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1. WO2013122140 - 抗がん剤の作用を増強する医薬組成物、がん治療用キット、診断薬、及びスクリーニング方法

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明 細 書

発明の名称 抗がん剤の作用を増強する医薬組成物、がん治療用キット、診断薬、及びスクリーニング方法

技術分野

0001  

背景技術

0002  

先行技術文献

特許文献

0003  

非特許文献

0004  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0005  

課題を解決するための手段

0006  

発明の効果

0007  

図面の簡単な説明

0008  

発明を実施するための形態

0009   0010   0011   0012   0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036  

実施例

0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10   11   12  

図面

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10  

明 細 書

発明の名称 : 抗がん剤の作用を増強する医薬組成物、がん治療用キット、診断薬、及びスクリーニング方法

技術分野

[0001]
 本発明は、抗がん剤の作用を増強するために抗がん剤と併用投与する医薬組成物等に関する。

背景技術

[0002]
 がんの化学療法の大きな障害の一つは、静止状態のがん細胞に抗がん剤が効かないことである。抗がん剤は、分裂している細胞又は分裂サイクルに入っている細胞のみ攻撃し、静止状態の細胞には作用しないものが多いが、一部のがん細胞は、抗がん剤処理で細胞周期のチェックポイント制御機構が作動し、静止状態に入ることが知られており、これによって抗がん剤の効果が低下する。
 一方、近年、がんの組織中に、「がん幹細胞」と呼ばれる細胞集団が存在することが明らかになってきた。がん幹細胞についてはこれまで、転移能を有すること(正常組織幹細胞のように留まらない)、分化能を有すること(末端分化はしなくとも、more differentiated derivativesを産生する)、可塑性(がん娘細胞からがん幹細胞への逆分化:Stemness induction)を有しうること、腫瘍形成能が強いこと、抗がん剤耐性を有すること、栄養飢餓・酸素欠乏に強いことなどが報告されている(非特許文献1、2)。
 この中で、抗がん剤耐性については、腫瘍血管の不足に加え、がん幹細胞の多くが細胞周期の休止期(G0期)またはG1期で停止状態にあること、つまり静止状態にあること及び薬剤排出能をもつABC(ATP-binding cassette)トランスポーターが高発現していることが原因とされている。がん幹細胞を標的とした治療を行うためには、がん幹細胞特異的な抗体を使用する方法も考えられるが、抗体医薬は依然として患者の経済的負担が大きい。
 また、慢性骨髄性白血病において、亜ヒ酸はがん抑制遺伝子PMLの発現を抑制することによって静止状態の白血病幹細胞の再増殖を促し、抗がん剤の効果を高めたことが報告されている(非特許文献3)。しかしながら、固形腫瘍において同様の効果が得られたとの確固な報告はない。

先行技術文献

特許文献

[0003]
特許文献1 : 特表2009-533482号公報

非特許文献

[0004]
非特許文献1 : Gupta, PB. et al., Nature med, 2009 September 15: 1010-1012
非特許文献2 : Ishii, H. et al., Cancer Sci, 2008 October 99: 1871-1877
非特許文献3 : Ito, K. et al., Nature, 2008 June 19: 1072-1078

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0005]
 上述のとおり、がんの中には抗がん剤による効果が十分に得られないものがある。
 本発明は、これまで抗がん剤により化学療法の効果が十分に得られなかったがんにおいて、抗がん剤の作用を増強する医薬組成物を提供すること等を課題とする。

課題を解決するための手段

[0006]
 本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ね、抗がん剤処理されたがん幹細胞やその娘細胞において、細胞の増殖を抑制する因子の機能を阻害すれば、細胞が分裂サイクルに入り、抗がん剤の効果が発揮されるとの仮説を立てた。
 そして、腹膜再発の頻度が高い低分化型胃癌に由来するがん幹細胞の網羅的な遺伝子発現プロファイルを解析したところ、がん幹細胞およびその娘細胞において発現し、且つ細胞増殖を抑制する受容体としてオピオイド増殖因子(Opioid growth factor:OGF、メチオニン-エンケファリン)受容体をコードするOGFR遺伝子及びそのファミリーであるOGFRL1を同定した。そこで、これらの受容体の拮抗剤であるメチルナルトレキソンと既存の抗がん剤を併用投与したところ、仮説のとおり抗がん剤の作用が増強されることをin vitro及びin vivoにおいて確認した。
 さらに、びまん性/低分化型のがんでは、OGFをコードするPENK遺伝子の発現が亢進していること、オピオイドアンタゴニストと抗がん剤との併用は、びまん性/低分化型のがんにおいては抗がん剤の効果を増強するが、非びまん性/分化型のがんでは増強しないことを確認し、本発明を完成するに至った。
 すなわち、本発明は、
〔1〕抗がん剤の作用を増強するために抗がん剤と併用投与される、オピオイドアンタゴニストを含む医薬組成物;
〔2〕抗がん剤とオピオイドアンタゴニストとを含む医薬組成物;
〔3〕前記オピオイドアンタゴニストがOGF受容体アンタゴニストである、上記〔1〕又は〔2〕に記載の医薬組成物;
〔4〕前記OGF受容体アンタゴニストがOGFRアンタゴニストである、上記〔3〕に記載の医薬組成物;
〔5〕前記オピオイドアンタゴニストが、メチルナルトレキソン、ナルトレキソン、ナロキソン、及びメチルナロキソンからなる群より選択される、上記〔1〕から〔4〕のいずれか1項に記載の医薬組成物;
〔6〕以下の(1)~(4)の少なくとも1つの特徴を有するがんの治療に用いられる、請求項1から5のいずれか1項に記載の医薬組成物:
(1)静止状態のがん細胞が多いがん;
(2)びまん性に浸潤するがん;
(3)がん幹細胞を高い比率で含むがん、又は低分化型がん;及び
(4)PENK遺伝子の発現が亢進しているがん;
〔7〕前記抗がん剤が、タキサン系抗がん剤又は白金製剤を含む、上記〔1〕から〔6〕のいずれか1項に記載の医薬組成物;
〔8〕抗がん剤と、オピオイドアンタゴニストとを含むがん治療用キット;
〔9〕抗がん剤とオピオイドアンタゴニストの併用の有効性を判定するための診断薬であって、PENK遺伝子産物を測定可能な診断薬;
〔10〕上記〔9〕に記載の診断薬を含む、抗がん剤とオピオイドアンタゴニストの併用の有効性を判定するための診断用キット;
〔11〕抗がん剤の作用を増強する抗がん作用増強剤のスクリーニング方法であって、がん幹細胞において発現が亢進している遺伝子であって、且つ細胞増殖を抑制する遺伝子を選択する工程と、前記遺伝子又は該遺伝子がコードするタンパク質に拮抗作用を有する物質を選択する工程と、抗がん剤と前記物質とを対象に併用投与して、抗がん剤の効果が増強されるか否か調べる工程と、を含む方法;及び
〔12〕オピオイドアンタゴニストを含む、静止状態にあるがん細胞を増殖期に誘導するための医薬組成物、に関する。

発明の効果

[0007]
 本発明の医薬組成物によれば、抗がん剤の投与により静止状態に入ったがん幹細胞やその娘細胞においても、抗がん剤の効果を得ることが可能となる。また、本発明の医薬組成物は、いわゆるスキルスがんなど、難治性のがんにも有効である。
 本発明の診断薬によれば、本発明の医薬組成物が有効ながんを事前に判定することができる。
 また、本発明のスクリーニング方法によれば、抗がん剤の投与により静止状態に入ったがん細胞やがん幹細胞において、抗がん剤の効果を増強できる物質を同定することができる。

図面の簡単な説明

[0008]
[図1] 図1は、OGF、OGFの核内受容体であるOGFR、細胞膜上のオピオイド受容体(μ-オピオイド受容体(OPRM1)、δ-オピオイド受容体(OPRD1)及びκ-オピオイド受容体(OPRK1))の細胞内局在を示す概念図である。
[図2] 図2は、低分化型胃癌細胞株HSC60から樹立した高腹膜転移細胞亜株60As6のCXCR4+細胞(がん幹細胞)分画とCXCR4-細胞(非がん幹細胞)分画における遺伝子発現を測定した結果を示す。
[図3] 図3は、低分化型胃癌細胞株HSC60、その高腹膜転移細胞亜株60As6、及び60As6細胞の腹腔内移植腫瘍(A)、ならびに非びまん性/分化型胃癌由来細胞株HSC42(B)におけるPENK遺伝子及びOGFR遺伝子発現を測定した結果を示す。
[図4] 図4は、OGFとその拮抗薬であるメチルナルトレキソン(Methylnaltrexone:MNTX)の60As6細胞に対するin vitro細胞増殖に対する効果を調べた結果である。
[図5] 図5は、ドセタキセル(Docetaxel:Doc)とMNTXの60As6細胞に対するin vitro 抗腫瘍効果を調べた結果である。
[図6] 図6は、DocによるOGF核内受容体の発現誘導の効果をreal-time RT-PCR法で調べた結果である。
[図7] 図7は、60As6細胞を移植した胃癌腹膜播種モデルマウスに対するDocとMNTXの併用の効果を調べた結果である。
[図8] 図8は、分化型及び低分化型胃癌組織におけるPENKおよびOGFR遺伝子発現をRT-PCR法で調べた結果である。
[図9] 図9は、DocとMNTXの膵臓癌細胞株Panc-1(A)及び前立腺癌細胞株PC-3(B)に対するin vitro 抗腫瘍効果を調べた結果である。
[図10] 図10は、DocとMNTXの非びまん性/分化型胃癌細胞株HSC42に対するin vitro 抗腫瘍効果を調べた結果である。

発明を実施するための形態

[0009]
〔抗がん剤の作用を増強する医薬組成物〕
 本発明の医薬組成物は、オピオイドアンタゴニストを含み、抗がん剤の作用を増強するための抗がん剤と併用投与されることを特徴とする。
 本明細書において「オピオイドアンタゴニスト」とは、オピオイド受容体の少なくとも一つに結合し、本来のリガンドであるオピオイド化合物との結合を阻害することによって、オピオイド受容体によるシグナル伝達を介した細胞増殖抑制を抑制するものをいう。
 本明細書において「オピオイド受容体」とは、細胞膜上のμ-オピオイド受容体(OPRM1)、δ-オピオイド受容体(OPRD1)及びκ-オピオイド受容体(OPRK1)と、核内受容体であるOGFR及びOGFRL1を意味する。
[0010]
 本発明の医薬組成物に用いられるオピオイドアンタゴニストは、OGF受容体アンタゴニストであってもよい。
 本明細書において「OGF受容体」とは、OGF(オピオイド増殖因子)の受容体を意味する。図1に示されるとおり、OGFは、OGFRに加え、OPRM1及びOPRD1にも結合する。さらにその構造の類似性からOGFRL1にも結合することが予想される。したがって、「OGF受容体アンタゴニスト」は、これらの4つの受容体の少なくとも1つと、本来のリガンドであるOGFとの結合を阻害することにより、静止状態のがん細胞を増殖期に誘導するものを意味する。
[0011]
 本発明者らは、これまでに、胃癌のうち腹膜再発の頻度の高い低分化型胃癌のがん幹細胞を同定した(第70回日本癌学会学術総会要旨集p228、藤田剛ら「びまん性胃癌における癌幹細胞の特性とその同定」)。
 今般、本発明者らは、このがん幹細胞分画と非がん幹細胞分画の網羅的遺伝子発現プロファイルを比較解析し、細胞増殖を抑制することが知られているOGFRのファミリー遺伝子であるOGFRL1の発現ががん幹細胞分画で亢進していること及びOGFRは両分画で発現していることを見出した。
 そして、後述する実施例に示されるとおり、OGFRなどのOGF受容体に対するアンタゴニストとして知られるメチルナルトレキソンを投与すると、静止状態にあるがん細胞を増殖期に誘導することにより、抗がん剤の効果を増強できることを確認した。
[0012]
 本発明の医薬組成物に用いられるオピオイドアンタゴニストは、例えば、低分子化合物、高分子化合物、核酸、ペプチド、タンパク質等から選択することができる。オピオイドアンタゴニストの例としては、ナルトレキソン、メチルナルトレキソン、ナロキソン、メチルナロキソンが挙げられるがこれらに限定されない。
[0013]
 本明細書において「メチルナルトレキソン」とは、ナルトレキソンにメチル基を付加したものであって、本発明の医薬組成物に用いる場合、その薬学的に許容可能な塩であってもよい。メチルナルトレキソンの塩としては、臭化物塩、塩化物塩、ヨウ化物塩、炭酸塩および硫酸塩が挙げられるがこれらに限定されない。
 メチルナルトレキソンは、オピオイドアンタゴニストとして知られている。モルヒネなどのオピオイドは疼痛軽減のために処方され、脳や脊髄の受容体に作用して鎮痛作用や多幸感を与える。一方、末梢に局在する受容体に作用すると、消化管運動抑制作用、肛門括約筋収縮、膀胱括約筋や排尿筋の緊張増強を生じ、重篤な便秘や排尿障害などの副作用を引き起こす。メチルナルトレキソンは、末梢でモルヒネなどのオピオイドの受容体への結合を遮断することによって、オピオイド誘発性副作用を軽減する。しかも、血液脳関門を通過しないため、神経系でのモルヒネの鎮痛効果は阻害せず、非常に有効性が高い。また、メチルナルトレキソン自体の副作用もほとんど見られない。
[0014]
 なお、メチルナルトレキソンについては、内皮細胞増殖及び内皮細胞遊走を減弱することの報告がある(特許文献1)。特許文献1には、メチルナルトレキソンが単独で細胞増殖阻害効果を示したこと、また、ヒト結腸直腸癌株化細胞、ヒト乳癌細胞、非小細胞肺癌細胞に対して抗がん剤と併用投与したところ、相加的に増殖抑制効果を示したことが記載されている。しかしながら、後述する実施例に示されるとおり、本願発明者らの実験によればメチルナルトレキソンは単独では細胞増殖抑制効果を示さず、抗がん剤の効果によって静止期に入ったがん幹細胞やその娘細胞を増殖期に誘導することによって、抗がん剤の効果を増強するものである。
[0015]
 本明細書において、「抗がん剤」は、公知のあらゆる抗がん剤を含み特に限定されないが、例えば、アルキル化剤、代謝拮抗剤、微小管阻害剤、抗腫瘍抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、白金製剤、ホルモン剤、生物学的製剤、分子標的薬等が挙げられる。
 アルキル化剤としては、例えば、シクロホスファミド、イホスファミド、ニトロソウレア、ダカルバジン、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン、メルファラン、プロカルバジン、ラニムスチン、チオテパ等が挙げられる。代謝拮抗剤としては、例えば、エノシタビン、カルモフール、カペシタビン、テガフール、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、ゲムシタビン、シタラビン、シタラビンオクホスファート、ネララビン、5-フルオロウラシル、リン酸フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メトトレキサート、クラドリビン、チオグアニン、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、ヒドロキシウレア、6-メルカプトプリン等が挙げられる。微小管阻害剤としては、例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン等のアルカロイド系抗がん剤、ドセタキセル、パクリタキセル等のタキサン系抗がん剤が挙げられる。抗腫瘍抗生物質としては、例えば、マイトマイシンC、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ブレオマイシン、アクチノマイシンD、アクラルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、ペプロマイシン、ミトキサントロン、アムルビシン、ジノスタチンスチマラマー等が挙げられる。トポイソメラーゼ阻害剤としてはトポイソメラーゼI阻害作用を有するCPT-11、イリノテカン(SN-38)、ノギテカン、トポイソメラーゼII阻害作用をもつエトポシド、ソブゾキサンが挙げられる。白金製剤としては、例えば、シスプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン等が挙げられる。ホルモン剤としては、例えば、デキサメタゾン、フィナステリド、タモキシフェン、アストロゾール、エキセメスタン、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、ゴセレリン、ビカルタミド、フルタミド、ブレドニゾロン、リュープロレリン、レトロゾール、エストラムスチン、トレミフェン、ホスフェストロール、ミトタン、メチルテストステロン、メドロキシプロゲステロン、メピチオスタン等が挙げられる。生物学的製剤としては、例えば、インターフェロンα、βおよびγ、インターロイキン2、ウベニメクス、乾燥BCG等が挙げられる。分子標的薬としては、例えば、リツキシマブ、アレムツズマブ、トラスツズマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、ベバシズマブ、トシツズマブ、ボルテゾミブ、ゲムツズマブ・オゾガマイシン、イブリツモマブ・オゾガマイシン、イブリツモマブチウキセタン、イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、ラパチニブ、テムシロリムス、タミバロテン、トレチノイン等が挙げられる。
 本明細書において、「抗がん剤」にはこれらの抗がん剤の組み合わせも含まれ、本発明の医薬組成物は、抗がん剤の組み合わせと併用投与しても、その作用を増強しうる。
 抗がん剤の組み合わせとしては、例えば、ドセタキセル(またはパクリタキセル)とシスプラチンとTS-1(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)との組み合わせ、ドセタキセル(またはパクリタキセル)とシスプラチンの組み合わせ、ドセタキセルとオキザリプラチンとの組み合わせ、ドセタキセル(またはパクリタキセル)と抗体医薬もしくは分子標的薬、核酸医薬との組み合わせ等が挙げられるが、これらに限定されない。
 本発明の医薬組成物は、抗がん剤の中でも特に細胞が静止期に入ると効果が低下するものに有効である。
[0016]
 本明細書において「抗がん剤の作用又は効果、及び抗腫瘍作用」は、その最も広い意味で用いられるが、例えば、in vitro又はin vivoにおいて、腫瘍サイズの低下、腫瘍の転移の阻害(遅延又は停止)、腫瘍増殖の阻害(遅延又は停止)、延命、及びがんと関連する一つ又は複数の症状の緩和、の少なくとも1つを生じさせる作用を意味する。したがって、「抗がん剤の作用を増強するために抗がん剤と併用投与される」とは、これらの作用の少なくとも1つが、オピオイドアンタゴニストと併用した場合に、抗がん剤単独で用いた場合よりも強く発揮されることを意味する。in vitro又はin vivoにおける上記作用は、公知の方法によって測定することができる。
[0017]
 本明細書において「併用」とは、併用による効果が得られる投与の仕方であれば、投与量、投与方法、投与時期等は特に限定されず、治療目的や疾患、投与対象、製剤中の有効成分の量等によって適宜選択することができる。抗がん剤とオピオイドアンタゴニストを同時に投与してもよいし、いずれか一方を先に投与してもよい。また、少なくとも一方を繰り返し投与してもよく、それぞれの投与頻度が異なっていてもよい。
[0018]
 本明細書において「発現」は、ゲノムDNAを鋳型としてmRNAが合成される転写と、mRNAの情報に基づいてポリペプチドが合成される翻訳の両方を含む概念として用いられる。また、「遺伝子産物」は、mRNA及びタンパク質の両方を含む概念として用いられる。
[0019]
 本発明の医薬組成物は、あらゆるがんを対象とすることができる。対象となるがんとしては、例えば、大腸癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、胆道癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、血液腫瘍が挙げられるがこれらに限定されない。
[0020]
 本発明の医薬組成物による効果が特に高いがんとして、以下の少なくとも1つの特徴を有するがんが挙げられる。
(1)静止状態のがん細胞が多いがん
(2)びまん性に浸潤するがん
(3)がん幹細胞を含むがん、又は低分化型がん
(4)PENK遺伝子の発現が亢進しているがん
 以下、それぞれのがんについて説明する。
[0021]
(1)静止状態のがん細胞が多いがん
 本明細書において「静止状態にあるがん細胞」とは、細胞周期のうち、いわゆるG0期またはG1期で停止状態にある細胞をいう。静止状態となっている理由は特に限定されず、例えば、抗がん剤処理に起因するもの、幹細胞であることに起因するもの、栄養飢餓に起因するものなどであってもよい。本明細書において「静止状態にあるがん細胞が多い」がんとは、そのがん組織中に、非びまん性のがん組織と比較して、静止状態にあるがん細胞がより多く含まれていることを意味する。また、「静止状態にあるがん細胞がより多く含まれている」とは、非びまん性のがん組織と比較して、統計的に有意に多い場合に限られず、多い傾向があることを当業者が認識できる程度も含む。組織中の静止状態にあるがん細胞の数は公知の方法によって決定することができ、例えば、抗Ki-67(PCNA)抗体による免疫組織染色によって判定できる。
[0022]
(2)びまん性に浸潤するがん
 本明細書において、「びまん性に浸潤するがん」とは、間質(腫瘍内の結合組織)にがん細胞がびまん性(染み渡るように)に浸潤するがんを意味する。びまん性の浸潤の有無は、組織の病理検査等によって判定することができる。胃癌、膵臓癌、乳癌、前立腺癌などで見られる。びまん性に浸潤するがんの代表例として、スキルスがんが挙げられる。
[0023]
(3)がん幹細胞を高い比率で含むがん、又は低分化型がん
 がん幹細胞とは、腫瘍内に存在し、自己複製能と腫瘍組織を構成する様々な系統のがん細胞を生み出す能力を併せ持つ細胞である。がん幹細胞は、しばし静止状態にあるため、化学療法や放射線療法に耐性を示す。がん幹細胞は、各種のがん幹細胞マーカーを検出することによって、同定及び定量できる。本明細書において、「がん幹細胞を高い比率で含むがん」とは、その組織に、他のがん組織と比較して、がん幹細胞を多く含むがんを意味し、他のがん組織と比較して統計的に有意に多い場合に限られず、多い傾向があることを当業者が認識できる程度も含む。
 低分化型がんとは、未分化型がんとも呼ばれる。びまん性がんは低分化型であることが多く、びまん性のがんはdiffuse型がんとも呼ばれる。低分化型がんは、増殖中の細胞が少ない傾向がある。この分化度は病理検査などによって判定することができる。
[0024]
(4)PENK遺伝子の発現が亢進しているがん
 PENK遺伝子は、OGFタンパク質をコードする遺伝子である。がん組織におけるPENK遺伝子の発現は、公知の方法またはそれに順ずる方法で、mRNAレベル又はタンパク質レベルで測定することができる。本明細書において、「PENK遺伝子の発現が亢進しているがん」とは、その組織におけるPENK遺伝子の発現が、非びまん性/分化型がん組織と比較して、統計的に有意に高いか、高い傾向があると当業者が認定できる程度であることをいう。
[0025]
 がんの中には、静止状態のがん細胞が多く且つびまん性に浸潤するがんなど、上記(1)~(4)の2つ以上の特徴を有するがんも多く、本発明の医薬組成物は、かかるがんに対しても当然有効である。
 また、本発明者らは、後述する実施例に示されるとおり、低分化型がんにおいては、分化型がんに比べ、PENK遺伝子の発現が高いことを示した。
[0026]
 本発明の医薬組成物は、がんを有する哺乳動物に投与される。哺乳動物は特に限定されず、例えば、ヒト、マウス、サル、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウマが挙げられるが、特にヒトに投与されることが想定される。
[0027]
 本発明の医薬組成物は、オピオイドアンタゴニストに加え、薬理学的に許容される担体と共に製剤化される。本発明の医薬組成物を製剤化する場合、オピオイドアンタゴニストと、抗がん剤を含む合剤としてもよい。かかる合剤は、治療有効量の抗がん剤と、当該抗がん剤に対する増強効果を奏する量のオピオイドアンタゴニストを含む。
 製剤の形態は特に限定されず、治療目的に応じて適宜選択される。代表的なものとして錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、注射剤(液剤、懸濁剤、乳剤)等が挙げられる。これら製剤は、通常用いられる方法により製造すればよい。
[0028]
 本明細書において、「薬理学的に許容される担体」は、オピオイドアンタゴニストとともに投与可能な担体をいう。かかる担体としては、薬理学的及び製剤学的に許容されるものであれば特に制限されず、例えば、水、食塩水、リン酸緩衝液、デキストロース、グリセロール、エタノール等の有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ぺクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、界面活性剤、賦形剤、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるがこれらに限定されない。
[0029]
 また、本発明の医薬組成物に含まれるオピオイドアンタゴニストの量は、当業者が適宜決定することができる。1日あたりの投与量は、患者や疾患の重篤度、症状に応じて決定することができ、1日の投与量ごとに製剤化してもよく、また複数に分割して製剤化してもよい。
 1日の投与量は例えば、経口投与では体重1kgあたり約0.01mg~約80mg、非経口投与では体重1kgあたり約0.001mg~約5mg、とすることができる。
 また、本発明の医薬組成物は、がんの他の治療方法と組み合わせて用いられることも好ましい。
[0030]
〔静止状態のがん細胞を増殖期に誘導するための医薬組成物〕
 本発明は、オピオイドアンタゴニストを含む静止状態にあるがん細胞を増殖期に誘導する医薬組成物も含む。
 本明細書において「静止状態にあるがん細胞」とは、細胞周期のうち、いわゆるG0期またはG1期で停止状態にある細胞をいう。静止状態となっている理由は特に限定されず、例えば抗がん剤処理に起因するものであっても、幹細胞であることに起因するものであっても、栄養飢餓を理由とするものであってもよい。本明細書において「静止状態のがん細胞を増殖期に誘導する」とは、G0期またはG1期で停止状態にある細胞をG1期→S期→G2期→M期→G1期のサイクルで分裂を繰り返す状態になることを促すことをいう。
 用語「オピオイドアンタゴニスト」及び「医薬組成物」は、抗がん剤の作用を増強する医薬組成物の項目と同義で用いられる。
[0031]
〔治療方法〕
 本発明は、抗がん剤とオピオイドアンタゴニストを治療有効量で併用投与することを含むがんの治療法も包含する。
 本明細書において、治療有効量とは、治療する疾患の一つ又は複数の症状が、それによりある程度緩和される作用物質の量を意味し、例えば、腫瘍サイズの低下、腫瘍の転移の阻害(遅延又は停止)、腫瘍増殖の阻害(遅延又は停止)、延命、及びがんと関連する一つ又は複数の症状の緩和、の少なくとも1つを示す量を意味する。
 その他の用語については、上述の医薬組成物について用いられた用語と同義であるため、ここでは説明を省略する。
[0032]
〔診断薬〕
 本明細書において「診断薬」は、抗がん剤とオピオイドアンタゴニストとの併用の有効性を判定するための試薬であって、PENK遺伝子産物(mRNA又はOGFタンパク質)の発現を測定可能なものを意味する。
 本発明の医薬組成物の作用機序に鑑みて、例えば、患者の腫瘍組織でPENK遺伝子産物(mRNA又はOGFタンパク質)が、非びまん性/分化型がん組織より強く発現している症例や、血液中でOGFタンパク質が健常者に比べて十分に高く検出された症例では、オピオイドアンタゴニストとの併用によって、抗がん剤の効果が増強される可能性が高いと考えられる。また、実施例に示すとおり、本発明の医薬組成物が特に有効であるびまん性の低分化型のがんでは、非びまん性/分化型のがんに比較して、PENK遺伝子発現が実際に亢進していた。
 したがって、本明細書における診断薬は、腫瘍組織におけるPENK遺伝子産物の発現や、血液中のOGFタンパク質を検出するための試薬を含む。かかる試薬としては、例えば、mRNAをPCR法で検出するためのプライマーセット、mRNAやタンパク質をin situハイブリダイゼーションで検出するためのプローブ用核酸、免疫染色で検出するための抗体、タンパク質をイムノアッセイ(ELISA等)で検出するための抗体などを含むがこれらに限定されない。血清中のタンパク質は、例えば、Smithらの方法にしたがって測定してもよい(Smith, JP. et al., Pancreas, 2000, 21: 158-164)。
 診断薬は、検出可能に標識したものであってもよい。例えば、核酸は放射性物質や蛍光物質で標識されたものでもよく、抗体は、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素、 125I、 131I、 35S、 3H等の放射性物質、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ダンシルクロリド、フィコエリトリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等の蛍光物質、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等の発光物質のいずれかで標識されたものでもよい。その他、金コロイド、量子ドットなどのナノ粒子で標識した抗体でもよい。標識は、検出方法にあわせて適宜選択される。
 診断薬は固相担体に固定されていてもよい。本明細書において「固相担体」は、核酸や抗体を固定できるものであれば特に限定されず、ガラス製、金属製、樹脂製等のマイクロタイタープレート、基板、ビーズ、ニトロセルロースメンブレン、ナイロンメンブレン、PVDFメンブレン等が挙げられる。診断薬は公知の方法で固相担体に固定することができる。
[0033]
〔診断用キット〕
 本明細書において、「診断用キット」は、抗がん剤とオピオイドアンタゴニストとの併用の有効性を判定するためのキットであって、PENK遺伝子産物の発現を測定可能なものを意味する。
 診断用キットは、上述した診断薬のほか、固相担体、各種標識、二次抗体、TaqポリメラーゼなどのPCR用試薬、マイクロタイタープレート、チューブ、各種緩衝液、検出用酵素、酵素反応停止液、マイクロリーダー、使用説明書などを含んでいてもよい。
[0034]
〔スクリーニング方法〕
 本発明は、抗がん作用増強剤のスクリーニング方法も包含する。かかるスクリーニング方法は、がん幹細胞において発現が亢進している遺伝子であって、且つ細胞増殖を抑制する遺伝子を選択する工程と、その遺伝子又は該遺伝子がコードするタンパク質に拮抗作用を有する物質を選択する工程と、抗がん剤と前記物質とを対象に併用投与して、抗がん剤の効果が増強されるか否か調べる工程と、を含む。
 がん幹細胞は、どのような種類のものを用いてもよい。がん幹細胞は、脳腫瘍、肺癌、乳癌、大腸癌、膵臓癌、肝臓癌等種々のがん組織で確認されており、がん幹細胞マーカー(例えば、CD133、ESA、CDD44、ALDH1、CD90等)の発現を検出して単離・培養することができる。
 がん幹細胞における遺伝子発現は、公知の方法又はそれに順ずる方法で測定することが可能であるが、網羅的な発現プロファイルを得られる方法、例えばDNAマイクロアレイを用いる方法が好適である。
 得られた発現プロファイルに基づいて、がん幹細胞において発現が亢進し、且つ細胞増殖を抑制する遺伝子を選択する工程、及びその遺伝子又は該遺伝子がコードするタンパク質に拮抗作用を有する物質を選択する工程は、公知のデータベースを使用して行うことができる。遺伝子又は遺伝子がコードするタンパク質に拮抗作用を有する物質は、低分子化合物、高分子化合物、核酸、タンパク質等、どのような物質であってもよい。遺伝子の塩基配列に基づいて作製される核酸(siRNA、アンチセンス、リボザイム)や、抗体を用いてもよい。
[0035]
 抗がん剤と選択された物質とを対象に投与して、抗がん剤の効果が増強されるか否かを調べる工程に用いられる「対象」は、例えば、がん幹細胞その他抗がん剤単独では抗がん作用を得られない細胞や組織、マウス等のモデル動物とすることができる。
 細胞や組織を用いる場合には、これらを適当な方法で培養し、抗がん剤と上記物質を培地に投与する。モデル動物とする場合には、抗がん剤と上記物質をそれぞれの性質に合わせた投与方法で適宜投与すればよい。
 抗がん剤の効果は、がん細胞の増減や死滅の速度、モデル動物中のがん組織のサイズの変化、転移の有無、延命、及びモデル動物の行動等で評価することができる。抗がん剤の効果が増強される場合、すなわち、抗がん剤単独で投与したときよりも抗がん効果が大きくなる場合、併用投与した物質を抗腫瘍作用増強剤として選択することができる。
 本スクリーニング方法で選択される抗腫瘍作用増強剤には、治療標的となるがん組織に静止状態のがん細胞が多いことによって抗がん剤の効果が低下しているところ、静止状態の細胞を増殖期に誘導することによって抗がん剤の作用を増強するものが含まれる。
 よって、選択された抗腫瘍作用増強剤は、以下の少なくとも1つの特徴を有するがんに特に有効であると考えられる。
(1)静止状態のがん細胞が多いがん
(2)びまん性に浸潤するがん
(3)がん幹細胞を高い比率で含むがん、又は低分化型がん
(4)PENK遺伝子の発現が亢進しているがん
[0036]
 本明細書において引用されるすべての特許文献及び非特許文献の開示は、全体として本明細書に参照により組み込まれる。
実施例
[0037]
 以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の意義を逸脱することなく様々な態様に本発明を変更することができ、かかる変更も本発明の範囲に含まれる。
[0038]
〔1〕マイクロアレイ解析によるCXCR4+がん幹細胞で強く発現する細胞増殖抑制遺伝子の同定
 低分化型胃癌細胞株であるHSC60をC.B17/Icr-scid マウス (クレア株式会社) の腹腔内に移植し、形成した腫瘍を10 % 仔ウシ血清、L-グルタミン、ペニシリン-ストレプトマイシンを含むRPMI 1640 培地で培養し、またマウス腹腔内への移植を6回繰り返すことによって高腹膜転移細胞亜株60As6を取得した(Yanagihara K et al, Cancer Sci 96: 323-332, 2005の方法)。この高腹膜転移細胞亜株60As6から抗CXCR4抗体によるFACSによって分画したCXCR4+細胞とCXCR4-細胞からRNAを抽出し、Affymetrix社の推奨する方法に従ってGeneChip U122Plus2による網羅的遺伝子発現プロファイルを得、比較の結果、CXCR4陽性がん幹細胞で強く発現するOGFRL1を同定した。さらに両細胞分画ともそのファミリー遺伝子であるOGFRの発現も認められた。60As6細胞のCXCR4+、-画分は、PE標識した抗ヒトCXCR4マウスモノクローナル抗体(R&D systems)と反応させ、JSAN(ベイ バイオサイエンス株式会社)を用いて、それぞれの細胞分画を回収しISOGENを加えてtotalRNAを抽出した。
[0039]
〔2〕胃癌細胞株と移植腫瘍におけるOGFをコードするPENK遺伝子とOGF受容体遺伝子の発現
  親株HSC60と亜株60As6および分化型胃癌細胞株であるHSC42は10 % 仔ウシ血清、L-グルタミン、ペニシリン-ストレプトマイシンを含むRPMI 1640 培地で培養し、培養液は 2-3 日ごとに交換し、80%コンフルエントまで培養した。PBS(-)で洗浄後、ISOGEN(和光純薬)を加えて細胞を回収し、totalRNAを抽出した。
 また60As6細胞の移植腫瘍は、C.B17/Icr-scidマウス に60As6細胞を腹腔内注射して形成させた。細胞生着後、腫瘍を摘出しPBS(-)で洗い、ISOGENを加えてホモジナイズしtotalRNAを抽出した。
 各totalRNAは、first-strand cDNA synthesis kit (GE Healthcare)を用いて各々のcDNAを合成しPCRテンプレートとした。このテンプレートをAccuPrimeTM Taq DNA polymerase、AccuPrimeTM PCR buffer I(invitrogen)、RNAase free water、プライマーと混合し、GeneAmp PCR System9700で増幅した。以下に各プライマーの配列を示す。
[表1]


[0040]
 増幅したサンプルを2%SeaKem GTG Agarose(Lonza)で電気泳動し、LAS-4000(FUJI FILM)で検出した。PENKはOGFをコードし、OGFRはOGFの核内受容体、OPRM1、OPRD1、OPRK1は細胞膜上のオピオイド受容体をコードする。これらの遺伝子産物の細胞内局在は図1に示した。
[0041]
 低分化型胃癌細胞株HSC60由来の高腹膜転移亜株60As6のがん幹細胞分画であるCXCR4+細胞分画とその娘細胞(CXCR4-非がん幹細胞)において、OGFRL1はCXCR4-細胞よりもCXCR4+がん幹細胞で発現が高く、OGFRは両細胞で発現が認められた(図2)。したがって、OGFはがん幹細胞および非がん幹細胞のいずれにも作用しうることが示された。
 HSC60細胞と60As6細胞、および60As6腹腔内移植腫瘍(60As6 xenograft)における各遺伝子の発現を示すRT-PCRの結果を図3に示す。培養細胞では、PENK、OPRD1、OPRK1などがHSC60よりも60As6細胞で優位に発現していた。PENK(OGF)の核内受容体OGFRは細胞膜受容体OPRD1やOPRK1より強く発現していた。OPRM1は、HSC60、60As6、60As6 xenograftいずれでもほとんど発現していなかった。60As6 xenograftでは60As6と同様の発現パターンを示し、特にPENK、OGFRの発現が顕著であった(A)。一方、分化型胃癌細胞株HSC42ではPENKの発現が認められず、OGFRを介した増殖抑制信号は働いていないことが示された(B)。
[0042]
〔3〕OGFによる60As6細胞の増殖抑制効果とメチルナルトレキソン(MNTX)の効果
 60As6細胞の増殖に対するOGFおよびその拮抗薬であるメ・BR>`ルナルトレキソン(MNTX) の効果を検討する目的で MTT ASSAY を行った。
 96 well plate に 60As6 細胞を播種し、通常培地にて1 日間培養した後に、OGF (10 -4 M) および MNTX (10 -6 M) を含む培地に交換し、3 日間培養した。通常培地で同時間培養した細胞を対照群とした。その後、5 mg/mL に調整した MTT (3-[4,5-dimethylthiazol-2-yl]-2,5-diphenyltetrazolium bromide) 液を加え、4 時間反応させた。MTT 反応終了後、室温にて 3,000 x g で 10 分間遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、DMSO (dimethyl sulfoxide) を加えてホルマザンを溶解させ、570 nm の吸光度で測定した。
[0043]
 結果を図4に示す。OGF 処置群では、対照群と比較して有意な細胞増殖抑制作用が認められた (**p<0.01, control vs. OGF)。またこの反応は、MNTX の共処置により有意に抑制された (##p<0.01, OGF vs. OGF/MNTX)。しかしながら MNTX 単独処置では、対照群と比較して大きな変化は認められなかった。
[0044]
〔4〕In vitro 胃癌細胞培養系でのMNTXによるドセタキセル(Doc)の抗腫瘍作用の増強効果
 ドセタキセル(Doc) の抗腫瘍作用に対する MNTX の効果を検討する目的で細胞増殖試験を行った。6 well plate に 60As6 細胞を播種し、通常培地にて1 日間培養した後に、Doc (10 -9 M) および通常培地で 2 日間培養した。その後、 MNTX (10 -6 M) を添加し、さらに 2 日間培養した。薬物処置終了後、 0.25 % トリプシン/EDTA を用いて細胞を回収し、トリパンブルー染色後、細胞数を計測した。
[0045]
 結果を図5に示す。60As6 細胞に Doc を処置したところ、対照群と比較して有意な抗腫瘍作用が認められた (**p<0.01, control vs. Doc, ***p<0.001, control vs. Doc/MNTX)。また、Doc 処置の 2 日後に MNTX を共処置したところ、Doc 単独処置群と比較して有意な抗腫瘍作用の増強効果が認められた (#p<0.05, Doc vs. Doc/MNTX)。これらの条件下、MNTX 処置では、対照群と比較して大きな変化は認められなかった。
[0046]
〔5〕DocによるOGF核内受容体の発現誘導効果
 Doc による OGFR および OGFRL1 の遺伝子発現変化を検討する目的で、60As6 細胞 に Doc (5 x10 -9 M) を 2 日間処置し、total RNA を抽出し、real-time RT PCR 法に従い検討した。cDNA は、first-strand cDNA synthesis kitに従い作製した。希釈した cDNA は、LightCycler 480 SYBER Green Master (Roche Diagnostics)、プライマーおよび DEPC 処理水と混合し、Light Cycler 2.0 (Roche Diagnostics) により増幅した。以下にプライマーの塩基配列を示す。
[表2]


[0047]
 結果を図6に示す。対照群と比較し、Doc を処置した細胞において OGFR mRNA および OGFRL1 mRNA の有意な増加が認められた (OGFR; *p<0.05, control vs. Doc, OGFRL1; ***p<0.001, control vs. Doc)。このことは抗がん剤処理によって胃癌細胞のOGF依存的細胞増殖停止が誘導されることを示唆する。
[0048]
〔6〕 MNTXによるDocの胃癌腹膜播種モデルマウスの延命効果の増強
 実験には、7 週齢の C.B17/Icr-scid マウス を使用し、施設内の動物倫理審査委員会の承認のもと、関連法規を遵守し、本実験を行った。
 60As6 細胞の腹膜播種に対する OGF シグナルの関与を明らかにする目的で腹膜播種モデルマウスを作製し、Doc、OGF および MNTX の腹腔内投与によるマウスの生存期間を観察した。
 腫瘍の増殖過程を可視化し、観察する目的で、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した 60As6 細胞 (60As6Luc 細胞) を 10 % 仔ウシ血清、L-グルタミン、G418 を含むRPMI 1640 培地で培養し、1x10 6 cell をマウスの腹腔内に移植した。細胞移植後 1 週目に IVIS イメージング法に従い腹腔内にがん細胞が生着していることを確認した後、Doc (0.5 mg/kg)、Doc/ OGF (10 mg/kg)、Doc/MNTX (0.3 mg/kg) および生理食塩水 (Saline) を 1 週間に 2 回、腹腔内投与し、生存期間を観察した。薬物投与は、急激な体重減少などの毒性反応が認められない限り継続した。
[0049]
 結果を図7に示す。Doc を投与したマウスでは、対照群と比較して有意な生存期間の延長が認められた (p<0.01, saline vs. Doc)。また、Doc 単独投与群と比較して MNTX と Doc との併用群では、生存期間の有意な延長 (増強効果) が認められた (p<0.01, Doc vs. Doc/MNTX)。逆にOGF と Doc の併用群においては、Doc 単独群で認められる生存期間延長の抑制傾向が認められた。
[0050]
〔7〕分化型および低分化型胃癌組織におけるPENKの発現
 施設内の倫理審査委員会の承認のもと、インフォームドコンセントを得た18例の分化型および15例の低分化型胃癌組織5mgほどにISOGENを加えて、ホモジナイズし、totalRNAを抽出した。各totalRNAは、first-strand cDNA synthesis kit を用いて各々のcDNAを合成しPCRテンプレートとした。このテンプレートをAccuPrimeTM Taq DNA polymerase、AccuPrimeTM PCR buffer I、RNAase free water、プライマーと混合し、GeneAmp PCR System9700で増幅した。実施例1と同じプライマーを用いてPENK、OGFR、及び陽性コントロールACTB(ベータアクチン)の遺伝子発現をRT-PCRで調べた。
[0051]
 結果を図8に示す。低分化型胃癌は、分化型胃癌より腹膜再発の頻度が高く、それが死因となる。また増殖細胞が少ないのが特徴である。増殖抑制因子として働くOGFをコードするPENKの遺伝子発現はこの低分化型胃癌で強いことが示された(図8の上段)。図8の下段に示したような病理組織学的特徴に基づく診断に加え、PENKの遺伝子発現を調べることはOGF依存的増殖抑制状態にある胃癌症例を見つけ、MNTXを投与する対象とできることを示唆する。
[0052]
〔8〕In vitro 膵臓癌及び前立腺癌細胞培養系でのMNTXによるDocの抗腫瘍作用の増強効果
 Docの抗腫瘍作用に対する MNTX の効果を検討する目的で細胞増殖試験を行った。6 well plate に 膵臓癌細胞Panc-1 細胞及び前立腺癌細胞PC-3(PENK及びOGFRの発現は確認済み)を播種し、通常培地にて1 日間培養した後に、Doc (7.5x10 -10 M) および通常培地で 2 日間培養した。その後、MNTX (10 -6 M) を添加し、さらに 2 日間培養した。薬物処置終了後、 0.25 % トリプシン/EDTA を用いて細胞を回収し、トリパンブルー染色後、細胞数を計測した。
[0053]
 結果を図9に示す。Panc-1 細胞に Doc を処置したところ、対照群と比較して有意な抗腫瘍作用が認められた(**p<0.01, control vs. Doc, ***p<0.001, control vs. Doc/MNTX)。また、Doc 処置の 2 日後に MNTX を共処置したところ、Doc 単独処置群と比較して有意な抗腫瘍作用の増強効果が認められた (#p<0.05, Doc vs. Doc/MNTX)。これらの条件下、MNTX 処置では、対照群と比較して大きな変化は認められなかった(A)。PC-3 細胞に Doc を処置したところ、Panc-1細胞と同様の結果だった(B)。 
[0054]
〔9〕In vitro 分化型胃癌細胞培養系でのMNTXによるDocの抗腫瘍作用の増強効果の欠落
 Docの抗腫瘍作用に対する MNTX の効果を検討する目的で細胞増殖試験を行った。6 well plate に 図3(B)で示したPENKを発現しない分化型胃癌細胞HSC42 を播種し、通常培地にて1 日間培養した後に、Doc (10 -9 M) および通常培地で 2 日間培養した。その後、MNTX (10 -6 M) を添加し、さらに 2 日間培養した。薬物処置終了後、 0.25 % トリプシン/EDTA を用いて細胞を回収し、トリパンブルー染色後、細胞数を計測した。
[0055]
 結果を図10に示す。HSC42 細胞に Doc を処置したところ、対照群と比較して有意な抗腫瘍作用が認められた(*p<0.01, control vs. Doc, control vs. Doc/MNTX)。しかし、Doc 処置の 2 日後に MNTX を共処置したところ、Doc 単独処置群と比較して有意な抗腫瘍作用の増強効果は認められなかった。これらの条件下、MNTX 処置では、対照群と比較して大きな変化は認められなかった。

請求の範囲

[請求項1]
 抗がん剤の作用を増強するために抗がん剤と併用投与される、オピオイドアンタゴニストを含む医薬組成物。
[請求項2]
 抗がん剤とオピオイドアンタゴニストとを含む医薬組成物。
[請求項3]
 前記オピオイドアンタゴニストがOGF受容体アンタゴニストである、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
[請求項4]
 前記OGF受容体アンタゴニストがOGFRアンタゴニストである、請求項3に記載の医薬組成物。
[請求項5]
 前記オピオイドアンタゴニストが、メチルナルトレキソン、ナルトレキソン、ナロキソン、及びメチルナロキソンからなる群より選択される、請求項1から4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[請求項6]
 以下の(1)~(4)の少なくとも1つの特徴を有するがんの治療に用いられる、請求項1から5のいずれか1項に記載の医薬組成物:
(1)静止状態のがん細胞が多いがん;
(2)びまん性に浸潤するがん;
(3)がん幹細胞を高い比率で含むがん、又は低分化型がん;及び
(4)PENK遺伝子の発現が亢進しているがん。
[請求項7]
 前記抗がん剤が、タキサン系抗がん剤又は白金製剤を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[請求項8]
 抗がん剤と、オピオイドアンタゴニストとを含むがん治療用キット。
[請求項9]
 抗がん剤とオピオイドアンタゴニストの併用の有効性を判定するための診断薬であって、PENK遺伝子産物を測定可能な診断薬。
[請求項10]
 請求項9に記載の診断薬を含む、抗がん剤とオピオイドアンタゴニストの併用の有効性を判定するための診断用キット。
[請求項11]
 抗がん剤の作用を増強する抗がん作用増強剤のスクリーニング方法であって、
 がん幹細胞において発現が亢進している遺伝子であって、且つ細胞増殖を抑制する遺伝子を選択する工程と、
 前記遺伝子又は該遺伝子がコードするタンパク質に拮抗作用を有する物質を選択する工程と、
 抗がん剤と前記物質とを対象に併用投与して、抗がん剤の効果が増強されるか否か調べる工程と、
を含む方法。
[請求項12]
 オピオイドアンタゴニストを含む、静止状態にあるがん細胞を増殖期に誘導するための
医薬組成物。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]

[ 図 6]

[ 図 7]

[ 図 8]

[ 図 9]

[ 図 10]