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1. (WO2018220910) CORPS FRITTÉ DE NITRURE DE BORE CUBIQUE REVÊTU EN SURFACE ET OUTIL DE COUPE DOTÉ DE CE DERNIER
Document

明 細 書

発明の名称 表面被覆立方晶窒化硼素焼結体およびこれを備える切削工具

技術分野

0001  

背景技術

0002  

先行技術文献

特許文献

0003  

発明の概要

0004  

図面の簡単な説明

0005  

発明を実施するための形態

0006   0007   0008   0009   0010   0011   0012   0013   0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062  

実施例

0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081   0082   0083   0084   0085   0086   0087   0088   0089   0090   0091   0092   0093   0094   0095   0096   0097   0098   0099   0100   0101   0102   0103   0104   0105   0106   0107   0108   0109   0110   0111   0112   0113   0114   0115   0116   0117   0118  

符号の説明

0119  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7  

図面

1   2   3  

明 細 書

発明の名称 : 表面被覆立方晶窒化硼素焼結体およびこれを備える切削工具

技術分野

[0001]
 本発明は、表面被覆立方晶窒化硼素焼結体およびこれを備える切削工具に関する。本出願は、2017年5月29日に出願した日本特許出願である特願2017-105583号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。

背景技術

[0002]
 従来、立方晶窒化硼素(以下、「cBN」ともいう。)焼結体を用いた切削工具が知られている。たとえば、特開2015-209354号公報(特許文献1)には、cBN焼結体にバイアス電圧を印加し、ArイオンによりcBN焼結体の表面に対してエッチングを行なった後に、当該表面に被膜を形成することにより切削工具を製造する技術が開示されている。

先行技術文献

特許文献

[0003]
特許文献1 : 特開2015-209354号公報

発明の概要

[0004]
 本開示の一態様に係る表面被覆立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素焼結体である基材と、基材に接して基材を被覆する被膜とを備える。基材中の立方晶窒化硼素と被膜との界面において、Fe含有量は1at%以下であり、W含有量は1at%以下であり、かつO含有量は2at%以下である。

図面の簡単な説明

[0005]
[図1] 図1は、本実施形態に係る切削工具の構成の一例を示す部分断面図である。
[図2] 図2は、試料No.2における立方晶窒化硼素と被膜との界面を示す200万倍のTEM像(明視野像(bright-field image))である。
[図3] 図3は、試料No.2における立方晶窒化硼素と被膜との界面を示す200万倍のTEM像(HAADF像(high-angle annular dark field image))である。

発明を実施するための形態

[0006]
 [本開示が解決しようとする課題]
 ところで近年、切削速度の高速化および難削材に対する切削性能の向上の要求が高まっている。しかしながら、従来の切削工具では、切削速度を速めた場合または難削材を切削するときに被膜が剥離しやすく、上記の要求を十分に満たすことができない。
[0007]
 以上の点に鑑み、本開示では、被膜の耐剥離性に優れた表面被覆立方晶窒化硼素焼結体およびこれを備える切削工具を提供する。
[0008]
 [本開示の効果]
 上記によれば、被膜の耐剥離性に優れた表面被覆立方晶窒化硼素焼結体および切削工具を提供することができる。
[0009]
 [本願発明の実施形態の説明]
 最初に本開示の実施態様を列記して説明する。なお、本明細書において「M~N」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちM以上N以下)を意味し、Mにおいて単位の記載がなく、Nにおいてのみ単位が記載されている場合、Mの単位とNの単位とは同じである。
[0010]
 〔1〕本開示に係る表面被覆立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素焼結体である基材と、基材に接して基材を被覆する被膜とを備える。基材中の立方晶窒化硼素と被膜との界面において、Fe含有量は1at%以下であり、W含有量は1at%以下であり、かつO含有量は2at%以下である。
[0011]
 基材である立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素と結合剤とからなる。基材と被膜との密着性は、基材中の立方晶窒化硼素の結晶と被膜の結晶との格子定数の差に影響される。一般に、被膜の結晶の格子定数は、立方晶窒化硼素の結晶の格子定数よりも大きい。ここで、FeおよびWの少なくとも一方は、界面に存在すると、被膜の結晶中に入り込み、当該結晶の格子定数を増大させる。その結果、立方晶窒化硼素の結晶と被膜の結晶との格子定数の差がさらに大きくなり、基材と被膜との密着性が低下する。しかしながら、上記の構成によれば、立方晶窒化硼素の結晶と被膜の結晶との格子定数の差に起因する密着性の低下を抑制できる。
[0012]
 Feは、被膜を形成する際に用いる治具に含まれることが多く、基材の表面に付着しやすい。また、基材は、WC粉末を焼結させた超硬合金にろう付けされて使用されることが多い。そのため、超硬合金にろう付けされた後に基材の表面に被膜を形成する場合に、超硬合金に含まれるWが基材の表面に付着しやすい。FeまたはWが基材と被膜との界面に存在すると、FeまたはWが被膜の結晶中に入り込むことによって、当該結晶の格子定数が大きくなり、基材と被膜との密着性が低下しやすい。しかしながら、上記の構成によれば、基材中の立方晶窒化硼素の結晶と被膜の結晶との格子定数の差に起因する密着性の低下を抑制できる。
[0013]
 また、立方晶窒化硼素と被膜との界面に酸化物が存在すると、立方晶窒化硼素と被膜との密着性が低下しやすい。しかしながら、上記の構成によれば、酸化物による立方晶窒化硼素と被膜との密着性の低下を抑制できる。
[0014]
 以上により、立方晶窒化硼素と被膜との密着性が向上し、被膜の耐剥離性が向上した表面被覆立方晶窒化硼素焼結体を実現できる。
[0015]
 〔2〕Fe含有量とW含有量との合計含有量が0.05at%以上である層の厚みは5nm以下である。これにより、FeおよびWの少なくとも一方に起因した密着性の低下を抑制でき、基材と被膜との密着性がさらに向上する。
[0016]
 〔3〕上記表面被覆立方晶窒化硼素焼結体において、被膜は多結晶体である。被膜における界面から10nm以内の領域は、平均粒径が10nm以下の結晶粒からなる。これにより、被膜における界面近傍領域の粒界が増加し、界面に生じる応力を緩和させることができ、被膜の耐剥離性がさらに向上する。また、粒界が増加することにより、粒界において塑性変形および亀裂の進展を阻止する作用が高められる。さらに、衝撃を受けた場合であっても、被膜が剥離しにくくなり、表面被覆立方晶窒化硼素焼結体の耐衝撃性が向上する。
[0017]
 〔4〕上記界面におけるAr含有量は1at%以下である。一般に、基材の表面にArイオンを照射して、クリーニングする処理が行なわれる。このとき、Arが基材の表面に付着し、基材と被膜との界面に残る場合がある。Arが界面に多く存在すると、被膜の結晶性が悪化するとともに、界面の応力が増大することにより、基材と被膜との密着性が低下する。しかしながら、上記の構成によれば、界面におけるAr含有量が1at%以下であるため、基材と被膜との密着性が向上する。
[0018]
 〔5〕上記表面被覆立方晶窒化硼素焼結体において、被膜の厚みは0.3μm以上10μm以下である。これにより、被膜による耐摩耗性の向上等の効果をより顕著に発揮することができる。
[0019]
 〔6〕上記表面被覆立方晶窒化硼素焼結体において、被膜は、Al,Ti,CrおよびSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、CおよびNからなる群より選択される少なくとも1種の元素とからなる少なくとも1種の化合物を含む。これにより、被膜の硬度、耐摩耗性、耐酸化性が向上する。
[0020]
 〔7〕本開示に係る切削工具は、上記表面被覆立方晶窒化硼素焼結体を備える。上記切削工具によれば、被膜の耐剥離性が向上する。これにより、切削工具の寿命を長期化することができる。
[0021]
 [本願発明の実施形態の詳細]
 以下、本発明の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)について説明する。ただし、本実施形態はこれらに限定されるものではない。なお以下の実施の形態の説明に用いられる図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わす。また、本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のものに限定されるものではない。たとえば「AlCrN」と記載されている場合、AlCrNを構成する原子数の比はAl:Cr:N=0.5:0.5:1に限られず、従来公知のあらゆる原子比が含まれる。
[0022]
 〈切削工具〉
 図1は、本実施形態に係る切削工具の構成の一例を示す部分断面図である。図1に示されるように、切削工具100は、台金101と、台金101の所定の領域にろう付け層102を介して固定された表面被覆cBN焼結体10とを備える。
[0023]
 切削工具100の形状および用途は特に制限されない。たとえばドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、クランクシャフトのピンミーリング加工用チップなどを挙げることができる。
[0024]
 台金101の形状および材料は特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。たとえば、台金101は、WC(炭化タングステン)と結合材(たとえば、Co)とを混合して焼結した超硬合金である。
[0025]
 表面被覆cBN焼結体10は、基材11と、基材11に接して基材11を被覆する被膜12とを備える。基材11は、台金101にろう付け層102を介して固定される。ろう付け層の材料(ろう材)は、接合強度や融点を考慮し適宜選択すればよく、800℃以上の融点を有する材料(たとえば、Agを主成分とする材料)が好ましい。
[0026]
 被膜12は、基材11の表面を被覆するとともに、台金101の表面にまで延在し、切削工具100のすくい面100aおよび逃げ面100bを構成する。なお、被膜12は、基材11の全面を被覆することが好ましいが、基材11の一部がこの被膜12で被覆されていなかったり、被膜12の構成が部分的に異なっていたりしたとしても本発明の範囲を逸脱するものではない。
[0027]
 《基材》
 基材11は、cBNと結合材とを含むcBN焼結体である。cBN焼結体は、cBNと結合材とを含む限り他の成分を含んでもよく、また使用する原料や製造条件等に起因する不可避不純物を含み得る。cBNは、cBN焼結体にたとえば40~75体積%含まれている。
[0028]
 結合材は、cBN同士を互いに結合する作用を示すものであれば特に限定されず、従来公知の結合材をいずれも採用できる。結合材は、たとえば、元素の周期表の第4族元素(Ti、ZrまたはHf等)、第5族元素(V、NbまたはTa等)および第6族元素(Cr、MoまたはW等)のうちの少なくとも1つの元素と、C、N、B及びOのうちの少なくとも1つの元素とを含む化合物、かかる化合物の固溶体、または、アルミニウム化合物であることが好ましい。結合材は、上記化合物、上記化合物の固溶体、および、アルミニウム化合物のうちの2種以上を含んでもよい。
[0029]
 《被膜》
 被膜12は、多結晶体である。被膜12は、基材11の直上に物理蒸着法により形成され、基材11と接して基材11を被覆する。被膜12は、たとえば、Al、Ti、CrおよびSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、CおよびNからなる群より選択される少なくとも1種の元素とからなる少なくとも1種の化合物を含む。当該化合物としては、たとえばTiAlN、AlCrN、TiAlSiN、TiSiN、TiCN等を挙げることができる。被膜12としてこのような化合物を選択することにより、被膜12の硬度が向上するとともに、耐摩耗性および耐酸化性が向上する。被膜12の耐摩耗性が向上することに伴い、切削抵抗が増大しにくく、摩耗が発達しにくくなる。
[0030]
 被膜12の厚みは、0.3~10μmであることが好ましい。これにより、被膜による効果を顕著に発揮することができる。当該効果には、硬度、耐摩耗性、耐酸化性、耐反応性、耐チッピング性の向上が含まれる。被膜12の厚みが0.3μm未満であると、これらの効果が十分に発揮されない場合があり、10μmを超えると、被膜12における残留応力のためにチッピングが生じやすくなる。被膜12の厚みの下限は、より好ましくは0.5μmであり、さらに好ましくは1μmである。被膜12の厚みの上限は、より好ましくは8μmであり、さらに好ましくは6μmであり、特に好ましくは4μmである。
[0031]
 なお、被膜12の表面上に、第2被膜として、1層または2層以上の薄膜が形成されてもよい。このような薄膜としては、たとえば4族元素の窒化物、炭化物、炭窒化物および酸化物のいずれかの材質を有する膜等が挙げられる。
[0032]
 《立方晶窒化硼素と被膜との界面》
 基材11と被膜12との界面のうち、立方晶窒化硼素と被膜12の界面において、Fe含有量は1at%以下であり、W含有量は1at%以下であり、かつO含有量は2at%以下である。
[0033]
 Fe含有量およびW含有量は、透過型電子顕微鏡(TEM)付帯のエネルギー分散型X線分析器(EDS)を用いて、表面被覆cBN焼結体10の破断面の組織観察および元素分析を行なうことにより測定される。具体的には、TEM像にて基材11中の立方晶窒化硼素と被膜12との界面の法線方向に沿って当該界面を横断するラインを指定し、EDSを用いて、当該ラインに沿った元素の濃度分布変化を計測するラインスキャン測定を行なう。ここで、立方晶窒化硼素と被膜12との界面は、立方晶窒化硼素に含まれるBの濃度が基材11中の濃度の平均値の1/2となる位置である。
[0034]
 FeおよびWは、立方晶窒化硼素および被膜12を構成する元素に含まれない金属元素(異金属元素)であり、界面において検出される場合には界面付近に集中して存在することになる。Feは、被膜12を形成する際に用いられる治具に多く含まれている。Wは、WCを含む超硬合金によって台金101を構成した場合に、当該台金101に含まれる。そのため、治具から放出されたFeおよび台金101から放出されたWが基材11の表面に付着し、基材11と被膜12との界面に残存しやすい。
[0035]
 Feが界面付近に集中して存在すると、ラインスキャン測定によって得られたFeの濃度分布においてピークが生じる。当該ピークは、ライン上の界面に対応する点を含む。ここでは、当該ピークの最大濃度(at%)を、界面におけるFeの含有量とする。同様の方法により、界面におけるWの含有量が求められる。
[0036]
 FeおよびWの少なくとも一方は、界面付近に存在する場合、被膜12の結晶に入り込み、被膜12を構成する結晶の格子定数を増大させる。これにより、基材11を構成する立方晶窒化硼素の結晶の格子定数と被膜12を構成する結晶の格子定数との差が大きくなり、立方晶窒化硼素と被膜12との密着性を低下させる。しかしながら、界面におけるFeおよびWの含有量を上記のように規定することにより、FeまたはWに起因した立方晶窒化硼素と被膜12との密着性の低下を抑制し、被膜12の耐剥離性を向上させることができる。
[0037]
 界面におけるFe含有量は、より好ましくは0.5at%以下であり、さらに好ましくは0.3at%以下である。界面におけるW含有量は、より好ましくは0.5at%以下であり、さらに好ましくは0.3at%以下である。界面におけるFeおよびWの含有量の下限は、特に限定されるものではなく、理想的には0at%である。
[0038]
 基材11中の立方晶窒化硼素と被膜12との界面における酸素(O)含有量(at%)は、2at%以下である。界面におけるO含有量は、FeおよびWと同様の方法により測定される。ただし、Oが界面付近に集中して存在しない場合、EDSのラインスキャン測定によって得られたO濃度分布においてピークが生じない。この場合、界面から被膜12側に2nm、立方晶窒化硼素側に2nmの合計4nmの区間のO含有量(at%)の平均値を界面のO含有量として求める。
[0039]
 立方晶窒化硼素と被膜12との界面におけるOの多くは酸化物として存在する。このような酸化物は、立方晶窒化硼素と被膜12との密着性を低下させる。しかしながら、立方晶窒化硼素と被膜12との界面におけるO含有量(at%)を上記のように規定することにより、界面の酸化物に起因した立方晶窒化硼素と被膜12との密着性の低下を抑制し、被膜12の耐剥離性を向上させることができる。
[0040]
 界面におけるO含有量は、より好ましくは1at%以下であり、さらに好ましくは0.5at%以下であり、特に好ましくは0.3at%以下である。界面におけるO含有量(at%)の下限は特に限定されるものではないが、EDSの検出限界未満であることが好ましく、理想的には0at%である。
[0041]
 Fe含有量とW含有量との合計含有量が0.05at%以上である層(以下、「異金属元素層」ともいう。)の厚みは、5nm以下であることが好ましい。異金属元素層の厚みは、上述したTEM付帯のEDSを用いた分析結果に基づいて求められる。具体的には、EDSのラインスキャン測定によって得られたFeとWとの濃度分布の合成データにおいて、合計含有量が0.05at%以上となるライン長さを、異金属元素層の厚みとして求める。異金属元素層の厚みが5nm以下であることにより、FeおよびWの少なくとも一方に起因した密着性の低下を抑制でき、立方晶窒化硼素と被膜12との密着性がさらに向上する。異金属元素層の厚みは、より好ましくは3nm以下であり、さらに好ましくは2nm以下であり、特に好ましくは1nm以下である。異金属元素層の厚みの下限は特に限定されるものではなく、理想的には0nmである。
[0042]
 立方晶窒化硼素と被膜12との界面におけるAr含有量は、好ましくは1at%以下であり、より好ましくは0.5at%以下であり、さらに好ましくは0.3at%以下である。基材11に被膜12を形成する前に、通常、基材11の表面にArイオンを照射してクリーニングする処理が行なわれる。そのため、Arイオンが基材11の表面に付着し、立方晶窒化硼素と被膜12との界面に残存しやすい。界面に残存するArイオンによっても、被膜における界面の結晶性が悪化するとともに、応力が増加するため、立方晶窒化硼素と被膜12との密着性が低下しやすい。そのため、界面におけるAr含有量を上記のように規定することにより、立方晶窒化硼素と被膜12との密着性をより向上させることができる。界面におけるAr含有量(at%)は、FeおよびWと同様にTEM付帯のEDSを用いた分析によって求められる。界面におけるAr含有量の下限は特に限定されるものではなく、理想的には0at%である。
[0043]
 被膜12における界面から10nm以内の領域は、平均粒径が10nm以下の結晶粒により構成されることが好ましい。これにより、被膜12における界面近傍には粒界が増加する。その結果、基材11を構成する立方晶窒化硼素の結晶と被膜12を構成する結晶との格子定数の差から生じた応力が粒界によって緩和されやすくなり、被膜12の耐剥離性をさらに向上できる。また、粒界が増加することにより、粒界において塑性変形および亀裂の進展を阻止する作用が高められる。さらに、衝撃を受けた場合であっても、被膜が剥離しにくくなるため、表面被覆cBN焼結体10の耐衝撃性が向上する。被膜12における界面から10nm以内の領域の結晶粒の平均粒径は、より好ましくは5nm以下であり、さらに好ましくは3nm以下である。当該平均粒径は、結晶性を考慮して、1nm以上であることが好ましい。
[0044]
 〈切削工具の製造方法〉
 本実施形態の切削工具の製造方法は、たとえば、基材を準備する工程(以下、「基材準備工程」という)と、基材表面をクリーニングする工程(以下、「ボンバード工程」という)と、基材表面に被膜を形成する工程(以下、「成膜工程」という)とを備える。さらに、切削工具の製造方法は、ボンバード工程の前に実施される第1前処理工程と、成膜工程の前に実施される第2前処理工程とを備える。以下、各工程について詳述する。
[0045]
 《基材準備工程》
 まず、公知の方法を用いて、cBN焼結体である基材を作製する。たとえば、cBN粒子と結合材の原料粉末とからなる混合物を高温高圧下で焼結させることにより、基材が作製される。
[0046]
 次に、得られた基材を所定形状に加工した後、台金にろう付けする。これにより、切れ刃部分が基材からなる切削工具(ただし、被膜を有していない)が得られる。
[0047]
 《第1前処理工程》
 基材準備工程によって得られた台金と基材との接合体をPVD(Physical Vapor Deposition)装置のチャンバ内に設置し、チャンバ内を真空ポンプで真空に排気する。このとき、チャンバ内のアウトガス(出ガス)による影響を低減するために、基材をたとえば650℃に加熱することが好ましい。
[0048]
 チャンバに接続された真空ポンプを用いて、チャンバ内の水分圧が1×10 -3Pa以下、好ましくは5×10 -4Pa以下となるまで減圧する。チャンバ内の水分圧は、チャンバ内を減圧しているときに測定される。チャンバ内の水分圧は、より好ましくは1×10 -4Pa以下であり、さらに好ましくは5×10 -5Pa以下である。チャンバ内の水分圧の下限は特に限定されるものではないが、真空ポンプを用いることにより1×10 -5Pa程度まで容易に下げることができる。
[0049]
 なお、チャンバにガス精製装置を接続し、真空ポンプと併用してチャンバ内の水分圧を制御してもよい。ガス精製装置は、触媒または吸着剤を用いて水を除去する装置である。ガス精製装置を用いることにより、チャンバ内の水分圧を1×10 -6Pa程度まで容易に下げることができる。
[0050]
 《ボンバード工程》
 水分圧が1×10 -3Pa以下に制限されたチャンバ内に不活性ガスを導入し、基材にバイアス電圧を印加して、不活性ガスイオンを基材の表面に照射する。これにより、基材の表面から酸化物等の不純物が除去され、基材の表面がクリーニングされる。不活性ガスイオンとしては、たとえばArイオンを用いることができる。
[0051]
 このとき、チャンバ内の水分圧が5×10 -3Pa以下(好ましくは、3×10 -3Pa以下)になるまで、不活性ガスイオンを基材に照射する。チャンバ内の水分圧は、チャンバ内に不活性ガスが含まれる状態で測定される。チャンバ内の水分圧が低い状態になるまでボンバードを行なうことにより、立方晶窒化硼素表面の酸化膜を除去し、ボンバード中およびボンバード後に立方晶窒化硼素表面が再び酸化することを抑制することができる。チャンバ内の水分圧は、より好ましくは5×10 -4Pa以下であり、さらに好ましくは2×10 -4Pa以下である。
[0052]
 基材に印加されるバイアス電圧は-100~-300Vである。特開2015-209354号公報に記載されているような高バイアス電圧条件(たとえば、-500V)では、不活性ガスイオンが台金およびチャンバ内の各種治具に衝突することにより、台金および治具から金属粒子(たとえば、Fe、W)が放出され、基材表面に堆積する現象(再スパッタ)が生じやすい。しかしながら、上記のようにバイアス電圧の絶対値を300V以下にすることにより、台金および治具から放出された金属粒子が基材表面に付着することを抑制できる。さらに、不活性ガスイオンが基材表面に残存することを抑制することができる。
[0053]
 なお、バイアス電圧の絶対値を300V以下にすることにより、不活性ガスイオンの基材への照射エネルギーが減少するものの、チャンバ内の水分圧が上記のように低い状態に維持されているため、立方晶窒化硼素表面の酸化を十分に抑制することができる。
[0054]
 バイアス電圧の絶対値が100V未満であると、不活性ガスイオンの基材への照射エネルギーが低くなりすぎ、基材表面のクリーニングを十分に行なうことができない。そのため、バイアス電圧の絶対値は、100V以上に設定される。
[0055]
 チャンバ内の不活性ガスは0.6~1Paである。これにより、不活性ガスイオンが基材表面に残存することを抑制することができる。
[0056]
 以上のようなボンバード工程を行なうことにより、治具や台金に含まれる金属原子、O、不活性ガスイオンが基材表面へ付着することを抑制することができる。
[0057]
 《第2前処理工程》
 次に、真空ポンプを動作させてチャンバ内から不活性ガスを排気する。その後、チャンバ内の水分圧が2×10 -4Pa以下、好ましくは1×10 -4Paになるまで待機する。このとき、基材を500℃以上に加熱する。チャンバ内の水分圧は、より好ましくは3×10 -5以下であり、さらに好ましくは2×10 -5以下である。
[0058]
 《成膜工程》
 チャンバ内の水分圧が2×10 -4Pa以下になった後、物理蒸着法により基材表面に被膜を形成する。物理蒸着法としては、従来公知の方法(アークイオンプレーティング法、スパッタリング法など)をいずれも採用することができる。
[0059]
 アークイオンプレーティング法では、被膜を構成することになる金属種を含むターゲット(金属蒸発源)とCH 4またはN 2等の反応ガスとを用いて、被膜を形成することができる。アークイオンプレーティング法により被膜を形成する条件としては、表面被覆cBN焼結体の被膜をアークイオンプレーティング法により形成する公知の条件を採用することができる。
[0060]
 スパッタ法では、被膜を構成することになる金属種を含むターゲットとCH 4またはN 2等の反応ガスとAr、KrまたはXe等のスバッタガスとを用いて、被膜を形成することができる。スパッタ法により被覆層を形成する条件としては、表面被覆cBN焼結体の被膜をスパッタ法により形成する公知の条件を採用することができる。
[0061]
 スパッタ法の中でも、コンデンサによって充電した電力を瞬間的に投入して、ターゲット材を効率良くイオン化することが可能な高出力イオンパルスマグネトロンスパッタリング法(High Power Impulse Magnetron Sputtering:HiPIMS法)を用いることが好ましい。これにより、緻密な被膜を形成することができる。
[0062]
 上記のボンバード工程において、基材表面における治具や台金に含まれる金属原子、O、不活性ガスイオンが基材表面へ付着することを抑制しているため、立方晶窒化硼素と被膜との界面におけるこれらの原子の含有量を低減できる。また、成膜時の核発生と粒成長とが均一に起こるために、被膜における界面近傍の粒界が増加し、界面に生じる応力を緩和することができる。その結果、立方晶窒化硼素と被膜との密着性が向上し、被膜の耐剥離性が向上する。
実施例
[0063]
 以下実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。試料No.1~9,12~15の切削工具は、上述の表面被覆cBN焼結体を備えている。試料No.10,11の切削工具は比較例である。
[0064]
 〈試料No.1の切削工具〉
 70体積%のcBNと残部の結合材(TiN,Ti,Al)との混合物を1400℃、5Paにて焼結させ、cBN焼結体である基材を作製した。この焼結体をWC基超硬合金からなる台金に接合し、ISO規格のDNGA150408の形状に成形した。接合には、Agを主成分とするろう材を用いた。
[0065]
 次に、HiPIMS法を用いたPVD装置のチャンバ内に、基材と台金との接合体を設置した。
[0066]
 ここで、PVD装置について説明する。PVD装置のチャンバには真空ポンプが接続されており、チャンバ内を真空引き可能である。チャンバ内には、回転テーブルが設置されており、当該回転テーブルは、治具を介して基材を含む接合体がセットできるように構成されている。チャンバ内にセットされた基材は、チャンバ内に設置されているヒーターにより加熱することができる。またチャンバには、ボンバード工程および成膜工程に用いるガスを導入するためのガス配管が流量制御用のマスフローコントローラ(MFC:Mass Flow Controller)を介して接続されている。さらにチャンバ内には、ボンバード工程用のArイオンを発生させるためのタングステンフィラメント、必要な電源が接続された成膜工程用のスパッタ源が配置されている。そしてスパッタ源には、成膜に必要な蒸発源原料(ターゲット)がセット可能である。
[0067]
 チャンバー内を真空ポンプで真空排気しながら、チャンバ内に設置されたヒーターにより基材を650℃で2時間加熱した。その後、チャンバ内の水分圧が1×10 -3Pa以下になるまで加熱と真空引きとを継続した。チャンバ内の水分圧は、株式会社アルバック製のガス分析器「Qulee CGM-052」を使用して測定した。
[0068]
 そしてチャンバ内の水分圧が1×10 -3Pa以下になったときに、ボンバード工程を開始し、Arイオンによる基材表面のクリーニングを60分間行なった。ボンバード開始前の水分圧は0.921×10 -3Paであった。ボンバード工程では、Arガスをチャンバ内に導入し、チャンバ内の圧力を0.8Paに維持した。このとき、基材に-150Vのバイアス電圧を印加するとともに、タングステンフィラメントに電流を流すことによって、Arガス中でグロー放電を発生させた。
[0069]
 ボンバード中もチャンバ内の水分圧を測定し、水分圧が5×10 -3Pa以下になるまでボンバードを継続した。ボンバード終了時の水分圧は4.92×10 -3Paであった。ボンバード中の水分圧は、チャンバ内にArガスが入っている状態で測定された。
[0070]
 その後、チャンバ内からArガスを排気し、チャンバ内の水分圧が2×10 -4Pa以下になるまで待機した。このとき、基材の温度が500℃になるように温度制御した。
[0071]
 そして、チャンバ内の水分圧が2×10 -4Pa以下になったときに、以下の成膜条件に従って、基材の表面上に被膜を形成する成膜工程を開始し、被膜を形成した。成膜工程の開始時の水分圧(以下、「成膜開始時の水分圧」という。)は、1.94×10 -4Paであった。
[0072]
 《成膜条件》
 ターゲット:Ti 0.5Al 0.5(粉末冶金)
 パルス電力:45kW
 パルス幅:0.2ms
 平均電力:7.0kW
 バイアス電圧:-40V
 基材温度:430℃
 Ar分圧:0.45Pa
 反応ガス:N 2(遷移モードで成膜するように反応ガスの分圧を調整した)。
[0073]
 〈試料No.2,3,10,12,13の切削工具〉
 チャンバ内の水分圧が5×10 -4Paを下回ったときにボンバード工程を開始する点、およびチャンバ内の水分圧が1×10 -4Paを下回ったときに成膜工程を開始する点を除いて、試料No.1と同じ条件で試料No.2の切削工具を作製した。
[0074]
 チャンバ内の水分圧が3×10 -4Paを下回ったときにボンバード工程を開始する点、およびチャンバ内の水分圧が5×10 -5Paを下回ったときに成膜工程を開始する点を除いて、試料No.1と同じ条件で試料No.3の切削工具を作製した。
[0075]
 チャンバ内の水分圧が2×10 -3Paを下回ったときにボンバード工程を開始する点、およびチャンバ内の水分圧が5×10 -4Paを下回ったときに成膜工程を開始する点を除いて、試料No.1と同じ条件で試料No.10の切削工具を作製した。
[0076]
 チャンバ内の水分圧が1×10 -4Paを下回ったときにボンバード工程を開始する点、およびチャンバ内の水分圧が3×10 -5Paを下回ったときに成膜工程を開始する点を除いて、試料No.1と同じ条件で試料No.12の切削工具を作製した。
[0077]
 チャンバ内の水分圧が5×10 -5Paを下回ったときにボンバード工程を開始する点、およびチャンバ内の水分圧が2×10 -5Paを下回ったときに成膜工程を開始する点を除いて、試料No.1と同じ条件で試料No.13の切削工具を作製した。
[0078]
 試料No.2,3,10のそれぞれにおける、ボンバード開始時の水分圧、ボンバード終了時の水分圧および成膜開始時の水分圧は、後述する表1に記したとおりである。
[0079]
 〈試料No.4,5,11の切削工具〉
 ボンバード工程において基材に印加するバイアス電圧を-100Vとした点を除いて、試料No.1と同じ条件で試料No.4の切削工具を作製した。ボンバード工程において基材に印加するバイアス電圧を-250Vとした点を除いて、試料No.1と同じ条件で試料No.5の切削工具を作製した。ボンバード工程において基材に印加するバイアス電圧を-500Vとした点を除いて、試料No.1と同じ条件で試料No.11の切削工具を作製した。
[0080]
 〈試料No.6の切削工具〉
 以下の成膜条件に従って成膜工程を行なった点を除いて、試料No.1と同じ条件で試料No.6の切削工具を作製した。
[0081]
 《成膜条件》
 ターゲット:Al 0.6Cr 0.4(粉末冶金)
 パルス電力:30kW
 パルス幅:2.0ms
 平均電力:6.0kW
 バイアス電圧:-45V
 基材温度:430℃
 Ar分圧:0.45Pa
 反応ガス:N 2(遷移モードで成膜するように反応ガスの分圧を調整した)。
[0082]
 〈試料No.7の切削工具〉
 以下の成膜条件に従って成膜工程を行なった点を除いて、試料No.1と同じ条件で試料No.7の切削工具を作製した。
[0083]
 《成膜条件》
 ターゲット:Ti 0.45Al 0.45Si 0.1(粉末冶金)
 パルス電力:45kW
 パルス幅:0.2ms
 平均電力:7.0kW
 バイアス電圧:-40V
 基材温度:430℃
 Ar分圧:0.45Pa
 反応ガス:N 2(遷移モードで成膜するように反応ガスの分圧を調整した)。
[0084]
 〈試料No.8の切削工具〉
 以下の成膜条件に従って成膜工程を行なった点を除いて、試料No.1と同じ条件で試料No.8の切削工具を作製した。
[0085]
 《成膜条件》
 ターゲット:Ti 0.8Si 0.2(粉末冶金)
 パルス電力:45kW
 パルス幅:0.1ms
 平均電力:6.0kW
 バイアス電圧:-30V
 基材温度:430℃
 Ar分圧:0.50Pa
 反応ガス:N 2(遷移モードで成膜するように反応ガスの分圧を調整した)。
[0086]
 〈試料No.9の切削工具〉
 以下の成膜条件に従って成膜工程を行なった点を除いて、試料No.1と同じ条件で試料No.9の切削工具を作製した。
[0087]
 《成膜条件》
 ターゲット:Ti(粉末冶金)
 パルス電力:60kW
 パルス幅:10.0ms
 平均電力:8.0kW
 バイアス電圧:-40V
 基材温度:550℃
 Ar分圧:0.50Pa
 反応ガス:N 2,CH 4(遷移モードで成膜するように各反応ガスの分圧を調整した)。
[0088]
 〈試料No.14の切削工具〉
 被膜の形成にアークイオンプレーティング法を用い、以下の成膜条件に従って成膜工程を行なった点を除いて、試料No.1と同じ条件で試料No.14の切削工具を作製した。
[0089]
 《成膜条件》
 ターゲット:Ti 0.5Al 0.5(粉末冶金)
 アーク電流:80A
 バイアス電圧:-100V
 基材温度:430℃
 N 2分圧:3.0Pa
 〈試料No.15の切削工具〉
 被膜の形成にアークイオンプレーティング法を用い、試料No.14と同じ成膜条件で成膜工程を行なった点を除いて、試料No.13と同じ条件で試料No.15の切削工具を作製した。
[0090]
 〈ボンバード処理条件およびターゲット材〉
 表1に、試料No.1~15の各々における、ボンバード工程の条件と成膜時に用いたダーゲットとを示す。
[0091]
[表1]


[0092]
 〈立方晶窒化硼素と被膜との界面の分析方法〉
 試料No.1~15の切削工具のそれぞれについて、基材と被膜との界面に垂直な方向に破断した分析用サンプルを作製した。破断面は、集束イオンビーム(Focused Ion Beam)を照射して平滑化した後、破断面の法線方向に沿った厚みが100nmとなるように、Arイオンビームを用いたイオンミリング装置によって分析用サンプルの破断面を研磨した。これは、分析用サンプルの厚みによる、O含有量の測定値のばらつきを抑制するためである。
[0093]
 分析用サンプルの破断面の研磨直後(研磨終了後の5分以内)にサンプルをTEM装置に導入し、立方晶窒化硼素と被膜との界面付近のTEM像を取得するとともに、立方晶窒化硼素と被膜との界面を横断するようにEDSによるラインスキャン測定を行なった。分析装置として以下を用いた。
[0094]
 《分析装置》
・TEM:日本電子株式会社製「JEM-2100F/Cs」
 (Csコレクタ:CEOS社製「CESCOR」)
 (TEM観察条件:加速電圧200kV、プローブサイズ0.13nm)
・EDS:日本電子株式会社製「JED2300 Series ドライSD60GV検出器」
 (ラインスキャン条件:加速電圧200kV、測定点間隔0.25nm(ただし、結果出力時にビニングをかけるために0.5nmとなる))。
[0095]
 まず、TEM像において、立方晶窒化硼素と被膜との界面の法線方向に沿って当該界面を横断する長さ200nmのラインを指定し、EDSを用いて、当該ラインに沿った元素の濃度分布変化を計測するラインスキャン測定を行なった。測定元素は、立方晶窒化硼素の校正元素であるB、N、膜の構成元素に加え、Fe,W,OおよびArとした。そして、Bの濃度が基材中の濃度の平均値の1/2となる点を界面上の点として特定した。
[0096]
 次に、立方晶窒化硼素中において検出されたB、N以外の元素の濃度は、測定におけるバックグラウンドレベル(検出限界)であると仮定し、立方晶窒化硼素中のこれらの元素のそれぞれの濃度の平均値を算出し、これらの値をラインスキャンの測定結果から除外し、測定した元素の濃度を再計算した。再計算したラインスキャン測定結果における界面近傍におけるFe、Wの濃度分布のピーク(界面上の点を含むピーク)の最大濃度を、界面におけるFe、Wの含有量(at%)とした。
[0097]
 試料No.1~15の切削工具では、FeおよびWの少なくとも一方が界面において検出された。
[0098]
 さらに、EDSを用いたラインスキャン測定結果から、界面におけるO含有量(at%)を評価した。ラインスキャン測定においてO濃度分布のピークが界面にみられる場合には、FeおよびWと同様に、そのピークの最大濃度を界面におけるO含有量(at%)とした。一方、ラインスキャン測定においてO濃度分布のピークが界面にみられない場合には、界面から被膜側に2nm、立方晶窒化硼素側に2nmの合計4nmの区間のO含有量(at%)の平均値を界面におけるO含有量(at%)とした。
[0099]
 さらに、EDSを用いたラインスキャン測定結果から、界面におけるAr含有量(at%)を評価した。
[0100]
 〈異金属元素層の厚み〉
 上記のラインスキャン測定結果において、FeおよびWの合計含有量が0.05at%以上となるライン長さを、FeおよびWを含む層(異金属元素層)の厚みとして計測した。
[0101]
 〈界面近傍の被膜の平均粒径〉
 500万倍のTEM像において、被膜における界面から10nmの位置における結晶粒の平均粒径を測定した。具体的には、高分解能TEM像において格子像を撮影し、結晶方位の違いと粒界の存在により結晶粒を区別し、1つのサンプルについて30個の結晶粒の幅を計測し、平均値を平均粒径とした。
[0102]
 〈被膜の厚み〉
 ワイヤ放電加工によって刃先部分を切り出し、切り出した部分を樹脂に埋め込んだ。その後、イオンミリング法に基づいてCP(クロスセクションポリッシャ)加工により被膜の断面を露出させ、倍率15000倍のSEM像を観察した。刃先の先端から1mm以内の領域の5点における被膜の厚みを測定し、平均値を取った。
[0103]
 〈切削試験〉
 試料No.1~15の各々の切削工具を用いて、下記の条件にて断続切削する切削試験を実施し、チッピングが生じるまでの切削時間を工具寿命として求めた。工具寿命は、被膜の剥離性と相関しており、剥離性が優れるほど長くなる。そのため、工具寿命を確認することにより、被膜の剥離性を評価することができる。
[0104]
 《切削条件》
 被削材:浸炭焼入鋼SCM415H-5V、HRC62(直径100mm×長さ300mm、被削材の軸方向に5本のV溝あり)
 切削速度:V=130m/min.
 送り:f=0.1mm/rev.
 切込み:ap=0.2mm
 湿式/乾式:乾式。
[0105]
 〈結果〉
 表2は、試料No.1~15の切削工具の各々について、FeおよびWの界面における含有量と、界面におけるOおよびArの含有量と、異金属元素層の厚みと、被膜における界面から10nmの位置における平均粒径と、被膜の厚みと、工具寿命との測定結果を示す。
[0106]
[表2]


[0107]
 試料No.1~9,12~15の切削工具では、工具寿命が20分以上となり、被膜の耐剥離性に優れることが確認された。
[0108]
 試料No.1~9,12~15では、ボンバード処理において基材に印加されるバイアス電圧の絶対値が300V以下に制限されるため、チャンバ内の治具から放出されるFeの量が低減されるとともに、基材に接続された超硬合金から放出されるWの量が低減される。これにより、立方晶窒化硼素と被膜との界面において、Fe含有量が1at%以下であり、W含有量が1at%以下であることが確認された。
[0109]
 図2は、試料No.2における立方晶窒化硼素と被膜との界面を示す200万倍のTEM像(明視野像(bright-field image))である。図3は、試料No.2における立方晶窒化硼素と被膜との界面を示す200万倍のTEM像(HAADF像(high-angle annular dark field image))である。図2および図3に示されるように、界面にFe、Wおよび酸化物の層がほとんど見られず、被膜における界面近傍の結晶粒が小さいことがわかる。これは、立方晶窒化硼素の表面に存在するFe、W、O、Arが少ないことにより、成膜工程の際に、核発生と粒成長とが均一に起こるためである。すなわち、核発生がある場所に集中することが抑制されるとともに、粒成長しやすい場所と成長しにくい場所とが混在することも抑制される。
[0110]
 界面におけるFe含有量が1at%以下であり、W含有量が1at%以下であることにより、FeおよびWが被膜の結晶中に入り込むことによる被膜中の結晶の格子定数の増大化を抑制できる。その結果、基材中の立方晶窒化硼素の結晶と被膜の結晶との格子定数差の増大を抑制でき、立方晶窒化硼素と被膜との密着性が向上する。
[0111]
 さらに、試料No.1~9,12~15では、ボンバード開始前の水分圧が1×10 -3Pa以下に制限されるとともに、ボンバード終了時の水分圧が5×10 -3Pa以下に制限されている。これにより、立方晶窒化硼素と被膜との界面のO含有量が2at%以下に抑制され、Oに起因した立方晶窒化硼素と被膜との密着性の低下を抑制できる。
[0112]
 以上のように、界面におけるFe,WおよびOの含有量を低くすることにより、立方晶窒化硼素と被膜との密着性が向上し、試料No.1~9,12~15の切削工具における被膜の耐剥離性が向上したものと考えられる。
[0113]
 これに対し、試料No.10の切削工具では、工具寿命が2分と短いことが確認された。試料No.10では、ボンバード開始前の水分圧が1.98×10 -3Paであり、ボンバード終了時の水分圧が7.93×10 -3Paであるため、立方晶窒化硼素と被膜との界面におけるO含有量(at%)が2at%よりも高くなっている。その結果、立方晶窒化硼素と被膜との密着性が低下し、工具寿命が短くなったものと考えられる。
[0114]
 試料No.11の切削工具でも、工具寿命が14分と短いことが確認された。試料No.11では、ボンバード工程において基材に印加されるバイアス電圧が500Vと高いために、チャンバ内の治具から放出されるFe、および基材に接合された超硬合金から放出されるWの量が増大する。そのため、立方晶窒化硼素と被膜との界面におけるFeおよびWの合計含有量が4.4at%と多くなった。これにより、FeおよびWによって立方晶窒化硼素の結晶と被膜の結晶との格子定数差が広がり、立方晶窒化硼素と被膜との密着性が低下し、工具寿命が短くなったものと考えられる。
[0115]
 さらに、試料No.1~3,6~9,12~15では、工具寿命が30分以上となることが確認された。これは、異金属元素層の厚みが3nm以下であり、かつ界面近傍の被膜の平均粒径が5nm以下であることにより、立方晶窒化硼素と被膜との密着性がさらに向上したためと考えられる。そのため、異金属元素層の厚みを3nm以下とし、かつ界面近傍の被膜の平均粒径を5nm以下とすることが好ましいことが確認された。
[0116]
 さらに、試料No.2,3,12,13,15では、工具寿命が40分以上となることが確認された。これは、界面近傍の被膜の平均粒径が3nm以下であることにより、立方晶窒化硼素と被膜との界面の応力が緩和しやすくなったためと考えられる。そのため、界面近傍の被膜の平均粒径を3nm以下とすることが好ましいことが確認された。
[0117]
 以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
[0118]
 今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

符号の説明

[0119]
 10 表面被覆cBN焼結体、 11 基材、 12 被膜、 100 切削工具、 100a すくい面、 100b 逃げ面、 101 台金、 102 ろう付け層。

請求の範囲

[請求項1]
 立方晶窒化硼素焼結体である基材と、
 前記基材に接して前記基材を被覆する被膜とを備え、
 前記基材中の立方晶窒化硼素と前記被膜との界面において、Fe含有量は1at%以下であり、W含有量は1at%以下であり、かつO含有量は2at%以下である、表面被覆立方晶窒化硼素焼結体。
[請求項2]
 前記Fe含有量と前記W含有量との合計含有量が0.05at%以上である層の厚みは5nm以下である、請求項1に記載の表面被覆立方晶窒化硼素焼結体。
[請求項3]
 前記被膜は多結晶体であり、
 前記被膜における前記界面から10nm以内の領域は、平均粒径が10nm以下の結晶粒からなる、請求項1または請求項2に記載の表面被覆立方晶窒化硼素焼結体。
[請求項4]
 前記界面におけるAr含有量は1at%以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の表面被覆立方晶窒化硼素焼結体。
[請求項5]
 前記被膜の厚みは0.3μm以上10μm以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の表面被覆立方晶窒化硼素焼結体。
[請求項6]
 前記被膜は、Al,Ti,CrおよびSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素と、CおよびNからなる群より選択される少なくとも1種の元素とからなる少なくとも1種の化合物を含む、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の表面被覆立方晶窒化硼素焼結体。
[請求項7]
 請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の表面被覆立方晶窒化硼素焼結体を備えた切削工具。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]