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1. WO2005014873 - ステンレス鋼の加工硬化材

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明 細 書

ステンレス鋼の加工硬化材

技術分野

本発明は、強度,曲げ加工性に優れ、加工硬化でフェライト組織を高強度化し たステンレス鋼加工硬化材に関する。

背景技術

ポ一夕プル型のノートパソコンにみられるように、テレビ,パソコンに代表さ れる家電製品や OA機器用では軽量部材が要求されており、部材の薄肉化によつ て軽量化の要求に応えている。軽量化しても必要強度を確保する上で、圧延方向 の 0.2%耐力約 500NZmm2又はピッカース硬度 HV≥約 200が目安とされて いる。 ' 金属部材をフレーム,保護ケース等として家電製品, OA機器に組み込む際、 プレス加工,曲げ加工等によって金属切板を所定形状に加工している。そのため、 家電製品, OA機器用の金属部材としては、強度に加えて曲げ加工性に優れてい ることも重要である。

しかも、環境保全やリサイクル性を重視し、めっき不要の無垢金属素材の二一 ズが高いことが最近の傾向である。耐食性に優れた無垢金属素材には、 SUS410, SUS420J2 に代表されるマルテンサイト系, SUS631 に代表される析出硬化型,

SUS304, SUS301 に代表される加工硬化型オーステナイト系等の高強度ステン レス鋼がある。

マルテンサイト系,析出硬化型のステンレス鋼は、製品形状に加工した後でそ れぞれ焼入れ'焼戻し処理,時効処理を施すことにより高強度化される。しかし、 ユーザ側で焼入れ'焼戻し処理,時効処理を必要とするため、そのための設備負 担を強いられる。しかも、熱処理された製品表面に生じた酸化スケールを除去す る酸洗又は研磨工程や、熱変形を矯正する手直し加工が必要になる。

加工硬化型オーステナイト系ステンレス鋼は、素材段階で強化しており曲げ加 ェ性も良好なためユーザ側での熱処理を省略できる材料であるが、高価な Niを 多量に含むため鋼材コストが高くなる。そこで、加工硬化型オーステナイト系ス テンレス鋼の長所を活かしながら Ni含有量を低減した安価なステンレス鋼が開 発されている。たとえば、マルテンサイト相で強度を、フェライト相で加工性を もたせた(フェライト +マルテンサイト)複相型ステンレス鋼(特開昭 63-169330号公報),(フェライト +マルテンサイト)複相組織又はマルテンサイト単 層組織に分散している MnS系介在物粒子のサイズや形態制御により曲げ加工性 を改善したステンレス鋼(特開平 11-302791 号公報),冷間圧延でフェライト 組織を加工硬化させ熱処理を省略したステンレス鋼(特開 2001-262282 号公 報)等がある。

特開昭 63- 169330 号公報の(フェライト +マルテンサイト)複相型ステンレス 鋼は、マルテンサイト量の増加に従って強度が高くなるが、 50 質量%を超える マルテンサイト量では曲げ加工性が著しく低下する。

特開平 11-302791号公報のステンレス鋼は、比較的曲げ半径の大きな建築構 造物に使用される角型鋼管を主たる対象にしている。しかし、曲げ加工後に高い 寸法精度が要求される家電製品のフレーム,保護ケース,筐体等では、建築構造 物用途の角型鋼管に比較して曲げ半径が大幅に小さい。小さな曲げ半径のため、 MnS 系介在物粒子のサイズや形態を制御しても、マトリックスが複相型又はマ ルテンサイト単層組織ではフレーム,保護ケース,筐体等に要求されるレベルの 曲げ加工を施すと割れが発生しやすい。

しかも、特開平 11-302791号公報では、 MnS系介在物粒子のサイズや形態を 制御する具体的方法を開示されていない。圧延方向に伸ばされた紐状の MnSが 曲げ加工性に有害なことは知られているが、冷間圧延率の上昇に伴って MnSは 更に伸ばされ、最終的には微細に分散する。その結果、薄板鋼板の MnSは微細 分散により無害化されるが、十分な微細分散が期待できない比較的厚い鋼板では MnS を無害化できない。更に、要求される耐カレベルは用途に応じて異なるが、 ユーザ側の熱処理を省略したマルテンサイト系,(フェライト +マルテンサイト) 複相組織系ステンレス鋼板の耐力がほぼ成分で決まるため、成分の異なる材料で 各種レベルの要求耐力に応えざるを得なかった。

冷間圧延でフェライト組織を加工硬化させる方法はマルテンサイト相による高 強度化に比較して曲げ加工性の点で優れているものの、特開 2001- 262282号公 報のステンレス鋼は曲げ加工のない二輪車ディスクブレーキ用途を対象としてい る。そのため、当該方法をそのまま適用した材料に曲げ先端半径 R の小さな加 ェを施すと割れが発生しやすく、フレーム,保護ケース等の素材として使用でき ない。

発明の開示

本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、精鍊工程で A

1脱酸,低硫化を併用して介在物を微細な AI2O3系又は A Os'MgO系に制御 すると共に、冷間加工でフェライト組織を加工硬化させることにより、ユーザ側 での熱処理を不要とし、厳しい曲げ加工を施しても割れの発生がなく高強度化さ れたステンレス鋼板を提供することを目的とする。

本発明の加工硬化材は、成分 ·組成と金属組織で特徴付けられる。

成分的には、 C : 0.15質量%以下, Si : 1.0質量%以下, ]^^1 : 1.0質量%以下, S: 0.005質量%以下, Cr: 10〜20質量%, Ni: 0.5質量%以下, A1: 0.001〜 0.05 質量%, 残部:実質的に F eを基本組成としている。必要に応じ、 Mo : 0.5~2.0質量%, Cu: 0.5〜3.0質量%, Nb: 0.05〜: 1.0質量%の 1種又は 2種 以上を含ませても良い。

金属組織は、サイズ: ΙΟμιη以下の ΑΙ2Ο3系及び Ζ又は Al203'MgO系介在物 が清浄度: 0.06以下で分散した加工フェライト組織であり、冷間加工率によつ て 0.2%耐カを 500〜900NZmm2の範囲に調整している。

発明を実施するための最良の形態

曲げ加工性に有害な MnSは、比較的軟質であって熱延,冷延で圧延方向に伸 ばされ、紐状介在物としてマトリックスに分散する。この状態では、ステンレス 鋼板を曲げ加工したとき MnSに応力が集中し割れの起点となる。紐状 MnS系 介在物に起因する割れの防止は、低硫化だけでは不十分であり、介在物の組成, サイズ,形態を制御する必要がある。

介在物の組成,サイズ,形態は、精鍊工程で使用する脱酸剤によって変わる。

シリコンを脱酸剤に使用すると、 MnS の他に MnO 'Si02系又は MnO ' Si02 '

MnS系介在物が生じる。 Tiを脱酸剤に使用すると、紐状介在物の生成を抑制で きるが、脱酸生成物として Ti02の他に TiNも生成し、個々の介在物が相互に凝 集して粗大な集合体(クラスタ一)になり、ステンレス鋼板に表面疵が発生しや すくなる。 Ti脱酸は、タンディッシュのノズルが閉塞しやすいことも欠点であ り、 N含有量の低減を必要とする。

表面疵の発生がなく、曲げ加工性に有害な MnS, MnO ' Si02系, MnO · Si02 -MnS (ォキシサルファイド)系等の介在物の生成を抑制する方法を調査-検討した結果、 A1脱酸で介在物を AI2O3系又は Al203'MgO系に制御すると加 エフエライト組織の曲げ加工性が著しく改善されることを見出した。具体的には、 後述の実施例でもみられるように、低硫化, A1脱酸の組合せにより清浄度:

0.06%以下でサイズ: ΙΟμιη以下の ΑΙ2Ο3系又は Al203'MgO系を分散させると き、曲げ加工性への悪影響が抑制される。

ステンレス鋼板の強度は、冷間加工によってフェライト組織を加工硬化するこ とにより付与され、要求レベルの 0.2%耐カを達成するための特別な成分設計を 必要としない。代表的な冷間加工は冷間圧延であり、冷間圧延率の変更によって

0.2%耐カを 500〜900NZmm2の範囲(ピツカ一ス硬さ HVでは 200〜300の 範囲)に調整できる。因みに、通常の焼きなまし状態にあるフェライト系ステン レス鋼の 0.2%耐カレベルは 250〜300N/mm2程度(ビッカース硬さ HVでは 130〜150程度)であり、要求レベルを大きく下回る。

本発明では、低硫化及び A 1脱酸により介在物の組成,サイズ,形態を制御し たフェライト系ステンレス鋼を使用するが、該ステンレス鋼は次のように成分設 計されている。

〔合金成分〕

0 : 0.15質量%以下

マトリックスの強化に有効な合金成分であるが、過剰量の C含有は Cr系炭化 物の生成を促進させ耐食性を劣化させる。そのため、 C含有量の上限を 0.15質 量% (好ましくは、 0.08質量%) に設定した。

Si: 1.0質量%以下

フェライト形成元素として働き、マトリックス強化に有効な合金成分である。 しかし、 1.0 質量%を超える過剰量の Si が含まれると、曲げ加工性に有害な

Si02系又は MnO 'Si02系介在物が生成しやすくなる。

Mn : 1.0質量%以下

オーステナイト形成元素であり、 MnO ' Si02系介在物となって曲げ加工性を 劣化させる。そのため、 Mn含有量の上限を 1.0 質量% (好ましくは、 0.5 質 量%) に設定した。

S: 0.005質量%以下

曲げ加工性を劣化させる MnS, MnO -Si02系介在物に固溶し、粗大なォキシ サルファイド介在物を形成する。 S起因の悪影響を抑制するため、 S含有量の上 限を 0.005質量% (好ましくは、 0.003質量%) に設定した。

Cr: 10〜20質量%

耐食性改善に有効な合金成分であり、ステンレス鋼として要求される耐食性を 確保する上で 10質量%以上の Crが必要である。しかし、過剰添加は靭性を劣 化させるので、 Cr含有量の上限を 20質量%に設定した。 Cr含有量の好ましい 範囲は、 11〜; 18質量%である。

Ni: 0.5質量%以下

オーステナイト形成元素であり、過剰量の Niが含まれると Aci点が下がり、 焼鈍時の冷却過程でマルテンサイト相が生成しやすくなる。そのため、 Ni含有 量を 0.5質量%以下に規制し、マルテンサイトの生成を防止した。

A1: 0.001〜0.05質量%

脱酸剤として添加される成分であり、十分な脱酸効果を得る上で 0.001 質 量%の A1含有量が必要である。しかし、過剰量の A1 を添加すると、多量の A1203系介在物が生じ、介在物が相互に凝集したクラスタ一になり表面疵等の欠 陥を発生させる。そこで、介在物のサイズを ΙΟμιη以下,清浄度を 0.06%以下 として表面疵等の欠陥発生を防止するため、 A1含有量の上限を 0.05質量%に規 定した。好ましくは、 0.003~0.03質量%の範囲に A1含有量を選定する。

Mo: 0.5~2.0質量%, Cu: 0.5~3.0質量%, Nb: 0.05~1.0質量%

必要に応じて添加される合金成分であり、何れも耐食性の向上に寄与する。耐 食性改善効果は、 Mo: 0.5質量%以上, Cu: 0.5質量%以上, Nb: 0.05質量% 以上でみられる。しかし、 2.0質量%を超える Mo含有量では固溶強化による冷 間加工性の低下を招くと共に素材コストが高くなり、 3.0質量%を超える Cu含 有量では熱間加工性が低下して製造性が損なわれ、 1.0質量%を超える Nb含有 量では耐食性向上効果が飽和し素材コストが高くなる。

〔加工フェライト組織〕

低硫化, A1 脱酸によってマトリックスに分散した介在物が Αΐ2θ3系又は Al203-MgO系に形態制御され、介在物を冷間加工でサイズ: ΙΟμιη以下(好ま しくは、 5μπι 以下)に分断するとき、割れの起点となる介在物への応力集中が 緩和される。そのため、小さな曲げ先端半径 Rで目標形状に曲げ加工しても、割 れが大幅に軽減された加工品が得られる。

冷間加工は、介在物の微細分断に加え、加工硬化による高強度化にも有効であ る。すなわち、通常の焼きなまし状態にあるフェライト系ステンレス鋼の 0.2% 耐カレベルは 250〜300NZmm2程度(ピツカ一ス硬さ HVでは 130〜: 150程 度)であるが、加工硬化によって高強度化が図られる。しかも、加工率に応じ

0.2%耐カを 500〜900NZmm2の範囲,ピツカ一ス硬さを HV: 200〜300の範 囲で自在に調整できるため、成分設計を変更する必要なく要求レベルに応じて高 強度化された素材が提供される。冷間圧延で加工硬化させる場合、曲げ加工性を 損なうことなく強度向上を図る上で 15〜50% (好ましくは、 20-35%) の範囲 で仕上げ圧延時の圧延率が選定される。

次いで、実施例によつて本発明を具体的に説明する。

〔実施例 1〕

ステンレス溶鋼を Si脱酸し、表 1の組成をもつステンレス鋼を用意した。表 中、サンプル S-1 は、熱延後の焼鈍でフェライト単層組織に再結晶させた後、 圧延率 25%で冷間圧延した板厚 1.8mm のステンレス鋼板であり、加工フェラ ィト組織をもつ。サンプル S-2, S-3 は、同じく 1.8mm に冷間圧延したステン レス鋼板をオーステナイト +フェライ卜二相領域の温度に短時間保持した後で空 冷することにより(フェライト +マルテンサイト)の複相組織にしたステンレス鋼 板である。サンプル S-2 は、サンプル S-3 に比較してマルテンサイト量が多く なっている。

表 1 :ステンレス鋼の合金成分及び含有量(質量%)


金属組織が異なる各サンプルから圧延方向(L方向),圧延方向に直交する方 向 (C方向)の二方向に沿って JIS 13B号試験片を切り出し、引張試験で 0.2% 耐カ,伸びを測定した。各サンプルの 0.2%耐カ,伸びを表 2に対比する。加工 フェライト組織をもつサンプル S-1は、マルテンサイト量が 80体積%のサンプ ル S-2とほぼ同じ 0.2%耐カであるが、伸びが小さくなつている。

表 2 :金属組織と機械的特性との関係


曲げ加工性の評価には、 Vブロック法(JIS Z2248 に準じた 90度 V曲げ試 験)を使用した。ポンチの先端 R を変え、圧延方向と平行な曲げ軸(C方向曲 げ),圧延方向に直交する曲げ軸 (L方向曲げ)の二方向で試験片を 90度曲げ し、割れが発生するポンチ先端半径 Rにより曲げ加工性を評価した。

表 3の試験結果にみられるように、 L方向曲げでは Vブロック曲げの最小先 端 でも各サンプルに割れが発生しなかったが、 C方向曲げでは各サ ンプルの間に相違がみられた。すなわち、割れが発生した最小先端 Rは、 0.2% 耐力がほぼ同等のサンプル S-2が 1.5mmであったのに対し、サンプル S-1では 0.6mmとなっており、サンプル S-2, S-3に比較して伸びが小さいにも拘らずサ ンプル S-1 が優れた曲げ加工性を呈していた。この結果は、マルテンサイト相 で強化した組織よりも加工フェライト組織が曲げ加工性の点で有利なことを意味 する。

表 3 :各サンプルの曲げ加工性比較

曲げ加工性に及ぼす介在物の影響を調査するため、 Si脱酸したサンプル s-i と同様な組成に調製したステンレス溶鋼を A1脱酸した後、同じ製造条件下でサ ンプル A-1を製造した。サンプル A-1は、脱酸剤に由来する A1含有量が 0.06 質量%であった(表 4)。

EPMA を用いた成分分析によりサンプル A-1 の介在物を同定したところ、 AI2O3系, Al203-MgO 系が混在しており、サンプル S-1 の介在物 MnO 'Si02 系又は MnO 'Si02'MnS系と大きく異なっていた。以降、サンプル S-1で観察 された Si02主体の介在物をシリケ一ト系,サンプル A-1で観察された A1203主 体の介在物をアルミナ系という。

表 4: Si脱酸, A1脱酸とステンレス鋼組成との関係


サンプル A-1, S-1から L, Cの二方向に沿って JIS 13B号試験片を切り出し、 引張試験で 0.2%耐カ,伸びを測定した。サンプル A-1, S-1 は、ほぼ同等の機 械的性質をもっていた(表 5)。しかし、曲げ加工試験では、サンプル A-l, S-1 共にほぼ同じ耐カレベルでありながら、 C 方向の曲げ加工性に関してサンプル S-1に比較してサンプル A-1が明らかに優れていた(表 6)。

以上の結果は、低硫化, A1脱酸で介在物を形態制御し、冷間加工によって加 ェフェライト組織に調整するとき、高強度化に拘らず優れた曲げ加工性が確保さ れることを意味している。

表 5 : S i 脱酸, A 1 脱酸が機械的性質に及ぼす影響 介在物組成 f組織 iC験片 0.2%耐カ 脱酸剤 金e 伸び 採取方向 (N/mm2) (%) 系 + L 689 5

S-1 Si MnO-Si02 加工フェライト

MnO-Si02 -MnS系 C 805 3

AI2O3系 + L 691 5

A-1 Al 加工フェライト

Al203*MgO系 C 808 3

表 6:曲げ加工性に及ぼす Si 脱酸, A1 脱酸の相違


〔実施例 2〕

表 7に成分'組成を示した各種ステンレス鋼を 30kg真空溶解炉で溶製し、 A1 脱酸又は Si脱酸した。

表 7:実施例 2で溶製したステンレス鋼の脱酸方式及び成分'組成


下線は、本発明で規定した条件を外れることを示す。

各ステンレス鋼铸塊を厚み 55mm, 幅 100mm に鍛造し、表面研削で 50mm の厚みに調整した。次いで、板厚 5mmまで熱間圧延し、熱延でマルテンサイト 相が生成した鋼種は 850°C X 7時間の軟化焼鈍後に酸洗し、マルテンサイト相が 生じない鋼種は 1040°C X均熱 0分の焼鈍後に酸洗した。

加工硬化によって強度を向上させる鋼種については、最終板厚 1.8mmでの圧 延率が 20~35%となるように中間板厚 2.3〜2.8mm の範囲まで冷間圧延した。 中間圧延したステンレス鋼板を 850°C X均熱 0分で焼鈍し、酸洗後に最終板厚 1.8mmに仕上げ冷延した。

マルテンサイト単相又は (フェライト +マルテンサイト)複相組織で強度を向上 させる鋼種については、軟化焼鈍後に中間板厚 3.0mm まで冷間圧延し、焼鈍-酸洗を経て最終板厚 1.8mmに仕上げ冷延した。次いで、 lOOC C X均熱 1分→空 冷の熱処理により、マルテンサイト単相 Xは (フェライト +マルテンサイト)複相 組織に調整した。

製造された各ステンレス鋼板から試験片を切り出し、金属組織,介在物,表面 疵を観察した。介在物に関しては、 EPMA で介在物の成分を同定し、 JIS Z0555 規定の方法で清浄度を測定し、清浄度を測定した視野で観察された最大 介在物の長径を介在物のサイズと評価した。 0.2%耐カ,伸び,曲げ加工性は、 実施例 1と同様に調査した。

表 8 の調査結果にみられるように、 A1脱酸で介在物を形態制御し且つ加エフ ェライトで高強度化した試験 No.:!〜 8は、 700NZmm2以上と高レベルの 0.2% 耐カを示しているにも拘らず、最小曲げ先端半径 Rが 0.1mm未満となっており 曲げ加工性に優れていることが判る。

他方、試験 No.9 は、マルテンサイト相で高強度化していることから 0.2%耐 力が高いものの、最小曲げ先端半径 R : 2.5mm と曲げ加工性に著しく劣ってい た。マルテンサイト量を減じて強度を犠牲にした試験 No.10でも、最小曲げ先 端半径 Rが 0.6mmに過ぎず、マルテンサイト相により高強度化した鋼種では、 曲げ加工性の改善に限界があることが理解される。

A1脱酸した場合でも、 A1含有量が不足する試験 No.11は、脱酸不足のために シリケート系介在物が残存し、十分な曲げ加工性を呈さなかった。逆に過度に A1脱酸した試験 No.12では、鋼中の A1濃度が 0.09質量%と高くなりすぎ、曲 げ加工性は改善されたものの製品表面に介在物起因の疵が発生した。

Si脱酸した試験 No.13〜: 15は、介在物がシリケート系となり、試験 No.:!〜 8 に比較して何れも曲げ加工性に劣っていた。

表 8 : 各種ステンレス鋼の機械的特性,曲げ加工性

下線は、本発明で規定した範囲を外れることを示す。

比較例 9, 10, 13以外の試験材は、仕上げ圧延率 20〜30%での冷間加工によ り得られた加工フェライト組織になっている。そのため、 0.2%耐力が 700NZ mm2以上と高い。伸びが 4%以下となっていることから延性に乏しいように受 け取られがちであるが、曲げ加工性に優れている。優れた曲げ加工性は、全伸び よりも局部的な伸びの影響を受けた結果と考えられる。この結果は、加工フェラ ィト組織とすることにより、曲げ部外面で局部的な延性が向上していることを示 唆する。更に、介在物形態を適正に制御しているので、介在物マトリックスの 界面で応力集中が緩和された結果が割れ発生の抑制効果となつて現れている。

産業上の利用可能性

以上に説明したように、 A1脱酸で介在物を形態制御し加工フェライト組織で 高強度化したステンレス鋼板は、 0.2%耐カ≥700N/mm2でも曲げ加工性が優 れており、環境負荷が小さいめっき不要の無垢材として使用できる。そのため、 ユーザ側での熱処理を省略でき、多量の Niを含まないので鋼材コストが低廉な ことと相俟って、家電製品, OA機器等のフレーム,筐体等に使用される。