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1. (WO2018088403) ANTICORPS FRAGMENT ET PROCÉDÉ DE CRISTALLISATION DE PROTÉINE À L'AIDE D'UN ANTICORPS FRAGMENT
Document

明 細 書

発明の名称 フラグメント抗体及び当該フラグメント抗体を用いるタンパク質の結晶化方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005   0006  

先行技術文献

非特許文献

0007  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0008   0009  

課題を解決するための手段

0010   0011  

発明の効果

0012  

図面の簡単な説明

0013  

発明を実施するための形態

0014   0015   0016   0017   0018   0019   0020   0021   0022   0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060   0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068  

産業上の利用可能性

0069  

実施例

0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079   0080   0081   0082   0083   0084   0085   0086   0087   0088   0089   0090   0091   0092   0093   0094   0095   0096  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7  

図面

1   2   3   4   5   6 (R26)   7   8   9 (R26)   10 (R26)   11   12   13   14   15   16   17  

明 細 書

発明の名称 : フラグメント抗体及び当該フラグメント抗体を用いるタンパク質の結晶化方法

技術分野

[0001]
 本発明は、フラグメント抗体、及び当該フラグメント抗体を用いるタンパク質の結晶化方法に関する。

背景技術

[0002]
 IgGをはじめとする抗体分子は、抗原分子に結合する性質から、研究や治療、診断の分野において今や欠かせないツールとなっている。抗体分子は一般に分子量が大きいマルチドメインの糖タンパク質であり、分子内に複数のジスルフィド結合(以下、S-S結合と略記する場合がある)があるため、動物細胞を用いて発現させる必要がある。しかし、動物細胞を用いたタンパク質の生産は、バクテリアを用いた生産に比べて一般にコストがかかる上に、リコンビナントの抗体分子は発現が悪いことが多い為、生産性が低いという問題がある。
[0003]
 上記の抗体分子の生産における問題点を補うべく、分子量が小さいフラグメント抗体の使用が考案されている。フラグメント抗体は、組織浸潤性が高い等のメリットがある。
[0004]
 代表的なフラグメント抗体としては、variableドメイン(VH領域およびVL領域)とconstantドメイン(CH1領域およびCL領域)から構成されるFabが挙げられる。しかし、Fabは一般に全長抗体を精製後、それを酵素処理したのちさらなる精製を経て得るのが通例である為、生産コストが高いという問題がある。また、他のフラグメント抗体としては、VH領域またはVL領域のC末端ともう一方のN末端を長くフレキシブルなペプチドリンカーで結合させたsingle-chain Fv(以下、scFvと略記する場合がある)が知られている(非特許文献1)。しかし、長くフレキシブルなペプチドリンカーがあることにより、scFv同士の凝集が生じることがあった。また、抗体としての活性が低下したり、不安定化したりする等の問題もあった。
[0005]
 そこで、本発明者らは従来のフラグメント抗体が有する問題点を解決すべく、VH領域およびVL領域のC末端同士を、逆平行のコイルドコイルを形成するヒトMammalian sterile 20-like kinase 1(Mst1)のSARAHドメインのダイマーを介して結合させた新たなフラグメント抗体(以下、Fv-clasp第1世代、またはFv-clasp(v1)と略記する場合がある)を開発した(非特許文献2)。
[0006]
 このFv-clasp(v1)は、(a)抗体の重鎖ドメイン(VH領域)のC末端にヒトMst1のSARAHドメインのN末端が結合したペプチドであって、当該ヒトMst1のSARAHドメインのN末端から35番目のアミノ酸残基をシステインに変異させたペプチドと、(b)抗体の軽鎖ドメイン(VL領域)のC末端にヒトMst1のSARAHドメインのN末端が結合したペプチドであって、当該ヒトMst1のSARAHドメインのN末端から24番目のアミノ酸残基をシステインに変異させたペプチドとの複合体からなるフラグメント抗体であって、(c)2つのSARAHドメインが、変異させたシステイン間のジスルフィド結合により結合しているフラグメント抗体である。

先行技術文献

非特許文献

[0007]
非特許文献1 : Robert E. Bird、 1988、 Science、 James S. Huston、 1988、 PNAS
非特許文献2 : 有森貴夫、町田栞、藤井勇樹、北郷悠、高木淳一、新規フラグメント抗体フォーマット“Fv-clasp”のデザインとその構造解析、第15回日本蛋白質科学会年会、平成27年6月25日
非特許文献3 : Chothia and Lesk、 Canonical structures for the hypervariable regions of immunoglobulins、 J. Mol. Biol.、 196、 901-917 (1987)
非特許文献4 : Al-Lazikani, B., Lesk, A. M. & Chothia, C. (1997).Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins. J. Mol. Biol. 273, 927-948

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0008]
 本発明者らは、種々の目的抗原分子に対するFv-clasp(v1)について、動物細胞又は大腸菌を用いた遺伝子組換による発現、精製、Fv-clasp(v1)の結晶化およびFv-clasp(v1)と目的抗原分子との複合体の結晶化を試みた。その結果、特に大腸菌発現系で得られるFv-clasp(v1)において、Fv-clasp(v1)と目的抗原分子との複合体の結晶が得られない場合や、分解能が低い結晶しか得られない場合があることが判った。
[0009]
 そこで、本発明は、抗原結合活性を有するものとして簡便に製造でき、大腸菌発現系で得られるものであっても、Fv-clasp(v1)よりも、それ自体及び抗原分子との複合体の結晶化能が高い、フラグメント抗体の提供を課題とする。

課題を解決するための手段

[0010]
 本発明者らは、上記の課題を解決するため、(a)抗体の重鎖ドメイン(VH領域)のC末端にヒトMst1のSARAHドメインのN末端が結合したペプチド(以下、VH-SARAHと略記する場合がある)中のVH領域にシステインの変異を入れたペプチドと、(b)抗体の軽鎖ドメイン(VL領域)のC末端にヒトMst1のSARAHドメインのN末端が結合したペプチド(以下、VL-SARAHと略記する場合がある)中のSARAHドメインにシステインの変異を入れたペプチドとの複合体からなる複数のフラグメント抗体について、当該フラグメント抗体と抗原分子との複合体の結晶化を鋭意研究した。
 その結果、(a)抗体の重鎖ドメイン(VH領域)のC末端にSARAHドメインのN末端が結合したペプチドであって、VH領域がChothia法による抗体残基番号112のアミノ酸残基をシステインに変異させたペプチド(以下、VH(112C)-SARAHと略記する場合がある)と、(b)抗体の軽鎖ドメイン(VL領域)のC末端にSARAHドメインのN末端が結合したペプチドであって、SARAHドメインのC末端から13番目のアミノ酸残基をシステインに変異させたペプチド(以下、VL-SARAH(37C)と略記する場合がある)との複合体からなるフラグメント抗体であって、(c)VH(112C)-SARAHとVL-SARAH(37C)が、上記2つのシステイン間のジスルフィド結合により結合しているフラグメント抗体(以下、Fv-clasp第2世代、またはFv-clasp(v2)と略記する場合がある)を用いると、大腸菌発現系で得られたFv-clasp(v2)であっても、それ自体やFv-clasp(v2)と抗原分子との複合体についての結晶化能を有することを見出した。
 加えて、Fv-clasp(v2)は、結晶化条件の最適化を行う前のスクリーニング段階から、Fv-clasp(v2)と抗原分子の複合体について高分解能の結晶を得ることができることも見出した。また、難結晶化タンパク質の結晶化が促進されたことから、Fv-clasp(v2)はタンパク質結晶化促進用フラグメント抗体として働くことも見出した。さらに、Fv-clasp(v2)は、Fv-clasp(v1)やscFvと比べて熱安定性が高いことを見出し、本発明を完成させるに至った。
[0011]
 本発明は、以下のフラグメント抗体、及び当該フラグメント抗体を用いるタンパク質の結晶化方法に関する。
 [1](a)抗体の重鎖ドメイン(VH領域)のC末端にSARAHドメインのN末端が結合したペプチドであって、VH領域がChothia法による抗体残基番号112のアミノ酸残基をシステインに変異させたペプチド(VH(112C)-SARAH)と、(b)抗体の軽鎖ドメイン(VL領域)のC末端にSARAHドメインのN末端が結合したペプチドであって、SARAHドメインがC末端から13番目のアミノ酸残基をシステインに変異させたペプチド(VL-SARAH(37C))との複合体からなるフラグメント抗体であって、(c)VH(112C)-SARAHとVL-SARAH(37C)が、上記2つのシステイン間のジスルフィド結合により結合しているフラグメント抗体。
 [2]前記VH(112C)-SARAHにおけるSARAHドメインが、配列番号1~8で示されるものから選ばれるもの(配列番号1~8で示されるもの)であり、前記VL-SARAH(37C)におけるSARAHドメインが、配列番号9~16で示されるものである、[1]に記載のフラグメント抗体。
 [3]前記VH(112C)-SARAHにおけるSARAHドメインが、配列番号1~2で示されるものであり、前記VL-SARAH(37C)におけるSARAHドメインが、配列番号9~10で示されるものである、[1]に記載のフラグメント抗体。
 [4](a)抗体の重鎖ドメイン(VH領域)のC末端にSARAHドメインのN末端が結合したペプチドであって、VH領域がChothia法による抗体残基番号112のアミノ酸残基をシステインに変異させたペプチド(VH(112C)-SARAH)と、(b)抗体の軽鎖ドメイン(VL領域)のC末端にSARAHドメインのN末端が結合したペプチドであって、SARAHドメインがC末端から13番目のアミノ酸残基をシステインに変異させたペプチド(VL-SARAH(37C))との複合体からなるタンパク質結晶化促進用フラグメント抗体であって、(c)VH(112C)-SARAHとVL-SARAH(37C)が、上記2つのシステイン間のジスルフィド結合により結合しているタンパク質結晶化促進用フラグメント抗体。
 [5]前記VH(112C)-SARAHにおけるSARAHドメインが、配列番号1~8で示されるものであり、前記VL-SARAH(37C)におけるSARAHドメインが、配列番号9~16で示されるものである、[4]に記載のタンパク質結晶化促進用フラグメント抗体。
 [6]前記VH(112C)-SARAHにおけるSARAHドメインが、配列番号1~2で示されるものであり、前記VL-SARAH(37C)におけるSARAHドメインが、配列番号9~10で示されるものである、[4]に記載のタンパク質結晶化促進用フラグメント抗体。
 [7]前記[1]~[3]で示されるフラグメント抗体を用いる、タンパク質の結晶化方法。

発明の効果

[0012]
 [1]本発明のフラグメント抗体は、簡便に製造することができ、且つ、抗原結合活性を有する。
 [2]本発明のフラグメント抗体は、大腸菌発現系で得られるものであっても、それ自体及び抗原分子との複合体の結晶化能が高い。これにより、本発明のフラグメント抗体は、従来のフラグメント抗体や抗体では困難であった抗原決定部位の立体構造解析が容易にできる。
 [3]さらに、本発明のフラグメント抗体は、タンパク質、特に、難結晶化タンパク質との複合体の結晶化を促進し、タンパク質結晶化促進用フラグメント抗体として働く。また、本発明のフラグメント抗体によれば、タンパク質との複合体との結晶が短期間で再現性よく得られる。
 [4]本発明のフラグメント抗体は、従来の抗体やフラグメント抗体よりも耐熱性が高く、より安定なフラグメント抗体である。

図面の簡単な説明

[0013]
[図1] 図1は、比較例1でSDS-PAGEによりP20.1抗体-Fv-clasp(v1)が得られたことを確認した図である。
[図2] 図2は、比較例2でSDS-PAGEによりP20.1抗体-Fv-clasp(v1)が得られたことを確認した図である。
[図3] 図3は、比較例3でSDS-PAGEにより12CA5抗体-Fv-clasp(v1)が得られたことを確認した図である。
[図4] 図4は、比較例5で行ったP20.1抗体のFv-clasp(v1)とC8ペプチドとの複合体のX線結晶構造解析の結果である。
[図5] 図5は、比較例6で行った12CA5抗体のFv-clasp(v1)とHAペプチドとの複合体のX線結晶構造解析の結果である。
[図6] 図6は、実験例1において、比較例7-9及び実施例1で得た、2H5抗体のFv-clasp(S-Sなし)、2H5抗体のFv-clasp(v1’)、2H5抗体のFv-clasp(v1’’)、及び2H5抗体のFv-clasp(v2)のS-S結合形成能をSDS-PAGEにより確認した図である。
[図7] 図7は、実施例2でSDS-PAGEによりP20.1抗体-Fv-clasp(v2)が得られたことを確認した図である。
[図8] 図8は、実施例3-10でSDS-PAGEにより各種Fv-clasp(v2)が得られたことを確認した図である。
[図9] 図9は、実験例2でゲルろ過クロマトグラフィーにより各種Fv-clasp(v2)が抗原結合活性を有することを確認した図である。
[図10] 図10は、実験例2でバイオレイヤー干渉法により各種Fv-clasp(v2)が抗原結合活性を有することを確認した図である。
[図11] 図11(A)は、実施例11でTS2/16抗体-Fv-clasp(v2)について得られた結晶の顕微鏡写真である。図11(B)は、実施例11で行ったTS2/16抗体-Fv-clasp(v2)のX線結晶構造解析の結果である。
[図12] 図12(A)は、実施例12でP20.1抗体-Fv-clasp(v2)と抗原分子の複合体について得られた結晶の顕微鏡写真である。図12(B)は、実施例12で行ったP20.1抗体-Fv-clasp(v2)と抗原分子の複合体のX線結晶構造解析の結果である。
[図13] 図13(A)は、実施例13で12CA5抗体-Fv-clasp(v2)と抗原分子の複合体について得られた結晶の顕微鏡写真である。図13(B)は、実施例13で行った12CA5抗体-Fv-clasp(v2)と抗原分子の複合体のX線結晶構造解析の結果である。
[図14] 図14(A)は、実施例14でNZ-1抗体-Fv-clasp(v2)と抗原分子の複合体について得られた結晶の顕微鏡写真である。図14(B)は、実施例14で行ったNZ-1抗体-Fv-clasp(v2)と抗原分子の複合体のX線結晶構造解析の結果である。
[図15] 図15(A)及び(B)は、実施例15で93201抗体-Fv-clasp(v2)とVps10pの複合体について得られた結晶の顕微鏡写真である。図15(C)は、実施例15で行った93201抗体-Fv-clasp(v2)とVps10pの複合体のX線結晶構造解析の結果である。
[図16] 図16(A)及び(B)は、実施例16でTS2/16抗体-Fv-clasp(v2)とインテグリンα6β1の複合体について得られた結晶の顕微鏡写真である。図16(C)は、実施例16で行ったTS2/16抗体-Fv-clasp(v2)とインテグリンα6β1の複合体のX線結晶構造解析の結果である。
[図17] 図17(A)は、実施例17でt1E4抗体-Fv-clasp(v2)とHGFの複合体について得られた結晶の顕微鏡写真である。図17(B)は、実施例17で行ったt1E4抗体-Fv-clasp(v2)とHGFの複合体のX線結晶構造解析の結果である。

発明を実施するための形態

[0014]
 本発明のフラグメント抗体は、
(a)抗体の重鎖ドメイン(VH領域)のC末端にSARAHドメインのN末端が結合したペプチドであって、VH領域においてChothia法による抗体残基番号112のアミノ酸残基をシステインに変異させたペプチド(VH(112C)-SARAH)と、
(b)抗体の軽鎖ドメイン(VL領域)のC末端にSARAHドメインのN末端が結合したペプチドであって、SARAHドメインのC末端から13番目のアミノ酸残基をシステインに変異させたペプチド(VL-SARAH(37C))との複合体からなるフラグメント抗体であって、
(c)VH(112C)-SARAHとVL-SARAH(37C)が、上記2つのシステイン間のジスルフィド結合により結合しているフラグメント抗体である。
 なお、非特許文献3及び4は、Chothia法による抗体残基番号の決定法に関する文献である。
[0015]
[VH(112C)-SARAH]
 SARAHドメインは、N末端側の短いヘリックス(h1)とC末端側の長いヘリックス(h2)により構成される通常42~54個、好ましくは43~49個、より好ましくは47~49個、特に好ましくは49個のアミノ酸残基からなるドメイン(ペプチド)であって、他のSARAHドメインと、それぞれのh2間で逆平行コイルドコイルを形成するという性質を有するものである。尚、h1は好ましくは5~7個、h2は好ましくは38~42個のアミノ酸残基からなる。
 ここで用いられるSARAHドメインとしては、上記した如き性質を有するものであればよく、なかでも2つのSARAHドメインがh2間で逆平行コイルドコイルを形成する際に、2つのSARAHドメインの(2つのh1の)両N末端の間の距離が35Å~45Åとなるものが好ましく、39Å~41Åとなるものがより好ましく、40Åとなるものが特に好ましい。
 このようなSARAHドメインとしては、具体的には、例えば、ヒトMammalian sterile 20-like kinase 1(Mst1)のSARAHドメイン、ヒトMammalian sterile 20-like kinase 2(Mst2)のSARAHドメイン、ショウジョウバエのHippoのSARAHドメイン、ショウジョウバエRASSFのSARAHドメイン、ヒトRASSF5のSARAHドメイン、ヒトRASSF1のSARAHドメイン、ヒトWW45のSARAHドメイン、ショウジョウバエSavのSARAHドメイン等が挙げられ、更にこれらのうちの一つ(好ましくはヒトMst1のSARAHドメイン)と通常85%以上の配列相同性、好ましくは90%以上の配列相同性、より好ましくは95%以上の配列相同性を有するもの等が挙げられる。
 より具体的には、例えば、配列番号1で示されるもの(Mst1のSARAHドメイン)、配列番号2で示されるもの(Mst2のSARAHドメイン)、配列番号3で示されるもの(HippoのSARAHドメイン)、配列番号4で示されるもの(RASSFのSARAHドメイン)、配列番号5で示されるもの(RASSF5のSARAHドメイン)、配列番号6で示されるもの(RASSF1のSARAHドメイン)、配列番号7で示されるもの(WW45のSARAHドメイン)、配列番号8で示されるもの(SavのSARAHドメイン)等が好ましく、配列番号1~2で示されるものがより好ましく、配列番号1で示されるものが特に好ましい。なお、上記した性質を有するものであれば、配列番号1~8で示されるものは、その配列中の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたものであってもよい。ここで、数個とは5個以下、好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下の自然数を表す。このようなものとしては、例えば配列番号1~8において、C末端から26番目のアミノ酸残基がシステインに置換(変異)しているもの等が挙げられる。
 上記SARAHドメインは、天然に存在するタンパク質に由来するSARAHドメインであっても、天然に存在するタンパク質に由来するSARAHドメインをもとに人工的にデザインしたものであっても何れでもよい。
 天然に存在するタンパク質に由来するSARAHドメインは、通常、当該タンパク質を有する生物種を問わないが、本発明のフラグメント抗体を医薬として用いる場合には、抗原性の面から、実際の利用に際して投与することになる動物と同一の生物種に由来するものが好ましい。
[0016]
 ここで用いられるVH領域としては、少なくとも特定の抗原を認識して特異的な親和結合性を有するのに十分な部位を有し、且つChothia法による抗体残基番号112のアミノ酸残基がシステインであるものである。
 なお、上記システインの位置は、Chothia法により決定される位置であるが、当該アミノ酸残基と同じ位置であれば、Chothia法以外の方法、例えばKabat法、IMGT法により定義したものも含まれる。
 本発明におけるVH領域は、具体的には、目的とする抗原分子に対する抗体の重鎖における3つのCDR1~3とChothia法により決定される抗体残基番号112のアミノ酸残基がシステインであるフレームワーク領域(FR)4を少なくとも含むものであり、好ましくは、目的とする抗原分子に対する抗体の重鎖における3つのCDR1~3とFR1~3およびChothia法により決定される抗体残基番号112のアミノ酸残基がシステインであるFR4を少なくとも含むものである。
 なかでも、Chothia法により決定される抗体残基番号1~112のアミノ酸配列又は抗体残基番号1~113のアミノ酸配列からなるものであって、抗体残基番号112のアミノ酸残基がシステインであるものがより好ましく、Chothia法により決定される抗体残基番号1~113のアミノ酸配列からなるものであって、抗体残基番号112のアミノ酸残基がシステインであるものが特に好ましい。
 なお、CDR1~3は、Chothia法、Kabat法、IMGT法またはその他の方法に従い、あるいはこれらを総合的に考慮して決定すればよい。
[0017]
 本発明に係るVH(112C)-SARAHは、上記のVH領域のC末端と上記のSARAHドメインのN末端とが結合したものである。VH領域とSARAHドメインとは、直接結合していても、リンカー配列を介して結合していてもよいが、VH(112C)-SARAHの発現効率やリフォールドの効率が高いことから、リンカー配列を介するほうが好ましい。リンカー配列の長さとしては、通常1~4アミノ酸残基、好ましくは2アミノ酸残基である。リンカー配列としては、本発明のフラグメント抗体の性質に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されないが、例えば、Gly-Ser、Gly-Gly、Ser-Ser等が挙げられる。
[0018]
 以下に本発明のVH(112C)-SARAHを模式的に示す。


 (Xはアミノ酸残基、mは0~4の整数、-[X]m-はリンカー配列をそれぞれ表す。)
[0019]
[VL-SARAH(37C)]
 ここで用いられるSARAHドメインは、N末端側の短いヘリックス(h1)とC末端側の長いヘリックス(h2)により構成される通常42~54個、好ましくは43~49個、より好ましくは47~49個、特に好ましくは49個のアミノ酸残基からなるドメイン(ペプチド)であって、他のSARAHドメインと、それぞれのh2間で逆平行コイルドコイルを形成するという性質を有するものであって、且つC末端から13番目のアミノ酸残基がシステインであるものである。尚、h1は好ましくは5~7個、h2は好ましくは38~42個のアミノ酸残基からなる。なかでも2つのSARAHドメインがh2間で逆平行コイルドコイルを形成する際に、2つのSARAHドメインの(2つのh1の)両N末端の間の距離が35Å~45Åとなるものが好ましく、39Å~41Åとなるものがより好ましく、40Åとなるものが特に好ましい
 このようなSARAHドメインとしては、上記の本発明のVH(112C)-SARAHにおけるSARAHドメインのC末端から13番目のアミノ酸残基がシステインに置換(変異)したものが挙げられる。
 具体的には例えばヒトMammalian sterile 20-like kinase 1(Mst1)のSARAHドメイン、ヒトMammalian sterile 20-like kinase 2(Mst2)のSARAHドメイン、ショウジョウバエのHippoのSARAHドメイン、ショウジョウバエRASSFのSARAHドメイン、ヒトRASSF5のSARAHドメイン、ヒトRASSF1のSARAHドメイン、ヒトWW45のSARAHドメイン、ショウジョウバエSavのSARAHドメイン等が挙げられ、更にこれらのうちの一つ(好ましくはヒトMst1のSARAHドメイン)と通常85%以上の配列相同性、好ましくは90%以上の配列相同性、より好ましくは95%以上の配列相同性を有するものであって、且つそのC末端から13番目のアミノ酸残基がシステインに置換(変異)したもの等が挙げられる。
 より具体的には、例えば、配列番号9で示されるもの(Mst1のSARAHドメインのC末端から13番目のアミノ酸残基がシステインに置換(変異)したもの)、配列番号10で示されるもの(Mst2のSARAHドメインのC末端から13番目のアミノ酸残基がシステインに置換(変異)したもの)、配列番号11で示されるもの(HippoのSARAHドメインのC末端から13番目のアミノ酸残基がシステインに置換(変異)したもの)、配列番号12で示されるもの(RASSFのSARAHドメインのC末端から13番目のアミノ酸残基がシステインに置換(変異)したもの)、配列番号13で示されるもの(RASSF5のSARAHドメインのC末端から13番目のアミノ酸残基がシステインに置換(変異)したもの)、配列番号14で示されるもの(RASSF1のSARAHドメインのC末端から13番目のアミノ酸残基がシステインに置換(変異)したもの)、配列番号15で示されるもの(WW45のSARAHドメインのC末端から13番目のアミノ酸残基がシステインに置換(変異)したもの)、配列番号16で示されるもの(SavのSARAHドメインのC末端から13番目のアミノ酸残基がシステインに置換(変異)したもの)等が好ましく、配列番号9~10で示されるものがより好ましく、配列番号9で示されるものが特に好ましい。なお、上記の性質を有するものであれば、配列番号9~16で示されるものは、その配列中の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたものであってもよい。ここで、数個とは5個以下、好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下の自然数を表す。このようなものとしては、例えば配列番号9~16において、C末端から26番目のアミノ酸残基がシステインに置換(変異)しているもの等が挙げられる。
[0020]
 また、本発明に係るVL-SARAH(37C)におけるSARAHドメインは、本発明に係るVH(112C)-SARAHにおけるSARAHドメインと同じSARAHドメインに由来するものであっても、異なるSARAHドメインに由来するものであってもよく、逆平行コイルドコイルを形成しやすいものであれば、その同一性は問わない。
 本発明に係るVH(112C)-SARAHにおけるSARAHドメインと本発明に係るVL-SARAH(37C)におけるSARAHドメインとの具体的な好ましい組み合わせとしては、配列番号1で示されるものと配列番号13で示されるものとの組み合わせ、配列番号5で示されるものと配列番号9で示されるものとの組み合わせ、配列番号1で示されるものと配列番号9で示されるものとの組み合わせ、配列番号2で示されるものと配列番号10で示されるものとの組み合わせ、配列番号3で示されるものと配列番号11で示されるものとの組み合わせ、配列番号4で示されるものと配列番号12で示されるものとの組み合わせ、配列番号5で示されるものと配列番号13で示されるものとの組み合わせ、配列番号6で示されるものと配列番号14で示されるものとの組み合わせ、配列番号7で示されるものと配列番号15で示されるものとの組み合わせ、配列番号8で示されるものと配列番号16で示されるものとの組み合わせが好ましく、配列番号1で示されるものと配列番号9で示されるものとの組み合わせ、配列番号2で示されるものと配列番号10で示されるものとの組み合わせ、配列番号1で示されるものと配列番号13で示されるもの、配列番号5で示されるものと配列番号9で示されるものとの組み合わせがより好ましい。上記配列番号1~16で示されるものは、その配列中の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたものであってもよい。ここで、数個とは5個以下、好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下の自然数を表す。
 本発明に係るVL-SARAH(37C)におけるSARAHドメインは、天然に存在するタンパク質に由来するSARAHドメインであっても、天然に存在するタンパク質に由来するSARAHドメインをもとに人工的にデザインしたものであっても何れでもよい。
 天然に存在するタンパク質に由来するSARAHドメインは、通常、当該タンパク質を有する生物種を問わないが、本発明のフラグメント抗体を医薬として用いる場合には、抗原性の面から、実際の利用に際して投与することになる動物と同一の生物種に由来するものが好ましい。
[0021]
 本発明におけるVL領域としては、少なくとも特定領域の抗原を認識して特異的な親和性を有するのに十分な部位を含んでいればよく、例えば、目的とする抗原分子に対する抗体の軽鎖における3つのCDR1~3を少なくとも含むもの、好ましくは目的とする抗原分子に対する抗体の軽鎖における3つのCDR1~3とFR1~4を少なくとも含むものが挙げられる。
 なかでも、Chothia法により決定される抗体残基番号1~107のアミノ酸配列からなるものがより好ましい。
 なお、CDR1~3は、Chothia法、Kabat法、IMGT法またはその他の方法に従い、あるいはこれらを総合的に考慮して決定すればよい。
[0022]
 本発明のVL-SARAH(37C)は、上記のVL領域のC末端と上記のSARAHドメインのN末端とが結合したものである。VL領域とSARAHドメインとは、直接結合していても、リンカー配列を介して結合していてもよいが、VL-SARAH(37C)の発現効率やリフォールドの効率が高いことから、リンカー配列を介して結合しているほうが好ましい。リンカー配列の長さとしては、通常1~4アミノ酸残基、好ましくは2アミノ酸残基である。リンカー配列としては、本発明のフラグメント抗体の性質に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されないが、例えば、Gly-Ser、Gly-Gly、Ser-Ser等が挙げられる。
[0023]
 以下に本発明に係るVL-SARAH(37C)を模式的に示す。


 (Yはアミノ酸残基、lは0~4の整数、-[Y]l-はリンカー配列をそれぞれ表す。)
[0024]
[フラグメント抗体]
 本発明のフラグメント抗体は、本発明に係るVH(112C)-SARAHと本発明に係るVL-SARAH(37C)との複合体からなるものである。
 より具体的には、本発明に係るVH(112C)-SARAHにおけるSARAHドメインのh2と本発明に係るVL-SARAH(37C)におけるSARAHドメインのh2とが、逆平行のコイルドコイルを形成することによって結合しており、更に、VH(112C)-SARAHにおけるVH領域のChothia法による抗体残基番号112のシステイン残基とVL-SARAH(37C)におけるSARAHドメインのC末端から13番目のシステイン残基とがジスルフィド結合により結合しているものである。
 本発明のフラグメント抗体は、このような特殊な結合様式により結合しているため、抗原結合活性を有しているだけでなく、Fv-clasp(v1)よりも耐熱性が高く安定であり、また、大腸菌発現系で得られるものであっても、Fv-clasp(v1)よりも、それ自体及び抗原分子との複合体の結晶化能が高い。これにより、本発明のフラグメント抗体は、従来のフラグメント抗体や抗体では困難であった抗原決定部位の立体構造解析を容易に行うことができる。
 さらに、本発明のフラグメント抗体は、当該特殊な結合様式により結合しているため、タンパク質、特に、難結晶化タンパク質との複合体の結晶化を促進する働きを有しており、タンパク質結晶化促進用フラグメント抗体として特に有用である。
 なお、本明細書において「結晶化能が高い」とは、本発明のフラグメント抗体を用いてそれ自体又は抗原分子との複合体の結晶化を行った場合において、高分解能の結晶が得られる、又は/及び所謂スクリーニング段階においてより多くの結晶が得られることを意味する。
[0025]
 以下に本発明のフラグメント抗体を模式的に示す。


 (図中、X、Y、l、及びmは前記と同じ)
[0026]
[本発明のフラグメント抗体の調製方法]
 本発明のフラグメント抗体は、そのアミノ酸配列に従って、一般的な化学的製法により製造することができる。例えば、フルオレニルメチルオキシカルボニル法(Fmoc法)、t-ブチルオキシカルボニル法(tBoc法)等の通常の化学的製法(化学合成法)により、本発明のフラグメント抗体を得ることができる。また、市販のペプチド合成機を用いて化学合成することもできる。
[0027]
 さらに、本発明のフラグメント抗体は、本発明のフラグメント抗体をコードする核酸分子を適当なプラスミドやファージなどの発現ベクターに組み込み、宿主細胞を組換え発現ベクターを用いて形質転換(又は形質導入)させ、得られた宿主細胞を増幅させて、細胞内又は細胞外に分泌させる、という遺伝子組み換え技術を用いた周知の方法でも得ることができる。
[0028]
 本発明のフラグメント抗体の調製方法について、遺伝子組換技術により調製する場合、例えば以下の工程に従って調製する方法が挙げられる。
 (1)遺伝子組換・発現工程
 (2)精製工程
 要すれば、(1)遺伝子組換・発現工程の後、可溶化工程、リフォールディング工程、濃縮工程等を行ってもよい。
[0029]
[(1)遺伝子組換・発現工程]
 (1)遺伝子組換・発現工程は、本発明に係るVH(112C)-SARAHをコードする核酸配列を有するベクター(以下、本発明に係るVH(112C)-SARAH発現用組換ベクターと略記する場合がある)、又は本発明に係る上記VL-SARAH(37C)をコードする核酸配列を有するベクター(以下、本発明に係るVL-SARAH(37C)発現用組換ベクターと略記する場合がある)を宿主に遺伝子導入し、遺伝子導入を行った宿主を培養することにより、本発明に係るVH(112C)-SARAH、本発明に係るVL-SARAH(37C)又は本発明のフラグメント抗体を含む、粗抽出液、培養液(培養上清)又は沈殿を調製する工程である。
[0030]
 本発明に係るVH(112C)-SARAHをコードする核酸配列は、少なくとも上記VH(112C)-SARAHにおけるVH領域をコードする核酸配列の3’末端と上記SARAHドメインをコードする核酸配列の5’末端とが結合した核酸配列を有していればよく、スタートコドン、ストップコドン、リンカー配列をコードする核酸配列、及びタグをコードする配列等遺伝子工学の分野においてタンパク質の調製のために用いられる核酸配列等を含んでいてもよい。
 上記VH(112C)-SARAHにおけるVH領域をコードする核酸配列と上記SARAHドメインをコードする核酸配列とは、直接結合していても、リンカー配列を介して結合していてもよいが、VH(112C)-SARAHの発現効率やリフォールドの効率が高いことから、リンカー配列を介して結合しているほうが好ましい。
 リンカー配列をコードする核酸配列の長さとしては、通常3~12塩基、好ましくは6塩基である。リンカー配列をコードする核酸配列としては、本発明に係るVH(112C)-SARAH及び本発明のフラグメント抗体の性質に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されないが、例えば、Gly-Serをコードする核酸配列、Gly-Glyをコードする核酸配列、Ser-Serをコードする核酸配列等が挙げられ、Gly-Serをコードする核酸配列が好ましい。
[0031]
 本発明に係るVL-SARAH(37C)をコードする核酸配列は、少なくとも上記VL領域をコードする核酸配列の3’末端と上記VL-SARAH(37C)におけるSARAHドメインをコードする核酸配列の5’末端とが結合した核酸配列を有していればよく、スタートコドン、ストップコドン、リンカー配列をコードする核酸配列、及びタグをコードする配列等遺伝子工学の分野においてタンパク質の調製のために用いられる核酸配列等を含んでいてもよい。
 上記VL領域をコードする核酸配列と上記VL-SARAH(37C)における上記SARAHドメインをコードする核酸配列とは、直接結合していても、リンカー配列を介して結合していてもよいが、VL-SARAH(37C)の発現効率やリフォールドの効率が高いことから、リンカー配列を介して結合するほうが好ましい。
 リンカー配列をコードする核酸配列の長さとしては、通常3~12塩基、好ましくは6塩基である。リンカー配列をコードする核酸配列としては、本発明に係るVL-SARAH(37C)及び本発明のフラグメント抗体の性質に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されないが、例えば、Gly-Serをコードする核酸配列、Gly-Glyをコードする核酸配列、Ser-Serをコードする核酸配列等が挙げられ、Gly-Serをコードする核酸配列が好ましい。
[0032]
 上記本発明に係るVH(112C)-SARAH発現用組換ベクター、又は本発明に係るVL-SARAH(37C)発現用組換ベクター(以下、当該2つの発現用組換ベクターをあわせて、本発明に係る発現用組換ベクターと略記する場合がある)は、少なくとも本発明に係るVH(112C)-SARAHをコードする核酸配列を有するベクター、又は本発明に係るVL-SARAH(37C)をコードする核酸配列を有するベクターであって、宿主中で本発明に係るVH(112C)-SARAH、又は本発明に係るVL-SARAH(37C)を発現し、生産する機能を有するものであれば特に制限されない。
[0033]
 本発明に係るVH(112C)-SARAH発現用組換ベクターとしては、例えば、常法のクローニング技術に従い、配列番号41、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、及び配列番号52等の本発明に係るVH(112C)-SARAHをコードする核酸配列を、例えば、pET16bベクター(Novagen社製)、pcDNA3.1ベクター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、pCAG-Neoベクター(和光純薬工業(株)製)等の発現ベクターに組み込んだベクターが挙げられる。
 本発明に係るVL-SARAH(37C)発現用組換ベクターとしては、例えば、常法のクローニング技術に従い、配列番号42、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、及び配列番号60等の本発明に係るVH(112C)-SARAHをコードする核酸配列を、例えば、pET16bベクター(Novagen社製)、pcDNA3.1ベクター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、pCAG-Neoベクター(和光純薬工業(株)製)等の発現ベクターに組み込んだベクターが挙げられる。
[0034]
 本発明に係る発現用組換ベクターの調製方法としては、最終的に、本発明に係るVH(112C)-SARAH、又は本発明に係るVL-SARAH(37C)をコードする核酸配列を有するベクターが得られる方法であれば、遺伝子組換による発現用組換ベクターの調製方法に関する公知の方法に準じて行えばよく、特に制限されない。
 例えば、発現ベクターに本発明に係るVH(112C)-SARAHをコードする核酸配列、又は本発明に係るVL-SARAH(37C)をコードする核酸配列を遺伝子導入する方法が挙げられる。
 当該本発明に係るVH(112C)-SARAHをコードする核酸配列、又は本発明に係るVL-SARAH(37C)をコードする核酸配列は、当該核酸配列の全長を一度に発現ベクターに遺伝子導入しても、複数回に分けて遺伝子導入してもよい。
 即ち、本発明に係る発現用組換ベクターは、予め本発明に係るVH(112C)-SARAHをコードする核酸配列の部分配列、又は本発明に係るVL-SARAH(37C)をコードする核酸配列の部分配列を導入した発現用組換ベクターに、さらに本発明に係るVH(112C)-SARAHをコードする核酸配列の残りの部分配列、又は本発明に係るVL-SARAH(37C)をコードする核酸配列の残りの部分配列を導入することにより得てもよい。
[0035]
 本発明に係るVH(112C)-SARAHをコードする核酸配列の部分配列、又は本発明に係るVL-SARAH(37C)をコードする核酸配列の部分配列と、本発明に係るVH(112C)-SARAHをコードする核酸配列の残りの部分配列、又は本発明に係るVL-SARAH(37C)をコードする核酸配列の残りの部分配列とは、最終的に本発明に係るVH(112C)-SARAH又は本発明に係るVL-SARAH(37C)を発現し、生産する機能を有するベクターが得られれば、元となる本発明に係るVH(112C)-SARAHをコードする核酸配列、又は本発明に係るVL-SARAH(37C)をコードする核酸配列のいずれの箇所で分けてもよい。
[0036]
 本発明に係るVH(112C)-SARAHをコードする核酸配列の部分配列と本発明に係るVH(112C)-SARAHをコードする核酸配列の残りの部分配列との組み合わせとしては、例えば、[本発明に係るVH(112C)-SARAH中のVH領域をコードする核酸配列と、本発明に係るVH(112C)-SARAH中のSARAHドメインをコードする配列]の組み合わせ、[本発明に係るVH(112C)-SARAH中のVH領域及びリンカーをコードする配列と、本発明に係るVH(112C)-SARAH中のSARAHドメインをコードする核酸配列の組み合わせ]、[本発明に係るVH(112C)-SARAH中のVH領域をコードする核酸配列と、本発明に係るVH(112C)-SARAH中のSARAHドメイン及びリンカーをコードする配列]の組み合わせ等が挙げられる。
 本発明に係るVL-SARAH(37C)をコードする核酸配列の部分配列と本発明に係るVL-SARAH(37C)をコードする核酸配列の残りの部分配列との組み合わせとしては、例えば、[本発明に係るVL-SARAH(37C)中のVL領域をコードする核酸配列と本発明に係るVL-SARAH(37C)中のSARAHドメインをコードする核酸配列]の組み合わせ、[本発明に係るVL-SARAH(37C)中のVL領域をコードする核酸配列と本発明に係るVL-SARAH(37C)中のSARAHドメイン及びリンカーをコードする核酸配列]の組み合わせ、[本発明に係るVL-SARAH(37C)中のVL領域及びリンカーをコードする核酸配列と本発明に係るVL-SARAH(37C)中のSARAHドメインをコードする核酸配列の組み合わせ]等が挙げられる。
 即ち、本発明に係る発現用組換ベクターの調製においては、本発明に係るVH(112C)-SARAHをコードする核酸配列の部分配列、又は本発明に係るVL-SARAH(37C)をコードする核酸配列の部分配列を有するベクター(以下、中間体ベクターと略記する場合がある)を得てもよく、例えば、本発明に係るVH(112C)-SARAH中のSARAHドメインをコードする核酸配列を有するベクター、本発明に係るVH(112C)-SARAH中のSARAHドメイン及びリンカーをコードする核酸配列を有するベクター、本発明に係るVL-SARAH(37C)中のSARAHドメインをコードする核酸配列を有するベクター、本発明に係るVL-SARAH(37C)中のSARAHドメイン及びリンカーをコードする核酸配列を有するベクター等が挙げられる。これらの中間体ベクターは、リンカーをコードする核酸配列又は本発明に係るVH(112C)-SARAH中のSARAHドメインをコードする核酸配列の上流にNdeI、NcoI等の制限酵素配列を含んでいてもよい。
[0037]
 発現ベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター等が挙げられる。具体的には、例えば、pET16bベクター(Novagen社製)、pET28bベクター(Novagen社製)、pcDNA3.1ベクター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、pCAG-Neoベクター(和光純薬工業(株)製)、pTrcHis2ベクター、pcDNA3.1/myc-Hisベクター(Invitrogen社製)、pUC119(宝酒造社製)、Pqe-tri(Qiagen社製)、pET、pGEX、pMAL等のプラスミドベクター、pMEI-5 DNA(宝酒造社製)、pLVSI-CMV NEO Vector(宝酒造社製)等のウイルスベクターが挙げられる。また、大腸菌由来のプラスミド(例えばpTrc99A、pKK223、pET3a)の他、pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNA I/Neo、p3×FLAG-CMV-14、pCAT3、pcDNA3.1、pCMV等も挙げられ、中でもpET16bベクター(Novagen社製)、pET28bベクター(Novagen社製)、及びpcDNA3.1ベクター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)が好ましい。
[0038]
 例えば、本発明に係るVH(112C)-SARAH発現用組換ベクターを調製する場合、上記した如き発現ベクターに、当該本発明に係るVH(112C)-SARAHをコードする核酸配列中のSARAHドメインをコードする核酸配列、要すればSARAHドメインをコードする核酸配列の上流にリンカーをコードする核酸配列を導入し、中間体ベクターを得る。得られた中間体ベクターにおいて、導入したSARAHドメインをコードする核酸配列、又はリンカーをコードする核酸配列の上流に、本発明に係るVH(112C)-SARAHをコードする核酸配列中のVH領域(例えば、目的とする抗原分子に対する抗体の重鎖における3つのCDR1~3、FR1~3、及びChothia法により決定される抗体残基番号112のアミノ酸残基がシステインであるFR4)をコードする核酸配列を導入することにより、各種抗原分子に対するVH(112C)-SARAH発現用組換ベクターを容易に調製することができる。
 より具体的には、リンカー核酸配列(例えばGly-Ser)およびSARAHドメインをコードする核酸配列を導入した上記した如き発現ベクター(中間体ベクター)を調製しておけば、当該発現ベクターのリンカー核酸配列およびSARAHドメインをコードする核酸配列の上流に、所望のVH領域部分(例えば、目的とする抗原分子に対する抗体の重鎖における3つのCDR1~3とFR1~3およびChothia法により決定される抗体残基番号112のアミノ酸残基がシステインであるFR4が挙げられる)を導入することにより、各種抗原分子に対するVH(112C)-SARAH発現用組換ベクターを容易に調製することができる。
 なお、本発明に係るVL-SARAH(37C)発現用組換ベクターは、本発明に係るVH(112C)-SARAH発現用組換ベクターと同様に調製できる。
[0039]
 本発明に係るVH(112C)-SARAH又は/及び本発明に係るVL-SARAH(37C)は、タグペプチドや他のタンパク質との融合蛋白として発現させても良い。融合させるタグペプチドとしてはFLAGタグ、3X FLAGタグ、Hisタグ(His tag、例えば6×Hisタグ)等が挙げられる。
[0040]
 次いで、発現用組換ベクターを用いて、適当な宿主細胞を形質転換(形質導入)することにより、形質転換体を調製する。
 宿主細胞としては、本発明に係るVH(112C)-SARAH又は/及び本発明に係るVL-SARAH(37C)を発現し、生産する機能を有するものであればいずれでもよく、例えば、大腸菌(Escherichia coli.)やバチルス属菌(B. subtilis、 B. brevis、 B. borstelenis)等の原核生物、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母細胞等が挙げられ、大腸菌、動物細胞が好ましく、大腸菌、哺乳類細胞がより好ましく、大腸菌が特に好ましい。哺乳類細胞としては、例えば、Expi293F細胞、HEK293T細胞、COS-7細胞、CHO-K1細胞、CHO-S細胞等が挙げられる。大腸菌としては、例えば、BL21(DE3)、 K-12、 DH1、 DH5、DH5α、 M15、HB101、 C600、 XL-1 Blue、 JM109、 JM105、 JM127、 XL1-Blue、 VCS257、 TOP10等が挙げられる。
 また、プラスミドやファージDNAの導入効率のより高い、コンピテントセル(Competent Cell)を用いても良い。コンピテントセルとしては、例えば、E. coli DH5α Competent Cell、E. coli JM109 Competent Cells(タカラバイオ社製)等が挙げられる。
[0041]
 上記の通り、宿主細胞として大腸菌を用いた場合(以下、大腸菌発現系と略記する場合がある)により得られるFv-clasp(v1)は、抗原分子との複合体の結晶化能を有さないものがあり、また、当該結晶化能を有する場合であっても、結晶化条件の最適化を行う前の所謂スクリーニング段階では、低分解能の結晶しか得られない。
 他方、本発明のフラグメント抗体は、大腸菌発現系で調製した場合であっても、本発明のフラグメント抗体自体や特定の抗原との複合体の結晶化能を有するものが得られる。
[0042]
 本発明に係るVH(112C)-SARAH発現用組換ベクター、及び本発明に係るVL-SARAH(37C)発現用組換ベクターは、共発現させても、別々の宿主細胞に発現させてもいずれでもよいが、宿主細胞として大腸菌を用いる場合には、別々の宿主細胞に発現させるのが好ましく、また、宿主細胞として動物細胞を用いる場合には、共発現させるのが好ましい。
 なお、動物細胞で共発現させる場合には、本発明のフラグメント抗体(本発明に係るVH(112C)-SARAHと本発明に係るVL-SARAH(37C)の複合体)として発現されるため後述するリフォールディング工程は不要であるが、別々の宿主細胞に発現させる場合には、発現した本発明に係るVH(112C)-SARAHと本発明に係るVL-SARAH(37C)を混合後、後述するリフォールディング工程を行う必要がある。
[0043]
 本発明に係るVH(112C)-SARAH発現用組換ベクター又は本発明に係るVL-SARAH(37C)発現用組換ベクターを宿主細胞に遺伝子導入する方法としては、例えば、「目的別で選べるタンパク質発現プロトコール、第3章タンパク質発現プロトコール、ISBN978-4-7581-0175-2、羊土社」等に記載の公知の方法に準じて行えばよい。
[0044]
 次いで、形質転換体を、栄養培地中で培養して、本発明に係るVH(112C)-SARAH又は本発明に係るVL-SARAH(37C)を生成させる。培養は公知の方法により行われ、温度、培地のpH及び培養時間も適宜設定されればよい。
 宿主細胞が大腸菌である形質転換体を培養する場合は、大腸菌を培養する常法の条件で、通常用いられる液体培地で行えばよく、また、宿主細胞が動物細胞である形質転換体を培養する場合は、動物細胞を培養する常法の条件で、通常用いられる液体培地で行えばよい。また、必要により例えば、イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)、3β-インドリルアクリル酸のような薬剤を加えてもよい。
[0045]
 本発明に係るVH(112C)-SARAH、本発明に係るVL-SARAH(37C)又は本発明のフラグメント抗体を含有する、培養液(培養上清)粗抽出液又は沈殿は、上記培養により得られる培養物から、以下のようにして取得できる。
 すなわち、本発明に係るVH(112C)-SARAH、本発明に係るVL-SARAH(37C)又は本発明のフラグメント抗体が、形質転換体の培養液中に分泌される場合には、本発明に係るVH(112C)-SARAH、本発明に係るVL-SARAH(37C)又は本発明のフラグメント抗体を含有する培養液(培養上清)を得る。
 本発明に係るVH(112C)-SARAH、本発明に係るVL-SARAH(37C)又は本発明のフラグメント抗体が、形質転換体のペリプラズムまたは細胞質内に存在する場合は、濾過または遠心分離などの方法によって培養物から菌体あるいは細胞を回収し、適当な緩衝液に再懸濁する。そして、例えば界面活性剤処理、超音波処理、リゾチーム処理、凍結融解などの方法で、回収された細胞等の細胞壁及び/又は細胞膜を破壊した後、遠心分離や濾過などの方法で、本発明に係るVH(112C)-SARAH、本発明に係るVL-SARAH(37C)又は本発明のフラグメント抗体を含有する粗抽出液を得る。
 本発明に係るVH(112C)-SARAH、本発明に係るVL-SARAH(37C)又は本発明のフラグメント抗体が、封入体として発現する場合には、濾過または遠心分離などの方法によって培養物から菌体あるいは細胞を回収し、適当な緩衝液に再懸濁する。そして、例えば界面活性剤処理、超音波処理、リゾチーム処理、凍結融解などの方法で、回収された細胞等の細胞壁及び/又は細胞膜を破壊した後、遠心分離などの方法によって、本発明に係るVH(112C)-SARAH、本発明に係るVL-SARAH(37C)又は本発明のフラグメント抗体を含有する沈殿を得る。この場合、後述する可溶化工程を行う必要がある。
[0046]
 本発明のフラグメント抗体の調製方法においては、上記(1)遺伝子組換・発現工程の後、要すれば、可溶化工程、リフォールディング工程、濃縮工程等を行う。
[0047]
 [可溶化工程]
 可溶化工程は、上記(1)遺伝子組換・発現工程で、本発明に係るVH(112C)-SARAH、本発明に係るVL-SARAH(37C)又は本発明のフラグメント抗体が封入体として発現した場合に、回収した本発明に係るVH(112C)-SARAH、本発明に係るVL-SARAH(37C)又は本発明のフラグメント抗体を含有する沈殿から本発明に係るVH(112C)-SARAH、本発明に係るVL-SARAH(37C)又は本発明のフラグメント抗体を可溶化方法に付し、これらを含有する可溶化済溶液を得る工程である。
[0048]
 可溶化方法は、公知の方法に従えばよく、特に制限はない。
 具体的には、上記(1)遺伝子組換・発現工程で回収した本発明に係るVH(112C)-SARAH、本発明に係るVL-SARAH(37C)又は本発明のフラグメント抗体を含有する沈殿に、可溶化溶液を添加し、本発明に係るVH(112C)-SARAH、本発明に係るVL-SARAH(37C)又は本発明のフラグメント抗体を含有する可溶化済溶液を得ればよい。
[0049]
 可溶化溶液としては、工程(1)で得られた封入体の沈殿を可溶化するものであれば特に制限されず、例えば、6M 塩酸グアニジンや8M 尿素等を含む公知の可溶化溶液が挙げられ、より具体的には、6M 塩酸グアニジン可溶化溶液[6M塩酸グアニジン、50mM Tris-HCl(pH8.0)、150mM NaCl]、8M 尿素可溶化溶液[8 M Urea、 50 mM Tris-HCl (pH 8.0)、 150 mM NaCl]等が挙げられる。
[0050]
 [リフォールディング工程]
 リフォールディング工程は、本発明に係るVH(112C)-SARAH、及び本発明に係るVL-SARAH(37C)を別々の宿主に発現させる場合に、上記可溶化工程で得られた本発明に係るVH(112C)-SARAHの可溶化溶液、上記(1)遺伝子組換・発現工程で得られた本発明に係るVH(112C)-SARAHの粗抽出液、又は上記(1)遺伝子組換・発現工程で得られた本発明に係るVH(112C)-SARAHの培養液(培養上清)中の本発明に係るVH(112C)-SARAHと、
上記可溶化工程で得られた本発明に係るVL-SARAH(37C)の可溶化溶液、上記(1)遺伝子組換・発現工程で得られた本発明に係るVL-SARAH(37C)の粗抽出液、又は上記(1)遺伝子組換・発現工程で得られた本発明に係るVL-SARAH(37C)の培養液(培養上清)中の本発明に係るVL-SARAH(37C)との複合体を、リフォールディング方法により形成させる方法である。
[0051]
 リフォールディング方法は、本発明に係るVH(112C)-SARAHと本発明に係るVL-SARAH(37C)との複合体を形成させることができれば、公知の方法に従えばよく、特に制限はない。
 具体的には、上記可溶化工程で得られた本発明に係るVH(112C)-SARAHの可溶化溶液、上記(1)遺伝子組換・発現工程で得られた本発明に係るVH(112C)-SARAHの粗抽出液、又は上記(1)遺伝子組換・発現工程で得られた本発明に係るVH(112C)-SARAHの培養液(培養上清)と、
上記可溶化工程で得られた本発明に係るVL-SARAH(37C)の可溶化溶液、上記(1)遺伝子組換工程で得られた本発明に係るVL-SARAH(37C)の粗抽出液、又は上記(1)遺伝子組換・発現工程で得られた本発明に係るVL-SARAH(37C)の培養液(培養上清)を混合し、得られた混合液に1又は複数種のリフォールディング溶液を添加して、本発明のフラグメント抗体(本発明に係るVH(112C)-SARAHと本発明に係るVL-SARAH(37C)複合体)を形成させ、本発明のフラグメント抗体を含有するリフォールディング済溶液を得ればよい。
[0052]
 リフォールディング溶液としては、例えば、リフォールディング溶液A[4M Urea、0.4M L-Arg、50mM Tris-HCl (pH8.07.5)、150mM NaCl、375μM 酸化型グルタチオン]、及びリフォールディング溶液B[0.4M L-Arg、50mM Tris-HCl (pH 8.0)、150mM NaCl、375μM 酸化型グルタチオン]等が挙げられる。
[0053]
 [濃縮工程]
 濃縮工程は、上記リフォールディング工程で得られたリフォールディング済溶液を濃縮し、濃縮液を得る工程である。濃縮工程は、上記リフォールディング工程等によりタンパク質が希釈された場合等に行い、これによりその後の精製工程を容易に行うことができる。
[0054]
 濃縮方法としては、上記リフォールディング工程で得られたリフォールディング済溶液を濃縮することができる方法であれば制限されず、例えば、塩析法、限外ろ過法等の公知の濃縮方法が挙げられる。
[0055]
 [(2)精製工程]
 精製工程は、上記(1)遺伝子組換・発現工程で得られた培養液(培養上清)又は粗抽出液、或いは濃縮工程で得られた濃縮液から、本発明のフラグメント抗体を単離、精製する工程である。
[0056]
 本発明のフラグメント抗体の単離、精製方法としては、例えば、イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法、塩析、溶媒沈殿法等の溶解度を利用する方法、ゲル濾過など分子量の差を利用する方法、などが挙げられる。
[0057]
 精製された本発明のフラグメント抗体は、例えばSDS-PAGE等により確認することができる。例えば、SDS-PAGE等で分子量を確認することにより、本発明に係るVH(112C)-SARAHと本発明に係るVL-SARAH(37C)がヘテロダイマーを形成し正しい立体構造をとっているか、即ち、本発明に係るVH(112C)-SARAH中のVH領域におけるChothia法による抗体残基番号112のシステイン残基と、本発明に係るVL-SARAH(37C)中のSARAHドメインのC末端から13番目のシステイン残基がS-S結合を形成しているかを確認することができる。
[0058]
[タンパク質の結晶化方法]
 本発明のタンパク質の結晶化方法は、本発明のフラグメント抗体の存在下、タンパク質(以下、目的タンパク質とする場合がある)を結晶化する方法である。目的タンパク質は、本発明のフラグメント抗体が特異的に認識するタンパク質(抗原)である。
[0059]
 即ち、本発明のタンパク質の結晶化方法は、本発明のフラグメント抗体の存在下、公知の結晶化方法を行えばよく、目的タンパク質の結晶が得られる方法であれば、特に制限はない。
 具体的な結晶化方法としては、例えば、バッチ法、蒸気拡散法、透析法、自由界面拡散法、濃縮法、光照射法、振動法、撹拌法等が挙げられ、蒸気拡散法がより好ましい。蒸気拡散法としては、シッティングドロップ法、ハンギングドロップ法、サンドイッチドロップ法等が挙げられ、シッティングドロップ法がより好ましい。
[0060]
 より具体的には、本発明のタンパク質の結晶化方法は、以下の工程を含む。
 (1)目的タンパク質を含有する溶液と本発明のフラグメント抗体を含有する溶液とを混合し、目的タンパク質と本発明のフラグメント抗体との複合体を形成させる工程(以下、複合体形成工程と略記する場合がある)
 (2)目的タンパク質と本発明のフラグメント抗体との複合体の結晶を得る工程(以下、結晶化工程)
[0061]
 [複合体形成工程]
 複合体形成工程は、目的タンパク質を含有する溶液と本発明のフラグメント抗体を含有する溶液を混合し、目的タンパク質と本発明のフラグメント抗体との複合体を形成させることにより行われる。
[0062]
 目的タンパク質を含有させる溶媒としては、一般にタンパク質の結晶化において用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、純水、緩衝液、沈殿剤溶液、界面活性剤溶液、アルコール溶液、有機溶媒、キレート剤溶液、還元剤溶液、クライオプロテクタント溶液、イオン液体及びこれらの混合溶液が挙げられ、純水、及び緩衝液が好ましい。緩衝液のpHは、通常限定されないが、例えばpH4~9、好ましくはpH5~8である。具体的には、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、HEPES緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、グッド緩衝液、等が挙げられる。また、これらの緩衝液の緩衝剤濃度としては、通常5~100mM、好ましくは5~20mMの範囲から適宜選択される。
 本発明のフラグメント抗体を含有させる溶媒としては、上記目的タンパク質を含有させる溶媒と同様であり、好ましい具体例も同様である。
[0063]
 目的タンパク質を含有する溶液における目的タンパク質の量、および本発明のフラグメント抗体を含有する溶液における本発明のフラグメント抗体の量は、目的タンパク質を含有する溶液と本発明のフラグメント抗体を含有する溶液の混合液において、目的タンパク質のモル当量が本発明のフラグメント抗体のモル当量と同等以上であって、かつ、当該混合液における目的タンパク質と本発明のフラグメント抗体の複合体の濃度が、通常2mg/mL~100mg/mL、好ましくは5mg/mL~30mg/mL、より好ましくは10mg/mL~20mg/mLとなる量を用いればよい。
[0064]
 目的タンパク質を含有する溶液および本発明のフラグメント抗体を含有する溶液の混合液(以下、結晶化試料と略記する場合がある)は、要すれば、限外ろ過装置などの公知の方法で濃縮してもよい。
[0065]
 [結晶化工程]
 結晶化工程は、自体公知の結晶化方法、例えば上記した如き具体的な結晶化方法により、複合体形成工程で形成させた目的タンパク質と本発明のフラグメント抗体との複合体の結晶を得る工程である。
[0066]
 結晶化工程は、具体的には、例えば以下のように行えばよい。
 複合体形成工程で得られた目的タンパク質と本発明のフラグメント抗体との複合体を含有する混合液(結晶化試料)を1条件あたり通常0.05μL~2μL、好ましくは0.1μL~0.5μLと、スクリーニングキットに付属するスクリーニングキット溶液をこれと等量混合してドロップを作成し、結晶化試料と同じ組成のリザーバ(沈殿剤溶液)通常50μL~1000μL、好ましくは80μL~150μLの存在下、シッティングドロップ法により結晶化を行い、目的タンパク質と本発明のフラグメント抗体との複合体の結晶を得る。
[0067]
 なお、要すれば、結晶化工程により得られた目的タンパク質と本発明のフラグメント抗体との複合体の結晶を、検出する工程、X線回折装置により分析する工程等公知の手法に付すことで、目的タンパク質と本発明のフラグメント抗体との複合体の立体構造を解析することができる。
[0068]
 本発明のタンパク質の結晶化方法によれば、本発明のフラグメント抗体を用いることにより、高分解能の結晶が得られ、また、所謂スクリーニング段階においてより多くの結晶が得られる。

産業上の利用可能性

[0069]
 本発明のフラグメント抗体は、動物細胞系よりも取扱が容易な大腸菌発現系で調製した場合であっても、抗原結合活性、Fv-clasp(v1)よりも高い結晶化能、タンパク質の結晶化を促進する性質等を有することから、簡便に製造することができる当該性質を有するフラグメント抗体として、創薬等タンパク質の結晶化が行われる分野において有用である。また、本発明のフラグメント抗体は、熱耐性を有しており、安定性が高いことから、抗体医薬の分野において有用である。

実施例

[0070]
 以下、実施例および比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されない。
[0071]
 <比較例1 大腸菌発現系を用いたP20.1抗体のFv-clasp(v1)の調製>
 以下の方法により、配列番号17で示されるP20.1抗体に対するVH-SARAH(Y35C)(以下、P20.1抗体-VH-SARAH(Y35C)と略記する場合がある。)、および配列番号18で示されるP20.1抗体に対するVL-SARAH(M24C)(以下、P20.1抗体-VL-SARAH(M24C)と略記する場合がある。)を、(1)遺伝子組換・発現工程および可溶化工程、(2)リフォールディング工程、(3)濃縮工程、並びに(4)精製工程に付し、P20.1抗体に対するFv-clasp(v1)(以下、P20.1抗体-Fv-clasp(v1)と略記する場合がある)を得た。
 なお、得られたP20.1抗体-Fv-clasp(v1)は、P20.1抗体-VH-SARAH(Y35C)のSARAHドメイン中のN末端から35番目のシステイン残基と、P20.1抗体-VL-SARAH(M24C)のSARAHドメイン中のN末端から24番目のシステイン残基とがS-S結合を形成するようにデザインしたものである。
 (1)遺伝子組換・発現工程および可溶化工程
  (1)-1:P20.1抗体に対するVH-SARAH(Y35C)の調製
 配列番号19で示される、P20.1抗体-VH-SARAH(Y35C)をコードする核酸配列を、常法に従い、pET28b(+)ベクター(Novagen社製)のNcoI/HindIII制限酵素サイトに導入し、P20.1抗体-VH-SARAH(Y35C)発現用組換ベクターを調製した。得られたP20.1抗体-VH-SARAH(Y35C)発現用組換ベクターを、大腸菌BL21(DE3)株(Novagen社製)に導入した。P20.1抗体-VH-SARAH(Y35C)発現用組換ベクターを導入した大腸菌BL21(DE3)株を、1LのLB培地を用いて37℃で培養した。OD=0.6付近で、終濃度が0.4mMとなるようにIPTGを培地に添加し誘導を行った。培養開始から4時間後に、P20.1抗体-VH-SARAH(Y35C)発現用組換ベクターを導入した大腸菌BL21(DE3)株(菌体)を回収した。
 回収した菌体のうち、培地0.5Lでの培養で得られた分の当該菌体を、20mLのTBS(20mL Tris-HCl(pH7.5)、150mM NaCl)に懸濁し、懸濁液を得た。得られた懸濁液に、菌体破砕用試薬[Peptstatin(終濃度が1μM)、Leupeptin(終濃度が10μM)、PMSF(終濃度が250μM)およびTurboNuclease(Accelagen社製、3μL)]を添加して混合し、超音波発生機(TOMY社製)を用いて菌体を破砕した後、遠心分離処理(25000xg、4℃、20min)し、上清を除去して沈殿を得た。得られた沈殿に、6mLの可溶化溶液[6M塩酸グアニジン、50mM Tris-HCl(pH8.0)、150mM NaCl)]を添加し、時折ピペッティングをしながら、37℃で2時間インキュベートを行った。次いで、遠心分離処理(25000xg、4℃、20 min)を行い、P20.1抗体-VH-SARAH(Y35C)を含む上清を回収した。
  (1)-2:P20.1抗体に対するVL-SARAH(M24C)の調製
 配列番号20で示される、P20.1抗体-VL-SARAH(M24C)をコードする核酸配列を、常法に従い、pET16bベクター(Novagen社製)のNcoI/XhoI制限酵素サイトに導入し、P20.1抗体-VL-SARAH(M24C)発現用組換ベクターを調製した。得られたP20.1抗体-VL-SARAH(M24C)発現用組換ベクターを、大腸菌BL21(DE3)株(Novagen社製)に導入した。
 発現ベクターの大腸菌への導入以降は、上記(1)-1と同様の方法により、P20.1抗体-VL-SARAH(M24C)を調製し、P20.1抗体-VL-SARAH(M24C)を含む上清を回収した。
 (2)リフォールディング工程
 上記(1)-1で回収したP20.1抗体-VH-SARAH(Y35C)を含む上清と、上記(1)-2で回収したP20.1抗体-VL-SARAH(M24C)を含む上清とを混合し、混合液を得た。得られた混合液を0.45μmのフィルターでろ過し、得られたろ液が25倍希釈となるように、リフォールディング溶液A[4M Urea、0.4M L-Arg、50mM Tris-HCl (pH8.0)、150mM NaCl、375μM 酸化型グルタチオン]を、攪拌しながら、ろ液に添加した後、4℃で4時間インキュベートした。得られたインキュベート後の混合液が2倍希釈となるように、リフォールディング溶液B[0.4M L-Arg、50mM Tris-HCl (pH 8.0)、150mM NaCl、375μM 酸化型グルタチオン]を、攪拌しながら、ろ液に添加した後、4℃で一晩(Overnightで)インキュベートし、リフォールディング済み抗体溶液を得た。
 (3)濃縮工程
 上記(2)で得られたリフォールディング済み抗体溶液に、80%飽和となるようにすりつぶした硫安を少しずつ添加して硫安沈殿を行った後、4℃で3時間攪拌をしながらインキュベートした。得られたインキュベート後の溶液を、遠心分離処理(12000xg、4℃、60min)し、上清を除去して沈殿を得た。得られた沈殿に、リフォールディング溶液[上記リフォールディング溶液Aと上記リフォールディング溶液Bとを1:1で混合した溶液]を添加して懸濁し、懸濁液を得た。得られた懸濁液を、常法に従い、1Lの透析溶液[50mM Tris-HCl (pH 8.0)、 150mM NaCl]を用いて、1回あたり4-16時間で、合計3回透析した。透析後の懸濁液を回収後、遠心分離処理(25000xg、4℃、20min)し、上清を回収した。得られた上清を、常法に従い、限外濾過により濃縮し、濃縮液を得た。
 (4)精製工程
 上記(3)で得られた濃縮液を、常法に従い、HiLoad 16/600 Superdex 200 pg(GE社製)、及びゲルろ過精製用溶出バッファー[50 mM Tris-HCl (pH 8.0)、 150 mM NaCl]を用いて、流速1.0mL/minでゲルろ過精製を行った。分子量マーカーからP20.1抗体-Fv-clasp(v1)と見積もられる位置に単分散のピークが得られたことから、当該ピークの溶出液を回収した。
 次いで、ゲルろ過精製で回収した溶出液を、常法に従い、SDS-PAGEを行った。その結果、P20.1抗体-Fv-clasp(v1)のバンドに加え、不純物のバンドも確認された。
 そこで、ゲルろ過精製で回収した溶出液から不純物を取り除くため、配列番号21で示される当該フラグメント抗体の抗原分子であるC8ペプチド(PRGYPGQV)を固定化したCNBr-activated Sepharose 4 Fast Flow(GE社製)、平衡化バッファー[20mM Tris-HCl (pH 7.5)、 150mM NaCl]、溶出バッファー[0.5mg/mL C8、20mM Tris-HCl (pH 7.5)、 150mM NaCl]を用いて精製し、溶出液を回収した。
 回収した溶出液について、常法に従い、還元条件下又は非還元条件下でそれぞれSDS-PAGEを行った。
 結果を図1に示す。図中、左のレーンが還元条件下での電気泳動図、右側のレーンが非還元条件下での電気泳動図である。還元条件下では、18kDa付近にP20.1抗体-VH-SARAH(Y35C)、16kDa付近にP20.1抗体-VL-SARAH(M24C)のバンドが得られた。また、非還元条件下では、35kDa付近にバンドが得られた。P20.1抗体-VH-SARAH(Y35C)とP20.1抗体-VL-SARAH(M24C)は、両者が正しくヘテロダイマーを形成したときにのみS-S結合が形成されるようにCys残基の導入位置をデザインしている為、これらの結果から、鎖間のS-S結合が正しく形成されたヘテロダイマーであるP20.1抗体-Fv-clasp(v1)が得られたことが判った。
[0072]
 <比較例2 動物細胞発現系を用いたP20.1抗体のFv-clasp(v1)の調製>
 以下の方法により、配列番号22で示されるP20.1抗体に対するVH-SARAH(Y35C)(N末端にマウスナイトジェンのシグナル配列を含む)、および配列番号24で示されるP20.1抗体に対するVL-SARAH(M24C)(N末端にマウスナイトジェンのシグナル配列を含む)を、(1)遺伝子組換工程、(2)動物細胞発現系を用いた組換タンパク質発現工程、および(3)精製工程に付し、P20.1抗体のFv-clasp(v1)(以下、P20.1抗体-Fv-clasp(v1)と略記する場合がある。)を得た。
 (1)遺伝子組換工程
 配列番号23で示されるP20.1抗体に対するVH-SARAH(Y35C)をコードする核酸配列(N末端にマウスナイトジェンのシグナル配列をコードする配列を含む)を、常法に従い、pcDNA3.1ベクター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)のHindIII/PmeI制限酵素サイトに導入し、P20.1抗体-VH-SARAH(Y35C)発現用組換ベクターを調製した。また、配列番号23で示される核酸配列の代わりに、配列番号25で示されるP20.1抗体に対するVL-SARAH(M24C)をコードする核酸配列(N末端にマウスナイトジェンのシグナル配列をコードする配列を含む)を使用し、P20.1抗体-VL-SARAH(M24C)発現用組換ベクターを調製した。
 (2)動物細胞発現系を用いた組換タンパク質発現工程
 Expi293F細胞(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を、600mLのExpi293 Expression Medium(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、細胞が3x10 cells/mLになるように播種した。その後、常法に従い、ExpiFectamine293 Reagent(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、各400μgのP20.1抗体-VH-SARAH(Y35C)発現用組換ベクターおよびP20.1抗体-VL-SARAH(M24C)発現用組換ベクターを、Expi293F細胞へ遺伝子導入した。遺伝子導入後、37℃、8%CO2条件下、125rpmで遺伝子導入したExpi293F細胞を18時間振盪培養した。その後、ExpiFectamine 293 Transfection Enhancer 1およびExpiFectamine 293 Transfection Enhancer 2(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)をそれぞれ3mL、30mL添加し、37℃、8%CO2条件下、125rpmで3日間振盪培養し、培養上清を回収した。
 (3)精製工程
 (2)で回収した培養上清を、比較例1と同様の手法でC8ペプチドを固定化したCNBr-activated Sepharose 4 Fast Flow(GE社製)を用いて精製した。次いで、その溶出画分を、常法に従い、Superdex 200 Icrease 10/300 GL(GE社製)、及びゲルろ過精製用溶出バッファー[20 mM Tris-HCl (pH 7.5)、 150 mM NaCl]を用いて、流速0.5mL/minでゲルろ過精製を行った。分子量マーカーからP20.1抗体-Fv-clasp(v1)と見積もられる位置に単分散のピークが得られたことから、当該ピークの溶出液を回収した。
 回収した溶出液について、常法に従い、還元条件下又は非還元条件下でそれぞれSDS-PAGEを行った。
 結果を図2に示す。図中、左のレーンが還元条件下での電気泳動図、右側のレーンが非還元条件下での電気泳動図である。還元条件下では、18kDa付近にP20.1抗体-VH-SARAH(Y35C)、16kDa付近にP20.1抗体-VL-SARAH(M24C)のバンドが得られた。また、非還元条件下では、35kDa付近にバンドが得られた。P20.1抗体-VH-SARAH(Y35C)とP20.1抗体-VL-SARAH(M24C)は、両者が正しくヘテロダイマーを形成したときにのみS-S結合が形成されるようにCys残基の導入位置をデザインしている為、これらの結果から、鎖間のS-S結合が正しく形成されたヘテロダイマーであるP20.1抗体-Fv-clasp(v1)が得られたことが判った。
[0073]
 <比較例3 大腸菌発現系を用いた12CA5抗体のFv-clasp(v1)の調製>
 配列番号19で示される、P20.1抗体-VH-SARAH(Y35C)コードする核酸配列の代わりに、配列番号26で示される、12CA5抗体に対するVH-SARAH(Y35C)をコードする核酸配列を使用し、また、配列番号20で示されるP20.1抗体に対するVL-SARAH(M24C)をコードする核酸配列の代わりに、配列番号27で示される、12CA5抗体に対するVL-SARAH(M24C)をコードする核酸配列を使用した以外は、比較例1と同様の方法により、配列番号28で示される、12CA5抗体に対するVH-SARAH(Y35C)(以下、12CA5抗体-VH-SARAH(Y35C)と略記する場合がある)および配列番号29で示される、12CA5抗体に対するVL-SARAH(M24C)(以下、12CA5抗体-VL-SARAH(M24C)と略記する場合がある)を、(1)遺伝子組換・発現工程および可溶化工程、(2)リフォールディング工程、および(3)濃縮工程に付し、さらに、以下に示す(4)精製工程により、12CA5抗体のFv-clasp(v1)(以下、12CA5抗体-Fv-clasp(v1)と略記する場合がある。)を得た。
 以下に、(4)精製工程の結果について示す。
 (3)の濃縮工程で得られた濃縮液を、比較例1と同様の方法によりゲルろ過精製を行った結果、分子量マーカーから12CA5抗体-Fv-clasp(v1)と見積もられる位置に単分散のピークが得られたことから、当該ピークの溶出液を回収した。
 次いで、回収した溶出液を、常法に従い、非還元SDS-PAGEを行った。その結果、37kDa付近の12CA5抗体-Fv-clasp(v1)のバンドに加え、15-18kDa付近に不純物のバンドも確認された。12CA5抗体-VH-SARAH(Y35C)と12CA5抗体-VL-SARAH(M24C)は、両者が正しくヘテロダイマーを形成したときにのみS-S結合が形成されるようにCys残基の導入位置をデザインした為、これらの不純物のバンドは、それぞれのホモダイマーあるいは、部分的に不完全なリフォールディングによる未酸化状態のヘテロダイマーと考えられた。
 そこで、ゲルろ過精製で回収した溶出液から不純物を取り除くため、常法に従い、Mono Q 5/50(GE社製)、イオン交換クロマトグラフィー用溶出バッファー[50 mM to 300 mM gradient of NaCl in Tris-HCl、 pH 7.5]を用いて、流速1mL/minで、20mLかけてグラジエントをかけ、イオン交換クロマトグラフィーを行った。
 その結果、最も大きなピーク(以下、ピークAと略記する場合がある)の後に、小さなピークが2つ(以下、ピークB、Cと略記する場合がある)得られた。
 回収したピークA~Cの溶出液について、常法に従い、非還元条件下と還元条件下でそれぞれSDS-PAGEを行った。
 結果を図3に示す。図中、左側のゲルが還元条件下での電気泳動、右側のゲルが非還元条件下での電気泳動図である。A~Cのレーン名はそれぞれゲルろ過精製で回収したピークA~Cの各溶出液の名称に対応する。
 非還元条件下での電気泳動の結果、Aは35kDa付近に12CA5抗体-Fv-clasp(v1)のバンド、Bは18kDa付近に12CA5抗体-VH-SARAH(Y35C)のバンドと16kDa付近に12CA5抗体-VL-SARAH(M24C)のバンド、Cは16kDa付近に12CA5抗体-VL-SARAH(M24C)のバンドがそれぞれ得られた。
 これらの結果から、ピークAに、鎖間のS-S結合が正しく形成されたヘテロダイマーである12CA5抗体-Fv-clasp(v1)が得られたことが判った。なお、ピークBは未酸化状態のヘテロダイマー分子、ピークCはホモダイマー分子とそれぞれ考えられた。
[0074]
 <比較例4 大腸菌発現系で得られたP20.1抗体のFv-clasp(v1)とC8ペプチドとの複合体の結晶構造解析>
 以下の方法により、比較例1で大腸菌発現系により得られたP20.1抗体-Fv-clasp(v1)を用いて、P20.1抗体-Fv-clasp(v1)と当該フラグメント抗体の抗原分子であるC8ペプチドとの複合体の結晶化を行った。P20.1抗体-Fv-clasp(v1)とC8ペプチドの終濃度がそれぞれ7mg/mL、1mMとなるように両者を混合し、結晶化試料とした。自動結晶化装置mosuquito(TTP LabTech社製)、各種スクリーニングキット[Classics Neo Suite(QIAGEN社製)(96条件)、Wizard Classic 1 & 2(Rigaku社製)(96条件)、Wizard Precipitant Synergy(Rigaku社製)(192条件)、SaltRx(Hampton Research社製)(96条件)]、ビオラモタンパク質結晶化プレート(96ウェル、アズワン社製)を用いて、1条件当たり0.1μLの結晶化試料と0.1μLのスクリーニングキット溶液(結晶化試薬)を混合してドロップを作製し、リザーバには80μLの結晶化試薬を用い、シッティングドロップ蒸気拡散法により結晶化のスクリーニングを行った。
 上記の様に、4種類のキットを用いて合計480のスクリーニング条件を検討したが、全く結晶を得ることはできなかった。大腸菌発現系で得られたFv-clasp(v1)は、当該フラグメント抗体と抗原分子との複合体において、結晶化能を有さないものがあることが判った。
[0075]
 <比較例5 動物細胞発現系で得られたP20.1抗体のFv-clasp(v1)とC8ペプチドとの複合体の結晶構造解析>
 比較例2で動物細胞発現系により得られたP20.1抗体-Fv-clasp(v1)を用いて、比較例4と同様の方法により、P20.1抗体-Fv-clasp(v1)と当該フラグメント抗体の抗原分子であるC8ペプチドとの複合体の結晶化を行った。ただし、スクリーニングキットは、Index(Hampton Research社製)およびWizard Classic 1 & 2(Rigaku社製)を用いた。
 その結果、スクリーニング段階におけるP20.1抗体-Fv-clasp(v1)とC8ペプチドとの複合体は、192条件中7条件(3.6%)で結晶が得られた。これらのうちの1条件についてさらに条件を最適化して得られた結晶(Crystal-1)と、スクリーニングにおいてCrystal-1とは異なる条件で得られた結晶(Crystal-2)について、放射光施設SPring-8にてX線回折実験を実施した。その結果、Crystal-1は1.31Å分解能、Crystal-2は1.75Å分解能でそれぞれX線回折データを得た。得られたX線回折データを用い、P20.1Fabの結晶構造(PDB ID:2ZPK)およびMst1のSARAHドメインの結晶構造(PDB ID:4NR2)をサーチモデルとし、分子置換プログラムPHASER[McCoy、 A. J.、 et al. Phaser crystallographic software. J. Appl. Crystallogr. 40、 658-674 (2007)]を使用した分子置換法により位相を決定した。その後、REFMAC5[Murshudov、 G. N.、 et al. REFMAC 5 for the refinement of macromolecular crystal structures. Acta Crystallogr. D Biol. Crystallogr. 67、 355-367 (2011)]およびPHENIX[Adams、P.、 et al. Recent developments in the PHENIX software for automated crystallographic structure determination. J. Synchrotron. Radiat.、 11、 53-55. (2004)]を用いて構造の精密化を行った。得られたP20.1抗体のFv-clasp(v1)とC8ペプチドとの複合体(Crystal-1)のX線結晶構造解析の結果を図4に示す。
[0076]
 <比較例6 大腸菌発現系で得られた12CA5抗体のFv-clasp(v1)とHAペプチドとの複合体の結晶構造解析>
 比較例3で大腸菌発現系により得られた12CA5抗体-Fv-clasp(v1)を用いて、比較例4と同様の方法により、12CA5抗体-Fv-clasp(v1)と配列番号30で示される抗原分子であるHAペプチド(YPYDVPDYA)との複合体の結晶化を行った。ただし、12CA5抗体-Fv-clasp(v1)とHAペプチドの終濃度がそれぞれ7mg/mL、1mMとなるように両者を混合したものを結晶化試料とし、スクリーニングキットは、Classics Neo Suite(QIAGEN社製)(96条件)、Classics II Suite(QIAGEN社製)(96条件)、Wizard Classic 1 & 2(Rigaku社製)(96条件)を用いた。
 その結果、スクリーニング段階における12CA5抗体-Fv-clasp(v1)と抗原分子であるHAペプチドとの複合体は、上記の3種類のキットを用いた合計288条件中、51条件(17.7%)で結晶が得られた。
 得られた複合体の結晶のうち、10種類の結晶について、比較例5と同様の方法により、X線回折実験を実施したところ、概ね4~9Åという低い回折能を示した。そこで、これらのうちの1種類について結晶化条件の検討、X線回折実験を繰り返し、結晶化条件を最適化した結果、2.2Åでのデータ収集に成功した。このデータについて、比較例5と同様の方法により、立体構造を決定した(ただし、Fv領域に対する分子置換のサーチモデルはPDB ID:1HILを使用した)。得られた12CA5抗体のFv-clasp(v1)とHAペプチドとの複合体の構造を図5に示す。
 大腸菌発現系で得られたFv-clasp(v1)は、スクリーニング段階において結晶化能を有していても、後述するFv-clasp(v2)よりも、結晶が得られるスクリーニング条件の数は少なく、また、スクリーニングで得られる結晶では回折能が低い(結晶化能が低い)傾向にあることが判った。
[0077]
 以下の比較例7-9及び実施例1は、比較例5で得られたFv-clasp(v1)の構造をもとに、Fv-clasp(v1)を改良するため、Fv-clasp(v1)の変異体(後述するFv-clasp(S-Sなし)、Fv-clasp(v1’)、Fv-clasp(v1’’)、およびFv-clasp(v2)を作成したものである。
 各変異体におけるS-S結合の位置を、下記表1に示す。
[0078]
[表1]


[0079]
 <比較例7 動物細胞発現系を用いた2H5抗体のFv-clasp(S-Sなし)の調製>
 以下の方法により、配列番号31で示される2H5抗体に対するVH-SARAH(N末端に2H5重鎖のシグナル配列、C末端にHisタグ配列を含む。以下、2H5抗体-VH-SARAHと略記する場合がある)、および配列番号32で示される2H5抗体に対するVL-SARAH(N末端に2H5軽鎖のシグナル配列、C末端にHisタグ配列を含む。以下、2H5抗体-VL-SARAHと略記する場合がある)を、(1)遺伝子組換工程、(2)動物細胞発現系を用いた組換タンパク質発現工程、及び(3)精製工程に付し、2H5抗体のFv-clasp(S-Sなし)(以下、2H5抗体-Fv-clasp(S-Sなし)と略記する場合がある。)を含む培養上清を得た。
 (1)遺伝子組換工程
 配列番号23で示されるP20.1抗体に対するVH-SARAH(Y35C)をコードする核酸配列(N末端にマウスナイトジェンのシグナル配列をコードする配列を含む)の代わりに、配列番号33で示される2H5抗体に対するVH-SARAHをコードする核酸配列(N末端に2H5重鎖のシグナル配列、C末端にHisタグ配列をコードする配列を含む)を使用し、また、配列番号25で示されるP20.1抗体に対するVL-SARAH(M24C)をコードする核酸配列(N末端にマウスナイトジェンのシグナル配列をコードする配列を含む)の代わりに、配列番号34で示される2H5抗体に対するVL-SARAHをコードする核酸配列(N末端に2H5軽鎖のシグナル配列、C末端にHisタグ配列をコードする配列を含む)を使用した以外は、比較例2と同様の方法により、2H5抗体-VH-SARAHおよび2H5抗体-VL-SARAHの発現用組換ベクターを調製した。
 (2)動物細胞発現系を用いた組換タンパク質発現工程
 P20.1抗体-VH-SARAH(Y35C)発現用組換ベクターの代わりに2H5抗体-VH-SARAH発現用組換ベクターを使用し、またP20.1抗体-VL-SARAH(M24C)発現用組換ベクターの代わりに2H5抗体-VL-SARAHの発現用組換ベクターを使用した以外は、比較例2と同様の方法により、2H5抗体-Fv-clasp(S-Sなし)を含む培養上清を回収した。
(3)精製工程
 回収した培養上清1mLから、配列番号89で示される2H5の抗原分子であるeTEVペプチド(RENLYFQGKDG)を固定化したCNBr-activated Sepharose 4 Fast Flow(GE社製)20μLを用いて、アフィニティークロマトグラフィー法により沈降反応を行い、担体に結合したタンパク質を溶出させ、溶出液(以下、S-Sなし溶出液と略記する場合がある)を得た。
 なお、得られた2H5抗体-Fv-clasp(S-Sなし)は2H5抗体のFv領域およびそれに融合したSARAHドメイン配列中に新たなシステイン残基を持たず、分子間でS-S結合を形成しないようにデザインしたものである。
[0080]
<比較例8 動物細胞発現系を用いた2H5抗体のFv-clasp(v1’)の調製>
 比較例7と同様の方法により、配列番号35で示される2H5抗体に対するVH(11C)-SARAH(N末端に2H5重鎖のシグナル配列、C末端にHisタグ配列を含む。以下、2H5抗体-VH(11C)-SARAHと略記する場合がある)、および配列番号36で示される2H5抗体に対するVL-SARAH(33C)(N末端に2H5軽鎖のシグナル配列、C末端にHisタグ配列を含む。以下、2H5抗体-VL-SARAH(33C)と略記する場合がある)を、(1)遺伝子組換工程、(2)動物細胞発現系を用いた組換タンパク質発現工程、及び(3)精製工程に付し、2H5抗体のFv-clasp(v1’)(以下、2H5抗体-Fv-clasp(v1’)と略記する場合がある。)を含む溶出液(以下、v1’溶出液と略記する場合がある)を得た。
 なお、得られた2H5抗体-Fv-clasp(v1’)は、2H5抗体に対するVH(11C)-SARAHのVH領域中のChothia法による抗体残基番号11のシステイン残基と、2H5抗体-VL-SARAH(33C)のSARAHドメイン中のC末端から17番目(N末端から33番目)のシステイン残基とがS-S結合を形成するようにデザインしたものである。
[0081]
 <比較例9 動物細胞発現系を用いた2H5抗体のFv-clasp(v1’’)の調製>
 比較例7と同様の方法により、配列番号37で示される2H5抗体に対するVH(108C)-SARAH(N末端に2H5重鎖のシグナル配列、C末端にHisタグ配列を含む。以下、2H5抗体-VH(108C)-SARAHと略記する場合がある)、および配列番号38で示される2H5抗体に対するVL-SARAH(30C)(N末端に2H5軽鎖のシグナル配列、C末端にHisタグ配列を含む。以下、2H5抗体-VL-SARAH(30C)と略記する場合がある)を、(1)遺伝子組換工程、(2)動物細胞発現系を用いた組換タンパク質発現工程、及び(3)精製工程に付し、2H5抗体のFv-clasp(v1’’)(以下、2H5抗体-Fv-clasp(v1’’)と略記する場合がある。)を含む溶出液(以下、v1’’溶出液と略記する場合がある)を得た。
 なお、得られた2H5抗体-Fv-clasp(v1’’)は、2H5抗体に対するVH(108C)-SARAHのVH領域中のChothia法による抗体残基番号108のシステイン残基と、2H5抗体-VL-SARAH(30C)のSARAHドメイン中のC末端から20番目(N末端から30番目)のシステイン残基とがS-S結合を形成するようにデザインしたものである。
[0082]
 <実施例1 動物細胞発現系を用いた2H5抗体のFv-clasp(v2)の調製>
 比較例7と同様の方法により、配列番号39で示される2H5抗体に対するVH(112C)-SARAH(N末端に2H5重鎖のシグナル配列、C末端にHisタグ配列を含む。以下、2H5抗体-VH(112C)-SARAHと略記する場合がある)、および配列番号40で示される2H5抗体に対するVL-SARAH(37C)(N末端に2H5軽鎖のシグナル配列、C末端にHisタグ配列を含む。以下、2H5抗体-VL-SARAH(37C)と略記する場合がある)を、(1)遺伝子組換工程、(2)動物細胞発現系を用いた組換タンパク質発現工程、及び(3)精製工程に付し、2H5抗体のFv-clasp(v2)(以下、2H5抗体-Fv-clasp(v2)と略記する場合がある。)を含む溶出液(以下、v2溶出液と略記する場合がある)を得た。
 なお、得られた2H5抗体-Fv-clasp(v2)は、2H5抗体に対するVH(112C)-SARAHのVH領域中のChothia法による抗体残基番号112のシステイン残基と、2H5抗体-VL-SARAH(37C)のSARAHドメイン中のC末端から13番目(N末端から37番目)のシステイン残基とがS-S結合を形成するようにデザインしたものである。
[0083]
 <実験例1 2H5抗体の各種Fv-claspバージョンのS-S結合形成能>
 比較例7-9及び実施例1で得た各溶出液について、常法に従い、還元条件下又は非還元条件下でそれぞれSDS-PAGEを行った。
 結果を図6に示す。図中、中央のマーカーのレーンを挟んでゲルの左側(レーン1~4)が還元条件下での電気泳動図、ゲルの右側(レーン5~8)が非還元条件下での電気泳動図である。レーン1は還元条件下における比較例7で得られたS-Sなし溶出液、レーン2は還元条件下における比較例8で得られたv1’溶出液、レーン3は還元条件下における比較例9で得られたv1’’溶出液、レーン4は還元条件下における実施例1で得られたv2溶出液、レーン5は非還元条件下における比較例7で得られたS-Sなし溶出液、レーン6は非還元条件下における比較例8で得られたv1’溶出液、レーン7は非還元条件下における比較例9で得られたv1’’溶出液、レーン8は非還元条件下における実施例1で得られたv2溶出液の電気泳動の結果をそれぞれ示す。
 還元条件下において、S-Sなし溶出液(レーン1)、v1’溶出液(レーン2)、及びv2溶出液は、それぞれ22kDa付近に2H5抗体-VH-SARAH、又は2H5抗体-VH-SARAHにシステイン残基を導入した変異体のバンドが得られ、また、それぞれ18kDa付近に2H5抗体-VL-SARAH、又は2H5抗体-VL-SARAHにシステイン残基を導入した変異体のバンドが得られた。一方、v1’’溶出液(レーン3)は、2H5抗体-VH-SARAHにシステイン残基を導入した変異体や2H5抗体-VL-SARAHにシステイン残基を導入した変異体に対応するバンドは得られなかった。
 また、非還元条件下において、S-Sなし溶出液(レーン5)は、35-37kDa付近に予想される2H5抗体のFv-clasp二量体のバンドが得られず、v1’溶出液(レーン6)は、S-S結合を形成した2H5抗体のFv-clasp(v1’)のバンド(35kDa付近)の他に、17kDa付近にS-S結合を形成出来ていない単独の2H5抗体-VH-SARAHのバンドおよび2H5抗体-VH-SARAHのバンドが得られたが、v2溶出液(レーン8)は、S-S結合を形成した2H5抗体のFv-clasp(v2)のバンド(37kDa)のみが得られた。
 還元条件下での電気泳動の結果から、Fv-clasp(S-Sなし)(比較例7)、Fv-clasp(v1’)(比較例8)、Fv-clasp(v2)(比較例10)は、宿主からそれぞれ発現し分泌されており、また、抗原分子への結合活性が保たれていることが判った。一方、Fv-clasp(v1’’)(比較例9)は発現分泌がされなかったか、あるいは発現したものの抗原結合能を失ったことが判った。
 さらに、非還元条件下での電気泳動の結果から、Fv-clasp(v1’)は分子間でS-S結合を形成しないダイマー、もしくはホモダイマーのような不純物が生じる一方、Fv-clasp(v2)のみが分子間S-S結合を100%形成する能力を持つことが判った。
[0084]
 比較例5-6に示したFv-clasp(v1)の構造解析の結果から、VH-SARAHとVL-SARAHがより安定なヘテロダイマーを構成するように、本発明者らはFv-clasp(v1’)、Fv-clasp(v1’’)、およびFv-clasp(v2)の3つの異なる変異体を考案した。
 即ち、VH-SARAHとVL-SARAHに導入するシステイン残基の位置の組み合わせとして、上記表1に記載の3つの新たな組み合わせ{[VH(11C)-SARAHのVH領域中のChothia法による抗体残基番号11のシステイン残基と、VL-SARAH(33C)のSARAHドメイン中のC末端から17番目(N末端から33番目)のシステイン残基(Fv-clasp(v1’)]の組み合わせ、[VH(108C)-SARAHのVH領域中のChothia法による抗体残基番号108のシステイン残基と、VL-SARAH(30C)のSARAHドメイン中のC末端から20番目(N末端から30番目)のシステイン残基(Fv-clasp(v1’’)]の組み合わせ、[VH(112C)-SARAHのVH領域中のChothia法による抗体残基番号112のシステイン残基と、VL-SARAH(37C)のSARAHドメイン中のC末端から13番目(N末端から37番目)のシステイン残基(Fv-clasp(v2)]の組み合わせ}を考案し、それらについて、S-S結合形成能を実験例1で検討した。
 しかし、実験例1に示すように、意外なことにこれらの変異体のうちFv-clasp(v1’)は分子間で安定なS-S結合を形成せず、また、Fv-clasp(v1’’)は良好な発現量と抗原結合能を保てなかったことが判った。
 すなわち、Fv-claspにおいて分子内可動性を抑えてヘテロダイマーを安定化するとともに結晶化能を改善するためには、導入するヘテロダイマー間S-S結合の位置は、VH(112C)-SARAHのVH領域中のChothia法による抗体残基番号112のアミノ酸残基とVL-SARAH(37C)のSARAHドメイン中のC末端から13番目(N末端から37番目)のアミノ酸残基を選ぶ必要があることが判った。
[0085]
<実施例2 大腸菌発現系を用いたP20.1抗体のFv-clasp(v2)の調製>
 配列番号19で示される、P20.1抗体-VH-SARAH(Y35C)をコードする核酸配列の代わりに、配列番号41で示される、P20.1抗体に対するVH(112C)-SARAHをコードする核酸配列を使用し、また、配列番号20で示されるP20.1抗体に対するVL-SARAH(M24C)をコードする核酸配列の代わりに、配列番号42で示される、P20.1抗体に対するVL-SARAH(37C)をコードする核酸配列を使用した以外は、比較例1と同様の方法により、大腸菌発現系を用いて、配列番号43で示される、P20.1抗体に対するVH(112C)-SARAH(以下、P20.1抗体-VH(112C)-SARAHと略記する場合がある)、および配列番号44で示される、P20.1抗体に対するVL-SARAH(37C)(以下、P20.1抗体-VL-SARAH(37C)と略記する場合がある)を、(1)遺伝子組換・発現工程および可溶化工程、(2)リフォールディング工程、(3)濃縮工程、および(4)精製工程に付し、P20.1抗体に対するFv-clasp(v2)(以下、P20.1抗体-Fv-clasp(v2)と略記する場合がある)を得た。
 結果を図7に示す。図中、左側のレーンが還元条件下での電気泳動図、右側のレーンが非還元条件下での電気泳動図である。還元条件下、P20.1抗体-Fv-clasp(v2)は、P20.1抗体に対するVH(112C)-SARAHおよびP20.1抗体に対するVL-SARAH(37C)のバンドが18kDa付近に重なって得られ、非還元条件下、35kDa付近にP20.1抗体-Fv-clasp(v2)の一本のバンドが得られた。Fv-clasp(v2)は、大腸菌発現系でもVH(112C)-SARAHとVL-SARAH(37C)の間で正しくヘテロダイマーを形成しS-S結合を形成した組換えタンパク質が非常に高純度で得られることが判った。
 また、得られたP20.1抗体-Fv-clasp(v2)は、上記精製の過程で抗原分子であるC8ペプチドを固定化したレジンで精製しているので、抗C8ペプチド抗体としての活性を有していることは明らかである。
 すなわち、Fv-clasp(v2)は、発現させる宿主細胞の種類によらず、簡便に製造できることができ、且つ、抗原結合活性を有することが判った(実施例1、2)。
[0086]
 <実施例3-10 大腸菌発現系を用いたFv-clasp(v2)の調製>
 実施例2と同様の方法により、P20.1抗体に対するVH(112C)-SARAHの代わりに、93201抗体、TS2/16抗体、SG/19抗体、t8E4抗体、9E10抗体、12CA5抗体、t1E4抗体、およびNZ-1抗体に対するVH(112C)-SARAH、並びに、P20.1抗体に対するVL-SARAH(37C)の代わりに、93201抗体、TS2/16抗体、SG/19抗体、t8E4抗体、9E10抗体、12CA5抗体、t1E4抗体、およびNZ-1抗体に対するVL-SARAH(37C)を、それぞれ(1)遺伝子組換・発現工程および可溶化工程、(2)リフォールディング工程、(3)濃縮工程、及び(4)精製工程に付し、各抗体に対するFv-clasp(v2)(以下、各抗体の名称-Fv-clasp(v2)と略記する場合がある)を調製した。
 使用した核酸の配列および調製したタンパク質の配列を下記表2及び表3にそれぞれ示す。
[0087]
[表2]


[0088]
[表3]


 結果を図8に示す。図中、左側のレーンが還元条件下での電気泳動図、右側のレーンが非還元条件下での電気泳動図である。8種類の抗体のFv-clasp(v2)のすべてにおいて、実施例2で得られたP20.1抗体-Fv-clasp(v2)と同様に、還元条件下では各抗体に対するVH(112C)-SARAH及びVL-SARAH(37C)に相当するバンドが18-20kDa付近に得られ、また、非還元条件下では35-37kDa付近に各抗体に対するFv-clasp(v2)のバンドが一本得られた。
 すなわち、大腸菌発現系で調製したこれら8種の抗体のFv-clasp(v2)は、いずれもVH(112C)-SARAHとVL-SARAH(37C)の間で正しくヘテロダイマーを形成してS-S結合を形成し、高い純度で精製できることが判った。
[0089]
 <実験例2 Fv-clasp(v2)の抗原結合活性の確認>
 実施例3-10で得られた各種抗体に対するFv-clasp(v2)が抗原結合活性を有することを、ゲルろ過クロマトグラフィーのピークシフト又はバイオレイヤー干渉法によりそれぞれ確認した。
 93201抗体、TS2/16抗体、SG/19抗体及びt8E4抗体に対するFv-clasp(v2)については、それぞれの抗原分子[93201抗体に対するFv-clasp(v2)については配列番号77で示されるSORLA Vps10pドメイン、TS2/16抗体に対するFv-clasp(v2)とSG/19抗体に対するFv-clasp(v2)については配列番号78で示されるα6鎖と配列番号79で示されるβ1鎖からなるインテグリンα6β1、t8E4抗体に対するFv-clasp(v2)ついては配列番号80で示されるHGF]と安定な複合体を形成することを、ゲルろ過クロマトグラフィーのピークシフトによって確認した。
 結果を図9に示す。いずれの抗体に対するFv-clasp(v2)も、抗原タンパク質と結合することによりピークがシフトしたことから、各種抗体に対するFv-clasp(v2)は、抗原結合活性を有することが判った。
 また、9E10抗体に対するFv-clasp(v2)と12CA5抗体に対するFv-clasp(v2)については、それぞれの抗原分子である配列番号81で示されるMycタグを付加したT4Lタンパク質、又は配列番号82で示されるHAタグを付加したT4Lタンパク質に対する結合を、Octet Red96(プライムテック社)を用いたバイオレイヤー干渉法によってリアルタイム解析し、オリジナルの抗体(9E10抗体及び12CA5抗体)の抗原分子に対する結合能と比較した。
 結果を図10に示す。いずれの抗体に対するFv-clasp(v2)も、オリジナルの抗体と同程度の抗原結合活性(抗原親和性)を持つことが判った。
 なお、NZ-1抗体に対するFv-clasp(v2)及びt1E4抗体に対するFv-clasp(v2)については、後述する実施例14及び実施例17において、それぞれの抗原との複合体の状態で結晶構造解析し、結晶中で抗原と1:1の複合体を形成していることを直接確認した。これらの結果から、各種抗体に対するFv-clasp(v2)は、抗原結合活性を有することが判った。
[0090]
 <実施例11 TS2/16抗体に対するFv-clasp(v2)の結晶構造解析>
 実施例4で調製したTS2/16抗体に対するFv-clasp(v2)(以下、TS2/16抗体-Fv-clasp(v2)と略記する場合がある)を用いて、比較例4と同様の方法により、TS2/16抗体-Fv-clasp(v2)の結晶化を行った。
 ただし、4.9mg/mLのTS2/16抗体-Fv-clasp(v2)溶液を結晶化試料とし、スクリーニングキットは、Classics Neo Suite(QIAGEN社製)(96条件)、Wizard Classic 1 & 2(Rigaku社製)(96条件)を用いた。
 その結果、スクリーニング段階において、192条件中、1条件(0.5%)で結晶が得られた。得られた結晶について、比較例5と同様の方法により、X線回折データを測定し、2.04Å分解能でデータが得られ、構造を決定することができた。
 結果を図11に示す。Fv-clasp(v2)は、結晶化能を有することが判った。一般に、全長の抗体では通常結晶は得られず、また従来のフラグメント抗体(Fabフラグメントや単鎖抗体(scFv)フラグメント)では結晶が得られないことも多いため、抗原決定部位の立体構造解析が不明な抗体が存在している。Fv-clasp(v2)は、結晶化能を有しており、また、結晶化が容易であることから、抗体の抗原決定部位の立体構造解析において、特に有用であることが判った。
[0091]
 <実施例12-14 各種Fv-clasp(v2)と抗原との複合体の結晶構造解析>
 実施例2で調製したP20.1抗体-Fv-clasp(v2)と配列番号21で示されるP20.1抗体の抗原分子であるC8ペプチドとの複合体(実施例12)、実施例8で調製した12CA5抗体-Fv-clasp(v2)と配列番号30で示される12CA5抗体の抗原分子であるHAペプチドとの複合体(実施例13)、実施例10で調製したNZ-1抗体-Fv-clasp(v2)と配列番号83で示されるNZ-1抗体の抗原分子であるPAペプチドとの複合体(実施例14)について、比較例4と同様の方法により結晶化を行った。
 ただし、P20.1抗体-Fv-clasp(v2)とC8ペプチドの複合体については、それぞれの終濃度が11mg/mL、2mMとなるように両者を混合したものを結晶化試料とし、スクリーニングキットは、Classics Neo Suite(QIAGEN社製)(96条件)、Classics II Suite(QIAGEN社製)(96条件)、Wizard Classic 1 & 2(Rigaku社製)(96条件)、JCSG+(Molecular Dimensions社製)(96条件)を用いた。12CA5抗体-Fv-clasp(v2)とHAペプチドの複合体については、それぞれの終濃度が7mg/mL、1mMとなるように両者を混合したものを結晶化試料とし、スクリーニングキットは、Classics Neo Suite(QIAGEN社製)(96条件)、Classics II Suite(QIAGEN社製)(96条件)、Wizard Classic 1 & 2(Rigaku社製)(96条件)を用いた。NZ-1抗体-Fv-clasp(v2)とPAペプチドの複合体については、それぞれの終濃度が3.8mg/mL、1mMとなるように両者を混合したものを結晶化試料とし、スクリーニングキットは、Classics Neo Suite(QIAGEN社製)(96条件)、Wizard Classic 1 & 2(Rigaku社製)(96条件)を用いた。
 その結果、スクリーニング段階で、P20.1抗体-Fv-clasp(v2)とC8ペプチドとの複合体については、384条件中35条件(9.1%)、12CA5抗体-Fv-clasp(v2)とHAペプチドとの複合体については、288条件中74条件(25.7%)、NZ-1抗体-Fv-clasp(v2)とPAペプチドとの複合体については、192条件中6条件(3.1%)でそれぞれ結晶が得られた。
 12CA5抗体-Fv-clasp(v2)とHAペプチドとの複合体およびNZ-1抗体-Fv-clasp(v2)とPAペプチドとの複合体については、スクリーニングで得られた結晶を用い、比較例5と同様の方法により、X線回折データを測定し、それぞれ2.45Å分解能、2.15Å分解能でデータが得られた。また、P20.1抗体-Fv-clasp(v2)とC8ペプチドとの複合体については、スクリーニングで得られた結晶の条件を元に結晶化条件の最適化を行い、その結果得られた結晶を用いてX線回折データの測定を行い、1.17Å分解能のデータが得られた。得られたX線回折データを用い、比較例5と同様の手法により構造を決定した。ただし、Fv領域に対する分子置換のサーチモデルは、P20.1抗体-Fv-clasp(v2)についてはP20.1抗体-Fv-clasp(v1)とC8ペプチドとの複合体の構造、12CA5抗体-Fv-clasp(v2)については12CA5抗体-Fv-clasp(v1)とHAペプチドとの複合体の構造、NZ-1抗体-Fv-clasp(v2)についてはNZ-1Fabの構造(PDB ID:4YO0)を使用した。
 結果を図12~図14に示す。
[0092]
 Fv-clasp(v1)とFv-clasp(v2)について、以下に比較して考察する。
 比較例4の結果、大腸菌発現系で得られたP20.1抗体-Fv-clasp(v1)とC8ペプチドとの複合体は、480条件を検討したものの、全く結晶を得ることはできず、動物細胞発現系で調製して初めて3.6%の確率で結晶が得られたのに対し、実施例12の結果、P20.1抗体-Fv-clasp(v2)とC8ペプチドとの複合体は、大腸菌発現系で得られたものでも384条件中35条件(9.1%)で結晶が得られ、結晶化条件を最適化した結晶からは1.17Å分解能の非常に高分解能なデータが得られた。
 また、比較例6の結果、スクリーニング段階における12CA5抗体-Fv-clasp(v1)とHAペプチドとの複合体は、288条件中51条件(17.7%)で結晶が得られ、当該結晶からは概ね4Å分解能~9Å分解能の低分解能のデータしか得られなかったのに対し、12CA5抗体-Fv-clasp(v1)とHAペプチドとの複合体と全く同じ条件(タンパク質濃度、抗原濃度、使用したスクリーニングキットの種類)でスクリーニングを実施したにも関わらず、実施例13の結果、スクリーニング段階における12CA5抗体-Fv-clasp(v2)とHAペプチドとの複合体は、288条件中74条件(25.7%)で結晶が得られ、当該結晶からは2.45Å分解能の高分解能のデータが得られた。
 これらの結果から、Fv-clasp(v1)は大腸菌発現系で得られたものは結晶化能を有さない場合があるが、Fv-clasp(v2)は発現時の宿主によらずに結晶化能を有するものが得られることが判った。大腸菌は動物細胞に比べ取扱が容易であることから、特に大腸菌発現系で結晶化能を有するものが得られる点において、Fv-clasp(v2)はFv-clasp(v1)よりも有用である。
 また、例え大腸菌発現系で得られたFv-clasp(v1)が結晶化能を有する場合であっても、Fv-clasp(v2)は、Fv-clasp(v1)に比べ、結晶化能が高く(結晶化されやすく)、高分解能の結晶を得られることが判った。
[0093]
 <実施例15-17 各種Fv-clasp(v2)と難結晶性抗原との複合体の結晶構造解析>
 難結晶性タンパク質であるSORLA(neuroral sorting receptor)のVps10pドメイン、インテグリンα6β1、及びHGF(肝細胞増殖因子)について、配列番号77で示されるVps10pと実施例3で調製した93201抗体-Fv-clasp(v2)との複合体(実施例15)、配列番号78および配列番号79で示されるインテグリンα6β1と実施例4で調製したTS2/16抗体-Fv-clasp(v2)との複合体(実施例16)、配列番号80で示されるHGFと実施例9で調製したt1E4抗体-Fv-clasp(v2)との複合体(実施例17)について、比較例4と同様の方法により結晶化を行った。
 ただし、Vps10pと93201抗体-Fv-clasp(v2)との複合体については、濃度を3mg/mLおよび1.5mg/mLにしたものを結晶化試料とし、スクリーニングキットは、前者についてはClassics Neo Suite(QIAGEN社製)(96条件)、後者についてはClassics Neo Suite(QIAGEN社製)(96条件)およびWizard Classic 1 & 2(Rigaku社製)(96条件)を用いた。インテグリンα6β1とTS2/16抗体-Fv-clasp(v2)との複合体については、濃度を9.2mg/mLにしたものを結晶化試料とし、スクリーニングキットは、Classics Neo Suite(QIAGEN社製)(96条件)、Wizard Classic 1 & 2(Rigaku社製)(96条件)、ProPlex(Molecular Dimensions社製)(96条件)を用いた。HGFとt1E4抗体-Fv-clasp(v2)との複合体については、濃度を9.7mg/mLにしたものを結晶化試料とし、スクリーニングキットは、Classics Neo Suite(QIAGEN社製)(96条件)、Classics II Suite(QIAGEN社製)(96条件)、Wizard Classic 1 & 2(Rigaku社製)(96条件)、ProPlex(Molecular Dimensions社製)(96条件)、JCSG+(Molecular Dimensions社製)(96条件)を用いた。
 その結果、スクリーニング段階で、Vps10pと93201抗体-Fv-clasp(v2)との複合体については、288条件中11条件(3.8%)、インテグリンα6β1とTS2/16抗体-Fv-clasp(v2)との複合体については、288条件中2条件(0.7%)、HGFとt1E4抗体-Fv-clasp(v2)との複合体については、480条件中1条件(0.2%)でそれぞれ結晶が得られた。
 得られた各複合体の結晶について、比較例5と同様の方法により、X線回折データを測定し、当該複合体のX線結晶構造解析を行った。
 結果を図15-図17に示す。スクリーニング段階において、Vps10pと93201抗体-Fv-clasp(v2)との複合体については3.2Å分解能、インテグリンα6β1とTS2/16抗体-Fv-clasp(v2)との複合体については3.37Å分解能、HGFとt1E4抗体-Fv-clasp(v2)との複合体については4.1Å分解能でデータが得られ、結晶構造を決定することができた。
 さらに、結晶化条件の最適化を行ったところ、Vps10pと93201抗体-Fv-clasp(v2)との複合体については2.59Å分解能、インテグリンα6β1とTS2/16抗体-Fv-clasp(v2)との複合体については、最終的に3.05Å分解能でデータが得られ、結晶構造を決定することができた。
[0094]
 以下に、Fv-clasp(v2)の結晶化を促進する働きについて考察する。
 インテグリンはマルチドメインの糖タンパク質であり、細胞外ドメインはシグナル伝達に連動して非常に大きな構造変化をおこすことが知られており、単独での結晶化は困難であると考えられていた。そこで本発明者らは、これまでにTS2/16を含む複数の抗体のFabを使用して結晶化を試みたが、全く結晶は得られていなかった。しかし、上記の通り、TS2/16抗体のFv-clasp(v2)との複合体を用いることで、スクリーニング段階においても3.37Å分解能でデータが得られ、結晶構造を決定することができた。
 また、本願発明者らは、過去にHGFとt1E4抗体のFabの結晶構造解析を試みたが、最高で9Å程度の回折能を有した結晶しか得られなかった。しかし、上記の通り、Fv-clasp(v2)を用いることで、スクリーニング段階においても4.1Å分解能で結晶構造を決定することができた。
 これらの結果から、Fv-clasp(v2)は、タンパク質、特に、難結晶性タンパク質と複合体を形成させた時に、その結晶化を促進する働きがあることが明らかとなり、結晶化促進用フラグメント抗体として有用であることが判った。
 また、本願発明者らは、過去にVps10pとプロペプチドとの複合体の結晶構造を行った(Kitago、Y.、et al.Structural basis for amyloidogenic peptide recognition by sorLA.Nature Struct. Mol. Biol. 22、199-206.(2015))が、当該複合体の結晶は析出に1~2ヶ月程度かかる上、解析に耐える品質の結晶が得られる頻度が非常に低かった。しかし、上記の通り、Fv-clasp(v2)を用いることで、スクリーニング段階においても、3.2Å分解能、結晶化条件の最適化後は2.59Å分解能で結晶構造を決定することができ、しかもこれらの結晶はわずか1日で再現性よく得ることができた。
 すなわち、Fv-clasp(v2)は、再現性よく、また短時間で、タンパク質、特に、難結晶性タンパク質の結晶化を促進する働きがあることが明らかとなり、結晶化促進用フラグメント抗体として有用であることが判った。
[0095]
 <実験例3 Fv-clasp(v2)の熱安定性>
 従来の単鎖抗体であるscFv及びFv-clasp(v1)とFv-clasp(v2)の熱安定性を以下の方法により比較した。
 従来のフラグメント抗体であるP20.1抗体のscFv(single-chain Fv)は、特許第5257997号に記載の方法により、大腸菌発現および巻き戻し法で調製した。NZ-1抗体のscFvは、配列番号84で示される配列を用いた以外は、P20.1抗体の単鎖抗体(scFv)と同様の方法により調製した。
 また、NZ-1抗体に対するFv-clasp(v1)及びSG/19抗体に対するFv-clasp(v1)は、比較例3と同様の方法により、配列番号85で示される、NZ-1抗体に対するVH-SARAH(Y35C)及び配列番号86で示される、NZ-1抗体に対するVL-SARAH(M24C)、並びに配列番号87で示される、SG/19抗体に対するVH-SARAH(Y35C)及び配列番号88で示される、SG/19抗体に対するVL-SARAH(M24C)をそれぞれ(1)遺伝子組換・発現工程および可溶化工程、(2)リフォールディング工程、(3)濃縮工程及び(4)精製工程に付し、調製した。
 調製したP20.1抗体のscFv、NZ-1抗体のscFv、NZ-1抗体に対するFv-clasp(v1)、SG/19抗体に対するFv-clasp(v1)、比較例1で得られたP20.1抗体-Fv-clasp(v1)、比較例3で得られた12CA5抗体-Fv-clasp(v1)、実施例2で調製したP20.1抗体-Fv-clasp(v2)、実施例5で調製したSG/19抗体-Fv-clasp(v2)、実施例8で調製した12CA5抗体-Fv-clasp(v2)、及び実施例10で調製したNZ-1抗体-Fv-clasp(v2)を用いてサーマルシフトアッセイを行い、それぞれのTm値を求めた。
 サーマルシフトアッセイでは、各試料にSYPRO Orange(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を添加し、25℃から85℃まで温度を上昇させたときの蛍光値の変化をリアルタイムで測定することでタンパク質の変性状態をモニターし、得られた変性曲線からTm値[℃]を算出した。結果を下記表4に示す。表中の単位は全て[℃]である。
[0096]
[表4]


 これらの実験結果から、Fv-clasp(v2)は、従来のフラグメント抗体であるscFvやFv-clasp(v1)に比べTm値が高く、その差は6-11℃にも達することが判った。すなわち、Fv-clasp(v2)は、従来のフラグメント抗体よりもはるかに熱安定が高い為、冷蔵あるいは室温での保存安定性も高い。この性質により、Fv-clasp(v2)は、フラグメント抗体、及びタンパク質結晶化促進用フラグメント抗体としてはもちろん、それ以外の用途でも極めて有利な性質を有することが期待される。

請求の範囲

[請求項1]
(a)抗体の重鎖ドメイン(VH領域)のC末端にSARAHドメインのN末端が結合したペプチドであって、VH領域がChothia法による抗体残基番号112のアミノ酸残基をシステインに変異させたペプチド(VH(112C)-SARAH)と、
(b)抗体の軽鎖ドメイン(VL領域)のC末端にSARAHドメインのN末端が結合したペプチドであって、SARAHドメインがC末端から13番目のアミノ酸残基をシステインに変異させたペプチド(VL-SARAH(37C))との複合体からなるフラグメント抗体であって、
(c)VH(112C)-SARAHとVL-SARAH(37C)が、上記2つのシステイン間のジスルフィド結合により結合しているフラグメント抗体。
[請求項2]
前記VH(112C)-SARAHにおけるSARAHドメインが、配列番号1~8で示されるものであり、前記VL-SARAH(37C)におけるSARAHドメインが、配列番号9~16で示されるものである、請求項1に記載のフラグメント抗体。
[請求項3]
前記VH(112C)-SARAHにおけるSARAHドメインが、配列番号1~2で示されるものであり、前記VL-SARAH(37C)におけるSARAHドメインが、配列番号9~10で示されるものである、請求項1に記載のフラグメント抗体。
[請求項4]
(a)抗体の重鎖ドメイン(VH領域)のC末端にSARAHドメインのN末端が結合したペプチドであって、VH領域がChothia法による抗体残基番号112のアミノ酸残基をシステインに変異させたペプチド(VH(112C)-SARAH)と、
(b)抗体の軽鎖ドメイン(VL領域)のC末端にSARAHドメインのN末端が結合したペプチドであって、SARAHドメインがC末端から13番目のアミノ酸残基をシステインに変異させたペプチド(VL-SARAH(37C))との複合体からなるタンパク質結晶化促進用フラグメント抗体であって、
(c)VH(112C)-SARAHとVL-SARAH(37C)が、上記2つのシステイン間のジスルフィド結合により結合しているタンパク質結晶化促進用フラグメント抗体。
[請求項5]
前記VH(112C)-SARAHにおけるSARAHドメインが、配列番号1~8で示されるものであり、前記VL-SARAH(37C)におけるSARAHドメインが、配列番号9~16で示されるものである、請求項4に記載のタンパク質結晶化促進用フラグメント抗体。
[請求項6]
前記VH(112C)-SARAHにおけるSARAHドメインが、配列番号1~2で示されるものであり、前記VL-SARAH(37C)におけるSARAHドメインが、配列番号9~10で示されるものである、請求項4に記載のタンパク質結晶化促進用フラグメント抗体。
[請求項7]
前記請求項1~3で示されるフラグメント抗体を用いる、タンパク質の結晶化方法。

図面

[ 図 1]

[ 図 2]

[ 図 3]

[ 図 4]

[ 図 5]

[ 図 6]   [規則26に基づく補充 11.01.2018] 

[ 図 7]

[ 図 8]

[ 図 9]   [規則26に基づく補充 11.01.2018] 

[ 図 10]   [規則26に基づく補充 11.01.2018] 

[ 図 11]

[ 図 12]

[ 図 13]

[ 図 14]

[ 図 15]

[ 図 16]

[ 図 17]