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1. WO2020202987 - PEPTIDE PRÉSENTANT UNE EXCELLENTE ADHÉRENCE À DES RÉSINES ET MATÉRIAU FONCTIONNEL BIOCOMPATIBLE L'UTILISANT

Document

明 細 書

発明の名称 樹脂との密着性に優れたペプチドならびにそれを用いた生体適合機能材料

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005  

先行技術文献

非特許文献

0006  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0007   0008  

課題を解決するための手段

0009   0010   0011   0012  

発明の効果

0013  

図面の簡単な説明

0014  

発明を実施するための形態

0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081   0082   0083   0084   0085   0086   0087   0088   0089   0090   0091   0092   0093   0094   0095   0096   0097   0098   0099   0100   0101   0102   0103   0104   0105   0106   0107   0108   0109   0110   0111   0112   0113   0114   0115   0116   0117   0118   0119   0120   0121   0122   0123   0124   0125   0126   0127   0128   0129   0130   0131   0132   0133   0134   0135   0136   0137   0138   0139   0140   0141   0142   0143   0144   0145   0146   0147   0148   0149   0150   0151   0152   0153   0154   0155   0156   0157   0158   0159   0160   0161   0162   0163   0164   0165   0166   0167   0168   0169   0170   0171   0172   0173   0174   0175   0176   0177   0178   0179  

符号の説明

0180  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10   11   12   13   14   15  

図面

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10   11   12   13   14   15   16   17   18   19   20   21   22   23   24   25  

明 細 書

発明の名称 : 樹脂との密着性に優れたペプチドならびにそれを用いた生体適合機能材料

技術分野

[0001]
 本発明は、樹脂との密着性に優れたペプチド、それを用いた生体適合性材料、機能性材料等の生体適合機能材料に関する。

背景技術

[0002]
 近年、医療の分野では、バイオテクノロジの発展により、治療の形態が多様化している。各種の疾患や損傷を治療・処置するに際し、治療用のバイオデバイス、人工臓器等の利用が拡大しており、生体と人工材料が接触する機会が増えている。また、従来から、各種の医療用のデバイス、医療品、衛生用品等が皮膚に接触する状態で用いられている。
[0003]
 人工材料は、生体と接触すると、種々の生体反応を引き起こすことがある。人工材料を用いたデバイス、人工臓器等が体内に移植されたり、人工材料を用いたデバイス、医療品等が皮膚に長期間にわたって接触したりすると、異物反応やアレルギ反応等により炎症等の種々の症状が現れる。そのため、各種のデバイス、医療品等の材料として、生体適合性を備えた材料が求められている。
[0004]
 従来、樹脂等の有機物質や無機物質の表面にペプチドを付着させた生体適合性材料が知られている。人工材料である樹脂や無機物質の表面にペプチドを付着させて被覆すると、生体への適合に重要な、非異物性、非刺激性、界面的適合性等が向上するため、樹脂等の人工材料に特異的に吸着するペプチドの探索・設計が行われている。
[0005]
 例えば、非特許文献1には、Glu-Leu-Trp-Arg-Pro-Thr-Arg(ELWRPTR)で表されるアミノ酸配列を持つペプチドが開示されている。このペプチドは、イソタクチックポリメタクリル酸メチル樹脂(isotactic poly(methyl-methacrylate) resin:it-PMMA)に対する親和性が高く、剥離エネルギが31kJ/molと高い数値を示し、it-PMMAに対して高い密着性を示している。

先行技術文献

非特許文献

[0006]
非特許文献1 : Takeshi Serizawa et al., Langmuir, 2007, 23(22), p.11127-11133

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0007]
 非特許文献1に記載されているように、樹脂にペプチドを吸着させると、簡単な処理・操作で効率的に生体適合性を付与することができる。しかし、樹脂とペプチドとの親和性・密着性が十分に高くない場合には、移植先の生体内や皮膚上での使用中に、樹脂からペプチドが剥離し、樹脂と生体とが接触して炎症等が起こる虞がある。ペプチドが剥離すると、ペプチドを吸着させていた材料の取り換え等が必要になるため、非特許文献1よりも更に高い剥離エネルギを示し、生体適合性の耐久寿命が長くなるような、樹脂との密着性に優れたペプチドや、それを用いた生体適合性材料、機能性材料等の生体適合機能材料が望まれている。
[0008]
 そこで、本発明は、樹脂との密着性が高く樹脂の表面から剥離し難いペプチドを吸着させて生体適合性を向上させた生体適合性材料、及び、これを備える機能性材料を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

[0009]
 本発明者らは、it-PMMAに対して高い親和性や密着性を示すペプチドについて鋭意研究を行った結果、トリプトファン残基やアルギニン残基が、it-PMMAのメトキシカルボニル基やメチル基に対して相互作用を形成し易く、ペプチドを構成するアミノ酸残基として有効であることを見出した。また、プロリン残基やグルタミン酸残基が、ペプチドの主鎖に存在するカルボニル基の酸素をit-PMMAのメトキシカルボニル基に対して相互作用し易い位置に安定させるため、トリプトファン残基やアルギニン残基と併用するアミノ酸残基として有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
[0010]
 また、本発明者らは、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene:PTFE)に対して高い親和性や密着性を示すペプチドについて鋭意研究を行った結果、2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニルアラニン残基、3-トリフルオロメチルアラニン残基、セリン残基、トレオニン残基、ヒスチジン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、フェニルアラニン残基、アスパラギン残基が、PTFEの分子鎖に対して相互作用を形成し易いため、ペプチドを構成するアミノ酸残基として有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
[0011]
 すなわち、前記課題を解決するために本発明に係る生体適合性材料は、樹脂と、前記樹脂に吸着したペプチドと、を含む生体適合性材料であって、前記樹脂は、メトキシカルボニル基、及び、メチル基を有し、前記ペプチドは、アミノ酸残基の70%以上がトリプトファン残基又はアルギニン残基である。
[0012]
 また、本発明に係る機能性材料は、前記の生体適合性材料と、生体の内部又は生体の表面で機能する機能性物質と、を含む機能性材料であって、前記機能性物質は、前記生体適合性材料の表面に保持されるか、又は、前記生体適合性材料の表面から放出される。

発明の効果

[0013]
 本発明によると、樹脂との密着性が高く樹脂の表面から剥離し難いペプチドを吸着させて生体適合性を向上させた生体適合性材料、及び、これを備える機能性材料を提供することができる。

図面の簡単な説明

[0014]
[図1] 生体適合性材料の構造を模式的に示す図である。
[図2] 剥離エネルギの分子動力学シミュレーションによる計算値と測定実験に基づいて計算した実測値との関係を示す図である。
[図3] 表面プラズモン共鳴法による測定で得られるセンサグラムの一例を示す図である。
[図4] it-PMMAと吸着ペプチド(RWWRPWW:配列番号1-1)との相互作用を示すセンサグラムである。
[図5] it-PMMAと吸着ペプチド(RWWRRWW:配列番号1-2)との相互作用を示すセンサグラムである。
[図6] it-PMMAと吸着ペプチド(EWWRPWR:配列番号1-4)との相互作用を示すセンサグラムである。
[図7] it-PMMAと吸着ペプチド(RWWRPWR:配列番号1-5)との相互作用を示すセンサグラムである。
[図8] it-PMMAに吸着ペプチド(RWWRPWW:配列番号1-1)が吸着した状態の原子配列を示す画像である。
[図9] it-PMMAに吸着ペプチド(RWWRRWW:配列番号1-2)が吸着した状態の原子配列を示す画像である。
[図10] it-PMMAに吸着ペプチド(EWWRPWR:配列番号1-4)が吸着した状態の原子配列を示す画像である。
[図11] it-PMMAに吸着ペプチド(RWWRPWR:配列番号1-5)が吸着した状態の原子配列を示す画像である。
[図12] PTFEに吸着ペプチド(ZZXXZZXXZZXX:配列番号2-1)が吸着した状態の原子配列を示す画像である。
[図13] PTFEに吸着ペプチド(STSTSTSTSTST:配列番号2-7)が吸着した状態の原子配列を示す画像である。
[図14] PTFEに吸着ペプチド(STSTSPSTSTST:配列番号2-3)が吸着した状態の原子配列を示す画像である。
[図15] PTFEに吸着ペプチド(HHHHHHHHHHHH:配列番号2-11)が吸着した状態の原子配列を示す画像である。
[図16] PTFEに吸着ペプチド(AAAAAAAAAAAA:配列番号4-4)が吸着した状態の原子配列を示す画像である。
[図17] 吸着ペプチドを吸着させたPTFEの接触角の測定結果を示す図である。
[図18] 吸着ペプチドを吸着させたPTFEから吸着ペプチドを解離させた結果を示す図である。
[図19] 繊維材と複合化された生体適合性材料を模式的に示す図である。
[図20] 充填材と複合化された生体適合性材料を模式的に示す図である。
[図21] 被着材料の表面に積層された生体適合性材料を模式的に示す図である。
[図22] デバイスの筐体を構成している生体適合性材料を模式的に示す図である。
[図23] 機能性材料の構成例を模式的に示す図である。
[図24] 機能性材料の構成例を模式的に示す図である。
[図25] 機能性材料の構成例を模式的に示す図である。

発明を実施するための形態

[0015]
 以下、本発明の一実施形態に係るペプチド、それを用いた生体適合性材料、及び、それを用いた機能性材料について、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において共通する構成については同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
[0016]
<生体適合性材料>
 図1は、生体適合性材料の構造を模式的に示す図である。
 図1に示すように、本実施形態に係る生体適合性材料10は、材料の本体である樹脂1と、樹脂1に吸着した吸着ペプチド(ペプチド)2と、を少なくとも含む。
[0017]
 生体適合性材料10は、生体物質に近い物質である吸着ペプチド2が樹脂1に吸着した構造であるため、樹脂1のみを材料とする場合と比較して良好な生体適合性を示す材料となる。なお、本明細書において、生体適合性とは、長期間にわたって生体に悪影響や強い刺激を与えず、本来の機能を果たしながら生体と共存できる性質を意味する。
[0018]
 生体適合性材料10は、生体と接触する可能性がある任意の物品の材料として用いることができる。生体適合性材料10で形成する物品は、生体と接触する可能性がある限り、種類、用途、機能等が、特に制限されるものではない。生体適合性材料10は、生体内、例えばヒトの体内や、生体の表面、例えば皮膚や、その他の組織や臓器に接触する用途に好適に用いられる。
[0019]
 生体適合性材料10で形成する物品の具体例としては、人工臓器、人工組織、体内移植型治療用デバイス、体表固定型治療用デバイス、診断用デバイス、治療用器具、手術用器具、手術用材料、骨接合材料、歯科材料、補填材料、骨矯正器具、歯列矯正器具、その他の補装具、コンタクトレンズ、眼鏡、衣類、履物、絆創膏やガーゼ等の創傷被覆材、包帯、貼付剤、パップ剤等が挙げられる。
[0020]
 生体適合性材料10を構成する樹脂1は、成形体、非成形固体等のいずれの状態であってもよい。樹脂1の形状は、生体適合性材料10で形成する物品の種類、用途、機能等に応じて適宜の形状とすることが可能であり、特に制限されるものではない。樹脂1は、物品の全体を構成してもよいし、物品の一部のみを構成してもよい。樹脂1としては、後記するとおり、メトキシカルボニル基とメチル基を有する樹脂、又は、フッ素樹脂が用いられる。
[0021]
 生体適合性材料10を構成する吸着ペプチド2は、樹脂1に対して、ファンデルワールス力、水素結合、双極子相互作用等の非共有結合性の分子間力で吸着して、樹脂1の表面に保持される。吸着ペプチド2は、樹脂1の表面の全部に吸着していてもよいし、樹脂1の表面の一部に吸着していてもよい。吸着ペプチド2としては、後記するとおり、所定のアミノ酸配列を有しており、特定の樹脂1に対して特異的な親和性を示すペプチドが用いられる。
[0022]
<剥離エネルギ>
 樹脂と吸着ペプチドとの親和性(結合力)は、剥離エネルギ値によって評価することができる。剥離エネルギは、樹脂と吸着ペプチドとが互いに吸着している状態と、樹脂と吸着ペプチドとが互いに解離した状態とのエネルギ差として定義される。
[0023]
 樹脂AとペプチドBとの相互作用によって複合体ABを生成する吸着反応(結合反応及び解離反応)は、次の反応式(1)で表すことができる。但し、反応式(1)中、k は結合速度定数[M -1・s -1]、k -1は解離速度定数[s -1]を表す。
[0024]
[化1]


[0025]
 複合体ABを生成する吸着反応の速度式は、樹脂A及びペプチドBが1次反応に従うとすると、ある時間tにおける樹脂Aの濃度を[A]、ペプチドBの濃度を[B]、複合体ABの濃度を[AB]としたとき、次の数式(2)で表される。
[0026]
[数1]


[0027]
 反応式(1)の平衡定数Kaは、数式(2)の左辺=0として計算すると、次の数式(3)が成り立つ。
[0028]
[数2]


[0029]
 複合体ABを生成する吸着反応における標準ギブズエネルギΔG[J/mol]は、気体定数をR[J・K -1・mol -1]、絶対温度をT[K]としたとき、次の数式(4)で表される。
[数3]


[0030]
 剥離エネルギは、複合体ABを生成する吸着反応における標準ギブズエネルギΔGに相当するので、結合速度定数k と解離速度定数k -1とを用いて、数式(3)及び(4)から求めることができる。結合速度定数k と解離速度定数k -1は、樹脂をリガンド、吸着ペプチドの溶液をアナライト溶液として、表面プラズモン共鳴法によって測定することができる。
[0031]
<PMMA吸着ペプチド>
 はじめに、吸着ペプチドの一例として、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等のメトキシカルボニル基とメチル基を有する樹脂に対して高い親和性を示すPMMA吸着ペプチドについて説明する。
[0032]
 PMMA吸着ペプチドは、トリプトファン残基(Trp:W)、アルギニン残基(Arg:R)、プロリン残基(Pro:P)、及び、グルタミン酸残基(Glu:E)のうち、一種以上のアミノ酸残基を含むアミノ酸配列で形成される。
[0033]
 表1は、ペプチドとイソタクチックポリメタクリル酸メチル樹脂(it-PMMA)との吸着反応の剥離エネルギ、結合速度定数、解離速度定数と、アミノ酸配列中のトリプトファン残基(W)、アルギニン残基(R)、プロリン残基(P)及びグルタミン酸残基(E)の存在率を示している。
[0034]
[表1]


[0035]
 配列番号1-1~1-5は、分子設計によってit-PMMAに対する親和性を向上させた本発明に係るPMMA吸着ペプチドである。配列番号1-6~1-19は、it-PMMAに対する親和性が高い非特許文献1に記載されたペプチドである。
[0036]
 表1において、剥離エネルギとしては、分子動力学シミュレーションによる計算値(SIM計算値)と、測定実験に基づいて計算した実測値とを示している。実測値は、表面プラズモン共鳴法により測定した結合速度定数k と解離速度定数k -1とを用いて、数式(3)及び(4)から計算している。
[0037]
 なお、配列番号1-1~1-5についての実測値は、ペプチドの親和性が高く、解離を生じなかったため、測定されていない。配列番号1-6~1-19についての実測値は、非特許文献1に掲載されている結合速度定数k と解離速度定数k -1から計算している。気体定数R=8.314[m ・kg・s -2・K -1・mol -1]、絶対温度T=300[K]である。
[0038]
 分子動力学シミュレーションは、非特許文献(Akbar Bagri et al., Nature Chemistry, 2010, 2, p.581-587)と同様に、反応分子動力学計算プログラム「ReaxFF」を用いて、水中における原子・分子の挙動を模擬して行った。ReaxFFは、結合距離と結合次数の関係と、結合次数と結合エネルギの関係との両方を計算に用いるプログラムであり、炭化水素-酸素系における結合の開裂と生成を記述する反応力場を提供するという特徴がある。ReaxFFでは、全原子対間で接続状態を変えて計算を行うことにより、非結合性の相互作用が解析される。
[0039]
 表面プラズモン共鳴法による測定実験は、非特許文献(新井盛夫、「表面プラズモン共鳴を用いたバイオセンサー(BIACORE TM)による生体分子相互作用の解析」、日本血栓止血学会誌、一般社団法人日本血栓止血学会、1997年10月1日、第8巻、第5号、p.397-405)と同様に、分子間相互作用解析装置「Biacore X」(GEヘルスケア社製)を用いて行った。
[0040]
 it-PMMAとしては、数平均分子量Mn=32900、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn=1.3、トライアッド存在比がmm:mr:rr=97:3:0である樹脂を用いた。it-PMMAは、センサチップの金を接着させたガラススライドに約10nmの厚さで被覆し、it-PMMAを被覆したセンサチップを解析装置に取り付けた。
[0041]
 ペプチドとしては、表1に示すアミノ酸配列であり、遊離のN末端を有し、C末端がアミド化されているペプチドを用いた。ペプチドは、高速液体クロマトグラフィで精製した後、150mMのNaClを溶解した10mMのHEPESバッファ(pH7.4)に溶解させてアナライト溶液とした。
[0042]
 表面プラズモン共鳴法による測定実験では、はじめに、ペプチドを溶解したアナライト溶液を、it-PMMAの表面に温度25℃、流量20μm/minで2分間流して、結合反応を生じさせた。その後、ペプチドを含まないバッファを、同様の条件で2分間流して、解離反応を生じさせた。
[0043]
 そして、互いに異なる複数の濃度について測定されたセンサグラムを、解析ソフト「BIAevaluation ver.4.1」(GEヘルスケア社製)を用いて同時にグローバルフィッティングし、数式(2)に対応するレゾナンスユニットRUとレゾナンスユニットの時間変化量d(RU)/dtとの直線関係から、結合速度定数k と解離速度定数k -1を求めた。
[0044]
 表1に示すように、配列番号1-1~1-5の結合速度定数は、非特許文献1で剥離エネルギが最大である配列番号1-6と比較して概ね大きい数値であった。また、配列番号1-1~1-5の解離速度定数は、it-PMMAとペプチドとの親和性が高く、解離が観測されなかったため、0を超える有限の値とならなかった。
[0045]
 分子動力学シミュレーションと測定実験の結果から、配列番号1-1~1-5は、it-PMMAに対して結合し易い一方で、it-PMMAから解離し難いことが分かる。配列番号1-1~1-5の剥離エネルギの実測値は、配列番号1-6と比較して大きい数値であることが明らかであり、it-PMMAに対する親和性の高さを確認することができる。
[0046]
 図2は、剥離エネルギの分子動力学シミュレーションによる計算値と測定実験に基づいて計算した実測値との関係を示す図である。
 図2において、横軸は、剥離エネルギの分子動力学シミュレーションによる計算値[kJ/mol]、縦軸は、剥離エネルギの測定実験に基づいて計算した実測値[kJ/mol]を示す。図2には、非特許文献1に記載されたペプチド(配列番号1-6~1-19)の結果をプロットしている。
[0047]
 図2に示すように、剥離エネルギの分子動力学シミュレーションによる計算値は、測定実験に基づいて計算した実測値に対して、良くあてはまっている。この結果から、ReaxFFのような結合の開裂と生成を記述する反応力場を提供するプログラムによると、樹脂とペプチドとの吸着反応を高精度に模擬できることが分かる。
[0048]
 配列番号1-1~1-5は、非特許文献1で剥離エネルギが最大である配列番号1-6と比較して、剥離エネルギの計算値が大きく向上しており、it-PMMAに対する親和性が高く、it-PMMAに対する密着性が優れたペプチドであるといえる。
[0049]
 次に、it-PMMAとPMMA吸着ペプチドとの相互作用を表面プラズモン共鳴法によって測定した結果を示す。
[0050]
 図3は、表面プラズモン共鳴法による測定で得られるセンサグラムの一例を示す図である。
 図3に示すように、センサチップ上にアナライト溶液を流し、it-PMMAにPMMA吸着ペプチドを吸着(結合)させると、表面プラズモン共鳴によるシグナルが上昇を示す。そして、PMMA吸着ペプチドを含まない溶液が流されると、it-PMMAに吸着しているPMMA吸着ペプチドがit-PMMAから解離し、シグナルが下降を示す。これらの結果から、結合速度定数k や解離速度定数k -1を求めることができる。
[0051]
 図4は、it-PMMAと吸着ペプチド(RWWRPWW:配列番号1-1)との相互作用を示すセンサグラムである。図5は、it-PMMAと吸着ペプチド(RWWRRWW:配列番号1-2)との相互作用を示すセンサグラムである。図6は、it-PMMAと吸着ペプチド(EWWRPWR:配列番号1-4)との相互作用を示すセンサグラムである。図7は、it-PMMAと吸着ペプチド(RWWRPWR:配列番号1-5)との相互作用を示すセンサグラムである。
[0052]
 図4~図7に示すように、所定のアミノ酸配列を有するPMMA吸着ペプチドでは、PMMA吸着ペプチドを含まない溶液を流しても、シグナルが下降せず一定であり、PMMA吸着ペプチドの解離が観測されなかった。したがって、これらのPMMA吸着ペプチドは、it-PMMAから解離し難く、極めて高い剥離エネルギであり、樹脂とペプチドとの親和性・密着性が十分に高かったといえる。
[0053]
 次に、it-PMMAとPMMA吸着ペプチドの原子配列を分子動力学シミュレーションで計算した結果を示す。
[0054]
 図8は、it-PMMAに吸着ペプチド(RWWRPWW:配列番号1-2)が吸着した状態の原子配列を示す画像である。図9は、it-PMMAに吸着ペプチド(RWWRRWW:配列番号1-2)が吸着した状態の原子配列を示す画像である。図10は、it-PMMAに吸着ペプチド(EWWRPWR:配列番号1-4)が吸着した状態の原子配列を示す画像である。図11は、it-PMMAに吸着ペプチド(RWWRPWR:配列番号1-5)が吸着した状態の原子配列を示す画像である。
[0055]
 図8~11では、PMMA吸着ペプチドが吸着しているit-PMMAの界面を、PMMA吸着ペプチドの側から見た三次元モデリング画像を示している。細いスティックはit-PMMAの分子鎖、太いスティックは吸着ペプチドの主鎖、中間の太さのスティックは吸着ペプチドの側鎖を示す。PMMA吸着ペプチド中で最大の球は、主鎖に存在するカルボニル基の酸素を示す。
[0056]
 図8~11の画像上では、PMMA吸着ペプチド中の水素原子や、系内に存在する水和水等の水分子を、非表示としている。英数字で示される符号は、左字がN末端から数えたアミノ酸残基の番号、右字がアミノ酸残基の一文字表記である。
[0057]
 図8~11に示すように、it-PMMAは、分子鎖同士が互いに平行に配向し、メトキシカルボニル基同士及びメチル基同士が、互いに向かい合う状態になっている。it-PMMAの分子鎖同士の間には、主としてメトキシカルボニル基が位置する領域(CH OCO領域)と、主としてメチル基が位置する領域(CH 領域)とが生じている。
[0058]
 これに対し、PMMA吸着ペプチドの主鎖は、it-PMMAの分子鎖と略平行に配向し、βストランド様のジグザグ構造を形成している。PMMA吸着ペプチドの主鎖に存在するカルボニル基の酸素(最大の球)は、いずれも、it-PMMAのメトキシカルボニル基の基端側(エステル基付近)に位置している。
[0059]
 また、PMMA吸着ペプチドを構成するアミノ酸残基のうち、N末端からC末端に向かって奇数番目に位置するアミノ酸残基の側鎖は、CH OCO領域に位置しており、主鎖に最も近いit-PMMAに隣接した別のit-PMMAのメトキシカルボニル基に接近している。
[0060]
 一方、PMMA吸着ペプチドを構成するアミノ酸残基のうち、N末端からC末端に向かって偶数番目に位置するアミノ酸残基の側鎖は、CH 領域に位置しており、主鎖に最も近いit-PMMAに隣接した反対側のit-PMMAの主鎖やメチル基に接近している。
[0061]
 図8~11に示すシミュレーション結果によると、PMMA吸着ペプチドの主鎖は、it-PMMAの分子鎖との間に、分子間の相互作用を形成すると考えられる。また、PMMA吸着ペプチドを構成するアミノ酸残基のうち、N末端からC末端に向かって奇数番目に位置するアミノ酸残基の側鎖は、主鎖に最も近いit-PMMAに隣接するit-PMMAのメトキシカルボニル基付近との間に、水素結合等の分子間の相互作用を形成すると考えられる。また、PMMA吸着ペプチドを構成するアミノ酸残基のうち、N末端からC末端に向かって偶数番目に位置するアミノ酸残基の側鎖は、主鎖に最も近いit-PMMAに隣接するit-PMMAの主鎖やメチル基との間に、分子間の相互作用を形成すると考えられる。
[0062]
 特に、図8、図10~11に示すシミュレーション結果によると、PMMA吸着ペプチドにプロリン残基やグルタミン酸残基が存在している場合、PMMA吸着ペプチドの主鎖のジグザグ構造が崩れ難くなり、主鎖の構造や側鎖の配向が安定化されることが分かる。
[0063]
 表1や図8~11の結果に基づくと、PMMA吸着ペプチドを構成するアミノ酸残基としては、メトキシカルボニル基やメチル基に対する吸着力が高い点で、トリプトファン残基やアルギニン残基が有効であるといえる。また、プロリン残基やグルタミン酸残基は、吸着力がトリプトファン残基やアルギニン残基に劣るものの、PMMA吸着ペプチドの主鎖の構造や側鎖の配向の安定化に寄与する点で有効であるといえる。
[0064]
 したがって、PMMA吸着ペプチドは、トリプトファン残基(W)、アルギニン残基(R)、プロリン残基(P)、及び、グルタミン酸残基(E)のうち、一種以上のアミノ酸残基を含み、トリプトファン残基又はアルギニン残基の存在比率が高いアミノ酸配列であることが好ましい。
[0065]
 PMMA吸着ペプチドは、W、R、P及びEのみを用いて形成してもよいし、その他のアミノ酸残基を用いて形成してもよい。PMMA吸着ペプチドを構成するアミノ酸残基は、L型であることが好ましい。
[0066]
 PMMA吸着ペプチドの剥離エネルギは、好ましくは35.0kJ/mol以上、より好ましくは36.0kJ/mol以上、更に好ましくは37.0kJ/mol以上、更に好ましくは38.0kJ/mol以上である。
[0067]
 PMMA吸着ペプチドの長さは、アミノ酸残基で5個以上であることが好ましく、6個以上であることがより好ましい。また、アミノ酸残基で100個以下であることが好ましく、20個以下であることがより好ましく、15個以下であることが更に好ましく、10個以下であることが更に好ましい。PMMA吸着ペプチドが長いほど、樹脂に対して高い親和性を得ることができる。一方、PMMA吸着ペプチドが短いほど、分子内や分子間で凝集し難くなるため、化学修飾、クラスタ化等の改変が容易になる。PMMA吸着ペプチドの長さは、アミノ酸残基が7個であることが特に好ましい。
[0068]
 PMMA吸着ペプチドは、アミノ酸残基の70%以上がトリプトファン残基又はアルギニン残基であることが好ましい。アミノ酸配列の全長に対するトリプトファン残基及びアルギニン残基の存在率は、75%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましく、85%以上が更に好ましく、90%以上が更に好ましい。また、トリプトファン残基及びアルギニン残基の存在率は、100%としてもよいし、95%未満としてもよいし、90%未満としてもよい。
[0069]
 トリプトファン残基やアルギニン残基は、側鎖が比較的長く、樹脂のメトキシカルボニル基やメチル基に対して、比較的強い相互作用を形成することができる。また、トリプトファン残基は、側鎖が比較的剛直であり、PMMA吸着ペプチドの主鎖の構造や側鎖の配向を安定させる傾向がある。一方、アルギニン残基は、トリプトファン残基よりも側鎖が長いため、トリプトファン残基とは異なる相互作用を形成することができる。そのため、トリプトファン残基やアルギニン残基の存在率を高くすると、メトキシカルボニル基とメチル基を有する樹脂に対して高い親和性を示すPMMA吸着ペプチドが得られる。
[0070]
 PMMA吸着ペプチドは、アミノ酸残基の10%以上がプロリン残基又はグルタミン酸残基であることが好ましい。アミノ酸配列の全長に対するプロリン残基及びグルタミン酸残基の存在率は、15%以上としてもよいし、20%以上としてもよい。また、プロリン残基及びグルタミン酸残基の存在率は、25%未満としてもよいし、20%未満としてもよいし、15%未満としてもよい。
[0071]
 プロリン残基は、環構造を有しており、ペプチド結合の結合角や二面角が制約・固定されるため、主鎖の構造を安定化させる作用を示す。また、グルタミン酸残基は、側鎖が比較的長く、側鎖に極性基を有している。そのため、プロリン残基又はグルタミン酸残基を介在させると、βストランド様のジグザグ構造が崩れ難くなり、主鎖の構造や側鎖の配向が安定化する場合がある。
[0072]
 PMMA吸着ペプチドを構成するアミノ酸残基のうち、PMMA吸着ペプチドのN末端からC末端に向かって奇数番目に位置するアミノ酸残基や、偶数番目に位置するアミノ酸残基は、同種のアミノ酸残基が2個以上連続した配列でないことが好ましい。
[0073]
 例えば、Trp-Xaa-Trp-Xaa-Trp(但し、Xaaは任意のアミノ酸残基。)等のように、同種のアミノ酸残基が2個以上連続した配列であると、奇数番目の側鎖同士や偶数番目の側鎖同士が干渉して、主鎖の構造が崩れたり、分子内の相互作用で凝集化を生じたりする。これに対し、同種のアミノ酸残基が連続しない配列とすると、PMMA吸着ペプチドの主鎖の構造や側鎖の配向が安定化する傾向がある。
[0074]
 PMMA吸着ペプチドは、PMMA吸着ペプチドのN末端からC末端に向かって偶数番目に位置するアミノ酸残基が、Trp、Arg、Trpの順の配列(Trp-Xaa-Arg-Xaa-Trp)、又は、Arg、Trp、Argの順の配列(Arg-Xaa-Trp-Xaa-Arg)であることが好ましい(但し、3番目のアミノ酸残基は、C末端側に位置する最後の偶数番目のアミノ酸残基であるか、又は、次の偶数番目のアミノ酸残基が異なる種類のアミノ酸残基である中間のアミノ酸残基である。)。
[0075]
 このような配列であると、同種のアミノ酸残基が連続してなく、PMMA吸着ペプチドの主鎖の構造や側鎖の配向が安定化し、アミノ酸残基の側鎖と樹脂のメチル基との間に相互作用が形成され易いため、樹脂に対する親和性が高くなる傾向がある。
[0076]
 PMMA吸着ペプチドは、N末端から2n番目のアミノ酸残基がトリプトファン(W)残基、2n+2番目のアミノ酸残基がアルギニン(R)残基、2n+4番目のアミノ酸残基がトリプトファン(W)残基であることが特に好ましい(但し、nは自然数を表す。2n+4番目のアミノ酸残基は、C末端側に位置する最後の偶数番目のアミノ酸残基であるか、又は、次の2n+6番目のアミノ酸残基がアルギニン残基以外のアミノ酸残基である中間のアミノ酸残基である。)。
[0077]
 通常、PMMA吸着ペプチドは、偶数番目のアミノ酸残基がit-PMMAのメチル基に近接して安定になる。しかし、アルギニンの側鎖はメチル基と比較して長いため、偶数番目に位置するアルギニン残基の側鎖は、折れ曲がり易く、隣接する樹脂の分子鎖に向けて配向し難い傾向がある。偶数番目に位置するアミノ酸残基がArg、Trp、Argの順の配列であると、アルギニン残基の側鎖同士が、隣接している偶数番目のアミノ酸残基を超えて干渉することがあるため、PMMA吸着ペプチドの主鎖の構造が崩れ易くなる。これに対し、偶数番目に位置するアミノ酸残基がTrp、Arg、Trpの順の配列であると、樹脂に対する親和性を高くしつつ、PMMA吸着ペプチドの主鎖の構造や側鎖の配向を安定化させることができる。
[0078]
 PMMA吸着ペプチドは、N末端から2m-1番目のアミノ酸残基がアルギニン(R)残基、2m+1番目のアミノ酸残基がトリプトファン(W)残基、2m+3番目のアミノ酸残基がプロリン(P)残基であるか、又は、N末端から2m-1番目のアミノ酸残基がアルギニン(R)残基、2m+1番目のアミノ酸残基がトリプトファン(W)残基、2m+3番目のアミノ酸残基がアルギニン(R)残基であるか、又は、N末端から2m-1番目のアミノ酸残基がトリプトファン(W)残基、2m+1番目のアミノ酸残基がトリプトファン(W)残基、2m+3番目のアミノ酸残基がプロリン(P)残基であるか、又は、N末端から2m-1番目のアミノ酸残基がグルタミン酸(E)残基、2m+1番目のアミノ酸残基がトリプトファン(W)残基、2m+3番目のアミノ酸残基がプロリン(P)残基であることが好ましい(但し、mは自然数を表す。)。
[0079]
 通常、PMMA吸着ペプチドは、奇数番目のアミノ酸残基がit-PMMAのメトキシカルボニル基に近接して安定になる。しかし、メトキシカルボニル基はメチル基と比較して長いため、奇数番目に位置するアミノ酸残基がArg、Trp、Argの順の配列であっても、アルギニン残基の側鎖同士が、隣接している奇数番目のアミノ酸残基を超えて干渉するようなことが少なく、PMMA吸着ペプチドの主鎖の構造は崩れ難くなる。奇数番目に位置するアミノ酸残基がArg、Trp、Argの順の配列であると、トリプトファンよりも長いアルギニンの側鎖が分子間の相互作用を形成するため、樹脂に対する親和性を高くすることができる。
[0080]
 また、PMMA吸着ペプチドは、N末端から2m+3番目のアミノ酸残基がプロリン(P)残基であるとき、2m+5番目のアミノ酸残基が、トリプトファン(R)残基、又は、アルギニン(R)残基であることがより好ましい。
[0081]
 2m+3番目のアミノ酸残基がProであるとき、2m+5番目のアミノ酸残基がTrp又はArgであると、PMMA吸着ペプチドの主鎖のジグザグ構造が、Proの分子構造によって安定化し、2m+5番目のTrp又はArgの側鎖を、隣接する分子鎖のメトキシカルボニル基側に向けて配向させる傾向がある。そのため、2m+5番目のアミノ酸残基がTrp又はArgであると、樹脂に対する親和性を高くすることができる場合がある。
[0082]
 なお、PMMA吸着ペプチドは、このような偶数番目の所定のアミノ酸配列(W・R・W,R・W・R)や、奇数番目の所定のアミノ酸配列(R・W・P,R・W・R,W・W・P,E・W・P)を、全アミノ酸残基中の最もN末端側に有していてもよいし、全アミノ酸残基中の中間の位置に有していてもよい。すなわち、前記のアミノ酸残基の番号について、n=1やm=1であってもよいし、n>1やm>1であってもよい。但し、PMMA吸着ペプチドは、アミノ酸残基が10個以下程度に短いことが好ましく、この場合、全アミノ酸残基中の最もN末端側(n=1やm=1のアミノ酸残基)に有していることが好ましい。
[0083]
 また、PMMA吸着ペプチドは、このような偶数番目の所定のアミノ酸配列(W・R・W,R・W・R)や、奇数番目の所定のアミノ酸配列(R・W・P,R・W・R,W・W・P,E・W・P)を、全長中に1個有していてもよいし、全長中に複数個有していてもよい。但し、PMMA吸着ペプチドは、アミノ酸残基が10個以下程度に短いことが好ましく、この場合、全長中に1個有していることが好ましい。
[0084]
 また、PMMA吸着ペプチドは、このような偶数番目の所定のアミノ酸配列(W・R・W,R・W・R)や、奇数番目の所定のアミノ酸配列(R・W・P,R・W・R,W・W・P,E・W・P)を、互いに連続する位置に有していてもよいし、互いにずれた位置に有していてもよい。すなわち、前記のアミノ酸残基の番号について、n=mであってもよいし、n≠mであってもよい。但し、PMMA吸着ペプチドは、アミノ酸残基が10個以下程度に短いことが好ましく、この場合、互いに連続する位置(n=mのアミノ酸残基)に有していることが好ましい。
[0085]
 PMMA吸着ペプチドは、次の配列番号(1-1)~(1-5)のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して1個又は2個のアミノ酸残基が付加、挿入、置換又は欠失したアミノ酸配列を含むペプチドであることが好ましく、配列番号(1-1)~(1-5)のいずれかで表されるアミノ酸配列を含むペプチドであることがより好ましく、配列番号(1-1)~(1-5)のいずれかで表されるアミノ酸配列であることが特に好ましい。
[0086]
  RWWRPWW・・・(1-1)
  RWWRRWW・・・(1-2)
  WWWRPWW・・・(1-3)
  EWWRPWR・・・(1-4)
  RWWRPWR・・・(1-5)
[0087]
 PMMA吸着ペプチドは、配列番号1-1~1-5のアミノ酸配列以外に、特定の機能を有するアミノ酸配列を有していてもよい。PMMA吸着ペプチドは、これらのアミノ酸配列を、全アミノ酸残基中の最もN末端側に有していてもよいし、全アミノ酸残基中の中間の位置に有していてもよい。
[0088]
 また、PMMA吸着ペプチドは、配列番号1-1~1-5のアミノ酸配列を、全長中に1個有していてもよいし、全長中に複数個有していてもよい。PMMA吸着ペプチドは、これらのアミノ酸配列のうち、一種を有していてもよいし、複数種を有していてもよい。
[0089]
 なお、PMMA吸着ペプチドのN末端やC末端は、化学修飾されていてもよいし、任意の電離状態であっていてもよい。例えば、N末端は、-NH 、-NH 、-CH CO、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(9-fluorenylmethyloxycarbonyl:Fmoc)基、tert-ブトキシカルボニル(tert-butoxycarbonyl:Boc)基等のいずれであってもよい。C末端は、-COOH、-COO 、-CONH 、-CONH 等のいずれであってもよい。
[0090]
 PMMA吸着ペプチドが、配列番号1-1~1-5のいずれかで表されるアミノ酸配列や、そのアミノ酸配列に類似したアミノ酸配列を含むペプチドであると、メトキシカルボニル基とメチル基を有する樹脂に対する剥離エネルギの理論値が高くなり、樹脂に対して高い親和性が得られる。そのため、樹脂に吸着させたペプチドが剥がれを起こし難くなり、より長期間にわたって生体適合性が持続する生体適合材料を得ることができる。
[0091]
 PMMA吸着ペプチドは、例えば、液相合成法、固相合成法等の化学的合成法や、遺伝子工学的合成法等の各種の合成法を用いて合成することができる。液相合成法としては、例えば、非特許文献(Keisuke Aihara et al., Organic Letters, 2015, 17(3), p.696-699)に記載されている可溶性アンカを用いる合成法や、非特許文献(矢内原昇 他2名、「ペプチドの化学合成とその応用」、有機合成化学協会誌、公益社団法人有機合成化学協会、1998年11月1日、第46巻、第11号、p.1073-1084)に記載されているstepwise法やフラグメント縮合法等を用いることができる。また、固相合成法としては、例えば、前記の非特許文献(有機合成化学協会誌)に記載されている各種の合成法や、非特許文献(軒原清史、「ペプチド合成の新技術」、高分子、公益社団法人高分子学会、1994年9月1日、第43巻、第9号、p.611-615)に記載されている各種の合成法を用いることができる。
[0092]
<メトキシカルボニル基とメチル基を有する樹脂>
 PMMA吸着ペプチドを吸着させる樹脂(生体適合性材料10を構成する樹脂1)としては、メトキシカルボニル基とメチル基を有する樹脂である限り、任意の樹脂を用いることができる。
[0093]
 PMMA吸着ペプチドを吸着させる樹脂は、メトキシカルボニル基とメチル基とを有する単量体の重合体であってもよいし、メトキシカルボニル基を有する単量体とメチル基を有する単量体との共重合体であってもよいし、メトキシカルボニル基やメチル基を有する単量体とその他の単量体との共重合体であってもよい。共重合体としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、及び、グラフト共重合体のいずれであってもよい。
[0094]
 PMMA吸着ペプチドを吸着させる樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)が好ましく、イソタクチックポリメタクリル酸メチル樹脂(it-PMMA)が特に好ましい。樹脂がPMMAであると、単量体がメトキシカルボニル基とメチル基を有しているため、高い親和性が得られる。また、樹脂がit-PMMAであると、メトキシカルボニル基とメチル基が立体規則的且つ均一な配置であるため、より高い親和性が得られる。また、アタクチックポリメタクリル酸メチル樹脂(atactic poly(methyl-methacrylate) resin:at-PMMA)や、シンジオタクチックポリメタクリル酸メチル樹脂(syndiotactic poly(methyl-methacrylate) resin:st-PMMA)と比較して、ガラス転移温度が低いため、生体適合性材料の加工が容易になる。
[0095]
 イソタクチックポリメタクリル酸メチル樹脂(it-PMMA)は、イソタクチックトライアッド分率(mm)が50%以上であり、好ましくは70%以上であり、より好ましくは90%以上であり、更に好ましくは95%以上である。it-PMMAは、メタクリル酸メチル以外の単量体を含んでいてもよい。
[0096]
 ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)は、例えば、非特許文献1に記載されている合成法を用いて合成することができる。tert-ブチル基のような嵩高い置換基を有するグリニャール試薬を開始剤として用い、メタクリル酸メチルを非極性溶媒中でアニオン重合させるとit-PMMAが得られる。非極性溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、トルエン等を用いることができる。
[0097]
<PTFE吸着ペプチド>
 次に、吸着ペプチドの一例として、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)等に対して高い親和性を示すPTFE吸着ペプチドについて説明する。
[0098]
 PTFE吸着ペプチドは、2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニルアラニン残基(Phe(5F):Zと表す。)、3-(トリフルオロメチル)アラニン残基(2-アミノ-4,4,4-トリフルオロ酪酸)(Abu(3F):Xと表す。)、セリン残基(Ser:S)、トレオニン残基(Thr:T)、ヒスチジン残基(His:H)、アスパラギン酸残基(Asp:D)、グルタミン酸残基(Glu:E)、フェニルアラニン残基(Phe:F)、アスパラギン残基(Asn:N)、及び、プロリン残基(Pro:P)のうち、一種以上のアミノ酸残基を含むアミノ酸配列で形成される。
[0099]
 表2は、ペプチドとポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)との吸着反応の剥離エネルギと、アミノ酸配列中の2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニルアラニン残基(Z)、3-(トリフルオロメチル)アラニン残基(X)、セリン残基(S)、トレオニン残基(T)、ヒスチジン残基(H)、アスパラギン酸残基(D)、グルタミン酸残基(E)、フェニルアラニン残基(F)及びアスパラギン残基(N)の存在率を示している。
[0100]
[表2]


[0101]
 表2において、配列番号2-1~2-22は、分子設計によってPTFEに対する親和性を向上させた本発明に係るPTFE吸着ペプチドである。配列番号3-1~3-7は、PTFEに対する親和性に基づくランダム・スクリーニングによって取得した本発明に係るPTFE吸着ペプチドである。配列番号4-1~4-4は、対照として作製した12merのペプチドである。
[0102]
 表2において、剥離エネルギとしては、分子動力学シミュレーションによる計算値(SIM計算値)を示している。分子動力学シミュレーションは、PMMA吸着ペプチドと同様に、反応分子動力学計算プログラム「ReaxFF」を用いて、水中における原子・分子の挙動を模擬して行った。
[0103]
 表2に示すように、配列番号2-1~2-22、配列番号3-1~3-7は、9種のアミノ酸の存在率が40%以上であり、高い剥離エネルギを示している。9種のアミノ酸の存在率が40%以上70%以下である配列番号3-1~3-7と、9種のアミノ酸の存在率が90%以上である配列番号2-1~2-22とを比較すると、後者がより高い剥離エネルギを示している。これに対し、配列番号4-1~4-4は、9種のアミノ酸の存在率が40%未満であり、剥離エネルギが小さい。
[0104]
 分子動力学シミュレーションの結果から、9種のアミノ酸の存在率が高く、適切な繰り返し構造を有するPTFE吸着ペプチドが、PTFEに対する高い親和性を示すことが分かる。
[0105]
 次に、PTFEとPTFE吸着ペプチドの原子配列を分子動力学シミュレーションで計算した結果を示す。
[0106]
 図12は、PTFEに吸着ペプチド(ZZXXZZXXZZXX:配列番号2-1)が吸着した状態の原子配列を示す画像である。図13は、PTFEに吸着ペプチド(STSTSTSTSTST:配列番号2-7)が吸着した状態の原子配列を示す画像である。図14は、PTFEに吸着ペプチド(STSTSPSTSTST:配列番号2-3)が吸着した状態の原子配列を示す画像である。図15は、PTFEに吸着ペプチド(HHHHHHHHHHHH:配列番号2-11)が吸着した状態の原子配列を示す画像である。図16は、PTFEに吸着ペプチド(AAAAAAAAAAAA:配列番号4-4)が吸着した状態の原子配列を示す画像である。
[0107]
 図12~16では、PTFE吸着ペプチドが吸着しているPTFEの界面を、PTFE吸着ペプチドの側から見た三次元モデリング画像を示している。細いスティックはPTFEの分子鎖、太いスティックは吸着ペプチドの主鎖、中間の太さのスティックは吸着ペプチドの側鎖を示す。PTFE吸着ペプチド中で最大の球は、主鎖に存在するカルボニル基の酸素を示す。
[0108]
 図12~16の画像上では、PTFE吸着ペプチド中の水素原子や、系内に存在する水和水等の水分子を、非表示としている。英数字で示される符号は、左字がN末端から数えたアミノ酸残基の番号、右字がアミノ酸残基の一文字表記である。
[0109]
 図12~16に示すように、PTFEは、分子鎖同士が互いに平行に配向している。これに対し、PTFE吸着ペプチドの主鎖は、PTFEの分子鎖と略平行に配向し、βストランド様のジグザグ構造を形成している。PTFE吸着ペプチドの主鎖に存在するカルボニル基の酸素(最大の球)は、いずれも、PTFEの分子鎖の近傍に位置している。
[0110]
 また、PTFE吸着ペプチドを構成するアミノ酸残基のうち、N末端からC末端に向かって奇数番目に位置するアミノ酸残基の側鎖は、主鎖に最も近いPTFEに隣接した別のPTFEの分子鎖に接近している。
[0111]
 一方、PTFE吸着ペプチドを構成するアミノ酸残基のうち、N末端からC末端に向かって偶数番目に位置するアミノ酸残基の側鎖は、主鎖に最も近いPTFEに隣接した反対側のPTFEの分子鎖に接近している。
[0112]
 図12~15に示すシミュレーション結果によると、PTFE吸着ペプチドの主鎖は、PTFEの分子鎖との間に、分子間の相互作用を形成すると考えられる。また、PTFE吸着ペプチドを構成するアミノ酸残基の側鎖は、主鎖に最も近いPTFEに隣接する複数のPTFEの分子鎖との間に、分子間の相互作用を形成すると考えられる。
[0113]
 特に、図14に示すシミュレーション結果によると、PTFE吸着ペプチドにプロリン残基が存在している場合、PTFE吸着ペプチドの主鎖のジグザグ構造が伸ばされずに安定し、α炭素周りの結合角・二面角が変化して小さい角度が形成されることが分かる。また、PTFE吸着ペプチドにプロリン残基が存在している場合、PTFE吸着ペプチドが折れ曲がり、複数のPTFEの分子鎖のそれぞれと相互作用を形成することが分かる。
[0114]
 また、図12や図15に示すシミュレーション結果によると、PTFE吸着ペプチドの側鎖に芳香環が存在する場合、プロリン残基が存在していなくても、PTFE吸着ペプチドの主鎖のジグザグ構造が伸ばされずに安定し、α炭素周りの結合角・二面角が変化して小さい角度が形成されることが分かる。
[0115]
 一方、図16に示すシミュレーション結果によると、PTFE吸着ペプチドの側鎖が短い疎水性のアラニン残基である場合、PTFE吸着ペプチドの主鎖のジグザグ構造が伸ばされており、PTFE吸着ペプチドの主鎖の途中に歪みを生じることが分かる。
[0116]
 表2や図12~16の結果に基づくと、PTFE吸着ペプチドを構成するアミノ酸残基としては、PTFEに対する吸着力が高い点で、比較的短く、極性や電子求引性がある側鎖を持つアミノ酸残基が有効であるといえる。また、プロリン残基は、PTFE吸着ペプチドの主鎖の構造や側鎖の配向の安定化に寄与する点で有効であるといえる。PTFE吸着ペプチドは、側鎖が適切に配向するような繰り返し構造を持つことが好ましいといえる。
[0117]
 次に、PTFEとPTFE吸着ペプチドとの相互作用を吸着実験によって測定した結果を示す。
[0118]
 図17は、吸着ペプチドを吸着させたPTFEの接触角の測定結果を示す図である。図18は、吸着ペプチドを吸着させたPTFEから吸着ペプチドを解離させた結果を示す図である。
 図17には、ペプチドをファージディスプレイによって発現させてファージ溶液を調製し、このファージ溶液にPTFEを1時間浸漬させたときの、超純水の液滴の接触角の測定結果を示す。ペプチドとしては、配列番号3-1~3-7のPTFE吸着ペプチドと、M13ファージの野生型(WT)の構造タンパクとを用いた。図18には、PTFEに吸着させたペプチドの解離量を定量した結果を示す。ペプチドは、ファージに発現させてPTFEに吸着させた後、ファージ溶液を溶出緩衝液(Elution buffer)と置換して解離・溶出させて定量した。
[0119]
 配列番号3-1~3-7のPTFE吸着ペプチドは、S、T、H、D、E、F及びNの存在率が40%以上である。一方、野生型のペプチドは、S、T、H、D、E、F及びNの存在率が30%である。野生型の構造タンパクのアミノ酸配列は、AEGDDPAKAAFNSLQATEYIGYAWAMVVVIVGATIGIKLFKKFTSKASである。
[0120]
 図17に示すように、配列番号3-1~3-7のPTFE吸着ペプチドでは、野生型のペプチドと比較して、接触角が小さくなった。極性が高いPTFE吸着ペプチドがPTFEに吸着することによって、PTFEの表面の親水性が高くなったものと考えられる。野生型のペプチドは、S、T、H、D、E、F及びNの存在率が30%と低いため、接触角が比較的大きい値であり、PTFEに対して十分に吸着しなかったと考えられる。
[0121]
 図18に示すように、S、T、H、D、E、F及びNの存在率が40%以上である配列番号3-1のPTFE吸着ペプチドは、S、T、H、D、E、F及びNの存在率が低い野生型のペプチドと比較して、ペプチドの解離量が低くなった。S、T、H、D、E、F及びNの存在率が40%以上であるPTFE吸着ペプチドは、吸着したPTFEから解離し難く、PTFEに対する親和性・密着性が高いことが示されている。
[0122]
 したがって、PTFE吸着ペプチドは、2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニルアラニン残基(Z)、3-(トリフルオロメチル)アラニン残基(X)、セリン残基(S)、トレオニン残基(T)、ヒスチジン残基(H)、アスパラギン酸残基(D)、グルタミン酸残基(E)、フェニルアラニン残基(F)又はアスパラギン残基(N)のうち、一種以上のアミノ酸残基を含み、繰り返し構造を持つアミノ酸配列であることが好ましい。
[0123]
 PTFE吸着ペプチドは、Z、X、S、T、H、D、E、F及びNのみを用いて形成してもよいし、その他のアミノ酸残基を用いて形成してもよい。PTFE吸着ペプチドを構成するアミノ酸残基は、L型であることが好ましい。
[0124]
 PTFE吸着ペプチドの剥離エネルギは、好ましくは25.0kJ/mol以上、より好ましくは30.0kJ/mol以上、更に好ましくは34.0kJ/mol以上、更に好ましくは35.0kJ/mol以上、更に好ましくは38.0kJ/mol以上、更に好ましくは40.0kJ/mol以上、更に好ましくは60.0kJ/mol以上である。
[0125]
 PTFE吸着ペプチドの長さは、アミノ酸残基で5個以上であることが好ましく、8個以上であることがより好ましく、10個以上であることが更に好ましい。また、アミノ酸残基で100個以下であることが好ましく、20個以下であることがより好ましく、15個以下であることが更に好ましい。PTFE吸着ペプチドが長いほど、樹脂に対して高い親和性を得ることができる。一方、PTFE吸着ペプチドが短いほど、分子内や分子間で凝集し難くなるため、化学修飾、クラスタ化等の改変が容易になる。PTFE吸着ペプチドの長さは、アミノ酸残基が12個であることが特に好ましい。
[0126]
 PMMA吸着ペプチドは、アミノ酸残基の40%以上が2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニルアラニン残基(Z)、3-(トリフルオロメチル)アラニン残基(X)、セリン残基(S)、トレオニン残基(T)、ヒスチジン残基(H)、アスパラギン酸残基(D)、グルタミン酸残基(E)、フェニルアラニン残基(F)、又は、アスパラギン残基(N)であることが好ましい。アミノ酸配列の全長に対するZ、X、S、T、H、D、E、F及びNの存在率は、50%以上がより好ましく、60%以上が更に好ましく、70%以上が更に好ましく、80%以上が更に好ましく、90%以上が更に好ましい。また、Z、X、S、T、H、D、E、F及びNの存在率は、100%としてもよいし、90%未満としてもよいし、80%未満としてもよい。
[0127]
 PTFE吸着ペプチドは、Z、X、S、T、H、D、E、F又はNを含む繰り返し構造を有することが好ましく、Z、X、S、T、H、D又はEを含む繰り返し構造を有することがより好ましく、Z、X、S又はTを含む繰り返し構造を有することが更に好ましく、Z又はXを含む繰り返し構造を有することが特に好ましい。
[0128]
 Z、X、S、T、H、D、E及びNは、側鎖が極性を有するため、樹脂に対して比較的強い相互作用を形成することができる。そのため、Z、X、S、T、H、D、E又はNを含むアミノ酸配列であると、PTFEに対して高い親和性を示すPTFE吸着ペプチドが得られる。また、Fを含むアミノ酸配列であると、主鎖の構造や側鎖の配向が安定したPTFE吸着ペプチドが得られる場合がある。
[0129]
 PTFE吸着ペプチドは、アミノ酸残基の5%以上がプロリン残基であることが好ましい。アミノ酸配列の全長に対するプロリン残基の存在率は、10%以上としてもよいし、15%以上としてもよい。また、プロリン残基の存在率は、20%未満としてもよいし、15%未満としてもよいし、10%未満としてもよい。
[0130]
 プロリン残基は、環構造を有しており、ペプチド結合の結合角や二面角が制約・固定されるため、主鎖の構造を安定化させる作用や、主鎖を折り曲げる作用を示す。そのため、プロリン残基を介在させると、主鎖の構造や側鎖の配向が安定したPTFE吸着ペプチドや、複数のPTFEの分子鎖のそれぞれと相互作用を形成するPTFE吸着ペプチドが得られる場合がある。
[0131]
 PMMA吸着ペプチドは、2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニルアラニン残基をZで表し、3-(トリフルオロメチル)アラニン残基をXで表したとき、次の配列番号(A-1)~(A-21)のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して1個又は2個のアミノ酸残基が付加、挿入、置換又は欠失したアミノ酸配列を含むペプチドであることが好ましく、配列番号(A-1)~(A-21)のいずれかで表されるアミノ酸配列を含むペプチドであることがより好ましく、配列番号(A-1)~(A-21)のいずれかで表されるアミノ酸配列を繰り返し単位として2個以上含むペプチドであることが更に好ましい。
  ZZXXZ・・・(A-1)
  ZXXZZ・・・(A-2)
  XXZZX・・・(A-3)
  XZZXX・・・(A-4)
  STSTS・・・(A-5)
  TSTST・・・(A-6)
  SSSSS・・・(A-7)
  TTTTT・・・(A-8)
  HHHHH・・・(A-9)
  DSDSD・・・(A-10)
  SDSDS・・・(A-11)
  DHDHD・・・(A-12)
  HDHDH・・・(A-13)
  DEDED・・・(A-14)
  EDEDE・・・(A-15)
  FFHHF・・・(A-16)
  FHHFF・・・(A-17)
  HHFFH・・・(A-18)
  HFFHH・・・(A-19)
  NENEN・・・(A-20)
  ENENE・・・(A-21)
[0132]
 また、PMMA吸着ペプチドは、次の配列番号(2-1)~(2-22)のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して1個又は2個のアミノ酸残基が付加、挿入、置換又は欠失したアミノ酸配列を含むペプチドであることがより好ましく、配列番号(2-1)~(2-22)のいずれかで表されるアミノ酸配列を含むペプチドであることが更に好ましく、配列番号(2-1)~(2-22)のいずれかで表されるアミノ酸配列であることが特に好ましい。
[0133]
  ZZXXZZXXZZXX・・・(2-1)
  ZXXZZXXZZXXZ・・・(2-2)
  STSTSPSTSTST・・・(2-3)
  TSTSTPTSTSTS・・・(2-4)
  SSSSSPSSSSSS・・・(2-5)
  TTTTTPTTTTTT・・・(2-6)
  STSTSTSTSTST・・・(2-7)
  TSTSTSTSTSTS・・・(2-8)
  SSSSSSSSSSSS・・・(2-9)
  TTTTTTTTTTTT・・・(2-10)
  HHHHHHHHHHHH・・・(2-11)
  HHHHHPHHHHHH・・・(2-12)
  DSDSDPDSDSDS・・・(2-13)
  DSDSDSDSDSDS・・・(2-14)
  DHDHDHDHDHDH・・・(2-15)
  DHDHDPDHDHDH・・・(2-16)
  DEDEDPDEDEDE・・・(2-17)
  DEDEDEDEDEDE・・・(2-18)
  FHHFFHHFFHHF・・・(2-19)
  FFHHFFHHFFHH・・・(2-20)
  NENENPNENENE・・・(2-21)
  NENENENENENE・・・(2-22)
[0134]
 また、PMMA吸着ペプチドは、次の配列番号(3-1)~(3-7)のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドであってもよい。アミノ酸配列の同一性は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、特に好ましくは100%である。
[0135]
  VHFPTKISEGDM・・・(3-1)
  TFTLNSVHRSVH・・・(3-2)
  SPHLHTSSPWER・・・(3-3)
  FIESKTPVDPDG・・・(3-4)
  GSESRTLFHPEG・・・(3-5)
  EALTVNIKREME・・・(3-6)
  SMIVEPRMLSTH・・・(3-7)
[0136]
 PTFE吸着ペプチドは、配列番号A-1~A-21や、配列番号2-1~2-22や、配列番号3-1~3-7のアミノ酸配列以外に、特定の機能を有するアミノ酸配列を有していてもよい。PTFE吸着ペプチドは、これらのアミノ酸配列を、全アミノ酸残基中の最もN末端側に有していてもよいし、全アミノ酸残基中の中間の位置に有していてもよい。
[0137]
 また、PTFE吸着ペプチドは、配列番号A-1~A-21や、配列番号2-1~2-22や、配列番号3-1~3-7のアミノ酸配列を、全長中に1個有していてもよいし、全長中に複数個有していてもよい。PTFE吸着ペプチドは、これらのアミノ酸配列のうち、一種を有していてもよいし、複数種を有していてもよい。
[0138]
 なお、PTFE吸着ペプチドのN末端やC末端は、化学修飾されていてもよいし、任意の電離状態であっていてもよい。例えば、N末端は、-NH 、-NH 、-CH CO、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(9-fluorenylmethyloxycarbonyl:Fmoc)基、tert-ブトキシカルボニル(tert-butoxycarbonyl:Boc)基等のいずれであってもよい。C末端は、-COOH、-COO 、-CONH 、-CONH 等のいずれであってもよい。
[0139]
 PTFE吸着ペプチドが、配列番号A-1~A-21や、配列番号2-1~2-22や、配列番号3-1~3-7のアミノ酸配列や、そのアミノ酸配列に類似したアミノ酸配列を含むペプチドであると、フッ素樹脂に対する剥離エネルギの理論値が高くなり、フッ素樹脂に対して高い親和性が得られる。そのため、フッ素樹脂に吸着させたペプチドが剥がれを起こし難くなり、より長期間にわたって生体適合性が持続する生体適合材料を得ることができる。
[0140]
 PTFE吸着ペプチドは、PMMA吸着ペプチドと同様に、液相合成法、固相合成法等の化学的合成法や、遺伝子工学的合成法等の各種の合成法を用いて合成することができる。
[0141]
<フッ素樹脂>
 PTFE吸着ペプチドを吸着させる樹脂(生体適合性材料10を構成する樹脂1)としては、フッ素化されたオレフィン単位を有するフッ素樹脂である限り、任意の樹脂を用いることができる。
[0142]
 PTFE吸着ペプチドを吸着させる樹脂は、フッ素化された単量体の重合体であってもよいし、フッ素化された単量体とその他の単量体との共重合体であってもよい。共重合体としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、及び、グラフト共重合体のいずれであってもよい。
[0143]
 PTFE吸着ペプチドを吸着させる樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が特に好ましい。PTFE吸着ペプチドを吸着させる樹脂がPTFEであると、置換基であるフッ素原子が立体規則的且つ均一な配置であるため、高い親和性が得られる。
[0144]
 フッ素樹脂は、一般的な合成法を用いて合成することができる。例えば、四フッ化エチレン等のフッ素化オレフィンをラジカル重合させると、粉末状等のフッ素樹脂が得られる。フッ素樹脂は溶融時の粘度が高く流動性が低いが、粉末状等のフッ素樹脂を溶融させた後に冷却すると、フッ素樹脂の成形体、非成形固体等が得られる。ラジカル重合の方法としては、例えば、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合等のいずれを用いることもできる。
[0145]
<生体適合性材料の製造方法>
 本実施形態に係る生体適合性材料10は、例えば、吸着ペプチド2を分散させた液体を材料の本体である樹脂1に接触させる方法によって製造することができる。液体としては、pH調整剤、緩衝剤、塩、還元剤、有機溶媒等の各種の添加剤が添加されたバッファや、水等を用いることができる。
[0146]
 液体を樹脂1に接触させる方法としては、例えば、樹脂1に液体を塗布する方法、樹脂1に液体を噴霧する方法、樹脂1を液体に浸漬する方法等の各種の方法を用いることができる。樹脂1上に液体を流して接触させる場合、液体の流量を20μL/min以下とすると、吸着ペプチド2の吸着の効率が高くなる。
[0147]
<生体適合性材料の複合化>
 本実施形態に係る生体適合性材料10は、材料の本体である樹脂1が繊維材又は充填材と複合化されている形態や、樹脂1が樹脂1とは異なる被着材料の表面に積層されている形態や、樹脂1がデバイスの筐体を構成している形態として用いることもできる。
[0148]
 図19は、繊維材と複合化された生体適合性材料を模式的に示す図である。
 図19に示すように、繊維材と複合化された生体適合性材料10Aは、材料の本体である樹脂1と、その樹脂1に吸着した吸着ペプチド(ペプチド)2と、樹脂1に埋設された繊維材4と、を含む。
[0149]
 生体適合性材料10Aにおいて、繊維材4は、樹脂1のマトリックス中に埋設されている。繊維材4は、短いウィスカ状等としてマトリックス中に分散させてもよいし、編物、織物、組物等を形成させてマトリックス中に埋設してもよい。繊維材4は、樹脂1を重合する前や、予備成形した粉末状の樹脂1を溶融成形する前等に、樹脂1中に分散・配置して複合化することができる。
[0150]
 繊維材4としては、有機繊維、無機繊維、及び、金属繊維のいずれを用いてもよい。有機繊維としては、例えば、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、セルロース繊維、フッ素樹脂繊維等が挙げられる。無機繊維としては、例えば、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ムライト繊維、ロックウール等が挙げられる。繊維材4としては、一種を用いてもよいし、複数種を用いてもよい。フッ素樹脂と複合化する繊維材4としては、フッ素樹脂よりも融点が高い無機繊維や金属繊維が好ましい。
[0151]
 図20は、充填材と複合化された生体適合性材料を模式的に示す図である。
 図20に示すように、充填材と複合化された生体適合性材料10Bは、材料の本体である樹脂1と、その樹脂1に吸着した吸着ペプチド(ペプチド)2と、樹脂1に埋設された充填材5と、を含む。
[0152]
 生体適合性材料10Bにおいて、充填材5は、樹脂1のマトリックス中に埋設されている。充填材5は、粒子(球)状、フレーク状、板状等のいずれの形状であってもよい。また、充填材5は、中実形状であってもよいし、中空形状であってもよい。充填材5は、樹脂1を重合する前や、予備成形した粉末状の樹脂1を溶融成形する前等に、樹脂1中に分散させて複合化することができる。
[0153]
 充填材5としては、有機材料、無機材料、及び、金属材料のいずれを用いてもよい。有機材料としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、アラミド、フッ素樹脂等が挙げられる。無機材料としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、炭化ケイ素、ガラス、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ムライト、マイカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化鉄、フェライト等が挙げられる。充填材5としては、一種を用いてもよいし、複数種を用いてもよい。フッ素樹脂と複合化する充填材5としては、フッ素樹脂よりも融点が高い無機材料や金属材料が好ましい。
[0154]
 図19に示す生体適合性材料10Aや、図20に示す生体適合性材料10Bによると、吸着ペプチド2の作用による生体適合性の向上に加え、繊維材4や充填材5による、剛性の向上、誘電特性の改良、耐圧性能の向上等の各種の効果を得ることができる。そのため、長期間にわたって生体適合性が持続し、材料自体の剛性や材料の用途に応じた性能が向上した生体適合材料を得ることができる。
[0155]
 図21は、被着材料の表面に積層された生体適合性材料を模式的に示す図である。
 図21に示すように、被着材料20の表面に積層された生体適合性材料10は、樹脂1と、樹脂1に吸着した吸着ペプチド(ペプチド)2と、樹脂1とは異なる被着材料20と、によって構成される多層構造の複合材100を形成する。
[0156]
 複合材100は、生体と接触する可能性がある任意の物品の材料として用いることができる。複合材100で形成する物品は、生体と接触する可能性がある限り、種類、用途、機能等が、特に制限されるものではない。複合材100は、前記の生体適合性材料10自体と同様に、具体例として挙げた物品を形成することができる。
[0157]
 複合材100において、吸着ペプチド2は、生体適合性材料10の表面に吸着しており、被着材料20は、吸着ペプチド2が吸着していない生体適合性材料10の裏面に接合している。生体適合性材料10と被着材料20との接合は、被着材料20の種類に応じて、被着材料20の表面で樹脂1を重合させる方法や、圧着、溶着、接着等の適宜の方法で行うことができる。
[0158]
 被着材料20は、樹脂1とは異なる材料であり、複合材100の本体を構成する。被着材料20の形状は、複合材100で形成する物品の種類、用途、機能等に応じて適宜の形状とすることが可能であり、特に制限されるものではない。被着材料20は、フィルム状やシート状の樹脂1で被覆されて複合材100を構成してもよいし、被着材料20と同様に成形された樹脂1と貼り合わされて複合材100を構成してもよい。被着材料20と樹脂1とは、物品の全体を構成してもよいし、物品の一部のみを構成してもよい。
[0159]
 被着材料20としては、天然高分子、合成高分子、発泡樹脂等の有機材料、アルミナ、ジルコニア、ガラス等の無機材料、及び、ステンレス鋼、アルミニウム合金、銅合金、コバルト合金、チタン合金等の金属材料のいずれを用いてもよい。被着材料20は、それ自体が生体適合性を有していてもよいし、それ自体が生体適合性を有していなくてもよい。被着材料20自体が生体適合性を有する場合、被着材料20は、生体適合性材料10で、表面の一部が覆われていてもよいし、表面の全部が覆われていてもよい。
[0160]
 図21に示す生体適合性材料10によると、メトキシカルボニル基とメチル基を有する樹脂やフッ素樹脂とは異なる所望の特性を有する被着材料20を利用して、生体適合性を備える複合材100を形成することができる。被着材料20は、吸着ペプチド2との親和性や生体適合性を備えることが要求されないため、被着材料20の選定の自由度が高く、剛性の向上、誘電特性の改良、耐圧性能の向上、コストの低減等の各種の効果を得ることができる。そのため、長期間にわたって生体適合性が持続し、材料の用途に応じた性能を備える複合材を制約少なく得ることができる。
[0161]
 図22は、デバイスの筐体を構成している生体適合性材料を模式的に示す図である。
 図22に示すように、デバイス30の筐体を構成した生体適合性材料10は、樹脂1と、その樹脂1に吸着した吸着ペプチド(ペプチド)2と、によって構成される筐体でデバイス30の表面を覆うことによって体内埋め込み型デバイス200を形成する。
[0162]
 体内埋め込み型デバイス200は、生体内に埋植されて各種の目的で動作する。体内埋め込み型デバイス200の種類、用途、機能等は、特に制限されるものではない。体内埋め込み型デバイス200の具体例としては、非特許文献(杉山知子 他4名、「長期埋込み型デバイス材料の皮下埋植実験における組織適合性評価」、人工臓器、一般社団法人日本人工臓器学会、1998年4月15日、第28巻、第2号、p.509-513)に記載されるような人工心臓が挙げられる。また、その他、人工膵臓、ペースメーカ等の人工臓器や、人工関節、人工筋等の人工組織や、IC(integrated circuit)タグ、ICチップ等の電子機器等が挙げられる。
[0163]
 体内埋め込み型デバイス200において、吸着ペプチド2は、筐体を構成する樹脂1の表面に吸着しており、デバイス30は、吸着ペプチド2が吸着していない樹脂1の裏面側に内蔵されている。デバイス30は、樹脂1に対して圧着、溶着、接着、締結具等を用いた機械的接合等の適宜の方法で接合することができるし、樹脂1に対して接合せずに樹脂1で覆うこともできる。
[0164]
 デバイス30は、例えば、治療、生体機能の代替、生体機能の補助、情報の記録、情報の演算等の各種の目的で動作するように、人工材料等を用いた各種の機構部品や電子部品等で形成される。デバイス30は、体内埋め込み型デバイス200の種類、用途、機能等に応じて適宜の形状とすることが可能であり、特に制限されるものではない。デバイス30は、生体適合性材料10で、表面の一部が覆われていてもよいし、表面の全部が覆われていてもよい。また、デバイス30は、体内で自立的に動作してもよいし、体外の機器と配管、制御線等で接続された状態で動作してもよい。
[0165]
 図22に示す生体適合性材料10によると、各種の目的で動作するデバイス30を、生体適合性を示す筐体で覆って、生体に悪影響や刺激を与え難い体内埋め込み型デバイス200を形成することができる。デバイス30を内蔵する筐体は、樹脂1によって高い自由度で成形することができるし、吸着ペプチド2によって簡単な処理・操作で筐体の形状に関わらず効率的に生体適合性を付与することができる。そのため、長期間にわたって生体適合性が持続し、体内で所望の機能を果たす体内埋め込み型デバイスを効率的に製造することができる。
[0166]
<機能性材料>
 本実施形態に係る生体適合性材料10は、各種の機能性物質と複合化することにより、材料自体が特定の機能を果たす機能性材料の形態とすることもできる。
[0167]
 図23、図24及び図25は、機能性材料の構成例を模式的に示す図である。
 図23、図24及び図25に示すように、本実施形態に係る機能性材料300(300A,300B,300C)は、材料の本体である樹脂1と、樹脂1に吸着した吸着ペプチド(ペプチド)2と、生体の内部又は生体の表面で機能する機能性物質6と、を含む。
[0168]
 機能性物質6としては、生体の内部又は生体の表面において生物学的作用、化学的作用等によって特定の機能を果たす各種の物質が用いられる。機能性物質6は、樹脂1に吸着してもよいし、樹脂1に吸着した吸着ペプチド2に吸着してもよい。吸着ペプチド2は、機能性材料300の表面側の生体適合性を向上させる機能に加え、表面側に吸着する機能性物質6を接着・結合させる機能を備えることができる。
[0169]
 機能性物質6としては、例えば、生理活性物質、抗菌性物質等の各種の物質を用いることができる。機能性物質6は、機能性材料300の使用時に、生体適合性材料10の表面に保持された状態で機能してもよいし、生体適合性材料10の表面から放出されて機能してもよい。機能性物質6は、物理吸着によって吸着してもよいし、化学吸着によって吸着してもよい。
[0170]
 生理活性物質の具体例としては、インターロイキン-10等の炎症を抑制するタンパク質や、インターロイキン-8等の血管新生を促進するタンパク質が挙げられる。また、その他のインターロイキン、インターフェロン、ケモカイン等のサイトカインや、ホルモン等が挙げられる。また、抗生物質、抗凝固薬、抗ヒスタミン薬、ビタミン等の栄養素、鎮静薬、鎮痛薬、消炎薬、ステロイド、インスリン等が挙げられる。
[0171]
 抗菌性物質の具体例としては、銀、銅、亜鉛、チタン、ジルコニウム、コバルト、ニッケル等の金属粒子や、これらの金属の無機化合物や、これらの金属をゼオライト等の担体に担持させた金属担体等が挙げられる。
[0172]
 機能性材料300は、図23に示すように、樹脂1の表面の一部に吸着ペプチド2を吸着させて、樹脂1の表面の残部と吸着ペプチド2を機能性物質6で覆った形態(機能性材料300A)とすることができる。機能性物質6は、吸着ペプチド2に対して物理吸着してもよいし、吸着ペプチド2に対して化学吸着してもよいし、樹脂1に対して物理吸着してもよいし、樹脂1と吸着ペプチド2の両方に対して物理吸着してもよい。
[0173]
 また、機能性材料300は、図24に示すように、樹脂1の表面の全体に吸着させた吸着ペプチド2を機能性物質6で覆った形態(機能性材料300B)とすることもできる。機能性物質6は、吸着ペプチド2に対して物理吸着してもよいし、吸着ペプチド2に対して化学吸着してもよい。
[0174]
 このような機能性材料300A,300Bによると、樹脂1の表面に吸着している吸着ペプチド2によって良好な生体適合性が得られる。特に、機能性物質6が生体適合性材料10の表面から放出された場合に、樹脂1の表面が露出し難くなるため、樹脂1による生体に対する悪影響や刺激を抑制することができる。
[0175]
 また、機能性材料300は、図25に示すように、樹脂1の表面の全体に吸着させた吸着ペプチド2の一部を機能性物質6で覆い、吸着ペプチド2を表面に露出させた形態(機能性材料300C)とすることもできる。機能性物質6は、吸着ペプチド2に対して物理吸着してもよいし、吸着ペプチド2に対して化学吸着してもよい。
[0176]
 このような機能性材料300Cによると、機能性物質6の性質にかかわらず、表面に露出している吸着ペプチド2によって良好な生体適合性が得られる。特に、機能性物質6が生体適合性材料10の表面から放出された場合に、樹脂1の表面が露出しなくなるため、樹脂1による生体に対する悪影響や刺激を防止することができる。
[0177]
 以上、本発明について説明したが、本発明は、前記の実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、本発明は、必ずしも前記の実施形態や変形例が備える全ての構成を備えるものに限定されない。或る実施形態や変形例の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態や変形例の構成の一部を他の形態に追加したり、或る実施形態や変形例の構成の一部を省略したりすることができる。
[0178]
 例えば、前記の繊維材4や充填材5は、被着材料20を覆う生体適合性材料10や、デバイス30の筐体を構成する生体適合性材料10と、複合化することもできる。また、前記の被着材料20は、吸着ペプチド2が吸着している側の生体適合性材料10の表面に接するように設けることもできる。また、前記のデバイス30の筐体は、チタン等の被着材料20に積層されている生体適合性材料10で形成することもできる。
[0179]
 また、前記の機能性材料300は、樹脂1と、樹脂1に吸着した吸着ペプチド2と、機能性物質6とを含む限り、吸着の状態や形状・構造等が、特に制限されるものではない。機能性物質6自体が、樹脂1に吸着するアミノ酸配列を有していてもよいし、吸着ペプチド2と吸着していてもよいし、吸着ペプチド2と共有結合等で結合していてもよい。

符号の説明

[0180]
1   樹脂
2   吸着ペプチド
4   繊維材
5   充填材
6   機能性物質
10  生体適合性材料
20  被着材料
30  デバイス
100 複合材
200 体内埋め込み型デバイス
300 機能性材料

請求の範囲

[請求項1]
 樹脂と、前記樹脂に吸着したペプチドと、を含む生体適合性材料であって、
 前記樹脂は、メトキシカルボニル基、及び、メチル基を有し、
 前記ペプチドは、アミノ酸残基の70%以上がトリプトファン残基又はアルギニン残基である生体適合性材料。
[請求項2]
 請求項1に記載の生体適合性材料であって、
 前記ペプチドは、アミノ酸残基の10%以上がプロリン残基又はグルタミン酸残基である生体適合性材料。
[請求項3]
 請求項1に記載の生体適合性材料であって、
 前記ペプチドは、N末端から2n番目(但し、nは自然数を表す。以下同じ。)のアミノ酸残基がトリプトファン残基、2n+2番目のアミノ酸残基がアルギニン残基、2n+4番目のアミノ酸残基がトリプトファン残基である生体適合性材料。
[請求項4]
 請求項3に記載の生体適合性材料であって、
 前記ペプチドは、N末端から2m-1番目(但し、mは自然数を表す。以下同じ。)のアミノ酸残基がアルギニン残基、2m+1番目のアミノ酸残基がトリプトファン残基、2m+3番目のアミノ酸残基がプロリン残基であるか、又は、
 N末端から2m-1番目のアミノ酸残基がアルギニン残基、2m+1番目のアミノ酸残基がトリプトファン残基、2m+3番目のアミノ酸残基がアルギニン残基であるか、又は、
 N末端から2m-1番目のアミノ酸残基がトリプトファン残基、2m+1番目のアミノ酸残基がトリプトファン残基、2m+3番目のアミノ酸残基がプロリン残基であるか、又は、
 N末端から2m-1番目のアミノ酸残基がグルタミン酸残基、2m+1番目のアミノ酸残基がトリプトファン残基、2m+3番目のアミノ酸残基がプロリン残基である生体適合性材料。
[請求項5]
 請求項1に記載の生体適合性材料であって、
 前記ペプチドは、次の配列番号(1-1)~(1-5)のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して1個又は2個のアミノ酸残基が付加、挿入、置換又は欠失したアミノ酸配列を含むペプチドである生体適合性材料。
  RWWRPWW・・・(1-1)
  RWWRRWW・・・(1-2)
  WWWRPWW・・・(1-3)
  EWWRPWR・・・(1-4)
  RWWRPWR・・・(1-5)
[請求項6]
 請求項1に記載の生体適合性材料であって、
 前記樹脂は、ポリメタクリル酸メチル樹脂である生体適合性材料。
[請求項7]
 請求項1に記載の生体適合性材料であって、
 前記樹脂は、イソタクチックポリメタクリル酸メチル樹脂である生体適合性材料。
[請求項8]
 樹脂と前記樹脂に吸着したペプチドを含む生体適合性材料であって、
 前記樹脂は、フッ素樹脂であり、
 前記ペプチドは、アミノ酸残基の40%以上が2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニルアラニン残基、3-(トリフルオロメチル)アラニン残基、セリン残基、トレオニン残基、ヒスチジン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、フェニルアラニン残基又はアスパラギン残基である生体適合性材料。
[請求項9]
 請求項8に記載の生体適合性材料であって、
 前記ペプチドは、2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニルアラニン残基をZで表し、3-(トリフルオロメチル)アラニン残基をXで表したとき、次の配列番号(A-1)~(A-21)のいずれかで表されるアミノ酸配列を含むペプチド、又は、次の配列番号(A-1)~(A-21)のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して1個又は2個のアミノ酸残基が付加、挿入、置換又は欠失したアミノ酸配列を含むペプチドである生体適合性材料。
  ZZXXZ・・・(A-1)
  ZXXZZ・・・(A-2)
  XXZZX・・・(A-3)
  XZZXX・・・(A-4)
  STSTS・・・(A-5)
  TSTST・・・(A-6)
  SSSSS・・・(A-7)
  TTTTT・・・(A-8)
  HHHHH・・・(A-9)
  DSDSD・・・(A-10)
  SDSDS・・・(A-11)
  DHDHD・・・(A-12)
  HDHDH・・・(A-13)
  DEDED・・・(A-14)
  EDEDE・・・(A-15)
  FFHHF・・・(A-16)
  FHHFF・・・(A-17)
  HHFFH・・・(A-18)
  HFFHH・・・(A-19)
  NENEN・・・(A-20)
  ENENE・・・(A-21)
[請求項10]
 請求項8に記載の生体適合性材料であって、
 前記ペプチドは、次の配列番号(3-1)~(3-5)のいずれかで表されるアミノ酸配列を含むペプチド、又は、次の配列番号(3-1)~(3-5)のいずれかで表されるアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドである生体適合性材料。
  VHFPTKISEGDM・・・(3-1)
  SPHLHTSSPWER・・・(3-2)
  FIESKTPVDPDG・・・(3-3)
  EALTVNIKREME・・・(3-4)
  SMIVEPRMLSTH・・・(3-5)
[請求項11]
 請求項8に記載の生体適合性材料であって、
 前記樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンである生体適合性材料。
[請求項12]
 請求項1~11のいずれか一項に記載の生体適合性材料であって、
 前記樹脂は、繊維材又は充填材と複合化されている生体適合性材料。
[請求項13]
 請求項1~11のいずれか一項に記載の生体適合性材料であって、
 前記樹脂は、前記樹脂とは異なる被着材料に積層されている生体適合性材料。
[請求項14]
 請求項1~11のいずれか一項に記載の生体適合性材料であって、
 前記樹脂は、機構部品又は電子部品を備えたデバイスの筐体を構成している生体適合性材料。
[請求項15]
 請求項1~11のいずれか一項に記載の生体適合性材料と、生体の内部又は生体の表面で機能する機能性物質と、を含む機能性材料であって、
 前記機能性物質は、前記生体適合性材料の表面に保持されるか、又は、前記生体適合性材料の表面から放出される機能性材料。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]

[ 図 6]

[ 図 7]

[ 図 8]

[ 図 9]

[ 図 10]

[ 図 11]

[ 図 12]

[ 図 13]

[ 図 14]

[ 図 15]

[ 図 16]

[ 図 17]

[ 図 18]

[ 図 19]

[ 図 20]

[ 図 21]

[ 図 22]

[ 図 23]

[ 図 24]

[ 図 25]