明 細 書
技術分野
[0001]
本発明は、気体成分の生成を伴う平衡反応を効率良く実施する方法に関する。
背景技術
[0002]
従来より実施されている反応のうち多くの反応は、正反応と逆反応とがある一定の割合で存在する平衡反応である。平衡反応の平衡が生成系側に不利である場合には、生成物のうちの少なくとも1種を反応系より分離し、上記平衡を生成系に有利にして反応効率(平衡転化率)を高めることが一般的に行われている。反応系より生成物を分離する方法としては、種々の方法が知られているが、蒸留分離は最も一般的に行われている方法の一つである。蒸留によって生成物を反応系より除去しながら平衡反応を生成側にずらして反応を進める方法は反応蒸留とよばれ、例えば、非特許文献1には、具体例を示して、反応蒸留についての説明が記載されている。
[0003]
一般に、反応蒸留は、連続式多段蒸留塔(反応蒸留装置)等の蒸留塔を用いることにより実施されている。該蒸留塔内で反応蒸留を行うと、反応の進行に伴って、反応液に含まれている、より高沸点の成分が蒸留塔の下段側に多く分布するようになる一方、より低沸点の成分が蒸留塔の上段側に多く分布するようになる。したがって、該蒸留塔においては、塔底から塔頂に向かうに従って、塔内の温度(液温)は低くなる。平衡反応の反応速度は、温度が低くなればなる程、遅くなる。このため、上記蒸留塔内で反応蒸留を行うと、塔底から塔頂に向かうに従って、反応速度が遅くなる。即ち、該蒸留塔内で反応蒸留を行うと、塔底から塔頂に向かうに従って、平衡反応の反応効率が低下することになる。
[0004]
そこで、反応効率をより向上させるために、即ち、反応速度をより速くするために、塔内の温度を一層高めることが検討されている。例えば、特許文献1には、原料(P)+原料(Q)⇔生成物(R)+生成物(S)で表される平衡反応、殊に、エステル交換反応を効率的に行うための方法として、溶媒を反応蒸留塔に供給して該反応蒸留塔内の温度を高め反応を有利に進める方法が開示されている。
[0005]
また、反応生成物の収率や純度を上げたり、危険性を伴う反応を安全に実施するための反応装置としてマイクロチャンネルリアクタとよばれる流路形成体を用いることが知られている(特許文献2参照)。マイクロチャンネルリアクタは通常の反応容器と比べ熱を効率よく逃がすことができるため、ニトロ化などの危険な反応を、高温でもより安全に行うことができるとされる。また、反応系の加熱や冷却も素早く行うことができ、反応の制御が容易である。実験室で使用されるマイクロチャンネルリアクタで取り扱うことのできる化合物の量は少ないが、マイクロチャネルの数を増やすことによって工業過程にスケールアップすることも可能である。したがって、上記したような反応蒸留をマイクロチャンネルリアクタを用いて実施できれば、工業的な価値は高い。
[0006]
しかしながら、マイクロチャンネルリアクタを使用する方法では、反応蒸留のような一部の成分がガスとなるような反応を実施できないという問題がある。上記したような連続式多段蒸留塔(反応蒸留装置)であれば、ガス成分は常に液相から抜き出されるため、液相中の濃度が平衡値よりも低くなるために目的の反応の平衡を生成側にずらすことができるが、マイクロチャンネルリアクタでは、生成するガスの気泡が流路にたまることにより、流路内でのガス成分の気液平衡によって、液相中のガス成分の濃度が平衡に達し、液相中の濃度によって実施しようとする反応の平衡が支配されるためである。
[0007]
この課題に対して、例えば特許文献3には、気体を流路内に供給して、流路内の液相の上側に気体層を形成し、副生ガスを該気体層に取り込んで該気体層とともに流路外に排出しながら反応を行う方法が開示されている。この方法は、反応によって発生する副生ガスを直ちに気体層に取り込ませて流路外に排出することにより、流路内の液体の流れの安定化を図るとともに反応の平衡を生成側にずらすことを企図している。
先行技術文献
特許文献
[0008]
特許文献1 : 特開平10-301号公報
特許文献2 : 特開2008-168173号公報
特許文献3 : 特開2005-224764号公報
非特許文献
[0009]
非特許文献1 : 「化学工学」、第57巻、第1号、第77~79頁(1993年)
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0010]
しかしながら、特許文献3に開示される方法では、流路内での気体層と液体層との制御が難しい。また、気体を流路に導入し流路から排出するための出入口と、液体を流路に導入し流路から排出するための出入口とを設けることが必要であり、装置そのものの設計・加工が難しい。工業的に実施する場合には流路の数を増やすことになるが、各々の流路に対して気体層と液体層との制御や、装置の加工が必要となり、工業的な実施には不適である。
[0011]
本発明は、簡便な装置で効率よく反応生成物を回収することができる反応方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0012]
本発明者らは、鋭意検討した結果、反応を実施する流路に、原料化合物を含む液体と、流路内での加熱により気相を形成する低沸点化合物とを供給して、低沸点化合物を含む気相を該流路内に形成し、反応により生成する気体成分を気相に抜き出し、反応により生成する気体成分を低沸点化合物と共に流路外に排出する方法により、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
[0013]
すなわち、本発明は、以下を提供する。
[1] 少なくとも1種の原料化合物と、該原料化合物の標準沸点よりも低い標準沸点を有する低沸点化合物と、を含む液体を流路に供給する工程と、前記液体を加熱し、前記原料化合物の反応により液状の反応生成物及び気体成分を生成する工程と、前記反応生成物を含む液相と、前記気体成分及び前記低沸点化合物を含む気相とを分離する工程と、を有する、気体成分の生成を伴う反応の方法。
[2] 前記液体中、前記原料化合物と前記反応生成物との化学量論比が、原料化合物:反応生成物=100:0~80:20である、[1]に記載の方法。
[3] 前記流路が、10m
2/m
3以上1000m
2/m
3未満の比表面積を有する、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記低沸点化合物を、前記気相及び/又は前記液相に含まれる成分として回収する、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記気体成分及び前記低沸点化合物を含む気相を前記流路内で生成させる、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 前記低沸点化合物の標準沸点が、前記原料化合物の標準沸点よりも10℃以上低い、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 前記気体成分が、水、アンモニア、アミン化合物、ヒドロキシ化合物及びチオール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]~[6]に記載の方法。
[8] 前記気体成分が水を含み、前記反応が下記式(1)及び(2)で表される官能基の反応からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応を含む、[7]に記載の方法。
[化1]
(式中、X及びYは、各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
[9] 前記気体成分がアンモニアを含み、前記反応が下記式(3)~(8)で表される官能基の反応からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応を含む、[7]に記載の方法。
[化2]
(式中、X、Y及びZは、各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
[10] 前記気体成分がアミン化合物を含み、前記反応が下記式(9)~(11)で表される官能基の反応からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応を含む、[7]に記載の方法。
[化3]
(式中、X、Y及びZは、各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
[11] 前記気体成分がヒドロキシ化合物又はチオール化合物を含み、前記反応が下記式(12)及び(13)で表される官能基の反応からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基の反応を含む、[7]に記載の方法。
[化4]
(式中、X及びYは、各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
[12] 前記気体成分がヒドロキシ化合物又はチオール化合物を含み、前記反応がヒドロキシ化合物又はチオール化合物と、エステル化合物との反応であるエステル交換反応であり、該エステル化合物が、カルボン酸エステル、チオカルボン酸エステル、炭酸エステル、カルバミン酸エステル及びチオカルバミン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のエステルである、[7]に記載の方法。
[13] 前記流路が80℃以上に加熱され、前記低沸点化合物が50℃以上の標準沸点を有する化合物である、[1]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14] 前記流路の相当直径が50mm以下である、[1]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15] [1]~[14]のいずれかに記載の方法を行うための装置であって、前記反応生成物を含む液相と、前記気体成分及び前記低沸点化合物を含む気相との分離が、気液分離器で行われ、気液分離器と前記流路との接続部における前記流路が水平面から5度以上傾いている、装置。
[16] [1]~[14]のいずれかに記載の方法によって得られる反応生成物。
発明の効果
[0014]
本発明によれば、簡便な装置で効率よく反応生成物を回収することができる反応方法を提供することができる。
図面の簡単な説明
[0015]
[図1] 反応工程の一実施形態を模式的に示す図である。
発明を実施するための形態
[0016]
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
[0017]
本発明は、少なくとも1種の原料化合物と、該原料化合物の標準沸点よりも低い標準沸点を有する低沸点化合物と、を含む液体を流路に供給する工程(以下、「供給工程」という。)、上記液体を加熱し、原料化合物の反応により液状の反応生成物及び気体成分を生成する工程(以下、「反応工程」という。)と、反応生成物を含む液相と、気体成分及び低沸点化合物を含む気相とを分離する工程(以下、「分離工程」という。)と、を有する反応方法に関する。
[0018]
図1は、本実施の形態に係る反応工程の一実施形態を模式的に示す図である。図1を用いて、本実施の形態の反応方法について、説明する。
[0019]
[供給工程]
まず、少なくとも1種の原料化合物と、低沸点化合物とを含む液体が、タンク101から流路1に供給される。次いで、流路1に供給された液体は、ポンプ102により流路2に供給される。
[0020]
[反応工程]
流路2は、ヒーター103により加熱されている。流路2に供給された液体は、加熱され、原料化合物の反応により液状の反応生成物及び気体成分を含む反応液が生成する。
[0021]
<原料化合物>
原料化合物は、少なくとも1種の化合物からなり、流路1及び2に液状で供給される。原料化合物が液状であるとは、流路1及び2の温度よりも沸点が高いことを意味する。原料化合物は、流路1内で液相に存在する。なお、流路2に供給される液体中、原料化合物と反応生成物との化学量論比は、原料化合物:反応生成物=100:0~80:20であることが好ましい。
[0022]
<低沸点化合物>
本実施の形態に係る低沸点化合物は、標準沸点が全ての原料化合物の標準沸点よりも低く、かつ、原料化合物と反応性を有しない化合物である。低沸点化合物は、反応工程を行う流路2内で加熱により気体となり気相を形成する。低沸点化合物の標準沸点は、原料化合物の標準沸点より10℃以上低いことが好ましい。低沸点化合物が気体であるとは、反応温度よりも低沸点化合物の沸点が低い場合を指す。低沸点化合物が反応工程を行う流路2内での加熱により気相を形成する化合物かどうかは、例えば、反応条件における化合物の蒸気圧や、該化合物の標準沸点等を参考に、当業者であれば容易に決定できる。
[0023]
低沸点化合物は、流路2内で気相を形成するが、原料化合物を含む混合物と共に反応工程を行う流路2に供給する際には液体であることが好ましい。すなわち、低沸点化合物は、流路2に液体として供給され、流路2での加熱によって気相を形成する。低沸点化合物を使用による効果は次のように推定している。流路2内に気相が形成されることにより、液相との間に気液平衡状態(理想的には蒸留理論段1段分)が形成され、反応によって生成する気体成分を液相から速やかに気相に移動させることができ、以って、反応の平衡を生成側にずらすことができる効果を奏する。
[0024]
また、低沸点化合物は、原料化合物を含む混合液と相溶し単一の溶液となる化合物を選択し、低沸点化合物と原料化合物とを含む混合液を調製し、該混合液を、流路2に供給することが好ましい。この方法により、流路2内での気液混相流の状態が安定し、反応の制御が容易になる、反応効率が向上する等の効果を奏する。
[0025]
反応工程は、好ましくは80℃以上で実施される。すなわち、反応工程を行う流路2は80℃以上に加熱される。このような好ましい反応温度と、取り扱いの観点から、低沸点化合物の標準沸点は50℃以上であることが好ましい。
[0026]
低沸点化合物としては、(A)直鎖状、分岐鎖状又は環構造を有する炭化水素化合物、(B)同種の又は異種の、直鎖状、分岐鎖状又は環構造を有する炭化水素化合物が、エーテル結合又はチオエーテル結合を介して結合した化合物(すなわち、2つの炭化水素化合物がエーテル結合又はチオエーテル結合を介して結合した化合物。上記炭化水素化合物は直鎖状、分岐鎖状又は環構造を有し、2つの炭化水素化合物は同種のものであっても、異種のものであってもよい。)、(C)炭化水素基からなる置換基を有してもよい芳香族炭化水素化合物、(D)同種の又は異種の芳香族炭化水素化合物が、エーテル結合又はチオエーテル結合を介して結合した化合物、及び(E)直鎖状、分岐鎖状又は環構造を有する炭化水素化合物と芳香族炭化水素化合物とが、エーテル結合又はチオエーテル結合を介して結合した化合物、(F)直鎖状、分岐鎖状又は環構造を有する炭化水素化合物を構成する少なくとも1つの水素原子、又は、炭化水素基からなる置換基を有してもよい芳香族炭化水素化合物を構成する少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子に置換されたハロゲン化物、(G)ヒドロキシ化合物(アルコール、芳香族ヒドロキシ化合物)からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を挙げることができる。
[0027]
低沸点化合物の好ましい具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、オクタデカン、ノナデカン等の炭化水素化合物;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類;ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、ジブチルスルフィド、ジヘキシルスルフィド等の、炭化水素化合物がチオエーテル結合を介して結合したチオエーテル類;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、ブチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、ビフェニル、ジフェニルエタン、ジメチルビフェニル、ベンジルトルエン等の芳香族炭化水素化合物;ジフェニルエーテル、ジ(メチルベンジル)エーテル、ジ(エチルベンジル)エーテル、ジ(ブチルベンジル)エーテル、ジ(ペンチルベンジル)エーテル、ジ(ヘキシルベンジル)エーテル、ジ(オクチルベンジル)エーテル、ジベンジルエーテル等の芳香族炭化水素化合物がエーテル結合を介して結合した芳香族エーテル類;ジフェニルスルフィド、ジ(メチルベンジル)スルフィド、ジ(エチルベンジル)スルフィド、ジ(ブチルベンジル)スルフィド、ジ(ペンチルベンジル)スルフィド、ジ(ヘキシルベンジル)スルフィド、ジ(オクチルベンジル)スルフィド、ジ(メチルフェニル)スルフィド、ジベンジルスルフィド等の芳香族炭化水素化合物がチオエーテル結合を介して結合した芳香族チオエーテル類;メトキシベンゼン、エトキシベンゼン、ブトキシベンゼン、ジメトキシベンゼン、ジエトキシベンゼン、ジブトキシベンゼン等の炭化水素化合物と芳香族炭化水素化合物とがエーテル結合を介して結合した化合物;クロロメタン、クロロエタン、クロロペンタン、クロロオクタン、ブロモメタン、ブロモエタン、ブロモペンタン、ブロモオクタン、ジクロロエタン、ジクロロペンタン、ジクロロオクタン、ジブロモエタン、ジブロモペンタン、ジブロモオクタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジクロロベンゼン、ジブロモベンゼン、塩化ベンジル、臭化ベンジル等のハロゲン化物、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール等のアルコール、フェノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、ペンチルフェノール、ヘキシルフェノール、ヘプチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール等のモノ置換フェノール類、ジメチルフェノール、ジエチルフェノール、ジプロピルフェノール等のジ置換フェノール類を挙げることができる。
[0028]
これらの中でも、(B)、(D)又は(E)のようなエーテル結合又はチオエーテル結合を有する化合物は、条件によっては酸化物や過酸化物を生成する場合がある。熱的に安定であるという観点から、これらの中でも、(A)直鎖状、分岐鎖状又は環構造を有する炭化水素化合物、(C)炭化水素基からなる置換基を有してもよい芳香族炭化水素化合物、(F)直鎖状、分岐鎖状又は環構造を有する炭化水素化合物を構成する少なくとも1つの水素原子、又は、炭化水素基からなる置換基を有してもよい芳香族炭化水素化合物を構成する少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子に置換されたハロゲン化物が好ましい。また、(F)のようなハロゲン原子を含有する化合物は、条件によっては、分解、又はハロゲンラジカルを発生し、生成物にハロゲン化物が混入する場合があることから、(A)直鎖状、分岐鎖状又は環構造を有する炭化水素化合物、(C)炭化水素基からなる置換基を有してもよい芳香族炭化水素化合物、(G)ヒドロキシ化合物が更に好ましい。
[0029]
低沸点化合物の使用量は特に制限されないが、余りに多くの低沸点化合物を使用すると、流路2内の液相体積に対して気相体積が大きくなりすぎて、かえって生産量を低下させる原因となる場合があるので、原料化合物を含む混合物に対して、好ましくは0.5重量%~50重量%、より好ましくは1重量%~40重量%とする。
[0030]
<流路>
本実施の形態で使用する、反応工程を行うための流路2はどのようなものであってもよく、金属製又は樹脂製のチューブからなる流路であっても、複数の平板から構成される流路であってもよい。また、単一の流路から成っていてもよく、複数の流路を組み合わせたものであってもよい。
[0031]
流路2は、10m
2/m
3以上1000m
2/m
3未満の比表面積を有することが好ましい。流路2の比表面積が1000m
2/m
3を超えると流路中で気体又は液体が合一することにより気液界面積が減少して本実施の形態による効果が充分に発揮できない場合がある。このような観点から、流路2の比表面積は、より好ましくは700m
2/m
3未満、更に好ましくは500m
2/m
3未満である。一方、流路2の比表面積が10m
2/m
3未満では流路内での流通抵抗が大きくなりすぎ、処理効率が低下する場合がある。このような観点から、流路2の比表面積は、より好ましくは20m
2/m
3以上、更に好ましくは50m
2/m
3以上である。
[0032]
流路2の内径は、相当直径として、好ましくは、下限は、5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは50μm以上、最も好ましくは100μm以上である。また、流路2の内径の上限は50mm以下が好ましく、より好ましくは5000μm以下、最も好ましくは2500μm以下である。微小管状反応器の相当直径が50mmを超えると流路中で気体又は液体が合一することにより気液界面積が減少して本実施の形態による効果が充分に発揮できない場合がある。一方、5μm未満では流路内での流通抵抗が大きくなりすぎ、処理効率が低下する場合がある。
[0033]
本実施の形態でいう相当直径とは、流路の流通方向に垂直な断面と同じ面積を持つ円の直径として定義される。断面が完全な円である場合は、その直径が相当直径である。本実施の形態における流路の断面の形状は、特に制限がなく、円状、楕円状、正方形、長方形等、その他多角形状等種々の形状のものが使用できる。
[0034]
流路2の長さは、反応が進行するのに十分に長い時間、反応流体が反応器内に滞留するように決定される。滞留時間を長くとる目的から、反応器の長さが長くなる場合には、装置が大型になるのを避けるために、反応器をコイル状にしてもよい。
[0035]
流路2を構成する材質は、反応に要する熱量を流路の壁面から高効率に供給する目的から、熱伝導率の高い材質が好ましい。また、反応条件によっては流路内圧に対する強度を確保する必要があり、機械的強度に優れた材質が好ましい。具体的には、金属、ガラス、石英、有機高分子が挙げられる。金属としては、単体でも合金でも構わないが、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、ハステロイが使用でき、中でも、ステンレス鋼管が好適に使用される。これらの材料よりなる反応器の肉厚は特に限定されない。
[0036]
本実施の形態において、流路2内を流通する気液混相流の状態としては、気体プラグ、液体プラグが交互に流れるプラグ流、気体プラグと液体スラグが交互に流れるスラグ流、気泡流、チャーン流、環状流、環状噴霧流、せん状流、成層流、波状流が適用できるが、特に流路の断面をほぼ満たすような大きい気体プラグを有するプラグ流、又はスラグ流では、気体体積の減少による滞留時間の増加効果が大きく、気液混相流の状態として好ましい。
[0037]
反応器中の気液混相流の状態は、透過部を有する流路を接続して目視又は撮影することにより、あるいは、高速エックス線CTによる内部の可視化のような直接的手法、流路の差圧変動信号の統計的性質からの分類による確認のような気液混相流の物理状態の測定による手法、計算機シミュレーションによる手法等により確認することができる。
[0038]
<反応条件>
反応工程を行う際の反応圧力は、減圧、常圧又は加圧のいずれであってもよく、実施する反応や使用する低沸点成分の性状に合わせて選択することができる。反応温度については、従来用いられてきた条件が使用でき、下限は、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは130℃以上で、上限は、好ましくは、1000℃以下、より好ましくは500℃以下、更に好ましくは300℃以下、最も好ましくは250℃以下の範囲から選ばれる。
[0039]
反応工程を行う流路2への、原料化合物及び低沸点化合物の供給については、原料化合物を含む混合物と低沸点化合物とを別々に供給してもよいし、上記したように、原料化合物と低沸点化合物とを含む単一の混合物として供給してもよい。
[0040]
流路2に供給する混合物には、反応溶媒が含まれていてもよい。反応溶媒は、反応工程では液相に含まれる。反応溶媒が液体であるとは、反応温度よりも原料の沸点が高い場合を指す。
[0041]
反応溶媒としては、例えば、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等のアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、ジブチルベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素及びアルキル置換芳香族炭化水素類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等の二トリル化合物;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジブロモベンゼン、クロロナフタレン、ブロモナフタレン、ニトロベンゼン、ニトロナフタレン等のハロゲン又はニトロ基によって置換された芳香族化合物類;ジフェニル、置換ジフェニル、ジフェニルメタン、ターフェニル、アントラセン、ジベンジルトルエン等の多環炭化水素化合物類;シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;メチルエチルケトン、アセトフェノン等のケトン類;ジブチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ベンジルブチルフタレート等のエステル類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィド等のエーテル類及びチオエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;酢酸エチル、安息香酸エチル等のエステル化合物;ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド等のスルホキシド類等を反応溶媒として好適に使用する。いうまでもなく、該反応において1種又は複数種の原料を過剰に使用し、余剰分を反応溶媒として使用することもできる。
[0042]
また、反応によっては、原料化合物と低沸点化合物とを含む混合物に、必要に応じて触媒を添加することができる。
[0043]
原料化合物と低沸点化合物とを含む液体の供給速度には特に制限がなく、流路2の体積、滞留時間、加熱に要する時間を考慮して決めることができる。
[0044]
反応工程では、加熱反応により反応生成物及び気体成分が製造される。本工程の際、低沸点化合物は気化することが好ましい。より具体的には、反応工程において、低沸点化合物が気化し、原料化合物から加熱反応により反応生成物及び気体成分が生成され、流路2内に気体成分と気化した低沸点化合物とを含む気相が形成される。
[0045]
反応工程の温度は、低沸点溶媒の沸点を超え、原料化合物の沸点未満であることが好ましい。ただし、低沸点化合物又は原料化合物を2種類以上含む場合、最も高い沸点を有する化合物の沸点に対して、反応工程の温度を設定する。
[0046]
[分離工程]
流路2を通過した反応液は、気液分離器104に供給される。気液分離器104の中で、反応液は、反応生成物を含む液相と、気体成分及び低沸点化合物を含む気相に分離される。なお、液相には、未反応の原料化合物が含まれる場合もある。液相と気相との分離は、好ましくは、気液分離によって分離される。気液分離の方法や装置には特に制限がなく、公知の方法を使用することができ、例えば、フラッシュタンクや蒸留塔等に流路2を接続しておいて、気液分離を行ってもよい。気相成分は、必要に応じて流路3から供給される窒素ガスとともに流路4を通じて凝縮器107で冷却され、タンク105に回収される。一方、液相成分は、U字管を形成している流路5を通じてタンク106に回収される。好ましくは、反応生成物を含む液相と、気体成分及び低沸点化合物を含む気相との分離が、気液分離器104で行われ、気液分離器104と流路2との接続部における流路2が水平面から5度以上傾いている状態であるとよい。5度以上傾くとは、上方向でも下方向でもよいが、好ましくは下方向である。
[0047]
すなわち、本実施の形態に係る方法を行うための装置は、反応生成物を含む液相と、気体成分及び低沸点化合物を含む気相との分離を行う気液分離器104を備え、気液分離器104と流路2との接続部における流路2が水平面から5度以上傾いているとよい。このような装置を用いると、気液分離性が向上する。このような効果を奏する機構は明らかではないが、本発明者らは、流路2から気液分離器104に反液相と気相が供給される際に、重力の影響を受けやすい液相成分の液滴と、重力の影響を受けにくい気相との分離が促進される傾向が強まるためではないかと推測している。そのような観点から、水平面からの傾きは、好ましくは10度以上、より好ましくは20度以上である。
[0048]
<反応生成物>
本実施の形態における反応生成物は、1種又は複数種の化合物からなる原料化合物から気体成分の生成を伴う加熱反応によって製造される。
[0049]
<気体成分>
気体成分は、反応工程を行う条件下において気体となる成分であり、反応を実施する条件に応じて種々選択できる。反応工程を行う条件下において気体となる成分であるかどうかは、例えば、反応条件における化合物の蒸気圧を参考に決定することができる。
[0050]
本実施の形態の製造方法における、反応により生成する気体成分は、好ましくは、水、アンモニア、アミン化合物、ヒドロキシ化合物、チオール化合物及び水素からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
[0051]
アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン等のモノアルキルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン等のジアルキルアミン、アニリン、メチルアニリン、ジメチルアニリン等の芳香族モノアミン、ジフェニルアミン等の芳香族ジアミン等が挙げられる。なお、本明細書において具体的に挙げる化合物で複数種の異性体が存在する場合は、それらの異性体を含む。
[0052]
ヒドロキシ化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール等のアルコール、フェノール等の芳香族ヒドロキシ化合物が挙げられる。
[0053]
チオール化合物としては、メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール、ブタンチオール、ヘキサンチオール、フェニルチオール等のチオール化合物が挙げられる。
[0054]
以下、本実施の形態における、反応生成物及び気体成分の生成する反応例について、例示する。
[0055]
<水を生成する反応>
反応によって生成する気体成分が水である反応としては、下記式(1)及び(2)で表される官能基の反応からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応が挙げられる。
[0056]
[化5]
[0057]
式中、X及びYは、各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を表す。
[0058]
上記式(1)及び(2)は、官能基に着目して反応を記述しているが、これらの官能基を有する化合物は、単官能であっても多官能であってもよい。
[0059]
例えば、上記式(1)及び(2)における化合物がいずれも単官能である場合、上記式(1)及び(2)は、それぞれ、下記式(1)’及び(2)’と記述することができる。
[0060]
[化6]
[0061]
式中、R
1、R
2及びR
3は、各々独立に、脂肪族基又は芳香族基を表し、X及びYは、各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
[0062]
また、例えば、上記式(1)及び(2)における化合物がいずれも2官能である場合、上記式(1)及び(2)は、それぞれ、下記式(1)''及び(2)''と記述することができる。
[0063]
[化7]
[0064]
式中、R
4、R
5及びR
6は、各々独立に、2価の、脂肪族基又は芳香族基を表し、X及びYは、各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を表す。
[0065]
なお、上記式(1)及び(2)で表される官能基の反応を含む反応は、上記式(1)’及び(2)’、(1)''及び(2)''で表されるように、反応する化合物(各反応式の左辺の化合物)が同時に単官能又は多官能である必要はなく、単官能化合物と多官能化合物との組み合わせであってもよい。
[0066]
上記式において、R
1~R
6としては、好ましくは、炭素数1~20の脂肪族基又は炭素数6~20の芳香族基が挙げられる。
上記式において、R
1~R
6としては、好ましくは、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、オクタン等の直鎖炭化水素に由来する基;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ビス(シクロヘキシル)アルカン等の脂環式炭化水素に由来する基;メチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、ブチルシクロヘキサン、ペンチルシクロヘキサン、ヘキシルシクロヘキサン、等の置換シクロヘキサンに由来する基;ジメチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、ジブチルシクロヘキサン等のジアルキル置換シクロヘキサンに由来する基;1,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,5,5-トリエチルシクロヘキサン、1,5,5-トリプロピルシクロヘキサン、1,5,5-トリブチルシクロヘキサン等のトリアルキル置換シクロヘキサンに由来する基;トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン等のモノアルキル置換ベンゼンに由来する基;キシレン、ジエチルベンゼン、ジプロピルベンゼン等のジアルキル置換ベンゼンに由来する基;ジフェニルアルカン、ベンゼン等の芳香族炭化水素等に由来する基が挙げられる。
[0067]
<アンモニアを生成する反応>
反応によって生成する気体成分がアンモニアである反応としては、下記式(3)~(8)で表される官能基の反応からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応が挙げられる。式中、X、Y及びZは、上記で定義した基を表す。
[0068]
[化8]
[0069]
上記式(3)~(8)は、官能基に着目して反応を記述しているが、これらの官能基を有する化合物は、単官能であっても多官能であってもよい。
[0070]
例えば、上記式(3)~(8)における化合物がいずれも単官能である場合、上記式(3)~(8)は、それぞれ、下記式(3)’~(8)’と記述することができる。式中、R
1、R
2、R
3、X、Y及びZは、上記で定義した基を表す。
[0071]
[化9]
[0072]
また、例えば、上記式(3)の左辺第1項、式(6)の左辺第2項、式(7)の左辺第1項、第2項、式(8)の左辺の化合物がいずれも2官能である場合、上記式(3)、(6)、(8)は、それぞれ、下記式(3)''、(6)''、(8)''と記述することができる。式中、R
2、R
4、X及びYは、上記で定義した基を表す。
[0073]
[化10]
[0074]
なお、上記式(3)~(8)で表される官能基の反応を含む反応は、上記式(3)’~(8)’、(3)''、(6)''、(8)''で表されるような単官能化合物と多官能化合物の組み合わせである必要はなく適用することができる。
[0075]
<アミンを生成する反応>
反応によって生成する気体成分がアミンである反応としては、下記式(9)~(11)で表される官能基の反応からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応を含む反応が挙げられる。式中、X、Y及びZは、上記で定義した基を表す。
[0076]
[化11]
[0077]
上記式(9)~(11)は、官能基に着目して反応を記述しているが、これらの官能基を有する化合物は、単官能であっても多官能であってもよい。
[0078]
例えば、上記式(9)~(11)における化合物がいずれも単官能である場合、上記式(9)~(11)は、それぞれ、下記式(9)’~(11)’と記述することができる。式中、R
1、R
2、R
3、X、Y及びZは、上記で定義した基を表す。
[0079]
[化12]
[0080]
なお、上記式(9)~(11)で表される官能基の反応を含む反応は、多官能化合物の反応、多官能化合物と単官能化合物との反応であってもよい。
[0081]
<ヒドロキシ化合物又はチオール化合物を生成する反応>
反応によって生成する気体成分がヒドロキシ化合物又はチオール化合物である反応としては、下記式(12)及び(13)で表される官能基の反応からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応を含む反応が挙げられる。式中、X及びYは、上記で定義した基を表す。
[0082]
[化13]
[0083]
上記式(12)~(13)は、官能基に着目して反応を記述しているが、これらの官能基を有する化合物は、単官能であっても多官能であってもよい。
[0084]
例えば、上記式(12)~(13)における化合物がいずれも単官能である場合、上記式(12)~(13)は、それぞれ、下記式(12)’~(13)’と記述することができる。式中、R
1、R
2、R
3、X、Yは、上記で定義した基を表す。
[0085]
[化14]
[0086]
また、例えば、上記式(13)の左辺及び右辺第1項が2官能化合物であって、右辺第2項が単官能化合物である場合、上記式(13)は、下記式(13)’’と記述することができる。式中、R
3、R
4、X、Yは、上記で定義した基を表す。
[0087]
[化15]
[0088]
なお、上記式(12)及び(13)で表される官能基の反応を含む反応は、多官能化合物の反応、多官能化合物と単官能化合物との反応であってもよい。
[0089]
また、反応によって生成する気体成分がヒドロキシ化合物又はチオール化合物である反応としては、ヒドロキシ化合物又はチオール化合物と、エステル化合物との反応であるエステル交換反応であって、該エステル化合物が、カルボン酸エステル、チオカルボン酸エステル、炭酸エステル、カルバミン酸エステル及びチオカルバミン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種のエステル化合物であるエステル交換反応であってもよい。
[0090]
具体的な反応の例として、下記式(14)~(16)で表される反応を挙げる。なお、下記式(14)~(16)では単官能化合物の反応を記述したが、多官能化合物においても同様に適用できる。式中、R
1、R
2、R
3、X、Y、Zは、上記で定義した基を表す。
[0091]
[化16]
[0092]
本発明によれば、流路内に気相を存在させることにより、流路に導入する液体を、原料化合物と低沸点化合物とを含む単一の液体とすることで、気相と液相とを別々に供給するための装置の加工や、流路内での気相と液相の制御が容易な反応方法を提供することができる。また、本発明によれば、工業的な実施のために流路の数を容易に増やせる反応方法を提供することができる。
実施例
[0093]
本発明を実施例及び比較例に基づき更に詳しく説明するが、本発明の技術範囲及びその実施態様はこれらに限定されるものではない。
[0094]
[実施例1]
図1に示す装置を使用した。流路1、流路2ともに、外径1/16インチ、内径0.5mmのSUS316製チューブである。流路2は電気ヒーター103により加熱され、加熱されている流路2の長さは50mである。
[0095]
フェノール100g(1.09mol)と尿素43g(0.72mol)とトルエン10gを混合し、タンク101に投入した。ポンプ102によりタンク101の混合物を毎分10gで供給した。流路2の加熱温度は160℃とした。流路2を通過した反応液を、100℃に保温された気液分離器104に供給した。気液分離器104の、アンモニアとトルエンを含む気相成分は、流路3より供給される窒素ガスとともに流路4を通じて凝縮器107で冷却され、タンク105に抜き出された。一方の液相成分は、U字管を形成している流路5を通じてタンク106に抜き出された。タンク106に抜き出された混合物を液体クロマトグラフィーで分析したところ、該混合物にはカルバミン酸フェニルが含有され、尿素に対する収率は42%であった。
[0096]
[比較例1]
フェノール100g(1.09mol)と尿素43g(0.72mol)とを混合し、トルエンを使用しなかった以外は、実施例1と同様の方法を行った。タンク106に抜き出された混合物にはカルバミン酸フェニルが含有され、尿素に対する収率は6%であった。
[0097]
[実施例2]
酢酸100g(1.67mol)とイソアミルアルコール300g(3.40mol)と、テトラヒドロフラン20gを使用し、流路2の加熱温度を105℃とした以外は実施例1と同様の方法を行った。テトラヒドロフランと水を含む気相成分は、流路4を通じて凝縮器107で冷却され、タンク105に抜き出された。タンク106に抜き出された混合物には酢酸イソアミルが含有され、酢酸に対する収率は81%であった。
[0098]
[比較例2]
酢酸100g(1.67mol)とイソアミルアルコール300g(3.40mol)を使用し、テトラヒドロフランを使用しなかった以外は、実施例2と同様の方法を行った。酢酸に対する酢酸イソアミルの収率は34%であった。
[0099]
[実施例3]
ヘキサメチレンジアミン116g(1.00mol)と尿素150g(2.50mol)とフェノール1840g(20.0mol)とトルエン110gを使用し、流路2の加熱を180℃とした以外は、実施例1と同様の方法を行った。トルエンとアンモニアを含む気相成分は、流路4を通じて凝縮器107で冷却され、タンク105に抜き出された。タンク106に抜き出された混合物にはN,N’-ヘキサンジイル-ジ(カルバミン酸フェニル)が含有され、ヘキサメチレンジアミンに対する収率は32%であった。
[0100]
[比較例3]
ヘキサメチレンジアミン116g(1.00mol)と尿素150g(2.50mol)とフェノール1840g(20.0mol)を使用し、トルエンを使用しなかった以外は、実施例3と同様の方法を行った。ヘキサメチレンジアミンに対するN,N’-ヘキサンジイル-ジ(カルバミン酸フェニル)の収率は4%であった。
[0101]
[実施例4]
1,6-ヘキサンジウレア202g(1.00mol)と4-t-オクチルフェノール2470g(12.0mol)とトルエン180gを使用し、流路2の加熱を220℃とした以外は、実施例1と同様の方法を行った。トルエンとアンモニアを含む気相成分は、流路4を通じて凝縮器107で冷却され、タンク105に抜き出された。タンク106に抜き出された混合物にはN,N’-ヘキサンジイル-ジ(カルバミン酸(4-t-オクチルフェニル))が含有され、ヘキサメチレンジアミンに対する収率は44%であった。
[0102]
[比較例4]
1,6-ヘキサンジウレア202g(1.00mol)と4-t-オクチルフェノール2470g(12.0mol)を使用し、トルエン180gを使用しなかった以外は、実施例4と同様の方法を行った。ヘキサメチレンジアミンに対するN,N’-ヘキサンジイル-ジ(カルバミン酸(4-t-オクチルフェニル))の収率は5%であった。
[0103]
[実施例5]
2,4-トルエンジウレア50gとジベンジルエーテル820gとテトラヒドロフラン20gを使用し、流路2の加熱を200℃とした以外は、実施例1と同様の方法を行った。テトラヒドロフランとアンモニアを含む気相成分は、流路4を通じて凝縮器107で冷却され、タンク105に抜き出された。タンク106に抜き出された混合物には2,4-トルエンジイソシアネートが含有され、2,4-トルエンジウレアに対する収率は89%であった。
[0104]
[比較例5]
2,4-トルエンジウレア50gとジベンジルエーテル820gを使用し、テトラヒドロフランを使用しなかった以外は、実施例5と同様の方法を行った。2,4-トルエンジウレアに対する2,4-トルエンジイソシアネートの収率は15%であった。
符号の説明
[0105]
1,2,3,4,5…流路、102…ポンプ、103…ヒーター、104…気液分離器、105,106…タンク、107…凝縮器。
請求の範囲
[請求項1]
少なくとも1種の原料化合物と、該原料化合物の標準沸点よりも低い標準沸点を有する低沸点化合物と、を含む液体を流路に供給する工程と、
前記液体を加熱し、前記原料化合物の反応により液状の反応生成物及び気体成分を生成する工程と、
前記反応生成物を含む液相と、前記気体成分及び前記低沸点化合物を含む気相とを分離する工程と、
を有する、気体成分の生成を伴う反応の方法。
[請求項2]
前記液体中、前記原料化合物と前記反応生成物との化学量論比が、原料化合物:反応生成物=100:0~80:20である、請求項1に記載の方法。
[請求項3]
前記流路が、10m
2/m
3以上1000m
2/m
3未満の比表面積を有する、請求項1又は2に記載の方法。
[請求項4]
前記低沸点化合物を、前記気相及び/又は前記液相に含まれる成分として回収する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
[請求項5]
前記気体成分及び前記低沸点化合物を含む気相を前記流路内で生成させる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
[請求項6]
前記低沸点化合物の標準沸点が、前記原料化合物の標準沸点よりも10℃以上低い、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
[請求項7]
前記気体成分が、水、アンモニア、アミン化合物、ヒドロキシ化合物及びチオール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
[請求項8]
前記気体成分が水を含み、前記反応が下記式(1)及び(2)で表される官能基の反応からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応を含む、請求項7に記載の方法。
[化1]
(式中、X及びYは、各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
[請求項9]
前記気体成分がアンモニアを含み、前記反応が下記式(3)~(8)で表される官能基の反応からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応を含む、請求項7に記載の方法。
[化2]
(式中、X、Y及びZは、各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
[請求項10]
前記気体成分がアミン化合物を含み、前記反応が下記式(9)~(11)で表される官能基の反応からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応を含む、請求項7に記載の方法。
[化3]
(式中、X、Y及びZは、各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
[請求項11]
前記気体成分がヒドロキシ化合物又はチオール化合物を含み、前記反応が下記式(12)及び(13)で表される官能基の反応からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基の反応を含む、請求項7に記載の方法。
[化4]
(式中、X及びYは、各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
[請求項12]
前記気体成分がヒドロキシ化合物又はチオール化合物を含み、
前記反応がヒドロキシ化合物又はチオール化合物と、エステル化合物との反応であるエステル交換反応であり、
該エステル化合物が、カルボン酸エステル、チオカルボン酸エステル、炭酸エステル、カルバミン酸エステル及びチオカルバミン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のエステルである、請求項7に記載の方法。
[請求項13]
前記流路が80℃以上に加熱され、前記低沸点化合物が50℃以上の標準沸点を有する化合物である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
[請求項14]
前記流路の相当直径が50mm以下である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
[請求項15]
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法を行うための装置であって、
前記反応生成物を含む液相と、前記気体成分及び前記低沸点化合物を含む気相との分離を行う気液分離器を備え、前記気液分離器と前記流路との接続部における前記流路が水平面から5度以上傾いている、装置。
[請求項16]
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法によって得られる反応生成物。
図面