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1. WO2020170917 - 酸化チタン

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明 細 書

発明の名称 酸化チタン

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005   0006   0007  

先行技術文献

特許文献

0008  

非特許文献

0009  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0010   0011   0012   0013   0014   0015   0016   0017   0018  

課題を解決するための手段

0019  

発明の効果

0020  

図面の簡単な説明

0021  

発明を実施するための形態

0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055  

実施例

0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081  

請求の範囲

1   2   3  

図面

1   2   3   4   5   6   7  

明 細 書

発明の名称 : 酸化チタン

技術分野

[0001]
 本発明は酸化チタンに関し、特にアナターゼ型の酸化チタンに関する。
 本願は、2019年2月19日に、日本に出願された特願2019-027727号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。

背景技術

[0002]
 近年では、二酸化チタン(TiO )は化学的に安定な材料であり白色顔料などとして広い分野で工業的に使用されている。また、これらの用途においてより高い機能を発現するため、比表面積の大きいアナターゼ型の微粒子酸化チタンが求められている。
[0003]
 アナターゼ型の微粒子酸化チタンを得る工業的な手法としては、主に気相法と液相法がある。このうち気相法として、特許文献1のようにハロゲン化チタンガスを酸性ガスと反応させる手法がある。
[0004]
 液相法としては、特許文献2では四塩化チタンを含む水溶液に酢酸、シュウ酸、ギ酸などのカルボン酸を添加し、酸化チタンの合成中に発生する塩酸をアンモニアで中和することが記載されている。
[0005]
 また、特許文献3では、硫酸チタニルから酸化チタンを液相で合成する際に金属元素、あるいはSi、Pを添加することが記載されている。特許文献4では、液相法により四塩化チタンから酸化チタンを合成する方法において、四塩化チタン水溶液を温水中に滴下することが記載されている。
[0006]
 特許文献5の実施例1では、四塩化チタン水溶液に無水クエン酸を添加し、92℃に昇温し、30分保持した後に、70℃に冷却し、アンモニア水で中和する工程を含む酸化チタン粉末の製造方法が記載されている。また、特許文献5では、この方法によって得られた酸化チタンを500℃で2時間焼成したものが記載されており、焼成後の酸化チタンにおけるルチル含有量が8%であることが開示されている。
[0007]
 非特許文献1では、テストチューブ中でチタンn-ブトキシド(TNB)をトルエンに溶解し、オートクレーブにセットし、テストチューブとオートクレーブ壁面の間に水を入れて300℃で反応させることが記載されている。

先行技術文献

特許文献

[0008]
特許文献1 : 特開2015-27924号公報
特許文献2 : 特開2011-63496号公報
特許文献3 : 特開平7-267641号公報
特許文献4 : 特開2017-114700号公報
特許文献5 : 国際公開第2016/002755号

非特許文献

[0009]
非特許文献1 : H. Kominami et al., “Hydrolysis of Titanium Alkoxide in Organic Solvent at High Temperatures: A New Synthetic Method for Nanosized, Thermally Stable Titanium(IV) Oxide”, Industrial & Engineering Chemistry Research, 1999, vol. 38, p. 3925-3931

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0010]
 TiO が取りうる結晶構造として主に、アナターゼ結晶相(Anatase)、ブルッカイト結晶相(Brookite)、ルチル結晶相(Rutile)の3つが知られている。とりわけアナターゼ結晶相を多く含むアナターゼ型酸化チタンは、誘電体原料、太陽電池電極、あるいは光触媒原料として注目されている。一例として、誘電体原料であるチタン酸バリウムBaTiO を合成する際には、原料であるBa源との反応性が高いアナターゼ型酸化チタンが好ましいとされている。
[0011]
 BaTiO の合成方法として炭酸バリウムと酸化チタンとを反応させる固相法がある。この方法では600℃から700℃で反応させる必要があり、この温度域でルチル転化率が低く粒成長しにくいアナターゼ型酸化チタンが求められている。
[0012]
 しかし、特許文献1に記載の酸化チタンは、製造工程において高温でハロゲン化チタンガスを反応させる必要があり、作製した酸化チタンがルチル相に転移する。
[0013]
 特許文献2に記載の製造方法で得られた酸化チタンは、結晶子径が小さすぎる、あるいは、比表面積が小さすぎる。すなわち、特許文献2では、一次粒子の粗大化を抑制しつつ結晶子サイズの大きな酸化チタンは得られていない。
[0014]
 特許文献3に記載の方法で得られる酸化チタンは、平均粒子径5μm以上で、非常に大きく、超微粒子酸化チタンとしての上記用途に適さない。
[0015]
 特許文献4に記載の製造方法で得られる酸化チタンでは、後述する比較例23の通り、700℃の高温環境下においてアナターゼ結晶構造はほぼ全て失われている。
[0016]
 また、特許文献5に記載の上記製造方法で得られる酸化チタンも、後述する比較例51の通り、700℃の高温環境下においてアナターゼ結晶相はほぼ全て失われている。
[0017]
 非特許文献1で得られている酸化チタン(Table 1、Titania 2~6)は、高温環境下でのアナターゼ残存率は高い(Table 3)が、いずれもBET比表面積が小さく、粒子が粗い。また、同文献のTitania 1は、700℃で1時間熱処理すると大部分はルチル化する。また、非特許文献1の酸化チタンは、高温高圧下での製造工程があるため、製造コストが高くなる。
[0018]
 そこで、本発明は、低コストで、BET比表面積が大きく、かつ高温環境下においても結晶相中のアナターゼ結晶相の含有率を高く維持できる酸化チタンを提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

[0019]
 上記課題を解決するための本発明の構成は以下の通りである。
〔1〕 全結晶相中のアナターゼ結晶相の含有率が95質量%以上の酸化チタンであって、X線回折測定における2θ=24.5°~26.0°にあるアナターゼ結晶相に対応するピークの半値幅をB[rad]、BET比表面積をS BET[m /g]とすると、B≦2.9×10 -2radであり、S BET≧245m /gであり、かつB/S BET≦1.07×10 -4g/m である酸化チタン。
〔2〕 四塩化チタン水溶液とα-ヒドロキシカルボン酸との混合溶液を、水で希釈することによって得られる〔1〕に記載の酸化チタン。
〔3〕700℃で2時間熱処理した後のBET比表面積をS BET2[m /g]とすると、15×10 -3≦S BET2/S BET≦1.0である〔1〕または〔2〕に記載の酸化チタン。

発明の効果

[0020]
 本発明によれば、低コストで、BET比表面積が大きく、かつ高温環境下においても結晶相中のアナターゼ結晶相の含有率を高く維持できる酸化チタンを提供することができる。

図面の簡単な説明

[0021]
[図1] 本発明の一実施形態にかかる酸化チタンの製造方法の一例を示したフロー図である。
[図2] 本発明の実施例11で製造した酸化チタンのXRD回折パターン(実線)及び測定に用いるガラスセルのみ(バックグラウンド)のXRD回折パターン(点線)を示す図である。
[図3] 本発明の実施例11で製造した酸化チタンのバックグラウンド補正後のXRD回折パターンを示す図である。
[図4] カルボキシ基を3個有するα-ヒドロキシカルボン酸としてクエン酸を用いた場合の、酸の物質量とTiの物質量との比率Rに対する、700℃での加熱試験後における酸化チタンの結晶相中のアナターゼ含有率の変化を示すグラフである。
[図5] カルボキシ基を2個有するα-ヒドロキシカルボン酸として酒石酸を用いた場合の、酸の物質量とTiの物質量との比率Rに対する、700℃での加熱試験後における酸化チタンの結晶相中のアナターゼ含有率の変化を示すグラフである。
[図6] カルボキシ基を2個有するα-ヒドロキシカルボン酸としてリンゴ酸を用いた場合の、Tiの物質量と酸の物質量との比率Rに対する、700℃での加熱試験後における酸化チタンの結晶相中のアナターゼ含有率の変化を示すグラフである。
[図7] アナターゼ結晶相に対応するピークの半値幅をBとBET比表面積S BETとの比であるB/S BETに対する、700℃での加熱試験後における酸化チタンの結晶相中のアナターゼ含有率の変化を示すグラフである。

発明を実施するための形態

[0022]
 以下、本発明の実施形態にかかる酸化チタン及びその製造方法について説明するが、本発明は以下の実施形態に限られない。
[0023]
 ここで、「酸化チタン」とは、特に断りがなければ酸化チタン(IV)(TiO )のことを指すものとする。「Ti」とは、特に断りがなければ、化合物、イオン、錯体等を構成するチタン原子全てを指す。「Ti濃度」とは、化合物、イオン、錯体等を構成する全てのチタン原子の濃度である。
[0024]
<1.酸化チタン>
 本発明にかかる酸化チタンは、全結晶相中のアナターゼ結晶相の含有率(以下、結晶相中のアナターゼ含有率とすることもある)が95質量%以上であり、98質量%以上であることが好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
[0025]
 酸化チタンのBET比表面積をS BET[m /g]、真密度をρ[g/cm ]とすると、酸化チタンの平均一次粒子径は、6000/(ρ×S BET)[nm]で表すことができる。ρは一定であるので、酸化チタンの平均一次粒子径は1/S BETに比例すると考えられる。
[0026]
 アナターゼ結晶相の平均結晶子サイズは、Sherrerの式、すなわちKλ/Bcosθ[Å]で表される。ここで、Kは形状因子であり、0.9で一定とする。λはCu-Kα1線の波長で1.5418Åである。cosθは一定とみなすことができる。B[rad]は、酸化チタンのCu-Kα1線によるX線回折測定(以下、単にX線回折測定とすることもある)における2θ=24.5°~26.0°にあるアナターゼ結晶相に対応するピークの半値幅である。したがって、アナターゼ結晶相の平均結晶子サイズは、1/Bに比例する。
[0027]
 ここで酸化チタンの平均一次粒子径とアナターゼ相の平均結晶子サイズとの関係について考える。(1/S BET)/(1/B)=B/S BET[g/m ]の値が大きい程、酸化チタンの一次粒子径に対するアナターゼ相の結晶子サイズは小さくなり、この値が小さい程、酸化チタンの一次粒子径に対するアナターゼ相の結晶子サイズは大きくなる。
[0028]
 アナターゼ型酸化チタンを加熱した場合、結晶子は、隣合う結晶子から受ける応力によってルチル化が進行すると考えられる。一次粒子径に対するアナターゼ結晶子のサイズが小さい、すなわちB/S BETが大きければ、一次粒子に含まれるアナターゼ結晶子の数が多くなる。すなわち、一次粒子の内部のアナターゼ結晶子は、多くの結晶子と隣り合う。そのため、多くの箇所からルチル化が進行すると考えられる。また、この場合、一次粒子の内部のアナターゼ結晶子は、応力を逃すことができず、この点からもルチル化が進行しやすいと考えらえる。
[0029]
 これらのことから、一次粒子に対するアナターゼ結晶子のサイズを大きくする必要がある。すなわち、本発明の酸化チタンではB/S BETを小さくする必要がある。具体的には、B/S BET≦1.07×10 -4g/m であり、好ましくはB/S BET≦1.05×10 -4g/m であり、より好ましくはB/S BET≦1.00×10 -4g/m である。
[0030]
 BとS BETとが上記の関係を満たしていても、酸化チタンのBET比表面積が小さすぎると、アナターゼ型酸化チタンの加熱によるルチル化が進行しやすくなる。これは、加熱により、隣合う一次粒子間で応力が作用した場合、それぞれの一次粒子が大きいと、応力を逃すために粒子が動くことができず、結果として一次粒子に含まれるアナターゼ結晶子がルチル化するためであると考えらえる。また、超微粒子酸化チタンとしては、BET比表面積が十分に大きくなくてはならない。このことから、本発明の酸化チタンのBET比表面積S BETは245m /g以上であり、好ましくは260m /g以上であり、より好ましくは300m /g以上である。
[0031]
 BとS BETとが上記の関係を満たしていても、アナターゼ結晶相に対応するピークの半値幅をBが広いと、ルチル化が進行しやすくなる。アナターゼ結晶子のサイズが小さすぎると、結晶子の比表面積が大きくなり、結晶の体積に対してルチル化の起点が増えるためであると考えられる。このことから、本発明の酸化チタンにおいて、B≦2.9×10 -2radである必要があり、好ましくはB≦2.8×10 -2radであり、より好ましくはB≦2.7×10 -2radである。
[0032]
 さらに、本発明にかかる酸化チタンを700℃の環境下で2時間熱処理した後のBET比表面積をS BET2[m /g]とすると、15×10 -3≦S BET2/S BET≦1.0であることが好ましく、20×10 -3≦S BET2/S BET≦1.0であることがより好ましく、25×10 -3≦S BET2/S BET≦1.0であることがさらに好ましい。S BET2/S BETの値が1に近いほど、熱処理をしても元の粒子の形態を維持しているということができ、すなわち、元の結晶構造を維持していると言える。
[0033]
<2.酸化チタンの製造方法>
 図1は、本発明にかかる酸化チタンの製造方法の一例を示したフロー図である。なお、図1及び以下の説明にかかる製造方法は本発明にかかる酸化チタンを得るための方法の一例に過ぎず、本発明にかかる酸化チタンが得られるのであればここに述べる製造方法に限られない。図1に示される酸化チタンの製造方法の一例では、四塩化チタン及びα-ヒドロキシカルボン酸の水溶液を、前駆体水溶液として調製する調製工程S1と、前駆体水溶液に水を加えて希釈し反応液とする希釈工程S2と、反応液から酸化チタンを合成する合成工程S3と、合成された酸化チタンを精製する精製工程S4とを含む。以下、各工程について説明する。
[0034]
 なお、以下の工程において、α-ヒドロキシカルボン酸を含む反応液内で、四塩化チタンから酸化チタンが合成されている。酸化チタンの結晶の核の形成、及び結晶の成長、さらには粒子の生成過程において、α-ヒドロキシカルボン酸が何らかの作用をすると考えられる。ただし、α-ヒドロキシカルボン酸による作用は、本発明の酸化チタンを製造する上で必須ではなく、本発明の上記要件を満たす酸化チタンが得られれば、酸化チタンの製造工程において、α-ヒドロキシカルボン酸を用いなくてもよい。
[0035]
<2-1.調製工程S1>
 調製工程S1では、四塩化チタン水溶液と、α-ヒドロキシカルボン酸とを混合し、四塩化チタン及びα-ヒドロキシカルボン酸の水溶液(混合溶液)を、前駆体水溶液として調製する。α-ヒドロキシカルボン酸は、分子内の3個または2個のカルボキシ基を有することが好ましい。混合方法としては四塩化チタン水溶液を攪拌しながら、α-ヒドロキシカルボン酸を一回で加えることが添加開始時と終了時とで反応条件に差が出ないため好ましい。十分に均一な水溶液を得るために、混合は3分以上撹拌しながら行うことが好ましく、5分以上行うことがより好ましく、8分以上行うことがさらに好ましい。
[0036]
 分子内に3個のカルボキシ基を有するα-ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、クエン酸、イソクエン酸、1,2-ジヒドロキシ-1,1,2-エタントリカルボン酸等が挙げられ、クエン酸を用いることが好ましい。入手が容易であること、及び取り扱いやすくコスト面で有利なためである。
[0037]
 分子内に2個のカルボキシ基を有するα-ヒドロキシカルボン酸としては、酒石酸、リンゴ酸、タルトロン酸、シトラマル酸等が挙げられ、酒石酸またはリンゴ酸を用いることが好ましい。入手が容易であること、及び取り扱いやすくコスト面で有利なためである。
[0038]
 調製工程S1では、四塩化チタン水溶液及び前駆体水溶液は35℃以下に保持することが好ましく、30℃以下に保持することがより好ましく、25℃以下に保持することがさらに好ましい。Ti濃度が高い状態での四塩化チタンの加水分解の進行を抑制することで非晶質酸化チタンの生成を抑制するためである。
[0039]
 四塩化チタン水溶液におけるTi濃度は10質量%以上であることが好ましく、12質量%以上であることがより好ましく、14質量%以上であることがさらに好ましい。保存期間中に四塩化チタンが水と反応し水酸化チタンゾルが生成してしまうことを抑制するためである。
[0040]
 四塩化チタン水溶液におけるTi濃度は20質量%以下であることが好ましく、18質量%以下であることがより好ましく、16質量%以下であることがさらに好ましい。四塩化チタン水溶液の保存中に加水分解反応が進行することを抑制するためである。
[0041]
 前駆体水溶液の調製に用いられたTiの物質量に対するα-ヒドロキシカルボン酸の物質量の比率R(モル比率{α-ヒドロキシカルボン酸の物質量(mol)}/{Tiの物質量(mol)})の好ましい範囲は、用いられるα-ヒドロキシカルボン酸に含まれるカルボキシ基の数によって異なる。比率Rの値が好ましい範囲にあれば、本発明にかかる酸化チタンが得られやすい。また、比率Rの値を大きくしすぎないことで、生成する酸化チタン粒子を良好に分散させることができ、大きいBET比表面積を有する微粒子酸化チタンを作製することができると考えられる。
[0042]
 α-ヒドロキシカルボン酸が、分子内にカルボキシ基を3個有する場合、比率Rの値は0.017以下であることが好ましく、0.013以下であることがより好ましく、0.012以下であることがさらに好ましい。α-ヒドロキシカルボン酸が、分子内にカルボキシ基を3個有する場合、比率Rの値は0.006以上であることが好ましく、0.008以上であることがより好ましく、0.009以上であることがさらに好ましい。
[0043]
 α-ヒドロキシカルボン酸が、分子内にカルボキシ基を2個有する場合、比率Rの値は0.065以下であることが好ましく、0.056以下であることがより好ましく、0.050以下であることがさらに好ましく、0.048以下であることが特に好ましい。α-ヒドロキシカルボン酸が、分子内にカルボキシ基を2個有する場合、比率Rの値は0.034以上であることが好ましく、0.039以上であることがより好ましく、0.044以上であることがさらに好ましい。
[0044]
 なお、本工程においてはα-ヒドロキシカルボン酸を水溶液として四塩化チタン水溶液に加えてもよい。ただし、この場合、上記の水酸化チタンゾルの生成を抑制するために、前駆体水溶液中のTi濃度が大きく低下しないようにすることが好ましい。具体的には、前駆体水溶液中のTi濃度を10質量%以上とすることが好ましく、12質量%以上とすることがより好ましく、14質量%以上とすることがさらに好ましい。
[0045]
<2-2.希釈工程S2>
 希釈工程S2では、調製された前駆体水溶液(前記混合溶液)を、水で希釈する。希釈は、前駆体水溶液に水を加えてもよく、水に前駆体水溶液を加えてもよい。希釈後のTi濃度C(以下、希釈前のTi濃度と希釈後のTi濃度とを区別するために、後者を「希釈後のTi濃度」または単に「Ti濃度C」とする)は0.07~0.70mol/Lとすることが好ましい。希釈後の水溶液を反応液とする。反応液のTi濃度Cは、この後の酸化チタンの合成工程S3における反応温度Tと関係があるため、Ti濃度Cと反応温度Tとの関係及び好ましいTi濃度Cの範囲については酸化チタンの合成工程S3を説明する項にて後述する。
[0046]
 希釈工程S2では、前駆体水溶液に水を加えることがより好ましい。希釈中の水溶液のTi濃度が希釈後の水溶液のTi濃度Cを下回ることはなく、特別な装置を用いなくても四塩化チタンと水との反応を抑制できると考えられるためである。また、水溶液中のTiを含む化合物の急激な温度変化を抑制することもでき、精密な温度管理の必要性も避けられる。
[0047]
 希釈工程S2では、前駆体水溶液に加えられる水の温度は、特に限定されないが、70℃以下であることが好ましく、60℃以下であることがより好ましい。また、前駆体水溶液に加えられる水の温度は、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましい。
[0048]
 ここで用いられる水は、後述する酸化チタンの精製工程S4で除去しなければならない不純物を低減させるため、純水またはイオン交換水であることが好ましいが、精製工程S4でそれらが除去できるのであればこれに限られない。
[0049]
<2-3.酸化チタンの合成工程S3>
 酸化チタンの合成工程S3では、希釈工程S2で得られた反応液を、反応温度T[℃]にして酸化チタンを合成し、酸化チタン粒子を析出させる。反応温度Tは60℃以上かつ反応液の沸点以下であることが好ましい。より好ましくは、Ti濃度Cに応じた反応温度Tで酸化チタンを合成し、酸化チタン粒子を析出させる。合成工程S3における、反応液のTi濃度Cに対する反応温度Tのより好ましい範囲は以下の(a)~(c)の通りである。
(a)Ti濃度Cが0.07mol/L以上0.20mol/L未満である場合、反応温度Tは60~75℃。
(b)Ti濃度Cが0.20mol/L以上0.45mol/L未満である場合、反応温度Tは75℃以上かつ反応液の沸点以下。なお、反応が進むと酸化チタンが析出し、反応液の溶質の濃度が低下するため、反応液の沸点は低下する。また、反応温度Tを反応の沸点とする場合、本工程では還流等、反応液中の水の量を一定に保つことができる方法を用いることが好ましい。
(c)Ti濃度Cが0.45mol/L以上0.70mol/L以下である場合、反応温度Tは60~75℃。
[0050]
 上記条件(a)~(c)の中でも、(b)または(c)が好ましく、(b)がより好ましい。(b)の中でも、反応液のTi濃度Cは0.20~0.40mol/Lであることが好ましく、0.25~0.40mol/Lであることがより好ましく、0.25~0.35mol/Lであることがさらに好ましい。また、(b)の中でも、反応温度Tは80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましく、100℃以上がさらに好ましい。
[0051]
 本工程の前の反応液の温度が反応温度Tより低い場合、反応液を加熱する。反応液の加熱は速く行うことが生産性の観点で好ましい。しかし、非晶質酸化チタンの析出を抑制し、結晶性を向上させるには、反応の急激な進行を抑制し、十分に結晶成長させるように昇温速度を抑えることが好ましい。そのため、目標温度、すなわち反応温度Tに至るまでの反応液の加熱は昇温速度0.1℃/min以上1.5℃/min以下で行うことが好ましく、0.3℃/min以上1.0℃/min以下で行うことがより好ましく0.6℃/min以上1.0℃/min以下で行うことがさらに好ましい。 
[0052]
 なお、反応液から酸化チタンを生成する反応は吸熱反応であることが実験的にわかっている。そこで、加熱の際の昇温速度の低下、及び温度の低下を抑制して上記の温度を保持するために、反応容器周囲を断熱材等で覆ったうえでマントルヒーターやスチームジャケット等の与える熱量を調整できる加熱器で反応器を均一に加熱することが好ましい。
[0053]
 この工程においては、加熱を終えて、反応液の温度が反応温度Tに至った後、反応液を0.5時間以上、反応温度Tで保持して反応させることが好ましい。反応液中の成分を十分に反応させるためである。この観点から反応温度Tの保持時間は、1時間以上であることがより好ましく、1.5時間以上であることがさらに好ましい。ただし、生産性を考慮すると反応時間は短いほうが良い。そのため、反応温度の保持時間は5時間以下であることが好ましく、3時間以下であることがより好ましく、2時間以下であることがさらに好ましい。また、この工程において、反応液を撹拌することが好ましい。
[0054]
<2-4.酸化チタンの精製工程S4>
 合成工程S3により、反応液中で酸化チタンが析出し、スラリーが得られる。酸化チタンの精製工程S4では、酸化チタンの純度を向上させるためスラリー中のCl、S、Cなどの不純物を除去する。精製方法としては限外ろ過膜、逆浸透膜、イオン交換樹脂、電気透析膜のいずれか一つまたは二つ以上を使用してよい。
[0055]
 精製された酸化チタンは、必要に応じて粉砕してもよい。粉砕方法は特に限定されないが、乳鉢、ボールミル等を用いた方法が挙げられる。
実施例
[0056]
 以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[0057]
<1-1.実施例11~13、比較例11~13>
(前駆体水溶液の調製工程S1)
 20℃に保たれたTi濃度15質量%(四塩化チタン濃度59質量%)の四塩化チタン水溶液45gに、クエン酸一水和物を添加した。Tiの物質量に対するクエン酸の物質量の比率R{クエン酸の物質量(mol)}/{Tiの物質量(mol)}が表1に示される値(すなわち、比較例11ではクエン酸を添加していない)となる四塩化チタン及びクエン酸の水溶液(前駆体水溶液)を調製した。前駆体水溶液の調製工程S1において、Tiを含む水溶液の温度を常に20℃に保った。
[0058]
(希釈工程S2)
 調製された20℃の前駆体水溶液に、20℃のイオン交換水を400mL加え、10分撹拌し、Ti濃度0.32mol/Lに希釈し、反応液を調製した。
[0059]
(酸化チタンの合成工程S3)
 反応液をガラス製の反応器に移した。反応器内の反応液を、マグネットスターラーを用いて300rpmで攪拌しながら、外部ヒーターを用いて0.6℃/minの昇温速度で目標温度、すなわち反応温度100℃まで昇温させ、反応温度100℃で2時間保持した。
[0060]
(精製工程S4)
 その後、得られたスラリーを室温(25℃)まで放冷した。放冷後のスラリーをアンモニア水にて中和し、限外濾過膜(旭化成株式会社製「マイクローザUF(登録商標)」、以下の実施例及び比較例においても同じ)にてろ過回収を行い、得られた固形物を、イオン交換水を用いて洗浄した。洗浄された固形物をオーブンに入れて60℃で乾燥させ、酸化チタンの固形物を得た。この固形物を乳鉢で粉砕し、酸化チタン粉末を得た。
[0061]
 図2は、本発明の実施例11で製造した酸化チタンのXRD回折パターン(実線)及び測定に用いるガラスセルのみ(バックグラウンド)のXRD回折パターン(点線)を示す図である。また、実施例11で製造した酸化チタンのXRDパターンについて、後述するバックグラウンド補正をしたXRD回折パターンを図3に示す。図3のパターンにおいて、2θ=25,3°にあるピークの半値幅を求めた結果、0.024radであった。
[0062]
 得られた酸化チタンの700℃での加熱試験の前後における結晶相中のアナターゼ含有率[質量%]を表1に示す。また、酸としてクエン酸を用い、反応液のTi濃度Cが0.32mol/Lの場合の、比率Rに対する700℃での加熱試験後における酸化チタンの結晶相中のアナターゼ含有率の変化を示すグラフを図4に示す。なお、加熱試験及び結晶相中のアナターゼ含有率の測定方法の詳細については後述する。
[0063]
[表1]


[0064]
<1-2.実施例21~23、比較例21~22>
 実施例11~13及び比較例11~13に対して、前駆体水溶液に水を添加する方法に代えて、水に前駆体水溶液を添加する方法を用いて、実施例21~23及び比較例21~22の各々について、比率Rを表1に示された値として酸化チタン粉末を得た。得られた酸化チタンの700℃での加熱試験の前後における結晶相中のアナターゼ含有率[質量%]を表1に示す。
[0065]
<1-3.比較例23> 
 比較例23では、上記特許文献4に記載されている実施例8と同様の方法により酸化チタンを合成した。具体的にはTi濃度18質量%(四塩化チタン濃度71質量%)の四塩化チタン水溶液を20℃に保ちながらクエン酸一水和物を加え、Tiの物質量に対するクエン酸の物質量の比率を0.01として、前駆体水溶液とした。20℃の前駆体水溶液20gを、75℃のイオン交換水850mLに、前駆体水溶液を加えられる側の温度を75℃に保ちながら滴下した(滴下後のTi濃度は0.088mol/L)。滴下後、直ちにこの水溶液を20℃に冷却した。冷却後、水溶液をアンモニア水で中和し、限外ろ過膜にて沈殿物を濾過回収し、イオン交換水にて洗浄を行った後、オーブンを用いて80℃で乾燥させて、酸化チタン粉末を得た。
[0066]
 得られた酸化チタンの結晶相中のアナターゼ含有率は100質量%であった。この酸化チタンに対して、後述する700℃での加熱試験を行ったところ、加熱試験後における結晶相中のアナターゼ含有率[質量%]は0質量%となった(表1)。
[0067]
<1-4.実施例31~34、比較例31~32>
 実施例11~13及び比較例11~13に対して、クエン酸を酒石酸(カルボキシ基の数2)に代えて、実施例31~34及び比較例31~32の各々について、比率Rを表1に示された値として酸化チタン粉末を得た。得られた酸化チタンの700℃での加熱試験の前後における結晶相中のアナターゼ含有率[質量%]を表1に示す。また、酸として酒石酸を用い、反応液のTi濃度Cが0.32mol/Lの場合の、比率Rに対する700℃での加熱試験後における酸化チタンの結晶相中のアナターゼ含有率の変化を示すグラフを図5に示す。なお、ここで比率R=0における結晶相中のアナターゼ含有率は比較例11のデータを用いた。
[0068]
 <1-5.実施例41~45、比較例41~45>
 実施例11~13及び比較例11~13に対して、クエン酸をリンゴ酸(カルボキシ基の数2)に代えて、実施例41~45及び比較例41~45について、比率Rを表1に示された値として酸化チタン粉末を得た。得られた酸化チタンの700℃での加熱試験の前後における結晶相中のアナターゼ含有率[質量%]を表1に示す。また、酸としてリンゴ酸を用い、反応液のTi濃度Cが0.32mol/Lの場合の、比率Rに対する700℃での加熱試験後における酸化チタンの結晶相中のアナターゼ含有率の変化を示すグラフを図6に示す。なお、ここで比率R=0における結晶相中のアナターゼ含有率は比較例11のデータを用いた。
[0069]
<1-6.比較例51>
 特許文献5の実施例1に記載の方法に基づいて酸化チタンを作製した。具体的には、TiO 換算で100g/Lの四塩化チタン水溶液(Ti濃度1.25mol/L)を25℃で保持しながら、水溶液に含まれる四塩化チタンの酸化チタンに換算した質量に対して、無水クエン酸換算で3質量%のクエン酸一水和物を添加して(比率R:0.012)、30分攪拌した。得られた水溶液を前駆体水溶液とする。次に、外部ヒーターを用いて水溶液を昇温し、92℃で30分間攪拌した。その後、得られた液を70℃まで冷却し、アンモニア水(アンモニア濃度25質量%)でpH=6.5とした。その後、得られたスラリーを25℃に冷却し、限外濾過膜にてろ過し、回収した酸化チタンを、イオン交換水を用いて洗浄した。洗浄された酸化チタンをオーブンに入れて60℃で乾燥させた。
[0070]
 得られた酸化チタンの結晶相中のアナターゼ含有率は100質量%であった。この酸化チタンに対して、後述する700℃での加熱試験を行ったところ、加熱試験後における結晶相中のアナターゼ含有率[質量%]は0.0質量%となった(表1)。
[0071]
<2.評価方法>
<2-1.加熱試験>
 上記実施例及び比較例の各々で得られた酸化チタンについて次の通り加熱試験を行った。まず、得られた酸化チタン粉末2gをアルミナるつぼに入れ、大気雰囲気下、電気炉で25℃から700℃まで2時間で昇温し、700℃環境下で2時間放置した。その後、酸化チタン粉末の入ったアルミナるつぼを電気炉から取り出し、室温(25℃)で放冷した。加熱試験の前、及び加熱試験の後の酸化チタンについて以下の評価を行った。
[0072]
<2-2.各結晶相の含有率の測定>
 加熱試験前後の各々の酸化チタンについて、以下の通りX線回折測定を行い、酸化チタンの結晶相中に含まれるアナターゼ、ルチル、ブルッカイトの各結晶相の割合を算出した。粉末X線解析測定はPANalytical社製X’pert PROを用いて行った。銅ターゲットのCu-Kα1線を用いて、管電圧45kV、管電流40mA、測定範囲2θ=20~35°、サンプリング幅0.0167°、走査速度0.0192°/sの条件でX線回折測定を行った。
[0073]
 測定にあたっては、ガラスセルのみでのバックグラウンドを測定して、酸化チタン及びガラスセルを含むサンプルで測定される回折強度から、バックグラウンドの回折強度を差し引くことにより、サンプルの回折パターンを補正した。バックグラウンド補正後(例えば、図3のパターン)の酸化チタンの回折強度は、I(2θ)=I (2θ)-I (2θ)で求められる。ここで、I (2θ)は、酸化チタン及びガラスセルを含むサンプルの2θにおける回折強度(例えば、図2における実線のパターン)である。I (2θ)は、ガラスセルのみの2θにおける回折強度(例えば、図2における点線のパターン)である。
[0074]
 加熱試験前後での酸化チタンの各結晶相の割合については、アナターゼ結晶相に対応するピーク(2θ=24.5~26.0°)の強度(I )、ルチル結晶相に対応するピーク(2θ=26.6~28.1°)の強度(I )、及びブルッカイト結晶相に対応するピーク(2θ=30.8~32.3°)の強度(I )から以下の式で計算した。
結晶相中のアナターゼ含有率(質量%)=I /(I +I +I
[0075]
<2-3.半値幅Bの測定>
 加熱試験前の酸化チタンの上記補正後のX線回折パターンにおける2θ=24.5~26.0°にあるアナターゼ結晶相に対応するピークの半値幅B[rad]を測定した。半値幅B[rad]は、2θ=24.5~26.0におけるI(2θ)の最大値I maxとすると、最大値となる2θを挟んで、I(2θ)=I max/2となる2つの2θの値の差とした。
[0076]
<2-4.BET比表面積の測定>
 加熱試験前後の各々の酸化チタンについて、窒素ガスを用いたBET法による比表面積(BET比表面積(m /g))の測定をQuantachrome社製のQUADRASORV evoを用いて測定した。また、加熱試験前のBET比表面積をS BET(m /g)、加熱試験後のBET比表面積をS BET2(m /g)として、S BET2/S BETの値を算出した。
[0077]
<3.評価結果>
 各実施例及び比較例の製造条件と生成した酸化チタンの評価結果は表1及び図4~7に示したとおりである。
[0078]
 図7は、半値幅BとBET比表面積S BETとの比であるB/S BETに対する、700℃での加熱試験後における酸化チタンの結晶相中のアナターゼ含有率の変化を示すグラフである。ここで、半値幅Bは、実施例及び比較例の各々で得られた酸化チタン(加熱前)のアナターゼ結晶相に対応する、2θ=24.5~26.0°にあるピークの半値幅である。B/S BET>1.07×10 -4g/m である酸化チタンはいずれも加熱試験後のアナターゼ結晶相の含有率が低いことがわかる。
[0079]
 表1から、B/S BET≦1.07×10 -4g/m であっても、S BET<245m /gである比較例13及び、B>2.9×10 -2radである比較例23では、加熱試験後の酸化チタンのアナターゼ結晶相の含有率が低い。
[0080]
 一方で、B≦2.9×10 -2radであり、S BET≧245m /gであり、かつB/S BET≦1.07×10 -4g/m である各実施例の酸化チタンはいずれも、加熱試験後のアナターゼ結晶相の含有率が高い。
[0081]
 このことから、本発明によれば、低コストで、BET比表面積が大きく、かつ高温環境下においても結晶相中のアナターゼ結晶相の含有率を高く維持できる酸化チタンを提供できることがわかる。

請求の範囲

[請求項1]
 全結晶相中のアナターゼ結晶相の含有率が95質量%以上の酸化チタンであって、X線回折測定における2θ=24.5°~26.0°にあるアナターゼ結晶相に対応するピークの半値幅をB[rad]、BET比表面積をS BET[m /g]とすると、B≦2.9×10 -2radであり、S BET≧245m /gであり、かつB/S BET≦1.07×10 -4g/m である酸化チタン。
[請求項2]
 四塩化チタン水溶液とα-ヒドロキシカルボン酸との混合溶液を、水で希釈することによって得られる請求項1に記載の酸化チタン。
[請求項3]
 700℃で2時間熱処理した後のBET比表面積をS BET2[m /g]とすると、15×10 -3≦S BET2/S BET≦1.0である請求項1または2に記載の酸化チタン。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]

[ 図 6]

[ 図 7]