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1. WO2014119259 - 高強度熱延鋼板およびその製造方法

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明 細 書

発明の名称 高強度熱延鋼板およびその製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005   0006   0007  

先行技術文献

特許文献

0008  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0009   0010   0011   0012   0013   0014   0015   0016   0017  

課題を解決するための手段

0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024  

発明の効果

0025   0026  

発明を実施するための形態

0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081   0082   0083   0084   0085  

実施例

0086   0087   0088   0089   0090   0091   0092   0093   0094   0095   0096   0097  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8   9  

明 細 書

発明の名称 : 高強度熱延鋼板およびその製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、バーリング加工性(burring formability)に優れた高強度熱延鋼板およびその製造方法に関する。本発明の高強度熱延鋼板は、主に自動車用部材(automotive body components)、例えば車体のメンバー(member)やフレーム(frame)などの構造部材(structural parts)やサスペンション(suspension)などの足回り部材(chassis parts)に用いられる。しかし、これらの用途に限定されない。

背景技術

[0002]
 近年、自動車車体(automotive body)の軽量化(weight saving)を図るために、自動車部品の素材に高強度鋼板が積極的に利用されている。自動車の骨格部材(structural parts)としての高強度鋼板の利用は既に普及している。そして、自動車車体の更なる軽量化を図るために、骨格部材だけでなく、一般に熱延鋼板が使用される足回り部材等に対しても、高強度鋼板の適用が強く望まれている。
[0003]
 鋼板を素材とする自動車部品の多くは、鋼板にプレス加工(press forming)やバーリング加工(burring forming)等を施すことによって所定形状に成形される。しかし、一般に、鋼板の高強度化に伴い、鋼板の加工性は低下する。したがって、自動車部品用の高強度鋼板には、所望の強度と優れた加工性を兼ね備えていることが要求される。特に、自動車足回り部品等は厳しい加工により成形されるので、高強度化と加工性を両立することが必須条件となる。とりわけ、バーリング加工性の良し悪しが、これらの部品への高強度鋼板適用可否を決定したり、その量産性(mass productivity)の可否を左右することも多い。
[0004]
 従来、高強度熱延鋼板の加工性向上のために、様々な組織制御(microstructure control)や強化手法が活用されてきた。例えば、延性に優れたフェライト(ferrite)と硬質なマルテンサイト(martensite)等の複合組織化、ベイナイト組織(bainite microstructure)の活用、更にはフェライト組織の析出強化等である。しかしながら、従来技術では、自動車足回り部品等、厳しいバーリング加工を施して成形される部品に適用し得る十分な加工性を備えた高強度熱延鋼板が得られないのが実情であり、加工性に優れた高強度熱延鋼板が要望されていた。
[0005]
 このような要望に対し、特許文献1には、重量%でC:0.05~0.2%、Si:0.01~0.5%、Mn:0.01%以上0.5%未満、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:0.005~0.1%、N:0.007%以下、Ti:0.05~0.3%を含有する組成とし、セメンタイト析出量( amount of cementite precipitation)を制限した組織とする熱延鋼板が提案されている。そして、特許文献1で提案された技術によると、オーステナイトフォーマー(austenite former)であるMnを低減しα域を広げることで、熱延終了から巻取前までのTiC析出が促進されて、鋼板強度がTiCの析出強化により確保されるとともに、セメンタイトの生成量が減少することから鋼板の穴拡げ性(hole expandability)が著しく向上する。その結果、加工性に優れた400~800N/mm 2級高強度熱延鋼板が得られるとしている。
[0006]
 また、特許文献2には、mass%でC:0.01~0.10%、Si:1.0%以下、Mn:2.5%以下、P:0.08%以下、S:0.005%以下、Al:0.015~0.050%、Ti:0.10~0.30%を含有する組成の鋼を、加熱後、圧延し、冷却し、TiCがマトリックス相(matrix phase)に整合析出(coherently precipitate)する温度域を回避した巻取り温度で巻き取ることで、平均粒径が5μm以下のフェライト主体組織(structure consisting essentially of ferrite)を有する熱延鋼板とする技術が提案されている。そして、特許文献2で提案された技術によると、結晶粒径および粒形態をコントロールしたフェライト単相組織(single phase structure of ferrite)とすることで、高強度を損なうことなく、優れた伸びフランジ性(stretch-flangeability)を熱延鋼板に付与することができるとしている。また、TiCが母相マトリックスに整合析出すると、延性や伸びフランジ性が劣化するとしている。
[0007]
 更に、特許文献3には、質量%でC:0.03%超0.055%以下、Si:0.2%以下、Mn:0.35%以下、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Al:0.1%以下、N:0.01%以下、Ti:0.08%以上0.25%以下、B:0.0005%以上0.0035%以下を含有し、且つ、固溶B:0.0005%以上である組成とし、フェライト主体のマトリックスとTi炭化物が微細析出した組織とする熱延鋼板が提案されている。この技術は、固溶強化元素(solute strengthening elements)であるMnおよびSiが伸びフランジ性に悪影響を及ぼすという知見に基づくものであり、MnおよびSiの含有量を極力低減し、代わりに微細なTi炭化物で強度を確保しようとするものである。そして、特許文献3で提案された技術によると、固溶Bを含有させることでTi炭化物の粗大化が抑制され、引張強さが780MP以上の伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板が得られるとしている。

先行技術文献

特許文献

[0008]
特許文献1 : 特開平9-209076号公報
特許文献2 : 特開2002-105595号公報
特許文献3 : 特開2012-26032号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0009]
 しかしながら、特許文献1で提案された技術では、Mn含有量が低減されているため、フェライト変態温度が高温になり、熱延鋼板中に析出するTiCが粗大化する。TiCは主に、熱延鋼板製造時、熱間圧延終了後の冷却および巻取り工程においてオーステナイト→フェライト変態時に生じる。すなわち、フェライト変態温度が高いと高温域でTiCが析出する結果、TiCが粗大化し易くなる。このように、熱延鋼板中のTiCが粗大化する場合、優れたバーリング加工性を確保することはできない。
[0010]
 また、特許文献2で提案された技術では、熱延鋼板の製造工程において、TiCが母相マトリックスと整合析出する温度を避けて巻き取るとしている。このような条件で製造された熱延鋼板では、鋼板強度の向上に寄与する微細なTiCが析出しないため、高強度化と優れたバーリング加工性を両立することはできない。
[0011]
 また、特許文献3で提案された技術では、固溶BによりTiC粗大化を抑制できるとしている。しかしながら、B添加によりフェライト粒が展伸状になり易く、高レベルの延性が得られない。また、Mn含有量が低く、フェライト変態温度(ferrite transformation temperature)を均一に低下させるのが困難となるため、製造安定性に劣り、熱延鋼板中に析出させるTi炭化物の精緻なサイズ制御が不可能である。したがって、熱延鋼板の高強度化と優れたバーリング加工性の両立は困難である。
[0012]
 更に、これらの従来技術では、自動車部品を量産する際に要求されるバーリング加工性について言及されていない。
[0013]
 鋼板のバーリング加工性は、従来、主に日本鉄鋼連盟規格(The Japan Iron and Steel Federation Standard)の規定に準拠した方法に従い穴拡げ試験(hole-expanding test)を行うことで評価されている。しかしながら、この穴拡げ試験は、実際の製造ラインで自動車部品を量産する際の打抜き加工工程および穴拡げ加工工程を忠実に再現するものとは云い難い。したがって、上記規定に従う実験的な評価で良好なバーリング加工性が得られた鋼板であっても、自動車部品を量産する際、加工不良(processing defect)が度々発生するという問題がある。
[0014]
 特に部品の量産化を考えた場合、実験室での加工性評価(evaluation of workability)だけでは十分でなく、更に、量産での加工条件変動をも考慮した上で、素材の加工性を保証する必要がある。従来技術では、このような問題について全く検討されていないため、所望の強度と、自動車部品を量産する際に要求される加工性、特にバーリング加工性(以下、量産バーリング加工性という場合もある)とを兼ね備えた高強度熱延鋼板が必ずしも得られていない。例えば、特許文献1~3で提案された技術をはじめとする、従来のフェライト主体組織にTi炭化物を活用する技術では、高強度熱延鋼板の製造安定性や優れた量産バーリング加工性を実現できていない。
[0015]
 以上のように、従来、伸びフランジ性(バーリング加工性)に優れた熱延鋼板に関して多くの検討がなされてきた。しかし、従来技術では、必ずしも量産バーリング加工性、すなわち実際の自動車部品製造ラインで要求されるような厳しいバーリング加工性を満足する高強度熱延鋼板が得られていないのが実情である。
[0016]
 本発明は、上記の従来技術が抱える問題を有利に解決し、引張強さ(TS)が700MPa以上であり且つバーリング加工性、特に量産バーリング加工性に優れた高強度熱延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
[0017]
 なお、ここでいう「量産バーリング加工性」とは、50mmφポンチ(punch)による打ち抜き後(打抜きクリアランス(clearance of stamping):30%)、60°円錐ポンチ(conical punch)による穴拡げ試験(hole-expanding test)を実施することで測定されるバーリング率(burring ratio)により評価されるものであり、従来の穴拡げ試験方法、例えば日本鉄鋼連盟規格で規定された、穴拡げ試験方法に準拠したλ値で評価されるバーリング加工性とは異なるものである。

課題を解決するための手段

[0018]
 上記課題を解決すべく、本発明者らはまず、量産バーリング加工性の評価方法について検討した。従来、バーリング加工性は、例えば日本鉄鋼連盟規格で規定された穴拡げ試験方法に準拠したλ値で評価されてきた。この場合、打抜きポンチ径は10mmφである。しかし、本発明者らは、実際の部品量産現場におけるバーリング加工性と日本鉄鋼連盟規格に基づいて実験室で評価したλ値に乖離があることを知見した。そして、更に検討を進めた結果、50mmφポンチによる打ち抜き後(打抜きクリアランス:30%)、60°円錐ポンチを用いて穴を拡げるという新規の穴拡げ試験を採用して評価したバーリング加工性が、量産打ち抜き性、量産バーリング加工性と良好な相関関係を有することを知見した。
[0019]
 続いて、本発明者らは、上記新規の穴拡げ試験を採用して量産バーリング加工性を評価することで、熱延鋼板の高強度化と加工性、特に量産バーリング加工性に及ぼす各種要因について鋭意検討した。
[0020]
 具体的には、延性の高いフェライト相主体組織をベースとした熱延鋼板について、窒化物、硫化物、炭化物、およびこれらの複合析出物(例えば炭窒化物など)、すなわち熱延鋼板中に析出し得る全ての析出物を考慮に入れ、熱延鋼板の高強度化を図りつつ量産バーリング加工性を向上させる手段について鋭意検討を重ねた。
[0021]
 その結果、熱延鋼板中に含まれるC量と、Tiのうち炭化物の形成に寄与するTi量(Ti*)とのバランスを最適化するとともに、熱延鋼板に析出する炭化物のうち粒径が9nm未満である炭化物の割合を高めることで、実際の自動車部品製造ラインで要求されるような厳しい量産バーリング加工性を備えた、引張強さ700MPa以上の熱延鋼板が得られることを知見した。また、炭化物のみならず、熱延鋼板に析出し得る析出物(窒化物、硫化物、炭化物、およびこれらの複合析出物)全体のサイズ制御を行うことにより、量産バーリング加工性がより一層向上することを知見した。
[0022]
 更に、本発明者らは、熱延鋼板に析出する析出物(窒化物、硫化物、炭化物、およびこれらの複合析出物)を、所望の大きさ、すなわち熱延鋼板に所望の強度(引張強さ700MPa以上)と優れた量産バーリング加工性を付与するうえ必要となる大きさに制御する手段について検討した。その結果、熱延鋼板のMn含有量、並びにC、S、N、Ti各々の含有量を適正量に調整し、熱間圧延条件や熱間圧延後の冷却・巻取り条件を最適化する必要があることを知見した。
[0023]
 本発明は上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は次のとおりである。
[1] 質量%で、C:0.03%以上0.1%以下、Si:0.5%未満、Mn:0.7%超1.2%未満、P:0.05%以下、S:0.005%以下、N:0.01%以下、Al:0.1%以下、Ti:0.1%以上0.25%以下を、C、S、NおよびTiが下記(1)式および(2)式を満足するように含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、フェライト相の分率が90%超であり、Tiを含有する炭化物が析出し、該炭化物のうちの70%以上が粒径9nm未満である組織を有することを特徴とする、高強度熱延鋼板。
[0024]
               記
              Ti*≧0.1 … (1)
      C×(48/12)-0.14<Ti*<C×(48/12)+0.08 … (2)
 但し、(1)式および(2)式において、Ti*=Ti-N×(48/14)-S×(48/32)であり、C、S、N、Tiは各元素の含有量(質量%)である。
[2] 前記[1]において、Tiのうちの50質量%以上が、粒径20nm未満のTiを含有する析出物として析出していることを特徴とする、高強度熱延鋼板。
[3] 前記[1]または[2]において、前記組成に加えてさらに、質量%でV:0.002%以上0.1%以下、Nb:0.002%以上0.1%以下のうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする、高強度熱延鋼板。
[4] 前記[1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.005%以上0.2%以下、Ni:0.005%以上0.2%以下、Cr:0.002%以上0.2%以下、Mo:0.002%以上0.2%以下のうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする、高強度熱延鋼板。
[5] 前記[1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%でB:0.0002%以上0.003%以下を含有することを特徴とする、高強度熱延鋼板。
[6] 前記[1]ないし[5]のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%でCa:0.0002%以上0.005%以下、REM:0.0002%以上0.03%以下のうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする、高強度熱延鋼板。
[7] 前記[1]、[3]ないし[6]のいずれかに記載の組成を有する鋼素材を、1100℃以上に加熱し、仕上圧延温度が(Ar 3+20℃)以上であり且つ仕上圧延最終2スタンドの合計圧下率が60%以下である熱間圧延を施した後、平均冷却速度40℃/s以上で冷却し、巻取り温度560℃以上720℃以下で巻き取ることを特徴とする、高強度熱延鋼板の製造方法。
[8] 前記[1]、[3]ないし[6]のいずれかに記載の組成を有する鋼素材を、1100℃以上に加熱し、仕上圧延温度が(Ar 3+20℃)以上であり且つ仕上圧延最終2スタンドの合計圧下率が60%以下である熱間圧延を施した後、平均冷却速度40℃/s以上で冷却し、巻取り温度500℃以上660℃以下で巻き取り、酸洗後、均熱温度を750℃以下とする焼鈍処理を施し、溶融亜鉛めっき浴に浸漬するめっき処理を施すことを特徴とする、高強度熱延鋼板の製造方法。
[9] 前記[8]において、前記めっき処理を施した後、合金化処理を施すことを特徴とする、高強度熱延鋼板の製造方法。

発明の効果

[0025]
 本発明によると、引張強さが700MPa以上であり、しかも自動車部品を量産する際の加工に耐え得る優れたバーリング加工性を有する高強度熱延鋼板が得られる。したがって、本発明によると、高強度熱延鋼板を自動車における車体のメンバーやフレームなどの構造部材、更にはサスペンションなどの足まわり部材に適用することが可能となり、本発明はこれらの部品の軽量化に大いに貢献する。
[0026]
 また、本発明は、引張強さ700MPa以上の強度と優れた量産バーリング加工性を兼ね備えた熱延鋼板が得られることから、その用途は自動車部品に限らず、高強度熱延鋼板の更なる用途展開が可能となり、産業上格段の効果を奏する。

発明を実施するための形態

[0027]
 以下、本発明について具体的に説明する。
[0028]
 本発明の高強度熱延鋼板は、質量%で、C:0.03%以上0.1%以下、Si:0.5%未満、Mn:0.7%超1.2%未満、P:0.05%以下、S:0.005%以下、N:0.01%以下、Al:0.1%以下、Ti:0.1%以上0.25%以下を、C、S、NおよびTiが以下の(1)式および(2)式を満足するように含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、フェライト相の分率が90%超であり、Tiを含有する炭化物が析出し、該炭化物のうちの70%以上が粒径9nm未満である組織を有することを特徴とする。
Ti*≧0.1 … (1)
C×(48/12)-0.14<Ti*<C×(48/12)+0.08 … (2)
但し、(1)式および(2)式において、Ti*=Ti-N×(48/14)-S×(48/32)であり、C、S、N、Tiは各元素の含有量(質量%)である。
[0029]
 まず、本発明熱延鋼板の成分組成の限定理由について説明する。なお、以下の成分組成を表す%は、特に断らない限り質量%を意味するものとする。
[0030]
 C:0.03%以上0.1%以下
 Cは、熱延鋼板中に適正な炭化物を形成して必要な鋼板強度を確保するうえで重要な元素である。所望の引張強さ(700MPa以上)を得るには、C含有量を0.03%以上とする必要がある。一方、C含有量が0.1%を超えると、熱延鋼板の加工性が低下し、所望のバーリング加工性を確保することができない。したがって、C含有量は0.03%以上0.1%以下とする。好ましくは、0.04%以上0.08%以下である。
[0031]
 Si:0.5%未満
 Si含有量が0.5%以上になると、熱延鋼板の表面性状の著しい低下を招き、疲労特性、化成処理性および耐食性等に悪影響を及ぼす。また、Siは、フェライト変態温度を上げるため、本発明が目的とする微細析出物の生成に悪影響を及ぼす。したがって、Si含有量は0.5%未満とする。好ましくは0.001%以上0.1%未満、より好ましくは0.001%以上0.05%未満である。
[0032]
 Mn:0.7%超1.2%未満
 Mnは、本発明において最も重要な元素の一つである。Mnは、オーステナイト-フェライト変態点制御(control of austenite-to-ferrite transformation temperatures)を介して、本発明で最も重要なTiを含有する炭化物の析出(precipitation)に顕著に影響を及ぼす。
[0033]
 Tiを含有する熱延鋼板の場合、Tiを含有する炭化物は主に、熱延鋼板製造工程における仕上げ圧延終了後の冷却および巻取り過程でオーステナイト→フェライト変態に伴い析出する。また、熱延鋼板中に析出する炭化物のうち、熱延鋼板の高強度化に寄与するのは微細な炭化物であり、粗大な炭化物は高強度化に寄与しないばかりか熱延鋼板の加工性に悪影響を及ぼす。
[0034]
 ここで、オーステナイト-フェライト変態点が高温になると、Tiを含有する炭化物が高温域で析出することになるため、Tiを含有する炭化物が粗大化してしまう。したがって、Tiを含有する炭化物を微細化するうえでは、オーステナイト-フェライト変態点を低下させることが好ましい。
[0035]
 Mnはオーステナイト-フェライト変態点を低下させる効果を有する元素である。Mn含有量が0.7%以下である場合、オーステナイト-フェライト変態点が十分に低下しない。その結果、Tiを含有する炭化物を本発明所望の大きさに制御することが困難となり、本発明が目的とする量産バーリング加工性に優れた高強度熱延鋼板が得られない。一方、Mn含有量が1.2%以上になると、上記の効果が飽和するため、コスト増につながる結果となる。また、Mn含有量が1.2%以上と過剰になると、板厚中央部のMn偏析が大きくなる。この中央偏析(center segregation)は、バーリング加工前の打抜き穴の端面性状(punched surface)を損なうため、量産バーリング加工性の劣化の要因となる。したがって、Mn含有量は0.7%超1.2%未満に限定する。好ましくは、0.7%超1.0%未満である。
[0036]
 P:0.05%以下
 Pは、偏析等により熱延鋼板の加工性の低下を招く。したがって、P含有量は0.05%以下に抑制する。好ましくは0.001%以上0.03%以下である。但し、熱延鋼板に亜鉛めっき処理(galvanized treatment)を施して亜鉛めっき鋼板(galvanized steel sheet)とする場合には、めっき性の観点からP含有量を0.005%以上とすることが好ましく、0.01%以上とすることがより好ましい。
[0037]
 S:0.005%以下
 Sは、硫化物を形成して熱延鋼板の加工性を低下させる。したがって、S含有量は0.005%以下とする。好ましくは0.0001%以上0.003%以下であり、より好ましくは0.0001%以上0.0015%以下である。
[0038]
 N:0.01%以下
 N含有量が0.01%を超えて過剰になると、熱延鋼板の製造工程で多量の窒化物を生成し、熱間延性(hot ductility)が劣化したり、窒化物が粗大化して熱延鋼板のバーリング加工性を著しく損なう。したがって、N含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.0001%以上0.006%以下、より好ましくは0.0001%以上0.004%以下である。
[0039]
 Al:0.1%以下
 Alは、鋼の脱酸剤として重要な元素である。しかし、その含有量が0.1%を超えると、鋼の鋳造が難しくなったり、鋼中に多量の介在物が残存して熱延鋼板の表面性状や加工性の低下を招く。したがって、Al含有量は0.1%以下とする。好ましくは0.001%以上0.06%以下である。
[0040]
 Ti:0.1%以上0.25%以下
 Tiは、本発明で最も重要な元素の一つである。Tiは、微細炭化物を形成して熱延鋼板の強度上昇に寄与する。所望の強度を得るには、Ti含有量を0.1%以上とする必要がある。一方、Ti含有量が0.25%を超えると、熱延鋼板に粗大な炭化物が残存し易くなり、強度上昇に効果がないばかりか、熱延鋼板の加工性、靭性および溶接性等を著しく損なう。したがって、Ti含有量は0.1%以上0.25%以下とする。好ましくは0.1%以上0.2%以下である。
[0041]
 本発明の熱延鋼板は、C、S、N、Tiを、上記した範囲で以下の(1)式、(2)式を満足するように含有する。(1)式および(2)式は、熱延鋼板の高強度化と優れた量産バーリング加工性を両立するために満足すべき要件であり、本発明において極めて重要な指標である。なお、(1)式および(2)式において、Ti*=Ti-N×(48/14)-S×(48/32)であり、C、S、N、Tiは各元素の含有量(%)である。
[0042]
 Ti*≧0.1 … (1)
 後述するように、本発明においては、鋼素材に所定量のTiを添加し、熱延前の加熱で鋼素材中の炭化物を固溶し、主に熱間圧延後の巻取り時にTiを含有する炭化物を析出させる。しかしながら、鋼素材に添加したTiの全量が炭化物生成に寄与するわけではなく、鋼素材に添加したTiの一部は窒化物や硫化物の形成に消費される。巻取り温度よりも高温域では、Tiが炭化物よりも窒化物や硫化物を形成し易く、熱延鋼板の製造時、巻取り工程の前にTiが窒化物や硫化物を形成するためである。よって、鋼素材に添加したTiのうち炭化物生成に寄与できる最小限のTi量は、Ti*(=Ti-N×(48/14)-S×(48/32))で表すことができる。
[0043]
 ここで、Ti*が0.1未満であると、所望の熱延鋼板強度(引張強さ700MPa以上)が得られない。したがって、本発明では、Ti*を0.1以上とする。好ましくは0.12以上である。但し、Ti*が過剰に高くなると、熱延鋼板強度が高くなりすぎ、加工性が低下するおそれがある。また、Ti*が過剰に高くなるとTi炭化物、Ti炭窒化物、Ti窒化物、Ti硫化物などTiを含有する析出物が粗大化して、量産バーリング加工性が低下するおそれがある。このため、Ti*は0.2以下とすることが好ましい。
[0044]
 C×(48/12)-0.14<Ti*<C×(48/12)+0.08 … (2)
 (2)式は、Ti*量とC量の関係を示す式である。Ti*量に対してC量が過剰に多くなると、
Ti炭化物、Ti炭窒化物などが粗大化するともに、粗大なセメンタイト(Cementite)あるいはパーライト(Pearlite)が析出し、量産バーリング加工性をはじめとする熱延鋼板の加工性を著しく損なう。したがって、本発明では、C×(48/12)-0.14<Ti*とする。好ましくはC×(48/12)-0.12<Ti*である。一方、C量に対してTi*量が過剰に多くなると、コストが嵩むばかりでなく、熱延鋼板の靭性および溶接性が劣化する。したがって、本発明では、Ti*<C×(48/12)+0.08とする。好ましくはTi*<C×(48/12)+0.06である。
[0045]
 以上が、本発明熱延鋼板の基本成分である。さらに、本発明の熱延鋼板は、必要に応じてV:0.002%以上0.1%以下、Nb:0.002%以上0.1%以下のうちの少なくとも1種を含有してもよい。
[0046]
 VおよびNbは、結晶粒を微細化し、熱延鋼板の靭性を向上させる効果があるため、必要に応じて添加してもよい。また、添加したVやNbの一部はTiと共に微細な複合炭化物(complex carbide)または複合析出物として析出し、析出強化(precipitation strengthening)に寄与する。このような効果を得るには、V含有量を0.002%以上、Nb含有量を0.002%以上とすることが好ましい。但し、これらの元素の含有量が0.1%を超えると、コストに見合う効果が得られない。したがって、V含有量は0.002%以上0.1%以下とすることが好ましく、0.002%以上0.08%以下とすることがより好ましい。また、Nb含有量は0.002%以上0.1%以下とすることが好ましく、0.002%以上0.08%以下とすることがより好ましい。
[0047]
 また、本発明の熱延鋼板は、必要に応じてCu:0.005%以上0.2%以下、Ni:0.005%以上0.2%以下、Cr:0.002%以上0.2%以下、Mo:0.002%以上0.2%以下のうちの少なくとも1種を含有してもよい。
[0048]
 CuおよびNiは、熱延鋼板の強度上昇に寄与する元素であり、必要に応じて添加してもよい。このような効果を得るには、Cu含有量を0.005%以上、Ni含有量を0.005%以上とすることが好ましい。但し、これらの元素の含有量が0.2%を超えると、熱延鋼板製造時、熱間圧延中に表層割れを起こすおそれがある。したがって、Cu含有量は0.005%以上0.2%以下とすることが好ましく、0.005%以上0.1%以下とすることがより好ましい。また、Ni含有量は0.005%以上0.2%以下とすることが好ましく、0.005%以上0.15%以下とすることがより好ましい。
[0049]
 CrおよびMoは、ともに炭化物形成元素(carbide formation elements)であり、熱延鋼板の強度上昇に寄与するため、必要に応じて添加してもよい。このような効果を得るには、Cr含有量を0.002%以上、Mo含有量を0.002%以上とすることが好ましい。但し、これらの元素の含有量が0.2%を超えると、コストに見合う効果が得られない。したがって、Cr含有量は0.002%以上0.2%以下とすることが好ましく、0.002%以上0.1%以下とすることがより好ましい。また、Mo含有量は0.002%以上0.2%以下とすることが好ましく、0.002%以上0.1%以下とすることがより好ましい。
[0050]
 また、本発明の熱延鋼板は、必要に応じてB:0.0002%以上0.003%以下を含有してもよい。
[0051]
 Bは、鋼のオーステナイト-フェライト変態を遅延させる元素であり、オーステナイト-フェライト変態を抑制することでTiを含む炭化物の析出温度を低温化し、該炭化物の微細化に寄与する。このような効果を得るには、B含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。一方、B含有量が0.003%を超えると、Bによるベイナイト変態効果が強くなり、熱延鋼板組織を本発明が目的とするフェライト主相組織とすることが困難となる。したがって、B含有量は0.0002%以上0.003%以下とすることが好ましく、0.0002%以上0.002%以下とすることがより好ましい。
[0052]
 また、本発明の熱延鋼板は、必要に応じてCa:0.0002%以上0.005%以下、REM:0.0002%以上0.03%以下のうちの少なくとも1種を含有してもよい。
[0053]
 CaおよびREMは、鋼中介在物の形態制御に有効な元素であり、熱延鋼板の加工性向上に寄与する。このような効果を得るには、Ca含有量を0.0002%以上、REM含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。但し、Ca含有量が0.005%を超える場合、或いはREM含有量が0.03%を超える場合、鋼中介在物が増加して熱延鋼板の加工性が劣化するおそれがある。したがって、Ca含有量は0.0002%以上0.005%以下とすることが好ましく、0.0002%以上0.003%以下とすることがより好ましい。また、REM含有量は0.0002%以上0.03%以下とすることが好ましく、0.0002%以上0.003%以下とすることがより好ましい。
[0054]
 本発明において、上記以外の成分は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、W、Co、Ta、Sn、Sb、ZrおよびO等が挙げられ、これらの含有量はそれぞれ0.1%以下であれば許容できる。
[0055]
 次に、本発明熱延鋼板の組織の限定理由について説明する。
[0056]
 本発明の熱延鋼板は、フェライト相の分率が90%超であり、Tiを含有する炭化物が析出し、該炭化物のうちの70%以上が粒径9nm未満である組織を有する。また、熱延鋼板に含まれるTiのうちの50質量%以上が、粒径20nm未満の析出物として析出した組織とすることが好ましい。
[0057]
 フェライト相の分率:90%超
 熱延鋼板のバーリング加工性の向上には、熱延鋼板組織を、延性に優れたフェライト相とすることが有効である。本発明の目的とする量産バーリング加工性を実現するには、熱延鋼板の組織全体に対するフェライト分率を面積率で90%超とする必要がある。好ましくは面積率で94%超、より好ましくは面積率で96%超である。また、フェライト粒の形状はポリゴナル状であることが、バーリング加工性の観点から望ましい。更に、フェライト粒径は極力、微細であることが望ましい。なお、バーリング加工性の観点からは、熱延鋼板組織をフェライト単相組織とすることが好ましい。また、打ち抜き性向上の観点からはフェライト分率を面積率で99%以下とすることが好ましい。
[0058]
 本発明の熱延鋼板において、含有され得るフェライト相以外の組織としては、セメンタイト、パーライト(pearlite)、ベイナイト、マルテンサイト、残留γ(retained austenite)等が挙げられる。これらの組織が熱延鋼板中に存在するとバーリング加工性が低下するが、これらの組織は合計分率が面積率で約10%未満であれば許容される。好ましくは面積率で6%未満、より好ましくは面積率で4%未満である。
[0059]
 Tiを含有する炭化物
 本発明では、熱延鋼板中にTiを含有する炭化物を析出させることで、熱延鋼板に所望の強度(引張強さ700MPa以上)を付与する。このTiを含有する炭化物は主に、熱延鋼板製造工程における仕上げ圧延終了後の冷却、巻取り工程で、オーステナイト→フェライト変態に伴い析出する炭化物である。
[0060]
 析出強化の効果を最大限引き出し、強度と加工性(量産バーリング加工性)のバランスを最適化するには、熱延鋼板中に析出するTiを含有する炭化物を微細化する必要がある。本発明者らが鋭意検討した結果、所望の特性を達成するには、Tiを含有する炭化物のうち個数にして70%以上の炭化物を粒径9nm未満とする必要があることを見出した。好ましくは80%以上である。ここで、「Tiを含有する炭化物」には、Ti炭化物のほか、Tiに加えてNb、V、Cr、Moのうちの1種以上を含有する複合炭化物なども含まれる。
[0061]
 Tiを含有する析出物
 Tiを含有する析出物の大きさを制御することにより、熱延鋼板の量産バーリング加工性をより一層高めることができる。
[0062]
 先述のとおり、Ti含有鋼を素材とした熱延鋼板の場合、熱延鋼板の高強度化に寄与する炭化物(Tiを含む炭化物)の他に、Tiを含む窒化物、炭窒化物、硫化物などが析出している。また、熱延鋼板の製造時、これらの窒化物や炭窒化物、硫化物などは、Tiを含む炭化物より先に析出する。このためTiを含む窒化物、炭窒化物、硫化物は、炭化物の析出よりも高い温度域で析出するため、粗大化しやすく量産バーリング加工性を低下させやすい。
[0063]
 本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、これらの析出物の析出量と粒径を制御することが、本発明が主眼を置く量産バーリング加工性の向上化に極めて有効であることを知見した。このような効果を発現させるためには、熱延鋼板中に含まれるTiのうちの50質量%以上を、粒径20nm未満のTiを含有する析出物として析出させることが好ましい。より好ましくは60質量%以上85質量%以下である。粒径20nm未満のTiを含有する析出物は大部分、Tiを含有する炭化物であるが、一部、Tiを含む窒化物、炭窒化物、硫化物を含む。
[0064]
 ここで、上記Tiを含有する析出物にはTi炭化物、Ti窒化物、Ti硫化物、Ti炭窒化物などの析出物のほか、Tiに加えてNb、V、Cr、Moのうちの1種以上を含有する複合炭化物、複合窒化物、複合硫化物、および複合炭窒化物などの複合析出物も含まれる。
[0065]
 なお、Tiを含有する析出物のうち、粒径が20nm以上である析出物が析出している場合であっても、その析出量が適正量であれば、バーリング加工の前段階である打抜き性の向上に寄与し、延いてはバーリング加工性の改善に寄与すると推察される。
[0066]
 また、耐食性を付与する目的で、本発明熱延鋼板の表面にめっき層を設けても、上記した本発明の効果を損なうことはない。熱延鋼板表面に設けるめっき層の種類は特に限定されず、電気めっき(galvanic electroplating)、溶融めっき(hot-dip plating)等、いずれであっても構わない。また、溶融めっきとしては、例えば溶融亜鉛めっき(hot-dip galvanization)が挙げられる。更に、めっき後に合金化処理(alloying treatment)を施した合金化溶融亜鉛めっき(galvannealed steel)としてもよい。
[0067]
 次に、本発明の熱延鋼板の製造方法について説明する。
[0068]
 本発明は、上記した組成の鋼素材を、1100℃以上に加熱し、仕上圧延温度が(Ar 3+20℃)以上であり且つ仕上圧延最終2スタンドの合計圧下率が60%以下である熱間圧延を施した後、平均冷却速度40℃/s以上で冷却し、巻取り温度560℃以上720℃以下で巻き取ることを特徴とする。
[0069]
 本発明において、鋼素材の溶製方法は特に限定されず、例えば転炉(converter)や電気炉(electric furnace)、誘導炉などで溶製を行う。その後、真空脱ガス装置(vacuum degassing equipment)などを活用して二次精錬(secondary smelting)を行うことが好ましい。その後の鋳造は、生産性や品質上の点から連続鋳造法(continuous casting process)で行うのが好ましい。なお、分塊圧延(blooming)による方法も可能である。鋳造されるスラブ(slab)(鋼素材)は、厚みが200~300mm程度の通常のスラブであっても、厚みが30mm程度の薄スラブであってもよい。薄スラブにすれば粗圧延(rough rolling)を省略できる。鋳造後のスラブは、そのまま直送熱間圧延(hot direct rolling)しても、加熱炉で再加熱後に熱間圧延してもよい。
[0070]
 鋼素材の加熱温度:1100℃以上
 上記の如く得られた鋼素材に熱間圧延を施す。本発明では、熱間圧延に先立ち、鋼素材(スラブ)を加熱し、鋼素材中の炭化物を再固溶させることが重要である。鋼素材の加熱温度が1100℃未満である場合、鋼素材中の炭化物が再固溶せず、熱間圧延終了後の冷却および巻取り工程で所望の微細炭化物を得ることができない。したがって、鋼素材の加熱温度は1100℃以上とする。好ましくは1200℃以上、より好ましくは1240℃以上である。
[0071]
 但し、鋼素材の加熱温度が過剰に高くなると、過度に鋼板表面の酸化が促進され、表面性状(surface quality)を著しく損ない、熱延鋼板の加工性にも悪影響を及ぼす。したがって、鋼素材の加熱温度は1350℃以下とすることが好ましい。
[0072]
 鋼素材の加熱に続き、鋼素材に粗圧延と仕上圧延からなる熱間圧延を施す。粗圧延条件については特に限定されない。また、先述のとおり、鋼素材が薄スラブである場合には、粗圧延を省略してもよい。仕上圧延は、仕上圧延温度を(Ar 3+20℃)以上とし、仕上圧延機の最終2スタンドの合計圧下率(total reduction ratio)を60%以下とする。
[0073]
 仕上圧延温度:(Ar 3+20℃)以上
 仕上圧延温度が(Ar 3+20℃)未満である場合、熱間圧延終了後の冷却および巻取り工程におけるオーステナイト→フェライト変態が、未再結晶γ粒(unrecrystallized austenite grain)からのフェライト変態となる。このような場合、所望の微細炭化物が得られず、本発明が目標とする熱延鋼板強度(引張強さ700MPa以上)を達成できない。したがって、仕上圧延温度は(Ar 3+20℃)以上とする。好ましくは(Ar 3+40℃)以上である。但し、仕上圧延温度が過剰に高くなると、結晶粒が粗大化して熱延鋼板の打抜き性(punchability)に悪影響を及ぼすため、仕上圧延温度は(Ar 3+140℃)以下とすることが好ましい。
[0074]
 なお、ここでいうAr 3変態点は、冷却速度5℃/sの加工フォーマスタ実験(thermecmastor test)(熱間加工再現試験(thermo-mechanical simulation test))で熱膨張曲線(thermal expansion curve)を求め、その変化点により求めた変態温度である。
[0075]
 仕上圧延最終2スタンドの合計圧下率:60%以下
 仕上圧延最終2スタンドの合計圧下率が60%を超える場合、残存歪が大きくなり、未再結晶γ粒からのフェライト変態を助長することになる。したがって、仕上圧延機の最終2スタンドの合計圧下率を60%以下とする。好ましくは50%以下である。
[0076]
 平均冷却速度:40℃/s以上
 熱間圧延終了後に冷却を施す際、平均冷却速度が40℃/s未満である場合、フェライト変態温度が高くなる。その結果、高温域で炭化物が析出してしまい、所望の微細炭化物が得られず、本発明が目標とする熱延鋼板強度(引張強さ700MPa以上)を達成できない。したがって、平均冷却速度は40℃/s以上とする。好ましくは50℃/s以上である。但し、平均冷却速度が大きくなり過ぎると、所望のフェライト組織が得られなくなるおそれがあるため、150℃/s以下とすることが好ましい。
[0077]
 なお、ここでいう平均冷却速度とは、仕上圧延温度-巻取り温度間の平均冷却速度である。
[0078]
 本発明では、上記平均冷却速度で冷却し、フェライト変態温度を巻取り温度付近まで低下させることで、巻き取り直前から巻取り工程初期の間に、Tiを含有する炭化物を析出させる。これにより、Tiを含有する炭化物が高温域で析出して粗大化するのを回避し、本発明所望の微細炭化物が析出した熱延鋼板が得られる。
[0079]
 巻取り温度:560℃以上720℃以下
 上記のとおり、本発明では、Tiを含有する微細な炭化物を、主に巻き取り直前から巻取り工程初期の間に析出させる。したがって、Tiを含有する炭化物を微細かつ多量に析出させるためには、巻取り温度を、Tiを含有する炭化物の析出に適した温度域に設定する必要がある。巻取り温度が560℃未満である場合、或いは720℃を超える場合、鋼の高強度化に寄与する微細な炭化物が十分に析出せず、所望の熱延鋼板強度が得られない。以上の理由により、巻取り温度を560℃以上720℃以下とする。好ましくは600℃以上700℃以下である。
[0080]
 本発明では、巻取り後の熱延鋼板に、酸洗および焼鈍処理を施した後、溶融亜鉛めっき浴(molten zinc bath)に浸漬するめっき処理を施してもよい。また、めっき処理を施した後、合金化処理を施してもよい。めっき処理を施す場合には、巻取り温度を500℃以上660℃以下とし、焼鈍処理の均熱温度を750℃以下とする。
[0081]
 巻取り温度:500℃以上660℃以下
 巻取り温度が高くなるにつれて、熱延鋼板に内部酸化層(internal oxidation layer)が生成し易くなる。この内部酸化層はめっき不良の要因となり、特に、巻取り温度が660℃を超えるとめっき品質が確保できなくなる。一方、めっき不良を抑制する観点からは巻取り温度を低く設定することが好ましい。しかしながら、巻取り温度が500℃未満になると、Tiを含有する炭化物の析出量を十分に確保することができず、所望の熱延鋼板強度が得られない。したがって、巻き取り後にめっき処理を施す場合には、巻取り温度を500℃以上660℃以下とする。好ましくは500℃以上600℃以下である。
[0082]
 均熱温度:750℃以下
 上記のとおり、めっき処理を施す場合には、巻取り温度を低めに設定するため、熱延鋼板の高強度化に寄与する微細な炭化物(Tiを含有する炭化物)が巻取り時に十分に析出しない場合がある。そこで、本発明では、めっき処理前の焼鈍処理時に微細な炭化物(Tiを含有する炭化物)を析出させ、めっき処理後の熱延鋼板を所望の強度(引張強さ700MPa以上)とする。ここで、焼鈍処理の均熱温度(soaking temperature)が750℃を超えると、析出した炭化物(Tiを含有する炭化物)が粗大化してしまい、熱延鋼板強度が低下する。したがって、焼鈍処理の均熱温度は750℃以下とする。好ましくは720℃以下である。なお、微細な炭化物(Tiを含有する炭化物)の析出を促進する観点からは、焼鈍処理の均熱温度を600℃以上とすることが好ましい。また、均熱温度での保持時間は、10s以上1000s以下とすることが好ましい。
[0083]
 焼鈍処理後、鋼板を溶融亜鉛めっき槽に浸漬し、鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を形成する。溶融亜鉛めっき槽に浸漬した後、合金化処理を施してもよい。焼鈍処理およびめっき処理は、連続溶融亜鉛めっきライン(continuous hot-dip galvanizing line)にて実施することが好ましい。
[0084]
 また、めっきの種類は、上記の溶融亜鉛めっき、合金化溶融めっきのみならず、電気亜鉛めっき(electrogalvanizing)とすることもできる。
[0085]
 なお、めっき処理条件や合金化処理条件、その他の製造条件は特に限定されず、例えば通常の条件で行うことができる。
実施例
[0086]
 表1に示す成分とAr 3変態点を有する鋼スラブ(No.A~Q)を、1200~1290℃に加熱し、表2に示す熱延条件で熱延鋼板(No.1~23)を作製した。板厚は2.0~4.0mmである。なお、表1のAr 3変態点は、上述の方法により求めた。一部の熱延鋼板(No.3,4,9~11,16,18,19)については、酸洗後、溶融亜鉛めっきラインに通板することで、表2に示す均熱温度で焼鈍処理を施し、更に溶融亜鉛めっき処理を施した。なお、溶融亜鉛めっき処理は、焼鈍処理後の熱延鋼板を480℃の亜鉛めっき浴(0.1質量%Al-Zn)中に浸漬し、片面当たり付着量45g/m 2の溶融亜鉛めっき層(hot-dip galvanizing layer)を鋼板の両面に形成する処理とした。また、一部の熱延鋼板(No.9~11,16,18,19)には、溶融亜鉛めっき処理に加えて合金化処理を施した。合金化処理温度は520℃とした。
[0087]
 上記により得られた熱延鋼板(No.1~23)から試験片を採取し、組織観察(microstructure observation)、引張試験、穴拡げ試験を行った。組織観察方法および各種試験方法は次のとおりとした。
[0088]
 (i)組織観察
 フェライト相の分率
 熱延鋼板から走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)用試験片を採取し、圧延方向に平行な板厚断面を研磨後、ナイタール腐食(natal etching)し、板厚1/4位置において、倍率3000倍でSEM写真を10視野で撮影し、フェライト相とフェライト以外の相を画像解析(image analysis)により分離して、それぞれの相の分率(面積率)を決定した。
[0089]
 Tiを含有する炭化物
 熱延鋼板(板厚1/4位置)から薄膜試料(thin-film sample)を作製し、透過電子顕微鏡(transmission electron microscope)を用いて20万倍の写真を10視野撮影した。
撮影した写真を元に、Tiを含有する炭化物の全個数(N 0)を求めるとともに、画像処理により、Tiを含有する炭化物の個々の粒径を円近似直径(equivalent circle diameter)として求め、Tiを含有する炭化物のうち粒径が9nm未満である炭化物の個数(N 1)を求めた。これらの値(N 0およびN 1)を用い、Tiを含有する炭化物について、全炭化物数に対する9nm未満の炭化物数の比率(N 1/N 0×100(%))を求めた。
[0090]
 Tiを含有する析出物
 AA系電解液(アセチルアセトン(acetylacetone)-テトラメチルアンモニウムクロライド(tetramethylammonium chlorite)のエタノール溶液(ethanol solution)を用い、熱延鋼板を定電流電解(constant-current electrolysis)して析出物を抽出し、抽出液を孔径20nmのフィルター(filter)を使用して濾過した。このようにして粒径20nm未満の析出物を分離し、これをICP発光分光分析(inductively-coupled plasma optical emission spectrometry)により分析して粒径20nm未満の析出物に含まれているTi量を求めた。粒径20nm未満の析出物に含まれているTi量を、熱延鋼板に含まれているTi量で割り、粒径20nm未満の析出物に含まれているTiの割合(百分率)を求めた。
[0091]
 (ii)引張試験
 熱延鋼板毎に、圧延方向に対して直角方向を引張方向とするJIS 5号引張試験片を3本採取し、JIS Z 2241(2011)の規定に準拠した引張試験(歪み速度:10mm/min)を行い、引張強さ、全伸び(total elongation)を測定した。熱延鋼板毎に引張試験を3回行い、3回の平均値を引張強さ(TS)、全伸び(El)とした。
[0092]
 (iii)穴拡げ試験(量産バーリング加工性評価)
 熱延鋼板から、試験片(大きさ:150mm×150mm)を採取し、該試験片に初期直径d 0の穴を、50mmφポンチを用いた打ち抜き加工(打抜きクリアランス:30%)により形成した。次いで、形成した穴に、打ち抜き時のポンチ側から頂角:60°の円錐ポンチを挿入し、該穴を押し広げ、亀裂が鋼板(試験片)の板厚を貫通したときの穴の径d 1を測定し、次式でバーリング率(%)を算出した。
バーリング率(%)={(d 1-d 0)/d 0}×100
バーリング率が40%以上である場合を、量産バーリング加工性が良好であると評価した。
[0093]
 得られた結果を表3に示す。
[0094]
[表1]


[0095]
[表2]


[0096]
[表3]


[0097]
 本発明例の熱延鋼板(No.1~3,5,6,9,12~16,22,23)はいずれも、所望の引張強さ(700MPa以上)と、優れた量産バーリング加工性を兼備した熱延鋼板となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例の熱延鋼板(No.4,7,8,10,11,17~21)は、所定の高強度が確保できていないか、十分なバーリング率が確保できていない。

請求の範囲

[請求項1]
 質量%で、
C :0.03%以上0.1%以下、 Si:0.5%未満、
Mn:0.7%超1.2%未満、     P :0.05%以下、
S :0.005%以下、        N :0.01%以下、
Al:0.1%以下、 Ti:0.1%以上0.25%以下
を、C、S、NおよびTiが下記(1)式および(2)式を満足するように含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、フェライト相の分率が90%超であり、Tiを含有する炭化物が析出し、該炭化物のうちの70%以上が粒径9nm未満である組織を有することを特徴とする、高強度熱延鋼板。
               記
              Ti*≧0.1 … (1)
      C×(48/12)-0.14<Ti*<C×(48/12)+0.08 … (2)
 但し、(1)式および(2)式において、Ti*=Ti-N×(48/14)-S×(48/32)であり、C、S、N、Tiは各元素の含有量(質量%)である。
[請求項2]
 Tiのうちの50質量%以上が、粒径20nm未満のTiを含有する析出物として析出していることを特徴とする、請求項1に記載の高強度熱延鋼板。
[請求項3]
 前記組成に加えてさらに、質量%でV:0.002%以上0.1%以下、Nb:0.002%以上0.1%以下のうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の高強度熱延鋼板。
[請求項4]
 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.005%以上0.2%以下、Ni:0.005%以上0.2%以下、Cr:0.002%以上0.2%以下、Mo:0.002%以上0.2%以下のうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高強度熱延鋼板。
[請求項5]
 前記組成に加えてさらに、質量%でB:0.0002%以上0.003%以下を含有することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の高強度熱延鋼板。
[請求項6]
 前記組成に加えてさらに、質量%でCa:0.0002%以上0.005%以下、REM:0.0002%以上0.03%以下のうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の高強度熱延鋼板。
[請求項7]
 請求項1、3ないし6のいずれか1項に記載の組成を有する鋼素材を、1100℃以上に加熱し、仕上圧延温度が(Ar 3+20℃)以上であり且つ仕上圧延最終2スタンドの合計圧下率が60%以下である熱間圧延を施した後、平均冷却速度40℃/s以上で冷却し、巻取り温度560℃以上720℃以下で巻き取ることを特徴とする、高強度熱延鋼板の製造方法。
[請求項8]
 請求項1、3ないし6のいずれか1項に記載の組成を有する鋼素材を、1100℃以上に加熱し、仕上圧延温度が(Ar 3+20℃)以上であり且つ仕上圧延最終2スタンドの合計圧下率が60%以下である熱間圧延を施した後、平均冷却速度40℃/s以上で冷却し、巻取り温度500℃以上660℃以下で巻き取り、酸洗後、均熱温度を750℃以下とする焼鈍処理を施し、溶融亜鉛めっき浴に浸漬するめっき処理を施すことを特徴とする、高強度熱延鋼板の製造方法。
[請求項9]
 前記めっき処理を施した後、合金化処理を施すことを特徴とする、請求項8に記載の高強度熱延鋼板の製造方法。