明 細 書
技術分野
[0001]
本発明は、供試エンジンに動力吸収体としてのダイナモメータを直結し、エンジンの各種特性を測定するエンジンベンチシステムの制御方式に係り、特にダイナモメータのトルク制御に関する。
背景技術
[0002]
図13は、エンジンベンチシステムを示したもので、エンジンE/GとトランスミッションT/Mを組み合わせ(ATあるいはMT、またMTの場合はクラッチ付)、結合シャフトを介してダイナモメータDYと接続する。エンジンE/Gは、スロットルアクチェータACTによりスロットル開度を制御する。
[0003]
一方、ダイナモメータDYには、回転検出器PP、トルク検出器(ロードセル)LCを設け、これら各検出器の検出信号をもとにダイナモメータDYの速度やトルクを制御する。この制御には、コントローラ(動力計制御器)C(s)によりPID制御される。同図にはトルク制御の場合を示し、コントローラC(s)はトルクの設定入力とダイナモメータDYのトルク検出値との偏差を演算部でPID演算し、この演算結果でインバータINVの出力を制御してダイナモメータDYのトルク制御を行う。
[0004]
このようなダイナモメータをPID制御するエンジンベンチシステムにおいて、エンジンが発生する脈動トルクによりシャフトの共振破壊を起こす恐れがある。これを防ぐために、ダイナモメータとシャフトとエンジンの機械系の共振点をエンジンが発生する脈動トルクの周波数以下に設定し、ダイナモメータをPID制御する制御方式がある。しかし、機械系共振点をエンジン脈動トルク周波数以下に設定することは、高速応答の速度制御及び軸トルク制御が非常に困難になってくる。
[0005]
上記のシャフトの共振抑制を図りながら、安定化および高速化したエンジンベンチシステムの軸トルク制御方式として、ロバスト制御設計理論の1つであるμ設計法を用いた軸トルク制御方式を本願出願人は既に提案している(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。μ設計法は、構造化特異値μを用いて実システムがもつ各摂動の大きさを表すことができ、特許文献1ではコントローラの設計時にロバスト安定およびロバスト性能の条件として求め、コントローラがもつ伝達関数として組み込む。
[0006]
特許文献1 : 日本国の公開特許公報である特許第3775284号公報
[0007]
特許文献2 : 日本国の公開特許公報である特開2003-121307号公報
発明の開示
[0008]
μ設計法を用いた軸トルク制御方式では、(1)制御対象のモデル化、(2)重み関数の決定、の大きくわけて2つの作業が必要となるが、重み関数の決定には試行錯誤を要する。
[0009]
また、特許文献2で提案する方式は、軸のばね剛性の変動に対してある程度ロバスト性を保証しているが、ばね剛性が大きく変化する場合、例えば100Nm/rad程度から3000Nm/rad程度までと大きく変化する場合には、μ設計法を基とした安定な制御は困難である。
[0010]
本発明の目的は、共振抑制効果を持ち、かつ軸のばね剛性が大きく変化する場合にも安定制御ができるエンジンベンチシステムの制御方式を提供することにある。
[0011]
本発明の制御方式を原理的に説明する。一般に、エンジンベンチシステムの機械系構成は2慣性系以上の多慣性系機械系モデルとして表現される。本発明は2慣性系で近似できるようなエンジンベンチシステムを対象としており、図14に機械系モデルを示す。このモデルはエンジンに結合シャフトを介してダイナモメータ(動力計)が直結されたものとする。
[0012]
図14の機械系モデルにおける各パーツの物理値を、J1:エンジン慣性モーメント、J2:動力計慣性モーメント、K12:結合シャフトばね剛性、T12:結合シャフト捩れトルク(軸トルク)、ω1:エンジン角速度、ω2:動力計角速度、T2:動力計トルクとすると、ラプラス演算子をsとして、エンジンベンチの運動方程式は、下記の式(1)~(3)となる。
[0013]
[数6]
[0014]
本発明では、軸トルク指令値(T12の指令値)をT12rと表して、動力計トルクT2を下記の式(4)に示す伝達関数を基に制御する。この(4)式では、軸トルク指令値T12rと軸トルク検出値T12との偏差(T12r-T12)を積分係数K
Iを有して積分演算する積分要素と、軸トルク検出値T12を微分係数K
Dを有して微分演算して一次遅れ(時定数f
1)で求める微分要素と、軸トルク検出値T12を比例係数K
Pを有して比例演算して一次遅れ(時定数f
1)で求める比例要素とからなり、積分要素から微分要素と比例要素を減算してトルク制御信号T2を得る。
[0015]
[数7]
[0016]
上記の式(1)~(3)の運動方程式で表現される制御対象を式(4)のように制御すると、その閉ループ特性多項式は4次になり、その4次多項式の各係数は4つのパラメータ(K
I,K
P,K
D,f
1)により任意に設定できる。式(1)~(4)の閉ループ特性多項式を下記の式(5)とおく。
[0017]
[数8]
[0018]
式(1)~(4)の閉ループ特性多項式の係数と式(5)の係数を比較し、係数(K
I,K
P,K
D,f
1)について解くことにより、式(4)の制御パラメータ(K
I,K
P,K
D,f
1)は、制御対象パラメータ推定値(Jl,K12,J2)と制御特性パラメータ(a4,a3,a2,a1)から決定する事ができる。この関係は下記の式(6)~(9)のように、関数f(a4,a3,a2,a1,J1,K12,J2)として表現する。
[0019]
[数9]
[0020]
したがって、本発明は、エンジンベンチシステムを2慣性系機械系モデルとして表現し、この機械系モデルの運動方程式とコントローラの伝達関数による閉ループ特性多項式に4次多項式のものを得、コントローラの伝達関数の各係数は4つのパラメータ(K
I,K
P,K
D,f
1)を適宜設定または決定することにより、従来のように重み関数の調整を不要にして容易に共振抑制効果を持つ制御ゲインを求めるものである。
[0021]
ここで、式(6)~(9)で使用する制御対象パラメータ推定値(Jl,K12,J2)は実機の物理パラメータと完全に一致する事はありえないが、本発明によれば、実機のばね剛性K12rが式(6)~(9)式で使用しているK12と比較して、K12r>>K12となった場合においても安定な制御を得る。
[0022]
以上のことから、本発明は、以下の制御方式を特徴とする。
[0023]
(1)供試エンジンとダイナモメータを結合シャフトで結合し、ダイナモメータの軸トルク制御でエンジンの各種特性を測定するエンジンベンチシステムにおいて、
ダイナモメータの軸トルク指令T12rと軸トルク検出値T12を基に、
[0024]
[数10]
[0025]
ただし、K
I、K
D、K
P、f
1はパラメータ、sはラプラス演算子
の伝達関数を有してダイナモメータのトルク制御を行う制御器を備えたことを特徴とする。
[0026]
(2)前記パラメータ(K
I、K
D、K
P、f
1)は、制御対象パラメータ推定値(Jl,K12,J2)と設定する制御特性パラメータ(a4,a3,a2,a1)を基に、
[0027]
[数11]
[0028]
ただし、J1はエンジン慣性モーメント、J2はダイナモメータ慣性モーメント、K12は結合シャフトのばね剛性、
に従った演算で決定する関数演算部を備えたことを特徴とする。
[0029]
(3)前記制御特性パラメータ(a4,a3,a2,a1)は、二項係数型またはButterworth型に設定するパラメータ設定器を備えたことを特徴とする。
[0030]
(4)前記制御特性パラメータ(a4,a3,a2,a1)は、共振特性を持つ2慣性機械系の特性多項式と2次の低域通過フィルタの特性多項式の積の係数に設定するパラメータ演算部を備えたことを特徴とする。
[0031]
(5)前記制御特性パラメータ(a4,a3,a2,a1)は、共振特性Aを持つ2慣性系の特性多項式と、共振特性Bを持つ2慣性系の特性多項式の積の係数に設定するパラメータ演算部を備えたことを特徴とする。
[0032]
(6)前記軸トルク指令T12rの大きさにより変化するシステムの共振周波数をデータとしてもつT2fテーブルと、
前記T2fテーブルから得る共振周波数ωcに対して、エンジン慣性モーメントJ1とダイナモメータ慣性モーメントJ2から、
[0033]
[数12]
[0034]
に従った演算で前記ばね剛性K12を求め、このばね剛性K12を前記関数演算部に設定するばね剛性演算部とを備えたことを特徴とする。
[0035]
(7)前記軸トルク検出値T12の大きさにより変化するシステムの共振周波数をデータとしてもつT2fテーブルと、
前記T2fテーブルから得る共振周波数ωcに対して、エンジン慣性モーメントJ1とダイナモメータ慣性モーメントJ2から、
[0036]
[数13]
[0037]
に従った演算で前記ばね剛性K12を求め、このばね剛性K12を前記関数演算部に設定するばね剛性演算部とを備えたことを特徴とする。
[0038]
(8)前記軸トルク指令値T12rと、前記軸トルク検出値T12を高域通過フィルタに通した検出値とを加算した値の大きさにより変化するシステムの共振周波数をデータとしてもつT2fテーブルと、
前記T2fテーブルから得る共振周波数ωcに対して、エンジン慣性モーメントJ1とダイナモメータ慣性モーメントJ2から、
[0039]
[数14]
[0040]
に従った演算で前記ばね剛性K12を求め、このばね剛性K12を前記関数演算部に設定するばね剛性演算部とを備えたことを特徴とする。
[0041]
(9)前記T2fテーブルで求める共振周波数をゲインK(ただし、0<K<=l)倍して前記ばね剛性演算部の入力とする係数器を備えたことを特徴とする。
図面の簡単な説明
[0042]
[図1] 本発明の実施形態1を示すダイナモメータの要部制御回路図。
[0043]
[図2] エンジンベンチシステムの特性例。
[0044]
[図3] 実施形態1による軸トルク制御特性図。
[0045]
[図4] 実施形態1によるステップ応答特性図。
[0046]
[図5] 本発明の実施形態2を示すダイナモメータの要部制御回路図。
[0047]
[図6] 実施形態2による軸トルク制御特性図。
[0048]
[図7] 本発明の実施形態3を示すダイナモメータの要部制御回路図。
[0049]
[図8] 実施形態3による軸トルク制御特性図。
[0050]
[図9] 本発明の実施形態4を示すダイナモメータの要部制御回路図。
[0051]
[図10] 本発明の実施形態5を示すダイナモメータの要部制御回路図。
[0052]
[図11] 本発明の実施形態6を示すダイナモメータの要部制御回路図。
[0053]
[図12] 本発明の実施形態7を示すダイナモメータの要部制御回路図。
[0054]
[図13] エンジンベンチシステムの構成図。
[0055]
[図14] エンジンベンチシステムの機械系モデル。
発明を実施するための最良の形態
[0056]
(実施形態1)
図1は、本実施形態のエンジンベンチシステムにおけるダイナモメータの要部制御回路を示す。エンジン1とダイナモメータ2がシャフト3で結合され、エンジン1の出力制御とダイナモメータ2のトルクをインバータ4で制御するシステム構成において、コントローラ5は前記の(4)式の伝達関数を有し、軸トルク指令T12rと軸トルク検出値T12を基にした演算で、ダイナモメータ2のトルク制御信号T2を発生する。
[0057]
コントローラ5における制御パラメータ(K
I,K
P,K
D,f
1)は、関数演算部6に設定する制御特性パラメータ(a4,a3,a2,a1)と制御対象パラメータ推定値(Jl,K12,J2)を基に前記の(6)~(9)式に従った演算で決定する。
[0058]
本実施形態では、以下のように(4)式の係数(K
I,K
P,K
D,f
1)を決定する。
[0059]
制御特性パラメータ(a4,a3,a2,a1)は、パラメータ設定器として用意し、例えば二項係数型にするには、
a4=1,a3=4,a2=6,a=4
と設定し、Butterworth型にするには、
a4=1,a3=2.61312592975275,a2=3.41421356237309,a1=2.61312592975275
とする。
[0060]
本実施形態によれば、2慣性系パラメータJ1,K12,J2から、(6)~(9)式により直接制御ゲインを決定する方式であるので、従来の方法のように重み関数の調整を必要とせず、容易に共振抑制効果を持つ制御ゲインを求めることができる。
[0061]
図2は図1のエンジンベンチシステムの特性例を示す。図2は、Jl=0.2,K12=1500,J2=0.7の場合の、T2→T12のボード線図である。このように、エンジンベンチシステムではある周波数に共振点(図2では約15Hz)をもち、また動力計トルク制御信号T2から軸トルク検出T12までの定常ゲイン(低域でのゲイン)も0dBにならない(図2では、約-13dB)。
[0062]
図3は本実施形態における制御特性パラメータ(a4,a3,a2,al)として、Butterworth型の上記の値を設定し、(6)~(9)式で算出した(K
I,K
P,K
D,f
1)を(4)式に従って適用した場合の軸トルク指令値(T12r)から軸トルク検出値(T12)のボード線図である。
[0063]
このように、本実施形態によれば、共振抑制され定常ゲインも0dBとなるように制御されている。また、従来の方法のように重み関数の調整を必要とせず、容易に共振抑制効果を持つ制御ゲインを求めることができる。
[0064]
図4は本実施形態による効果の別の例を示す。図4は、実機械系ではK12=1500であるときに(4)式の制御ゲインの算出式(6)~(9)式でのK12を、(A):K12=1500,(B):K12=750,(C):K12=150,(D):K12=15とした場合の軸トルク指令値(T12r)から軸トルク検出値(T12)のステップ応答の例である。
[0065]
このように、本実施形態では、制御ゲイン算出のために(6)~(9)式で想定したばね剛性値よりも実際の機械系のばね剛性値が大きい場合においては、即応性は劣化するものの、安定制御が可能となる。
[0066]
(実施形態2)
図5は、本実施形態のダイナモメータの要部制御回路を示し、機械系は省略して示す。本実施形態では、以下のように(4)式の(K
I,K
P,K
D,f
1)を決定するパラメータ演算部7を設ける。
[0067]
パラメータ演算部7は、制御特性パラメータ(a4,a3,a2,a1)を、共振特性を持つ2慣性機械系の特性多項式と2次の低域通過フィルタの特性多項式の積の係数に設定する。具体的には次のように設定する。
[0068]
所望する共振特性を持つ2慣性系機械系の共振周波数をωn、ダンピング係数をzとすると、その特性多項式は(s/ωn)
2+2×z×(s/ωn)+1である。また、2次の低域通過フィルタの特性多項式をc2×s
2+c1×s+1として、その積は((s/ωn)
2+2×z×(s/ωn)+1)×(c2×s2+c1×s+l)であるので、
a4=c2/ωn
2×ωr
4,a3=(c1/ωn
2+2×c2×z/ωn)×ωr
3,a2=(c2+1/ωn
2+2×c1×z/ωn)×ωr
2,a1=(c1+2×z/ωn)×ωr
ただし、ωr=√(K12×(1/J1+1/J2))
とする。
[0069]
このような演算で求めた制御特性パラメータ(a4,a3,a2,a1)は関数演算部6に設定され、前記(6)~(9)式に従って、(4)式の制御パラメータ(K
I,K
P,K
D,f
1)を決定する。
[0070]
図6は本実施形態において、低域通過フィルタ特性としてはButterworth型、機械共振特性は制御対象の機械共振周波数をもち、ダンピング係数が0.1となるように設定した場合である。すなわち、c2=1,cl=1.41421356237309,ωn=ωr,z=0.1と設定し、(6)~(9)式で算出した(K
I,K
P,K
D,f
1)を(4)式に従って適用した場合の軸トルク指令値(T12r)から軸トルク検出値(T12)のボード線図である。
[0071]
このように、本実施形態によれば、所望する共振特性を持ち、なおかつ、定常ゲインが0dBとなるように制御できる。また、本実施形態においても、図4に示した実施形態1の効果と同様に、制御ゲイン算出のために(6)~(9)式で想定したばね剛性値よりも実際の機械系のばね剛性値が大きい場合においても安定に制御が可能となる。
[0072]
(実施形態3)
図7は、本実施形態のダイナモメータの要部制御回路を示し、機械系は省略して示す。本実施形態では、以下のように(4)式の(K
I,K
P,K
D,f
1)を決定するパラメータ演算部8を設ける。
[0073]
パラメータ演算部8は、制御特性パラメータ(a4,a3,a2,a1)を、共振特性Aを持つ2慣性系の特性多項式と、共振特性Bを持つ2慣性系の特性多項式の積の係数に設定する。
[0074]
具体的には次のように設定する。共振特性Aは共振周波数ωn1[rad/a]、ダンピング係数zl、共振特性Bは共振周波数ωn2[rad/a]、ダンピング係数z2とすると、それらの特性多項式の積は、((s/ωn1)
2+2×z1×(s/ωn1)+1)×((s/ωn2)
2+2×z2×(s/ωn2)+1)である。したがって、
a4=1/(ωn1
2×ωn2
2)×ωr
4
a3=(2×z1/(ωn1×ωn2
2)+2×z2/(ωn2×ωn2))×ωr
3
a2=(1/ωn1
2+1/ωn2
2+4×z1×z2/(ωn1×ωn2))×ωr
2
a1=(2×z1/ωn1+2×z2/ωn2)×ωr
とする。
[0075]
このような演算で求めた制御特性パラメータ(a4,a3,a2,a1)は関数演算部6に設定され、前記(6)~(9)式に従って、(4)式の制御パラメータ(K
I,K
P,K
D,f
1)を決定する。
[0076]
図8は本実施形態において、共振特性Aは制御対象機械共振周波数の0.5倍、ダンピング係数0、1、共振特性Bは制御対象機械共振周波数の2倍、ダンピング係数0.1となるように設定した場合である。すなわち、ωn1=ωr×0.5,zl=0.1,ωn2=ωr×2,z2=0.1と設定し、(6)~(9)式で算出した(K
I,K
P,K
D,f
1)を(4)式に従って適用した場合の軸トルク指令値(T12r)から軸トルク検出値(T12)のボード線図である。
[0077]
このように、本実施形態によれば、1つの共振特性しか持たない制御対象機械系をあたかも2つの共振特性を持つように制御し、なおかつ、定常ゲインが0dBとなるように制御できる。また、本実施形態においても、図8に示した実施形態1と同様に、制御ゲイン算出のために(6)~(9)式で想定したばね剛性値よりも実際の機械系のばね剛性値が大きい場合においても安定に制御が可能となる。
[0078]
(実施形態4)
図9は、本実施形態のダイナモメータの要部制御回路を示し、機械系は省略して示す。本実施形態では、以下に示す演算要素によって(4)式の(K
I,K
P,K
D,f
1)を決定する。
[0079]
本実施形態では、軸トルクの大きさにより共振周波数が変化するような機械系(ばねが非線形特性を持つ)場合に適用される。図14の結合シャフト部にクラッチのような、非線形ばね(ばね剛性値が捩れ角により変化するようなばね)の場合には、以下のようにして軸トルク制御系を構成する。
[0080]
あらかじめ何らかの手段で図1のシステムの捩れトルク値(軸トルク指令)の大きさにより変化する共振周波数の関係をデータとしてもつテーブル(T2fテーブル)9を作成しておく。何らかの手段とは、非線形ばねの特性が判明している場合には計算により求められるし、特性がわかっていない場合には、捩れトルクがある値になっているときの共振周波数を実測してもよい。
[0081]
ばね剛性演算部10は、T2fテーブル9から求めた共振周波数ωc[rad/s]に対して、予め何らかの手段で得たエンジン慣性モーメントJ1とダイナモメータ慣性モーメントJ2から以下の(10)式に従った演算でばね剛性K12を求める。なお、J1,J2は、各パーツの設計値から算出してもよいし、なんらかの手段で測定した値でもよい。
[0082]
[数15]
[0083]
パラメータ演算部11は、実施形態(1)~(3)のいずれかのパラメータ演算部に構成し、制御特性パラメータ(a4,a3,a2,a1)を設定する。
[0084]
関数演算部6は、ばね剛性K12と制御特性パラメータ(a4,a3,a2,a1)から、制御パラメータ(K
I,K
P,K
D,f
1)を求め、(4)式に従いトルク制御信号T2を制御する。
[0085]
本実施形態ではT2fテーブルヘの入力信号を軸トルク指令値(T12r)とし、実機がもつばね剛性K12を求める。図2に示すボード線図の共振周波数が軸トルクの大きさにより変化するシステムにおいても、図9の構成にして、絶えずその共振周波数に適応した(4)式のゲインパラメータ(K
I,K
P,K
D,f
1)が選択されるため、共振周波数が変化するような非線形なエンジンベンチシステムに対しても実施形態(1)~実施形態(3)と同等の効果が得られる。
[0086]
(実施形態5)
図10は、本実施形態のダイナモメータの要部制御回路を示し、機械系は省略して示す。本実施形態では、実施形態(4)の回路構成において、T2fテーブル9への入力信号を軸トルク検出値(T12)とする。
[0087]
本実施形態においても、実施形態(4)と同等の効果が得られる。特に本実施形態においては軸トルク指令値T12rではなく、軸トルク検出値T12をT2fテーブル9への入力としているため、T2fテーブルから出力される機械共振周波数がより実際の機械共振周波数に近くなる。そのため、(6)~(9)式で算出される制御パラメータが、実施形態(4)よりも、より機械特性に適合した値となり、結果的に実施形態1の効果にもなる即応性も保持された制御が可能となる。
[0088]
(実施形態6)
図11は、本実施形態のダイナモメータの要部制御回路を示し、機械系は省略して示す。本実施形態では、実施形態(4)の回路構成において、T2fテーブル9への入力信号を軸トルク指令値(T12r)と、軸トルク検出値(T12)を高域通過フィルタ(HPF)12に通した検出値とを加算した値とする。
[0089]
本実施形態においても、実施形態(5)と同等の効果が得られる。
[0090]
(実施形態7)
図12は、本実施形態のダイナモメータの要部制御回路を示し、機械系は省略して示す。本実施形態では、実施形態(4)のT2fテーブル9で求める共振周波数ωcを係数器13を通してゲインK(ただし、0<K<=l)倍し、この値を使って(10)式の演算を行う。なお、T2fテーブル9の入力として、実施形態(5)または実施形態(6)の構成とすることでもよい。
[0091]
本実施形態においては、挿入したゲインK(0<K<=1)は、制御ゲイン算出のために(6)~(9)式で想定するばね剛性値K12を実際の機械系のばね剛性よりも小さく見せかける効果を持つため、何らかの原因により、T2fテーブルから出力される機械共振周波数推定値が実際の機械共振周波数よりも高くなった場合においても、実施形態(4)~実施形態(6)において、実施形態(1)と同等の効果が得られる。
[0092]
以上のとおり、本発明によれば、エンジンベンチシステムを2慣性系機械系モデルとして表現し、この機械系モデルの運動方程式とコントローラの伝達関数による閉ループ特性多項式に4次多項式のものを得、コントローラの伝達関数の各係数は4つのパラメータ(K
I,K
P,K
D,f
1)を適宜設定または決定し、さらに機械モデルに現れる共振周波数を基にばね剛性K12を決定するようにしたため、共振抑制効果を持ち、かつ軸のばね剛性が大きく変化する場合にも安定制御ができる。
請求の範囲
[1]
供試エンジンとダイナモメータを結合シャフトで結合し、ダイナモメータの軸トルク制御でエンジンの各種特性を測定するエンジンベンチシステムにおいて、
ダイナモメータの軸トルク指令T12rと軸トルク検出値T12を基に、
[数1]
ただし、K
I、K
D、K
P、f
1はパラメータ、sはラプラス演算子
の伝達関数を有してダイナモメータのトルク制御を行う制御器を備えたことを特徴とするエンジンベンチシステムの制御方式。
[2]
前記パラメータ(K
I、K
D、K
P、f
1)は、制御対象パラメータ推定値(Jl,K12,J2)と設定する制御特性パラメータ(a4,a3,a2,a1)を基に、
[数2]
ただし、J1はエンジン慣性モーメント、J2はダイナモメータ慣性モーメント、K12は結合シャフトのばね剛性、
に従った演算で決定する関数演算部を備えたことを特徴とする請求項1に記載のエンジンベンチシステムの制御方式。
[3]
前記制御特性パラメータ(a4,a3,a2,a1)は、二項係数型またはButterworth型に設定するパラメータ設定器を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンベンチシステムの制御方式。
[4]
前記制御特性パラメータ(a4,a3,a2,a1)は、共振特性を持つ2慣性機械系の特性多項式と2次の低域通過フィルタの特性多項式の積の係数に設定するパラメータ演算部を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンベンチシステムの制御方式。
[5]
前記制御特性パラメータ(a4,a3,a2,a1)は、共振特性Aを持つ2慣性系の特性多項式と、共振特性Bを持つ2慣性系の特性多項式の積の係数に設定するパラメータ演算部を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンベンチシステムの制御方式。
[6]
前記軸トルク指令T12rの大きさにより変化するシステムの共振周波数をデータとしてもつT2fテーブルと、
前記T2fテーブルから得る共振周波数ωcに対して、エンジン慣性モーメントJ1とダイナモメータ慣性モーメントJ2から、
[数3]
に従った演算で前記ばね剛性K12を求め、このばね剛性K12を前記関数演算部に設定するばね剛性演算部とを備えたことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のエンジンベンチシステムの制御方式。
[7]
前記軸トルク検出値T12の大きさにより変化するシステムの共振周波数をデータとしてもつT2fテーブルと、
前記T2fテーブルから得る共振周波数ωcに対して、エンジン慣性モーメントJ1とダイナモメータ慣性モーメントJ2から、
[数4]
に従った演算で前記ばね剛性K12を求め、このばね剛性K12を前記関数演算部に設定するばね剛性演算部とを備えたことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のエンジンベンチシステムの制御方式。
[8]
前記軸トルク指令値T12rと、前記軸トルク検出値T12を高域通過フィルタに通した検出値とを加算した値の大きさにより変化するシステムの共振周波数をデータとしてもつT2fテーブルと、
前記T2fテーブルから得る共振周波数ωcに対して、エンジン慣性モーメントJ1とダイナモメータ慣性モーメントJ2から、
[数5]
に従った演算で前記ばね剛性K12を求め、このばね剛性K12を前記関数演算部に設定するばね剛性演算部とを備えたことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のエンジンベンチシステムの制御方式。
[9]
前記T2fテーブルで求める共振周波数をゲインK(ただし、0<K<=l)倍して前記ばね剛性演算部の入力とする係数器を備えたことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のエンジンベンチシステムの制御方式。
図面