ラットに比べ、中程度もしくは中頻度に肥厚が認められる場合
  スコア3:正常ラットに比べ、高度もしくは高頻度に肥厚が認められる場合
[0036]
 得られた結果を図1及び図2に示す。図1において示すように、L-NAMEのみを与えた群に比べ、VPPを与えた場合では中小動脈壁の肥厚度が減少していたことから、VPPに腎動脈硬化を抑制する効果があることが示された。さらに、図2において示すように、VPPの摂取により糸球体病変の出現頻度が抑えられており、VPPの腎臓糸球体疾患の抑制効果が示された。したがって、VPPは糸球体病変の出現を抑える一方で、中小動脈壁の肥厚をも抑えることから、腎不全の予防に有効であることが明らかとなった。また、エナラプリルでは腎動脈硬化抑制効果も糸球体病変抑制効果も認められなかったことから、本効果がACE阻害によらないものであることが確認された。
[0037]
[試験2:Ile Pro Pro(IPP)の腎臓糸球体疾患及び腎臓動脈硬化の抑制効果]
 トリペプチドIle Pro Pro(IPP)についても腎臓糸球体疾患及び腎臓動脈硬化の抑制効果を評価するため、腎臓病態試験を行った。
 7週齢、雄のWistar系ラット(日本エスエルシー株式会社)を一群9~12匹として計3群で試験を行った。一週間馴化飼育した後、L-NAME(Sigma社製)を1g/Lの濃度で溶解した飲水、L-NAMEとIPPをそれぞれ1g/Lと0.3g/Lの濃度で溶解した飲水、L-NAMEとアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤であるエナラプリルをそれぞれ1g/Lと0.5mg/Lの濃度で溶解した飲水を8週間自由摂取させた。ここでエナラプリルの投与量はIPPとACE阻害活性が同等になるように設定した。
[0038]
 ラットはジエチルエーテル麻酔下で放血致死させ、腎臓を摘出後、10%中性緩衝ホルマリン液にて固定した。固定した腎臓から短軸に平行に腎乳頭の先端が含まれるように切り出しを行い、組織片を作製した。組織片をパラフィン包埋した後2.0~2.5μmの厚さでミクロトームにより薄切を行った。各ラットについて、2~5の切片を作製した。薄切した切片をヘマトキシリン・エオシン染色または過ヨウ素酸メセナミン銀染色(PAM染色)を行った。組織病理学検査はFoglieniらの方法(Chiara Foglieni,et al., “Protective effect of EDTA preadministration on renal ischemia”BMC Nephrology 2006,7:5、[online]、2006年3月15日、BioMed Central Ltd、http://www.biomedcentral.com/bmcnephrol/)に従い、試験に関与しない病理学者によってサンプル名を伏せて行った。
[0039]
 顕微鏡での観察下、萎縮性病変、糸球体の荒廃、糸球体硬化、ボウマン嚢の変化などが認められた場合を糸球体病変があるものとした。それぞれの糸球体病変の定義は榎本らの著書(榎本 真、林 裕造、田中 寿子編、「実験動物の病理組織」ソフトサイエンス社、p.380~396)に従い、萎縮性病変とは糸球体の萎縮により糸球体とボウマン嚢の大きさの比率が崩れている状態、糸球体の荒廃とは糸球体の毛細血管腔が消失し、機能を失った状態、糸球体硬化とはメサンギウム基質の増加が認められるが膠原線維の増生を伴わない状態、ボウマン嚢の変化とは上皮細胞の肥大や脂肪滴、タンパク粒子のとり込みが認められる状態とした。1の切片全体でこれら糸球体病変の出現頻度を0~3にスコア化し、各個体についてのスコアを決定した。
  スコア0:糸球体の病変が1~2個以内の生理的変化による場合
  スコア1:糸球体の病巣領域が1~2箇所観察され、限局的かつ小範囲の場合
  スコア2:糸球体の病巣領域が2~4箇所観察され、中範囲の場合
  スコア3:糸球体の病巣が広範囲に5箇所以上にわたって認められる場合
 ここで、病巣領域とは、病理所見上、1の切片全体で一定の範囲に複数の病変が認められることを指す。
[0040]
 腎髄質に存在する腎門部動脈壁の肥厚および腎皮質に存在する中小動脈壁の肥厚も糸球体病変の観察と同様に組織病理学検査によって評価した。顕微鏡での観察下、1の切片全体で確認できるすべての動脈を、同週齢の正常ラットの標本とほぼ同位置にみられる動脈と比較して、腎門部動脈壁の肥厚および中小動脈壁の肥厚を下記の0~3にスコア化し、各個体についてスコアを決定した。
  スコア0:1の切片全体で正常ラットと同等の肥厚しか認められない場合
  スコア1:正常ラットに比べ、軽度もしくは軽頻度に肥厚が認められる場合
  スコア2:正常ラットに比べ、中程度もしくは中頻度に肥厚が認められる場合
  スコア3:正常ラットに比べ、高度もしくは高頻度に肥厚が認められる場合
 これら糸球体病変と、腎門部動脈壁の肥厚および中小動脈壁の肥厚をそれぞれスコア化した上で、3つの項目全てにおいてスコアが1以上のものを病態ありとして、病態ありと病態なしのラットの数から尤度比検定による比較を行った。
[0041]
[表2]ラット腎臓病態についての評価結果


 *:p<0.05
 これらの結果より、IPPも糸球体及び腎動脈の病態の発生を抑えることが示され、従って、腎不全の予防に有効であることが明らかとなった。また、試験1と同様、エナラプリルでは効果が認められなかったことから、本効果がACE阻害によらないものであることが確認された。
[0042]
 本発明の腎臓糸球体疾患、腎動脈硬化の抑制剤は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤に抑制作用が認められない場合においても、有効性を示すことから、ACE阻害活性に因らない腎不全の予防用及び/又は治療用の医薬、特に予防剤として非常に有用である。また、有効成分が食品等に由来する天然に存在するトリペプチドであるため、副作用の心配が少なく、且つ高い効力を有する医薬の提供が期待される。
 また本発明の腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤を飲料や食品に用いるか又は添加することにより、安全かつ日常的に摂取しつつ、腎不全を予防する効果が期待できる機能性食品が提供される。
[0043]
参考文献
1.特許第2782142号公報
2.J. Clin. Invest. 77, 1993-2000, 1986
3.最新医学、48:1404 ~1409, 1993
4.J. Dairy Sci. 1995, 78:777-783
5.J.Dairy Sci. 1995, 78:1253-1257
6.Am. J. Clin. Nutr. 1996, 64:767-771

図面の簡単な説明

[0044]
[図1] 試験1のVal Pro Pro(VPP)のラット腎臓中小動脈壁の肥厚抑制効果について試験した結果を示す。L-NAME投与群は一群11匹、L-NAME及びエナラプリル投与群は一群9匹、L-NAME及びVPP投与群は一群12匹で試験を行い、グラフは平均値±標準誤差で表した。Mann-Whitney検定により比較を行った。図中の記号(*)は、有意差(p<0.05)を示す。
[図2] 試験1のVal Pro Pro(VPP)のラット腎臓糸球体病変の出現抑制効果について試験した結果を示す。Mann-Whitney検定により比較を行った。図中の記号(*)は、有意差(p<0.05)を示す。

請求の範囲

[1]
  Xaa Pro Proを有効成分として含有する、腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤。
[2]
  Xaa Pro ProがVal Pro Pro及び/又はIle Pro Proである、請求項1記載の腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤。
[3]
 Xaa Pro Proが獣乳カゼイン加水分解物又はその濃縮物に由来する、請求項1又は2に記載の腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤。
[4]
 獣乳カゼイン加水分解物が、獣乳カゼインを麹菌により発酵させて得た発酵物である、請求項3に記載の腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤。
[5]
 獣乳カゼイン加水分解物が、獣乳カゼインを麹菌由来酵素により分解して得た分解物である、請求項3に記載の腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤。
[6]
 麹菌由来酵素が、アスペルギルス・オリゼ由来の酵素である、請求項5に記載の腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤。
[7]
 Xaa Pro Proが、乳タンパク質を含む原料をラクトバチルス・ヘルベティカス種に属する菌により発酵させて得られる発酵物に由来する、請求項1又は2に記載の腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤。
[8]
 ラクトバチルス・ヘルベティカス種に属する菌が、ラクトバチルス・ヘルベティカスCM4株(FERM BP-6060)である、請求項7に記載の腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤。
[9]
 請求項1~8のいずれかに記載の腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤を有効成分として含む、腎不全予防剤。
[10]
 請求項1~8のいずれかに記載の腎臓糸球体疾患及び腎動脈硬化の抑制剤を含む、機能性食品。
[11]
 腎不全予防のための効能を表示した、請求項10に記載の機能性食品。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]