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1. (WO2018043214) ACIER INOXYDABLE DUPLEX ET PROCÉDÉ POUR SA FABRICATION
Document

明 細 書

発明の名称 二相ステンレス鋼およびその製造方法

技術分野

0001  

背景技術

0002   0003   0004   0005   0006   0007   0008   0009   0010   0011   0012  

先行技術文献

特許文献

0013  

発明の概要

発明が解決しようとする課題

0014   0015   0016   0017  

課題を解決するための手段

0018   0019   0020  

発明の効果

0021  

図面の簡単な説明

0022  

発明を実施するための形態

0023   0024   0025   0026   0027   0028   0029   0030   0031   0032   0033   0034   0035   0036   0037   0038   0039   0040   0041   0042   0043   0044   0045   0046   0047   0048   0049   0050   0051   0052   0053   0054   0055   0056   0057   0058   0059   0060  

実施例

0061   0062   0063   0064   0065   0066   0067   0068   0069   0070   0071   0072   0073   0074   0075   0076   0077   0078   0079  

請求の範囲

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10   11   12   13   14  

図面

1  

明 細 書

発明の名称 : 二相ステンレス鋼およびその製造方法

技術分野

[0001]
 本発明は、原油あるいは天然ガスの油井、ガス井等に用いて好適な二相ステンレス鋼およびその製造方法に関する。本発明の二相ステンレス鋼は、高強度、高靭性かつ耐食性、特に、炭酸ガス(CO )、および塩素イオン(Cl )を含み高温の極めて厳しい腐食環境下での耐炭酸ガス腐食性、および硫化水素(H S)を含む環境下における、低温での耐硫化物応力腐食割れ性(耐SCC性)と常温での耐硫化物応力割れ性(耐SSC性)のそれぞれに優れた油井用として好適なステンレス継目無鋼管に適用できる。

背景技術

[0002]
 近年、原油価格の高騰や、近い将来に予想される石油資源の枯渇という観点から、従来は省みられなかったような深度が深い油田や、硫化水素等を含む、いわゆるサワー環境下にある厳しい腐食環境の油田やガス田等の開発が盛んになっている。このような油田、およびガス田は一般に深度が極めて深く、またその雰囲気も高温で、かつCO 、およびCl 、さらにH Sを含む厳しい腐食環境となっている。このような環境下で使用される油井用鋼管には、高強度、高靭性かつ耐食性(耐炭酸ガス腐食性、耐硫化物応力腐食割れ性および耐硫化物応力割れ性)に優れた材質を有することが要求される。
[0003]
 従来から、CO 、およびCl 等を含む環境の油田、およびガス田では、採掘に使用する油井管として二相ステンレス鋼管が多く使用されている。
[0004]
 例えば、特許文献1には、鋼の組成を、質量%で、C≦0.03%、Si≦1.0%、Mn≦1.5%、P≦0.03%、S≦0.0015%、Cr:24~26%、Ni:9~13%、Mo:4~5%、N:0.03~0.20%、Al:0.01~0.04%、O≦0.005%、Ca:0.001~0.005%とし、S、O、およびCaの添加量を制限すると共に、熱間加工性に影響する相バランスに大きく寄与するCr、Ni、Mo、およびNの添加量を制限することにより、従来鋼と同等レベルの熱間加工性を維持しながら、その制限範囲内でCr、Ni、Mo、およびNの添加量を最適化し、耐H S腐食性を改善した2相ステンレス鋼が開示されている。
[0005]
 しかし、特許文献1に記載された技術では、降伏強さは高々80ksi(551MPa)級程度しか達成できず、油井管用としては一部の鋼管にしか適用できないという問題があった。
[0006]
 上記問題を受けて、これまでにも油井管用に好適な高強度二相ステンレス鋼が提案されている。
[0007]
 例えば、特許文献2には、質量%で、C:0.03%以下、Si:1%以下、Mn:0.1~2%、Cr:20~35%、Ni:3~10%、Mo:0~4%、W:0~6%、Cu:0~3%、N:0.15~0.35%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる二相ステンレス鋼材を、熱間加工あるいは更に固溶化熱処理により冷間加工用素管とし、冷間引抜加工により鋼管を製造する方法において、最終の冷間引抜加工における断面減少率での加工度Rdが5~35%の範囲内であって、かつ式(Rd(%)≧(MYS‐55)/17.2‐{1.2×Cr+3.0×(Mo+0.5×W)})を満足する条件で冷間引抜加工することにより、油井管に要求される耐食性および強度を兼ね備えた二相ステンレス鋼管の製造方法が開示されている。
[0008]
 特許文献3には、Cuを含有するオーステナイト・フェライト系二相ステンレス鋼を1000℃以上に加熱して熱間加工を行い、続いてそのまま800℃以上の温度から急冷し、その後時効処理することにより耐食性を向上させた高強度二相ステンレス鋼の製造方法が開示されている。
[0009]
 特許文献4には、重量%で、C:0.03%以下、Si:1%以下、Mn:1.5%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:20~26%、Ni:3~7%、Sol-Al:0.03%以下、N:0.25%以下、Cu:1~4%、Mo:2~6%及びW:4~10%の1種または2種、Ca:0~0.005%、Mg:0~0.05%、B:0~0.03%、Zr:0~0.3%、Y、La及びCeを合計含有量として0~0.03%とを含有し、耐海水性の指標PT値がPT≧35、オーステナイト分率G値が70≧G≧30を満たす耐海水性用析出強化型二相ステンレス鋼を1000℃以上で溶体化処理し、続いて450~600℃で時効熱処理することで得られるとする耐海水性用析出強化型二相ステンレス鋼の製造方法が開示されている。
[0010]
 特許文献5には、Cuを含有するオ-ステナイト・フェライト系2相ステンレス鋼の溶体化処理材に、断面減少率35%以上の冷間加工を施した後、一旦50℃/sec以上の加熱速度で800~1150℃の温度域まで加熱してからこれを急冷し、次いで300~700℃での温間加工を施した後に再び冷間加工を施すか、あるいはこの冷間加工の後に450~700℃で時効処理することで、深層油井、およびガス井用の油井検層線等として使用できる高強度2相ステンレス鋼材の製造方法が開示されている。
[0011]
 特許文献6には、C:0.02wt%以下、Si:1.0wt%以下、Mn:1.5wt%以下、Cr:21~28wt%、Ni:3~8wt%、Mo:1~4wt%、N:0.1~0.3wt%、Cu:2wt%以下、W:2wt%以下、Al:0.02wt%以下、Ti、V、Nb、Ta:いずれも0.1wt%以下、Zr、B:いずれも0.01wt%以下、P:0.02wt%以下、S:0.005wt%以下を含有した鋼を1000~1150℃で溶体化熱処理後、450~500℃で30~120分の時効熱処理をするサワーガス油井管用2相ステンレス鋼の製造方法が開示されている。
[0012]
 特許文献7には、重量%で、C:0.0100%以下、Si:0.40%以下、Mn:0.50%以下、Ni:0.20%未満、Cr:11.0~18.0%、N:0.0120%以下、Nb:0~0.10%、Ti:0~0.10%、Al:0~0.10%、Mo:0~0.50%、Cu:0~0.50%、残部Feおよび不可避的不純物よりなる鋼を950℃以下700℃以上の温度に加熱後、仕上げ温度850℃以下、700℃以上に制御して、熱間圧延を施し、素材の初期粒径の細粒化をはかり、靭性を改善する冷間加工用フェライトステンレス鋼の製造方法が開示されている。

先行技術文献

特許文献

[0013]
特許文献1 : 特開平5-302150号公報
特許文献2 : 特開2009-46759号公報
特許文献3 : 特開昭61-23713号公報
特許文献4 : 特開平10-60526号公報
特許文献5 : 特開平7-207337号公報
特許文献6 : 特開昭61-157626号公報
特許文献7 : 特開平7-150244号公報

発明の概要

発明が解決しようとする課題

[0014]
 最近の厳しい腐食環境の油田やガス田等の開発に伴い、油井用鋼管には、高強度、高靭性および耐食性を保持することが要望されるようになっている。ここで、耐食性とは、特にCO 、Cl 、さらにH Sを含む厳しい腐食環境下における、200℃以上の高温での優れた耐炭酸ガス腐食性と80℃以下の低温での優れた耐硫化物応力腐食割れ性(耐SCC性)、及び20~30℃の常温での優れた耐硫化物応力割れ性(耐SSC性)を兼備することを意味する。そして、経済性(コスト、および効率)の改善も求められる傾向にある。
[0015]
 しかしながら、特許文献2に記載された技術では、耐食性、強度、および靭性の改善はみられるが、まだ不十分である。また、冷間引抜加工を行う製造方法では、高コストであり、また低効率であるため製造に長期間がかかるという問題があった。特許文献3に記載された技術では、冷間引抜加工なしで降伏強さ655MPa以上の高強度は得られるものの、低温靭性に劣るという問題があった。特許文献4~6に記載された技術では、冷間引抜加工なしで降伏強さ655MPa以上の高強度は得られるものの、80℃以下の低温での耐硫化物応力腐食割れ性および耐硫化物応力割れ性が劣るという問題があった。
[0016]
 本発明は係る問題に鑑み、原油あるいは天然ガスの油井、およびガス井等として好適な、高強度、高靭性かつ耐食性(とくに上記したような厳しい腐食環境下においても、耐炭酸ガス腐食性、耐硫化物応力腐食割れ性および耐硫化物応力割れ性を兼ね備えた耐食性)に優れた二相ステンレス鋼およびその製造方法を提供することを目的とする。
[0017]
 なお、本発明において、「高強度」とは、降伏強さ:95ksi以上、すなわち降伏強さが95ksi級(655MPa)以上の強度を有するものをいう。また、本発明において、「高靭性」とは、低温靭性、すなわち-10℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーvE -10が40J以上を有するものをいう。また、本発明において、「優れた耐炭酸ガス腐食性」とは、オートクレーブ中に保持された試験液:20mass%NaCl水溶液(液温:200℃、30気圧のCO ガス雰囲気)中に、試験片を浸漬し、浸漬期間を336時間として実施した場合の腐食速度が0.125mm/y以下の場合をいう。また、本発明において、「優れた耐硫化物応力腐食割れ性」とは、オートクレーブ中に保持された試験液:10mass%NaCl水溶液(液温:80℃、2MPaのCO ガス、35kPaのH S雰囲気)に、試験片を浸漬し、浸漬期間を720時間として、降伏応力の100%を付加応力として付加し、試験後の試験片に割れが発生しない場合をいう。また、本発明において、「優れた耐硫化物応力割れ性」とは、試験セルに保持された試験液:20%massNaCl水溶液(液温:25℃、0.07MPaのCO ガス、0.03MPaのH S雰囲気)に酢酸+酢酸Naを加えて、pH:3.5に調節した水溶液中に、試験片を浸漬し、浸漬期間を720時間として、降伏応力の90%を付加応力として付加し、試験後の試験片に割れが発生しない場合をいう。

課題を解決するための手段

[0018]
 本発明者らは、上記した目的を達成するため、二相ステンレス鋼について、強度、および靭性、特に低温靭性、耐炭酸ガス腐食性、および耐硫化物応力腐食割れ性、耐硫化物応力割れ性に及ぼす各種要因について鋭意検討した。その結果、以下の知見を得た。
[0019]
 鋼の組織は、20~70%のオーステナイト相を含有し、第二相をフェライト相からなる複合組織とすることにより、200℃以上までの高温でかつ、CO 、Cl 、さらにH Sを含む高温腐食環境下、およびCO 、Cl 、さらにH Sを含む腐食雰囲気中でかつ降伏強さ近傍の応力が負荷される環境下において、優れた耐炭酸ガス腐食性および高温での優れた耐硫化物応力腐食割れ性を兼備する二相ステンレス鋼とすることができる。さらにCuを一定量以上含有することにより、冷間加工を行わずともYS95ksi(655MPa)以上の高強度を達成できることを見出した。また、Nを0.07%未満と低減することにより、時効熱処理を行った場合の窒化物の生成を抑制し、優れた低温靭性を達成できることを新たに見出した。また、組織の微細化の指数として各相間(フェライトとオーステナイト間)の間隔GSI値を大きくすること、すなわち各相間の間隔を狭くすることにより、さらに靭性が向上することを見出した。また、硫化物応力腐食割れ、および硫化物応力割れは、80℃以上では活性溶解が主原因であるのに対して、(1)80℃以下の温度では水素脆化が主原因であること、(2)窒化物が水素のトラップサイトとなり水素吸蔵量を増大させることで耐水素脆化性を悪化させることを新たに知見した。そして、80℃以下の温度の硫化物応力腐食割れ、および硫化物応力割れに対しては、時効熱処理を行った場合の窒化物の生成を抑制するため、Nを0.07%未満に低減することが有効であることを見出した。
[0020]
 本発明は、以上の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1] 質量%で、
C:0.03%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:0.10~1.5%、
P:0.030%以下、
S:0.005%以下、
Cr:20.0~30.0%、
Ni:5.0~10.0%、
Mo:2.0~5.0%、
Cu:2.0~6.0%、
N:0.07%未満
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
組織は、体積率で20~70%のオーステナイト相と30~80%のフェライト相を有する、
降伏強さYSが655MPa以上、試験温度:-10℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーvE -10が40J以上である二相ステンレス鋼。
[2] 前記組成に加えてさらに、質量%で、W:0.02~1.5%を含有する[1]に記載の二相ステンレス鋼。
[3] 前記組成に加えてさらに、質量%で、V:0.02~0.20%を含有する[1]または[2]に記載の二相ステンレス鋼。
[4] 前記組成に加えてさらに、質量%で、
Zr:0.50%以下、
B:0.0030%以下
のうちから選ばれた1種または2種を含有する[1]~[3]のいずれかに記載の二相ステンレス鋼。
[5] 前記組成に加えてさらに、質量%で、
REM:0.005%以下、
Ca:0.005%以下、
Sn:0.20%以下、
Mg:0.0002~0.01%
のうちから選らばれた1種または2種以上を含有する[1]~[4]のいずれかに記載の二相ステンレス鋼。
[6] 前記組成に加えてさらに、質量%で、
Ta:0.01~0.1%、
Co:0.01~1.0%、
Sb:0.01~1.0%
のうちから選らばれた1種または2種以上を含有する[1]~[5]のいずれかに記載の二相ステンレス鋼。
[7] 前記組織は、さらに、肉厚方向に引いた線分の単位長さ(1mm)当たりに存在するフェライト‐オーステナイト粒界の数として定義されるGSI値が鋼材の肉厚中心部で176以上である[1]~[6]のいずれかに記載の二相ステンレス鋼。
[8] 質量%で、
C:0.03%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:0.10~1.5%、
P:0.030%以下、
S:0.005%以下、
Cr:20.0~30.0%、
Ni:5.0~10.0%、
Mo:2.0~5.0%、
Cu:2.0~6.0%、
N:0.07%未満
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有するステンレス鋼を、
1000℃以上の加熱温度に加熱したのち、空冷以上の平均冷却速度で300℃以下の温度まで冷却する溶体化熱処理と、
350℃~600℃の温度に加熱し冷却する時効熱処理とを施す、
降伏強さYSが655MPa以上かつ、試験温度:-10℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーvE -10が40J以上である二相ステンレス鋼の製造方法。
[9] 前記組成に加えてさらに、質量%で、W:0.02~1.5%を含有する[8]に記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
[10] 前記組成に加えてさらに、質量%で、V:0.02~0.20%を含有する[8]または[9]に記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
[11] 前記組成に加えてさらに、質量%で、
Zr:0.50%以下、
B:0.0030%以下
のうちから選ばれた1種または2種を含有する[8]~[10]のいずれかに記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
[12] 前記組成に加えてさらに、質量%で、
REM:0.005%以下、
Ca:0.005%以下、
Sn:0.20%以下、
Mg:0.0002~0.01%
のうちから選らばれた1種または2種以上を含有する[8]~[11]のいずれかに記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
[13] 前記組成に加えてさらに、質量%で、
Ta:0.01~0.1%、
Co:0.01~1.0%、
Sb:0.01~1.0%
のうちから選らばれた1種または2種以上を含有する[8]~[12]のいずれかに記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
[14] 前記ステンレス鋼は、前記組成を有する鋼素材を加熱し熱間加工を施して鋼管素材とし、該鋼管素材を加熱し、造管、成形し、空冷以上の冷却を施して継目無鋼管としたものであり、
前記熱間加工は、1200℃~1000℃の温度域における合計圧下量が30%以上50%以下、である[8]~[13]のいずれかに記載の二相ステンレス鋼の製造方法。

発明の効果

[0021]
 本発明によれば、降伏強さが95ksi以上(655MPa以上)の高強度を有し、また-10℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーvE -10が40J以上の高靭性を有し、かつ硫化水素を含有する厳しい腐食環境下においても、優れた耐炭酸ガス腐食性、優れた耐硫化物応力腐食割れ性および優れた耐硫化物応力割れ性を兼ね備えた、耐食性に優れた二相ステンレス鋼が得られる。そして、本発明により製造した二相ステンレス鋼を油井用ステンレス継目無鋼管に適用することにより、安価に製造することができ、産業上格段の効果を奏する。

図面の簡単な説明

[0022]
[図1] 図1は、本発明の実施例におけるシャルピー衝撃試験結果とGSI値との関係を示すグラフである。

発明を実施するための形態

[0023]
 以下、本発明について詳細に説明する。
[0024]
 まず、本発明の二相ステンレス鋼の組成と、その限定理由について説明する。以下、特に断わらない限り、質量%は単に%で記す。
[0025]
 C:0.03%以下
 Cは、オーステナイト相を安定させて強度・低温靭性を向上させる効果を有する元素である。降伏強さが95ksi以上(655MPa以上)の高強度、vE -10が40J以上の低温靭性を実現するためには、C含有量は0.002%以上とすることが好ましい。しかし、C含有量が0.03%を超えると、熱処理より炭化物の析出が過剰となる。耐食性に悪影響を及ぼす場合もある。そのため、C含有量の上限は0.03%とする。好ましくはC含有量は0.02%以下である。より好ましくはC含有量は0.012%以下とする。より好ましくはC含有量は0.005%以上とする。
[0026]
 Si:1.0%以下
 Siは、脱酸剤として有効な元素であり、この効果を得るためには、0.05%以上の含有量が好ましい。より好ましくは、Si含有量は0.10%以上とする。しかしながら、Si含有量が1.0%を超えると熱処理により金属間化合物の析出が過剰となり、鋼の耐食性を劣化させる。このため、Si含有量は1.0%以下とする。好ましくはSi含有量は0.7%以下である。より好ましくはSi含有量は0.6%以下である。
[0027]
 Mn:0.10~1.5%
 Mnは、上述のSiと同様に、脱酸剤として有効な元素であるとともに、鋼中に不可避的に含有されるSを硫化物として固定し熱間加工性を改善する。これらの効果はMn含有量が0.10%以上で得られる。しかし、Mn含有量が1.5%を超えると熱間加工性が低下するだけでなく、耐食性に悪影響を及ぼす。このため、Mn含有量は0.10~1.5%とする。好ましくはMn含有量は0.15~1.0%である。より好ましくは0.2~0.5%である。
[0028]
 P:0.030%以下
 Pは、耐炭酸ガス腐食性、耐孔食性および耐硫化物応力割れ性等の耐食性を低下させるため、本発明ではできるだけ低減することが好ましいが、P含有量は0.030%以下であれば許容できる。このようなことから、P含有量は0.030%以下とする。好ましくはP含有量は0.020%以下である。なお、製造コストの上昇を防止する観点より、好ましくはP含有量は0.005%以上とする。
[0029]
 S:0.005%以下
 Sは、熱間加工性を著しく低下させる、パイプ製造工程の安定操業を阻害する元素であり、できるだけ低減することが好ましいが、S含有量は0.005%以下であれば通常工程のパイプ製造が可能となる。このようなことから、S含有量は0.005%以下とする。好ましくは、S含有量は0.002%以下である。なお、製造コストの上昇を防止する観点より、好ましくはS含有量は0.0005%以上とする。
[0030]
 Cr:20.0~30.0%
 Crは、耐食性を維持し、強度を向上するために有効な基本成分である。これらの効果を得るためには、その含有量を20.0%以上とする必要がある。しかし、Crの含有量が30.0%を超えると、σ相が析出し易くなり耐食性と靭性がともに劣化する。従って、Crの含有量は20.0~30.0%とする。より高強度を得るためには、好ましくはCr含有量は21.4%以上とする。より好ましくはCr含有量は23.0%以上である。また、靱性の観点からは、好ましくはCr含有量は28.0%以下である。
[0031]
 Ni:5.0~10.0%
 Niは、オーステナイト相を安定させ、二相組織を得るために含有される元素である。Ni含有量が5.0%未満の場合、フェライト相が主体となって二相組織が得られない。一方、Ni含有量が10.0%を超えると、オーステナイト主体となり二相組織が得られない。また、Niが高価な元素であるために経済性も損なわれる。従って、Ni含有量は5.0~10.0%とする。好ましくは、Ni含有量は8.0%以下である。
[0032]
 Mo:2.0~5.0%
 Moは、Cl や低pHによる耐孔食性を向上させ、耐硫化物応力割れ性および耐硫化物応力腐食割れ性を高める元素である。本発明では、Moは2.0%以上の含有を必要とする。一方、Moが5.0%を超える多量の含有は、σ相が析出し、靭性、耐食性が低下する。従って、Mo含有量は2.0~5.0%とする。好ましくはMo含有量は2.5~4.5%である。
[0033]
 Cu:2.0~6.0%
 Cuは、時効熱処理にて微細なε-Cuを析出し、強度を大幅に上昇させるうえ、保護皮膜を強固にして鋼中への水素侵入を抑制し、耐硫化物応力割れ性および耐硫化物応力腐食割れ性を高める。そのため、本発明において非常に重要な元素である。これらの効果を得るためには、Cuは2.0%以上の含有を必要とする。一方、Cuが6.0%を超える含有は、低温靭性値が低下する。このため、Cu含有量は6.0%以下とする。従って、Cu含有量は2.0~6.0%とする。好ましくはCu含有量は2.5~5.5%である。
[0034]
 N:0.07%未満
 Nは、通常の二相ステンレス鋼においては、耐孔食性を向上させ、また固溶強化に寄与する元素として知られ、0.10%以上が積極的に添加される。しかしながら、本発明者らは、時効熱処理を行う場合には、Nはむしろ種々の窒化物を形成し、低温靭性の低下、80℃以下の低温での耐硫化物応力腐食割れ性および耐硫化物応力割れ性を低下させる元素であり、このような作用はN含有量が0.07%以上で顕著であることを新たに明らかにした。このことから、N含有量は0.07%未満とする。好ましくはN含有量は0.03%以下、より好ましくはN含有量は0.015%以下である。製造コストの上昇を防止する観点より、好ましくはN含有量は0.005%以上とする。
[0035]
 残部はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、O(酸素):0.01%以下が許容できる。
[0036]
 以上の成分が基本の成分であり、基本成分で本発明の二相ステンレス鋼は目的とする特性が得られる。本発明では、上記の基本成分に加えて、必要に応じて下記の選択元素を含有することができる。
[0037]
 W:0.02~1.5%
 Wは、耐硫化物応力腐食割れ性、耐硫化物応力割れ性を向上させる元素として有用である。このような効果を得るためには、W含有量は0.02%以上含有することが望ましい。一方、Wは1.5%を超えて多量に含有すると、低温靭性を低下させる場合がある。従って、Wを含有する場合には、0.02~1.5%とする。好ましくはW含有量は0.8~1.2%である。
[0038]
 V:0.02~0.20%
 Vは、析出強化により鋼の強度を向上させる元素として有用である。このような効果を得るためにはV含有量は0.02%以上含有することが望ましい。一方、Vは0.20%を超えて含有すると、低温靭性を低下させる場合がある。また、多量に含有すると、耐硫化物応力割れ性が低下する場合がある。このため、V含有量は0.20%以下が望ましい。従って、Vを含有する場合には、0.02~0.20%とする。より好ましくはV含有量は0.04~0.08%である。
[0039]
 Zr:0.50%以下、B:0.0030%以下のうちから選ばれた1種または2種
 Zr、Bは、いずれも、強度増加に寄与する元素として有用であり、必要に応じて選択して含有できる。
[0040]
 Zrは、上記した強度増加に寄与するとともに、さらに耐硫化物応力腐食割れ性の改善にも寄与する。このような効果を得るためには、Zr含有量は0.02%以上とすることが望ましい。一方、Zrは0.50%を超えて含有すると、低温靭性を低下させる場合がある。このため、Zrを含有する場合には、0.50%以下とする。好ましくはZr含有量は0.05%以上とする。より好ましくは、Zr含有量は0.05%~0.20%とする。
[0041]
 Bは、上記した強度増加に寄与するとともに、さらに熱間加工性の改善にも寄与する元素として有用である。このような効果を得るためには、B含有量は0.0005%以上とすることが望ましい。一方、Bは0.0030%を超えて含有すると、低温靭性、熱間加工性を低下させる場合がある。このため、Bを含有する場合には、0.0030%以下とする。より好ましくはB含有量は0.0010~0.0025%とする。
[0042]
 REM:0.005%以下、Ca:0.005%以下、Sn:0.20%以下、Mg:0.0002~0.01%のうちから選らばれた1種または2種以上
 REM、Ca、Sn、Mgはいずれも、耐硫化物応力腐食割れ性の改善に寄与する元素として有用であり、必要に応じて選択して含有できる。このような効果を確保するためには、それぞれREM:0.001%以上、Ca:0.001%以上、Sn:0.05%以上、Mg:0.0002%以上を含有することが望ましい。より好ましくは、それぞれREM:0.0015%以上、Ca:0.0015%以上、Sn:0.09%以上、Mg:0.0005%以上とする。一方、REM:0.005%、Ca:0.005%、Sn:0.20%、Mg:0.01%をそれぞれ超えて含有しても、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり、経済的に不利となる場合がある。このため、含有する場合には、それぞれREM:0.005%以下、Ca:0.005%以下、Sn:0.20%以下、Mg:0.01%以下とする。より好ましくは、それぞれREM:0.004%以下、Ca:0.004%以下、Sn:0.15%以下、Mg:0.005%以下とする。
[0043]
 Ta:0.01~0.1%、Co:0.01~1.0%、Sb:0.01~1.0%のうちから選ばれた1種または2種以上
 Ta、Co、Sbはいずれも耐CO 腐食性、耐硫化物応力割れ性および耐硫化物応力腐食割れ性の改善に寄与する元素として有用であり、必要に応じて選択して含有できる。このような効果を確保するためには、それぞれTa:0.01%以上、Co:0.01%以上、Sb:0.01%以上含有することが望ましい。一方、Ta:0.1%、Co:1.0%、Sb:1.0%を超えて含有しても効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなる場合がある。このため、含有する場合には、それぞれTa:0.01~0.1%、Co:0.01~1.0%、Sb:0.01~1.0%とする。なお、Coは、上述の効果に加えて、Ms点を高め、強度増加にも寄与する。より好ましくは、それぞれTa:0.02~0.05%、Co:0.02~0.5%、Sb:0.02~0.5%とする。
[0044]
 次に、本発明の二相ステンレス鋼の組織と、その限定理由について説明する。なお、以下の体積率は、鋼板組織全体に対する体積率とする。
[0045]
 本発明の二相ステンレス鋼は、上記した組成を有し、さらに体積率でオーステナイト相を20~70%含有し、フェライト相を30~80%含有する複合組織を有する。さらに、複合組織は、肉厚方向に引いた線分の単位長さ(1mm)当たりに存在するフェライト‐オーステナイト粒界の数として定義されるGSI値が鋼材の肉厚中心部で176以上とすることができる。
[0046]
 オーステナイト相が20%未満では所望の低温靭性値を得ることができない。また、所望の耐硫化物応力割れ性および耐硫化物応力腐食割れ性を得ることができない。一方、フェライト相が30%未満、オーステナイト相が70%を超えると、所望の高強度を確保できなくなる。このようなことから、オーステナイト相を20~70%の範囲とする。好ましくはオーステナイト相は30~60%である。また、フェライト相を30~80%の範囲とする。好ましくはフェライト相は40~70%である。なお、オーステナイト相、フェライト相の体積率は、後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。
[0047]
 なお、オーステナイト相、フェライト相以外の相として金属間化合物、炭化物、窒化物、硫化物等の析出物を合計で1%以下であれば含有できる。これらの析出物が合計で1%を超えると低温靭性や耐硫化物応力腐食割れ性、耐硫化物応力割れ性が顕著に悪化する。
[0048]
 本発明では、フェライト-オーステナイト粒界の数として定義されるGSI値を176以上にすること、すなわち各相間の間隔を狭くすることにより、より靭性を向上させることができる。化学組成、組織、製造条件が本発明範囲内であればGSI値が176未満でも、靭性は40J以上は得られるが、GSI値を176以上にすることによって靭性は70J以上となりより向上する。穿孔-圧延工程での大変形により、再結晶が促進されてGSI値は上昇するが、大変形には割れが生じるリスクがあり複数回の変形は工程の増加による歩留まりの低下および製造コストの増大を招く。本発明者らは、後述する実施例に記載の条件でシャルピー衝撃試験結果とGSI値との関係について調査を行った。その結果を図1に示す。図1に示す結果からは、割れの生じない通常の圧延で得られるGSI値は300であったことから、GSI値の上限は300とすることが望ましい。なお、フェライト-オーステナイト粒界の数として定義されるGSI値は、後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。
[0049]
 次に、本発明の二相ステンレス鋼の製造方法について説明する。
[0050]
 本発明では、上記した組成を有する二相ステンレス鋼を出発素材(以下、鋼管素材と称する場合もある)とする。本発明では、出発素材である二相ステンレス鋼の製造方法はとくに限定する必要がなく、通常公知の製造方法を適用できる。
[0051]
 以下では、継ぎ目無し鋼管に使用する際の本発明の二相ステンレス鋼の好ましい製造方法について説明する。なお、本発明は、継ぎ目無し鋼管のみならず、薄板、厚板、UOE、ERW、スパイラル鋼管、鍛接管等にも適用できる。
[0052]
 上記した成分組成を有する鋼管素材の製造方法については、例えば、上記した組成を有する溶鋼を、転炉等の常用の溶製方法で溶製し、連続鋳造法、造塊-分塊圧延法等、通常公知の方法でビレット等の鋼管素材とすることが好ましい。次いで、これら鋼管素材を加熱し、通常公知の造管方法である、ユジーンセジュルネ法などの押し出し製管法またはマンネスマン製管法などの熱間加工によって、所望の寸法の上記した組成を有する継目無鋼管とする。
[0053]
 なお、上記のGSI値が176以上となる微細な組織を得る方法として、例えば、上記した熱間加工で、1200℃~1000℃での合計圧下量を30%以上とすることが好ましい。これにより、再結晶が促進し、肉厚方向に引いた線分の単位長さ(1mm)当たりに存在するフェライト‐オーステナイト粒界の数として定義されるGSI値が鋼材の肉厚中心部で176以上の組織を含む継目無鋼管とすることができる。1000℃未満では、加工温度が低すぎて変形抵抗が高くなり、圧延機への負担が過大となり熱間加工が困難となる。また、1200℃を超えると結晶が粗大化して靭性が低下する。より好ましくは1100℃~1180℃とする。また、上記温度域での合計圧下量が30%未満では、肉厚方向における単位長さ当たりのフェライト‐オーステナイトの粒界の数であるGSI値が176以上とすることは困難である。よって、上記温度域での合計圧下量は30%以上とする。好ましくは上記温度域での合計圧下量は35%以上である。本発明では、上記温度域での合計圧下量の上限は、特に規定する必要はないが、圧延機への負担の観点より、上記温度域での合計圧下量は50%以下が好ましい。より好ましくは上記温度域での合計圧下量は45%以下である。ここで、合計圧下量とは、ピアサーによる穿孔後に、実施されるエロンゲータ、プラグミル等により圧延された鋼管の肉厚圧下量のことを意味する。
[0054]
 造管後、継目無鋼管は、空冷以上の平均冷却速度で室温まで冷却することが好ましい。
[0055]
 冷却に引続き、本発明では、さらに1000℃以上の加熱温度に加熱したのち、空冷以上、好ましくは1℃/s以上の平均冷却速度で300℃以下の温度まで冷却する溶体化熱処理を施す。これにより、造管までに析出した金属間化合物や炭化物、窒化物、硫化物等を固溶し、適正量のオーステナイト相、フェライト相を含む組織の継目無鋼管とすることができる。
[0056]
 溶体化熱処理の加熱温度が1000℃未満では、所望の高靭性を確保することができない。なお、溶体化熱処理の加熱温度は、組織の粗大化を防止する観点から、1150℃以下とすることが好ましい。より好ましくは溶体化熱処理の加熱温度は1020℃以上である。より好ましくは溶体化熱処理の加熱温度は1130℃以下である。本発明では、溶体化熱処理の加熱温度における保持時間は、材料内の温度を均一にする観点から、5min以上が好ましい。また、溶体化熱処理の加熱温度における保持時間は210min以下が好ましい。
[0057]
 溶体化熱処理の平均冷却速度が1℃/s未満では、冷却途中にσ相、χ相などの金属間化合物が析出し、低温靭性及び耐食性が著しく低下する。なお、平均冷却速度の上限は、特に限定する必要はない。ここで、平均冷却速度とは、加熱温度から冷却停止温度までの範囲における冷却速度の平均をいう。
[0058]
 溶体化熱処理の冷却停止温度が300℃超えでは、その後αプライム相が析出し、低温靭性及び耐食性が著しく低下する。したがって、好ましくは溶体化熱処理温度の冷却停止温度は100℃以下である。
[0059]
 次いで、溶体化熱処理を施された継目無鋼管には、350~600℃の温度に加熱し、5min以上、210min以下保持し、冷却する時効熱処理を施す。時効熱処理を施されることにより、添加したCuがε-Cuとして析出し強度に寄与する。これにより、所望の高強度と、高靭性さらには優れた耐食性を有する高強度二相ステンレス継目無鋼管となる。
[0060]
 時効熱処理の加熱温度が600℃を超えて、高温となると、ε-Cuは粗大化し、所望の高強度と、さらには高靭性、優れた耐食性を確保できなくなる。一方、時効熱処理の加熱温度が350℃未満では、ε-Cuが十分に析出せずに、所望の高強度を得ることができない。このため、時効熱処理の加熱温度は350~600℃の範囲とすることが好ましい。より好ましくは時効熱処理の加熱温度は400℃~550℃の範囲である。本発明では、時効熱処理での保持時間は、材料内の温度を均一にする観点から、5min以上とすることが好ましい。時効熱処理での保持時間が5min未満では、所望の組織の均一化が達成できない。より好ましくは、時効熱処理での保持時間は20min以上とする。また、時効熱処理での保持時間は210min以下が好ましい。なお、本発明では、冷却とは、350~600℃の温度域から室温まで、空冷以上の平均冷却速度で冷却することをいう。好ましくは、1℃/s以上である。
実施例
[0061]
 以下、本発明を実施例により説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
[0062]
 表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法でビレット(鋼管素材)に鋳造し、鋼管素材を1150~1250℃で加熱したのち、加熱モデルシームレス圧延機を用いる熱間加工により造管し、外径83.8mm×肉厚12.7mmの継目無鋼管とした。なお、造管後、空冷した。
[0063]
 得られた継目無鋼管から、表2に示す条件で加熱したのち、冷却する溶体化熱処理を施した。そして、さらに表2に示す条件で加熱し空冷する時効熱処理を施した。
[0064]
 このように熱処理を施し、最終的に得られた継目無鋼管から、組織観察用試験片を採取し、GSI値の測定、構成組織の定量評価、引張試験、シャルピー衝撃試験、腐食試験、耐硫化物応力腐食割れ試験(耐SCC試験)、耐硫化物応力割れ試験(耐SSC試験)を行った。試験方法は次の通りとした。
[0065]
 (1)GSI値の測定
 得られた鋼管の圧延方向に垂直な面かつ板厚中央位置の面より組織観察用試験片を採取した。この組織観察用試験片を、研磨、ビレラ液(ピクリン酸、塩酸およびエタノールをそれぞれ2g、10ml、および100mlの割合で混合した試薬)で腐食して、光学顕微鏡(倍率:400倍)で組織を観察した。得られた組織写真を用いて肉厚方向に単位長さ当たり(試験片における1mm相当)のフェライト-オーステナイト粒界の数(本/mm)を測定する事により求めた。
[0066]
 (2)鋼板の組織全体に占める各相の体積率(体積%)
 フェライト相の体積率は、圧延方向に垂直な面かつ板厚中央位置の面を走査型電子顕微鏡で観察することにより求めた。上述の組織観察用試験片をビレラ試薬で腐食して走査型電子顕微鏡(1000倍)で組織を撮像し、画像解析装置を用いて、フェライト相の面積率の平均値を算出し、これを体積率(体積%)とした。
[0067]
 また、オーステナイト相の体積率は、X線回折法を用いて測定した。上述の熱処理(溶体化熱処理-時効熱処理)を施された試験片素材から板厚中央位置付近の面を測定面とする測定用試験片を採取し、X線回折によりオーステナイト相(γ)の(220)面、フェライト相(α)の(211)面、の回折X線積分強度を測定した。そして、次式
 γ(体積率)=100/(1+(IαRγ/IγRα))
ここで、Iα:αの積分強度
    Rα:αの結晶額的理論計算値
    Iγ:γの積分強度
    Rγ:γの結晶額的理論計算値
を用いて換算した。
[0068]
 (3)引張特性
 上述の熱処理を施された試験片素材から、API弧状引張試験片を採取し、APIの規定に準拠して引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS)を求めた。本発明では、降伏強度は、655MPa以上を合格と評価した。
[0069]
 (4)シャルピー試験
 上述の熱処理を施された試験片素材から、JIS Z 2242の規定に準拠して、Vノッチ試験片(10mm厚)を採取し、シャルピー衝撃試験を実施し、-10℃における吸収エネルギーを求め、靭性を評価した。本発明では、vE -10:40J以上を合格と評価した。また得られた結果をGSI値との関係で整理し、図1に示す。
[0070]
 (5)腐食試験
 上述の熱処理処理を施された試験片素材から、厚さ3mm×幅30mm×長さ40mmの腐食試験片を機械加工によって作製し、腐食試験を実施した。
[0071]
 腐食試験は、オートクレーブ中に保持された試験液:20mass%NaCl水溶液(液温:200℃、30気圧のCO ガス雰囲気)中に、試験片を浸漬し、浸漬期間を14日間として実施した。試験後の試験片について、重量を測定し、腐食試験前後の重量減から計算した腐食速度を求めた。また、腐食試験後の試験片について倍率:10倍のルーペを用いて試験片表面の孔食発生の有無を観察した。なお、孔食有は、直径:0.2mm以上の場合をいう。本発明では、腐食速度が0.125mm/y以下の場合を合格と評価した。
[0072]
 (6)耐硫化物応力割れ試験(耐SSC試験)
 上述の熱処理を施された試験片素材から、NACE TM0177 Method Aに準拠して、丸棒状の試験片(直径:6.4mmφ)を機械加工によって作製し、耐SSC試験を実施した。
[0073]
 耐SSC試験は、試験液:20mass%NaCl水溶液(液温:25℃、H S:0.03MPa、CO :0.07MPaの雰囲気)に酢酸+酢酸Naを加えてpH:3.5に調整した水溶液中に、試験片を浸漬し、浸漬期間を720時間として、降伏応力の90%を付加応力として付加して、実施した。試験後の試験片について割れの有無を観察した。本発明では、試験後の試験片に割れが発生しない場合を合格と評価した。なお、表2では、割れが発生しない場合を記号○で示し、割れが発生する場合を記号×で示した。
[0074]
 (7)耐硫化物応力腐食割れ試験(耐SCC試験)、
 また、上述の熱処理された試験片素材から、機械加工により、厚さ3mm×幅15mm×長さ115mmの4点曲げ試験片を採取し、耐SCC試験を実施した。
[0075]
 耐SCC試験は、オートクレーブ中に保持された試験液:10mass%NaCl水溶液(液温:80℃、H S:35kPa、CO :2MPaの雰囲気)に、試験片を浸漬し、浸漬期間を720時間として、降伏応力の100%を付加応力として付加して、実施した。試験後の試験片について、割れの有無を観察した。本発明では、試験後の試験片に割れが発生しない場合を合格と評価した。なお、表2では、割れが発生しない場合を記号○で示し、割れが発生する場合を記号×で示した。
[0076]
 以上により得られた結果を表2に示す。
[0077]
[表1]


[0078]
[表2]


[0079]
 本発明例はいずれも、降伏強さ:655MPa以上の高強度、vE -10≧40Jの低温靱性、CO 、Cl を含む200℃以上という高温の腐食環境下における耐食性(耐炭酸ガス腐食性)に優れ、さらにH Sを含む環境下で割れ(SSC、SCC)の発生もなく、優れた耐硫化物応力割れ性および耐硫化物応力腐食割れ性を兼備する高強度二相ステンレス鋼となっている。なお、GSI値が176以上の場合には、vE -10≧70Jとより一層低温靱性に優れることがわかった。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、本発明の目的とする高強度を達成できていないか、高靱性を達成できていないか、耐炭酸ガス腐食性を達成できていないか、H Sを含む環境下で割れ(SSC、SCC)が発生している。

請求の範囲

[請求項1]
 質量%で、
C:0.03%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:0.10~1.5%、
P:0.030%以下、
S:0.005%以下、
Cr:20.0~30.0%、
Ni:5.0~10.0%、
Mo:2.0~5.0%、
Cu:2.0~6.0%、
N:0.07%未満
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
組織は、体積率で20~70%のオーステナイト相と30~80%のフェライト相を有する、
降伏強さYSが655MPa以上、試験温度:-10℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーvE -10が40J以上である二相ステンレス鋼。
[請求項2]
 前記組成に加えてさらに、質量%で、W:0.02~1.5%を含有する請求項1に記載の二相ステンレス鋼。
[請求項3]
 前記組成に加えてさらに、質量%で、V:0.02~0.20%を含有する請求項1または2に記載の二相ステンレス鋼。
[請求項4]
 前記組成に加えてさらに、質量%で、
Zr:0.50%以下、
B:0.0030%以下
のうちから選ばれた1種または2種を含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼。
[請求項5]
 前記組成に加えてさらに、質量%で、
REM:0.005%以下、
Ca:0.005%以下、
Sn:0.20%以下、
Mg:0.0002~0.01%
のうちから選らばれた1種または2種以上を含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼。
[請求項6]
 前記組成に加えてさらに、質量%で、
Ta:0.01~0.1%、
Co:0.01~1.0%、
Sb:0.01~1.0%
のうちから選らばれた1種または2種以上を含有する請求項1~5のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼。
[請求項7]
 前記組織は、さらに、肉厚方向に引いた線分の単位長さ(1mm)当たりに存在するフェライト‐オーステナイト粒界の数として定義されるGSI値が鋼材の肉厚中心部で176以上である請求項1~6のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼。
[請求項8]
 質量%で、
C:0.03%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:0.10~1.5%、
P:0.030%以下、
S:0.005%以下、
Cr:20.0~30.0%、
Ni:5.0~10.0%、
Mo:2.0~5.0%、
Cu:2.0~6.0%、
N:0.07%未満
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有するステンレス鋼を、
1000℃以上の加熱温度に加熱したのち、空冷以上の平均冷却速度で300℃以下の温度まで冷却する溶体化熱処理と、
350℃~600℃の温度に加熱し冷却する時効熱処理とを施す、
降伏強さYSが655MPa以上かつ、試験温度:-10℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーvE -10が40J以上である二相ステンレス鋼の製造方法。
[請求項9]
 前記組成に加えてさらに、質量%で、W:0.02~1.5%を含有する請求項8に記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
[請求項10]
 前記組成に加えてさらに、質量%で、V:0.02~0.20%を含有する請求項8または9に記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
[請求項11]
 前記組成に加えてさらに、質量%で、
Zr:0.50%以下、
B:0.0030%以下
のうちから選ばれた1種または2種を含有する請求項8~10のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
[請求項12]
 前記組成に加えてさらに、質量%で、
REM:0.005%以下、
Ca:0.005%以下、
Sn:0.20%以下、
Mg:0.0002~0.01%
のうちから選らばれた1種または2種以上を含有する請求項8~11のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
[請求項13]
 前記組成に加えてさらに、質量%で、
Ta:0.01~0.1%、
Co:0.01~1.0%、
Sb:0.01~1.0%
のうちから選らばれた1種または2種以上を含有する請求項8~12のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼の製造方法。
[請求項14]
 前記ステンレス鋼は、前記組成を有する鋼素材を加熱し熱間加工を施して鋼管素材とし、該鋼管素材を加熱し、造管、成形し、空冷以上の冷却を施して継目無鋼管としたものであり、
前記熱間加工は、1200℃~1000℃の温度域における合計圧下量が30%以上50%以下、である請求項8~13のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼の製造方法。

図面

[ 図 1]