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1. WO2016167343 - 容器用鋼板及び容器用鋼板の製造方法

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明 細 書

発明の名称 容器用鋼板及び容器用鋼板の製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005  

先行技術文献

特許文献

0006  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0007   0008   0009  

課題を解決するための手段

0010   0011   0012   0013   0014   0015   0016   0017   0018  

発明の効果

0019  

図面の簡単な説明

0020  

発明を実施するための形態

0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063  

実施例 1

0064   0065   0066  

実施例 2

0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078  

実施例 3

0079   0080   0081   0082   0083   0084   0085   0086   0087   0088   0089   0090   0091   0092   0093   0094   0095   0096   0097  

産業上の利用可能性

0098  

符号の説明

0099  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8  

図面

1   2  

明 細 書

発明の名称 : 容器用鋼板及び容器用鋼板の製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、容器用鋼板及び容器用鋼板の製造方法に関する。
 本願は、2015年4月16日に、日本に出願された特願2015-83984号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。

背景技術

[0002]
 飲料用又は食品用の容器として、Niめっき鋼板、Snめっき鋼板又はSn系合金めっき鋼板等のめっき鋼板を製缶した金属容器が多く用いられている。このような金属容器の表面に対して、製缶前又は製缶後に塗料が塗布される場合又はフィルムがラミネートされる場合がある。金属容器の表面処理に用いられる塗料及びフィルムをコーティング剤と総称する。
 コーティング剤の下地に用いられるめっき鋼板には、コーティング剤との密着性及び耐食性を確保するために、6価クロム酸塩等を用いた表面処理(以下、クロメート処理と呼称する)が施されることが多い(例えば、下記の特許文献1を参照。)。さらに、クロメート処理が施されためっき鋼板は、必要に応じて、耐有機溶剤性、耐指紋性、耐傷つき性又は潤滑性等を付与することを目的として、クロメート処理により形成された皮膜の上に、有機樹脂からなる被覆層が形成される。
[0003]
 しかしながら、最近では、クロメート処理に用いられる6価クロムが環境上有害であることから、めっき鋼板の表面処理をクロメート処理から他の表面処理に代替しようとする動きがある。
 例えば、下記の特許文献2及び特許文献3には、クロメート処理の代替となるめっき鋼板の表面処理として、Zrイオン及びFイオンを含む化成処理液を用いた陰極電解処理が開示されている。
[0004]
 下記の特許文献4には、リン酸イオンとTiイオン及びZrイオンの少なくともいずれか一方とを含む化成処理液を用いた陰極電解処理が開示されている。
 下記の特許文献5には、Zrイオン、Fイオン及びリン酸イオンを含有する化成処理液を用いた陰極電解処理が開示されている。
 下記の特許文献6には、Zrイオン及び有機物を含む化成処理液を用いた陰極電解処理が開示されている。
[0005]
 下記の特許文献7には、Zrイオン、リン酸イオン及び有機物を含む化成処理液を用いた陰極電解処理が開示されている。
 下記の特許文献8及び特許文献9には、Zrイオン、リン酸イオン及び硝酸イオンを含む化成処理液を用いた陰極電解処理が開示されている。特に、下記の特許文献9では、硝酸イオンを増加することにより、陰極電解処理により形成される皮膜(以下、化成処理皮膜層と呼称する)の形成を促進させる方法が開示されている。

先行技術文献

特許文献

[0006]
特許文献1 : 日本国特開2000-239855号公報
特許文献2 : 日本国特開2005-325402号公報
特許文献3 : 日本国特開2005-23422号公報
特許文献4 : 日本国特開昭54-68734号公報
特許文献5 : 日本国特開2006-9047号公報
特許文献6 : 日本国特開2008-50641号公報
特許文献7 : 日本国特開2009-1851号公報
特許文献8 : 日本国特開2009-84623号公報
特許文献9 : 国際公開第2011/118588号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0007]
 しかしながら、上記特許文献2~特許文献8に開示されている技術では、Zr化合物を含有する化成処理皮膜層の形成に長時間を要するため、好適な生産性が得られないという課題がある。上記特許文献9に開示されている技術を用いて化成処理皮膜層を短時間で形成するためには高濃度の硝酸イオンが必要であり、環境上好ましくないという課題がある。
[0008]
 また、食品用容器に用いる容器用鋼板は耐硫化黒変性を有することが必要であるが、上記特許文献2~特許文献9では、耐硫化黒変性を向上させるための方法が開示されていない。
 容器用鋼板を、例えば、魚肉又は豆類等の高蛋白質食品を内容物とする食品用容器に用いた場合には、食品充填後のレトルト処理(水蒸気存在下での高温加熱滅菌処理)により、容器内面と内容物との少なくとも一方がまれに黒色に変色する場合がある。このような黒変現象を硫化黒変という。
 食品中に含まれる硫黄(S)が、レトルト処理により熱分解して、硫化水素(H S)及びチオール類(HS )等が発生する。この硫化水素及びチオール類と、容器内面の構成金属とが反応を起こし、黒色の金属硫化物が生成するため、この硫化黒変が生じる。
 この硫化黒変が原因となり、容器の外観が悪くなる場合がある。さらに、発生した黒色の金属硫化物を、消費者が容器内面の金属腐食又は内容物の腐食と誤解する場合がある。そのため、特に食品用容器に用いる容器用鋼板では、硫化黒変を極力発生しないようにする必要がある。
[0009]
 本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、優れた生産性、環境性及び耐硫化黒変性を有する容器用鋼板及び容器用鋼板の製造方法を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

[0010]
 本発明は、上記課題を解決して、係る目的を達成するために以下の手段を採用する。
[0011]
(1)本発明の一態様に係る容器用鋼板は、鋼板と、前記鋼板の上層として設けられ、金属Sn量に換算して560~5600mg/m のSnを含有するSnめっき層と、前記Snめっき層の上層として設けられ、金属Zr量に換算して3.0~30.0mg/m のZr化合物と、金属Mg量に換算して0.50~5.00mg/m のMg化合物と、を含有する化成処理皮膜層と、を備える。
[0012]
(2)上記(1)に記載の容器用鋼板において、前記Snめっき層が、Fe-Sn合金を更に含有する構成を採用してもよい。
[0013]
(3)上記(1)又は(2)に記載の容器用鋼板において、前記化成処理皮膜層が、リン酸とリン酸塩との少なくとも一方を、P量に換算して合計で1.5~25.0mg/m 更に含有する構成を採用してもよい。
[0014]
(4)本発明の一態様に係る容器用鋼板の製造方法は、鋼板上に、Snを金属Sn量に換算して560~5600mg/m 含むSnめっき層を形成するめっき工程と、前記めっき工程後、100~3000ppmのZrイオン、120~4000ppmのFイオン及び50~300ppmのMgイオンを含む化成処理液を用いて陰極電解処理を行うことにより、前記Snめっき層上に化成処理皮膜層を形成する化成処理工程と、前記化成処理工程後、40℃以上の水を用いて前記Snめっき層及び前記化成処理皮膜層が形成された前記鋼板を0.5秒以上の洗浄処理を行う本洗浄工程と、を有する。
[0015]
(5)上記(4)に記載の容器用鋼板の製造方法において、前記Snめっき層が形成された前記鋼板に溶融溶錫処理を行い、前記Snめっき層の少なくとも一部のSnと前記鋼板中の少なくとも一部のFeとを合金化する構成を採用してもよい。
[0016]
(6)上記(4)又は(5)に記載の容器用鋼板の製造方法において、前記化成処理液が、2000ppm以下のリン酸イオンを更に含む構成を採用してもよい。
[0017]
(7)上記(4)~(6)のいずれか一態様に記載の容器用鋼板の製造方法において、前記化成処理液が、合計で20000ppm以下の硝酸イオン及びアンモニウムイオンを更に含む構成を採用してもよい。
[0018]
(8)上記(4)~(7)のいずれか一態様に記載の容器用鋼板の製造方法において、前記本洗浄工程の前に、10℃以上40℃未満の水を用いて前記Snめっき層及び前記化成処理皮膜層が形成された前記鋼板を0.5秒以上の洗浄処理を行う予備洗浄工程を更に有する構成を採用してもよい。

発明の効果

[0019]
 上記各態様によれば、優れた生産性、環境性及び耐硫化黒変性を有する容器用鋼板及び容器用鋼板の製造方法を提供することができる。

図面の簡単な説明

[0020]
[図1] 本実施形態に係る容器用鋼板の構成を示す模式図である。
[図2] 本実施形態に係る容器用鋼板の製造方法の流れを示すフローチャートである。

発明を実施するための形態

[0021]
 以下に、実施形態に係る容器用鋼板及び容器用鋼板の製造方法を、図面を参照して説明する。
(容器用鋼板)
 最初に、容器用鋼板10について説明する。
 図1は、本実施形態に係る容器用鋼板10の構成を示す模式図である。図1に示すように、容器用鋼板10は、母材として用いられる鋼板(原板)101と、鋼板101上に形成されたSnめっき103層と、Snめっき層103上に形成された化成処理皮膜層105と、を備える。
[0022]
 鋼板101は特に限定されず、通常、容器用鋼板として使用される公知の鋼板101を用いることができる。これらの公知の鋼板101の製造方法及び材質なども特に限定されない。通常の鋼片製造工程から熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、調質圧延等の公知の工程を経て製造された鋼板101を用いることができる。
[0023]
 容器用鋼板10では、鋼板101の上層として、Snを含むSnめっき層103が設けられる。本実施形態のSnめっき層103は、金属Sn量に換算して、片面当たり560~5600mg/m のSnを含有する。
 Snは優れた加工性、溶接性及び耐食性を有するが、これらの効果を発揮するためには、Snめっき層103のSn含有量が、金属Sn量に換算して片面当たり560mg/m 以上であることが必要である。
 Snめっき層103のSn含有量が増加するほど上記の効果は向上するが、Sn含有量が金属Sn量に換算して片面当たり5600mg/m 超過では、上記の効果は飽和する。従って、経済的な観点から、Snめっき層103のSn含有量を金属Sn量に換算して片面当たり5600mg/m 以下とする。
[0024]
 Snめっき層103のSn含有量は、好ましくは、金属Sn量に換算して片面当たり700~4500mg/m であり、より好ましくは、1200~4000mg/m である。
 Snめっき層103の形成後に溶融溶錫処理を行なうことにより、Snめっき層103の少なくとも一部が、鋼板中の少なくとも一部のFeとFe-Sn合金を形成する。これにより、耐食性及び表面の外観品質(鏡面仕上げ品質等)をより一層向上できる。
[0025]
 Snめっき層103は、鋼板101の両面に形成されていてもよく、製造コスト削減等の観点から鋼板101の一方の面のみに形成されていてもよい。一方の面にのみSnめっき層103が形成されている鋼板101を製缶加工する場合には、例えば、Snめっき層103が形成されている面が容器の内面となるように加工することが好ましい。
[0026]
 Snめっき層103のSn含有量は、例えば、蛍光X線法によって測定することができる。この場合、Sn含有量既知の試料を用いて、Sn含有量に関する検量線をあらかじめ作成しておき、この検量線を用いて相対的にSn含有量を測定する。
[0027]
 鋼板101の表面にSnめっき層103のみが形成されている場合(Snめっき層103の形成後に溶融溶錫処理が行われることにより、鋼板101の表面に合金Snめっき層が形成されている場合を含む)、コーティング剤によりSnめっき層103を表面処理しても、飲料又は食品等に含まれる硫黄が、コーティング剤を透過し、Snと結合し、黒色のSnS又はSnS 等を形成する場合がある。
 また、Snめっき層103に複数の微細な孔からなるめっき欠陥部位が存在する場合には、硫黄と鋼板101に含まれるFeとが結合し、黒色のFeS、Fe 、又はFe Sが形成される場合がある。本実施形態では、SnS、SnS 、FeS、Fe 、又はFe S等の黒色の化合物が形成される現象を、硫化黒変と呼称する。また、硫化黒変に対する耐性(特性)を、耐硫化黒変性と呼称する。
[0028]
 容器用鋼板10は、耐硫化黒変性を向上させるため、Snめっき層103の上層として化成処理皮膜層105を備える。
 化成処理皮膜層105は、金属Zr量に換算して3.0~30.0mg/m のZr化合物と、金属Mg量に換算して0.50~5.00mg/m のMg化合物とを含有する。
[0029]
 化成処理皮膜層105に含まれるZr化合物は、耐硫化黒変性、密着性及び加工性を向上させる機能を有する。
 本実施形態に係るZr化合物としては、例えば、酸化Zr、リン酸Zr、水酸化Zr及びフッ化Zr等(それぞれの水和物を含む)が挙げられ、化成処理皮膜層105は上述のZr化合物を複数含有する。
[0030]
 化成処理皮膜層105中のZr含有量が増加すると、容器用鋼板10の耐硫化黒変性、密着性及び加工性が向上する。具体的には、化成処理皮膜層105のZr含有量が、金属Zr量に換算して片面当たり3.0mg/m 以上の場合には、実用上好適な耐硫化黒変性が確保される。
 一方、Zr含有量が金属Zr量に換算して片面当たり30.0mg/m を超えると、化成処理皮膜層105が厚くなり過ぎ、化成処理皮膜層105自体の密着性が劣化し、耐硫化黒変性が低下する。また、Zr含有量が金属Zr量に換算して片面当たり30.0mg/m を超えると、化成処理皮膜層105の電気抵抗が上昇し、溶接性が低下する場合がある。
 従って、化成処理皮膜層105のZr含有量は、金属Zr量に換算して片面当たり3.0~30.0mg/m とする。Zr含有量の下限値は、好ましくは、金属Zr量に換算して片面当たり5.0mg/m 以上であり、より好ましくは、8.0mg/m 以上である。Zr含有量の上限値は、好ましくは、金属Zr量に換算して片面当たり20.0mg/m 以下であり、より好ましくは、15.0mg/m 以下である。
[0031]
 化成処理皮膜層105は、Zr化合物に加えてMg化合物を含有する。後述するように、化成処理皮膜層105を形成する際に用いる化成処理液はMgイオンを含有しており、化成処理液中のMgイオンは、Zr化合物と共にMg化合物として化成処理皮膜層105中に取り込まれる。化成処理皮膜層105中のMg化合物は、化成処理皮膜層105を形成した後に行われる洗浄工程で、部分的に化成処理皮膜層105から除去される場合があるが、残部は化成処理皮膜層105中に残存する。
 本発明者らは、化成処理皮膜層105がMg化合物を含有することにより、耐硫化黒変性が向上することを知見した。
[0032]
 化成処理皮膜層105に含まれるMg化合物の例としては、酸化Mg、水酸化Mg、フッ化Mg、リン酸Mg等(それぞれの水和物を含む)が挙げられ、化成処理皮膜層105は上述のMg化合物を複数含有してもよい。これらのMg化合物は、一般的に透明あるいは白色を有する。
 また、Mgイオンは、硫化黒変現象の主体であるチオールイオン(HS )又は硫化水素(H S)と結合し、透明あるいは白色の化合物を形成する。Mgイオンがチオールイオン又は硫化水素と結合することにより、Fe又はSnとチオールイオン又は硫化水素との結合を抑制することができる。
[0033]
 さらに、化成処理皮膜層105中のMg化合物は、チオールイオンおよび硫化水素が化成処理皮膜層105を透過することを抑制する。また、Mgイオンとチオールイオン又は硫化水素とが反応することにより生成された化合物も、チオールイオンおよび硫化水素が化成処理皮膜層105を透過することを抑制する。
 つまり、化成処理皮膜層105がMg化合物を含有することにより、Sn又はFeとチオールイオン又は硫化水素とが反応する可能性を低減することができるため、硫化黒変現象を抑制することができる。
[0034]
 上記のような耐硫化黒変性を確保するために、化成処理皮膜層105は、金属Mg量に換算して片面当たり0.50~5.00mg/m のMg化合物を含有する。
 化成処理皮膜層105中のMg含有量が、金属Mg量に換算して片面当たり0.50mg/m 以上であることで、実用上好適な耐硫化黒変性を有する。
 また、化成処理皮膜層105が、金属Mg量に換算して片面当たり5.00mg/m 超のMg化合物を含有するためには、化成処理液中にMg化合物を大量に添加する必要がある。化成処理液に大量のMg化合物が含まれると、化成処理皮膜層105の形成が好適に進行しない場合があるため好ましくない。また、化成処理皮膜層105が金属Mg量に換算して片面当たり5.00mg/m 超のMg化合物を含有することにより、コーティング剤との密着性(一次密着性)には影響が生じないが、レトルト処理などの水蒸気存在下高温殺菌処理時の密着性(二次密着性)、耐錆性又は塗膜下腐食性を劣化させる場合があるため好ましくない。さらに、化成処理皮膜層105が金属Mg量に換算して片面当たり5.00mg/m 超過のMg化合物を含有すると、容器用鋼板10を食品用容器に用いたとき、内容物の味又は風味を損ねる場合があるため、好ましくない。
[0035]
 化成処理皮膜層105のMg化合物の含有量の下限値は、好ましくは金属Mg量に換算して片面当たり0.80mg/m であり、より好ましくは1.00mg/m である。一方、化成処理皮膜層105のMg化合物の含有量の上限値は、好ましくは金属Mg量に換算して片面当たり4.00mg/m であり、より好ましくは3.00mg/m である。
[0036]
 化成処理皮膜層105中のZr化合物量又はMg化合物量は、例えば蛍光X線分析等の定量分析法によって定量される化成処理皮膜層105中の金属Zr又は金属Mgの総含有量であって、後述する洗浄工程後に化成処理皮膜層105に残存するZr化合物又はMg化合物の含有量を意味する。
 なお、Snめっき層103がMgを含有する場合には、化成処理工程を行う前のSnめっき層103のMg化合物量を測定した上で、化成処理工程を行った後の容器用鋼板10のMg化合物量を測定し、両者の差分から、化成処理皮膜層105中のMg化合物量を測定することができる。
[0037]
 化成処理皮膜層105は、Zr化合物及びMg化合物の他にリン酸とリン酸塩との少なくとも一方を含有してもよい。化成処理皮膜層105に含まれるリン酸塩の例としては、リン酸Zrおよびリン酸Mg(それぞれの水和物を含む)が挙げられる。化成処理皮膜層105は、リン酸とリン酸塩とから構成される化合物のうち、複数の化合物を含有してもよい。
 化成処理皮膜層105がリン酸とリン酸塩との少なくとも一方を含有することにより、優れた耐硫化黒変性及び密着性を得ることができる。リン酸とリン酸塩との合計の含有量が、P量に換算して片面当たり1.5mg/m 以上であれば、実用上好適な耐硫化黒変性及び密着性を得ることができる。
 リン酸とリン酸塩との合計含有量が増加すると、耐硫化黒変性及び密着性も向上するが、リン酸とリン酸塩との合計の含有量がP量に換算して片面当たり25.0mg/m を超えると、化成処理皮膜層105におけるリン酸又はリン酸塩の密着性が劣化することにより、コーティング剤との密着性及び塗膜下腐食性が低下するため好ましくない。また、リン酸とリン酸塩との合計含有量がP量に換算して片面当たり25.0mg/m を超えると、電気抵抗が上昇し溶接性が劣化するため好ましくない。
[0038]
 従って、化成処理皮膜層105は、リン酸とリン酸塩とを合計で、P量に換算して片面当たり1.5~25.0mg/m 含有することが好ましい。
 リン酸とリン酸塩との合計の含有量の下限値は、より好ましくは、P量に換算して片面当たり2.5mg/m であり、更に好ましくは、5.0mg/m である。
 リン酸とリン酸塩との合計含有量の上限値は、より好ましくは、P量に換算して片面当たり20.0mg/m であり、更に好ましくは、12.5mg/m である。
[0039]
 化成処理皮膜層105が含有するリン酸とリン酸塩との合計量は、洗浄工程を行った後の化成処理皮膜層105に含まれるP量を、例えば、蛍光X線分析等の定量分析法により定量することが可能である。
[0040]
 [容器用鋼板10の製造方法]
 次に、容器用鋼板10の製造方法について、図2を参照して説明する。
 図2は、本実施形態に係る容器用鋼板10の製造方法を示すフローチャートである。図2に示すように、容器用鋼板10の製造方法は、めっき工程、化成処理工程及び洗浄工程を有する。
[0041]
 [めっき工程]
 まず、鋼板101の表面にSnめっきを施し、Snめっき層103を形成する(ステップS101)。Snめっきの方法は、特に限定されず、電気めっき法、真空蒸着法又はスパッタリング法などの公知技術を用いることができる。Snめっき浴としては、フェロスタン浴等を用いることができる。
 上述したように、めっき工程後に溶融溶錫処理を行ってもよい。
[0042]
 [化成処理工程]
 次に、化成処理工程を行い、Snめっき層103の上層に、化成処理皮膜層105を形成する(ステップS103)。
 化成処理工程では、化成処理液を用いた陰極電解処理を行う。
[0043]
 化成処理皮膜層105の形成方法として浸漬処理法を用いた場合には、下地をエッチングするため化成処理皮膜層105の付着が不均一になること、及び、化成処理工程の時間が長くなることから、工業生産的に好ましくない。
 一方、陰極電解処理では、強制的な電荷移動及び鋼板101と化成処理液との界面における水素発生により、形成される化成処理皮膜層105の表面が清浄化されるため好ましい。また、陰極電解処理では、化成処理液のpHが上昇することにより、化成処理皮膜層105の付着が促進されるため好ましい。
[0044]
 陰極電解処理の条件は特に限定されないが、例えば、10℃~60℃の化成処理液の温度、0.1~20.0A/dm の電流密度及び0.01~30秒の処理時間の条件下で行うことができる。
 化成処理液のpHは、3.0~4.5の範囲が好ましく、pHを下げる場合には硝酸又はフッ化水素酸等を添加し、pHを上げる場合にはアンモニア等を添加することにより適宜調整すればよい。
[0045]
 化成処理工程で用いる化成処理液は、100~3000ppmのZrイオンを含有する。化成処理液中のZrイオンは、Zr化合物として化成処理皮膜層105中に取り込まれる。
 化成処理液中のZrイオンの下限値は、好ましくは500ppmであり、より好ましくは1000ppmである。化成処理液中のZrイオンの上限値は、好ましくは2500ppmであり、より好ましくは2000ppmである。
[0046]
 化成処理液は、120~4000ppmのFイオンを含有する。FイオンはZrイオンと錯イオンを形成することにより、化成処理液中のZrイオンを安定化させる役割を持つ。
 なお、化成処理液中のFイオンもZrイオンと同様に化成処理皮膜層105中に取り込まれるが、化成処理皮膜層105中のF化合物は後述する洗浄工程によりできるだけ取り除くことが好ましい。
[0047]
 化成処理液は、50~300ppmのMgイオンを含有する。
 化成処理液がMgイオンを含有することにより、化成処理皮膜層105にMg化合物が含まれ、耐硫化黒変性が向上するため好ましい。さらに、Mgイオンは、Zrイオンの析出を促進することができる。具体的には、化成処理液がMgイオンを含有する場合と含有しない場合とで、化成処理工程により形成される化成処理皮膜層105中のZr化合物量を比較した場合に、Mgイオンを含有する場合の方がより多く化成処理皮膜層105中にZr化合物量が含まれる。
[0048]
 MgイオンによるZrの析出促進効果の原因は、以下のように考えられる。
[0049]
[化1]


[0050]
 Zrイオン及びFイオンを含む溶液では、上記の式(1)に示すように、ZrイオンはFイオンと共に[ZrF 2-等の錯イオンの状態で安定に存在している。陰極電解処理では、強制的な電荷移動及び鋼板101と電解処理溶液との界面での水素発生により、pHが上昇する。pHが上昇することにより、上述の錯イオンが加水分解され、上記の式(1)に示すようにZrイオンとFイオンとなり、その後Zr化合物を含む化成処理皮膜層105が析出する。
 上記の式(1)の反応は平衡(可逆)反応であるが、化成処理液中のFイオンが増加することにより、上記の式(1)の右向きの反応(錯イオンが分解する反応)が、著しく阻害される。
[0051]
 MgイオンはFイオンのスカベンジャーとして機能するため、Fイオンによる上記の式(1)の右向きの反応の阻害効果を低減する。すなわち、Fイオンは、Mgイオンを存在させることにより、「柔らかなイオン的相互作用」により水溶性の[F …Mg 2+…F ]を形成し、[F …Mg 2+…F ]の析出部位近傍のFイオン濃度を低減させ、上記の式(1)の右向きの反応の阻害効果を低減すると考えられる。なお、[F …Mg 2+…F ]の析出部位から離れた場所で、[F …Mg 2+…F ]がFイオン及びMgイオンへと解離するように、化成処理液中に添加するMgイオン濃度を調製することが好ましい。
 上述のように、化成処理液がMgイオンを含有することにより、Zrの析出が促進される。そのため、本実施形態に係る容器用鋼板10の製造方法は、化成処理工程に要する時間を短縮することができ、優れた生産性を有する。
[0052]
 化成処理液に添加するMgイオン濃度は、50~300ppmが好ましい。Mgイオン濃度が50ppm未満であると、Zrの析出促進効果を発揮するには不十分である。一方、Mgイオン濃度が300ppm超であると、難溶性のMgF を形成し易くなるため、好ましくない。
 化成処理液に添加されるMgイオン濃度は、より好ましくは、100~200ppmである。
 なお、Mgイオンは、硝酸Mg又は硫酸Mg等の易水溶性の塩で添加することが好ましい。
[0053]
 化成処理液は、2000ppm以下のリン酸イオンを含有してもよい。
 化成処理液がリン酸イオンを含有することにより、化成処理皮膜層105がリン酸又はリン酸塩を含有し、耐硫化黒変性及び密着性が向上するため好ましい。
[0054]
 化成処理液は、合計で20000ppm以下の硝酸イオンとアンモニウムイオンとを含有してもよい。化成処理液が硝酸イオン及びアンモニウムイオンを含むことにより、化成処理工程に要する時間を短くすることができ、生産性が向上するため好ましい。
 なお、化成処理液は、硝酸イオンとアンモニウムイオンとのいずれか一方ではなく、硝酸イオンとアンモニウムイオンとの両方を含むことが好ましい。その理由は以下の通りである。
 Zrを含有する化成処理皮膜層105を形成する際には、まず、下記の式(2)の反応により、陰極においてH が発生し、pHが上昇する。
[0055]
 2H O+4e →H ↑+2OH ・・・(2)
[0056]
 上記の式(2)の反応に伴い、Zr 4+、PO 3-がZrO 、Zr (PO 等として析出し、化成処理皮膜層105を形成する。この皮膜形成反応において、硝酸イオンが存在すると下記の式(3)及び式(4)に示す右向きの反応によりpH上昇が促進され、結果として皮膜形成が促進される。また、下記の式(3)及び式(4)に示す反応により、攪拌作用により皮膜形成を阻害するH の発生が抑制される。これにより、化成処理工程に要する時間を短くすることができる。また、アンモニウムイオンは、硝酸イオンによる上述の効果を促進する働きがあると考えられる。
 なお、化成処理液がMgイオン、硝酸イオン及びアンモニウムイオンを含有することにより上述の好適な効果を有する点は、本発明により初めて明らかになった。
[0057]
[化2]


[0058]
 耐硫化黒変性等の特性をさらに向上させるために、例えば、まず第一化成処理液を用いた陰極電解処理を行ってSnめっき層103側に化成処理皮膜層105の第一層(不図示)を形成し、続いて、第二化成処理液を用いた陰極電解処理を行うことにより、化成処理皮膜層105の第一層の上部に化成処理皮膜層105の第二層(不図示)を形成させてもよい。
 なお、第一化成処理液と第二化成処理液とは同一の成分を含有し、温度だけが異なる。第一化成処理液の温度の例としては10℃以上40℃未満が挙げられ、第二化成処理液の温度の例としては45℃~60℃が挙げられる。
 化成処理皮膜層105の第一層は、緻密な層であるため、耐硫化黒変性等の特性の確保に好適である。化成処理皮膜層105の第二層は、粗度の粗い表面を有するので、化成処理皮膜層105とコーティング剤との密着性の確保に好適である。
[0059]
 [洗浄工程]
 Fイオン、硝酸イオン及びアンモニウムイオン等の水溶性イオン種は化成処理液中に含まれるため、Zr化合物と共に化成処理皮膜層105に取り込まれる。化成処理皮膜層105中の上記イオン種は、コーティング剤との密着性(一次密着性)には影響を及ぼさないが、二次密着性、耐錆性又は塗膜下腐食性を劣化させる原因となる。これは、水蒸気や腐食液に化成処理皮膜層105中の上記イオン種が溶出し、化成処理皮膜層105とコーティング剤との結合を分解、或いは、鋼板101を腐食することが原因と考えられる。
 そのため、本実施形態では、化成処理工程を行った後、少なくとも、40℃以上の水で0.5秒以上の洗浄処理(以下、本洗浄工程と呼称する)を行う(ステップS107)。なお、本洗浄工程で用いる水の温度の上限は特に限定されないが、例えば90~100℃である。また、本洗浄工程の洗浄時間の上限も特に限定されないが、例えば10秒である。
[0060]
 Fイオン、硝酸イオン及びアンモニウムイオン等の水溶性イオン種を化成処理皮膜層105から更に除去するためには、化成処理工程を行った後、本洗浄工程を行う前に、10℃以上40℃未満の水で0.5秒以上の洗浄処理(以下、予備洗浄工程と呼称する)を行うことが好ましい(ステップS105)。予備洗浄工程の洗浄時間の上限は特に限定されないが、例えば20秒である。
 予備洗浄工程及び本洗浄工程の洗浄方法としては、浸漬処理又はスプレー処理が挙げられる。
[0061]
 予備洗浄工程により低温で溶出するイオン種を除去し、本洗浄工程により高温で溶出するイオン種を除去する。予備洗浄工程及び本洗浄工程の処理時間を長くすることにより、上記除去効果が向上する。なお、本洗浄工程に用いる洗浄液は、温度が高いほど除去効果が向上する。
 それぞれの処理時間が0.5秒を下回ると、上記イオン種を減少させることが難しい。
[0062]
 Fイオン、硝酸イオン及びアンモニウムイオン等は、洗浄工程によって可能な限り化成処理皮膜層105から除去することが好ましいが、全て除去できずに、不可避的に残存する場合があってもよい。
[0063]
 本実施形態の容器用鋼板の製造方法では、高濃度の硝酸イオンを用いないため、環境上好適である。
実施例 1
[0064]
 以下に本発明の実施例及び比較例について述べる。なお、以下に示す実施例は、本発明の実施形態に係る容器用鋼板及び容器用鋼板の製造方法の一例にすぎず、本発明の実施形態に係る容器用鋼板及び容器用鋼板の製造方法は、以下に示す実施例に限定されない。
[0065]
 MgイオンによるZrの析出促進効果を調べるため、化成処理工程におけるMgイオン濃度以外の条件を同じ条件とし、Mgイオン濃度を変化させ、形成された化成処理皮膜層のZr化合物量を調べた。結果を表1に示す。
 なお、表1の処理液1-1~3-2はいずれも同じ温度及びpHであり、同じ電流密度及び処理時間の条件下で陰極電解処理が施されている。表1に示されているように、Mgイオンを添加することにより、形成される化成処理皮膜層のZr含有量が増加しており、MgイオンはZrの析出促進効果を有することが示された。
[0066]
[表1]


実施例 2
[0067]
 表2に示すSnめっき層及び化成処理皮膜層を有する化成処理鋼板を用いて試験材を作製し、以下の(A)~(H)の項目について性能評価を行った。評価結果を表3に示す。
[0068]
(A)耐硫化黒変性
 試験材を60mm×60mmLの大きさに切り出し、5mmの長さで端部(剪断によって鋼板端面が露出した部分)をテープでマスキングした。1質量%Na S水溶液(乳酸でpH=7に調整)に浸漬し、125℃の温度下でレトルト処理を60分間施した。レトルト処理後の各試験材の外観を目視で評価した。
 具体的には、クロメート処理材より良好な結果であった場合を「Very Good」、クロメート処理材より若干良好な結果であった場合を「Good」、クロメート処理材と同等の変色があった場合を「Average」、クロメート処理材より若干変色度合いが大きかった場合を「Fair」、クロメート処理材より変色度合いが大きかった場合を「Poor」と評価した。
[0069]
(B)加工性
 試験材の両面に、厚さ20μmのPETフィルムを200℃の温度下で貼り付け、絞り加工及びしごき加工による製缶加工を段階的に行った。フィルムの疵、浮き及び剥離を観察し、それらの面積率から加工性を評価した。
 具体的には、フィルムの疵、浮き及び剥離が全く観察されなかった場合を「Very Good」、フィルムの疵、浮き及び剥離の面積率が0%超0.5%以下であった場合を「Good」、フィルムの疵、浮き及び剥離の面積率が0.5%超15%以下であった場合を「Fair」、フィルムの疵、浮き及び剥離の面積率が15%超又は破断し加工不能であった場合を「Poor」と評価した。
 なお、面積率は、フィルムの疵、浮き及び剥離が観察された部分の面積を、貼り付けたPETフィルムの全体の面積で除することにより求めた。
[0070]
(C)溶接性
 ワイヤーシーム溶接機を用いて、溶接ワイヤースピード80m/minの条件で、電流を変更して試験材を溶接した。十分な溶接強度が得られる最小電流値とチリ及び溶接スパッタなどの溶接欠陥が目立ち始める最大電流値とからなる適正電流範囲から総合的に判断し、溶接性を評価した。
 具体的には、二次側の適正電流範囲が1500A以上の場合を「Very Good」、二次側の電流適正電流範囲が800A以上1500A未満の場合を「Good」、二次側の電流適正電流範囲が100A以上800A未満の場合を「Fair」、二次側の電流適正電流範囲が100A未満の場合を「Poor」と評価した。
[0071]
(D)フィルム密着性
 試験材の両面に、厚さ20μmのPETフィルムを200℃の温度下で焼付け、絞りしごき加工を行い、缶体を作製した。125℃の温度下でレトルト処理を30分間行い、フィルムの剥離状況を観察し、剥離面積率からフィルム密着性を評価した。
 具体的には、剥離面積率が0%の場合を「Very Good」、剥離面積率が0%超2%以下の場合を「Good」、剥離面積率が2%超10%以下の場合を「Fair」、剥離面積率が10%超の場合を「Poor」と評価した。
[0072]
(E)一次塗料密着性
 試験材にエポキシ-フェノール樹脂を塗布し、200℃の温度下で焼付け処理を30分間行った。1mm間隔で地鉄に達する深さの格子状の切れ目を入れ、テープで剥離した。剥離状況を観察し、剥離面積率から一次塗料密着性を評価した。
 具体的には、剥離面積率が0%の場合を「Very Good」、剥離面積率が0%超5%以下の場合を「Good」、剥離面積率が5%超30%以下の場合を「Fair」、剥離面積率が30%超の場合を「Poor」と評価した。
[0073]
(F)二次塗料密着性
 試験材にエポキシ-フェノール樹脂を塗布し、200℃の温度下で焼付け処理を30分間行った。1mm間隔で地鉄に達する深さの格子状の切れ目を入れ、その後、125℃の温度下でレトルト処理を30分間行った。乾燥後、テープで塗膜を剥離し、剥離状況を観察し、剥離面積率から二次塗料密着性を評価した。
 具体的には、剥離面積率が0%の場合を「Very Good」、剥離面積率が0%超5%以下の場合を「Good」、剥離面積率が5%超30%以下の場合を「Fair」、剥離面積率が30%超の場合を「Poor」と評価した。
[0074]
(G)塗膜下耐食性
 試験材にエポキシ-フェノール樹脂を塗布し、200℃の温度下で焼付け処理を30分間行った。その後、地鉄に達する深さの格子状の切れ目を入れ、1.5%クエン酸-1.5%食塩混合液からなる試験液に、45℃の温度下で72時間浸漬した。洗浄及び乾燥後、テープ剥離を行った。切れ目を入れた部分の塗膜下腐食状況と平板部の腐食状況とを観察し、塗膜下腐食の幅及び平板部の腐食面積率の評価から、塗膜下耐食性を評価した。
 具体的には、塗膜下腐食幅が0.2mm未満かつ平板部の腐食面積率が0%の場合を「Very Good」、塗膜下腐食幅が0.2mm以上0.3mm未満かつ平板部の腐食面積率が0%超1%以下の場合を「Good」、塗膜下腐食幅が0.3mm以上0.45mm未満かつ平板部の腐食面積率が1%超5%以下の場合を「Fair」、塗膜下腐食幅が0.45mm以上又は平板部の腐食面積率が5%超の場合を「Poor」と評価した。
[0075]
(H)レトルト耐錆性
 試験材を125℃の温度下でレトルト処理を30分間行った。その後、錆の発生状況を観察し、錆発生面積率からレトルト耐錆性を評価した。
 具体的には、錆発生面積率が0%の場合を「Very Good」、錆発生面積率が0%超1%以下の場合を「Good」、錆発生面積率が1%超5%以下の場合を「Fair」、錆発生面積率が5%超の場合を「Poor」と評価した。
[0076]
[表2]


[0077]
[表3]


[0078]
 表3に示されているように、本発明例A1~A20は、いずれの特性評価においても「Good」以上の評価となっており、好適な特性を有していた。一方、比較例a1~a6は、いずれかの特性が「Poor」と評価されており、本発明例よりも特性が劣っていた。
実施例 3
[0079]
 下記の方法で化成処理鋼板を製造した。製造条件を表4に示す。
<Snめっき鋼板>
 以下の(処理法1)又は(処理法2)の方法を用いて、板厚0.17~0.23mmの鋼板上にSnめっき層を形成し、Snめっき鋼板を作製した。
[0080]
 (処理法1)
 冷間圧延後、焼鈍及び調圧された鋼板を、脱脂及び酸洗した後、その両面に、フェロスタン浴を用いてSnめっき層を形成し、Snめっき鋼板を作製した。
 (処理法2)
 冷間圧延後、焼鈍及び調圧された鋼板を、脱脂及び酸洗した後、その両面に、フェロスタン浴を用いてSnめっき層を形成した。その後、リフロー処理(溶融溶錫処理)を行い、Sn合金層を有するSnめっき鋼板を作製した。
[0081]
<化成処理工程>
 上記の(処理法1)又は(処理法2)の方法で作製したSnめっき鋼板に対して、以下の(処理法3)~(処理法7)のいずれかの方法を施すことによりSnめっき鋼板の表面にZr化合物及びMg化合物を含む化成処理皮膜層を形成した。なお、処理法3~6では、0.5~30.0A/dm の電流密度、0.5~5.0秒の陰極電解処理時間及び10~60℃の化成処理液の温度の条件下で陰極電解処理を行った。また、処理法7では、温度が60℃でありpHが3.5である化成処理液に180秒の浸漬時間浸漬した。
[0082]
 (処理法3)
 フッ化Zrを溶解させ、硝酸Mgを添加した化成処理液を用いて陰極電解処理を行うことにより、化成処理皮膜層を形成した。
[0083]
(処理法4)フッ化Zr及びリン酸を溶解させ、硝酸Mgを添加した化成処理液を用いて陰極電解処理を行うことにより、化成処理皮膜層を形成した。
[0084]
(処理法5)フッ化Zr及び硝酸アンモンを溶解させ、硝酸Mgを添加した化成処理液を用いて陰極電解処理を行うことにより、化成処理皮膜層を形成した。
[0085]
(処理法6)フッ化Zr、リン酸及び硝酸アンモンを溶解させ、硝酸Mgを添加した化成処理液を用いて陰極電解処理を行うことにより、化成処理皮膜層を形成した。
[0086]
(処理法7)フッ化Zrを溶解させ、硝酸Mgを添加した化成処理液を用いて浸漬処理を行うことにより、化成処理皮膜層を形成した。
[0087]
<洗浄工程>
 上記の処理により化成処理皮膜層を形成した後、鋼板を10℃以上40℃未満の蒸留水中に0.5秒~5.0秒浸漬することにより予備洗浄を行った。
 予備洗浄を行った後、表4に示す温度の蒸留水に表4に示す時間鋼板を浸漬することにより本洗浄を行った。
[0088]
<付着量測定>
 めっき層中の金属Sn量は蛍光X線法によって測定した。また、化成処理皮膜層のZr含有量、Mg含有量及びリン酸又はリン酸塩の含有量(P量に換算)は、蛍光X線分析等の定量分析法により測定した。
 測定結果を表5に示す。
[0089]
<性能評価>
 上記の処理を行った試験材について、実施例2に挙げた(A)~(H)の項目と、以下に記載する(I)の項目について性能評価を行った。評価結果を表6に示す。
[0090]
(I)Mgイオン添加によるZr付着促進効果
 各試験材を作製する際に用いた化成処理液からMgイオンを除去した化成処理液を用い、それ以外の条件は各試験材と同様の条件により容器用鋼板(以下、Mg非含有容器用鋼板と呼称する)を作製した。その後、Mg非含有容器用鋼板のZr含有量を測定した。
 各試験材のZr含有量を、Mg非含有容器用鋼板のZr含有量で除算した比率(以下、Zr付着促進率と呼称する)により、Mgイオン添加によるZr付着促進効果を評価した。具体的には、Zr付着促進率が1.3以上の場合を「Very Good」、1.3未満~1.2以上の場合を「Good」、1.2未満~1.1以上の場合を「Fair」、1.1未満の場合を「Poor」と評価した。
[0091]
[表4]


[0092]
[表5]


[0093]
[表6]


[0094]
 本発明例B1~B26は、いずれも、Mgイオン添加によるZr付着促進効果を有するとともに、優れた耐硫化黒変性、加工性、溶接性、フィルム密着性、一次塗料密着性、二次塗料密着性、塗膜下腐食性及び耐食性を有していた。
 更に、化成処理皮膜層がP量として1.5mg/m 以上のリン酸又はリン酸塩を含有することにより、フィルム密着性(加工性を含む)及び塗膜下腐食性が更に向上した。
 一方、比較例b1~b8では、Zr付着促進効果を有さないと共に、耐硫化黒変性、溶接性、加工性、溶接性、フィルム密着性、一次塗料密着性、二次塗料密着性、塗膜下腐食性及び耐食性の少なくとも一部の特性が劣っていた。
[0095]
 なお、比較例b1及びb4では、化成処理液中のFイオン量が少なく、Zr 4+イオンが(ZrF 2-等の錯イオンとして処理液中に溶解状態で安定して存在できず、ZrO 等の形態で不溶物として処理液中に析出し、Mgイオンを含有する場合でも、化成処理皮膜層中のZr化合物量が少なかった。そのため、MgイオンによるZrの析出促進効果が好適ではなかったと考えられる。
 比較例b2及びb3では、化成処理液中のFイオン量が過剰に存在していたため、MgイオンがFイオンのスカベンジャーとしての機能を十分に発揮できず、MgイオンによるZrの析出促進効果が好適ではなかったと考えられる。
 比較例b5では、化成処理液中のMgイオン量が不足していたため、MgイオンによるZrの析出促進効果が好適ではなかったと考えられる。逆に、Fイオンが多い場合には、(ZrF 2-等の錯イオンが過剰に安定化する事で皮膜形成を困難にする。)
[0096]
 比較例b6では、化成処理液中のMgイオン量が過剰であったため、難溶性のMgF が形成され、Mgイオンがスカベンジャーとして十分に機能せず、MgイオンによるZrの析出促進効果が好適ではなかったと考えられる。
 比較例b8は陰極電解処理ではなく浸漬処理を用いており、化成処理液がMgイオンを含む場合であっても化成処理皮膜層中のZr化合物量が少なかった。そのため、MgイオンによるZrの析出促進効果が好適ではなかったと考えられる。
[0097]
 以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

産業上の利用可能性

[0098]
 上記一実施形態によれば、優れた生産性、環境性及び耐硫化黒変性を有する容器用鋼板及び容器用鋼板の製造方法を提供することができる。

符号の説明

[0099]
 10  容器用鋼板
 101 鋼板
 103 Snめっき層
 105 化成処理皮膜層

請求の範囲

[請求項1]
 鋼板と;
 前記鋼板の上層として設けられ、金属Sn量に換算して560~5600mg/m のSnを含有するSnめっき層と;
 前記Snめっき層の上層として設けられ、金属Zr量に換算して3.0~30.0mg/m のZr化合物と、金属Mg量に換算して0.50~5.00mg/m のMg化合物と、を含有する化成処理皮膜層と;
を備える
ことを特徴とする、容器用鋼板。
[請求項2]
 前記Snめっき層が、Fe-Sn合金を更に含有する
ことを特徴とする、請求項1に記載の容器用鋼板。
[請求項3]
 前記化成処理皮膜層が、リン酸とリン酸塩との少なくとも一方を、P量に換算して合計で1.5~25.0mg/m 更に含有する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の容器用鋼板。
[請求項4]
 鋼板上に、Snを金属Sn量に換算して560~5600mg/m 含むSnめっき層を形成するめっき工程と;
 前記めっき工程後、100~3000ppmのZrイオン、120~4000ppmのFイオン及び50~300ppmのMgイオンを含む化成処理液を用いて陰極電解処理を行うことにより、前記Snめっき層上に化成処理皮膜層を形成する化成処理工程と;
 前記化成処理工程後、40℃以上の水を用いて前記Snめっき層及び前記化成処理皮膜層が形成された前記鋼板を0.5秒以上の洗浄処理を行う本洗浄工程と;
を有する
ことを特徴とする、容器用鋼板の製造方法。
[請求項5]
 前記Snめっき層が形成された前記鋼板に溶融溶錫処理を行い、前記Snめっき層の少なくとも一部のSnと前記鋼板中の少なくとも一部のFeとを合金化する
ことを特徴とする、請求項4に記載の容器用鋼板の製造方法。
[請求項6]
 前記化成処理液が、2000ppm以下のリン酸イオンを更に含む
ことを特徴とする、請求項4又は5に記載の容器用鋼板の製造方法。
[請求項7]
 前記化成処理液が、合計で20000ppm以下の硝酸イオン及びアンモニウムイオンを更に含む
ことを特徴とする、請求項4~6のいずれか一項に記載の容器用鋼板の製造方法。
[請求項8]
 前記本洗浄工程の前に、10℃以上40℃未満の水を用いて前記Snめっき層及び前記化成処理皮膜層が形成された前記鋼板を0.5秒以上の洗浄処理を行う予備洗浄工程を更に有する
ことを特徴とする、請求項4~7のいずれか一項に記載の容器用鋼板の製造方法。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]